(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】熱交換器の流路構造、及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 7/10 20060101AFI20220722BHJP
F28F 21/04 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
F28D7/10 A
F28F21/04
(21)【出願番号】P 2020004003
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019064920
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】濱田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】川口 竜生
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
(72)【発明者】
【氏名】麓 悠太郎
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/185963(WO,A1)
【文献】特開2018-080900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 7/10
F28F 21/04
F01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能に構成された内筒と、
前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置され、前記内筒との間を第2流体が流通可能な外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記第2流体の流路を内側流路と外側流路とに仕切る中筒と
を備え、
前記中筒は、径方向に連通する連通孔を有し、前記連通孔が前記中筒の軸方向に複数設けられて
おり、
前記中筒は、前記中筒の軸方向両端部に設けられたスペーサーによって前記内筒に保持される熱交換器の流路構造。
【請求項2】
前記中筒の軸方向一端に設けられた前記スペーサーが、前記中筒及び前記内筒の両方に固定され、前記中筒の軸方向他端に設けられた前記スペーサーが、前記内筒に対して固定され且つ前記中筒に対して可動可能に構成されている、請求項1に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項3】
前記スペーサーが三次元構造を有する、請求項
1又は2に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項4】
前記三次元構造は、液体状態の前記第2流体の通過を許容しつつ、気体状態の前記第2流体の通過を阻害する、請求項
3に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項5】
前記内筒は、径方向外側が前記内側流路と接触する部分Aと径方向外側が前記外側流路と接触する部分Bとを有し、前記部分Aの前記内筒の厚さが前記部分Bの前記内筒の厚さよりも小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項6】
前記中筒の軸方向両端部が、前記内筒の部分Bに接続されている、請求項5に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項7】
前記連通孔が、前記中筒の軸方向において3列以上設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項8】
前記連通孔が、前記中筒の周方向において6列以上設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項9】
前記連通孔が、前記中筒の軸方向の中央部に設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項10】
前記連通孔が、前記中筒の軸方向及び周方向の両方において略均等な間隔で設けられている、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱交換器の流路構造を備える熱交換器。
【請求項12】
前記熱交換器が、前記熱回収部材を更に備え、
前記熱回収部材が、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム構造体である、請求項11に記載の熱交換器。
【請求項13】
