(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】角膜創傷治癒および眼表面疾患のためのヒスタチン
(51)【国際特許分類】
A61K 38/12 20060101AFI20220722BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220722BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220722BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220722BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220722BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220722BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220722BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220722BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20220722BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
A61K38/12 ZNA
A61P27/02
A61P29/00
A61P31/00
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/06
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
C12N15/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020081263
(22)【出願日】2020-05-01
(62)【分割の表示】P 2018105539の分割
【原出願日】2013-05-10
【審査請求日】2020-05-30
(32)【優先日】2012-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520192119
【氏名又は名称】バイズス セラピューティクス,インク.
(74)【復代理人】
【識別番号】100208292
【氏名又は名称】清原 直己
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】サムバースキー,ロバート ピー.
(72)【発明者】
【氏名】バンダイン,ロバート ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】コンドン,ピーター
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526386(JP,A)
【文献】特表平11-508238(JP,A)
【文献】特表2002-508390(JP,A)
【文献】国際公開第2008/134882(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/87117(WO,A1)
【文献】The Ocular Surface, 2004, vol.2, No.4, p.229-247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼表面疾患を治療するための医薬組成物であって、
眼表面疾患が、ドライアイ、角膜潰瘍およびびらん、炎症性および感染性角膜炎および結膜炎、外科的介入、ならびに外傷からなる群から選択され、
前記医薬組成物は第1のペプチドを含み、前記眼表面疾患を治療するための方法は、治療上の量の医薬組成物を眼の表面に投与する工程を含み、
前記医薬組成物によって治療されていない眼の表面と比較して、前記医薬組成物が眼表面疾患の治癒を促進するように、前記医薬組成物の治療上の量が選択され、
前記第1のペプチドは、i)環化したヒスタチン1と、ii)環化したヒスタチン2からなる群より選択される第1のヒスタチンを含む、医薬組成物。
【請求項2】
方法が、ヒスタチンを含む、組織接着剤、点眼液、ゲル剤、または軟膏剤を使用して医薬組成物を投与する工程を含むか、または方法が、患者に着用されたコンタクトレンズへとヒスタチンを組み込むことによって、医薬組成物を継続的に投与する工程を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
医薬組成物中の第1のペプチドの濃度が、およそ0.1μg/mlからおよそ1000mg/mlの間であるか、またはおよそ0.1μg/mlから10μg/mlの間である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
方法が、
複数日にわたって少なくとも1日1回
、
複数日にわたって少なくとも1日2回
、
複数日にわたって少なくとも1日3回
