(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】ガラス繊維を含む成形品、その成形品を含む断熱材およびその成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4218 20120101AFI20220722BHJP
C03C 25/002 20180101ALI20220722BHJP
F25D 19/00 20060101ALI20220722BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
D04H1/4218
C03C25/002
F25D19/00 560D
E04B1/80 A
(21)【出願番号】P 2018115406
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390032090
【氏名又は名称】マグ・イゾベール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【氏名又は名称】木下 智文
(74)【代理人】
【識別番号】100195545
【氏名又は名称】鮎沢 輝万
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 幸男
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0013145(KR,A)
【文献】特開2002-363847(JP,A)
【文献】特開2006-002919(JP,A)
【文献】特開2016-160553(JP,A)
【文献】特開2005-220954(JP,A)
【文献】特表2003-532845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04、C03C25/00-25/70、
E04B1/62-1/99、F25D19/00-19/04、
F16L59/00-59/22、D01F9/08-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維
(但し、前記ガラス繊維は、板ガラス微粉末が散布されているガラスホワイトウールを除く)を含む成形品であって、
前記ガラス繊維は複数のガラス単繊維を含み、
前記複数のガラス単繊維の少なくとも1つは別のガラス単繊維と結合している融着点を有し、
前記成形品の密度は
160kg/m
3以下であ
り、
ことを特徴とするガラス繊維を含む成形品。
【請求項2】
前記成形品は有機系バインダフリーである、ことを特徴とする請求項
1に記載のガラス繊維を含む成形品。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のガラス繊維を含む成形品を含む断熱材。
【請求項4】
請求項1
または2に記載のガラス繊維を含む成形品の製造方法であって、
ガラス繊維を圧縮することと、
前記ガラス繊維を徐冷点と、徐冷点より100℃高い温度の間の温度で、1時間以上加熱することと、
を備えるガラス繊維を含む成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維を含む成形品、その成形品を含む断熱材およびその成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維を含む成形品は、断熱性や吸音性等に優れており、様々な分野で利用されている。このようなガラス繊維を含む成形品は、成形性や形状安定性等を付与するために、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の有機系バインダを含んでいる。
【0003】
有機系バインダを含む成形品においては、バインダの主成分として使用される熱硬化性樹脂の吸湿劣化等により、形状安定性が減衰・喪失することや、バインダとして使用される樹脂の硬化の程度により、臭気および樹脂カスが発生することがあった。また、有機系バインダを含む成形品の製造過程において、バインダとして使用された樹脂から、廃液や廃棄物が発生し、工場汚染の一因となることがあった。
【0004】
そのため、有機系バインダを含む成形品においては、形状安定性の向上、臭気および樹脂カスの抑制、および工場汚染の低減が求められていた。このような状況の下、特許文献1は、ガラス繊維同士を接触点で融着させた、バインダを使用しない成形品を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス繊維同士を接触点で融着させた成形品において、断熱性および吸音性等の特性向上が望まれていた。そこで、本発明は、断熱性および吸音性等の特性が向上するガラス繊維を含む成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するために、例えば、本発明のガラス繊維を含む成形品は以下の構成を備える。すなわち、
ガラス繊維を含む成形品であって、
前記ガラス繊維は複数のガラス単繊維を含み、
前記複数のガラス単繊維の少なくとも1つは別のガラス単繊維と結合している融着点を有し、
