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特許7109362高伝導性および配向グラフェンフィルムならびに製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】高伝導性および配向グラフェンフィルムならびに製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20220722BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220722BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20220722BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220722BHJP
   H01B 1/04 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
C01B32/194
B82Y40/00
H01B1/12 E
H01B1/12 G
H01B1/12 F
H01B1/12 C
H01M4/62 Z
H01B1/12 D
H01B1/12 Z
H01B1/04
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2018529026
(86)(22)【出願日】2016-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 US2016063360
(87)【国際公開番号】W WO2017095699
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-13
(31)【優先権主張番号】14/757,194
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0190676(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0284253(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0147648(US,A1)
【文献】特表2016-534002(JP,A)
【文献】特表2013-536149(JP,A)
【文献】特開昭63-256434(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0094346(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0116021(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0061312(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 40/00
H01B 1/00-1/24
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体が結合した高配向グラフェンシートの高伝導性フィルムの製造方法であって:
(a)流動媒体中に分散したばらばらのグラフェンシートを有するグラフェン分散体、または流動媒体中に溶解した酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、前記酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素含有量を有するステップと;
(b)(i)剪断応力下で支持固体基材の表面上に前記グラフェン分散体を供給し堆積して、前記支持固体基材上に配向したグラフェンシートを有するグラフェンの湿潤層を形成するか、(ii)剪断応力下で支持固体基材の表面上に前記酸化グラフェンゲルを供給し堆積して、前記支持固体基材上に配向した酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンの湿潤層を形成するステップと;
(c)グラフェンまたは酸化グラフェンの前記湿潤層から前記流動媒体を少なくとも部分的に除去して、X線回折によって測定して0.4nm~1.2nmの面間隔d002、および5重量%以上の酸素含有量を有するグラフェンの乾燥層または酸化グラフェンの乾燥層を形成するステップと;
(d)(i)55℃~3,200℃の熱処理温度において所望の時間の長さでグラフェンの前記乾燥層の熱処理を行って、0.4nm未満の面間隔d002を有する、グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁の3D網目構造を有する多孔質黒鉛フィルムを形成するか、(ii)55℃~3,200℃の熱処理温度において所望の時間の長さで酸化グラフェンの前記乾燥層の熱処理を行って、0.4nm未満の面間隔d 002 を有する、グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁の3D網目構造を有する多孔質黒鉛フィルムを形成するステップと;
(e)前記多孔質黒鉛フィルムに、前記グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁を結合させる導体材料を含浸させて、電子伝導経路およびフォノン伝導経路の連続網目構造を有する前記高伝導性フィルムを形成するステップと
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(e)の後に、前記高伝導性フィルムの機械的圧縮または圧密化を行うステップ(f)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導体材料が、金属、伝導性ポリマー、伝導性有機化合物、またはそれらの組合せから選択され、前記伝導性ポリマーが、ポリ(フルオレン)、ポリフェニレン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリナフタレン、ポリ(ピロール)(PPY)、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリアニリン(PANI)、ポリ(チオフェン)(PT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリ(アセチレン)(PAC)、またはポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記導体材料がTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、またはそれらの混合物から選択される金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記導体材料がCu、Al、Ti、Sn、Ag、Au、Fe、またはそれらの合金から選択される金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記導体材料が、コールタールピッチ、コールタールピッチの誘導体、石油ピッチ、石油ピッチの誘導体、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、多環式芳香族化合物、ペンタセン、アントラセン、ルブレン、またはそれらの組合せから選択される伝導性有機化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記導体材料が、全高伝導性フィルム重量を基準として0.1%~50%の重量分率を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記導体材料が、全高伝導性フィルム重量を基準として1%~20%の重量分率を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記導体材料が前記グラフェンシートを少なくとも末端間で結合させる、または前記導体材料が前記多孔質黒鉛フィルムの細孔中を満たす、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)が、噴霧、キャスティング、印刷、コーティング、またはそれらの組合せの作業を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングが、スピンコーティング、ディップコーティング、浸漬ディップコーティング、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティングもしくはナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、メータリングロッドコーティング、キスコーティング、スロットダイコーティング、スロットダイビードコーティング、スライドコーティング、テンションウェブスロットダイコーティング、ローラーコーティング、シルクスクリーンコーティング、ロータリースクリーンコーティング、押出コーティング、コンマコーティング、カーテンコーティング、またはそれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングが、スロットダイコーティング、コンマコーティング、またはリバースロール転写コーティングを含む、または前記キャスティングがスピンキャスティング、スプレーキャスティング、または複合キャスティング-コーティングを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記熱処理温度が80~1,500℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(e)が、電気化学的堆積もしくはめっき、パルス電力堆積、溶液含浸、電気泳動堆積、無電解めっきもしくは堆積、金属溶融含浸、金属前駆体含浸、化学堆積、物理蒸着、物理的蒸気浸透、化学蒸着、化学的蒸気浸透、スパッタリング、またはそれらの組合せの作業を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質黒鉛フィルムに導体材料を含浸させる前記ステップ、および熱処理の前記ステップが同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
熱処理の前記ステップ(d)の前に、酸化グラフェンの前記湿潤層または乾燥層をエージング室中、25℃~100℃のエージング温度、および20%~99%の湿度レベルで、1時間~7日のエージング時間でエージングを行って、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
熱処理の前記ステップ(d)が、前記多孔質黒鉛フィルム中の面間隔d002を0.3354nm~0.36nmの値まで減少させ、酸素含有量を2重量%未満まで減少させるのに十分な時間の長さで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記流動媒体が水および/またはアルコールからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記グラフェン分散体中の前記グラフェンシートが、グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.1%~25%の重量分率を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化グラフェンゲル中の前記酸化グラフェン分子が、酸化グラフェン分子と液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.5%~15%の重量分率を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記グラフェン分散体中の前記グラフェンシートが、グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として3%~15%の重量分率を占める、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルが、液晶相を形成するために、前記流動媒体中に分散または溶解した3重量%を超えるグラフェンまたは酸化グラフェンを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記高伝導性フィルムが10nm~500μmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記高伝導性フィルムが100nm~100μmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記ステップ(a)において、粉末または繊維の形態の黒鉛材料を、反応容器中の酸化性液体中に、反応温度において、前記グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルを得るのに十分な時間の長さで浸漬することによって、前記グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルが調製され、前記黒鉛材料が、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、またはそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記熱処理温度が500℃~1,500℃の範囲内の温度を含み、前記多孔質黒鉛フィルムが、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または3,000S/cm以上の電気伝導率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記熱処理温度が1,500℃~2,200℃の範囲内の温度を含み、前記多孔質黒鉛フィルムが、0.01%未満の酸素含有量、0.337nm未満のグラフェン間隔、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気伝導率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記熱処理温度が2,500℃を超える温度を含み、前記多孔質黒鉛フィルムが、0.001%以下の酸素含有量、0.336nm未満のグラフェン間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、および/または10,000S/cm以上の電気伝導率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記多孔質黒鉛フィルムが0.337nm未満のグラフェン間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記多孔質黒鉛フィルムが80%以上の黒鉛化度および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記多孔質黒鉛フィルムが90%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルが、最大の元の黒鉛結晶粒度の黒鉛材料から得られ、前記多孔質黒鉛フィルムが、前記最大の元の黒鉛結晶粒度よりも大きい結晶粒度を有する多結晶グラフェン構造である、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルが、X線回折法または電子線回折法によって測定して好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料から得られ、前記多孔質黒鉛フィルムが、前記X線回折法または電子線回折法によって測定して好ましい結晶配向を有する単結晶または多結晶グラフェン構造である、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
熱処理の前記ステップ(d)によって、酸化グラフェン分子のエッジ間での化学的連結、合体、または化学結合が誘導される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2015年12月3日に出願された米国特許出願第14/757,194号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、グラフェン材料の分野に関し、特に、フィルム面方向に沿って高配向する、伝導性バインダー材料が結合したグラフェンシートまたは分子から構成される高伝導性フィルムに関する。この新規な酸化グラフェン由来複合フィルムは、非常に高度なグラフェンシートの配向、高熱伝導率、高電気伝導率、高引張強度、および高弾性率の前例のない組合せを示す。
【背景技術】
【0003】
炭素は、ダイヤモンド、フラーレン(0Dナノ黒鉛材料)、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバー(1Dナノ黒鉛材料)、グラフェン(2Dナノ黒鉛材料)、および黒鉛(3D黒鉛材料)を含む5つの特有の結晶構造を有することが知られている。カーボンナノチューブ(CNT)は、単層または多層で成長した管状構造を意味する。カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)は、数ナノメートルから数百ナノメートル程度の直径を有する。これらの長手方向の中空構造によって、特有の機械的性質、電気的性質、および化学的性質が材料に付与される。CNTまたはCNFは、1次元ナノ炭素または1Dナノ黒鉛材料である。
【0004】
バルクの天然黒鉛は、各黒鉛粒子が、近接する黒鉛単結晶との境界を画定する結晶粒界(非晶質または欠陥領域)を有する複数の結晶粒(結晶粒は黒鉛単結晶または微結晶である)から構成される3D黒鉛材料である。各結晶粒は、互いに平行に配向する複数のグラフェン面から構成される。グラフェン面は、2次元の六方格子を占有する炭素原子から構成される。特定の1つの結晶粒または単結晶中、結晶学的c方向(グラフェン面または底面に対して垂直)で複数のグラフェン面が積み重ねられ、ファンデルワールス力によって結合する。1つの結晶粒中のすべてのグラフェン面は互いに平行であるが、典型的には、ある結晶粒中のグラフェン面と、隣接する結晶粒中のグラフェン面とは異なる方向に傾いている。言い換えると、黒鉛粒子中の種々の結晶粒の配向は、典型的には、結晶粒ごとに異なる。
