(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】カルボン酸プレニル類及びプレノール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/18 20060101AFI20220722BHJP
C07C 69/145 20060101ALI20220722BHJP
C07C 33/02 20060101ALI20220722BHJP
C07C 29/128 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C07C67/18
C07C69/145
C07C33/02
C07C29/128
(21)【出願番号】P 2018085218
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】前田 秋生
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝洋
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-127014(JP,A)
【文献】特開昭50-116411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/18
C07C 69/145
C07C 33/02
C07C 29/128
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、炭素数1から4のアルキル基を表すか、あるいは、R
1及びR
2は、それらが結合する窒素原子と一体となって5から7員環の複素環を形成し、このとき、該複素環の炭素原子は、窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよく、また、該複素環上に炭素数1から4のアルキル基が置換していてもよく、
nは、0から4の整数を表す)
で表されるプレニルアミン類を、ハロゲン化第4級アンモニウム及びハロゲン化金属からなる群より選択されるハロゲン化物の存在下、一般式(2):
【化2】
(式中、
R
3は、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数1から4のハロアルキル基を表す)
で表されるカルボン酸無水物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化3】
(式中、
R
3及びnは、前記と同じ意味を表す)
で表されるカルボン酸プレニル類の製造方法
であって、ハロゲン化金属が、一般式(5):
【化4】
(式中、
M
q+
は、第1族、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンを表し、
(X
2
)
-
は、ヨウ化物イオンを表し、M
q+
が、第1族の金属元素イオンの場合、qは1を表し、M
q+
が、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンの場合、qは2を表す)
で表されるハロゲン化金属である、製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化物が、一般式(4):
【化5】
(式中、
R
4は、各々独立に、炭素数1から10のアルキル基、炭素数7から14のアラルキル基又はアリール基を表し、
(X
1)
-は、ハロゲン化物イオンを表す)
で表されるハロゲン化第4級アンモニウムであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
R
4が、ブチル基であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
(X
1)
-が、ヨウ化物イオン又は臭化物イオンであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
R
1及びR
2が、エチル基であり、R
3がメチル基である、請求項1から
4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
下記の工程:
(工程1)一般式(1):
【化6】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、炭素数1から4のアルキル基を表すか、あるいは、R
1及びR
2は、それらが結合する窒素原子と一体となって5から7員環の複素環を形成し、このとき、該複素環の炭素原子は、窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよく、また、該複素環上に炭素数1から4のアルキル基が置換していてもよく、
nは、0から4の整数を表す)
で表されるプレニルアミン類を、ハロゲン化第4級アンモニウム及びハロゲン化金属からなる群より選択されるハロゲン化物の存在下、一般式(2):
【化7】
(式中、
R
3は、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数1から4のハロアルキル基を表す)
で表されるカルボン酸無水物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化8】
(式中、
R
3及びnは、前記と同じ意味を表す)
で表されるカルボン酸プレニル類を得る工程;及び
(工程2)一般式(3):
【化9】
(式中、
R
3及びnは、前記と同じ意味を表す)
で表されるカルボン酸プレニル類を、加溶媒分解することを特徴とする、下記一般式(6):
【化10】
(式中、
nは、前記と同じ意味を表す)
で表されるプレノール類を得る工程、
を含むことを特徴とする、一般式(6)で表されるプレノール類の製造方法
であって、ハロゲン化金属が、一般式(5):
【化11】
(式中、
M
q+
は、第1族、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンを表し、
(X
2
)
-
は、ヨウ化物イオンを表し、M
q+
が、第1族の金属元素イオンの場合、qは1を表し、M
q+
が、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンの場合、qは2を表す)
で表されるハロゲン化金属である、製造方法。
【請求項7】
ハロゲン化物が、一般式(4):
【化12】
(式中、
4つのR
4は、各々独立に、炭素数1から10のアルキル基、炭素数7から14のアラルキル基又はアリール基を表し、
(X
1)
-は、ハロゲン化物イオンを表す)
で表されるハロゲン化第4級アンモニウムであることを特徴とする、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
R
4が、ブチル基であることを特徴とする、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
(X
1)
-が、ヨウ化物イオン又は臭化物イオンであることを特徴とする、請求項
7又は
8に記載の製造方法。
