(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】放電加工方法、該放電加工方法を実施する放電加工機および放電加工システム
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
B23H7/02 H
(21)【出願番号】P 2020561135
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047392
(87)【国際公開番号】W WO2020129261
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 高史
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-105822(JP,A)
【文献】特開平01-274925(JP,A)
【文献】登録実用新案第3002627(JP,U)
【文献】特開平03-287312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電加工システムにおいて、
凹空間を有しワーク
が固定されたパレットを取り付ける
ワイヤ放電加工機テーブルと、
前記ワイヤ放電加工機テーブルの上方に配置され、上ガイドを有した上ヘッドと、
前記上ヘッドに対面するように
前記凹空間内に配置され、下ガイドを有した下ヘッドとを有した少なくとも1つのワイヤ放電加工機と、
ワーク
が固定されたパレットを
自身の上面に前記ワークの下面と隙間を有して取り付ける
形彫り放電加工機テーブルと、
前記形彫り放電加工機テーブルの上方に配置されワイヤ電極の走行経路に平行な方向に延びる形彫り電極を有した少なくとも1つの形彫り放電加工機と、
前記ワイヤ放電加工機と前記形彫り放電加工機との間でワークが固定されたパレットを搬送するワーク搬送装置と、
を具備し、
前記ワイヤ電極を前記上ガイドと前記下ガイドの間で所定の走行経路に沿って走行可能に張り渡し、
前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に所定の電圧を印加し、
前記ワイヤ電極を前記走行経路に沿って走行させつつ、前記ワイヤ電極と前記ワークとを相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に生じる放電現象によって前記ワークの材料が除去されるようにワイヤ放電加工を行い、
前記ワイヤ放電加工によって前記ワークに形成された中子と外周部分とが、未切断部分によって連結されるように前記相対移動を停止し、
前記ワーク搬送装置によって前記ワイヤ放電加工で加工した未切断部分を有するワークを前記形彫り放電加工機へ移載し、
該形彫り放電加工によって
前記未切断部分を除去
し外周部分と中子を分離させ、前記中子を前記形彫り放電加工機テーブル上面に落下させ、ワーク搬送装置によってパレットを上方へ動作させて外周部分を中子から抜き取るようにした放電加工システム。
【請求項2】
更に、パレットを載置する少なくとも1つのパレットステーションを具備し、ワーク搬送装置がワイヤ放電加工機と、形彫り放電加工機と、パレットステーションの間で移動可能となっている請求項
1に記載の放電加工システム。
【請求項3】
形彫り電極が棒状電極である請求項
1に記載の放電加工システム。
【請求項4】
形彫り電極がリブ電極である請求項
1に記載の放電加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機でワークを加工する際に生ずる中子を、ワークから分離できるようにした放電加工方法、該放電加工方法を実施する放電加工機および放電加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機では、加工プロセスが終了するときに、ワークから中子が分離、落下する。落下する中子は、ワークの下側に配置されワイヤ電極を案内する下ガイドに衝突して、下ガイドを損傷することがある。落下する中子にワイヤ電極が引っ掛かり、ワイヤ電極が不定形に切断されることもある。また、ワークが損傷することもある。
【0003】
こうした問題を解決するために、従来から種々の中子処理方法が開発されてきている。例えば、特許文献1には、切り抜き線を境にして互いに隣接している中子とワークとを磁石に吸着させた状態で、ワイヤ電極とワークとを相対的に移動させ、ワイヤ放電加工で中子をワークから完全に切断するようにしたワイヤ放電加工機の中子処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の中子処理方法では、例えば磁石に吸着しない材料でワイヤ放電加工を行う場合に、中子処理を行えなくなる。そうした場合には、作業者が手動で中子をワークから分離しなければならない問題がある。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、中子の大きさや形状、重量、材質によらず、中子を迅速にワークから切り離し、また、中子の落下により下ガイドが損傷したり、ワイヤ電極が異常切断されることを防止した放電加工方法および該放電加工方法を実施する放電加工機および放電加工システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
