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特許7109284汚れ除去性塗膜形成用塗料、及びこれを用いた化粧シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】汚れ除去性塗膜形成用塗料、及びこれを用いた化粧シート
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20220722BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220722BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220722BHJP
   C09D 7/42 20180101ALI20220722BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20220722BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/20
C09D7/42
B32B23/08
B32B27/30 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018127208
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020007405
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】伊藤茂一
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126991(JP,A)
【文献】特開2014-189566(JP,A)
【文献】特開2014-185337(JP,A)
【文献】特開2003-306619(JP,A)
【文献】特開2017-226794(JP,A)
【文献】特開2009-216750(JP,A)
【文献】特開平11-138734(JP,A)
【文献】特開2012-224776(JP,A)
【文献】特開2013-213199(JP,A)
【文献】特開2014-198754(JP,A)
【文献】特開2013-163765(JP,A)
【文献】特開2013-053310(JP,A)
【文献】特開2017-128688(JP,A)
【文献】特開2016-194579(JP,A)
【文献】特開2009-072954(JP,A)
【文献】特開2014-188742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/02
B32B 23/08
B32B 27/30
C09D 7/20
C09D 7/42
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリレート 100質量部
(B)スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物 5~100質量部;及び、
(D)水と任意の混合割合において分子レベルで相互溶解する溶剤;
を含み、
ここで上記成分(A)(メタ)アクリレートは、
(A1)多官能(メタ)アクリレート 40~99質量%と
(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体 60~1質量%からなり;
上記成分(A1)多官能(メタ)アクリレートと上記成分(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体との和は100質量%であり;
無機粒子を含まない;
塗料。
【請求項2】
上記成分(A)(メタ)アクリレート 100質量部に対して、更に(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子 1
~200質量部;を含む請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
上記成分(D)水と任意の混合割合において分子レベルで相互溶解する溶剤が、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の塗料。
【請求項4】
上記成分(B)スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物が、
一般式 [X]s[M1]L[M2]m で表される化合物を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の塗料:
ここで上記一般式中、sは1又は2を表し、Lは1又は2を表し、mは0又は1を表し、M1、M2は同一又は異なっていてもよい水素イオン、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンを表し、Xは下記一般式(2-1)~(2-4)で示される親水基から選ばれる1種を表す:
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
ここで上記一般式(2-1)~(2-4)中、J、J’は同一又は異なっていてもよいH、又はCH を表し、nは0又は1を表し、R、R’は同一又は異なっていてもよい炭素数1~600の脂肪族炭化水素基である。
【請求項5】
上記成分(A2)が3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートを含む請求項1~4の何れか1項に記載の塗料。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の塗料から形成された塗膜を含む化粧シート。
【請求項7】
実使用状態において通常視認される側の面から順に、請求項1~の何れか1項に記載の塗料から形成された塗膜、及び熱可塑性樹脂フィルムの層を有し;
上記塗膜の表面の水接触角が25度以下であり;
マンドレル試験の値が10mm以下である;
化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料に関する。更に詳しくは、汚れ除去性に優れた塗膜(以下、「汚れ除去性塗膜」ということがある。)を形成することのできる塗料、及びこれを用いた化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、モバイルフォン、及びパソコンなどの家電製品;飾り棚、収納箪笥、食器戸棚、及び机などの家具;あるいは床、壁、及び浴室などの建築部材;として、木材、合板、集成材、パーチクルボード、及びハードボードなどの木質系材料を用いて形成された基材;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、及びポリエステルなどの樹脂系材料を用いて形成された基材;あるいは鉄、アルミニウムなどの金属系材料を用いて形成された基材;の表面に化粧シートを貼合して加飾化粧されたものが使用されている。
