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特許7109041カッターホルダ取付構造、カッターホルダ並びにホルダジョイント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】カッターホルダ取付構造、カッターホルダ並びにホルダジョイント
(51)【国際特許分類】
   B28D 5/00 20060101AFI20220722BHJP
   C03B 33/027 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/027
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017190440
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064084
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中垣 智貴
(72)【発明者】
【氏名】阪口 良太
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158022(JP,A)
【文献】特開平08-170635(JP,A)
【文献】特開2009-091178(JP,A)
【文献】特開2000-335929(JP,A)
【文献】特開2005-213116(JP,A)
【文献】米国特許第05357552(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端にカッターホイールを備えたカッターホルダ取付構造体の旋回軸が玉ベアリングを介してスクライブ装置のスクライブヘッドに旋回自在に取り付けられたカッターホルダ取付構造であって、
前記玉ベアリングの外輪が前記スクライブヘッドもしくはこれに連なる部分に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられ、
前記旋回軸の上部に磁石体が配置され、前記磁石体に吸引されることにより前記旋回軸を前記内輪とともに持ち上げる磁性体が配置されているように構成されているカッターホルダ取付構造。
【請求項2】
前記玉ベアリングの外輪が前記スクライブヘッドに取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸に取り付けられ、前記磁性体が前記旋回軸の上方で前記スクライブヘッドに取り付けられている請求項1に記載のカッターホルダ取付構造。
【請求項3】
前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸の周囲を前記玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸に取り付けられ、前記磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられ、前記カバー体が前記スクライブヘッドに取り付けられている請求項1に記載のカッターホルダ取付構造。
【請求項4】
前記磁性体を吸引して前記旋回軸を常時持ち上げる前記磁石体の吸引力が、前記旋回軸の旋回を許容する範囲内で設定されている請求項1~3のいずれかに記載のカッターホルダ取付構造。
【請求項5】
前記カッターホルダ取付構造体が、カッターホルダと、前記カッターホルダを保持するホルダジョイントと、を含み、前記ホルダジョイントが前記旋回軸を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のカッターホルダ取付構造。
【請求項6】
前記旋回軸がカッターホルダと一体に形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のカッターホルダ取付構造。
【請求項7】
下端にカッターホイールが保持され、上方に旋回軸を備えるカッターホルダであって、
前記旋回軸の周囲を玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、
前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられており、
前記旋回軸の上部に磁石体が取り付けられ、前記磁石体を吸引する磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられていることを特徴とするカッターホルダ。
【請求項8】
下方にカッターホルダが保持される開口部を有し、上方に旋回軸を備えるホルダジョイントであって、前記旋回軸の周囲を玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられ、磁石体が前記旋回軸の上部に取り付けられ、前記磁石体を吸引する磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられていることを特徴とするホルダジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の脆性材料基板の表面に分断用のスクライブライン(切り溝)を加工する際に使用されるカッターホイール(スクライビングホイールともいう)を保持するカッターホルダを、スクライブ装置のスクライブヘッドに取り付けるためのカッターホルダ取付構造、カッターホルダ、並びにホルダジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の脆性材料基板を分断する加工では、カッターホイールを基板表面に押し付けて互いに直交するX-Y方向の複数条のスクライブラインを形成し、その後、スクライブラインに沿って裏面側から外力を印加して基板を撓ませることにより、単位基板ごとに分断する方法が一般的に知られており、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
