(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】鋼材切断方法及び鋼材切断装置
(51)【国際特許分類】
B23D 36/00 20060101AFI20220722BHJP
B23D 45/02 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B23D36/00 501Z
B23D45/02 A
(21)【出願番号】P 2020170700
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000150121
【氏名又は名称】タケダ機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本屋 大吾
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-209817(JP,A)
【文献】特開2008-296346(JP,A)
【文献】特開昭60-076912(JP,A)
【文献】実開昭50-038584(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0076766(KR,A)
【文献】特開平07-256512(JP,A)
【文献】特開昭49-026889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 36/00
B23D 45/02
B23D 47/04、08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の搬送方向に直交する幅方向に鋸刃を移動させて前記鋼材を切断する鋼材切断方法であって、
前記鋼材の切断部位に対応して、前記鋸刃の移動速度を変更する移動速度可変工程を備えており、
前記鋼材は、ウエブと前記ウエブに連続するフランジ部とを有する形鋼であり、
前記鋼材の切断面において、前記ウエブが前記鋸刃の移動方向に延び、前記フランジ部が前記鋸刃の移動方向に対して垂直に延びるように配置されて切断されるものであり、
前記移動速度可変工程では、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の移動速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の移動速度が小さくなるように設定することを特徴とする鋼材切断方法。
【請求項2】
前記移動速度可変工程では、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の回転速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の回転速度が小さくなるように設定することを特徴とする請求項1に記載の鋼材切断方法。
【請求項3】
前記ウエブのウエブ面を上下方向から挟持するクランプ装置により、前記鋼材を押さえながら切断することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼材切断方法。
【請求項4】
ウエブと前記ウエブに連続するフランジ部とを有する鋼材の搬送方向に直交する幅方向に鋸刃を移動させて前記鋼材を切断する鋼材切断装置であって、
前記鋼材の切断部位に対応して、前記鋸刃の移動速度を変更する鋸刃制御手段を備えており、
前記鋸刃制御手段は、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の移動速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の移動速度を小さく設定
し、
前記鋼材は、前記鋼材の切断面において、前記ウエブが前記鋸刃の移動方向に延び、前記フランジ部が前記鋸刃の移動方向に対して垂直に延びるように配置されて切断されるものであることを特徴とする鋼材切断装置。
【請求項5】
前記鋸刃制御手段は、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の回転速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の回転速度を小さく設定することを特徴とする請求項4に記載の鋼材切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材切断方法及び鋼材切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形鋼等の鋼材を切断する鋼材切断方法として、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1の鋼材切断方法は、搬送されてきた鋼材をストッパで停止させた後にクランプ装置で挟持し、回転駆動された鋸刃を鋼材の幅方向に移動させて鋼材に押し付けることで、鋼材の切断を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、鋼材を切断する際の鋸刃の移動速度を開示するものではないが、一般に、鋸刃の移動速度を大きくすることにより鋼材の切断時間が短縮されるため、生産性が高まる。