更に、本発明によれば、放電加工システムにおいて、凹空間を有しワークが固定されたパレットを取り付けるワイヤ放電加工機テーブルと、前記ワイヤ放電加工機テーブルの上方に配置され、上ガイドを有した上ヘッドと、前記上ヘッドに対面するように前記凹空間内に配置され、下ガイドを有した下ヘッドとを有した少なくとも1つのワイヤ放電加工機と、ワークが固定されたパレットを自身の上面に前記ワークの下面と隙間を有して取り付ける形彫り放電加工機テーブルと、前記形彫り放電加工機テーブルの上方に配置されワイヤ電極の走行経路に平行な方向に延びる形彫り電極を有した少なくとも1つの形彫り放電加工機と、前記ワイヤ放電加工機と前記形彫り放電加工機との間でワークが固定されたパレットを搬送するワーク搬送装置と、を具備し、
前記ワイヤ電極を前記上ガイドと前記下ガイドの間で所定の走行経路に沿って走行可能に張り渡し、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に所定の電圧を印加し、前記ワイヤ電極を前記走行経路に沿って走行させつつ、前記ワイヤ電極と前記ワークとを相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に生じる放電現象によって前記ワークの材料が除去されるようにワイヤ放電加工を行い、前記ワイヤ放電加工によって前記ワークに形成された中子と外周部分とが、未切断部分によって連結されるように前記相対移動を停止し、前記ワーク搬送装置によって前記ワイヤ放電加工で加工した未切断部分を有するワークを前記形彫り放電加工機へ移載し、該形彫り放電加工によって前記未切断部分を除去し外周部分と中子を分離させ、前記中子を前記形彫り放電加工機テーブル上面に落下させ、ワーク搬送装置によってパレットを上方へ動作させて外周部分を中子から抜き取るようにした放電加工システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明よれば、中子と下ガイドとが上下方向に重なり合わないように、ワークを上ガイドおよび下ガイドに対して相対移動した後に、形彫り放電加工によって、未切断部分を除去するようにしたので、中子の落下により下ガイドが損傷することが防止される。また、中子の大きさや形状、重量、材質によらず、中子を迅速、確実にワークから切り離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の放電加工方法を実施する放電加工機の一例を示す略示正面図である。
【
図2】パレット取付台と共に示すパレットの一例を示す斜視図である。
【
図3】
図1の放電加工機による本発明の放電加工方法を説明するための略図である。
【
図4】本発明の放電加工方法を実施する放電加工システムの一例を示す略示平面図である。
【
図5】ワイヤ放電加工機の略示正面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図6】形彫り放電加工機の略示正面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図7】形彫り放電加工機の略示正面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図8】形彫り放電加工機の略示平面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図9】
図8において矢印IX-IXの方向に見た放電加工機の略示正面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図10】形彫り放電加工機の略示平面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図11】
図8において矢印XI-XIの方向に見た放電加工機の略示正面図であり、
図4の放電加工システムによる本発明の放電加工方法を説明するための図である。
【
図12】形彫り電極の一例としてのリブ電極の略示斜視図である。
【
図13】
図1の放電加工機において、形彫り放電加工アタッチメントに置換可能な測定プローブアタッチメントの略示斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1を参照して、本発明の放電加工方法を実施するワイヤ放電加工機(以下、単に放電加工機とする)の一例を説明する。