【請求項10】
R
1及びR
2が、エチル基であり、R
3がメチル基である、請求項
6から
9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸プレニル類及びプレノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルファルネソール及びその類縁化合物などのプレノール類は、テルペン類、カロチノイド類、ステロイド類等の生合成中間体として中心的な化合物であるだけでなく、医薬品、農薬、香料等の原料又は合成中間体として極めて有用である。例えば(2E,6E)-ファルネソールから誘導される(2E,6E)-ファルネサールは、抗癌剤などとして有用であるポリイソプレノイド誘導体の製造中間体となりうる。そのため、環境に優しく、簡便、安全かつ安価な合成法の開発が求められている。
【0003】
上記のようなプレノール類の製造方法としては、これまでに水酸基の1,3-転位反応を利用した反応が種々報告されている。例えば、リナロールやネロリドール等の第3級アリルアルコール類をバナジウム触媒存在下150℃前後で反応させ、ゲラニオールやファルネソール等のプレノール類を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの方法は、150℃前後と高温条件下で反応させることを必要としているうえ、収率も5~30%程度と低く、工業的な製造に不利である。
【0004】
プレノール類はカルボン酸プレニル類の加溶媒分解反応により容易に製造できることから、カルボン酸プレニル類はプレノール類の合成中間体として有用である。カルボン酸プレニル類の製造方法として、プレニルアミン類のアシルオキシ化反応が報告されている。例えば、N,N-ジエチル(ゲラニルゲラニル)アミンをクロロギ酸エチルと反応させて塩化ゲラニルゲラニルに変換したのち、18-crown-6存在下で酢酸カリウムと反応させ、酢酸ゲラニルゲラニルを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながらこの方法は、触媒として高価な18-crown-6を使用するうえ、反応が2工程であり時間を要することから、工業的な製造に不利である。
【0005】
無水酢酸と触媒量の酢酸塩を用いて、N,N-ジエチル(プレニル)アミンやN,N-ジエチル(ゲラニル)アミンから酢酸プレニルや酢酸ゲラニルを合成する方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながらこの方法もまた、139℃と高温条件下で反応させることを必要としているうえ、収率が26~59%と低く、さらに構造異性体が生成するため、工業的な製造に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Synthetic Communications, 36巻, 1671-1677ページ;2006年
【文献】Australian Journal of Chemistry, 27巻, 531-535ページ;1974年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はカルボン酸プレニル類及びプレノール類を、高収率で工業的及び経済的に有利な方法にて製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で表されるプレニルアミン類をハロゲン化物の存在下、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物と反応させることにより、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類を工業的及び経済的に有利な方法で高収率に得られることを見出した。さらに、得られたカルボン酸プレニル類を加溶媒分解することにより一般式(6)で表されるプレノール類が収率良く得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立に、炭素数1から4のアルキル基を表すか、あるいは、R
1及びR
2は、それらが結合する窒素原子と一体となって5から7員環の複素環を形成し、このとき、該複素環の炭素原子は、窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよく、また、該複素環上に炭素数1から4のアルキル基が置換していてもよく、nは、0から4の整数を表す)で表されるプレニルアミン類を、ハロゲン化第4級アンモニウム及びハロゲン化金属からなる群より選択されるハロゲン化物の存在下、一般式(2):
【化2】
(式中、R
3は、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数1から4のハロアルキル基を表す)で表されるカルボン酸無水物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化3】
(式中、R
3及びnは、前記と同じ意味を表す)で表されるカルボン酸プレニル類の製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、(工程1)一般式(1):
【化4】
(式中、R
1及びR
2は、各々独立に、炭素数1から4のアルキル基を表すか、あるいは、R
1及びR
2は、それらが結合する窒素原子と一体となって5から7員環の複素環を形成し、このとき、該複素環の炭素原子は、窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよく、また、該複素環上に炭素数1から4のアルキル基が置換していてもよく、nは、0から4の整数を表す)で表されるプレニルアミン類を、ハロゲン化第4級アンモニウム及びハロゲン化金属からなる群より選択されるハロゲン化物の存在下、一般式(2):
【化5】
(式中、R
3は、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数1から4のハロアルキル基を表す)で表されるカルボン酸無水物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化6】
(式中、R
3及びnは、前記と同じ意味を表す)で表されるカルボン酸プレニル類を得る工程;及び
(工程2)一般式(3):
【化7】
(式中、R
3及びnは前記と同じ意味を表す)で表されるカルボン酸プレニル類を、加溶媒分解することを特徴とする、一般式(6):
【化8】
(式中、nは、前記と同じ意味を表す)で表されるプレノール類を得る工程、を含むことを特徴とする、一般式(6)で表されるプレノール類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、医薬品、農薬、香料等の原料又は合成中間体として有用なカルボン酸プレニル類について、より高効率かつ高収率で製造できる。さらに、これを加溶媒分解することによりプレノール類を得ることができる。本発明の製造方法は、容易にかつ極めて効率的に実施できることから、工業的及び経済的に有利なものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[用語の意義]