一方、鋸刃の移動速度を大きくすることにより、切断時の振動と騒音が増幅されるおそれがある。特に、鋼材のウエブを切断する過程で振動と騒音がより増幅されるおそれがあり、これを抑えたいという要望があった。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決し、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる鋼材切断方法及び切断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明の鋼材切断方法は、鋼材の搬送方向に直交する幅方向に鋸刃を移動させて前記鋼材を切断するものであり、前記鋼材の切断部位に対応して、前記鋸刃の移動速度を変更する移動速度可変工程を備えている。前記鋼材は、ウエブと前記ウエブに連続するフランジ部とを有する形鋼であり、前記鋼材の切断面において、前記ウエブが前記鋸刃の移動方向に延び、前記フランジ部が前記鋸刃の移動方向に対して垂直に延びるように配置されて切断されるものである。前記移動速度可変工程では、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の移動速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の移動速度が小さくなるように設定することを特徴とする。
【0007】
本発明の鋼材切断方法では、移動速度可変工程により鋸刃の移動速度を変更できるので、切断時の振動により騒音が増幅され易い部位を切断する際の鋸刃の移動速度を、他の部位の切断時の鋸刃の移動速度に比べて小さく設定できる。これにより、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。
【0009】
また、切断時の振動により騒音が増幅され易いウエブを鋸刃の移動速度を小さくして切断できるとともに、切断時の振動により騒音が増幅され難いフランジ部を鋸刃の移動速度を大きくして切断できる。したがって、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。
【0010】
また、前記移動速度可変工程では、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の回転速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の回転速度が小さくなるように設定することが好ましい。
【0011】
この鋼材切断方法では、切断時の振動により騒音が増幅され易いウエブを鋸刃の回転速度を小さくして切断できるとともに、切断時の振動により騒音が増幅され難いフランジ部を鋸刃の回転速度を大きくして切断できる。したがって、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。
【0012】
また、前記ウエブのウエブ面を上下方向から挟持するクランプ装置により前記鋼材を押さえながら鋼材を切断することが好ましい。
【0013】
この鋼材切断方法では、鋸刃による切断時に、鋼材のウエブ面がクランプ装置で上下方向から挟持されるので、鋼材のウエブを鋸刃で切断する際に増幅され易い振動を直接抑えながら切断を行うことができる。したがって、移動速度の可変とクランプ装置による挟持との相乗効果により、振動により生じる騒音をより一層低減できる。
【0014】
また、本発明の鋼材切断装置は、ウエブと前記ウエブに連続するフランジ部とを有する鋼材の搬送方向に直交する幅方向に鋸刃を移動させて前記鋼材を切断するものであり、前記鋼材の切断部位に対応して、前記鋸刃の移動速度を変更する鋸刃制御手段を備える。前記鋸刃制御手段は、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の移動速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の移動速度を小さく設定する。前記鋼材は、前記鋼材の切断面において、前記ウエブが前記鋸刃の移動方向に延び、前記フランジ部が前記鋸刃の移動方向に対して垂直に延びるように配置されて切断されるものであることを特徴とする。また、前記鋸刃制御手段は、前記フランジ部の切断時における前記鋸刃の回転速度に比べて、前記ウエブの切断時における前記鋸刃の回転速度を小さく設定することが好ましい。
【0015】