カッターホイールはカッターホルダを介してスクライブ装置のスクライブヘッドに取り付けて使用される。図6図8は従来のカッターホルダ並びに当該カッターホルダとスクライブヘッドとの取付構造を示すものである。
【0004】
カッターホルダ取付構造体1’は、カッターホルダ2と、このカッターホルダ2を保持するホルダジョイント3とを備えている。カッターホルダ2は略円柱状の胴部4を有し、この胴部4の下端部分に当該胴部4の軸心に対して直交するホイール軸5を介してカッターホイール6が回転自在に取り付けられている。
【0005】
また、胴部4の上部には、ホルダジョイント3に取り付ける際の位置決め用の取付部7が設けられている。取付部7は、胴部4の一部を切り欠いて形成された平面部7aと傾斜面7bとを備えている。平面部7aは胴部4の軸心に対して平行である。また、胴部4は鉄等の磁性体で構成されている。
【0006】
ホルダジョイント3は、上部に上下方向に延びる旋回軸8を備え、この旋回軸8が図2に示すスクライブ装置Aのスクライブヘッド9に、上下一対の玉ベアリング10、11を介して回動可能に取り付けられている。玉ベアリング10、11は、内輪10a、11aと外輪10b、11bとの間に複数個の球を内蔵している。上下の玉ベアリング10、11のそれぞれの内輪10a、11aの間にはカラー12が介在されていて、上下の玉ベアリング10、11の間隔が緊密に埋められている。また、旋回軸8の上端面が上部の玉ベアリング11の内輪11aの上端面にビスや嵌合等の手段により係合されており、これにより旋回軸8が玉ベアリング10、11から下方に抜け出るのを阻止している。また、下部の玉ベアリング10の外輪10bはスクライブヘッド9にビスや嵌合等の手段により結合されている。
【0007】
さらに、ホルダジョイント3は、カッターホルダ2を受け入れる断面略円形の開口部14が下方に向かって開口して形成されており、その内奥部(上端)にカッターホルダ2を吸着保持するための磁石15が取り付けられている。また、開口部14の内部には、開口部14の軸心とは離れた箇所で該軸心と直交する方向に延びる位置決め用の平行ピン16が設けられている。これにより、カッターホルダ2が開口部14に挿入された際に、平行ピン16がカッターホルダ2の傾斜面7bに接触してカッターホイール6の方向が一定となると共に、カッターホイール6の接地点が旋回軸8の軸心に対してカッターホイール走行方向後方にL1だけずれるように位置決めされる。このずれは、カッターホイール走行時に常に進行方向に戻ろうとする所謂「キャスター効果」を発揮してカッターホイールの直進性を助長するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5210356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のカッターホルダでは、X方向またはY方向のスクライブラインを加工する際、あるいは「交点飛ばしスクライブ」の際に、スクライブ開始当初において図9に示すように規定のスクライブ予定ラインSに対して斜めにずれて走行することがあった。「交点飛ばしスクライブ」とは、図10に示すように、X方向のスクライブラインS1に対してこれに直交するY方向のスクライブラインS2を加工する際に、X方向のスクライブラインS1との交点部分で「カケ」や「ソゲ」等の損傷が発生するのをなくすために交点の前後にスクライブラインを形成しない部分を設けてスクライブする手法である。
【0010】
このスクライブ初期において斜めにずれて走行する現象は、下記の点に起因する。
通常、内輪と外輪との間に球やコロ等の滑動子を挟み込んだ玉ベアリングでは、滑動子と内輪及び外輪との間に間隙(公差)が存在する(以下、この間隙を「内部間隙」という)。そのため、無負荷時(非スクライブ時)の旋回軸8は、図7に示すように内部間隙L2だけ自重で下がっている。逆に負荷時(スクライブ時)には、図8に示すようにカッターホイール6の基板への押し付けによる反力で内部間隙L2だけ持ち上げられることになる。このような内部間隙L2による旋回軸8の上下方向の動きに伴い、旋回軸8がわずかに回転し、スクライブ初期においてカッターホイールにブレ(首振り現象)が生じて斜めにずれて走行するものと考えられる。このように、スクライブ初期においてカッターホイールが斜めにずれると、その後の走行ではキャスター効果により直進走行が復帰しても図9に示すように規定のスクライブ予定ラインSから距離ZだけずれたスクライブラインS3が形成されることになり、高精度で高品質な製品を得ることができない。
【0011】
