(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】タンパク質の特徴を改善する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20220722BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220722BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220722BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220722BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220722BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220722BHJP
C40B 40/10 20060101ALN20220722BHJP
C40B 40/08 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
C12N15/10 220Z
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
G01N33/50 Z
G01N33/53 N
C12P21/08
C40B40/10
C40B40/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021001276
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2017556995の分割
【原出願日】2016-05-16
【審査請求日】2021-01-07
(32)【優先日】2015-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517374258
【氏名又は名称】フル スペクトラム ジェネティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ビー. デュブリッジ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/074029(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0160178(US,A1)
【文献】特表2000-500981(JP,A)
【文献】JIRHOLT, P. et al.,Exploiting sequence space: shuffling in vivo formed complementarity determining regions into a master framework,Gene,1998年07月30日,Vol.215,pp.471-476
【文献】SWERS, J.S. et al.,Integrated mimicry of B cell Antibody mutagenesis using Yeast homologous recombination,Molecular Biotechnology,2010年07月20日,Vol.47/No.1,pp.57-69
【文献】巌倉正寛,進化分子工学を構成する技術 1)変異発生技術,化学と生物,日本,1999年,Vol.37/No.11,pp.742-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
G01N 33/48-33/98
C40B 20/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の選択された物質との交差反応性が低下されるように、タンパク質のタンパク質結合部位を改善する方法であって、
タンパク質結合部位の複数のドメインのそれぞれについて、個別の単一置換ライブラリーを合成して、複数の個別の単一置換ライブラリーを与えるステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーの
一部のヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有し、前記タンパク質結合部位の複数のドメインが1~250アミノ酸位置で個々に置換される、ステップと、
各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、
標的分子に結合する事前候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーのメンバーを選択して、前記タンパク質のドメイン毎に選択されたライブラリーを形成するステップと、
前記1つまたは複数の選択された物質に結合する候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーの選択されたメンバーを枯渇させるステップと、
PCRにおいて、前記選択され、かつ枯渇されたライブラリーのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、
前記シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、
結合条件下の反応混合物中で前記候補タンパク質を標的分子と一緒にインキュベートするステップと、
候補タンパク質の画分が結合したまま残留するまで前記標的分子を洗浄するステップと、
前記標的分子に結合したまま残留する候補タンパク質をコードする、前記シャッフルドライブラリーのメンバーを選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記タンパク質結合部位が、タンパク質ディスプレイシステムにより発現される抗体または抗体断片のタンパク質結合部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質結合部位の前記複数のドメインが、10~250アミノ酸位置で個々に置換される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のドメインが、3~30の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の選択された物質との交差反応性が増加されるように、タンパク質のタンパク質結合部位を改善する方法であって、