【0005】
黒鉛単結晶(微結晶)自体は、異方性であり、底面方向(結晶学的a軸またはb軸方向)に沿って測定される性質は、結晶学的c軸方向(厚さ方向)に沿って測定される場合と大幅に異なる。たとえば、黒鉛単結晶の熱伝導率は、底面(結晶学的a軸およびb軸方向)で最大約1,920W/mK(理論)または1,800W/mK(実験)となりうるが、結晶学的c軸方向に沿った場合は10W/mK未満(典型的には5W/mK未満)である。さらに、1つの黒鉛粒子中の複数の結晶粒または微結晶は、典型的には、すべてが異なる不規則な方向に沿って配向する。したがって、種々の配向の複数の結晶粒から構成される天然黒鉛粒子は、これら2つの極値の間(すなわち5W/mK~1,800W/mKの間)の平均の性質を示す。
【0006】
十分大きな寸法(すなわち長い長さおよび広い幅)を有し、すべてのグラフェン面が1つの所望の方向に沿って互いに実質的に平行となる、1つまたは複数のグラフェン結晶粒を含有する黒鉛フィルム(薄いまたは厚い)を製造することが、多くの用途で非常に望まれるであろう。言い換えると、すべてのグラフェン面のc軸方向が互いに実質的に平行であり、個別の用途のために十分大きなフィルム長さおよび/または幅を有する1つの大型の黒鉛フィルム(たとえば複数のグラフェン面が完全に一体化した層)を有することが非常に望まれる。このような高配向黒鉛フィルムの製造は不可能であった。時間がかかり、多量のエネルギーを消費し、費用のかかる化学蒸着(CVD)を行い、続いて超高温黒鉛化を行うことによって、いわゆる高配向熱分解黒鉛(HOPG)を製造するためのいくつかの試みが行われているが、HOPGの黒鉛構造は依然として配向が不十分でありかつ欠陥を抱えており、したがって、理論的に予測される性質よりもはるかに劣る性質を示す。
【0007】
天然黒鉛粒子または人造黒鉛粒子の中の黒鉛微結晶の構成要素のグラフェン面は、面間ファンデルワールス力に打ち勝つことができるのであれば、剥離および抽出または単離によって、炭素原子の個別のグラフェンシートを得ることができる。単離された個別の炭素原子のグラフェンシートは、一般に単層グラフェンと呼ばれる。約0.3354nmのグラフェン面間隔で厚さ方向でファンデルファールス力によって結合した複数のグラフェン面のスタックは、一般に多層グラフェンと呼ばれる。多層グラフェンプレートレットは、最大300層のグラフェン面(<100nmの厚さ)を有するが、より典型的には最大30のグラフェン面(<10nmの厚さ)、さらにより典型的には最大20のグラフェン面(<7nmの厚さ)、最も典型的には最大10のグラフェン面(科学界では一般に数層グラフェンと一般に呼ばれる)を有する。単層グラフェンおよび多層グラフェンシートは一括して「ナノグラフェンプレートレット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンまたは酸化グラフェンシート/プレートレット(一括してNGP)は、0Dのフラーレン、1DのCNT、および3Dの黒鉛とは区別される新しい種類の炭素ナノ材料(2Dナノカーボン)である。
【0008】
本発明者らの研究グループは、2002年にはグラフェン材料および関連する製造方法の開発の先駆者であった:(1)B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、2002年10月21日に出願;(2)B.Z.Jang,et al.“Process for Producing Nano-scaled Graphene Plates”、米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004);および(3)B.Z.Jang,A.Zhamu,and J.Guo,“Process for Producing Nano-scaled Platelets and Nanocomposites”、米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)。
【0009】
図5(A)(プロセスフローチャート)および図5(B)(概略図)に示されるように、NGPは、典型的には、天然黒鉛粒子に強酸および/または酸化剤がインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面の間の介在空間中に化学種または官能基の存在は、グラフェン間隔(d002、X線回折によって測定される)を増加させる機能を果たし、それによって、他の場合にはc軸方向に沿って互いにグラフェン面を維持するファンデルワールス力が大幅に低下する。GICまたはGOは、ほとんどの場合、天然黒鉛粉末(図5(A)中の20および図5(B)中の100)を、硫酸、硝酸(酸化剤)、および別の酸化剤(たとえば過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物中に浸漬することによって製造される。結果として得られるGIC(22または102)は、実際にある種の酸化黒鉛(GO)粒子となる。次に、このGICまたはGOを水中で繰り返し洗浄しすすぐことによって過剰の酸を除去すると、水中に分散したばらばらで視覚的に認識可能な酸化黒鉛粒子を含有する酸化黒鉛の懸濁液または分散体が得られる。このすすぎステップの後には、2つの処理経路が存在する。
【0010】
経路1は、懸濁液から水を除去して、実質的に乾燥GICまたは乾燥酸化黒鉛粒子の材料である「膨張性黒鉛」を得るステップを含む。膨張性黒鉛を典型的には800~1,050℃の範囲内の温度に約30秒~2分間曝露すると、GICは30~300倍に急激な体積膨張が起こって、「黒鉛ワーム」(24または104)が形成され、これらはそれぞれが剥離しているが大部分は分離していない依然として相互接続した黒鉛フレークの集合体である。黒鉛ワームのSEM画像が図6(A)中に示されている。
【0011】
経路1Aでは、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛または「相互接続し/分離していない黒鉛フレークの網目構造」)を再圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲内の厚さを有する可撓性黒鉛シートまたは箔(26または106)を得ることができる。あるいは、大部分が100nmを超える厚さの(したがって、定義によってナノ材料ではない)黒鉛フレークまたはプレートレットを含有するいわゆる「膨張黒鉛フレーク」(108)を製造する目的で、黒鉛ワームを単純に破壊するために、低強度エアミルまたは剪断機の使用を選択することができる。
【0012】
剥離黒鉛ワーム、膨張黒鉛フレーク、および黒鉛ワームを再圧縮した材料(一般に可撓性黒鉛シートまたは可撓性黒鉛箔と呼ばれる)のすべては、1Dナノカーボン材料(CNTまたはCNF)または2Dナノカーボン材料(グラフェンシートまたはプレートレット、NGP)のいずれとも基本的に異なり明確に区別される3D黒鉛材料である。可撓性黒鉛(FG)箔は、ヒートスプレッダー材料として使用することができるが、典型的には500W/mK未満(より典型的には<300W/mK)の最大面内熱伝導率および1,500S/cm以下の面内電気伝導率を示す。これらの低い伝導率値は、多くの欠陥、しわが形成されたり折り畳まれたりした黒鉛フレーク、黒鉛フレークの間の中断または間隙、ならびに非平行のフレーク(たとえば、多くのフレークが、所望の配向方向から>30°だけ逸脱した角度で傾いている図6(B)中のSEM画像)の直接的な結果である。多くのフレークは非常に大きな角度で互いに対して傾いている(たとえば20~40度の誤配向)。平均偏差角は、10°を超え、より典型的には>20°、多くの場合>30°である。
【0013】
経路1Bでは、本発明者らの米国特許出願第10/858,814号明細書に開示されるように、分離した単層および多層のグラフェンシート(一括してNGPと呼ばれる、33または112)を形成するために、剥離黒鉛に高強度の機械的剪断が加えられる(たとえば超音波処理器、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミル、または高エネルギーボールミルが使用される)。単層グラフェンは0.34nmの薄さとなることができ、一方多層グラフェンは最大100nmの厚さを有することができるが、より典型的には20nm未満である。
【0014】
経路2では、酸化黒鉛粒子から個別の酸化グラフェンシートを分離/単離する目的で、酸化黒鉛懸濁液の超音波処理が必要となる。これは、グラフェン面間の距離を天然黒鉛中の0.3354nmから、高度に酸化された酸化黒鉛の0.6~1.1nmまで増加させることで、隣接する面を互いに維持するファンデルワールス力を大幅に低下させるという認識に基づいている。超音波の出力は、グラフェン面のシートをさらに分離させて、分離された、単離された、またはばらばらの酸化グラフェン(GO)シートを形成するのに十分な出力であってよい。次にこれらの酸化グラフェンシートは、典型的には0.001重量%~10重量%、より典型的には0.01重量%~5重量%、最も典型的で好ましくは2重量%未満の酸素含有量を有する「還元型酸化グラフェン」(RGO)を得るために化学的または熱的に還元することができる。
【0015】
本出願の請求項を画定する目的で、NGPは、単層および多層のプリスティングラフェン、酸化グラフェン、または還元型酸化グラフェン(RGO)のばらばらのシート/プレートレットを含む。プリスティングラフェンは実質的に0%の酸素を有する。RGOは典型的には、0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。
【0016】
電子デバイスの温度管理用途(たとえばヒートシンク材料として)の可撓性黒鉛箔(剥離黒鉛ワームの圧縮またはロールプレスによって得られる)は以下の主要な欠点を有することに留意することができる:(1)前述したように、可撓性黒鉛(FG)箔は比較的低い熱伝導率を示し、典型的には<500W/mK、より典型的には<300W/mKを示す。剥離黒鉛に樹脂を含浸させると、得られる複合材料はさらに低い熱伝導率(典型的には<<200W/mK、より典型的には<100W/mK)を示す。(2)樹脂を含浸させたり上にコーティングしたりしていない可撓性黒鉛箔は、低い強度、低い剛性、および不十分な構造的完全性を有する。可撓性黒鉛箔は引き裂かれる傾向が高いため、ヒートシンクの製造プロセスにおける取り扱いが困難となる。実際のところ、可撓性黒鉛シート(典型的には50~200μmの厚さ)は、「可撓性」であるため、フィン付きヒートシンクのフィン構成材料を製造するのに十分な剛性とならない。(3)別の非常に繊細で、ほとんどは無視されるか見落とされるが、非常に重要なFG箔の特徴は、剥落する傾向が高いことであり、それによって黒鉛フレークがFGシート表面から容易に剥離し、マイクロエレクトロニクスデバイスの別の部品に放出される。これらの高電気伝導性フレーク(典型的には1~200μmの横寸法および>100nmの厚さ)は、電子デバイスの内部短絡および故障の原因となりうる。
【0017】
同様に、固体NGP(プリスティングラフェン、GO、およびRGOのばらばらのシート/プレートレットを含む)は、製紙プロセスを用いて不織凝集体のフィルム、膜、または紙シート(図5(A)または図5(B)中の34または114)中に充填される場合、これらのシート/プレートレットが密接に充填され、フィルム/膜/紙が超薄型である(たとえば<1μm、これは機械的に脆弱である)のでなければ、典型的には高い熱伝導率を示さない。このことは、本発明者らの以前の米国特許出願第11/784,606号明細書(2007年4月9日)に報告されている。しかし、超薄型フィルムまたは紙シート(<10μm)は、大量生産が困難であり、これらの薄膜をヒートシンク材料として組み込もうと試みる場合に取り扱いが困難となる。一般に、グラフェン、GO、またはRGOのプレートレットから製造される紙状構造またはマット(たとえば真空支援濾過方法によって作製されるそのような紙シート)は、多くの欠陥、しわが形成されたり折り畳まれたりしたグラフェンシート、プレートレットの間の中断または間隙、ならびに非平行のプレートレット(たとえば図7(B)中のSEM画像)を示し、それによって比較的不十分な熱伝導率、低い電気伝導率、および低い構造強度が生じる。ばらばらのNGP、GO、またはRGOプレートレットのみ(樹脂バインダーを有さない)のこれらの紙または凝集体は、剥落する傾向も有し、それによって伝導性粒子が空気中に放出される。
【0018】
別の従来技術の黒鉛材料の1つは、典型的には100μm未満の薄さの熱分解黒鉛フィルムである。図5(A)の下の部分は、従来技術の熱分解黒鉛フィルムをポリマーから製造するための典型的な方法の1つを示している。この方法は、ポリマーフィルム46(たとえばポリイミド)を400~1,000℃の炭化温度において10~15Kg/cmの典型的な圧力下で2~10時間炭化させて、炭化材料48を得ることから開始し、続いて、2,500~3,200℃において、100~300Kg/cmの超高圧下で1~24時間の黒鉛化処理を行うことで、黒鉛フィルム50が形成される。このような超高圧をこのような超高温で維持することが技術的に最大の問題となる。これは困難で、遅く、時間がかかり、多量のエネルギーを消費し、非常に費用のかかるプロセスである。さらに、15μm未満の薄さまたは50μmを超える厚さの熱分解黒鉛フィルムをポリイミドなどのポリマーから製造することは困難であった。この厚さに関連する問題は、超薄型フィルム(<10μm)および厚いフィルム(>50μm)への成形と、適切な炭化および黒鉛化に要求されるポリマー鎖の配向および機械的強度の許容できる程度に依然として維持することとが困難であるため、この種類の材料に固有のものである。PIからのこれらの薄いまたは厚いフィルムの炭化および黒鉛化の歩留まり率が非常に低い(典型的には<85%、多くの場合50%まで低下)ことも知られている。
【0019】
第2の種類の熱分解黒鉛は、真空中で炭化水素ガスの高温分解を行い、次に基材表面に炭素原子を堆積することによって製造される。この分解した炭化水素の気相凝縮は、実質的に化学蒸着(CVD)プロセスである。特に、高配向熱分解黒鉛(HOPG)は、CVDで堆積した熱分解炭素に非常に高温(典型的には3,000~3,300℃)で一軸圧力を加えることによって製造される材料である。これは、非常に費用がかかり、多量のエネルギーを消費し、時間がかかり、技術的に困難な方法である保護雰囲気中で長時間の複合的で同時に行われる機械的圧縮と超高温との熱機械的処理が必要となる。この方法は、製造に非常に費用がかかるだけでなく、維持にも非常に費用がかかり困難が生じる超高温装置(高真空、高圧、または高圧縮が提供される)を必要とする。このような非常に過酷な加工条件を使用する場合でさえも、結果として得られるHOPGは依然として、多くの欠陥、結晶粒界、および誤配向(近接するグラフェン面が互いに平行とならない)を有し、その結果、満足のいかない面内特性が得られる。典型的には、最も良く製造されたHOPGのシートまたはブロックは、典型的には、多くの配向が不十分な結晶粒または結晶と、大量の結晶粒界および欠陥とを含有する。
【0020】
同様に、NiまたはCuの表面上での炭化水素ガス(たとえばC)の接触CVDによって作製された、ごく最近報告されたグラフェン薄膜(<2nm)は、単一結晶粒の結晶ではなく、多くの結晶粒界および欠陥を有する多結晶構造である。NiまたはCuが触媒となることで、800~1,000℃における炭化水素ガス分子の分解によって得られた炭素原子がNiまたはCu箔表面上に堆積して、多結晶の単層または数層グラフェンのシートが形成される。結晶粒は典型的には100μmよりもはるかに小さいサイズであり、より典型的には、10μmよりも小さいサイズである。光学的に透明であり電気伝導性であるこれらのグラフェン薄膜は、タッチスクリーン(インジウム-スズ酸化物、すなわちITOガラスの代わりに使用)または半導体(シリコンSiの代わりに使用)などの用途が意図される。さらに、NiまたはCu触媒によるCVDプロセスは、5つを超えるグラフェン面(典型的には<2nm)の堆積には適しておらず、その数を超えると、下にあるNiまたはCu触媒は、もはや触媒効果を得ることができない。5nmを超える厚さのCVDグラフェン層が可能であることを示す実験的証拠は存在しない。CVDグラフェンフィルムおよびHOPGの両方は非常に高価である。
【0021】
したがって、本発明の目的の1つは、HOPG、CVDグラフェンフィルム、および/または可撓性黒鉛と同等、またはより高い熱伝導率、電気伝導率、弾性率、および/または引張強度を示す、酸化グラフェン(GO)由来の高配向黒鉛フィルムを製造するための費用対効果が大きい方法を提供することである。この方法によって、高配向酸化グラフェンフィルムを製造することができ、事実上あらゆる所望のフィルム厚さの黒鉛フィルムを得ることができる。この黒鉛フィルムは、伝導性バインダー材料によってエッジ間で自己合体または結合する高配列グラフェン面から構成される。
【0022】
本発明の別の目的の1つは、スマートフォン、タブレットコンピュータ、デジタルカメラ、表示装置、フラットパネルTV、LED照明装置などの中の放熱要素として使用するための、0.1μmよりも厚い(好ましくは1μmよりも厚い)が500μmよりも薄く(好ましくは200μmよりも薄く、より好ましくは100μmよりも薄く、最も好ましくは5~50μm)、GO由来の高配向グラフェンフィルムの製造方法を提供することである。このような薄膜は、同等の厚さ範囲のあらゆる材料で到達できない非常に優れた熱伝導率、電気伝導率、機械的強度、および弾性率の組合せを示す。本発明の高配向グラフェンフィルムは、15,000S/cmを超える電気伝導率、1,750W/mKを超える熱伝導率、2.1g/cmを超える物理的密度、120MPaを超える引張強度、および/または120GPaを超える弾性率を示すことができる。この顕著な性質の組を示す他の材料は知られていない。