図1において、放電加工機10は、工場の床面に固定される基台となるベッド26、ベッド26の上面に固定されるテーブル28、テーブル28の上方に配置される上ヘッド12、上ヘッド12に保持されワイヤ電極22を案内する上ガイド14、上ヘッド12に対面するように配置される下ヘッド18、下ヘッド18に保持されワイヤ電極22を案内する下ガイド20、テーブル28および下ヘッド18の四囲を包囲する加工槽38を主要な構成要素として具備している。
【0013】
上ヘッド12はベッド26およびテーブル28に対してX軸、Y軸、Z軸の直交3軸方向に相対移動可能に設けられている。例えば、上ヘッド12は、ベッド26の後方部分(奥側)に設けられるコラム(図示せず)、Y軸方向(前後方向、
図1では紙面に垂直な方向)に往復可能にコラムに取り付けられたY軸スライダ(図示せず)、X軸方向(左右方向)に往復可能にY軸スライダに取り付けられたX軸スライダ(図示せず)、Z軸方向(上下方向)に往復可能にX軸スライダに取り付けられたZ軸スライダ(クイル)(図示せず)に取り付けることができる。
【0014】
前記X軸スライダ、Y軸スライダ、Z軸スライダは、X軸、Y軸、Z軸の送り装置(図示せず)によって、夫々、X軸、Y軸、Z軸方向に往復駆動することができる。X軸、Y軸、Z軸の送り装置は、例えば、X軸、Y軸、Z軸の各方向に延設されたボールねじ(図示せず)、該ボールねじの各々に係合し、X軸スライダ、Y軸スライダ、Z軸スライダに取り付けられたナット(図示せず)、X軸、Y軸、Z軸のボールねじの一端に結合されたX軸、Y軸、Z軸のサーボモータを含むことができる。サーボモータは、放電加工機10を制御する制御装置、例えばNC装置(図示せず)に接続することができる。テーパ加工を行うために、更にU軸、V軸を備えていてもよい。
【0015】
テーブル28は上方から見ると、X軸、Y軸に垂直な側壁によって包囲された凹空間28aを形成する略矩形の枠形状をなしている。下ヘッド18は、テーブル28が形成する凹空間28a内に突出した支持アーム16に保持されている。支持アーム16は、例えばX軸スライダに取り付けることができる。支持アーム16はテーブル28の後方からテーブル28の凹空間28a内まで延設されている。上ヘッド12内には、ワイヤ電極22に所定の電位を与える給電板(図示せず)が配設されている。給電板とテーブル28は、ワイヤ放電加工用の放電電源(図示せず)に接続されており、ワイヤ電極22とテーブル28に取り付けられたワーク30との間に所定の加工電圧が印加される。
【0016】
支持アーム16には、また、上方に開口した有底状の部材より成るバケット36が配設されている。支持アームをX軸スライダに取り付けることによって、下ヘッド18は、上ヘッド12と共に、テーブル28およびテーブル28に取り付けられたワーク30に対して相対移動する。
【0017】
ワーク30の加工中、ワイヤ電極22は、ワイヤ電極送り装置(図示せず)によって、ワイヤボビン(図示せず)から繰り出され、Z軸スライダ(クイル)の内部、上ヘッド12、上ガイド14、下ガイド20、下ヘッド18を順次通過して、ワイヤ回収装置またはワイヤ回収装置(図示せず)に回収される。ワイヤ電極22は、上下ガイド14、20の間の空間である加工領域を通過する間、上下ガイド14、20によって、放電加工機10の中心軸線O(Z軸方向)に沿って延在するように案内される。つまり、上下ガイド14、20によって規定される中心軸線Oがワイヤ電極22の走行経路となる。
【0018】
加工槽38は、矢印で示すように、Z軸方向に上下動可能に設けられている。放電加工中は、
図1に示すように上動して、テーブル28に取り付けられたワーク30が加工槽38内に貯留された加工液42中に浸漬されるようにする。放電加工が終了して、ワーク30をテーブル28から取り外す際には、加工液42を排出後に下動して、ワーク30の取り外し作業を可能とする。ベッド26の側面にはシール部材40が配設されており、加工槽38とベッド26の間から加工液42が漏洩しないようになっている。
【0019】
テーブル28の上面にワーク30が載置される。ワーク30は、例えば、パレット100を介してテーブル28の上面に取り付けることができる。
図2を参照すると、一例として、パレット100は矩形のフレーム102を有している。フレーム102の上面には、ワーク搬送装置(例えば、
図4のワーク搬送装置210)の搬送アーム(例えば、
図4の搬送アーム214)に係合する係合部108が突出している。係合部108は、頭部を有したピンから形成することができる。
【0020】
