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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】シール剤、及びシール剤用品
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020148199
(22)【出願日】2020-09-03
(62)【分割の表示】P 2017205239の分割
【原出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2020193562
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-09-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596164652
【氏名又は名称】太洋基礎工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 光洋
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝芳
(72)【発明者】
【氏名】水島 達宏
(72)【発明者】
【氏名】大野 康年
(72)【発明者】
【氏名】奥野 悠
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157649(JP,A)
【文献】特開2006-274646(JP,A)
【文献】特開2010-270288(JP,A)
【文献】特開昭53-125310(JP,A)
【文献】特開昭60-233192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液注入工法において地盤に形成された掘削孔に挿入された注入管と前記掘削孔の孔壁との間を充填するために用いられるシール剤であって、
水酸化アルミニウムのゲルを含み、
比重が1.05~1.30の範囲内であり、
pHが4~11.1の範囲内であるシール剤。
【請求項2】
請求項1に記載のシール剤であって、
粘度が100mPa・s以上であるシール剤。
【請求項3】
薬液注入工法に用いられるシール剤用品であって、
使用時に混合される複数の単位剤を含み、
前記単位剤のうちの少なくとも1つは3価のアルミニウムイオンを含み、
前記複数の単位剤を混合して成り、地盤に形成された掘削孔に挿入された注入管と前記掘削孔の孔壁との間を充填するために用いられるシール剤は、
水酸化アルミニウムのゲルを含み、
前記シール剤の比重が1.05~1.30の範囲内であり、
混合直後における前記シール剤のpHが4~11.1の範囲内であるシール剤用品。
【請求項4】
薬液注入工法において地盤に形成された掘削孔に挿入された注入管と前記掘削孔の孔壁との間を充填するために用いられるシール剤であって、
高吸水性樹脂及び水を含み、
前記高吸水性樹脂は、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物を含むシール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール剤、シール剤用品、及び薬液注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良を目的とする薬液注入工法が知られている。薬液注入工法は特許文献1に開示されている。薬液注入工法としては、ストレーナ工法、ダブルパッカー工法等がある。さらに、ダブルパッカー工法には、シールグラウト方式、地山パッカー方式がある。
【0003】
薬液注入工法では、まず、地盤に掘削孔を形成し、その掘削孔に注入外管を挿入する。さらに、注入外管の中に注入内管を挿入する。注入外管には注入口が形成されている。注入内管により、薬液を注入口に圧送する。薬液は、一般的に、酸性のシリカ系薬液である。圧送された薬液は、注入外管の注入口から吐出され、地盤に浸透する。地盤に浸透した薬液が固結し、改良体を形成することで、地盤が改良される。
【0004】
注入外管と地盤との間に隙間があると、注入外管の注入口から吐出された薬液がこの隙間を逸走してしまう。そこで、シールグラウト方式のダブルパッカー工法では、上述した薬液の逸走を抑制するために、注入外管と地盤との間にセメントベントナイト充填材を充填する。注入口から吐出された薬液は、セメントベントナイト充填材を割裂させて、地盤に浸透する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3313351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シールグラウト方式のダブルパッカー工法では、注入外管の注入口から吐出された薬液は、セメントベントナイト充填材が割裂して生じた狭い空間を通して地盤に浸透する。そのため、地盤において薬液が浸透する範囲(以下では浸透源とする)を拡大することが困難であった。
