(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】近接検出システム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/02 20060101AFI20220722BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B25J19/02
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2020546678
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2019008894
(87)【国際公開番号】W WO2020054105
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2018172510
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】重高 寛
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-238502(JP,A)
【文献】特開2010-10116(JP,A)
【文献】米国特許第5166679(US,A)
【文献】特開平7-49711(JP,A)
【文献】特開2012-245575(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 19/02
B25J 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットにおける任意の設置位置に設置され、当該設置位置と物体の近接を検出する静電容量式の近接センサと、
前記近接センサによる、前記ロボットの前記設置位置以外の他の位置の近接の検出を非検知とすることが可能なシールド信号を加えるシールド信号出力部と
を備えることを特徴とする近接検出システム。
【請求項2】
シールド電極をさらに備え、
前記シールド信号出力部は、
前記シールド電極に対し、前記シールド信号を加える
ことを特徴とする請求項1に記載の近接検出システム。
【請求項3】
前記シールド信号出力部は、
前記近接センサに加えられる駆動信号と同期した波形を有する入力信号の振幅を調整することにより、前記シールド信号を生成する
ことを特徴とする請求項2に記載の近接検出システム。
【請求項4】
前記近接センサは、
前記ロボットに対する物体の近接を検出する検出電極と、
前記検出電極と重畳して設けられるガード電極とを有し、
前記シールド信号出力部は、
前記ガード電極に加えられるアクティブシールド信号を前記入力信号として、当該入力信号の振幅を調整することにより、前記シールド信号を生成する
ことを特徴とする請求項3に記載の近接検出システム。
【請求項5】
前記シールド信号出力部は、
前記入力信号の振幅を調整することにより、前記近接センサに対する所定の近接距離範囲において、前記近接センサに前記他の位置が近接した際に、前記近接センサによって検出される静電容量の差分値が、所定の上限閾値を超えないようにする、前記シールド信号を生成する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の近接検出システム。
【請求項6】
前記近接センサは、前記ロボットの第1のアーム部に設けられることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の近接検出システム。
【請求項7】
前記シールド電極は、前記ロボットの前記第1のアーム部に対して回転可能に連設される第2のアーム部の前記近接センサに対応する位置に設けられることを特徴とする請求項6に記載の近接検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体との間に生じる静電容量の変化によって物体が近接したことを検出することができる近接センサが知られている。例えば、下記特許文献1には、シート状の感圧導電ゴムの両面に電極を配設することによって当接圧力の測定を可能とし、また、表面側電極の対地静電容量を測定することによって、物体の近接を検知することが可能なセンサが開示されている。このセンサによれば、ロボットのマニュピュレータに配設されることにより、マニュピュレータが障害物等の他の物体に近接したことを検出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、例えば、ロボットに近接センサを設けて、ロボットと人物等の障害物の接近を検出するように構成した場合、センサを設けたロボットの部位に他の部位が近接した場合であっても、ロボットと人物等の障害物が接近したと誤検出されてしまい、ロボットが緊急停止してしまう虞がある。そこで、センサを設けた部位と接近する可能性がある他の部位を障害物として誤検出しないようにすることで、ロボットと近接する障害物の検出精度を高めることが可能な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態の近接検出システムは、ロボットにおける任意の設置位置に設置され、当該設置位置と物体の近接を検出する静電容量式の近接センサと、近接センサによる、ロボットの設置位置以外の他の位置の近接の検出を非検知とすることが可能なシールド信号を加えるシールド信号出力部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
