(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】粉砕物の製造方法及び錠剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20220722BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220722BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220722BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20220722BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K9/20
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/38
A61K31/192
A61K31/616
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2018098042
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017101693
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】田畑 里奈
(72)【発明者】
【氏名】立花 政明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀徳
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-081634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0292702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/192
A61K 31/616
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が250℃以下の水難溶性薬物(A)と、軽質無水ケイ酸(B)と、水溶性高分子(C)とを含有する混合物に、
ピンディスク回転型衝撃式粉砕機を用いて粉砕処理を施す工程を有す
る粉砕物の製造方法
であって、
前記混合物は、前記(C)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(C)成分の質量百分率が、1~9.5質量%であり、
前記混合物は、前記(B)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(B)成分の質量百分率が、0.5~8質量%であることを特徴とする、粉砕物の製造方法。
【請求項2】
前記(A)成分が、イブプロフェン、ケトプロフェン及びアセチルサリチル酸から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項
1に記載の粉砕物の製造方法。
【請求項3】
前記(C)成分が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の粉砕物の製造方法。
【請求項4】
前記混合物は、前記(A)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(A)成分の質量百分率が、90~97質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉砕物の製造方法。
【請求項5】
粉砕処理後の前記(A)成分の平均粒子径が、1~20μmであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉砕物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粉砕物の製造方法で粉砕物を得る工程と、得られた粉砕物を含む粉体組成物を用いて錠剤を製造する工程とを有することを特徴とする、錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉砕物の製造方法及び錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェン等の水難溶性薬物は、溶出性が低く、即効性に劣ることが知られている。水難溶性薬物の溶出性を向上させるために、水難溶性薬物を粉砕し、粒子径を小さくすることが有用である。水難溶性の薬物の粉砕に用いられる粉砕機の機種としては、ハンマーミル、サンプルミル、ディスクミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;ジェット粉砕機等の乾式微粉砕機、シリンダー粉砕機、ローラー粉砕機等が挙げられるが、1度に多量の粉砕が可能であることから、衝撃式粉砕機がよく用いられる。
