(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】基板処理装置、基板処理方法、フォトマスク洗浄方法、及びフォトマスク製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220722BHJP
B08B 1/04 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
H01L21/304 644F
B08B1/04
H01L21/304 644B
(21)【出願番号】P 2018138346
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017143872
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】宅島 克宏
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-125640(JP,A)
【文献】特開2013-201248(JP,A)
【文献】特開2017-045836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形状の2つの主面と、端面と、前記主面および前記端面の間に形成されたコーナ面とを有する基板を処理液によって処理する基板処理装置であって、
前記基板の主面を水平にした状態で、前記基板を下向き
の主面側から支承する支承部材と、
前記支承部材に支承された前記基板の
コーナ面と接触可能な接触面を
先端に有し、
前記端面とは接触せずに前記基板を対向する2方向から挟んで前記基板を保持するクランプ部材と、
前記クランプ部材に保持された基板を前記支承部材から離間させるために、前記支承部材と前記クランプ部材の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動手段と、
前記離間により形成された空間内で、前記基板の下向き
の主面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き
の主面に沿って移動させるスクラブ移動手段と、
前記基板の下向き面に処理液を供給する処理液供給手段と、
を有する、
基板処理装置。
【請求項2】
前記支承部材に支承された前記基板を水平面内で回転させる回転手段を有する、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記接触面は、前記主面に対して傾斜角をもつ、請求項1又は2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記クランプ部材によって保持される前記基板の辺の長さ方向において、前記クランプ部材が前記基板のコーナ面に接触する接触長さL(mm)は、
50≦L≦500
である、請求項1から3のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記クランプ部材は、前記下向きの主面が水平面を基準に所定角度の傾きを持たせた状態で前記基板を保持可能である、請求項1から4のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項6】
四角形状の2つの主面と、端面と、前記主面および前記端面の間に形成されたコーナ面とを有する基板を処理液によって処理する基板処理方法であって、
前記基板の主面を水平にした状態で、前記基板を下向き
の主面側から支承部材で支承することにより、前記基板をセットする工程と、
前記基板の
下向きの主面の相対向する二辺にある
2つのコーナ面を、
そのコーナ面に隣接する前記端面とは接触せずにそれぞれクランプ保持する保持工程と、
前記クランプ保持された前記基板と前記支承部材の少なくとも一方を鉛直方向に移動させることにより、前記基板の下向き
の主面と前記支承部材を離間する離間工程と、
前記下向き
の主面に、前記処理液を供給するとともに、前記離間によって形成された空間内で、前記基板の下向き
の主面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き
の主面に沿って移動させることにより、前記基板の下向き
の主面を処理液によって処理する処理工程と、
を有する、
基板処理方法。
【請求項7】
前記処理工程後、前記
2つのコーナ面をクランプ保持から解放し、前記二辺と異なる二辺にある
2つのコーナ面を、
そのコーナ面に隣接する端面とは接触せずにそれぞれクランプ保持する第2
の保持工程と、
前記下向き
の主面に、前記処理液を供給するとともに、前記空間内で、前記基板の下向き
の主面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き
の主面に沿って移動させることにより、前記基板の下向き
の主面を処理液によって処理する第2
の処理工程と、
を有する、
請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記処理工程の後で、かつ、前記第2
の保持工程の前に、前記基板を水平面上で所定角度回転させる回転工程を有する、請求項
7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記所定角度は90度である、請求項
8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記回転工程は、前記支承部材により前記基板を支承して行なう、請求項
8又は
9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記保持工程で保持される前記基板の辺の長さ方向において、前記クランプ保持に用いられるクランプ部材が前記基板のコーナ面に接触する接触長さL(mm)は、
50≦L≦500
である、請求項6から10のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記保持工程は、前記下向きの主面が水平面を基準に所定角度の傾きを持たせた状態で前記基板を保持する、請求項6から11のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記基板処理方法により、フォトマスク基板の裏面を洗浄する、請求項
6から
12のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項14】
請求項
6から
13のいずれかに記載の基板処理方法によりフォトマスク基板の裏面を洗浄する裏面洗浄工程と、
前記フォトマスク基板の膜面を上側にした状態で、前記フォトマスク基板の膜面を洗浄する膜面洗浄工程と、を有し、
前記裏面洗浄工程と前記膜面洗浄工程との間に、前記フォトマスク基板を上下反転させる工程を有しない、フォトマスク洗浄方法。
【請求項15】
請求項
6から
13のいずれかに記載の基板処理方法を含む、フォトマスク製造方法。
【請求項16】
請求項