、
複数日にわたって最大で1時間ごとに
、
7日間1日3回
、
および5日間1日4回、から成る群から選択される回数、治療上の量の医薬組成物を、眼の表面に投与する工程を繰り返すことをさらに含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
SEQ.ID.NO.1
、SEQ.ID.NO.2
、SEQ.ID.NO.3
、SEQ.ID.NO.4
、SEQ.ID.NO.5
、SEQ.ID.NO.6
、SEQ.ID.NO.7
、SEQ.ID.NO.8
、SEQ.ID.NO.9
、SEQ.ID.NO.10
、SEQ.ID.NO.11
、SEQ.ID.NO.12
、SEQ.ID.NO.13
、SEQ.ID.NO.14
、SEQ.ID.NO.15
、SEQ.ID.NO.16
、SEQ.ID.NO.17
、SEQ.ID.NO.18
、SEQ.ID.NO.19
、SEQ.ID.NO.20
、SEQ.ID.NO.21
、SEQ.ID.NO.22
、SEQ.ID.NO.23
、SEQ.ID.NO.24
、SEQ.ID.NO.25
、SEQ.ID.NO.26
、SEQ.ID.NO.27
、SEQ.ID.NO.28
、SEQ.ID.NO.29
、SEQ.ID.NO.30
、SEQ.ID.NO.31
、SEQ.ID.NO.32
、SEQ.ID.NO.33
、およびSEQ.ID.NO.1乃至SEQ.ID.NO.33の任意の組み合わせ、からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する第2のペプチドをさらに含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
第1のペプチドおよび第2のペプチドがLペプチドである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
第1のペプチドおよび第2のペプチドが環状ペプチドである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
第1のペプチドにおける第1のヒスタチンが
a)環化したヒスタチン1、および
b)環化したヒスタチン2
からなる群より選択され、そして
第2のペプチドがSEQ.ID.NO.30またはSEQ.ID.NO.31より選択される、請求項5乃至7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
眼表面疾患を治療するための医薬組成物であって、
眼表面疾患が、ドライアイ、角膜潰瘍およびびらん、炎症性および感染性角膜炎および結膜炎、外科的介入、ならびに外傷からなる群から選択され、
前記医薬組成物は第1のペプチドおよび第2のペプチドを含み、ここで、前記第1のペプチドは第1のヒスタチンを含み、前記第2のペプチドは第2のヒスタチンを含み、前記眼表面疾患を治療するための方法は、治療上の量の医薬組成物を眼の表面に投与する工程を含み、
医薬組成物によって治療されていない眼の表面と比較して前記医薬組成物が眼表面疾患の治癒を促進するように、前記医薬組成物の治療上の量が選択され、
前記第1のペプチドは、i
)環化したヒスタチン1、およびii
)環化したヒスタチン2からなる群より選択される第1のヒスタチンを含み、
前記第2のペプチドがヒスタチン5を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
<関連出願への言及>
本出願は、考案の名称「HISTATIN FOR CORNEAL WOUND HEALING AND OCULAR SURFACE DISEASE」である、2013年3月7日に出願の、米国実用新案出願第13/788,761、号および考案の名称「HISTATIN FOR CORNEAL WOUND HEALING AND OCULAR SURFACE DISEASE」である、2013年3月7日出願の、米国実用新案出願第13/788,803号に開示された、1つ以上の発明を請求し、
その両方は、発明の名称「HISTATIN FOR CORNEAL WOUND HEALING AND OCULAR SURFACE DISEASE」である、2012年5月18日に出願の、米国仮特許出願第61/648,845号に開示された、1つ以上の発明を請求した。米国仮特許出願の35 USC §119(e)の下での利益は、本明細書によって請求され、前述の出願は、引用によって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、創傷および疾患の治癒の分野に関する。より具体的には、本発明は、ヒスタチンを使用する、角膜創傷治癒および眼表面疾患の処置に関する。
【0003】
<関連技術の記載>