【0003】
衝撃式粉砕機は、処理能力が高いが、水難溶性薬物が粉砕機の内部に付着しやすくなる問題がある。粉砕機への付着が発生すると、エネルギー効率が低下し、粉砕前投入粉体に対する収率も低下する。長時間に渡って粉砕機の連続運転を行うと、粉砕機と粉体との摩擦により発熱する。この熱により、イブプロフェンのような低融点の水難溶性薬物は融解が生じ、融解物が粉砕機に固着するため、連続して粉砕することが困難であった。
【0004】
粉砕機への粉体の付着を抑制する方法として、特許文献1には、水難溶性薬物と賦形剤と水とを所定の割合で混合し、この混合物を共粉砕する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、水難溶性薬物の含有量に対する賦形剤及び水の含有量が多く、製剤としたときの有効成分の含有量が少なくなる場合がある。製剤に含まれる有効成分の量が少ないと、1錠あたりの錠剤が大きくなったり、1回服用時の錠数が多くなったりして服用時の負担が大きくなる。このため、賦形剤及び水の含有量が少なくても、有効成分の溶出性が良好な薬物の製造方法が要求されていた。
そこで、本発明は、粉砕機への粉体の付着を抑制し、薬物の溶出性が良好な粉砕物の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]融点が250℃以下の水難溶性薬物(A)と、軽質無水ケイ酸(B)と、水溶性高分子(C)とを含有する混合物に、粉砕処理を施す工程を有することを特徴とする、粉砕物の製造方法。
[2]前記混合物は、前記(C)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(C)成分の質量百分率が、1~9.5質量%であることを特徴とする、[1]に記載の粉砕物の製造方法。
[3]前記混合物は、前記(B)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(B)成分の質量百分率が、0.5~8質量%であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の粉砕物の製造方法。
[4]ピンディスク回転型衝撃式粉砕機を用いて前記混合物に粉砕処理を施すことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の粉砕物の製造方法。
[5]前記(A)成分が、イブプロフェン、ケトプロフェン及びアセチルサリチル酸から選ばれる1種以上であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の粉砕物の製造方法。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の粉砕物の製造方法で粉砕物を得る工程と、得られた粉砕物を含む粉体組成物を用いて錠剤を製造する工程とを有することを特徴とする、錠剤の製造方法。
[7]粉砕処理後の前記(A)成分の体積平均粒子径が1~20μmであることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の粉砕物の製造方法。
[8][7]に記載の粉砕物を含有することを特徴とする、造粒粒子。
[9][8]に記載の造粒粒子を含有することを特徴とする、錠剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉砕物の製造方法によれば、粉砕機への粉体の付着を抑制しながら、水難溶性薬物の平均粒子径を20μm以下にできるため、薬物の溶出性を良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪粉砕物の製造方法≫
本発明の粉砕物の製造方法は、融点が250℃以下の水難溶性薬物(A)と、軽質無水ケイ酸(B)と、水溶性高分子(C)とを含有する混合物に、粉砕処理を施す工程を有することを特徴とする。
また、本発明の粉砕物の製造方法では、前記混合物は、前記(C)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(C)成分の質量百分率が、1~13質量%であることが好ましい。
