(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質、関連する製剤、およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20220722BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220722BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220722BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20220722BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220722BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220722BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220722BHJP
A61K 47/26 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61P3/00
A61P25/00
A61P43/00 111
A61K47/65
A61K47/02
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/26
(21)【出願番号】P 2018544940
(86)(22)【出願日】2017-02-24
(86)【国際出願番号】 US2017019343
(87)【国際公開番号】W WO2017147414
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-02-20
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502170153
【氏名又は名称】バイオマリン ファーマシューティカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モシャシャイー サイード
(72)【発明者】
【氏名】ピンクスタッフ ジェイソン ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】シェイウィッツ アダム
(72)【発明者】
【氏名】シアッチオ ナタリー
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/085621(WO,A1)
【文献】特表2013-542913(JP,A)
【文献】LifeScienceProject, 0.2Mリン酸ナトリウムバッファー, 2011.10.22, [retrieved on 2021.08.16], retrieved from the internet:<URL:https://life-science-project.com/469/>,https://life-science-project.com/469/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
SEQ ID NO:5と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、
約30 mg/mlの濃度である融合タンパク質; ならびに
(b)
約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、
約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、
約8 mg/ml~約9 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、
約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度の塩化カリウム、
約0.1 mg/ml~約0.2 mg/mlの濃度の塩化マグネシウム六水和物、および
約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度の塩化カルシウム二水和物を含む成分
を含む、製剤
であって、約6.5~約7.5の範囲のpHを有する、前記製剤。
【請求項2】
水性である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記融合タンパク質が、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、
前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.19 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.04 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約8.66 mg/mlの濃度であり、前記塩化カリウムが約0.22 mg/mlの濃度であり、前記塩化マグネシウム六水和物が約0.16 mg/mlの濃度であり、かつ前記塩化カルシウム二水和物が約0.21 mg/mlの濃度であり、前記製剤が約7.0のpHを有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
凍結乾燥した乾燥粉末である、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
ヒト対象への髄腔内投与に適している、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
請求項1に記載の製剤を含む、容器。
【請求項9】
ガラスバイアルである、請求項
8に記載の容器。
【請求項10】
MPS IIIBを罹患している対象においてMPS IIIBを処置するのに有用な医薬の調製における、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【請求項11】
MPS IIIB疾患を罹患している対象におけるMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状を緩和させるのに有用な医薬の調製における、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【請求項12】
MPS IIIB疾患に罹患している対象における認知低下の速度を低減させるのに有用な医薬の調製における、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【請求項13】
リソソーム蓄積障害に罹患している対象のCNSの1つまたは複数の組織におけるGAG蓄積を低減または予防するのに有用な医薬の調製における、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は全体として、リソソーム蓄積症を処置するのに有用な治療用リソソーム酵素融合タンパク質、そのような治療用リソソーム酵素融合タンパク質を含む製剤、および哺乳動物におけるリソソーム蓄積症を処置するのに有用な関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
通常、哺乳動物リソソーム酵素は細胞質ゾル中で合成され、ERを横断し、そこでそれらはN-結合高マンノース型の炭水化物でグリコシル化される。ゴルジでは、これらのタンパク質をリソソームへとターゲティングさせるマンノース-6-リン酸(M6P)の付加によって、リソソーム酵素上に高マンノース炭水化物が修飾される。次いで、M6Pで修飾された酵素は、2つのM6P受容体の一方/両方との相互作用を介してリソソームに送達される。
【0003】
40種類超のリソソーム蓄積症(LSD)が、直接的または間接的に、リソソーム中の1つまたは複数のリソソーム酵素の存在しないことによって、引き起こされる。LSDの酵素補充療法が積極的に進められている。療法は一般に、LSDタンパク質が取り込まれ、M6P依存的に種々の細胞型のリソソームに送達されることを必要とする。1つの可能なアプローチは、LSDタンパク質を精製すること、およびそれを修飾してM6Pを有する炭水化物部分を組み込むことを伴う。この修飾された材料は、細胞表面上のM6P受容体との相互作用に起因して、未修飾LSDタンパク質よりも効率的に細胞によって取り込まれうる。
【0004】
以前に、リソソームへの治療用酵素のより効率的な送達を可能にするペプチドに基づくターゲティング技術が開発されている。この専有技術は、治療用酵素に連結されたペプチドタグが、タンパク質をリソソームへとターゲティングさせる部分として、M6Pに取って代わるため、グリコシル化非依存性リソソームターゲティング(GILT)と呼ばれる。GILT技術の詳細は、米国特許出願公開第2003-0082176号(特許文献1)、同第2004-0006008号(特許文献2)、同第2003-0072761号(特許文献3)、同第2005-0281805号(特許文献4)、同第2005-0244400号(特許文献5)、米国特許第8,492,337号(特許文献6)および同第8,563,691号(特許文献7)、ならびに国際公報WO 03/032913(特許文献8)、WO 03/032727(特許文献9)、WO 02/087510(特許文献10)、WO 03/102583(特許文献11)、WO 2005/078077(特許文献12)、WO 2009/137721(特許文献13)、およびWO 2014/085621(特許文献14)に記述され、これらの全ての開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2003-0082176号
【文献】米国特許出願公開第2004-0006008号
【文献】米国特許出願公開第2003-0072761号
【文献】米国特許出願公開第2005-0281805号
【文献】米国特許出願公開第2005-0244400号
【文献】米国特許第8,492,337号
【文献】米国特許第8,563,691号
【文献】WO 03/032913
【文献】WO 03/032727
【文献】WO 02/087510
【文献】WO 03/102583
【文献】WO 2005/078077
【文献】WO 2009/137721
【文献】WO 2014/085621
【発明の概要】
【0006】
開示の概要
本開示は、GILT技術に基づく治療用融合タンパク質の効率的なリソソームターゲティングのための、さらに改善された組成物、製剤、および方法を提供する。とりわけ、本開示は、リソソーム蓄積障害の処置のためのリソソームターゲティングペプチドを用いて、治療用リソソーム酵素をリソソームへとターゲティングさせるための方法および組成物を提供する。本開示はまた、IGF-I受容体に対する結合親和性を低減もしくは減少させたおよび/またはインスリン受容体に対する結合親和性を低減もしくは減少させたリソソームターゲティングペプチド、ならびに/あるいはフリン切断に耐性であるリソソームターゲティングペプチドを用いて、リソソーム酵素をリソソームへとターゲティングさせるための方法ならびに組成物を提供する。本開示はまた、リソソーム酵素融合タンパク質の産生およびリソソームへの取り込みの改善を提供する、リソソーム酵素およびIGF-IIおよびスペーサーペプチドを含むターゲティングされたリソソーム酵素融合タンパク質を提供する。本開示の治療用融合タンパク質への組み込みに有用な例示的なリソソーム酵素およびそれらの融合タンパク質で処置される関連疾患は、以下の表1に示されている。ある種の好ましい態様において、リソソーム酵素は成熟ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)酵素であり、リソソーム蓄積障害はムコ多糖症IIIB型(MPS IIIB; サンフィリッポB症候群)である。
【0007】
1つの局面において、本開示の治療用融合タンパク質は、検出可能な酵素活性を示しかつ
図1に示される成熟ヒトNagluタンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、機能性α-N-アセチルグルコサミニダーゼ酵素を含む。別の局面において、本開示は、検出可能なNaglu酵素活性を保持する
図1に示される成熟ヒトNagluタンパク質(SEQ ID NO:1)の断片を対象にする。
【0008】
別の局面において、本開示の治療用融合タンパク質は、成熟ヒトIGF-IIのアミノ酸番号8~67のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するペプチドタグを含む。この点に関して、成熟ヒトIGF-IIのアミノ酸番号8~67は、以下のアミノ酸配列:
を有する。
【0009】
さまざまな態様において、本開示のターゲティングされた治療用融合タンパク質は、アミノ酸位置番号37にアルギニンのアラニン置換を有する成熟ヒトIGF-IIのアミノ酸番号8~67のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するペプチドタグを含む。この特に好ましい態様において、ペプチドタグは、以下のアミノ酸配列:
を有する。アミノ酸位置番号37でのアルギニンのアラニン置換は、少なくとも1つのフリンプロテアーゼ切断部位をなくすことが以前に報告されている(例えば、米国特許第8,563,691号を参照のこと)。
【0010】
別の局面において、本開示の治療用融合タンパク質は、リソソーム酵素とペプチドタグとの間に位置し、リソソーム酵素とペプチドタグとを連結するスペーサーペプチドを含む。さまざまな態様において、スペーサー/リンカーペプチドは、以下のアミノ酸配列:
を有する31アミノ酸の剛性リンカーペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する。さまざまな態様において、スペーサーペプチドは、長さが約25~37、26~36、27~35、28~34、29~33、または30~32アミノ酸であり、SEQ ID NO:4の変種を表し、SEQ ID NO:4の1、2、3、4、5、または6個の特定のアミノ酸が置換、付加、または欠失されている。
【0011】
さらに別の局面において、本開示の治療用融合タンパク質は、(i)
図1に示される成熟ヒトNagluタンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する機能性α-N-アセチルグルコサミニダーゼ酵素、(ii) SEQ ID NO:3のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99% または100%同一であるアミノ酸配列を有するペプチドタグ、および(iii) SEQ ID NO:4として本明細書において示される31アミノ酸の剛性リンカーペプチドのアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有する、酵素とペプチドタグとの間に位置するスペーサー/リンカーペプチドを含む。(本明細書においてBMN001といわれる)1つの態様において、本開示の治療用融合タンパク質は、(i)
図1に示されるアミノ酸配列を有する機能的成熟ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)酵素(SEQ ID NO:1)、(ii) SEQ ID NO:4として本明細書において示されるアミノ酸配列を有するスペーサー/リンカーペプチド、および(iii) SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF-IIペプチドタグを含む。BMN001治療用融合タンパク質の完全なアミノ酸配列は、
図2 (SEQ ID NO:5)に示される。
【0012】
さらに別の局面において、本開示は、本開示の治療用融合タンパク質を含む、哺乳動物においてリソソーム蓄積障害を処置するのに有用な薬学的組成物を提供する。さまざまな態様において、薬学的組成物は、(a) リソソーム酵素またはその機能的断片と、SEQ ID NO:2と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドタグと、該リソソーム酵素またはその機能的断片と該ペプチドタグとの間に位置しSEQ ID NO:4と少なくとも90%の配列同一性を有するスペーサーペプチドとを含む、融合タンパク質; ならびに(b) 緩衝剤、等張性物質、および電解質物質からなる群より選択される、1つまたは複数の成分を含む製剤である。本開示の製剤は、液体製剤、凍結乾燥製剤、または予め凍結乾燥した製剤から再構成された液体製剤でありうる。さまざまな態様において、本開示の製剤は安定である。
【0013】
さまざまな態様において、本開示の物質の製剤または組成物は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むリソソーム酵素またはその機能的断片を含みうる。本開示の製剤は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むかまたはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなる、融合タンパク質を含みうる。
【0014】
本開示の製剤は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、緩衝剤、等張性物質、電解質物質、および抗吸着剤を含みうる。さまざまな態様において、本開示の製剤は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、およびトレハロースを含む。1つの態様において、本開示の製剤は、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約0.8 mg/ml~約1 mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含み、かつトレハロースは約7%~約9%の濃度であり、該製剤は約6.5~約7.5の範囲のpHを有する。さまざまな態様において、本開示の製剤は、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約0.88 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、および約8%のトレハロース濃度を含み、該製剤は約7.0のpHを有する。これらの製剤は、水性または乾燥/凍結乾燥形態のいずれかでありうる。
【0015】