ヒスタチンは、唾液からの創傷治癒剤であるインビトロでの研究で示されてきた。より具体的には、引用によって本明細書に組み込まれる、WO 2009/087117(およびその対応する米国特許公開2011/0178010)は、ヒスタチンのペプチドを特定し、これは、インビトロで創傷治癒特性を有した。ヒスタチン1(Hst-1)およびヒスタチン2(Hst-2)は、ヒトの唾液中の主要な創傷閉鎖因子として特定されてきた(引用によって本明細書に組み込まれる、Menno Johannes Oudhoff, Academic Centre for Dentistry Amsterdam (ACTA), VU University Amsterdam and University of Amsterdam, The Netherlands, 2010の論文、「Discovery of the Wound Healing Capacity of Salivary Histatins」)。特に創傷および疾患の治癒が適切に機能するために高度に調節される必要のある複合プロセスであるため、これらの研究はすべて、インビトロで行われ、治療上の又は臨床的な使用のための発見にはなり得ない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ヒスタチンは、ヒトおよび他の動物における角膜創傷治癒に、および眼表面疾患の処置として使用され得る。例えば、ヒスタチンは、点眼剤、目のゲル剤、軟膏剤、接着剤に含まれるか、または(ポリマー)コンタクトレンズに埋め込まれ得る。
【0005】
1つの好ましい実施形態では、角膜創傷を処置する方法は、角膜創傷の部位に治療上の量のヒスタチンの少なくとも1つのペプチド断片を投与する工程を含む。ヒスタチンは、好ましくは、ヒスタチンを含む、点眼剤、ゲル剤、軟膏剤、組織接着剤を使用して、またはヒスタチンを、患者に着用されたコンタクトレンズへと組み込むことによって投与される。好ましい実施形態では、治療上の量のヒスタチンは、ヒスタチンによって処置されていない角膜創傷と比較して、創傷治癒を促進する。ヒスタチンのペプチド断片は、好ましくは、以下から成る群から選択される配列を含む:SEQ.ID.NO.1;SEQ.ID.NO.2;SEQ.ID.NO.3;SEQ.ID.NO.4;SEQ.ID.NO.5;SEQ.ID.NO.6;SEQ.ID.NO.7;SEQ.ID.NO.8;SEQ.ID.NO.9;SEQ.ID.NO.10;SEQ.ID.NO.11;SEQ.ID.NO.12;SEQ.ID.NO.13;SEQ.ID.NO.14;SEQ.ID.NO.15;SEQ.ID.NO.16;SEQ.ID.NO.17;SEQ.ID.NO.18;SEQ.ID.NO.19;SEQ.ID.NO.20;SEQ.ID.NO.21;SEQ.ID.NO.22;SEQ.ID.NO.23;SEQ.ID.NO.24;SEQ.ID.NO.25;SEQ.ID.NO.26;SEQ.ID.NO.27;SEQ.ID.NO.28;SEQ.ID.NO.29;SEQ.ID.NO.30;SEQ.ID.NO.31;SEQ.ID.NO.32;SEQ.ID.NO.33;およびSEQ.ID.NO.1乃至SEQ.ID.NO.33の任意の組み合わせ。
【0006】
幾つかの好ましい実施形態では、ヒスタチンは、a)ヒスタチン5の少なくとも1つのペプチド断片、b)ヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片、またはヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片およびヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片の組み合わせを含む。他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、ヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン5の少なくとも1つのペプチド断片であるか、またはヒスタチン1のペプチド断片、ヒスタチン2のペプチド断片、およびヒスタチン5のペプチド断片の任意の組み合わせである。
【0007】
他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、ヒスタチン1(SEQ.ID.NO.4)、ヒスタチン2(SEQ.ID.NO.5)、ヒスタチン5(SEQ.ID.NO.30)であるか、またはヒスタチン1、ヒスタチン2、およびヒスタチン5の任意の組み合わせである。他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、a)ヒスタチン5(SEQ.ID.NO.30)およびb)ヒスタチン1(SEQ.ID.NO.4)、ヒスタチン2(SEQ.ID.NO.5)、またはヒスタチン1およびヒスタチン2の組み合わせを含む。
【0008】
