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特許7109311磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉
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  • 特許-磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉 図1
  • 特許-磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉
(51)【国際特許分類】
   F23G 7/06 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
F23G7/06 101B
F23G7/06 D ZAB
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018158347
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020034179
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000185374
【氏名又は名称】小池酸素工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 青躍
(72)【発明者】
【氏名】金 丙哲
(72)【発明者】
【氏名】星野 鉄郎
(72)【発明者】
【氏名】小菅 一生
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160456(JP,A)
【文献】特開2004-160338(JP,A)
【文献】特許第4955027(JP,B2)
【文献】特開昭52-050971(JP,A)
【文献】特開2016-011759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0065934(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1431427(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスを高温にして燃焼或いは分解して排気する磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉であって、
一方側の端部が閉鎖され、他方側の端部が開放され、内筒と外筒からなる筒体と、
前記筒体の閉鎖された端部側に配置された排ガスの供給口と、
前記筒体の閉鎖された端部側に配置されたバーナーと、
前記筒体の外周面に配置された磁場発生部材と、を有し、
前記磁場発生部材は前記筒体の外筒の外周面に配置された磁場コイル又は永久磁石であり、且つ前記筒体の内筒と外筒との間には隙間が形成されていることを特徴とする磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉。
【請求項2】
前記筒体は起立して配置されており、上端部が閉鎖されると共に下端部が開放され、且つ閉鎖された上端部の略中心に前記バーナーが配置されると共に該バーナーを中心とする複数の位置に前記排ガスの供給口が配置されていることを特徴とする請求項に記載した磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体の製造工程から排出された排ガスを燃焼或いは熱分解させて除害する磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程から、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、ジボラン(B2H6)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)、三フッ化窒素(NF3)等の毒性を有する排ガスや、四フッ化炭素(CF4)や六フッ化硫黄(SF6)等に代表されるフッ化物等の地球環境に悪影響を与える排ガスが排出されることが知られている。そして、このような排ガスは大気への放出に際して予め除害することが要求されている。
【0003】
