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特許7109301ヘパリン誘発性血小板減少症の診断用結合アッセイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】ヘパリン誘発性血小板減少症の診断用結合アッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220722BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220722BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20220722BHJP
   C07K 16/36 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 D
G01N33/543 581U
G01N33/543 581A
G01N33/543 575
G01N33/545 B
C07K16/36
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018144703
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2019039912
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】17184389.9
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510259921
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト・アルタウス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・シュヴァルツ
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・ツァンダー
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516200(JP,A)
【文献】特表2003-523204(JP,A)
【文献】特表2014-517311(JP,A)
【文献】特開平11-242035(JP,A)
【文献】特表平05-502103(JP,A)
【文献】特表平10-506988(JP,A)
【文献】特表2013-508730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0037821(US,A1)
【文献】CUKER, A. et al.,Novel diagnostic assays for heparin-induced thrombocytopenia,BLOOD,2022年05月02日,Vol.121, No.18,pp.3727-3732
【文献】SACHAIS, B. S. et al.,Rational design and characterization of platelet factor 4 antagonists for the study of heparin-induced thrombocytopenia,BLOOD,2012年06月21日,Vol.119, No.25,pp.5955-5962
【文献】BAKCHOUL, T. et al.,Current insights into the laboratory diagnosis of HIT,International Journal of Laboratory Hematology,2014年,Vol.36,pp.296-305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出する方法であって、
i.サンプルを、
・ヘパリンもしくはPF4結合非分枝状多糖もしくはPF4結合多価陰イオンと一緒に、または
・PF4/ヘパリン複合体、もしくは非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体と一緒に、および
・粒子状固相と一緒に
混合することによって反応混合物を用意する工程;ならびに
ii.反応混合物中の粒子状固相の凝集を測定する工程;
iii.このようにして測定した反応混合物中の凝集を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことが既知のドナーからの体液サンプルを含有する反応混合物中の凝集に関する所定の基準値と比較する工程;ならびに
iv.反応混合物中の定量された凝集が基準値を超える場合、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定する工程
を含み、
粒子状固相は、単離FcγRIIaタンパク質で被覆されており、
粒子状固相は、非細胞粒子である、前記方法。
【請求項2】
反応混合物中の粒子状固相の凝集は、測光法で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状固相の第1の分画は、シグナル形成系の第1の成分に結合しており、粒子状固相の第2の分画は、シグナル形成系の第2の成分に結合しており、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに非常に接近した場合、シグナル形成系の第1および第2の成分が相互作用して、検出可能なシグナルが形成されるようになり、形成されるシグナルに基づいて、反応混合物中の粒子状固相の凝集が測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