他の態様において、本開示の製剤は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、トレハロース、およびポリソルベート20を含む。1つの態様において、本開示の製剤は、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約4.5 mg/ml~約5.5 mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含み、トレハロースは約3%~約5%の濃度であり、ポリソルベート20は約0.0025%~約0.0075%の濃度であり、該製剤は約6.5~約7.5の範囲のpHを有する。さまざまな態様において、本開示の製剤は、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約5 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約4%のトレハロース濃度、および約0.005%のポリソルベート20濃度を含み、該製剤は約7.0のpHを有する。これらの製剤は、水性または乾燥/凍結乾燥形態のいずれかでありうる。
【0016】
さまざまな態様において、本開示の製剤は、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム六水和物、および塩化カルシウム二水和物を含み、かつ融合タンパク質はSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。さらに他の態様において、本開示の製剤は、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約8 mg/ml~約9 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度の塩化カリウム、約0.1 mg/ml~約0.2 mg/mlの濃度の塩化マグネシウム六水和物、および約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度の塩化カルシウム二水和物を含み、該製剤は約6.5~約7.5の範囲のpHを有する。さまざまな態様において、本開示の製剤は、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む融合タンパク質、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約8.66 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約0.22 mg/mlの濃度の塩化カリウム、約0.16 mg/mlの濃度の塩化マグネシウム六水和物、および約0.21 mg/mlの濃度の塩化カルシウム二水和物を含み、該製剤は約7.0のpHを有する。これらの製剤は、水性または乾燥/凍結乾燥形態のいずれかでありうる。
【0017】
さらに他の局面において、本開示は、リソソーム蓄積症に罹患している対象におけるリソソーム蓄積症を処置するための方法を対象にし、それらの方法は、本明細書において記述される物質の組成物または製剤を投与する段階を含む。さまざまな態様において、本開示は、MPS IIIB疾患に罹患している対象におけるMPS IIIB疾患を処置する方法を対象にし、該方法は、本明細書において記述される、Naglu酵素活性を有する治療用融合タンパク質、またはそれを含む製剤を投与する段階を含む。ある種の態様において、製剤は、髄腔内に、側脳室内に、または脊髄穿刺を介してCSFに直接的に、投与され、これは容量非測定(non-volumetric)または等積のいずれかでありうる。本開示の治療用製剤の投与は、約5分間~約240分間もしくはそれ以上、または約5分間~約10分間にわたって行われうる。ある種の態様において、MPS IIIBの処置のための製剤の投与は、少なくとも24週間、好ましくは少なくとも48週間にわたって毎週行われうる。1つの態様において、本開示の治療用融合タンパク質または製剤の治療的有効量の投与は、MPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状または特徴の重症度、強度もしくは頻度の低減、または発症の遅延をもたらす。
【0018】
さらに他の局面において、本開示は、MPS IIIB疾患に罹患している対象においてMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状に関する低下速度を遅くするためのまたは低下を予防するための方法を対象にし、該方法は、Naglu活性を有する治療用融合タンパク質またはそれを含む製剤を対象に投与する段階を含む。さまざまな態様において、製剤は側脳室内に投与され、側脳室内投与は等積である。本開示の治療用製剤の投与は、約5分間~約240分間もしくはそれ以上、または約5分間~約10分間にわたって行われうる。ある種の態様において、MPS IIIBの処置のための製剤の投与は、少なくとも24週間、好ましくは少なくとも48週間にわたって毎週行われうる。これらの方法は、MPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状の改善をもたらしうる。さまざまな態様において、MPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状は、認知低下、言語機能の低下、運動機能の低下、社会感情機能の低下、適応機能の低下、概念思考の低下、顔認識の低下、ストーリー完成能力の低下、手の機能/器用さの低下、難聴、活動亢進、攻撃性、または睡眠障害からなる群より選択することができる。
【0019】
さまざまな局面において、少なくとも1つの症状に関する低下速度の低減または低下の予防は、(a) 投与の前に症状に関する低下速度を判定すること、および(b) 投与の後に症状に関する低下速度を判定することにより判定されることができ;投与の前と比較して投与の後の症状に関する低下速度が低いことによって、低下速度の低減が示される。これらの方法は、投与の前に対象の発達指数(DQ)を決定する段階、および投与の後に対象のDQを決定する段階をさらに含むことができ、投与の前と比較して投与の後の対象のDQが高いことによって、低下速度の低減が示される。それゆえ、さまざまな態様において、本開示は、MPS IIIB疾患に罹患している対象におけるDQ指数の低下を安定化または低減させるための方法を対象にし、該方法は、対象に治療用融合タンパク質またはそれを含む製剤を投与する段階を含む。発達指数は、本明細書において記述のおよび当技術分野において公知のBSID-IIIまたはKABC-IIツールを用いて決定されうる。
【0020】
さらに他の局面において、本開示は、MPS IIIB疾患に罹患している対象において認知機能の低下速度を緩徐化させることに関し、該方法は、本明細書において記述される、本開示の治療用融合タンパク質、またはその製剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む。ある種の態様において、融合タンパク質またはその製剤は、IT、ICV投与されてもまたは腰椎穿刺を介して投与されてもよく、投与は等積でありうる。本開示の治療用製剤の投与は、約5分間~約240分間もしくはそれ以上、または約5分間~約10分間にわたって行われうる。さまざまな態様において、MPS IIIBの処置のための製剤の投与は、少なくとも24週間、または少なくとも48週間にわたって毎週行われうる。
【0021】
さらに他の局面において、本開示は、リソソーム蓄積障害に罹患している対象のCNSの1つまたは複数の組織におけるGAG蓄積を低減または防止するための方法を対象にし、該方法は、本明細書において記述される治療用融合タンパク質または製剤の治療的有効量を投与する段階を含む。1つの態様において、GAGはヘパラン硫酸であり、かつリソソーム蓄積障害はMPS IIIBである。本明細書において記述されるように、投与は側脳室内であってもよく、これは等積であってもよい。さまざまな態様において、GAG蓄積は、例えば、灰白質、白質、脳室周囲域、髄膜、軟膜-くも膜、大脳皮質中の深部組織、新皮質、小脳、尾状核/被殻領域、分子層、脳橋もしくは髄質の深部領域、中脳、または上記の2つもしくはそれ以上の組み合わせを含むCNSの1つまたは複数の組織の細胞のリソソームにおいて低減される。
【0022】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞、髄膜細胞、および/または脊髄のニューロンに送達される。ある種の態様において、治療用融合タンパク質またはそれを含む製剤の投与は、適切な対照(例えば、対象における前処置GAG蓄積)と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、1/1、1/1.5、もしくは1/2またはそれ以上の分だけの脳標的組織または脊髄ニューロンの1つまたは複数におけるGAG蓄積の低減をもたらす。
【0023】
[本発明1001]
(a) リソソーム酵素またはその機能的断片と、SEQ ID NO:2と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドタグと、該リソソーム酵素またはその機能的断片と該ペプチドタグとの間に位置しSEQ ID NO:4と少なくとも90%の配列同一性を有するスペーサーペプチドとを含む、融合タンパク質; ならびに
(b) 緩衝剤、等張性物質、電解質物質、および抗吸着剤からなる群より選択される、1つまたは複数の成分
を含む、製剤。
[本発明1002]
水性である、本発明1001の製剤。
[本発明1003]
前記リソソーム酵素またはその機能的断片がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含む、本発明1001の製剤。
[本発明1004]
前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1001の製剤。
[本発明1005]
前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなる、本発明1001の製剤。
[本発明1006]
緩衝剤、等張性物質、および電解質物質を含み、かつ前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1001の製剤。
[本発明1007]
リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、およびトレハロースを含み、かつ前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1006の製剤。
[本発明1008]
前記融合タンパク質が、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約0.8 mg/ml~約1.0 mg/mlの濃度であり、かつ前記トレハロースが約7% (w/v)~約9% (w/v)の濃度であり、前記製剤が約6.5~約7.5の範囲のpHを有する、本発明1007の製剤。
[本発明1009]
前記融合タンパク質が、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.19 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.04 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約0.88 mg/mlの濃度であり、かつ前記トレハロースが約8% (w/v)の濃度であり、前記製剤が約7.0のpHを有する、本発明1007の製剤。
[本発明1010]
抗吸着剤をさらに含む、本発明1006の製剤。
[本発明1011]
リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、トレハロース、およびポリソルベート20を含み、かつ前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1010の製剤。
[本発明1012]
前記融合タンパク質が、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約4.5 mg/ml~約5.5 mg/mlの濃度であり、前記トレハロースが約3% (w/v)~約5% (w/v)の濃度であり、かつ前記ポリソルベート20が0.0025 % (w/v)~約0.0075% (w/v)の濃度であり、前記製剤が約6.5~約7.5の範囲のpHを有する、本発明1011の製剤。
[本発明1013]
前記融合タンパク質が、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.19 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.04 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約5 mg/mlの濃度であり、前記トレハロースが約4% (w/v)の濃度であり、かつ前記ポリソルベート20が約0.005% (w/v)の濃度であり、前記製剤が約7.0のpHを有する、本発明1011の製剤。
[本発明1014]
リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム六水和物、および塩化カルシウム二水和物を含み、かつ前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1006の製剤。
[本発明1015]
前記融合タンパク質が、約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約8 mg/ml~約9 mg/mlの濃度であり、前記塩化カリウムが約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度であり、前記塩化マグネシウム六水和物が約0.1 mg/ml~約0.2 mg/mlの濃度であり、かつ前記塩化カルシウム二水和物が約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlの濃度であり、前記製剤が約6.5~約7.5の範囲のpHを有する、本発明1014の製剤。
[本発明1016]
前記融合タンパク質が、約30 mg/mlの濃度のSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含み、前記リン酸二ナトリウム七水和物が約0.19 mg/mlの濃度であり、前記リン酸一ナトリウム一水和物が約0.04 mg/mlの濃度であり、前記塩化ナトリウムが約8.66 mg/mlの濃度であり、前記塩化カリウムが約0.22 mg/mlの濃度であり、前記塩化マグネシウム六水和物が約0.16 mg/mlの濃度であり、かつ前記塩化カルシウム二水和物が約0.21 mg/mlの濃度であり、前記製剤が約7.0のpHを有する、本発明1014の製剤。
[本発明1017]
凍結乾燥した乾燥粉末である、本発明1001の製剤。
[本発明1018]
ヒト対象への髄腔内投与に適している、本発明1001の製剤。
[本発明1019]
本発明1001の製剤を含む、容器。
[本発明1020]
ガラスバイアルである、本発明1019の容器。
[本発明1021]
本発明1001~1018のいずれかの製剤の治療的有効量を、MPS IIIB疾患に罹患している対象に投与する段階を含む、該対象におけるMPS IIIB疾患を処置する方法。
[本発明1022]
本発明1009の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
本発明1013の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1021の方法。
[本発明1024]
本発明1016の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1021の方法。
[本発明1025]
前記製剤が髄腔内に投与される、本発明1021~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記製剤が側脳室内に投与される、本発明1021~1024のいずれかの方法。
[本発明1027]
側脳室内投与が等積である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
側脳室内投与が約5分間~約240分間にわたって行われる、本発明1026の方法。
[本発明1029]
側脳室内投与が約5分間~約10分間にわたって行われる、本発明1026の方法。
[本発明1030]
前記製剤が毎週投与される、本発明1021~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記製剤が少なくとも24週間、毎週投与される、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記製剤が少なくとも48週間、毎週投与される、本発明1030の方法。
[本発明1033]
少なくとも約30 mg/mlの融合タンパク質を投与する段階を含み、該融合タンパク質がリソソーム酵素またはその機能的断片を含む、本発明1021~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記融合タンパク質がSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、本発明1033の方法。
[本発明1035]
本発明1001~1018のいずれかの製剤を、MPS IIIB疾患に罹患している対象に投与する段階を含む、該対象においてMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状に関する低下速度を緩徐化させるための方法。
[本発明1036]
本発明1009の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1035の方法。
[本発明1037]
本発明1013の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1035の方法。
[本発明1038]
本発明1016の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1035の方法。
[本発明1039]
前記製剤が側脳室内に投与される、本発明1035~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
側脳室内投与が等積である、本発明1039の方法。
[本発明1041]
側脳室内投与が約5分間~約240分間にわたって行われる、本発明1039の方法。
[本発明1042]
側脳室内投与が約5分間~約10分間にわたって行われる、本発明1039の方法。
[本発明1043]
前記製剤が毎週投与される、本発明1035~1042のいずれかの方法。
[本発明1044]
前記製剤が少なくとも24週間、毎週投与される、本発明1043の方法。
[本発明1045]
前記製剤が少なくとも48週間、毎週投与される、本発明1043の方法。
[本発明1046]