このため、上記の如き排ガスを燃焼させて除害した後、大気へ放出することで上記要求を満足させることが出来る有毒性排ガスの処理方法及び装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術は、上記のような排ガスを一端が閉鎖された筒状の燃焼室に導入し、該燃焼室に配置されたバーナーにより水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の燃料ガスが燃焼するとき生成する高温部で分解し、或いは助燃用空気の作用により燃焼することで除害し、その後、燃焼排ガス搬送通路を通って水スクラバに供給し、該水スクラバで冷却すると共に粉末状の固形物や有害な燃焼副生成ガス等を吸収し、所定の煙道を通して大気に排出するものである。
【0004】
また、特許文献2に記載された難燃性物質処理バーナーは、一端が閉塞壁によって閉塞された燃焼筒体を有しており、この閉塞壁に複数の燃焼バーナーを火炎が燃焼筒体の中心軸線上のほぼ同じ点で収束できるように取り付けると共に、難燃性物質を含む排ガスを軸線の延長が火炎の収束点の近傍又は下流側で交わるように設けられている。この技術では、高い燃焼分解効率を発揮することができ、排ガスを完全に無害化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2963792号公報
【文献】特許第4528141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1、2に記載された発明を利用することで、半導体の製造工程から排出された排ガスを除害することができる。しかし、常により高い効率で除害できるような処理装置の開発が要求されているのが実情である。
【0007】
本発明の目的は、導入された排ガスの高温域に滞留する時間を延長させることで、除害効率を向上させるようにした磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る代表的な、磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉は、排ガスを高温にして燃焼或いは分解して排気する磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉であって、一方側の端部が閉鎖され、他方側の端部が開放され、内筒と外筒からなる筒体と、前記筒体の閉鎖された端部側に配置された排ガスの供給口と、前記筒体の閉鎖された端部側に配置されたバーナーと、前記筒体の外周面に配置された磁場発生部材と、を有し、前記磁場発生部材は前記筒体の外筒の外周面に配置された磁場コイル又は永久磁石であり、且つ前記筒体の内筒と外筒との間には隙間が形成されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る磁場発生による有害性排ガス処理装置の燃焼炉(以下単に「燃焼炉」という)では、筒体の閉鎖された端部側にバーナーと、排ガスの供給口が配置されており、燃焼した排ガスは閉鎖された端部側から開放された端部に向かって略直線的に流れる。このとき、燃焼した排ガスはプラズマ化している。
【0010】
このため、筒体の外周面に配置された磁場発生部材によって筒体に磁場を作用させることで、プラズマ化した排ガスを外筒体の内部で螺旋状に流動させることができる。従って、排ガスを筒体の内部に於ける高温域に長く捕らえておくことができ、除害効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施例に係る燃焼炉の構成を説明する模式図である。
図2】本実施例に係る燃焼炉を利用した排ガス処理装置の要部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る燃焼炉について説明する。本発明に係る燃焼炉は、半導体の製造装置や液晶パネルの製造装置から排出された有害成分を含む排ガスを、熱分解或いは燃焼させて除害する磁場発生による有害性排ガス処理装置(以下「排ガス処理装置」という)に用いられるものである。
【0013】
特に、排ガスを燃焼させる筒体に磁場を作用させて燃焼してプラズマ化した排ガスを螺旋状に旋回させることで、高温域に於ける流れの距離を長くして燃焼に伴う除害を進めるようにしたものである。即ち、プラズマ化した排ガスが螺旋状の旋回流となることによって筒体の長さよりも長い距離を流れることとなり、筒体の単位長さあたりの除害効率を向上させることが可能となる。
【0014】
本発明に於いて、筒体は一方側の端部が閉鎖されており、他方側の端部が開放されている。そして、閉鎖された端部にバーナーと排ガスの供給口が配置され、この端部から開放された端部に向けてバーナーによる燃焼ガスや排ガスが流れ、この流れの過程で排ガスの燃焼による除害が行われる。
【0015】
筒体の閉鎖された端部に配置されたバーナーは、燃料ガスと支燃ガスを混合させて燃焼させるものである。燃料ガスとして特に限定するものではないが、メタンガスを好ましく使用することが可能である。また支燃ガスも特に限定するものではなく、空気や酸素を使用することが可能である。しかし、支燃ガスとして酸素を使用すると燃焼温度を高くすることが可能で且つ燃料ガスの消費を軽減することが可能であり好ましい。