前記中筒の軸方向長さが、前記ハニカム構造体の軸方向長さよりも大きい、請求項12に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の流路構造、及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費改善が求められている。特に、エンジン始動時などのエンジンが冷えている時の燃費悪化を防ぐため、冷却水、エンジンオイル、オートマチックトランスミッションフルード(ATF:Automatic Transmission Fluid)などを早期に暖めて、フリクション(摩擦)損失を低減するシステムが期待されている。また、排ガス浄化用触媒を早期に活性化するために触媒を加熱するシステムが期待されている。
【0003】
このようなシステムとして、例えば、熱交換器がある。熱交換器は、内部に第1流体を流通させるとともに外部に第2流体を流通させることにより、第1流体と第2流体との間で熱交換を行う装置である。このような熱交換器では、高温の流体(例えば、排ガスなど)から低温の流体(例えば、冷却水など)へ熱交換することにより、熱を有効利用することができる。
【0004】
特許文献1には、第1流体(例えば、排ガス)が流通可能な複数のセルを有するハニカム構造体として形成された集熱部と、集熱部の外周面を覆うように配置され、集熱部との間に第2流体(例えば、冷却水)が流通可能なケーシングとを有する熱交換器が提案されている。
しかしながら、特許文献1の熱交換器は、第1流体から第2流体に排熱を常時回収する構造となっているため、排熱を回収する必要がない場合にも排熱を回収してしまうことがあった。そのため、排熱を回収する必要がない場合に回収された排熱を放出するためのラジエータの容量を大きくする必要があった。
【0005】
そこで、特許文献2には、ハニカム構造体の外周面を覆うように配置されたケーシングを、ハニカム構造体の外周面に嵌合するように配置された内筒と、内筒を覆うように配置された中筒と、中筒を覆うように配置された外筒とから構成し、内筒と中筒との間に内側外周流路、中筒と外筒との間に外側外周流路が形成された熱交換器が提案されている。この熱交換器によれば、内筒の温度が冷媒(第2流体)の沸点未満である場合(排熱を回収する必要がある場合)には、内側外周流路及び外側外周流路が液体状態の冷媒で満たされているため、熱交換を促進することができる。また、内筒の温度が冷媒の沸点以上である場合(排熱を回収する必要がない場合)には、内側外周流路に、沸騰気化により生じた気体状態の冷媒が存在するようになるため、熱交換を抑制することができる。したがって、この熱交換器は、2種類の流体間における熱交換の促進と抑制との切替えを行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-037165号公報
【文献】国際公開第2016/185963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討の結果、特許文献2の熱交換器では、熱交換抑制時に異音が発生することがあることが分かった。これは、ウォーターハンマー(スチームハンマー)と呼ばれる現象に起因していると考えられている。具体的には、熱交換抑制時は、内筒と中筒との間の内側外周流路内には気体状態の第2流体が存在しているが、内側外周流路内に液体状態の第2流体が導入されると、気体状態の第2流体が急激に凝縮して液化する。気体状態の第2流体(蒸気)が存在していた空間は一時的に真空状態になり、この真空部に向かって、導入された液体状態の第2流体が押し寄せると、液化した第2流体と衝突して異音が発生する。
そこで、特許文献2では、中筒に連通孔を設けると共に、連通孔が形成されている箇所に網目構造を有するメッシュ部材を配置することにより、液体状態の第2流体が緩やかに導入し、異音の発生を低減している。
【0008】
しかしながら、連通孔が形成されている箇所に網目構造を有するメッシュ部材を配置しただけでは異音の発生を低減する効果は十分でないことがあり、異音の発生を低減する新たな技術の開発が望まれていた。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、熱交換抑制時の異音を低減することが可能な熱交換器の流路構造、及びその流路構造を備えた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、内筒と外筒との間に第2流体の流路を内側流路と外側流路とに仕切る中筒を有する熱交換器の流路構造において、中筒の径方向に連通する連通孔を中筒の軸方向に複数設けることにより、熱交換抑制時に気体状態の第2流体(蒸気)を予め分断して存在させ、異音の大きさに影響する蒸気塊(凝縮する蒸気の体積)を小さくすることで、異音を効果的に低減し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能に構成された内筒と、