先ず、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる用語について説明する。各用語は、他に断りのない限り、以下の意義を有する。
【0014】
用語「炭素数1から4のアルキル基」は、炭素数1から4の、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族飽和炭化水素の基を意味し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等を例示できる。
用語「炭素数1から10のアルキル基」は、炭素数1から10の、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族飽和炭化水素の基を意味し、前記「炭素数1から4のアルキル基」の例に加え、ペンチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等を例示できる。
【0015】
用語「炭素数1から4のハロアルキル基」は、1個以上のハロゲン原子で置換された、前記「炭素数1から4のアルキル基」を意味し、フルオロメチル基、2-フルオロエチル基、3-フルオロプロピル基、4-フルオロブチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、3-クロロプロピル基、4-クロロブチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、2-ブロモエチル基、3-ブロモプロピル基、4-ブロモブチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、ヨードメチル基、2-ヨードエチル基、3-ヨードプロピル基、4-ヨードブチル基、ジヨードメチル基、トリヨードメチル基等を例示できる。
【0016】
用語「アリール基」は、炭素数6から10の、単環式若しくは多環式の、芳香族炭化水素の1価の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基等を例示できる。
【0017】
用語「炭素数7から14のアラルキル基」は、炭素数7から14の、前記「アリール基」で置換された、前記「炭素数1から4のアルキル基」を意味し、ベンジル基、α-フェネチル基、β-フェネチル基、(1-ナフチル)メチル基、(2-ナフチル)メチル基等を例示できる。
【0018】
用語「ハロゲン化第4級アンモニウム」は、第4級アンモニウムイオンとハロゲン化物イオンの塩を意味する。
【0019】
用語「第4級アンモニウムイオン」は、同一又は相異なった炭素数1から10のアルキル基、炭素数7から14のアラルキル基又はアリール基が置換したアンモニウムイオンを意味し、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラへキシルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム等を例示できる。
【0020】
用語「ハロゲン化物イオン」は、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオン又はフッ化物イオンを意味する。
【0021】
用語「ハロゲン化金属」は、金属元素のハロゲン化物を意味し、金属元素イオンとハロゲン化物イオンの塩である。金属元素イオンとしては、第1族の金属元素イオン、第2族の金属元素イオン、第10族の金属元素イオン、第12族の金属元素イオン等を例示できる。
【0022】
用語「第1族の金属元素イオン」は、周期表の第1族の金属元素の1価のカチオンを意味し、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン及びセシウムイオンを例示できる。
【0023】
用語「第2族の金属元素イオン」は、周期表の第2族の金属元素の2価のカチオンを意味し、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン及びラジウムイオンを例示できる。
【0024】
用語「第10族の金属元素イオン」は、周期表の第10族の金属元素の2価のカチオンを意味し、ニッケルイオン、パラジウムイオン又は白金イオンを例示できる。
【0025】
用語「第12族の金属元素イオン」は、周期表の第12族の金属元素の2価のカチオンを意味し、亜鉛イオン又はカドミウムイオンを例示できる。
【0026】
本発明において、R1及びR2は、それらが結合する窒素原子と一体となって5から7員環の複素環を形成してもよく、このとき、該複素環の炭素原子は、窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよい。また、該複素環上に炭素数1から4のアルキル基が置換していてもよい。炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子で置き換えられていてもよい「複素環」は、5から7員環の、飽和又は不飽和の複素環を意味し、ピロール、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾール、ピラゾリン、ピラゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等を例示できる。該複素環上に置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等を例示できる。これらの-NR1R2基としては、1-ピロリジニル基、ピペリジノ基、2,6-ジメチルピペリジン-1-イル基、4-メチルピペラジン-1-イル基、モルホリノ基等を例示できる。
【0027】
[カルボン酸プレニル類の製造方法]
本発明の一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類の製造方法は、下記スキームに示すとおりである。
【0028】
【化9】
(式中、n、R
1、R
2及びR
3は、前記と同じ意味を表す)
【0029】
工程1は一般式(1)で表されるプレニルアミン類を、ハロゲン化物の存在下に、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物と反応させ、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類を製造する工程である。
【0030】