14に記載のフォトマスク洗浄方法を含む、フォトマスク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理に関し、特に、フォトマスク基板の洗浄処理に有利に用いられる、基板処理装置、基板処理方法、フォトマスク洗浄方法、及びフォトマスク製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(大規模集積回路)用フォトマスクやFPD(フラットパネルディスプレイ)用フォトマスクでは、製造工程中やハンドリングによって発生した異物が、フォトマスクの転写用パターンの領域などに付着することにより、転写不良をきたす。このため、フォトマスクの製造過程や製造後に精密な洗浄を施す必要がある。
【0003】
特許文献1には、異なる複数サイズのフォトマスクに用いられるスピン洗浄装置が記載されている。このスピン洗浄装置は、投入されたフォトマスク基板のサイズ情報を読み取る手段と、読み取った基板サイズ情報に基づいて、所定の制御を行なう制御部を有している。また、このスピン洗浄装置は、第一洗浄槽と第二洗浄槽との間に基板反転手段を備えており、上記基板サイズ情報を基に基板反転手段の挟持アーム用駆動部を制御してフォトマスク基板を挟持することにより、フォトマスク基板を反転する構成になっている。
【0004】
特許文献2には、フォトマスク用ガラス基板などの基板の表面と裏面にそれぞれ異なる処理液を供給して基板を処理する、基板処理装置が記載されている。この基板処理装置は、基板の主面を水平にして搬送しつつ、基板の表面に第1の処理液、基板の裏面に第2の処理液を供給することにより、基板の表面と裏面を処理する。この基板処理装置は、基板の表面への裏面用の洗浄液の回り込みを防止しつつ、基板の裏面を適切に処理することが可能な基板処理装置とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4824425号公報
【文献】特開2014-69126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板の表面を液剤で処理する方法として、スピン洗浄が知られている。スピン洗浄は、水平に保持した基板を処理カップ中で回転させつつ、基板の表面に処理液を供給して基板処理を行なう。このスピン洗浄によれば、水平に保持した基板の上向き面に、ブラシやスポンジ等のスクラブ材を接触させて基板を洗浄することができる。
【0007】
一方、基板の下向き面は、基板を水平に載置するための保持部材(スピンチャック)に保持される。このため、基板の下向き面に、スクラブ材等による接触式の洗浄を適用するには不都合がある。したがって、基板の表面と裏面をそれぞれ接触式で洗浄する場合には、基板の上向き面を洗浄した後で、基板の反転を行なう必要がある。但し、基板の反転には、後述する技術的な課題が伴う。このため、特許文献1に記載のスピン洗浄装置では、基板の反転に伴う課題を考慮していない点で改善の余地がある。
【0008】
特許文献2に記載の基板処理装置は、搬送ローラによって基板を搬送しつつ、基板の裏面(下向き面)に処理液を供給している。この基板処理装置では、基板を反転せずに裏面を処理している。但し、裏面の処理は、搬送ローラによって基板を搬送しつつ行なわれる。したがって、この基板処理装置を用いて基板の裏面を洗浄する場合には、基板と搬送ローラとの接触によって基板の裏面に汚染物が残留してしまう。
【0009】
現在、たとえばFPD用フォトマスク基板においては、コスト効率の観点から、基板の主面の面積を転写領域として最大限利用すべく、基板の外縁近くまでデバイスパターンを配置するニーズがある。これに伴い、基板の外縁近傍においても、欠陥や異物の存在が許容されず、これらが許容される幅が非常に狭くなっている。特許文献2に記載の基板処理装置では、基板の裏面に搬送ローラが接触し、その接触部分に汚染物が残留するため、基板の外縁近くまでデバイスパターンを配置するフォトマスクには、このような処理装置が適用できない点で課題を残す。
【0010】
本発明の主な目的は、基板の下向き面の洗浄方法を改善することにより、異物等の付着による汚染を低減した基板を得ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(第1の態様)
本発明の第1の態様は、
基板の下向き面を処理液によって処理する基板処理装置であって、
前記基板の主面を水平にした状態で、前記基板を下向き面側から支承する支承部材と、
前記支承部材に支承された前記基板の外縁部の一部を、対向する2方向から挟んで前記基板を保持するクランプ部材と、
前記クランプ部材に保持された基板を前記支承部材から離間させるために、前記支承部材と前記クランプ部材の少なくとも一方を鉛直方向に移動させる駆動手段と、
前記離間により形成された空間内で、前記基板の下向き面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き面に沿って移動させるスクラブ移動手段と、
前記基板の下向き面に処理液を供給する処理液供給手段と、
を有する、基板処理装置である。
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、
前記クランプ部材の先端には、前記基板の主面と端面の間に形成されたコーナ面に接触可能な接触面が設けられている、上記第1の態様記載の基板処理装置である。
(第3の態様)
本発明の第3の態様は、
前記支承部材に支承された前記基板を水平面内で回転させる回転手段を有する、上記第1又は第2の態様に記載の基板処理装置である。
(第4の態様)
本発明の第4の態様は、
基板の下向き面を処理液によって処理する基板処理方法であって、
前記基板の四角形の主面を水平にした状態で、前記基板を下向き面側から支承部材で支承することにより、前記基板をセットする工程と、
前記基板の主面の相対向する二辺にある基板外縁部の一部を、それぞれクランプ保持する保持工程と、
前記クランプ保持された前記基板と前記支承部材の少なくとも一方を鉛直方向に移動させることにより、前記基板の下向き面と前記支承部材を離間する離間工程と、
前記下向き面に、前記処理液を供給するとともに、前記離間によって形成された空間内で、前記基板の下向き面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き面に沿って移動させることにより、前記基板の下向き面を処理液によって処理する処理工程と、
を有する、基板処理方法である。
(第5の態様)
本発明の第5の態様は、
基板の下向き面を処理液によって処理する基板処理方法であって、
前記基板の四角形の主面を水平にした状態で、前記基板を下向き面側から支承部材で支承することにより、前記基板をセットする工程と、
前記基板の主面の相対向する二辺にある基板外縁部の一部を、それぞれクランプ保持する第1保持工程と、
前記クランプ保持された前記基板と前記支承部材の少なくとも一方を鉛直方向に移動させることにより、前記基板の下向き面と前記支承部材を離間する離間工程と、