前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置され、前記内筒との間を第2流体が流通可能な外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記第2流体の流路を内側流路と外側流路とに仕切る中筒と
を備え、
前記中筒は、径方向に連通する連通孔を有し、前記連通孔が前記中筒の軸方向に複数設けられており、
前記中筒は、前記中筒の軸方向両端部に設けられたスペーサーによって前記内筒に保持される熱交換器の流路構造である。
【0011】
また、本発明は、上記の熱交換器の流路構造を備える熱交換器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱交換抑制時の異音を低減することが可能な熱交換器の流路構造、及びその流路構造を備えた熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。
【
図2】
図1の熱交換器におけるa-a’線の断面図である。
【
図3】
図1の熱交換器におけるb-b’線の断面図である
【
図4】中筒に設けられる連通孔の形成例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。
【
図6】
図5の熱交換器におけるc-c’線の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態3に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。
【
図8】熱交換抑制時における異音の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る熱交換器の流路構造は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材を収容可能に構成された内筒と、前記内筒の径方向外側に間隔をおいて配置され、前記内筒との間を第2流体が流通可能な外筒と、前記内筒と前記外筒との間に配置され、前記第2流体の流路を内側流路と外側流路とに仕切る中筒とを備え、前記中筒は、径方向に連通する連通孔を有し、前記連通孔が前記中筒の軸方向に複数設けられている。
また、本発明の実施形態に係る熱交換器は、上記の熱交換器の流路構造を備える熱交換器である。
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。また、
図2は、
図1の熱交換器におけるa-a’線の断面図であり、
図3は、
図1の熱交換器におけるb-b’線の断面図である。
図1に示されるように、本発明の実施形態1に係る熱交換器100は、第1流体が流通可能であり、熱回収部材40を収容可能に構成された内筒10と、内筒10の径方向外側に間隔をおいて配置され、内筒10との間を第2流体が流通可能な外筒20と、内筒10と外筒20との間に配置され、第2流体の流路を仕切る中筒30とを備えている。また、中筒30は、中筒30の軸方向両端部に設けられたスペーサー50によって内筒10に保持されている。
【0017】
ここで、第1流体及び第2流体としては、種々の液体及び気体を利用することができる。例えば、熱交換器100が自動車に搭載される場合、第1流体として排ガスを用いることができ、第2流体として水又は不凍液(JIS K2234:2006で規定されるLLC)を用いることができる。また、第1流体は、第2流体よりも高温の流体とすることができる。
【0018】
熱交換抑制時、内筒10と中筒30との間の内側流路31b内には気体状態の第2流体が存在している。このとき、内側流路31b内に液体状態の第2流体が供給されると、気体状態の第2流体が急激に凝縮して液化する。このとき気体状態の第2流体(蒸気)が存在していた空間は一時的に真空状態になり、この真空部に向かって、導入された液体状態の第2流体が押し寄せると、液化した第2流体と衝突して異音が発生する。このようなウォーターハンマーに起因する異音の大きさは、蒸気塊(凝縮する蒸気の体積)の成長と関係しており、蒸気塊が小さいほど異音が小さくなる。
【0019】
そこで、本発明の実施形態1に係る熱交換器100では、中筒30が、径方向に連通する連通孔32を有し、連通孔32が中筒30の軸方向に複数設けられている。このような構成とすることにより、熱交換抑制時に、内筒10と中筒30との間の内側流路31b内で気体状態の第2流体(蒸気)を予め分断して存在させることができる。そのため、蒸気塊が小さくなり、ウォーターハンマーに起因する異音を低減することが可能になる。
【0020】