また、本発明の粉砕物の製造方法では、前記混合物は、前記(B)成分/(前記(A)成分+前記(B)成分+前記(C)成分)×100で表される前記(B)成分の質量百分率が、0.5~8質量%であることが好ましい。
また、本発明の粉砕物の製造方法では、ピンディスク回転型衝撃式粉砕機を用いて(A)成分~(C)成分を含有する混合物に粉砕処理を施すことが好ましい。
本発明の粉砕物の製造方法は、例えば、前記混合物を調製する混合工程と、該混合物に粉砕処理を施す粉砕工程とを有する。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0010】
<混合工程>
混合工程は、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合して、混合物を調製する工程である。
本発明の粉砕物の製造方法は、混合工程を有することで、粉砕処理後の(A)成分の体積平均粒子径をより小さくしやすい。
本発明において、混合物は粉末状、顆粒状等の粉体であることが好ましい。
【0011】
((A)成分)
(A)成分は、融点が250℃以下の水難溶性薬物である。本明細書において、「水難溶性薬物」とは、20℃の水に対する溶解度(以下、単に溶解度ということがある)が0~30mg/mLである薬物を示す。(A)成分の溶解度は、0.01~10mg/mLが好ましく、0.01~5mg/mLがより好ましく、0.1~1mg/mLがさらに好ましい。溶解度が前記下限値以上であると、水に対する親和性を有し、付着抑制効果を得られやすい。溶解度が、前記上限値以下であると、水に(A)成分が溶解し粘性が増すことが抑制され、粉砕しやすくなる。
(A)成分の融点は、250℃以下であり、40~250℃が好ましく、50~120℃がより好ましく、65~80℃がさらに好ましい。(A)成分の融点が、前記下限値以上であると、粉砕機への粉体の付着性が低減しやすく、前記上限値以下であると、粉砕処理後の(A)成分の体積平均粒子径がより小さくなりやすい。
【0012】
(A)成分としては、通常、粉末状のものが用いられる。混合物の調製に用いる(A)成分の体積平均粒子径(粉砕前の体積平均粒子径)は、製造しようとする粉砕物の体積平均粒子径よりも大きければよく、特に限定されないが、通常、15~100μmの範囲内である。
なお、本明細書において、「体積平均粒子径」(以下、単に「平均粒子径」ともいう)は、レーザ回折散乱法により測定される値であり、例えば、ベックマン・コールター社製のLS13 320(製品名)等を用いて、ドライパウダーモジュールを使用することにより測定できる。
【0013】
(A)成分の種類は、融点が250℃以下の水難溶性薬物であれば特に限定されず、具体的には、イブプロフェン(溶解度0.19mg/mL、融点76℃)、ナプロキセン(溶解度0.04mg/mL、融点157℃)、ケトプロフェン(溶解度0.24mg/mL、融点94℃)、インドメタシン(溶解度0.01mg/mL、融点158℃)、アセチルサリチル酸(溶解度3.3mg/mL、融点135℃)、エトドラック(溶解度0.11mg/mL、融点145℃)、メロキシカム(溶解度0.01mg/mL、融点150℃)等の非ステロイド抗炎症剤等の解熱鎮痛剤;ニトラゼパム(溶解度0.04mg/mL、融点227℃)等の催眠・鎮静剤;カルバマゼピン(溶解度0.14mg/mL、融点189℃)等の抗てんかん剤;ハロペリドール(溶解度0.01mg/mL、融点149℃)、スルピリド(溶解度0.55mg/mL、融点178℃)等の精神神経用剤;ジソピラミド(溶解度1.6mg/mL、融点85℃)等の不整脈剤;アテノロール(溶解度20mg/mL、融点154℃)等の抗高血圧剤;ニフェジピン(溶解度0.01mg/mL、融点173℃)、ノスカピン等の鎮咳剤;(溶解度0.01mg/mL、融点176℃)、塩酸ブロムヘキシン(溶解度1.1mg/mL、融点239℃)等の去痰剤;などが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
(A)成分としては、上記のなかでも、本発明の効果が特に顕著に得られることから、解熱鎮痛剤から選ばれる少なくとも1種が好ましく、イブプロフェン、ケトプロフェン及びアセチルサリチル酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、イブプロフェン及びアセチルサリチル酸から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、イブプロフェンが特に好ましい。
