IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中部キレスト株式会社の特許一覧 ▶ キレスト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-過酸化水素水性液 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】過酸化水素水性液
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/037 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
C01B15/037 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018112845
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019214497
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 祐弥
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203813(JP,A)
【文献】特開平06-115909(JP,A)
【文献】特開2016-222531(JP,A)
【文献】特表2009-523155(JP,A)
【文献】特表2016-505564(JP,A)
【文献】特表2015-537049(JP,A)
【文献】特開昭61-231096(JP,A)
【文献】特開昭49-109296(JP,A)
【文献】特開2011-173864(JP,A)
【文献】特開2008-115086(JP,A)
【文献】特開2003-335614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00 - 15/037
A01N 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素安定化剤として、下記式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類、および、下記式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩を含み、
65-O-(CH2CH2O)m-H (I)
1-(OCH2CH2n-O-P(=O)(OH)2 (II)
[式中、R1はC8-18アルキル基を示し、mは1以上5以下の整数を示し、nは以上6以下の整数を示す。]
上記式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類と上記式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩との合計濃度が0.1質量%未満であることを特徴とする過酸化水素水性液。
【請求項2】
更に非イオン界面活性剤を含む請求項1に記載の過酸化水素水性液。
【請求項3】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩に対する上記フェニルグリコールエーテル類の質量比が1以上である請求項1または2に記載の過酸化水素水性液。
【請求項4】
上記非イオン界面活性剤の濃度が0.001質量%以上0.05質量%以下である請求項2に記載の過酸化水素水性液。
【請求項5】
更に下記式(III)で表されるポリアルキレングリコール類を含む請求項1~4のいずれかに記載の過酸化水素水性液。
2-[O-C(R3)(R4)-C(R5)(R6)-]l-OH (III)
[式中、R2~R6は独立してHまたはC1-4アルキル基を示し、lは2以上5以下の整数を示す。]
【請求項6】
上記式(III)で表されるポリアルキレングリコール類の濃度が0.001質量%以上0.05質量%以下である請求項5に記載の過酸化水素水性液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の安定性に優れた過酸化水素水性液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は非常に分解し易い化合物であり、特にFeやCuなどの遷移金属が共存する系では、酸性条件下であっても、これらの遷移金属が触媒となって短期間のうちに分解を起こし酸化活性を失う。そこでこうした問題を解決するため、フェナセチン、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、グリコール類、グリコールエーテル類などの安定化剤が検討されている。
【0003】
ところがこれらの安定化剤は、50℃以上の高温域における安定化効果が不十分であることから、高温域の酸性条件下でも優れた安定化効果を発揮し得るものとして、エチレングリコールフェニルエーテルに代表されるフェニルグリコールエーテル類が提案されている(特許文献1)。しかしながらこの安定化剤でも、長期間保存における安定化効果は依然として十分とは言えない。
【0004】
それに対して本発明者らは、高温の酸性条件下においても優れた安定性を有する過酸化水素含有水性液として、フェニルグリコールエーテル類に加えてホスホン酸またはその塩類を含有する過酸化水素含有水性液を開発している(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-115909号公報
【文献】特開2000-203813号公報
【文献】特許第4062569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、本発明者らは、安定化剤としてフェニルグリコールエーテル類とホスホン酸またはその塩類を含有する過酸化水素含有水性液を開発している。
しかし主要なフェニルグリコールエーテル類であるフェノキシエタノール等は、過酸化水素に対する安定化効果に加えてパラオキシ安息香酸エステルに比べて優れた防腐作用を示し、且つ刺激性が低いものではあるが、毒性やヒトによっては刺激性を示すことがあるために使用量の低減が求められている。