前記成形品の密度は200kg/m3以下である、
ことを特徴とするガラス繊維を含む成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、断熱性および吸音性等の特性が向上したガラス繊維を含む成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】成形治具の間に配置されたガラス繊維を示す概略図。
【
図3】試料1Bのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【
図4】試料1Cのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【
図5】試料1Dのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【
図6】試料2Aのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【
図7】試料2Bのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【
図8】比較例1のボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージ(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用できる実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係るガラス繊維を含む成形品(ガラス繊維成形品)は、ガラス繊維が複数のガラス単繊維を含むものであって、ガラス単繊維の少なくとも1つは別のガラス単繊維と結合している融着点を有し、成形品の密度が200kg/m3以下である。これにより、ガラス繊維を含む成形品は、断熱性および吸音性等の特性が向上したガラス繊維を含む成形品となる。なお、本明細書において、1本のガラス繊維はガラス単繊維と記載し、ガラス単繊維を複数含むものはガラス繊維と記載する。
【0012】
(成形品)
本実施形態に係るガラス繊維成形品は、断熱性、遮音性、吸音性等の機能を有するものであり、これらの機能が必要とされる分野で利用することができる。一実施形態において、ガラス繊維成形品は、断熱材であり、建築用部材、自動車用部材、保温用部材、保冷用部材(冷蔵庫、冷凍庫等)等で利用することできる。本実施形態に係るガラス繊維成形品は、これらの分野で利用可能な形状に成形されたもので、例えば、平板状、湾曲板状、波板状、棒状、円筒状、球状、ブロック状等に成形されたものである。
【0013】
本実施形態に係るガラス繊維成形品は、有機系バインダを含まない(有機系バインダフリー)ものである。本実施形態に係るガラス繊維成形品は、無機系バインダを含んでいてもよいが、無機系バインダを含まずとも成形された形態を保持することができる(保形性を有する)ので、無機系バインダを含まないものであってもよい。本実施形態に係るガラス繊維成形品が保形性を有するとは、例えば、ガラス繊維成形品の一端部を持ち、水平状態とした場合に、ガラス繊維成形品がほとんど変形(屈曲)しないような所定の強度を有するものである。
【0014】
一実施形態において、保形性は突き刺し強度によって示すことができる。突き刺し強度は、約200mm×200mmの平板状に成形したガラス繊維成形品を直径約100mmの円筒体の上に配置し、それに直径約8mmの丸棒を約100mm/分の速度で突き刺し貫通するまでの最大応力を測定して得ることができる。この測定は、例えば、島津製作所製のオートグラフを使用して測定することができる。
【0015】
ガラス繊維成形品の突き刺し強度は、一実施形態において0.3kgf以上、別の実施形態において0.5kgf以上、さらに別の実施形態において0.8kgf以上、さらに別の実施形態において1.5kgf以上、さらに別の実施形態において2.2kgf以上とすることができる。これにより、ガラス繊維成形品の形状安定性が向上し、使用時に取り扱いやすく、また保管および運搬しやすい。また、ガラス繊維成形品の突き刺し強度の上限は、特に限定されるものでないが、一実施形態において5.0kgf以下、別の実施形態において4.0kgf以下とすることができる。これにより、ガラス繊維成形品の断熱性および吸音性等の特性が向上する。
【0016】
(融着点)
本実施形態に係るガラス繊維成形品は、ガラス単繊維の少なくとも1つが別のガラス単繊維と結合している融着点を有しているものである。融着点では、ガラス単繊維の成分が互いに混合(または拡散)して、ガラス単繊維同士が融着結合されている。そのため、本実施形態に係るガラス繊維成形品は、ガラス単繊維が互いに絡み合って保形しているガラス繊維成形品とは異なるものである。融着点については、例えば、ガラス繊維成形品を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することによって確認することができる(例えば、
図3参照)。また、本実施形態に係るガラス繊維成形品は、融着点で結合しているので、所望の強度を有し、形状安定性が優れるものである。
【0017】
