(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】リチウム電池におけるグラフェンフォームで保護された金属フッ化物及び金属塩化物カソード活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220722BHJP
C01B 32/192 20170101ALI20220722BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20220722BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220722BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220722BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
H01M4/13
C01B32/192
C01B32/194
H01M4/36 A
H01M4/58
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2019540372
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 US2018013759
(87)【国際公開番号】W WO2018140249
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-04
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】J. Mater. Chem. A,2015年,3,23930-23935
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
C01B 32/192
C01B 32/194
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 4/66
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池におけるカソード又は正極層において、前記カソード層は、カソード活物質の複数の粒子又はコーティングと、複数の細孔及び細孔壁からなる固体グラフェンフォームとを含み、
a.前記細孔壁は、0.01重量%未満の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、又は0.01%~5重量%の非炭素元素を有する非純粋なグラフェン材料を含み、前記非純粋なグラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択され、
b.前記カソード活物質粒子又はコーティングは、金属フッ化物又は金属塩化物から選択され、1nm~10μmのサイズを有し、前記グラフェンフォームと前記
カソード活物質を合わせた総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%の量であり、
c.前記複数の細孔のいくつかは、前記カソード活物質の前記粒子又はコーティングで覆われ、前記グラフェンフォームは、前記カソード層の膨張を避けるために、電池充電-放電サイクル中の前記カソード活物質の前記粒子又はコーティングの体積膨張及び収縮に適応するのに十分に弾性であ
り、前記カソード又は正極層は、300μm以下の厚さ及び少なくとも2メートルの長さを有する連続長ロールシート形態であることを特徴とするリチウム電池におけるカソード又は正極層。
【請求項2】
請求項1に記載のカソード層において、前記固体グラフェンフォームは、0.01~1.7g/cm
3の密度、50~2,000m
2/gの比表面積、単位比重当たり少なくとも100W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり1,000S/cm以上の導電率を有することを特徴とするカソード層。
【請求項3】
請求項1に記載のカソード層において、前記金属フッ化物又は金属塩化物は、CoF
3、MnF
3、FeF
3、VF
3、VOF
3、TiF
3、BiF
3、NiF
2、FeF
2、CuF
2、CuF、SnF
2、AgF、CuCl
2、FeCl
3、MnCl
2、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とするカソード層。
【請求項4】
請求項1に記載のカソード層において、前記グラフェンの量は、グラフェンと前記
カソード活物質を合わせた総重量の0.1重量%~10重量%であることを特徴とするカソード層。
【請求項5】
請求項1に記載のカソード層において、前記カソード活物質粒子又はコーティングは、100nmより小さい寸法を有することを特徴とするカソード層。
【請求項6】
請求項1に記載のカソード層において、前記カソード活物質粒子又はコーティングは、10nmより小さい寸法を有することを特徴とするカソード層。
【請求項7】
請求項1に記載のカソード層において、前記カソード活物質粒子は、100nmより小さい直径又は厚さを有する、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノディスク、ナノリボン、ナノベルト、又はナノプレートリット形態の遷移金属フッ化物又は塩化物粒子を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項8】
請求項1に記載のカソード層において、その中に炭素又は黒鉛材料を更に含み、前記炭素又は黒鉛材料は、前記カソード活物質と電子的に接触している、又は前記カソード活物質に対して堆積されていることを特徴とするカソード層。
【請求項9】
請求項8に記載のカソード層において、前記炭素又は黒鉛材料は、ポリマーカーボン、非晶質カーボン、化学気相蒸着カーボン、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、カーボンブラック、コークス、アセチレンブラック、活性炭、100nmより小さい寸法の微細な膨張黒鉛粒子、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とするカソード層。
【請求項10】
請求項7に記載のカソード層において、炭素材料、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性金属コーティング、又はリチウム導電性材料から選択される導電性保護コーティングを更に含み、前記導電性保護コーティングは、前記ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、又はナノコーティングに対して堆積される又はこれらの周りに巻き付けられることを特徴とするカソード層。
【請求項11】
請求項1に記載のカソード層において、前記細孔壁は、X線回折により測定される0.3354nm~0.36nmの面間隔d
002を有する積層グラフェン面を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項12】
請求項1に記載のカソード層において、前記細孔壁は純粋なグラフェンを含み、前記固体グラフェンフォームは0.5~1.7g/cm
3の密度を有する、又は前記細孔は2nm~100nmの細孔サイズを有することを特徴とするカソード層。
【請求項13】
請求項1に記載のカソード層において、前記非純粋なグラフェン材料は、0.01重量%~2.0重量%の非炭素元素の含有量を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項14】
請求項1に記載のカソード層において、前記固体グラフェンフォームは、カソード活物質なしで測定した場合、200~2,000m
2/gの比表面積又は0.1~1.5g/cm
3の密度を有することを特徴とするカソード層。
【請求項15】
請求項1に記載のカソード層において、前記非炭素元素は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される元素を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項16】
請求項1に記載のカソード層において、1μm~10cmの厚さ又は直径及び少なくとも2メートルの長さを有する連続長フィラメント状形態であることを特徴とするカソード層。
【請求項17】
請求項1に記載のカソード層において、前記グラフェンフォームは、1重量%未満の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、前記細孔壁は、0.35nm未満のグラフェン間の間隔、単位比重当たり少なくとも250W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり2,500S/cm以上の導電率を有することを特徴とするカソード層。
【請求項18】
請求項1に記載のカソード層において、前記グラフェンフォームは、0.01重量%以下の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、前記細孔壁は、0.34nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面、単位比重当たり少なくとも300W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,000S/cm以上の導電率を有することを特徴とするカソード層。
【請求項19】
請求項1に記載のカソード層において、前記グラフェンフォームは、0.01重量%以下の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、前記細孔壁は、0.336nm未満のグラフェン間の間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり少なくとも350W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,500S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項20】
請求項1に記載のカソード層において、前記グラフェンフォームは、0.336nm未満のグラフェン間の間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり400W/mKを超える熱伝導率、及び/又は単位比重当たり4,000S/cmを超える導電率を有する積層グラフェン面を含む前記細孔壁を有することを特徴とするカソード層。
【請求項21】
請求項1に記載のカソード層において、前記細孔壁は、0.337nm未満のグラフェン間の間隔及び1.0未満のモザイクスプレッド値を有する積層グラフェン面を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項22】
請求項1に記載のカソード層において、前記細孔壁は、相互接続されたグラフェン面の3Dネットワークを含むことを特徴とするカソード層。
【請求項23】
請求項1に記載のカソード層において、前記
固体グラフェンフォームは、10nm~500nmの細孔サイズを有する細孔を含むことを特徴とするカソード層。
【請求項24】
請求項1に記載のカソード層、アノード又は負極、並びに前記アノード及び前記カソードとイオン接触している電解質を含むことを特徴とするリチウム電池。
【請求項25】
請求項
24に記載のリチウム電池において、前記アノードと電子的に接触しているアノード集電体を更に含むことを特徴とするリチウム電池。
【請求項26】
請求項
24に記載のリチウム電池において、前記カソードと電子的に接触しているカソード集電体を更に含むことを特徴とするリチウム電池。
【請求項27】
請求項
24に記載のリチウム電池において、前記グラフェンフォームは、別個の又は更なるカソード集電体を含まない前記リチウム電池の放電中に前記カソード活物質から電子を収集するためのカソード集電体として機能することを特徴とするリチウム電池。
【請求項28】
請求項
24に記載のリチウム電池において、リチウムイオン電池又はリチウム金属電池であることを特徴とするリチウム電池。
【請求項29】
請求項1に記載のカソード層を作製するためのプロセスにおいて、
(a)液体媒体に分散された前記カソード活物質の複数の粒子及び出発となるグラフェン材料の複数のシートを有するグラフェン分散液を調製する工程であって、前記出発となるグラフェン材料は、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択される、2重量%を超える非炭素元素の含有量を有する、純粋なグラフェン又は非純粋なグラフェン材料から選択され、前記分散液は、0/1.0~1.0/1.0の発泡剤対グラフェン材料の重量比を有する任意の発泡剤を含む工程と、
(b)前記グラフェン分散液を支持基材の表面に対して分配して堆積させて、グラフェン/カソード活物質混合物の湿潤層を形成する工程であって、前記分配及び堆積手順は、前記グラフェン分散液を配向誘起応力に供することを含む工程と、
(c)グラフェン/カソード活物質の前記湿潤層から前記液体媒体を部分的に又は完全に除去して、混合物材料の乾燥層を形成する工程と、
(d)前記非炭素元素から揮発性ガス分子を誘導する又は前記カソード層を作製するための前記発泡剤を活性化するのに十分な所望の加熱速度で、80℃~3,200℃から選択される第1の熱処理温度で混合物材料の前記乾燥層を熱処理する工程と、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項30】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、カソード層を得るのに十分な長さの時間、前記第1の熱処理温度よりも高い第2の熱処理温度で前記カソード層を熱処理する工程を更に含み、前記細孔壁は、0.3354nm~0.36nmの面間隔d
002及び2重量%未満の非炭素元素の含有量を有する積層グラフェン面を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項31】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記グラフェン材料は、純粋なグラフェンを含み、前記分散液は、0.01/1.0~1.0/1.0の発泡剤対純粋なグラフェン重量比を有する発泡剤を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項32】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記発泡剤は、物理的発泡剤、化学的発泡剤、これらの混合物、溶解及び浸出剤、又は機械的に導入された発泡剤であることを特徴とするプロセス。
【請求項33】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記グラフェン材料は、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、及びこれらの組み合わせからなる非純粋なグラフェン材料の群から選択され、前記第1の熱処理温度は2,500℃未満であり、前記固体グラフェンフォームは、0.01重量%~2.0重量%の非炭素元素の含有量を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項34】
請求項
30に記載のプロセスにおいて、前記グラフェン材料は、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、及びこれらの組み合わせからなる非純粋なグラフェン材料の群から選択され、前記第1及び第2の両方の熱処理温度は2,500℃未満であり、前記固体グラフェンフォームは、0.01重量%~2.0重量%の範囲の非炭素元素の含有量を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項35】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記工程(b)及び(c)は、前記支持基材をフィーダーローラーから堆積ゾーンに供給する工程と、前記グラフェン分散液を前記支持基材の表面に対して連続的又は断続的に堆積させ、前記支持基材上にグラフェン材料の前記湿潤層を形成する工程と、グラフェン材料の前記湿潤層を乾燥させてグラフェン材料の乾燥層を形成する工程と、コレクターローラーにおいて前記支持基材に堆積したグラフェン材料の前記乾燥層を収集する工程とを含むロールツーロールプロセスであることを特徴とするプロセス。
【請求項36】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記第1の熱処理温度は、100℃~1500℃から選択されることを特徴とするプロセス。
【請求項37】
請求項
30に記載のプロセスにおいて、前記第2の熱処理温度は、少なくとも(A)300~1500℃、(B)1500~2100℃、及び/又は(C)2100~3200℃から選択される温度を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項38】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、グラフェン材料の前記乾燥層を第1の熱処理温度で熱処理する前記工程(d)が圧縮応力下で実施されることを特徴とするプロセス。
【請求項39】
請求項
30に記載のプロセスにおいて、前記固体グラフェンフォームの厚さ、細孔サイズ、又は多孔度レベルを低減するための圧縮工程を更に含むことを特徴とするプロセス。
【請求項40】
請求項
29に記載のプロセスにおいて、前記グラフェン分散液は、前記グラフェン分散液を得るのに十分な長さの間の反応温度で、反応容器における酸化性液体に粉末又は繊維形態のグラファイト材料を浸漬することにより調製された酸化グラフェン分散液を含み、前記黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズカーボン、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、コークス、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、又はこれらの組み合わせから選択され、前記酸化グラフェンは、5重量%以上の酸素含有量を有することを特徴とするプロセス。
【請求項41】
請求項1に記載のカソード層を作製するためのプロセスにおいて、(a)細孔及びグラフェン細孔壁を有するグラフェンフォームを提供する工程と、(b)カソード活物質反応物の溶液を前記グラフェンフォームの細孔に含浸させる工程と、(c)前記反応物を化学反応させて、前記グラフェン細孔壁に結合した前記細孔又は前記カソード活物質コーティングに存在する前記カソード活物質粒子を形成する工程とを含むことを特徴とするカソード層を作製するためのプロセス。
【請求項42】
請求項1に記載のカソード層の連続長シートを作製するためのロールツーロールプロセスにおいて、
(a)液体媒体に分散されたグラフェン材料とカソード活物質を有するグラフェン分散液を調製する工程であって、前記分散液は発泡剤を含む工程と、
(b)前記グラフェン分散液を支持基材の表面に対して連続的又は断続的に分配及び堆積させて、グラフェン-カソード材料混合物の湿潤層を形成する工程であって、
前記支持基材は、フィーダーローラーから供給され、コレクターローラーに集められた連続薄膜である工程と、
(c)グラフェン-カソード材料混合物の前記湿潤層から前記液体媒体を部分的又は完全に除去して、混合物材料の乾燥層を形成する工程と、
(d)混合物材料の前記乾燥層を、前記カソード層を作製するための前記発泡剤を活性化するのに十分な所望の加熱速度で、100℃~3,000℃から選択される第1の熱処理温度で熱処理する工程と、
を含むことを特徴とするカソード層の連続長シートを作製するためのロールツーロールプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2017年1月26日に出願された米国特許出願第15/416,850号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般的に、充電式リチウム電池の分野に関し、更に詳しくは、新規なグループのグラフェンフォームで保護されたカソード活物質(金属フッ化物及び金属塩化物)を含むカソード層、並びにこれを作製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
