(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】流体制御器
(51)【国際特許分類】
F16K 31/50 20060101AFI20220722BHJP
F16K 7/16 20060101ALI20220722BHJP
F16K 39/02 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
F16K31/50 C
F16K7/16 A
F16K39/02
(21)【出願番号】P 2018161484
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】小原 俊治
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】八幡 聡太
(72)【発明者】
【氏名】堀河 裕生
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-014128(JP,A)
【文献】特開2009-150529(JP,A)
【文献】特開2006-138422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/44-31/62
F16K 7/12- 7/20
F16K 39/00-39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路が設けられた弁箱と、前記流体通路を開閉するダイヤフラムと、回転しながら上下移動することで前記ダイヤフラムを移動させるステムと、前記ステムを回転させるハンドル部と、前記ハンドル部に対向しかつ前記弁箱に対して移動不可能な固定部材とを備え、
前記ハンドル部は、操作者によって外部から回転させられる第1回転部材と、前記ステムに固定された第2回転部材とを備え、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に、前記第1回転部材を所定トルク以上で回転させたときに前記第1回転部材を前記第2回転部材に対して空転させるトルクリミッター機構が設けられている流体制御器において、
前記第1回転部材の回転に伴って前記第1回転部材と前記固定部材とが所定の距離位置に達した際に、前記第1回転部材と前記第2回転部材とを係合し、前記トルクリミッター機構を無効化する係合部材を備えて
おり、
前記係合部材は、回転可能に前記第2回転部材に支持されており、前記係合部材の一方の端部が前記固定部材の対向面と常時接触するように付勢部材により付勢され、前記第1回転部材に、前記係合部材のもう一方の端部が嵌まる凹所が設けられていることを特徴とする流体制御器。
【請求項2】
全閉状態では、前記係合部材のもう一方の端部は前記第1回転部材の凹所に嵌まっておらず、全開状態に達する前に前記係合部材のもう一方の端部が前記第1回転部材の凹所に嵌まることを特徴とする請求項
1に記載の流体制御器、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体制御器に関し、特に、トルクリミッター機能を有するハンドル部を備えた流体制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に、特許文献1に開示されているトルクリミッター機能を有するハンドル部を備えた流体制御器を示す。
【0003】
図6において、流体制御器1は、流路21を備えた弁箱2と、該流路21を開閉するダイヤフラム3と、このダイヤフラム3の周縁部を挟持する挟持部材4と、ダイヤフラム3の開閉操作を行う操作機構5と、この操作機構5を上下動させるハンドル部6とを備えている。また、ハンドル部6は、トルクリミッター機構を内蔵するもので、外部から例えば手で操作される蓋体(第1回転部材)61と、この蓋体61の内側に配設されて操作機構5のステムに結合されるハンドル本体(第2回転部材)62とを備えている。
【0004】
トルクリミッター機構として、ハンドル本体62を下方向に付勢する弾性体7が、蓋体61に形成された複数の収容孔にそれぞれ収容されており、弾性体7の先端部にはその付勢力をハンドル本体62に伝達する伝達材8が設けられている。蓋体61を回転させた時、蓋体61にかかるトルクが所定の値以下であるなら、弾性体7の付勢力によって蓋体61とハンドル本体62が一体となって回転するが、所定のトルクを超えると蓋体61とハンドル本体62が空転するため、全閉動作時に過剰な力がダイヤフラムにかかることを防ぐことができる。
【0005】
上記のようなトルクリミッター機構を内蔵したハンドル部を有する流体制御器1においては、全閉動作時の過剰なトルクに対して空転すればよいが、意図しない空転により操作不能になることがあり、この場合には、流体制御器を分解して、正常な状態に復帰させる必要がある。