タンパク質結合部位の複数のドメインのそれぞれについて、個別の単一置換ライブラリーを合成して、複数の個別の単一置換ライブラリーを与えるステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーのヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有し、前記タンパク質結合部位の複数のドメインが1~250アミノ酸位置で個々に置換される、ステップと、
各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、
標的分子に結合する事前候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーのメンバーを選択して、前記タンパク質のドメイン毎に選択されたライブラリーを形成するステップと、
前記1つまたは複数の選択された物質に結合する候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーの前のステップの選択されたメンバーから選択するステップと、
PCRにおいて、
前のステップの前記選択され
たメンバーのうちのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、
前記シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、
結合条件下の反応混合物中で前記候補タンパク質を標的分子と一緒にインキュベートするステップと、
候補タンパク質の画分が結合したまま残留するまで前記標的分子を洗浄するステップと、
前記標的分子に結合したまま残留する候補タンパク質をコードする、前記シャッフルドライブラリーのメンバーを選択するステップと
を含む方法。
【請求項6】
前記タンパク質結合部位が、タンパク質ディスプレイシステムにより発現される抗体または抗体断片のタンパク質結合部位である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質結合部位の前記複数のドメインが、10~250アミノ酸位置で個々に置換される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記複数のドメインが、3~30の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
タンパク質のタンパク質結合部位を改善する方法であって、
タンパク質結合部位の複数のドメインのそれぞれについて、個別の単一置換ライブラリーを合成して、複数の個別の単一置換ライブラリーを与えるステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーのヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有し、前記タンパク質結合部位の複数のドメインが1~250アミノ酸位置で個々に置換される、ステップと、
各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、
標的分子に結合する事前候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーのメンバーを選択して、前記タンパク質のドメイン毎に選択されたライブラリーを形成するステップであって、各単一置換ライブラリーの前記事前候補タンパク質が、熱、低pH、高pH、およびプロテアーゼ活性からなる群から選択される化学的または物理的条件で処理されている、ステップと、
PCRにおいて、前記選択されたライブラリーのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、
前記シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、
結合条件下の反応混合物中で前記候補タンパク質を標的分子と一緒にインキュベートするステップと、
候補タンパク質の画分が結合したまま残留するまで前記標的分子を洗浄するステップと、
前記標的分子に結合したまま残留する候補タンパク質をコードする、前記シャッフルドライブラリーのメンバーを選択するステップと
を含む方法。
【請求項10】
前記事前候補タンパク質の前記熱処理は、前記事前候補タンパク質を40~70℃の範囲の温度に暴露するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記事前候補タンパク質の前記低pH処理は、前記事前候補タンパク質を1~4の範囲のpHに暴露するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記事前候補タンパク質の前記高pH処理は、前記事前候補タンパク質を9~13の範囲のpHに暴露するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記事前候補タンパク質の前記プロテアーゼ活性処理は、前記事前候補タンパク質を、血清プロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、およびカテプシンからなる群から選択されるプロテアーゼに暴露するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