【0007】
また、地山パッカー方式のダブルパッカー工法では、パッカー拡張前に掘削孔の孔壁が崩壊することがある。この場合、パッカーと地山との密着性が低下したり、浸透源が縮小したりしてしまう。
【0008】
本開示の一局面は、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できるシール剤、シール剤用品、及び薬液注入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一局面は、薬液注入工法に用いられるシール剤であって、水酸化アルミニウムのゲルを含み、比重が1.05~1.30の範囲内であり、pHが4~11.1の範囲内であるシール剤である。本開示の一局面であるシール剤によれば、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できる。
【0010】
本開示の別の局面は、薬液注入工法に用いられるシール剤用品であって、使用時に混合される複数の単位剤を含み、前記単位剤のうちの少なくとも1つは3価のアルミニウムイオンを含み、前記複数の単位剤を混合して成るシール剤は、水酸化アルミニウムのゲルを
含み、前記シール剤の比重が1.05~1.30の範囲内であり、混合直後における前記シール剤のpHが4~11.1の範囲内であるシール剤用品である。本開示の別の局面であるシール剤用品によれば、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できる。
【0011】
本開示の別の局面は、薬液注入工法に用いられるシール剤であって、高吸水性樹脂及び水を含むシール剤である。本開示の別の局面であるシール剤によれば、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できる。
【0012】
本開示の別の局面は、薬液を地盤に注入し、注入した薬液が固結することで地盤を改良する薬液注入工法であって、前記地盤に掘削孔を形成し、前記掘削孔に注入管が挿入され、前記注入管と前記掘削孔の孔壁との間にシール剤が充填された状態とし、前記注入管の注入口から、pHが4未満である前記薬液を吐出し、前記薬液が前記シール剤の少なくとも一部を溶解して前記地盤に浸透し、前記シール剤は、水酸化アルミニウムのゲルを含み、比重が1.05~1.30の範囲内であり、pHが4~11.1の範囲内である薬液注入工法である。本開示の別の局面である薬液注入工法によれば、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できる。
【0013】
本開示の別の局面は、薬液を地盤に注入し、注入した薬液が固結することで地盤を改良する薬液注入工法であって、前記地盤に掘削孔を形成し、前記掘削孔に注入管が挿入され、前記注入管と前記掘削孔の孔壁との間にシール剤が充填された状態とし、前記注入管の注入口から、pHが4未満である前記薬液を吐出し、前記薬液が前記シール剤の少なくとも一部を収縮させて前記地盤に浸透し、前記シール剤は、高吸水性樹脂及び水を含む薬液注入工法である。本開示の別の局面である薬液注入工法によれば、浸透源を拡大し、孔壁の崩落を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】孔壁崩壊試験の方法を表す説明図である。
図2】薬液注入工法の例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態を説明する。
1.第1のシール剤
第1のシール剤は薬液注入工法に用いられる。薬液注入工法は特に限定されず、例えば、ストレーナ工法、シールグラウト方式のダブルパッカー工法、地山パッカー方式のダブルパッカー工法等が挙げられる。第1のシール剤は、例えば、注入管と、掘削孔の孔壁との間に充填することができる。注入管は、注入外管と注入内管とから構成されるものであってもよいし、それ以外の構成を有する注入管であってもよい。
【0016】
第1のシール剤は水酸化アルミニウムのゲルを含む。第1のシール剤の比重は1.05~1.30の範囲内である。第1のシール剤のpHは4~11.1の範囲内である。第1のシール剤の比重及びpHがこれらの範囲内であることにより、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が高い。また、第1のシール剤の比重及びpHがこれらの範囲内であることにより、注入管から薬液が吐出されたとき、第1のシール剤は溶解し易い。第1のシール剤が溶解すると、注入管から吐出された薬液は、広い範囲にわたって地盤に浸透することができる。その結果、浸透源を拡大することができる。第1のシール剤の剤型は、例えば、液状、スラリー状、懸濁液等である。
【0017】
第1のシール剤の粘度は100mPa・s以上であることが好ましい。この粘度は、以下の条件で測定した値である。
測定機器:BII型粘度計(東機産業製)