シグナル形成系の第1の成分は化学発光剤であり、シグナル形成系の第2の成分は光増
感剤であり、またはその逆であり、反応混合物中の化学発光が測定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ヘパリン誘発性血小板減少症を診断するための方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法を使用して、患者からの体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を検出する、前記方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法を実行するためのアッセイキットであって、以下の成分:
a.ヘパリン、PF4結合非分枝状多糖、またはPF4結合多価陰イオン、またはPF4/ヘパリン複合体、または非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体を含有する第1の試薬;および
b.単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている粒子状固相を含有する第2の試薬を含有し、
粒子状固相は、非細胞粒子である、前記アッセイキット。
【請求項7】
以下の成分:
c.単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている粒子状固相を含有する第3の試薬をさらに含み、
第2の試薬の粒子状固相は、シグナル形成系の第1の成分に結合しており、第3の試薬の粒子状固相は、シグナル形成系の第2の成分に結合しており、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに非常に接近した場合、シグナル形成系の第1および第2の成分は相互作用して、検出可能なシグナルが形成されるようになる、請求項6に記載のアッセイキット。
【請求項8】
シグナル形成系の第1の成分は化学発光剤であり、シグナル形成系の第2の成分は光増感剤であり、またはその逆である、請求項7に記載のアッセイキット。
【請求項9】
粒子状固相はラテックス粒子である、請求項6~8のいずれか1項に記載のアッセイキット。
【請求項10】
第1の試薬中に存在するヘパリン、PF4結合非分枝状多糖、もしくはPF4結合多価陰イオン、または第1の試薬中に存在するPF4/ヘパリン複合体、または非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体は、さらなる粒子状固相に結合されている、請求項6~9のいずれか1項に記載のアッセイキット。
【請求項11】
前記さらなる粒子状固相がラテックス粒子である、請求項10に記載のアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro診断法の分野におけるものであり、ヘパリン誘発性血小板減少症を確定するための、FcγRIIaタンパク質被覆粒子を使用する容易に自動化可能な結合アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)は血栓性疾患であり、この疾患はヘパリン療法中に生じる恐れがあり、生命を脅かす血栓塞栓性合併症を引き起こす恐れがある。罹患患者は、ヘパリンおよび血小板第四因子(PF4)から構成された複合体に結合する抗体、いわゆる、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を生成する。in vivoでは、抗体が結合したPF4/ヘパリン複合体は、血小板表面に結合し、血小板の活性化を引き起こす。これは、血小板数の減少および血栓塞栓症のリスク増加をまねく。
【0003】
HIT診断には、2種のアッセイ原理が主に使用される。第1のアッセイ原理は、患者からの体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の直接検出に基づくものである。この目的のため、サンプルを、PF4/ヘパリン複合体、またはPF4および別の適切な多価陰イオン(例えば、ポリビニルスルホン酸塩)から構成された複合体と接触させ、サンプル中に存在する任意の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の結合を、従来の免疫学的アッセイ方法(例えば、ELISA)を使用して検出する。しかし、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の検出は鋭敏であるが、特異度が十分ではないという欠点がある、すなわち、抗体の検出は陽性のHIT診断には不十分であるが、陰性の結果は適切確実にHITを除外する。したがって、第2のアッセイ原理に基づいた機能的アッセイによる確認が推奨されている。
【0004】