【0003】
近年、商品の差別化ポイントとして、汚れ除去性が着目されている。汚れ除去性に優れた塗膜としては、スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物を含む塗料を用いて形成される塗膜が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、これらの技術で形成された汚れ除去性塗膜を有する化粧シートには耐折曲性が不十分であり、ラッピング成形などの所謂2D成形に適用することが難しい;という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2007/064003号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、汚れ除去性に優れた塗膜を形成することのできる塗料、及びこれを用いた化粧シートを提供することにある。本発明の更なる課題は、汚れ除去性、及び耐折曲性に優れた塗膜を形成することのできる塗料、及びこれを用いた化粧シートを提供することにある。本発明の別の更なる課題は、汚れ除去性に優れ、艶消し意匠を付与することのできる塗膜を形成することのできる塗料、及びこれを用いた艶消し化粧シートを提供することにある。本発明の別の更なる課題は、汚れ除去性、及び耐折曲性に優れ、艶消し意匠を付与することのできる塗膜を形成することのできる塗料、及びこれを用いた艶消し化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の塗料により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)(メタ)アクリレート 100質量部;及び、(B)スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物 5~100質量部;を含み、ここで上記成分(A)(メタ)アクリレートは、(A1)多官能(メタ)アクリレート 40~99質量%と(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体 60~1質量%からなり;上記成分(A1)多官能(メタ)アクリレートと上記成分(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体との和は100質量%であり;無機粒子を含まない;塗料である。
【0008】
第2の発明は、上記成分(A)(メタ)アクリレート 100質量部に対して、更に(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子 1~200質量部;を含む第1の発明に記載の塗料である。
【0009】
第3の発明は、上記成分(A2)が3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートを含む第1の発明又は第2の発明に記載の塗料である。
【0010】
第4の発明は、更に、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を含む、第1~3の発明の何れか1に記載の塗料である。
【0011】
第5の発明は、第1~4の発明の何れか1に記載の塗料から形成された塗膜を含む化粧シートである。
【0012】
第6の発明は、実使用状態において通常視認される側の面から順に、第1~4の発明の何れか1に記載の塗料から形成された塗膜、及び熱可塑性樹脂フィルムの層を有し;上記塗膜の表面の水接触角が25度以下であり;マンドレル試験の値が10mm以下である;化粧シートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料からなる塗膜は汚れ除去性に優れる。本発明のある1つの好ましい実施形態の塗料からなる塗膜は汚れ除去性、及び耐折曲性に優れる。そのため該実施形態の塗料を用いて汚れ除去性を付与された化粧シートは、ラッピング成形などの所謂2D成形にも適用することができる。本発明の別の実施形態の塗料からなる塗膜は汚れ除去性に優れ、艶消し意匠を有する。本発明のある1つの好ましい別の実施形態の塗料からなる塗膜は汚れ除去性、及び耐折曲性に優れ、艶消し意匠を有する。そのため該実施形態の塗料を用いて汚れ除去性を付与された化粧シートは、艶消し意匠を有し、かつラッピング成形などの所謂2D成形にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0015】
数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
【0016】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される全ての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0017】
1.塗料:
本発明の塗料は、(A)(メタ)アクリレート;及び、(B)スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物;を含む。なお本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。本発明の別の実施形態の塗料は、(A)(メタ)アクリレート;(B)スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物;及び、(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子;を含む。本発明の塗料は、好ましい実施形態の1つにおいて、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を含む。上記成分(A)は、(A1)多官能(メタ)アクリレートと(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体を含む。上記成分(A)は、好ましくは(A1)多官能(メタ)アクリレートと(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体とからなる。本発明の塗料は、無機粒子を含まない。以下、各成分について説明する。
【0018】
(A)(メタ)アクリレート;
上記成分(A)(メタ)アクリレートは、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。上記成分(A)は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線や熱により重合・硬化して、塗膜を形成する働きをする。上記成分(A)は、(A1)多官能(メタ)アクリレートと(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体を含む。上記成分(A)は、好ましくは(A1)多官能(メタ)アクリレートと(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体とからなる。