本発明の鋼材切断装置では、切断時の振動により騒音が増幅され易い部位を切断する際の鋸刃の移動速度を、他の部位の切断時の鋸刃の移動速度に比べて小さく設定できる。これにより、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る鋼材切断方法によれば、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置の正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置の右側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置のクランプ装置を示す拡大正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置のクランプ装置を示す拡大右側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置の制御装置の制御ブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の切断ポイントを示す模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の切断ポイントを示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の切断ポイントを示す模式図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の切断ポイントを示す模式図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の切断ポイントを示す模式図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る鋼材切断方法により鋼材を切断する際の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、左右上下の方向は、
図1に示す方向を基準とし、前後の方向は、
図2に示す方向を基準とする。
【0019】
図1に示すように、本発明の鋼材切断方法が適用される鋼材切断装置1は、鋼材を搬送するための搬送路2と、搬送路2と直交する左右方向に移動可能に設けられた鋸刃ユニット10と、鋼材を上下方向から挟持するクランプ装置20と、を備えている。また、鋼材切断装置1は、クランプ装置20の作動や鋸刃ユニット10の作動等を制御する制御装置50を備えている。以下では、鋼材として、H形鋼3を例にとって説明する。H形鋼3は、H形の断面形状を有し、水平方向(左右幅方向)に延在するウエブ3aと、ウエブ3aの左右両端に接続され上下方向に延在する左フランジ部3b及び右フランジ部3cとを備えている。
なお、鋼材切断装置1は、搬送されてきたH形鋼3を搬送路2の左側方に設けられた位置決めプレート31に向けて押圧する幅方向クランプ装置(不図示)を備えている。
【0020】
搬送路2は、前後方向(
図1の紙面垂直方向)に延在しており、H形鋼3を前方向に移動させる機構を備えている。本実施形態の搬送路2は、ローラコンベアであり、搬送路2には、
図2に示すように、H形鋼3を搬送するための複数のローラ2aが配置されている。搬送路2上を搬送されてきたH形鋼3は、前後方向(搬送方向)の所定の位置で停止され、幅方向クランプ装置により位置決めプレート31(
図1参照)に向けて押圧されることで搬送路2上に位置決めされる。
【0021】
クランプ装置20は、
図3に示すように、H形鋼3のウエブ3aを上下方向から直接挟持する装置である。クランプ装置20は、上側クランプ部21と下側クランプ部22と、を備えている。上側クランプ部21及び下側クランプ部22は、例えば、片ロッド型のシリンダ機構をそれぞれ備えている。
【0022】
上側クランプ部21は、
図4に示すように、円筒状のシリンダ本体21aと、シリンダ本体21a内に上下方向摺動自在に配置されたピストンロッド21bと、ピストンロッド21bの先端部(下端部)に取付けられた衝撃吸収部材23と、を備えている。
【0023】
シリンダ本体21aの上部側面には、シリンダ本体21a内に連通するポート部21eが設けられている。ポート部21eには、ピストンロッド21bを突出方向(ウエブ3aに近づく方向)に加圧するための作動油が流れる図示しない油圧配管と、ピストンロッド21bを後退方向(ウエブ3aから離れる方向)に加圧するための作動油が流れる図示しない油圧配管とが接続される。ピストンロッド21bは、ポート部21eを介してシリンダ本体21aに供給される作動油の液圧を受けてH形鋼3に向けて突出し、あるいはH形鋼3から後退する。後退時には、シリンダ本体21a内の上端部にピストンロッド21bのピストンが位置し、下端部の衝撃吸収部材23がH形鋼3に干渉しない位置に退避する。
【0024】
衝撃吸収部材23は、ウエブ3aの上面に当接してウエブ3aを下方向に押圧する部材である。衝撃吸収部材23は、弾性及び柔軟性を備えており、切断時の振動によるウエブ3aの跳ね上がりを抑える(跳ね上がりを吸収する)役割をなす。衝撃吸収部材23は、例えば、ウレタンやゴムなどの部材から形成される。
【0025】
衝撃吸収部材23は、有頂円筒状を呈しており、頂部23aと頂部23aに連続する円筒部23bと、を有する。円筒部23bの先端面(下面)は平らであり、ウエブ3aの上面に対して密着可能である。衝撃吸収部材23は、頂部23aに形成された孔部にカラー23cを介して挿通されるボルト23dで、ピストンロッド21bの下端部に固定されている。頂部23aとピストンロッド21bとの間には、ワッシャー23eが介在されている。