フレーム102の内側には、一対のワーク固定具106が配設されている。ワーク固定具106は、フレーム102の長辺104の間で長辺104に対して垂直に延設されている。ワーク固定具106は、板状のワーク30を両側から挟持して、該ワーク30をフレーム102に固定する。
【0021】
パレット100は、係合部108に係合するワーク搬送装置の搬送アームに対して長辺104が垂直な方向に延在するように、テーブル28に取り付けることができる。パレット100は、パレット取付台110を介してテーブル28に着脱可能に取り付けるようにできる。パレット取付台110は、パレット100よりも大きな寸法の矩形のフレーム状の部材から形成することができる。パレット取付台110は、パレット100を固定する複数の、
図2の例では2つのチャック112を有している。パレット100の下面には、チャック112が係合、クランプするグリップ部(図示せず)が設けられている。
【0022】
また、放電加工機10は、形彫り放電加工アタッチメントとして細穴放電加工アタッチメント45を備えている。細穴放電加工アタッチメント45は、本体46と、該本体46の先端に形彫り電極としてパイプ状の棒状電極48を取り付ける電極ホルダ47とを有している。細穴放電加工アタッチメント45は、チャック44aを有したブラケット44を介して、上ヘッド12の側面に着脱可能に取り付けられる。細穴放電加工アタッチメント45において、電極ホルダ47の反対側には、チャック44aが係合する係合部(図示せず)が設けられている。本体46内には電極ホルダ47をZ軸方向に延びる中心軸線O′周りに旋回させる電極モータ(図示せず)が配設されていてもよい。細穴放電加工アタッチメント45を上ヘッド12に取り付けたとき、細穴放電加工アタッチメント45の中心軸線O′と、放電加工機10の中心軸線Oとは、距離dを以て離間している。バケット36は、その中心部が概ね中心軸線O′に一致するように配置されている。また、バケット36は、落下する中子34を受容可能な大きさを有している。
【0023】
着脱可能な細穴放電加工アタッチメントに代えて、細穴放電加工ユニットが上下進退可能に常設され、ワイヤ放電加工中は上昇して退避しており、未切断部分を58を除去するときに、細穴放電加工ユニットを下降させる構成にすることもでできる。
【0024】
距離dは、中子34が外周部分32から完全に分離され、中子34が凹空間28a内に落下したときに、中子34が、下ガイド20、下ヘッド18、支持アーム16等に衝突することなく、バケット36内に落下できる距離である。これにより、落下する中子34によって下ガイド20、下ヘッド18、支持アーム16等が損傷することが防止される。つまり、距離dは、中子34が、下ガイド20、下ヘッド18、支持アーム16等に対してZ軸方向に重なり合わない位置を提供する距離である。
【0025】
ブラケット44には、また、コネクタ50が配設されている。細穴放電加工アタッチメント45をブラケット44に取り付けると、細穴放電加工アタッチメント45のコネクタ52がブラケット44のコネクタ50に結合される。コネクタ50、52が結合することによって、細穴放電加工アタッチメント45は、電極モータのためのモータ電源(図示せず)、細穴放電加工用の放電電源(図示せず)、棒状電極48内に加工液を供給する加工液供給源(図示せず)に接続される。また、細穴放電加工アタッチメント45に代えて、
図13に示す測定プローブアタッチメント70を取り付ける場合には、コネクタ50、52が結合することによって、測定プローブアタッチメント70が放電加工機10の制御装置に接続されるようにしてもよい。
【0026】
以下、
図3を参照して、放電加工機10の作用(放電加工方法)を説明する。
本発明のワイヤ放電加工方法を適用可能なワーク30は、例えば、
図3の上段に示すように、板状の部材より形成されている。特に、本実施形態では、ワーク30は、切り抜き線56に沿ってワイヤ放電加工を行い、矩形の中子34を切り取ることによって、放電加工機10が製造すべき製品として矩形の環状部材を製作するようになっている。ワーク30は、テーブル28に取り付けたときに、Z軸方向に貫通するイニシャルホール54を有している。イニシャルホール54はワイヤ放電加工の開始点となる。なお、イニシャルホール54は、細穴放電加工アタッチメント45で加工できる。
【0027】
放電加工の開始前に、ワーク30がパレット100を介してテーブル28に取り付けられてもよい。ワイヤ電極22が、上ガイド14からイニシャルホール54に挿通され、下ガイド20、下ヘッド18、支持アーム16を通ってワイヤ回収装置まで送られる。イニシャルホール54にワイヤ電極22が挿通される。次いで、加工槽38が上動し、加工液供給源(図示せず)から加工槽38内に加工液42が供給される。加工液42は、テーブル28に取り付けられたワーク30が加工液42に浸漬される高さまで加工槽38に供給される。
【0028】