ロータの大きさ:No.3
ロータの回転数:60rpm
温度:20℃
第1のシール剤の粘度が100mPa・s以上である場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が一層高い。また、第1のシール剤の粘度が100mPa・s以上である場合、注入管から吐出された薬液に対し、第1のシール剤は一層溶解し易い。その結果、浸透源を一層拡大することができる。
【0018】
第1のシール剤は、例えば、界面活性剤、ケイ酸ナトリウム等をさらに含んでいてもよい。第1のシール剤が界面活性剤を含む場合、第1のシール剤の粘性が増加するため、孔壁を強固に保持することができる。また、第1のシール剤が界面活性剤を含む場合、第1のシール剤における材料分離を抑制できる。また、第1のシール剤が界面活性剤を含む場合、時間の経過とともに第1のシール剤の溶解度が低下することを抑制できる。
【0019】
界面活性剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。また、これらから選択される2種以上の混合物を用いてもよい。
【0020】
第1のシール剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤の粘性が増加するため、孔壁を強固に保持することができる。また、第1のシール剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤における材料分離を抑制できる。また、第1のシール剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤自体が一定時間後にゲル化するため、孔壁をより強固に保持することができる。
【0021】
2.シール剤用品
シール剤用品は、薬液注入工法に用いられる。薬液注入工法は特に限定されず、例えば、ストレーナ工法、シールグラウト方式のダブルパッカー工法、地山パッカー方式のダブルパッカー工法等が挙げられる。
【0022】
シール剤用品は、複数の単位剤を含む。複数の単位剤を混合することで、第1のシール剤が生じる。第1のシール剤は、複数の単位剤の混合物、又は、混合物から生成するものである。複数の単位剤は、例えば、第1のシール剤を使用しないときは互いに分離された状態にあり、使用時に混合される。
【0023】
単位剤の数は、2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。単位剤の剤型としては、例えば、液状、スラリー状、粉末等が挙げられる。第1のシール剤の剤型は、例えば、液状、スラリー状、懸濁液等である。
【0024】
複数の単位剤のうち少なくとも1つは3価のアルミニウムイオンを含む。3価のアルミニウムイオンを含む少なくとも1つの単位剤を以下では単位剤Aとする。単位剤Aは、例えば、アルミニウム塩を含む。アルミニウム塩として、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ミョウバン、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
複数の単位剤のうち少なくとも1つは、例えば、第1のシール剤のpHを4~11.1の範囲内に調整する成分(以下ではpH調整成分とする)を含んでいてもよい。pH調整成分として、例えば、アルカリ性の物質であるアルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メタケイ酸ナトリウム等が挙げられる。また、pH調整成分として、例えば、酸性の物質である硫酸アルミニウム、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。pH調整成分は、例えば、複数の単位剤のうち、単位剤A以外のいずれか1以上の単位剤に配合することができる。
【0026】
複数の単位剤のうち少なくとも1つは、例えば、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含む単位剤として、例えば、単位剤Aが挙げられる。いずれかの単位剤が界面活性剤を含む場合、第1のシール剤の粘性が増加するため、孔壁を強固に保持することができる。また、いずれかの単位剤が界面活性剤を含む場合、第1のシール剤における材料分離を抑制できる。また、いずれかの単位剤が界面活性剤を含む場合、時間の経過とともに第1のシール剤の溶解度が低下することを抑制できる。特に、単位剤Aが界面活性剤を含む場合、水酸化アルミニウムが生成するときのゾル粒子表面を保護することができる。その結果、時間の経過とともに第1のシール剤の溶解度が低下することを一層抑制できる。
【0027】
界面活性剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。また、これらから選択される2種以上の混合物を用いてもよい。
【0028】
