(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】フローサイトメーター及び粒子検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
G01N15/14 A
G01N15/14 D
(21)【出願番号】P 2018067098
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】林 智也
(72)【発明者】
【氏名】松本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山田 和宏
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-167582(JP,A)
【文献】特開昭61-052714(JP,A)
【文献】特開2015-227805(JP,A)
【文献】特開2016-217888(JP,A)
【文献】特表2008-533440(JP,A)
【文献】特開平09-126989(JP,A)
【文献】特表2009-522586(JP,A)
【文献】特開2008-271905(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198470(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00/-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を液体が流れるフローセルと、
前記フローセル内部に液体を送液する送液ユニットと、
前記フローセル内部を流れる液体の流速に関する情報を取得する制御部と、
前記フローセル内部を流れる液体に光を照射する光源と、
前記光を照射された前記液体中の粒子から生じた光を検出する第1検出器と、
前記光を照射された前記液体中の粒子から生じた光を、光学格子を介して、変調光として検出する第2検出器と、
を備え、
前記制御部は、前記第2検出器が検出した前記変調光の周期に基づいて前記流速に関する情報を取得し、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記送液ユニットの送液条件を変更する、
フローサイトメーター。
【請求項2】
前記制御部が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記第1検出器の検出条件をさらに変更する、請求項1に記載のフローサイトメーター。
【請求項3】
前記制御部が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記送液ユニットの送液条件又は前記第1検出器の検出条件を選択的に変更する、請求項2に記載のフローサイトメーター。
【請求項4】
前記制御部が、
取得した前記流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、前記送液ユニットの送液条件を変更し、
取得した前記流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、前記第1検出器の検出条件を変更する、
請求項2又は3に記載のフローサイトメーター。
【請求項5】
前記制御部が、
取得した前記流速の測定値が前記流速の基準値より大きく、前記差分が前記所定の値より大きい場合、前記送液ユニットの前記フローセルに液体を送液する送液量を低下させ、
取得した前記流速の測定値が前記流速の基準値より小さく、前記差分が前記所定の値より大きい場合、前記送液ユニットの前記フローセルに液体を送液する送液量を上昇させる、
請求項4に記載のフローサイトメーター。
【請求項6】
前記第1検出器が、前記フローセル内部を流れる粒子から生じた光を光電変換する光電変換素子を備える、請求項1から5のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項7】
前記制御部が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記第1検出器の感度をさらに変更する、請求項1から6のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項8】
前記光を照射された前記液体中の粒子から生じる光を集光するレンズをさらに備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項9】
前記制御部が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記レンズが形成する前記粒子の像の倍率をさらに変更する、請求項8に記載のフローサイトメーター。
【請求項10】
前記制御部が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記光源が発する光の強度をさらに変更する、請求項1から9のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項11】
前記第1検出器が、前記フローセル内部を流れる粒子の画像を撮像する、請求項1から10のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項12】
前記第1検出器が、TDI(Time Delay Integration)方式により前記フローセル内部を流れる粒子の画像を撮像する、請求項1から11のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項13】
前記第1検出器が、取得した前記流速に関する情報に基づいて、スキャン速度を設定する、請求項12に記載のフローサイトメーター。
【請求項14】
前記制御部が、前記フローセル内部を流れる粒子の光学特性に基づき、前記流速に関する情報を算出する、請求項1から13のいずれか1項に記載のフローサイトメーター。
【請求項15】
フローセル内部に液体を送液し、
光を照射された前記液体中の粒子から生じた光を、光学格子を介して、変調光として検出し、
前記変調光の周期に基づいて、前記フローセル内部を流れる液体の流速に関する情報を取得し、
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記フローセル内部に液体を送液するための送液条件を変更し、
前記フローセル内部を流れる液体に光を照射し、
前記光を照射された前記液体中の粒子から生じた光を検出する、
粒子検出方法。
【請求項16】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記粒子から生じた光を検出する検出条件をさらに変更する、請求項
15に記載の粒子検出方法。
【請求項17】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記送液条件又は前記検出条件を選択的に変更する、請求項
16に記載の粒子検出方法。
【請求項18】
取得した前記流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、前記送液条件を変更し、
取得した前記流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、前記検出条件を変更する、
請求項
16又は
17に記載の粒子検出方法。
【請求項19】