従来技術の情報の説明は、本明細書においてこの背景技術のセクションで3つの部分に分けられる:(a)リチウム二次電池(リチウム金属電池及びリチウムイオン電池を含む)におけるカソード活物質、及びこれらの材料に関連した長年の課題に関する考察、(b)「グラフェン」と称される新規な2-Dナノ材料、及びカソード活物質における導電性基材材料としてのその先使用、並びに(c)「グラフェンフォーム」と称されるグラフェン系発泡材料。
【0004】
歴史的に、今日最も好まれる充電式エネルギー貯蔵装置-リチウムイオン電池は、アノードとしてリチウム(Li)金属及びカソードとしてLiインターカレーション化合物(例えばMoS2)を用いる充電式「リチウム金属電池」から実際には発展した。Li金属は、その軽い重量(最も軽い金属)、高い電気陰性度(標準水素電極に対して約-3.04V)、及び高い理論容量(3,860mAh/g)のために理想的なアノード材料である。これらの優れた特性に基づき、リチウム金属電池は40年前に高エネルギー密度用途に理想的なシステムとして提案された。
【0005】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全上の問題のため、現在のリチウムイオン電池を製造するために、リチウム金属の代わりに黒鉛がアノード活物質として使用された。過去20年間で、エネルギー密度、速度能力、及び安全性に関して、Liイオン電池の継続的な改善が見られてきた。しかしながら、Liイオン電池における黒鉛系アノードの使用は、いくつかの重大な欠点:低い比容量(Li金属において3,860mAh/gに対して理論容量372mAh/g)、長い充電時間(例えば、電気自動車の電池では7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、黒鉛及び無機酸化物粒子の内外へのLiの低い固相拡散係数)、高いパルス電力を供給することができないこと(電力密度<<1kW/kg)、及び予備リチウム化カソード(例えば、コバルト酸化物ではなくコバルト酸リチウム)を使用する必要性を有し、これにより、利用可能なカソード材料の選択を制限する。更に、これらの一般的に使用されているカソード活物質は、比較的低い比容量(典型的には<220mAh/g)を有する。これらの要因は、今日のリチウムイオン電池の2つの大きな欠点-低いエネルギー密度(典型的には150~220Wh/kgセル)と低い電力密度(典型的には<0.5kW/kg)の原因となっていた。
【0006】
いくつかの高容量アノード活物質が見出されたが(例えば、4,200mAh/gの理論容量を有するSi)、利用可能な対応する高容量カソード材料はなかった。要約すると、電池科学者たちは、30年を超える間、低いエネルギー密度のリチウムイオン電池に不満を感じていた。Liイオン電池に通常使用されている現在のカソード活物質は、以下の重大な欠点を有する。
(1)現在のカソード材料(例えば、リン酸鉄リチウム及びリチウム遷移金属酸化物)で達成可能な実際的な容量は、150~250mAh/gの範囲、ほとんどの場合、200mAh/g未満に制限されている。
(2)これらのカソード活物質の製造は、通常、長時間にわたる高温焼結手順、面倒で、エネルギー集約的であり、制御が困難なプロセスを経る必要がある。
(3)これらの通常使用されるカソードへの及びカソードからのリチウムの挿入及び抽出は、非常に低い拡散係数(典型的には10-8~10-14cm2/秒)を有する固体粒子中のLiの極めて遅い固相拡散に依存し、非常に低い電力密度(今日のリチウムイオン電池のもう一つの長年の問題)をもたらす。
(4)現在のカソード活物質は、電気的及び熱的に絶縁性であり、電子及び熱を効果的かつ効率的に輸送することができない。低い導電率は、高い内部抵抗及び大量の導電性添加剤を添加する必要性を意味し、すでに低い容量を有するカソードにおける電気化学的に活性な材料の比率を効果的に減少させる。又、熱伝導率が低いということは、リチウム電池業界における大きな安全上の課題である、熱暴走を起こす傾向がより高いことを意味する。
(5)リチウム遷移金属酸化物を含む最も一般に使用されるカソードは、熱暴走を加速するのを助け、電解質酸化のために酸素を供給することができる高い酸素含有量を含み、爆発又は火災の危険性を増加させる。これは、電気自動車の普及を妨げている深刻な問題である。
【0007】
従って、高い容量のカソード活物質を開発することが強く且つ緊急に必要とされている。高い酸化状態にある金属カチオンとM-F結合(M=金属)の強いイオン特性を有する金属フッ化物は、それらの高い理論エネルギー密度のために代替のカソード活物質として提案されてきた。例えば、FeF3は、その低費用及び低毒性のためにかなりの関心を集めてきた。しかしながら、イオン性が高いという性質は、大きなバンドギャップを誘導し、従って金属フッ化物は非常に低い導電性を有する。更に、変換反応の生成物であるLiFも、非常に絶縁性である。従って、金属フッ化物電極は、多くの場合、理論容量よりも顕著に低い、遅い反応速度論及び低いリチウム貯蔵容量にひどく苛まされている。
【0008】
これらの課題を克服するためにいくつかの試みがなされてきたが、成功は非常に限られていた。例えば、より短い電子導電経路及びより大きい反応表面を達成する目的で、金属フッ化物粒子サイズをナノメートル範囲まで減少させることによって電気化学的活性を高めるための努力がなされた。この例では、Badwayらが、ボール粉砕によるFeF3/Cナノ複合材料を報告した[F.Badway,et al.,“Carbon metal fluoride nanocomposites high-capacity reversible metal fluoride conversion materials as rechargeable positive electrodes for Li batteries,”J.Electrochem.Soc.150(2003)A1318-A1327]。しかしながら、この方法は、材料特性及びかなりの数の欠陥を生成することを制御することにおける困難さなどのいくつかの欠点を有する。
【0009】
ボール粉砕を用いないで導電性炭素粒子表面にFeF3を堆積させることが、電極性能を改善する別の手段として提案された。例えば、Kimらは、HFエッチングによって生成されたCNT表面の欠陥にFeF3を核形成することによってカーボンナノチューブ/FeF3複合材料を製造した[S.W.Kim,et al.,“Fabrication of FeF3 nanoflowers on CNT branches and their application to high power lithium rechargeable batteries,”Adv.Mater.22(2010)5260-5264]。この戦略は、活性炭マイクロビーズにFeF3を製造するために他の人によって続けられてきた[L.Liu,et al.,“Synthesis and electrochemical performance of spherical FeF3/ACMB composite as cathode material for lithium-ion batteries,”J.Mater.Sci.47(2012)1819-1824]。Liuらは、エタノール溶液に懸濁された還元酸化グラフェン(rGO)シートに均一なFeF3ナノ粒子を合成するための低温その場手法(low-temperature in situ approach)を提案した[J.Liu,et al.,”Mild and cost-effective synthesis of iron fluoride-graphene nanocomposites for high-rate Li-ion battery cathodes,”J.Mater.Chem.A1(2013)1969-1975]。しかしながら、rGOのFeF3の充填レベル及びFeF3/グラフェン複合材料の速度能力は、実用的な用途には低すぎるままである。
【0010】
FeF
3における導電性添加剤としてグラフェンを使用する他の試みは全て、良好な速度能力、高いエネルギー密度、及び長いサイクル寿命を提供するには不十分である。これらの初期の取り組みの例は、[X.Zhao,et al.,“Photothermal-assisted fabrication of iron fluoride-graphene composite paper cathodes for high-energy lithium-ion batteries,”Chem.Commun.48(2012)9909-9911]及び[Q.Chu,et al.“Reduced graphene oxide decorated with FeF
3 nanoparticles:Facile synthesis and application as a high capacity cathode material for rechargeable lithium batteries,”Electrochim.Acta.111(2013)80]である。Q.Chuらは、476mAh/gの高い比容量を達成することを主張しているが、この容量は、電流密度が50mA/gの実用的に無用な値(過度に低い放電速度)にある場合にのみ達成される。更に、わずか50回の充電-放電サイクルの後、比容量は約110mAh/gまで急速に低下する(Chuらの
図5Bを参照)。更に、この最大達成可能値476mAh/gは、FeF
3における理論比容量712mAh/gよりも著しく低く、低い活物質利用率を示している(即ち、活物質のかなりの部分が十分に利用されていない)。
【0011】
リチウムイオンセル又はリチウム金属セルにおける全てのカソード活物質の非常に低い導電率のために、典型的には2%~15%の量の導電性添加剤(例えば、カーボンブラック、微細黒鉛粒子、膨張黒鉛粒子、又はこれらの組み合わせ)が、電極に添加される必要がある。しかしながら、導電性添加剤は電極活物質ではない。非活物質の使用は、電極活物質の相対比率が減少又は希釈されることを意味する。例えば、カソード中にバインダーとして5重量%のPVDF及び導電性添加剤として5%のカーボンブラックを配合することは、カソード活物質(例えば、コバルト酸リチウム)の最大量がわずか90%であることを意味し、総リチウムイオン貯蔵容量を効果的に削減する。より一般的に使用されるカソード活物質の比容量はすでに非常に低いことから(140-220mAh/g)、かなりの量の非活物質を使用して活物質の濃度を希釈すると、この問題は更に悪化する。
【0012】
導電性添加剤として、カーボンブラック(CB)材料は、いくつかの欠点を有する。(1)CBは、典型的には形状が球形である複数の一次粒子の凝集体の形態で典型的に入手可能である。この幾何学的特徴(最大寸法対最小寸法比又はアスペクト比約1)、及びCBは電気絶縁性マトリックス(例えば、コバルト酸リチウム及びリン酸鉄リチウム)中に離散粒子として分散された少数相であるという考えのために、大量のCBが、CB粒子が組み合わされて電子導電経路の3Dネットワークを形成するパーコレーション閾値に達するために必要とされる。(2)CB自体は比較的低い導電率を有し、従って、得られる電極は、パーコレーション閾値に達した場合でも比較的低い導電率のままである。得られる複合電極を合理的に導電性にするためには、比較的高い比率の(パーコレーション閾値をはるかに超える)CBをカソードに組み入れなければならない。
【0013】
明らかに、高いカソード活物質利用率、高い及び低い充電/放電速度の両方での高い比容量(単なる低い速度ではない)、高い速度能力、長いサイクル寿命、及び電池動作中に発生する改善された熱放散を可能にする金属フッ化物及び塩化物における有効な支持材料に対する緊急の必要性が存在する。これらが本発明の主な目的である。
【0014】
又、この支持材料は、「可能にする」材料が導電性でなければならない。好ましくは、この導電性支持材料は高い熱伝導性も有する。このような熱伝導性添加剤は、Liイオン電池の電気化学的操作から発生する熱を放散することができ、これによって電池の信頼性を高め、電池が熱暴走及び破裂を被る可能性を減少させる。高い導電率では、高い比率の導電性添加剤を添加する必要はないであろう。
【0015】
本発明は、固体グラフェンシート、又はナノグラフェンプレートリット(NGP)を使用して、カソード活物質を支持するための3-D導電性ネットワークを形成するという従来技術の努力を超えている。具体的には、本出願は、3-D導電ネットワークを形成することに加えて、他のいくつかの予想外の機能を提供することによって、カソード活物質を保護するためのグラフェンフォーム材料を使用する。従って、本明細書ではグラフェンフォームの製造に関して簡単な考察をしており、この考察は読者にとって役立つはずである。
【0016】
一般的に言えば、フォーム(又は発泡材料)は、細孔及び細孔壁(フォーム材料の固体部分)から構成される。細孔は相互接続されて連続気泡フォームを形成することができる。グラフェンフォームはグラフェン材料を含有する細孔及び細孔壁から構成される。グラフェンフォームを製造する3つの主な方法がある:
【0017】
第1の方法は、酸化グラフェン(GO)水性懸濁液を高圧オートクレーブ内で封止する工程と、GO懸濁液を高圧(数十又は数百気圧)下で典型的に180~300℃の範囲の温度において長時間にわたって(典型的に12~36時間)加熱する工程とを典型的に必要とする酸化グラフェンヒドロゲルの熱水還元である。この方法のための有用な参考文献をここに示す:Y.Xu,et al.,“Self-Assembled Graphene Hydrogel via a One-Step Hydrothermal Process” ACS Nano 2010,4,4324~4330。この問題に伴ういくつかの主要な問題がある:(a)高圧要件によって、それは工業規模の製造のために実用的でない方法になる。1つには、この方法は、連続的に実施することができない。(b)不可能ではないにしても、得られた多孔性構造体の細孔径及び多孔度のレベルの制御を行なうことは困難である。(c)得られた還元酸化グラフェン(RGO)材料の形状及び大きさを変化させるという観点から柔軟性はない(例えばそれをフィルム形状に製造することはできない)。(d)この方法は、水中に懸濁された超低濃度のGOの使用を必要とする(例えば2mg/mL=2g/L=2kg/kL)。非炭素元素の除去によって(50%まで)、2kg未満のグラフェン材料(RGO)/1000リットルの懸濁液を製造することができるだけである。更に、高温及び高圧の条件に耐えなければならない1000リットル反応器を運転することは実質的に不可能である。明らかに、これは、多孔性グラフェン構造体の大量生産のためのスケーラブルな方法ではない。
【0018】
第2の方法はテンプレート支援触媒CVD法に基づいており、それは、犠牲テンプレート(例えばNiフォーム)上のグラフェンのCVD堆積を必要とする。グラフェン材料は、Niフォーム構造体の形状及び寸法に合致する。それ故、エッチング剤を使用してNiフォームをエッチングにより除去し、本質的に連続気泡フォームであるグラフェン骨格のモノリスを後に残す。この方法のための有用な参考文献をここに示す:Zongping Chen,et al.,“Three-dimensional flexible and conductive interconnected graphene networks grown by chemical vapour deposition,” Nature Materials,10(June 2011)424-428。このような方法に伴ういくつかの問題がある:(a)触媒CVDは本質的に、非常に緩慢な、高度にエネルギー集約的な、且つ費用がかかる方法である。(b)エッチング剤は典型的に非常に望ましくない化学物質であり、得られたNi含有エッチング溶液は汚染源である。溶解されたNi金属をエッチング剤溶液から回収又は再循環させることは非常に難しく且つ費用がかかる。(c)Niフォームがエッチングにより除去されているときにセル壁に損傷を与えずにグラフェンフォームの形状及び寸法を維持することは難題である。得られたグラフェンフォームは典型的に非常に脆く壊れやすい。(d)犠牲金属フォーム内の特定の箇所はCVD前駆体ガスに接触可能でない場合があるので、金属フォームの内部へのCVD前駆体ガス(例えば炭化水素)の輸送は難しいことがあり、不均一な構造体をもたらすことがある。()この方法では、アノード活物質粒子をその中に埋め込むことはできない。
【0019】
また、グラフェンフォームを製造する第3の方法は、自己集合法を使用して酸化グラフェンシートでコートされる犠牲材料(例えばコロイドポリスチレン粒子、PS)を利用する。例えば、Choiらは、化学的に改質したグラフェン(CMG)紙を2つの工程において作製した:CMGとPS(2.0μmのPS球)との混合水性コロイド懸濁液の真空濾過によって自立PS/CMGフィルムを製造し、その後に、PSビードを除去して3Dマクロ細孔を生成する。[B. G. Choi,et al.,“3D Macroporous Graphene Frameworks for Supercapacitors with High Energy and Power Densities,”ACS Nano,6(2012)4020-4028.]Choiらは、濾過によって整列自立PS/CMG紙を製造し、それは負に帯電したCMGコロイド懸濁液及び正に帯電したPS懸濁液を別々に調製することから開始した。CMGコロイド懸濁液とPS懸濁液との混合物を制御されたpH(=2)下で溶液中に分散させ、そこで2つの化合物は同じ表面電荷を有した(CMGについては+13±2.4mV及びPSについては+68±5.6mVのゼータ電位値)。pHが6に上昇するとき、それらの間の静電相互作用及び疎水性特性のためにCMG(ゼータ電位=-29±3.7mV)及びPS球(ゼータ電位=+51±2.5mV)が集められ、これらはその後、濾過プロセスによってPS/CMG複合紙に統合された。また、この方法はいくつかの欠点を有する:(a)この方法は、酸化グラフェン及びPS粒子の両方の非常に時間のかかる化学処理を必要とする。(b)トルエンによるPSの除去はまた、弱化したマクロ多孔性構造体をもたらす。(c)トルエンは高度に調節された化学物質であり、非常に注意して処理されなければならない。(d)細孔径は典型的に過度に大きく(例えば数μm)、多くの有用な用途のためには大き過ぎる。
【0020】
上記の考察は、グラフェンフォームを製造するためのあらゆる従来技術の方法又はプロセスがいくつかの大きな欠点を有することを明確に示している。更に、初期の研究のいずれも、リチウム電池のカソード活物質用の保護材料としてグラフェンフォームを使用していない。
【0021】
従って、本発明の目的は、高導電性で機械的に頑強なグラフェンフォームを大量に製造するための費用効果の高いプロセスを提供することである。又、このグラフェンフォームは、このフォームの細孔内に存在しこのフォームによって保護されているカソード活物質粒子又はコーティング(例えば、遷移金属フッ化物又は塩化物)を含む。このプロセスは、環境に優しくない化学物質の使用を伴わない。このプロセスは、多孔度レベル及び細孔サイズの柔軟な設計及び制御を可能にする。
【0022】
本発明の別の目的は、グラフェンフォームが、黒鉛/カーボンフォームのものと同等又はそれを超える熱伝導率、電気導電率、弾性率、及び/又は圧縮強度を示す、グラフェンフォームで保護されたカソード活物質を製造するためのプロセスを提供することである。保護グラフェンフォームの内部細孔は、埋め込まれたカソード活物質粒子の膨張及び収縮と一致して膨張及び収縮し、高容量カソード活物質(FeF3、BiF3、及びCuCl2など)を特徴とするリチウム電池の長期サイクル安定性を可能にする。
【0023】
本発明の別の目的は、リチウムイオン電池又はリチウム金属電池に通常使用されるいずれのカソード層にも匹敵しない、優れた熱伝導率、電気導電率、機械的強度、及び弾性率の組み合わせを示すカソード層を提供することである。
【0024】
本発明の更なる別の目的は、グラフェンフォームが、(a)本質的に全ての炭素を含み、唯一好ましくは2nm~200nmの範囲の細孔サイズを有する純粋なグラフェンフォーム、又は(b)非炭素元素の少なくとも0.001重量%(典型的には0.01%~5重量%、最も典型的には0.01%~2%)を含む非純粋なグラフェンフォーム(フッ化グラフェン、塩化グラフェン、窒素化グラフェン等)から選択される、グラフェンフォームで保護されたカソード活物質を提供することである。
【発明の概要】
【0025】
本明細書に報告されているのは、高容量のカソード層、並びに電子導電経路の堅牢な3-Dネットワーク及び高い導電性を提供するだけでなく、カソード材料を容易に、高い電極タップ密度、十分に大きい電極厚さ(十分な量の出力電流を確保するために典型的には50~600μm)、大きな重量パーセントのカソード活物質(電極及び別の集電体を組み合わせたときの導電性添加剤及びバインダーなどの、不活物質の総量に対して)、並びに長期安定性を有する電極層にすることを可能にする高い導電率をもたらす顕著に改善されたカソード層製造プロセスである。又、可逆容量は、最先端のカソード材料のものよりも顕著に改善されている
