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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】ステップル打込工具
(51)【国際特許分類】
   B25C 5/06 20060101AFI20220722BHJP
   B25C 1/02 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B25C5/06 B
B25C1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020010575
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021115664
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2020-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】318017947
【氏名又は名称】西口 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121348
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100114247
【氏名又は名称】奥田 邦廣
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】西口 義明
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-137416(JP,U)
【文献】実開昭54-031981(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 5/06
B25C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材上に敷設した配線をステップルによって固定する際に、作業者が前記ステップルを前記固定部材に打ち込むためのステップル打込工具であって、
前記ステップル打込工具は、
筒型の柄部外筒と、
前記柄部外筒を貫通して前記柄部外筒の長さ方向に延びる貫通シャフトと、
前記貫通シャフトの下端が取り付けられた上面部と、前記上面部の両側に設けられた側面部とを有するコの字型の形状であって、前記ステップルを装着するステップル装着溝が両側の前記側面部にそれぞれ形成されたステップル保持部と、
前記柄部外筒の内部において、前記貫通シャフトの周囲に螺旋状に延びるスプリングコイルとを備え、
前記貫通シャフトは、前記スプリングコイルに力が加わっていないときの前記柄部外筒の下部に対応する前記貫通シャフトの周囲に前記貫通シャフトと一体的に設けられたスプリング受台と、前記スプリング受台の上方の前記貫通シャフトの周囲に前記貫通シャフトと一体的に設けられたスライドストッパとを有し、
前記柄部外筒は、上部に前記貫通シャフトを囲むように設けられたスプリング固定台を有し、
前記スプリングコイルは、前記スプリング固定台と前記スプリング受台とを接続し、
前記作業者が前記柄部外筒を把持して前記貫通シャフトに沿ってスライドさせて前記スプリング固定台を前記スライドストッパに衝突させたときに発生する打撃力を、前記貫通シャフトを介して前記ステップル保持部に伝えることにより、前記ステップル保持部に装着された前記ステップルを前記固定部材に打ち込む、ステップル打込工具。
【請求項2】
前記ステップル保持部の前記ステップル装着溝は前記側面部を貫通していない、請求項1に記載のステップル打込工具。
【請求項3】
前記貫通シャフトは、前記下端の表面に埋め込まれた、前記ステップルの頭頂部を保持するための磁石を備え、前記磁石の表面が前記ステップル保持部の内面側の表面と同一平面になるように、前記ステップル保持部の前記上面部に取り付けられている、請求項1または2に記載のステップル打込工具。
【請求項4】
前記ステップル打込工具は、
前記スプリング固定台の前記貫通シャフトと対向する側面に形成された穴と、
前記穴にバネで固定されたストッパ球と、
前記スプリングコイルに力が加えられていないときの前記ストッパ球の位置に対応する前記貫通シャフトの位置の周囲に前記ストッパ球が嵌まるストッパ溝とをさらに備え、