取得した前記流速の測定値が前記流速の基準値より大きく、前記差分が前記所定の値より大きい場合、前記フローセル内部に液体を送液する送液量を低下させ、
取得した前記流速の測定値が前記流速の基準値より小さく、前記差分が前記所定の値より大きい場合、前記フローセル内部に液体を送液する送液量を上昇させる、
請求項
18に記載の粒子検出方法。
【請求項20】
前記液体中の粒子から生じた光を光電変換素子で光電変換する、請求項
15から
19のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項21】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記液体中の粒子から生じた光を検出するための検出器の感度をさらに変更する、請求項
15から
20のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項22】
前記光を照射された前記液体中の粒子から生じる光をレンズで集光する、請求項
15から
21のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項23】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記レンズが形成する前記粒子の像の倍率をさらに変更する、請求項
22に記載の粒子検出方法。
【請求項24】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記フローセル内部に照射される光の強度をさらに変更する、請求項
15から
23のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項25】
前記粒子から生じた光を検出することにおいて、前記フローセル内部を流れる粒子の画像を撮像する、請求項
15から
24のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項26】
TDI(Time Delay Integration)方式により前記フローセル内部を流れる粒子の画像を撮像する、請求項
15から
25のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【請求項27】
取得した前記流速に関する情報に基づいて、前記液体中の粒子から生じた光を検出するための検出器のスキャン速度を設定する、請求項
26に記載の粒子検出方法。
【請求項28】
前記フローセル内部を流れる粒子の光学特性に基づき、前記流速に関する情報を算出する、請求項
15から
27のいずれか1項に記載の粒子検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローサイトメーター及び粒子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞及び微生物等の粒子を含む生物サンプル液の解析に、フローサイトメーターが広く用いられている。フローサイトメーターでは、透明なフローセル内部を流れる生物サンプル液中の粒子から生じた光が検出される。フローセル内部においては、生物サンプル液等のサンプル液の流れと、シース液の流れとが層流をなしている。フローセル内部に粒子を一つずつ流すことにより、サンプル液中の粒子の一つ一つを光学的に解析することが可能である。
【0003】
特許文献1は、フローセル内部の粒子に光を照射し、粒子から生じた光を光学格子で変調し、変調光の検出周期に基づいて、フローセル内部を流れる粒子の流速を算出することを開示している。算出された粒子の速度に、電荷結合素子(CCD)アレイにおける電荷転送タイミングを同期させて粒子を撮像することにより、明るく、SN比の高い粒子の画像を取得することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フローセル内部を流れる粒子を光学的に検出する際には、フローセルに向けて照射された光を粒子が横切る時間が露光時間に該当する。そのため、フローセル内部を流れる粒子の速度が速ければ、粒子から生じる光の強度は低くなり、粒子から生じる光を検出する検出器から得られる信号も弱くなる。また、フローセル内部を流れる粒子の速度が遅ければ、粒子から生じる光の強度は強くなり、粒子から生じる光を検出する検出器から得られる信号も強くなる。このように、フローサイトメーターにおいて、検出器から得られる信号の強さは、粒子の流速に影響される。
【0006】
しかし、検出器から得られる信号の強さが測定する粒子ごとに変化するのは、粒子の分析に影響を与えるため好ましくない。例えば、TDI(Time Delay Integration)方式で粒子の画像を撮像するフローサイトメーターにおいては、撮像された画像の輝度が流速に応じて変化してしまうため、粒子ごとに一定の明るさの画像を得ることが困難となる。本発明者らの知見によれば、フローセル内部を流れる液体の流速は、気温、装置の温度、液体の温度、液体の粘度、及び供給チャンバーにおける液体の液面の変化等に影響される。例えばフローセルの周囲の温度が15℃から30℃まで上昇すると、フローセルを流れる液体の粘度が低下し、フローセルを流れる液体の流速が、2μL/秒程度から7μL/秒程度まで上昇することもある。
【0007】
本発明は、粒子から生じる光の検出がフローセル内部を流れる液体の流速の変化の影響を受けにくいフローサイトメーター及び粒子検出方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、内部を液体が流れるフローセル10と、フローセル10内部に液体を送液する送液ユニット40と、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得する制御部300と、フローセル10内部を流れる液体に光を照射する光源121と、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出する検出器162と、を備え、制御部300が、流速に関する情報に基づいて、送液ユニット40の送液条件を変更する、フローサイトメーターが提供される。
【0009】
上記のフローサイトメーターによれば、流速に関する情報に基づいて、制御部300が送液ユニット40の送液条件を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0010】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、検出器162の検出条件をさらに変更してもよい。
【0011】
上記のフローサイトメーターによれば、流速に関する情報に基づいて、制御部300が検出器162の検出条件を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0012】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、送液ユニット40の送液条件又は検出器162の検出条件を選択的に変更してもよい。
【0013】