【0026】
簡単に言えば、本発明は、カソード活物質(例えば、遷移金属フッ化物又は塩化物粒子)が、カソード活物質の膨張に適応するのに十分な空間を有するだけではない、グラフェンフォームの細孔に自然に収容される新しいカソード層組成物を提供する。又、本発明のグラフェンフォームは、カソード層が作製されるときにセル壁(フォームの固体部分)を圧縮してカソード活物質粒子をしっかりと包み込むことができるという点で特異的な「弾性」特性を示す。電池の放電操作中に個々の粒子が膨張すると(Liインターカレーション時)、体積膨張は、カソード層全体の体積変化を引き起こすことなく(従って、電池に内圧をかけないで)局所的なセル壁によって適合される。その後の充電サイクル中に、これらの粒子は収縮するが、局所的なセル壁は、一致する方法で収縮し又は元に戻り、セル壁と粒子の間の良好な接触を維持する(次の放電サイクル中にLi+イオン及び電子を受容することができるままである)。
【0027】
このカソード層の細孔に収容されているカソード活物質は、CoF3、MnF3、FeF3、VF3、VOF3、TiF3、BiF3、NiF2、FeF2、CuF2、CuF、SnF2、AgF、CuCl2、FeCl3、MnCl2、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される金属フッ化物又は金属塩化物である。カソード活物質の粒子又はコーティングは、好ましくは10μm未満、より好ましくは1μm未満、更により好ましくは100nm未満、更により好ましくは10nm未満、最も好ましくは5nm未満の直径又は厚さを有する。カソード活物質は、カソード層の総重量の1%~99.9%、好ましくはより典型的には50~99重量%の量である。
【0028】
本発明のカソード又は正極層は、複数の細孔及び細孔壁からなる固体グラフェンフォームの細孔に埋め込まれたカソード活物質を含み、この場合に、(a)細孔壁は、本質的に0%の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、又は0.001%~5重量%の非炭素元素を有する非純粋なグラフェン材料を含み、非純粋なグラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択され、(b)カソード活物質は、グラフェンフォームとアノード活物質を合わせた総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%(好ましくはより典型的には50重量%~99重量%)の量であり、(c)いくつかの細孔はカソード活物質の粒子で覆われ、他の細孔は粒子を含まず、グラフェンフォームは、アノード層の膨張を避けるために、電池充電-放電サイクル中のカソード活物質の粒子の体積膨張及び収縮に適合するのに十分に弾性である。
【0029】
固体グラフェンフォームは、典型的には、0.01~1.7g/cm3の密度、50~2,000m2/gの比表面積、単位比重当たり少なくとも100W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり1,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0030】
好ましくは、カソード活物質粒子は、100nm未満、より好ましくは10nm、最も好ましくは5nm未満の厚さ又は直径を有するナノ粒子、ナノワイヤ、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、又はナノコーティングの形態である。
【0031】
好ましい実施形態では、カソード層は、その中に炭素又は黒鉛材料を更に含み、炭素又は黒鉛材料は、カソード活物質と電子的に接触している、又はカソード活物質に対して堆積されている。最も好ましくは、この炭素又は黒鉛材料は、カソード活物質の粒子を取り込み、次いで取り込まれた粒子は、グラフェンフォームの細孔に収容される。炭素又は黒鉛材料は、ポリマーカーボン、非晶質カーボン、化学気相蒸着カーボン、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、カーボンブラック、コークス、アセチレンブラック、活性炭、100nmより小さい寸法の微細な膨張黒鉛粒子、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、又はこれらの組み合わせから選択することができる。最も好ましくは、カソード層は、炭素材料、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性金属コーティング、又はリチウム導電性材料から選択される導電性保護コーティングを更に含み、これは、ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、又はナノコーティングに対して堆積される又はこれらの周りに巻き付けられる。コーティングはリチウム導電性材料であり得る。
【0032】
典型的には、本発明のカソード層において、細孔壁は、X線回折により測定される0.3354nm~0.36nmの面間隔d002を有する積層グラフェン面を含む。細孔壁は純粋なグラフェンを含むことができ、固体グラフェンフォームは0.5~1.7g/cm3の密度を有する、又は細孔は2nm~200nm、好ましくは2nm~100nmの細孔サイズを有する。或いは、非純粋なグラフェン材料は、0.01重量%~2.0重量%の非炭素元素の含有量を含む。一実施形態では、細孔壁はフッ化グラフェンを含み、固体グラフェンフォームは0.01重量%~2.0重量%のフッ素含有量を含む。別の実施形態では、細孔壁は酸化グラフェンを含み、固体グラフェンフォームは0.01重量%~2.0重量%の酸素含有量を含む。典型的には、非炭素元素は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される元素を含む。典型的には、固体グラフェンフォームは、200~2,000m2/gの比表面積又は0.1~1.5g/cm3の密度を有する。
【0033】
好ましい実施形態では、カソード層は、1μm~10cmの厚さ及び少なくとも2メートルの長さを有する連続長ロールシート形態である層から作製され、ロールツーロールプロセスによって製造される。別の好ましい実施形態では、カソードは、1μm~10cmの厚さ又は直径、及び少なくとも2メートルの長さを有する連続長フィラメント状形態である。
【0034】
好ましい実施形態において、カソード層のグラフェンフォームは、1重量%未満の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、細孔壁は、0.35nm未満のグラフェン間の間隔を有し、単位比重当たり少なくとも250W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり2500S/cm以上の電気導電率を有する。
【0035】
好ましい実施形態において、グラフェンフォームは、0.01重量%未満の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、前記細孔壁は、0.34nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面、単位比重当たり少なくとも300W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,000S/cm以上の電気導電率を有する。更に好ましくは、グラフェンフォームは、0.01重量%以下の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、前記細孔壁は、0.336nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面、0.7以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり少なくとも350W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,500S/cm以上の電気導電率を有する。最も好ましくは、グラフェンフォームは、0.336nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面を含有する細孔壁、0.4以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり400W/mK超の熱伝導率、及び/又は単位比重当たり4,000S/cm超の電気導電率を有する。
【0036】
細孔壁は、0.337nm未満のグラフェン間の間隔及び1.0未満のモザイクスプレッド値を有する積層グラフェン面を含み得る。一実施形態では、固体グラフェンフォームは、80%以上の黒鉛化度及び/又は0.4未満のモザイクスプレッド値を示す。より好ましくは、固体グラフェンフォームは、90%以上の黒鉛化度及び/又は0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。典型的には、本発明のカソード層において、細孔壁は相互接続されたグラフェン面の3Dネットワークを含む。グラフェンフォームは、20nm~500nmの細孔サイズを有する細孔を含む。
【0037】
又、本発明は、上記で定義されたカソード又は正極、アノード又は負極、並びにアノード及びカソードとイオン接触している電解質を含むリチウム電池を提供する。このリチウム電池は、カソードと電子的に接触しているカソード集電体を更に含むことができる。一実施形態では、リチウム電池は、アノードと電子的に接触しているアノード集電体を更に含む。
【0038】
或いはより好ましくは、リチウム電池において、グラフェンフォームは、リチウム電池の放電操作中にカソード活物質から電子を収集するためのカソード集電体として機能し、これは別個の又は更なるカソード集電体を含まない。リチウム電池は、リチウムイオン電池又はリチウム金属電池であり得る。
【0039】
アノードは、リチウム金属二次電池のアノード活物質としてリチウム金属(例えば、Li金属箔)を含み得る。アノードは、リチウムイオンセルのアノード活物質として予備リチウム化材料(例えば、予備リチウム化黒鉛、予備リチウム化炭素、及び予備リチウム化Si粒子等)を含み得る。
【0040】
従って、アノード活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びカドミウム(Cd)、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Ni、Co、又はCdと他の元素との合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Fe、Ni、Co、V、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物、複合材料、又はリチウム含有複合材料、(d)Snの塩及び水酸化物、(e)チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、アルミン酸リチウム、リチウム含有酸化チタン、リチウム遷移金属酸化物、(f)これらの予備リチウム化バージョン、(g)Li、Li合金、又は表面安定化Liの粒子、並びに(h)これらの組み合わせからなる群から選択されることができる。好ましくは、アノード活物質は、予備リチウム化Si、予備リチウム化Ge、予備リチウム化Sn、予備リチウム化SnOx、予備リチウム化SiOx、予備リチウム化酸化鉄、予備リチウム化VO2、予備リチウム化Co3O4、予備リチウム化Ni3O4、又はこれらの組み合わせを含み、この場合に、xは1~2である。
【0041】
好ましい実施形態においては、固体グラフェンフォームで保護されたカソード活物質は、厚さ200μm以下、少なくとも1メートル、好ましくは少なくとも2メートル、更に好ましくは少なくとも10メートル、最も好ましくは少なくとも100メートルの長さを有する連続長ロールシート形態(連続フォームシートのロール)に作製される。このシートロールはロールツーロールプロセスで作製される。シートロール形態に作製された従来技術のグラフェンフォームは存在しなかった。純粋な又は純粋でない、連続長のグラフェンフォームを作製するためのロールツーロールプロセスを有することが可能であることは、これまでに見出されたことも示唆されたこともない。或いは、カソード層は、1μm~10cmの厚さ又は直径、及び少なくとも2メートルの長さを有する連続長フィラメント状形態であり得る。
【0042】
本発明のカソード層は、
(a)カソード活物質の粒子とグラフェン材料が液体媒体中に分散されたグラフェン分散体を調製する工程であって、グラフェン材料が、純粋なグラフェン、グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物、グラフェンフッ化物、グラフェン塩化物、グラフェン臭化物、グラフェンヨウ化物、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択され、分散体が任意の発泡剤を含む工程と、
(b)グラフェン分散体を支持基材(例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、金属箔、ガラスシート、紙シート等)の表面に対して分配及び堆積してグラフェン-アノード材料混合物の湿潤層を形成する工程であって、分配及び堆積手順が、グラフェン分散体を配向誘起応力に供することを含む工程と、
(c)グラフェン-カソード材料混合物の湿潤層から液体媒体を部分的に又は完全に除去して、5重量%以上の非炭素元素(例えばO、H、N、B、F、Cl、Br、I等)の含有量を有する材料混合物の乾燥された層を形成する工程と、
(d)カソード層を製造するために非炭素元素から揮発性ガス分子を誘導する又は前述の発泡剤を活性化するために十分な所望の加熱速度において100℃~3,200℃の第1の熱処理温度で材料混合物の乾燥された層を熱処理する工程と、
を含むプロセスによって製造されることができる。
【0043】
グラフェン材料が5重量%以上の非炭素元素(例えばO、H、N、B、F、Cl、Br、I等)の含有量(好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上、更により好ましくは30%又は40%以上、最も好ましくは50%まで)を有する場合、任意の発泡剤は必要とされない。その後の高温処理は、これらの非炭素元素の大部分をグラフェン材料から除去し、細孔又はセルを固体グラフェン材料構造体において生じさせる揮発性ガス種を生成するのに役立つ。言い換えれば、非常に驚くべきことに、これらの非炭素元素は発泡剤の役割を果たす。従って、外部から加えられる発泡剤は任意である(必要とされない)。しかしながら、発泡剤の使用は、所望の用途において多孔度のレベル及び細孔サイズを調節又は調整する際の付加的な適応性を提供することができる。非炭素元素含有量が5%未満、例えば本質的に全炭素である純粋なグラフェンなどである場合、典型的には発泡剤が必要とされる。
【0044】
発泡剤は、物理的発泡剤、化学的発泡剤、それらの混合物、溶解及び浸出剤、又は機械的に導入された発泡剤であり得る。
【0045】
プロセスは、アノード層を得るために十分な時間の間、カソード層を第1の熱処理温度よりも高い第2の熱処理温度において熱処理する工程を更に含むことができ、この場合に、細孔壁は、0.3354nm~0.40nmの面間間隔d002を有する積層グラフェン面及び5重量%未満(典型的には0.001%~2%)の非炭素元素の含有量を含む。得られた非炭素元素含有量が0.1%~2.0%であるとき、面間間隔d002は、典型的には0.337nm~0.40nmである。
【0046】
分散体中の元のグラフェン材料が、5重量%よりも高い非炭素元素を含む場合、(熱処理後の)固体グラフェンフォーム中のグラフェン材料は、熱処理の工程(d)の間に生じる構造欠陥を含む。液体媒体は単に水及び/又はアルコールであり得るが、それは環境に優しい。
【0047】
好ましい実施形態において、プロセスは、工程(b)及び(c)が、支持基材をフィーダーローラーから堆積領域に供給する工程と、グラフェン分散体を支持基材の表面に対して連続的に又は不連続に堆積させて湿潤層をその上に形成する工程と、湿潤層を乾燥させて材料混合物の乾燥された層を形成する工程と、支持基材上に堆積された材料混合物の乾燥された層をコレクターローラー上に集める工程とを含む、ロールツーロールプロセスである。このようなロールツーロール又はリールツーリールプロセスは、自動化され得る真に工業規模の、大規模製造プロセスである。
【0048】
一実施形態において、第1の熱処理温度は100℃~1,500℃である。別の実施形態において、第2の熱処理温度には、少なくとも、(A)300~1,500℃、(B)1,500~2,100℃、及び/又は(C)2,100~3,200℃から選択される温度が含まれる。特定の実施形態において、第2の熱処理温度には、少なくとも1時間の間300~1,500℃の範囲の温度、次いで少なくとも1時間の間1,500~3,200℃の範囲の温度が含まれる。
【0049】
第1及び/又は第2の熱処理を乾燥されたグラフェン-カソード活物質混合物層に行なうことのいくつかの驚くべき結果があり、異なる熱処理温度範囲によって異なる目的を達成することができ、例えば(a)グラフェン材料から非炭素元素を除去して(例えばフッ素化グラフェンを熱還元してグラフェン又は還元グラフェンフッ化物、RGFを得る)揮発性ガスを生成し、細孔又はセルをグラフェン材料にて生じさせる、(b)化学的又は物理的発泡剤を活性化して細孔又はセルを生じさせる、(c)グラフェンシートを化学的同化又は連結して、フォーム壁(フォームの固体部分)にてグラフェンシートの横方向寸法を著しく増加させる、(d)黒鉛粒子におけるグラフェン面のフッ素化、酸化、又は窒化の間に生じた欠陥部の回復、及び(e)黒鉛ドメイン又は黒鉛結晶の再組織化及び完全性などである。これらの異なる目的又は機能は、異なる温度範囲内で異なる程度に達成される。典型的には、非炭素元素は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される元素を含む。非常に驚くべきことに、低温発泡条件下でも、熱処理は、多くの場合に縁部から縁部までの方法で(一部は面から面までの方法で)グラフェンシート間の化学連結、同化、又は化学結合を引き起こす。
【0050】
一実施形態において、固体グラフェンフォーム(カソード活物質を除く)は200~2,000m2/gの比表面積を有する。一実施形態において、固体グラフェンフォームは、0.1~1.5g/cm3の密度を有する。実施形態において、第1の熱処理温度において乾燥されたグラフェン-カソード活物質混合物層を熱処理する工程(d)は、圧縮応力下で行われる。別の実施形態において、プロセスは、グラフェンフォームのシートの厚さ、細孔サイズ、又は多孔度のレベルを低減する圧縮工程を含む。電池セルにおいて、一般的にアノード層は10~800μm、より一般的には50~500μmの厚さを有する。
【0051】
実施形態において、グラフェン分散体は、液体媒体中に分散された少なくとも3重量%のグラフェン酸化物を有し、液晶相を形成する。別の実施形態において、グラフェン分散体は、グラフェン分散体を得るために十分な長さの時間にわたり反応温度において反応器の酸化性液体において粉末又は繊維形態の黒鉛材料を浸漬することによって調製されたグラフェン酸化物分散体を含み、この場合に、黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、又はそれらの組み合わせから選択され、グラフェン酸化物は5重量%以上の酸素含有量を有する。
【0052】
実施形態において、第1の熱処理温度は80℃~300℃の範囲の温度を含み、結果として、グラフェンフォームは、5%未満の酸素含有量又は非炭素元素含有量を有し、細孔壁は、0.40nm未満のグラフェン間の間隔、単位比重当たり少なくとも150W/mK(より典型的には少なくとも200W/mk)の熱伝導率、及び/又は単位比重当たり2,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0053】
好ましい実施形態において、第1の及び/又は第2の熱処理温度は300℃~1,500℃の範囲の温度を含み、結果として、グラフェンフォームは、1%未満の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、細孔壁は、0.35nm未満のグラフェン間の間隔、単位比重当たり少なくとも250W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり2,500S/cm以上の電気導電率を有する。
【0054】