前記柄部外筒に力が加わっていないときには、前記ストッパ球が前記ストッパ溝に嵌まることによって前記柄部外筒はスライドできないように前記貫通シャフトに固定され、前記作業者が前記柄部外筒を把持して前記ステップル保持部に向かう所定値以上の力を加えたときには、前記ストッパ球は前記ストッパ溝から飛び出し、前記柄部外筒は前記ステップル保持部に向かってスライドする、請求項1から3のいずれかに記載のステップル打込工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線を木材などの固定部材に固定するためのステップルを打ち込むステップル打込工具に関する。
【背景技術】
【0002】
木造住宅の天井裏や壁面などに敷設する屋内配線には、600Vまでの低圧屋内配線であるVVFケーブル( Vinyl insulated Vinyl sheathed Flat-type cable:ビニール絶縁ビニールシース平型ケーブル)が使用される。VVFケーブルは、単線または撚り線の銅線(心線)がポリ塩化ビニルで包まれて絶縁され、さらにその外側はポリ塩化ビニルのシース(外皮)で包まれている。
【0003】
このようなVVFケーブルを木材などに固定する際には、ステップルと呼ばれる留め具が使用される。図13は、ステップル90の形状を示す図である。図13に示すように、ステップル90はコの字型の形状であって、配線を木材に固定するためにハンマーで打つ部分(頭頂部)90aおよび木材に打ち込まれる脚部90bのうち頭頂部90aに近い部分はビニールや樹脂などの保護被膜90cで覆われている。VVFケーブルをステップル90で固定する際には、VVFケーブルを跨いだ状態のステップル90を片手で固定し、もう一方の手にハンマーを持ってステップル90の頭頂部90aを打つ。これにより、ステップル90の脚部90bが木材に打ち込まれ、VVFケーブルは木材に固定される。
【0004】
特許文献1には、片手にステップル打込工具を持ち、配線を挟んだ状態でステップル打込工具の電線挟持部を木材に押し当てる。次に、他方の手に持ったハンマーで打設部を打つことにより、磁石に吸着させたステップルを木材に打ち込む。また、特許文献2には、一方の手でVVFケーブルを木材とステップル打込工具の電線押部との間に挟んで押え、他方の手にハンマーを持って打設部を打つことにより、磁石に吸着させたステップルを木材に打ち込む。このように、いずれの場合も、作業者は、片手でステップル打込工具を固定し、他方の手に持ったハンマーでステップル打込工具の打設部を打つことによって、ステップルを木材に打ち込んでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5961779号公報
【文献】実開平1-66984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
VVFケーブルを敷設する場所は天井裏などの作業性が悪い場所であることが多い。このため、作業者が半身にならなければ手が届かないような狭い場所や、体の安全を確保するために作業者が作業時に片手で自分の体を支える必要があるような場所では、特許文献1および特許文献2に開示された、両手を使わなければならないステップル打込工具は使用できないという問題があった。また、片方の手だけを使用する場合には、まずステップルを木材に差し込んで自立させた後に、ハンマーに持ち替えてステップルを打込まなければならなかった。この場合、ステップルの打込みに時間がかかったり、打ち込み時にステップルを固定することができないために、ステップルが打ち込み時に傾き、傾いた状態で打ち込まれたりすることがあった。また、片方の手でステップルを支えながらハンマーで打ち込む場合には、ステップルを支えている手の指先を誤ってハンマーで叩いてしまうこともあった。
【0007】
そこで、本発明は、両手を使用してステップルを打ち込めないような場所でも、片手だけで安全かつ正確にステップルを打ち込むことができるステップル打込工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、
固定部材上に敷設した配線をステップルによって固定する際に、作業者が前記ステップルを前記固定部材に打ち込むためのステップル打込工具であって、
前記ステップル打込工具は、
筒型の柄部外筒と、
前記柄部外筒を貫通して前記柄部外筒の長さ方向に延びる貫通シャフトと、
前記貫通シャフトの下端が取り付けられた上面部と、前記上面部の両側に設けられた側面部とを有するコの字型の形状であって、前記ステップルを装着するステップル装着溝が両側の前記側面部にそれぞれ形成されたステップル保持部と、