一実施形態によれば、ロボットのセンサを設置した位置以外の他の位置を障害物として誤検出しないようにすることができるため、ロボットと障害物の近接の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る近接検出システムのシステム構成を示す図
【
図2】一実施形態に係る近接センサおよび検出回路の外観斜視図
【
図3】一実施形態に係る近接センサの積層構造を示す図
【
図4】一実施形態に係るシールド電極の積層構造を示す図
【
図5】一実施形態に係る近接検出システムの回路構成を示す図
【
図6】第1のロボットアームに対してグラウンドが近接した際の、近接センサにおいて生じる静電容量の差分値の一例を示すグラフ
【
図7】第1のロボットアームに対してシールド電極が近接した際の、近接センサにおいて生じる静電容量の差分値の一例を示すグラフ
【
図8】第1のロボットアームに対してシールド電極が近接した際の、近接センサにおいて生じる静電容量の差分値の変化の一例を示すグラフ
【
図9】第1のロボットアームに対してシールド電極が近接した際の、近接センサにおいて生じる静電容量の差分値の調整例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔一実施形態〕
以下、図面を参照して、一実施形態について説明する。
【0009】
(近接検出システム10のシステム構成)
図1は、一実施形態に係る近接検出システム10のシステム構成を示す図である。
図1に示す近接検出システム10は、作業者等の人物に対するロボット20の近接を検出し、その検出結果をロボット制御装置30へ出力するシステムである。
図1に示すように、近接検出システム10は、近接センサ11、検出回路12、シールド電極13、およびロボットアームシールド回路14を備える。
【0010】
近接センサ11は、静電容量方式の近接センサである。近接センサ11は、ロボット20における任意の設置位置に設置され、ロボット20と物体の近接を検出する。
図1に示す例では、近接センサ11は、ロボット20が備える第1のロボットアーム21に設置されており、第1のロボットアーム21の動作に伴う物体の近接を検出する。
【0011】
検出回路12は、近接センサ11における静電容量の変化を検出することにより、第1のロボットアーム21と物体の近接を検出する。具体的には、検出回路12は、近接センサ11に対して正弦波からなる交流電圧を印加することにより、近接センサ11を駆動する。ところで、人物等の物体は導体と見なすことができグランドに接続されていると見なすことができる。このため、近接センサ11は、第1のロボットアーム21と物体の近接状態に応じて、当該近接センサ11と物体との間における静電容量が変化し、当該近接センサ11を流れる電流の電流値が変化する。検出回路12は、近接センサ11を流れる電流の変化量に基づいて、第1のロボットアーム21と物体の近接を検出することができる。例えば、検出回路12は、近接センサ11における静電容量の差分値(すなわち、人体等の物体が周囲に存在しない場合の電流値を基準として、近接センサ11を流れる電流の差分値)が所定の上限閾値th1を超えた場合、第1のロボットアーム21に物体が近接したことを検出する。なお、上限閾値th1は、近接センサと物体(導体)の距離を変えて実測値を求め、該値から設定する。検出回路12は、静電容量の検出結果(すなわち、静電容量の変化を表す値)を、ロボット20の動作を制御するロボット制御装置30へ出力する。または、検出回路12は、静電容量の検出結果に基づいて障害物との近接状態を判定し、その判定結果をロボット制御装置30へ出力してもよい。例えば、ロボット制御装置30は、検出回路12から出力された検出結果または判定結果に基づき、「第1のロボットアーム21と物体が近接した」と判断した場合、ロボット20の動作を緊急停止させる等、障害物と近接したときに行うべき所定の制御を行う。
【0012】
本実施例においては、シールド電極13は、ロボット20の可動部に設けられる。具体的には、シールド電極13は、ロボット20の可動部であって、近接センサ11による誤検出の可能性のある部位に設けられる。