【0019】
(A1)多官能(メタ)アクリレート:
上記成分(A1)は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである。上記成分(A1)は、塗料の硬化性を向上させ、耐溶剤性、及び耐傷付性を良好にする働きをする。
【0020】
上記多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2‘-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、及び、2,2’-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の(メタ)アクリロイル基含有2官能反応性モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有3官能反応性モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有4官能反応性モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有6官能反応性モノマー;トリペンタエリスリトールオクタアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有8官能反応性モノマー;及び、これらの1種以上を構成モノマーとする重合体(オリゴマーやプレポリマー)であって1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものをあげることができる。
【0021】
上記多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有プレポリマー又はオリゴマーであって1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものをあげることができる。
【0022】
上記成分(A1)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0023】
(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体:
上記成分(A2)は、3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体である。上記成分(A2)は耐折曲性を良好にする働きをする。上記3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートは、下記一般式(1‐1)で表される化合物である。
【0024】
【化1-1】
【0025】
式(1‐1)中、Rは水素又はメチル基を表す。
【0026】
上記3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体は、上記3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートのベンジル基の芳香環の水素原子の1、2、3、若しくは4個が置換された構造、又は/及び、上記3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートのフェノキシ基の芳香環の水素原子の1、2、3、4、若しくは5個が置換された構造を有する化合物である。上記3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体は、典型的には、下記一般式(1‐2)で表される化合物である。
【0027】
【化1-2】
【0028】
式(1‐2)中、Rは水素又はメチル基を表す。Rは水素、又は炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~4の炭化水素基である。該炭化水素基は直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。上記炭化水素基は芳香環、脂肪族環状基、エーテル基、又はエステル基を含んでいてもよい。sは1~4の整数、好ましくは1である。sが2~4の整数のとき、Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。Rは水素、又は炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~4の炭化水素基である。該炭化水素基は直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。上記炭化水素基は芳香環、脂肪族環状基、エーテル基、又はエステル基を含んでいてもよい。tは1~5の整数、好ましくは1又は2である。tが2~5の整数のとき、Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。RとRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
上記成分(A2)としては、これらの中で、3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、3‐フェノキシベンジルアクリレートがより好ましい。上記成分(A2)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0030】
上記成分(A)中の上記成分(A1)と上記成分(A2)の質量割合は、上記成分(A1)と上記成分(A2)との和を100質量%として、耐熱性、耐溶剤性、耐傷付性、及び汚れ除去性の観点から、上記成分(A1)が通常40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、最も好ましくは65質量%以上である。上記成分(A2)が通常60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは35質量%以下である。一方、耐折曲性の観点から、上記成分(A2)が通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上である。上記成分(A1)が通常99質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは88質量%以下である。
【0031】
上記成分(A)は、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(A1)及び上記成分(A2)以外のその他の(メタ)アクリレートを含むものであってよい。該その他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、及びオクチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート;などの1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をあげることができる。上記その他の(メタ)アクリレートとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0032】