出発原料である一般式(1)で表されるプレニルアミン類の中でも、入手容易性等の観点から、R1及びR2が、メチル基又はエチル基である化合物が好ましく、エチル基である化合物が特に好ましい。そのようなプレニルアミン類としては、N,N-ジメチル-N-(3-メチルブタ-2-エニル)アミン(n=0、R1=R2=CH3、ジメチル(プレニル)アミン)、N,N-ジエチル-N-(3-メチルブタ-2-エニル)アミン(n=0、R1=R2=C2H5、ジエチル(プレニル)アミン)、N,N-ジエチル-N-(3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエニル)アミン(n=1、R1=R2=C2H5、ジエチル(ゲラニル)アミン)、N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン(n=2、R1=R2=C2H5、ジエチル(ファルネシル)アミン)、N,N-ジエチル-N-(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2,6,10,14-テトラエニル)アミン(n=3、R1=R2=C2H5、ジエチル(ゲラニルゲラニル)アミン)、N,N-ジエチル-N-(3,7,11,15,19-ペンタメチルイコサ-2,6,10,14,18-ペンタエニル)アミン(n=4、R1=R2=C2H5、ジエチル(ゲラニルファルネシル)アミン)等を例示できる。これらは公知の方法(例えば、Australian Journal of Chemistry, 27巻, 531-535ページ;1974年;特開2014-51461号公報に記載の方法)に準じて合成できる。
【0031】
工程1において使用されるハロゲン化物としては、ハロゲン化第4級アンモニウム又はハロゲン化金属が挙げられる。ハロゲン化物は、各々単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。ハロゲン化物の中でも、臭化物又はヨウ化物が好ましく、ヨウ化物が特に好ましい。
【0032】
ハロゲン化第4級アンモニウムとしては、特に限定はないが、一般式(4):
【化10】
(式中、R
4は、各々独立に、炭素数1から10のアルキル基、炭素数7から14のアラルキル基又はアリール基を表し、(X
1)
-は、ハロゲン化物イオンを表す)
で表されるハロゲン化第4級アンモニウムを用いることが好ましい。ここで、ハロゲン化第4級アンモニウムの4つのR
4は、同一でも異なっていてもよく、特にアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。ハロゲン化第4級アンモニウムを構成するハロゲン化物イオン(X
1)
-としては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが挙げられるが、中でも臭化物イオン、ヨウ化物イオンが好ましく、ヨウ化物イオンが特に好ましい。具体的にハロゲン化第4級アンモニウムとしては、フッ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラペンチルアンモニウム、塩化テトラペンチルアンモニウム、臭化テトラペンチルアンモニウム、ヨウ化テトラペンチルアンモニウム、フッ化テトラへキシルアンモニウム、塩化テトラへキシルアンモニウム、臭化テトラへキシルアンモニウム、ヨウ化テトラへキシルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルジメチルフェニルアンモニウム、ヨウ化ベンジルジメチルフェニルアンモニウム、臭化トリメチルフェニルアンモニウム、ヨウ化トリメチルフェニルアンモニウム、臭化トリエチルフェニルアンモニウム、ヨウ化トリエチルフェニルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラペンチルアンモニウム、ヨウ化テトラへキシルアンモニウムが好ましく、ヨウ化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。
【0033】
ハロゲン化金属としては、特に限定はないが、一般式(5):
【化11】
(式中、M
q+は、第1族、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンを表し、(X
2)
-はハロゲン化物イオンを表し、M
q+が、第1族の金属元素イオンの場合、qは1を表し、M
q+が、第2族、第10族又は第12族の金属元素イオンの場合、qは2を表す)
で表されるハロゲン化金属を用いることが好ましい。ハロゲン化金属を構成するハロゲン化物イオン(X
2)
-としては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが挙げられるが、中でも臭化物イオン、ヨウ化物イオンが好ましく、ヨウ化物イオンが特に好ましい。
【0034】
上記ハロゲン化金属の中でも、第1族の金属元素のハロゲン化物としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム等が挙げられる。これらの中でもヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウムが好ましく、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0035】
上記ハロゲン化金属の中でも、第2族の金属元素のハロゲン化物としては、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、フッ化バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム等が挙げられる。これらの中でもヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウムが好ましい。
【0036】
上記ハロゲン化金属の中でも、第10族の金属元素のハロゲン化物としては、フッ化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、フッ化パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、ヨウ化パラジウム(II)、塩化白金(II)、臭化白金(II)、ヨウ化白金(II)等が挙げられる。これらの中でもヨウ化パラジウム(II)が好ましい。
【0037】
上記ハロゲン化金属の中でも、第12族の金属元素のハロゲン化物としては、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウム等が挙げられる。これらの中でもヨウ化亜鉛が好ましい。
【0038】
工程1において使用される、ハロゲン化物の使用量は特に制限はないが、一般式(1)で表されるプレニルアミン類1モルに対して、0.01~10モルが好ましく、0.01~5モルがさらに好ましく、0.01~1モルが特に好ましい。
【0039】
工程1において使用される、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物は、R3が、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数1から4のハロアルキル基であるものである。具体的には、無水酢酸、トリフルオロ酢酸無水物、プロピオン酸無水物、ピバル酸無水物等を挙げることができる。収率及び反応速度の観点から、無水酢酸を用いることが好ましい。
【0040】
工程1において使用される、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物の使用量は、特に制限はないが、一般式(1)で表されるプレニルアミン類1モルに対して、1~50モルが好ましく、1~10モルがさらに好ましい。