なお、衝撃吸収部材23は、経年変化や破損等により劣化した場合に、ボルト23dを緩めて取り外すことで容易に交換できる。衝撃吸収部材23の形状は、有頂円筒状のものに限られることはなく、例えば、左右方向の寸法が前後方向の寸法よりも大きく幅広形状のものを採用して、ウエブ3aとの接触面積が大きくなるようにしてもよい。
【0026】
上側クランプ部21は、
図3に示すように、搬送路2の左側に設けられた支持部材5に支持されている。支持部材5は、鋼材切断装置1に設けられたベースフレーム1aに固定ボルト(不図示)で固定されている。支持部材5は、ベースプレート5aと、ベースプレート5aに立設された支持プレート5bと、支持プレート5bに支持され上側クランプ部21を支持する支持アーム5cと、を備えている。ベースプレート5aと支持プレート5bとの間には正面視で略三角形状の補助プレート5dが設けられている。支持プレート5bの右側には、位置決めプレート31が取り付けられている。
上側クランプ部21は、断面ハット形状の取付部材24を介して支持アーム5cに取付けられている。
【0027】
下側クランプ部22は、円筒状のシリンダ本体22aと、シリンダ本体22a内に上下方向摺動自在に配置され上方へ突出可能なピストンロッド22bと、を備えている。
【0028】
シリンダ本体22aの下部側面には、シリンダ本体22a内に連通するポート部22eが設けられている。ポート部22eには、ピストンロッド22bを突出方向(ウエブ3aに近づく方向)に加圧するための作動油が流れる図示しない油圧配管と、ピストンロッド22bを後退方向(ウエブ3aから離れる方向)に加圧するための作動油が流れる図示しない油圧配管とが接続される。ピストンロッド22bは、ポート部22eを介してシリンダ本体22aに供給される作動油の液圧を受けてH形鋼3に向けて突出し、あるいはH形鋼3から後退する。後退時には、シリンダ本体22a内の下端部にピストンロッド22bのピストンが位置し、ピストンロッド22bの先端部(上端部)がH形鋼3に干渉しない位置に退避する。
【0029】
下側クランプ部22は、断面ハット状の取付部材25を介して取付座1dに取り付けられている。取付座1dは、搬送路2に配置される左右フレーム1cの下部に取り付けられている。下側クランプ部22のピストンロッド22bは、取付座1d及び左右フレーム1cに形成された挿通孔に挿通され、搬送路2に出没するように構成されている。なお、左右フレーム1cと取付座1dとの境界部分には、ピストンロッド22bの摺動を案内するガイドリング26が取り付けられている。
【0030】
以上のような上側クランプ部21と下側クランプ部22とは、
図4に示すように、鋸刃11による切断予定線S1を挟んで、前後方向に間隔を空けて配置されている。上側クランプ21は、切断予定線S1の前側に位置しており、下側クランプ部22は、切断予定線S1の後側に位置している。
【0031】
また、上側クランプ部21は切断予定線S1の前側に配置されているので、切断予定線S1の後側には、鋸刃ユニット10の配置スペースが好適に確保される。
なお、
図2に示すように、下側クランプ部22の下方には、切断時の切粉を鋼材切断装置1の前側及び後側に排出するための傾斜板1f,1gが設けられている。
【0032】
なお、上側クランプ部21と下側クランプ部22とは、
図3に示すように、衝撃吸収部材23が幅を有する分、左右方向に幾分ずらして配置されている。
【0033】
鋸刃ユニット10は、
図1に示すように、中心軸O1を中心として図中矢印X1方向に回転する鋸刃11を備えている。鋸刃11は、鋸刃ユニット10に備わる電動モータ(不図示)により回転駆動される。鋸刃ユニット10は、左右方向に延在する上下2本の案内レール12a,12bに支持され左右方向移動可能に設けられている。鋸刃ユニット10は、図示しない駆動機構により左右方向に移動されるように構成されており、
図1に示す待機位置から左側に移動することで鋸刃11がH形鋼3を切断する。
【0034】
制御装置50は、位置決め制御手段51と、クランプ装置制御手段52と、鋸刃制御手段53と、を備えている。
【0035】
位置決め制御手段51は、搬送路2上を搬送されてきたH形鋼3を所定の切断位置に位置決めする制御を行うものである。具体的に、位置決め制御手段51は、図示しないセンサによりH形鋼3が所定の切断位置に搬送されたことを検出した場合に、幅方向クランプ装置を作動させる。これにより、幅方向クランプ装置によりH形鋼3が位置決めプレート31に押し付けられ、所定の位置に位置決めされる。
【0036】
クランプ装置制御手段52は、クランプ装置20の作動を制御するものである。クランプ装置制御手段52は、幅方向クランプ装置によりH形鋼3が位置決めされたことを受けて、上側クランプ部21及び下側クランプ部22に作動油が供給されるように制御する。
上側クランプ部21は、作動油の供給を受けてピストンロッド21bをウエブ3aに向けて下降させる。これにより、衝撃吸収部材23がウエブ3aの上面に対して押圧力をもって当接する。
一方、下側クランプ部22は、作動油の供給を受けてピストンロッド22bをウエブ3aに向けて上昇させる。これにより、ピストンロッド22bの先端部(上端部)がウエブ3aの下面に対して押圧力をもって当接する。
以上により、ウエブ3aは、上側クランプ部21及び下側クランプ部22によって上下方向から直接挟持される状態となる。