(B)アニオン性親水基を有する化合物:
上記成分(B)アニオン性親水基を有する化合物は、スルホン酸基、カルボキシル基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種のアニオン性親水基を有する化合物である。上記成分(B)は汚れ除去性を良好にする働きをする。上記成分(B)は、典型的には、国際公開WO2007/064003号に化合物(I)として記載されている化合物である。上記化合物(I)については国際公開WO2007/064003号に詳細に説明されており、そのまま引用により本明細書に取り込まれる。上記化合物(I)は下記一般式(2)で表される化合物である。
【0033】
(化2)
[X]s[M]L[M]m ・・・ (2)
【0034】
式(1)中、sは1又は2を表す。Lは1又は2を表す。mは0又は1を表す。M、Mは水素イオン、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンを表す。MとMとは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは下記一般式(2‐1)~(2‐4)で示される親水基から選ばれる1種を表す。
【0035】
【化2-1】
【0036】
【化2-2】
【0037】
【化2-3】
【0038】
【化2-4】
【0039】
式(2‐1)~(2‐4)中、J、J’はH、又はCHを表す。JとJ’とは同一であってもよく、異なっていてもよい。nは0又は1を表す。R、R’は炭素数1~600、好ましくは2~100、更に好ましくは2~20の脂肪族炭化水素基である。該脂肪族炭化水素基は直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。上記脂肪族炭化水素基は芳香環、脂肪族環状基、エーテル基、又はエステル基を含んでいてもよい。上記脂肪族炭化水素基は任意の置換基を有していてよい。この場合、置換基を含めた炭素数の合計が上記範囲内であればよい。RとR’とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0040】
上記成分(B)としては、これらの中で、汚れ除去性の観点から、上記一般式(2‐1)で示される親水基を有する上記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0041】
上記成分(B)の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、汚れ除去性の観点から、通常5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。一方、塗料の硬化性、耐傷付き性の観点から、通常100質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
【0042】
(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子:
本発明の別の実施形態の塗料は、上記成分(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子を含む。上記成分(C)は塗膜を艶消し意匠にする働きをする。
【0043】
上記成分(C)としては、例えば、シリコン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、弗素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、及びアミノ系化合物とホルムアルデヒドとの硬化樹脂などの樹脂粒子をあげることができる。これらの中で、低比重、潤滑性、分散性、及び耐溶剤性の観点から、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及び弗素系樹脂の粒子が好ましい。また光拡散性を良好にし、艶消し意匠を付与し易くする観点から、真球状のものが好ましい。またこれらの樹脂粒子は、その表面に炭素・炭素二重結合、(メタ)アクリロイル基、及びイソシアナート基などの反応性官能基を有するものであってよい。反応性官能基を有するものを用いることにより、塗膜の耐傷付き性を向上させることができる。上記成分(C)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0044】
上記成分(C)の平均粒子径は、艶消し意匠を付与する観点から、通常1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であってよい。一方、塗膜が白濁感のあるものとなり意匠性を低下させることを防止する観点から、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下であってよい
【0045】
本明細書において、樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。上記粒子径分布曲線は、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計「MT3200II(商品名)」を使用して測定することができる。
【0046】
上記成分(C)の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、付与しようとする艶消し意匠のレベルにもよるが、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上であってよい。一方、耐傷付き性や耐折曲性の観点から、通常200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは30質量部以下であってよい。
【0047】
上記成分(C)として、平均粒子径の異なる2種以上の樹脂粒子を用いることは好ましい。上記成分(C)の配合量が少なくても、良好な艶消し意匠を得る(60度光沢値を低くする)ことができる。
【0048】
上記成分(C)として、平均粒子径の異なる2種の樹脂粒子を用いる場合、平均粒子径の大きいものの平均粒子径C1と平均粒子径の小さいものの平均粒子径C2との比(C1/C2)は、好ましくは1.2~10、より好ましくは1.5~4であってよい。平均粒子径の大きいものの配合量Caと平均粒子径の小さいものの配合量Cbとの比(Ca/Cb)は、好ましくは0.1~6、より好ましくは0.3~2、更に好ましくは0.4~1.5であってよい。
【0049】