【0041】
工程1は、さらにカルボン酸塩の存在下で行ってもよい。カルボン酸塩としては、用いるカルボン酸無水物(2)に対応する一般式R3CO2H(R3は前記と同じ意味を表す。)で表されるカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、カルボン酸セシウム、カルボン酸カリウム、カルボン酸ナトリウム及びカルボン酸リチウムがより好ましい。具体的には、酢酸セシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸リチウム、ピバル酸リチウム等を挙げることができる。収率が良い点で、カルボン酸無水物(2)として無水酢酸を用いる場合は、酢酸リチウム又は酢酸ナトリウムを用いることが好ましい。カルボン酸塩の使用量は、特に制限はないが、一般式(1)で表されるプレニルアミン類1モルに対して、0~10モルが好ましく、0~5モルがさらに好ましい。
【0042】
工程1は、溶媒中で行ってもよく、用いることのできる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒などを使用できる。また、反応に用いるカルボン酸無水物(2)を溶媒として用いてもよい。用いることのできる溶媒は、これに限定されるものではない。これらの溶媒は、各々単独で用いても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0043】
工程1において使用される、溶媒の使用量は、特に制限はないが、一般式(1)で表されるプレニルアミン類に対して、0~50倍量(重量基準)が好ましく、0~10倍量(重量基準)がさらに好ましい。
【0044】
工程1の反応は、0℃から180℃の範囲から適宜選ばれた温度で行うことができる。反応速度と収率の観点から、50~140℃が好ましく、100~130℃がさらに好ましい。反応時間は、使用される基質、ハロゲン化物及び溶媒の量や種類、反応温度等の条件に応じて適宜設定され、特に制限はないが、反応速度と収率の観点から4~24時間が好ましい。反応圧力は、加圧、減圧、大気圧のいずれでもよいが、大気圧が好ましい。反応雰囲気は、空気中又は不活性ガス雰囲気下のいずれでもよいが、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0045】
上記で述べた工程1において使用される必須成分(一般式(1)で表されるプレニルアミン類、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物及びハロゲン化物)や、必要に応じて使用される任意成分(カルボン酸塩、溶媒)の添加順序等に特に制限はなく、任意の順序で、適切な反応容器に添加し、反応を開始すればよい。反応終了後、必要に応じて反応液から一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類を単離・精製できる。単離・精製する方法に特に限定はなく、当業者に公知の方法、例えば、溶媒抽出、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー等の汎用的な方法で、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類を単離・精製できる。また一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類は、単離・精製せずに続く工程2に付してもよい。
【0046】
以上の工程1により、一般式(1)で表されるプレニルアミン類から一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類を得ることができる。例えば、一般式(2)で表されるカルボン酸無水物として無水酢酸を用いた場合、工程1により(3-メチルブタ-2-エニル)アセテート(n=0、R3=CH3、酢酸プレニル)、(3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエニル)アセテート(n=1、R3=CH3、酢酸ゲラニル)、(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アセテート(n=2、R3=CH3、酢酸ファルネシル)、(3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2,6,10,14-テトラエニル)アセテート(n=3、R3=CH3、酢酸ゲラニルゲラニル)及び(3,7,11,15,19-ペンタメチルイコサ-2,6,10,14,18-ペンタエニル)アセテート(n=4、R3=CH3、酢酸ゲラニルファルネシル)等を製造できる。
【0047】
[プレノール類の製造方法]
一般式(6)で表されるプレノール類の製造方法は、下記スキームに示すとおりである。
【化12】
(式中、n及びR
3は、前記と同じ意味を表す)
【0048】
工程2は、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類の加溶媒分解を行うことにより、一般式(4)で表されるプレノール類を製造する工程である。エステルを加溶媒分解する方法は、「Protective Groups in Organic Synthesis」(T.W.Greene et.al, John Wiley & Sons, inc.)等の有機合成化学における参考書により当業者には公知である。
【0049】
工程2は、溶媒中で行う。用いることのできる溶媒としては、エステルをカルボン酸に加溶媒分解できる溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。本加溶媒分解反応において用いられる溶媒の具体例としては、水、アンモニア水、リン酸緩衝液等の緩衝液、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-エトキシエタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒及びこれらの混合溶媒が挙げられる。さらに必要に応じて助溶媒を使用してもよい。助溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。助溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン系溶媒、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
工程2における溶媒の使用量は特に制限はないが、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類1モルに対して0.9~100モルが好ましく、1~50モルがさらに好ましい。工程2における助溶媒の使用量は特に制限はないが、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類に対して0~100倍量(重量基準)が好ましく、1~30倍量(重量基準)がさらに好ましい。