第2の機能的アッセイ原理は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の血小板活性化作用の検出に基づいている。前記アッセイ原理では、1人またはそれ以上の正常なドナーからの洗浄済み血小板を、患者からの血漿または血清サンプルおよびヘパリンと一緒に混合し、例えば放出されたセロトニンの量(セロトニン放出アッセイ)に基づくような、または血小板の視覚的に識別可能な凝集反応(HIPAアッセイ)に基づくような既知の活性化マーカーに基づいて、血小板活性化を測定する。患者のサンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有している場合、正常なサンプル(このような抗体を含まない)と比較して血小板活性化が増大していることを確定することが可能である。
【0005】
血小板に基づいた機能的アッセイには、血小板を複雑な手作業による方法で製造しなければならず、かつその保存寿命が不十分なために製造したてのものしか使用することができないという欠点がある。さらに、個々の血小板製造間の生物学的ばらつきを補正して、ある一定の標準化を可能にするために、複数のドナーからの血小板の混合物を使用することが常に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、前述の欠点、特に血小板の使用を回避する、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
サンプルをヘパリンまたはPF4/ヘパリン複合体と一緒におよび粒子状固相と一緒に混合することにより得た反応混合物ならびにこの粒子状固相の凝集の定量において、この粒子状固相が単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている場合、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、本発明は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出する方法を提供する。この方法は、
i.サンプルを、
・ヘパリンもしくはPF4結合非分枝状多糖もしくはPF4結合多価陰イオンと一緒に、または
・PF4/ヘパリン複合体、もしくは非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体と一緒に、および
・粒子状固相と一緒に
混合することによって反応混合物を用意する工程;
ii.反応混合物中の粒子状固相の凝集を測定する工程;
iii.このようにして測定した反応混合物中の凝集を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことが既知のドナーからの体液サンプルを含有する反応混合物中の凝集に関する所定の基準値と比較する工程;ならびに
iv.反応混合物中の定量された凝集が基準値を超える場合、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定する工程
を含み、
ここで、粒子状固相は、単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている。
【0009】
体液サンプルは、好ましくはヒト由来である。好ましくは、体液サンプルは、実質上血小板を含まないものであり、特に、血漿または血清である。
【0010】
体液サンプルを、PF4結合非分枝状多糖と一緒に、またはPF4結合多価陰イオンと一緒に混合することができる。PF4と共に、検出される抗PF4/ヘパリン複合体抗体によって結合される複合体を形成する非常に多くのPF4結合物質が既知である。適切な非分枝状多糖は、例えば、ヘパリン、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(LMWH)、硫酸デキストラン、およびフコイダンである。適切な多価陰イオンは、例えば、ポリビニル硫酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、ポリビニルリン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリスチレン硫酸塩、およびポリスチレンスルホン酸塩である。
【0011】
別法として、体液サンプルを、PF4/ヘパリン複合体と一緒に、または非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体と一緒に混合することができる。
【0012】
さらに、サンプルを、単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている粒子状固相と一緒に混合する。
【0013】
本発明において、用語「粒子状固相」とは、少なくとも20nmおよび20μm以下、通常200nm~350nm、好ましくは250~320nm、特に好ましくは270~290nm、特に非常に好ましくは280nmの近似直径を有する非細胞粒子を意味することを理解されたい。微粒子は、規則的形状でも不規則的形状でもよい。それらは、球体、回転楕円体、ある程度大きな空隙または孔を有する球体であり得る。微粒子は、有機材料、無機材料、またはそれら2種の混合物もしくは組合せからなり得る。それらは、多孔性または無孔性の、膨潤性または非膨潤性の材料からなり得る。原理的に、微粒子はいずれの密度を有してもよいが、約0.7~約1.5g/mlのような水の密度に近い密度を有する粒子が好ましい。好ましい微粒子は、水溶液に懸濁可能であり、できるだけ長期間懸濁安定性を示す。それらは、透明でも、部分的に透明でも、または不透明でもよい。微粒子は、例えばコアおよび1つまたはそれ以上の外被層を含むいわゆる「コアおよびシェル」粒子のような複数層からなり得る。