複数の単位剤のうち少なくとも1つは、例えば、ケイ酸ナトリウムを含んでいてもよい。ケイ酸ナトリウムを含む単位剤として、例えば、単位剤A以外のいずれか1以上の単位剤が挙げられる。単位剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤の粘性が増加するため、孔壁を強固に保持することができる。また、単位剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤における材料分離を抑制できる。また、単位剤がケイ酸ナトリウムを含む場合、第1のシール剤自体が一定時間後にゲル化するため、孔壁をより強固に保持することができる。
【0029】
複数の単位剤を混合して成る第1のシール剤は、水酸化アルミニウムのゲルを含む。第1のシール剤の比重は1.05~1.30の範囲内である。混合直後における第1のシール剤のpHは4~11.1の範囲内である。第1のシール剤の比重及びpHがこれらの範囲内であることにより、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が高い。また、第1のシール剤の比重及びpHがこれらの範囲内であることにより、注入管から薬液が吐出されたとき、第1のシール剤は溶解し易い。第1のシール剤が溶解すると、注入管から吐出された薬液は、広い範囲にわたって地盤に浸透することができる。その結果、浸透源を拡大することができる。
【0030】
第1のシール剤を、例えば、注入管と、掘削孔の孔壁との間に充填することができる。注入管は、注入外管と注入内管とから構成されるものであってもよいし、それ以外の構成を有する注入管であってもよい。
【0031】
混合直後における第1のシール剤の粘度は100mPa・s以上であることが好ましい。この粘度は、以下の条件で測定した値である。
測定機器:BII型粘度計(東機産業製)
ロータの大きさ:No.3
ロータの回転数:60rpm
温度:20℃
混合直後における第1のシール剤の粘度が100mPa・s以上である場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が一層高い。また、混合直後における第1のシール剤の粘度が100mPa・s以上である場合、注入管から吐出された薬液に対し、第1のシール剤は一層溶解し易い。その結果、浸透源を一層拡大することができる。
【0032】
3.第2のシール剤
第2のシール剤は薬液注入工法に用いられる。薬液注入工法は特に限定されず、例えば、ストレーナ工法、シールグラウト方式のダブルパッカー工法、地山パッカー方式のダブルパッカー工法等が挙げられる。第2のシール剤は、例えば、注入管と、掘削孔の孔壁と
の間に充填することができる。注入管は、注入外管と注入内管とから構成されるものであってもよいし、それ以外の構成を有する注入管であってもよい。
【0033】
第2のシール剤は、高吸水性樹脂及び水を含む。高吸水性樹脂の少なくとも一部は、水を吸収し、膨潤した状態にある。
第2のシール剤は、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が高い。また、注入管から薬液が吐出されたとき、第2のシール剤は収縮し易い。第2のシール剤が収縮すると、注入管から吐出された薬液は、広い範囲にわたって地盤に浸透することができる。その結果、浸透源を拡大することができる。
【0034】
高吸水性樹脂として、合成ポリマー系の高吸水性樹脂が好ましい。合成ポリマー系の高吸水性樹脂として、ポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂が好ましい。ポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂として、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物が好ましい。
【0035】
第2のシール剤が合成ポリマー系の高吸水性樹脂を含む場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が一層高い。また、第2のシール剤が合成ポリマー系の高吸水性樹脂を含む場合、注入管から薬液が吐出されたとき、第2のシール剤は一層収縮し易い。
【0036】
第2のシール剤がポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂を含む場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が一層高い。また、第2のシール剤がポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂を含む場合、注入管から薬液が吐出されたとき、第2のシール剤は一層収縮し易い。
【0037】