前記下向き面に、前記処理液を供給するとともに、前記離間によって形成された空間内で、前記基板の下向き面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き面に沿って移動させることにより、前記基板の下向き面を処理液によって処理する第1処理工程と、
前記二辺にある基板外縁部をクランプ保持から解放し、前記二辺と異なる二辺にある基板外縁部の一部を、それぞれクランプ保持する第2保持工程と、
前記下向き面に、前記処理液を供給するとともに、前記空間内で、前記基板の下向き面にスクラブ材を接触させつつ、前記スクラブ材を前記基板の下向き面に沿って移動させることにより、前記基板の下向き面を処理液によって処理する第2処理工程と、
を有する、基板処理方法である。
(第6の態様)
本発明の第6の態様は、
前記第1処理工程の後で、かつ、前記第2保持工程の前に、前記基板を水平面上で所定角度回転させる回転工程を有する、上記第5の態様に記載の基板処理方法である。
(第7の態様)
本発明の第7の態様は、
前記所定角度は90度である、上記第6の態様に記載の基板処理方法である。
(第8の態様)
前記回転工程は、前記支承部材により前記基板を支承して行なう、上記第6又は第7の態様に記載の基板処理方法である。
(第9の態様)
本発明の第9の態様は、
前記基板処理方法により、フォトマスク基板の裏面を洗浄する、上記第4~第8の態様のいずれか1つに記載の基板処理方法である。
(第10の態様)
本発明の第10の態様は、
上記第4~第9の態様のいずれか1つに記載の基板処理方法によりフォトマスク基板の裏面を洗浄する裏面洗浄工程と、
前記フォトマスク基板の膜面を上側にした状態で、前記フォトマスク基板の膜面を洗浄する膜面洗浄工程と、を有し、
前記裏面洗浄工程と前記膜面洗浄工程との間に、前記フォトマスク基板を上下反転させる工程を有しない、フォトマスク洗浄方法である。
(第11の態様)
本発明の第11の態様は、
上記第4~第9の態様のいずれか1つに記載の基板処理方法を含む、フォトマスク製造方法である。
(第12の態様)
本発明の第12の態様は、
上記第10の態様に記載のフォトマスク洗浄方法を含む、フォトマスク製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板の下向き面の洗浄方法を改善することにより、異物等の付着による汚染を低減した基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】参考例としてのスピン洗浄装置の構成例を示す側面概略図である。
【
図2】(a)は
図1に示すスピン洗浄装置を用いて基板の裏面をスクラブ材で洗浄する場合の配置を示す側面概略図であり、(b)は
図1に示すスピン洗浄装置を用いて基板の膜面をスクラブ材で洗浄する場合の配置を示す側面概略図である。
【
図3】基板の裏面を洗浄する際の異物の回り込みを説明する側面概略図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る基板処理装置の構成例を示す概略側面図である。
【
図5】(a)はホルダの構成を示す概略側面図であり、(b)はホルダのピン配置を示す概略平面図である。
【
図7】クランプ部材による基板の保持例を示す概略平面図(その1)である。
【
図8】クランプ部材による基板の保持例を示す概略平面図(その2)である。
【
図9】クランプ部材による基板の保持例を示す概略平面図(その3)である。
【
図10】(a)はクランプ部材を鉛直方向の上側に移動させて基板とホルダを離間させる例を示す側面概略図であり、(b)はホルダを鉛直方向の下側に移動させて基板とホルダを離間させる例を示す側面概略図である。
【
図11】基板の下向き面とホルダとの間の空間にスクラブ移動手段を導入してスクラブ材を移動させる様子を示す側面概略図である。
【
図12】スクラブ材の形状と移動軌跡の一例を示す斜視図である。
【
図13】(a)~(f)は本発明の第1実施形態に係る基板処理方法を説明する図(その1)である。
【
図14】(a)~(f)は本発明の第1実施形態に係る基板処理方法を説明する図(その2)である。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る基板処理方法を説明する図である。
【
図16】本発明の第3実施形態に係る基板処理方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態において、基板処理の対象となる基板とは、たとえば、フォトマスク基板である。フォトマスク基板には、フォトマスクとするための透明基板(フォトマスク用ガラス基板等)のみならず、該透明基板の表面に所定の膜を成膜したフォトマスクブランクや、フォトマスクブランクにフォトレジストを塗布したレジスト付フォトマスクブランク、或いはフォトマスク製造過程のフォトマスク中間体や、完成したフォトマスクを含むものとする。以下の実施形態の説明においては、上記フォトマスク基板を基板と略称することがある。
【0015】
また、本発明の実施形態においては、フォトマスク基板が有する表裏2つの主面のうち、一方の主面を膜面、他方の主面を裏面とする。膜面とは、成膜及び転写用パターンの形成が行なわれる側の面をいう。裏面は多くの場合、フォトマスク基板の材料であるガラスの表面が露出した面となる。よって、本実施形態ではフォトマスク基板の裏面をガラス面ともいう。
【0016】
また、本発明の実施形態では、基板処理の過程で基板の主面を水平にしたとき、2つの主面のうち、鉛直方向の上側を向く面を上向き面、鉛直方向の下側を向く面を下向き面とする。
【0017】
<スピン洗浄装置>
図1は、参考例としてのスピン洗浄装置の構成例を示す側面概略図である。
図示したスピン洗浄装置50は、平面視四角形のフォトマスク基板1を保持するホルダ51と、ホルダ51を収容可能なカップ52と、ホルダ51を回転させる回転軸53と、回転軸53を駆動する駆動部54と、接触洗浄用のスクラブ材55と、上側処理液供給ライン56と、下側処理液供給ライン57と、を備える。ホルダ51には、フォトマスク基板1を下から受けて支えるピン58と、フォトマスク基板1の四隅付近で端面を規制するチャック59が設けられている。駆動部54は、たとえば、モータ等の駆動源と、駆動源の駆動力を回転軸53に伝達する駆動力伝達機構(プーリー、ベルト等)とによって構成される。スクラブ材55は、たとえば、ブラシやスポンジなどを用いて構成される。
【0018】
上記構成からなるスピン洗浄装置50においては、ホルダ51上にフォトマスク基板1を載置し、回転軸53を中心にホルダ51とフォトマスク基板1を高速回転させながら、フォトマスク基板1の上向き面に上側処理液供給ライン56を通して処理液(洗浄液、リンス液を含む)を供給する。これにより、フォトマスク基板1の上向き面を処理液によって処理することができる。その際、必要に応じて、基板の下側から下側処理液供給ライン57を通して処理液(洗浄液、リンス液を含む)を噴出させることにより、フォトマスク基板1の下向き面を処理液によって処理することができる。