また、過酸化水素の安定化剤として用いられる主要なホスホン酸である1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸は、水溶性であり食品に残留する程度の量であれば害は無いとされているものの、香港の薬物毒物条例(Pharmacy and Poison Ordinance)の医薬品成分リストに挙げられているオキシホスホン酸の一種であり、近年、香港への輸入に規制がかけられていることから、使用の停止が求められている。
そこで本発明は、過酸化水素安定化剤であるフェニルグリコールエーテル類の使用量が低減されており且つオキシホスホン酸類が配合されていないにもかかわらず、過酸化水素の安定性に優れた過酸化水素水性液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、フェニルグリコールエーテル類に加えて特定のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩を配合することにより、それらの量が比較的少ない場合であっても、過酸化水素の安定性に優れた過酸化水素水性液が得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] 過酸化水素安定化剤として、下記式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類、および、下記式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩を含み、
65-O-(CH2CH2O)m-H (I)
1-(OCH2CH2n-O-P(=O)(OH)2 (II)
[式中、R1はC8-18アルキル基を示し、mは1以上5以下の整数を示し、nは1以上6以下の整数を示す。]
上記式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類と上記式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩との合計濃度が0.1質量%未満であることを特徴とする過酸化水素水性液。
【0009】
[2] 更に非イオン界面活性剤を含む上記[1]に記載の過酸化水素水性液。
【0010】
[3] 上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩に対する上記フェニルグリコールエーテル類の質量比が1以上である上記[1]または[2]に記載の過酸化水素水性液。
【0011】
[4] 上記非イオン界面活性剤の濃度が0.001質量%以上0.05質量%以下である上記[2]に記載の過酸化水素水性液。
【0012】
[5] 更に下記式(III)で表されるポリアルキレングリコール類を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の過酸化水素水性液。
2-[O-C(R3)(R4)-C(R5)(R6)-]l-OH (III)
[式中、R2~R6は独立してHまたはC1-4アルキル基を示し、lは2以上5以下の整数を示す。]
【0013】
[6] 上記式(III)で表されるポリアルキレングリコール類の濃度が0.001質量%以上0.05質量%以下である上記[5]に記載の過酸化水素水性液。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る過酸化水素水性液は、過酸化水素の安定化剤として、フェニルグリコールエーテル類の使用量が低減されており、また、ホスホン酸類を配合する必要がない。それにもかかわらず、高温の酸性条件下でも比較的優れた過酸化水素安定性を示す。よって本発明に係る過酸化水素水性液は、洗剤や化粧品などに配合される過酸化水素水性液として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】様々な過酸化水素水性液の高温で且つ酸性条件下での過酸化水素安定性に関する試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る過酸化水素水性液は、過酸化水素安定化剤として、式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類(以下、「フェニルグリコールエーテル類(I)」と略記する)、および、式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類(以下、「POEアルキルエーテルリン酸類(II)」と略記する)またはその塩を含み、上記フェニルグリコールエーテル類(I)と上記POEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩との合計濃度が0.1質量%未満であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る過酸化水素水性液は、通常、0.1質量%以上10質量%以下程度の過酸化水素を含有する。過酸化水素は一般的に液性が中性から塩基性になるに従って不安定となり分解し易くなるため、本発明に係る過酸化水素水性液は酸性であることが好ましい。そのpHとしては、例えば、6.0以下とすることができ、5.5以下または5.0以下が好ましく、4.5以下または4.0以下がより好ましい。
【0018】
また、Cu、Fe、Cr、Mnなどの遷移金属は過酸化水素の分解を促進するが、本発明に係る過酸化水素水性液は遷移金属を含んでいても過酸化水素の分解が抑制されている。但し、遷移金属の濃度としては、その種類にもよるが、100ppm以下が好ましく、50ppm以下または20ppm以下がより好ましく、10ppm以下または5ppm以下がより更に好ましい。
【0019】
本発明で過酸化水素の安定化剤として用いるフェニルグリコールエーテル類(I)は、式(I)で表される。
65-O-(CH2CH2O)m-H (I)
[式中、mは1以上5以下の整数を示す。]
【0020】