【0016】
また、端部に配置すべきバーナーの位置及び数も限定するものではなく、筒体の中心軸に一致させた位置に1本のバーナー、或いは筒体の中心軸を中心とする円周上に複数本のバーナーを配置することが可能である。特に、円周上に複数のバーナーを配置した場合、夫々のバーナーを中心軸側に傾斜させて該中心軸上で交差させるようにすることが好ましい。
【0017】
筒体の閉鎖された端部に配置された排ガスの供給口の位置は数も限定するものではなく、筒体の中心軸に一致させた位置に1本の供給口、或いは筒体の中心軸を中心とする円周上に複数本の供給口を配置することが可能である。特に、円周上に複数の供給口を配置した場合、夫々の供給口を中心軸側に傾斜させて該中心軸上で交差させるようにすることが好ましい。
【0018】
筒体の外周面に配置される磁場発生部材として、特に材質や構造を限定するものではなく、筒体の外周面に巻き回した磁場コイル又は筒体の外周面の所定位置に配置した永久磁石を用いることが可能である。
【0019】
筒体は1本の筒によって構成しても良く、径の異なる複数本の筒を用い、径の大きい筒の内部に径の小さい筒を嵌装した多重体として構成しても良い。筒体を多重体とした場合、内装された内筒と外筒の間には隙間を形成しておくことが好ましく、この隙間には窒素ガスを封入しておくことが好ましい。また、筒体は横向きに配置しても良く、縦向きに配置しても良い。しかし、粉塵の自然落下のしやすさを考慮すると、縦向きであることが好ましい。筒体を縦向きに設置することで、排ガスの燃焼に伴ってイオン化し除電された粉塵、或いは筒体に付着し振動により剥離した粉塵、が円滑に落下することが可能となる。
【0020】
次に、本実施例に係る燃焼炉Aについて図1の模式図を用いて説明する。
【0021】
本実施例に於いて、筒体1は外筒1aと内筒1bとによる二重構造として構成されている。筒体1の一方側の端部は閉塞部材3によって閉塞されており、他方側の端部は開放されている。開放された端部には、排気筒4が配置されており、この排気筒4によって除害された排ガスを後工程に排気し得るように構成されている。そして、外筒1aと内筒1bとの間に隙間5が構成され、該隙間5には窒素ガスが封入されている。
【0022】
上記の如く、筒体1は閉塞部材3と排気筒4とによって挟持された構造となっており、閉塞部材3及び筒体1との接続部分に配置されたシール材6aによって気密が保持されている。シール材6bによって筒体1と槽入口排気ポート21との接続部分の気密が保持される。シール材6cによって槽入口排気ポート21と槽入口フランジ22との接続部分の気密が保持される。外筒1aと内筒1bとの間に隙間5が構成され、該隙間5には窒素ガスが封入されている。気体(封入された窒素ガス)に依る熱伝導は小さく、筒体1は高い断熱性を有しており、内筒1b内の温度を保持することが可能である。
【0023】
閉塞部材3には筒体1の中心軸1cと一致させてバーナー8が配置されており、該バーナー8に燃料ガス配管8aと支燃性ガス配管8bが接続されている。そして、燃料ガス配管8aは図示しないメタンガス供給源と接続され、支燃性ガス配管8bは図示しない酸素ガス供給源と接続されている。
【0024】
従って、各ガスの供給源から予め設定された流量のメタンガスと酸素ガスが供給され、バーナー8で混合して燃焼することが可能である。特に、支燃性ガスとして酸素ガスを利用することで、火炎温度を高くすることが可能となり、供給された排ガスを高温域で燃焼或いは分解させて除害することが可能である。
【0025】
閉塞部材3のバーナー8を中心とする円周上に排ガスの供給口となる複数の排ガスノズル9が配置されている。各排ガスノズル9は、予め設定された角度で筒体1の中心軸1cに向かって、互いに略同じ位置で交差し得るように傾斜して配置されている。また、各排ガスノズル9には図示しない排ガスの供給源と接続された排ガス配管9aが接続されている。
【0026】
筒体1を構成する外筒1aの外周面に磁場コイル10が巻回された状態で配置されている。磁場コイル10は図示しない電源に接続されており、該磁場コイル10に通電することによって、筒体1の長手方向への磁場を発生させることが可能である。
【0027】
上記の如く構成された燃焼炉Aでは、筒体1の外周面に配置した磁場コイル10に通電して磁場を形成し、バーナー8からメタンガスと酸素ガスの混合ガスを噴射させて燃焼させると共に排ガスノズル9から排ガスを供給する。バーナー8からの混合ガスの燃焼に伴って排ガスが燃焼してプラズマ(荷電粒子)化する。
【0028】