前記対象においてMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状の改善をもたらす、本発明1035~1045のいずれかの方法。
[本発明1047]
前記少なくとも1つの症状が、認知低下、言語機能の低下、運動機能の低下、社会感情機能の低下、適応機能の低下、概念思考の低下、顔認識の低下、ストーリー完成能力の低下、手の機能/器用さの低下、難聴、活動亢進、攻撃性、および睡眠障害からなる群より選択される、本発明1035~1046のいずれかの方法。
[本発明1048]
前記少なくとも1つの症状に関する低下速度の低減が、
(a) 前記投与の前に該症状に関する低下速度を判定すること、および
(b) 該投与の後に該症状に関する低下速度を判定すること
により判定され、
該投与の前と比較して該投与の後の該症状に関する低下速度が低いことによって、該低下速度の低減が示される、本発明1035~1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
前記投与の前に前記対象の発達指数(DQ)を決定する段階、および該投与の後に該対象のDQを決定する段階をさらに含み、該投与の前と比較して該投与の後の該対象のDQが高いことによって、前記低下速度の低減が示される、本発明1035~1048のいずれかの方法。
[本発明1050]
前記発達指数が、Bayley Scales of Infant Development, 3rd Edition (BSID-III)またはKaufman Assessment Battery for Children, 2nd Edition (KABC-II)ツールを用いて決定される、本発明1049の方法。
[本発明1051]
本発明1001~1018のいずれかの製剤を、MPS IIIB疾患に罹患している対象に投与する段階を含む、該対象において認知機能の低下速度を低減させるための方法。
[本発明1052]
本発明1009の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1051の方法。
[本発明1053]
本発明1013の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1051の方法。
[本発明1054]
本発明1016の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1051の方法。
[本発明1055]
前記製剤が側脳室内に投与される、本発明1051~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
側脳室内投与が等積である、本発明1055の方法。
[本発明1057]
側脳室内投与が約5分間~約240分間にわたって行われる、本発明1055の方法。
[本発明1058]
側脳室内投与が約5分間~約10分間にわたって行われる、本発明1055の方法。
[本発明1059]
前記製剤が毎週投与される、本発明1051~1057のいずれかの方法。
[本発明1060]
前記製剤が少なくとも24週間、毎週投与される、本発明1059の方法。
[本発明1061]
前記製剤が少なくとも48週間、毎週投与される、本発明1059の方法。
[本発明1062]
前記対象において認知機能の改善をもたらす、本発明1051~1061のいずれかの方法。
[本発明1063]
前記対象における前記認知機能の低下速度の低減が、
(a) 前記投与の前に該認知機能の低下速度を判定すること、および
(b) 該投与の後に該認知機能の低下速度を判定すること
により判定され、
該投与の前と比較して該投与の後の認知機能の低下速度が低いことによって、該低下速度の低減が示される、本発明1051~1061のいずれかの方法。
[本発明1064]
前記投与の前に前記対象の発達指数(DQ)を決定する段階、および該投与の後に該対象のDQを決定する段階をさらに含み、該投与の前と比較して該投与の後の該対象のDQが高いことによって、前記低下速度の低減が示される、本発明1051~1063のいずれかの方法。
[本発明1065]
本発明1001~1018のいずれかの製剤の治療的有効量を投与する段階を含む、リソソーム蓄積障害に罹患している対象のCNSの1つまたは複数の組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)蓄積を低減または防止するための方法。
[本発明1066]
前記GAGがヘパラン硫酸であり、かつ前記リソソーム蓄積障害がMPS IIIBである、本発明1065の方法。
[本発明1067]
本発明1009の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1066の方法。
[本発明1068]
本発明1013の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1066の方法。
[本発明1069]
本発明1016の製剤を前記対象に投与する段階を含む、本発明1066の方法。
[本発明1070]
前記製剤が側脳室内に投与される、本発明1065~1069のいずれかの方法。
[本発明1071]
側脳室内投与が等積である、本発明1070の方法。
[本発明1072]
側脳室内投与が約5分間~約240分間にわたって行われる、本発明1070の方法。
[本発明1073]
側脳室内投与が約5分間~約10分間にわたって行われる、本発明1070の方法。
[本発明1074]
前記製剤が毎週投与される、本発明1065~1073のいずれかの方法。
[本発明1075]
前記製剤が少なくとも24週間、毎週投与される、本発明1074の方法。
[本発明1076]
前記製剤が少なくとも48週間、毎週投与される、本発明1074の方法。
[本発明1077]
前記対象においてMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状の改善をもたらす、本発明1065~1076のいずれかの方法。
[本発明1078]
GAG蓄積が、灰白質、白質、脳室周囲域、髄膜、軟膜-くも膜、大脳皮質中の深部組織、新皮質、小脳、尾状核/被殻領域、分子層、脳橋または髄質の深部領域、中脳、および脊髄ニューロンからなる群より選択されるCNSの1つまたは複数の組織の細胞のリソソームにおいて低減される、本発明1065~1077のいずれかの方法。
[本発明1079]
MPS IIIBを罹患している対象においてMPS IIIBを処置するのに有用な医薬の調製における、本発明1001~1018のいずれかの製剤の使用。
[本発明1080]
MPS IIIB疾患を罹患している対象におけるMPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状に関する低下速度を低減させるのに有用な医薬の調製における、本発明1001~1018のいずれかの製剤の使用。
[本発明1081]
MPS IIIB疾患に罹患している対象における認知低下の速度を低減させるのに有用な医薬の調製における、本発明1001~1018のいずれかの製剤の使用。
[本発明1082]
リソソーム蓄積障害に罹患している対象のCNSの1つまたは複数の組織におけるGAG蓄積を低減または予防するのに有用な医薬の調製における、本発明1001~1018のいずれかの製剤の使用。
本開示の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかしながら、詳細な説明は、本開示の態様を示しているが、限定ではなく、例示としてのみ与えられていることが理解されるべきである。詳細な説明から、本開示の範囲内のさまざまな変更および修正が当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】成熟ヒトNagluタンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)を図示している。
【
図2】BMN001治療用融合タンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO:5)を図示している。
【
図3】対照ヘテロ接合性Nagluイヌにおけるおよびビヒクル、BMN001 12 mg、またはBMN001 48 mgで処置されたホモ接合性Nagluヌル罹患MPS IIIBイヌにおける中枢神経系組織(CNS) (上のグラフ)および脳脊髄液(CSF) (下のグラフ)中のヘパラン硫酸(HS)レベルを示す一連のグラフである。このデータは、BMN001が、MPS IIIBイヌにおけるHSレベルを、罹患していないヘテロ接合性キャリアイヌにおいて見られたレベルまで低減させたことを実証する。
【
図4】CSF HSレベルと比較したCNS HSレベルのプロットであり、これらの2つの区画におけるHSレベル間の強い相関(r
2 = 0.824)を示している。
【
図5】野生型イヌ、未処置MPS IIIBイヌ、およびイヌLAMP2タンパク質に特異的な抗体でプローブしたBMN001処置MPS IIIBイヌ由来のイヌ小脳のウエスタンブロットであり、野生型と比べて未処置MPS IIIBイヌにおいてLAMP2レベルが増大していること、およびBMN001による処置が処置MPS IIIBイヌにおける野生型レベルにLAMP2を低減させることを示す。
【
図6】対照ヘテロ接合性Nagluイヌにおけるおよびビヒクル、BMN001 12 mg、またはBMN001 48 mgで処置されたホモ接合性Nagluヌル罹患MPS IIIBイヌにおける小脳中のヘパラン硫酸(HS)レベルを示すグラフである。このデータは、BMN001がMPS IIIBイヌ小脳におけるHSレベルを、罹患していないヘテロ接合性キャリアイヌにおいて見られたレベルまで低減させたことを実証する。
【
図7】対照ヘテロ接合性Nagluイヌにおけるおよびビヒクル、BMN001 12 mg、またはBMN001 48 mgで処置されたホモ接合性Nagluヌル罹患MPS IIIBイヌにおける小脳平均拡散率を示すグラフである。
【
図8】野生型ビヒクル処置イヌおよびビヒクルまたはBMN001で処置されたMPS IIIBイヌの小脳の一連のMRI画像である。
【
図9】未処置MPS IIIB患者が、脳脊髄液(CSF)中の増大したヘパラン硫酸(HS)およびMPS IIIB特異的HS非還元末端(NRE)を有することを示す棒グラフである。破線の垂直線は、HSおよびNREの平均正常CSFレベル(それぞれ0.05 mg/Lおよび0.0025 mg/L)を示す。このデータは、疾患の自然経過を理解するために少なくとも24週間にわたって収集された。利用可能な場合、自然経過における早い時点および遅い時点のデータが示されている。
【
図10】BMN001で処置された対象2人のCSFにおけるHSおよびNREの低減を示す一連のグラフである。
【
図11A】BMN001含有製剤のポンピングストレス後の凝集体粒子形成に及ぼすトレハロースおよびトレハロース-ポリソルベート20組み合わせの効果を示すグラフである。
【
図11B】BMN001含有製剤のポンピングストレス後の凝集体粒子形成に及ぼすトレハロースおよびトレハロース-ポリソルベート20組み合わせの効果を示すグラフである。
【
図12】BMN001含有製剤の凍結融解ストレス後の凝集体粒子形成に及ぼすトレハロースおよびトレハロース-ポリソルベート20組み合わせの効果を示すグラフである。人工脳脊髄液(aCSF)は、トレハロースまたはポリソルベート20なしで製剤化されたBMN001である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本明細書において用いられる場合、「リソソーム蓄積症」とは、リソソーム内において高分子をペプチド、アミノ酸、単糖類、核酸および脂肪酸に分解するために必要とされる酵素(例えば、酸性加水分解酵素)の少なくとも1つの欠損に起因する遺伝性障害の群をいう。結果として、リソソーム蓄積症に罹患している個体は、リソソーム内に蓄積された材料を有する。例示的なリソソーム蓄積症を表1に列挙する。
【0026】
本明細書において用いられる場合、「リソソーム酵素」という用語は、哺乳動物リソソーム内における蓄積された材料を低減させることができるか、または1つもしくは複数のリソソーム蓄積症の症状を救出もしくは回復しうる、任意の酵素をいう。本開示に適したリソソーム酵素は、野生型のリソソーム酵素または改変されたリソソーム酵素の両方を含み、組み換え方法および合成方法を用いて産生されるか、または天然の供給源から精製されるかすることができる。例示的なリソソーム酵素を表1に列挙するが、このようなリソソーム酵素は、本明細書において記述される治療用融合タンパク質に組み込まれうる。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ」という用語は、ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼの前駆体(すなわち、天然シグナルペプチド配列を含む)もしくはプロセッシングされた(すなわち、天然シグナルペプチド配列を欠く)野生型形態、あるいは哺乳動物リソソーム内におけるグリコサミノグリカン(GAG)レベルを低減させることができるか、または1つもしくは複数のMPS IIIB (サンフィリッポB症候群)症状を救出もしくは回復することができる、その機能的断片または変種をいう。1つの態様において、本明細書における使用が見つかるヒトNaglu酵素は、
図1に示されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)を含むか、またはそれからなる。
【0028】
本明細書において用いられる場合、リソソーム酵素、リソソーム酵素を含む融合タンパク質またはいずれかの断片に関連する「機能的」という用語は、哺乳動物リソソームによって取り込まれる能力を有する、および哺乳動物リソソーム内の貯蔵材料、すなわち、グリコサミノグリカン(GAG)を低減させるのに十分な酵素活性を有するポリペプチドをいう。
【0029】
本明細書において用いられる場合、「スペーサー」(「リンカー」ともいわれる)という用語は、融合タンパク質における2つのタンパク質部分の間に位置するペプチド配列をいう。スペーサーは一般に、可撓性であるように、または2つのタンパク質部分の間にアルファ-ヘリックスのような、構造を挿入するようにデザインされる。スペーサーは、例えば、長さが10~50、20~40または25~35アミノ酸のような、可変の長さのものであることができる。例示的なスペーサー配列は、本明細書においてさらに詳細に開示される。
【0030】
本明細書において用いられる場合、「改善する」、「増加する」、もしくは「低減する」という用語または文法的等価物は、本明細書において記述される処置の開始前の同じ個体における測定値、または本明細書において記述される処置がない場合の対照個体(もしくは複数の対照個体)における測定値のような、ベースライン測定値と比べた値を示す。「対照個体」は、(処置される個体および対照個体における疾患の段階が比較可能であることを確実とするために)処置されている個体とほぼ同じ年齢である、処置されている個体と同じ形態のリソソーム蓄積症(例えば、MPS IIIB (サンフィリッポB症候群))に罹患した個体である。
【0031】
本明細書において用いられる場合、「回復させる」、「回復」という用語、およびその文法的等価物は、対象の/対象における、状態もしくは疾患症状の予防、軽減もしくは緩和、状態もしくは疾患症状の減少からの安定化、または状態もしくは疾患症状の改善を意味する。回復には、疾患状態の完全な平癒または完全な予防が含まれるが、それらを必要とするわけではない。いくつかの態様において、回復には、関連するリソソーム蓄積症組織のリソソーム内部に蓄積された材料の低減が含まれる。
【0032】
本明細書において用いられる場合、「対象」、「個体」、または「患者」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物対象をいう。処置される個体(「患者」または「対象」ともいわれる)は、リソソーム蓄積症、例えば、MPS IIIB (サンフィリッポB症候群) (すなわち、幼児期、若年期もしくは成人期発症あるいは重症/古典型または弱毒型MPS IIIB (サンフィリッポB症候群))に罹患しているまたはリソソーム蓄積症(例えば、MPS IIIB (サンフィリッポB症候群))を発症する可能性を有している個体(胎児、幼児、子供、青年または成人ヒト)である。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「治療的有効量」または「有効量」という用語は、いずれの医学的処置にも適用可能な合理的な利点/リスク比において、処置される対象に対して治療効果を付与する、ターゲティングされた治療用融合タンパク質(またはそれを含む製剤)の量をいう。治療効果は、客観的(すなわち、いくつかの試験もしくはマーカーによって測定可能)または主観的(すなわち、対象が効果の徴候を示すか、もしくは効果を感じる)でありうる。特に「治療的有効量」とは、例えば、疾患に関連する症状を回復させることによる、疾患の発症を予防するかもしくは遅延させることによる、および/またはさらに、疾患の症状の重症度もしくは頻度を低下させることによる、所望の疾患もしくは状態を処置するのに、回復させるのに、もしくは予防するのに有効であるか、または検出可能な治療的効果もしくは予防的効果を示すのに有効である、治療用融合タンパク質または関連した薬学的組成物の量をいう。治療有効量は、通常、複数の単位用量を含みうる投薬レジメンにおいて投与される。任意の特定の治療用融合タンパク質について、治療的有効量(および/または有効な投薬レジメン内において適切な単位用量)は、例えば、投与経路、他の薬剤との組み合わせに応じて、変わりうる。また、任意の特定の患者に対する特定の治療的有効量(および/または単位用量)は、処置される障害および障害の重症度; 用いられる特定の薬剤の活性; 用いられる特定の組成物; 患者の齢、体重、全般的な健康状態、性別および食餌; 投与時間、投与経路および/または用いられる特定の融合タンパク質の排出速度もしくは代謝速度; 処置の期間; ならびに医学分野において周知であるような類似の因子を含む種々の因子に依存しうる。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「処置」(また「処置する」または「処置すること」)という用語は、特定の疾患、障害、および/または状態の1つまたは複数の症状または特徴を、部分的または完全に緩和する、回復させる、軽減する、阻害する、その発症を遅延する、その重症度を低減するおよび/またはその発生頻度を低減する、治療用融合タンパク質または該治療用融合タンパク質を含む薬学的組成物の任意の投与をいう。そのような処置は、関連性のある疾患、障害および/もしくは状態の徴候を示さない対象、ならびに/または疾患、障害および/もしくは状態の初期の徴候だけを示す対象のものでありうる。
【0035】