図1に示す例では、シールド電極13は、ロボット20が備える第2のロボットアーム22に設置されている。第2のロボットアーム22は、第1のロボットアーム21に回転可能に連設されており、第1のロボットアーム21に対して可動である。第2のロボットアーム22は、一連のロボット動作の中で、第1のロボットアーム21に近接して、障害物として誤検出されてしまう虞がある。なお、シールド電極13は、第1のロボットアームと第2ロボットアームが近接した際に、互いに対向するよう対応した位置に配置される。
【0013】
ロボットアームシールド回路14は、「シールド信号出力部」の一例である。ロボットアームシールド回路14は、第2のロボットアーム22に設けられたシールド電極13に対し、近接センサ11による物体の近接の検出を非検出とする(すなわち、近接センサ11における静電容量の変化が殆ど生じないようにする)ことが可能なシールド信号を加える。すなわち、前述したようにグラウンドと見なせる人体等の物体が近接センサ11に近接すると、近接センサ11と物体との容量値が変わることで近接センサに流れる電流が変化するが、物体にシールド電極13を取り付けて、物体と近接センサ11との間にシールド電極13を介在させ、さらにシールド電極13に後述する駆動信号を加える事で、物体が近接センサ11に近接しても、グランドである物体の影響を受けずに近接センサ11に流れる電流値の変化を少なくする、或いは無くす。よって近接センサ11は物体との近接を検出しない。すなわち、ロボットアームシールド回路14は、第2のロボットアーム22が第1のロボットアーム21に近接した場合であっても、第2のロボットアーム22が障害物として誤検出されないようにすることができる。
【0014】
(近接センサ11の構成)
図2は、一実施形態に係る近接センサ11および検出回路12の外観斜視図である。
図3は、一実施形態に係る近接センサ11の積層構造を示す図である。なお、
図2では、近接センサ11の表面側(検出電極302側)の外観が示されている。
【0015】
図2および
図3に示す近接センサ11は、物体(例えば、人物等)の近接状態を検出可能な装置である。
図3に示すように、近接センサ11は、全体的に薄いシート状をなしており、複数の構成部材が積層された積層構造を有する。また、
図3に示すように、近接センサ11は、その裏面側部分(ガード電極304側)において、第1のロボットアーム21の表面に貼り付けられる。
【0016】
図3に示すように、近接センサ11は、当該近接センサ11の表面側(図中上方)から順に、絶縁フィルム301、検出電極302、スペーサ303、ガード電極304、および絶縁フィルム305を備える。
【0017】
絶縁フィルム301は、絶縁性を有する素材から形成されるフィルム状の部材である。絶縁フィルム301は、検出電極302の表面を保護する。絶縁フィルム301としては、例えば、PETフィルムを用いることができる。
【0018】
検出電極302は、絶縁フィルム301の全面に形成される。また、検出電極302は、導電性を有し、導電性インクを絶縁フィルム301に印刷して焼成することにより形成される。検出電極302は、近接センサ11に対する物体の近接状態を検出する。具体的には、前述のように、検出電極302は、検出回路12から交流電圧が印加されることによって駆動され、当該検出電極302に対する物体の近接状態に応じて、当該検出電極302と物体(グラウンド)との間の静電容量が変化すると、当該静電容量の変化に応じて電流値が変化する。この電流値の変化は、検出回路12によって検出される。検出電極302としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、金属膜(例えば、銀、銅、アルミとモリブデンとの複合素材)等、薄膜状の導体を用いても良い。
【0019】
スペーサ303は、絶縁性を有する素材から形成されるシート状の部材である。スペーサ303は、検出電極302とガード電極304との間に設けられている。スペーサ303は、検出電極302とガード電極304との間隔を一定に保つとともに、検出電極302とガード電極304とを互いに絶縁する。スペーサ303としては、例えば、ウレタンフォームを用いることができる。また、図示は省略するが、スペーサ303は、両面テープ或いは接着剤で上下をそれぞれ絶縁フィルム301、絶縁フィルム305に保持される。
【0020】