(成形品密度)
本実施形態に係るガラス繊維成形品の密度は、200kg/m3以下である。ガラス繊維成形品の密度の上限値は、一実施形態において180kg/m3以下、別の実施形態において160kg/m3以下、さらに別の実施形態において120kg/m3以下、さらに別の実施形態において100kg/m3以下、さらに別の実施形態において80kg/m3以下、さらに別の実施形態において60kg/m3以下、さらに別の実施形態において40kg/m3以下、さらに別の実施形態において20kg/m3以下とすることができる。これにより、ガラス繊維成形品の断熱性および吸音性等の特性が向上する。また、ガラス繊維成形品の密度の下限値は、特に限定されるものでないが、一実施形態において5kg/m3以上、別の実施形態において8kg/m3以上、さらに別の実施形態において10kg/m3以上とすることができる。これにより、ガラス繊維成形品の形状安定性が向上する。
【0018】
(ガラス繊維)
本実施形態に係るガラス繊維成形品を構成するガラス繊維は、無機材料で構成されるガラス質の単繊維を複数含むものである。一実施形態において、無機材料は、金属酸化物、または複合金属酸化物を含むものである。一例として、無機材料は、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、アルカリ金属、アルカリ土類、およびその他の金属等の少なくとも1種を含む酸化物が含まれる。一実施形態において、ガラス繊維は、耐熱性金属繊維等を含むものであってもよい。
【0019】
ガラス単繊維の平均繊維径としては、一実施形態において1μm以上、別の実施形態において2μm以上、さらに別の実施形態において3μm以上とすることができ、一実施形態において30μm以下、別の実施形態において20μm以下、さらに別の実施形態において10μm以下、さらに別の実施形態において5μm以下とすることができる。
【0020】
(ガラス繊維成形品の製造方法)
本実施形態に係るガラス繊維成形品の製造方法は、ガラス繊維を圧縮する工程と、ガラス繊維を所定の温度および時間で加熱する工程と、を備える。以下、便宜上、圧縮工程、加熱工程の順で説明するが、ガラス繊維の圧縮工程と加熱工程の順番は特に限定されるものでなく、圧縮工程後に加熱工程を行っても、加熱工程後に圧縮工程を行っても、圧縮工程と加熱工程とを同時に行ってもよい。
【0021】
(ガラス繊維原料)
本実施形態に係るガラス繊維成形品のガラス繊維は、上述のように無機材料で構成されるガラス質の単繊維を複数含むものである。一実施形態において、ガラス単繊維の原料は、金属酸化物、複合金属酸化物、金属炭酸塩、複合炭酸塩、金属水酸化物等またはこれらの混合物を含むものである。一実施形態において、ガラス単繊維の原料は、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、アルカリ金属、アルカリ土類、およびその他の金属等の少なくとも1種を含む酸化物、炭酸塩、水酸化物またはこれらの混合物を含むものである。ガラス単繊維の原料は、ガラス質、結晶質、または両性質を有していてもよい。一例として、ガラス単繊維の原料は、ソーダ・ライムガラス、または、これに数パーセントのホウ酸を添加したアルカリ・ボロ・シリケートガラスとすることができる。
【0022】
一実施形態において、ガラス繊維は、単一のガラス単繊維で構成されていても、または、物性、成分、または組成等が異なるガラス単繊維を混合されていてもよい。また、一実施形態において、ガラス繊維は、ガラス単繊維をそのまま加熱圧縮装置に配置しても、ガラス単繊維を加熱圧縮装置に配置される前に絡み合わせてもよい。ガラス単繊維を加熱圧縮装置に配置される前に絡み合わせる方法として、ガラス単繊維の製造段階で絡み合わせる方法がある。例えば、そのようにして得られたなガラス繊維としては、綿状に加工されたもの(グラスウール)がある。一実施形態において、グラスウールは、遠心法で製造され得、例えば、ガラス単繊維の原料が、側面に小孔を多数有するスピナーに投入されて熱溶融され、スピナーを高速回転させることで、単繊維状態で吹き出され、空冷され、ガラス単繊維が絡み合ったグラスウールが製造され得る。
【0023】
(ガラス繊維の圧縮工程)
本実施形態に係るガラス繊維成形品の製造において、ガラス繊維は圧縮される。一実施形態において、ガラス繊維の圧縮は、成形冶具の間に配置して行うことができる。別の実施形態において、ガラス繊維の圧縮は、プレス機によって行うことができる。
【0024】
一実施形態において、ガラス繊維の圧縮は、所望の密度となるように、ガラス繊維の量から、成形治具の間、またはプレス機のプレス面の間の間隔を求め、当該間隔となるように成形治具およびプレス機を調節し、ガラス繊維を圧縮すればよく、圧縮力(荷重)は特に限定されるものでない。一実施形態において、成形治具およびプレス面は耐熱性材料で構成されることができ、例えば、金属を含む材料で構成されることができる。一実施形態において、一方の成形治具上にガラス繊維を配置し、他方の金属を含む材料で構成された成形治具を配置することで、他方の成形治具の重さにより、必要な圧縮力がガラス繊維に加えられ得る。さらに成形治具を使用して、ガラス繊維を圧縮する場合、成形治具間の間隔が短くなるように固定部材を設けることができる。固定部材としては、ボルトおよびナット、クランプ等が使用され得る。