代替的にまたはさらに、そのような処置は、関連性のある疾患、障害、および/または状態の1つまたは複数の立証された徴候を示す対象のものでありうる。例えば、処置とは、心臓状態の改善(例えば、拡張末期および/もしくは収縮末期の容積の増加、または例えば、ポンペ病に典型的に見られる進行性の心筋症の低減、回復、もしくは予防)または肺機能の改善(例えば、ベースラインの能力を超える啼泣時肺活量の増加、および/または啼泣中の酸素脱飽和の正常化); 神経発生および/または運動技能の改善(例えば、AIMSスコアの増加); 疾患に冒されている個体の組織における蓄積(例えば、グリコサミノグリカン(GAG))レベルの低減; またはこれらの効果の任意の組み合わせをいうことができる。いくつかの態様において、処置は、GAGクリアランスの改善、特にMPS IIIB (サンフィリッポB症候群)関連の神経症状の低減または予防を含む。
【0036】
「安定な」または「安定化された」タンパク質含有製剤は、その中のタンパク質成分が、経時的な貯蔵の際にその物理的、機能的、および/または化学的安定性を本質的に保持するものである。選択された期間、選択された温度で安定性を測定することができる。好ましくは、製剤は室温(約30℃)でまたは40℃で少なくとも1、3、6、もしくは12ヶ月またはそれ以上の間、安定であり、約2~8℃で少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36、42、もしくは48ヶ月またはそれ以上の間、安定であるか、あるいは-30℃、-40℃または-60℃のいずれかで少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36、42、もしくは48ヶ月またはそれ以上の間、安定である。1つの局面において、貯蔵中のタンパク質分解または凝集の程度は、タンパク質安定性の指標として用いることができる。したがって、「安定な」製剤は、タンパク質成分の約20%未満、より好ましくは約10%未満、および最も好ましくは約5%、4%、3%、2%、または1%未満が製剤中に非分解形態または非凝集形態で存在するものでありうる。「安定な」製剤は、新しく調製された製剤と本質的に同じ機能的もしくは治療的特性、または同じ物理的および/もしくは化学的完全性を保持する。タンパク質安定性を測定するためのさまざまな分析技法が当技術分野において利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)およびJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)に概説されている。
【0037】
対象のCSFへの薬学的組成物の脊髄内投与に関連して「等積」とは、指定された容量の薬学的組成物の投与前に、ほぼ同じ容量のCSFが対象から除去され、それによって処置されている対象のCSF区画内にほぼ同じ容量の流体を維持することを意味する。
【0038】
本出願において用いられる場合、「約」および「ほぼ」という用語は、等価物として用いられる。約/ほぼを伴うまたは伴わない、本出願において用いられる任意の数詞は、関連分野の当業者によって認識される通常の任意の変動を網羅することを意図されている。
【0039】
開示の詳細な説明
本開示は、GILT技術に基づく治療用融合タンパク質の効率的なリソソームターゲティングのための組成物、製剤、および方法を提供する。とりわけ、本開示は、リソソーム蓄積障害の処置のためのリソソームターゲティングペプチドを用いて、治療用リソソーム酵素をリソソームへとターゲティングさせるための方法および組成物を提供する。本開示はまた、IGF-I受容体に対する結合親和性を低減もしくは減少させたおよび/またはインスリン受容体に対する結合親和性を低減もしくは減少させたリソソームターゲティングペプチド、ならびに/あるいはフリン切断に耐性であるリソソームターゲティングペプチドを用いてリソソーム酵素をリソソームへとターゲティングさせるための方法および組成物を提供する。本開示はまた、リソソーム酵素融合タンパク質の産生およびリソソームへの取り込みの改善を提供する、リソソーム酵素とIGF-IIとスペーサーペプチドとを含むターゲティングリソソーム酵素融合タンパク質を提供する。本開示はまた、ターゲティングされたリソソーム酵素融合タンパク質を含む製剤およびリソソーム蓄積症の処置または予防のためのその使用を提供する。
【0040】
本開示のさまざまな局面は、以下の項において詳細に記述される。項の使用は、本開示を限定することを意味するものではない。各項は、本開示の任意の局面に適用することができる。本出願において、「または」の使用は、特に明記しない限り「および/または」を意味する。
【0041】
リソソーム酵素
本開示の治療用融合タンパク質または製剤への組み入れに適したリソソーム酵素は、哺乳動物リソソーム中の蓄積材料を低減させることができるか、または1つもしくは複数のリソソーム蓄積症症状を救出もしくは回復できる任意の酵素を含む。適切なリソソーム酵素は、野生型リソソーム酵素または改変されたリソソーム酵素(およびその機能的断片)の両方を含み、組み換え方法もしくは合成方法を用いて産生されることができるか、または天然の供給源から精製されることができる。例示的なリソソーム酵素を表1に列挙する。
【0042】
(表1)リソソーム蓄積症および関連するリソソーム蓄積症
【0043】
いくつかの態様において、本明細書において企図されるリソソーム酵素は、哺乳動物のリソソームにおいて機能的である、すなわち、蓄積された材料、例えばGAGを低減させることができるか、または1つもしくは複数のリソソーム蓄積症の症状を救出もしくは回復することができる、タンパク質をコードしながらも、表1に示されるヒト酵素の天然アミノ酸配列、またはその成熟型と、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および100%を含めて、約90%~約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。上記の酵素の配列は、当業者に公知であり、米国国立医学図書館によって維持される全米バイオテクノロジー情報センターのような、公的データベースを通して利用可能である。
【0044】
対象アミノ酸配列および参照アミノ酸配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要に応じて、最大の配列同一性パーセントを達成するようにギャップを導入した後の、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない、関連する参照配列中のアミノ酸残基と同一である、対象配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、例えば、BLAST、ALIGN、またはMegalign (DNASTAR)ソフトウェアのような公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて、当技術分野の技術の範囲内であるさまざまな方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長に対して最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めて、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。好ましくは、WU-BLAST-2ソフトウェアが、アミノ酸配列同一性を決定するために用いられる(Altschul et al., Methods in Enzymology 266, 460-480 (1996)。WU-BLAST-2はいくつかの検索パラメータを用い、そのほとんどがデフォルト値に設定される。調整可能なパラメータは、以下の値に設定される: オーバーラップスパン(overlap span)=1、オーバーラップフラクション(overlap fraction)=0.125、ワード(world)閾値(T)=11。HSPスコア(S)およびHSP S2パラメータは、動的な値であり、特定の配列の組成に応じて、そのプログラム自体によって確定されるが、しかしながら、最小値は、調整されてもよく、上に示したように設定される。他の態様において、2つの核酸またはアミノ酸配列の間の配列同一性%は、http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/で利用可能なNeedle (EMBOSS)またはStretcher (EMBOSS)グローバル配列アライメントツールを用いその中に組み込まれたデフォルトパラメータ(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を用いて決定することができる。
【0045】
α-N-アセチルグルコサミニダーゼ
α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、Nagluは、成熟型にプロセッシングされる前駆体分子として産生される。このプロセスは一般に、タンパク質が小胞体に入るときに23アミノ酸のシグナルペプチドを除去することによって行われる。典型的には、前駆体型は、743個のアミノ酸を含む完全長前駆体または完全長Nagluタンパク質ともいわれる。前駆体タンパク質が小胞体に入ると、N末端23アミノ酸が切断され、プロセッシング型または成熟型を生じる。したがって、天然完全長ヒトNagluタンパク質のN末端23アミノ酸は一般に、Nagluタンパク質活性に必要とされないことが企図される。ヒトNagluタンパク質の成熟型のアミノ酸配列を
図1に示し、SEQ ID NO:1に示す。ヒトNagluのmRNA配列は、Genbankアクセッション番号NM_000263に記述されている。本開示のさまざまな態様において、Nagluは、関連するシグナル配列を有する(アミノ酸番号1~743)または有しない(アミノ酸番号24~743)、ヒトNagluである。好ましい態様において、治療用融合タンパク質に組み込まれたNagluリソソーム酵素は、
図1 (SEQ ID NO:1)に示されるアミノ酸配列を有する。特に好ましい態様において、Naglu含有融合タンパク質は、
図2 (SEQ ID NO:5)に示されるアミノ酸配列を有する。他の態様において、融合タンパク質は、長さが一般に少なくとも100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、もしくは700個またはそれ以上のアミノ酸である成熟ヒトNagluタンパク質の機能的断片を含む。
【0046】
ムコ多糖症III B (サンフィリッポB症候群)
1つの例示的なリソソーム蓄積症は、サンフィリッポB型症候群としても公知の、ムコ多糖症III B (MPS IIIB)疾患である。サンフィリッポB症候群であるMPS IIIBは、酵素α-N-アセチル-グルコサミニダーゼ(Naglu)の欠損を特徴とする稀有な常染色体劣性遺伝性疾患である。この酵素が存在しない場合、グリコサミノグリカン(GAG)、例えばGAGヘパラン硫酸、および部分的に分解されたGAG分子は体内から除去されず、さまざまな組織のリソソームに蓄積し、結果として進行性の広範な体細胞機能障害を生じうる(Kakkis et al., N Engl J Med. 344(3):182-8 (2001))。GAGはニューロンおよびグリア細胞のリソソームに蓄積し、脳外に蓄積は少ないことが示されている。
【0047】
MPS IIIA、B、C、およびDと名付けられた4つの別個の形態のMPS IIIが同定されている。各々は、GAGヘパラン硫酸の分解に関与する4つの酵素のうちの1つの欠損を表す。全ての形態は、ザラザラした顔の特徴、肝脾腫、角膜の白濁および骨格の変形を含む、同じ臨床症状の程度の差異を含む。しかし、最も顕著なのは、ニューロンにおけるヘパラン硫酸の蓄積だけでなく、初回のGAG蓄積によって引き起こされるガングリオシドGM2、GM3、およびGD2のその後の増大に結びつく認知能力の重度のおよび進行性の喪失である(Walkley et al., Ann NY Acad Sci. 845:188-99 (1998))。
【0048】
サンフィリッポB症候群の特徴的な臨床的特徴は、中枢神経系(CNS)変性であり、その結果、主要な発達の診査事項の喪失、または主要な発達の診査事項を達成できないことに終わる。進行性の認知低下は、認知症および若年死に至る。この疾患は、典型的には、幼児期に現れ、罹患した個体の寿命は一般に、10代後半から20代前半を超えない。
【0049】
MPS III疾患は全て、幼い子供に典型的に現れる同様の症状を有する。病気に冒された幼児は明らかに正常であるが、軽度の顔面異形性が目立つことがある。他のムコ多糖症に典型的な硬直した関節、馬蹄形および粗毛は、通常、疾患の後期まで存在しない。初期の症状のない期間の後、患者は通常、発達の遅れおよび/または行動の問題を呈し、続いて進行性の知的低下が起こり、重度の認知症および進行性運動疾患を生じる。発話能力の会得は、多くの場合、遅く、不完全である。この疾患は、かんしゃく、活動亢進、破壊性、攻撃的行動、異食症および睡眠障害を含む行動障害の増加に進行する。病気に冒された子供は正常な筋力と可動性を有するので、行動障害は管理するのが非常に困難である。病気の最終段階では、子供達はますます不動で無反応になり、多くの場合、車椅子を必要とし、嚥下困難や発作を起こす。病気に冒された子供の寿命は、通常、10代後半から20代前半を超えない。
【0050】
MPS IIIB (サンフィリッポB症候群)を処置するのに適したα-N-アセチルグルコサミニダーゼ酵素は、野生型ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ、哺乳動物リソソームに取り込まれ、線形オリゴ糖中の末端N-アセチル-D-グルコサミン残基のα1,4結合を加水分解する能力を保持するその機能的断片もしくは配列変種または野生型ヒトNaglu酵素もしくはその機能的断片を含むターゲティングされた治療用融合タンパク質を含む。特定の態様において、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるタンパク質は、MPS IIIBの処置のための用途が見つかるであろう。
【0051】
本明細書において記述されるターゲティングされた治療用融合タンパク質を用いたMPS IIIBの処置の有効性は、当技術分野において公知の技法を用いて、ならびにリソソームおよびニューロンのバイオマーカーの分析によって測定することができる。初期の実験は、Nagluノックアウト動物で行われる(Li et al., Proc Natl Acad Sci USA 96:14505-510 (1999)を参照のこと)。Nagluノックアウトは、肝臓および腎臓中の多量のヘパラン硫酸、ならびに脳内のガングリオシドの増大を呈する。
【0052】
アッセイ法には、外因性酵素の活性および生体内分布、リソソームにおける、特に脳細胞におけるGAG蓄積の低減、ならびに星状細胞およびミクログリアの活性化の分析が含まれる。さまざまなリソソームまたはニューロンのバイオマーカーのレベルは、リソソーム関連膜タンパク質1 (LAMP1)、グリピカン、ガングリオシド、コレステロール、ミトコンドリアATPシンターゼ(SCMAS)のサブユニットc、ユビキチン、P-GSK3b、βアミロイドおよびP-タウを含むが、これらに限定されることはない。生存および行動分析もまた、当技術分野において公知の技法を用いて行われる。
【0053】
さまざまな態様において、リソソーム蓄積症の処置は、さまざまな組織におけるリソソーム蓄積の(例えば、GAGの)減少をいう。さまざまな態様において、処置とは、脳標的組織、脊髄ニューロン、および/または末梢標的組織におけるリソソーム蓄積の減少をいう。ある種の態様において、リソソーム蓄積は、未処置対照の対象と比較して約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、またはそれ以上の分だけ減少する。さまざまな態様において、リソソーム蓄積は、対照の対象と比較して少なくとも1/1、1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、またはそれ以上の分だけ減少する。
【0054】
さまざまな態様において、処置は、さまざまな組織における酵素活性の増加をいう。さまざまな態様において、処置とは、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織における酵素活性の増加をいう。さまざまな態様において、酵素活性は、対照と比較して約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれ以上の分だけ増加する。さまざまな態様において、酵素活性は、対照と比較して少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、またはそれ以上の分だけ増加する。さまざまな態様において、酵素活性の増加は少なくともおよそ10 nmol/時間/mg、20 nmol/時間/mg、40 nmol/時間/mg、50 nmol/時間/mg、60 nmol/時間/mg、70 nmol/時間/mg、80 nmol/時間/mg、90 nmol/時間/mg、100 nmol/時間/mg、150 nmol/時間/mg、200 nmol/時間/mg、250 nmol/時間/mg、300 nmol/時間/mg、350 nmol/時間/mg、400 nmol/時間/mg、450 nmol/時間/mg、500 nmol/時間/mg、550 nmol/時間/mg、600 nmol/時間/mgまたはそれ以上である。さまざまな態様において、リソソーム酵素はNagluである。
【0055】
酵素補充療法
酵素補充療法(ERT)は、欠けている酵素を患者の血流または他の身体組織の中に注入することによって酵素欠損を是正する治療戦略である。その血液が患者組織を灌流すると、酵素は、細胞により取り込まれてリソソームに運搬され、そこでその酵素は、酵素欠損に起因してリソソーム内に蓄積された材料を除去するように作用する。リソソーム酵素補充療法が有効であるためには、貯蔵欠陥が明らかな組織において適切な細胞内のリソソームに治療用酵素が送達されなければならない。従来のリソソーム酵素置き換え療法は、標的細胞の表面上の特異的受容体と会合する、タンパク質に天然に結合している炭水化物を用いて送達される。1つの受容体、カチオン非依存性M6P受容体(CI-MPR)は、CI-MPRがほとんどの細胞型の表面に存在するため、置き換えリソソーム酵素をターゲティングするために特に有用である。
【0056】
「カチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体(CI-MPR)」、「M6P/IGF-II受容体」、「CI-MPR/IGF-II受容体」、「IGF-II受容体」、もしくは「IGF2受容体」という用語またはそれらの略語は、本明細書において互換的に用いられ、M6PおよびIGF-IIの両方に結合する細胞受容体をいう。
【0057】
グリコシル化非依存性リソソームターゲティング