そこで本発明は、上記の課題に鑑み、スクライブ初期においてカッターホルダが斜めになったり予定ラインからの位置がずれたりすることを防止して正確にスクライブラインを形成することができるカッターホルダ取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち本発明は、下端にカッターホイールを備えたカッターホルダ取付構造体の旋回軸が玉ベアリングを介してスクライブ装置のスクライブヘッドに旋回自在に取り付けられたカッターホルダ取付構造であって、前記玉ベアリングの外輪が前記スクライブヘッドもしくはこれに連なる部分に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられ、前記旋回軸の上部に磁石体が取り付けられ、前記磁石体の上方に当該旋回軸を前記内輪とともに前記磁石体に吸引されることにより前記旋回軸を前記内輪とともに持ち上げる磁性体が配置されるように構成した。
【0013】
ここで、前記玉ベアリングの外輪が前記スクライブヘッドに取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸に取り付けられ、前記磁性体が前記旋回軸の上方で前記スクライブヘッドに取り付けられている構成としてもよい。
さらに、前記旋回軸を常時持ち上げる前記磁石体の吸引力が、前記旋回軸の旋回を許容する範囲内で設定されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、カッターホルダ取付構造体の旋回軸が磁石体による吸引によって常時持ち上げられているため、無負荷時(非スクライブ時)に玉ベアリングの内部間隙の間で自重により下方に動くことが阻止される。したがって、内部間隙によるガタツキがなくなってスクライブ再開時のスクライブ初期におけるカッターホイールの首振り現象を防止することができる。これにより、スクライブ初期におけるカッターホイールの斜め走行や位置ずれを抑制して、スクライブ予定ラインに沿って正確にスクライブラインを加工することができる。
【0015】
本発明において、前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸の周囲を前記玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記カッターホルダ取付構造体の旋回軸に取り付けられ、前記磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられ、前記カバー体が前記スクライブヘッドに取り付けられている構成としてもよい。
これにより、玉ベアリングや磁石体、磁性体がカバー体の内部に格納されてカッターホルダ取付構造体と一体的に形成されているので、カッターホルダ取付構造体の外装をシンプルに形成できると共に、スクライブヘッドへの組み付け作業を容易に行うことができる。
【0016】
本発明において、前記カッターホルダ取付構造体が、カッターホルダと、前記カッターホルダを保持するホルダジョイントと、を含み、前記ホルダジョイントが前記旋回軸を備えるようにしてもよい。
また、前記旋回軸がカッターホルダと一体に形成されるようにしてもよい。
【0017】
また、別の観点からなされた本発明のカッターホルダは、下方にカッターホルダが保持され、上方に旋回軸を備えるカッターホルダであって、前記旋回軸の周囲を玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられ、磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられるようにしている。
また、別の観点からなされた本発明のホルダジョイントは、下方にカッターホルダが保持される開口部を有し、上方に旋回軸を備えるホルダジョイントであって、前記旋回軸の周囲を玉ベアリングと共に覆うカバー体が設けられ、前記玉ベアリングの外輪が前記カバー体に取り付けられ、前記玉ベアリングの内輪が前記旋回軸に取り付けられ、磁性体が前記旋回軸の上方で前記カバー体の内部に取り付けられるようにしている。
これにより、玉ベアリングや磁石体、磁性体がカバー体の内部に格納されてカッターホルダまたはホルダジョイントと一体的に形成されているので、ホルダジョイントの外装をシンプルに形成できると共に、スクライブヘッドへの組み付け作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のカッターホルダ取付構造を示す断面図。
図2】スクライブ装置を示す概略正面図。
図3】本発明の第2の実施形態を示す断面図。
図4】本発明の第3の実施形態を示す断面図。
図5】本発明と従来例のカッターホルダを用いてスクライブ試験した際のずれ量を示すグラフ。
図6】従来のカッターホルダを示す分解斜視図。
図7】無負荷時(非スクライブ時)における従来のカッターホルダ取付構造を示す断面図。
図8】負荷時(スクライブ時)における従来のカッターホルダ取付構造を示す断面図。
図9】スクライブ時に斜めずれが発生した際の軌跡を示す平面図。
図10】交点飛ばしスクライブの手法を示す説明図。