第1の及び/又は第2の熱処理温度が1,500℃~2,100℃の範囲の温度を含む場合、グラフェンフォームは、0.01%未満の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、細孔壁は、0.34nm未満のグラフェン間の間隔、単位比重当たり少なくとも300W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0055】
第1の及び/又は第2の熱処理温度が2,100℃を超える温度を含む場合、グラフェンフォームは、0.001%以下の酸素含有量又は非炭素含有量を有し、細孔壁は、0.336nm未満のグラフェン間の間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり少なくとも350W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり3,500S/cm以上の電気導電率を有する。
【0056】
第1の及び/又は第2の熱処理温度が2,500℃以上の温度を含む場合、グラフェンフォームは、0.336nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面、0.4以下のモザイクスプレッド値、及び単位比重当たり400W/mK超の熱伝導率、及び/又は単位比重当たり4,000S/cm超の電気導電率を含む細孔壁を有する。
【0057】
一実施形態において、細孔壁は、0.337nm未満のグラフェン間の間隔を有する積層グラフェン面及び1.0未満のモザイクスプレッド値を有する。別の実施形態において、グラフェンフォームの固体壁部分は、80%以上の黒鉛化度及び/又は0.4未満のモザイクスプレッド値を示す。更に別の実施形態において、グラフェンフォームの固体壁部分は、90%以上の黒鉛化度及び/又は0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。
【0058】
典型的には、細孔壁は、電気導電経路である相互接続されたグラフェン面の3D網目構造を含む。セル壁は、20nm以上、より典型的には及び好ましくは40nm以上、更により典型的には及び好ましくは100nm以上、更により典型的には及び好ましくは500nm以上、多くの場合に1μm超、場合には10μm超の横方向寸法(La、長さ又は幅)を有する黒鉛ドメイン又は黒鉛結晶を含む。黒鉛ドメインは、典型的には1nm~200nm、より典型的には1nm~100nm、更により典型的には1nm~40nm、最も典型的には1nm~30nmの厚さを有する。
【0059】
好ましくは、固体グラフェンフォームは、2nm~10μm(好ましくは2nm~500nm、より好ましくは2nm~200nm)の細孔サイズを有する細孔を含む。Ni触媒CVDを使用して、2~20nmの細孔サイズ範囲を有するグラフェンフォームを製造することは可能でなかったことに留意されたい。これは、このような細孔サイズ範囲を有するNiフォームテンプレートを調製することは可能でなく、炭化水素ガス(前駆体分子)がこれらのサイズのNiフォーム細孔に容易に入ることはできないという考えによる。また、これらのNiフォーム細孔は、相互接続されなければならない。更に、犠牲プラスチックコロイド粒子方法は、ミクロン~ミリメートルのサイズの範囲であるマクロ細孔をもたらした。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明は、カソード活物質から構成されるカソード層及び複数の細孔及び細孔壁から構成される固体グラフェンフォームを製造するためのロールツーロールのプロセスを提供する。このプロセスは、(a)カソード活物質及びグラフェン材料が液体媒体中に分散されたグラフェン分散体を調製する工程であって、分散体は場合により発泡剤を含む工程と、(b)グラフェン分散体を支持基材の表面に対して連続的に又は不連続に分配及び堆積して、グラフェン-カソード活物質混合物の湿潤層を形成する工程であって、支持基材が、フィーダーローラーから供給されコレクターローラー上で集められた連続した薄いフィルムである工程と、(c)湿潤層から液体媒体を部分的に又は完全に除去して材料混合物の乾燥された層を形成する工程と、(d)0.01~1.7g/cm3の密度又は50~3,000m2/gの比表面積を有する前述の固体グラフェンフォームを製造するための発泡剤を活性化するために十分な所望の加熱速度において材料混合物の乾燥された層を100℃~3,000℃の第1の熱処理温度で熱処理する工程と、を含む。
【0061】
配向誘起応力は剪断応力であってもよい。一例として、「ナイフ・オン・ロール」構成がプラスチックフィルムなどの移動固体基材にわたりグラフェン分散体を分配する自動化ロールツーロールコーティングプロセスにおいて有効な配向誘起応力が生じる。この移動フィルムとコーティングナイフの間の相対運動は、剪断応力方向に沿うグラフェンシートの配向をもたらすように作用する。
【0062】
剪断応力によってグラフェンシートを特定の方向(例えばX方向又は長さ方向)に沿って整列して、好ましい配向を生じさせることができ、フォーム壁に沿ってグラフェンシート間の接触を容易にすることができるという驚くべき観察により、この配向誘起応力は、本発明のグラフェンフォームの製造における極めて重要な工程である。更に驚くべきことに、これらの好ましい配向及び改良されたグラフェン間の接触は、乾燥されたグラフェン層のその後の熱処理中にグラフェンシート間の化学的同化又は連結を容易にする。このような好ましい配向及び改良された接触は、得られたグラフェンフォームの非常に高い熱伝導率、電気導電率、弾性率、及び機械的強度の最終的な達成に不可欠である。一般的には、これらの大きな特性は、このような剪断応力によって誘起された配向の制御なしに達成することができない。
【0063】
又、本発明は、カソード層を作製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、(a)細孔及びグラフェン細孔壁を有するグラフェンフォームを提供する工程と、(b)カソード活物質反応物の溶液をグラフェンフォームの細孔に含浸させる工程と、(c)この反応物を化学反応させて、グラフェン細孔壁に結合した細孔又はカソード活物質コーティングに存在するカソード活物質粒子を形成する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態によるグラフェンフォームで保護されたカソード活物質の概略図である。
【
図2A】
図2(A)は、純粋なグラフェンフォーム40a又はグラフェン酸化物フォーム40bを製造するためのプロセスと共に、剥離黒鉛製品(可撓性黒鉛箔及び膨張黒鉛フレーク)を製造する様々な先行技術のプロセスを説明するフローチャートである。
【
図2B】
図2(B)は、単塊状黒鉛又はNGPフレーク/プレートリットの従来の紙、マット、フィルム、及び膜を製造するためのプロセスを説明する略図である。全てのプロセスは、黒鉛材料(例えば天然黒鉛粒子)のインターカレーション及び/又は酸化処理から開始する。
【
図3A】
図3(A)は、アノード層がアノード活物質自体の薄いコーティングである、従来技術のリチウムイオン電池セルの概略図である。
【
図3B】
図3(B)は、別のリチウムイオン電池の概略図であり、アノード層は、アノード活物質の粒子と、導電性添加剤(図示せず)と、樹脂バインダー(図示せず)とからなる。
【
図4】
図4は、酸化グラフェンシート間の化学連結の可能なメカニズムであり、このメカニズムはグラフェンシートの横方向寸法を効果的に増加させる。
【
図5A】
図5(A)は、本発明のプロセスによって製造されたGO懸濁液由来のフォーム、メソフェーズピッチ由来の黒鉛フォーム、及びNiフォームテンプレート支援CVDグラフェンフォームの熱伝導率の値対比重である。
【
図5B】
図5(B)は、GO懸濁液由来のフォーム、犠牲プラスチックビードによってテンプレート化されたGOフォーム、及び熱水還元GOグラフェンフォームの熱伝導率の値である。
【
図5C】
図5(C)は、本発明のプロセスによって製造されたGO懸濁液由来のフォーム及び熱水還元GOグラフェンフォームの電気導電率のデータである。
【
図6A】
図6(A)は、GO懸濁液由来のフォーム、メソフェーズピッチ由来の黒鉛フォーム、及びNiフォームテンプレート支援CVDグラフェンフォームの(1.02g/cm
3までの比重の値に対する)熱伝導率の値である。
【
図6B】
図6(B)は、GO懸濁液由来のフォーム、犠牲プラスチックビードによってテンプレート化されたGOフォーム、及び熱水還元GOグラフェンフォームの(1.02g/cm
3までの比重の値に対する)熱伝導率の値である。
【
図7】
図7は、比重の関数としてGO及びGF(グラフェンフッ化物)から得られるグラフェンフォーム試料の熱伝導率の値である。
【
図8】
図8は、最終(最高)熱処理温度の関数としてGO及び純粋なグラフェンから得られたグラフェンフォーム試料の熱伝導率の値である。
【
図9A】
図9(A)は、X線回折によって測定されるグラフェンフォーム壁におけるグラフェン面間間隔である。
【
図9B】
図9(B)は、GO懸濁液由来のグラフェンフォームにおける酸素含有量である。
【
図10】
図10は、グラフェンフォームで保護されたFeF
3のカソードを含むセルの比容量、及びグラフェン担持FeF
3ナノ結晶のカソードを含むセルの比容量が、それぞれ充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされる。
【
図11】
図11は、グラフェンフォームで保護されたBiF
3粒子のカソードを含むセルの比容量、グラフェン担持BiF
3ナノ結晶のカソードを含むセルの比容量、及びボールミル粉砕したBiF
3/グラフェン混合物のカソードを含むセルの比容量が、それぞれ充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされる。
【
図12】
図12は、3つのセルのラゴーンプロット:グラフェンフォームで保護されたFeF
3粒子のカソードを含むセル、グラフェン担持FeF
3ナノ結晶のカソードを含むセル、及びボールミル粉砕したFeF
3/グラフェン混合物のカソードを含むセル。
【
図13】
図13は、ボールミル粉砕によって得られた、グラフェンフォームで保護されたCuCl
2粒子のカソードを含むセルの比容量及びグラフェン-CuCl
2混合物のカソードを含むセルの比容量が、それぞれ充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされる。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図3(B)に示すように、従来のリチウムイオン電池の単位セル又は構成単位は、典型的には、アノード集電体(例えば、Cu箔)、アノード層又は負極層(その中にリチウムを貯蔵する役割を果たすアノード活物質、導電性添加剤、及び樹脂バインダーを含む)、電解質及び任意の多孔質セパレータ、カソード又は正極層(その中にリチウムを貯蔵する役割を果たすカソード活物質、導電性添加剤、及び樹脂バインダーを含む)、並びに別個のカソード集電体からなる。電解質は、アノード活物質及びカソード活物質の両方とイオン接触している。電解質が固体電解質である場合、多孔質セパレータは必要ではない。従来のリチウム金属二次電池(
図3(A)の場合、アノード層は、単にアノード集電体に取り付けられたリチウム箔(例えば、Cu箔)である。
【0066】
従来のカソード層におけるバインダーを用いて、カソード活物質(例えばLiCoO2及びLiMn2O4粒子)及び導電性充填剤(例えば、カーボンブラック又はカーボンナノチューブ)をともに結合して、構造的一体性のカソード層を形成し、カソード層を別個のカソード集電体と結合し、電池が充電されたときにカソード活物質から電子を収集するように作用する。言い換えれば、電池の正極側には、典型的には4つの異なる材料が含まれる:カソード活物質、導電性添加剤、樹脂バインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン、PVDF、及びポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、並びにカソード集電体(典型的には、Al箔のシート)。しかしながら、カソード活物質のみがリチウムイオンの貯蔵に関与しており、他の3つの材料は全て、不必要に余分な重量と体積を、すでに低いリチウム貯蔵容量であるカソードに追加する不活物質である。本発明は、不活物質の使用を最小限に抑える。
【0067】
本発明は、リチウム二次電池における高容量カソード材料(金属フッ化物又は金属塩化物)を含むカソード層(陽極層)に関し、これは、好ましくは、非水性電解質、ポリマーゲル電解質、イオン液体電解質、準固体電解質、又は固相電解質に基づく二次電池である。リチウム二次電池の形状は、円筒形、正方形、ボタン状等であり得る。本発明は、いかなる電池の形状又は構成にも限定されない。
【0068】
様々な産業(例えば、スマートフォン、及びEVなどの携帯機器)で現在広く使用されている従来のリチウムイオン電池では、カソード活物質(例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiFePO4等)の作用は全てリチウムインターカレーション機構に基づく。しかしながら、リチウムインターカレーション単独では、十分なリチウム貯蔵容量を提供しない。本発明は、インターカレーション機構の代わりに又はこれに加えて、変換反応に基づくリチウム貯蔵機構において作用するカソード活物質に関する。変換反応では、初期のMXy種(X=F又はCl)の遷移金属Mがリチウムによって還元されてLiX及び純粋な金属Mが得られる。関与する材料は、カソードのリチウム貯蔵容量を、ひいてはリチウムイオンセルのエネルギー密度を大幅に高めることができる。このような高いエネルギー密度の理由は、遷移金属が2つ以上の電子を伴う様々な酸化状態を通過する可能性にある。例えば、3電子反応を完了させることが可能である場合、FeF3は、潜在的に712mAh/gに達する可能性がある。対照的に、LiFePO4では、Fe(III)/Fe(II)対のみが活性であり、理論上の最大値は170mAh/gに過ぎない(三フッ化鉄のものより4.2倍少ない)。
【0069】
残念ながら、様々な技術的理由(例えば、非常に低い導電率、活物質と導電性充填剤の間の接触不良、大きい活物質粒径、不十分な活物質利用率、リチウム化/脱リチウム化中の著しい体積変化等)のため、全ての遷移金属フッ化物又は塩化物材料の最大リチウム貯蔵容量は完全には実現されていない。実際、これまでに達成されたことは、典型的には、理論容量を2~5倍下回っている。本発明は、これらの非常に困難な問題を克服し、全ての遷移金属フッ化物又は塩化物材料がそれらのリチウム貯蔵容量をより完全に実現することを可能にした。
【0070】
更に、従来のカソード層は、単位電極面積当たり十分な量の電流を生じさせるために、典型的には10~300μmの厚さ(より典型的には100~200μm)である。この厚さの範囲は、電池設計者が取り組まなければならない業界で認められた制約である。この制約はいくつかの理由による:(a)既存の電池電極コーティング機は、過度に薄い又は過度に厚い電極層をコーティングするように装備されていない、(b)リチウムイオン拡散経路長の減少を考慮すると、より薄い層が好ましく、しかし、薄すぎる層(例えば、<<100μm)は、十分な量の活性リチウム貯蔵材料を含まない(従って、不十分な電流出力)、並びに(c)最小のオーバーヘッド重量及び最大のリチウム貯蔵容量、並びにひいては最大化されたエネルギー密度(セルのWk/kg又はWh/L)を得るために、電池セル中の全ての非活物質層(例えば、集電体、導電性添加剤、バインダー樹脂、及びセパレータ)を最小限に保たなければならない。
【0071】
言い換えれば、材料の種類、形状、大きさ、多孔度、及び電極層の厚さについてのカソード活物質の設計及び選択に関しては、同時に考慮しなければならないいくつかの相反する要因がある。これまでのところ、これらの多くの場合に矛盾する問題に対する任意の従来技術の教示によってもたらされる効果的な解決策は存在していない。我々は、グラフェンフォームで保護されたカソード活物質を開発することによって、30年を超える間、電池設計者と電気化学者が同様に悩んでいたこれらの挑戦的な課題を解決した。
【0072】
図1に概略的に示されるように、本発明は、(A)多数の細孔と細孔壁とからなる固体グラフェンフォームのシートと、(B)これらの細孔のいくつかに存在するこのカソード活物質の粒子を有するカソード活物質とを含むカソード層を提供し、いくつかの細孔は空いたままであり、カソード活物質粒子の体積膨張を緩和するように作用する。又、本発明は、このようなカソード層を作製するためのプロセスを提供する。
【0073】
より具体的には、本発明のカソード層又は正極層は、複数の細孔及び細孔壁(グラフェンフォームの固体部分)からなる、固体グラフェンフォームの細孔に埋め込まれたカソード活物質を含み、この場合に、(a)細孔壁は、本質的に0%の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、又は0.001%~5重量%の非炭素元素を有する非純粋なグラフェン材料を含み、非純粋なグラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択され、(b)カソード活物質は、グラフェンフォームとカソード活物質を合わせた総重量に基づいて、1重量%~99.9重量%の量であり(好ましくは5~95重量%、より好ましくは50~95重量%)、(c)いくつかの細孔はカソード活物質の粒子で覆われ、他の細孔は粒子を含まず、グラフェンフォームは、カソード層の膨張を避けるために、電池充電-放電サイクル中のカソード活物質の粒子の体積膨張及び収縮に適応するのに十分に弾性である。本発明のプロセスによって作製されたフォーム壁中の結合グラフェン面は、カソード活物質粒子又はコーティングの膨張及び収縮に応答する程度まで弾性変形することができることが見出された。
【0074】
固体グラフェンフォームは、典型的には0.01~1.7g/cm3(より典型的には0.05~1.6g/cm3、更により典型的には0.1~1.5g/cm3、より望ましくは0.5~0.01~1.3g/cm3)の密度、50~2,000m2/gの比表面積、単位比重当たり少なくとも100W/mKの熱伝導率、及び/又は単位比重当たり1,000S/cm以上の導電率を有する。物理密度のこれらの範囲は、任意に選択された範囲ではないことに留意されたい。一方では、これらの密度は、内部細孔量(多孔度のレベル)が、カソード活物質ごとに異なるカソード活物質の最大膨張に適応するのに十分大きいように設計されている。他方、細孔の量は多すぎてはならず(又は物理密度が低すぎる)、さもなければ、グラフェンフォーム構造の細孔壁は、十分に弾性的であることができない(又は、完全に回復可能又は可逆的である大きな変形を受けることができない)。
【0075】
理想的には、細孔は包含されたカソード活物質粒子と同程度に膨張するべきであり、カソード活物質粒子と同程度に収縮し戻るべきである。言い換えれば、このような要求を満たすためには、グラフェンフォーム壁は十分に弾性でなければならない。これは最もやりがいのある作業であるが、驚くべきことに、カソード活物質粒子によって占められていない小さい細孔(2~100nm)の、十分に長い/広いグラフェン面(細孔直径よりも大きいグラフェン面の長さ/幅)、及び十分な量(全細孔体積の5%~50%)で、グラフェンフォームの良好な弾性が達成され得ることを、我々は認めた。
【0076】
推定されるように、CoF3、MnF3、FeF3、VF3、TiF3、BiF3、NiF2、FeF2、CuF2、CuF、SnF2、AgF、CuCl2、FeCl3、及びMnCl2などの遷移金属フッ化物又は塩化物粉末が全て市販されており、この粉末は、グラフェンシートと容易に混合されて、ハイブリッド、混合物、又は複合材料を作製することができる。しかしながら、これらの粒子は、典型的には非常に大きいサイズ(典型的には直径で>10μm)であり、グラフェンシートと均一に混合されることができず、且つ/又はグラフェン表面に自然に結合されることができない。そのため、得られる金属フッ化物/グラフェン又は金属塩化物/グラフェン複合体は、カソード活物質として使用されるとき、満足のいく電気化学的性能を示さない。特に、サイクル安定性、速度能力、比容量、活物質利用効率、及びエネルギー密度が不十分であることが多い。
【0077】
これらの課題を克服するために、我々は、グラフェンフォームで保護された遷移金属フッ化物又は塩化物に基づく高性能カソード活物質の作製を可能にする新しい組成物、構造、及びプロセスを開発した。グラフェンフォームの細孔内の遷移金属フッ化物又は塩化物は、好ましくは且つ典型的には、グラフェンシートの表面(細孔壁)に結合しているナノ粒子又はナノコーティングの形態である。
【0078】