治療用酵素をリソソームへとターゲティングさせるために、グリコシル化非依存性リソソームターゲティング(GILT)技術が開発された。具体的には、GILT技術は、リソソームターゲティングのために、M6Pの代わりに、CI-MPRと会合するペプチドタグを用いる。典型的には、GILTタグは、マンノース-6-リン酸非依存的な様式でCI-MPRに結合する、タンパク質、ペプチドまたは他の部分である。都合の良いことに、この技術は、リソソーム酵素の取り込みのための正常な生物学的機構を模倣するが、マンノース-6-リン酸に非依存的な様式で模倣するものである。
【0058】
好ましいGILTタグは、ヒトインスリン様成長因子II (IGF-II)に由来する。ヒトIGF-IIは、IGF-II受容体ともいわれるCI-MPRに対する高親和性リガンドである。GILTタグ標識された治療用酵素のM6P/IGF-II受容体への結合により、そのタンパク質をエンドサイトーシス経路を介してリソソームへとターゲティングさせる。このタンパク質はいったん単離されると、さらに修飾を行う必要がないので、この方法は、グリコシル化を伴う方法よりも、容易さおよび費用効果の高さを含めて数多くの利点を有する。
【0059】
GILT技術およびGILTタグの詳細な説明は、米国特許出願公開第2003-0082176号、同第2004-0006008号、同第2003-0072761号、同第2005-0281805号、同第2005-0244400号、米国特許第8,492,337号および同第8,563,691号、ならびに国際公報WO 03/032913、WO 03/032727、WO 02/087510、WO 03/102583、WO 2005/078077、WO 2009/137721およびWO 2014/085621において見出すことができ、これらの全ての開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0060】
さまざまな態様において、GILTタグは、SEQ ID NO:3として本明細書に示されるアミノ酸配列を有するフリン耐性GILTタグである(例えば、米国特許第8,563,691号を参照のこと)。
【0061】
インスリン受容体に対する結合親和性
フリン耐性IGF-II突然変異タンパク質を含む多くのIGF-II突然変異タンパク質は、インスリン受容体に対する結合親和性を低減または減少させた。したがって、いくつかの態様において、本開示に適したペプチドタグは、インスリン受容体に対する天然に存在するヒトIGF-IIの親和性と比べて、インスリン受容体に対する結合親和性を低減または減少させた。いくつかの態様において、本開示に適したインスリン受容体に対する結合親和性を低減または減少させたペプチドタグは、野生型成熟ヒトIGF-IIのものの1/1.5、1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、1/12、1/14、1/16、1/18、1/20、1/30、1/40、1/50、1/60、1/70、1/80、1/90、または1/100を下回るインスリン受容体に対する結合親和性を有するペプチドタグを含む。インスリン受容体に対する結合親和性は、当技術分野において公知のさまざまなインビトロおよびインビボアッセイ法を用いて測定することができる。
【0062】
治療用タンパク質および製剤の投与
本開示によれば、本開示の治療用融合タンパク質は、典型的には、単独で、または本明細書において記述されるように、治療用タンパク質を含む組成物もしくは医薬において(例えば、疾患の処置のための医薬の製造において)、個体に投与される。組成物を1つまたは複数の生理学的に許容される担体または賦形剤とともに製剤化して、薬学的組成物を調製することができる。担体および組成物は無菌であることができる。製剤は投与様式に適合すべきである。
【0063】
適切な薬学的に許容される担体には、水、塩溶液(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロースまたはデンプンのような炭水化物、マンニトール、スクロースまたはその他のような糖、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘稠性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されることはない。薬学的調製物は、所望であれば、活性化合物と有害に反応しないかまたはその活性を干渉しない、補助剤(例えば、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響するための塩、緩衝液、着色剤、香味料および/または芳香物質など)と混合することができる。
【0064】
前記組成物または前記医薬は、所望であれば、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。該組成物は、液体の溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放製剤または粉末であることができる。該組成物は、従来の結合物質およびトリグリセリドのような担体を用い、坐剤として製剤化することもできる。経口製剤は、薬剤等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような標準的な担体を含むことができる。
【0065】
一般的に、前記成分は、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェのような密閉容器中で別個に供給されるか、または単位剤形中に、例えば、乾燥した凍結乾燥粉末もしくは水を含まない濃縮物として、一緒に混合される。組成物が注入によって投与される場合、無菌の薬剤等級の水、生理食塩水またはデキストロース/水を含有する注入ボトルを用いて分配することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与の前にその成分が混合されうるように、注射用の滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0066】
前記治療用タンパク質は、中性または塩の形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどの遊離アミノ基で形成されるもの、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離カルボキシル基で形成されるものが含まれる。
【0067】
治療用タンパク質(または治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)は、任意の適切な経路によって投与される。さまざまな態様において、治療用タンパク質は静脈内に投与される。他の態様において、治療用タンパク質は、心臓もしくは筋肉(例えば、筋肉内)、または神経系(例えば、脳、CNS、CSFへの直接注射; 脳室内; 髄腔内)のような、標的組織への直接投与によって投与される。さまざまな態様において、治療用タンパク質は髄腔内に投与される。治療用融合タンパク質の髄腔内投与のための方法は、当技術分野において公知である(例えば、米国特許第7,442,372号および同第9,044,473号を参照のこと)。あるいは、治療用タンパク質(または治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)は、非経口的、経皮的または経粘膜的(例えば、経口的もしくは経鼻的)に投与することができる。所望であれば、2つ以上の経路を同時に用いることができ、例えば、治療用タンパク質は静脈内および髄腔内に投与される。同時の静脈内投与および髄腔内投与は、同時である必要はなく、逐次的であってもよい。
【0068】
治療用タンパク質(または治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)は単独で、あるいは、ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン)もしくは免疫抑制剤または抗GILTタグ標識されたリソソーム酵素抗体を打ち消す他の免疫療法剤のような、他の剤とともに投与することができる。「とともに」という用語は、該剤が、治療用タンパク質(または治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)の前に、それとほぼ同時に、またはその後に投与されることを示す。例えば、該剤を、治療用タンパク質を含有する組成物の中に混合し、それによって、治療用タンパク質と同時に投与することができるか; あるいは該剤は、混合せずに(例えば、治療用タンパク質も投与される静脈ライン上での該剤の、またはその逆の「ピギーバック(piggybacking)」送達によって)、同時に投与することができる。別の例では、該剤は、別々に(例えば、混合されずに)、しかし治療用タンパク質の投与の短い時間枠内(例えば、24時間以内)に投与することができる。
【0069】
前記治療用タンパク質(または治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)は、治療的有効量(すなわち、一定間隔で投与される場合に、例えば、疾患に関連する症状を回復させることによる、疾患の発症を予防するかもしくは遅延させることによる、および/またはさらに、上記のように、疾患の症状の重症度もしくは頻度を低下させることによる、疾患の処置に十分な投与量)で投与される。疾患の処置のために治療的に有効である用量は、疾患の影響の性質および程度に依存し、標準的な臨床上の技法によって決定することができる。さらに、当技術分野において公知の方法を用いて最適な投与量の範囲を特定するのを助けるために、インビトロまたはインビボアッセイ法が任意で用いられてもよい。用いられる正確な用量も、投与経路、および疾患の重症度に依存し、施術者の判断および各患者の状況にしたがって決定されるべきである。有効な用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から導出された用量反応曲線から外挿されうる。さまざまな態様において、治療的に有効な投与量は、例えば、約0.1~1 mg/kg、約1~5 mg/kg、約2.5~20 mg/kg、約5~20 mg/kg、約20~50 mg/kgもしくは約20~100 mg/kgもしくは約50~200 mg/kg、または約2.5~20 mg/kg体重であることができる。特定の個体のための有効な用量は、個体の必要性に応じて、経時的に変化させる(例えば、増加または減少させる)ことができる。例えば、体の病気もしくはストレスの際に、または疾患の症状が悪化した場合に、投与量を増加させることができる。
【0070】
前記治療用タンパク質(または前記治療用タンパク質を含有する組成物もしくは医薬)の治療的有効量は、疾患の影響の性質および程度に応じて、一定間隔で、および継続的に投与される。
【0071】
本明細書において用いられる「間隔」をおいた投与は、治療的有効量が(1回の投薬とは区別されて)周期的に投与されることを示す。間隔は、標準的な臨床技法によって決定することができる。いくつかの態様において、治療用タンパク質は、隔月、毎月、月2回、3週間ごと、隔週、毎週、週2回、週3回、または毎日投与される。単一の個体のための投与間隔は、固定された間隔である必要はないが、個体の必要性に応じて、経時的に変化させることができる。例えば、体の病気もしくはストレスの際に、または疾患の症状が悪化した場合に、投薬の間隔を減らすことができる。
【0072】
本明細書において用いられる場合、「隔月」という用語は、2ヶ月に1回(すなわち、2ヶ月ごとに1回)の投与を意味し; 「毎月」という用語は1ヶ月に1回の投与を意味し; 「3週間ごと」という用語は、3週間に1回(すなわち、3週間ごとに1回)の投与を意味し; 「隔週」という用語は、2週間に1回(すなわち、2週間ごとに1回)の投与を意味し; 「毎週」という用語は、週に1回の投与を意味し;かつ「毎日」という用語は1日1回の投与を意味する。
【0073】
本開示はさらに、本明細書において記述される方法によるような、ムコ多糖症IIIB型(サンフィリッポB症候群)の処置に向けた組成物の投与のための指示を含むラベルを有する容器(例えば、バイアル、ボトル、静脈内投与用のバッグ、注射器など)内の、本明細書において記述されるような、治療用タンパク質を含む薬学的組成物に関する。
【0074】
ある種の態様において、本開示は、リソソーム酵素、ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質またはその機能的断片を含む製剤を対象にする。いくつかの態様において、そのような製剤は液体製剤、好ましくは髄腔内投与に適した液体製剤である。他の態様において、製剤は、凍結乾燥した製剤であってもよいか、または予め凍結乾燥した製剤から再構成された液体製剤であってもよい。
【0075】
さまざまな態様において、本開示の製剤は、約0.1 mg/ml~約300 mg/ml、または約1 mg/ml~約75 mg/ml、または約5 mg/ml~約50 mg/ml、または約10 mg/ml~約40 mg/ml、または約20 mg/ml~約40 mg/ml、または約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度範囲でリソソーム酵素、ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質またはその機能的断片を含む。ある種の態様において、リソソーム酵素、その融合タンパク質または断片は、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、もしくは300 mg/mlまたはそれ以上の濃度で、あるいは約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、もしくは300 mg/mlまたはそれ以上までの濃度で存在しうる。さまざまな態様において、本開示の製剤は、約30 mg/mlの濃度でリソソーム酵素、ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質またはその機能的断片を含む。さまざまな態様において、リソソーム酵素、ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質またはその機能的断片は、
図2に示されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:5)と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%またはそれ以上の配列同一性を有する。より好ましくは、リソソーム酵素、ターゲティングされた治療用リソソーム酵素融合タンパク質またはその機能的断片は、
図2に示されるアミノ酸配列(SEQ ID NO:5)を有するBMN001である。
【0076】
さらなる態様において、本開示の製剤は、製剤のpHを所望の範囲内に維持するのに有用な1つまたは複数の緩衝剤を含む。好ましい態様において、本開示の液体製剤のpHは、約5.0~約9.0、または約5.5~約8.5、または約6.0~約8.0、または約6.5~約7.5、または約6.8~約7.2の範囲内である。より好ましくは、本開示の液体製剤のpHは約7.0である。さまざまな緩衝剤およびタンパク質含有製剤におけるそれらの使用は、当技術分野において周知であり、本開示の液体製剤における用途が見つかる緩衝剤の非限定的な例としては、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、およびリン酸二ナトリウム七水和物などが挙げられる。
【0077】
本開示の製剤において用いられる場合、リン酸一ナトリウム一水和物の濃度は好ましくは、約0.005 mg/ml~約0.1 mg/ml、または約0.01 mg/ml~約0.1 mg/ml、または約0.02 mg/ml~約0.08 mg/ml、または約0.03 mg/ml~約0.05 mg/mlに及ぶ。特に好ましい態様において、リン酸一ナトリウム一水和物の濃度は、約0.04 mg/mlである。
【0078】
本開示の製剤において用いられる場合、リン酸二ナトリウム七水和物の濃度は好ましくは、約0.005 mg/ml~約0.5 mg/ml、または約0.01 mg/ml~約0.5 mg/ml、または約0.05 mg/ml~約0.4 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.4 mg/ml、または約0.15 mg/ml~約0.25 mg/mlに及ぶ。特に好ましい態様において、リン酸二ナトリウム七水和物の濃度は、約0.19 mg/mlである。
【0079】
さらなる態様において、本開示の製剤は、所望の等張性を維持し、製剤を対象への投与、特に髄腔内投与にいっそう適合性にさせるのに有用な1つまたは複数の等張性物質を含む。さまざまな等張性物質およびタンパク質含有製剤におけるそれらの使用は、当技術分野において周知であり、本開示の液体製剤における用途が見つかる等張性物質の非限定的な例としては、例えば、塩化ナトリウム、トレハロース、マンニトール、デキストロース、グルコース、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、エタノールなどが挙げられる。特定の態様において、トレハロースは、約3% (w/v)~約10% (w/v)、約3% (w/v)~約5% (w/v)または約7% (w/v)~約9% (w/v)の範囲で用いられる。好ましい態様において、トレハロースは、約8% (w/v)で用いられる。別の好ましい態様において、トレハロースは、約4% (w/v)で用いられる。
【0080】
さまざまな態様において、製剤は、(例えば、ガラスまたはプラスチックへのタンパク質成分の吸着を軽減するために、ならびに凝集体および多量体の形成を減少させるために)抗吸着剤を含有する。抗吸着剤は、非限定的に、ベンジルアルコール、ポリソルベート20、およびポリソルベート80を含む。ある種の態様において、抗吸着剤は、約0.001%~約0.5%、または約0.01%~約0.5%、または約0.1%~約1%、または約0.5%~約1%、または約0.5%~約1.5%、または約0.5%~約2%、または約1%~約2%の濃度である。いくつかの態様において、抗吸着剤は、約0.004%~約0.006%の範囲のポリソルベート20である。好ましい態様において、ポリソルベート20は、0.005%で用いられる。
【0081】
本開示の製剤において用いられる場合、塩化ナトリウムの濃度は好ましくは、約0.5 mg/ml~約20 mg/ml、または約2 mg/ml~約15 mg/ml、または約5 mg/ml~約10 mg/ml、または約7 mg/ml~約10 mg/ml、または約8 mg/ml~約9 mg/mlに及ぶ。好ましい態様において、塩化ナトリウムの濃度は約0.88 mg/mlである。別の好ましい態様において、塩化ナトリウムの濃度は約5 mg/mlである。