【0037】
鋸刃制御手段53は、鋸刃ユニット10(鋸刃11)の左右方向の移動速度を可変制御するとともに、鋸刃の回転速度を可変制御するものであり、鋼材切断方法の移動速度可変工程を担うものである。鋸刃制御手段53は、鋼材を切断するための切断モードを複数種類備えている。鋸刃制御手段53は、切断モードごとに予め設定された移動速度及び回転速度に基づいて、鋼材が切断されるように鋸刃ユニット10を制御する。鋸刃制御手段53は、複数種類ある切断モードの一つとして、切断時の騒音を抑える静音モードを備えている。静音モードは、鋼材の切断部位に対応して、鋸刃11の移動速度を可変するものである。なお、鋼材の切断部位は、鋼材の形状データを作業者が入力する等により容易に特定することができる。
【0038】
次に、H形鋼3を用いて鋼材の切断部位(切断ポイントP1~P6)について説明する。
図6~
図10は鋼材の切断部位を説明するための模式図である。各図において、O1は鋸刃11の中心軸、N1は鋸刃11の外周縁部である。
【0039】
切断ポイントP1は、
図6に示すように、H形鋼3の切断開始部分(最初に鋸刃11が押し付けられて切断される部分)であり、右フランジ部3cの右側上端に位置する。
切断ポイントP2は、H形鋼3のウエブ3aの切断開始部分であり、ウエブ3aと右フランジ部3cとの接続部分の上側に位置する。
【0040】
切断ポイントP1から切断ポイントP2のドット模様で示した部分は、鋸刃11が右フランジ部3cのみを切断している。つまり、この部分では切断時に振動を生じ易いウエブ3aに鋸刃11が当たっていないので、鋸刃11の移動速度v1を標準移動速度v0より大きく(例えば移動速度v1を標準移動速度v0よりも高速に)設定することができる。したがって、この部分では切断時間の短縮が可能である。なお、鋸刃11の移動速度v1を高速に設定することに伴い、切断ポイントP1~P2における鋸刃11の回転速度w1は、標準回転速度w0よりも高速に設定することが好ましい。
【0041】
切断ポイントP3は、
図7に示すように、右フランジ部3cの切断終了部分であり、右フランジ部3cの左側下端に位置する。
切断ポイントP2から切断ポイントP3のドット模様で示した部分は、鋸刃11が右フランジ部3cとウエブ3aとの両方を切断している。つまり、この部分では切断時に振動を生じ易いウエブ3aに鋸刃11が当たりつつ、振動を生じ難い右フランジ部3cに鋸刃11が当たっている。したがって、この部分では、鋸刃11の移動速度v2を切断ポイントP1~P2における鋸刃11の移動速度v1より小さく(例えば移動速度v2を標準移動速度v0と同じ速度か、これよりも低速に)設定して、切断時の振動が小さくなるようにすることが好ましい。なお、切断ポイントP2~P3における鋸刃11の回転速度w2は、標準回転速度w0と同じ速度か、これよりも低速に設定することが好ましい。
【0042】
切断ポイントP4は、
図8に示すように、左フランジ部3bの切断開始部分であり、左フランジ部3bの右側上端に位置する。
切断ポイントP3から切断ポイントP4のドット模様で示した部分は、鋸刃11がウエブ3aのみを切断している。つまり、この部分では切断時に振動を生じ易いウエブ3aにだけ鋸刃11が当たっているので、鋸刃11の移動速度v3を切断ポイントP2~P3における鋸刃11の移動速度v2より小さく(例えば移動速度v3を標準移動速度v0よりも低速か、これよりもさらに低速に)設定することが好ましい。なお、鋸刃11の移動速度v2を低速に設定することに伴い、切断ポイントP3~P4における鋸刃11の回転速度w3は、標準回転速度w0よりも低速に設定することが好ましい。
【0043】
切断ポイントP5は、
図9に示すように、ウエブ3aの切断終了部分であり、ウエブ3aと左フランジ部3bとの接続部分の下側に位置する。
切断ポイントP4から切断ポイントP5のドット模様で示した部分は、鋸刃11がウエブ3aと左フランジ部3bとの両方に当たる部分であるが、鋸刃11の回転方向により、切断時に振動を生じ易いウエブ3aから振動を生じ難い左フランジ部3bにかけて鋸刃11が当たっている。このため、切断時の振動が抑えられ易い。これにより、この部分では鋸刃11の移動速度v4を切断ポイントP3~P4における鋸刃11の移動速度v3より大きく(例えば移動速度v4を標準移動速度v0よりも高速に)設定することが好ましい。なお、鋸刃11の移動速度v4を高速に設定することに伴い、切断ポイントP4~P5における鋸刃11の回転速度w4は、標準回転速度w0よりも高速に設定することが好ましい。
【0044】
最後に、切断ポイントP6は、
図10に示すように、左フランジ部3bの切断終了部分であり、左フランジ部3bの左側下端に位置する。
切断ポイントP5から切断ポイントP6のドット模様で示した部分は、鋸刃11が左フランジ部3bにのみ当たる部分であるので、鋸刃11の移動速度v5を標準移動速度v0よりも大きく(例えば移動速度v5を切断ポイントP4~P5における移動速度v4と同じ速度に)設定できる。
【0045】
次に、鋸刃制御手段53に備わる切断モードのうち、静音モードの動作制御の処理の一例について