ガード電極304は、絶縁フィルム305の全面に形成される。また、ガード電極304は、導電性を有し、導電性インクを絶縁フィルム305に印刷して焼成することにより形成される。ガード電極304は、検出電極302の底面側に設けられている。ガード電極304は、平面視において、検出電極302に重畳して形成されており検出電極302から外周縁部がはみ出るよう検出電極302より大きな面積の範囲に形成されている。ガード電極304は、検出回路12から検出電極302に加えられるのと同じ波形のアクティブシールド信号が加えられることにより、検出電極302に対する下面(第1のロボットアーム21側の面)からの影響を阻止する。具体的には、ガード電極304は、例えば、検出電極302における静電容量に第1のロボットアーム21との容量の影響を無くしたり、検出電極302に第1のロボットアーム21からのノイズが混入することを防止することができ、よって、検出電極302による検出精度を高めることができる。ガード電極304としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、金属膜(例えば、銀、銅、アルミとモリブデンとの複合素材)等、薄膜状の導体を用いても良い。
【0021】
絶縁フィルム305は、絶縁性を有する素材から形成されるフィルム状の部材である。絶縁フィルム305は、ガード電極304の底面を保護する。絶縁フィルム305としては、例えば、PETフィルムを用いることができる。
【0022】
(シールド電極13の構成)
図4は、一実施形態に係るシールド電極13の積層構造を示す図である。
図4に示すシールド電極13は、近接センサ11による物体の近接の検出を非検知とする(すなわち、物体の近接による静電容量の変化が殆ど生じないようにする)ことが可能な装置である。
図4に示すように、シールド電極13は、全体的に薄いシート状をなしており、複数の構成部材が積層された積層構造を有する。また、
図4に示すように、シールド電極13は、その裏面部分(電極402側)において、第2のロボットアーム22の表面に貼り付けられる。
【0023】
図4に示すように、シールド電極13は、当該近接センサ11の表面側(図中下方)から順に、絶縁フィルム401および電極402を備える。
【0024】
絶縁フィルム401は、絶縁性を有する素材から形成されるフィルム状の部材である。絶縁フィルム401は、電極402の表面を保護する。絶縁フィルム401としては、例えば、PETフィルムを用いることができる。
【0025】
電極402は、絶縁フィルム401の全面に形成される。また、電極402は、導電性を有し、導電性インクを絶縁フィルム401に印刷して焼成することにより形成される。電極402は、ロボットアームシールド回路14からシールド信号が加えられることにより、シールド電極13が近接センサ11に近接した場合であっても、近接センサ11における静電容量の変化が殆ど生じないようにすることにより、近接センサ11による物体の検出を非検知とすることができる。すなわち、電極402は、シールド電極13が設置される第2のロボットアーム22が、第1のロボットアーム21に近接した場合であっても、第2のロボットアーム22が障害物として誤検出されないようにすることができる。電極402としては、例えば、ITO、IZO、金属膜等、薄膜状の導体を用いてもよい。
【0026】
(近接検出システム10の回路構成)
図5は、一実施形態に係る近接検出システム10の回路構成を示す図である。
図5に示すように、近接検出システム10は、検出制御IC(Integrated Circuit)10Aを備える。検出制御IC10Aは、検出部120、波形生成回路15、およびデジタルブロック501を有する。検出部120は、近接センサ11の検出電極302に接続されている。検出部120は、検出電極302に流れる電流を測定して検出電極302と人物等の物体(グラウンド)との間の静電容量の変化を測定することにより、近接センサ11に対する物体の近接状態を検出する。デジタルブロック501は、検出部120からの出力信号をデジタル信号に変換するブロックであり、MPU(Microprocessor Unit)502に出力され、MPU502では人が近接したかを判定して、判定結果をロボット制御装置30に出力する。波形生成回路15は、ガード電極304およびロボットアームシールド回路14ならびに検出部120に接続されている。波形生成回路15は、アクティブシールド信号を生成して、当該アクティブシールド信号をガード電極304およびロボットアームシールド回路14へ出力する。アクティブシールド信号は、波形生成回路15から検出部120を介して検出電極302に加えられる駆動信号と同期した波形を有する信号である。ガード電極304は、アクティブシールド信号が加えられることにより、本実施例においては主にロボット表面による検出電極302への影響を抑制する。なお、アクティブシールド信号は、高周波のノイズ輻射や伝導ノイズ影響を受け難い正弦波であることが好ましい。
【0027】