本発明の塗料は、無機粒子を含まない。一般に、無機粒子(例えば、シリカ(二酸化珪素);酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化アンチモン、及び酸化セリウム等の金属酸化物粒子;弗化マグネシウム、及び弗化ナトリウム等の金属弗化物粒子;金属硫化物粒子;金属窒化物粒子;及び金属粒子;など。)は、特に適切な粒子径の無機粒子は、艶消し意匠を付与する観点からは有用である。一方、上記成分(A)などの樹脂成分との相互作用は弱く、耐傷付き性や耐折曲性を不十分なものにする原因となっていた。そこで本発明においては、艶消し意匠を付与するための粒子としては樹脂粒子を用い、無機粒子を含まないようにして耐傷付き性や耐折曲性を良好に保持したものである。
【0050】
ここで無機粒子を「含まない」とは、有意な量の無機粒子を含んではいないという意味である。塗膜形成用塗料の分野において、無機粒子の有意な量は、艶消意匠を付与する観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常1質量部程度以上である。従って、無機粒子を「含まない」とは、上記成分(A)100質量部に対して、無機粒子の量が通常1質量部未満、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部更に好ましくは0.05質量部以下、最も好ましくは0.01質量部以下と言い換えることもできる。
【0051】
本発明の塗料には、活性エネルギー線による硬化性を良好にする観点から、1分子中に2個以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物及び/又は光重合開始剤を更に含ませることが好ましい。
【0052】
上記1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、メチレンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート;トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体等のポリイソシアネート;及び、上記ポリイソシアネートのブロック型イソシアネート等のウレタン架橋剤などをあげることができる。上記1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。また、架橋の際には、必要に応じてジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどの触媒を添加してもよい。
【0053】
上記1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、塗膜と基材との密着性、及び塗膜の表面硬度の観点から、通常30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であってよい。一方、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の使用効果を確実に得る観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であってよい。
【0054】
上記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、4-メチルベンゾフェノン、4、4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタール等のベンゾイン系化合物;アセトフェノン、2、2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系化合物;メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン等のアントラキノン系化合物;チオキサントン、2、4-ジエチルチオキサントン、2、4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;アセトフェノンジメチルケタール等のアルキルフェノン系化合物;トリアジン系化合物;ビイミダゾール化合物;アシルフォスフィンオキサイド系化合物;チタノセン系化合物;オキシムエステル系化合物;オキシムフェニル酢酸エステル系化合物;ヒドロキシケトン系化合物;2‐メチル‐1‐(4‐メチルチオフェニル)‐2‐モルフォリノプロパン‐1‐オンなどのチオフェニル系化合物;及び、アミノベンゾエート系化合物などをあげることができる。これらの中でアセトフェノン系化合物、及びチオフェニル系化合物が好ましい。上記光重合開始剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0055】
上記光重合開始剤の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、形成される塗膜が黄変着色したものにならないようにする観点から、通常15質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下であってよい。一方、光重合開始剤の使用効果を確実に得る観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であってよい。
【0056】
本発明の塗料には、本発明の目的に反しない限度において、所望に応じて、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、及び有機着色剤などの添加剤を1種又は2種以上含ませることができる。
【0057】
本発明の塗料は、塗工し易い濃度に希釈するため、所望に応じて溶剤を含んでいてもよい。上記溶剤は上記成分(A)~(C)、及びその他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール、酢酸エチル、酢酸n‐ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、及びアセトンなどをあげることができる。上記溶剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0058】
上記溶剤としては、汚れ除去性の観点から、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を含むものが好ましく、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を多量(通常30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、最も好ましくは70~100質量%。ここで、全ての溶剤の量の和が100質量%である。)に含むものがより好ましい。
【0059】