【0025】
一実施形態において、成形冶具およびプレス機のプレス面は、所望のガラス繊維成形品の形態と対応する形状を有していれば、特に限定されるものでない。例えば、平板状(ボード状)のガラス繊維成形品を製造する場合、少なくとも2つの対向面が平面の成形冶具、例えば、板形状の成形冶具を使用することができる。また、円筒状のガラス繊維成形品を製造する場合、直径の異なる少なくとも2つの円筒形状の成形冶具を使用することができる。この場合、直径の小さい側の成形冶具は中実で構成されてもよい。また、直径の大きい側の成形冶具は半割りの2つの半円筒形状の成形冶具で構成されてもよい。また、球形状のガラス繊維成形品を製造する場合、半割りの2つの半球形状の成形冶具を使用することができる。
【0026】
(ガラス繊維の加熱工程)
本実施形態に係るガラス繊維成形品の製造において、ガラス繊維は加熱される。一実施形態において、ガラス繊維の加熱は加熱装置内で行われ、加熱装置としては電気炉、燃焼炉等が例示される。加熱装置は、バッチ式であっても、連続式であってもよい。一実施形態において、加熱装置は、温度計、および温度調節器等を備える温度制御装置を備えることができ、さらにタイマーを有していてもよい。
【0027】
一実施形態において、ガラス繊維の加熱は、所定の温度および時間の間で行われる。加熱温度は、ガラス繊維の徐冷点と、徐冷点より約100℃高い温度との間の温度で実施することができる。一実施形態において徐冷点より20℃高い温度以上、別の実施形態において徐冷点より30℃高い温度以上、さらに別の実施形態において徐冷点より50℃高い温度以上とすることができる。この加熱温度とすることで、ガラス繊維が互いに接触する接触点で融着しやすくなる。一実施形態において徐冷点より90℃高い温度以下、別の実施形態において徐冷点より80℃高い温度以下、さらに別の実施形態において徐冷点より70℃高い温度以下とすることができる。この加熱温度とすることで、ガラス繊維の融着箇所が多くなり過ぎず、ガラス繊維成形品の密度を高くすることができる。
【0028】
また、ガラス繊維の徐冷点は、JIS R 3103-2に従い測定することができる。ガラス繊維が成分または組成等が異なるガラス単繊維の混合物である場合は、各々のガラス単繊維の徐冷点をJIS R 3103-2に従い測定し、その値を加重平均することで求められる。
【0029】
加熱時間は、一実施形態において1時間以上、別の実施形態において1.2時間以上、さらに別の実施形態において1.5時間以上、さらに別の実施形態において1.8時間以上とすることができる。この加熱時間とすることで、ガラス繊維が互いに接触する接触点で融着しやすくなる。また、加熱時間の上限は特に限定されるものでないが、一実施形態において10時間以下、別の実施形態において5時間以下、さらに別の実施形態において3時間以下、さらに別の実施形態において2時間以下とすることができる。この加熱時間とすることで、ガラス繊維の融着箇所が多くなり過ぎず、ガラス繊維成形品の密度を高くすることができる。
【0030】
(ガラス繊維の冷却工程)
本実施形態に係るガラス繊維成形品の製造において、ガラス繊維を圧縮加熱後に冷却される。一実施形態において、冷却は、加熱装置中、または大気中で放冷することで行われ得るが、冷却媒体を使用して強制冷却してもよい。また、冷却中、ガラス繊維は加圧されたままでも、加圧から開放されてもよい。
【0031】
(一実施形態に係るガラス繊維成形品の製造方法)
ガラス繊維として、グラスウールを使用して、平板状(ボード状)のガラス繊維成形品を製造する一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、成形治具の間に配置されたガラス繊維を示す概略図である。まず、グラスウール11は、成形治具12a上に配置され、その上から成形治具12bが載せられ、圧縮される。この状態において、グラスウール11の量と、成形治具12a、12bの間隔(グラスウール11の厚み)から求められる密度(概算密度)が目的の密度(狙い密度)と同等である場合は、さらに加圧する必要はない。
【0032】
一方、概算密度が狙い密度より低い場合は、固定部材により成形治具12a、12bの間隔を短くしてグラスウール11を圧縮する。固定部材として、ボルト(螺子溝付棒)13およびナット14が示されている。成形治具12a、12bは、厚さ方向に貫通する孔を有しており、ボルト(螺子溝付棒)13が貫通孔に挿入できるように構成されている。また、成形治具12a、12bは、ボルト13のための貫通孔以外に貫通孔を有していてもよい。グラスウール11は、成形治具12a、12bの荷重とナット14の締め付けによって厚み方向に圧縮され、ガラス繊維成形品の狙い密度となるように調節される。また、成形治具12a、12bの間隔を一定に保持する部材を成形治具12a、12bの間に設けてもよい。
【0033】