【0019】
上記
図1に示す例では、フォトマスク基板1の上向き面が膜面となっており、この膜面に転写用パターン1aが形成されている。フォトマスクを製造した後、フォトマスクを洗浄する場合は、フォトマスク基板1の膜面側に存在する異物を極力排除する必要がある。このため、スピン洗浄装置50には、スクラブ材55を用いた接触洗浄機構を取り付けることができる。接触洗浄機構は、スクラブ材55を保持するアーム(不図示)の動作により、フォトマスク基板1の上向き面(膜面)と対向するようにスクラブ材55を配置するとともに、フォトマスク基板1の上向き面にスクラブ材55を接触させて洗浄する機構である。
【0020】
但し、フォトマスク基板1はホルダ51上に載置されることで、その自重を支承されている。このため、フォトマスク基板1の下向き面側にはあまり空間がない。したがって、下側処理液供給ライン57から噴出させた処理液を、ホルダ51の隙間を通してフォトマスク基板1の下向き面に到達させて処理することは可能であるが、スクラブ材などを用いた接触洗浄を下向き面に適用することは極めて困難である。その理由は、フォトマスク基板1の下向き面をスクラブ材などによって、より積極的に異物を除去すべく接触洗浄しようとすると、スクラブ材を保持するアームなどがホルダ51と干渉してしまうなどの不都合が生じるためである。
【0021】
そこで、フォトマスク基板1の膜面及び裏面の両方を接触洗浄する方法としては、膜面を処理する前に、
図2(a)に示すように、膜面を下向きにしてフォトマスク基板1をホルダ51に載置し、そのときに上向き面となった裏面を上記スクラブ材55によって洗浄する。その後、
図2(b)に示すように、フォトマスク基板1を上下反転させてホルダ51に載置し、そのときに上向き面となった膜面を上記スクラブ材55によって洗浄する。なお、フォトマスク基板1の表面及び裏面をそれぞれ接触洗浄する場合、先に膜面を洗浄してから裏面を洗浄することも可能であるが、最終的には膜面側の異物を可能なかぎり除去すべきであるため、膜面の処理は、最後に行なうことが有利である。
【0022】
但し、膜面の処理を最後に行なう場合であっても、その前に上向き面となった裏面を洗浄する際に、洗浄によって裏面から取り除かれる異物や、フォトマスク基板1の端面に存在する異物が、処理液と共に膜面側に回り込むことが、発明者によって見出された(
図3)。すなわち上記の洗浄方法では、フォトマスク製造過程のハンドリングなどでフォトマスク基板1の裏面に付着した異物や、フォトマスク基板1の端面に付着した異物が、裏面を上向き面として洗浄する際に、
図3の破線矢印で示すように膜面側に回り込む。特に、フォトマスク基板1の端面の粗さが主面に比べて粗い場合は、端面に多くの異物が潜在しているため、膜面側に異物が回り込む傾向が顕著になる。
【0023】
なお、サイズが50μm未満(例えば0.5~50μm程度)の異物を除去するための洗浄において、洗浄環境を十分に清浄にする。仮に洗浄装置の汚染や、スクラブ材の汚染、洗浄装置内に飛散した処理液の滴下や再付着の防止策が不十分であれば、1回の洗浄によって、異物の数を低減するどころか増加させることもあり得る。一方、洗浄環境を良好に整えることにより、所定の割合で、異物の数を減らすことができる。但し、仮に1回の洗浄で、たとえば異物を70%程度除去できるとしても、100%除去することは現実的にほぼ不可能である。したがって、基板の洗浄工程では、膜面に対する洗浄前の初期段階で異物の数を極力減らしておくことが肝要である。上述したように、まずフォトマスク基板1の裏面を洗浄し、その後、フォトマスク基板1の膜面を洗浄する場合は、最初に行なう裏面の洗浄において、膜面側への異物の回り込みにより、膜面に付着する異物の数が増加する。そうすると、その後の工程で行なう膜面の洗浄において、除去しきれずに残存する異物の数が増加する傾向となる。つまり、洗浄工程において、フォトマスク基板1のいずれの面でも異物の数を増加させるプロセスが存在しないことが理想であり、特に微細なパターンを形成する(又はパターンが形成された)膜面側の異物の数は、たとえ一時であっても増加させない工程を採用することが有利であることを、発明者は見出した。
【0024】
以下、上記発明者の知見に基づく本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0025】
<基板処理装置>
図4は、本発明の実施形態に係る基板処理装置の構成例を示す概略側面図である。
図示した基板処理装置10は、たとえばフォトマスク基板を被処理基板とする基板洗浄装置として適用可能である。その場合、基板処理装置10は、フォトマスク製造に関わる各工程(成膜、現像、エッチング、検査、欠陥修正など)の前又は後に、必要に応じてフォトマスク基板を洗浄するために用いることができる。特に、本発明の実施形態に係るフォトマスク基板1は、一連のフォトマスク製造において、エッチング工程の後、及び、欠陥修正工程の後など、パターンが形成された状態のフォトマスク基板を洗浄する際に、顕著な効果を奏する。
【0026】
図示した基板処理装置10は、基板を支承する支承部材としてのホルダ11と、基板の外縁部を保持するクランプ部材12と、クランプ部材12に保持された基板をホルダ11から離間させるべく駆動する駆動手段13と、スクラブ材14を移動させるスクラブ移動手段15と、基板の上向き面に処理液を供給する上面側処理液供給手段16と、基板の下向き面に処理液を供給する下面側処理液供給手段17と、駆動手段13及びスクラブ移動手段15を制御する制御部18と、を備える。以降、基板をフォトマスク基板1として説明する。フォトマスク基板1の有する2つの主面のうち、一方の主面2は転写用パターン1aが形成された膜面、他方の主面3はガラス面からなる裏面となっている。
【0027】
ホルダ11は、
図5(a)の側面図に示すように、フォトマスク基板1の主面2,3を水平にした状態で、フォトマスク基板1を下向き面側から支承する部材である。なお、水平とは実質的に水平である場合を指し、たとえば、フォトマスク基板1が自重による撓みの影響で変形している場合などを含む。基板処理装置10にフォトマスク基板1をセットする場合は、まずホルダ11にフォトマスク基板1を載置する。ホルダ11は、基板処理装置10の専用治具として用いる以外にも、フォトマスク基板1を他工程から基板処理装置10に搬送する際の搬送治具として用いることもでき、又は他工程においてフォトマスク基板1を支承する部材として兼用してもよい。このため、ホルダ11は、基板処理装置10に対して着脱可能となっていることが好ましい。
【0028】
ホルダ11には、それぞれ柱状をなす複数のピン21が設けられている。これらのピン21は、フォトマスク基板1をホルダ11に載置したときに、フォトマスク基板1の下向き面に接触することにより、フォトマスク基板1を下向き面側から支承する。各々のピン21は、フォトマスク基板1の主面の外縁から10mmの範囲内に位置することが好ましい。また、各々のピン21は、フォトマスク基板1の主面とピン21との接触面積は小さく、例えばトータルで100mm