燃焼してプラズマ化した排ガスは、磁場の影響を受けて螺旋状に旋回しつつ筒体1の閉塞部材3側から排気筒4に向かって流れ、この過程で除害される。
【0029】
即ち、磁場中の荷電粒子の運動は、荷電粒子の進む方向と磁場の方向が同じ場合、初期の状態を維持して進行する。また、荷電粒子が磁場に垂直に入射した場合、ローレンツ力の作用により荷電粒子は等速円運動を行う。
【0030】
しかし、排ガスノズル9が筒体1の中心軸1cに対して傾斜していることや、バーナー8による火炎の影響を受けて燃焼してプラズマ化した排ガスが磁場の方向と同じ方向となることはない。また、プラズマ化した排ガスは排ガスノズル9からの噴射速度に応じた速度を有しているため、磁場に対する垂直成分に基づく等速円運動と、磁場に対する同方向の成分に基づく等速直線運動とが合成された螺旋運動をとることとなる。
【0031】
従って、プラズマ化した排ガスは筒体1の内部を、閉塞部材3側から排気筒4側にかけて螺旋状に進んで行くため、排ガスの進行距離は筒体1の長さよりも充分に大きくなり、バーナー8による火炎の影響を長時間受けることとなる。このため、筒体1の長さを大きくすることなく、排ガスを除害することが可能となる。即ち、燃焼炉Aに於ける除害効率を向上することが可能となる。
【0032】
尚、燃焼炉Aは本実施例のように、筒体1を縦方向に起立させた構造にのみ限定するものではなく、筒体1を水平に配置した構造であっても良い。即ち、燃焼炉Aとしては、縦方向又は横方向に配置された筒体1と、筒体1の閉鎖された端面に配置されたバーナー8と、排ガスノズル9と、を有するものであれば良い。
【0033】
本実施例では、筒体1の外周面に配置された磁場発生部材として磁場コイルを用いたが、永久磁石であっても良い。磁場発生部材として永久磁石を用いる場合、厚み方向をN極とS極とした複数の円弧状の永久磁石を用い、これらの永久磁力を筒体の外周面を囲むように配置すると共に長手方向に沿った所定の範囲に配置することで良い。
【0034】
次に、上記の如き燃焼炉Aを利用した排ガス処置装置Bの構成について図2の模式図を用いて簡単に説明する。
【0035】
燃焼炉Aを構成する筒体1の下方に配置された排気筒4には、水スクラバ15と連通した燃焼ガス通路16が接続している。この燃焼ガス通路16は、筒体1と水スクラバ15とを接続し、且つ予め設定された範囲で昇降するものの、該範囲内で略一定の水位を保持し得るように水を貯留した槽17に形成されている。
【0036】
水スクラバ15は、燃焼した排ガスに含まれた粉塵成分やガス成分を除去するためのものであり、槽17を介して燃焼炉Aと一体的に構成されている。この水スクラバ15、槽17の上部に配置された筒18からなり、該筒18の下方に燃焼ガス通路16に接続した開口18aが形成され、上方に排出口18bが形成されている。また、筒18の内部には、濾過部材19、水切部材20が配置されている。
【0037】
水スクラバ15の排出口18bには図示しない吸引部材が接続されており、該吸引部材によって発生した負圧が水スクラバ15の排出口18bを介して、燃焼炉Aに作用するように構成されている。
【0038】
上記の如く構成された排ガス処理装置Bでは、水スクラバ15の濾過部材19に水を供給して水膜を形成して、吸引部材を稼働させると、この吸引部材の稼働に伴って、水スクラバ15、燃焼炉Aの内部が負圧となり、これらを通して一連のガス通路が形成される。
【0039】
そして、筒体1ではバーナー8からメタンガス及び酸素ガスが燃焼した火炎が形成されると共に、排ガスノズル9から排ガスが供給される。バーナー8に形成された火炎によって、排ガスの有害成分が燃焼、或いは熱分解によって除害されつつ螺旋状に排気筒4を通って水スクラバ15に供給される。排ガスの燃焼、熱分解によって生じた粉塵成分は槽17に落下する。
【0040】
水スクラバ15では、高温の燃焼ガスを濾過部材19に形成された水膜を通過させることで洗浄する。そして、除害され且つ冷却された排ガスは、水スクラバ15の排出口18bから吸引部材を経て大気に排出される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る燃焼炉は、半導体等の製造工程から排出された排ガスを除害する際に利用して有利である。
【符号の説明】
【0042】
A 燃焼炉
B 排ガス処理装置
1 筒体
1a 外筒
1b 内筒
1c 中心軸
3 閉塞部材
4 排気筒
5 隙間
6a、6b、6cシール材
8 バーナー
8a 燃料ガス配管
8b 支燃性ガス配管
9 排ガスノズル
9a 排ガス配管
10 磁場コイル
15 水スクラバ
16 燃焼ガス通路
17 槽
18 筒
18a 開口
18b 排出口
19 濾過部材
20 水切部材
21 槽入口排気ポート
22 槽入口フランジ
図1
図2