【発明の概要】
【0023】
本発明は、本明細書において高配向黒鉛フィルムと記載される新規な種類の材料の設計および製造を行うための新規な材料科学的方法に関する。このような高配向黒鉛フィルムの製造は、すべての酸化グラフェン面が互いに実質的に平行である高配列酸化グラフェンシートまたは分子から構成される薄膜構造の製造から始まる。この配向GO構造の酸素含有量は典型的には5重量%~50重量%である。この配向GO構造が熱処理されると、酸素含有量が減少し、酸素含有種が発生して、(この熱処理ステップの後で圧縮ステップが行われる場合でも)場合により構造中の一部の間隙中に残存しうる。本発明は、グラフェン面の中のこれらの間隙または中断を伝導性バインダー材料で埋めることで、グラフェン面または領域の間での電子およびフォノンの障壁のない輸送が可能となる。ほとんどの場合、黒鉛フィルムは0.01~5重量%の酸素量を有する。対照的に、従来のHOPGは酸素を含有しないが、多くの欠陥または中断を有する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、好ましくはおよび典型的にはグラフェンシートのエッジにおいて伝導性材料バインダーによって結合される高配向グラフェンシート(フィルム面方向に沿って配向)から構成される高伝導性複合グラフェン-導体材料フィルムを提供する。このフィルムの厚さは、5nm~500μm(さらに厚くてもよく、たとえば最大5mm)であってよいが、より典型的には10nm~200μm、さらにより典型的には100nm~100μmであってよい。本発明は、このような伝導性複合黒鉛フィルムの製造方法も提供する。
【0025】
ある実施形態では、本発明の方法は:(a)流動媒体中に分散したグラフェンシート(プリスティングラフェン、GO、および/またはRGO)を有するグラフェン分散体、または流動媒体中に溶解した酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子が5重量%を超える酸素含有量を有するステップと;(b)剪断応力下で支持固体基材の表面上にグラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを供給し堆積して、この支持基材上に配向したグラフェンシートまたは酸化グラフェン分子を有するグラフェンまたは酸化グラフェンの湿潤層を形成するステップと;(c)グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子の湿潤層から流動媒体を少なくとも部分的に除去して、X線回折によって測定して0.4nm~1.2nmの面間隔d002、および5重量%を超える酸素含有量を有するグラフェンまたは酸化グラフェンの乾燥層を形成するステップと;(d)55℃~3,200℃の熱処理温度において、所望の時間の長さでグラフェンまたは酸化グラフェンの乾燥層の熱処理を行って、0.4nm未満の面間隔d002および5重量%未満の酸素含有量を有する、細孔および構成グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁の3D網目構造を有する多孔質黒鉛フィルムを形成するステップと;(e)多孔質黒鉛フィルムに、構成グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁を結合させる伝導性材料バインダー(本明細書では導体材料と記載される)を含浸させて、電子伝導経路およびフォノン伝導経路の連続網目構造を有する所望の伝導性フィルムを形成するステップとを含む。好ましくは、この方法は、伝導性フィルムの機械的圧縮または圧密化を行うステップ(f)をさらに含む。
【0026】
グラフェンまたは酸化グラフェンの乾燥層中のグラフェンシートまたはGO分子は、フィルム面方向に沿って互いに実質的に平行に配列し、これらのシートまたは分子のフィルム面からの平均偏差角は10度未満である。従来のGOまたはRGOシート系紙では、グラフェンシートまたはプレートレットは互いに対して(またはフィルム面に対して)非常に大きな角度(たとえば20~40度の誤配向)で傾いていることに留意されたい。所望の配向角からの平均偏差角は10°を超え、より典型的には>20°、多くの場合>30°である。
【0027】
引き続く熱処理によって、場合により、熱に誘導された酸素含有種(たとえばCOおよびHO)の発生のために、グラフェンシート/分子の間に空隙および間隙が形成されうる。さらなる研究により、本発明者らは、間隙および空隙が後の圧縮手順でなくならず、中断部分が残り、それによって電子およびフォノンの輸送が妨害される場合があることに気付いた。したがって、本発明者らは、結果として得られる多孔質フィルムに選択された伝導性材料を含浸させて間隙を埋めることで、電子およびフォノンの流れに対する抵抗を大幅に減少させている。伝導性材料のバインダーが、黒鉛層中の構成グラフェンシートを少なくとも末端間で結合させる、および/または導体材料が多孔質黒鉛フィルムの細孔を満たす。導体材料は、金属、本来伝導性のポリマー、伝導性有機化合物、またはそれらの組合せから選択される。
【0028】
電気伝導性ポリマーは、鎖に沿った二重結合の完全に共役した配列を有する高分子から構成される。本来伝導性のポリマーの例は、ポリ(フルオレン)、ポリフェニレン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリナフタレン、ポリ(ピロール)(PPY)、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリアニリン(PANI)、ポリ(チオフェン)(PT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリ(アセチレン)(PAC)、およびポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)である。好ましい本来伝導性のポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリチオフェン、ポリピロール、およびポリアニリンである。溶解イオンによって電荷が輸送されるポリマー電解質とは異なり、本来伝導性のポリマー中の電荷は、生成した電荷担体(たとえば、正孔、電子)によってポリマー分子に沿っておよびポリマー分子間で輸送される。
【0029】
ある実施形態では、導体材料は、コールタールピッチ、コールタールピッチの誘導体、石油ピッチ、石油タールピッチの誘導体、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、多環式芳香族化合物、ペンタセン、アントラセン、ルブレン、またはそれらの組合せから選択される伝導性有機化合物を含む。
【0030】
ある実施形態では、供給し堆積するステップは、噴霧、キャスティング、印刷、コーティング、またはそれらの組合せの作業を含む。この作業は、支持固体基材の表面の面に沿ってグラフェンシートまたはGO分子を配列させる剪断応力を誘発することを含む必要がある。この剪断応力によって誘発される配向は、結果として得られるグラフェン-金属フィルムが高い面内の電気伝導率値および熱伝導率値を実現するために重要である。
【0031】
コーティング作業としては、スピンコーティング、ディップコーティング、浸漬ディップコーティング、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティングもしくはナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、メータリングロッドコーティング、キスコーティング、スロットダイコーティング、スロットダイビードコーティング、スライドコーティング(スロットダイとビードとの間に角度の付いたスライドを有するビードコーティング)、テンションウェブスロットダイコーティング(ウェブのバッキングを有さない)、ローラーコーティング(フォワードローラーコーティングまたはリバースロールコーティング)、シルクスクリーンコーティング、ロータリースクリーンコーティング、押出コーティング、カーテンコーティング、またはそれらの組合せを挙げることができる。好ましいコーティング作業としては、スロットダイコーティング、コンマコーティング、およびリバースロール転写コーティングが挙げられる。ある実施形態では、キャスティング作業は、スピンキャスティング、スプレーキャスティング、または複合キャスティング-コーティングから選択される。コーティングまたはキャスティング作業は、酸化グラフェンシートまたは分子を配列するための剪断力を伴う必要がある。
【0032】
熱処理温度は、好ましくは80~2,950℃、より好ましくは300~2,950℃、さらにより好ましくは500~2,500℃である。炭化させた材料の黒鉛化は、典型的には2,500℃未満の温度では起こらず、したがって、2,500℃未満の熱処理温度では通常は非常に低い熱伝導率および電気伝導率が得られる(たとえばより完全性の低い黒鉛結晶、不十分な黒鉛結晶の配列などのため)ことに留意されたい。しかし、本発明の方法は、2,500℃よりもはるかに低い熱処理温度(たとえば1,500℃未満、またはさらには1,000℃未満)が可能であり、さらに依然として、結果として得られるグラフェン-金属フィルムは非常に高い熱伝導率および電気伝導率を示すことができる。たとえば、ある実施形態では、熱処理温度は80~1,500℃または100~1,000℃である。
【0033】
多孔質黒鉛フィルムに金属を含浸させるステップは、電気化学的堆積もしくはめっき、パルス電力堆積、電気泳動堆積、無電解めっきもしくは堆積、金属溶融含浸、金属前駆体含浸、化学堆積、物理蒸着、物理的蒸気浸透、化学蒸着、化学的蒸気浸透、スパッタリング、またはそれらの組合せの作業を含むことができる。ある実施形態では、多孔質黒鉛フィルムに金属を含浸させるステップと、乾燥酸化グラフェン層の熱処理を行うステップとが同時に行われる。
【0034】
所望のバインダー金属は、好ましくはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、またはそれらの混合物から選択される。より好ましくは、金属は、Cu、Al、Ti、Sn、Ag、Au、Fe、またはそれらの合金から選択される。典型的には、金属は、全伝導性フィルム重量を基準として0.1%~50%の重量分率を占める。好ましくは、金属は、全伝導性フィルム重量を基準として1%~10%の重量分率を占める。
【0035】
好ましくは、本発明の方法は、熱処理のステップ(d)の前に、酸化グラフェンの湿潤層または乾燥層をエージング室中、25℃~100℃のエージング温度および20%~99%の湿度レベルで、1時間~7日のエージング時間でエージングして、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップをさらに含む。
【0036】
ある実施形態では、熱処理のステップ(d)は、黒鉛フィルム中の面間隔d002を0.3354nm~0.36nmの値まで減少させ、酸素含有量を2重量%未満まで減少させるのに十分な時間の長さで行われる。
【0037】
好ましい一実施形態では、流動媒体は水および/またはアルコールからなる。好ましい一実施形態では、伝導性フィルムは、10nm~500μm、好ましくは100nm~100の厚さを有する。
【0038】
好ましい一実施形態では、グラフェン分散体またはGOゲルの中のグラフェンシートまたはGO分子は、グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子と液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.1%~25%の重量分率を占める。好ましくは、前記グラフェン分散体またはGOゲルの中のグラフェンシートまたはGO分子は、グラフェンシートまたはGO分子と液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.5%~15%の重量分率を占める。好ましい一実施形態では、グラフェン分散体またはGOゲルの中のグラフェンシートまたは分子は、酸化グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として3%~15%の重量分率を占める。好ましくは、グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、液晶相を形成するために、流動媒体中に分散した3重量%を超えるグラフェンまたは酸化GOを有する。
【0039】
ある好ましい実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、粉末または繊維の形態の黒鉛材料を反応容器中の酸化性液体中に反応温度において、前記酸化グラフェン分散体または前記酸化グラフェンゲルを得るのに十分な時間の長さで浸漬することによって調製され、前記黒鉛材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、またはそれらの組合せから選択される。
【0040】
好ましい実施形態では、熱処理温度は、500℃~1,500℃の範囲内の温度を含み、黒鉛フィルムは、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または3,000S/cm以上の電気伝導率を有する。
【0041】
別の好ましい一実施形態では、熱処理温度は1,500℃~2,200℃の範囲内の温度を含み、黒鉛フィルムは、0.01%未満の酸素含有量、0.337nm未満のグラフェン間隔、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気伝導率を有する。
【0042】
さらに別の好ましい実施形態では、熱処理温度は2,500℃を超える温度を含み、黒鉛フィルムは、0.001%以下の酸素含有量、0.336nm未満のグラフェン間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、および/または10,000S/cm以上の電気伝導率を有する。
【0043】
好ましい実施形態では、黒鉛フィルムは、0.337nm未満のグラフェン間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す。好ましくは、黒鉛フィルムは、80%以上の黒鉛化度および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示す。より好ましくは、黒鉛フィルムは、90%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。
【0044】
好ましい実施形態では、グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、元の黒鉛結晶粒度が最大である黒鉛材料から得られ、前記黒鉛フィルムは、前記最大の元の結晶粒度よりも大きな結晶粒度を有する多結晶グラフェン構造である。好ましい一実施形態では、グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、X線回折または電子線回折方法によって測定して好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料から得られ、前記黒鉛フィルムは、前記X線回折または電子線回折方法によって測定して好ましい結晶配向を有する単結晶または多結晶のグラフェン構造である。典型的には、熱処理のステップによって、エッジ間方式での酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子の化学的連結、合体、または化学結合が誘導される。
【0045】
この新しい種類の材料(すなわち、導体バインダーによって結合させた高配向グラフェンシートのフィルム)は、ばらばらのグラフェン/GO/RGOの高配向熱分解黒鉛(HOPG)、可撓性黒鉛シート、およびシート/プレートレットの紙/フィルム/膜シートとは区別される以下の特性を有する:
(1)このフィルムは、高配向の複数のグラフェンシートまたは非常に大きな結晶粒度を有する結晶粒から構成される多結晶であり;これらのグラフェンシートまたは結晶粒は、電子およびフォノンの輸送のための導通を提供する金属によって結合する。フィルムは、すべての結晶粒中のすべてのグラフェン面が互いに実質的に平行に配向している(すなわち、すべての結晶粒の結晶学的c軸が同一方向に実質的に向かっている)。
【0046】
(2)適切なコーティングまたはキャスティングプロセス(たとえばリバースロール転写コーティング手順を含む)を使用すると、このような高度な配向は、薄いフィルムだけでなく厚いフィルムでも実現することができる。同じ厚さの場合、リバースロール手順によって、はるかに低い熱処理温度で高度な配向および高度な結晶完全性が可能となる。さらに、伝導性バインダーを使用することで、低い熱処理温度(たとえば1,500℃未満、またはさらには1,000℃未満)でさえも高い電気伝導率および熱伝導率を実現できる。
【0047】
(3)フィルムは、複数のばらばらの黒鉛フレークまたはグラフェン/GO/RGOのばらばらのプレートレットの単純な凝集体や積層体ではなく、元のGOシートから得られる識別可能な、またはばらばらのフレーク/プレートレットを含有しない、一体化したグラフェン要素である。これらの元のばらばらのフレークまたはプレートレットは、互いに化学的に結合または連結して、より大きな結晶粒を形成している(結晶粒度は元のプレートレット/フレークのサイズよりも大きい)。
【0048】
(4)選択された熱処理条件下で、十分に配向したGOシートまたはGO分子は、主としてエッジ間方式で互いに化学的に合体して巨大な2Dグラフェン結晶粒を形成することができるが、場合により下または上の隣接GOシートと合体して、グラフェン鎖の3D網目構造を形成することもできる。互いに連結すること、または共有結合を形成することで、GOシートは、一体化されたグラフェン要素中に接着される。間隙が存在する場合、または連結していないグラフェンシートのエッジが存在する場合、外部から加えられる伝導性バインダーを使用することで、これらの間隙が満たされ、電子輸送経路の中断がなくなる。