前記柄部外筒の内部において、前記貫通シャフトの周囲に螺旋状に延びるスプリングコイルとを備え、
前記貫通シャフトは、前記スプリングコイルに力が加わっていないときの前記柄部外筒の下部に対応する前記貫通シャフトの周囲に前記貫通シャフトと一体的に設けられたスプリング受台と、前記スプリング受台の上方の前記貫通シャフトの周囲に前記貫通シャフトと一体的に設けられたスライドストッパとを有し、
前記柄部外筒は、上部に前記貫通シャフトを囲むように設けられたスプリング固定台を有し、
前記スプリングコイルは、前記スプリング固定台と前記スプリング受台とを接続し、
前記作業者が前記柄部外筒を把持して前記貫通シャフトに沿ってスライドさせて前記スプリング固定台を前記スライドストッパに衝突させたときに発生する打撃力を、前記貫通シャフトを介して前記ステップル保持部に伝えることにより、前記ステップル保持部に装着された前記ステップルを前記固定部材に打ち込む。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記ステップル装着溝は前記側面部を貫通していない。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記貫通シャフトは、前記下端の表面に埋め込まれた、前記ステップルの頭頂部を保持するための磁石を備え、前記磁石の表面が前記ステップル保持部の内面側の表面と同一平面になるように、前記ステップル保持部の前記上面部に取り付けられている。
【0011】
第4の発明は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、
前記ステップル打込工具は、
前記スプリング固定台の前記貫通シャフトと対向する側面に形成された穴と、
前記穴にバネで固定されたストッパ球と、
前記スプリングコイルに力が加えられていないときの前記ストッパ球の位置に対応する前記貫通シャフトの位置の周囲に前記ストッパ球が嵌まるストッパ溝とをさらに備え、
前記柄部外筒に力が加わっていないときには、前記ストッパ球が前記ストッパ溝に嵌まることによって前記柄部外筒はスライドできないように前記貫通シャフトに固定され、作業者が前記柄部外筒を把持して前記ステップル保持部に向かう所定値以上の力を加えたときには、前記ストッパ球は前記ストッパ溝から飛び出し、前記柄部外筒は前記ステップル保持部に向かってスライドする。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の発明によれば、作業者が柄部外筒を下方にスライドさせることによって、柄部外筒に設けたスライド固定部を貫通シャフトに設けたスプリング受台に勢いよく衝突させ、そのときの打撃力によって、ステップル保持部に保持されたステップルを固定部材に打ち込む。これにより、作業者が半身にならなければ手が届かないような狭い場所や、体の安全を確保するために作業者が片手で自分の体を支える必要があるような場所において、片手だけを使ってステップルを打ち込み、配線を固定することができる。また、ステップルを打ち込む際にステップルを指で支える必要がないので、ハンマーで指先を誤って叩くこともなくなる。
【0013】
上記第2の発明によれば、ステップル装着溝が側面部を貫通していないので、装着したステップルがステップル装着溝内を移動しないように固定できる。これにより、ステップルの打込み位置がずれることを防ぐことができる。
【0014】
上記第3の発明によれば、ステップルの脚部が側面部に形成されたステップル装着溝によって保持されるだけでなく、さらにステップルの頭頂部が磁石によって保持される。これにより、ステップル打込工具は、ステップルをより安定した状態で保持して固定部材に打ち込むことができる。
【0015】
上記第4の発明によれば、ステップル打込工具を使用しないときは、柄部外筒はスライド制御部によって貫通シャフトに固定されている。このため、ステップルを打ち込むときには作業者が柄部外筒に強い力を加えてスライドさせる。これにより、ストッパ球がストッパ溝から飛び出すので、スライド制御部は前記柄部外筒を固定できなくなり、柄部外筒はステップル保持部に向かってスライドし、柄部外筒のスプリング固定台がスライドストッパに勢いよく衝突する。その結果、強い打撃力がステップル保持部に与えられるので、ステップルを迅速に打ち込むことができる。
以上
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係るステップル打込工具の全体構成を示す図である。