微粒子という用語は、例えば、染料結晶、金属ゾル、シリカ粒子、ガラス粒子、および磁性粒子を網羅する。好ましい微粒子は、水溶液に懸濁可能であり、かつ非水溶性ポリマー材料からなる、特に置換ポリエチレンからなる粒子である。例えば、ポリスチレン、アクリル酸ポリマー、メタクリル酸ポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ酢酸ビニルアクリラート、ポリビニルピリジン、塩化ビニルアクリラートから構成されているラテックス粒子が、特に非常に好ましい。例えば、単離FcγRIIaタンパク質を共有結合でラテックス粒子に結合させることができるカルボキシル、アミノ、またはアルデヒド基のような反応性基を表面上に有するラテックス粒子が特に重要である。本発明において、ヒト、動物、植物、もしくは真菌の細胞、または細菌は、用語「粒子状固相」に明らかに網羅されない。
【0014】
用語「単離FcγRIIaタンパク質」とは、組換えもしくは合成により生成されたFcγRIIaタンパク質、または天然の、すなわち天然源由来の、例えばヒト白血球から精製されたFcγRIIaタンパク質を意味することを理解されたい。組換えFcγRIIaタンパク質の生成に関しては、例えば、細菌(例えば、大腸菌)における発現、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))における発現、植物、動物、またはヒトの細胞培養における発現のような既知の原核生物または真核生物の発現系が適している。合成FcγRIIaタンパク質の生成に関しては、例えば固相合成(例えば、メリフィールド合成)のようなin vitroタンパク質合成のための既知の技術が適している。好ましくは、本発明による方法で使用するFcγRIIaタンパク質は、ヒト細胞の培養において、好ましくはヒト胎児由来腎臓細胞(HEK細胞)の培養において生成された組換え生成FcγRIIaタンパク質である。
【0015】
FcγRIIaタンパク質(別名:CD32aタンパク質)は、好ましくはヒトFcγRIIaタンパク質である。用語「FcγRIIaタンパク質」は、完全FcγRIIaタンパク質だけでなく、PF4/ヘパリン複合体およびそれに結合した抗PF4/ヘパリン複合体抗体から構成された免疫複合体に結合できる完全FcγRIIaタンパク質の断片も網羅する。用語「FcγRIIaタンパク質」はさらに、野生型FcγRIIaタンパク質またはその断片だけでなく、例えばヒトFcγRIIaタンパク質の131位の既知の置換のような、PF4/ヘパリン複合体に結合できる1つまたはそれ以上のアミノ酸置換基を有するFcγRIIaタンパク質も網羅する。FcγRIIaタンパク質またはFcγRIIaタンパク質断片は、N末端において異種シグナル配列と融合することができる、すなわち、ヒトFcγRIIaタンパク質中に通常存在しないが、選択された発現系での組換え発現FcγRIIaタンパク質の発現および/または分泌に肯定的に影響するポリペプチドと融合することができる。さらに、FcγRIIaタンパク質またはFcγRIIaタンパク質断片は、C末端において、例えば組換え発現タンパク質と親和性支持体の結合を可能にする1つまたはそれ以上の親和性タグと融合することができ、それによって、組換え発現FcγRIIaタンパク質の精製が可能になる。12個以下のアミノ酸の長さを有する小さな親和性タグが好ましい。Hisタグ、Flagタグ、Argタグ、c-Mycタグ、およびStrepタグからなる群からの親和性タグが特に好ましい。高親和性を有する親和性タグに結合する適切な親和性支持体は、例えば、特異的抗体、固定化陽イオン(例えば、Hisタグへの親和性を有するNi2+)、または他のタイプの結合相手(例えば、Strepタグへの親和性を有するストレプトアビジン)である。
【0016】
体液サンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有している場合、これらは反応混合物中でPF4/ヘパリン複合体に結合する。形成された免疫複合体は、FcγRIIaタンパク質によって結合され、反応混合物中で粒子状固相の凝集を引き起こす。
【0017】
反応混合物中の粒子状固相の凝集の測定は、測光法、例えば濁度法または比濁法で行うことができる。粒子増強光散乱の原理に基づく結合アッセイは、およそ1920年から既知である(概要に関しては、Newman,D.J.ら、Particle enhanced light scattering immunoassay.Ann Clin Biochem、1992年;29:22~42頁を参照)。この場合、好ましくは0.1~0.5μmの直径、特に好ましくは0.15~0.35μmの直径を有するポリスチレン粒子が使用される。好ましくは、アミン、カルボキシル、またはアルデヒド官能基を有するポリスチレン粒子が使用される。さらに好ましくは、シェル/コア粒子が使用される。粒子の合成およびリガンドの共有結合カップリングは、例えば、Peula,J.M.ら、Covalent coupling of antibodies to aldehyde groups on polymer carriers.Journal of Materials Science:Materials in Medicine、1995年;6:779~785頁に記載されている。
【0018】