連通孔32の形状としては、第2流体が通過可能な形状であれば特に限定されず、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などの各種形状とすることができる。また、中筒30の軸方向又は周方向に沿ってスリットを連通孔32として設けてもよい。
【0021】
連通孔32の数は、中筒30の軸方向に複数あれば特に限定されず、一般には、連通孔32の形状に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。
蒸気塊を安定して小さくする観点から、連通孔32は、以下の条件(1)~(4)の1つ以上を満たすように形成されていることが好ましい。
(1)連通孔32が中筒30の軸方向において3列以上設けられている。
(2)連通孔32が中筒30の周方向において6列以上設けられている。
(3)連通孔32が中筒30の軸方向の中央部に設けられている。
(4)連通孔32が中筒30の軸方向及び周方向の両方において略均等な間隔で設けられている。
上記の条件(1)~(4)の1つ以上を満たすことで、蒸気塊が安定して小さくなるため、ウォーターハンマーに起因する異音の低減効果が高くなる。
【0022】
ここで、中筒30に設けられる連通孔32の形成例を
図4に示す。なお、
図3は、中筒30の斜視図である。また、この斜視図において、点線部は、中筒30の軸方向において、熱回収部材40の位置に対応する部分を意味する。
【0023】
以下、熱交換器100の各構成部材について、更に、構成部材ごとに詳細に説明する。
<内筒10について>
内筒10は、熱回収部材40の軸方向(第1流体の流通方向)外周面に配置された筒状の部材である。
内筒10の内周面は、熱回収部材40の軸方向外周面と直接的に接していても間接的に接していてもよいが、熱伝導性の観点から、熱回収部材40の軸方向外周面と直接的に接していることが好ましい。この場合、内筒10の内周面の断面形状は、熱回収部材40の外周面の断面形状と一致する。また、内筒10の軸方向は、熱回収部材40の軸方向と一致し、内筒10の中心軸は熱回収部材40の中心軸と一致することが好ましい。
内筒10の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、内筒10の軸方向において、内筒10の中央位置は、熱回収部材40の中央位置と一致することが好ましい。
内筒10の径(外径及び内径)は、軸方向にわたって一様であってよいが、少なくとも一部(例えば、軸方向両端部など)が縮径又は拡径していてもよい。
【0024】
熱回収部材40を通り抜ける第1流体の熱は、熱回収部材40を介して内筒10に伝達されるため、内筒10は、熱伝導性に優れた材料から形成されていることが好ましい。内筒10に用いられる材料としては、例えば、金属、セラミックスなどを用いることができる。金属としては、ステンレス鋼、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などが挙げられる。耐久信頼性が高いという理由により、内筒10の材料はステンレス鋼であることが好ましい。
【0025】
<外筒20について>
外筒20は、内筒10の径方向外側に間隔をおいて配置された筒状の部材である。
外筒20の軸方向は、熱回収部材40及び内筒10の軸方向と一致し、外筒20の中心軸は熱回収部材40及び内筒10の中心軸と一致することが好ましい。
外筒20の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、外筒20の軸方向において、外筒20の中央位置は、熱回収部材40及び内筒10の中央位置と一致することが好ましい。
【0026】
外筒20は、第2流体を外筒20と内筒10との間の領域に供給するための供給管21、及び第2流体を外筒20と内筒10との間の領域から排出するための排出管22に接続されている。供給管21及び排出管22は、熱回収部材40の軸方向両端部に対応する位置に設けられていることが好ましい。
また、供給管21及び排出管22は、
図1に示すように同じ方向に向けて延出されていても、異なる方向に向けて延出されていてもよい。
【0027】
外筒20の径(外径及び内径)は、軸方向にわたって一様であってよいが、少なくとも一部(例えば、軸方向中央部、軸方向両端部など)が縮径又は拡径していてもよい。例えば、外筒20の軸方向中央部を縮径させることにより、供給管21及び排出管22側の外筒20内で第2流体を内筒10の外周方向全体に行き渡らせることができる。そのため、軸方向中央部で熱交換に寄与しない第2流体が低減するため、熱交換効率を向上させることができる。
【0028】
外筒20に用いられる材料としては、例えば、金属、セラミックスなどを用いることができる。金属としては、ステンレス鋼、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などが挙げられる。耐久信頼性が高いという理由により、外筒20の材料はステンレス鋼であることが好ましい。