【0014】
混合物中、(A)成分の割合は、特に限定されないが、(A)成分/((A)成分+(B)成分+(C)成分)×100で表される(A)成分の質量百分率は、90~97質量%が好ましく、92~95質量%がより好ましい。(A)成分の質量百分率が、前記下限値以上であると、粉砕処理後の粉砕物の体積平均粒子径がより小さくなりやすい。(A)成分の質量百分率が、前記上限値以下であると、付着抑制効果が向上しやすい。
【0015】
((B)成分)
(B)成分は、軽質無水ケイ酸である。
(B)成分は、極めて微細な滑沢剤として機能し、(B)成分を含有することで、混合物(混合粉体)の流動性が大幅に改善し、粉砕時の固着を抑制することができる。
混合物の調製に用いる(B)成分の平均粒子径(粉砕前の平均粒子径)は、0.3~5.0μmが好ましく、0.5~3.0μmがより好ましい。(B)成分の平均粒子径が前記下限値以上であると、付着抑制効果が向上しやすい。(B)成分の平均粒子径が前記上限値以下であると、粉砕後の粉砕物の平均粒子径がより小さくなりやすく、付着抑制効果が向上しやすい。
【0016】
混合物中、(B)成分/((A)成分+(B)成分+(C)成分)×100で表される(B)成分の質量百分率は、0.5~8質量%が好ましく、1~4質量%がより好ましい。(B)成分の質量百分率が、前記下限値以上であると、粉砕後の粉砕物の平均粒子径がより小さくなりやすく、(A)成分の溶出性が高くなりやすい。さらに、付着抑制効果が向上しやすい。(B)成分の質量百分率が、前記上限値以下であると、付着抑制効果が向上しやすい。また、(B)成分の質量百分率が、前記上限値以下であると、粉砕後の平均粒子径がより小さくなりやすく、(A)成分の溶出性が高くなりやすい。
【0017】
((C)成分)
(C)成分は、水溶性高分子である。本明細書において、「水溶性高分子」とは、20℃の水に対する溶解度が1.3g/100mL超の化合物をいう。(C)成分の溶解度は、1.5g/100mL以上が好ましく、10g/100mL以上がより好ましく、20g/100mL以上がさらに好ましい。(C)成分の溶解度が、前記下限値以上であると、粉砕後の粉砕物の平均粒子径がより小さくなりやすく、体内での(A)成分の分散性が高められやすい。
(C)成分と(A)成分が共粉砕されることで、(A)成分の周りに微細な(C)成分が付着し、混合物の流動性が大幅に改善する。本実施形態では、(B)成分及び(C)成分が、混合物の流動性を向上させる効果が相乗的に作用する。このため、少量の添加であっても粉砕機に粉体が付着することなく、(A)成分を微細に粉砕することができると考えられる。加えて、(A)成分の周りに微細な(C)成分が付着することで、(A)成分の溶出性改善にも大幅に寄与するものと考えられる。
【0018】
(C)成分の種類は、20℃の水に対する溶解度が1.3g/100mL超であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。(A)成分の溶出性の観点から、これらの(C)成分の中でもヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースが好ましい。
【0019】
混合物中、(C)成分/((A)成分+(B)成分+(C)成分)×100で表される(C)成分の質量百分率は、1~9.5質量%が好ましく、1.5~7質量%がより好ましい。(C)成分の質量百分率が、前記下限値以上であると、付着抑制効果が向上しやすい。また、粉砕後の粉砕物の平均粒子径がより小さくなりやすいため、(A)成分の溶出性が高くなりやすい。(C)成分の質量百分率が、前記上限値以下であると、粉砕後の粉砕物の平均粒子径がより小さくなりやすいため、(A)成分の溶出性が高くなりやすい。
混合物中、(C)成分の質量百分率が前記範囲内であり、かつ、前記(B)成分の質量百分率が前記範囲内であると、付着抑制効果がさらに向上しやすいため、さらに好ましい。
【0020】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の混合方法は特に限定されず、(A)~(C)成分を予め混合装置に仕込み、これらを混合してもよく(一括混合)、(A)~(C)成分を順次混合装置に投入し、混合してもよい。
混合工程は、公知の混合装置、例えば、リボンミキサー、ボーレコンテナミキサー、V型混合機、ダブルコーンミキサー、ハイスピードミキサー等を用いて実施できる。
【0021】
<粉砕工程>
粉砕工程では、前記混合工程で調製した混合物に対して粉砕処理を施す。これにより、(A)成分の粉砕物が得られる。