上記のフローサイトメーターによれば、流速に関する情報に基づいて、送液ユニット40の送液条件又は検出器162の検出条件を選択的に変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0014】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、取得した流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、送液ユニット40の送液条件を変更し、取得した流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、検出器162の検出条件を変更してもよい。
【0015】
上記のフローサイトメーターによれば、流速の測定値と流速の基準値との差分が大きい場合、送液ユニット40の送液条件を変更して流速を変化させ、流速を基準値に近づけることが可能である。また、流速の測定値と流速の基準値との差分が送液条件の変更では減らすことが困難であるほど小さい場合は、検出器162の検出条件を変更することによって、粒子の検出に対する流速の差分の影響を抑制することが可能である。
【0016】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より大きい場合、送液ユニット40のフローセル10に液体を送液する送液量を低下させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より大きい場合、送液ユニット40のフローセル10に液体を送液する送液量を上昇させてもよい。
【0017】
上記のフローサイトメーターによれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて送液ユニット40のフローセル10に液体を送液する送液量を変化させることによって、流速を基準値に近づけることが可能である。
【0018】
上記のフローサイトメーターにおいて、検出器162が、フローセル10内部を流れる粒子から生じた光を光電変換する光電変換素子を備えていてもよい。制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、検出器162の感度をさらに変更してもよい。制御部300が、取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、検出器162の感度を上昇させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、検出器162の感度を低下させてもよい。
【0019】
上記のフローサイトメーターによれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて検出器162の感度を変化させることによって、粒子から生じた光を検出する検出器162から得られる信号の強さの変動を抑制することが可能である。
【0020】
上記のフローサイトメーターが、光を照射された液体中の粒子から生じる光を集光するレンズ137をさらに備えていてもよい。制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、レンズ137が形成する粒子の像の倍率をさらに変更してもよい。制御部300が、取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、レンズ137が形成する粒子の像の倍率を低下させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、レンズ137が形成する粒子の像の倍率を上昇させてもよい。
【0021】
上記のフローサイトメーターによれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて粒子の像の倍率を変化させることによって、粒子の像の光強度の変動を抑制することが可能である。
【0022】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、光源121が発する光の強度をさらに変更してもよい。制御部300が、取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、光源121が発する光の強度を上昇させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、光源121が発する光の強度を低下させてもよい。
【0023】
上記のフローサイトメーターによれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて光源121が発する光の強度を変化させることによって、粒子から生じる光の強度の変動を抑制することが可能である。
【0024】
上記のフローサイトメーターにおいて、検出器162が、フローセル10内部を流れる粒子の画像を撮像してもよい。検出器162が、TDI(Time Delay Integration)方式によりフローセル10内部を流れる粒子の画像を撮像してもよい。検出器162が、取得した流速に関する情報に基づいて、スキャン速度を設定してもよい。
【0025】
上記のフローサイトメーターによれば、例えば粒子が染色体の特定の遺伝子座を蛍光標識された細胞である場合に、細胞の蛍光画像の輝度に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0026】
上記のフローサイトメーターにおいて、制御部300が、フローセル10内部を流れる粒子の光学特性に基づき、流速に関する情報を算出してもよい。
【0027】
上記のフローサイトメーターによれば、フローセル10内部を流れる液体の流速を正確に算出することが可能である。
【0028】
また、本発明の態様によれば、内部を液体が流れるフローセル10と、フローセル10内部に液体を送液する送液ユニット40と、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得する制御部300と、フローセル10内部を流れる液体に光を照射する光源121と、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出する検出器162と、を備え、制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、検出器162の感度を変更する、フローサイトメーターが提供される。
【0029】
上記のフローサイトメーターによれば、流速に関する情報に基づいて、制御部300が検出器162の感度を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0030】
また、本発明の態様によれば、内部を液体が流れるフローセル10と、フローセル10内部に液体を送液する送液ユニット40と、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得する制御部300と、フローセル10内部を流れる液体に光を照射する光源121と、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出する検出器162と、を備え、制御部300が、取得した流速に関する情報に基づいて、光源121が発する光の強度を変更する、フローサイトメーターが提供される。
【0031】
上記のフローサイトメーターによれば、流速に関する情報に基づいて、光源121が発する光の強度を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0032】