図11】スクライブライン加工時の動作を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、本発明の第1の実施形態に係るカッターホルダの取付構造について詳細に説明する。本発明の第1の実施形態に係るカッターホルダの取付構造では、その一部において上記図6図8で示した従来のカッターホルダ取付構造と同じ機能を持つ構成要素を含んでいる。したがって、同じ機能を有する部分については同じ符号を付して説明する。
【0020】
本発明の第1の実施形態に係るカッターホルダ取付構造体1は、図1に示すように、カッターホルダ2と、このカッターホルダ2を保持するホルダジョイント3とを備えている。カッターホルダ2は略円柱状の胴部4を有し、この胴部4の下端部分に当該胴部4の軸心に対して直交するホイール軸5を介してカッターホイール6が回転自在に取り付けられている。
【0021】
また、胴部4の上部には、ホルダジョイント3に取り付ける際の位置決め用の取付部7が設けられている。取付部7は、胴部4の一部を切り欠いて形成された平面部7aと傾斜面7bとを備えている。平面部7aは胴部4の軸心に対して平行である。また、胴部4は鉄等の磁性体で構成されている。
【0022】
ホルダジョイント3は、上部に上下方向に延びる旋回軸8を備え、この旋回軸8が図2に示すスクライブ装置Aのスクライブヘッド9に、上下一対の玉ベアリング10、11を介して回動可能に取り付けられている。上下の玉ベアリング10、11のそれぞれの内輪10a、11aの間にはカラー12が介在されていて、上下の玉ベアリング10、11の間隔が緊密に埋められている。また、旋回軸8の上端面に磁石13が取り付けられている。また、下部の玉ベアリング10の外輪10bは、スクライブヘッド9にビスまたは嵌合等の手段により結合されている。
【0023】
さらに、ホルダジョイント3は、カッターホルダ2を受け入れる断面略円形の開口部14が下方に向かって開口して形成されており、その内奥部(上端)にカッターホルダ2を吸着保持するための磁石15が取り付けられている。
また、開口部14の内部には、開口部14の軸心とは離れた箇所で該軸心と直交する方向に延びる位置決め用の平行ピン16が設けられている。これにより、カッターホルダ2が開口部14に挿入された際に、平行ピン16がカッターホルダ2の傾斜面7bに接触してカッターホイール6の方向が一定となるとともに、カッターホイール6の接地点が旋回軸8の軸心に対してカッターホイール走行方向後方にL1だけずれるように位置決めされる。
【0024】
さらに本発明では、前記旋回軸8を常時上方に持ち上げるための磁性体である鋼球18が旋回軸8の磁石13の上方でスクライブヘッド9に取り付けられている。鋼球18はスクライブヘッド9の保持孔に圧入、接着等により固定され、その一部がスクライブヘッド9の内壁から突出している。この鋼球18が磁石体13に吸引されることにより、カッターホルダ取付構造体1は図1に示すように旋回軸8並びにこの旋回軸8に取り付けた玉ベアリング10の内輪10aと共に玉ベアリング10の内部間隙L2だけ持ち上げられた姿勢を常時保持し、内部間隙L2によるガタツキをなくすように形成されている。なお、磁石体13の吸着力は、旋回軸8を吸引して上方に持ち上げるものであるが、上述した「キャスター効果」による旋回軸8の旋回は許容される範囲のものが用いられる。
【0025】
上記のようにしてスクライブ装置Aのスクライブヘッド9に取り付けたカッターホイール6を、テーブル20上に載置した基板Wの表面に降下させ、基板Wの表面に押し付けながら相対的に直線移動させることにより、基板Wの表面に分断用のスクライブラインを加工する(図2、11参照)。
1本のスクライブラインを加工すると、カッターホイール6を上昇させて基板Wから持ち上げ、次に加工すべきスクライブ予定ライン上に移動してスクライブする。この際、「交点飛ばしスクライブ」においても、図9に示すように、X方向のスクライブラインS1に対してこれに直交するY方向のスクライブラインS2を加工する際に、X方向のスクライブラインS1との交点の直前部分でカッターホイール6を上昇させ、交点をわずかに通過した位置で再度降下させてスクライブする。
【0026】
上記の構成において、ホルダジョイント3は鋼球18が磁石体13により吸引されることによって旋回軸8並びにこの旋回軸8に取り付けた玉ベアリング10の内輪10aと共に常時持ち上げられているため、無負荷時(非スクライブ時)にベアリングの内部間隙L2の間で自重により下方に動くことはない。したがって、内部間隙L2によるガタツキがなくなってスクライブ再開時のスクライブ初期におけるカッターホルダ2の首振り現象を防止することができる。これにより、スクライブ初期の斜め走行を抑制して、スクライブ予定ラインに沿って正確に直線のスクライブラインを加工することができる。
【0027】
図3は本発明の第2の実施形態を示すものである。
この実施形態では、ホルダジョイント3の旋回軸8の周囲を玉ベアリング10、11と共に覆う円筒状のカバー体21が設けられている。そして、玉ベアリング10の外輪10bがカバー体21に取り付けられ、玉ベアリング10、11の内輪10a、11aがホルダジョイントの旋回軸8に取り付けられ、カバー体21がスクライブヘッド9にビスや嵌合等の手段により取り付けられている。また、旋回軸8の上方でカバー体21の天板下面に、磁石体13によって吸引されて旋回軸8を常時持ち上げる磁性体である鋼球18が設けられている。その他の構成は、上記図1で示した先の実施例と同じである。