粉砕処理に用いられる粉砕機の機種は、特に限定されず、ハンマーミル、サンプルミル、ディスクミル、ピンミル(ピンディスク回転型衝撃式粉砕機)等の衝撃式粉砕機;ジェット粉砕機等の乾式微粉砕機、シリンダー粉砕機、ローラー粉砕機等が挙げられる。これらのなかでも衝撃式粉砕機が好ましく、ピンミルがより好ましい。
【0022】
ピンディスク回転型衝撃式粉砕機(以下、単に「ピンミル」ともいう)は、ピン衝撃式の粉砕方法を用いた粉砕機で、ディスクに多数のピンが設置されており、粉砕室中でディスクを高速回転させ、粉体を通過させる際にピンと粉体が衝突して粉砕が行われる。通常、連続運転で用いられる装置であり、生産効率が良く、汎用されている粉砕機である。
ピンミルの機種としては、コロプレックス(ホソカワミクロン(株)製)、サンプルミル((株)奈良機械製作所製)、インパクトミル((株)ダルトン製))等を用いることができる。
【0023】
ピンミルのディスクの回転速度としては、特に限定されないが、2500~10000m/sが好ましく、4000~9000m/sがより好ましく、6000~7500m/sがさらに好ましい。回転速度が前記下限値以上であると、粉砕処理後の粉砕物の平均粒子径をより小さくしやすい。回転速度が前記上限値以下であると、粉体の付着を抑制しやすい。
【0024】
粉砕処理後の(A)成分の平均粒子径は、1~20μmが好ましく、3~18μmがより好ましく、7~15μmがさらに好ましい。粉砕処理後の(A)成分の平均粒子径が前記下限値以上であると、粉体のハンドリング(取扱い)が良好になりやすく、前記上限値以下であると、(A)成分の溶出性が良好になりやすい。
なお、粉砕処理後の(A)成分の平均粒子径は、粉砕処理後の粉砕物の平均粒子径で代用される。
粉砕物の平均粒子径は、粉砕処理条件(粉砕時間、処理量、粉砕機回転数等)により調節できる。
【0025】
本発明では、(A)~(C)成分の共粉砕を行うことで、粉砕機への粉体の付着を低減できる。そのため、粉砕機内部に付着した粉砕物をヘラやブラシで回収するといった負担が軽減され、実生産における操作性および安全性を向上させることができる。
また、本発明の粉砕物の製造方法により得られる粉砕物は、(B)成分及び(C)成分を添加せずに製造されたものに比べて、造粒粒子や錠剤としたときの(A)成分の溶出性に優れており、造粒粒子製造用または錠剤製造用として有用である。
【0026】
粉砕物は、好適には内服固形製剤に用いられる。
内服固形製剤の剤型は特に限定されず、粒剤、錠剤、カプセル剤等が挙げられる。これらの中でも、錠剤が好ましい。
本発明では、(A)~(C)成分の共粉砕を行うことで、(B)成分と(C)成分の添加量を少なくすることができる。その結果、粉砕物中の(A)成分の含有割合を多くすることが可能である。このため、製剤としたときの1錠あたりの錠剤の大きさを小さくできたり、1回服用時の錠数を少なくできたりするので、服用時の負担を軽減できる。
【0027】
≪錠剤の製造方法≫
本発明の錠剤の製造方法は、前記粉砕物の製造方法で粉砕物を得る工程と、得られた粉砕物を含む粉体組成物を用いて錠剤を製造する工程とを有する。
【0028】
(粉体組成物)
粉体組成物は、本発明の粉砕物の製造方法により得られる粉砕物を含有するものである。
粉体組成物は、粉砕物のみであってもよいし、他の成分(以下、「錠剤用の任意成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0029】
(錠剤用の任意成分)
錠剤用の任意成分は、特に限定されず、通常、錠剤に配合されている成分を含有させることができる。錠剤用の任意成分としては、例えば、結合剤、崩壊剤等の賦形剤;滑沢剤;香料;甘味料、酸味料等の矯味剤等が挙げられる。
結合剤としては、前記(B)成分、前記(C)成分も含まれ、軽質無水ケイ酸、澱粉、アルファー化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン等が挙げられる。
崩壊剤としては、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
その他の賦形剤としては、乳糖、果糖、コーンスターチ、タルク、結晶セルロース(アビセルなど)、粉糖、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、L-システイン等が挙げられる。
滑沢剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