【0006】
このような分解する必要を避けるために、特許文献1のものでは、
図6に〇印を付している箇所に、押しボタンが設けられており、これを押すと第1回転部材と第2回転部材とが一体で回転可能となり、正常な状態に復帰できるようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1の流体制御器では、押しボタンを押すことでトルクリミッター機構を解除できるという利点はあるが、押しボタンを押した状態でハンドルを操作する必要があり、操作性が悪い。また、間違って押しボタンを押したままの状態でハンドルを操作すれば、トルクリミッター機能が働かず、過剰な力がダイヤフラムにかかるおそれがある。
【0009】
この発明の目的は、トルクリミッター機能を有し、しかも、間違ってトルクリミッターを無効化した状態で開閉操作を行うという誤操作を防止できる流体制御器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による流体制御器は、流体通路が設けられた弁箱と、前記流体通路を開閉するダイヤフラムと、回転しながら上下移動することで前記ダイヤフラムを移動させるステムと、前記ステムを回転させるハンドル部と、前記ハンドル部に対向しかつ前記弁箱に対して移動不可能な固定部材とを備え、前記ハンドル部は、操作者によって外部から回転させられる第1回転部材と、前記ステムに固定された第2回転部材とを備え、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に、前記第1回転部材を所定トルク以上で回転させたときに前記第1回転部材を前記第2回転部材に対して空転させるトルクリミッター機構が設けられている流体制御器において、前記第1回転部材の回転に伴って前記第1回転部材と前記固定部材とが所定の距離位置に達した際に、前記第1回転部材と前記第2回転部材とを係合し、前記トルクリミッター機構を無効化する係合部材を備えており、前記係合部材は、回転可能に前記第2回転部材に支持されており、前記係合部材の一方の端部が前記固定部材の対向面と常時接触するように付勢部材により付勢され、前記第1回転部材に、前記係合部材のもう一方の端部が嵌まる凹所が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
第1回転部材を第2回転部材に対して空転させるトルクリミッター機構が設けられている流体制御器は、従来から有り、この従来の流体制御器に対して、第1回転部材の回転に伴って第1回転部材と固定部材とが所定の距離位置に達した際に、第1回転部材と第2回転部材とを係合する係合部材が付加される。第1回転部材と第2回転部材とが係合されると、第1回転部材が第2回転部材に対して空転するというトルクリミッター機構が無効化される。第1回転部材と第2回転部材とが係合される際の位置を調整することにより、希望する開度(全開、全閉またはその中間の開度)でトルクリミッター機能を無効化することができる。トルクリミッター機構の無効化は、第1回転部材を所定位置まで回転させることで得られ、間違ってトルクリミッターを無効化した状態で開閉操作を行うという誤操作を防止できる。
【0012】
係合部材は、例えば、第2回転部材に設けられて、第1回転部材を全開方向に回転させた際に、第1回転部材に係合するようになされる。
【0013】
前記係合部材は、回転可能に前記第2回転部材に支持されており、前記係合部材の一方の端部が前記固定部材の対向面と常時接触するようにねじりコイルばねや圧縮コイルばねなどの付勢部材により付勢され、前記第1回転部材に、前記係合部材のもう一方の端部が嵌まる凹所が設けられていることが好ましい。
【0014】
このようにすると、第1回転部材を全開方向に回転させると、全開手前で第2回転部材に設けられた係合部材が第1回転部材に係合し、全開後、第1回転部材を全閉方向に回転させると、第1回転部材と第2回転部材とが係合部材を介して接続された状態で一体で回転するので、全開位置における操作での第1回転部材の空転が防止される。
【0015】
全閉状態では、前記係合部材のもう一方の端部は前記第1回転部材の凹所に嵌まっておらず、全開状態に達する前に前記係合部材のもう一方の端部が前記第1回転部材の凹所に嵌まることが好ましい。
【0016】