ロボットアームシールド回路14には、波形生成回路15から出力されるアクティブシールド信号が入力される。ロボットアームシールド回路14は、中点電位形成回路14A、および振幅調整回路14Bを有する。中点電位形成回路14Aは、検出部120に加えられる電圧と同じ電位を形成し、バッファ回路(ボルテージフォロア回路)を含み、振幅調整回路14Bに対して、シールド信号を生成するための安定的な電圧を供給する。振幅調整回路14Bは、ロボットアームシールド回路14に入力されたアクティブシールド信号の振幅を調整することによりシールド信号を生成し、当該シールド信号をシールド電極13へ出力する。すなわち、シールド信号は、アクティブシールド信号と周波数が同じであり、且つ、アクティブシールド信号と振幅が異なる信号である。具体的には、振幅調整回路14Bは、抵抗R1を有しており、当該抵抗R1の抵抗値により、アクティブシールド信号の振幅を決定づけ、バッファ回路(ボルテージフォロア回路)を介してシールド電極13に出力される。したがって、抵抗R1は、アクティブシールド信号の振幅が、予め求めておいた適切な振幅となるように、適切な抵抗値を有するものが用いられる。
【0028】
(近接センサ11において生じる静電容量の差分値の一例)
図6は、第1のロボットアーム21に対してグラウンド(例えば、人体、シールド電極13が装着されていない状態の第2のロボットアーム22等に相当し、導体と見なせ且つグランドに接続されていると見なせる物体)が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値の一例を示すグラフである。なお、差分値における基準値は周囲に物体が存在しない場合の静電容量の値としている。
図6のグラフにおいて、横軸は、第1のロボットアーム21に対するグラウンドの近接距離を示し、縦軸は、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を示す。
図6に示すように、本実施形態の近接検出システム10では、第1のロボットアーム21に対するグラウンドの近接距離が短くなるにつれて、容量値が増加するので近接センサ11において生じる静電容量の差分値が、徐々に大きくなる。
【0029】
図7は、第1のロボットアーム21に対してシールド信号で駆動されたシールド電極13が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値の一例を示すグラフである。なお、差分値における基準値は周囲にシールド電極13が存在しない場合の静電容量の値としている。
図7のグラフにおいて、横軸は、第1のロボットアーム21に対するシールド電極13の近接距離を示し、縦軸は、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を示す。なお、
図7は、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を、ガード電極304に加えられるアクティブシールド信号の振幅と同じにした場合(すなわち、シールド信号の振幅を調整していない場合)の、近接センサ11における静電容量の差分値の特性を示している。近接センサ11の検出電極302の裏面側はガード電極304によって容量は生じないので静電容量の特性には影響を与えない。一方、検出電極302の表面側は、シールド電極13が遠くにある場合、グラウンドとの間で容量(浮遊容量)が生じている。そして、
図7に示すように、本実施形態の近接検出システム10では、シールド電極13には検出電極302と同様の信号が加わるので、両社間の電位差は少なくなり、よって検出電極302とグラウンドとの間の容量(浮遊容量)は小さくなり、
図6に示すグラフとは反対に、第1のロボットアーム21に対するシールド電極13の近接距離が短くなるにつれて、近接センサ11において生じる静電容量の差分値が、徐々に小さくなる。
【0030】
(近接センサ11において生じる静電容量の差分値の変化の一例)
図8は、第1のロボットアーム21に対してシールド電極13が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値の変化の一例を示すグラフである。なお、差分値における基準値は周囲にシールド電極13が存在しない場合の静電容量の値としている。
図8に示すように、本実施形態の近接検出システム10では、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を調整することにより、第1のロボットアーム21に対してシールド電極13が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を変化させることができる。具体的には、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を徐々に小さくすることにより、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を徐々に大きくすることができる。すなわち、振幅を小さくする事は、シールド電極13はグランドと類似してくる為、
図6と同様の傾向となる。反対に、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を徐々に大きくすることにより、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を徐々に小さくすることができ、