【0049】
(5)これらの構成グラフェン面は、同一の結晶学的c軸を有する(実質的にすべてが互いに平行)。これらの面はGOに由来し、このGOは、不規則に配向した複数の黒鉛微結晶をそれぞれが本来有する天然黒鉛または人造黒鉛粒子の中程度または激しい酸化によって得られる。化学的に酸化されてGO分散体(黒鉛の中程度の酸化から激しい酸化)またはGOゲル(水または別の極性液体中に溶解して完全に分離したGO分子となるのに十分長い酸化時間での激しい酸化)となる前に、これらの出発黒鉛微結晶または元の黒鉛微結晶は、初期長さ(結晶学的a軸方向のL)、初期幅(b軸方向のL)、および厚さ(c軸方向のL)を有する。結果として得られる黒鉛フィルムは、典型的には、元の黒鉛微結晶のLおよびLよりもはるかに大きい長さまたは幅を有する。
【0050】
(6)この方法は、炭化させたポリマー(たとえばポリイミド)またはCVD黒鉛のいずれかからHOPGを製造する方法と比較すると、はるかに低い熱処理温度および低い圧力を伴う。本発明の方法は、より単純で(したがってより信頼性が高く)、より迅速で、エネルギー消費がより少なく、非常に拡張性がある。
【0051】
(7)伝導性バインダーによって結合した高配向グラフェンシートの黒鉛フィルムを製造するためのこの方法は、連続ロールツーロール原理で行うことができ、したがってはるかに費用対効果が高い。連続的な原理で高配向黒鉛構造を製造可能な他の方法は知られていない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】高配向GOフィルムを製造するためのリバースロールに基づくGO層転写装置の概略図である。
図2】高配向GOフィルムを製造するための別のリバースロールに基づくGO層転写装置の概略図である。
図3】高配向GOフィルムを製造するためのさらに別のリバースロールに基づくGO層転写装置の概略図である。
図4】高配向GOフィルムを製造するためのさらに別のリバースロールに基づくGO層転写装置の概略図である。
図5A】剥離黒鉛製品(可撓性黒鉛箔および可撓性黒鉛複合材料)および熱分解黒鉛(下部分)の種々の従来技術の製造方法を、酸化グラフェンゲルまたはGO分散体の製造方法とともに示すフローチャートである。
図5B】単純に凝集させた黒鉛またはNGPフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルム、および膜の製造方法を示す概略図である。すべての方法が、黒鉛材料(たとえば天然黒鉛粒子)のインターカレーションおよび/または酸化処理から始まる。
図6A】黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛粉末の熱剥離後の黒鉛ワーム試料のSEM画像である。
図6B】可撓性黒鉛箔の断面のSEM画像であり、可撓性黒鉛箔表面と平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークが示されており、多くの欠陥、ねじれたまたは折り畳まれたフレークも示されている。
図7A】GO由来の合体した黒鉛フィルムのSEM画像であり、複数のグラフェン面(元の黒鉛粒子中で30nm~300nmの初期長さ/幅を有する)が酸化され、剥離し、再配向し、継ぎ目なく合体して連続長のグラフェンシートまたは層となっており、これらは数十センチメートルの幅または長さで続くことができる(このSEM画像中では幅10cmの黒鉛フィルムの幅50μmのみが示されている)。
図7B】製紙プロセス(たとえば真空支援濾過)を用いてばらばらのグラフェンシート/プレートレットから作製された従来のグラフェン紙/(RGO)の断面のSEM画像である。この画像は、多くのばらばらのグラフェンシートが折り畳まれるか、中断されるかしている(一体化されていない)のを示しており、配向はフィルム/紙の表面に対して平行ではなく、多くの欠陥または不完全部分を有する。
図7C】互いに平行であり、厚さ方向、すなわち結晶学的c軸方向に化学結合する複数のグラフェン面から構成される高配向グラフェンフィルムの製造方法を示す概略図および付随するSEM画像である。
図7D】正しいと思われる化学的連結機構の1つである(2つのGO分子のみが例として示されており;多数のGO分子が互いに化学的に連結してグラフェン層を形成することができる)。
図8A】GOゲル由来の黒鉛フィルム(コンマコーティング、熱処理、および圧縮によって作製)、ポリアナリン(polyanaline)(PANi)を含浸させて同様に作製した黒鉛フィルム、RGOプレートレット紙、およびPANiを含浸させたRGOプレートレット紙の電気伝導率値であり、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。
図8B】GOゲル由来の黒鉛フィルム、3%のSnを浸透させて同様に作製した黒鉛フィルム(実験値)、および複合則の予測に基づく値の電気伝導率値であり、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。
図8C】スロットダイコーティングしたGOゲル由来の黒鉛フィルム、それらのSnを含浸させた相当物(10重量%のSn)、可撓性黒鉛(FG)箔、およびロールプレス前に10%のSnを含浸させたFG箔の熱伝導率であり、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。
図9】GO分散体由来の黒鉛フィルム(コンマコーティング)、15重量%のCuを含浸させたGO分散体由来の黒鉛フィルム(実験)、および複合則の予測による値の熱伝導率値であり、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされ、Cuのデータ線は基準線としてプロットしている(Cu箔の熱処理は行わなかった)。
図10】GO分散体由来の黒鉛フィルム、5重量%のポリアニリンを含浸させたGO分散体由来の黒鉛フィルム(実験)、および複合則の予測による値の熱伝導率値であり、すべてが黒鉛フィルム最終熱処理温度の関数としてプロットされている。
図11A】GO層のX線回折曲線である。
図11B】150℃で熱的に還元(部分的に還元)したGO層のX線回折曲線である。
図11C】還元し再黒鉛化した黒鉛フィルムのX線回折曲線である。
図11D】高強度(004)ピークを示している高度に再黒鉛化し再結晶させた黒鉛フィルムのX線回折曲線である。
図11E】3,000℃の高さのHTTを有するポリイミド由来のHOPGのX線回折曲線である。
図12A】熱処理温度の関数としてプロットした、リバースロールコーティングしたGOフィルムおよびスロットダイコーティングしたGOフィルムに由来する黒鉛フィルムのX線回折によって測定されたグラフェン面間隔である。
図12B】GO懸濁液由来の黒鉛フィルム中の酸素含有量である。
図12C】グラフェン間隔と酸素含有量との間の相関である。
図13A】GO由来の黒鉛フィルム、それらのZnを含浸させた相当物(5重量%のZn)、RGOプレートレット紙、および5%のZnを含浸させたRGO紙の引張弾性率である。
図13B】GO由来の黒鉛フィルム、それらのZnを含浸させた相当物(5重量%のZn)、RGOプレートレット紙、および5%のZnを含浸させたRGO紙の引張強度である。
図14】GO層のコンマコーティングおよびリバースロールコーティングを行い、1,500℃の最終熱処理温度で処理し(続いて、あるシリーズの試料ではCu含浸あり、別のシリーズではCu含浸なし)、圧縮して作製した種々の黒鉛フィルムの熱伝導率であり、すべてが個別の乾燥GO層の厚さ値の関数としてプロットされている。
図15】リバースロールコーティングされ、1,000℃の最終熱処理温度で熱処理され、最終厚さが約50μmである層から作製した黒鉛フィルムの熱伝導率であり、含浸させた導体バインダー(ポリピロール、ポリチオフェン、およびCu)の比率の関数としてプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、高配向酸化グラフェンフィルムを熱処理して多孔質黒鉛フィルムを形成し、これに、本明細書において導体材料と記載される伝導性バインダー材料を慎重に含浸させることによって得られる高伝導性複合グラフェン-導体フィルムの製造方法を提供する。好ましくは、この方法は:
(a)流動媒体中に分散した酸化グラフェンシートを有する酸化グラフェン分散体、または流動媒体中に溶解した酸化グラフェン分子を有する酸化グラフェンゲルのいずれかを調製するステップであって、酸化グラフェンシートまたは酸化グラフェン分子が5重量%を超える(典型的には20重量%を超えるが、最大50%である)酸素含有量を有するステップと;
(b)剪断応力下で支持固体基材の表面上に酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを供給し堆積して、この支持基材上に配向した酸化グラフェンシートまたは分子を有する酸化グラフェンの湿潤層を形成するステップと;(主として剪断応力のために、GOシートまたはGO分子は層の面方向に沿って高度に配列する)
(c)酸化グラフェンの湿潤層から流動媒体を少なくとも部分的に除去して、X線回折によって測定して0.4nm~1.2nmの面間隔d002、および5重量%を超える酸素含有量を有する酸化グラフェンの乾燥層を形成するステップと;
(d)55℃~3,200℃(より好ましくは100℃~2,500℃、さらに好ましくは300℃~1,500℃、最も好ましくは500℃~1,000℃)の熱処理温度において所望の時間の長さで酸化グラフェンの乾燥層の熱処理を行って、0.4nm未満の面間隔d002および5重量%未満の酸素含有量を有する、細孔および構成グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁の3D網目構造を有する多孔質黒鉛フィルムを形成するステップと;
(e)多孔質黒鉛フィルムに、構成グラフェンシートまたはグラフェン細孔壁を結合させる導体材料を含浸させて、電子伝導経路およびフォノン伝導経路の連続網目構造を有する所望の伝導性フィルムを形成するステップとを含む。好ましくは、この方法は、含浸させた黒鉛フィルムの機械的圧縮または圧密化を行って高伝導性フィルムを製造するステップ(f)をさらに含む。
【0054】
GO層を熱処理するステップ(d)によって2つの大きな効果が得られることに留意されたい。一方の効果は、熱処理は、酸素含有基を除去することによって酸化グラフェンを熱的に還元して、一部の化学基(たとえばCO、HOなど)が放出されるために細孔が場合により形成される機能を果たすという見解である。他方の効果は、多くの(しかしすべてではない)酸化グラフェンシートまたは分子が、エッジ間および/または分子間方式で互いに化学的に連結して、より長いまたはより幅広のグラフェンシートまたは分子(より大きなグラフェン結晶領域または結晶粒)を得ることができることである。しかし、隣接部分と化学的に連結しないグラフェンエッジの間には間隙が存在する。これらの間隙および他の細孔は、電子およびフォノン(量子化格子振動)の輸送を妨害する。固体物理学の観点からは、電気伝導率は電子輸送に依存し、熱伝導率は電子およびフォノンの両方の輸送によって決定される。伝導性バインダー材料(導体材料)を導入して、隣接グラフェンシートを互いに結合させたり、高配向グラフェンシートの間隙を満たしたりすることによって、本発明者らは、驚くべきことに、ある予期せぬ相乗効果を確認した(電気伝導率および熱伝導率の両方が、複合材料の分野で一般に使用される複合則に基づいて予測されるよりも高くなる)。
【0055】
ステップ(a)では、調製される酸化グラフェン分散体またはゲル中の流動媒体は、水および/またはアルコールからなることができる。本発明の方法では、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは、好ましくは、酸化グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として0.1%~25%の重量分率を占める。より好ましくは、酸化グラフェン分散体中の酸化グラフェンシートは、0.5%~15%の重量分率を占める。ある実施形態では、酸化グラフェンシートは、酸化グラフェンシートと液体媒体とを合わせた全重量を基準として3%~15%の重量比を占める。ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルは、液晶相を形成するために、流動媒体中に分散した3重量%を超える酸化グラフェンを有する。GO分散体またはGOゲルの調製は、より詳細に以下に説明する。
【0056】
供給し堆積するステップ(b)は、典型的には、噴霧、キャスティング、印刷、コーティング、またはそれらの組合せの作業を含む。たとえば、コーティング作業としては、スピンコーティング、ディップコーティング、浸漬ディップコーティング、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティングもしくはナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、メータリングロッドコーティング、キスコーティング、スロットダイコーティング、スロットダイビードコーティング、スライドコーティング(スロットダイとビードとの間に角度の付いたスライドを有するビードコーティング)、テンションウェブスロットダイコーティング(ウェブのバッキングを有さない)、ローラーコーティング(フォワードローラーコーティングまたはリバースロールコーティング)、シルクスクリーンコーティング、ロータリースクリーンコーティング、押出コーティング、カーテンコーティング、またはそれらの組合せが挙げられる。ナイフオーバーロールコーティング、メータリングロッドコーティング、コンマコーティング、スロットダイコーティング、およびリバースロール転写コーティングが最も好ましい。
【0057】
リバースロール転写コーティングの例は図1中に概略的に示される。このコーティング装置で、高配向酸化グラフェンフィルム(HOGOF)の製造方法は、トラフ208に供給される酸化グラフェン分散体(GO分散体)または酸化グラフェンゲル(GOゲル)の調製から開始される。塗布ローラー204の第1の方向での回転運動によって、GO分散体またはゲルの連続層210の塗布ローラー204の外面上への供給が可能となる。酸化グラフェン(GO)のアプリケーター層214の厚さ(量)を調節するために、任意選択のドクターブレード212が使用される。このアプリケーター層は、第2の方向で移動する(たとえば第1の方向とは反対方向に回転する逆転ローラー206によって駆動される)支持フィルム216の表面に連続的に供給されて、酸化グラフェンの湿潤層218が形成される。このGOの湿潤層は次に液体除去処理(たとえば加熱環境下および/または真空ポンプの使用)が行われる。
【0058】
要約すると、ステップ(b)は、第1の方向に第1の線速度(塗布ローラーの外面の線速度)で回転する塗布ローラーの表面上に酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを供給して、酸化グラフェンのアプリケーター層を形成し、この酸化グラフェンのアプリケーター層を、第1の方向とは反対の第2の方向に第2の線速度で駆動される支持フィルムの表面上に転写して、支持フィルム上に酸化グラフェンの湿潤層を形成するステップを含む。
【0059】
好ましい一実施形態では、塗布ローラーからある作動距離で配置され、第1の方向とは反対の第2の方向に回転する逆転支持ローラー(たとえば図1中の206)によって、支持フィルムが駆動される。この支持ローラーの外面における速度によって、(支持フィルムの)第2の線速度が決定される。好ましくは、支持フィルムは給送ローラーから供給され、支持フィルムによって支持された酸化グラフェンの乾燥層は巻き取りローラー上に巻き取られ、この方法はロールツーロール方式で行われる。
【0060】
このリバースロール転写コーティングに基づく方法は図2図3、および図4中にさらに示されている。好ましい一実施形態では、図2中に示されるように、塗布ローラー224と計量ローラー222(ドクターローラーとも呼ばれる)との間にGO分散体/ゲルのトラフ228が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー222に対する塗布ローラー224の相対運動または回転によって、塗布ローラー224の外面上にGOのアプリケーター層230が形成される。このGOのアプリケーター層は次に転写されて、支持フィルム234(アプリケーターローラー224の回転方向とは反対の方向で逆回転する支持ローラー226によって駆動される)の表面上にGOの湿潤層232が形成される。次に湿潤層に対して乾燥処理を行うことができる。
【0061】
好ましい別の一実施形態では、図3中に示されるように、塗布ローラー238と計量ローラー236との間にGO分散体/ゲルのトラフ244が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー236に対する塗布ローラー238の相対運動または回転によって、塗布ローラー238の外面上にGOのアプリケーター層248が形成される。計量ローラー236の外面の上にあるGOゲル/分散体をかき落とすためにドクターブレード242を使用することができる。このGOのアプリケーター層248は次に転写されて、支持フィルム246(アプリケーターローラー238の回転方向とは反対の方向で逆回転する支持ローラー240によって駆動される)の表面上にGOの湿潤層250が形成される。次に湿潤層に対して乾燥処理を行うことができる。
【0062】