別法として、反応混合物中の粒子状固相の凝集の測定は、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに非常に接近した場合にシグナル形成系によって生成されるシグナルを測定することによって行うことができる。この場合、粒子状固相の第1の分画は、シグナル形成系の第1の成分に結合しており、粒子状固相の第2の分画は、シグナル形成系の第2の成分に結合しており、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに非常に接近した場合、シグナル形成系の第1および第2の成分が相互作用して、検出可能なシグナルが形成されるようになり、形成されるシグナルに基づいて、反応混合物中の粒子状固相の凝集が測定される。
【0019】
本発明による方法のこの実施形態では、シグナル形成系は、相互作用する少なくとも1つの第1の成分および少なくとも1つの第2の成分を含み、それにより、それらが互いに非常に接近し、その結果互いに相互作用することができた場合、検出可能なシグナルが形成されるようになる。成分間の相互作用とは、特にエネルギー転移、すなわち、例えば光線または電子線による、また、例えば短命な一重項酸素のような反応性化学分子による成分間の直接的なエネルギー転移を意味することを理解されたい。エネルギー転移はある成分から別の成分へ起こり得るが、異なる物質のカスケードによりエネルギー転移を起こすことも可能である。例えば、成分は、例えば、光増感剤および化学発光剤(欧州特許出願公開第0515194号、LOCI(登録商標)technology)または光増感剤および発蛍光団(国際公開第95/06877号パンフレット)または放射性ヨウ素<125>および発蛍光団(Udenfriendら(1985年)Proc.Natl.Acad.Sci.82:8672~8676頁)または発蛍光団および蛍光消光剤(米国特許第3,996,345号)のようなエネルギー供与体およびエネルギー受容体から構成される対とすることができる。特に好ましくは、シグナル形成系の第1の成分は化学発光剤であり、シグナル形成系の第2の成分は光増感剤であり、またはその逆であり、反応混合物中の化学発光が測定される。
【0020】
反応混合物中の凝集を(例えば、反応混合物の吸収の最大変化を定量することによって)測定した後、このようにして測定した凝集を所定の基準値と比較する。適切な基準値は、同方法を用いて測定される(または事前測定された)、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことが既知のドナーからの体液サンプルを含有する反応混合物中の凝集のものである。通常、基準値を定量するために、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有していないことが既知の健常ドナーからの多数のサンプルにおける凝集を測定し、次いで、HITに罹患しておりかつ抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有しているドナーからの多数のサンプルの凝集と比較する。次いで、基準値は、例えば、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含むサンプルと含まないサンプルの区別を可能にする閾値とすることができる。反応混合物中で測定された凝集が基準値を超える場合、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定することが可能となる。対照的に、反応混合物中で測定された凝集が基準値に達しない場合、サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の不在を確定することが可能となる。
【0021】
本発明はさらに、ヘパリン誘発性血小板減少症を診断する方法であって、本発明による方法を使用して、患者からの体液サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体が存在するかどうかを検出する、方法を提供する。
【0022】
また、本発明はさらに、本発明による方法を実行するためのアッセイキットを提供する。アッセイキットは、少なくとも以下の成分:
a.ヘパリン、PF4結合非分枝状多糖、またはPF4結合多価陰イオン、またはPF4/ヘパリン複合体、または非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体を含有する第1の試薬;および
b.単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている粒子状固相を含有する第2の試薬を含有する。
【0023】
第1の試薬は、
・好ましくは、ヘパリン、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、硫酸デキストラン、およびフコイダンからなる群からのPF4結合非分枝状多糖;または
・好ましくは、ポリビニル硫酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、ポリビニルリン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリスチレン硫酸塩、およびポリスチレンスルホン酸塩からなる群からのPF4結合多価陰イオン;または
・PF4/ヘパリン複合体;または
・非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体