図11に示すフローチャートを参照して説明する。なお、以下の説明では、鋸刃制御手段53が、切断ポイントP1~P6に基づいて鋸刃ユニット10の移動速度を可変する例について詳細に説明する。
以下の静音モードは、鋸刃ユニット10の移動速度を通常の移動速度(標準移動速度v0)よりも小さくする制御と、鋸刃ユニット10の移動速度を通常の移動速度(標準移動速度v0)よりも大きくする制御とを含んでおり、制御全体として振動を抑えつつトータルの切断時間の短縮を図ったものである。
【0046】
図11に示すように、動作制御処理が開始されると、ステップST1で各種設定の入力が行われる。この場合、静音モードを実行すべく、鋸刃制御手段53は、例えば予め不図示の記憶部等に記憶されたH形鋼3の寸法データや、静音モードに基づく鋸刃11の移動速度のデータを受け付ける。そして、鋸刃制御手段53は、H形鋼3の寸法データに基づき、切断ポイントP1,P2間の中心軸О1の移動距離L1、同様に、切断ポイントP2,P3間の移動距離L2、切断ポイントP3,P4間の移動距離L3、切断ポイントP4,P5間の移動距離L4、及び切断ポイントP5,P6間の移動距離L5をそれぞれ算出する。そして、鋸刃制御手段53は、切断開始時の鋸刃ユニット10の移動速度を通常の移動速度よりも大きい速度(高速)に設定する。
【0047】
ステップST2において、鋸刃制御手段53は、受け付けたデータに基づいて切断制御を開始する。
そして、ステップST3において、鋸刃制御手段53は、切断ポイントP1を始点として鋸刃ユニット10の移動距離L(鋸刃11の中心軸О1の移動距離L)の計測を開始する。
【0048】
ステップST4において、鋸刃制御手段53は、移動距離Lが移動距離L1以上であるか否かの判定を行う。移動距離Lが移動距離L1よりも小さい場合、すなわち、切断ポイントP2(
図6参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達していない場合には、ステップST3においてNoと判定されて、ステップST3を繰り返す。
【0049】
ステップST4において、移動距離Lが移動距離L1以上である場合、すなわち、切断ポイントP2(
図6参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達した場合には、ステップST3においてYesと判定されてステップST5に移行する。
【0050】
ステップST5において、鋸刃制御手段53は、鋸刃ユニット10の移動速度を通常の移動速度よりも小さい速度(中速)に設定する。
【0051】
ステップST6において、鋸刃制御手段53は、移動距離Lが移動距離(L1+L2)以上であるか否かの判定を行う。移動距離Lが移動距離(L1+L2)よりも小さい場合、すなわち、切断ポイントP3(
図7参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達していない場合には、ステップST6においてNoと判定されて、ステップST6を繰り返す。
【0052】
ステップST6において、移動距離Lが移動距離(L1+L2)以上である場合、すなわち、切断ポイントP3(
図7参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達した場合には、ステップST6においてYesと判定されてステップST7に移行する。
【0053】
ステップST7において、鋸刃制御手段53は、鋸刃ユニット10の移動速度を中速の移動速度よりもさらに小さい速度(低速)に設定する。
【0054】
ステップST8において、鋸刃制御手段53は、移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3)以上であるか否かの判定を行う。移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3)よりも小さい場合、すなわち、切断ポイントP4(
図8参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達していない場合には、ステップST8においてNoと判定されて、ステップST8を繰り返す。
【0055】
ステップST8において、移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3)以上である場合、すなわち、切断ポイントP4(
図8参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達した場合には、ステップST8においてYesと判定されてステップST9に移行する。
【0056】
ステップST9において、鋸刃制御手段53は、鋸刃ユニット10の通常の移動速度よりも大きい速度(高速)に再び設定する。
【0057】
その後、ステップST10において、鋸刃制御手段53は、移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3+L4+L5)よりも大きいか否かの判定を行う。移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3+L4+L5)よりも小さい場合、すなわち、切断ポイントP6(