式(I)において、mとしては3以下が好ましく、1または2がより好ましく、1がより更に好ましい。即ち、フェニルグリコールエーテル類(I)としては、エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)、ジエチレングリコールフェニルエーテル、トリエチレングリコールフェニルエーテル、テトラエチレングリコールフェニルエーテル、ペンタエチレングリコールフェニルエーテル等が挙げられるが、これらの中でも特に好ましいのはエチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)である。
フェニルグリコールエーテル類(I)は、本発明において過酸化水素の安定化剤として用いられると共に、抗菌性を示すことから防腐剤としても機能する。
【0021】
本発明で過酸化水素の安定化剤として用いるPOEアルキルエーテルリン酸類(II)は、式(II)で表される。
1-(OCH2CH2n-O-P(=O)(OH)2 (II)
[式中、R1はC8-18アルキル基を示し、nは1以上6以下の整数を示す。]
【0022】
「C8-18アルキル基」は、炭素数8以上18以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等が挙げられる。好ましくはC10-18アルキル基であり、より好ましくはC10-16アルキル基である。また、C8-18アルキル基としては、直鎖状のものが好ましい。
【0023】
式(II)において、nとしては2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、5以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0024】
POEアルキルエーテルリン酸類(II)の塩を構成するカウンターカチオンとしては、特に制限されないが、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン(NH4 +);テトラアルキルアンモニウムイオンなどの有機アンモニウムイオンなどが挙げられ、アルカリ金属イオンが好ましく、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンがより好ましい。
【0025】
フェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩は、それぞれ1種のみ選択して用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えばPOEアルキルエーテルリン酸類(II)としては、炭素数が異なる2種以上のアルキル基を有する混合物を用いてもよい。また、ポリオキシエチレン部分の重合度が異なる2種以上のPOEアルキルエーテルリン酸類(II)を用いてもよい。
【0026】
本発明に係る過酸化水素水性液におけるフェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩との合計濃度としては、安全性などの性能やコストの面から0.1質量%未満が好ましい。当該合計濃度としては、0.095質量%以下または0.090質量%以下がより好ましく、0.085質量%以下がより更に好ましい。一方、フェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩の効果を十分に発揮せしめるべく、当該合計濃度としては0.020質量%以上が好ましく、0.040質量%以上がより好ましく、0.050質量%以上がより更に好ましい。
【0027】
各成分の効果を十分に発揮せしめるために、フェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩は、それぞれバランス良く配合することが好ましい。例えば、POEアルキルエーテルリン酸類(II)に対するフェニルグリコールエーテル類(I)の質量比を1以上とすることが好ましい。当該比としては、2以上または3以上がより好ましく、4以上がより更に好ましい。一方、当該比が大き過ぎると両成分の効果が十分に発揮されないおそれがあり得るため、当該比としては10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下または5以下がより更に好ましい。
【0028】
本発明に係る過酸化水素水性液の主要な溶媒は水であるが、必要に応じて水混和性有機溶媒を配合してもよい。ここで水混和性有機溶媒は、常温常圧下で水と制限無く混和可能な有機溶媒をいう。水混和性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのポリオール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒を挙げることができる。
【0029】
溶媒として水と水混和性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒に占める水の割合は60質量%以上が好ましく、80質量%または90質量%以上がより好ましく、95質量%以上または98質量%以上がより更に好ましい。また、溶媒としては実質的に水のみを用いることが好ましい。
【0030】
本発明に係る過酸化水素水性液には、フェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩の他、非イオン界面活性剤を添加してもよい。非イオン界面活性剤の添加により、過酸化水素の安定性がより一層向上する可能性がある。
【0031】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ソルビタンの脂肪酸エステルや、ソルビタンのポリオキシエチレンエーテル脂肪酸エステルを挙げることができる。これら脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などのC8-20長鎖脂肪酸を挙げることができる。また、当該脂肪酸エステルには、脂肪酸ジエステルと脂肪酸トリエステルも含まれる。上記ポリオキシエチレンエーテル脂肪酸エステルのポリオキシエチレンの重合度は、例えば、10以上30以下程度とすることができる。