本発明の塗料は、汚れ除去性の観点から、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上を、上記成分(B)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、更に好ましくは120質量部以上含むものであってよい。メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上の配合量の上限は、特に制限されず、本発明の塗料の粘度を塗工し易い濃度に保つ観点から適宜決定される。メタノール、及びエタノールからなる群から選択される1種以上の配合量の上限は、上記成分(A)100質量部に対して、通常200質量部以下、好ましくは150質量部以下であってよい。
【0060】
理論に拘束される意図はないが、汚れ除去性の観点から、本発明の塗料にメタノールやエタノールを含ませることが好ましい理由を以下のように考察している。メタノール、エタノールなど、水と任意の混合割合において分子レベルで相互溶解する溶剤は、上記成分(B)の親水性基との親和性が非常に高い。そのため、ウェット塗膜を形成後、乾燥する工程において、溶剤を塗膜の表面から揮発させる際に、溶剤の動きにつられて、上記成分(B)の親水性基が塗膜の表面近傍に集まる。その結果、効率的に水接触角が小さくなり、汚れ除去性が向上する。またこの考察が正しいとすると、水と任意の混合割合において分子レベルで相互溶解する溶剤は、メタノールとエタノール以外の溶剤も、例えば、アセトンも、汚れ除去性の観点からは好ましい溶剤であるといえる。
【0061】
本発明の塗料は、これらの成分を混合、攪拌することにより得ることができる。
【0062】
本発明の塗料を用いて塗膜を形成する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。上記方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法をあげることができる。
【0063】
本発明の塗料を用いて形成される塗膜の厚みは、特に制限されないが、耐傷付き性の観点から、通常1μm以上、好ましくは、2μm以上、より好ましくは3μm以上であってよい。一方、耐折曲性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下で、最も好ましくは15μm以下あってよい。
【0064】
2.化粧シート:
本発明の化粧シートは、本発明の塗料を用いて形成された塗膜を有する化粧シートである。本発明の塗料を用いて形成される塗膜は、通常は、本発明の化粧シートの正面(実使用状態において通常視認される側の面)の表面保護層として形成される。ここで実使用状態とは、化粧シートが各種物品の表面の化粧・加飾に用いられた状態をいう。
【0065】
本発明の化粧シートとしては、例えば、熱可塑性樹脂フィルムの正面側となる面の上に本発明の塗料を用いて形成された塗膜を有する化粧シート;熱可塑性樹脂フィルムの正面側となる面の上に印刷層を設け、更に該印刷層の面の上に本発明の塗料を用いて形成された塗膜を有する化粧シート;などをあげることができる。
【0066】
上記熱可塑性樹脂フィルムは化粧シートの基材となる層である。上記熱可塑性樹脂フィルムは、通常は、意匠性の観点から着色されて被着体を隠蔽する働きをする。
【0067】
上記熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂;芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン;などの樹脂フィルムをあげることができる。これらのフィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらの1種以上を2層以上積層した積層フィルムを包含する。
【0068】
上記熱可塑性樹脂フィルムを着色する場合の着色剤は、特に制限されず、任意の着色剤を用いることができる。上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラックなどをあげることができる。上記着色剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。上記着色剤の配合量は、上記熱可塑性樹脂フィルムに用いられる基材樹脂を100質量部として、着色剤の種類や所望の隠蔽性にもよるが、通常0.1~40質量部程度である。
【0069】
上記熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、特に制限されないが、化粧シート生産時の取扱性の観点から、好ましくは50μm以上、より好ましくは75μm以上であってよい。一方、化粧シートを物品に被着させる際の作業性の観点から、通常300μm以下、好ましくは250μm以下であってよい。
【0070】
上記印刷層は、高い意匠性を付与するために設けるものであり、任意の模様を任意のインキと任意の印刷機を使用して印刷することにより形成することができる。
【0071】
上記印刷層は、直接又はアンカーコートを介して、上記熱可塑性樹脂フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、施すことができる。模様としては、ヘアライン等の金属調模様、木目模様、大理石等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、寄木模様、及びパッチワークなどをあげることができる。印刷インキとしては、バインダーに顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、及び硬化剤等を適宜混合したものを使用することができる。上記バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル・アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、及び酢酸セルロース系樹脂などの樹脂、及びこれらの樹脂組成物を使用することができる。また金属調の意匠を施すため、アルミニウム、錫、チタン、インジウム及びこれらの酸化物などを、直接又はアンカーコートを介して、上記熱可塑性樹脂フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、公知の方法により蒸着してもよい。
【0072】
本発明の塗料を用いて、上記熱可塑性樹脂フィルムの正面側の面の上に形成された上記印刷層の面の上に、直接又はアンカーコートを介して塗膜を形成する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。上記方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法をあげることができる。
【0073】
本発明の塗料を用いて形成される塗膜の厚みは、特に制限されないが、耐傷付き性の観点から、通常1μm以上、好ましくは、2μm以上、より好ましくは3μm以上であってよい。また本発明の化粧シートの二次加工性やウェブハンドリング性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下で、最も好ましくは15μm以下あってよい。