香料としては、メントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)等が挙げられる。
甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等が挙げられる。
酸味料としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、及びそれらの塩等が挙げられる。
錠剤用の任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
錠剤用の任意成分の含有量は、特に限定されないが、錠剤の総質量に対して0~70質量%が好ましい。
なお、錠剤用の任意成分として、(B)成分を含有する場合、錠剤中の(B)成分の含有量(粉砕物中の(B)成分の含有量と任意成分としての(B)成分の含有量との合計量)は、錠剤の総質量に対して、0.5~5.0質量%が好ましく、1.0~4.5質量%がより好ましい。
錠剤用の任意成分として、(C)成分を含有する場合、錠剤中の(C)成分の含有量(粉砕物中の(C)成分の含有量と任意成分としての(C)成分の含有量との合計量)は、錠剤の総質量に対して、0.5~5.5質量%が好ましく、2.0~3.8質量%がより好ましい。
また、錠剤用の任意成分として(B)成分を含有しない場合、粉砕物中の(B)成分の含有量は、錠剤の総質量に対して、0.2~4.5質量%が好ましく、0.7~4.0質量%がより好ましい。
錠剤用の任意成分として(C)成分を含有しない場合、粉砕物中の(C)成分の含有量は、錠剤の総質量に対して、0.5~5.5質量%が好ましく、2.0~3.8質量%がより好ましい。
【0031】
粉体組成物は、構成材料の全て又は一部が造粒されてもよく、造粒されなくてもよい。粉体組成物中の(A)成分は、造粒されることにより、溶解速度が向上し、流動性が良好になるため、本発明の粉体組成物は、全て又は一部が造粒されることが好ましい。
粉体組成物の一部が造粒される場合、造粒された造粒物(以下、造粒粒子ともいう)には、前記粉砕物が含まれることが好ましい。
【0032】
錠剤を製造する工程は、例えば、前記粉砕物を造粒して造粒粒子とする造粒工程と、造粒粒子を含む粉体組成物を調製する混合工程及び造粒粒子を含む粉体組成物を打錠する打錠工程とを有することが好ましい。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0033】
<造粒工程>
造粒工程は、前記粉砕物を造粒して、造粒粒子とする工程である。
造粒工程としては、種々の造粒方法が挙げられ、前記粉砕物を用いる以外は公知の造粒方法を用いることができる。
造粒方法としては、乾式造粒法、湿式造粒法のいずれも利用できる。
【0034】
乾式造粒法による造粒は、例えば、乾式圧縮法により実施できる。乾式圧縮法としては、前記粉砕物を圧縮して造粒する方法が挙げられる。
湿式造粒法による造粒は、例えば、前記粉砕物に、前記(C)成分を含有する水性液を添加しながら造粒する方法により実施できる。
湿式造粒法として具体的には、流動層造粒法、攪拌造粒法、押出し造粒法、転動造粒法、捏和・破砕造粒等が挙げられる。
上記の中でも、湿式造粒法が好ましく、特に、流動層造粒法または攪拌造粒法が好ましい。
流動層造粒法による造粒粒子の製造は、例えば、攪拌型流動造粒装置(例えば(株)パウレック社製のマルチプレックスやフロンイント産業(株)社製のスパイラフロー)を用いて、前記水性液を噴霧しながら造粒することにより実施できる。
攪拌造粒法による造粒粒子の製造は、例えば、攪拌造粒機(例えば深江パウテック(株)社製のハイスピードミキサーや(株)ダルトン社製の高速攪拌造粒機)を用いて、前記水性液を噴霧または滴下しながら攪拌錬合した後に、押出し造粒機(例えば(株)ダルトン社製のドームグラン)を用いて造粒することにより実施できる。
造粒条件は特に限定されないが、(A)成分の融点よりも低い温度で行うことが好ましい。例えば(A)成分がイブプロフェンの場合、65℃よりも低い温度で造粒することが好ましい。
【0035】
造粒粒子中の(A)成分の含有量は、造粒粒子の総質量に対して、30~97質量%が好ましく、40~95質量%がより好ましく、45~90質量%がさらに好ましい。造粒粒子中の(A)成分の含有量が、前記下限値以上であると、錠剤を小型化でき、服用性が良好になりやすい。造粒粒子中の(A)成分の含有量が、前記上限値以下であると、造粒を進行しやすくできる。