図2】ステップル保持部に形成されたステップル装着溝の形状を示す図である。
図3】ステップル打込工具の断面図と、ステップル保持部の底面図である。
図4】作業者が柄部外筒を握ってステップル保持部に向かってスライドさせたときの柄部外筒と貫通シャフトとの関係を示す断面図である。
図5】ステップル打込工具によってステップルを打ち込む前の状態を示す図である。
図6】ステップル打込工具によってステップルを仮打ちしているときの状態を示す図である。
図7】ステップル打込工具を外して仮打ちしたときのステップルの打込状態を示す図である。
図8】VVFケーブルをステップルによって木材に固定した状態を示す図である。
図9】ステップル打込工具を使用して本打ちしたステップルの打込み状態を示す図である。
図10】ステップル打込工具の貫通シャフトの頭頂部をハンマーで打ってステップルを打ち込むことを示す図である。
図11】柄部外筒に設けられたスライド制御部の動作を示す図であり、より詳しくは、(a)はスライド制御部によって柄部外筒の動きが制限されているときの図であり、(b)はスライド制御部による固定が解除されて柄部外筒が自由にスライドできるときの図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係るステップル打込工具のステップル保持部と貫通シャフトを示す断面図と、ステップル保持部の底面図である。
図13】ステップルの形状を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.第1の実施形態>
<1.1 ステップル打込工具の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るステップル打込工具100の全体構成を示す図である。図1に示すように、ステップル打込工具100は、柄部外筒10と、柄部外筒10を貫通して柄部外筒10の長さ方向に延びる貫通シャフト20と、貫通シャフト20の一端に取り付けられ、ステップルを保持するとともに、ステップルを打ち込む際に低圧屋内配線として使用するVVFケーブルを押えて固定するステップル保持部40とを備える。柄部外筒10は作業者が握りやすい形状であればよく、特に筒型が好ましい。また、貫通シャフト20は円柱状であることが好ましい。ステップル保持部40は、断面がコの字型であって、貫通シャフト20が取り付けられた上面部40aと、上面部40aの両側に設けられた側面部40bとによって構成されている。
【0018】
各側面部40bの中央には、上端から下端まで延びるステップル装着溝41が形成されている。このため、ステップル打込工具100によってステップルを打ち込む際に、ステップル装着溝41にステップルの両方の脚部をそれぞれ差し込むことによって、ステップルをステップル保持部40にしっかりと固定することができる。
【0019】
図2は、ステップル保持部40に形成されたステップル装着溝41の形状を示す図である。図2に示すように、ステップル装着溝41は、ステップル保持部40の下方から上方に向かって幅が徐々に狭くなるように形成されている。ステップル保持部40の下端の開口部付近では、ステップル90の頭頂部付近に形成された保護被膜90cよりも広くなっており、さらにステップル90を差し込みやすくするためにテーパが形成されている。ステップル装着溝41の奥に進むにつれてその幅が狭くなり、ステップル装着溝41の上端付近では、保護被膜90cの幅よりも狭くなっている。保護被膜90cはビニールまた樹脂によって形成されているので、ステップル90を押し込むことによって、保護被膜90cが変形し、ステップル装着溝41の奥まで差し込むことができる。これにより、ステップル90はステップル装着溝41にしっかり保持される。次に、ステップル90を仮打ちすることによって木材にしっかりと固定した後に、ステップル90を残してステップル打込工具100だけを外すことができる。例えば、ステップル90の保護被膜90cが形成された部分の直径が約3.3mm程度の場合、ステップル装着溝41の開口部付近の内径を約4mm程度、ステップル装着溝41の奥付近の内径を約3mm程度にすれば良い。
【0020】