親和性の改良、安定性の増加、交差反応性の低下または増加、より高い溶解度等を含む、性能が改善した宿主を有する新世代の治療用のタンパク質および抗体が、工学的に作出され、また開発されている、例えばIgawaら、mAbs、3巻(3号):243~252頁(2011年);Bostromら、Science、323巻:1610~1614頁(2009年)。そのような改善を生み出す重要なアプローチとして、既存の治療用タンパク質または治療候補から変異体ライブラリーを構築し、次に様々なアッセイによって、より良好な性能を有するタンパク質が見つかるまで、ライブラリーメンバーをスクリーニングすることが挙げられる。そのようなライブラリーは一般的に非常に大きいので、ハイスループットツールが利用可能でなければ、そのようなスクリーニングは費用も、また時間もかかるおそれがある。特に、これを目的とするハイスループット技術が不足しているため、候補化合物の標的特異性および非特異的結合特性を効率的に評価するのが困難であった。
こうしたことから、複雑性が抑えられた代表的なライブラリーを構築するための効率的な技術が利用可能となれば、そのような技術によって候補結合化合物の特性を迅速に評価/選択することが可能となり、タンパク質結合反応の理解を必要とする努力、例えばタンパク質や抗体のエンジニアリング等が進歩するであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
【文献】Igawaら、mAbs、3巻(3号):243~252頁(2011年)
【文献】Bostromら、Science、323巻:1610~1614頁(2009年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明の態様および実施形態を、いくつかの実施事例および適用において例示し、そのいくつかを以下に、本明細書全体を通じて要約する。
【0004】
1つの態様では、本発明は、タンパク質の1つまたは複数の事前に決定された特徴を改善する方法であって、(a)タンパク質の複数のドメインのそれぞれについて、単一置換ライブラリーを合成するステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーのヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有する、ステップと、(b)各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、(c)1つまたは複数の事前に決定された特徴において改善を示す事前候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーのメンバーを選択して、タンパク質のドメイン毎に選択されたライブラリーを形成するステップと、(d)PCRにおいて、選択されたライブラリーのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、(e)シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、(f)1つまたは複数の事前に決定された特徴の少なくとも1つにおいて改善を示す候補タンパク質をコードする、シャッフルドライブラリーのメンバーを選択するステップを含む、方法を対象とする。いくつかの実施形態では、複数のドメインは、タンパク質の結合部位をカバーするかまたは含み、また1つまたは複数の事前に決定された特徴は、例えば抗体結合部位、酵素の基質結合部位等であり得る結合部位によるものか、またはそれと関連する。
【0005】
本発明のこれらの上記特徴的な態様および実施形態、ならびにその他の態様および実施形態を、いくつかの説明的な実施事例および適用において例示し、そのいくつかを図に示し、また下記の特許請求の範囲のセクションにおいて特徴づける。但し、上記要旨は、本発明の説明的な実施形態を逐一、または実施事例を網羅して記載するようには意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本発明の代表的な実施形態のワークフローを説明する図である。
【0007】
【
図2A】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2B】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2C】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2D】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2E】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2F】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【
図2G】
図2A~2Gは、メソテリンに対する結合親和性が改善した単鎖結合化合物SD1の変異体を生成する本発明の適用からのデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
本発明の実践法は、別途明示しない限り、従来技術および当技術分野の技能に属する有機化学、分子生物学(組換え技術を含む)、細胞生物学、および生化学の記述を採用し得る。そのような従来技術として、合成ポリヌクレオチドの調製、モノクロナール抗体、抗体ディスプレイシステム、核酸配列決定法、および分析法等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。適する技術の具体的な説明は、本明細書の下記の実施例を参照することにより得られるが、但しその他の同等の従来手順も、もちろん利用可能である。そのような従来技術および説明は、標準的な研究室マニュアル、例えばGenome Analysis: A Laboratory Manual Series (I~IV巻);PCR Primer: A Laboratory Manual;Phage Display: A Laboratory Manual;およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual(すべてCold Spring Harbor Laboratory Press刊);Sidhu編、Phage Display in Biotechnology and Drug Discovery (CRC Press、2005年);LutzおよびBornscheuer編、Protein Engineering Handbook (Wiley-VCH、2009年);Hermanson、Bioconjugate Techniques、第2版(Academic Press、2008年)等に見出され得る。