図2は、電気炉に配置された被加熱体を示す概略図である。グラスウール11、成形治具12a、12bで構成される被加熱体10は、電気炉15に配置される。電気炉15内には、載置台16が設けられており、被加熱体10は載置台16上に配置される。載置台16は、電気炉15内の熱分布の中心にグラスウール11を配置するために設けられているが、必ずしも必要でない。また、
図2は、バッチ式の電気炉15を示しているが、連続式の電気炉を使用して、被加熱体10が電気炉内を搬送されながら加熱するように構成してもよい。その場合は、載置台16は、搬送装置とすることができる。
【0034】
電気炉15はグラスウール11を加熱するヒータ17を有している。ヒータ17は、グラスウール11の両サイドの側面に設けられているが、上下面に設けてもよい。また、電気炉15は、ガラスウール11の加熱温度および時間を制御する温度制御装置(タイマー付)を備えている。
【0035】
電気炉15内に配置されたグラスウール11は、グラスウール11の徐冷点から約100℃高い温度で、1から10時間加熱される。その後、被加熱体10は電気炉15から取り出され、大気中で放冷される。
【0036】
このようにして製造される本実施形態に係るガラス繊維成形品は、ガラス単繊維の少なくとも1つが別のガラス単繊維と結合している融着点を有するものであって、成形品の密度が200kg/m3以下であり、断熱性および吸音性等の特性が向上したものとなる。
【0037】
上述するように、本発明者らは、ガラス繊維成形品の融着箇所を多くしすぎないようにすることで、低密度となり、断熱性および吸音性等の特性が維持されることを見出した。また、従来、ガラス単繊維同士の融着点を有するガラス繊維成形品は、ガラス繊維の軟化点付近において短時間で成形する必要があると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、ガラス繊維の加熱温度を徐冷点付近まで下げるとともに、加熱時間を長時間とすることで、融着箇所が多くなりすぎないことを見出した。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明する。しかしながら、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例には限定されない。
【0039】
[実施例1]
ガラス繊維として、有機系バインダを含まないグラスウール(マグ・イゾベール株式会社製のホワイトロール)を使用した。グラスウール(約200mm×200mm)を
図1に示すような成形治具(約240mm×240mm×数mm厚の鋼板)の間に挟み、所定の密度となるようにボルトおよびナットで成形治具の間隔を調節した。表1に示す加熱時間および加熱温度でグラスウールを圧縮加熱して、ボード状ガラス繊維成形品を作製した。なお、グラスウールの徐冷点は538℃であった。
【0040】
【0041】
作製したボード状ガラス繊維成形品の熱伝導率、および突き刺し強度を測定した。表2にその結果を示す。熱伝導率は、JIS A 1412-2に従い測定した。突き刺し強度は前述の測定方法に従い測定した。
【0042】
【0043】
試料1Aから1Dは、密度および熱伝導率が低く、強度が高かった。また、試料1B、1Cおよび1Dのボード状ガラス繊維成形品の繊維の融着状態を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のMinisclope(登録商標) TM3000)により観察した。
図3から
図5は、それぞれ、試料1B、1Cおよび1Dのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージを示す。
図3から
図5より、試料1B、1Cおよび1Dのガラス繊維は、融着により結合されていることが確認できる。
【0044】
[実施例2]
加熱時間を変更したことを除き、実施例1の試料1Aと同様にボード状ガラス繊維成形品を作製した。表3に、加熱時間、作製したボード状ガラス繊維成形品の密度および熱伝導率を示す。熱伝導率は、JIS A 1412-2に従い測定した。
【0045】
【0046】
試料2Aおよび2Bは、密度および熱伝導率が低かった。また、試料2Aおよび2Bのボード状ガラス繊維成形品の繊維の融着状態を走査型電子顕微鏡により観察した。
図6および
図7は、それぞれ、試料2Aおよび2Bのボード状ガラス繊維成形品の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージを示す。
図6および
図7より、試料2Aおよび2Bのガラス繊維は、融着により結合されていることが確認できる。
【0047】
[比較例1]
加熱温度を365℃としたことを除き、実施例1の試料1Aと同様にボード状ガラス繊維成形品の作製を試みた。しかしながら、加熱温度が徐冷点より低かったため、作製したガラス繊維成形品は、その一端部を持ち、水平状態としたとき変形(屈曲)した。
図8は、比較例1の加熱圧縮後の繊維の走査型電子顕微鏡のイメージを示す。
図8より、比較例1のガラス繊維は、融着していないことが確認できる。
【符号の説明】
【0048】
10 被加熱体、11 ガラス繊維、12a、12b 成形治具、13 ボルト、14 ナット、15 電気炉、16 載置台、17 ヒータ