図7で示す傾向となる。
【0031】
そこで、本実施形態の近接検出システム10では、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を調整して、第1のロボットアーム21に対してシールド電極13が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値を調整することにより、様々な要請に対応することが出来る。
【0032】
(近接センサ11において生じる静電容量の差分値の調整例)
図9は、第1のロボットアーム21に対してシールド電極13が近接した際の、近接センサ11において生じる静電容量の差分値の調整例を示すグラフであり、
図8のグラフを説明の都合上、一部、抜粋したデータである。
【0033】
例えば、
図9の差分値特性900で示す振幅をシールド電極13に加えた例では、近接距離範囲r(100mm~260mm)の範囲においては、第2のロボットアーム22が第1のロボットアーム21へ接近しても、近接センサ11において生じる静電容量の差分値(以下、単に「差分値」と示す)は略ゼロであり、理想の差分値であり、第2のロボットアーム22の近接に伴う影響を無視できる。よって、仮に第2のロボットアーム22と人等が、同時に近接センサ11に近接したとしても差分値を測定する事で人体等の接近を検知できる。
【0034】
また、
図9に示す例において、差分値の上限閾値th1が定められている。上限閾値th1は、第1のロボットアーム21と人等の障害物が近接したか否かを判断するための境界値である。検出部120によって測定された差分値が、デジタルブロック501でデジタル信号に変換され、MPU502で上限閾値th1を超えた場合、第1のロボットアーム21と人等の障害物が近接したと判断される。
【0035】
例えば、
図9に示す差分値特性911によれば、近接距離範囲rにおいて、差分値が、上限閾値th1を超えている。この場合、振幅調整回路14Bが備える抵抗R1の抵抗値を調整して、シールド電極13に加えられるシールド信号の振幅を大きくすることにより、図中矢印Aに示すように、当該差分値特性911を、理想の差分値特性900に近づけることができる。なお、差分値特性900であっても近接距離が40mm以下の場合、誤検出してしまう事となるが、メカ的にこれ以上、接近することが無い構成とする事で対応すればよい。
【0036】
また、
図9に、差分値の下限閾値th2を定めた例を示す。下限閾値th2は、第1のロボットアーム21に対して第2のロボットアーム22が近接したかを判断するのに用いる。すなわち、振幅を調整し
図9に示す差分値特性901,912として、所定の近接距離において、差分値が、所定の下限閾値th2を下回るようにすれば、第2のロボットアーム22が接近したかを判断できる。但しこの場合には人体等が単独で近接センサ11に近接した場合に比べ、シールド電極13と人体等とが同時に接近した場合の出力が小さくなるので、人体等が近接したと判断する上限閾値th1を低目に設定する必要がある。
【0037】
実際の設定においては、
図9のシールド電極13のみが近接センサ11と近接した際の近接センサ11の差分値と、
図6の人体等のみが近接センサ11と近接した際の近接センサ11の差分値と、
図9と
図6を合わせシールド電極13と人体等の両方が近接センサ11と近接した際の差分値、および、どのような場合にどのように判定するか等から、適宜、振幅や閾値が設定される。
【0038】
更には、シールド信号の振幅と、近接センサ11において生じる静電容量の差分値との関係は、製品の仕様(例えば、シールド電極13のサイズ等)によって変動する。このため、シールド信号の振幅として、製品の仕様に応じた適切な振幅を、シミュレーション等によって導出することが好ましい。
【0039】
以上説明したように、一実施形態に係る近接検出システム10は、ロボット20における第1のロボットアーム21(「任意の設置位置」の一例)に設置され、第1のロボットアーム21と物体の近接を検出する静電容量式の近接センサ11と、ロボット20の第2のロボットアーム22(「ロボットの設置位置以外の他の位置」の一例)に対し、近接センサ11による第2のロボットアーム22の近接の検出を非検知とすることが可能なシールド信号を加えるロボットアームシールド回路14とを備える。これにより、一実施形態に係る近接検出システム10は、第1のロボットアーム21に対して第2のロボットアーム22が近接した場合であっても、近接センサ11によって第2のロボットアーム22が検出されないようにすることができる。したがって、一実施形態に係る近接検出システム10によれば、ロボット20に近接する障害物の検出精度を高めることができる。
【0040】