さらに別の好ましい一実施形態では、図4に示されるように、塗布ローラー254と計量ローラー252との間にGO分散体/ゲルトラフの256が自然に形成される。所望の速度における計量ローラー252に対する塗布ローラー254の相対運動または回転によって、塗布ローラー254の外面上にGOのアプリケーター層260が形成される。このGOのアプリケーター層260は次に転写されて、アプリケーターローラー254の接線回転方向とは反対の方向に移動するように駆動される支持フィルム258の表面上にGOの湿潤層262が形成される。この支持フィルム258は、給送ローラー(図示せず)から供給し、駆動ローラーであってもよい巻き取りローラー(図示せず)上に取り込む(巻き取る)ことができる。この例では少なくとも4個のローラーが存在する。液体媒体(たとえば水)を湿潤層から少なくとも部分的に除去してGOの乾燥層を形成するために、GOの湿潤層が形成された後に加熱ゾーンが存在することができる。
【0063】
ある実施形態では、酸化グラフェン分散体または酸化グラフェンゲルを塗布ローラーの表面上に供給するステップは、塗布ローラー表面上に所望の厚さの酸化グラフェンのアプリケーター層を形成するために、計量ローラーおよび/またはドクターブレードを使用するステップを含む。一般に、本発明の方法は、2、3、または4個のローラーを操作するステップを含む。
【0064】
(第2の線速度)/(第1の線速度)として定義されるリバースロール転写装置における速度比は、好ましくは1/5~5/1となる。塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度と同じ速度で移動するのであれば、速度比は1/1、すなわち1である。一例として、塗布ローラーの外面が支持フィルムの線移動速度の3倍の速度で移動するのであれば、速度比は3/1である。結果として、転写されるGOの湿潤層は、GOのアプリケーター層と比較して厚さが約3倍となる。非常に予期せぬことに、これによって、はるかに厚い層の製造が可能となり、さらに湿潤層、乾燥層、および後に熱処理した黒鉛フィルムの中で高度なGO配向を依然として維持することができる。キャスティング、またはコンマコーティングおよびスロットダイコーティングなどの他のコーティング技術を用いることによっては、厚いフィルム(たとえば>50μmの厚さ)で高度なGOシートの配向を実現できていなかったので、このことは非常に重要で望ましい成果である。ある実施形態では、速度比は、1/1を超え、かつ5/1未満である。好ましくは、速度比は、1/1を超え、かつ3/1以下である。より薄い層(たとえば<50μm)の場合は、GOの湿潤層を堆積するために、ナイフオーバーロールコーティング、メータリングロッドコーティング、コンマコーティング、またはスロットダイコーティングを容易に使用することができる。
【0065】
乾燥させるステップ(c)は、湿潤層のわずかな加熱および/または通気によって行うことができる。ロールツーロールプロセスでは、乾燥は、典型的には、湿潤層を数箇所(典型的には1~7箇所)の加熱ゾーンに通して移動させることによって行われる。好ましくは、本発明の方法は、エージング室中25℃~100℃(好ましくは25℃~55℃)のエージング温度および20%~99%の湿度レベルで1時間~7日のエージング時間の間、酸化グラフェンの湿潤層または乾燥層のエージングを行って、酸化グラフェンのエージングされた層を形成するステップをさらに含む。顕微鏡観察によってGOシートの平均長さ/幅がエージング後に大幅に増加(2~3倍)することが明らかとなり、本発明者らは、驚くべきことに、このエージング手順によって、エッジ間方式でGOシートまたは分子の一部の化学的連結または合体が可能となることを確認した。これによって、シート配向を維持し、後の巨大な結晶粒または結晶領域へのエッジ間連結を促進し、はるかに低い温度での黒鉛領域の黒鉛化を促進することができる。
【0066】
本発明の方法は、酸化グラフェンの乾燥層または乾燥されエージングされた層を、55℃~3,200℃の第1の熱処理温度において、所望の時間の長さ(典型的には0.5~36時間、より典型的には1~24時間)で熱処理して、0.4nmをはるかに下回る面間隔d002、および5重量%をはるかに下回る酸素含有量を有する多孔質の黒鉛フィルムを製造するステップ(d)をさらに含む。この方法は、前記ステップ(d)の最中または後に、多孔質黒鉛フィルムの細孔中に伝導性バインダー材料を含浸させる前または含浸させた後の多孔質黒鉛フィルムの厚さを減少させる圧縮ステップをさらに含むことができる。
【0067】
熱処理温度が十分な時間の長さで2,500℃を超える場合、面間隔d002を0.3354nm~0.36nmの値まで減少させることができ、酸素含有量は2重量%未満まで減少する。本発明の方法は、黒鉛フィルムの熱処理の最中または後に、黒鉛フィルムの厚さを減少させる圧縮ステップをさらに含むことができる。結果として得られる黒鉛フィルムは、通常は多孔質であり、伝導性バインダー材料を含浸させることができる。
【0068】
黒鉛フィルムは、典型的には厚さが5nm~5mm、より典型的には10nm~1mm、さらにより典型的には50nm~500μm、さらにより典型的には100nm~200μm、好ましくは100μm未満、より好ましくは100nm~50μmである。
【0069】
本発明の黒鉛フィルムは、化学的に結合し合体したグラフェン面を含む。これらの平面芳香族分子またはグラフェン面(少量の酸素含有基を有する六角形構造の炭素原子)は互いに平行である。これらの面の横寸法(長さまたは幅)は巨大であり、典型的には、出発黒鉛粒子の最大微結晶寸法(または最大構成グラフェン面寸法)の数倍またはさらには数桁大きい。本発明の黒鉛フィルムは、すべての構成グラフェン面が実質的に互いに平行である「巨大グラフェン結晶」または「巨大平面グラフェン粒子」である。これは、これまで発見、開発、または存在しうるとの示唆が行われることがなかった独特で新しい種類の材料である。
【0070】
乾燥GO材料は、面内方向と面に対して垂直の方向との間で高い複屈折率を有する。配向した酸化グラフェン層自体は、驚くべきことに非常に強い凝集力(自己結合、自己重合、および自己架橋の特性)を有する非常に独特で新しい種類の材料である。これらの特性は、従来技術では教示も示唆も行われていない。
【0071】
本発明者らは、これより、グラフェン分散体およびゲルの調製方法(本発明の方法のステップ(a))に関する一部の詳細を示す。GOは、出発黒鉛材料の粉末またはフィラメントを、反応容器中の酸化性液体媒体(たとえば硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物)中に浸漬することによって得ることができる。出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0072】
出発黒鉛粉末またはフィラメントを酸化性液体媒体中で混合すると、得られるスラリーは不均一懸濁液であり、暗く不透明に見える。反応温度において十分な長さの時間(室温、20~25℃で4~120時間)、黒鉛の酸化が進行すると、得られる材料は、淡緑色で黄色がかって見える懸濁液に最終的になりうるが、依然として不透明のままである。酸化の程度が十分高く(たとえば20重量%~50重量%の間、好ましくは30%~50%の間の酸素含有量を有する)、すべての元のグラフェン面が完全に酸化し、剥離して、それぞれの酸化したグラフェン面(ここで、酸化グラフェンシートまたは分子)が液体媒体の分子で取り囲まれる程度まで分離すると、GOゲルが得られる。このGOゲルは、光学的に半透明で、実質的に均一な溶液であり、不均一な懸濁液とは対照的である。
【0073】
このGO懸濁液またはGOゲルは、典型的にはある程度過剰量の酸を含有し、有利にはpH値を増加させるために(好ましくは>4.0)、ある程度の酸希釈処理を行うことができる。GO懸濁液(分散体)は、好ましくは液体媒体中に分散した少なくとも1重量%のGOシートを含有し、より好ましくは少なくとも3重量%、および最も好ましくは少なくとも5重量%含有する。液晶相の形成に十分な量のGOシートを有すると有利となる。本発明者らは、驚くべきことに、一般に使用されるキャスティングまたはコーティングプロセスによって生じる剪断応力の影響下で容易に配向する傾向が、液晶状態のGOシートが最も高いことを確認した。
【0074】
ステップ(d)でGO層が受ける最高または最終の熱処理温度(HTT)は、4つの別個のHTTレジームに分割することができる:
レジーム1(55~200℃):この温度範囲内で(エージング後および熱還元レジーム)、GO層は、主として、熱的に誘導される還元反応が行われ、酸素含有量が典型的には20~50%(乾燥時)から約5~6%まで減少する。この処理によって、グラフェン間隔が約0.6~1.2nm(乾燥時)から約0.4nmまで減少し、GOフィルムの面内熱伝導率が(後の導体材料の含浸なしの場合)約100W/mKから450W/mKまで、約200W/mKから650W/mKまで(導体材料の含浸あり)増加する。このような低い温度範囲でさえも、ある程度のエッジ間化学的連結が起こる。GO分子は十分に配向したままとなるが、GO間隔は比較的大きいままとなる(0.4nm以上)。多くのO含有官能基が残存する。
【0075】
レジーム2(200℃~1,000℃):この活性化学的連結レジームでは、隣接するGOシートまたはGO分子の間で広範囲の化学的結合、重合、および架橋が起こる。化学的連結後に酸素含有量は典型的には0.7%(<<1%)まで減少し、結果としてグラフェン間隔は約0.345nmまで減少する。これは、ある程度の初期黒鉛化がこのような低温で既に開始していることを示しており、黒鉛化を開始するために典型的には2,500℃の高温が必要となる従来の黒鉛化可能な材料(炭化ポリイミドフィルムなど)とは明らかに対照的である。このことは、本発明の黒鉛フィルムおよびその製造方法の別の明確な特徴である。これらの化学的連結反応によって、熱的に還元されたフィルムの面内熱伝導率が800~1,200W/mKまで増加し、および/または面内電気伝導率は3,000~4,000S/cmまで増加する。1.0~10重量%の導体材料を含浸させると、フィルムは典型的には900~1,400W/mKの熱伝導率、および/または4,000~5,000S/cmへの面内電気伝導率を示す。
【0076】
レジーム3(1,000~2,500℃):この秩序化および再黒鉛化レジームでは、広範囲の黒鉛化またはグラフェン面の合体が起こって、顕著に改善された程度で構造秩序化が起こる。結果として、酸素含有量は典型的には0.01%まで減少し、グラフェン間隔は約0.337nmまで減少する(実際のHTTおよび時間の長さによって1%から約80%の黒鉛化度が実現される)。改善された程度での秩序化は、面内熱伝導率の>1,200~1,500W/mKまでの増加、および/または面内電気伝導率の5,000~7,000S/cmまでの増加によっても反映される。1.0~10重量%の導体材料を含浸させると、フィルムは典型的には1,350~1,600W/mKの熱伝導率、および/または5,000~10,000S/cmへの面内電気伝導率を示す。
【0077】
レジーム4(2,500~3,200℃):この再結晶化および完成レジームでは、結晶粒界および他の欠陥の広範囲の移動および除去が起こり、その結果、GO懸濁液の製造のための出発黒鉛粒子の元の結晶粒度よりも数桁大きくなりうる巨大な結晶粒を有するほぼ完全な単結晶または多結晶のグラフェン結晶が形成される。酸素含有量は実質的になくなり、典型的には0.001%以下である。グラフェン間隔は約0.3354nmまで減少し(80%~約100%の黒鉛化度)、完全な黒鉛単結晶の値に相当する。非常に興味深いことに、グラフェン多結晶は、すべてのグラフェン面が密接に充填されて結合し、すべての面が1方向に沿って配列し、完全な配向となる。このように完全に配向した構造は、超高温(3,400℃)で超高圧下(300Kg/cm)に同時に熱分解黒鉛を曝露することによって製造されたHOPFでさえも得られていない。高配向グラフェン構造によって、はるかに低い温度および周囲(またはわずかに高い圧縮)圧力を用いて、このような最高の完成度を実現できる。このように得られた構造は、1,500~1,700W/mKとなる面内熱伝導率、および13,000~17,000S/cmの範囲までの面内電気伝導率を示す。1.0~10重量%の導体材料を含浸させると、フィルムは典型的には1,600~1,750W/mKの熱伝導率、および/または15,000~20,000S/cmへの面内電気伝導率を示す。
【0078】
少なくとも第1のレジーム(典型的には、温度が決して200℃を超えない場合にこの温度範囲で1~24時間を要する)に、およびより一般的には最初の2つのレジーム(1~4時間が好ましい)、さらにより一般的には最初の3つのレジーム(好ましくはレジーム3で0.5~2.0時間)、最も一般的には4つすべてのレジーム(最高伝導率を実現するためには0.2~1時間のレジーム4を実施することができる)に及ぶ温度プログラムで、高配向酸化グラフェン層の熱処理を行うことができる。
【0079】
CuKcv放射線を備えたX線回折計を用いてX線回折パターンを得た。回折ピークのシフトおよび広がりは、ケイ素粉末標準物質を用いて較正した。黒鉛化度gはX線パターンからMeringの式、d002=0.3354g+0.344(1-g)(式中、d002は、黒鉛またはグラフェン結晶のnmの単位での層間隔である)を用いて計算した。この式は、d002が約0.3440nm以下である場合にのみ有効である。d002が0.3440nmを超える黒鉛フィルムは、グラフェン間隔を増加させるスペーサーとして機能する酸素含有官能基(グラフェン分子面の表面上の-OH、>O、および-COOHなど)の存在を反映している。
【0080】
本発明の黒鉛フィルムおよび従来の黒鉛結晶の秩序度を特徴付けるために使用できる別の構造指標の1つは、(002)または(004)反射のロッキングカーブ(X線回折強度)の半値全幅によって表される「モザイクスプレッド」である。この秩序度によって、黒鉛またはグラフェンの結晶サイズ(または結晶粒度)、結晶粒界およびその他の欠陥の量、ならびに好ましい結晶粒配向の程度が特徴付けられる。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特徴とする。本発明者らのほとんどの黒鉛フィルムは、この0.2~0.4の範囲内のモザイクスプレッド値を有する(2,500℃以上の熱処理温度(HTT)および引き続く圧縮を用いて製造した場合)。しかし、一部の値は、HTTが1,000~2,500℃の間の場合に0.4~0.7の範囲内であり、HTTが200~1,000℃の間の場合に0.7~1.0の範囲内である。同じHTTの場合、モザイクスプレッド値は、黒鉛フィルムに最大約10重量%の導体材料を含浸させる場合には実質的に変化しないままであり、それを超えると、この値は導体の比率とともに増加する。導体の比率が高すぎると、グラフェン領域の配列がより困難となる傾向があると思われる。
【0081】
ステップ(a)のより詳細を以下に記載する:酸化グラフェン懸濁液は、反応容器中で反応温度において、残存する液体中に分散したGOシートを得るのに十分な時間の長さで、黒鉛材料(粉末または繊維の形態)を酸化性液体中に浸漬して、反応性スラリーを形成することによって調製することができる。典型的には、この残留液体は、酸(たとえば硫酸)および酸化剤(たとえば過マンガン酸カリウムまたは過酸化水素)の混合物である。次にこの残留液体を水および/またはアルコールで洗浄し置換することで、ばらばらのGOシート(単層または多層GO)が流体中に分散するGO分散体を形成する。この分散体は、液体媒体中に懸濁したばらばらのGOシートの不均一懸濁液であり、光学的に不透明で、暗色(比較的低い酸化の程度)または淡緑色および黄色がかった色(酸化の程度が高い場合)に見える。
【0082】
ここで、GOシートが十分な量の酸素含有官能基を含有し、得られる分散体(懸濁液またはスラリー)に対して機械的剪断または超音波処理を行って、水および/またはアルコールまたはその他の極性溶媒中に溶解した(単なる分散ではない)個別のGOシートまたは分子が形成される場合に、すべての個別のGO分子が液体媒体の分子で取り囲まれる「GOゲル」と呼ばれる材料状態に到達することができる。GOゲルは、半透明であり、認識可能なばらばらのGOまたはグラフェンシートを視覚的に見分けることができない均一な溶液に見える。有用な出発黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、中間相炭素、中間相ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、またはそれらの組合せが挙げられる。酸化反応が必要な程度まで進行し、個別のGOシートが完全に分離すると(この段階で、グラフェン面およびエッジは多数の酸素含有基で修飾される)、光学的に透明または半透明の溶液が形成され、これがGOゲルである。
【0083】
好ましくは、このようなGO分散体中のGOシートまたはこのようなGOゲル中のGO分子は、1重量%~15重量%の量で存在するが、それよりも多いまたは少ない場合もある。より好ましくは、GOシートは懸濁液中に2重量%~10重量%である。最も好ましくは、GOシートの量は、分散用液体中で液晶相を形成するのに十分な量である。GOシートは、典型的には5重量%~50重量%、より典型的には10%~50%、最も典型的には20重量%~46重量%の範囲内の酸素含有量を有する。
【0084】
上記の特徴は、以下にさらに記載され、詳細に説明される:図5(B)に示されるように、黒鉛粒子(たとえば100)は典型的には複数の黒鉛微結晶または結晶粒から構成される。黒鉛微結晶は、炭素原子の六角形の網目構造の層の面から構成される。六角形に配列した炭素原子のこれらの層の面は、実質的に平坦であり、個別の微結晶中で互いに実質的に平行および等距離となるように配向または配列する。グラフェン層または底面と一般に呼ばれる六角形構造の炭素原子のこれらの層は、弱いファンデルワールス力によってそれらの厚さ方向(結晶学的c軸方向)で互いに弱く結合しており、これらのグラフェン層のグループは微結晶中で配列している。黒鉛微結晶構造は、2つの軸または方向のc軸方向とa軸(またはb軸)方向とに関して通常は特徴付けられる。c軸は底面に対して垂直の方向である。a軸またはb軸は底面に対して平行(c軸方向に対して垂直)の方向である。
【0085】