次いで、ワイヤ電極22とテーブル28との間に加工用電源からパルス電圧が印加される。これによりワーク30とワイヤ電極22との間に放電が発生し、放電によってワーク30の材料が削り取られる。パルス電圧が印加される間、ワイヤ電極22は、
図3の上段に図示するように、加工開始点であるイニシャルホール54から加工終点57まで、切り抜き線56に沿ってワーク30に対して相対移動するように、X軸、Y軸、Z軸の送り装置が制御される。切り抜き線56は開いた線であり、ワイヤ放電加工が終了したときに、中子34と、外周部分32との間には未切断部分58が残る。未切断部分58によって、中子34は外周部分32に連結されている。
【0029】
ワイヤ電極22が加工終点57に到達すると、ワイヤ電極22の供給が停止されると共に、ワイヤ電極22はワイヤ切断機(図示せず)によって切断される。加工に使用したワイヤ電極22の部分はワイヤ回収装置に回収される。次いで、上ヘッド12および下ヘッド18がワーク30に対してX軸、Y軸に沿って送られ、棒状電極48が、Z軸方向に未切断部分58の真上に配置される。
【0030】
次いで、
図3の中段に示すように、棒状電極48とテーブル28との間に所定の加工電圧を印加しながら、上ヘッド12をZ軸に沿って下動させると、棒状電極48によって細穴60が形成され、未切断部分58が除去される。未切断部分58が除去されると、ワーク30は、中子34と、該中子34を包囲する外周部分32とに分割される。中子34は、
図3の下段に示すように、外周部分32から切り離されバケット36内に落下する。バケット36内に落下した中子34は、例えば、テーブル28の側壁に形成された開口部28bからテーブル28の外部に排出することができる。
【0031】
次に、
図4を参照して、本発明の放電加工方法を実施可能な放電加工システムを説明する。
図1に示す放電加工機10は、ワイヤ放電加工と細穴放電加工とを行うことが可能なハイブリッド型の放電加工機である。然しながら、本発明の放電加工方法は、ワイヤ放電加工の専用機と、細穴放電加工の専用機とを組み合わせた放電加工システムによっても実施可能である。
【0032】
図4において、放電加工システム200は、所定の軸線方向、例えばX軸方向に配設された、ワイヤ放電加工機300と、形彫り放電加工機としての細穴放電加工機400と、少なくとも1つの、
図4の例では3つのパレットステーション202、204、206と、ワイヤ放電加工機300、形彫り放電加工機としての細穴放電加工機400、パレットステーション202、204、206の間を移動するワーク搬送装置210とを備えている。放電加工システム200は、該放電加工システム200の全体を制御する制御装置を備えている。
【0033】
ワイヤ放電加工機300は、ワイヤ放電加工専用機であって、工場の床面に固定される基台となるベッド(図示せず)、ベッドの上面に固定されるテーブル312、テーブル312の上方に配置される上ヘッド302、上ヘッド302に保持されワイヤ電極22を案内する上ガイド304、上ヘッド302に対面するように支持アーム306に取り付けられた下ヘッド308、下ヘッド308に保持されワイヤ電極22を案内する下ガイド310、テーブル312および下ヘッド308の四囲を包囲する加工槽314を主要な構成要素として具備している。下ヘッド308は、テーブル312が形成する凹空間312a内に配置されている。ワイヤ放電加工機300は、また、該ワイヤ放電加工機300の動作を制御する制御装置(図示せず)を備えている。ワイヤ電極22は、上下ガイド304、308によって、ワイヤ放電加工機300の中心軸線O(Z軸方向)に沿って延在するように案内される。つまり、上下ガイド304、308によって規定される中心軸線Oがワイヤ電極22の走行経路となる。
【0034】
加工槽314は、Z軸方向に上下動可能に設けられている。放電加工中は、
図5に示すように上動して、テーブル312に取り付けられたワーク30が加工槽314内に貯留された加工液42中に浸漬されるようにする。放電加工が終了して、ワーク30をテーブル312から取り外す際には、加工液42を排出後に下動して、ワーク30の取り外し作業を可能とする。
図1の放電加工機10と同様に、ベッドの側面にはシール部材(図示せず)が配設されており、加工槽314とベッドの間から加工液42が漏洩しないようになっている。
【0035】
細穴放電加工機400は、形彫り電極としての中空の棒状電極404を保持する形彫り電極ヘッド402と、ワーク30を取り付けるテーブル408と、テーブル408の四囲を包囲する加工槽406を主要な構成要素として具備している。電極ヘッド402は、棒状電極404がZ軸方向の中心軸線O′に沿って延在するように保持する。本例では、