【0009】
1つの態様では、本発明は、1つまたは複数の特性、例えば、参照結合化合物であり得るタンパク質の親和性、安定性、耐熱性、交差反応性等を改善する方法を対象とする。いくつかの実施形態では、複数の単一置換ライブラリーが提供されるが、そのそれぞれは、単一置換ライブラリーの各メンバーが、その対応するドメインまたはアミノ酸セグメント内で、単一のアミノ酸変化のみをコードするように、タンパク質または参照結合化合物の異なるドメインまたはアミノ酸セグメントに対応する。(こうすれば、大型のタンパク質またはタンパク質結合部位における潜在的な置換のすべてが、いくつかの小規模なライブラリーによりプローブ可能となる)。いくつかの実施形態では、複数のドメインが、タンパク質または参照結合化合物の連続的なアミノ酸配列を形成するかまたはカバーする。異なる単一置換ライブラリーのヌクレオチド配列は、少なくとも1つのその他の単一置換ライブラリーのヌクレオチド配列と重複する。いくつかの実施形態では、複数の単一置換ライブラリーが、すべてのメンバーが、隣接したドメインをコードする各単一置換ライブラリーのすべてのメンバーと重複するように設計される。3つのアミノ酸(下記カッコ内のGlu-Lys-Thr)のドメインの変異体をコードする代表的な単一置換ライブラリーは、下記の形態を有し得る:
参照タンパク質(配列番号1):
… -Gln-Ala-Ala-Phe-[Glu-Lys-Thr]-Ser-Ala-His-Lys-Met- …
参照タンパク質の核酸配列(配列番号2):
… -CAA-GCA-GCA-TTC-[GAG-AAA-ACG]-TCA-GCC-CAC-AAG-ATG- …
12-ヌクレオチドの重複を有するGlu-Lys-Thrドメインに関する単一置換ライブラリーのメンバー(配列番号3、配列番号4、配列番号5):
CAA-GCA-GCA-TTC-[NNN-AAA-ACG]-TCA-GCC-CAC-AAG
CAA-GCA-GCA-TTC-[GAG-NNN-ACG]-TCA-GCC-CAC-AAG
CAA-GCA-GCA-TTC-[GAG-AAA-NNN]-TCA-GCC-CAC-AAG
この場合、「NNN」は、以下に記載するように「ワイルドカード」コドンである。
【0010】
そのような単一置換ライブラリーから発現したタンパク質、例えば結合化合物は、個別に選択され、参照タンパク質または参照結合化合物の特性と少なくとも同程度に良好な特性(または1つもしくは複数の特徴)を有する変異体のサブセットが各ライブラリー内で取得され、またその得られたライブラリーのサイズは減少している。(すなわち、選択されたセットの結合化合物をコードする核酸の数は、オリジナルの単一置換ライブラリーのメンバーをコードする核酸の数より小さい)。そのような特性(または特徴)として、標的化合物に対する親和性、様々な条件、例えば熱、高または低pH、酵素的分解に対する安定性、その他のタンパク質との交差反応性等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。各単一置換ライブラリーに由来する選択された化合物は、本明細書では、「事前候補化合物」または「事前候補タンパク質」として交換可能に呼ばれる。タンパク質の特性または特徴に関して、「少なくとも同程度に良好な」とは、タンパク質の特性または特徴が値(例えば、活性が事前に決定された量だけ変化する(例えば、低下する)温度またはpH(等)、標的化合物に対する親和性等)で表され得る場合には常に、事前候補タンパク質のそのような特性または特徴の値が、参照タンパク質の対応する値を上回るまたは下回ることを意味する。検討対象の特性または特徴に応じて、本方法のいくつかの実施事例において、参照タンパク質の値より大きな値を有する事前候補タンパク質が選択され、またその他の実施形態では、参照タンパク質の値よりも小さい値を有する事前候補タンパク質が選択される。
【0011】
別の単一置換ライブラリーに由来する、事前候補化合物をコードする核酸配列が、次にPCRにおいてシャッフルされてシャッフルドライブラリーが生成する、例えばStemmer、米国特許第6,444,468号;同第6,132,970号;同第5,830,721号;Stemmer、Proc. Natl. Acad. Sci.、91巻:10747~10751頁(1994年);Wuら、米国特許出願公開第2006/0228350号;PCRに基づく遺伝子シャッフリングに関するそれらの教示について、上記参考資料のすべてが、参照として本明細書に組み込まれる。すなわち、別の単一置換ライブラリーと関連して、用語「シャッフリング」が用いられる場合、それはそのようなライブラリーがPCR混合において一つにまとめられ、そして別の単一置換ライブラリーのメンバーが、得られたPCR産物に連結するようにPCRが実施されることを意味する。上記のように、異なる単一置換ライブラリーのメンバーのストランドが相互にアニーリング可能であり、またPCRにおいて伸長可能であるように、少なくとも一対の単一置換ライブラリーの配列が重複するのが望ましい。換言すれば、少なくとも一対の単一置換ライブラリーの配列が、互いにアニーリング可能であり、そしてPCRにおいて、互いにプライマーおよびテンプレートとして機能するのが望ましい。いくつかの実施形態では、複数の単一置換ライブラリーのそれぞれがメンバーを有し、そのメンバーの配列が、隣接する単一置換ライブラリーのメンバーと重複するのが望ましい。重複の量または程度は、幅広く変動し得る。いくつかの実施形態では、重複の程度は、例えば定義のセクションに記載するような、代表的なプライマー配列の長さと同一である。その他の実施形態では、重複の程度は、6~100ヌクレオチド、または6~40ヌクレオチドで変化し得る。