を含有することができる。
【0024】
第1および第2の試薬は、体液サンプルと一緒にした反応混合物の用意を意図している。
【0025】
好ましいアッセイキットでは、第2の試薬中に存在する粒子状固相はラテックス粒子からなる。このようなアッセイキットは、測光法による凝集の測定に適している。
【0026】
アッセイキットの別の一実施形態は、第1および第2の試薬のほかに、単離FcγRIIaタンパク質で被覆されている粒子状固相を同様に含有する第3の試薬をさらに含有する。この場合、第2の試薬の粒子状固相は、シグナル形成系の第1の成分に結合しており、第3の試薬の粒子状固相は、シグナル形成系の第2の成分に結合しており、シグナル形成系の第1および第2の成分が互いに非常に接近した場合、シグナル形成系の第1および第2の成分は相互作用して、検出可能なシグナルが形成されるようになる。好ましくは、シグナル形成系の第1の成分は化学発光剤であり、シグナル形成系の第2の成分は光増感剤であり、またはその逆である。そのようなアッセイキットは、化学発光測定による凝集の測定に適している。
【0027】
アッセイキットのさらに別の一実施形態では、第1の試薬中に存在するヘパリン、PF4結合非分枝状多糖、もしくはPF4結合多価陰イオン、または第1の試薬中に存在するPF4/ヘパリン複合体、または非分枝状多糖もしくは多価陰イオンと共にPF4から構成された複合体は、さらなる粒子状固相、好ましくはラテックス粒子に結合されている。
【0028】
本発明によるアッセイキットの試薬は、液体または凍結乾燥された形態で提供することができる。アッセイキットのいくつかまたはすべての試薬が凍結乾燥物として存在する場合、アッセイキットは、例えば蒸留水または適切な緩衝液のような、凍結乾燥物の溶解に必要な溶媒をさらに含有することができる。
【0029】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、限定するものとして理解すべきではない。
【実施例1】
【0030】
抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための均一結合アッセイ
試薬1は、ヒト血小板濃縮物から単離したPF4タンパク質を未分画ヘパリン(UFH)と緩衝液中においてPF4タンパク質10μg:0.2U/mL(UFH)の比で混合することによって製造した。別法として、未分画ヘパリン(UFH)(0.2U/mL)のみを含有する試薬1を使用した。
【0031】
試薬2は、ヒトFcγRIIaタンパク質約1mgをポリスチレンラテックス粒子(50mg/mL、粒子直径0.2~0.3μm)1mLと緩衝液中において混合し、インキュベートすることによって製造した。粒子を繰り返し洗浄した後、粒子を緩衝液50mLに再懸濁させた。
【0032】
ヒト血清サンプル20μLを、PF4/ヘパリン複合体を含有する試薬1の20μLおよびFcγRIIaタンパク質被覆ラテックス粒子を含有する試薬2の80μLと混合して、反応混合物を形成し、37℃でインキュベートした。
【0033】
反応混合物の光学濃度(OD)を、BCS XP分析計(Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbH)において570nmの波長で6分間測定し、1分間あたりの光学濃度の平均変化(ΔOD/分)を測定結果として確認した。
【0034】
本発明による凝集アッセイを使用して、5人のHIT患者からの血清サンプルを測定した。彼らは、HITを臨床基準(4Tスコア、血栓性事象を伴ういくつかの症状において)に基づいて診断されており、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を2種の独立した市販のイムノアッセイ(HemosIL(登録商標)AcuStar HIT-Ab(PF4-H)、Instrumentation Laboratories、およびAsserachrom(登録商標)HPIA-IgG、Diagnostica Stago)を使用して確定した。
【0035】
さらに、4人の健常ドナー(臨床的HIT基準を有さず、また、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有していない)からの血清サンプルおよび正常な血漿プール(約20人の健常ドナーからの血漿から、「FNP」)を測定した。
【0036】
負の対照として緩衝液を使用した。
【0037】
アッセイの結果を表1にまとめる。PF4/ヘパリン複合体を含有する試薬1(PF4/ヘパリン)またはヘパリンのみを含有する試薬1(ヘパリン)を使用したアッセイの結果の間には違いがある。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明による2種の凝集アッセイの結果から、健常なHIT陰性血液ドナーとHIT陽性患者の区別が可能になることが分かる。HIT患者サンプルを含有するすべての反応混合物において、健常ドナーと比較して有意に増大している凝集を測定することが可能である。抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有するサンプルと含有しないサンプルを区別する閾値(カットオフ)として、2種の本アッセイ系においてΔOD/分[570nm]に0.1を選択することが可能であろう。
【0040】
しかし、カットオフ値を統計的にもっと正確に定義するためには、疑いようもないほどのより多数のサンプル測定が必要である。