図1の実施形態とは異なり、細穴放電加工機400において未切断部分58を除去する際に、ワーク30が、ワイヤ放電加工機300の下ガイド310、下ヘッド308、支持アーム306等に対してZ軸方向に重なり合うことはない。
【0036】
テーブル408は、工場の床面に固定される基台となるベッド(図示せず)に取り付けられている。細穴放電加工機400のテーブル408は、ワイヤ放電加工機300のテーブル312の凹空間312aのような凹空間はなく、平坦な上面408aを有している。上面408aにパレット取付台110′が固定される。本例では、パレット取付台は、
図4に示した矩形のフレーム状の部材ではなく、矩形の棒状または板状の部材から形成され、上面にチャック112が取り付けられている。
【0037】
加工槽406は、Z軸方向に上下動可能に設けられている。放電加工中は、
図6に示すように上動して、テーブル408に取り付けられたワーク30が加工槽406内に貯留された加工液42中に浸漬されるようにする。放電加工が終了して、ワーク30をテーブル408から取り外す際には、
図7、9に示すように、加工液42を排出後に下動して、ワーク30の取り外し作業を可能とする。
図1の放電加工機10と同様に、ベッドの側面にはシール部材(図示せず)が配設されており、加工槽406とベッドの間から加工液42が漏洩しないようになっている。
【0038】
ワーク搬送装置210は搬送台車212を有している。搬送台車212は、矢印Cで示すように、放電加工システム200の前記所定の軸線方向、
図4の例では、X軸方向に延設された軌道208に沿って往復移動可能となっている。また、搬送台車212には、軌道208に対して垂直な水平方向、
図4の例ではY軸方向に進退可能(矢印A)、かつ、Z軸方向に上下動可能に設けられた一対の搬送アーム214が設けられている。搬送アーム214の先端には、パレット100の係合部108に係合可能なフォーク部214aが設けられている。ワーク搬送装置210は、搬送台車212の動作および搬送アーム214の動作を制御する制御装置(図示せず)を備えている。ワーク搬送装置210は、無軌道車や多関節ロボット等であってもよい。
【0039】
放電加工システム200の制御装置をワイヤ放電加工機300の制御装置、細穴放電加工機400の制御装置およびワーク搬送装置210の制御装置に接続し、ワイヤ放電加工機300、細穴放電加工機400およびワーク搬送装置210の動作を協調制御するようにできる。
【0040】
パレットステーション202、204、206は、未加工ワークを取り付けたパレット100を載置して、ワーク搬送装置210が取り上げたり、加工済ワークを取り付けたパレット100をワーク搬送装置210から受け取ることができる。パレットステーション202、204、206へ搬送された加工済ワークは、オペレータによって、パレット100から取り外され、未加工ワークが空いたパレット100に取り付けられるようにできる。
【0041】
以下、
図5~
図10を参照して、放電加工システム200の作用(放電加工方法)を説明する。
【0042】
以下の説明では、放電加工システム200は、
図3に示したような板状のワーク30が用いられ、矩形の中子34を切り取ることによって、放電加工システム200が製造すべき製品として矩形の環状部材を製作するようになっている。
【0043】
放電加工の開始前に、搬送台車212は、軌道208に沿って移動し、未加工ワークを取り付けたパレット100が載置されているパレットステーション202、204、206の1つの前に停止する。一対の搬送アーム214をZ軸方向に移動させて、その先端のフォーク部214aがパレット100の係合部108に係合可能な高さに位置決めする。搬送アーム214をY軸方向に前進させ、フォーク部214aをパレット100の係合部108に係合させる。搬送アーム214を更にZ軸方向に上動させて、パレット100をパレットステーション202、204、206から上方に離反させる。搬送アーム214を搬送台車212側にY軸方向に後退させる。
【0044】
次いで、搬送台車212は、ワイヤ放電加工機300の前の所定位置へ軌道208に沿って移動する。搬送アーム214がワイヤ放電加工機300へ向けてY軸方向に前進する。パレット100が、テーブル312に固定されているパレット取付台110′の上方に配置されると、搬送アーム214がZ軸方向に下動して、パレット100がパレット取付台110′に載置される。パレット取付台110′のチャック112がパレット100の下面に設けられているグリップ部と係合し、該グリップ部をクランプする。次いで、搬送アーム214が、搬送台車212へ向けてY軸方向に後退する。こうして、パレット100に取り付けられたワーク30が、ワーク搬送装置210によってパレットステーション202、204、206の1つから、ワイヤ放電加工機300へ搬送され、パレット取付台110′を介してテーブル312に固定される。ここでは詳述しなが、最初に未加工ワーク30を細穴放電加工機400に搬送して、イニシャルホール54が加工される。