2以下である。接触面積を小さくするために、該主面と接触するピン21の先端(上端)が凸曲面形状、好ましくは、半球面状に形成されていてもよい。また、各々のピン21は、
図5(b)の平面図に示すように、フォトマスク基板1の主面の4つの角部近傍にそれぞれピン21が位置するように設定されることが好ましい。
【0029】
クランプ部材12は、ホルダ11に支承された基板の外縁部の一部を、対向する2方向から挟んで該基板を保持する部材である。この一対のクランプ部材の中心軸は、一直線上にある。クランプ部材12は、平面視四角形をなすフォトマスク基板1の主面のうち、相対向する二辺の一部をそれぞれ保持することが好ましい。具体的には、フォトマスク基板1の主面の外縁を挟んで保持するクランプ部材12とすることができる。ここで、フォトマスク基板1は、
図6に示すように、2つの主面(2、3)と、4つの端面4を有し、主面と端面の間に、それぞれコーナ面5をもつ。クランプ部材12は、フォトマスク基板1のコーナ面5に接触する接触面を有していることが好ましい。これによって、クランプ部材12は、少なくともいずれか一方の基板主面に面接触せず、主面に対しては線接触のみの状態によってフォトマスク基板1を保持することができる。クランプ部材12の先端には、
図6に示すように、断面が台形状の切り込みを形成することにより、クランプ保持するフォトマスク基板の主面に対して傾斜角をもつ2つの接触面22が設けられている。クランプ部材12の先端における2つの接触面22の開き角度θ(deg)は、フォトマスク基板1の各主面2,3と端面4との間に形成されるコーナ面5に接触面22が接触し得るように設定することが好ましい。例えば、70≦θ≦100とすることができる。
【0030】
ここで、
図7に示すように、フォトマスク基板1が平面視長方形に形成され、フォトマスク基板1の長辺の長さがW1、短辺の長さがW2である場合、クランプ部材12がフォトマスク基板1を保持する接触長さL(mm)は、たとえば、以下のように設定することができる。すなわち、フォトマスク基板1を1対のクランプ部材12で保持する場合、その辺の長さ方向でクランプ部材12がフォトマスク基板1に接触する接触長さL(mm)は、本装置に適用する最小サイズのフォトマスク基板1を考慮して、50≦L≦500に設定することが好ましい。この場合、相対向する各辺の長さ方向の中間部又はその近傍を、それぞれ1つのクランプ部材12により保持することが好ましい。この場合、一辺(長辺、短辺)が500~1500mm程度の、多様なサイズのフォトマスク基板1を2つのクランプ部材12で保持することができる。
【0031】
なお、
図7においては、フォトマスク基板1の相対向する2つの長辺を一対のクランプ部材12で保持する場合を示しているが、上記接触長さL(mm)の設定は、フォトマスク基板1の相対向する2つの短辺を一対のクランプ部材12で保持する場合にも同様に適用可能である。また、
図8に示すように、複数対のクランプ部材を用い、フォトマスク基板1の一辺を複数(図例では2つ)のクランプ部材12で保持する場合は、各々のクランプ部材12の接触長さL1,L2をそれぞれ50~200mmに設定するとともに、クランプ部材12同士の離間距離B1を500mm以下に設定することが好ましい。
【0032】
また、
図9に示すように、フォトマスク基板1の相対向する二辺(図例では長辺)を一対のクランプ部材12aで保持する一方、フォトマスク基板1の相対向する他の二辺(図例では短辺)を他の一対のクランプ部材12bで保持する構成としてもよい。この構成では、フォトマスク基板1の四辺を二対のクランプ部材12a,12bで同時に保持することもできるし、フォトマスク基板1の相対向する二辺(長辺または短辺)を二対のクランプ部材12a,12bで交互に保持することもできる。
尚、
図7等において、フォトマスク基板1のパターンデザインは、フォトマスク基板1の向きを示すものであり、必ずしも現実の転写用パターンを意味するものではない。
【0033】
クランプ部材12は、上記
図4に示すように、アーム25の先端に取り付けられている。アーム25は、次のように動作する。まず、フォトマスク基板1をクランプ部材12によって保持する必要があるときは、ホルダ11に支承されたフォトマスク基板1の外縁部にクランプ部材12が接触するよう、アーム25は前進動作する。また、フォトマスク基板1をクランプ部材12によって保持する必要がないときは、フォトマスク基板1の外縁部からクランプ部材12が離間するよう、アーム25はホルダ11の外側へと待避動作する。このようなアーム25の動作は、制御部18によって制御され、対をなす2つのアーム25の動作が同期するように制御が実行されることにより、一対のクランプ部材12も同期して動作することができる。
【0034】
駆動手段13は、クランプ部材12に保持されたフォトマスク基板1をホルダ11から離間させるために、ホルダ11とクランプ部材12の少なくとも一方を鉛直方向に移動させるように駆動する。クランプ部材12を鉛直方向に移動させる場合は、上述したアーム25の前進動作によってフォトマスク基板1をクランプ部材12で保持した後、
図10(a)に示すようにクランプ部材12を鉛直方向の上側に移動(以下、「上昇」ともいう。)させる。また、ホルダ11を鉛直方向に移動させる場合は、
図10(b)に示すように、フォトマスク基板1をクランプ部材12で保持した後、ホルダ11を鉛直方向の下側に移動(以下、「下降」ともいう。)させる。これにより、鉛直方向において、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11とを離間させ、フォトマスク基板1の下向き面側の空間を広げることができる。
【0035】
なお、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11とを離間させる場合は、クランプ部材12を上昇させ、かつ、ホルダ11を下降させてもよい。また、上記
図10(a)のように上昇させたクランプ部材12を元の位置まで下降させる、或いは、上記
図10(b)のように下降させたホルダ11を元の位置まで上昇させることにより、フォトマスク基板1とホルダ11を相対的に接近させ、フォトマスク基板1の下向き面側の空間を閉じることもできる。例えば、ホルダ11とクランプ部材12との間で、フォトマスク基板1を受け渡すときには、互いに相対的に接近させる。
【0036】
また、駆動手段13は、ホルダ11に支承されたフォトマスク基板1を水平面内で回転させる回転手段としての機能も兼ね備えている。回転手段は、ホルダ11が水平に取り付けられる回転軸19(
図4)を回転させることにより、ホルダ11に支承されたフォトマスク基板1を水平面内で回転させる。これにより、水平面内におけるフォトマスク基板1の配置姿勢(向き)を変えることができる。回転手段は、たとえば、水平面内でフォトマスク基板1を90度の角度で回転させることが可能である。
【0037】