さらに、本発明の態様によれば、フローセル10内部に液体を送液し、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得し、取得した流速に関する情報に基づいて、フローセル10内部に液体を送液するための送液条件を変更し、フローセル10内部を流れる液体に光を照射し、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出する、粒子検出方法が提供される。
【0033】
上記の粒子検出方法によれば、流速に関する情報に基づいて、フローセル10内部に液体を送液するための送液条件を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0034】
上記の粒子検出方法において、取得した流速に関する情報に基づいて、粒子から生じた光を検出する検出条件をさらに変更してもよい。
【0035】
上記の粒子検出方法によれば、流速に関する情報に基づいて、粒子から生じた光を検出する検出条件を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0036】
上記の粒子検出方法において、取得した流速に関する情報に基づいて、送液条件又は検出条件を選択的に変更してもよい。
【0037】
上記の粒子検出方法によれば、流速に関する情報に基づいて、送液条件又は検出条件を選択的に変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0038】
上記の粒子検出方法において、取得した流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、送液条件を変更し、流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、検出条件を変更してもよい。
【0039】
上記の粒子検出方法によれば、流速の測定値と流速の基準値との差分が大きい場合、フローセル10内部に液体を送液するための送液条件を変更して流速を変化させ、流速を基準値に近づけることが可能である。また、流速の測定値と流速の基準値との差分がフローセル10内部に液体を送液するための送液条件の変更では減らすことが困難であるほど小さい場合は、粒子から生じた光を検出するための条件を変更することによって、粒子の検出に対する流速の差分の影響を抑制することが可能である。
【0040】
上記の粒子検出方法において、取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より大きい場合、フローセル10に液体を送液する送液量を低下させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より大きい場合、フローセル10に液体を送液する送液量を上昇させてもよい。
【0041】
上記の粒子検出方法によれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいてフローセル10に液体を送液する送液量を変化させることによって、流速を基準値に近づけることが可能である。
【0042】
上記の粒子検出方法において、フローセル10内部を流れる液体中の粒子から生じた光を光電変換素子で光電変換してもよい。取得した流速に関する情報に基づいて、液体中の粒子から生じた光を検出するための検出器162の感度をさらに変更してもよい。取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、光を検出するための検出器162の感度を上昇させ、流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、検出器162の感度を低下させてもよい。
【0043】
上記の粒子検出方法によれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて検出器162の感度を変化させることによって、粒子から生じた光を検出する検出器162から得られる信号の強さの変動を抑制することが可能である。
【0044】
上記の粒子検出方法において、光を照射された液体中の粒子から生じる光をレンズ137で集光してもよい。取得した流速に関する情報に基づいて、レンズ137が形成する粒子の像の倍率をさらに変更してもよい。取得した流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、レンズが形成する粒子の像の倍率を低下させ、取得した流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、レンズが形成する粒子の像の倍率を上昇させてもよい。
【0045】
上記の粒子検出方法によれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいて粒子の像の倍率を変化させることによって、粒子の像の光強度の変動を抑制することが可能である。
【0046】
上記の粒子検出方法において、取得した流速に関する情報に基づいて、フローセル10内部に照射される光の強度をさらに変更してもよい。流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、フローセル10内部に照射される光の強度を上昇させ、流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、フローセル10に照射される光の強度を低下させてもよい。
【0047】
上記の粒子検出方法によれば、流速の測定値と流速の基準値との差分のフィードバックに基づいてフローセル10に照射される光の強度を変化させることによって、粒子から生じる光の強度の変動を抑制することが可能である。
【0048】
上記の粒子検出方法の粒子を検出することにおいて、フローセル10内部を流れる粒子の画像を撮像してもよい。TDI(Time Delay Integration)方式によりフローセル10内部を流れる粒子の画像を撮像してもよい。取得した流速に関する情報に基づいて、液体中の粒子から生じた光を検出するための検出器のスキャン速度を設定してもよい。
【0049】
上記の粒子検出方法によれば、例えば粒子が染色体の特定の遺伝子座を蛍光標識された細胞である場合に、細胞の蛍光画像の輝度に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0050】
上記の粒子検出方法において、フローセル10内部を流れる粒子の光学特性に基づき、流速に関する情報を算出してもよい。
【0051】
上記の粒子検出方法によれば、フローセル10内部を流れる液体の流速を正確に測定することが可能である。
【0052】
また、本発明の態様によれば、フローセル10内部に液体を送液し、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得し、フローセル10内部を流れる液体に光を照射し、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出し、取得した流速に関する情報に基づいて、液体中の粒子から生じた光を検出するための検出器162の感度を変更する、粒子検出方法が提供される。
【0053】
上記の粒子検出方法によれば、流速に関する情報に基づいて、検出器162の感度を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【0054】