グラフェンフォームで保護された金属フッ化物又は塩化物粒子を作製するために3つの手法が次に続くことができる。
1)第1の手法は、グラフェン-液体懸濁液(任意の発泡剤を含む)中に予め作製された金属フッ化物又は塩化物粒子を混合して多成分スラリーを形成し、次いでこのスラリーをフォームに作製する工程を含み、この場合に、予め作製された金属フッ化物又は塩化物粒子は、得られるフォームの細孔に自然に存在する。
2)第2の手法は、予め作製された金属フッ化物又は塩化物粒子又はコーティングを、予め作製されたグラフェンフォームの層の細孔に含浸させる工程を伴う。これは、溶液含浸、溶融含浸、気相浸透、又はスパッタリングによって達成することができる。
3)第3の手法は、予め作製されたグラフェンフォームの細孔に金属フッ化物又は塩化物の前駆体を含浸させ、次いで前駆体を、典型的には細孔壁のグラフェン表面に結合される金属フッ化物又は塩化物の粒子又はコーティングに化学的又は熱的に変換する工程を伴う。
【0079】
いくつかの方法を使用して、グラフェンフォームにおける細孔壁グラフェン表面に堆積されて結合される金属フッ化物又は塩化物ナノ結晶を合成することができる。合成方法は、典型的には、グラフェンフォームの細孔に予め含浸された溶液中で2つの反応物を混合し、2つの反応物間の反応を活性化してこれらの細孔内の溶液相に金属フッ化物種を形成することを伴う。グラフェン細孔壁は、驚くべきことに、グラフェン表面から核を成す金属フッ化物又は塩化物ナノ結晶に十分に結合することができる。金属フッ化物の例としてFeF3を用いて、3つの異なる化学経路を伴う3つの主な方法が、本明細書に記載される。同じ方法を使用して、グラフェンの存在なしに純粋な金属フッ化物ナノ結晶を作製することができる。
【0080】
第1の方法は、グラフェンフォームの細孔におけるFe(NO3)3エタノール溶液とNH4HF2水溶液の溶液反応物からFeF3ナノ粒子を沈殿させることを必要とする。フォームの細孔への含浸の前に、界面活性剤としてのポリエチレングリコール(PEG、MW=20,000g/モル)の支援を受けて又は受けずに、溶液を十分に撹拌する。反応生成物は、細孔壁グラフェン表面に結合したFeF3ナノ結晶である。得られた懸濁液から液体成分を除去することにより、グラフェンフォームで保護されたFeF3材料が得られる。
【0081】
FeF3ナノ粒子を合成する第2の方法は、Fe(NO3)3ヘキサノール+水の溶液とNH4Fヘキサノール+水+界面活性剤としてのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)の溶液の混合を伴う。反応物溶液を1時間撹拌し、次いでグラフェンフォームの細孔に含浸させることができる。更に1時間後、グラフェン細孔におけるグラフェン表面に化学的に結合したFeF3ナノ結晶が得られる。
【0082】
第3の合成経路は、希土類フッ化物ナノ結晶の調製に一般的に使用される液-固-液相移動反応に基づく。典型的な手順は、オクタデシルアミン、リノール酸、及びエタノールをともに混合及び攪拌して均一な溶液を形成し、次いで混合した有機溶液に逐次的に又は同時にFe(NO3)3水溶液及びNH4HF2水溶液を加える工程を含む。この反応混合物を約10分間撹拌し、次いでオートクレーブに移し、密封し、120℃で約6時間水熱処理することができる。生成物は、FeF3ナノ結晶を含む懸濁液である。次いで、これらの懸濁液をグラフェンフォームの細孔に含浸させることができる。或いは、Goを水熱処理の前に反応混合物に添加することができる。最終生成物は、細孔に収容されたFeF3を天然に含む還元グラフェン酸化物フォーム構造である。言い換えれば、フォーム構造とFeF3ナノ結晶は同時に形成される。
【0083】
遷移金属フッ化物又は塩化物種は、ナノスフィア、ナノワイヤ、ナノシート、ナノベルト、ナノプレートリット、ナノディスク、又はナノチューブの形態であり得る。例えば、FeF3ナノワイヤ(NW)は、α-フッ化鉄三水和物(α-FeF3・3H2O)NWの溶液合成、その後のα-FeF3・3H2O NWの熱脱水によって調製することができる。α-FeF3・3H2O NWの溶液成長は、界面活性剤を使用せずに低い過飽和条件下で実施することができる。
【0084】
簡単には、(第1の手法に対応する)一実施形態において、本発明のカソード層を作製するプロセスは、以下の工程:
(a)液体媒体に分散されたカソード活物質の粒子及びグラフェン材料のシート又は分子を有するグラフェン分散液を調製する工程であって、グラフェン材料は、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はこれらの組み合わせから選択され、分散液は、0/1.0~1.0/1.0の発泡剤対グラフェン材料の重量比を有する任意の発泡剤を含む(この発泡剤は、グラフェン材料が典型的には0.01/1.0~1.0/1.0の発泡剤対純粋なグラフェン重量比を有する場合、通常必要とされる)工程と、
(b)グラフェン分散液を支持基材(例えば、プラスチックフィルム、ゴムシート、金属箔、ガラスシート、紙シート等)の表面に対して分配し堆積させて、グラフェン-カソード材料混合物の湿潤層を形成する工程であって、分配及び堆積手順(例えば、コーティング又はキャスティング)は、グラフェン分散液を配向誘起応力に曝すことを含む工程と、
(c)グラフェン-カソード材料混合物の湿潤層から液体媒体を部分的に又は完全に除去して、材料混合物の乾燥層を形成する工程であって、グラフェン材料は、非炭素元素(例えば、O、H、N、B、F、Cl、Br、I等)の5重量%以上の含有量を有する(この非炭素含有量は、熱誘導分解によって除去される場合、フォーミング剤又は発泡剤として作用する揮発性ガスを生成する)工程と、
(d)グラフェン材料における非炭素元素から揮発性ガス分子を誘導する又は固体グラフェンフォームを作製するための発泡剤を活性化するのに十分な所望の加熱速度で、100℃~3,000℃の第1の熱処理温度で材料混合物の乾燥層を熱処理する工程と、を含む。
【0085】
グラフェンフォームにおける細孔は、グラフェン材料のシートが、(1)典型的には、100~1,500℃の温度で、化学的にともに結合/統合(端から端及び/又は面から面)される、及び/又は(2)高温(典型的には>2,100℃、より典型的には>2,500℃)で細孔壁に沿ってより大きなグラファイト結晶又はドメインに再編成される(本明細書では再黒鉛化と称される)直前、その間、又はその後に形成される。カソード活物質の粒子は、<10μm(好ましくは<1μm、より好ましくは<100nm、更に好ましくは<10nm、最も好ましくは<5nm)のサイズを有する、小粒子、ワイヤ、ロッド、シート、プレートリット、リボン、チューブ等の形態であり得ることに留意されたい。これらの粒子は、自然に細孔に収容され、グラフェンシートによって取り囲まれ、典型的には粒子とそれを取り囲むグラフェンシートとの間にある程度の隙間を残す。このため、粒子が存在する場合、グラフェンフォームには細孔が存在する。しかしながら、乾燥グラフェン層の熱処理中に(発泡剤及び/又は-OH、-F等などの非炭素元素から)揮発性ガスの発生により形成される更なる細孔が存在する。これらの細孔は、カソード粒子の局所的な体積膨張を緩和する役割を果たし、これにより、得られたカソード層の全体的な膨張を回避する。カソード粒子の収縮程度に応じて細孔壁が元に戻る能力は、熱処理中により大きくより強いグラフェン面を形成するように結合及び接合される周囲のグラフェンシートに由来する。
【0086】
発泡剤又はフォーミング剤は、ポリマー(プラスチック及びゴム)、ガラス、及び金属など、硬化又は相転移を受ける様々な材料において発泡プロセスによってセル又は発泡構造体を生じ得る物質である。それらは典型的には、発泡される材料が液体状態であるときに適用される。発泡剤は、固体状態である間に発泡材料を作るために使用できることはこれまで知られていなかった。それ以上に重要なことは、グラフェン材料のシートの集合体を発泡剤によってグラフェンフォームに変換することができることは教示も示唆もされていない。マトリックスにおけるセル構造体は典型的には、元のポリマーの厚さ及び相対的な剛性を増加させながら、密度を低減し、耐熱性及び防音を高める目的で作られる。
【0087】
発泡又はセル材料を製造するためにマトリックス中に細孔又はセル(気泡)を作る発泡剤又は関連する発泡機構は、以下の群に分類され得る:
(a)物理的発泡剤:例えば炭化水素(例えばペンタン、イソペンタン、シクロペンタン)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、及び液体CO2。気泡/フォーム製造プロセスは吸熱性であり、すなわちそれは、液体発泡剤を気化させるための、(例えば溶融プロセス又は架橋による化学発熱からの)熱を必要とする。
(b)化学的発泡剤:例えばイソシアネート、アゾ-、ヒドラジン及びその他の窒素系材料(熱可塑性及びエラストマーフォーム用)、重炭酸ナトリウム(熱可塑性フォームにおいて使用される、例えば重曹)。ここでガス生成物及びその他の副生成物が化学反応によって形成され、プロセスによって又は反応ポリマーの発熱によって促進される。発泡反応は、発泡ガスとして作用する低分子量化合物を形成する工程を伴うことから、付加的な発熱も出る。粉末水素化チタンが金属フォームの製造においてフォーミング剤として使用され、それが分解して高温でチタン及び水素ガスを形成する。水素化ジルコニウム(II)が同じ目的のために使用される。形成されると低分子量化合物は決して元の発泡剤に戻らず、すなわち反応は不可逆的である。
(c)混合物理的/化学的発泡剤:例えば、非常に低い密度を有する可撓性ポリウレタン(PU)フォームを製造するために使用される。化学的及び物理的発泡の両方を直列に使用して、放出/吸収される熱エネルギーに対して互いに相殺する;従って、温度上昇を最小にする。例えば、マットレスのための非常に低密度の可撓性PUフォームの製造においてイソシアネートと水(反応してCO2を形成する)を液体CO2(沸騰して気体形態を生じる)と組み合わせて使用される。
(d)機械的に注入される薬剤:機械的に製造されるフォームは、気泡を液体重合性マトリックス(例えば液体ラテックスの形態の未加硫エラストマー)中に導入する方法を伴う。方法は、空気又は他のガス又は低沸点揮発性液体を低粘度ラチス中で泡立てる工程、又は押出機バレル又はダイ内への、又は射出成形バレル又はノズル内へのガスの注入、及びスクリューの剪断/混合作用によってガスを均一に分散させて溶融体中に非常に微細な気泡又はガスの溶液を形成する工程を含む。溶融体が成形又は押し出されて加工品が大気圧にあるとき、ガスが溶液から出て凝固の直前にポリマー溶融体を膨張させる。
(e)可溶性及び浸出性剤:可溶性充填剤、例えば、液体ウレタン系に混合される固体塩化ナトリウム結晶であり、次いでそれを固体ポリマー加工品に造形し、塩化ナトリウムは、固体成形品をしばらくの間水中に浸漬することによって後で洗浄除去され、小さな相互接続した孔を比較的高密度のポリマー製品中に残す。
(f)前述の5つの機構を全て使用して固体状態である間にグラフェン材料中に細孔を作ることができることを我々は見出した。グラフェン材料中に細孔を生成する別の機構は、それらの非炭素元素を高温環境において除去することによって揮発性ガスを発生及び気化することによる。これは、これまで決して教示も示唆もされていない独特の自己発泡プロセスである。
【0088】
好ましい実施形態において、分散体中のグラフェン材料は、純粋なグラフェン、グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物、グラフェンフッ化物、グラフェン塩化物、グラフェン臭化物、グラフェンヨウ化物、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される。前述のグラフェン材料のいずれか一つを製造するための出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、又はそれらの組み合わせから選択されることができる。
【0089】
バルク天然黒鉛は、それぞれの黒鉛粒子が、隣接する黒鉛単結晶を画定する粒界(非晶質又は欠陥領域)を有する複数の結晶粒(結晶粒は黒鉛単結晶又は微結晶である)からなる3D黒鉛材料である。それぞれの結晶粒は、互いに平行に配向された複数のグラフェン面からなる。黒鉛微結晶におけるグラフェン面は、二次元六方格子を占める炭素原子からなる。所与の結晶粒又は単結晶において、グラフェン面は結晶学的c方向(グラフェン面又は基底面に対して垂直)にファンデルワールス力を介して積層され結合される。1つの結晶粒における全てのグラフェン面は互いに平行であるが、典型的には、1つの結晶粒におけるグラフェン面及び隣接する結晶粒におけるグラフェン面は、異なる配向で傾斜している。言い換えれば、黒鉛粒子中の様々な結晶粒の配向は、典型的には結晶粒ごとに異なる。
【0090】
天然又は人工の黒鉛粒子中の黒鉛微結晶の構成グラフェン面は、面間ファンデルワールス力を克服することができるという条件で、剥離及び抽出又は単離されて、炭素原子の個々のグラフェンシートを得ることができる。炭素原子の単離された個々のグラフェンシートは、一般的に単層グラフェンと称される。約0.3354nmのグラフェン間の面間隔で厚さ方向におけるファンデルワールス力を介して結合された複数のグラフェン面のスタックは、一般に多層グラフェンと称される。多層グラフェンプレートリットは、300層までのグラフェン面(<100nmの厚さ)を有するが、より典型的には30までのグラフェン面(<10nmの厚さ)、更により典型的には20までのグラフェン面(<7nmの厚さ)、最も典型的には10までのグラフェン面(科学界では一般に数層グラフェンと称される)を有する。単層グラフェン及び多層グラフェンシートは、まとめて「ナノグラフェンプレートリット」(NGP)と称される。グラフェン又はグラフェン酸化物シート/プレートリット(まとめてNGP)は、0-Dフラーレン、1-D CNT、及び3-D黒鉛とは異なる新しい部類のカーボンナノ材料(2-Dナノカーボン)である。
【0091】
我々の研究グループは、2002年の早期にグラフェン材料及び関連する製造プロセスの開発を先駆けて進めてきた:(1)2002年10月21日に提出された出願、B.Z.Jang and W.C.Huang,「Nano-scaled Graphene Plates」、米国特許第7,071,258号明細書(2006年7月4日)、(2)B.Z.Jang,etal.「Process for Producing Nano-scaled Graphene Plates」、米国特許出願第10/858,814号明細書(2004年6月3日)(米国特許出願公開第2005/0271574号明細書、及び(3)B.Z.Jang,A.Zhamu,andJ.Guo,「Process for Producing Nano-scaled Platelets and Nanocomposites」、米国特許出願第11/509,424号明細書(2006年8月25日)(米国特許出願公開第2008-0048152号明細書)。
【0092】
一プロセスでは、グラフェン材料は、
図2(A)(プロセスフローチャート)及び
図2(B)(概略図)に示すように、天然黒鉛粒子を強酸及び/又は酸化剤でインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の格子間隙における化学種又は官能基の存在は、グラフェン間の間隔(X線回折によって決定されるd
002)を増加させるのに役立ち、これにより、さもなければグラフェン面をc軸方向に沿ってともに保持するファンデルワールス力を著しく減少させる。GIC又はGOは、硫酸、硝酸(酸化剤)、及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物中に天然黒鉛粉末(
図1(A)の20及び
図1(B)の100)を浸漬することによって作製されることが最も多い。インターカレーション手順中に酸化剤が存在する場合、得られるGIC(22又は102)は、実際にはある種の酸化黒鉛(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを繰り返し水で洗浄し濯ぎ、過剰の酸を除去し、水に分散した離散した視覚的に識別可能な酸化黒鉛粒子を含む酸化黒鉛懸濁液又は分散液を得る。グラフェン材料を作製するために、以下に簡単に説明されるように、この濯ぎ工程の後に2つの処理経路の1つに従うことができる。
【0093】
経路1は、懸濁液から水を除去して「膨張性黒鉛」を得ることを伴い、これは本質的に乾燥GIC又は乾燥黒鉛酸化物粒子の塊である。膨張性黒鉛を典型的には800~1,050℃の範囲の温度に約30秒~2分間曝すと、GICは30~300倍の急速な体積膨張を受けて「黒鉛ワーム」(24又は104)を形成し、これはそれぞれ、相互に連結したままである剥離されているが大部分は分離されていない黒鉛フレークの集まりである。
【0094】
経路1Aでは、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛又は「相互連結/非分離黒鉛フレークのネットワーク」)を再圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを有する可撓性黒鉛シート又は箔(26又は106)を得ることができる。或いは、ほとんど100nmより厚い黒鉛フレーク又はプレートリット(従って、定義上ナノ材料ではない)を含む、いわゆる「膨張黒鉛フレーク」(49又は108)を作製する目的で、低強度の空気粉砕又は剪断機を使用して黒鉛ワームを簡単に粉砕することを選択することができる。
【0095】
経路1Bでは、剥離黒鉛を、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書に開示されているように、高強度の機械的剪断にかけて(例えば超音波、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミル、又は高エネルギーボールミルを使用して)、分離された単層及び多層グラフェンシートを形成する(まとめてNGP、33又は112と称される)。単層グラフェンは、0.34nmほどに薄くすることができ、一方、多層グラフェンは、100nmまで、しかしより典型的には10nm未満の厚さを有することができる(一般に、数層グラフェンと称される)。製紙プロセスを使用して、複数のグラフェンシート又はプレートリットをNGP紙(34)のシートに作製することができる。
【0096】
経路2は、個々の酸化グラフェンシートを酸化黒鉛粒子から分離/単離する目的で酸化黒鉛懸濁液を超音波処理することを伴う。これは、グラフェン間の面分離バスが、天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された黒鉛酸化物の0.6~1.1nmに増加し、隣接する面をともに保持するファンデルワールス力を著しく弱めるという考えに基づいている。超音波力は、グラフェン面シートを更に分離して、分離された、単離された、又は別個の酸化グラフェン(GO)シートを形成するのに十分であり得る。次いで、これらの酸化グラフェンシートを化学的又は熱的に還元して、典型的には0.001%~10重量%、より典型的には0.01%~5重量%、最も典型的に好ましくは2重量%未満の酸素含有量を有する「還元グラフェン酸化物」(RGO)を得ることができる。
【0097】
本出願の特許請求の範囲を定義する目的で、NGP又はグラフェン材料は、単層及び多層(典型的には10層未満)の純粋なグラフェン、グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物(RGO)、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、ドープトグラフェン(例えば、B又はNによってドープされた)の離散シート/プレートリットを含む。純粋なグラフェンは、本質的に0%の酸素を有する。RGOは、典型的には0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。純粋なグラフェン以外に、全てのグラフェン材料は、0.001重量%~50重量%の非炭素元素(例えば、O、H、N、B、F、Cl、Br、I等)を有する。これらの材料は、本明細書では非純粋なグラフェン材料と称される。
【0098】
純粋なグラフェンは、黒鉛粒子の直接超音波処理(液相製造としても知られる)又は超臨界流体剥離によって製造されることができる。これらのプロセスは当技術分野で公知である。界面活性剤の補助によって複数の純粋なグラフェンシートを水又は他の液体媒体に分散させて懸濁液を形成することができる。次いで、化学的発泡剤を分散体に分散させることができる(
図1(A)の38)。次いで、この懸濁液を固体基材(例えばガラスシート又はAl箔)の表面に対して流延又はコートする。所望の温度に加熱されるとき、化学的発泡剤が活性化又は分解されて揮発性ガス(例えばN