図3は、ステップル打込工具100の断面図と、ステップル保持部40の底面図である。図3に示すように、柄部外筒10の長さ方向に貫通シャフト20が貫通している。柄部外筒10の下部に対応する貫通シャフト20の周囲に円形のスプリング受台21が貫通シャフト20と一体的に設けられている。スプリング受台21の直径は、後述するスプリングコイル30の直径よりも大きく、かつ柄部外筒10の内面に接触しない程度の大きさである。スプリング受台21の上方の貫通シャフト20の側面には、貫通シャフト20およびスプリング受台21と一体的に形成され、かつ、直径がスプリングコイル30の直径よりも小さなスライドストッパ22が設けられている。スライドストッパ22の高さについては後述する。なお、スライドストッパ22は必ずしもスプリング受台21と一体的に形成される必要はないが、スプリング受台21よりも上方に形成されている必要がある。
【0021】
柄部外筒10の内面の上端には、貫通シャフト20に向かって延びるスプリング固定台11が設けられている。スプリング固定台11は、柄部外筒10に固定され、貫通シャフト20を囲むように形成されている。このため、作業者が柄部外筒10を握って上下にスライドさせることにより、柄部外筒10を貫通シャフト20に沿って上下方向に動かすことができる。なお、スプリング固定台11の形状は、少なくとも後述するスプリングコイル30の一端を固定することができる形状であれば良いが、後述する理由のために円筒形状がより好ましい。
【0022】
螺旋状のスプリングコイル30は、貫通シャフト20の周囲に配置され、スプリングコイル30の一端はスプリング固定台11に接続され、他端はスプリング受台21に接続されている。スプリングコイル30の長さは、力が加わっていないときには、スプリング受台21とスプリング固定台11との距離と同じである。一方、後述するように、スプリング固定台11をスプリング受台21に近づくようにスライドさせると、スプリングコイル30は縮んでスプリング受台21上に畳まれ、柄部外筒10に加える力を弱めると、スプリングコイル30は反発して伸び、スプリング固定台11および柄部外筒10を元の位置に戻す方向に力を加える。
【0023】
また、図3の底面図に示すように、ステップル装着溝41は、側面部40bの内側に形成され、側面部40bを貫通していない。これは、ステップル装着溝41が側面部40bを貫通していると以下のような問題が発生する可能性があるからである。すなわち、ステップルを装着後に、ステップル打込工具100をVVFケーブル70まで移動させるまでの間に、ステップルが左右のステップル装着溝41に沿って動くことにより、ステップル保持部40をVVFケーブル70の位置に合わせても、ステップルの打込位置が目標位置からずれる場合があること、ステップルを装着後に、VVFケーブル70まで移動させるときには動かなくても、その後ステップル90を打ち込む際に、ステップル保持部40だけが左右にずれてその側面部40bがVVFケーブル70上に移動し、その状態で打ち込みを続けると、VVFケーブル70が傷ついてしまう場合があること、ステップル90の脚部90bの一方が木材の固い位置に、他方が柔らかい位置にそれぞれ打ち込まれる場合、ステップル90が傾いて打ち込まれるので、VVFケーブル70の固定が不完全になる場合があることなどが考えられる。これらの問題点はいずれも、ステップル装着溝41が側面部40bを貫通しないようにしてステップルをしっかり保持すれば解決可能であり、さらにステップル保持部40にステップル90を装着しやすいという利点もある。
【0024】
図4は、作業者が柄部外筒10を握ってステップル保持部40に向かってスライドさせたときの柄部外筒10と貫通シャフト20との関係を示す断面図である。図4に示すように、柄部外筒10を下方にスライドさせると、スプリングコイル30は縮んでスプリング受台21上に畳まれていく。そして、スプリング固定台11の下面がスライドストッパ22の上面に接すると、柄部外筒10はそれ以上下方にスライドできなくなる。そのためには、スライドストッパ22の高さは、スプリングコイル30がスプリング受台21上に畳まれたときのスプリングコイル30の厚みよりも高いことが必要である。これにより、スプリング固定台11の下面がスライドストッパ22の上面と直接接することができる。
【0025】
このため、作業者が柄部外筒10をステップル保持部40に向かって勢いよくスライドさせると、スプリング固定台11がスライドストッパ22に対して勢いよく衝突する。これによって、貫通シャフト20は下方に打撃力を受け、受けた打撃力は貫通シャフト20を介してステップル保持部40に伝わるので、ステップル保持部40は下方に向かう強い力を受ける。その結果、ステップル保持部40のステップル装着溝41に装着されているステップル90の脚部90bが木材に打込まれる。作業者が柄部外筒10に加えていた力を弱めると、柄部外筒10は、スプリングコイル30の反発力によって元の位置まで押し上げられる。このようにして、作業者が柄部外筒10をステップル保持部40に向かってスライドさせることを繰り返すことによって、ステップル90は徐々に木材に打ち込まれていく。