また、本発明の態様によれば、フローセル10内部に液体を送液し、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得し、フローセル10内部を流れる液体に光を照射し、光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出し、取得した流速に関する情報に基づいて、フローセル10内部に照射される光の強度を変更する、粒子検出方法が提供される。
【0055】
上記の粒子検出方法によれば、流速に関する情報に基づいて、フローセル10内部に照射される光の強度を変更することにより、粒子の検出に対する流速の変化の影響を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、粒子から生じる光の検出がフローセル内部を流れる液体の流速の変化の影響を受けにくいフローサイトメーター及び粒子検出方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】実施形態に係るフローサイトメーターの流路及び光学系等を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係るフローサイトメーターの光学系等を示す模式図である。
【
図3】実施形態に係る光学格子を示す模式図である。
【
図4】フローセル内部を流れる粒子の流速と、撮像された粒子の画像の輝度と、の関係を模式的に示すグラフである。
【
図5】実施形態に係るフローサイトメーターの流路等を示す模式図である。
【
図6】実施形態に係るフローサイトメーターの流路等を示す模式図である。
【
図7】実施形態に係る粒子検出方法を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る粒子検出方法を示すフローチャートの続きである。
【
図9】実施形態に係る粒子検出方法を示すフローチャートの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0059】
以下に示す実施形態は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法(FISH法)における蛍光検出に本発明を適用したものである。FISH法の前処理においては、細胞の染色体内に存在する標的配列に、標的配列と相補的な配列を有する核酸配列を含み、蛍光色素により標識されたプローブがハイブリダイズされる。染色体は、標的配列ごとに異なる蛍光色素で標識された複数のプローブで処理されてもよい。例えば、染色体において標的配列を含む遺伝子の転座が生じると、染色体上において蛍光の輝点が観察される位置が正常な位置から変化する。そのため、FISH法によって、転座を検出することが可能である。また、FISH法によれば、転座のみならず、欠失、逆位、及び重複等の染色体異常を検出可能である。
【0060】
実施形態に係るフローサイトメーターは、
図1に示すように、内部を液体が流れるフローセル10と、フローセル10内部に液体を送液する送液ユニット40と、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得する制御部300と、フローセル10内部を流れる液体に光を照射する光源121と、光を照射された液体中の粒子を検出する検出器162と、を備える。実施形態に係るフローサイトメーターにおいては、制御部300が、流速に関する情報に基づいて、送液ユニット40の送液条件を変更する。制御部300は、中央演算処理装置(CPU)により構成される。
【0061】
送液ユニット40は、シース液をフローセル10に送液するシース液送液ユニット40A、及び粒子を含むサンプル液をフローセル10に送液するサンプル液送液ユニット40Bを含む。
【0062】
シース液送液ユニット40Aは、シース液を格納するチャンバー41、電気制御信号を受けてチャンバー41に気圧を与える電空変換器42、及び電空変換器42の気圧源であるコンプレッサー43を備える。電空変換器42は、入力された電気信号(電流又は電圧)に基づいて排出する空気圧を調整することが可能な素子である。気圧がチャンバー41内に加えられると、チャンバー41内のシース液が、シース液流路54を介して、フローセル10に送液される。なお、シース液送液ユニット40Aは、シリンジポンプであってもよいし、ダイヤフラムポンプであってもよい。
【0063】
サンプル液送液ユニット40Bは、例えば、シリンジ21、シリンジ21に挿入されたプランジャー及びピストン等の作動子22、及び作動子22を移動させるモーター等の駆動装置23を備える。駆動装置23が作動子22を押すと、サンプル液が、サンプル液流路53を介して、フローセル10に送液される。なお、サンプル液送液ユニット40Bは、ダイヤフラムポンプであってもよいし、コンプレッサー等の圧力原に接続された電空変換器で発せられる気圧を用いて、サンプル液を送液してもよい。
【0064】
シース液送液ユニット40Aは、サンプル液送液ユニット40Bにもシース液を送液し、フローセル10内部において、シース液の圧力とサンプル液の圧力とを平衡にしてもよい。
【0065】
サンプル液に含まれる粒子は、フローサイトメーターでその特性が解析されるサンプル粒子、及びフローセル10内部を流れる粒子の流速を監視するための参照粒子のいずれかである。本実施形態において、サンプル粒子は、複数のプローブで処理された細胞である。参照粒子は、サンプル粒子とは異なる粒子であり、例えば非生物粒子であり、ラテックス等の重合体や、無機物等からなる。参照粒子は、例えば、光を照射された場合に、サンプル粒子よりも強い散乱光を生じさせる光学特性を有する。サンプル粒子と参照粒子の両方を含むサンプル液がフローセル10に供給されてもよいし、サンプル粒子を含むサンプル液と参照粒子を含むサンプル液が別々にフローセル10に供給されてもよい。
【0066】
フローセル10は、石英等の透明材料からなる。フローセル10内部において、サンプル液の流れと、シース液の流れとは層流を形成し、シース液の流れに取り囲まれるようにしてサンプル液が流れる。フローセル10を流れたサンプル液とシース液は、廃液流路55を経由して廃液流路55の端部から廃液チャンバー90内に放出される。例えば、廃液流路55の端部は、大気に接している。
【0067】
図2に示すように、実施形態に係るフローサイトメーターは、フローセル10内部を流れる参照粒子の光学特性に基づき、粒子の流速を測定可能な光学系を備える。なお、
図2において、フローセル10は断面で示されている。フローセル10内部を流れる参照粒子の流速を測定可能な光学系は、フローセル10に光を照射する光源121Aを備える。光源121Aとしては、レーザー及び発光ダイオード等が使用可能である。光源121Aから照射された光は、例えば、レンズ131によって集光され、ダイクロイックミラー141、142を透過してフローセル10に集光される。フローセル10内部を流れる参照粒子が、光が照射されると反応光としてミー散乱光を生じさせる光学特性を有する場合、光源121Aが発した光の波長と同じ波長を有する散乱光が粒子から生じる。散乱光は、例えばレンズ135で集光され、ダイクロイックミラー143で反射される。
【0068】
ダイクロイックミラー143で反射される散乱光の光路には、光学格子151が配置されている。光学格子151は、
図3に示すように、交互に配置された、複数の透明部分152a、152b、152c・・・と、複数の不透明部分153a、1523、153c・・・とを備える。複数の透明部分152a・・・と、複数の不透明部分153a・・・とのそれぞれは、例えば矩形状である。光学格子151のピッチは一定であり、複数の透明部分152a・・・と、複数の不透明部分153a・・・とのそれぞれの幅は、例えば、