このようにすると、全開状態における第1回転部材の空転を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の流体制御器によると、第1回転部材と第2回転部材とが係合される際の位置を調整することにより、希望する開度でトルクリミッター機能を無効化することができる。このトルクリミッター機構の無効化は、第1回転部材を所定位置まで回転することで得られるので、間違ってトルクリミッターを無効化した状態で開閉操作を行うという誤操作を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、この発明による流体制御器の1実施形態の全体構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、流体制御器が全閉状態にある状態を示す正面図である。
【
図3】
図3は、流体制御器が全開状態にある状態を示す正面図である。
【
図5】
図5は、異なるサイズ(a)および(b)の流体制御器について、開閉耐久試験において生じた空転現象記録を示すグラフである。
【
図6】
図6は、従来の流体制御器の全体構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の流体制御器の1実施形態を
図1から
図4までに示す。以下の説明において、上下は、
図1の上下をいうものとする。この「上下」は便宜的なもので、設置に際しては、上下が逆になったり、水平になったりすることもある。
【0020】
この流体制御器11は、
図1に示すように、流体通路12aが設けられた弁箱12と、前記流体通路12aを開閉するダイヤフラム13と、ダイヤフラム13を弁箱12との間で挟持する挟持部材14と、ダイヤフラムを移動させる操作機構15と、操作機構15を作動させるハンドル部16とを備えている。
【0021】
操作機構15は、挟持部材14に設けられた貫通めねじ部にねじ合わされて回転しながら上下移動するステム17と、回転せずにステム17と一体で上下移動するダイヤフラム押さえ18とを備えている。
【0022】
図1には、流体通路12aがダイヤフラム13で閉鎖されている全閉状態が示されている。
図2は、
図1と同じ全閉状態を示しており、
図3は、
図2に対してハンドル部16が上方に移動した全開状態を示している。
【0023】
ハンドル部16は、操作者によって外部から回転させられる第1回転部材21と、ステム17に固定された第2回転部材22と、第1回転部材21と第2回転部材22との間に設けられたトルクリミッター機構とを備えている。
【0024】
トルクリミッター機構は、例えば
図6に示したように、所定の付勢力に設定された弾性部材を有しており、第1回転部材21を所定トルク以上で回転させたときに第1回転部材21を第2回転部材22に対して空転させる。
【0025】
トルクリミッター機構を有していることにより、樹脂やゴム等の材質で作られているダイヤフラム13を使用した場合において、過剰締付けを防止して、ダイヤフラム13の耐久性を向上させることができる。
【0026】
この実施形態の流体制御器11には、トルクリミッター機構を無効化する係合部材23と、係合部材23を付勢するねじりコイルばね24とが設けられている。
【0027】
係合部材23は、中央の円板状部25と、円板状部25から互いにほぼ反対側に延びる2つのアーム部26,27とを備えている。円板状部25の中央部に設けられた貫通孔が第2回転部材22に水平状に設けられた軸部28に嵌め入れられることにより、係合部材23は、第2回転部材22に回転可能に支持されている。係合部材23は、一方のアーム部26を上側に、他方のアーム部27を下側にした状態で、
図2に示す水平に近い傾斜状態から
図3に示す垂直に近い傾斜状態に移動可能とされている。
【0028】
コイルばね24は、中央部24aが軸部に巻き掛けられ、一端24bが第2回転部材22に設けられた係止部29に固定されている。コイルばね24の他端24cは、係合部材23の下側(挟持部材14に近い側)のアーム部27の下端部(先端部)近くに設けられた係止孔27aに、図の時計回りの付勢力を有した状態で嵌め入れられている。これにより、ねじりコイルばね24は、下側のアーム部27に付勢力を及ぼすことができ、係合部材23は、ねじりコイルばね24によって軸部28を中心として図の右回りに回転するように付勢されている。
【0029】
係合部材23は、下側のアーム部27の下端部が挟持部材(固定部材)14の上面(対向面)14aと常時接触するようになされている。
【0030】
図2に示されている状態において、第1回転部材21が上方に移動すると、係合部材23は、ねじりコイルばね24によって右回りに係合部材23の下側のアーム部27の端部が上面14aに接触しながら回転させられて、
図3に示す垂直に近い傾斜状態に立ち上がっていく。第1回転部材21には、係合部材23の上側のアーム部26の端部が嵌まることのできる凹所30が複数(
図4に示す例では4つ)設けられている。このため、第1回転部材21の回転途中にねじりコイルばね24で付勢された係合部材23の上側アーム部26が凹所30位置に来ると、上側のアーム部26の上端部(先端部)が凹所30に嵌まる。
【0031】