【0029】
<中筒30について>
中筒30は、筒状部材である。中筒30の軸方向は、熱回収部材40の軸方向と一致し、中筒30の中心軸は熱回収部材40の中心軸と一致することが好ましい。
中筒30の軸方向長さは、熱回収部材40の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。また、中筒30の軸方向において、中筒30の中央位置は、熱回収部材40、内筒10及び外筒20の中央位置と一致することが好ましい。
【0030】
内筒10と外筒20との間に第2流体の流路を仕切る中筒30を設けることにより、外筒20と中筒30との間に形成される第2流体の外側流路31aと、内筒10と中筒30との間に形成される第2流体の内側流路31bが形成される。
内側流路31bが液体の第2流体で満たされているとき、熱回収部材40から内筒10に伝えられた第1流体の熱が、内側流路31bの第2流体を介して外側流路31aの第2流体に伝えられる。一方、内筒10の温度が高く、内側流路31b内で気体状態の第2流体(第2流体の蒸気(気泡))が発生したとき、内側流路31bの第2流体を介する外側流路31aの第2流体への熱伝導が抑制される。これは、液体の流体に比べて気体の流体の熱伝導率が低いためである。すなわち、内側流路31b内で気体状態の第2流体が発生するか否かにより、熱交換を効率的に行う状態と熱交換を抑制する状態とを切り替えることができる。この熱交換の状態は、外部からの制御を必要としない。したがって、中筒30を設けることにより、外部から制御することなく、第1流体と第2流体との間の熱交換の促進と抑制との切り替えを容易に行うことが可能になる。
なお、第2流体は、熱交換を抑制したい温度域に沸点を有する流体を使用すればよい。
【0031】
<スペーサー50について>
スペーサー50は、中筒30と内筒10との間の空間を確保しつつ保持するための部材であり、中筒30と内筒10との間に設けられる。
スペーサー50は、内筒10の周方向全体にわたって延在していることが好ましい。スペーサー50は、内筒10の周方向全体にわたって連続的に延在する1つの部材により構成されていてもよいし、内筒10の周方向に互いに隣接又は離間して配置された複数の部材によって構成されていてもよい。
【0032】
スペーサー50は、熱回収部材40の軸方向の2つの端面側の位置にそれぞれ配置されていることが好ましく、熱回収部材40の軸方向の2つの端面の外側の位置にそれぞれ配置されていることがより好ましい。このような位置にスペーサー50を配置することにより、熱回収部材40の熱がスペーサー50を介して中筒30に伝わり難くすることができる。スペーサー50を介して熱回収部材40の熱が中筒30に伝わると、気体状態の第2流体による熱交換の抑制の効果が減じられてしまう。
【0033】
スペーサー50は、上記のような機能を有するものであれば特に限定されないが、液体状態の第2流体の通過を許容しつつ、気体状態の第2流体の通過を阻害する三次元構造を有していることが好ましい。このような三次元構造としては、メッシュ構造(網目構造)又はスポンジ状構造(多孔質構造)を挙げることができる。スペーサー50が液体状態の第2流体の通過を許容するとは、液体状態の第2流体がスペーサー50を通過できることを意味し、スペーサー50が液体状態の第2流体の通過の抵抗となっていてもよい。スペーサー50が気体状態の第2流体の通過を阻害するとは、気体状態の第2流体がスペーサー50に付着すること、及び気体状態の第2流体の移動にスペーサー50が抵抗となることが含まれる。液体状態の第2流体の通過許容性と気体状態の第2流体の通過阻害性とを両立しやすいとの理由により、スペーサー50がメッシュ構造を有していることが好ましい。
【0034】
内側流路31b内の大部分が気体状態の第2流体で満たされているとき、大量の液体状態の第2流体が内側流路31b内に急に流れ込むと、ウォーターハンマー現象によって異音が発生し、振動及び騒音の原因となる。液体状態の第2流体の通過に対してスペーサー50が抵抗となることで、内側流路31b内への液体状態の第2流体の流入が穏やかとなり、異音の発生をより低減することができる。
【0035】
スペーサー50は、気体状態の第2流体の通過を阻害することにより、気体状態の第2流体が内側流路31bに溜まり、気体状態の第2流体による熱交換の抑制がより確実に発揮される。この熱交換の抑制をより確実に発揮させるため、スペーサー50の空隙率は、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。また、スペーサー50の空隙率は、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましい。本発明において、スペーサー50の空隙率は以下の手順により測定する。