また、一実施形態に係る近接検出システム10は、第2のロボットアーム22に設けられるシールド電極13をさらに備え、ロボットアームシールド回路14は、シールド電極13に対し、シールド信号を加える。すなわち、一実施形態に係る近接検出システム10は、ロボット20における任意の位置に対し、シールド電極を設けることにより、当該位置を、容易に、近接センサ11による誤検出の防止の対象位置とすることができる。
【0041】
また、一実施形態に係る近接検出システム10において、ロボットアームシールド回路14は、近接センサ11に加えられる駆動信号と同期した波形を有する入力信号の振幅を調整することにより、シールド信号を生成する。すなわち、一実施形態に係る近接検出システム10は、近接センサ11に加えられる駆動信号を流用して、シールド信号を生成することができるため、比較的簡単な構成により、シールド信号を生成することができる。
【0042】
また、一実施形態に係る近接検出システム10において、近接センサ11は、ロボット20に対する物体の近接を検出する検出電極302と、検出電極302と重畳して設けられるガード電極304とを有し、ロボットアームシールド回路14は、ガード電極304に加えられるアクティブシールド信号を入力信号として、当該入力信号の振幅を調整することにより、シールド信号を生成する。これにより、一実施形態に係る近接検出システム10は、近接センサ11にガード電極304を設けたことにより、検出電極302による検出精度を高めることができるとともに、ガード電極304に加えられるアクティブシールド信号を流用して、シールド信号を生成することができるため、比較的簡単な構成により、シールド信号を生成することができる。
【0043】
また、一実施形態に係る近接検出システム10において、ロボットアームシールド回路14は、入力されるアクティブシールド信号の振幅を調整することにより、近接センサ11に対する所定の近接距離範囲rにおいて、近接センサ11に第2のロボットアーム22が近接した際に、近接センサ11によって検出される静電容量の差分値が、所定の上限閾値th1を超えないようにする、シールド信号を生成する。これにより、一実施形態に係る近接検出システム10は、第1のロボットアーム21に対して第2のロボットアーム22が近接した場合であっても、近接センサ11によって第2のロボットアーム22が検出されないようにすることができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形または変更が可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態では、ロボット20に対し、1つの近接センサ11を設けるようにしているが、これに限らず、ロボット20に対し、複数の近接センサ11を設けるようにしてもよい。
【0046】
また、例えば、上記実施形態では、ロボット20に対し、1つのシールド電極13を設けるようにしているが、これに限らず、ロボット20に対し、複数のシールド電極13を設けるようにしてもよい。
【0047】
また、例えば、上記実施形態では、第2のロボットアーム22に対し、シールド電極13を設けて、当該シールド電極13にシールド信号を加えるようにしているが、これに限らず、第2のロボットアーム22に対し、シールド電極13を設けずに、第2のロボットアーム22の導電部分(例えば、金属表面)に直接的にシールド信号を加えるようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、近接センサ11は可動部、すなわち第1のロボットアーム21に設けており、人体等への所定以上の接近を防止できるようにしたが、これに限らず、近接センサ11を固定部分に設けて、人体が所定距離以内に接近した場合にロボット20の動作を停止するようにしても良い。
【0049】
また、上記実施形態では、シールド電極13は可動部である第2のロボットアーム22に設けているが、シールド電極13は、近接センサ11と接近する可能性があるロボット20の如何なる部位に設けられてもよい。例えば、近接センサ11が可動部に設けられる場合には、シールド電極13は可動部および固定部のいずれにも配置可能であり、近接センサ11が固定部に設けられる場合には、シールド電極13は可動部に配置される。
【0050】
本国際出願は、2018年9月14日に出願した日本国特許出願第2018-172510号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0051】
10 近接検出システム
11 近接センサ
12 検出回路
13 シールド電極
14 ロボットアームシールド回路(シールド信号出力部)
20 ロボット
21 第1のロボットアーム(第1のアーム部)
22 第2のロボットアーム(第2のアーム部)
301 絶縁フィルム
302 検出電極
303 スペーサ
304 ガード電極
305 絶縁フィルム
401 絶縁フィルム
402 電極