【0074】
上記アンカーコートを形成するためのアンカーコート剤としては、特に制限されず、任意のアンカーコート剤を用いることができる。上記アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系、及びポリエステルウレタン系のアンカーコート剤をあげることができる。上記アンカーコート剤としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0075】
上記アンカーコート剤には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、赤外線遮蔽剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、及びフィラー等の添加剤を1種、又は2種以上含ませてもよい。
【0076】
上記アンカーコート剤を用いて上記アンカーコートを形成する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。上記方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法をあげることができる。
【0077】
上記アンカーコートの厚みは、特に制限されないが、通常0.01~5μm程度、好ましくは0.1~2μmであってよい。
【0078】
本発明の化粧シートは、本発明の化粧シートを用いて加飾・化粧される被着体との密着性を向上させる観点から、上記熱可塑性樹脂フィルムの正面側となる面とは反対側の面の上に、直接又はアンカーコートを介して粘着剤層又は接着剤層を形成してもよい。
【0079】
図1は本発明の化粧シートの一例を示す断面の概念図である。実使用状態において通常視認される側の面から順に、本発明の塗料からなる塗膜1、印刷層2、着色熱可塑性樹脂フィルムの層3、及び粘着剤層4を有している。
【0080】
本発明の化粧シートの、本発明の塗料を用いて形成される塗膜の表面の水接触角は、汚れ除去性の観点から、好ましくは25度以下、より好ましくは18度以下、更に好ましくは14度以下、最も好ましくは10度以下であってよい。水接触角は低い方が好ましい。
【0081】
本発明の化粧シートの、マンドレル試験の値は、耐折曲性の観点から、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下、更に好ましくは6mm以下、最も好ましくは4mm以下であってよい。マンドレル試験の値は小さい方が好ましい。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
測定方法
(イ)塗膜の平滑性:
化粧シートの塗膜面を、蛍光灯の光の入射角をいろいろと変えて当てながら目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:うねりや凹凸ムラがなく良好であった。
○:僅かなうねりや凹凸ムラのある部分があった。
△:うねりや凹凸ムラのある部分があった。
×:全体的にうねりや凹凸ムラがあった。
【0084】
(ロ)60度光沢値(艶消し性):
JIS Z8741:1997に準拠し、コニカミノルタ株式会社のマルチアングル光沢計「GM-268(商品名)」を使用し、化粧シートの塗膜面について60度光沢値を測定した。
【0085】
(ハ)耐スチールウール性(耐傷付き性):
化粧シートの塗膜面が表面になるように、摩擦端子の往復方向と化粧シートのマシン方向が平行となるように、JIS L 0849:2013の学振形試験機に置き、該学振形試験機の摩擦端子に、#0000のスチールウールを取り付けた後、500g荷重を載せ、移動距離60mm、速度1往復/秒の条件で試験片の表面を往復10回擦った。当該摩擦個所を目視観察し以下の基準で判定した。
◎:傷は認められなかった。
○:1~3本の傷があった。
△:4~10本の傷があった。
×:11本以上の傷があった。
【0086】
(ニ)水接触角:
化粧シートの塗膜面について、KRUSS社の自動接触角計「DSA20(商品名)」を使用し、水滴の幅と高さとから算出する方法(JIS R 3257:1999を参照。)で測定した。
【0087】
(ホ)汚れ除去性1(オレイン酸除去性):
和光純薬工業株式会社のオレイン酸(試薬1級)と、オリオン・エンジニアドカーボンズ株式会社のカーボンブラック「FW-200(商品名)」を質量比10/1で配合し、良く混合攪拌して汚染物を作成した。次に、化粧シートの塗膜面に、上記で得た汚染物1mgを直径20mmの円形に塗布した後、水道水で洗い流した。水洗は、1リットル/10秒の流量の流水を、水道蛇口から10cm下の位置において、上記の塗布された汚染物に直接当てるのみの方法で20秒間行った。このとき汚れ除去性が良好であれば、汚染物が塗膜から浮き剥がれ落ちるのを観察することができる。汚染物の塗布箇所を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染物は完全に除去され、塗布跡が全く残らなかった。
○:汚染物は除去されたが、塗布跡が僅かに残っていた。
△:汚染物の一部が除去されず、塗布箇所に残存していた。
×:汚染物の多くが除去されず、塗布箇所に塗布されたときのまま残存していた。
【0088】
(ヘ)汚れ除去性2(水性赤インキ除去性):
パイロット株式会社の赤色の水性顔料マーカー「ジュースペイント(商品名)」を使用し、化粧シートの塗膜面に、直径20mmの円を描き、円内を塗りつぶした(以下、マーカーで描かれたものを「汚染物」という。)。温度25℃、相対湿度50%の環境下で24時間の状態調節をした後、上記汚染物を水道水で洗い流した。水洗は、1リットル/10秒の流量の流水を、水道蛇口から10cm下の位置において、上記汚染物に直接当てるのみの方法で20秒間行った。このとき汚れ除去性が良好であれば、上記汚染物が塗膜から浮き、剥がれ落ちるのを観察することができる。上記汚染物の描かれた箇所を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染物は完全に除去され、描かれた跡が全く残らなかった。
○:汚染物は除去されたが、描かれた跡が僅かに残っていた。
△:汚染物の一部が除去されず、描かれた箇所に残存していた。
×:汚染物の多くが除去されず、描かれた箇所に描かれたときのまま残存していた。
【0089】
(ト)耐溶剤性:
化粧シートの塗膜面が表面になるように、摩擦端子の往復方向と化粧シートのマシン方向とが平行となるように、JIS L0849:2013の学振形試験機(摩擦試験機2形)に置いた。続いて、該学振形試験機の摩擦端子に、4枚重ねのガーゼ(川本産業株式会社の医療用タイプ1ガーゼ)で覆ったステンレス板(縦10mm、横10mm、厚み1mm)を取付け、該ステンレス板の縦横面が試験片と接触するようにセットし、500g荷重を載せ、上記ガーゼにメチルエチルケトンを十分(ひたひたになる程度)に含ませた後、移動距離60mm、速度1往復/秒の条件で試験片の表面を往復20回擦った。当該摩擦個所を目視観察し、以下の基準で判定した。