(1)スペーサー50を構成する材料の親密度をアルキメデス法により求める。
(2)スペーサー50の外形寸法(厚み及び縦横の長さ)から計算したスペーサー50のみかけ体積と、スペーサー50の重量から嵩密度とを求める。
(3)空隙率=(1-嵩密度/真密度)×100%との関係式を用いて空隙率を算出する。
【0036】
スペーサー50は、中筒30の軸方向一端に設けられたスペーサー50が、中筒30及び内筒10の両方に固定され、中筒30の軸方向他端に設けられたスペーサー50が、内筒10に対して固定され且つ中筒30に対して可動可能に構成されていることが好ましい。なお、固定方法としては、特に限定されないが、溶接などを用いることができる。
【0037】
軸方向両端のスペーサー50が中筒30及び内筒10の両方にそれぞれ固定されていると、以下の事象が生じる虞がある。すなわち、内側流路31b内で気体状態の第2流体が発生し、内側流路31bの第2流体と外側流路31aの第2流体との熱交換が抑制されているとき、内筒10と中筒30との間に温度差が生じる。このとき、第1流体の熱により内筒10が加熱される一方で、外側流路31aの第2流体により中筒30が冷却されるため、中筒30よりも内筒10が膨張する。軸方向両端のスペーサー50が中筒30及び内筒10の両方にそれぞれ固定されている場合、中筒30と内筒10との間の膨張差による応力により軸方向両端の固定箇所が破損して、中筒30と内筒10との位置関係にずれが生じて内側流路31bが失われてしまう。
【0038】
上記のように、中筒30の軸方向一端に設けられたスペーサー50が中筒30及び内筒10の両方に固定される一方で、中筒30の軸方向他端に設けられたスペーサー50が内筒10に固定され且つ中筒30に可動可能(非固定)とすることにより、内筒10が膨張した際に、非固定の位置でスペーサー50上を中筒30がスライドする。そのため、中筒30と内筒10との間の膨張差による応力によりスペーサー50の固定箇所が破損して、中筒30と内筒10との位置関係にずれが生じて内側流路31bが失われてしまうことを回避できる。
【0039】
<熱回収部材40について>
熱回収部材40としては、熱を回収できるものであれば特に限定されない。例えば、熱回収部材40としてハニカム構造体を用いることができる。
ハニカム構造体は、一般的に柱状の構造体である。ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面形状は、特に限定されず、円、楕円又は四角若しくはその他の多角形とすることができる。
【0040】
ハニカム構造体は、セラミックスを主成分とする隔壁及び外周壁により互いに区画された複数のセルを有する。各セルは、ハニカム構造体の第1端面から第2端面までハニカム構造体の内部を貫通している。第1端面及び第2端面は、ハニカム構造体の軸方向(セルが延びる方向)の両側の端面である。
各セルの断面形状(セルが延びる方向に垂直な断面の形状)は、特に限定されず、円形、楕円形、扇形、三角形、四角形、五角角形以上の多角形等の任意の形状とすることができる。
また、各セルは、ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面において放射状に形成されていてもよい。このような構成とすることにより、セルを流通する第1流体の熱をハニカム構造体の径方向外側に向けて効率良く伝達させることができる。
【0041】
ハニカム構造体の外周壁は、隔壁よりも厚いことが好ましい。このような構成とすることにより、外部からの衝撃、第1流体と第2流体との間の温度差による熱応力などによって破壊(例えば、ひび、割れなど)が起こり易い外周壁の強度を高めることができる。
【0042】
隔壁の厚みは、特に限定されず、用途などに応じて適宜調整すればよい。例えば、隔壁の厚みは、0.1~1mmとすることが好ましく、0.2~0.6mmとすることが更に好ましい。隔壁の厚みを0.1mm以上とすることにより、ハニカム構造体の機械的強度を十分なものとすることができる。また、隔壁の厚さを1mm以下とすることにより、開口面積の低下によって圧力損失が大きくなったり、第1流体との接触面積の低下によって熱回収効率が低下したりする問題を抑制することができる。
【0043】
次に、熱交換器100の製造方法について説明する。
熱交換器100の製造方法としては、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、熱回収部材40としてハニカム構造体を用いる場合、熱交換器100は、以下のようにして製造することができる。