なお、本実施形態では駆動手段13が回転手段の機能を兼ねる構成としたが、駆動手段13と回転手段をそれぞれ独立に構成することも可能である。また、基板処理装置10に対してスピン洗浄装置、又は乾燥装置の機能を併せ持たせる場合には、上記回転手段は、ホルダ11を高速回転させるものとすることができる。
【0038】
スクラブ移動手段15は、フォトマスク基板1の下向き面を接触洗浄するためのスクラブ材14を、上記駆動手段13によりフォトマスク基板1の下向き面側に形成した空間に導入する。スクラブ移動手段15は、駆動手段13がフォトマスク基板1をホルダ11から離間させた場合に、離間によりフォトマスク基板1の下向き面側に形成された空間内でスクラブ材14を移動させる。また、スクラブ移動手段15は、フォトマスク基板1の下向き面にスクラブ材14を接触させつつ、スクラブ材14をフォトマスク基板1の下向き面に沿って接触移動させる。これにより、フォトマスク基板1の下向き面をスクラブ材14によって接触洗浄することができる。
【0039】
スクラブ移動手段15は、スポンジやブラシなどのスクラブ材14を保持することができる。また、スクラブ移動手段15は、フォトマスク基板1の下向き面の接触洗浄が必要なときは、上記空間にスクラブ材14を導入し、接触洗浄が不要なときは、上記空間からスクラブ材14を退避させる。また、スクラブ移動手段15は、フォトマスク基板1の下向き面にスクラブ材14を接触させ、その状態を維持しつつフォトマスク基板1の下向き面に沿ってスクラブ材14を移動させることにより、下向き面全体にわたって処理(洗浄)することを可能とする。このため、フォトマスク基板1の下向き面をXY面とするとき、スクラブ移動手段15は、
図11に示すように、該XY面内でスクラブ材14を所望のルートで水平移動させることにより、下向き面全体をカバーするように処理する。
【0040】
スクラブ材14は、好ましくはディスクブラシやスポンジなど、ディスク形状が好ましい(
図12)。他のスクラブ材としてはロールブラシを使用してもよいが、水平な回転軸をもつロールブラシを用いると、ロールブラシの回転によって跳ね上げられた処理液と一緒に異物が飛散し、基板に異物が再付着しやすい。このため、異物の再付着による基板の上向き面の汚染を防止するためには、ディスク形状のスクラブ材14を適用し、これを上記XY面内のみで移動させつつ、基板を処理(洗浄)することが好ましい。
【0041】
上面側処理液供給手段16(
図4)は、ホルダ11に支承されるフォトマスク基板1の上向き面に処理液を供給する。
【0042】
下面側処理液供給手段17(
図4)は、クランプ部材12により保持されるフォトマスク基板1の下向き面に処理液を供給する。たとえば、スクラブ移動手段15によりフォトマスク基板1の下向き面に沿ってスクラブ材14が接触移動する際、フォトマスク基板1とスクラブ材14の接触面近傍に処理液(洗浄液又はリンス液)を供給する。
供給される処理液は、フォトマスク基板1の下向き面での滞留時間を長くするため、粘性の高いゲル状のものや、泡を含むものが好ましく用いられる。このため、下面側処理液供給手段17が連結された、処理液タンク(不図示)には、発泡手段として、泡を生成するためのミキサーや、気体(エア、窒素ガスなど)の供給手段を伴なうものであってもよい。
【0043】
制御部18は、予め設定された制御プログラムに従って制御対象を制御する。制御対象には、駆動手段13及びスクラブ移動手段15に加えてアーム25が含まれる。このため、駆動手段13、スクラブ移動手段15及びアーム25の動きは、それぞれ制御部18によって制御される。
【0044】
<基板処理方法>
続いて、本発明の実施形態に係る基板処理方法について、
図13及び
図14を用いて説明する。なお、
図13(a)~(f)及び
図14(a)~(f)において、左側は側面図、右側は平面図を示している。
【0045】
本発明の実施形態に係る基板処理方法は、上記構成の基板処理装置10を使用して実施してもよいし、他の構成の基板処理装置を使用して実施してもよい。ここでは一例として、基板処理装置10を使用した基板処理方法を説明する。また、本発明の実施形態に係る基板処理方法では、転写用パターンが形成されたフォトマスク基板1を被処理基板とするとともに、転写用パターンが形成されたフォトマスク基板1の膜面を上向き面とし、裏面(ガラス面)を下向き面として、下向き面を処理液によって処理(洗浄等)する場合について説明する。
【0046】
(第1実施形態に係る基板処理方法)
まず、
図13(a)に示すように、被処理基板となるフォトマスク基板1を基板処理装置10(
図4)にセットする。具体的には、フォトマスク基板1の主面2,3を水平にした状態で、ホルダ11にフォトマスク基板1を載置する(セットする工程)。その際、ホルダ11に設けられた複数のピン21は、フォトマスク基板1の下向き面の外縁近傍に接触することにより、フォトマスク基板1の下向き面側から該基板の自重を支承する。
【0047】
次に、
図13(b)に示すように、フォトマスク基板1を一対のクランプ部材12で保持すべく、フォトマスク基板1とほぼ同一の水平面上から、互いに対向する一対のアーム25(
図4)を接近(前進移動)させる。その際、各々のアーム25の先端に取り付けられたクランプ部材12が、フォトマスク基板1の主面の相対向する二辺(図例では短辺)にある基板外縁部の一部をクランプ保持する。これにより、フォトマスク基板1は、クランプ部材12によって両側から挟まれて水平に保持される(保持工程、第1保持工程)。
【0048】
次に、
図13(c)に示すように、駆動手段13によってホルダ11を下降させることにより、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11を離間する(離間工程)。これにより、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11との間に、所定の高さの空間を形成する。この空間は、スクラブ移動手段15が導入されても干渉しない程度の高さ、好ましくは、40~80cm程度の高さを有する。なお、ここではホルダ11を下降させたが、フォトマスク基板1を保持するクランプ部材12を上昇させてもよい。また、ホルダ11を下降させ、かつ、クランプ部材12を上昇させてもよい。
【0049】
次に、
図13(d)に示すように、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11との間の空間内にスクラブ移動手段15を導入するとともに、スクラブ移動手段15に取り付けられたスクラブ材14を該空間内でフォトマスク基板1の下向き面に接触させる。また、フォトマスク基板1の下向き面にスクラブ材14を接触させつつ、スクラブ材14をフォトマスク基板1の下向き面に沿って移動させる。このとき、フォトマスク基板1の下向き面に下面側処理液供給手段17によって処理液を供給することにより、フォトマスク基板1の下向き面を処理液によって処理(本形態では洗浄処理)する(処理工程、第1処理工程)。
【0050】