【0012】
図1は、本発明の1つの実施形態のワークフローについて、その模式図を提示する。事前候補化合物のライブラリーは、単一置換ライブラリーから生成され、また標的タンパク質(単数または複数)(100)との結合について選択され、その後、事前候補ライブラリーはシャッフルされて(102)、候補化合物をコードする核酸のコンビナトリアルライブラリーが生成され、次に好都合な発現ベクター、例えばファージミド発現系等にクローン化される(104)。候補化合物を発現するファージ(105)は、次に所望の特性、例えば標的分子(108)に対する結合親和性等を改善するために、1回または複数回のラウンドの選択(106)を受ける。標的分子は、ウェルもしくは
図1に示すようなその他の反応容器の表面に吸着し、さもなければ付着し得るか、または標的分子は、結合部分、例えばビオチン(110)等により誘導体化され得るが、それは、候補結合化合物と共にインキュベーションした後、洗浄用のビーズ、例えばマグネットビーズ等に結合した相補的な部分、例えばストレプトアビジン等により捕捉され得る。目的の1つの特定の選択法では、標的分子から解離する速度が非常に低い候補化合物のみが選択されるように、候補結合化合物は、延長した洗浄ステップ(112)を受ける。そのような実施形態の代表的な洗浄時間は、少なくとも8時間;またはその他の実施形態では、少なくとも24時間;またはその他の実施形態では、少なくとも48時間;またはその他の実施形態では、少なくとも72時間である。その他の実施形態では、洗浄ステップの期間は、標的に結合したまま残留する候補結合化合物の割合により決定され得る。すなわち、結合した化合物は、結合化合物の50パーセントが結合したまま残留するまで、または結合化合物の10パーセントが結合したまま残留するまで、または結合化合物の1パーセントが結合したまま残留するまで、長時間(または実施事例に応じて多数回)洗浄条件に供され得る。あるいは、洗浄期間(または実施事例に応じて回数)は、標的から溶出した結合化合物の割合と関連して決定され得る。選択後の単離されたクローンは増幅され、そしてさらなる選択サイクル(115)に供されてもよいし、または、例えば配列決定法(116)により、また例えばELISA、表面プラズモン共鳴結合測定法、バイオレイヤー・インターフェロメトリー(例えば、Octet System、ForteBio、Menlo Park、CA)(118)等により結合親和性の比較測定を行うことにより、分析(114)されてもよい。
(物理的、化学的、および生物学的特徴を改善するための選択)
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、参照結合化合物と比較して、その親和性と同等の、またはそれより良好な親和性を有するが、選択された不安定化させる薬剤に対して優れた安定性を有する結合化合物を取得するのに利用可能である。いくつかの実施形態では、上記プロセスは、不安定化させる薬剤(熱、低pH、プロテアーゼ等)で最初に処理された単一置換ライブラリーのメンバーと共に実施してもよい。換言すれば、そのようなメンバーは、「ストレスを受けた」ライブラリーを形成する。「ストレスを受けた」後に結合親和性を失うそのようなライブラリーに由来する事前候補結合化合物は、不安定化する残基を含む。最終目標は、「ストレスを受けた」ライブラリー内の野生型と少なくとも同じように、またはそれより良好に抗原と結合する変異体を識別することにある。例えばシャッフリングして、そのような変異体から第2段階のコンビナトリアルライブラリーを構築し、そして第2ラウンドのストレス負荷とその後の結合選択を実施することにより、いくつかの安定化した変異を組み合わせると、得られた分子の安定性が劇的に増加すると期待される。いくつかの実施形態では、上記事項は、(a)事前候補結合化合物のライブラリー(または複数のライブラリー)を不安定化させる薬剤で処理して、処理された/ストレスを受けたライブラリー、または事前候補結合化合物のライブラリーを形成するステップであって、各事前候補結合化合物が、ヌクレオチド配列から構成されるか、またはそれによりコードされるステップと、(b)1つまたは複数のリガンドを処理されたライブラリー、または事前候補結合化合物のライブラリーと結合条件下で反応させるステップと、(c)1つまたは複数のライブラリーに由来する選択されたクローンをシャッフリングするステップと、(d)シャッフルドライブラリーに類似したストレスを加えるステップと、(e)候補結合化合物のサブセットから少なくとも1つの候補結合化合物を選択するステップであって、候補結合化合物の親和性が、選択された核酸によりコードされる結合化合物(すなわち、参照結合化合物)の親和性に等しいかまたはそれを上回り、これにより親和性を失わずに、参照結合化合物と比較して、安定性が増加した核酸によりコードされる結合化合物を提供するステップの各ステップにより、リガンドに対する親和性を失うことなく、選択された核酸によりコードされる結合化合物(すなわち、参照結合化合物)の安定性を増加させるために、本発明に基づき実施され得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、例えばファージディスプレイシステムにおいて発現される結合化合物の場合、サブセットにストレスを加える代表的な条件は、(i)ファージを、高温、例えば40~70℃の範囲で、例えば5~60分間の範囲で曝露するステップと、(ii)ファージを、低pHまたは高pH、例えば1~4または9~13の範囲のpHに、例えば5~60分間の範囲で曝露するステップと、(iii)ファージを、様々な活性の様々なプロテアーゼに、プロテアーゼおよび比活性に応じて、例えば15~30分間、または1~4時間、または1時間から24時間の範囲にわたり曝露するステップとを含む。