2又はCO
2)を発生させ、それらが作用して固体グラフェンシートの他の状態の塊に気泡又は細孔を形成し、純粋なグラフェンフォーム40aを形成する。
【0099】
フッ素化グラフェン又はグラフェンフッ化物が、本明細書において、ハロゲン化グラフェン材料の群の例として使用される。フッ素化グラフェンを製造するために用いた2つの異なる方法がある:(1)予め合成されたグラフェンのフッ素化:この方法は、機械的剥離によって又はXeF2などのフッ素化剤を使用するCVD成長、又はF系プラズマによって調製されたグラフェンを処理することを必要とする。(2)複数層の黒鉛フッ化物の剥離:黒鉛フッ化物の機械的剥離及び液相剥離の両方とも容易に達成することができる[F.Karlicky,et al.「Halogenated Graphenes:Rapidly Growing Family of Graphene Derivatives」ACS Nano,2013,7(8),pp6434-6464]。
【0100】
高温でのF2と黒鉛との相互作用は、共有結合性黒鉛フッ化物(CF)n又は(C2F)nをもたらすが、低温では黒鉛インターカレーション化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が形成する。(CF)nにおいて炭素原子は、sp3-混成であり、従ってフルオロカーボン層は波形であり、トランス結合シクロヘキサンいす形からなる。(C2F)nにおいてC原子の半分だけがフッ素化され、隣接した炭素シートの全ての対がC-C共有結合によってともに連結される。得られたF/C比は、一般に、フッ素化温度、フッ化ガス中のフッ素の分圧の他、黒鉛化度、粒径、及び比表面積などの黒鉛前駆体の物理的特徴に依存していることをフッ素化反応に関する組織的な研究は示した。フッ素(F2)の他に、他のフッ素化剤を使用することができるが、入手できる文献の大部分は、場合によってはフッ化物の存在下での、F2ガスによるフッ素化を伴う。
【0101】
層状前駆体材料を単独層又は数層の状態に剥離するために、隣接した層間の引力を克服するとともに層を更に安定化することが必要である。これは、官能基によるグラフェン表面の共有結合修飾によって、又は特定の溶媒、界面活性剤、ポリマー、又はドナー-アクセプター芳香族分子を使用する非共有結合修飾によって達成されることができる。液相剥離のプロセスには、液体媒体における黒鉛フッ化物の超音波処理が含まれる。
【0102】
グラフェンの窒化は、グラフェン酸化物などのグラフェン材料を高温(200~400℃)のアンモニアに暴露することによって行なうことができる。また、窒素化グラフェンをより低温で熱水法によって、例えばGO及びアンモニアをオートクレーブ内に封止することによって形成し、次いで温度を150~250℃に上昇させることができる。窒素ドープトグラフェンを合成する他の方法には、グラフェンの窒素プラズマ処理、アンモニアの存在下での黒鉛電極間のアーク放電、CVD条件でのグラフェン酸化物の加安分解、及び異なる温度でのグラフェン酸化物及び尿素の熱水処理が含まれる。
【0103】
本発明のカソード層のグラフェンフォーム中の細孔壁(セル壁又はグラフェンの固体部分)は、化学的に結合及び同化したグラフェン面を含む。これらの平面芳香族分子又はグラフェン面(六方晶構造炭素原子)は物理的及び化学的に十分に相互接続される。これらの面の横方向寸法(長さ又は幅)は非常に大きく(例えば20nm~>10μm)、出発黒鉛粒子の最大微結晶寸法(又は最大構成グラフェン面寸法)よりも典型的には数倍又は更に数桁大きい。グラフェンシート又は面は本質的に統合及び/又は相互接続されて、低い抵抗を有する電気導電経路を形成する。これは、これまで発見されたり、開発されたり、又はおそらく存在することが示唆されていない独自で新規なクラスの材料である。
【0104】
本発明のプロセスがどのように機能してグラフェンフォームで保護されたカソード層を製造するのかを説明するために、本明細書においてグラフェン酸化物(GO)及びグラフェンフッ化物(GF)を2つの例として利用した。これらは、特許請求の範囲を限定すると解釈されるべきでない。それぞれの場合において、第1の工程は、任意の発泡剤を含むグラフェン分散体(例えばGO+水又はGF+有機溶剤、DMF)の調製を伴う。グラフェン材料が、非炭素元素を含まない純粋なグラフェンである場合、発泡剤が必要とされる。
【0105】
工程(b)において、GF又はGO懸濁液(
図1(A)の21、だが今は望まれるカソード活物質粒子も含む)を、好ましくは剪断応力の影響下で固体基材表面(例えばPETフィルム又はガラス)上に湿潤GF又はGO層35に形成する。このような剪断手順の一例は、コーティング機を使用するGF又はGO懸濁液の薄いフィルムの流延又はコーティングである。この手順は、固体基材上にコートされるワニス、ペイント、コーティング、又はインクの層に類似している。フィルムが造形されるとき又はローラー/ブレード/ワイパーと支持基材との間に相対運動があるときに、ナイフオンローラー、スロットダイ、又はワイパーは剪断応力を生じる。極めて予想外で重要なことに、このような剪断作用によって、平面GF又はGOシートを、例えば、剪断方向に沿って十分に整列させることができる。更に驚くべきことに、GF又はGO懸濁液中の液体成分をその後に除去して少なくとも部分的に乾燥される高整列化GF又はGOシートの十分に充填された層を形成する場合、このような分子整列状態又は好ましい配向は破損されない。乾燥されたGF又はGO質量37aは、平面内の方向と平面に垂直な方向との間の高い複屈折係数を有する。
【0106】
実施形態において、次いで、このGF又はGO層(それぞれがカソード活物質を含む)を、発泡剤を活性化する熱処理及び/又は非炭素元素(例えばF、O等)をグラフェンシートから除去して副生成物として揮発性ガスを生成する熱的誘起反応に供する。これらの揮発性ガスは、固体グラフェン材料中に細孔又は気泡を生成し、固体グラフェンシートをフォーム壁構造体中に押し込み、グラフェン酸化物フォーム40bを形成する。発泡剤が加えられない場合、グラフェン材料中の非炭素元素は、好ましくはグラフェン材料の少なくとも10重量%(好ましくは少なくとも20%、更に好ましくは少なくとも30%)を占める。第1の(初期)熱処理温度は、典型的には80℃超、好ましくは100℃超、より好ましくは300℃超、更により好ましくは500℃超であり、1,500℃もの高い温度であり得る。発泡剤は、典型的には80℃~300℃の温度で活性化されるが、より高くなり得る。フォーミング手順(細孔、セル、又は気泡の形成)は、典型的には80~1,500℃の温度範囲内で完了される。非常に驚くべきことに、縁部から縁部まで及び面から面までの方法でのグラフェン面(GO又はGF面)間の化学的連結又は同化は、比較的低い熱処理温度(例えば150~300℃もの低い)で起こり得る。
【0107】
発泡グラフェン材料は、第1の熱処理温度よりも著しく高い少なくとも第2の温度を伴う更なる熱処理に供されることができる。
【0108】
適切にプログラムされた熱処理手順は、単に単一熱処理温度(例えば第1の熱処理温度のみ)、少なくとも2つの熱処理温度(一定時間の間第1の温度、次いで第2の温度に上げ、更に別の一定時間の間この第2の温度に維持する)、又は初期処理温度(第1の温度)と、第1の温度よりも高い、最終HTT(第2の温度)を伴う熱処理温度(HTT)の任意の他の組み合わせを伴うことができる。乾燥されたグラフェン層が受ける最も高い又は最終HTTは、4つの異なるHTTレジームに分けられることができる。
【0109】
レジーム1(80℃~300℃):この温度範囲において(熱還元レジームと、また、存在する場合、発泡剤のための活性化レジーム)、GO又はGF層は、最初に熱誘導還元反応を受け、酸素含有量又はフッ素含有量の、典型的には(GO中のOの)20~50%又は(GF中のFの)10~25%から約5~6%への低減をもたらす。この処理は、フォーム壁内のグラフェン間の間隔の、約0.6~1.2nm(乾燥されたとき)から約0.4nmへの低減、及び単位比重当たり200W/mKまでの熱伝導率の増加及び/又は単位比重当たり2,000S/cmまでの電気導電率の増加をもたらす。(グラフェンフォーム材料の多孔度のレベル、従って、比重を変動させることができ、同じグラフェン材料の場合、熱伝導率及び電気導電率の両方の値が比重と共に変動することから、これらの特性値を比重によって分けて公正な比較を助けなければならない)。このような低温範囲を使用しても、グラフェンシート間の若干の化学連結が起こる。GO間又はGF間面間隔は比較的大きいままである(0.4nm以上)。多くのO含有又はF含有官能基は残る。
【0110】
レジーム2(300℃~1,500℃):この化学連結のレジームにおいて、隣接したGO又はGFシート間に広範な化合、重合、及び架橋が起こる。化学連結の後に酸素又はフッ素含有量は、典型的には<1.0%(例えば0.7%)に低減され、グラフェン間の間隔を約0.345nmに低減するという結果をもたらす。黒鉛化を開始するために2,500℃もの高い温度を典型的に必要とする従来の黒鉛化可能な材料(炭化ポリイミドフィルムなど)と著しい対照をなして、若干の初期再黒鉛化がこのような低温においてすでに始まっていることをこれは意味する。これは、本発明のグラフェンフォーム及びその製造プロセスの別の異なる特徴である。これらの化学連結反応は、単位比重当たり250W/mKまで熱伝導率の増加、及び/又は単位比重当たり2,500~4,000S/cmまで電気導電率の増加をもたらす。
【0111】
レジーム3(1,500~2,500℃):この秩序化及び再黒鉛化のレジームにおいて、広範な黒鉛化又はグラフェン面の同化が起こり、フォーム壁内の著しく改良された程度の構造秩序化をもたらす。結果として、酸素又はフッ素含有量は、典型的には0.01%に低減され、グラフェン間の間隔は約0.337nmに低減される(実際のHTT及び時間に応じて1%~約80%の黒鉛化度を達成する)。また、改良された秩序化度は、単位比重当たり>350W/mKまで熱伝導率の増加、及び/又は単位比重当たり>3,500S/cmまで電気導電率の増加によって反映される。
【0112】
レジーム4(2,500℃よりも高い):この再結晶化及び完全性レジームにおいて、粒界及びその他の欠陥の広範な移動及び除去が行われ、GO又はGFの製造のための出発黒鉛粒子の元の粒径よりも数桁大きい場合がある、非常に大きい結晶粒を有するほぼ完全な単結晶又は多結晶グラフェン結晶をフォーム壁内に形成するという結果をもたらす。酸素又はフッ素含有量は本質的に失われ、典型的には0%~0.001%である。グラフェン間の間隔は約0.3354nmまで低減され(80%~ほぼ100%の黒鉛化度)、それは完全な黒鉛単結晶の黒鉛化度に相当する。このように得られた発泡構造体は、単位比重当たり>400W/mKの熱伝導率、及び単位比重当たり>4,000S/cmの電気導電率を示す。
【0113】
本発明のカソード活物質を含むグラフェンフォーム構造体は、少なくとも第1のレジーム(温度が500℃を決して超えない場合この温度範囲において1~4時間を典型的に必要とする)にわたる、より一般的には最初の2つのレジーム(1~2時間が好ましい)、更により一般的には最初の3つのレジーム(レジーム3において好ましくは0.5~2.0時間)にわたる、そして全ての4つのレジーム(0.2~1時間のレジーム4を含めて、最も高い導電率を達成するために実施されることができる)にわたり得る温度プログラムを使用して、乾燥されたGO又はGF層を熱処理することにより得ることができる。
【0114】
又、最大HHTは、グラフェン材料に包含されているカソード活物質の種類に依存する。幸い、全ての金属フッ化物又は塩化物材料は比較的高い融点を有する。
【0115】
グラフェン材料が、グラフェン酸化物、還元グラフェン酸化物、グラフェンフッ化物、グラフェン塩化物、グラフェン臭化物、グラフェンヨウ化物、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はそれらの組み合わせからなる非純粋なグラフェン材料の群から選択され、最高熱処理温度(例えば第1及び第2の熱処理温度の両方)が2,500℃未満である場合、得られた固体グラフェンフォームは、典型的には0.01重量%~2.0重量%の範囲の非炭素元素の含有量を含む(非純粋なグラフェンフォーム)。
【0116】
X線回折パターンは、CuKcv放射線を備えたX線回折計を使用して得られた。回折ピークのシフト及び広幅化は、ケイ素粉末標準を使用して較正された。黒鉛化度、gは、メーリング(Mering)の式d002=0.3354g+0.344(1-g)(式中、d002は、nm単位の黒鉛又はグラフェン結晶の中間層間隔である)を使用して、X線パターンから計算された。この式は、d002が約0.3440nm以下であるときにだけ有効である。0.3440nmよりも高いd002を有するグラフェンフォーム壁は、スペーサーとして作用してグラフェン間の間隔を増加させる酸素含有又はフッ素含有官能基(例えば、グラフェン分子平面の表面又はエッジ上の-F、-OH、>O、及びCOOHなど)の存在を反映する。
【0117】
グラフェン及び従来の黒鉛結晶のフォーム壁内の積層及び接着グラフェン面の秩序化度を特性決定するために使用できる別の構造指数は、(002)又は(004)反射のロッキング曲線(X線回折強度)の半値全幅によって表わされる、「モザイクスプレッド」である。この秩序化度は、黒鉛又はグラフェン結晶サイズ(又は結晶粒径)、粒界及びその他の欠陥の量、及び好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々のグラフェン壁の大部分は、0.2~0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する(2,500℃以上の熱処理温度(HTT)を使用して製造される場合)。しかしながら、HTTが1,500~2,500℃の間である場合いくつかの値は0.4~0.7の範囲であり、HTTが300~1,500℃の間である場合0.7~1.0の範囲である。
【0118】
2つの整列したGO分子のみが例として示されている妥当に見える化学連結メカニズムが
図4に示されるが、フォーム壁を形成するために多数のGO分子をともに化学的に連結することができる。更にまた、GO、GF、及び化学官能化グラフェンシートについて化学連結は、縁部から縁部までだけでなく、面から面まで生じ得る。分子が化学的に同化され、連結され、単一実体に集積されるようにこれらの連結及び同化反応が進む。グラフェンシート(GO又はGFシート)がそれら自体の元の本質を完全に失い、それらはもう離散シート/プレートリット/フレークではない。得られた生成物は、単独グラフェンシートの単純な集合体ではなく、本質的に無数の分子量を有する相互接続された巨大分子の本質的に網目構造である単一実体である。また、これは、グラフェン多結晶(若干の結晶粒を有するが、識別できる、明瞭な粒界を典型的には有さない)として説明されることができる。全ての構成グラフェン面は横方向寸法(長さ及び幅)において非常に大きく、HTTが十分に高い場合(例えば>1,500℃又はもっと高い)、これらのグラフェン面は互いに本質的にともに結合される。本発明のカソード層のグラフェンフォームは、これまでに教示されたことも示唆されたこともない、以下の特異的で新規な特徴を有する。
(1)SEM、TEM、制限視野回折、X線回折、AFM、ラマン分光学、及びFTIRの組み合わせを使用する綿密な研究は、グラフェンフォーム壁はいくつかの非常に大きいグラフェン面(典型的に>>20nm、より典型的には>>100nm、しばしば>>1μm、そして、多くの場合、>>10μm、又は更に>>100μmの長さ/幅を有する)から構成されることを示す。最終熱処理温度が2,500℃よりも低い場合、これらの巨大グラフェン面は、しばしばファンデルワールス力(従来の黒鉛微結晶におけるように)だけでなく、共有結合によっても厚さ方向(c軸結晶方向)に沿って積層及び接合される。これらの場合、理論によって限定されることを望まないが、ラマン及びFTIR分光法研究は、黒鉛中における従来のsp
2だけでなくsp
2(支配的)及びsp
3(弱いが存在している)電子配置の共存を示すと思われる。
(2)このグラフェンフォーム壁は、樹脂結合剤、リンカー、又は接着剤を使用して離散フレーク/プレートリットをともに接着又は結合することによって製造されない。代わりに、外部から加えられるリンカー又は結合剤分子又はポリマーを全く使用せずにGO分散体からのGOシート(分子)又はGF分散体からのGFシートを、互いの共有結合の接合又は形成によって同化して集積化グラフェン実体を形成する。このようなカソード層を特徴とするリチウム電池の場合、リチウムを貯蔵することができない樹脂バインダー又は導電性添加剤などの不活物質を有する必要はない。これは、カソード中の非活物質の量の減少又は活物質の量の増加を意味し、総カソード重量当たりの比容量、mAh/g(複合体の)を効果的に増加させる。
(3)このグラフェンフォーム壁は、典型的には不完全な粒界を有する大きな結晶粒から構成される多結晶である。この実体は、GO又はGF懸濁液から得られ、それは更には、本来複数の黒鉛微結晶を有する天然黒鉛又は人工黒鉛粒子から得られる。化学的に酸化又はフッ素化される前に、これらの出発黒鉛微結晶は、初期長さ(a軸結晶方向のL
a)、初期幅(b軸方向のL
b)、及び厚さ(c軸方向のL
c)を有する。酸化又はフッ素化したとき、これらの初期離散黒鉛粒子は、かなりの濃度の縁部担持又は表面担持官能基(例えば-F、-OH、-COOH等)を有する高級芳香族グラフェン酸化物又はグラフェンフッ化物分子に化学的に変換される。懸濁液中のこれらの芳香族GO又はGF分子は、黒鉛粒子又はフレークの一部であるそれらの元の本性を失っている。液体成分を懸濁液から除去するときに、得られたGO又はGF分子は、本質的に非晶質の構造体を形成する。熱処理時に、これらのGO又はGF分子は、フォーム壁を構成する単体又はモノリシックグラフェン実体に化学的に同化及び連結される。このフォーム壁は、高度に秩序化されている。
フォーム壁における得られた単体グラフェン実体は、典型的には元の微結晶のL
a及びL
bよりも著しく大きい長さ又は幅を有する。このグラフェンフォーム壁実体の長さ/幅は、元の微結晶のL
a及びL
bよりも著しく大きい。多結晶グラフェン壁構造体における単独結晶粒でも、元の微結晶のL
a及びL
bよりも著しく大きい長さ又は幅を有する。
(4)グラフェン面の長さ及び幅が大きいことにより、フォーム壁を高い機械的強度及び弾性にすることが可能になる。比較実験において、我々は、この特徴がない(即ち、グラフェン面の化学的統合がない)場合、離散グラフェンシートの凝集体からなる従来作製されるグラフェンフォームは、非常に弱く、脆く、非弾性であり(変形不可逆)、フォーム壁が容易に潰れる又は壊れる。
(5)これらの独特の化学組成(酸素又はフッ素含有量を含む)、モルホロジー、結晶構造(グラフェン間の間隔を含む)、及び構造特徴(例えば高い配向度、わずかな欠陥、不完全な粒界、化学結合及びグラフェンシート間の間隙がないこと、並びにグラフェン面の割り込みがほとんどないこと)のために、GO由来又はGF由来のグラフェンフォームは、著しい熱伝導率、電気導電率、機械的強度、及び剛性(弾性率)の独特の組み合わせを有する。
【0119】
前述の特徴は、以下のように詳細に更に記述及び説明される:
図2(B)に示されるように、黒鉛粒子(例えば100)は、典型的には複数の黒鉛微結晶又は結晶粒から構成される。黒鉛微結晶は、炭素原子の六方晶網目構造の層面から構成される。六方晶整列炭素原子のこれらの層面は実質的に平らであり、特定の微結晶において互いに実質的に平行で等距離であるように配向又は秩序化される。グラフェン層又は基礎面と一般的に称される、六方晶構造炭素原子のこれらの層は、弱いファンデルワールス力によってそれらの厚さ方向(c軸結晶方向)において弱くともに結合され、微結晶においてこれらのグラフェン層の群は整列される。黒鉛微結晶構造体は、通常、2つの軸又は方向:c軸方向及びa軸(又はb軸)方向の観点から特徴づけられる。c軸は基礎面に垂直な方向である。a軸又はb軸は、(c軸方向に垂直な)基礎面に平行な方向である。
【0120】
高度に秩序化された黒鉛粒子は、a軸結晶方向に沿うL
aの長さ、b軸結晶方向に沿うL
bの幅、及びc軸結晶方向に沿う厚さL
cを有する、かなりのサイズの微結晶からなり得る。微結晶の構成グラフェン面は互いに対して高度に整列又は配向され、従って、これらの異方性構造は、高度に方向性である多くの特性を生じる。例えば、微結晶の熱伝導率及び電気導電率は面方向(a軸又はb軸方向)に沿って非常に大きいが、垂直な方向(c軸)において比較的低い。
図2(B)の上左部分に示されるように、黒鉛粒子中の異なる微結晶は、典型的には異なる方向に配向され、従って、多微結晶黒鉛粒子の特定の特性は、全ての構成微結晶の方向性の平均値である。
【0121】