第2のシール剤がアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物を含む場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が特に高い。また、第2のシール剤がアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物を含む場合、注入管から薬液が吐出されたとき、第2のシール剤は特に収縮し易い。
【0038】
第2のシール剤は、1000質量部の水と、1~100質量部の高吸水性樹脂と、を含むことが好ましい。第2のシール剤は、1000質量部の水と、1.5~20質量部の高吸水性樹脂と、を含むことがさらに好ましい。
【0039】
第2のシール剤が、1000質量部の水に対し、1質量部以上の高吸水性樹脂を含む場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が高い。
第2のシール剤が、1000質量部の水に対し、1.5質量部以上の高吸水性樹脂を含む場合、掘削孔の孔壁が崩落することを抑制する効果が一層高い。
【0040】
第2のシール剤が、1000質量部の水に対し、100質量部以下の高吸水性樹脂を含む場合、第2のシール剤の製造コストを低減することができる。
第2のシール剤が、1000質量部の水に対し、20質量部以下の高吸水性樹脂を含む場合、第2のシール剤の製造コストを一層低減することができる。
【0041】
第2のシール剤の剤型は、例えば、液状、スラリー状、懸濁液等である。第2のシール剤は、水及び高吸水性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。
4.薬液注入工法
本開示の薬液注入工法は、薬液を地盤に注入し、注入した薬液が固結することで地盤を改良する工法である。本開示の薬液注入工法は、例えば、ストレーナ工法、シールグラウト方式のダブルパッカー工法、地山パッカー方式のダブルパッカー工法等であってもよいし、それ以外の薬液注入工法であってもよい。
【0042】
本開示の薬液注入工法では、地盤に掘削孔を形成する。次に、掘削孔に注入管が挿入され、注入管と掘削孔の孔壁との間にシール剤が充填された状態とする。この状態は、例えば、掘削孔にシール剤を充填してから、注入管を掘削孔に挿入することで実現できる。また、上記の状態は、例えば、注入管を掘削孔に挿入してから、注入管と掘削孔の孔壁との間にシール剤を充填することで実現できる。本開示の薬液注入工法で使用するシール剤は、前記「1.第1のシール剤」、前記「2.シール剤用品」、及び前記「3.第2のシール剤」のうちのいずれかの項で述べたものである。
【0043】
次に、注入管の注入口から、pHが4未満である薬液を吐出する。本開示の薬液注入工法で使用する第1のシール剤は薬液により溶解し易く、本開示の薬液注入工法で使用する第2のシール剤は薬液により収縮し易いため、注入管から薬液が吐出されたとき、シール剤の少なくとも一部は溶解又は収縮する。シール剤が溶解又は収縮すると、注入管から吐出された薬液は、広い範囲にわたって地盤に浸透することができる。その結果、浸透源を拡大することができる。
【0044】
薬液注入工法の例を図2に示す。STEP-1は、地盤100に掘削孔101が形成され、掘削孔101に注入管103が挿入され、注入管103と掘削孔101の孔壁105との間にシール剤107が充填された状態である。注入管103は、注入口109と、地山パッカー111とを備える。
【0045】
STEP-2では、地山パッカー111を膨出させて孔壁105に密着させる。STEP-3では、注入口109から、pHが4未満である薬液113を吐出する。注入口109から吐出された薬液113は、シール剤107が第1のシール剤である場合は、注入口109付近のシール剤107を溶解する。シール剤107が第2のシール剤である場合は、注入口109付近のシール剤107を収縮させる。STEP-4では、シール剤107を溶解又は収縮させた薬液113が地盤100に浸透する。STEP-5では、薬液113が地盤100において十分に広がり、固結して改良体115を形成する。
【0046】
5.第1のシール剤を使用する薬液注入工法に対応する実施例
(1)シール剤用品の製造
表1に示す成分を配合して実施例1~8、11~14、比較例2~6のA液及びB液
を製造した。A液及びB液は、それぞれ、単位剤に対応する。A液及びB液の組み合わせは、シール剤用品に対応する。また、表1に示す成分を配合して実施例9、10のA液、B液、及びC液を製造した。A液、B液、及びC液は、それぞれ、単位剤に対応する。A液、B液、及びC液の組み合わせは、シール剤用品に対応する。
【0047】
【表1】
表1における配合量の単位は質量部である。表1における「Al2(SO4)3」は、硫酸アル
ミニウム (北陸化成(株)製、Al2O3:12%)を意味する。表1における「活性剤」は、界面
活性剤を意味する。実施例11のA液に配合されている界面活性剤はカルボキシメチルセルロース(信越化学工業(株)製、製品名:アスカクリーン)である。実施例12のA液に配