【0045】
ワイヤ電極22が、上ガイド304からイニシャルホール54に挿通され、下ガイド310、下ガイド310を支持する支持アーム306を通ってワイヤ回収装置まで送られる。次いで、加工槽314が上動し、加工液供給源(図示せず)から加工槽314内に加工液42が供給される。加工液42は、ワーク30が加工液42に浸漬される高さまで加工槽314に供給される(
図5)。ワイヤ電極22とテーブル312との間に加工用電源からパルス電圧が印加されワーク30とワイヤ電極22との間に発生する放電によってワーク30の材料が削り取られる。パルス電圧が印加される間、
図3の場合と同様に、ワイヤ電極22が、加工開始点であるイニシャルホール54から加工終点57まで、切り抜き線56に沿ってワーク30に対して相対移動するように、X軸、Y軸、Z軸の送り装置が制御される。
【0046】
ワイヤ電極22が加工終点57に到達すると、ワイヤ電極22の供給が停止されると共に、ワイヤ電極22はワイヤ切断機(図示せず)によって切断される。加工に使用したワイヤ電極22の部分はワイヤ回収装置に回収される。ワイヤ放電加工が終了したときに、中子34と、外周部分32との間には未切断部分58が残る。1つの未切断部分58によって、中子34は外周部分32に連結されている。
【0047】
こうして、ワイヤ放電加工機300における加工が終了すると、空の搬送台車212がワイヤ放電加工機300の前の所定位置に移動し、搬送アーム214がワイヤ放電加工機300へ向けてY軸方向に前進し、先端のフォーク部214aがパレット100の係合部108に係合する。次いで、パレット取付台110′のチャック112がアンクランプした後に搬送アーム214がZ軸方向に上動し、パレット100がパレット取付台110′から離反する。搬送アーム214が搬送台車212へ向けてY軸方向に後退し、ワイヤ放電加工機300における加工を終了したワーク30がワイヤ放電加工機300から取り出される。
【0048】
次いで、搬送台車212は、細穴放電加工機400の前の所定位置に移動する。搬送アーム214が細穴放電加工機400へ向けてY軸方向に前進する。パレット100が、テーブル408に固定されているパレット取付台110′の上方に配置されると、搬送アーム214がZ軸方向に下動して、パレット100がパレット取付台110′に載置され、チャック112がパレット100のグリップ部と係合し、該グリップ部をクランプする。次いで、搬送アーム214が、搬送台車212へ向けてY軸方向に後退する。こうして、ワイヤ放電加工機300により加工されたワーク30が、ワイヤ放電加工機300から細穴放電加工機400へ搬送され、パレット取付台110′を介してテーブル408に固定される。
【0049】
次いで、棒状電極404とワーク30(テーブル408)との間に所定の加工電圧を印加しながら、形彫り電極ヘッド402をZ軸に沿って下動させると、棒状電極404とワーク30との間に生成される放電によって、未切断部分58が除去される。未切断部分58が除去されると、中子34は、
図6に示すように、外周部分32から切り離されテーブル408の上面408aに落下する。本例によれば、落下距離が短いので重い中子や、異形状のアンバランスな形状の中子が生じる場合でも問題を生じることがない。なお、棒状電極404が消耗したときは、自動電極交換装置(図示せず)により新しい棒状電極404と交換される。
【0050】
細穴放電加工機400が元来有している棒状電極404とワーク30との接触検知機能を利用して、中子34が外周部分32から完全に切り離されたかを自動的に検出する。その検出方法は、中子34がテーブル408の上面408aに落下して生じる外周部分32の上面から中子34の上面までの段差空間内に、棒状電極404の先端が位置するまで上ヘッド402を下降させ、そのとき接触を検知しなければ、中子34が切り離されたと確認するようにできる。
【0051】
次いで、形彫り電極ヘッド402がZ軸方向に上動してテーブル408およびパレット100から離反する。形彫り電極ヘッド402が上動した後、ワーク搬送装置210の搬送アーム214が細穴放電加工機400へ向けてY軸方向に前進し、フォーク部214aがパレット100の係合部108に係合する。パレット取付台110′のチャック112がアンクランプした後、
図7に示すように、搬送アーム214がZ軸方向に上動し、パレット100がパレット取付台110′から離反する。搬送アーム214が搬送台車212へ向けてY軸方向に後退し、外周部分32がパレット100と共に細穴放電加工機400から取り出される。分離された中子34は、テーブル408の上面に残される(
図7、9参照)。
【0052】