図10参照)に鋸刃11の外周縁部N1が到達していない場合には、ステップST10においてNoと判定されて、ステップST10を繰り返す。
【0058】
ステップST10において、移動距離Lが移動距離(L1+L2+L3+L4+L5)よりも大きい場合、すなわち、切断ポイントP6(
図10参照)を鋸刃11の外周縁部N1が通過した場合には、ステップST10においてYesと判定されてステップST11に移行する。
【0059】
ステップST11において、鋸刃制御手段53は、鋸刃ユニット10の移動及び鋸刃11の回転を停止する制御を行う。これにより、鋸刃切断処理は終了となる。
なお、鋸刃切断処理が終了すると、鋸刃制御手段53は、切断待機位置(初期位置)に鋸刃ユニット10を移動させる。
【0060】
以上説明した本実施形態の鋼材切断方法では、移動速度可変工程により鋸刃ユニット10(鋸刃11)の移動速度を変更できるので、切断時の振動により騒音が増幅され易い部位(ウエブ3a)を切断する際の鋸刃ユニット10(鋸刃11)の移動速度を、他の部位(左右フランジ部3b,3c)の切断時の鋸刃ユニット10(鋸刃11)の移動速度に比べて小さく設定できる。これにより、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。また、騒音が低減するので、作業者の作業環境も向上する。
さらに、振動により生じる騒音を低減できるので、鋸刃11の寿命及びH形鋼3の切断面精度を向上できる。
【0061】
また、H形鋼3のウエブ3aをクランプ装置20で上下方向から挟持してH形鋼3を押さえながら切断できるので、ウエブ3aを切断する際に増幅され易い振動を直接抑えることができる。したがって、移動速度の変更とクランプ装置20による挟持との相乗効果により、振動により生じる騒音をより一層低減できる。
【0062】
また、本実施形態の鋼材切断装置1では、H形鋼3の切断部位に対応して、鋸刃11の移動速度を変更する鋸刃制御手段53を備えるので、切断時の振動により騒音が増幅され易い部位(ウエブ3a)を切断する際の鋸刃11の移動速度を、他の部位(左右フランジ部3b,3c)の切断時の鋸刃11の移動速度に比べて小さく設定できる。これにより、切断時の振動を抑制して騒音を低減することができる。また、切断時間の短縮を図ることも可能である。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、切断モードの一例として移動速度を変更するものを示したがこれに限られることはなく、鋸刃11の回転速度を変更する制御を適宜組み合わせてもよい。つまり、移動速度可変工程は、左右フランジ部3b,3cを含む切断時の鋸刃11の回転速度に比べて、ウエブ3aを含む切断時の鋸刃11の回転速度が小さくなるように制御する構成であってもよい。また、移動速度を変更する制御に代えて、鋸刃11の回転速度を変更する制御のみで、振動により生じる騒音を低減するように構成してもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、適宜の切断ポイント(P1~P6)に対応して鋸刃ユニット10の移動速度を変更するように構成したが、これに限られることはなく、振動の生じ難い一定の低速の移動速度にて切断を行うように構成してもよい。
【0065】
また、前記実施形態では、上側クランプ部21及び下側クランプ部22が作動油で作動するものを示したが、これに限られることはなく、空圧シリンダ等の他のシリンダ機構や、その他のアクチュエーターを適宜用いてもよい。
【0066】
また、上側クランプ部21及び下側クランプ部22は、前記した実施形態よりも左右方向にさらに間隔を空けて配置してもよい。
また、上側クランプ部21は、衝撃吸収部材23を必ずしも備えていなくてもよく、ピストンロッド21bの下端部をウエブ3aの上面に直接当接させる構成でもよい。
【0067】
また、前記実施形態では、鋼材としてH形鋼3を例にして説明したが、これに限られることはなく、ウエブの左右両端部から上下の一方向にフランジ部が延在するC形鋼についても、振動により生じる騒音を効果的に低減した切断を実現できる。この場合にも、ウエブを含む切断時に鋸刃ユニット10の移動速度や鋸刃11の回転速度を変更することにより、本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0068】
また、前記実施形態では、上側クランプ部21及び下側クランプ部22がウエブ3aの左右方向の略中央部でウエブ3aを挟持する例を示したが、これに限られることはなく、H形鋼3の大きさによっては、ウエブ3aの中央部から左右方向にずれた位置で挟持するものであってもよい。
【0069】
また、幅方向クランプ装置は必ずしも設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 鋼材切断装置
3 H形鋼(鋼材)
3a ウエブ
3b,3c 左右フランジ部(フランジ部)
10 鋸刃ユニット
11 鋸刃
20 クランプ装置
21 上側クランプ部
21b ピストンロッド(ロッド)
22 下側クランプ部
23 衝撃吸収部材
S1 切断予定線