合されている界面活性剤はアルキルアリルスルホン酸塩である。実施例13のA液に配合されている界面活性剤はアルキルアンモニウム塩である。実施例14のA液に配合されている界面活性剤は、アルキルアリルスルホン酸塩(花王(株)製、製品名:ビスコトップ100A)と、アルキルアンモニウム塩(花王(株)製、製品名:ビスコトップ100B)とを質量比1:1で混合したものである。
【0048】
表1における「NaAlO2」は、アルミン酸ナトリウム (北陸化成(株)製、製品名:AS17、Al2O3:19%)を意味する。表1における「5号」は、5号ケイ酸ナトリウム(富士化学(株)製、SiO2:25.5%、Na2O:7%)を意味する。
【0049】
実施例1~8、11~14、比較例2~6については、攪拌しているA液にB液を混合し、さらによく攪拌してシール剤を製造した。このシール剤は第1のシール剤に対応する。実施例1~8、11~14のシール剤は、水酸化アルミニウムのゲルを含んでおり、粘性のある懸濁液である。
【0050】
また、実施例9、10については、攪拌しているA液にC液を混合し、次にB液を混合し、さらによく攪拌してシール剤を製造した。このシール剤は第1のシール剤に対応する。実施例9、10のシール剤は、水酸化アルミニウムのゲルを含んでおり、粘性のある懸濁液である。
【0051】
また、以下の成分を混合して、比較例1のシール剤を製造した。
セメント:62.1g
ベントナイト:15.5g
水:222.4g
(2)シール剤の物性
各実施例及び各比較例について、シール剤のpHと、比重と、粘度とを測定した。実施例1~8、11~14及び比較例2~6については、A液及びB液の混合攪拌直後に測定を行った。実施例9、10については、A液、B液、及びC液の混合攪拌直後に測定を行った。いずれの測定も、20℃の下で行った。比重の測定方法は、メスシリンダーを用いて200mlのシール剤を計り取り、計り取ったシール剤の質量を測定する方法である。粘度の測定方法は、前記「1.シール剤」及び前記「2.シール剤用品」の項で述べた方法である。測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
表2には、シール剤におけるAl2O3濃度及びSiO2濃度を併せて示す。
【0053】
(3)孔壁崩壊試験
各実施例及び各比較例のシール剤に対し、以下のようにして、孔壁崩壊試験を行った。図1のSTEP-1に示すように、立方体のアクリル製水槽1を用意した。この水槽1の寸法は、縦、横、高さがそれぞれ20cmである。水槽1は、その上面において開放されている。
【0054】
また、図1のSTEP-1に示すように、半割パイプ3を用意した。半割パイプ3は、中空円筒を、その軸方向に平行な断面で2分割した形状を有する。図1のSTEP-1に示すように、半割パイプ3を、水槽1における1つの側面5に内側から当接させた。このとき、半割パイプ3の分割面7が側面5に接した。半割パイプ3の軸方向は鉛直方向である。半割パイプ3と側面5とで周囲を囲まれた空間9が生じた。
【0055】
次に、水槽1のうち、空間9を除く部分に6号ケイ砂11を詰めた。このとき、空間9には6号ケイ砂11が入らないようにした。6号ケイ砂11の相対密度は50%である。水槽1の底面から6号ケイ砂11の表面までの高さは15cmである。
【0056】
次に、図1のSTEP-2に示すように、空間9に上方からシール剤13を充填した。次に、図1のSTEP-3に示すように、半割パイプ3を引き上げた。このとき、6号ケイ砂11のうち、それまで半割パイプ3と接していた面(以下では孔壁15とする)が、シール剤13の外周面と対向している状態となる。
【0057】
半割パイプ3を引き上げた後における孔壁15の崩壊の程度を、以下の基準で判断した。その結果を上記表2に示す。
◎:崩壊せず。
【0058】
○:ゆっくりと砂が沈降して孔壁15が若干崩壊するが、ほぼ孔壁15を保持。
△:ゆっくりと孔壁15が崩壊し、時間がたつと孔壁15を保持できない。
×:孔壁15が崩壊。
【0059】
ND:粘度が過度に高いため空間9にシール剤13を充填できない。
各実施例のシール剤では、孔壁15が崩壊し難かった。比較例2~6のシール剤では、孔壁15が崩壊し易いか、「ND」という結果であった。比較例4~6において孔壁15が崩壊し易い理由は、シール剤のpHが過度に小さいか過度に大きいため、水酸化アルミニウムのゲルが十分に生成せず、シール剤の粘度が低くなったためであると推測される。(4)溶解性試験
実施例2、10、14及び比較例1のシール剤に対し、以下のようにして、溶解性試験を行った。シール剤を、調製後2日間静置して養生した。次に、1gのシール剤と99gの薬液とを混合し、2時間攪拌した。なお、このシール剤と薬液との混合比は、シール剤を薬液注入工法に使用する場合の一般的な混合比である。使用した薬液の基本的な組成は以下のとおりである。
【0060】
コロイダルシリカ:44g
5号ケイ酸ナトリウム:274g
工業用希硫酸:約40g
水:736g