図2に示す第1回転部材21が全閉位置にあるときには、係合部材23の上側アーム部26は、第1回転部材21の凹所30に嵌まっていないが、
図3に示す全開位置に達する前に、係合部材23の上側アーム部26は、第1回転部材21の凹所30に嵌まることになる。これにより、第1回転部材21と第2回転部材22とは、係合部材23を介して接続され、上側のアーム部26の上端部が凹所30に嵌まっている範囲では、一体で回転するようになる。
【0032】
図5は、トルクリミッター機能を有するハンドル部6を備えた従来の流体制御器1について、開閉耐久試験において生じた空転現象記録を示すグラフで、横軸をリミッター作動回数として、縦軸にトルクと空転発生回数とを示している。(a)と(b)とでは、流体制御器1のサイズが異なる。
図5(a)によると、リミッター作動回数が1万回を超えたところで、全開→全閉方向に移動させようとしたときに意図しない空転が発生していることが分かる。また、
図5(b)によると、リミッター作動回数が6千回の前後と9千回の前後とで、全開→全閉方向に移動させようとしたときに意図しない空転が発生していることが分かる。一方、全閉→全開方向に移動させようとした時には、(a)、(b)のいずれの場合でも、空転が発生していないことが分かる。これは全閉→全開に方向に移動させようとした場合、ダイヤフラムの材質がゴム又は樹脂である為、開方向トルク作用時には、応力緩和が発生し、ステムネジ部に働く抗力が低下、ネジ部の摩擦力が低下することで、弁座締切トルク値(トルクリミッターハンドルトルク設定値)よりも必ずバルブ開方向操作時トルクが低下することで、空転現象が発生しないと考えられる。
【0033】
図5のグラフから、トルクリミッター機能を有するハンドル部6を備えた従来の流体制御器1においては、通常12000回の開閉に約10回ぐらい不定期に、全開後、閉止方向に第1回転部材21を回そうとすると、リミッターが作動してしまう空転現象が発生することが分かる。
【0034】
係合部材23を追加したこの実施形態の流体制御器11によると、従来の流体制御器1のような意図しない状態での空転回数がゼロとなり、全開位置では、通常のハンドルとして機能して、トルクリミッター機能が必要な全閉位置だけ、作動することになり、空転現象によるハンドル操作の誤認識や、全開位置からバルブを閉めることができないといった不具合は発生しなくなる。
【0035】
こうして、上記流体制御器11によると、全閉時はトルクリミッターが通常通り機能し、全開方向になると、トルクリミッター機能を無効化する機構が設けられていることで、全開になると、作業者に関係なく、自動的にトルクリミッター機能が無効化し、全開位置での空転現象の発生を防止し、全閉時のみトルクリミッターが作動する機構を搭載したハンドル部16を備えた流体制御器11が得られる。そして、全開になれば自動的にトルクリミッター機能を無効化できるため、トルクリミッターの全開位置での空転現象を防止でき、また、自動的にトルクリミッター機能とその無効化をしてくれるので、全閉になっていないのに、全開状態であるにも関わらず、トルクリミッターが作動したから、全閉にしたという間違えた認識を予防でき、導入教育無しで作業者に安全に使用してもらうことができる。しかも、外観上余計な突起が必要なく、外観洗浄後、水はけが良好なデザインにできる。
【0036】
上記流体制御器11は、ウェアレスタイプまたはウェア型のダイヤフラムバルブ、弁体部に樹脂やゴムを埋め込んだソフトシールタイプの手動弁など、過剰締付け防止の為にトルクリミッター機構付ハンドルを使用する製品に適用することができる。トルクリミッター機構は、
図6に示したものに限定されるものではなく、公知の種々の構成のものを使用することができる。
【0037】
なお、上記実施形態において、全開位置でリミッターが無効化する機構となっているが、係合部材23の形状を変えることで、全閉時にロックする種類を製作することも可能であるし、全閉、全開両方共にトルクリミッター機能を無効化することができる。例えば、全開時においては、第1回転部材に設けられた凹所に嵌まらずに、全開から全閉に移動して全閉となる手前で第1回転部材に設けられた凹所に嵌まるような棒状の係合部材を使用することで、全閉位置でリミッターを無効化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この発明によると、トルクリミッター機能を有するハンドル部を備えた流体制御器において、誤操作の防止に寄与することができる。
【符号の説明】
【0039】
11:流体制御器
12:弁箱
12a:流体通路
13:ダイヤフラム
14:挟持部材(固定部材)
14a:上面
16:ハンドル部
17:ステム
21:第1回転部材
22:第2回転部材
23:係合部材
24:ねじりコイルばね
30:凹所