本態様では、スクラブ材14としてディスクブラシを用いるとともに、ディスクブラシを所定の速度で回転(自転)させながら、フォトマスク基板1の下向き面全体に所定の軌跡を描くようにディスクブラシを移動させる。スクラブ材14としてのディスクブラシの移動は、たとえば上記
図12に点線で示すような往復運動でよい。また、好ましくは、スクラブ材14の中央に縦方向に貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔を通じて下面側処理液供給手段17が処理液(洗浄液)を供給する構成とすれば、フォトマスク基板1の下向き面とスクラブ材14との接触面に直接、処理液を供給することができる。下面側処理液供給手段17が供給する処理液は、たとえば30~60度程度に加温してあってもよい。処理液による処理を終えたら、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11との間の空間から、スクラブ移動手段15と共にスクラブ材14を待避させる。
【0051】
なお、フォトマスク基板1をクランプ部材12で保持しつつ、フォトマスク基板1の下向き面全体をスクラブ材14によって接触洗浄しようとする場合、クランプ部材12が存在する基板外縁部の一部では、クランプ部材12とスクラブ材14との干渉により、スクラブ材14を接触させることができない領域が生じる。具体的には、上記
図6に示すように、クランプ部材12の先端部がフォトマスク基板1の下向き面側に寸法dだけ突き出して配置されるエリアが存在し、そのエリアは、クランプ部材12とスクラブ材14との干渉により処理(洗浄)が施されない未処理エリア(未洗浄エリア)となる。未洗浄エリアの面積は、クランプ部材12の形状とフォトマスク基板1の厚みによって変化するが、たとえば、寸法dは2~50mm程度である。一般には、フォトマスク基板1の基板サイズ(各辺の長さ寸法)の大小に連動して基板の厚みが異なるため、表示装置製造用フォトマスクとして、サイズの異なる様々な基板を処理可能とする為にはこの傾向が避けられない。
【0052】
次に、
図13(e)に示すように、上記空間を広げるために下降させていたホルダ11を駆動手段13によって上昇させることにより、フォトマスク基板1を再びホルダ11上にセットする。
【0053】
次に、アーム25をホルダ11の外側に待避させることにより、
図13(f)に示すように、フォトマスク基板1の相対向する二辺(図例では短辺)にある基板外縁部を、クランプ部材12によるクランプ保持から解放する。これにより、フォトマスク基板1は、複数のピン21を有するホルダ11により、再び下向き面側から支承された状態になる。この段階では、フォトマスク基板1の下側面に上記未処理エリア(未洗浄エリア)1bが存在する。
【0054】
次に、
図14(a)に示すように、駆動手段13によりホルダ11を水平面内で90度(又は270度)回転させる(回転工程)。これにより、水平面内においてフォトマスク基板1の長辺と短辺の向きが入れ替わる。
【0055】
次に、
図14(b)に示すように、一対のアーム25を再び接近(前進移動)させることにより、上記
図13(b)でクランプ保持した二辺と異なる二辺(図例では長辺)にある基板外縁部をクランプ部材12でクランプ保持する(第2保持工程)。
【0056】
次に、
図14(c)に示すように、再び駆動手段13によってホルダ11を下降させて、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11を離間することにより、フォトマスク基板1の下向き面とホルダ11との間に、所定の高さの空間を形成する。
【0057】
次に、
図14(d)に示すように、再びフォトマスク基板1の下向き面とホルダ11との間の空間内にスクラブ移動手段15を導入し、該空間内でスクラブ材14をフォトマスク基板1の下向き面に接触させつつ、スクラブ材14をフォトマスク基板1の下向き面に沿って移動させることにより、フォトマスク基板1の下向き面全体を処理液(洗浄液)によって処理する(第2処理工程)。このとき、上記未処理エリア(未洗浄エリア)1bにもスクラブ材14が接触するため、未処理エリア1bが消失する。よって、未処理エリア1bを含む、下向き面全体の洗浄が完了する。
【0058】
次に、
図14(e)に示すように、上記空間を広げるために下降させていたホルダ11を駆動手段13によって上昇させることにより、フォトマスク基板1を再びホルダ11上にセットする。
【0059】
次に、
図14(f)に示すように、アーム25をホルダ11の外側に待避させることにより、フォトマスク基板1の相対向する二辺(図例では長辺)にある基板外縁部を、クランプ部材12によるクランプ保持から解放する。これにより、フォトマスク基板1は、ホルダ11に設けられた複数のピン21により下向き面側から支承された状態に戻る。
【0060】
上記基板処理装置10とこれを用いた基板処理方法によれば、ホルダ11で支承したフォトマスク基板1の下向き面を、フォトマスク基板1を上下反転させなくても、スクラブ材14を用いて処理液により処理することができる。これにより、フォトマスク基板1の裏面を下向き面として洗浄する場合に、裏面洗浄に起因した膜面側への異物等の回り込みを回避し、異物等の付着による汚染を低減することができる。
また、この基板処理方法によれば、フォトマスク基板1の相対する長辺及び短辺を、それぞれ1回ずつクランプ保持することによって、下向き面全面の処理が行なえる。クランプ保持を解放した部分は、再度クランプ保持されることが無い。四角形(正方形、又は長方形)の主面をもつフォトマスク基板1に対し、互いに直交する2つの方向から交互に保持するという、最も簡易な動作で迅速に、下向き面の全面が処理できる。
【0061】
(第2実施形態に係る基板処理方法)
本発明の第2実施形態に係る基板処理方法は、上記第1実施形態と比べて、以下の点が異なる。
まず、上記
図13(b)又は
図14(b)の工程では、フォトマスク基板1をクランプ部材12によってクランプ保持する。その際、フォトマスク基板1が自重によって撓むと、フォトマスク基板1の重心位置の高さが、クランプ部材12で保持されている基板外縁部の高さより低くなる。このため、スクラブ材14を水平面上で移動させると、フォトマスク基板1の下向き面に対するスクラブ材14の圧力が不均一になる場合や、両者の接触状態が適切に維持されない場合がある。
【0062】
そこで本発明の第2実施形態では、
図15に示すように、水平面をXY平面とするとき、スクラブ移動手段15は、XY平面内でスクラブ材14を移動させるだけでなく、Z方向を含めた、3次元の方向にスクラブ材14を移動可能としている。具体的には、制御部18がスクラブ移動手段15を制御することにより、フォトマスク基板1の下向き面形状の凹凸に沿ってスクラブ材14を接触移動可能な構成とすることが好ましい。その場合は、たとえば、フォトマスク基板1の形状(縦横サイズ、厚み)と素材の物性により、フォトマスク基板1が自重で撓むときの撓み形状を予め算定し、算定した下向き面の形状に合わせて、スクラブ材14の移動を3次元的に制御する。これにより、フォトマスク基板1が自重で撓む場合でも、その撓み形状に追従するよう、スクラブ材14を下向き面に沿って移動させることができる。このため、フォトマスク基板1の下向き面全体にスクラブ材14を均一な圧力で接触させることができる。