【0082】
さらなる態様において、本開示の製剤は、対象の脳脊髄液(CSF)における重要な電解質のレベルを維持するために、またはヒトCSFの天然組成を模倣するために有用な1つまたは複数の電解質物質を含む。さまざまな電解質物質およびタンパク質含有製剤におけるそれらの使用は、当技術分野において周知であり、本開示の液体製剤における用途が見つかる電解質物質の非限定的な例としては、例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、塩化カルシウム、塩化カルシウム二水和物などが挙げられる。
【0083】
本開示の製剤において用いられる場合、塩化カリウムの濃度は好ましくは、約0.01 mg/ml~約1 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.5 mg/ml、または約0.2 mg/ml~約0.8 mg/ml、または約0.15 mg/ml~約0.4 mg/ml、または約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlに及ぶ。好ましい態様において、塩化カリウムの濃度は約0.22 mg/mlである。
【0084】
本開示の製剤において用いられる場合、塩化マグネシウム六水和物の濃度は好ましくは、約0.01 mg/ml~約1 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.8 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.5 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.3 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.2 mg/mlに及ぶ。好ましい態様において、塩化マグネシウム六水和物の濃度は約0.16 mg/mlである。
【0085】
本開示の製剤において用いられる場合、塩化カルシウム二水和物の濃度は好ましくは、約0.01 mg/ml~約1 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.8 mg/ml、または約0.1 mg/ml~約0.5 mg/ml、または約0.15 mg/ml~約0.4 mg/ml、または約0.15 mg/ml~約0.3 mg/mlに及ぶ。好ましい態様において、塩化カルシウム二水和物の濃度は約0.21 mg/mlである。
【0086】
好ましい態様において、本開示の製剤は、BMN001ターゲティングされた治療用融合タンパク質と、1つまたは複数の緩衝剤と、1つまたは複数の等張性物質と、1つまたは複数の電解質物質とを含む液体製剤である。より好ましくは、液体製剤は、BMN001、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、およびトレハロースを含む。1つの態様において、液体製剤は約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のBMN001、約0.15~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.02 mg/ml~約0.06 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約0.8 mg/ml~約1 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、および約7% (w/v)~約9% (w/v)のトレハロースを含む。1つの好ましい態様において、液体製剤は約30 mg/mlの濃度のBMN001、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約0.88 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、および約8% (w/v)のトレハロースを含む。好ましくは、液体製剤は約pH 7.0である。
【0087】
別の好ましい態様において、本開示の製剤は、BMN001ターゲティングされた治療用融合タンパク質と、1つまたは複数の緩衝剤と、1つまたは複数の等張性物質と、1つまたは複数の電解質物質とを含む液体製剤である。より好ましくは、液体製剤は、BMN001、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、塩化ナトリウム、トレハロース、およびポリソルベート20を含む。1つの態様において、液体製剤は約25 mg/ml~約35 mg/mlの濃度のBMN001、約0.15~約0.25 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.02 mg/ml~約0.06 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約4.5 mg/ml~約5.5 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約3% (w/v)~約5% (w/v)のトレハロース、および約0.004%~約0.006%のポリソルベート20を含む。1つの好ましい態様において、液体製剤は約30 mg/mlの濃度のBMN001、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約5 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約4% (w/v)のトレハロース、および約0.005%のポリソルベート20を含む。好ましくは、液体製剤は約pH 7.0である。
【0088】
さまざまな態様において、製剤は保存料を含みうる。保存料には、m-クレゾールおよびベンジルアルコールが含まれるが、これらに限定されることはない。ある種の態様において、保存料は約0.4% ± 0.2%、または約1% ± 0.5%、または約1.5% ± 0.5%、または約2.0% ± 0.5%の濃度である。本開示のある種の態様において、製剤は保存料を含有しない。
【0089】
さまざまな態様において、製剤は安定剤を含む。安定剤の非限定的な例としては、グリセリン、グリセロール、チオグリセロール、メチオニン、およびアスコルビン酸ならびにその塩が挙げられる。いくつかの態様において、安定剤がチオグリセロールもしくはアスコルビン酸またはその塩である場合、安定剤は約0.1%~約1%の濃度である。他の態様において、安定剤がメチオニンである場合、安定剤は約0.01%~約0.5%、または約0.01%~約0.2%の濃度である。さらに他の態様において、安定剤がグリセリンである場合、安定剤は約5%~約100% (正味)の濃度である。
【0090】
さまざまな態様において、組成物は酸化防止剤を含有する。例示的な酸化防止剤としては、非限定的に、メチオニンおよびアスコルビン酸が挙げられる。ある種の態様において、酸化防止剤とタンパク質とのモル比は、約0.1:1~約15:1、または約1:1~約15:1、または約0.5:1~約10:1、または約1:1~約10:1または約3:1~約10:1である。
【0091】
薬学的に許容される塩は、非限定的に鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩)、有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩)およびアミンの塩(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジエタノールアミン)を含め、製剤において用いることができる。薬学的に許容される塩の徹底的な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Company, (Easton, Pennsylvania (1990)) において見出される。
【0092】
髄腔内またはICV送達に有用な他の規定の添加物および組成物の例は、WO2013/096899に記述されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0093】
本開示の製剤は、安定であり、品質、有効性、または純度における許容できない変化なしに長期間貯蔵することができる。1つの局面において、製剤は、少なくとも1ヶ月間、例えば、少なくとも1ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、またはそれ以上の間、約5℃(例えば、2℃~8℃)の温度で安定である。別の局面において、製剤は、少なくとも6ヶ月間、例えば、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、少なくとも36ヶ月間、またはそれ以上の間、約-20℃以下の温度で安定である。別の局面において、製剤は、少なくとも6ヶ月間、例えば、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、少なくとも36ヶ月間、またはそれ以上の間、約-40℃以下の温度で安定である。別の局面において、製剤は、少なくとも6ヶ月間、例えば、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、少なくとも36ヶ月間、またはそれ以上の間、約-60℃以下の温度で安定である。
【0094】
本開示の適切な製剤には、液体製剤、凍結乾燥製剤、または再構成された凍結乾燥製剤が含まれる。さまざまな局面において、本開示の製剤は、1つの局面において、製剤の単一剤形を含みうる容器内に含有される。例示的な容器には、例えば、アンプル、バイアル、ボトル、カートリッジ、リザーバ、および予め充填された注射器が含まれる。
【0095】
薬学的に許容される製剤の髄腔内投与
さまざまな態様において、酵素、酵素融合タンパク質またはそれを含む製剤は、対象の中枢神経系への、例えば、対象の脳脊髄液への直接的導入によって投与される。本開示のある種の局面において、酵素は、髄腔内に、例えば、腰部もしくは大槽へ、または脳室内に(もしくは側脳室内に(ICV))脳室スペースへ導入される。リソソーム酵素または機能的リソソーム酵素を含む融合タンパク質を髄腔内にまたは脳室内に投与する方法は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第7,442,372号、同第9,044,473号、および同第9,089,566号に記述されている。
【0096】
当業者は、治療用組成物の髄腔内投与を達成するために用いられうる装置を承知している。例えば、治療は、髄膜がん腫症のために髄腔内投与するために一般的に用いられるOmmayaリザーバを用いて与えられうる(Ommaya et al., Lancet 2: 983-84 (1963))。より具体的には、この方法において、脳室チューブを前角に形成された穴に挿入し、頭皮の下に設置されるOmmayaリザーバに接続し、リザーバを皮下に穿刺して、リザーバに注入された、置換される特定の酵素を髄腔内に送達する。個体への治療用組成物の髄腔内投与のための他の装置は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,217,552号に記述されている。あるいは、組成物は、例えば、単回注射または持続注入によって、髄腔内に投与されうる。投薬処置は、単回用量の投与または複数回用量の形態でありうることが理解されるべきである。
【0097】
本明細書において用いられる場合、「髄腔内投与」という用語は、穿頭孔または椎間板もしくは腰椎穿刺による側脳室注射(すなわち、脳室内)などを含む技法により、対象の脳脊髄液へ直接的に薬学的組成物を送達することを含むよう意図される(Lazorthes et al. Advances in Drug Delivery Systems and Applications in Neurosurgery, 143-192 (1991)およびOmmaya et al., Cancer Drug Delivery 1:169-179 (1984)に記述されており、それらの内容は参照により本明細書に組み入れられる)。「腰部」という用語は、第3および第4の腰(背下部)椎間の領域、より包括的には、脊椎のL2-S1領域を含むよう意図される。
【0098】
「大槽」という用語は、頭蓋骨と脊柱の上部との間の開口部を介して小脳の周囲および下の空間へのアクセスを含むよう意図される。「脳室」という用語は、脊髄の中心管に連続する脳内の空洞を含むよう意図される。上記の部位のいずれかへの本開示による薬学的組成物の投与は、組成物の直接注射によってまたは注入ポンプの使用によって達成することができる。注射のために、本開示の組成物は、液体溶液中に、好ましくはハンクス液、リンゲル液またはリン酸緩衝液のような生理学的に適合性の緩衝液中に製剤化することができる。さらに、酵素は、固体形態で製剤化され、使用直前に再溶解または懸濁されてもよい。凍結乾燥形態も含まれる。注射は、例えば、酵素のボーラス注射または連続注入(例えば、注入ポンプを用いた)の形態であることができる。
【0099】
本開示のさまざまな態様において、酵素は、対象の脳への側脳室注射によって投与される。注射は、例えば、対象の頭蓋骨に作出された穿頭孔を通して行うことができる。別の態様において、酵素融合タンパク質および/または他の薬学的製剤は、外科的に挿入されたシャントを通して、対象の脳室に投与される。例えば、第3および第4のより小さい脳室への注射も行うことができるが、より大きい側脳室への注入を行うことができる。
【0100】
さまざまな態様において、本開示において用いられる薬学的組成物は、対象の大槽または腰部への注射によって投与される。本開示の方法の別の態様において、薬学的に許容される製剤は、薬学的に許容される製剤が対象に投与された後、少なくとも1、2、3、4週間またはそれより長い期間の対象への、本開示において用いられる酵素または他の薬学的組成物の持続送達、例えば「徐放」を提供する。
【0101】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、脳または脊髄の、1つまたは複数の表面または浅部組織に送達される。例えば、さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、大脳または脊髄の、1つまたは複数の表面または浅部組織に送達される。いくつかの態様において、大脳または脊髄の標的表面または標的浅部の組織は、大脳の表面から4 mm以内に位置する。いくつかの態様において、大脳の標的表面または標的浅部の組織は、軟膜組織、大脳皮質リボン組織、海馬、フィルヒョー・ロバン腔隙、VR腔隙内の血管、海馬、脳の下面の視床下部の部分、視神経および視索、嗅球および嗅突起、ならびにそれらの組み合わせから選択される。
【0102】
いくつかの態様において、治療用融合タンパク質は、大脳または脊椎の、1つまたは複数の深部組織に送達される。いくつかの態様において、大脳または脊椎の標的表面または標的浅部の組織は、大脳の表面から4 mm (例えば、5 mm、6 mm、7 mm、8 mm、9 mm、または10 mm)下に(内部に)位置する。いくつかの態様において、大脳の標的深部組織は、大脳皮質リボンを含む。いくつかの態様において、大脳の標的深部組織は、間脳(例えば、視床下部、視床、腹側視床および視床腹部など)、後脳、レンズ核、基底核、尾状核、被核、扁桃、淡蒼球、およびそれらの組み合わせの1つまたは複数を含む。
【0103】
さまざまな態様において、脊髄の標的表面または標的浅部の組織は、軟膜および/または白質路を含有する。さまざまな態様において、脊髄の標的深部組織は、脊髄灰白質および/または上衣細胞を含有する。いくつかの態様において、治療用融合タンパク質は、脊髄のニューロンに送達される。
【0104】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、小脳の1つまたは複数の組織に送達される。ある種の態様において、小脳の1つまたは複数の標的組織は、分子層の組織、プルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、小脳脚、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様において、治療用物質(例えば、酵素)は、プルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、深部小脳白質組織(例えば、顆粒細胞層に比べて深部)、および深部小脳核組織を含むが、これらに限定されない、小脳の1つまたは複数の深部組織に送達される。
【0105】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、脳幹の1つまたは複数の組織に送達される。いくつかの態様において、脳幹の1つまたは複数の標的組織は、脳幹白質組織および/または脳幹核組織を含む。
【0106】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、灰白質、白質、脳室周囲域、軟膜-くも膜、髄膜、新皮質、小脳、大脳皮質中の深部組織、分子層、尾状核/被殻領域、中脳、脳橋または髄質の深部領域、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、さまざまな脳組織に送達される。
【0107】
さまざまな態様において、治療用融合タンパク質は、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞を含むが、これらに限定されない、脳中のさまざまな細胞に送達される。いくつかの態様において、治療用タンパク質は、深部白質の乏突起膠細胞に送達される。
【0108】
ある種の好ましい態様において、ヒト対象におけるMPS IIIB疾患を処置するために、ヒト対象におけるMPS IIIBの少なくとも1つの症状(認知低下を含む)の低下率を低減するために、またはMPS IIIB疾患に罹患している対象のCNSの1つもしくは複数の組織におけるGAG蓄積を低減もしくは防止するために、約30 mg、100 mgもしくは300 mgの治療用融合タンパク質、または約30 mg~300 mg、30 mg~200 mg、もしくは30 mg~100 mgの治療用融合タンパク質が、少なくとも約24週間、好ましくは48週間の期間、週1回ICV (等積)投与される。
【0109】
開示の方法で用いるためのキット
本開示の方法において用いられる剤は、キット中で提供されてもよく、このキットは使用説明書をさらに含んでもよい。そのようなキットは、通常、宿主への投与に適した用量および製剤において、リソソーム蓄積症の処置で用いるための酵素およびリソソームターゲティング部分を含む、本明細書において記述されるリソソーム酵素または融合タンパク質を含む。さまざまな態様において、キットは、酵素を髄腔内に送達するための1つまたは複数の装置を含みうる。
【0110】