まず、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押し出し、ハニカム成形体を作製する。ハニカム構造体の材料としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム構造体を製造する場合、所定量のSiC粉末に、バインダーと、水又は有機溶媒とを加え、得られた混合物を混練し坏土とし、成形して所望形状のハニカム成形体を得ることができる。そして、得られたハニカム成形体を乾燥し、減圧の不活性ガス又は真空中で、ハニカム成形体中に金属Siを含浸焼成することによって、隔壁によって第1流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を得ることができる。
【0044】
次に、ハニカム構造体を内筒10に挿入して、焼き嵌めにより、ハニカム構造体に嵌合するように内筒10を配置する。なお、ハニカム構造体と内筒10との嵌合は、焼き嵌め以外に、圧入やろう付け、拡散接合などを用いてもよい。
次に、スペーサー50を介して中筒30を内筒10上に配置する。スペーサー50と内筒10、スペーサー50と中筒30との間は溶接などによって固定する。
次に、第2流体の供給管21及び排出管22を設けた外筒20の内部に、上記で作製した構造体を配置し、溶接などによって固定する。
【0045】
本発明の実施形態1に係る熱交換器100及びその流路構造によれば、熱交換抑制時に、内筒10と中筒30との間の第2流体の内側流路31b内で気体状態の第2流体(蒸気)を予め分断して存在させることができる。そのため、蒸気塊が小さくなり、異音を低減することができる。
【0046】
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。また、
図6は、
図5の熱交換器におけるc-c’線の断面図である。なお、本発明の実施形態1に係る熱交換器100の説明の中で登場した符号と同一の符号を有する構成要素は、本発明の実施形態2に係る熱交換器200の構成要素と同一であるので、その説明を省略する。
【0047】
本発明の実施形態1に係る熱交換器100は、中筒30の軸方向両端部に設けられたスペーサー50によって内筒10に中筒30を保持しているが、本発明の実施形態2に係る熱交換器200は、中筒30の軸方向両端部を、拡径された内筒10に接続している点で異なる。このような構成とすることにより、中筒30と内筒10との間に第2流体が流通可能な内側流路31bを確保することができると共に、スペーサー50が不要となるため製造コストを削減することができる。中筒30と内筒10との接続方法は、特に限定されないが、溶接などを用いることができる。
【0048】
また、中筒30の軸方向一端部は、拡径された内筒10に固定され、中筒30の軸方向他端部は、拡径された内筒10に対して可動可能に設けられていることが好ましい。このような構成とすることにより、内筒10が膨張した際に、非固定の位置で内筒10上を中筒30がスライドする。そのため、中筒30と内筒10との間の膨張差による応力により内筒10が変形し、中筒30と内筒10との位置関係にずれが生じて内側流路31bが失われてしまうことを回避できる。
【0049】
上記のような構造を有する熱交換器200は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、熱交換器200は、以下のようにして製造することができる。
まず、ハニカム構造体を内筒10に挿入して、焼き嵌めにより、ハニカム構造体に嵌合するように内筒10を配置する。なお、ハニカム構造体と内筒10との嵌合は、焼き嵌め以外に、圧入やろう付け、拡散接合などを用いてもよい。
次に、ハニカム構造体が収容された内筒10を中筒30に挿入し、溶接などによって固定する。
次に、第2流体の供給管21及び排出管22を設けた外筒20の内部に、上記で作製した構造体を配置し、溶接などによって固定する。
【0050】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3に係る熱交換器の第1流体の流通方向に平行な断面図である。なお、本発明の実施形態1及び2に係る熱交換器100,200の説明の中で登場した符号と同一の符号を有する構成要素は、本発明の実施形態3に係る熱交換器300の構成要素と同一であるので、その説明を省略する。
【0051】
本発明の実施形態1及び2に係る熱交換器100,200は、内筒10の厚さが略同一であるが、本発明の実施形態3に係る熱交換器300は、内筒10の厚さが異なっている点で異なる。具体的には、内筒10は、径方向外側が内側流路31bと接触する部分A(11a)と径方向外側が外側流路と接触する部分B(11b)とを有し、部分A(11a)の厚さが部分B(11b)の厚さよりも小さい。そして、中筒30の軸方向両端部が、内筒10の部分B(11b)に接続されている。このような構成とすることにより、中筒30と内筒10との間に第2流体が流通可能な内側流路31bを確保することができると共に、スペーサー50が不要となるため製造コストを削減することができる。中筒30と内筒10の部分Bとの接続方法は、特に限定されないが、溶接などを用いることができる。