【0063】
(第3実施形態に係る基板処理方法)
上記第1実施形態に係る基板処理方法では、クランプ部材12でクランプ保持したフォトマスク基板1を水平に維持し、該基板の下向き面にスクラブ材14を接触させる構成を採用している。一方、本第3実施形態では、
図16に示すように、クランプ部材12でクランプ保持したフォトマスク基板1を、水平面を基準に所定角度の傾きを持たせて保持する構成を採用している。具体的には、上記
図13(b)又は
図14(b)の工程において、クランプ部材12でクランプ保持したフォトマスク基板1に、所定角度(2度~20度程度)の傾きを持たせ、その状態で下向き面の上流側(高位側)から下面側処理液供給手段17によって処理液(洗浄液)30を供給する。これにより、
図16の点線の矢印で示すように、処理液30がフォトマスク基板1の下向き面の上流側から下流側(低位側)に向かって流れる。つまり、フォトマスク基板1の下向き面において、処理液30の流れる方向を一定方向に制御できる。このため、処理液30の停滞や不規則な滴下を抑止することが可能となる。また、本第3実施形態においても、スクラブ移動手段15がスクラブ材14を三次元の方向に移動可能な構成とすることにより、フォトマスク基板1の傾きに合わせて、スクラブ材14の移動を三次元に制御することができる。このため、フォトマスク基板1の下向き面全体にスクラブ材14を均一な圧力で接触させることができる。
【0064】
(他の実施形態)
上記実施形態においては、一対のクランプ部材12を用いてフォトマスク基板1を保持する場合について説明したが、たとえば上記
図9に示すように二対のクランプ部材12(12a,12b)を用いてフォトマスク基板1を保持する場合は、上記
図13(e),(f)及び
図14(a)の工程(回転工程)を省略することが可能である。具体的には、上記
図13(d)の工程を終えたら、それまでフォトマスク基板1の相対向する二辺(短辺)を保持していた一対のクランプ部材12aに加えて、該二辺と異なる二辺を、他の一対のクランプ部材12bで保持する。次に、一対のクランプ部材12aによるクランプ保持を解放した後、フォトマスク基板1の下向き面をスクラブ材14を用いて処理液により処理(洗浄)する。次に、ホルダ11の上昇により、フォトマスク基板1をホルダ11に再セットした後、一対のクランプ部材12bによるクランプ保持を解放する。これにより、上記第1実施形態に比べて工程が簡素化される。このため、フォトマスク基板1の処理を効率良く行なうことが可能となる。
【0065】
上記実施形態においては、フォトマスク基板1の下向き面を処理する場合について説明したが、それと同時にフォトマスク基板1の上向き面に対しても、スクラブ移動手段やスクラブ材を用いた処理を行なってもよい。すなわち、本発明の実施形態に係る基板処理装置は、付加的に、フォトマスク基板1の上向き面を処理するためのスクラブ移動手段やスクラブ材、更には上向き面に処理液を供給する処理液供給手段を有し、その動作を上記制御部によって制御する態様を含む。
【0066】
また、本発明の実施形態に係る基板処理方法によってフォトマスク基板1の裏面を下向き面としてスクラブ材14と洗浄液により洗浄した後、公知のスピン洗浄装置によってフォトマスク基板1の膜面を洗浄してもよい。この過程で、フォトマスク基板1の上下反転を不要とすることができる。その場合は、フォトマスク基板1の裏面を下向き面として該裏面を洗浄する裏面洗浄工程と、フォトマスク基板1の膜面を上側にした状態で、フォトマスク基板1の膜面を洗浄する膜面洗浄工程と、を有し、上記裏面洗浄工程と上記膜面洗浄工程との間に、フォトマスク基板1を上下反転させる工程を有しないフォトマスク洗浄方法が実現される。このフォトマスク洗浄方法においては、フォトマスク基板1の裏面洗浄が、膜面を上側に向けて行なわれるため、裏面洗浄時に異物が膜面側に回り込むリスクを低減することができる。
【0067】
上記実施形態においては、基板処理装置10や基板処理方法で処理の対象となる被処理基板としてフォトマスク基板1を例に挙げて説明したが、処理の対象とする基板の種類や用途に特に制限はない。また、フォトマスク基板1を洗浄する場合、そのフォトマスクの仕様や用途にも、特段の制限はない。たとえば、本発明の実施形態に係る基板処理装置10や基板処理方法は、表示装置(液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル等)製造用フォトマスク基板を処理する場合に好適に適用可能である。また、表示装置製造用フォトマスク基板としては、たとえば、一辺が300~2000mm程度の四角形の主面をもち、厚みが5~20mm程度のフォトマスク基板を適用可能である。特に、パターンCD(Critical Dimension)が微細(たとえば、CD=3μm以下、或いは1~3μm程度)のホールパターン、L/S(ライン/スペース)パターンを有する表示装置用フォトマスク基板に適用すると、効果が顕著である。これらのフォトマスク基板は、FPD用の露光装置(i線、h線、g線のいずれか、又は全てを含む光源を有し、光学系のNA(開口数)が0.08~0.15程度のプロジェクション露光装置、又は同様の光源をもつプロキシミティ露光装置など)によって、被転写体上に、その転写用パターンを転写することができる。
【0068】
本発明は、上記実施形態に係る基板処理方法を含む、フォトマスク製造方法として実現することができるし、上記裏面洗浄工程及び膜面洗浄工程を有するフォトマスク洗浄方法を含む、フォトマスク製造方法として実現することもできる。
【0069】
フォトマスク製造方法は、たとえば以下の工程を有する。
フォトマスクの主面に、少なくとも1層の光学膜(たとえば遮光膜)を形成し、更にフォトレジスト膜を塗布形成した、レジスト付フォトマスクブランクを用意する工程。
レーザや電子線を用いた描画装置を用い、得ようとするデバイスの設計に基づくパターンデータを、フォトマスクブランクに対して描画する工程。
描画済みのフォトレジスト膜を現像し、レジストパターンを形成する工程。
形成したレジストパターンをエッチングマスクとして、上記光学膜をドライエッチング又はウェットエッチングでエッチングし、転写用パターンを形成する工程。
形成した転写用パターンの検査を行い、必要に応じて、パターンの欠陥修正を行なう工程。
これらの工程のいずれかの段階で、本発明の実施形態に係る基板処理方法やフォトマスク洗浄方法を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…フォトマスク基板
2,3…主面
10…基板処理装置
11…ホルダ
12…クランプ部材
13…駆動手段
14…スクラブ材
15…スクラブ移動手段
16…上面側処理液供給手段
17…下面側処理液供給手段