平行なグラフェン層を保持する弱いファンデルワールス力のために、グラフェン層間の間隔がかなり広がってc軸方向の顕著な膨張をもたらし、従って、炭素層の層状性質が実質的に保持される膨張黒鉛構造体を形成するように天然黒鉛を処理することができる。可撓性黒鉛を製造するためのプロセスは当技術分野で公知である。一般的には、天然黒鉛のフレーク(例えば
図2(B)の100)を酸溶液中にインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物(GIC、102)を製造する。GICを洗浄し、乾燥させ、次いで短時間の間高温に暴露することによって剥離する。これは、フレークを黒鉛のc軸方向においてそれらの元の寸法の80~300倍まで膨張又は剥離させる。剥離黒鉛フレークは外観が細長く、従って、一般的にワーム104と称される。非常に膨張した黒鉛フレークのこれらのワームを、結合剤を使用せずに、ほとんどの用途において、約0.04~2.0g/cm
3の典型的な密度を有する膨張黒鉛、例えばウェブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マット等(典型的には「可撓性黒鉛」106と称される)の凝集又は集積化シートに形成することができる。
【0122】
図2(A)の上左部分は、可撓性黒鉛箔を製造するために使用される先行技術のプロセスを説明するフローチャートを示す。このプロセスは、典型的には黒鉛粒子20(例えば、天然黒鉛又は合成黒鉛)をインターカラント(典型的には強酸又は酸混合物)でインターカレートして黒鉛インターカレーション化合物22(GIC)を得ることから開始する。水中で洗浄して過剰な酸を除去した後、GICが「膨張性黒鉛」になる。次いで、GIC又は膨張性黒鉛を短時間の間(典型的には15秒~2分)高温環境(例えば、800~1,050℃の範囲の温度に予め設定された管状炉内で)に暴露する。この熱処理は黒鉛をそのc軸方向において30~数百倍膨張させてワーム状虫食い形構造体24(黒鉛ワーム)を得、それは、大きな細孔がこれらの相互接続されたフレークの間に挟まれた、剥離されたが分離されていない黒鉛フレークを含む。
【0123】
先行技術の一プロセスにおいて、カレンダー加工又はロールプレス加工技術を使用することによって剥離黒鉛(又は黒鉛ワームの塊)を再圧縮して可撓性黒鉛箔(
図2(A)の26又は
図2(B)の106)を得、それらは典型的には厚さ100~300μmである。別の先行技術のプロセスにおいて、剥離黒鉛ワーム24を樹脂で含浸し、次いで圧縮及び硬化して可撓性黒鉛複合物を形成することができ、それは通常、同様に低い強度を有する。更に、樹脂含浸したとき、黒鉛ワームの電気導電率及び熱伝導率は二桁低下され得る。
【0124】
代わりに、高強度エアジェットミル、高強度ボールミル、又は超音波デバイスを使用して剥離黒鉛を高強度機械剪断/分離処理に供して、分離されたナノグラフェンプレートリット33(NGP)を製造することができ、全てのグラフェンプレートリットは100nmよりも薄く、主に10nmよりも薄く、多くの場合、単一層グラフェンである(
図2(B)において112としても示される)。NGPは、グラフェンシート又は複数のグラフェンシートから構成され、それぞれのシートは炭素原子の二次元の六方晶構造体である。フィルム製造又は紙製造プロセスを使用して複数のNGP(単一層及び/又は数層グラフェン又はグラフェン酸化物の離散シート/プレートリットを含む、
図2(A)の33)の塊をグラフェンフィルム/紙(
図2(A)の34又は
図2(B)の114)に製造することができる。
【0125】
更に代わりに、低強度剪断によって、黒鉛ワームは、厚さ>100nmを有するいわゆる膨張黒鉛フレーク(
図2(B)の108に分離される傾向がある。紙製造又はマット製造プロセスを使用してこれらのフレークを黒鉛紙又はマット106に形成することができる。この膨張黒鉛紙又はマット106は、欠陥、割り込み、及びこれらの離散フレーク間の誤配向を有する離散フレークのごく単純な集合体又は積層体である
【0126】
以下の実施例は、本発明を実施する最良の形態に関するいくつかの特定の詳細を説明するために使用され、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0127】
実施例1:様々な発泡剤及び細孔形成(気泡製造)プロセス
プラスチック加工の分野において、化学的発泡剤を粉末又はペレットの形態でプラスチックペレット中に混合し、高めの温度で溶解させる。発泡剤の溶解のために特定される特定の温度を超えると、ガス反応生成物(通常窒素又はCO2)が生成され、それは発泡剤として作用する。しかしながら、化学的発泡剤を液体でなく、固体である、グラフェン材料に溶解させることはできない。これは、化学的発泡剤を利用して細孔又はセルをグラフェン材料中に生成する課題をもたらす。
【0128】
広範な実験の後、第1の熱処理温度が発泡反応を活性化するのに十分であるときに、ほとんど任意の化学的発泡剤(例えば粉末又はペレット形態の)を使用して、細孔又は気泡をグラフェンの乾燥された層中に作ることができることを我々は発見した。化学的発泡剤(粉末又はペレット)が液体媒体中に分散されて懸濁液中の第2の分散相になり(グラフェン材料のシートが第1の分散相である)、それを固体支持基材に対して堆積させて湿潤層を形成することができる。次いで、グラフェン材料のこの湿潤層を乾燥させ、熱処理して化学的発泡剤を活性化させることができる。化学的発泡剤が活性化されて気泡が生成された後、得られた発泡グラフェン構造体は、一般にその後にもっと高い熱処理温度が構造体に適用されるときにでさえも維持される。これは本当に全く予想外である。
【0129】
化学的発泡剤(CFA)は、熱分解したときにガスを放出する有機又は無機化合物であり得る。典型的には、中~高密度フォームを得るためにCFAが使用され、低密度フォームを得るために物理的発泡剤と共に多くの場合に使用される。CFAは、吸熱性又は発熱性のどちらかに分類されることができ、それはそれらが受ける分解のタイプを意味する。吸熱性タイプは分解したときにエネルギーを吸収し、典型的には二酸化炭素及び湿分を放出し、他方、発熱性タイプは、分解したときにエネルギーを放出し、通常は窒素を生成する。発熱性発泡剤によって放出される全ガス発生量及びガス圧力は、多くの場合に吸熱性タイプの全ガス発生量及びガス圧力よりも高い。吸熱性CFAは、一般的には130~230℃(266~446°F)の範囲で分解することが知られており、他方、より一般的な発熱性発泡剤のいくつかは約200℃(392°F)で分解する。しかしながら、大抵の発熱性CFAの分解範囲は、特定の化合物の添加によって低下させることができる。CFAの活性化(分解)温度が我々の熱処理温度の範囲になる。適切な化学的発泡剤の例としては、重炭酸ナトリウム(重曹)、ヒドラジン、ヒドラジド、アゾジカルボンアミド(発熱性化学的発泡剤)、ニトロソ化合物(例えばN,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン)、ヒドラジン誘導体(例えば4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)及びヒドラゾジカルボンアミド)、及び炭酸水素(例えば炭酸水素ナトリウム)が挙げられる。これらは全てプラスチック工業において商業的に入手可能である。
【0130】
発泡プラスチックの製造において、フォーム押出又は射出成形発泡の間に物理的発泡剤をプラスチック溶融液中に計量しながら供給する、又はポリウレタンの発泡中に前駆体材料の1つに供給する。物理的発泡剤を使用して、固体状態である(溶融されない)、グラフェン材料中に細孔を作ることができることはこれまで知られていない。支持基材に対してコート又は流延される前に物理的発泡剤(例えばCO2又はN2)をグラフェン懸濁液のストリーム中に注入することができることを驚くべきことに我々は観察した。これは、液体媒体(例えば水及び/又はアルコール)が除去されるときでも発泡構造体をもたらす。グラフェン材料の乾燥された層は、液体の除去及びその後の熱処理の間に細孔又は気泡の制御された量を維持することができる。
【0131】
技術的に実行可能な発泡剤としては、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、イソブタン(C4H10)、シクロペンタン(C5H10)、イソペンタン(C5H12)、CFC-11(CFCI3)、HCFC-22(CHF2CI)、HCFC-142b(CF2CICH3)、及びHCFC-134a(CH2FCF3)が挙げられる。しかしながら、発泡剤を選択するときに、環境の安全性は考慮すべき主要因である。モントリオール議定書及び帰結される合意へのその影響は、フォームの製造業者に大きな課題を提起する。以前に適用されたクロロフルオロカーボンの有効な特性及び簡単な取扱いにもかかわらず、それらのオゾン破壊係数(ODP)のためにこれらを禁止する世界的な合意があった。部分ハロゲン化クロロフルオロカーボンもまた環境上安全ではなく、このため多くの国々においてすでに禁止されている。別の選択肢はイソブタン及びペンタンなどの炭化水素、並びにCO2及び窒素などのガスである。
【0132】
それらの規制された物質以外、上に列挙された全ての発泡剤が我々の実験において試験された。物理的発泡剤及び化学的発泡剤の両方について、懸濁液中に導入される発泡剤の量は、発泡剤対グラフェン材料の重量比として定義され、それは、典型的には0/1.0~1.0/1.0である。
【0133】
実施例2:離散GOシートの調製
12μmの平均直径を有する細断した黒鉛繊維及び天然黒鉛粒子を出発原料として別々に使用し、それを(化学インターカレート及び酸化剤として)濃硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物中に浸漬して黒鉛インターカレーション化合物(GIC)を調製した。最初に出発原料を24時間の間80℃で真空炉内で乾燥させた。次いで、(4:1:0.05の重量比の)濃硫酸、発煙硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物を、適切な冷却及び撹拌下で、繊維セグメントを含む三つ口フラスコにゆっくりと加えた。5~16時間の反応後に、酸処理した黒鉛繊維又は天然黒鉛粒子を濾過し、溶液のpHレベルが6に達するまで脱イオン水で十分に洗浄した。一晩100℃で乾燥した後、得られた黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は黒鉛酸化物繊維を水及び/又はアルコール中に再分散させてスラリーを形成した。
【0134】
一試料では、黒鉛酸化物繊維5グラムを15:85の比でアルコール及び蒸留水からなるアルコール溶液2,000mlと混合してスラリー塊を得た。次いで、混合物スラリーを様々な長さの時間の間200Wの出力で超音波照射に供した。20分の音波処理の後、GO繊維を有効に剥離し、約23重量%~31重量%の酸素含有量を有する薄いグラフェン酸化物シートに分離した。得られた懸濁液は、水中に懸濁されているGOシートを含む。流延の直前に化学的発泡剤(ヒドラゾジカルボンアミド)を懸濁液に加えた。
【0135】
次いで、得られた懸濁液をドクターブレードを使用してガラス表面に対して流延して剪断応力を加え、GOシート配向を誘導した。得られたGOコーティングフィルムは、液体の除去後に、約5~500μm(好ましくは及び典型的には10μm~50μm)に変動し得る厚さを有する。
【0136】
グラフェンフォーム試料を製造するために、次いで、GOコーティングフィルムを1~8時間の間80~350℃の初期熱還元温度と、その後に、0.5~5時間の間1,500~2,850℃の第2の温度の熱処理とを典型的に伴う熱処理に供した。第1の熱処理に供される間にコーティングフィルム試料に圧縮応力を適用することが必須であることがわかったことに留意されたい。細孔が形成されている間にグラフェンシート間の化学的同化及び連結が起こり得るためにこの圧縮応力は、グラフェンシート間の十分な接触を維持するのに役立ったと思われる。このような圧縮応力がなければ、熱処理されたフィルムは、典型的には過度に多孔性であり、細孔壁内の構成グラフェンシートは非常に不十分に配向され、互いに化学的同化及び連結することができない。結果として、グラフェンフォームの熱伝導率、電気導電率、及び機械的強度はひどく損なわれる。
【0137】
実施例3:メソカーボンマイクロビード(MCMB)からの単一層グラフェンシートの調製
メソカーボンマイクロビード(MCMB)は、China Steel Chemical Co.(Kaohsiung,Taiwan)から供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度並びに約16μmのメジアン粒度を有する。MCMB(10グラム)を48~96時間にわたって酸溶液(4:1:0.05の比の硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウム)でインターカレートした。反応の終了時に、混合物を脱イオン水中に流し込み濾過した。インターカレートされたMCMBを塩酸の5%溶液中で繰り返して洗浄して硫酸イオンの大部分を除去した。次いで、ろ液のpHが4.5以上になるまで試料を脱イオン水で繰り返して洗浄した。次いで、スラリーを10~100分にわたって超音波処理に供してGO懸濁液を生成した。GOシートの大部分は、酸化処理が72時間を超えるときに単一層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間であるときに2層又は3層グラフェンであったことをTEM及び原子間力顕微鏡での検討は示している。
【0138】
GOシートは、48~96時間の酸化処理時間の間約35重量%~47重量%の酸素の比率を含む。GOシートは水中に懸濁された。流延の直前に化学的発泡剤として重曹(5~20重量%)を懸濁液に加えた。次いで、懸濁液をドクターブレードを使用してガラス表面に対して流延して剪断応力を加え、GOシート配向を誘導した。いくつかの試料を流延したが、発泡剤を含むものも含まないものもある。液体を除去した後、得られたGOフィルムは、約10から500μmまで変動し得る厚さを有する。
【0139】
次いで、発泡剤を有する又は有さないGOフィルムのいくつかのシートを、1~5時間の間80~500℃の初期(第1の)熱還元温度を伴う熱処理に供した。この第1の熱処理はグラフェンフォームを生成した。しかしながら、フォーム壁内のグラフェンドメインは、フォームが1,500~2,850℃の第2の温度で熱処理に供される場合更に改善され得る(再黒鉛化されてより秩序化される又はより高い結晶化度及びグラフェン面のより大きな横方向寸法を有し、化学的同化のために元のグラフェンシート寸法よりも長い)。
【0140】
実施例4:純粋なグラフェンフォーム(0%の酸素)の調製
GOシートの高い欠陥群が単独グラフェン面の伝導率を低下させるように作用する可能性を認識して、純粋なグラフェンシート(酸化されない及び酸素を含まない、ハロゲン化されない及びハロゲンを含まない等)の使用はより高い熱伝導率を有するグラフェンフォームをもたらすことができるかどうかを我々は検討することにした。純粋なグラフェンシートは、直接超音波処理又は液相製造プロセスを使用して製造された。
【0141】
典型的な手順において、約20μm以下のサイズに粉砕された5グラムの黒鉛フレークを1,000mLの脱イオン水(DuPontのZonyl(登録商標)FSO、分散助剤0.1重量%を含む)中に分散させて懸濁液を得た。85Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450ウルトラソニケーター)を15分~2時間にわたってグラフェンシートの剥離、分離、及び粉砕のために使用した。得られたグラフェンシートは、少しも酸化されておらず酸素を含まない比較的欠陥がない純粋なグラフェンである。他の非炭素元素は存在しない。
【0142】
様々な量(グラフェン材料に対して1重量%~30重量%)の化学的発泡剤(N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン又は4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を純粋なグラフェンシートと界面活性剤とを含む懸濁液に加えた。次いで、懸濁液をドクターブレードを使用してガラス表面に対して流延して剪断応力を加え、グラフェンシート配向を誘導した。流延の直前に懸濁液に導入される物理的発泡剤として)CO2を使用して製造された試料を含めて、いくつかの試料を流延した。液体を除去した後、得られたグラフェンフィルムは、約10から100μmまで変動し得る厚さを有する。
【0143】
次いで、グラフェンフィルムを1~5時間の間80~1,500℃の初期(第1の)熱還元温度を伴う熱処理に供した。この第1の熱処理はグラフェンフォームの生成に繋がった。次いで、純粋なフォーム試料のいくつかを1,500~2,850℃の第2の温度に供して、フォーム壁内のグラフェンドメインが更に改善され得るか(再黒鉛化されてより秩序化される又はより高い結晶化度を有するか)どうかを調べた。
【0144】
実施例4-a及び比較例4-d:純粋なグラフェンフォームで保護されたカソード材料対従来技術の純粋なグラフェン紙/フィルムで支持された材料
別に、85重量%のFeF3粒子(及び5重量%の化学発泡剤)を含むグラフェンフィルムをキャストし、1,500℃まで熱処理して、グラフェンフォームで保護されたカソード活物質の層を得た。比較のために、85重量%のFeF3粒子(発泡剤なし)を含むグラフェンフィルム(紙)をキャストし、1,500℃まで熱処理して、グラフェンで保護されたカソード活物質の層を得た。次いで、これらの2つの意図されたカソード層の比容量を、半セル構成における対電極としてリチウム金属を使用して評価した。電極材料として、純粋なグラフェンフォームで保護されたFeF3を有するリチウム電池の比容量値、及び純粋なグラフェン-FeF3混合物のリチウム電池の比容量値を、充電-放電サイクルの数の関数としてプロットする。これらの結果は、小さい細孔を有する本発明のグラフェンフォームが、FeF3粒子(又は包まれたグラフェンシートによって保護されたFeF3粒子)によって占められたこうした細孔と共に、より良好なサイクル安定性を有するリチウム電池を提供し、100サイクル後のリチウム貯蔵容量の12.0%の減少しか示さないことを明らかに実証している。対照的に、グラフェンフィルムで保護されたFeF3カソードは、25.4%の容量減衰を示す。
【0145】
比較例3/4-b:Niフォームテンプレート上のCVDグラフェンフォーム
手順は、公開文献:Chen,Z.et al.,「Three-dimensional flexible and conductive interconnected graphene networks grown by chemical vapor deposition,」Nat.Mater.10,424-428(2011)に開示された手順から転用された。ニッケルフォーム、ニッケルの相互接続された3D骨格を有する多孔性構造体が、グラフェンフォームの成長のためのテンプレートとして選択された。簡単に言えば、周囲圧力下で1,000℃においてCH4を分解することによって炭素をニッケルフォーム中に導入し、次いで、グラフェンフィルムをニッケルフォームの表面上に堆積させた。ニッケルとグラフェンの間の熱膨脹率の差のために、波皺及び皺がグラフェンフィルム上に形成された。グラフェンフォームを回収する(分離する)ために、Niフレームをエッチングにより除去しなければならない。高温の塩酸(又はFeCl3)溶液によってニッケル骨格をエッチングにより除去する前に、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の薄層を支持体としてグラフェンフィルムの表面上に堆積させてニッケルエッチングの間にグラフェン網目構造が潰れないようにした。高温のアセトンによってPMMA層を慎重に除去した後、脆いグラフェンフォーム試料が得られた。PMMA支持体層の使用は、グラフェンフォームの自立フィルムを調製するために重要である。PMMA支持体層を使用しない場合、ひどく歪んだ変形したグラフェンフォーム試料のみが得られた。これは、環境に優しくなく拡張性もない面倒なプロセスである。
【0146】
比較例3/4-c:ピッチ系炭素フォームからの従来の黒鉛フォーム
ピッチ粉末、粒体、又はペレットをフォームの所望の最終形状を有するアルミニウム鋳型に置く。三菱ARA-24メソフェーズピッチを利用した。試料を1トール未満に脱気し、次いで約300℃の温度に加熱した。この時点で、真空を窒素ブランケットに解放し、次いで1,000psiまでの圧力を適用した。次いで、システムの温度を800℃に上げた。これは、2℃/分の速度で行われた。温度を少なくとも15分間保持して浸漬を達成し、次いで炉の電源を切り、約2psi/分の速度で圧力を解放しながら約1.5℃/分の速度で室温に冷却した。最終フォーム温度は630℃及び800℃であった。冷却サイクルの間に、圧力を大気条件まで徐々に解放した。次いで、フォームを窒素ブランケット下で1050℃に熱処理し(炭化)、次いで別個の送りでアルゴン中黒鉛るつぼ内で2500℃及び2800℃まで加熱処理(黒鉛化)した。