【0026】
<1.2 ステップルの打込方法>
図5は、ステップル打込工具100によってステップル90を打ち込む前の状態を示す図である。図5に示すように、ステップル保持部40の長手方向を、木材80などの固定部材上に配置されたVVFケーブル70の長さ方向として、ステップル保持部40のステップル装着溝41に装着されたステップル90の脚部90bでVVFケーブル70を挟むようにステップル打込工具100をセットする。
【0027】
この状態で、作業者は柄部外筒10を握り、ステップル保持部40に向かって柄部外筒10を勢いよくスライドさせる。これにより、柄部外筒10が動かないようにしていたスライド制御部12(後述)による固定が解除されて、柄部外筒10はステップル保持部40に向かってスライドする。その結果、上記のように、ステップル保持部40のステップル装着溝41に装着されたステップル90の脚部90bが木材80に打ち込まれる。
【0028】
図6は、ステップル打込工具100によってステップル90を仮打ちしているときの状態を示す図である。図6に示すように、柄部外筒10を上下に少なくとも1回以上スライドさせることによってステップル90が木材80に対して自立するまで打ち込み、その後ステップル打込工具100を外す。このように、ステップル打込工具100を使用してステップル90が自立するまで打ち込むことを、本明細書では「仮打ち」という場合がある。
【0029】
図7は、ステップル打込工具を外して仮打ちしたときのステップル90の打込状態を示す図である。図7に示すように、ステップル打込工具を外したときにステップル90の脚部90bの一部が木材80に打ち込まれているが、VVFケーブル70とステップル90の頭頂部90aとの間に隙間があり、VVFケーブル70はまだ十分に木材80に固定されていない。そこで、作業者がハンマー95でステップル90の頭頂部90aを打つ。
【0030】
図8は、VVFケーブル70をステップル90によって木材に固定した状態を示す図である。作業者が木材80に対して自立しているステップル90の頭頂部90aをハンマー95で打つことにより、図8に示すように、ステップル90の脚部90bが十分な深さまで木材80に打ち込まれ、VVFケーブル70は木材80にしっかりと固定される。
【0031】
なお、ハンマーを使用することなく、ステップル打込工具100のステップル保持部400の側面部40bが木材80の表面と接するまでステップル打込工具100を使用してステップル90を打ち込むこともできる。図9は、ステップル打込工具100を使用して本打ちしたステップルの打込み状態を示す図である。図9に示すように、ステップル打込工具100の柄部外筒10を貫通シャフト20に沿って複数回スライドさせることにより、ハンマーを使用しなくてもステップル90を木材80に打ち込むことができる。この場合、ステップル保持部40の側面部40bが木材80の表面と接するまでステップル90が打ち込まれるので、ハンマーを使用しなくてもVVFケーブル70を木材80に固定できる。このため、途中でハンマーに持ち替えてステップル90を打ち込む必要がないので、片手しか入らないような狭い場所であっても、容易にステップル90を打ち込むことができる。このとき、作業者はステップルの打込み状態を確認しにくいので、ステップル90を打込みすぎてしまう場合がある。そこで、ステップル保持部40の側面部40bの高さHをVVFケーブル70の厚みに合わせておけば、側面部40bがストッパとして機能するため、ステップル90は側面部40bの高さH以上に打ち込まれることがない。これにより、ステップル90を打ち込み過ぎたためにステップル90でVVFケーブル70を傷つけてしまうことが防止できる。このように、ステップル打込工具100のステップル保持部400の側面部40bが木材80の表面と接するまでステップル90を打ち込むことを、本明細書では「本打ち」という場合がある。
【0032】