図2に示すフローセル10内部を流れる参照粒子の大きさに近似する。
【0069】
フローセル10内部で光源121Aが発した光を参照粒子が横切ると、参照粒子から生じた散乱光は、
図3に示す光学格子151の複数の透明部分152a・・・と、複数の不透明部分153a・・・とを交互に横切る。そのため、散乱光の強度は、光学格子151によって変調される。光学格子151で生じた散乱光の変調光は、
図2に示すレンズ136で集光され、流速検出器161で検出される。流速検出器161としては、光電子増倍管及びフォトダイオード等の光電変換素子を備える光検出器が使用可能である。
【0070】
流速検出器161が変調光を検出する周期は、フローセル10内部を流れる粒子の流速に比例する。流速検出器161は、
図1に示す制御部300に接続されている。制御部300は、例えば、高速フーリエ変換(FFT)によって周期fを特定し、下記(1)式に基づいて、フローセル10内部を流れる粒子の流速vの測定値を流速に関する値として算出する。
v=fp (1)
(1)式において、pは光学格子151のピッチを表す。流速の値は、平均値であってもよい。平均値は、移動平均により算出されてもよい。
【0071】
なお、流速を測定する機器の構成は、上記に限定されない。例えば、フローセル10に照射された光のフローセル10内部における既知のビーム径をDB、参照粒子の既知の直径をDS、参照粒子がビーム径を横切った時に生じる蛍光のパルス幅をPWとして、下記(2)式に基づいて、フローセル10内部を流れる粒子の流速vを算出してもよい。
v=(DB+DS)/PW (2)
この場合、光学格子151は不要であり、制御部300は、流速検出器161が検出した反応光のパルス幅に基づいて、流速vを算出してもよい。
【0072】
あるいは、流速を測定する機器は、少なくとも2つの粒子検出器を備えていてもよい。この場合、制御部300は、2つの粒子検出器の間の既知の距離と、上流側の粒子検出器で参照粒子が検出されてから下流側の粒子検出器で参照粒子が検出されるまでの時間に基づいて、粒子の流速vを算出してもよい。またあるいは、流速を測定する機器は、フローセル10の出口側に接続された流路に設けられた流量計を備えていてもよい。この場合、制御部300は、流量計が計測した流量と、フローセル10の口径と流路の口径の差等に基づき、粒子の流速vを算出してもよい。
【0073】
実施形態に係るフローサイトメーターは、
図2に示すように、フローセル10内部を流れる細胞の画像を撮像可能な光学系を備える。フローセル10内部を流れる細胞の画像を撮像可能な光学系は、上述した光源121Aに加えて、光源121B、121C、121Dをさらに備える。
【0074】
光源121Aは、波長λE1の光を照射する。光源121Aは、照射する光の強度を調整可能である。光源121Aが照射した波長λE1の光で励起される蛍光色素で細胞内の標的配列が標識されていた場合、フローセル10内部を流れる細胞の標的配列を含む遺伝子座から波長λF1の蛍光が発せられる。波長λF1は、例えば、緑色の波長である。
【0075】
光源121Bは、波長λE1と異なる波長λE2の光を照射する。光源121Bは、照射する光の強度を調整可能である。光源121Bが照射した光は、例えばレンズ132で集光され、ダイクロイックミラー141でフローセル10の方向に反射され、ダイクロイックミラー142を透過してフローセル10に到達する。光源121Bが照射した波長λE2の光で励起される蛍光色素で細胞内の標的配列が標識されていた場合、フローセル10内部を流れる細胞の標的配列を含む遺伝子座から波長λF2の蛍光が発せられる。波長λF2は、例えば、赤色の波長である。
【0076】
光源121Cは、波長λE1~E2と異なる波長λE3の光を照射する。光源121Cは、照射する光の強度を調整可能である。光源121Cが照射した光は、例えばレンズ133で集光され、ダイクロイックミラー142でフローセル10の方向に反射され、フローセル10に到達する。光源121Cが照射した波長λE3の光で励起される蛍光色素で細胞内の標的配列が標識されていた場合、フローセル10内部を流れる細胞の標的配列を含む遺伝子座から波長λF3の蛍光が発せられる。波長λF3は、例えば、青色の波長である。
【0077】
光源121Dは、波長λE1~E3と異なる波長λE4の光を照射する。光源121Dは、照射する光の強度を調整可能である。波長λE4の光は、例えば、可視光である。光源121Dが照射した光は、例えばレンズ134で集光され、フローセル10に到達する。波長λE4の光は、フローセル10内部の粒子を透過する。そのため、粒子において、波長λE4の透過光が生じる。
【0078】
フローセル10内部の粒子から生じた波長λF1~F3の蛍光と、波長λE4の透過光とは、レンズ135を経てダイクロイックミラー143を透過し、光学ユニット144に到達する。光学ユニット144においては、例えば、4枚のダイクロイックミラーが組み合わされている。4枚のダイクロイックミラーは、波長λF1~F3の蛍光と、波長λE4の透過光とを、互いにわずかに異なる角度で検出器162に向けて反射する。光学ユニット144で反射された波長λF1~F3の蛍光と、波長λE4の透過光とは、レンズ137で集光され、検出器162の受光面の異なる位置に到達する。レンズ137は、受光面における粒子の像の倍率を変更するための複数のレンズから選択されて配置されてもよい。検出器162は、受光面に、複数の光電変換素子を備える。複数の光電変換素子のそれぞれは、蛍光及び透過光を電気信号に変換する。複数の光電変換素子のそれぞれは、感度を調整可能である。
【0079】
検出器162は、例えば、TDI撮像装置であり、光電変換素子アレイとしてCCDアレイを備える。検出器162は、
図1に示す制御部300から、フローセル10内部を流れる粒子の流速の値の情報を受け取る。
図2に示す検出器162は、受け取った流速の値にCCDアレイにおけるスキャン速度(電荷転送速度)を同期させて、波長λ
F1~
F3の蛍光に対応する3つの蛍光画像と、波長λ
E4の透過光に対応する明視野画像とを生成する。蛍光画像の輝度は、検出器162において蛍光から光電変換された電気信号の強さに比例する。
【0080】
図1に示す制御部300は、粒子の流速の測定値と、流速の基準値との差分の絶対値を算出する。流速の基準値は、例えば、撮像された蛍光の輝度が適切な所定の値になる流速に基づいて設定される。なお、本開示においては、「差分の絶対値」を単に「差分」と呼ぶ。粒子の流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、制御部300は、送液ユニット40の送液条件を変更する。粒子の流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、検出器162の検出条件を変更してもよいし、光源121の発光条件を変更してもよいし、及びレンズ137の倍率条件を変更してもよい。
【0081】
送液ユニット40は、送液条件を変更することにより、フローセル10内部を流れる細胞の流速を大きく変更することができるが、流速を細かく変更するには適していない場合がある。そのため、流速の差分の所定の値は、例えば、送液ユニット40が送液条件を変更することによって変更することができる流速の変化幅の最小値に基づいて設定される。
【0082】