造粒粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、さらに、前記錠剤用の任意成分を含有することができる。造粒粒子は、前記錠剤用の任意成分を含有することにより、(A)成分の溶出性及び造粒性が向上しやすい。
前記錠剤用の任意成分の中でも、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース類が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。また滑沢剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、その他賦形剤として軽質無水ケイ酸が好適に配合できる。
【0036】
<打錠工程>
打錠工程は、粉体組成物を打錠する工程である。
打錠工程では、粉砕物と錠剤用の任意成分とを混合し、得られた造粒粒子を含む粉体組成物を打錠して錠剤とすることが好ましい。
打錠には、一般的に用いられる打錠機を用いることができる。打錠機としては、例えばロータリー式の打錠機などが挙げられる。
打錠工程では、前記粉体組成物の50~1500mg、より好ましくは150~500mgずつを圧縮成型することにより打錠を行うことができる。前記圧縮成型における打錠圧は4~18kNが好ましく、6~14kNがより好ましい。
【0037】
粉体組成物を打錠することにより錠剤が得られ、錠剤は、前記(A)成分を含有する。
錠剤中の(A)成分の含有量は、錠剤の総質量に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましい。錠剤中の(A)成分の含有量が前記下限値以上であると、錠剤を小型化でき、服用性が良好になりやすい。
上限値は特に限定されないが、90質量%以下が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法により製造された錠剤は、解熱鎮痛薬や風邪薬、睡眠・鎮痛剤、鼻炎止め薬として用いることができる。本発明の製造方法によれば、薬物の溶出性が良好なため、1錠あたりの錠剤の大きさを小さくでき、1回服用時の錠数を少なくできる。その結果、服用時の負担を軽減できる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例において使用した原料は下記の<使用原料>に示す通りである。
【0040】
<使用原料>
((A)成分)
イブプロフェン:商品名「イブプロフェン25」(白鳥製薬(株)製)、平均粒子径 約30μm。
アセチルサリチル酸(アスピリン):商品名「RHODHINE3220」(ローディアジャパン(株)製)、平均粒子径 約50μm。
((B)成分)
軽質無水ケイ酸:商品名「サイリシア350」(有限会社ワイ・ケイ・エフ製)、平均粒子径 約1.8μm。
((C)成分)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC):商品名「HPC-SSL」(日本曹達(株)製)、平均粒子径 約50μm、溶解度40g/100mL水。
メチルセルロース(MC):商品名「METOROSE SMA-4」(信越化学工業(株)製)、平均粒子径 約80μm、溶解度40g/100mL水。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC):商品名「TC-5」(信越化学工業(株)製)、平均粒子径 約40μm、溶解度30g/100mL水。
((C’)成分((C)成分の比較成分))
結晶セルロース:商品名「セオラス UF-711」(旭化成ケミカルズ(株)製)、溶解度0.1g以下/100mL(水にほとんど溶けない)。
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC):商品名「LH-31」(信越化学工業(株)製)、溶解度0.1g以下/100mL(水にほとんど溶けない)。
(任意成分)
ラウリル硫酸ナトリウム(SDS):商品名「SLS」(日光ケミカルズ(株)製)。
クロスポビドン:商品名「Kollidon CL-SF」(BASF社製)。
ステアリン酸マグネシウム:商品名「ステアリン酸マグネシウム」(太平化学産業(株)製)。
【0041】
<粉砕物の製造>
[実施例1~11、比較例1~5]
(A)成分、(B)成分、(C)成分(又は(C’)成分)の合計が6000gとなるように、表1~2に記載の割合(質量%)で各成分を計量し、その粉体をリボンミキサー(5L、(株)徳寿工作所製)で混合した(一括混合)。得られた混合物を、ピンミル(コロプレックス 160Z(ホソカワミクロン(株)製))にて12000rpm(周速度6029m/s)、混合物の供給速度400g/minとなるように供給し、15分間粉砕した。