【0051】
工程2は、酸を使用してもよく、使用する酸としては、硫酸、塩酸などの鉱酸、酢酸、ギ酸などの有機カルボン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機スルホン酸が挙げられる。これらの酸は、各々単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。酸の使用量は、特に制限はないが、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類1モルに対して、0.1~10モルであることが好ましい。
【0052】
工程2は、塩基を使用してもよく、使用する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩などが挙げられる。これらの塩基は、各々単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。塩基の使用量は、特に制限はないが、一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類1モルに対して、1~10モルであることが好ましい。
【0053】
工程2の反応温度は、カルボン酸プレニル類の量、溶媒の種類によって異なり、溶媒の沸点近くまで加熱する場合があるが、0~100℃の範囲から適宜選択される。また、反応時間は、反応温度や反応剤の特性や量により異なり、一概に定めることはできないが、通常1~24時間である。反応圧力は、加圧、減圧、大気圧のいずれでもよいが、大気圧が好ましい。反応雰囲気は、空気中又は不活性ガス雰囲気下のいずれでもよい。
【0054】
上記で述べた工程2において使用される必須成分(一般式(3)で表されるカルボン酸プレニル類、溶媒)や、必要に応じて使用される任意成分(酸又は塩基)の添加順序等に特に制限はなく、任意の順序で、適切な反応容器に添加し、反応を開始すればよい。反応終了後、必要に応じて一般式(6)で表されるプレノール類を単離・精製できる。単離・精製する方法に特に限定はなく、当業者に公知の方法、例えば、溶媒抽出、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー等の汎用的な方法で、一般式(6)で表されるプレノール類を単離・精製できる。
【0055】
本発明によれば、工程1と工程2を含む製造方法によって、一般式(6)で表されるプレノール類、具体的には、プレノール(n=0)、ゲラニオール(n=1)、ファルネソール(n=2)、ゲラニルゲラニオール(n=3)及びゲラニルファルネソール(n=4)等を製造できる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の態様を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0057】
実施例及び比較例で得られた反応溶液は、ガスクロマトグラフィー分析を行い、目的物の生成率又は純度を面積百分率にて算出した。測定条件は以下の通りである。
【0058】
装置:GC-14A(島津製作所)
カラム:HP-ULTRA1(Agilent Technologies)
25m×I.D.0.32mm、0.52μmdf
カラム温度:80℃→[10℃/min]→280℃
インジェクション温度:250℃
キャリヤーガス:ヘリウムガス
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0059】
実施例、参考例及び比較例で得られた化合物は、1H NMR分析を行い、得られた核磁気共鳴スペクトルにより構造を同定した。測定条件は以下の通りである。
【0060】
測定装置は、Avance III 400MHz(ブルカーバイオスピン(株)社製)を用いた。測定は、実施例等で製造したサンプルを、CDCl3に溶解し、室温で、400MHz、積算回数16回の条件で行った。化学シフトδ値のゼロ点の基準物質としてはテトラメチルシラン(TMS)を用いた。
【0061】
<参考例1>
【0062】
【0063】
アルゴン雰囲気下、trans-β-ファルネセン(127mL,500mmol)とジエチルアミン(98.2mL,947mmol)との混合液を0℃に冷却し、n-ブチルリチウム(2.67M-ヘキサン溶液,10.0mL,26.7mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。その後反応液を70℃で3時間反応させた。原料の消費をGCにて確認後、0℃に冷却した蒸留水に反応液をゆっくりと滴下し、反応を停止した。得られた混合液をヘキサン(500mL)で抽出し、有機層を蒸留水(20mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン(141g,定量的)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2の比(GC比)の混合物として、黄色粘性液体で得た。
【0064】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ5.26(t,J=6.8Hz,1H),5.11(t,J=6.6Hz,1H),5.09(t,J=7.0Hz,1H),3.06(d,J=6.8Hz,2H),2.51(q,J=7.2Hz,4H),2.12-1.95(m,8H),1.68(s,3H),1.64(s,3H),1.60(s,3H),1.60(s,3H),1.03(t,J=7.2Hz,6H).
【0065】
<実施例1>
【0066】
【0067】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(74.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で10時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)により精製することで、酢酸ファルネシル(407mg,77%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=94:6の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、0.7%であった。
【0068】
(2E,6E)-体:1H NMR(400MHz,CDCl3)δ5.34(t,J=7.1Hz,1H),5.10(m,2H),4.58(d,J=7.1Hz,2H),2.12-1.96(m,8H),2.05(s,3H),1.70(s,3H),1.68(s,3H),1.60(s,3H),1.60(s,3H).
【0069】
(2Z,6E)-体:1H NMR(400MHz,CDCl3)δ5.36(t,J=7.1Hz,1H),5.10(m,2H),4.56(m,2H),2.12-1.96(m,8H),2.05(s,3H),1.70(s,3H),1.68(s,3H),1.60(s,3H),1.60(s,3H).
【0070】