薬液のpHは、工業用希硫酸の量を調整することにより、1、2、3、4のいずれかとした。
【0061】
次に、シール剤と薬液との混合物から、3500rpmで10分間遠心分離することで、沈降分を分離した。沈降分は、溶解せずに残った水酸化アルミニウムのゲル、及び、薬液が反応して生じたシリカゲル等を主成分とするものである。次に、以下の式(1)により、水酸化アルミニウムのゲルの減少率X(%)を算出した。
【0062】
式(1) X=((W-W)/W)×100
式(1)において、Wは沈降分の質量である。Wは薬液と混合する前のシール剤
が含む水酸化アルミニウムのゲルの質量である。シール剤の種類と、薬液のpHと、減少率Xの値とを表3に示す。
【0063】
【表3】
実施例2、10、14のシール剤では、pHが4未満の薬液を使用すると、減少率Xが大きくなった。すなわち、実施例2、10、14のシール剤は、pHが4未満の薬液を加えると、溶解し易かった。比較例1のシール剤では、薬液のpHによらず、減少率Xが小さいか、シール剤がゲル化するという結果であった。
6.第2のシール剤を使用する薬液注入工法に対応する実施例
(1)シール剤の製造
表4に示す配合で水と高吸水性樹脂とを混合し、実施例15~18のシール剤を製造した。実施例15~18のシール剤は第2のシール剤に対応する。
【0064】
【表4】
表4における配合量の単位は質量部である。高吸水性樹脂は、三洋化成工業株式会社製の商品名Geosapである。Geosapは、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物である。アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物は、合成ポリマー系の高吸水性樹脂に対応し、ポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂に対応する。
【0065】
実施例15~18のシール剤において、高吸水性樹脂は、水を吸収し、膨潤した状態に
ある。実施例15~18のシール剤は、スラリー状の剤型を有する。
(2)収縮性試験
実施例15~18のシール剤に対し、以下のようにして、収縮性試験を行った。10gのシール剤と90gの薬液とを混合し、30分間攪拌した。なお、このシール剤と薬液との混合比は、シール剤を薬液注入工法に使用する場合の一般的な混合比である。使用した薬液の基本的な組成は以下のとおりである。
【0066】
コロイダルシリカ:44g
5号ケイ酸ナトリウム:274g
工業用希硫酸:約40g
水:736g
薬液のpHは、工業用希硫酸の量を調整することにより、3.0とした。
【0067】
次に、シール剤と薬液との混合液を、濾紙を用いて吸引濾過した。用いた濾紙はADVANTEC社製の5C濾紙である。次に、濾過残渣の質量wを計測した。
次に、以下の式(2)により、シール剤の減少率Y(%)を算出した。
【0068】
式(2) Y=(1-(w/10))×100
減少率Yを上記表4に示す。実施例15~18のいずれのシール剤でも、減少率Yは大きかった。すなわち、実施例15~18のシール剤は、薬液を加えると収縮し易かった。
(3)孔壁崩壊試験
実施例15~18のシール剤に対し、孔壁崩壊試験を行った。孔壁崩壊試験の方法は、基本的には上述した方法と同じである。ただし、水槽1のうち、空間9を除く部分に6号ケイ砂11を詰めるとき、6号ケイ砂11とともに、水を加えた。水槽1のうち、空間9を除く部分では、水面が6号ケイ砂11の表面よりも上になるようにした。
【0069】
壁崩壊性試験の結果を上記表4に示す。実施例15~18のいずれのシール剤を用いた場合でも、孔壁15が崩壊し難かった。実施例16~18のシール剤を用いた場合、孔壁15が一層崩壊し難かった。実施例17~18のシール剤を用いた場合、孔壁15が特に崩壊し難かった。
【0070】
(4)比重の測定
実施例15~18のシール剤について、比重を測定した。比重の測定方法は、メスシリンダーを用いて100mlのシール剤を計り取り、計り取ったシール剤の質量を測定する方法である。比重の測定結果を上記表4に示す。
【0071】
7.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定される
ことなく、種々変形して実施することができる。
【0072】
(1)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0073】
(2)上述した薬液注入工法、シール剤、シール剤用品の他、シール剤を構成要素とす
る製品、地盤改良工法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0074】
1…水槽、3…半割パイプ、5…側面、7…分割面、9…空間、11…6号ケイ砂、13…シール剤、15…孔壁、100…地盤、101…掘削孔、103…注入管、105…孔壁、107…シール剤、109…注入口、111…地山パッカー、113…薬液、115…改良体
図1
図2