【0052】
上記のような構造を有する熱交換器300は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。部分A(11a)及び部分B(11b)を有する内筒10の加工方法は、特に限定されないが、例えば、部分B(11b)の厚さを全体に有する内筒10を準備し、部分A(11a)を形成すべき箇所の表面をザグリ加工などの公知の方法によって削り取ればよい。その後、本発明の実施形態2と同様の手順によって熱交換器300を製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示すような熱交換器を作製した。
まず、SiC粉末を含む坏土を所望の形状に押し出した後、乾燥させ、所定の外形寸法に加工後、Si含浸焼成することによって、円柱状のハニカム構造体を製造した。
次に、ステンレスからなる内筒10の内部にハニカム構造体を挿入し、焼き嵌めにより、ハニカム構造体の外周面に嵌合するように内筒10を配置した。次に、メッシュ構造を有するスペーサー50を介して中筒30を内筒10上に配置し、溶接によって固定した。中筒30としては、
図4(a)に示される複数の連通孔32を有する(中筒30の軸方向において6列、中筒30の周方向において10列の連通孔32が均一な間隔で設けられている)中筒30を用いた。その後、第2流体の供給管21及び排出管22を設けた外筒20の内部に、上記で作製した構造体を配置し、溶接などによって固定することにより、熱交換器を得た。
【0055】
(実施例2)
中筒30として、中筒30の軸方向の中央部に2列、中筒30の周方向において10列の連通孔32が均一な間隔で設けられた中筒30を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法及び条件で熱交換器を得た。
【0056】
(比較例1)
中筒30として、連通孔32が形成されていない中筒30を用いたこと以外は実施例1と同様の方法及び条件で熱交換器を得た。
【0057】
上記で得られた熱交換器について、以下の評価を行った。
(異音)
下記の方法で熱交換抑制時における異音の検証を行った。
第1流体として空気、第2流体として水を用いた。ハニカム構造体には、700℃の加熱した空気を20g/secの流量で供給し、内筒10と外筒20との間には、水を流量10L/分で供給した。そして、水温30~93℃までの異音の検証を行った。異音の大きさは、騒音計(リオン株式会社製NL-05)を用いて測定した。騒音計は、外筒20の軸方向の中央且つ外筒20の径方向外側に45mmの間隔を置いて配置した。その結果を
図8に示す。
図8に示されるように、中筒30に複数の連通孔32を設けた実施例1及び2の熱交換器は、中筒30に複数の連通孔32を設けていない比較例1の熱交換器に比べて、異音が小さくなった。
【0058】
(熱回収効率)
下記の方法で熱交換試験を行った。
第1流体として空気、第2流体として水を用いた。内筒10には、400℃(Tg1)の空気を10g/sec(Mg)の流量で供給し、内筒10と外筒20との間には、供給管21から水を10L/分の流量で供給し、排出管22から熱交換後の水を回収した。上記の各条件にて、熱交換器に対して空気及び水の供給を開始してから5分間通過させた直後に、熱交換器の供給管21における水の温度(Tw1)及び排出管22における水の温度(Tw2)を測定し、熱回収効率を求めた。ここで、水によって回収される熱量Qは次式で表される。
Q(kW)=ΔTw×Cpw×Mw
式中、ΔTw=Tw2-Tw1、Cpw(水の比熱)=4182J/(kg・K)とした。
また、熱交換器による熱回収効率ηは次式で表される。
η(%)=Q/{(Tg1-Tw1)×Cpg×Mg}×100
式中、Cpg(空気の比熱)=1050J/(kg・K)とした。
熱回収効率の結果を
図9に示す。
【0059】
図9に示されるように、中筒30に複数の連通孔32を設けた実施例1及び2の熱交換器は、中筒30に複数の連通孔32を設けていない比較例1の熱交換器に比べて、熱回収効率が高くなった。
【0060】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、熱交換抑制時の異音を低減することが可能な熱交換器の流路構造、及びその流路構造を備えた熱交換器を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 内筒
11a 部分A
11b 部分B
20 外筒
21 供給管
22 排出管
30 中筒
31a 外側流路
31b 内側流路
32 連通孔
40 熱回収部材
50 スペーサー
100、200、300 熱交換器