<実施例2>
【0071】
【0072】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(145mg,2.2mmol)及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(74.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で8時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)により精製することで、酢酸ファルネシル(418mg,79%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=92:8の比(GC比)の混合物として、色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、1.4%であった。
【0073】
<実施例3>
【0074】
【化16】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(145mg,2.2mmol)及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(30.0mg,80μmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で13時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)により精製することで、酢酸ファルネシル(409mg,77%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=94:6の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、2.4%であった。
【0075】
<実施例4>
【0076】
【0077】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[279mg,1.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(189μL,2.0mmol)の混合液に酢酸リチウム(82.0mg,1.0mmol)及びヨウ化ナトリウム(15.0mg,0.10mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で3時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加えた。得られた混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)により精製することで、酢酸ファルネシル(169mg,64%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=92:8の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、0.4%であった。
【0078】
<実施例5>
【0079】
【0080】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(145mg,2.2mmol)及び臭化テトラブチルアンモニウム(65.1mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で27時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)により精製することで、酢酸ファルネシル(369mg,70%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=93:7の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、3.0%であった。
【0081】
<実施例6>
【0082】
【0083】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(145mg,2.2mmol)及びヨウ化パラジウム(II)(72.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で4時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)により精製することで、酢酸ファルネシル(289mg,55%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=87:13の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より確認されなかった。
【0084】
<実施例7>
【0085】
【化20】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、ヨウ化亜鉛(II)(64.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で12時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち酢酸エチルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)により精製することで、酢酸ファルネシル(355mg,67%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=93:7の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、0.8%であった。
【0086】
<実施例8>
【0087】
【0088】
実施例4と同様にして得られた酢酸ファルネシル[264mg,1.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=92:8]をメタノール(0.8mL)に溶解し、10M水酸化ナトリウム水溶液(0.25mL,2.5mmol)を加えて室温で30分間反応させた。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、得られた混合液をヘキサンで抽出した。得られた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=80:20)により精製することで、ファルネソール(209mg,94%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=92:8の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。
【0089】
(2E,6E)-体:1H NMR(400MHz,CDCl3)δ5.42(t,J=7.0Hz,1H),5.10(m,2H),4.15(m,2H),2.15-1.96(m,8H),1.68(s,3H),1.68(s,3H),1.60(s,3H),1.60(s,3H).