【0028】
図3の第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、スクライブ初期におけるカッターホイール6の首振り現象を防止することができ、これにより、スクライブ初期の斜め走行を抑制して、スクライブ予定ラインに沿って正確にスクライブラインを加工することができた。
特に第2の実施形態では、玉ベアリング10、11や磁石体13、鋼球18がカバー体21内に格納されてホルダジョイント3と一体的に形成されているので、カッターホルダ取付構造体1の外装がシンプルになると共に、スクライブヘッド9への組み付け作業を容易に行うことができるといったメリットがある。
【0029】
図4は本発明の第3の実施形態を示すものである。上記第1、第2の実施形態においては、カッターホルダ取付構造体としてカッターホルダを保持するホルダジョイントを用いたが、第3の実施形態ではホルダジョイントを省略して、カッターホルダと旋回軸を一体に形成している。
【0030】
第3の実施形態のカッターホルダ取付構造体101は、カッターホルダ102と、玉ベアリング110、111と、カバー体121とを備えており、カッターホルダ102がスクライブ装置Aのスクライブヘッド109にホルダジョイントを介さずに取り付けられるようにされている。
カッターホルダ102は略円柱状の胴部104を有し、この胴部104の下端部分に当該胴部104の軸心に対して直交するホイール軸105を介してカッターホイール106が回転自在に取り付けられている。カッターホルダ102はその上部に上下方向に延びる旋回軸108を備え、この旋回軸108の上端に磁石体113が取り付けられている。旋回軸108の周囲には玉ベアリング110、111が取り付けられており、さらに、旋回軸8の周囲を玉ベアリング110、111と共に覆う円筒状のカバー体121が設けられている。そして、玉ベアリング110の外輪110bがカバー体121に取り付けられ、玉ベアリング110、111の内輪110a、111aがカッターホルダの旋回軸108に取り付けられ、カバー体121の天板下面には、磁石体113によって吸引されて旋回軸108を常時持ち上げる磁性体である鋼球118が設けられている。
【0031】
第3の実施形態においても第1、第2の実施形態と同様に、スクライブ初期におけるカッターホイール106の首振り現象を防止することができ、これにより、スクライブ初期の斜め走行を抑制して、スクライブ予定ラインに沿って正確にスクライブラインを加工することができた。
特に第3の実施形態では、玉ベアリング110、111や磁石体113、鋼球118がカバー体121内に格納されてチップホルダ102と一体的に形成されているので、カッターホルダ取付構造体101の外装がシンプルになると共に、スクライブヘッド9への組み付け作業を容易に行うことができるといったメリットがある。
【0032】
本発明者等は、本発明に係るカッターホルダ取付構造と、従来例のカッターホルダ取付構造を用いたスクライブヘッドで、それぞれ50回のスクライブ試験を行った。カッターホイールは直径2mmのものを用い、厚み0.4mmのガラス基板に対して図に示すように上方から降下させて、スクライブ荷重3Nで走行させた。図5はその時のずれ量(図9に示す距離Z)を示すものである。
この試験結果によれば、従来例のカッターホルダ取付構造を用いたスクライブヘッドでは最大で24μm、平均で13μmのずれ量が検出され、特にずれ量のバラツキが目立った。これに対し、本発明のカッターホルダ取り付け構造を用いたものでは最大でも従来の半分以下の9μm、平均で6μmのずれ量しかなく、またずれ量のバラツキも小さく、優れた効果を発揮した。
【0033】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでない。例えば、旋回軸8を旋回可能に支持するための玉ベアリングとして、上記実施形態では球を内蔵したものを用いたが、円錐体や円柱体のコロを内蔵したベアリングであってもよい。また、ベアリングの数を増減して実施することも可能である。
さらに、磁石体13が吸引する磁性体として鋼球18を用いたが、磁石体13に吸引されることができるよう磁性を有する素材で形成されたものであれば、円柱、角柱等その他の形状の部材を旋回軸の上部に設けてもよい。その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ガラス等の脆性材料基板の表面に分断用のスクライブラインを加工するカッターホイールを保持するためのカッターホルダ取付構造並びにホルダジョイントに適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
A、 スクライブ装置
L2 ベアリングの内部間隙
1、101 カッターホルダ取付構造体
2、102 カッターホルダ
3 ホルダジョイント
6、106 カッターホイール
8、108 旋回軸
9、109 スクライブヘッド
10、110 下部の玉ベアリング
10a、110a ベアリングの内輪
10b、110b ベアリングの外輪
13、113 磁石体
18、118 鋼球
21、121 カバー体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11