また、検出器162の検出条件、光源121の発光条件、及びレンズ137の倍率条件等のそれぞれを変更することにより、細かく蛍光画像の輝度を変更することができるが、検出条件、発光条件、及び倍率条件のそれぞれは大きく変更することが困難である場合がある。そのため、流速の差分の所定の値は、例えば、検出条件、発光条件、及び倍率条件を変更することによって変更することができる蛍光画像の輝度の変化幅の最大値に基づいて設定されてもよい。
【0083】
流速の基準値及び流速の差分の所定の値を示す情報は、制御部300が備えるメモリや、コンピューター300に接続された記憶装置351に保存されている。また、この情報は、例えば、ユーザからの入力により変更されてもよい。
【0084】
送液ユニット40の送液条件とは、例えば、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する単位時間あたりの送液量、及びサンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する単位時間あたりの送液量である。または、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する圧力、及びサンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する圧力であってもよい。蛍光画像の輝度は、検出器162で得られる電気信号の強さに比例し、検出器162で得られる電気信号の強さは、フローセル10内部を流れる液体の流速に反比例する。したがって、
図4に示すように、蛍光画像の輝度は、フローセル10内部を流れる液体の流速に反比例する。
図1に示すフローセル10内部を流れる液体の流速は、送液ユニット40が送液する送液量、または液体に加えられる圧力に比例する。
【0085】
そのため、例えば、流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より大きい場合、制御部300は、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する送液量、及びサンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する送液量を低下させる。流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より大きい場合、制御部300は、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する送液量、及びサンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する送液量を上昇させる。このような制御により、制御部300は、フローセル10内部を流れる粒子の流速を基準値に近づけて、蛍光画像の輝度を適切な値に近づけ、輝度の変動を抑制する。
【0086】
通常、シース液の流量はサンプル液の流量よりも多いため、サンプル液に含まれる粒子の流速に与える影響は、サンプル液を送液する送液量より、シース液を送液する送液量のほうが支配的になる。したがって、制御部300は、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する送液量を変更させ、サンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する送液量は変更させなくてもよい。
【0087】
シース液及びサンプル液のうちシース液のみに着目し、チャンバー41内のシース液に加えられる圧力が一定であり、シース液の粘度が一定であると仮定すると、シース液の流速vは、下記(3)式で近似される。
v=(2gh)
1/2 (3)
ここで、gは重力加速度を示す。hは、
図5に示すように、チャンバー41内のシース液の液面と廃液流路55の解放端との間の高さの差分を示す。したがって、チャンバー41内のシース液の液面が低下すると、(3)式において高さの差分hが減少するため、シース液の流速vが低下する。これは、
図5に示すように、チャンバー41内のシース液の液面が廃液流路55の解放端より高い位置にある場合であっても、
図6に示すように、チャンバー41内のシース液の液面が廃液流路55の解放端より低い位置にある場合であっても同じである。また、上記(3)式では、シース液の粘度が一定であると仮定したが、シース液の粘度が温度の変化等に伴って変化しても、シース液の流速vは変化し得る。
【0088】
これに対し、実施形態に係るフローサイトメーターにおいては、算出された流速の測定値に基づき、シース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を送液する送液量、及びサンプル液送液ユニット40Bがフローセル10にサンプル液を送液する送液量がフィードバック制御される。そのため、チャンバー41内のシース液の液面が変動したり、シース液の粘度が変化したりしても、フローセル10内部を流れる細胞の流速を、流速の基準値に近づけて、蛍光画像の輝度を適切な値に近づけ、輝度の変動を抑制することが可能である。
【0089】
図1に示す検出器162の検出条件とは、例えば、検出器162が備える光電変換素子の感度である。蛍光画像の輝度は、光電変換素子の感度に比例する。そのため、例えば、流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、
図1に示す制御部300は、検出器162が備える光電変換素子の感度を上昇させる。流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、検出器162の光電変換素子の感度を低下させる。このような制御により、制御部300は、蛍光画像の輝度を適切な値に近づけ、輝度の変動を抑制する。
【0090】
光源121の発光条件とは、例えば、光源121が発する光の強度である。蛍光画像の輝度は、光源121が発する光の強度に比例する。そのため、例えば、流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、光源121が発する光の強度を上昇させる。流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、光源121が発する光の強度を低下させる。このような制御により、制御部300は、蛍光画像の輝度を適切な値に近づけ、輝度の変動を抑制する。
【0091】
レンズ137の倍率条件とは、例えば、レンズ137が検出器162の受光面上に形成する粒子の像の倍率である。蛍光画像の輝度は、レンズ137が形成する粒子の像の倍率に反比例する。そのため、例えば、流速の測定値が流速の基準値より大きく、差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、レンズ137を交換することにより、レンズ137が形成する粒子の像の倍率を低下させる。流速の測定値が流速の基準値より小さく、差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、レンズ137を交換することにより、レンズ137が形成する粒子の像の倍率を上昇させる。このような制御により、制御部300は、蛍光画像の輝度を適切な値に近づけ、輝度の変動を抑制する。
【0092】
次に
図7、
図8及び
図9を参照して実施形態に係る粒子検出方法を説明する。