◎:塗膜に変化は認められなかった。摩擦個所の光沢と摩擦していない箇所の光沢とで差は生じていなかった。
○:摩擦個所の光沢が、摩擦していない箇所の光沢よりも、僅かに低下していた。しかし、塗膜の平滑性(上記試験(イ)の方法により評価。以下、同じ。)に変化は認められなかった。
△:摩擦個所の光沢が、摩擦していない箇所の光沢よりも、明らかに低下していた。しかし、塗膜の平滑性に変化は認められなかった。
×:摩擦個所の光沢が、摩擦していない箇所の光沢よりも、著しく低下していた。更に、摩擦箇所の塗膜の平滑性が低下していた。
【0090】
(チ)耐やかん(耐熱性):
パール金属株式会社のアルミニウム製やかん(適合容量2リットル)「ニューセレット アルミケトルH-2508(商品名)」に水道水を1.5リットル入れ、沸騰直後に化粧シートの塗膜面の上に直置きした。5分経過後にやかんを取り去り、化粧シートのやかん直置き箇所を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:やかんを直置きした跡が全く残らなかった。
○:やかんを直置きした跡が僅かに残っていた。
△:やかんを直置きした跡が明確に残っていた。
×:化粧シートが著しく熱変形していた。
【0091】
(リ)マンドレル試験(耐クラック性及び耐折曲性の指標):
JIS K5600-5-1:1999に準拠し、化粧シートから化粧シートのマシン方向100mm×横方向50mmとなるように採取したサンプルを用い、円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験を行った。割れの起こらなかったマンドレルのうち直径が最小のマンドレルの直径を求めた。
【0092】
使用した原材料
(A1)多官能(メタ)アクリレート:
(A1-1)日本化薬株式会社のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
(A1-2)根上工業株式会社の多官能ウレタン(メタ)アクリレート「アートレジンUN-1255(商品名)」。(メタ)アクリロイル基の数2個。
【0093】
(A2)3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート又は3‐フェノキシベンジル(メタ)アクリレート誘導体:
(A2-1)共栄社化学株式会社の3‐フェノキシベンジルアクリレート「ライトアクリレートPOB‐A(商品名)」。
【0094】
(A’)上記成分(A2)以外の単官能アクリレート:
(A’-1)共栄社化学株式会社の2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピルアクリレート「エポキシエステルM-600A(商品名)」。
(A’-2)共栄社化学株式会社のフェノキシエチルアクリレート「ライトアクリレートPO-A(商品名)」。
【0095】
(B)アニオン性親水基を有する化合物
(B-1)3-スルホニルプロピル-アクリレート・カリウム塩(下記式3‐1の化合物)。
【0096】
【化3-1】
【0097】
(B-2)下記式3‐2の化合物。
【0098】
【化3-2】
【0099】
(B-3)下記式3‐3の化合物。
【0100】
【化3-3】
【0101】
(C)平均粒子径1~100μmの樹脂粒子:
(C-1)ビックケミー・ジャパン株式会社の樹脂粒子「CERAFLOUR 1000(商品名)」。平均粒子径5μm。
(C-2)根上工業株式会社のアクリル系樹脂粒子「アートパールSE-010T(商品名)」。平均粒子径10μm。
【0102】
(D)その他の成分:
(D-1)ライトケミカル工業株式会社の1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物「RV2(商品名)」。
(D-2))BASF社のアセトフェノン系光重合開始剤(2‐ヒロドキシ‐1‐{4‐[4‐(2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐プロピオニル)‐ベンジル]フェニル}‐2‐メチル‐プロパン‐1‐オン)「IRGACURE127(商品名)」。
(D-3)メタノール。
(D-4)1-メトキシ-2-プロパノール。
(D-5)エタノール。
【0103】
アンカーコート剤:
(P-1)東洋紡株式会社の非晶性ポリエステル樹脂「バイロン103(商品名)」100質量部、BASF社のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤「TINUVIN479(商品名)」10質量部、上記成分(D-1)3.3質量部、メチルエチルケトン120質量部、及び酢酸エチル240質量部を混合撹拌して得た塗料。
【0104】
例1
1.塗料の調製:
上記成分(A1-1)86質量部、上記成分(A2-1)14質量部、上記成分(B-1)37質量部、上記成分(C-2)16質量部、上記成分(D-1)8質量部、上記成分(D-2)6質量部、上記成分(D-3)68質量部、及び上記成分(D-4)14質量部を混合撹拌し、塗料を得た。
【0105】
2.化粧シートの製造:
(2-1)リケンテクノス株式会社の厚み250μm、白色の着色ポリブチレンテレフタレート系樹脂フィルム「HR(WHT)(商品名)」の片面の上に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体をメジウムとするインクを用いて厚み1μmの木目柄の印刷層を形成した。
【0106】
(2-2)次に上記(2-1)で形成した印刷層の面の上に、フィルムメイヤーバー方式の塗工装置を使用し、上記アンカーコート剤(P-1)を用い、硬化後の厚みが0.8μmとなるようにアンカーコート層を形成した。
【0107】
(2-3)更に上記(2-2)で形成したアンカーコート層の面の上に、フィルムメイヤーバー方式の塗工装置を使用し、上記1で得た塗料を用い、硬化後の厚みが5μmとなるように塗膜を形成し、化粧シートを得た。
【0108】
得られた化粧シートについて、上記試験(イ)~(リ)を行った。結果を表1に示す。
【0109】
例2~15
塗料の配合を表1又は2に示すものに変更したこと以外は例1と同様に行った。結果を表1又は2に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
本発明の塗料からなる塗膜を形成した化粧シートは汚れ除去性に優れていた。本発明の別の実施形態の塗料からなる塗膜を形成した化粧シートは汚れ除去性に優れ、艶消し意匠を有していた。またマンドレル試験の結果から、ラッピング成形などの所謂2D成形にも適用することができると判断された。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1】本発明の化粧シートの一例を示す断面の概念図である。
【符号の説明】
【0114】
1:塗膜
2:印刷層
3:着色熱可塑性樹脂フィルムの層
4:粘着剤層

図1