【0147】
この従来の黒鉛フォームからの試料を熱伝導率を測定するための試験片に機械加工した。黒鉛フォームのバルク熱伝導率は、67W/mK~151W/mKの範囲であることが判明した。試料の密度は、0.31~0.61g/cm3であった。材料の多孔度レベルを考慮すると、メソフェーズピッチ由来のフォームの比熱伝導率は、比重当たり(又は物理密度当たり)約67/0.31=216及び151/0.61=247.5W/mKである。対照的に、本発明のフォームの比熱伝導率は、典型的には比重当たり>>250W/mKである。
【0148】
0.51g/cm3の平均密度を有する従来の黒鉛フォーム試料の圧縮強さは測定すると3.6MPaであり、圧縮弾性率は測定すると74MPaであった。それと対照して、同等の物理的密度を有するGOに由来する本発明のグラフェンフォーム試料の圧縮強さ及び圧縮弾性率はそれぞれ5.7MPa及び103MPaである。
【0149】
図5(A)及び
図6(A)に示されるのは、GO懸濁液由来のフォーム(実施例3)、メソフェーズピッチ由来の黒鉛フォーム(比較例3/4-b)、及びNiフォームテンプレート支援CVDグラフェンフォーム(比較例3/4-c)の熱伝導率の値対比重である。これらのデータは、明らかに以下の予想外の結果を実証する:
1)本発明のプロセスによって製造されたGO由来のグラフェンフォームは、同じ物理的密度の場合、メソフェーズピッチ由来の黒鉛フォーム及びNiフォームテンプレート支援CVDグラフェンの両方と比較したとき著しく高い熱伝導率を示す。
2)CVDグラフェンは、決して酸化を受けず、グラフェン酸化物(GO)と比較してもっと高い熱伝導率を示した本質的に純粋なグラフェンであるという考えを考慮して、これは全く驚くべきことである。従来の熱還元又は化学還元の方法によって酸素含有官能基が除去された後でもGOは非常に欠陥がある(高い欠陥群、従って、低い伝導率を有する)ことが知られている。ここにおいて製造されたGO由来のグラフェンフォームを使用して観察されたこれらの非常に高い熱伝導率の値は、我々には非常に驚くべきものである。充電式リチウムイオン電池に関連する最も深刻な問題である熱暴走及び爆発の防止には、良好な放熱能力が不可欠である。
3)
図6(A)は、曲線(異なるセグメントにおいてほぼ直線)の傾きに基づいて全ての3つの黒鉛フォーム材料について比導電率(導電率の値、W/mKを物理的密度の値、g/cm
3で割った値)の計算を可能にする比重の値の同等の範囲にわたる熱伝導率の値を示す。これらの比導電率の値は、それぞれのフォームにおいて同じ量の固体黒鉛材料の場合、これらの3つのタイプの黒鉛フォームの熱伝導率の値の公正な比較を可能にする。これらのデータは、フォーム材料の固体部分の固有導電率の指標を提供する。これらのデータは、同じ量の固体材料の場合、本発明のGO由来のフォームは、本質的に最も伝導性であり、高レベルの黒鉛結晶の完全性(より大きな結晶寸法、より少ない粒界及びその他の欠陥、より良い結晶配向等)を反映することを明らかに示している。これもまた予想外である。
4)本発明のGO由来の及びGF由来のフォームの比導電率の値は、単位比重当たり250~500W/mKの値を示すが、他の2つのフォーム材料の比導電率の値は、典型的には単位比重当たり250W/mKよりも低い。
【0150】
図8に要約されるのは、一連のGO由来のグラフェンフォーム及び一連の純粋なグラフェン由来のフォームの熱伝導率のデータであり、両方とも最終(最高)熱処理温度についてプロットされる。これらのデータは、GOフォームの熱伝導率は最終熱処理温度(HTT)に非常に影響されやすいことを示す。HTTが非常に低いときでも、明らかにいくつかのタイプのグラフェンの同化又は結晶完全性反応がすでに活性化されている。熱伝導率は最終HTTと共に単調に増加する。対照的に、約2,500℃の最終HTTが達せられるまで、純粋なグラフェンフォームの熱伝導率が比較的一定のままであり、黒鉛結晶の再結晶化の開始及び完全性の信号を送る。比較的低いHTTにおいてグラフェンシートの化学連結を可能にする、GO中の-COOHなどの官能基は純粋なグラフェン中に存在しない。1,250℃もの低いHTTの場合、GOシートが同化して、粒界及びその他の欠陥が低減された著しくより大きなグラフェンシートを形成することができる。GOシートは純粋なグラフェンよりも本質的に欠陥があるけれども、本発明のプロセスは、GOシートが純粋なグラフェンフォームよりも優れているグラフェンフォームを形成することを可能にする。これは別の予想外の結果である。
【0151】
実施例5:天然黒鉛からのグラフェン酸化物(GO)懸濁液の調製、及びその後のGOフォームの調製
黒鉛酸化物は、黒鉛フレークを4:1:0.05の比の硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムからなる酸化剤液体で30℃で酸化することによって調製された。天然黒鉛フレーク(14μmの粒径)が48時間にわたって酸化剤混合物液体中に浸漬及び分散されるとき、懸濁液又はスラリーは光学的に不透明で暗く見え、そのまま留まっている。48時間後に、反応塊を水で3回洗浄してpH価を少なくとも3.0に調節した。次いで、最終的な量の水を加えて一連のGO-水懸濁液を調製した。GOシートが>3%及び典型的には5%~15%の重量分率を占めるとき、GOシートが液晶相を形成することを我々は観察した。
【0152】
スラリーコーターにてGO懸濁液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に分配及びコートし、液体媒体をコートされたフィルムから除去することによって、乾燥されたグラフェン酸化物の薄いフィルムが得られた。次いで、いくつかのGOフィルム試料を異なる熱処理に供し、それらは、典型的には、1~10時間の間100℃~500℃の第1の温度、及び0.5~5時間の間1,500℃~2,850℃の第2の温度の熱還元処理を含む。また、圧縮応力下で、これらの熱処理によって、GOフィルムをグラフェンフォームに変換させた。
【0153】
比較例5-a:熱水還元グラフェン酸化物からのグラフェンフォーム
比較のために、自己組織化グラフェンヒドロゲル(SGH)試料を一段階熱水法によって調製した。典型的な手順において、SGHは、12時間にわたって180℃のテフロン内張りオートクレーブ内に封止された2mg/mLの均質なグラフェン酸化物(GO)水性分散体を加熱することによって容易に調製することができる。約2.6%(重量による)のグラフェンシートと97.4%の水を含むSGHは、約5×10-3S/cmの電気導電率を有する。乾燥させて1,500℃で熱処理したとき、得られたグラフェンフォームは約1.5×10-1S/cmの電気導電率を示し、それは同じ温度で熱処理することによって製造された本発明のグラフェンフォームの電気導電率の1/2未満である。
【0154】
比較例5-b:還元グラフェン酸化物フォームのプラスチックビードテンプレート支援形成
マクロ多孔性気泡発生グラフェンフィルム(MGF)のための硬質テンプレート指示された秩序化組立体が調製された。単一分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)ラテックス球が硬質テンプレートとして使用された。実施例5において調製されたGO液晶は、PMMA球懸濁液と混合された。次いで、その後の真空濾過を実施してPMMA球とGOシートとの組立体を調製し、GOシートはPMMAビードの周りに巻き付けられた。複合フィルムをフィルターから剥離し、空気乾燥させ、800℃においてか焼してPMMAテンプレートを除去し、同時にGOをRGOに熱還元した。灰色の自立PMMA/GOフィルムはか焼後に黒くなったが、グラフェンフィルムは多孔性のままだった。
【0155】
図5(B)及び
図6(B)は、本発明のGO懸濁液由来のフォーム、犠牲プラスチックビードテンプレート支援プロセスによって製造されたGOフォーム、及び熱水還元GOグラフェンフォームの熱伝導率の値を示す。最も驚くべきことに、同じ出発GOシートの場合、本発明のプロセスは、最も高性能のグラフェンフォームを製造する。また、
図5(C)に要約された電気導電率データは、この結論と一致している。同じ量の固体材料の場合、(応力誘起配向を有する)本発明のGO懸濁液の堆積及びその後の熱処理は、本質的に最も伝導性であり、最も高レベルの黒鉛結晶完全性(細孔壁に沿って、より大きな結晶寸法、より少ない粒界及びその他の欠陥、より良い結晶配向等)を反映するグラフェンフォームを生じるという考えをこれらのデータは更に支持する。
【0156】
黒鉛フォーム又はグラフェンフォームを製造するための全ての先行技術のプロセスは、約0.2~0.6g/cm3の範囲の物理密度を有するマクロ多孔性フォームを与えるように見え、細孔サイズは、意図される用途のほとんどにおいて典型的には大き過ぎる(例えば、20から300μm)ことを指摘することは重要である。対照的に、本発明は、0.01g/cm3もの低くかつ1.7g/cm3もの高くあり得る密度を有するグラフェンフォームを生成するプロセスを提供する。細孔サイズは、非炭素元素の含有量及び使用される発泡剤の量/タイプに応じてメソスケール(2~50nm)~マクロスケール(1~500μm)まで変動し得る。様々なタイプのグラフェンフォームを設計する際のこのレベルの適応性及び汎用性は、先行技術のプロセスによってはまったく前例がなく無比である。
【0157】
実施例6:グラフェンフッ化物からのグラフェンフォームの調製
GFを製造するためにいくつかのプロセスが使用されたが、本明細書において実施例としてただ1つのプロセスが説明される。典型的な手順において、高度剥離黒鉛(HEG)は、インターカレートされた化合物С2F•xClF3から調製された。HEGを三フッ化塩素の蒸気によって更にフッ素化して、フッ素化高度剥離黒鉛(FHEG)を生成した。予備冷却されたテフロン反応器に20~30mLの液体予備冷却ClF3を入れ、反応器を閉じて、液体窒素温度に冷却した。次いで、1g以下のHEGをClF3ガスが入っていく孔を有する容器内に置き、反応器内に配置した。7~10日で、近似式C2Fを有する灰色-ベージュ色の生成物が形成された。
【0158】
その後、少量のFHEG(約0.5mg)を20~30mLの有機溶剤(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、イソアミルアルコール)と混合し、30分間にわたって超音波処理(280W)に供し、均質な黄色がかった分散体を形成した。5分の音波処理は比較的均質な分散体を得るために十分であったが、より長い音波処理時間はより良い安定性を確実にした。溶剤を除去したガラス表面に対して流延したとき、分散体はガラス表面上に形成された茶色がかったフィルムになった。GFフィルムが熱処理されたとき、フッ素が、フィルム中に細孔を生成するのに役立つガスとして放出された。いくつかの試料において、物理的発泡剤(N2ガス)が、流延される間に湿潤GFフィルム中に注入された。これらの試料は、ずっと高い細孔体積又はずっと低いフォーム密度を示す。発泡剤を使用しなければ、得られたグラフェンフッ化物フォームは、0.35~1.38g/cm3の物理的密度を示す。発泡剤が使用されるとき(0.5/1~0.05/1の発泡剤/GF重量比)、0.02~0.35g/cm3の密度が得られた。典型的なフッ素含有量は、必要とされる最終熱処理温度に応じて、0.001%(HTT=2,500℃)~4.7%(HTT=350℃)である。
【0159】
図7は、比重の関数としてGO及びGF(グラフェンフッ化物)それぞれから得られるグラフェンフォーム試料の熱伝導率の値の比較を示す。GOフォームと比較して、GFフォームは、同等の比重の値においてより高い熱伝導率の値を示すと思われる。両方とも、すばらしい熱伝導能力を与え、全ての公知の発泡材料の中で最良である。
【0160】
実施例7:窒素化グラフェンからのグラフェンフォームの調製
実施例2において合成されたグラフェン酸化物(GO)を異なる比率の尿素と共に微粉砕し、ペレット化された混合物をマイクロ波反応器(900W)内で30秒間加熱した。生成物を脱イオン水で数回洗浄し、真空乾燥させた。この方法において、グラフェン酸化物は、同時に窒素で還元及びドープされる。1:0.5、1:1及び1:2のグラフェン:尿素の質量比によって得られた生成物は、それぞれNGO-1、NGO-2及びNGO-3と呼ばれ、これらの試料の窒素含有量は、それぞれ元素分析によって確認される14.7、18.2及び17.5wt%であった。これらの窒素化グラフェンシートは、水中に分散可能なままである。次いで、得られた懸濁液を流延し、乾燥させ、初期に第1の熱処理温度として200~350℃で熱処理し、その後1,500℃の第2の温度で処理した。得られた窒素化グラフェンフォームは、0.45~1.28g/cm3の物理的密度を示す。フォームの典型的な窒素含有量は、必要とされる最終熱処理温度に応じて0.01%(HTT=1,500℃)~5.3%(HTT=350℃)である。
【0161】
実施例8:様々なグラフェンフォーム及び従来の黒鉛フォームの特性評価
いくつかの乾燥されたGO層、及び熱処理の異なる段階の熱処理フィルムの内部構造(結晶構造及び配向)がX線回折を使用して調べられた。天然黒鉛のX線回折曲線は、典型的には約2θ=26°のピークを示し、約0.3345nmのグラフェン間の間隔(d002)に相当する。酸化したとき、得られたGOは、約2θ=12°のX線回折ピークを示し、それは約0.7nmのグラフェン間の間隔(d002)に相当する。150℃での或る熱処理によって、乾燥されたGO成形体は、22°を中心とするハンプの形成を示し、化学連結及び秩序化プロセスの開始のためにグラフェン間の間隔を減少させるプロセスをそれが開始したことを示す。1時間にわたる2,500℃の熱処理温度によって、d002間隔は、黒鉛単結晶の0.3354nmに近い、約0.336に減少した。
【0162】
1時間にわたる熱処理温度2,750℃で、d002間隔は、黒鉛単結晶のd002間隔に等しい、約0.3354nmに減少する。更に、高強度を有する第2の回折ピークは、(004)面からのX線回折に相当する2θ=55°に出現する。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、又はI(004)/I(002)比は、グラフェン面の結晶完成度及び好ましい配向の良い表示である。2,800℃よりも低い温度で熱処理された全ての黒鉛材料について(004)ピークは存在していないか又は比較的弱いかどちらかであり、I(004)/I(002)比<0.1である。3,000~3,250℃で熱処理された黒鉛材料(例えば、高度配向熱分解黒鉛、HOPG)のI(004)/I(002)比は、0.2~0.5の範囲である。対照的に、1時間にわたって2,750℃の最終HTTで調製されたグラフェンフォームは、0.78のI(004)/I(002)比及び0.21のモザイクスプレッド値を示し、良い程度の好ましい配向を有するほぼ完全なグラフェン単結晶を示す。
【0163】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線の(002)反射の半値全幅から得られる。秩序化度のためのこの指標は、黒鉛又はグラフェン結晶サイズ(又は結晶粒径)、粒界及びその他の欠陥の量、及び好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々のグラフェンフォームのいくつかは、2,500℃以上の最終熱処理温度を使用して製造されるときに0.2~0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する。
【0164】
広い温度範囲にわたって様々な温度で熱処理することによって得られた、GO懸濁液由来の試料の両方のグラフェン間の間隔の値が
図9(A)に要約される。GO懸濁液由来の単体グラフェン層の相当する酸素含有量の値が
図9(B)に示される。
【0165】
500℃もの低い熱処理温度は細孔壁に沿うGOシートの平均グラフェン間間隔を0.4nm未満にするのに十分であり、天然黒鉛の平均グラフェン間間隔又は黒鉛単結晶の平均グラフェン間間隔にますます近づいていることを指摘することは重要である。この方法の長所は、このGO懸濁液法によって、本来異なる黒鉛粒子又はグラフェンシートからの平面グラフェン酸化物分子を再組織化、再配向、及び化学的に同化して、全てのグラフェン面がいまや横方向寸法においてより大きい(元の黒鉛粒子のグラフェン面の長さ及び幅よりも著しく大きい)統合された構造を形成できたということである。可能性のある化学連結機構が
図4に示される。これは、並外れた熱伝導率及び電気導電率の値をもたらした。
【0166】
実施例9:様々な充電式リチウム電池セルの電気化学的性能
図10に示すように、まったく驚くべきことであり重要であることに、グラフェンフォームで保護されたFeF
3粒子のカソードを含む電池は、(グラフェン紙のシートに詰め込まれた)グラフェン担持FeF
3ナノ結晶のカソードを含む電池セルと比較して、著しくより安定な充電/放電サイクル挙動を示す。
【0167】
図12に示されるのは、3つの電池セルのラゴーンプロットである:グラフェンフォームで保護されたFeF
3粒子のカソードを含むセル、グラフェン担持FeF
3ナノ結晶のカソードを含むセル、及びボールミル粉砕したFeF
3/グラフェン混合物のカソードを含むセル。まったく意外であり重要であることに、グラフェンフォームで保護されたFeF
3粒子のカソードを含むセルは、最も高いエネルギー密度及び電力密度をもたらす。本発明の組成及び発泡構造は、高速及び低速の両方の条件で遷移金属フッ化物の高いリチウム貯蔵容量を引き出すのに役立つ。高エネルギー密度(410Wh/kg)及び高出力密度(1,223W/kg)は、リチウム二次電池には前例のないものである。本発明のグラフェンフォームで保護する手法は、高い活物質利用率(即ち、十分に利用されていない活物質の比率を最小にする)を可能にする。
【0168】
これらの予想外の優れた性能特性は、FeF
3系のカソードに限定されない。又、グラフェンフォームで保護された粒子を特徴とする他の金属フッ化物又は金属塩化物系カソードは、優れた電気化学的性能を発揮する。例えば、
図11に示すように、グラフェンフォームで保護されたBiF
3粒子のカソードを含むセルは、グラフェン担持BiF
3ナノ結晶のカソードを含むセル及びボールミル粉砕したBiF
3/グラフェン混合物のカソードを含むセルと比較して、最良の充放電サイクル安定性を示す。この差はかなり劇的である。
【0169】
同様に、
図13は、グラフェンフォームで保護されたCuCl
2粒子のカソードを含むセルの比容量と、ボールミル粉砕によって得られたグラフェン-CuCl
2混合物のカソードを含むセルの比容量を示し、それぞれは充放電サイクルの数の関数としてプロットされる。これらのデータは、本発明のグラフェンフォームで保護する手法によってもたらされる卓越したサイクル安定性を示している。
【0170】
リチウムイオン電池産業では、電池のサイクル寿命を、必要な電気化学的形成後に測定された初期容量に基づいて、電池の容量が20%減衰する充放電サイクルの数として定義することが一般的なやり方である。以下の表1に要約されているのは、本発明のグラフェンフォームで保護されたカソード層対他のタイプのカソード材料を特徴とする広範囲の電池のサイクル寿命データである。これらのデータは、グラフェンフォームがカソードの膨張/収縮の問題を軽減するのに非常に有効であることを更に確認している。又、カソード活物質粒子で占められていない細孔(無粒子細孔)を含むグラフェンフォームは、リチウム電池のサイクル安定性を向上させる上で著しく効果的である。
【0171】
結論として、我々は、全く新しい、新規の、予想外の、明らかに異なる部類の高導電性グラフェンフォームで保護されたカソード活物質(金属フッ化物又は金属塩化物)及び関連する作製プロセスの開発に成功した。化学組成(酸素、フッ素、及びその他の非炭素元素の%)、構造(結晶の完全性、粒径、欠陥数等)、結晶方位、形態、作製プロセス、及びこの新しい部類のグラフェンフォーム材料及びこれらの保護されたカソード層の特性は、メソフェーズピッチ由来の黒鉛フォーム、CVDグラフェン由来のフォーム、GOの水熱還元からグラフェンフォームによって保護されたカソード、犠牲ビーズテンプレート支援RGOフォーム(sacrificial bead template-assisted RGO foam)によって保護されたカソード、及び固体グラフェンフィルム/紙で保護されたカソードとは根本的に異なり、明らかに違うものである。本発明のフォーム材料は、任意の従来技術のフォーム材料又は非フォーム材料と比較して、より良好な熱伝導率、導電率、弾性率、曲げ強度、及びカソード保護能力を提供する。