別の好ましい実施形態では、治療上の量のヒスタチンの少なくとも1つのペプチド断片は、眼表面疾患を処置するために眼表面に投与される。ヒスタチンは、好ましくは、ヒスタチンを含む、点眼剤、ゲル剤、軟膏剤、組織接着剤を使用して、またはヒスタチンを、患者に着用されたコンタクトレンズへと組み込むことによって投与される。好ましい実施形態では、治療上の量のヒスタチンは、ヒスタチンによって処置されていない眼表面疾患と比較して、眼表面疾患の治癒を促進する。ヒスタチンのペプチド断片は、好ましくは、以下から成る群から選択される配列を含む:SEQ.ID.NO.1;SEQ.ID.NO.2;SEQ.ID.NO.3;SEQ.ID.NO.4;SEQ.ID.NO.5;SEQ.ID.NO.6;SEQ.ID.NO.7;SEQ.ID.NO.8;SEQ.ID.NO.9;SEQ.ID.NO.10;SEQ.ID.NO.11;SEQ.ID.NO.12;SEQ.ID.NO.13;SEQ.ID.NO.14;SEQ.ID.NO.15;SEQ.ID.NO.16;SEQ.ID.NO.17;SEQ.ID.NO.18;SEQ.ID.NO.19;SEQ.ID.NO.20;SEQ.ID.NO.21;SEQ.ID.NO.22;SEQ.ID.NO.23;SEQ.ID.NO.24;SEQ.ID.NO.25;SEQ.ID.NO.26;SEQ.ID.NO.27;SEQ.ID.NO.28;SEQ.ID.NO.29;SEQ.ID.NO.30;SEQ.ID.NO.31;SEQ.ID.NO.32;SEQ.ID.NO.33;およびSEQ.ID.NO.1乃至SEQ.ID.NO.33の任意の組み合わせ。
【0009】
幾つかの好ましい実施形態では、ヒスタチンは、a)ヒスタチン5の少なくとも1つのペプチド断片、b)ヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片、またはヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片およびヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片の組み合わせを含む。他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、ヒスタチン1の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン2の少なくとも1つのペプチド断片、ヒスタチン5の少なくとも1つのペプチド断片であるか、またはヒスタチン1のペプチド断片、ヒスタチン2のペプチド断片、およびヒスタチン5のペプチド断片の任意の組み合わせである。他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、ヒスタチン1(SEQ.ID.NO.4)、ヒスタチン2(SEQ.ID.NO.5)、ヒスタチン5(SEQ.ID.NO.30)であるか、またはヒスタチン1、ヒスタチン2、およびヒスタチン5の任意の組み合わせである。
【0010】
他の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、a)ヒスタチン5(SEQ.ID.NO.30)およびb)ヒスタチン1(SEQ.ID.NO.4)、ヒスタチン2(SEQ.ID.NO.5)、またはヒスタチン1およびヒスタチン2の組み合わせを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ヒスタチンは、直接的な抗感染活性、強力な抗炎症性特性を示す、ヒトおよびヒト以外の霊長類によってもたらされた自然発生の経口ペプチドであり、幾つかの組織と臓器の培養系で上皮創傷治癒を刺激する。研究施設では、この自然な物質を分離するための技術が開発され、創傷のための潜在的な局所処置をもたらしている。
【0012】
好ましい実施形態では、角膜創傷または眼表面疾患を処置するために、ヒスタチン1、2お、3、及び/又は5に隣接して存在する少なくとも8つのアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドが、使用される。
【0013】
1つの好ましい実施形態では、角膜創傷を処置する方法は、角膜創傷の部位に治療上の量のヒスタチンペプチドの少なくとも一部分を投与する工程を含む。別の好ましい実施形態では、眼表面疾患を処置する方法は、眼表面に治療上の量のヒスタチンペプチドの少なくとも一部分を投与する工程を含む。眼表面疾患は、限定されないが、眼乾燥、角膜潰瘍形成および角膜びらん、炎症性および感染性の角膜炎および結膜炎、外科的介入および外傷を含み得る。
【0014】
ヒスタチンは、好ましくは、ヒスタチンを含む、点眼剤、ゲル剤、軟膏剤、組織接着剤を使用して、またはヒスタチンを、患者に着用されたコンタクトレンズへと組み込むことによって投与される。好ましい実施形態では、治療上の量のヒスタチンは、ヒスタチンによって処置されていない角膜創傷または眼表面疾患と比較して、創傷または眼表面疾患の治癒を促進する。
【0015】
幾つかの好ましい実施形態では、ヒスタチン濃度は、およそ0.1μg/mlとおよそ1000mg/mlの間である。他の好ましい実施形態では、ヒスタチン濃度は、およそ0.1μg/mlと10μg/mlの間である。幾つかの好ましい実施形態では、ヒスタチン濃度は、およそ1μΜ以上である。
【0016】