高秩序黒鉛粒子は、結晶学的a軸方向に沿ったLの長さ、結晶学的b軸方向に沿ったLの幅、および結晶学的c軸方向に沿った厚さLを有する相当なサイズの微結晶からなることができる。微結晶の構成グラフェン面は、互いに対して高度に配列または配向しており、したがって、これらの異方性構造によって、方向性の高い多くの性質が生じる。たとえば、微結晶の熱伝導率および電気伝導率は、面方向(a軸またはb軸方向)に沿っては高いが、垂直方向(c軸)では比較的低い。図5(B)の左上部分に示されるように、黒鉛粒子中の異なる微結晶は、典型的には異なる方向に配向しており、したがって、多微結晶の黒鉛粒子の特定の性質は、すべての構成微結晶の方向での平均値となる。
【0086】
平行のグラフェン層を維持する弱いファンデルワールス力のため、天然黒鉛を処理することよって、グラフェン層間の間隔をかなりの程度で広げることができ、それによってc軸方向で顕著に膨張することで、炭素層の層状の性質が実質的に維持される膨張黒鉛構造を形成することができる。可撓性黒鉛の製造方法は当技術分野において周知である。一般に、天然黒鉛のフレーク(たとえば図5(B)中の100)は、酸溶液中でインターカレーションが起こって、黒鉛インターカレーション化合物(GIC、102)が生成される。GICは、洗浄され、乾燥され、次に高温に短時間曝露することによって剥離する。これによってフレークには、黒鉛のc軸方向で元の寸法の80~300倍まで膨張または剥離が起こる。剥離黒鉛フレークは、外観が虫状であり、したがって一般にワーム104と呼ばれる。非常に膨張したこれらの黒鉛フレークのワームからは、バインダーを使用せずに、ほとんどの用途で約0.04~2.0g/cmの典型的な密度を有する、膨張黒鉛の凝集または一体化したシート、たとえばウェブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マットなど(典型的には「可撓性黒鉛」106と呼ばれる)を形成することができる。
【0087】
図5(A)の左上部分は、可撓性黒鉛箔と樹脂を含浸させた可撓性黒鉛複合材料との製造に使用される従来技術の方法を示すフローチャートを示している。これらの方法は、典型的には黒鉛粒子20(たとえば、天然黒鉛または合成黒鉛)にインターカラント(典型的には強酸または酸混合物)をインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物22(GIC)を得ることから開始する。水で洗浄して過剰の酸を除去した後、GICは「膨張性黒鉛」となる。次にGICまたは膨張性黒鉛を高温環境(たとえば、800~1,050℃の範囲内の温度にあらかじめ設定された管状炉中)に短時間(典型的には15秒~2分)曝露する。この熱処理によって、黒鉛がそのc軸方向に30倍から数百倍まで膨張して、ワーム状の虫のような構造24(黒鉛ワーム)を得ることができ、これは剥離したが分離していない黒鉛フレークを含有し、これらの相互接続したフレークの間に介在する大きな細孔を有する。黒鉛ワームの一例を図6(A)中に示している。
【0088】
従来技術の方法の1つでは、剥離黒鉛(または黒鉛ワーム材料)は、カレンダー加工またはロールプレス技術を用いて再圧縮されて、可撓性黒鉛箔(図5(A)中の26または図5(B)中の106)が得られ、これらは典型的には100~300μmの厚さである。可撓性黒鉛箔の断面のSEM画像が図6(B)中に示され、可撓性黒鉛箔表面とは平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークが示されており、多くの欠陥および不完全部分が存在する。
【0089】
主として、これらの黒鉛フレークの誤配向および欠陥の存在のために、市販の可撓性黒鉛箔は、通常は、面内電気伝導率が1,000~3,000S/cmであり、面貫通方向(厚さ方向またはZ方向)の電気伝導率が15~30S/cmであり、面内熱伝導率が140~300W/mKであり、面貫通方向の熱伝導率が約10~30W/mKである。これらの欠陥および誤配向は、低い機械的強度の原因にもなる(たとえば欠陥は、亀裂が優先的に開始する潜在的な応力集中部位となる)。これらの性質は多くの温度管理用途には不十分であり、本発明はこれらの問題に対処するために構成される。
【0090】
別の従来技術の方法の1つでは、剥離黒鉛ワーム24に樹脂を含浸させ、次に圧縮し、硬化させて、可撓性黒鉛複合材料28を形成することができ、これも通常は低強度である。さらに、樹脂を含浸させると、黒鉛ワームの電気伝導率および熱伝導率は2桁の大きさで低下しうる。
【0091】
あるいは、剥離黒鉛に対して、高強度エアジェットミル、高強度ボールミル、または超音波装置を用いて高強度の機械的剪断/分離処理を行って、すべてのグラフェンプレートレットが100nmよりも薄く、大部分が10nmよりも薄く、多くの場合単層グラフェンである(5(B)中に112としても示される)分離したナノグラフェンプレートレット33(NGP)を製造することができる。NGPは、それぞれのシートが炭素原子の2次元六角形構造である1つのグラフェンシートまたは複数のグラフェンシートから構成される。
【0092】
さらにあるいは、低強度剪断を用いると、黒鉛ワームは、>100nmの厚さを有するいわゆる膨張黒鉛フレーク(図5(B)中の108)に分離する傾向にある。紙またはマットの製造方法を用いて、これらのフレークから黒鉛紙またはマット106を形成することができる。この膨張黒鉛紙またはマット106は、ばらばらのフレークの間に欠陥、中断、および誤配向を有するばらばらのフレークの単純な凝集体または積層体である。
【0093】
NGPの形状および配向を画定する目的で、NGPは、長さ(最大寸法)、幅(2番目に大きい寸法)、および厚さを有すると記載される。この厚さは最小寸法であり、本出願では100nm以下、好ましくは10nm未満である。プレートレットがほぼ円形である場合、長さおよび幅は直径として記載される。本明細書で定義されるNGPでは、長さおよび幅の両方は1μm未満となりうるが、200μmを超える場合もある。
【0094】
フィルムまたは紙の製造方法を用いて、多量のNGP材料(単層および/または数層グラフェンまたは酸化グラフェンのばらばらのシート/プレートレットを含む、図5(A)中の33)から、グラフェンフィルム/紙(図5(A)中の34または図5(B)中の114)を製造することができる。図7(B)は、製紙プロセスを用いてばらばらのグラフェンシートから作製したグラフェン紙/フィルムの断面のSEM画像を示している。この画像は、折り畳まれ、または中断された(一体化していない)多くのばらばらのグラフェンシートの存在を示しており、プレートレット配向の大部分はフィルム/紙の表面と平行ではなく、多くの欠陥または不完全部分が存在する。NGP凝集体は、密接に充填されている場合でさえも、フィルムまたは紙がキャストされて10μm未満の厚さを有するシートに強くプレスされている場合にのみ、1,000W/mKを超える熱伝導率を示す。多くの電子デバイス中のヒートスプレッダーは、通常、10μmよりは厚いが35μmよりは薄いことが要求される。
【0095】
別のグラフェン関連製品の1つは、酸化グラフェンゲル21(図5(A))である。このGOゲルは、粉末または繊維の形態の黒鉛材料20を、反応容器中の強酸化性液体中に浸漬して懸濁液またはスラリーを形成することによって得られ、これは初期には光学的に不透明で暗色である。この光学的不透明性は、酸化反応の開始時のばらばらの黒鉛フレーク、および後の段階のばらばらの酸化グラフェンフレークが、可視波長を散乱および/または吸収し、その結果、不透明で全体的に暗色の流体材料となることを反映している。黒鉛粉末と酸化剤との間の反応が十分に高い反応温度で十分な長さの時間進行することができ、得られるすべてのGOシートが完全に分離すると、この不透明懸濁液は褐色で、典型的には半透明または透明の溶液に変化し、この段階ではこれは、識別可能なばらばらの黒鉛フレークまたは酸化黒鉛プレートレットを含有しない「酸化グラフェンゲル」(図5(A)中の21)と呼ばれる均一流体である。本発明のリバースロールコーティングを用いて供給され堆積される場合、GOゲルの分子配向が起こって高配向GO35の層が形成され、これを熱処理して黒鉛フィルム37にすることができる。
【0096】
この場合も、典型的には、この酸化グラフェンゲルは、光学的に透明または半透明であり、内部に分散した黒鉛、グラフェン、または酸化グラフェンの認識可能なばらばらのフレーク/プレートレットを有さずに視覚的に均一である。GOゲル中、GO分子は酸性液体媒体中に均一に「溶解する」。対照的に、ばらばらのグラフェンシートまたは酸化グラフェンシートの流体(たとえば水、有機酸、または溶媒)中の懸濁液は、暗色、黒色、または濃褐色に見え、肉眼でさえも、または低倍率の光学顕微鏡(100倍~1,000倍)を用いて、個別のグラフェンまたは酸化グラフェンシートを認識可能または識別可能である。
【0097】
酸化グラフェン懸濁液またはGOゲルは、X線回折法または電子線回折法によって測定して好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料(たとえば天然黒鉛の粉末)から得られるが、結果として得られる黒鉛フィルムは、同じX線回折法または電子線回折法によって測定して非常に高度の好ましい結晶配向を示す。これは、元の、すなわち出発の黒鉛材料の粒子を構成する六角形炭素原子の構成グラフェン面の、化学的改質、変換、再配列、再配向、連結または架橋、合体および一体化、再黒鉛化、およびさらには再結晶が行われたことを示すさらに別の証拠となる。
【0098】
本発明の方法のステップ(e)の場合、熱処理された黒鉛層の小さな間隙中に含浸させた導体材料は、少なくとも末端間方式で黒鉛層中の未接続のグラフェンシートを結合させる機能を果たす。導体材料は、多孔質黒鉛フィルムの細孔中を満たして、電子およびフォノンの輸送経路の中断部分を埋めることもできる。導体材料は、金属、本来伝導性のポリマー、伝導性有機化合物、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0099】
電気伝導性ポリマーは、鎖に沿った二重結合の完全に共役した配列を有するポリマー鎖から構成される。本来伝導性のポリマーの例は、ポリ(フルオレン)、ポリフェニレン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリナフタレン、ポリ(ピロール)(PPY)、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリアニリン(PANI)、ポリ(チオフェン)(PT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリ(アセチレン)(PAC)、およびポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)である。好ましい本来伝導性のポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリチオフェン、ポリピロール、およびポリアニリンである。本来伝導性のポリマー中の電荷は、生成した電荷担体(たとえば、正孔、電子)によってポリマー分子に沿っておよびポリマー分子間で輸送される。これらの本来伝導性のポリマーの電気伝導率値は典型的には10-4~10+2S/cmの範囲内である。これらの値はあまり高くないが、配向したグラフェンシートまたは結晶粒の黒鉛フィルムの間隙および細孔の中に本来伝導性のポリマーが存在すると、電気伝導率だけではなく、熱伝導率および機械的強度に対しても相乗効果が得られる。
【0100】
これらの伝導性ポリマーは、多孔質黒鉛フィルム中に導入することができる:
(a)含浸させたモノマーのその場重合:モノマーは、多くの場合、粘度が低く、移動度が高く、ステップ(d)で作製された多孔質黒鉛フィルム中への流動および浸透が起こりやすい。
(b)ポリマー-溶媒溶液の含浸の後、溶媒の除去:これらのポリマーは、典型的には、溶液を調製するために水または有機溶媒に対して可能性となるいくつかの種類に調製することができる。多孔質黒鉛フィルムの間隙および細孔の中に溶液を含浸させた後、次に水または有機溶媒が除去される。ポリマーが析出して、近傍のグラフェンシートに結合する。
(c)溶融含浸:ある種のポリマーは溶融加工可能であり、ポリマー溶融物を細孔および間隙の中に浸透させることができる。
【0101】
ある実施形態では、導体材料は、コールタールピッチ、コールタールピッチの誘導体、石油ピッチ、石油タールピッチの誘導体、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、多環式芳香族化合物、ペンタセン、アントラセン、ルブレン、またはそれらの組合せから選択される伝導性有機化合物を含む。これらの化合物は、典型的には200℃未満の温度、またはさらには室温未満で液体状態となる。黒鉛フィルムの細孔および間隙は、液体の含浸または物理的蒸気浸透によってこのような化合物で満たされうる。
【0102】
導体材料は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Au、Pt、W、Al、Sn、In、Pb、Bi、それらの合金、またはそれらの混合物から選択される金属を含むことができる。任意の遷移金属を使用できるが、好ましくは金属は、Cu、Al、Ti、Sn、Ag、Au、Fe、またはそれらの合金から選択される。
【0103】
多孔質黒鉛フィルムに金属または金属合金を含浸させるステップは、電気化学的堆積もしくはめっき、パルス電力堆積、溶液含浸、電気泳動堆積、無電解めっきもしくは堆積、金属溶融含浸、金属前駆体含浸、化学堆積、物理蒸着、物理的蒸気浸透、化学蒸着、化学的蒸気浸透、スパッタリング、またはそれらの組合せの作業を含むことができる。これらの個別の作業自体は、当技術分野において周知である。たとえば、電気化学的堆積の場合、電気化学チャンバー(たとえば単に電解質を含む単純な浴)中で多孔質黒鉛フィルムを一方の端子(たとえば負極)に接続し、所望の金属片(たとえばCu、Zn、またはNi)を他方の端子(たとえば正極)に接続することによってDC電流を印加することができる。
【実施例
【0104】
実施例1:ばらばらの酸化ナノグラフェンプレートレット(NGP)またはGOシートの調製
平均直径が12μmの黒鉛短繊維および天然黒鉛粒子を出発物質として別々に使用し、この出発物質を、濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物(化学的インターカラントおよび酸化剤として)中に浸漬して、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)を調製した。出発物質は、最初に真空オーブン中80℃で24時間乾燥させた。次に、濃硫酸、発煙硝酸、および過マンガン酸カリウム(4:1:0.05の重量比の)の混合物を、適切な冷却および撹拌下で、繊維の断片を入れた三口フラスコにゆっくり加えた。5~16時間の反応後、酸で処理された黒鉛繊維または天然黒鉛粒子を濾過し、溶液のpHレベルが6に到達するまで脱イオン水で十分洗浄した。100℃で終夜乾燥させた後、得られた黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛繊維を水および/またはアルコール中に再分散させてスラリーを形成した。
【0105】
ある試料では、500グラムの酸化黒鉛繊維を15:85の比率のアルコールおよび蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と混合して、スラリー材料を得た。次に、混合物スラリーに、種々の長さの時間で200Wの出力の超音波照射を行った。20分の音波処理後、GO繊維は、効果的に剥離して、酸素含有量が約23重量%~31重量%の薄い酸化グラフェンシートに分離した。
【0106】
次にリバースロール転写手順を行って、得られた懸濁液から、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に1~500μmの厚さのGOの薄いフィルムおよび厚いフィルムを作製した。比較の目的で、同等の厚さ範囲のGO層を、ドロップキャスティング、スロットダイ、およびコンマコーティング技術によっても作製した。
【0107】
黒鉛フィルムを作製する場合、種々のGOフィルムに対して、典型的には1~8時間で80~350℃の初期熱還元温度を伴う熱処理を行い、続いて700~2,850℃の最終熱処理温度(HTT)における熱処理を行った。熱処理フィルムを図7(A)に示す。
【0108】
実施例2:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの単層グラフェンシートの作製
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、China Steel Chemical Co.,Kaohsiung,Taiwanから供給された。この材料は、密度が約2.24g/cmでありメジアン粒度が約16μmである。MCMB(10グラム)に酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウム)を48~96時間インターカレートさせた。反応終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。インターカレートさせたMCMBをHClの5%溶液中で繰り返し洗浄して、硫酸イオンの大部分を除去した。次に、濾液のpHが4.5以上になるまで、試料の脱イオン水による洗浄を繰り返した。次に、得られたスラリーに対して10~100分の超音波処理を行って、GO懸濁液を得た。TEMおよび原子間力顕微鏡による研究では、酸化処理が72時間を超える場合はほとんどのGOシートが単層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間の場合は2または3層グラフェンであることが示される。
【0109】
GOシートは、48~96時間の酸化処理時間の場合、約35重量%~47重量%の酸素の比率を有する。次に、リバースロール転写コーティング、および別にコンマコーティング手順を用いて、PETポリマー表面上に懸濁液をコーティングして、配向GOフィルムを作製した。得られたGOフィルムは、液体を除去した後に、約0.5~500μmで変動しうる厚さを有する。