図7に示すように、実施形態に係る粒子検出方法は、フローサイトメーターを起動するステップS101、フローサイトメーターに解析を指示するステップS102、フローセル10内部に液体の送液を開始するステップS103、フローセル10内部を流れる液体の流速に関する情報を取得するステップS104、取得した流速に関する情報を判定するステップS105、フローセル10内部に液体を送液するための送液条件を変更するステップS106、及びフローセル10内部の光を照射された液体中の粒子から生じた光を検出するステップS107を含む。
【0093】
図7のステップS101で、実施形態に係るフローサイトメーターが起動される。ステップS102で、フローサイトメーターに粒子の解析の開始が指示される。ステップS103で、
図1に示すシース液送液ユニット40Aがフローセル10にシース液を所定の送液量で送液することを開始し、サンプル液送液ユニット40Bがフローセル10に粒子を含むサンプル液を所定の送液量で送液することを開始する。ステップS104で、
図2に示す光源121Aはフローセル10内部を流れる粒子に光を照射し、流速検出器161は、粒子から生じた散乱光の光学格子151による変調光を検出する。
図1に示す制御部300は、変調光の周期に基づいて、流速に関する値として流速の測定値を算出する。なお、ステップS104はステップS103と同時に開始されてもよい。
【0094】
ステップS105で、制御部300は、流速の測定値を算出する。また、制御部300は、メモリや記憶装置351から、流速の基準値を読み出す。次に、制御部300は、粒子の流速の測定値と流速の基準値の差分を算出する。ステップS107で、粒子の流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より大きい場合、制御部300は、送液ユニット40の送液条件を変更する。粒子の流速の測定値と流速の基準値との差分が所定の値より小さい場合、制御部300は、検出器162の検出条件を変更する。制御部300は、光源121の発光条件を変更してもよいし、レンズ137の倍率条件を変更してもよい。
【0095】
具体的には、
図8のステップS201で、制御部300は、粒子の流速の測定値と流速の基準値の差分が、所定の値より大きいか判定する。差分が所定の値より大きいと判定された場合、ステップS202に進み、制御部300は、流速の測定値が基準値より大きいか判定する。差分が所定の値より大きく、かつ、測定値が基準値より大きいと判定された場合、ステップS203に進み、制御部300の制御により、送液ユニット40は、差分がゼロに近づくよう、送液量を低下させる。その後、
図7のステップS105に戻る。
図8のステップS201及びS202で、差分が所定の値より大きく、かつ、測定値が基準値より小さいと判定された場合、ステップS204に進み、制御部300の制御により、送液ユニット40は、差分がゼロに近づくよう、送液量を上昇させる。その後、
図7のステップS105に戻る。
【0096】
図8のステップS201で、粒子の流速の測定値と流速の基準値の差分が、所定の値より大きくないと判定された場合、
図9のステップS301に進み、制御部300は、流速の測定値は基準値より大きいか判定する。差分が所定の値より小さく、かつ、測定値が基準値より大きいと判定された場合、ステップS302に進み、制御部300は、蛍光画像の輝度を適切な値に近づくよう、検出器162の検出条件を変更する。制御部300は、光源121の発光条件を変更してもよいし、レンズ137の倍率条件を変更してもよい。ステップS201及びS301で、差分が所定の値より小さく、かつ、測定値が基準値より小さいと判定された場合、ステップS303に進み、制御部300は、蛍光画像の輝度を適切な値に近づくよう、検出器162の検出条件を変更する。制御部300は、光源121の発光条件を変更してもよいし、レンズ137の倍率条件を変更してもよい。
【0097】
ステップS302又はステップS303で検出条件が変更された後、ステップS107で、検出器162は、粒子の蛍光画像を生成する。ステップS108で、制御部300は、所定の量のサンプル液の解析が終了したか判断する。所定の量のサンプル液の解析が終了していない場合は、ステップS104に戻り、流速に関する情報に基づく送液ユニット40の送液条件、検出器162の検出条件、光源121の発光条件、及びレンズ137の倍率条件等のフィードバック制御と、粒子の検出と、のループが、所定の量のサンプル液の解析が終了するまで繰り返される。ステップS108で所定の量のサンプル液の解析が終了したと判断されると、当該方法が終了する。なお、任意により、ステップS108を省略し、ステップS104からステップS108のループを繰り返さなくともよい。
【0098】
実施形態に係るフローサイトメーター及び粒子検出方法によれば、フローセル10内部を流れる液体の流速が、気温、装置の温度、液体の温度、液体の粘度、及び供給チャンバーにおける液体の液面の変化等の影響により変動しても、蛍光画像の輝度が、流速の変動に影響されることを抑制することが可能である。さらに、実施形態に係るフローサイトメーターを用いても蛍光画像の輝度が変動する場合は、粒子の蛍光染色の条件に変動があったと判断することも可能である。
【0099】
また、フローサイトメーターにおいては、取得した粒子の画像を解析する際に、ノイズによる解析精度の低下を抑制するために、輝度の値が所定の値より弱い画像は、解析対象から除外する場合がある。これに対し、実施形態に係るフローサイトメーター及び粒子検出方法によれば、所望の輝度の画像が得られるため、解析対象から除外される画像の数を減らすことが可能である。そのため、解析対象となる画像の母集団が大きくなるため、粒子の正確な解析が可能である。
【0100】
上記のように本発明を実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、サンプル粒子である細胞を蛍光色素で標識する方法は、核酸プローブを用いる方法に限定されず、抗体抗原反応や抗体以外のタンパク質間の相互作用を利用する標識試薬を用いる方法であってもよい。また、サンプル粒子は、微生物であってもよい。さらに、上記の実施形態において、粒子の流速を測定する際に、光を照射された粒子から生じる反応光として散乱光を用いる例を説明した。しかし、粒子が蛍光を発する光学特性を有する場合は、反応光として蛍光を用いてもよい。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。
【符号の説明】
【0101】
10・・・フローセル、21・・・シリンジ、22・・・作動子、23・・・駆動装置、40・・・送液ユニット、40A・・・シース液送液ユニット、40B・・・サンプル液送液ユニット、41・・・チャンバー、42・・・電空変換器、43・・・コンプレッサー、53・・・サンプル液流路、54・・・シース液流路、55・・・廃液流路、90・・・廃液チャンバー、121・・・光源、121A・・・光源、121B・・・光源、121C・・・光源、121D・・・光源、131・・・レンズ、132・・・レンズ、133・・・レンズ、134・・・レンズ、135・・・レンズ、136・・・レンズ、137・・・レンズ、141・・・ダイクロイックミラー、142・・・ダイクロイックミラー、143・・・ダイクロイックミラー、144・・・光学ユニット、151・・・光学格子、152・・・透明部分、153・・・不透明部分、161・・・流速検出器、162・・・検出器、300・・・制御部、351・・・記憶装置