投与する工程は、1日当たり複数回及び/又は複数日にわたって繰り返され得る。1つの好ましい実施形態では、この工程は、複数日にわたって1日当たり少なくとも1回繰り返される。別の好ましい実施形態では、工程は、長期にわたって1日当たり少なくとも1回繰り返される。幾つかの好ましい実施形態では、工程は、複数日にわたって最大で1時間ごとに繰り返される。別の好ましい実施形態では、工程は、複数日にわたって1日当たり少なくとも2回繰り返される。また別の好ましい実施形態では、工程は、複数日にわたって、例えば7日間、少なくとも1日3回繰り返される。別の好ましい実施形態では、工程は、5日間1日当たり4回繰り返される。
【0017】
1つの好ましい実施形態では、ヒスタチンは、8乃至44のアミノ酸を含むペプチドである。幾つかの実施形態では、ペプチドは、Lペプチドである。幾つかの実施形態では、ペプチドは、環状ペプチドである。
【0018】
幾つかの好ましい実施形態では、ヒスタチンペプチドのアミノ酸配列は、SEQ.ID.NO.1乃至SEQ.ID.NO.33の1つ以上、またはこれらの配列の任意の組み合わせである。代替的な実施形態では、アミノ酸配列の1つ以上は、3つまでのアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を有する。他の代替的な実施形態では、アミノ酸配列の1つ以上は、2つ以下のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を有する。他の代替的な実施形態では、アミノ酸配列の1つ以上は、1つのアミノ酸において置換、欠失、及び/又は挿入を有する。
【0019】
SEQ.ID.NO.4のペプチドは、ヒスタチン1(Hst-1)としても知られる。このアミノ酸配列での第1セリンが、フォスフォセリンであり得ることに留意されたい。SEQ.ID.NO.5のペプチドは、ヒスタチン2(Hst-1のアミノ酸12-38にも相当する、Hst-2)としても知られる。SEQ.ID.NO.6のペプチドは、ヒスタチン3(Hst-3)としても知られる。SEQ.ID.NO.30のペプチドは、ヒスタチン5(Hst-5)としても知られる。これらのアミノ酸配列の各々の部分および断片は、本明細書に記載される実施形態において創傷閉鎖を促進するために、限定されないが、(ヒスタチン1、ヒスタチン2およびヒスタチン3に対する)SEQ.ID.NO.1-3、7-29および(ヒスタチン5に対する)SEQ.ID.NO.32を含んで、単独で又は組み合わせて使用され得る。アミノ酸のL立体異性体が、本明細書に記載されるアミノ酸配列のためには好ましいが、D立体異性体が代替的に使用されてもよい。代替的に、(ヒスタチン1のすべてを含む)ソルターゼ(sortase)を環化したヒスタチンである、これらのヒスタチンおよび他のアミノ酸を含むアミノ酸配列、例えばSEQ.ID.NO.33は、本明細書に記載される実施形態において使用され得る。任意のヒスタチン配列は、環化され得、本明細書に記載される実施形態において使用され得る。
【0020】
幾つかの好ましい実施形態は、角膜創傷または眼表面疾患を処置するために、Hst-5からのアミノ酸配列と組み合わせてHst-1及び/又はHst-2からのアミノ酸配列を使用する。これらの実施形態では、Hst-1及び/又はHst-2からの1つ以上のアミノ酸配列が選択され、Hst-5からの1つ以上のアミノ酸配列が選択される。幾つかの実施形態では、全長ヒスタチン1(SEQ.ID.NO.4)、全長ヒスタチン2(SEQ.ID.NO.5)、及び/又は全長ヒスタチン5(SEQ.ID.NO.30)が使用され得る。他の実施形態では、Hst-1、Hst-2、及び/又はHst-5の部分が使用され得る。例えば、ヒスタチン1のアミノ酸20-32と相当する、SEQ.ID.NO.29は、幾つかの実施形態において創傷閉鎖に使用するための好ましいアミノ酸配列であり得る。他の例では、創傷閉鎖のためのコアモチーフ(core motif)として現われるヒスタチン1およびヒスタチン2のペプチド断片である、SEQ.ID.NO.32を含むペプチドが使用され得る。Hst-1およびHst-2からの他の好ましい配列は、限定されないが、SEQ.ID.NO.8、SEQ.ID.NO.9、およびSEQ.ID.NO.13を含む。別の例として、ヒスタチン5の断片(引用によって本明細書に組み込まれる、Gusman et al, 「Salivary Histatin 5 is an inhibitor ob Both Host and Bacterial Enzymes Implicated in Periodontal Disease」, Infect. Immun. 2001, 69(3): 1402, pp. 1402-1408)である、SEQ.ID.NO.31が、好ましくは、ヒスタチン1またはヒスタチン2またはその断片と組み合わせて使用され得る。他の好ましい実施形態では、Hst-1またはHst-2の断片は、全長Hst-5(SEQ.ID.NO.30)または全長Hst-1(SEQ.ID.NO.4)とともに使用され、あるいはHst-2(SEQ.ID.NO.5)は、Hst-5(例えば、SEQ.ID.NO.31)の断片とともに使用される。また他の実施形態では、Hst-1及び/又はHst-2の断片、全長Hst-1及び/又はHst-2、Hst-5の断片、または全長Hst-5の任意の組み合わせが使用され得る。幾つかの好ましい実施形態では、使用されるHst-5ペプチドの濃度は、およそ1μΜ以上である。