【0110】
黒鉛フィルムを作製する場合、GOフィルムは、次に典型的には80~500℃の初期熱還元温度で1~5時間を伴う熱処理を行い、続いて1,000~2,850℃の第2の温度で熱処理を行った。それぞれ20μmの厚さの2つの一連のフィルムの電気伝導率データを最終熱処理温度の関数としてプロットし、図9に示している。これらのデータは、非常に驚くべきことに、リバースロールコーティングによって作製したGOフィルムは、コンマコーティングによって作製したフィルムと比較すると顕著に高い熱伝導率値が得られることを示している。コンマコーティングおよびリバースロールコーティングで作製した両方の熱フィルムは、可撓性黒鉛箔および対応する還元GO紙よりも伝導率がはるかに高い。
【0111】
実施例3:天然黒鉛からの酸化グラフェン(GO)懸濁液およびGOゲルの調製
4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸ナトリウム、および過マンガン酸カリウムからなる液体酸化剤を用いて30℃で黒鉛フレークを酸化させることによって、酸化黒鉛を調製した。天然黒鉛フレーク(14μmの粒度)を液体酸化剤混合物中に48時間浸漬し分散させると、その懸濁液またはスラリーは、光学的に不透明で暗色に見え、それが維持される。48時間後、反応材料を水で3回洗浄して、少なくとも3.0のpH値に調整した。次に一連のGO-水懸濁液を調整するために最終量の水を加えた。本発明者らは、GOシートが>3%、典型的には5%~15%の重量分率を占める場合に、GOシートが液晶相を形成することを確認した。
【0112】
比較の目的で、本発明者らは、酸化時間を約96時間まで延長することによってもGOゲル試料を調製した。激しい酸化を続けると、48時間の酸化で得られた暗色で不透明の懸濁液は、褐色-黄色がかった溶液に変化し、これをある程度水で洗浄すると半透明になる。
【0113】
リバースロールコーティングおよびスロットダイコーティングの両方を用いて、GO懸濁液またはGOゲルをPETフィルム上に供給してコーティングし、コーティングされたフィルムから液体媒体を除去することによって、本発明者らは乾燥酸化グラフェンの薄いフィルムを得た。次にGOフィルムに対して、典型的には100℃~500℃の第1の温度で1~10時間と、1,000℃~2,850℃の第2の温度で0.5~5時間との熱還元処理を含む種々の熱処理を行った。これらの熱処理を使用し、さらに圧縮応力下で、GOフィルムを黒鉛フィルムに変換させた。いくつかの試料では、GOゲルを40~55℃で24時間エージングした。本発明者らは、予期せぬことに、エージングした試料によって、より高度なGOシート/分子の配向が得られ、必要な熱処理温度がより低くなり、より高度なグラフェン結晶完全性が得られることを確認した。
【0114】
実施例4:ポリアニリン(配向グラフェンシートを互いに結合させるための伝導性バインダーの一例)の調製
典型的な手順の1つにおいて、室温で600mlのメチルエチルケトンが入れられた三角フラスコ中に0.2molのアニリンモノマーを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌した。この溶液に10mlの水およびドーパントとしての0.1molの硫酸を加え、ドーピング補助剤としての10mlのN-メチルピロリジノン(NMP)をさらに加え、30分間撹拌し、0.25molの過硫酸アンモニウム((NH)を加え、次に24時間以上反応させた。溶液の粘度が増加し、それによって沈殿物が生成する場合は、溶液の全重量を基準としてメチルエチルケトンではない5重量%以上の追加の溶媒を加えると、それによって撹拌可能になることに留意されたい)。反応溶液を濾過して、伝導性ポリマー溶液を得た。この伝導性ポリマー溶液を、GOゲル由来の層の熱処理によって作製した多孔質黒鉛フィルムに含浸させるために使用した。含浸後、この黒鉛フィルムは、典型的には圧縮によって、固体の比較的細孔のないフィルムが形成された。
【0115】
実施例5:伝導性ポリアニリンの調製
別の一例において、室温で600mlのメチルエチルケトンが入れられた三角フラスコ中に0.2molのアニリンモノマーを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌した。この溶液に5mlの水および0.25molの過硫酸アンモニウム((NH)を加え、次に48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して、塩基型の伝導性ポリマー溶液を得た。この溶液に0.05molのKMnOをさらに加え、24時間反応させ、次に濾過して、塩基型の伝導性ポリマー溶液を得た。この溶液に0.1molの硫酸をドーパントとして加えた。得られた溶液に10mlのエタノールを加え、24時間以上撹拌した。溶液の粘度が増加し、それによって沈殿物が生成される場合は、溶液の全重量を基準としてメチルエチルケトンではない5重量%以上の追加の溶媒を加えると、それによって撹拌可能になった。この溶液を濾過して、伝導性ポリマー溶液を得た。この伝導性ポリマー溶液を使用して、フィルムを作製し、その電気伝導率を測定した(典型的には50~110S/cm)。同じ溶液を使用して、熱処理されたGOゲルまたはGO分散体層から得られる種々の多孔質黒鉛フィルムに含浸させた。
【0116】
実施例6:伝導性ポリピロールの調製
本来伝導性のポリマーのさらに別の一例では、室温で600mlのメチルエチルケトンが入れられた三角フラスコ中に0.2molのピロールモノマーを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌した。この溶液に10mlの水および0.25molの過硫酸アンモニウム((NH)を加え、48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して、塩基型の伝導性ポリマー溶液を得た。この溶液に10mlのNMPを加え、1時間撹拌し、0.1molの硫酸をドーパントとして加え、さらに24時間撹拌し、次に濾過して伝導性ポリマー溶液を得た(溶液の粘度が増加し、それによって沈殿物が生成される場合は、溶液の全重量を基準としてメチルエチルケトンではない5重量%以上の追加の溶媒を加えると、それによって撹拌可能になった)。構成要素の配向グラフェンシートまたは分子を互いに結合させるための多孔質黒鉛フィルムの含浸に、この伝導性ポリマー溶液を使用した。
【0117】
実施例7:伝導性ポリチオフェンの調製
室温で600mlのメチルエチルケトンが入れられた三角フラスコ中に0.3molのチオフェンモノマーを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌した。この溶液に5mlの水およびドーパントとしての0.1molの硫酸を加えた。この溶液に触媒としての8gの塩化リチウム(LiCl)およびドーピング補助剤としての10mlのNMPを加え、30分間撹拌し、0.3molの過硫酸アンモニウム((NH)を加え、72時間以上反応させた。反応溶液を濾過して、伝導性のポリマー溶液を得た(溶液の粘度が増加し、それによって沈殿物が生成される場合は、溶液の全重量を基準としてメチルエチルケトンではない5重量%以上の追加の溶媒を加えると、それによって撹拌可能になった)。
【0118】
蒸留器を用いて、この伝導性のポリマー溶液を80℃で蒸留して、溶媒および未反応のチオフェンを除去して、溶液を元の重量の1/3まで濃縮した。これとは別に、1/3まで濃縮した伝導性ポリマー溶液に0.05molの過マンガン酸カリウムを酸化剤として加え、24時間反応させ、濾過して、伝導性ポリマー溶液を得た。これらの伝導性ポリマー溶液を使用して、黒鉛フィルム、RGO紙、および可撓性黒鉛シートに含浸させた。
【0119】
実施例8:本来伝導性のポリマーが結合した十分に配列したグラフェンシートから構成される伝導性黒鉛フィルムの作製
水または有機溶媒に対して可溶性となるように本来伝導性のポリマーを合成して、典型的には十分に流動するポリマー溶液を形成することができる。本発明者らは、これらの伝導性ポリマー溶液が、本発明の方法を用いて作製した黒鉛フィルムの細孔中に容易に含浸することができ、これらの溶液が(GOまたはRGOでできた)細孔壁表面を容易にぬらすことも見出した。本発明者らは、伝導性黒鉛フィルムの細孔中にポリマー溶液を含浸させるために、ポリマー溶液浴に出入りさせて黒鉛フィルムを浸すこと、浸漬(ロールツーロール方式で、連続長さの黒鉛フィルムをポリマー溶液浴中に導入し、次に浴から取り出す)、およびポリマー溶液を黒鉛フィルムの表面上に噴霧して溶液を黒鉛フィルムの細孔中に吸い込ませることのいくつかの異なる手順を使用した。あるいは、一部のモノマー(たとえばアニリンおよびピロール)は、電気化学的装置中の電極としてフィルムが使用される場合に、黒鉛フィルムの細孔中で直接電気化学的に重合させることができる。伝導性ポリマーの電気化学的合成は当技術分野において周知である。
【0120】
実施例9:伝導性有機化合物が結合した十分に配列したグラフェンシートから構成される伝導性黒鉛フィルムの作製
調べた伝導性有機化合物としては、コールタールピッチおよびその誘導体、石油ピッチおよびその誘導体、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、多環式芳香族化合物(たとえばナフタレン)、ペンタセン、アントラセン、ならびにルブレンが挙げられる。これらの材料は、典型的には50~500℃の間、より典型的には100~300℃の間の融点を有する。したがって、これらの化学種による黒鉛フィルムの含浸は、ディッピング、浸漬、および噴霧などの液体含浸(溶融含浸または溶液含浸)によって容易に行うことができる。100~3,000℃の温度でGO層を熱処理することによって作製される黒鉛フィルムの場合、これらの有機化合物は、細孔中に容易に浸透して、結果として得られる黒鉛フィルムの細孔壁をぬらす。続いて、含浸させた黒鉛フィルムを250~1,500℃(好ましくは350~1,000℃)の温度で熱処理することで、これらの有機化合物の電気伝導率および熱伝導率を大幅に増加させることができる。
【0121】
実施例10:金属が結合した十分に配列されたグラフェンシートから構成される伝導性フィルムの作製
多孔質黒鉛フィルムの細孔中に金属を含浸させるために、電気化学的堆積もしくはめっき、パルス電力堆積、電気泳動堆積、無電解めっきもしくは堆積、金属溶融含浸(ZnおよびSnなどの低融点の金属の場合により好都合である)、金属前駆体含浸(金属前駆体を含浸させ、次に前駆体を金属に化学的または熱的に変換する)、物理蒸着、物理的蒸気浸透、化学蒸着、化学的蒸気浸透、およびスパッタリングのいくつかの手順を使用することができる。
【0122】
たとえば、精製した硫酸亜鉛(ZnSO)はZnの前駆体であり、硫酸亜鉛を溶液含浸によって細孔中に含浸させ、次に電気分解によってZnに変換することができる。この手順において、硫酸亜鉛溶液は、鉛アノードおよび黒鉛フィルムカソードを含むタンク中の電解質として使用される。アノードとカソードとの間に電流を流すと、還元反応によってカソード上に金属亜鉛がめっきされる。
【0123】
CTAB水溶液中のヒドラジンで塩化第二銅を還元することによって、純金属Cuを(黒鉛フィルムの細孔の内部で)合成した。溶液のpHを最大10に調整するためにアンモニア溶液を使用すること、および覆われた反応室中での還元剤としてヒドラジンを使用することは、純Cuを合成するために重要である。反応溶液は最終的にワインレッド色になり、そのUV/vis吸収スペクトルは、574nmにおける吸収帯を示し、金属Cuが形成されたことが分かった。
【0124】
Cuの浸透は、前駆体として[Cu(OOCC)(L)](L=ビニルトリメチルシランまたはビニルトリエチルシラン)を使用する400~700℃の温度における化学蒸着方法を用いて行うこともできる。前駆体のCu錯体は、Ar雰囲気下で標準的なシュレンク技術を用いて実施した。
【0125】
より高融点金属の一例として、金属含浸を行うために前駆体の浸透および化学変換を使用することができる。たとえば、比較的均一に分散したNi金属膜または粒子を黒鉛フィルムの細孔中に形成するために、超臨界二酸化炭素中の低温(<70℃)における自己触媒プロセスによってニッケロセンの水素化分解を行うことができる。ニッケロセン(NiCp)を前駆体として使用し、Hを還元剤として使用した。ColemanグレードのCOおよび高純度Hをさらに精製せずに使用した。実験は高圧反応器(オートクレーブ)中で行った。
【0126】
典型的な実験の1つでは、70~90mgのNiCpを高圧反応器中に投入した。前駆体の投入後、反応器から空気を除去するために、低圧の新しいCOを使用して70℃で10分間系をパージした。パージ後、高圧シリンジポンプによって高圧COを反応器中に供給した。均一溶液を形成するために、超臨界(sc)CO溶液の温度を、加熱テープによって溶解条件(T=70℃、P=17MPa)で4時間安定させた。NiCpの溶解中、別の清浄で空気を含まない高圧マニホールド容器中に60℃において3.5MPaの圧力でHを供給した。次にこの容器に高圧シリンジポンプを用いて新しいCOを34.5MPaの圧力までさらに供給した。2時間を超えてこのH/scCO溶液をこの条件で維持した後、蒸気高圧反応器中に注入した。H/scCOの注入後、容器中の圧力は34.5MPaから13MPaまで低下し、これより反応器中に供給されたHの量を求めることができた。このH注入プロセスを繰り返して、反応器系中のニッケロセンに対して水素が50~100モル過剰となるようにした。Hの添加後、NiCpを含むscCO溶液は緑色を維持し、反応系を70℃、17MPaで7~8時間静置した。7~8時間後、黒鉛フィルムの細孔中に多量のNiフィルムが堆積した。
【0127】
本発明者らは、溶融状態のZn(融点=419.5℃)およびSn(MP=231.9℃)が、GO層の熱処理によって作製した多孔質黒鉛フィルムの細孔または間隙(グラフェンシートまたは分子の間)の中に容易に浸透することを見出した。
【0128】
実施例11:GOゲルから得られる伝導性黒鉛フィルムの特性決定
種々の段階の熱処理における数種類の乾燥GO層および黒鉛フィルムの内部構造(結晶構造および配向)について調べた。熱処理前の乾燥GOの層、150℃で1時間熱還元したGOフィルム、および黒鉛フィルムのX線回折曲線をそれぞれ図11(A)、図11(B)、および図11(C)に示す。乾燥GO層のおおよそ2θ=12°のピーク(図11(A))は、約0.7nmのグラフェン間隔(d002)に対応する。150℃においてある程度熱処理すると、乾燥GOコンパクトは、22°を中心とするハンプの形成を示し(図11(B))、これはグラフェン間隔の減少過程を開始したことを示しており、化学的連結および秩序化過程の開始を示している。2,500℃の熱処理温度を1時間用いると、d002間隔は約0.336まで減少し、黒鉛単結晶の0.3354nmに近い。
【0129】
スロットダイコーティングされたフィルムおよびリバースロールコーティングされたフィルムでそれぞれ2,750℃および2,500℃の熱処理温度を1時間使用すると、d002間隔は約0.3354nmまで減少し、これは黒鉛単結晶の値と同じである。さらに、高強度の第2回折ピークが2θ=55°で現れ、これは(004)面からのX線回折に相当する(図11(D))。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、すなわちI(004)/I(002)比は、結晶完全性およびグラフェン面の好ましい配向の程度の良好な指標となる。2,800℃未満の温度で熱処理したすべての黒鉛材料で、(004)ピークは、存在しないか比較的弱いかのいずれかであり、I(004)/I(002)比<0.1である。3,000~3,250℃で熱処理した黒鉛材料(たとえば、高配向熱分解黒鉛、HOPG)の場合、I(004)/I(002)比は0.2~0.5の範囲内である。3,000℃のHTTを2時間用いたポリイミド由来のPGの場合の一例を図11(E)に示しており、約0.41のI(004)/I(002)比を示している。対照的に、2,750℃の最終HTTを1時間用いて作製した黒鉛フィルムは、0.78のI(004)/I(002)比および0.21のモザイクスプレッド値を示し、これは非常に好ましい配向の程度の実質的に完全なグラフェン単結晶を示している。
【0130】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線中の(002)反射の半値全幅から得られる。この秩序度の指数によって、黒鉛またはグラフェンの結晶サイズ(または結晶粒度)、結晶粒界およびその他の欠陥の量、ならびに好ましい結晶粒配向の程度が特徴付けられる。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特徴とする。本発明者らのほとんどの黒鉛フィルムは、2,200℃以上(リバースロールコーティング)または2,500℃以上(スロットダイコーティング)の最終熱処理温度を用いて製造した場合に、この0.2~0.4の範囲内のモザイクスプレッド値を有する。
【0131】
調べた10個すべての可撓性黒鉛箔コンパクトのI(004)/I(002)比はすべて<<0.05であり、ほとんどの場合で実質的に存在しないことに留意することができる。真空支援濾過方法を用いて作製したすべてのグラフェン紙/膜試料のI(004)/I(002)比は3,000℃で2時間の熱処理後でさえも、<0.1である。これらの観察から、本発明の黒鉛フィルムは、あらゆる熱分解黒鉛(PG)、可撓性黒鉛(FG)、およびグラフェン/GO/RGOシート/プレートレット(NGP)の従来の紙/フィルム/膜とは根本的に異なる新規で独特な種類の材料であるという認識がさらに確認された。
【0132】
広い温度範囲にわたる種々の温度で熱処理して得られたGO懸濁液由来およびGOゲル由来の両方の黒鉛フィルム試料のグラフェン間隔の値を図12(A)中にまとめている。GO懸濁液由来の単一のグラフェン層の対応する酸素含有量値を図12(B)中に示している。グラフェン間隔と酸素含有量との間の相関を示すため、図12(A)および12(B)中のデータを図12(C)中に再プロットしている。