その後、粉砕機の内部に弱く付着した粉体を刷毛で軽く落とし、ピン及びケーシング内に付着した粉体の付着度を目視にて確認した。下記の評価基準に従って評価を行った。なお、ピンとピンとの間隔は5mmである。結果を表1~2に示す。
(評価基準)
◎:固着物が認められない。
○:固着はしているが、ピン間には空隙があり、粉砕が続行できる。
×:固着物がピンとの間あるいはケーシング内の空間を埋めてしまい、粉体の供給ができない。
【0042】
<平均粒子径の測定>
上記各例で得られた粉砕物を3.0gとり、レーザ回折散乱法による湿式・乾式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS13 320(製品名))を用い、ドライパウダーモジュールを使用して、平均粒子径(μm)を測定した。結果を表1~2に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
<造粒粒子の製造>
[実施例12~21、比較例6~10]
上記各例で得られた粉砕物を300gとり、表3~4に記載の割合(質量部)となるように、造粒工程で添加する各成分を計量して混合し、予熱しておいた流動層造粒機(マルチプレックスMP-01((株)パウレック製))に投入し、給気温度60℃、排気風量0.6m3/分で流動を開始した。排気温度が43℃以上であることを確認した後、2流体ノズルを用いて7g/分にて精製水を150g噴霧した。前記噴霧の後、給気温度を65℃に変更し、乾燥を行った。排気温度が43℃に達した時点で、乾燥を終了して造粒物を得た。
【0046】
[実施例22]
上記実施例11で得られた粉砕物を300gとり、表3に記載の割合(質量部)となるように、造粒工程で添加する各成分を計量して混合し、スクリュー回転調整を7、ロール圧力を3.0MPaで一定とし、乾式造粒機(ローラーコンパクター(フロイント・ターボ(株)製))にて乾式造粒し、造粒物を得た。
【0047】
上記実施例1で得られた粉砕物を実施例12で、上記実施例2で得られた粉砕物を実施例13で、上記実施例3で得られた粉砕物を実施例14で用いて造粒粒子を製造した。以下、同様に、実施例4と15、実施例5と16、実施例6と17、実施例7と18、実施例8と19、実施例9と20、実施例10と21、実施例11と22、比較例1と6、比較例2と7、比較例3と8、比較例4と9、比較例5と10がそれぞれ対応する。
【0048】
<錠剤の製造>
得られた造粒粒子を表3~4に記載の量(g)量り取り、これに表3~4に記載の量(g)の打錠工程で添加する成分を加え、ビニール袋に入れて混合した。この粉体組成物を実施例12~21は175mg/錠、実施例22は380mg/錠となるように打錠圧6.5kNで打錠機(CLUX 3L((株)菊水製作所製))を用いて打錠し、錠剤を製造した。
【0049】
<溶出試験>
得られた錠剤1錠を溶出試験にて試験した。溶出試験は、第17改正日本薬局方に規定される溶出試験法に準じ、溶出試験第1液を用い、パドル法、50rpmにて測定し、試験開始から5分後の溶出量を測定し、溶出率を算出した。下記の評価基準に従って評価を行った。結果を表3~4に示す。
(評価基準)
◎:溶出率35%以上。
○:溶出率30%以上35%未満。
△:溶出率25%以上30%未満。
×:溶出率25%未満。
【0050】
【0051】
【0052】
表1に示すように、本発明の製造方法を適用した実施例1~11は、ピン付着、ケーシング内付着ともに「◎」又は「○」で、粉砕機への粉体の付着を抑制できていることが分かった。一方、表2に示すように、(B)成分及び(C)成分を含有しない比較例1、(C)成分を含有しない比較例2、は、ピン付着、ケーシング内付着ともに「×」だった。(B)成分を含有しない比較例3、(C)成分の替わりに(C’)成分を含有する比較例4~5は、ピン付着が「×」だった。
【0053】
表3に示すように、本発明の製造方法を適用した実施例12~22は、溶出性が「◎」又は「○」で、薬物の溶出性が良好であることが分かった。一方、表4に示すように、(B)成分及び(C)成分を含有しない比較例6、(C)成分を含有しない比較例7、(B)成分を含有しない比較例8、(C)成分の替わりに(C’)成分を含有する比較例9~10は、溶出性が「×」だった。
【0054】
これらの結果から、本発明によれば、粉砕機への粉体の付着を抑制し、薬物の溶出性を良好にすることができることが分かった。