【0090】
(2Z,6E)-体:1H NMR(400MHz,CDCl3)δ5.44(m,1H),5.10(m,2H),4.10(d,J=7.2Hz,2H),2.15-1.96(m,8H),1.68(s,3H),1.68(s,3H),1.60(s,3H),1.60(s,3H).
【0091】
<実施例9>
【0092】
【0093】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[278mg,1.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(189μL,2.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(66.0mg,1.0mmol)及びヨウ化ナトリウム(15.0mg,0.10mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で4時間反応させた。反応液を室温に冷却したのちメタノール(1.3mL)、水酸化ナトリウム(244mg,6.1mmol)を加えて、室温で20時間反応させた。反応液をヘキサンで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=80:20)により精製することで、ファルネソール(124mg,56%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=91:9の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。
【0094】
<実施例10>
【0095】
【化23】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、酢酸リチウム(145mg,2.2mmol)及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(74.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で9時間反応させた。反応液を室温に冷却したのちメタノール(2.0mL)、水酸化カリウム(650mg,12mmol)を加えて、室温で48時間反応させた。反応液をジエチルエーテルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=80:20)により精製することで、ファルネソール(313mg,70%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=95:5の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。
【0096】
<実施例11>
【0097】
【化24】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(74.0mg,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で12時間反応させた。反応液を室温に冷却したのちメタノール(2.0mL)、水酸化カリウム(644mg,11mmol)を加えて、室温で40時間反応させた。反応液をジエチルエーテルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=80:20)により精製することで、ファルネソール(310mg,70%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=93:7の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。
【0098】
<実施例12>
【0099】
【化25】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[555mg,2.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]と無水酢酸(378μL,4.0mmol)の混合液に、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(30.0mg,80μmol)を加えて、アルゴン雰囲気下120℃で14時間反応させた。反応液を室温に冷却したのちメタノール(2.0mL)、水酸化カリウム(352mg,6.4mmol)を加えて、室温で20時間反応させた。反応液をジエチルエーテルで希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=80:20)により精製することで、ファルネソール(280mg,63%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=94:6の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。
【0100】
ヨウ化テトラブチルアンモニウムの添加効果を検証するために、実施例2をヨウ化テトラブチルアンモニウムを加えずに行った。
【0101】
<比較例1>
【0102】
【0103】
N,N-ジエチル-N-(3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル)アミン[279mg,1.0mmol,(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=98:2]に無水酢酸(189μL,2.0mmol)、酢酸ナトリウム(82.0mg,1.0mmol)を加えて140℃で24.5時間反応させた。反応液を室温に冷却したのち、酢酸エチルで希釈し飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)により精製し、酢酸ファルネシル(112mg,42%)を(2E,6E)-体:(2Z,6E)-体=90:10の比(GC比)の混合物として、無色粘性液体で得た。また構造異性体である酢酸ネロリジルの生成率は、反応粗生成物のガスクロマトグラフィー分析より、5.2%であった。
【0104】
比較例1の結果が示すように、ヨウ化テトラブチルアンモニウムを加えずに反応を行った場合、得られる酢酸ファルネシルの収率が低く、かつ副生物(酢酸ネロリジル)の生成率が高いものであった。このことから、ヨウ化テトラブチルアンモニウムの添加が有効であることが示された。