【0133】
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)のグラフェン層の格子像の写真、ならびに制限視野電子線回折(SAD)、明視野(BF)、および暗視野(DF)の画像も、単一のグラフェン材料の構造を特徴付けるために使用した。フィルムの断面図の測定のため、試料をポリマーマトリックス中に埋め込み、ウルトラミクロトームを用いてスライスし、Arプラズマでエッチングした。
【0134】
図6(A)、図6(A)、および図7(B)の精密な調査および比較によって、黒鉛フィルム中のグラフェン層は互いに実質的に平行に配向することが示されるが、これは可撓性黒鉛箔および酸化グラフェン紙の場合には当てはまらない。黒鉛フィルム中の2つの特定可能な層の間の傾斜角は大部分は5度未満である。対照的に、可撓性黒鉛中には多くの折り畳まれた黒鉛フレーク、ねじれ、および誤配向が存在するため、2つの黒鉛フレークの間の角度の多くは10度を超え、一部は45度の大きさとなる(図6(B))。不良とはならないが、NGP紙中のグラフェンプレートレットの間の誤配向(図7(B))も大きく(平均で>>10~20°)、プレートレット間に多くの間隙が存在する。黒鉛フィルムには間隙が実質的に存在しない。
【0135】
実施例12:GOおよびそれらの導体材料が結合した相当物から得られる伝導性黒鉛フィルムの電気伝導率および熱伝導率
図8(A)は、GOゲル由来の黒鉛フィルム(コンマコーティング、熱処理、および圧縮によって作製)、ポリアナリン(polyanaline)(10重量%のPANi)を含浸させて同様に作製した黒鉛フィルム、RGOプレートレット紙、およびPANiを含浸させたRGOプレートレット紙の電気伝導率値を示しており、これらすべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。明らかに、他の場合にはばらばらのグラフェンシートまたは分子の間の間隙を満たす伝導性バインダー(PANi)を使用すると、結果として得られる導体材料が結合した黒鉛フィルムは、PANiを含浸させていない黒鉛フィルムよりもはるかに高い電気伝導率を示している。この差は200S/cmの大きさである。これは非常に顕著で予期せぬものであるが、その理由は、このPANiの電気伝導率(単独で薄いフィルムにキャスティングした場合)はわずか10~150S/cmの範囲内の電気伝導率を示し、さらに黒鉛フィルム自体の電気伝導率は14,000S/cmであるからである。複合材料の分野で一般に使用される周知の「複合則」によると、このPANiを充填した黒鉛フィルムの理論的電気伝導率値は、14,000×0.90+150×0.10=12,615S/cm以下になると予測される。この予測に反して、実験値は約16,000S/cmである。この驚くべき結果は、PANi鎖がグラフェンシート/分子の間の間隙を満たし、1つのグラフェンシート/分子中の電子がPANiを通って、跳ね返ることなく、近傍のグラフェンシート/分子まで到達できるという見解によるものと思われる。これによって、電子の平均自由行程が効果的に増加する(したがって、効果的な移動度が得られる)。この相乗効果は、まさに有益で予期せぬものである。
【0136】
プリスティングラフェンまたは酸化グラフェンシート/プレートレットからの紙または膜の作製に関するすべての従来技術の研究は、明確に異なる処理経路に従っており、それによってばらばらのグラフェン/GO/RGOプレートレットの単純な凝集体または積層体が得られる。これらの単純な凝集体または積層体は、多くの折り畳まれた黒鉛フレーク、ねじれ、間隙、および誤配向を示し、その結果として不十分な熱伝導率、低い電気伝導率、および弱い機械的強度が得られる。図8(A)中に示されるように、2,800℃の高い熱処理温度でも、RGOプレートレット紙のシートは、4,000S/cm未満の熱伝導率(PANilを含浸させたものまたは含浸させていないものの両方の場合)を示し、GO由来の黒鉛のフィルムの>14,000S/cmおよびPANiが結合した種類のものの>16,000S/cmよりもはるかに低い。これらのデータは、特定の熱処理温度で実現可能な電気伝導率に関して、コーティング/キャスティング、引き続く熱処理によって製造された黒鉛フィルム構造、およびそれらの伝導性バインダーが結合した種類のものの優位性を明確に示している。
【0137】
同様の相乗効果は、金属が結合したグラフェン系黒鉛フィルムでも確認される。たとえば、図8(B)は、GOゲル由来の黒鉛フィルム、3%のSnを浸透させて同様に作製した黒鉛フィルム(実験値)、および複合則の予測に基づく値の電気伝導率値を示しており、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。これらの実験値のすべては、複合則の予測に基づく値よりもはるかに大きい。
【0138】
図8(C)は、スロットダイコーティングしたGOゲル由来の黒鉛フィルム、それらのSnを含浸させた相当物(10重量%のSn)、可撓性黒鉛(FG)箔、およびロールプレス前に10%のSnを含浸させたFG箔の熱伝導率を示しており、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされている。これらすべての試料は同等の厚さ値を有する。これらのデータも同様に、非常に広い最終熱処理温度範囲(未処理の25℃からほぼ3,000℃まで)にわたって、導体が結合した高配向グラフェンシート/分子から構成される本発明の黒鉛フィルムの驚くべき優位性を示している。
【0139】
後の導体含浸が行われる場合、通常は実現のために2,500~3,200℃の処理を必要とする値(たとえば1,400~1,600W/mK)に黒鉛フィルムの熱伝導率を到達させるために、1,500℃の低い熱処理温度で十分なことは、注目すべき重要なことである。
【0140】
対照的に、可撓性黒鉛(FG)シートは、最終熱処理温度とは無関係に、非常に低い熱伝導率値を示し、FGシートに導体を含浸させても、これらのシートの熱伝導率の改善は制限される。
【0141】
本発明の黒鉛フィルムの熱伝導率に対する導体材料バインダーのさらに驚くべき相乗効果を図9および図10にまとめている。これらは広範で詳細な研究の結果である。図9は、GO分散体由来の黒鉛フィルム(コンマコーティング)、15重量%のCuを含浸させたGO分散体由来の黒鉛フィルム(実験)、および複合則の予測による値の熱伝導率値を示しており、すべてが最終熱処理温度の関数としてプロットされ、Cuのデータ線は基準線としてプロットしている(Cu箔の熱処理は行わなかった)。図10は、GO分散体由来の黒鉛フィルム、5重量%のポリアニリンを含浸させたGO分散体由来の黒鉛フィルム(実験)、および複合則の予測による値の熱伝導率値を示しており、すべてが黒鉛フィルム最終熱処理温度の関数としてプロットされている。すべての実験値が、理論的に予測される値よりもはるかに大きい。
【0142】
実施例13:種々の酸化グラフェン由来の黒鉛フィルムおよびそれらの導体が結合した種類のものの引張強度
一連のリバースロールコーティングされたGOゲル由来の黒鉛フィルム、それらの金属を含浸させた相当物、RGO紙、および金属を含浸させたRGO紙を作製した。これらの材料の引張特性を求めるために万能試験機を使用した。これらの試料の引張弾性率および引張強度をある範囲の熱処理温度にわたってプロットしている。図13(A)は、GO由来の黒鉛フィルム、それらのZnを含浸させた相当物(5重量%のZn)、RGOプレートレット紙、および5%のZnを含浸させたRGO紙の引張弾性率を示している。図13(B)は、GO由来の黒鉛フィルム、それらのZnを含浸させた相当物(5重量%のZn)、RGOプレートレット紙、および5%のZnを含浸させたRGO紙の対応する引張強度を示している。
【0143】
これらのデータは、最終熱処理温度を700℃から2,800℃まで上昇させると、RGO紙の引張強度が23MPaから52MPaまで増加することを示している。対照的に、コンマコーティングしたGOゲル由来の黒鉛フィルムの引張強度は、同じ熱処理温度にわたって28MPaから93MPaまで大幅に増加する。最も顕著には、Znを含浸させた黒鉛フィルムの引張強度は、38MPaから152MPaまで大幅に増加する。ヤング率に関しても同様の傾向が確認される。これらの結果は非常に顕著であり、GOゲル由来のGO層が、エッジ間方式で別の板状分子と化学的連結および合体が可能な、非常に生きた活性のGOシートまたは分子を熱処理中に含み(図7(C)および図7(D)に示される)、一方、従来のRGO紙中のグラフェンプレートレットは、実質的に「死んだ」プレートレットであるという見解をさらに反映している。明らかに、GO由来の黒鉛フィルムおよびその導体が結合した相当物は、それら自体が2つの新しい種類の材料である。
【0144】
実施例14:GO層の厚さの影響
図14は、GO層のコンマコーティングおよびリバースロールコーティングを行い、1,500℃の最終熱処理温度で処理し(続いてCu含浸、またはCu含浸なし)、圧縮して作製した種々の黒鉛フィルムの熱伝導率を示しており、すべてが個別の乾燥GO層の厚さ値の関数としてプロットされている。これらの結果は、ロール転写コーティング(より高度なグラフェンシート配向を得ることができる)によって製造された黒鉛フィルムは、層の厚さに対する依存性が比較的低いことを示している。(非常に顕著には、少量の金属の含浸によって、厚いフィルム(200μm、HTT=1,500℃)で非常に高い熱伝導率(1,350~1,600W/mK)に到達可能となり、この値に到達するためには、薄いポリイミド由来の熱フィルム(たとえば25μm)の場合でさえも2,500℃のHTTが必要である。
【0145】
実施例15:伝導性バインダー量の影響
図15は、リバースロールコーティングされ、1,000℃の最終熱処理温度で熱処理され、最終厚さが約50μmである層から作製した黒鉛フィルムの熱伝導率を示しており、含浸させた導体バインダー(ポリピロール、ポリチオフェン、およびCu)の比率の関数としてプロットされている。すべての例において、相乗効果(直線からのずれ)が確認される。最大の熱伝導率値は、導体バインダー重量分率が20%~35%の間の場合に得られ、それを超えると導体材料(すべてグラフェンよりも熱伝導率が低い)の効果が支配的となり始める。
【0146】
実施例16:グラフェン分散体から得られる別の導体が結合した黒鉛フィルムの性質
種々の導体材料が結合した高配向グラフェンシート(プリスティングラフェンおよびRGO)から構成される黒鉛フィルムの熱伝導率に関するさらなるデータを以下の表1にまとめている。これらのデータは、黒鉛材料への熱伝導性の付与における本発明の黒鉛フィルムの驚くべき優位性をさらに示している。
【0147】
【0148】
要約すると、コーティングまたはキャスティングを行い、続いて熱処理し、導体バインダーを含浸させて作製した酸化グラフェン懸濁液由来またはGOゲル由来の黒鉛フィルムは、以下の特性および利点を有する:
(1)本発明の黒鉛フィルム(薄いまたは厚い)は、典型的には大きな結晶粒を有する多結晶である一体化された構造である。黒鉛フィルムは、すべてが互いに実質的に平行に配向しており、幅が広いまたは長い化学結合したグラフェン面を有する。言い換えると、すべての結晶粒中のすべての構成グラフェン面の結晶学的c軸方向は、実質的に同じ方向を向いている。
【0149】
(2)本発明の黒鉛フィルムは、以前に元のGO懸濁液中には存在したばらばらのフレークおよびプレートレットを含有しない、完全に一体化し、実質的に空隙を含まない構造(金属の含浸および圧縮後)である。対照的に、剥離黒鉛ワーム(すなわち、可撓性黒鉛箔)の紙状シート、膨張黒鉛フレークのマット(各フレークの厚さは>100nm)、ならびにグラフェンまたはGOプレートレットの紙または膜(各プレートレットは<100nm)は、複数のばらばらの黒鉛フレークまたはグラフェン、GO、もしくはRGOのばらばらのプレートレットの単純な結合していない凝集体/積層体である。これらの紙/膜/マット中のフレークまたはプレートレットは、配向が不十分であり、多数のねじれ、曲がり、およびしわを有する。これらの紙/膜/マット中には多くの空隙または他の欠陥が存在する。伝導性バインダー材料を含浸させた後でさえも、電気伝導率および熱伝導率の改善は限定されたままである。
【0150】
(3)従来方法では、ばらばらのグラフェンシート(<<100nm、典型的には<10nm)または黒鉛粒子の元の構造を構成する膨張黒鉛フレーク(>100nm)は、膨張、剥離、および分離の処理によって得ることができた。これらのばらばらのシート/フレークを単純に混合し再圧縮してバルク物体にすることによって、うまくいけば圧縮によりこれらのシート/フレークを一方向に沿って配向させようと試みることができた。しかし、これらの従来方法では、得られる凝集体の構成フレークまたはシートは、補助なしの肉眼でさえも、または低倍率の光学顕微鏡(100倍~1000倍)下で、容易に識別でき、または明確に確認できるばらばらのフレーク/シート/プレートレットとして残存する。
【0151】
対照的に、本発明の黒鉛フィルムの作製は、元のグラフェン面の実質的にすべてが酸化され互いに分離して、高反応性官能基(たとえば-OH、>O、および-COOH)をエッジに有し、主としてグラフェン面上にも有する個別の粒子となる程度まで、元の黒鉛粒子を激しく酸化させるステップを含む。これらの個別の炭化水素分子(炭素原子に加えてOおよびHなどの元素を含有する)は、液体媒体(たとえば水およびアルコールの混合物)中に分散してGO分散体を形成する。この分散体は、次に、平滑な表面上にコーティングされ、次に液体成分が除去されて、乾燥GO層が形成される。加熱すると、これらの高反応性分子が反応して、主としてグラフェン面に沿って横方向(長さおよび幅を増加させるエッジ間方式で)、およびさらに場合によりグラフェン面間で、互いに化学的に連結する。
【0152】
図7(D)中には、多数のGO分子が互いに化学的に連結して黒鉛フィルムを形成できるが、わずか2つの配列したGO分子が一例として示される、もっともらしい化学的連結機構の1つが示されている。さらに、化学的連結は、単にエッジ間だけでなく面間でも生じうる。これらの連結および合体反応は、分子が化学的に合体し、連結し、一体化して単一の材料となるような方法で進行する。これらの分子または「シート」は、非常に長く幅広になる。これらの分子(GOシート)は、それらの元の性質が完全に失われ、もはやばらばらのシート/プレートレット/フレークではない。実質的に無限大の分子量を有する相互接続した巨大分子の実質的な網目構造であるただ1つの単層状構造が存在する。これはグラフェン多結晶(数個の結晶粒を有するが、典型的には識別可能な十分画定された結晶粒界を有さない)と記載することもできる。すべての構成グラフェン面は、横寸法(長さおよび幅)が非常に大きく、より高い温度(たとえば>1,000℃、またははるかにより高い温度)で熱処理し、伝導性バインダー材料を含浸させて間隙または空隙を埋めると、これらのグラフェン面は、長さまたは幅方向に沿って互いに実質的に結合し、互いに平行に配列する。このような構造は、電子およびフォノンの両方を迅速に輸送する伝導性であり、結果として高い電気伝導率および高い熱伝導率の両方が得られる。
【0153】
SEM、TEM、制限視野回折、X線回折、AFM、ラマン分光法、およびFTIRの組合せを用いたより詳細な研究によって、黒鉛フィルムは、いくつかの巨大なグラフェン面(長さ/幅が典型的には>>100μm、より典型的には>>1mm、場合により>>1cmである)から構成されることが示される。これらの巨大グラフェン面は、最終熱処理温度が2,000℃未満の場合に、多くの場合ファンデルワールス力(従来の黒鉛微結晶のように)だけでなく、共有結合によって、厚さ方向(結晶学的c軸方向)に沿って積層され結合する。これらの場合では、理論によって限定しようと望むものではないが、ラマン分光法およびFTIR分光法の研究によると、黒鉛中の従来のspだけでなく、sp(支配的)およびsp(弱いが存在する)の電子配置の共存を示していると思われる。
【0154】
(4)これらの独特の化学組成、形態、結晶構造(グラフェン間隔を含む)、および構造的特徴(たとえば高度な配向、化学結合、ならびにグラフェンシートの間の欠陥および間隙が伝導性バインダーで満たされてグラフェン面の間の中断が埋められること)のため、高配向の酸化グラフェン由来の黒鉛フィルムは、顕著な熱伝導率、電気伝導率、機械的強度、および剛性(弾性率)の独特の組合せを有する。
【0155】
結論として、本発明者らは、完全に新しく、新規で、予期せぬ、明確に異なる種類の高伝導性および高強度の材料である、伝導性バインダーによって結合した高配向の酸化グラフェンシート/分子で構成される黒鉛フィルムを首尾良く開発した。この新しい種類の材料の化学組成(酸素含有量)、構造(結晶完全性、結晶粒度、少ない欠陥集団、埋められた間隙など)、結晶配向、形態、製造方法、および性質は、可撓性黒鉛箔、ポリマー由来の熱分解黒鉛、CVD由来のHOPG、および接触CVDグラフェン薄膜とは根本的に別のものであり明らかに異なる。本発明の材料によって示される熱伝導率、電気伝導率、弾性率、および曲げ強度は、従来技術の可撓性黒鉛シート、ばらばらのグラフェン/GO/RGOプレートレットの紙、またはその他の黒鉛材料が場合により実現できた値よりもはるかに高い。これらの黒鉛フィルムは、優れた電気伝導率、熱伝導率、機械的強度、および剛性(弾性率)の最良の組合せを有する。これらの黒鉛フィルムは多種多様の温度管理用途に使用することができる。たとえば、黒鉛フィルムは、スマートフォン、タブレットコンピュータ、フラットパネルTVディスプレイ、またはその他のマイクロエレクトロニクスデバイスもしくは通信デバイスの中に使用される放熱フィルムなどの温度管理装置の一部となることができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A-B】
図7A-B】
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14
図15