図10は、ステップル打込工具100の貫通シャフト20の頭頂部をハンマー95で打ってステップル90を打ち込むことを示す図である。図10に示すように、VVFケーブル70をステップル保持部40で挟んだ状態で、VVFケーブル70がステップル90で完全に固定されるまで貫通シャフト20の頭頂部をハンマー95で打つ。または、VVFケーブル70をステップル保持部40で挟んで、ステップル90を途中まで打ち込み、その後ステップル打込工具100を外してステップルの頭頂部をハンマーで打つ。いずれの場合も、作業者はステップル打込工具100を片手で保持しながら、他方の手に持ったハンマー95で貫通シャフト20の頭頂部を打たなければならないので、片手しか使えない場所ではステップル90を打ち込めないという問題がある。
【0033】
<1.3 スライド制御部の構成>
作業者が柄部外筒10をステップル保持部40に向かってスライドさせるための力を加えていないときには、柄部外筒10が上下にスライドしないように、スライド制御部12によって柄部外筒10を貫通シャフト20に固定する。図11は、柄部外筒10に設けられたスライド制御部12の動作を示す図であり、より詳しくは、図11(a)はスライド制御部12によって柄部外筒10の動きが制限されているときの図であり、図11(b)はスライド制御部12による固定が解除されて柄部外筒10が自由にスライドできるときの図である。
【0034】
図11(a)に示すように、スライド制御部12は、貫通シャフト20の周囲に形成されたストッパ溝23と、ストッパ溝23に対応してスプリング固定台11の側面に設けられたストッパ穴13とストッパ穴13内に格納可能なストッパ球14とを含む。ストッパ球14は、バネ15によって、スプリング固定台11の側面に設けられたストッパ穴13の底面に固定されている。貫通シャフト20とスプリング固定台11との間隔は数mm程度である。そこで、スライド制御部12では、柄部外筒10をスライドさせる力が加わっていないとき、ストッパ球14の1/3程度がストッパ溝23に嵌まるようにバネ15の長さが調整されている。このようにして、柄部外筒10は貫通シャフト20に固定される。
【0035】
次に、図11(b)に示すように、ユーザが柄部外筒10を握って、ステップル保持部40に向かって勢いよくスライドさせると、バネ15の長さが縮まり、ストッパ球14がストッパ溝23から抜け出してストッパ穴13内に収まる。これにより、柄部外筒10は貫通シャフト20に沿って上下に自由にスライドできるようになるだけでなく、スプリングコイル30がすばやく縮まり、スプリング固定台11がスライドストッパ22に勢いよく衝突するので、貫通シャフト20を介してステップル保持部40により強い打撃力を与えることができる。
【0036】
上記説明では、ストッパ球14が入ったストッパ穴13を含むスライド制御部12を、貫通シャフト20を挟んで対向する位置に1個ずつ設けた場合について説明した。しかし、スライド制御部12をストッパ溝23の周囲に、等間隔で3個以上設けても良い。これにより、柄部外筒10は、3個以上のスライド制御部12によって均等な力でスライドが制御されるので、貫通シャフト20によりしっかりと固定される。このため、柄部外筒10をスライドさせるときにより強い力を加える必要がある。その結果、スプリング固定台11はステップル保持部40に勢いよく衝突してより強い打撃力を与えることができる。さらに、スプリング固定台11の形状を円筒形にすれば、スプリング固定台11の重量がより重くなるので、スプリング固定台11がスライドストッパ22に衝突したときにより強い衝撃力が貫通シャフト20を介してステップル保持部40に与えられる。
【0037】
<1.4 効果>
本実施形態によれば、作業者が半身にならなければ手が届かないような狭い場所や、体の安全を確保するために作業者が片手で自分の体を支える必要があるような場所にVVFケーブル70を固定するときには、本実施形態に係るステップル打込工具100を片手で持って柄部外筒10をスライドさせることにより、ステップル90を途中まで打ち込み、その後ハンマー95に持ち替えて打ち込んだり、ステップル打込工具100だけを使用してステップル90を最後まで打ち込んだりすることができる。また、いずれの場合も、ステップル90を打ち込む際にステップル90を指で支える必要がないので、ハンマー95で指先を誤って叩くこともなくなる。
【0038】
また、ステップル装着溝41がステップル保持部40の側面部40bを貫通していないので、装着したステップル90がステップル装着溝41内を移動しないように固定できる。これにより、ステップル90の打込み位置がずれることを防ぐことができる。
【0039】