【0032】
本発明に係る過酸化水素水性液における非イオン界面活性剤の濃度は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、0.001質量%以上0.05質量%以下とすることができる。当該濃度としては、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また、0.04質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましい。
【0033】
本発明に係る過酸化水素水性液には、下記式(III)で表されるポリアルキレングリコール類(以下、「ポリアルキレングリコール類(III)」と略記する)を添加してもよい。ポリアルキレングリコール類(III)の添加により、主溶媒である水に対する溶解性が十分でない成分の可溶化、成分の析出の抑制、また、過酸化水素のより一層の安定化などが図られる。
2-[O-C(R3)(R4)-C(R5)(R6)-]l-OH (III)
[式中、R2~R6は独立してHまたはC1-4アルキル基を示し、lは2以上5以下の整数を示す。]
【0034】
「C1-4アルキル基」は、炭素数1以上4以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチルである。好ましくはC1-2アルキル基であり、より好ましくはメチルである。R2~R6としてはHまたはメチルが好ましい。
【0035】
本発明に係る過酸化水素水性液におけるポリアルキレングリコール類(III)の濃度は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、0.001質量%以上0.05質量%以下とすることができる。当該濃度としては、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、また、0.04質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましい。
【0036】
本発明に係る過酸化水素水性液は、過酸化水素の分解を促進する遷移金属の存在下であっても、また、比較的高温下であっても、過酸化水素が安定化されており、その酸化活性が維持されている。よって本発明に係る過酸化水素水性液は、酸化性成分として過酸化水素を含む漂白剤、化粧品、化学研磨剤、染毛剤などに幅広く活用することができる。なお、本発明に係る過酸化水素水性液の有効成分であるフェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)またはその塩は、最初から配合して過酸化水素の安定化を図る他、調製過程で過酸化水素の添加と同時もしくはその直後に添加することによって、過酸化水素の安定化を図ることも可能である。
【0037】
本発明は、過酸化水素を含む水性液中の過酸化水素を安定化する方法であって、上記水性液に、式(I)で表されるフェニルグリコールエーテル類、および、式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類またはその塩を添加する工程を含む方法にも関する。当該方法には、必須成分であるフェニルグリコールエーテル類(I)とPOEアルキルエーテルリン酸類(II)、およびその他の上記好適成分の説明や添加量などに関して、本発明に係る過酸化水素水性液での記載が援用される。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
実施例1~4,比較例1~3
表1に示す組成で成分を混合し、各過酸化水素安定化剤を調製した。表1中の数値は質量割合である。なお、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテルリン酸としては、東邦化学工業社製の「フォスファノール(R)RS-410,610,710」を用い、モノオレイン酸POEソルビタンとしては日油社製の「ノニオン(R)OT-221」を用いた。
【0040】
【表1】
【0041】
過酸化水素の5.6質量%水溶液に、各過酸化水素安定化剤を0.1質量%の割合で添加した後、FeNH4(SO42・12H2OとCuSO4・5H2OをFeとCuの濃度がそれぞれ1ppmとなるよう添加し、更に、硫酸または水酸化カリウムでpHを3.5に調整した。
得られた各酸性過酸化水素水性液を60℃に調整した恒温槽内に静置し、過酸化水素残存率を硫酸セリウム(IV)溶液-フェロイン指示薬法により経時的に測定した。各過酸化水素水性液を2例調製し、測定を2回ずつ行い、4例の測定結果から平均値を算出した。結果を図1に示す。
【0042】
図1に示す結果の通り、フェノキシエタノールと1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸を含む比較例1の過酸化水素安定化剤であっても、過酸化水素水性液中におけるそれらの総和が0.1質量%未満である場合には、過酸化水素の安定化効果は十分なものではなかった。フェノキシエタノールのみを含む比較例2の過酸化水素安定化剤でも同様であった。
また、フェノキシエタノールに加えてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸を含むものであっても、そのポリオキシエチレンの重合度が9である比較例3の過酸化水素安定化剤の効果も十分なものではなかった。
一方、フェノキシエタノールに加え、ポリオキシエチレンの重合度が6以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸を含む本発明に係る過酸化水素安定化剤の場合、それら成分の総和が0.1質量%未満であっても、過酸化水素の安定化効果は明らかに改善されていた。特に、更にモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを併用した実施例4の過酸化水素安定化剤の過酸化水素安定化効果は際立って優れていた。
図1