本開示のキットは、治療用組成物に加えて、本開示の治療用組成物の髄腔内投与のための説明書を含みうる。ある種の態様において、本開示のキットは、カテーテル、ポンプ、または本開示の治療用組成物を予め装填した酵素補充療法の髄腔内投与のための他の装置を含みうる。例えば、薬学的に許容される製剤中に、NagluおよびIGF-IIペプチドタグのような、リソソーム酵素およびリソソームターゲティング部分を含む治療用融合タンパク質0.001~0.01 mg、0.01~0.1 mg、0.1~1.0 mg、1.0~10 mg、10~100 mgまたはそれ以上を予め充填したカテーテルが具体的に企図される。例示的なカテーテルは、使用後に廃棄できる使い捨てのカテーテルを含みうる。
【0111】
ある種の態様において、本開示のキットは、以下の成分、エクステンションライン(例えば、Smiths Medical PN:536040)、インラインフィルタ(例えば、Smiths Medical PN:FS116)、ポート針(例えば、Smiths Medical PN:21-2737-24)、注射器(例えば、Becton Dickinson PN:309604)または注射針(例えば、Becton Dickinson PN:305196)の1つまたは複数を含みうる。
【0112】
サンフィリッポB症候群を処置するための方法
患者のCSFへのNaglu酵素またはその融合タンパク質(BMN001を含む)の髄腔内(例えば、ICVまたは腰椎)投与は、ヒトにおけるMPS IIIB疾患の1つまたは複数の症状または有害な結果の予防または処置に用いることができる。この点に関して、治療的有効量のNaglu酵素またはその融合タンパク質(BMN001を含む)の髄腔内投与は、MPS IIIB疾患の少なくとも1つの症状もしくは有害な結果の改善、MPS IIIBの少なくとも1つの症状もしくは有害な結果の進行の緩徐化もしくは低減またはMPS IIIBの少なくとも1つの症状もしくは有害な結果の低下の安定化をもたらすものと期待される。この点に関して、ヒトにおけるMPS IIIB疾患の既知の症状または有害な結果には、例えば、以下: 認知機能、言語機能、運動機能、社会感情機能、適応機能、概念思考、顔認識、ストーリー完成、パターン推論、および手の機能/器用さの1つまたは複数の検出可能な低下が含まれる。
【0113】
投与された酵素またはその融合タンパク質の治療効果を定量化するために、種々の周知のおよび慣用的に用いられる神経認知試験のいずれかを用いて、発達指数(DQ)スコアを導き出すことができる。1つの態様において、DQスコアは、認知機能DQスコアである。
【0114】
本開示の1つの態様において、ヒト対象のDQスコアは、Bayley Scales of Infant Development, 3rd Edition (BSID-III) (参照により本明細書に組み入れられるBayley, Bayley Scales of Infant and Toddler Development (Bayley-III). Technical Manual. Third ed. San Antonio: Psychological Corp., 2006)の使用によって得られうる。BSID-IIIは、1~42ヶ月齢の小児における発達機能を評価するよう意図された5つのドメイン(認知、言語、運動、社会感情および適応機能)から構成されるツールである。ある種の態様において、BSID-III検査の社会感情機能ドメインも適応機能ドメインも使用されない。1つの態様において、DQスコアを決定するために認知ドメインのみが用いられる。
【0115】
ある種の態様において、BSID-IIIの認知ドメインが本研究の主要な焦点でありうる。認知スケールは、資格のある検査員により個別に管理され、処理速度、問題解決および遊びのような重要なスキルの発達を捉える。重要なことに、認知評価では、対象が言葉で反応する必要はない; 結果として、この試験は、表現言語に問題があるMPS IIIBのような状態で認知機能を評価するのに特に有用である。1つのドメイン内の素スコアは、スケール化されたスコアに変換され、その後いくつかのドメインを包含する複合スコアに変換されうる。異なる年齢に関連した平均素スコアはまた、年齢相当スコアおよびDQの作成を可能にする。
【0116】
ある種の態様において、BSID-IIIの言語ドメインおよび運動ドメインを投与することもできる。言語ドメインは2つのサブテスト(受容的コミュニケーションおよび表現的コミュニケーション)からなり、運動ドメインは2つのサブテスト(微細運動および粗大運動)からなる。
【0117】
本開示の別の態様において、ヒト対象のDQスコアは、Kaufman Assessment Battery for Children, 2nd Edition (KABC-II) (参照により本明細書に組み入れられるKaufman et al., Kaufman Assessment Battery for Children. Second Edition ed. Pearson Assessment, Inc. 2004)の使用によって得られうる。KABC-IIは、認知発達を評価するための医療用具(心理学的診断試験)である。BSIDと同様に、KABCを用いて年齢相当スコア、ゆえにDQを作成することができる。試験の多くの部分は非言語的であるので、聴覚と言語コミュニケーションの両方に困難を有しうる小児における機能を評価するのに特に適しており、そのどちらもMPS IIIB患者集団に関連する状態である。さらに、この試験は世界中でいくつかの異なる言語に翻訳されている。カウフマン非言語指数を構成するサブ試験は、以下: 概念思考、顔認識、ストーリー完成、三角形、パターン推論および手の動きを含む。非言語指数サブ試験に加えて、知識クラスタサブ試験(なぞなぞ、表出語彙および言葉の知識)は、言語を有する対象に施されうる。
【0118】
ある種の態様において、DQ指数を決定するためにBSID-IIIまたはKABC-IIを用いるかどうかを決定するために用いられるアルゴリズムは、Delaney et al., JIMD Rep. 13:129-137 (2014)によって記述されている。
【0119】
治療用酵素またはその融合タンパク質を用いた処置の前または処置の最中もしくは後のいずれかの対象のDQスコアを決定するために、BSID-IIIツール(またはその認知サブ試験)またはKABC-II非言語指数からの結果が用いられる。より具体的には、上記のBSID-IIIまたはKABC-IIツールを用いて、対象は、用いられるツールにおけるそれらの性能に基づき「年齢相当の格付け」(月数単位)を割り当てられる。次に、その「年齢相当の格付け」を対象の実際の年齢(月数単位)で除算し、その後に100を乗じてDQスコアが算出される。例証するために、用いられるツールにおける彼/彼女の性能に基づき48ヶ月の「年齢相当の格付け」が割り当てられる実年齢60ヶ月を有するMPS IIIB対象は、以下のように算出されたDQを有するであろう: (48を60で除算した値)×100 = 80。その一方で、60ヶ月の「年齢相当の格付け」が割り当てられる完全機能60ヶ月齢では、(60を60で除算した値)×100 = 100のDQを有するであろう。認知機能、言語機能、運動機能、社会感情機能、適応機能、概念思考、顔認識、ストーリー完成、パターン推論および/または手の機能/器用さは、ヒトMPS IIIB患者において経時的に低下する傾向があるため、未処置MPS IIIB対象のDQスコアは経時的に低下するものと予想される。本開示の意図は、本明細書において記述される治療用タンパク質の投与によって観察されたDQ低下を低減させ、DQを経時的に安定化させ、またはDQを経時的に改善することである。本開示の治療用融合タンパク質またはそれを含む製剤の投与の有益な効果は、処置前の対象のDQスコアを決定し、治療後の対象のDQスコアと比較することにより検出することができる。
【0120】
本開示は、以下の実施例によってさらに、かつより具体的に記述される。しかしながら、実施例は限定するためではなく、説明の目的のために含まれる。
【実施例】
【0121】
実施例1 - 製剤開発
GILTタグおよびスペーサーを含むリソソーム酵素融合タンパク質(成熟ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ[Naglu]融合タンパク質を含む)は、米国特許出願公開第2003-0082176号、同第2004-0006008号、同第2003-0072761号、同第2004-0005309号、同第2005-0281805号、同第2005-0244400号、米国特許第8,492,337号および同第8,563,691号、ならびに国際公報WO 03/032913、WO 03/032727、WO 02/087510、WO 03/102583、WO 2005/078077、WO 2009/137721、およびWO 2014/085621に開示されており、これらの開示は全て、参照により本明細書に組み入れられる。
【0122】
1つの特に好ましい態様(本明細書においてBMN001といわれる)において、成熟ヒトIGF-IIのアミノ酸位置番号8~67からなり、かつそのアミノ酸位置番号37でのアルギニンのアラニン置換を有するフリン耐性IFG-IIペプチドに剛性リンカーを通じて融合された機能的成熟ヒトNaglu酵素を含むNaglu/IGF-II融合タンパク質が、インビボでの安全性および有効性試験で用いるために調製かつ製剤化された。BMN001において用いられるペプチドリンカーは、SEQ ID NO:4として本明細書において示されるアミノ酸配列を有する。BMN001治療用融合タンパク質の完全なアミノ酸配列は、
図2 (SEQ ID NO:5)に示される。
【0123】
髄腔内投与によるヒト臨床使用に適したBMN001液体製剤に適した賦形剤および関連する規定の条件を同定するために、さまざまな実験を行った。最初に、さまざまなpHにて液体製剤中で凝集するBMN001の傾向を以下のように試験した。初期に、BMN001を、pH 5.0もしくは6.5のクエン酸緩衝液を含む液体製剤、またはpH 6.0、6.5、7.0、および8.0の人工ヒトCSF液体製剤に導入し、静的光散乱分析を行って、異なるpHおよび温度上昇で凝集するBMN001の傾向を測定した。これらの分析の結果は、BMN001がより高い、より中性のpH (約pH 7.0)よりも低いpH (pH 5.0~6.0)での温度上昇により容易に凝集する傾向があることを実証した。さらに、25℃およびさまざまなpHでのBMN001液体製剤について行われたSEC分析は、約6.5~約pH 7.5の範囲中の酸性度の低い、より中性のpHと比較して、6.5未満のpHで凝集した多量体BMN001の割合が有意に高いことを実証した。最後に、10サイクルの凍結/融解に供されたさまざまなpHでのBMN001液体製剤について行われたSEC分析は、約7.0の範囲中の酸性度の低い、より中性のpHと比較して、6.5未満のpHで凝集した多量体BMN001の割合が有意に高いことを実証した。これらの組み合わせたデータは、約6.5~約7.5の範囲中のpH、好ましくは約7.0の使用が、臨床的BMN001液体製剤に有益であることを示唆している。
【0124】
次に、さまざまな濃度のBMN001を含む液体製剤を試験して、凍結/融解5サイクル中の凝集体/多量体形成に及ぼす融合タンパク質濃度の影響を判定した。これらの実験において、1、5、15、または24 mg/mlのBMN001を含有する液体製剤をpH 5.0、6.0、7.0、および8.0で調製した。5サイクルの凍結/融解の後に、単量体に対する凝集体/多量体の相対割合は、より大きな濃度の融合タンパク質を含む製剤におけるよりも低いタンパク質濃度の製剤において大きい傾向があった。さらに、凝集体/多量体の形成は、中性pHでよりも高い酸性pHでより頻繁に起こる傾向があった。2%トレハロースの添加は、トレハロースの非存在下での同じ製剤と比較した場合に融合タンパク質凝集を妨げた。これらの結果は、少なくとも約24 mg/mlのBMN001融合タンパク質を含む液体製剤が、より低い融合タンパク質濃度を含む製剤よりも好ましいことを示唆している。これらの驚くべき結果は、より高いタンパク質濃度(すなわち、およそ30 mg/ml)を有する液体製剤が、ヒトへの髄腔内投与に大きな恩恵を提供する相対的に低い割合の凝集体/多量体形成を有する傾向があり、そのような投与は、投与される流体の総体積に極めて敏感であることを実証している。したがって、約30 mg/mlのタンパク質濃度を有する製剤を含む、少なくとも24 mg/mlのタンパク質濃度を有する、BMN001含有製剤を含めて、本開示の製剤は、ヒト対象への髄腔内投与に極めて有用である。
【0125】
次に、静的光散乱分析によって測定されるBMN001の撹拌または凍結/融解誘導性の凝集体形成を防止する能力について、種々の規定の賦形剤をスクリーニングした。(i) 180 mM N-アセチルグルコサミン、(ii) 222 mMグルコース、(iii) 234 mMスクロース、(iv) 212 mMトレハロース、(v) 220 mMソルビトール、(vi) 200 mMグルタミン酸、(vii) 200 mMグルタミン、(viii) 200 mMアルギニン、(ix) 200 mMヒスチジン、(x) 200 mMグリシン、(xi) 0.1% w/vポリソルベート20、または(xii) 0.1% w/vポロキサマー188のいずれかを含んだ同量のBMN001を含む液体製剤を調製した。これらの分析の結果は、1つまたは複数のアミノ酸の添加が、撹拌または凍結/融解のいずれかによって誘導される凝集体/多量体形成の増加によって証明されるように、液体製剤を不安定化する傾向があることを実証した。その一方で、1つまたは複数の糖/ポリオールの添加は、撹拌または凍結/融解のいずれかによって誘導される形成された凝集体/多量体の相対量を低減させる傾向があった。
【0126】
上記の製剤開発作業および本明細書において記述されていない追加の実験に基づいて、以下に記述されるようにさらなるヒト臨床開発で用いるための最終的なBMN001液体製剤が開発された。以下の実施例3において記述されるヒト臨床研究において用いられるBMN001臨床製剤は、以下の成分からなった: (i) 30 mg/mlのBMN001融合タンパク質、(ii) 0.19 mg/mlのリン酸二ナトリウム七水和物、(iii) 0.04 mg/mlのリン酸一ナトリウム一水和物、(iv) 8.66 mg/mlの塩化ナトリウム、(v) 0.22 mg/mlの塩化カリウム、(vi) 0.16 mg/mlの塩化マグネシウム六水和物、および(vi) 0.21 mg/mlの塩化カルシウム二水和物。このBMN001臨床製剤は、7.0の最終pHで製剤化された。BMN001臨床製剤は、フルオロポリマー被覆ブロモブチルゴム栓で閉じた透明ホウケイ酸ガラスバイアル中に包装され、アルミニウムシールでキャップされ、使用のために融解するまで約-40℃で凍結保存されうる。
【0127】
実施例2 - サンフィリッポB症候群の処置のためのBMN001 (前臨床試験)
非臨床試験は、本明細書において記述されるように行われ、MPS IIIB疾患を有するヒト患者のBMN001関連毒性の有意なリスクなしに、有力な治療効果を示す。
【0128】
本明細書において記述される非臨床試験は、ヒト患者におけるMPS IIIBの処置のためのBMN001の長期ICV注入を補助するようにデザインされた。ICV経路によって投与されるBMN001の一次薬力学(PD)、心血管(CV)およびCNS安全性薬理、PK、CNS分布および毒性は、正常動物(カニクイザル)における1回の単回用量研究ならびにMPS IIIBの正常および疾患モデル(Nagluノックアウト[KO]マウス、WTおよびNAGLUヌルイヌ(Ellinwood et al., J. Inherit. Metab. Dis. 26(5):489-504 (2003)ならびにカニクイザル)における4回の反復用量研究において特徴決定された。これらの種は、高度のNAGLUアミノ酸配列相同性、CI-MPR発現およびアミノ酸配列同一性のために選択された。疾患の動物モデルはまた、リソソーム貯蔵材料の蓄積、ニューロン死、機能低下および疾患進行の同様の相対的タイミングでの寿命の低減を含めて、ヒトMPS IIIB疾患の重要な特徴のいくつかを呈する。それらはまた、潜在的なCNS病理を機能的に追跡するために使用でき、処置への応答をモニターするために潜在的に使用できる、振戦および運動失調を含む、ある種の神経学的徴候を呈する。それゆえ、これらのモデルは、臨床的に翻訳可能なエンドポイントを用いた疾患進行の薬理学的弱毒化に関する貴重な洞察を提供する。
【0129】
BMN001の一次PD評価は、IGF2受容体結合アッセイ法、MPS IIIBヒト線維芽細胞および2つの利用可能なMPS IIIB動物モデル、つまりNAGLUノックアウト(KO)マウスおよび若齢NAGLUヌルイヌにおいて行われ、BMN001の強力な薬理学的活性を実証した。これらの研究において用いられたBMN001ロットのIGF2受容体結合の分析は、算出された平均IC50 0.28 nMをもたらした。BMN001のインビトロでの細胞取り込みおよび細胞半減期を、MPS IIIBヒト線維芽細胞において測定した。BMN001のリソソームK取り込みは、リソソームへの取り込みが最大速度の半分である濃度と定義され、およそ9.5日のリソソームの半減期で3.7~6.4 nM (平均5.3 nM)であった。
【0130】
MPS IIIBマウス疾患モデルにおいて、BMN001のICV投与は、疾患の病状を反転させた。これらのマウスにおける反復投薬研究は、CNS全体の一貫したBMN001組織分布を示す。一次PD評価は、生化学的および組織学的両方のエンドポイントに及ぼすBMN001の効果を実証した。Naglu-KOマウスへのBMN001のICV投与は、リソソーム機能の組織学的および免疫組織学的指標の改善に伴ってリソソーム貯蔵材料の蓄積(すなわち、GAG/ヘパラン硫酸の蓄積)の低減をもたらした。より具体的には、BMN001最終投薬から24時間後に評価した場合、処置はNaglu酵素活性の顕著な増加と同時にβ-ヘキソサミニダーゼ活性ならびに総ヘパラン硫酸およびLAMP-2のレベルの低下をもたらした。Naglu活性は脳組織において、皮質、海馬、歯状回および視床だけでなく、扁桃、渦巻皮質および視床下部を含む遠隔遠位の地理的位置においても、検出可能であった。CD68、SCMAS、β-アミロイド、p-Tau、P-GSK3βおよびグリピカン5のレベルの有意な減少も観察された。ヘパラン硫酸、Naglu特異的NREおよびβ-ヘキソサミニダーゼ活性のレベルは、最後の投薬時点後7、14、および28日間にわたって減少し続けた。
【0131】
NAGLUヌルのイヌにおいて、6ヶ月のICV投与後に観察されたBMN001のPD効果は、脳脊髄液(CSF)リソソーム貯蔵材料の低減および運動機能の維持を含んでいた。認知症および疾患の進行の遅延を含む、追加の薬力学エンドポイントは、現在以下のように評価されている。1群あたり4匹の予め免疫寛容化されたイヌを有する6つの独立した群を、4~18ヵ月齢の間にICV注入によって週2回、以下の通りに処置した:
群1 (正常NAGLU+イヌ) - ICVビヒクルのみ(10 ml/kg);
群2 (正常NAGLU+イヌ) - BMN001 (12 mg/kg);
群3 (正常NAGLU+イヌ) - BMN001 (12 mg/kg、投薬3で48 mg/kgまで増量);
群4 (NAGLUヌルのイヌ) - ICVビヒクルのみ(10 ml/kg);
群5 (NAGLUヌルのイヌ) - BMN001 (12 mg/kg);
群6 (NAGLUヌルのイヌ) - BMN001 (12 mg/kg、投薬3で48 mg/kgまで増量)。
【0132】
群1、4、5、および6由来のイヌにおけるCNS組織、CSF、および小脳組織においてヘパラン硫酸(HS)レベルを測定した。
図3に示されるように、BMN001は、用量依存的にMPS IIIBイヌのCNS組織およびCSFの両方におけるHSレベルを低減させ、48 mg/kgの用量でHSを野生型レベルまで低減させた。イヌの各群におけるCNSおよびCSF中のHSのレベルを評価し、比較した。
図4に示されるように、これらの2つの脳区画中のHSレベルには強い相関があり、BMN001が脳全体で均一にHSを低減させる能力を実証している。
【0133】
LAMP2レベルに及ぼすBMN001処置の効果も調べた。野生型、未処置MPSIIIB罹患イヌ、およびBMN001で処置したMPSIIIB罹患イヌ由来の小脳組織ホモジネート試料(タンパク質18 μg/レーン)を非還元条件下で電気泳動およびブロットし、次に非標識AC17でプローブし、HRP結合抗マウスIgG二次抗体で検出した。LAMP2発現または対照CHO-K1細胞溶解物を対照(タンパク質5 μg/レーン)としてブロットに含めた。各レーンに負荷されたタンパク質の総量を評価するために、小脳ホモジネートブロットをストリップし、β-アクチンについて再プローブした。
図5に示されるように、未処置MPSIIIB罹患イヌは野生型イヌと比べて高レベルのLAMP2を有していた。しかしながら、BMN001による処置は、MPSIIIB罹患イヌのLAMP2レベルを野生型イヌにおいて見られるレベルまで低減させた。
【0134】
小脳萎縮に及ぼすBMN001の効果も調べた。
図6に見られるように、BMN001は、両方の用量で小脳HSの有意な低減を引き起こした。さらに、両用量のBMN001は、拡散テンソル画像(DTI)によって測定される小脳白質の減少を減弱させた(
図7)。BMN001による小脳萎縮の減弱も、野生型およびBMN001処置MPS IIIBイヌのMRI画像において明らかに見られた(
図8)。
【0135】
別の研究では、体重がおよそ1~2 kgの健常な若年性カニクイザルを、以下のように5つの投与量群のうちの1つに無作為に割り当てた:
群1 - ICVビヒクルのみ(5分, 2.5 ml等積ICV, 0.5 ml/分);
群2 - 30 mg BMN001 (5分, 2.5 ml等積ICV, 0.5 ml/分);
群3 - 73 mg BMN001 (5分, 2.5 ml等積ICV, 0.5 ml/分);
群4 - 73 mg BMN001 (240分, 2.5 ml非等積ICV, 0.88 ml/時間); および
群5 - 200 mg/kg BMN001 (5分, 非等積IV, 3 ml/分)。
【0136】
投薬後48時間で、動物を安楽死させ、CNSの特異的組織を採取した。生体分布分析のために、7つの脳および3つの脊髄領域について、脳室に対する表在性組織および深部組織の標本を収集した。これらの分析は、ICV送達経路が、IV投与により達成されるよりもCNSにおける優れた生体内分布を伴う直接的なCNS酵素置換を可能にしたこと、および等積CSF除去後のBMN001の迅速な投与が安全であり、インビボで十分に許容されることを実証した。最後に、急速(すなわち、約5分間)の等積投与または低速(約240分間)の非等積投与の両方からBMN001の表在性および深部CNS組織の両方への同等かつ広範な分布が観察された。
【0137】
心血管、呼吸器、およびCNS安全性薬理パラメータを、単回および毎週反復投薬サル毒性試験において評価した。CNSおよび心血管安全性薬理パラメータを、WTおよびNAGLUヌルのイヌにおける週2回反復投薬試験において評価した。これらの試験において、CNS、心血管系または呼吸器系に及ぼすBMN001に関連した逆効果があることを示す所見はなかった。BMN001に関連したCNSもしくは全身臓器の毒性または蓄積したリソソーム貯蔵材料の迅速除去のような、過度の薬理による毒性は、ICV投与後に観察されなかった。さらに、BMN001の反復IV投与後に観察された、低血糖を含む全身毒性はなかった。
【0138】
ヒトにおいて行われた臨床試験の場合、脳質量のスケーリングに基づいてヒト等価用量を算出した。ヒトの脳は、2歳までに大人の質量の約75%および5歳までに大人の質量の100%に達する。1400 gの成人ヒト脳質量およびMPS IIIB患者における進行性脳萎縮を考慮すると、1000 gの平均質量が、意図した患者集団について推測された。これは、100 gの平均カニクイザル脳質量に基づいて10倍の倍率をもたらす。それゆえ、現行の非臨床プログラムにおいて評価されたBMN001の安全性および有効性プロファイルは、意図した小児患者集団において毎週4時間の注入または等積ボーラスのいずれかとして投与される場合、BMN001の長期ICV投与を、730 mgまでの用量(脳重量によりスケール化される)で支持する。
【0139】
実施例3 - サンフィリッポB症候群の処置(ヒト臨床試験)のためのBMN001
これは、MPS IIIBと診断されたヒト患者における、第1/2相、ファースト・イン・ヒューマン、多施設、多国籍、オープンラベル、用量漸増の試験である。上記の実施例1に記述されたように製剤化したBMN001をICV注入によって毎週投与し、対象を神経認知機能、行動、睡眠、生活の質(対象および家族/介護者の両方)、造影特性および疾患負担の生化学的マーカーの観点から評価する。試験の第一の目的は、ICVリザーバおよびカテーテルを介してMPS IIIBを有する対象に投与されたBMN001の安全性および忍容性を評価すること、ならびに適用可能な発達指数(DQ)によって評価されるMPS IIIBを有するヒト患者における認知機能に及ぼすBMN001の影響を評価することである。認知機能に及ぼす処置の影響を評価するために、この試験における処置下のヒト対象からのデータを、同じヒト対象セットにおいて前に行われた進行性MPS IIIB症候の関連した観察試験(すなわち、「自然歴試験」)からのデータと比較する。
【0140】
現行の第1/2相ヒト臨床試験は、2つの部分からなる。第1部の、用量漸増期間では、3名のヒト対象(以前に自然歴試験に登録されていない)は、最大許容試験用量(MTTD)が確立されるまで、3つまでの漸増用量レベル(30 mg、100 mgおよび300 mg)でBMN001の少なくとも4回毎週用量をそれぞれ受ける。第2部の、安定用量期間では、以前に自然歴試験に登録された30名までのヒト対象は、48週間継続するMTTDで毎週BMN001の処置過程を開始する。第1部の3名の対象は第2部に移動し、第2部のベースライン評価を実施し、第1部で確立したMTTDでさらに48週間、毎週の投薬を継続する。
【0141】
輸液レジメンは、CSF 10 mlの等積除去、続いて約5分間~約10分間にわたるBMN001総体積10 mlのICV送達を伴う。MPS IIIB患者集団の特定のニーズに対応するために、この試験では迅速な注入速度を選択した; 特に、これらの患者は、より長い注入期間を論理的に困難にするような顕著な行動問題を有することが多い。等積の量のCSF除去後の大量(例えば、10~12 ml)の治療用物質の迅速な脳室内送達は、小児腫瘍の設定での日常的な実践の一部である。しかしながら、より長い時間のICV送達も用いられうる。これに関して、少なくとも5、10、15、20、25、30、45、60、90、120、150、180、210、もしくは240分間またはそれ以上の期間にわたってBMN001の単一ICV投与(等積であってもなくてもよい)が行われうる。
【0142】
第1部のベースラインと第2部のベースラインならびに12、24、36、および48週目に行われた試験手順は、Vineland Adaptive Behavior Scales, 2nd Edition (VABS-II)、Bayley Scales of Infant Development, 3rd Edition (BSID-III)またはKaufman Assessment Battery for Children, 2nd Edition (KABC-II)のどちらかおよびサンフィリッポ行動評価尺度(SBRS)を含む。第1部と第2部の両方のベースライン来院中と第2部の24週目と48週目に行われるさらなる試験手順は、Infant Toddler Quality of Life questionnaire (ITQOL)またはChild Health Questionnaire Parent Form (CHQ-PF50)、Children’s Sleep Habits Questionnaire (CSHQ)、Parenting Stress Index、PEDIATRIC QUALITY OF LIFE INVENTORY(商標) (PEDSQL(商標)) Family Impact Module、脳および腹部のMRI (麻酔下)ならびに脳幹聴覚誘発反応(BAER)評価を含む。
【0143】
計3人の対象に少なくとも8用量の30 mg QW BMN001および少なくとも3用量の100 mg QWを投与した。この試験の一部として、対象は、疾患進行の自然経過を理解するために処置開始前の少なくとも24週間にわたってモニターされた。処置前および処置後の各患者の脳脊髄液(CSF)において、ヘパラン硫酸(HS)およびMPS IIIB特異的HS非還元末端(NRE)のベースラインレベルを測定した。
図9に示されるように、処置の前に、3名の対象(A、BおよびC)は、非疾患(正常)対照と比較して極端に増大したHSおよびNREを有していた。しかしながら、BMN001による処置は、対象AおよびBの両方においてHSおよびNREの両方の顕著で持続的な減少を誘導した(
図10) (対象Cは試験の後半に登録され、データはまだ入手できなかった)。BMN001は、処置に関連した重篤な有害事象はなく、耐容性良好であった。
【0144】
これらの知見は、ボーラス注入を介して脳室腔にBMN001を安全に投与できること、およびこの処置アプローチがMPS IIIB患者のCNSにおける顕著な薬力学的反応をもたらすことを実証する。
【0145】
実施例4 - BMN001の再製剤化
BMN001を含有する製剤の物理的ストレスは、活性融合タンパク質の凝集体および/または多量体の形成を引き起こすことが分かった。凝集体および/または多量体は、薬物の有効濃度を低下させる可能性があり、投与中にインラインフィルタの詰まりを引き起こすことがあり、薬物製品に対する望ましくない免疫応答を誘発しうるため、薬物製品において望ましくない。したがって、物理的ストレスに応答した凝集体および/または多量体形成に耐性のある製剤を同定するために、さらなる研究が行われた。この目的のために、さまざまな賦形剤を、凝集体/多量体形成に及ぼすその効果についてスクリーニングした(表2参照)。これらの賦形剤の各々を含有する製剤を物理的ストレスである再循環ポンピングに供し、示差走査熱量測定(DSC)および静的光散乱(SLS)によって凝集を測定した。
【0146】
【0147】
表2に示されるように、N-アセチルグルコサミン、グルコース、スクロース、トレハロース、ソルビトール、ポリソルベート20、およびポロキサマー188は、凝集体/多量体形成を減少させることが分かった。これらのうち、トレハロースおよびポリソルベート20が、さらなる研究のための候補リード賦形剤として選択された。
【0148】
さまざまな濃度のトレハロースおよび/またはポリソルベート20を含有する製剤は、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸一ナトリウム一水和物、および塩化ナトリウムを含有する基剤中で作製された。これらを次に、再循環ポンピング、4回のポンピング通過、および凍結/融解サイクリング(20サイクルの間-40℃/ 25℃)によって引き起こされた凝集体/多量体を減少させるその能力について試験した。さらに、各製剤を、40℃および25℃の加速温度での安定性について試験した。各条件について、凝集を、肉眼で見ることができるおよび肉眼では見ることができない粒子数、溶液濁度(OD550)、粒径均一性、ならびに多量体パーセントによって測定した。
図11Aおよび11Bに示されるように、トレハロースは、用量依存的に粒子形成を低減させた。さらに、トレハロースとポリソルベート20との組み合わせは、粒子形成の低減に最も強い効果を及ぼした。ポンプを各4回通過した後に粒子形成を測定して同様の結果が観察され、トレハロースとポリソルベート20の両方の組み合わせが粒子数の最大低減を示した(表3および4)。
【0149】
(表3)ポンプストレスの各段階後のトレハロースまたはポリソルベート20 1mlあたりの粒子数
*PS20はポリソルベート20である。
【0150】
(表4)ポンプストレスの各段階後のトレハロースまたはポリソルベート20 1mlあたりの粒子数
*PS20はポリソルベート20である。
【0151】
ポンピングストレスに応答した粒子形成の阻害に及ぼすトレハロースとポリソルベート20との組み合わせの相加的または相乗的効果を見出した後に、いくつかのトレハロース/ポリソルベート20組み合わせを試験した。表5に示されるように、組み合わせにおけるトレハロースまたはポリソルベート20のいずれかの量を増加させると、形成される粒子の量が減少し、最も高いトレハロースとポリソルベート20 (8%トレハロースおよび0.005%ポリソルベート20)との組み合わせで最大の低減が見られた。トレハロースとポリソルベート20との組み合わせは、トレハロースまたはポリソルベート20単独よりも20回の凍結/融解サイクルによって形成される凝集体の減少においても有効であった(
図12)。表6に要約されるように、賦形剤トレハロースおよびポリソルベート20と組み合わせたトレハロースは当初の製剤と比べて、BMN001凝集体および多量体形成を効果的に減少させた。
【0152】
(表5)粒子形成に及ぼすさまざまなトレハロース/ポリソルベート20組み合わせの効果(粒子数/ml)
*PS20はポリソルベート20である。
【0153】
(表6)凝集体および多量体の減少(減少パーセント)に及ぼす賦形剤効果の概要
【0154】
これらの賦形剤の試験から、2つのさらなる製剤が臨床試験で用いるために同定された。約7.0のpHで、約30 mg/mlの濃度のBMN001、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約0.88 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、かつ約8% (w/v)の濃度のトレハロースを含有する製剤。および約7.0のpHで、約30 mg/mlの濃度のBMN001、約0.19 mg/mlの濃度のリン酸二ナトリウム七水和物、約0.04 mg/mlの濃度のリン酸一ナトリウム一水和物、約5 mg/mlの濃度の塩化ナトリウム、約4% (w/v)の濃度のトレハロース、かつ約0.005%の濃度のポリソルベート20を含有する製剤。
【0155】
等価物
当業者は、本明細書において記述された開示の特定の態様に対する多くの等価物を認識するか、または単なる通例の実験を用いて確認することができるであろう。本開示の範囲は、上記の説明に限定されるよう意図するものではなく、添付の特許請求の範囲に記載される通りである。本明細書および特許請求の範囲において用いられる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という冠詞は、明らかに逆のことが示されない限り、複数の指示対象を含むと理解されるべきである。群の1つまたは複数の成員との間に「または」を含む特許請求の範囲または説明は、逆のことが示されない限りまたは文脈から別段明らかでない限り、1つ、2つ以上、または全ての群成員が所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、用いられるか、またはそれと別途関連性があるかが満たされるものと考えられる。本開示は、群の厳密に1つの成員が、所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、用いられるか、またはそれと別途関連性がある態様を含む。本開示はまた、2つ以上、または全ての群成員が所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、用いられるか、またはそれと別途関連性がある態様も含む。さらに、別段示されないか、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、本開示は、特許請求の範囲の1つまたは複数からの、1つまたは複数の限定、要素、節、説明的な用語などが、同じ基礎となる特許請求の範囲に従属する(または、関連性のある、他の任意の特許請求の範囲として)別の特許請求の範囲に導入されている、変形、組み合わせ、および順列を包含すると理解されるべきである。要素が、例えば、マーカッシュ群または類似の形式で、リストとして提示されている場合、要素の各部分群もまた開示されること、および任意の要素が群から除去されうることが理解されるべきである。一般に、本開示、または本開示の局面が、特定の要素、特徴などを含むといわれる場合、本開示のある種の態様または本開示の局面は、そのような要素、特徴などからなるか、またはそれらから本質的になることが理解されるべきである。単純化の目的で、それらの態様は、あらゆる場合に本明細書において具体的に記載されているわけではない。また、本開示の任意の態様、例えば、先行技術内に見られる任意の態様は、特定の排除が本明細書において述べられているか否かに関係なく、特許請求の範囲から明確に排除されうることが理解されるべきである。
【0156】
明らかに逆のことが示されていない限り、2つ以上の行為を含む本明細書において主張される任意の方法において、その方法の行為の順序は、その方法の行為が述べられている順序に必ずしも限定されないが、本開示は、その順序がそのように限定された態様を含むことも理解されるべきである。さらに、特許請求の範囲が組成物を述べている場合、本開示は、組成物を使用する方法および組成物を作製する方法を包含する。特許請求の範囲が組成物を述べている場合、本開示は、組成物を使用する方法および組成物を作製する方法を包含すると理解されるべきである。
【0157】
本出願において引用された全ての刊行物および特許文書は、各個別の刊行物または特許文書の内容が本明細書に組み入れられたかのように、同程度にその全体が参照により組み入れられる。
【配列表】