【0021】
本明細書に記載されるアミノ酸およびペプチドは、幾つかの実施形態で保護基によって保護された、少なくとも1つの官能基(例えば、アミン及び/又はカルボン酸基)を含み得る。ペプチドが、組織、皮膚または創傷に適用されるため、ペプチドの保護された形態は、分解に抵抗することが好ましいかもしれない。保護の形態は、生物学的に適合性である且つ薬学的使用と適合性がある必要がある。幾つかの例は、限定されないが、アミノ末端のアシル化またはアセチル化、カルボキシ末端の環化またはアミド化またはエステル化を含む。したがって、本明細書に記載されるペプチドは、保護された形態で使用され得る。
【0022】
本明細書に記載されるペプチドは、従来の化学合成、酵素的合成、または当該技術分野で既知の他の方法によって作られ得る。
【0023】
ペプチドは、好ましくは、少なくとも8つのアミノ酸を含む。1つの好ましい実施形態では、ペプチドは、8乃至44の範囲のアミノ酸を含むが、ペプチドは、代替的に、44を超えるアミノ酸を含んでもよい。
【0024】
<インビボ研究>
角膜創傷治癒のためのヒスタチンの効果の研究は、動物モデル(すなわちウサギ)を利用する。ヒスタチンは、幾つかの組織および臓器の培養系での治癒を刺激する、自然に生成された物質である。これらの研究の結果は、ヒスタチンが、角膜創傷のための著しい用量依存的な促進された治癒活性を有していることを実証している。
【0025】
限定されないが、眼乾燥、角膜潰瘍形成および角膜びらん、炎症性および感染性の角膜炎および結膜炎、外科的介入、および外傷を含む、眼表面疾患はすべて、感染、疼痛、および減少視力の増加したリスクを結果としてもたらす、角膜および結膜の細胞壁の完全性の破壊につながる。ヒスタチンは、眼表面の外傷/損傷および伝染病の処置に使用され得る。
【0026】
膜(角膜上皮)の外側層は、環境に対する物的障壁として機能し、それ故、感染性の及び/又は毒性の薬剤が組織を感染させる/組織に影響を及ぼすのを防ぐための防衛線としても役立つ。損傷が角膜の表面へ生じるときに、角膜上皮は、創傷治癒プロセスの先頭に立つ(例えば、Klyce SD, Crosson CE. "Transport processes across the rabbit corneal epithelium: a review". Curr Eye Res. 1985;4:323-331 and Lu L, Wang L, Shell B. "UV-induced signaling pathways associated with corneal epithelial cell apoptosis". Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44:5102-5109を参照し、その両方が引用によって本明細書に組み込まれる)。
【0027】
本明細書に開示される研究は、ニュージーランドホワイトのウサギの眼表面に対するヒスタチンの創傷治癒効果を評価する且つ定量化する。
【0028】
簡潔な方法論:
上皮の欠損は、12匹のニュージーランドホワイトのウサギの右眼(右眼(oculus dexter)、OD)において作り出される。動物規定により、両側性の創傷は許可されていない。上皮の欠損が作られた後に、ウサギは、処置群へと無作為化される。2つの(2)群が、以下の異なる環化されたヒスタチン濃度で処置される:眼病用の人工涙液の調剤へと溶解され、毎日3回点眼薬としてウサギに送達された、O.1g/mlおよび10μg/ml。限定されないが、Hst-1(SEQ.ID.NO.4)、Hst-2(SEQ.ID.NO.5)、Hst-3(SEQ.ID.NO.6)、Hst-5(SEQ.ID.NO.30)、およびソルターゼを環化したヒスタチン(SEQ.ID.NO.33)を含む、アミノ酸配列SEQ.ID.NO.1乃至SEQ.ID.NO.33を含む、当該技術分野で既知のヒスタチンが、これらの研究または処置プロトコルで使用され得る。1つの(1)群が、不活性の/非活性の製剤(対照)によって処置される。この対照群は、他の2つの群と同一であるが、ヒスタチンなしで、同じビヒクルを受けるべきである。市販の人工涙液は、好ましくは、ビヒクルとして機能する。最初の研究は、3つの(3)群に1群当たり4匹の(4)動物で、合計12匹のウサギを含んだ。
【0029】
群は、7日間、3回/日(TID)で、薬剤(ヒスタチンまたは人工涙液の不活性の/非活性の製剤のいずれか)によって処置される。各々のウサギ群は、好ましくは、感染を予防するために、モキシフロキサシン(moxifloxicin)で処置される。
【0030】
その後、角膜創傷は、蛍光染、蛍光細隙灯のバイオマイクロ写真撮影およびコンピューター化された領域決定によって、ヒスタチンの角膜創傷治癒能力に関して毎日評価される。評価者は、ウサギに与えられた治療上の処置に対してマスクされる(masked)。