細穴放電加工機400おいて中子34と分離された外周部分32は、必要に応じて、搬送台車212によって再度ワイヤ放電加工機300に搬送され、細穴放電加工された部分の仕上げ加工が施される。その後、加工の終ったワーク30は、パレットステーション202、204、206のうち空いているパレットステーションにパレット100と共に搬送される。外周部分32は、例えば、オペレータによって、或いは、専用の取外装置(図示せず)によってパレット100から取り外すようにできる。
【0053】
次いで、テーブル408の上面に沿って移動可能に設けられたスイーパ412が、
図8において矢印Eで示すように、棒状電極404による放電加工が行われる加工領域を横断してY軸方向に前進し、テーブル408の上面408aに載置されている中子34を、テーブル408に形成されたポケット部410内に落下させる(
図10、11参照)、または可動範囲外へ移動させる。その後、スイーパ412は、
図10、11に示すように、次工程のために加工領域外へY軸方向に後退する。スイーパ412は、自動電極交換機能と同様の機構を用いて、必要なときにX軸スライダに装着され、X軸やY軸の軸送り動作で駆動させることもできる。
【0054】
既述の実施形態では、未切断部分58は細穴放電加工によって除去されていたが、本発明はこれに限定されず、例えば、
図12に示すようなリブ電極60による形彫放電加工によって除去してもよい。リブ電極60は、
図1の放電加工機10の場合、細穴放電加工アタッチメント45に代えてリブ電極60を取り付けた形彫放電加工アタッチメント(図示せず)を介して上ヘッド12の側面に取り付けることができる。或いは、
図4の放電加工システム200では、細穴放電加工機400に代えて、リブ電極60を有した形彫放電加工機(図示せず)を設置するようにできる。電極は、勾配を有したリブ電極に限らず、棒状、薄板状等の柱状のものでもよく、要は、未切断部分58を放電加工によって除去できる電極であればよい。
【0055】
また、既述したように、細穴放電加工アタッチメント45に代えて測定プローブアタッチメント70を取り付けることができる。測定プローブアタッチメント70は、本体72の側面にコネクタ50に着脱可能に結合されるコネクタ74と、本体72先端に測定プローブ76とを有している。上ヘッド12の側面に取り付けた測定プローブアタッチメント70を、放電加工機10のX軸、Y軸、Z軸の送り装置によって、ワーク30に対して移動させ、測定プローブ76の先端78がワーク30の表面に接触したときの座標を、放電加工機10のX軸、Y軸、Z軸のデジタルスケールから読み取り、ワーク30の寸法を測定するようにできる。なお、細穴放電加工アタッチメント45と、測定プローブアタッチメント70は、ロボットハンド(図示せず)等のアタッチメント交換装置によって自動で行うようにできる。
【0056】
更に、放電加工機10または放電加工システム200が製造すべき製品として、矩形の環状部材を製作する例を説明したが、本発明は、これに限定されず、中子を生じるあらゆる放電加工に適用することができる。
【0057】
既述の実施形態では、ワイヤ電極22の走行経路を規定する中心軸線Oは、Z軸方向に延びていたが、本発明は、これに限定されず、Z軸に対して傾斜していてもよい。つまり、上ガイド14と下ガイド20は、互いにZ軸方向に位置合わせされていなくともよい。この場合、細穴放電加工アタッチメント45の中心軸線O′も走行経路を規定する中心軸線Oに平行となるように傾斜させ、かつ、棒状電極48も傾斜した中心軸線O′に沿ってワーク30に対して相対移動させるようにできる。また、加工槽は昇降式で説明したが、扉開閉式でもよい。
【0058】
本発明は、ワイヤ放電加工で中子の未切断部分を切り落とすとき、中子の下方にある下ヘッドを損傷させることなく加工する方法として、棒状電極による細穴放電加工や、リブ電極による形彫り放電加工などの非接触加工である放電加工を用いている。これにより、中子の切り落し加工で大きな反力が作用して、ワークや機械にまで損傷が及ぶことはなくなる。また、細穴放電加工や形彫り放電加工の電源装置は、ワイヤ放電加工の電源装置と共用することができ、機械全体を複雑化しなくて済む。また、細穴放電加工アタッチメントに代えてレーザ加工アタッチメントによって、或いは放電加工システムの1つの加工機としてレーザ加工機を含む場合には、未切断部分をレーザ加工で切り落すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 放電加工機
22 ワイヤ電極
30 ワーク
32 外周部分
34 中子
36 バケット
45 細穴放電加工アタッチメント
58 未切断部分
70 測定プローブアタッチメント
100 パレット
200 放電加工システム
210 ワーク搬送装置
300 ワイヤ放電加工機
400 細穴放電加工機