ステップル打込工具100を使用しないときは、柄部外筒10はスライド制御部12によって貫通シャフト20に固定されているので、ステップル90を打ち込むときには柄部外筒10により強い力を加える必要がある。このため、柄部外筒10に強い力を加えて柄部外筒10をスライドさせることにより、スプリング固定台11がスライドストッパ22に勢いよく衝突して強い打撃力をステップル保持部40に与えるので、ステップル90を迅速に打ち込むことができる。
【0040】
<1.5 変形例>
ステップル打込工具100によって打込み可能なステップル90の幅は、ステップル保持部40の両側の側面部40bにそれぞれ形成されたステップル装着溝41間の間隔によって決まる。そこで、貫通シャフト20とステップル保持部40にそれぞれネジを切っておき、使用するステップル90の大きさに応じて間隔を変えた複数のステップル保持部40をあらかじめ準備しておく。そして、それらの中から使用するステップル90の幅に対応する間隔を有するステップル保持部40を選び、貫通シャフト20に取り付けて使用しても良い。また、貫通シャフト20とステップル保持部40にそれぞれネジを切る代わりに、図11(a)および図11(b)において説明したスライド制御部12と同様に、貫通シャフト20の周囲に形成されたストッパ溝23を設けるとともに、貫通シャフト20を差し込む貫通孔の側面にストッパ穴13とストッパ穴13内に格納可能なストッパ球14とを設けた、保持制御部を設けても良い。この場合、ステップル保持部40を交換する際には、ステップル保持部40を押えて、貫通シャフト20を勢いよく上に引っ張る。なお、保持制御部の動作は、図11(a)および図11(b)の場合と同様であるので、保持制御部の構成を示す図およびその詳細な説明は省略する。上記構造のいずれであっても、使用するステップル90の幅に応じたステップル装着溝41を有するステップル保持部40に容易に取り換えることができる。なお、ステップル保持部40を取り替える必要がないステップル打込工具では、溶接によって貫通シャフト20をステップル保持部40に固定しても良い。
【0041】
<1.6 第2の実施形態>
第1の実施形態に係るステップル打込工具100では、ステップル90の脚部90bをステップル保持部40の側面部40bに形成されたステップル装着溝41に嵌め込むことによってステップル90を装着している。しかし、ステップル保持部40によってステップル90をより確実に装着するために、磁石60を埋め込んだ貫通シャフト120を使用しても良い。
【0042】
図12は、本発明の第2の実施形態に係るステップル打込工具200のステップル保持部40と貫通シャフト120を示す断面図と、ステップル保持部40の底面図である。図12に示すように、ステップル打込工具200の貫通シャフト120の一端に設けられた穴に磁石60が収納されている。収納された磁石60の表面は、貫通シャフト120の端面と同一平面になるように調整されている。ステップル保持部40の上面部40aの中央には、貫通シャフト120が挿入可能な貫通穴が設けられている。貫通シャフト120をステップル保持部40の上面部40aに取り付けたとき、貫通シャフト120の端面に埋め込まれた磁石60の表面がステップル保持部40の上面部40aの底面と同一平面になるように、貫通シャフト120をステップル保持部40に固定する。このため、ステップル保持部40を底面側から見ると、その底面の中心部に磁石60の表面が視認される。
【0043】
このようなステップル保持部40のステップル装着溝41にステップル90を嵌め込むと、ステップル90の脚部90bが側面部40bに形成されたステップル装着溝41によって保持されるだけでなく、さらに鉄製のステップル90の頭頂部90aが磁石60によって保持される。これにより、ステップル打込工具200は、ステップル90をより安定した状態で保持することができるので、ステップル90を木材80に容易に垂直に打ち込むことができる。
【符号の説明】
【0044】
10 … 柄部外筒
11 … スプリング固定台
12 … スライド制御部
13 … ストッパ穴
14 … ストッパ球
15 … バネ
20、120 … 貫通シャフト
21 … スプリング受台
22 … スライドストッパ
23 … ストッパ溝
30 … スプリングコイル
40 … ステップル保持部
40a … 上面部
40b … 側面部
41 … ステップル装着溝
60 … 磁石
70 … VVFケーブル
80 … 木材
90 … ステップル
100、200 … ステップル打込工具
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