治癒後、各群から2匹の(2)動物が安楽死させられ、角膜が、組織学的処理(獣医の組織病理学者による続く評価を伴うH&E染色)のために集められる。異なる処置群と対照との間の治癒に違いが証明される場合にのみ、組織採取後の病理組織学的分析を行う決定が下される。研究終了時に(研究は、好ましくは、7日間継続する)、残りの動物は安楽死させられる。
【0031】
<結果>
上述の方法論を使用する第1研究からのデータは、表1に示される。この研究で使用するヒスタチンは、環化したヒスタチン1であった。使用するヒスタチン1は、アミノ酸配列SEQ.ID.NO.33を有するソルターゼを環化したヒスタチンであり、その中で、「C末端」Tは、「N末端」Gに連結される。表2は、3つの群の各々に対する、創傷の1時間後のサイズのおよそのパーセンテージとしての、(標準偏差のない)mmサイズ値を示す。ウサギの角膜の病理学的分析は、毒性を示さなかった。
【0032】
【0033】
【0034】
ヒスタチンが、角膜創傷の著しい用量依存的な促進された治癒活性を実証していることを、上記の結果は示している。表2は、表1からの標準偏差考慮に入れていないが、0.1μg/mlまたは10μg/mlのヒスタチンで処置した創傷が、データが収集された時間点の各々でより速く治癒した(より収縮した)ことを、パーセントが明白に示している。これらの結果は、インビボでの動物研究を使用して行われたその種の第1結果である。
【0035】
ヒトおよび他の動物において角膜創傷治癒または眼表面疾患の治癒を促進するために、ヒスタチンおよびペプチド部分またはヒスタチンのペプチド断片が使用され得る。好ましい実施形態では、ヒスタチン1(Hst-1)、ヒスタチン2(Hst-2)、ヒスタチン5(Hst-5)、Hst1、Hst2、またはHst5のペプチド断片、またはその任意の組み合わせが使用され得る。他の実施形態では、ヒスタチン3(Hst-3)またはヒスタチン2(D-Hst-2)のDエナンチオマー、またはそのペプチド断片が使用され得る。ヒスタチンのいずれかの任意の組み合わせが使用され得る。好ましい実施形態では、0.1μg/mlから1000mg/mlの間のヒスタチン濃度が使用され得る。アミノ酸配列SEQ.ID.NO.1-33を有するペプチド、当該技術分野で既知のヒスタチン、WO 2009/087117に開示されるペプチド、またはDr. Menno Johannes Oudhoff s thesis,"Discovery of the Wound-Healing Capacity of Salivary Histatins", 2010, department of Oral Biochemistry of the Academic Centre for Dentistry Amsterdam (ACTA), VU University Amsterdam and University of Amsterdam, The Netherlands(引用によって本明細書に組み込まれる)に開示されるペプチが使用され得る。
【0036】
1つの好ましい実施形態では、ヒスタチン5(Hst-5)と組み合わせたヒスタチン1(Hst-1)またはヒスタチン2(Hst-2)、Hst-5のペプチド断片と組み合わせたHst-1またはHst-2のペプチド断片、あるいは任意の組み合わせが使用される。Hst-5は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の生成を阻害する。
【0037】
Hst-1/Hst-2の治癒特性とHst-5阻害のMMPとの組み合わせは、非常に有効であるはずである。幾つかの好ましい実施形態では、少なくともおよそ1μΜのHst-5の濃度、またはHst-5の断片が使用される。
【0038】
角膜創傷または眼表面疾患を有するヒトまたは他の動物にヒスタチンが投与され得る。投与の幾つかの方法は、限定されないが、ヒスタチンを、点眼剤、ゲル剤または軟膏剤へと組み込む工程、角膜損傷を一時的に密封するために使用される組織接着剤へとヒスタチンを組み込む工程、またはヒスタチンを(ポリマー)コンタクトレンズへと組み込む工程を含む。
【0039】
ヒスタチンは、治療結果をもたらすために、任意の数日間、毎日の処置の任意の組み合わせで投与され得る。1つの好ましい実施形態では、ヒスタチンは、複数日にわたっての少なくとも1日に1回投与される。別の好ましい実施形態では、ヒスタチンは、(長時間にわたって)長期にわたって少なくとも1日に1回投与される。別の好ましい実施形態では、工程は、複数日にわたって又は長期にわたって、2、3、4、5回またはそれ以上、あるいは1時間ごとに繰り返され得る。一例では、ヒスタチンは、7日間1日3回繰り返される。別の実施例では、ヒスタチンは、5日間1日4回投与される。
【0040】
したがって、本明細書に記載される本発明の実施形態が、本発明の原理の適用の単に例示にすぎないことを理解されたい。例証される実施形態の詳細に対する本明細書での引用は、請求の範囲を制限するようには意図されておらず、それら自体が本発明にとって不可欠であると見なされるこれらの特徴を詳述している。
【配列表】