安定性試験用の代表的なプロテアーゼとして、血清プロテアーゼ;トリプシン;キモトリプシン;カテプシンAおよびカテプシンBを含む、但しこれらに限定されないカテプシン;MMP-1、MMP-2、MMP-9等を含む、但しこれらに限定されないマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)等のエンドペプチダーゼが挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、標的抗原または分子に対する親和性が、参照結合化合物の親和性と同等であるか、またはそれより良好なであるが、参照結合化合物が特異的であるか、または特異的であるように設計された物質またはエピトープ以外の選択された物質、例えばリガンド、タンパク質、抗原等との交差反応性が低下した、またはいくつかの実施形態では交差反応性が増加した結合化合物を取得するのに利用可能である。後者に関しては、抗体がそのヒト標的および対応する動物モデルの標的、例えばマウスまたはサルの両方と反応した場合、候補治療抗体は、動物モデルを対象としてよりうまく試験され得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、第1のセット、例えば対応する動物モデルの標的またはその他のタンパク質ファミリーメンバー等に由来する1つまたは複数の選択された物質または化合物との交差反応性を増加させるのに採用され得る。その他の実施形態では、本発明の方法は、結合化合物、例えば候補治療抗体等の交差反応性を低下させて、例えば患者における潜在的副作用を抑えるために採用される。上記のように、候補化合物のサブセットが親和性に基づき識別される(すなわち、参照化合物の親和性と同等またはそれ以上の親和性を有する)。サブセットからの候補化合物は、次に1つもしくは複数の物質、または第2のセットの化合物(1つもしくは複数の結合反応内の(例えば、それぞれ異なるファージ濃度の)標的抗原以外)と組み合わせ可能であり、そしてそのような物質により枯渇しない候補結合化合物について選択され得る。物質の選択は幅広く変化し得るが、また組織、細胞系統、選択されたタンパク質、組織アレイ、プロテインマイクロアレイ、または交差反応し得る化合物のその他のマルチプレックスディスプレイを含み得る。そのような抗体交差反応アッセイ法を選択するためのガイダンスは、下記の代表的な参考資料:Michaudら、Nature Biotechnology、21巻(12号):1509~1512頁(2003年);Kijankaら、J. Immunol. Methods、340巻(2号):132~137頁(2009年);Predkiら、Human Antibodies、14巻(1~2号):7~15頁(2005年);Invitrogen Application Note on ProtoarrayTM Protein Microarray(2005年)等に見出され得る。そのような結合反応では、サブセットからのバインダーおよび非バインダーをコードする核酸は本発明に基づき決定され、これにより交差反応性の調節が求められた1つまたは複数の選択された物質について、サブセットの各候補結合化合物の有意な富化または枯渇が提供される。上記のように、交差反応性変異体の枯渇は、選択された物質との交差反応性がさらに低下した結合化合物を識別する第2段階のライブラリーを生成するのに利用可能である。
【0016】
いくつかの実施形態では、上記事項は、オリジナルのリガンドに対す親和性を失うことなく、選択されたセットの物質または化合物とのまたはそれに対する交差反応性が、参照結合化合物の交差反応性と比較して増加した1つまたは複数の結合化合物を識別するために、本発明に基づき実施され得る。そのような方法は、(a)タンパク質結合部位の複数のドメインのそれぞれについて、単一置換ライブラリーを合成するステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーのヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有する、ステップと、(b)各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、(c)オリジナルの結合標的[例えば、所望の交差反応標的(単数または複数)]とは異なる結合パートナーと結合する事前候補タンパク質をコードする各単一置換ライブラリーのメンバーを選択するステップと、(d)PCRにおいて、選択されたライブラリーのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、(e)シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、(f)シャッフルドライブラリーのメンバーを、オリジナルの結合パートナーと結合する候補タンパク質について1回または複数回選択するステップと、(g)所望の交差反応性の標的(単数または複数)と結合させるために、候補タンパク質をさらに選択し、これにより、オリジナルのリガンドに対する親和性を失うことなく、参照結合化合物と比較して、1つまたは複数の物質に対する交差反応性が増加している、核酸によりコードされる結合化合物(単数または複数)を提供するステップの各ステップにより実施され得る。同様に、方法は、ステップ(g)を、下記のステップ、すなわち望ましくない交差反応性化合物に結合する候補結合化合物のサブセットから、候補結合化合物を、1回または複数回枯渇させるステップに置き換えることにより、選択された交差反応性の物質(単数または複数)または化合物(単数または複数)またはエピトープ(単数または複数)に対する反応性が減少した結合化合物を取得するために実施され得る。
(タンパク質ディスプレイシステム)
【0017】
任意のペプチドまたはタンパク質ディスプレイシステムの特色として、1.発現したタンパク質とそのコード核酸の間の緊密な連結、および2.特定の生化学的活性(例えば、結合強度、酵素的作用に対する感受性等)に基づくタンパク質のアッセイおよび分離を可能にするフォーマットでのタンパク質の発現が挙げられる。この議論の目的に照らし、タンパク質ディスプレイシステムは、ディスプレイ単位当たりの提示タンパク質の数に基づき、多価または一価の2つの群に分けることができる。多価のディスプレイシステム、例えば酵母菌ディスプレイ等(下記の1および2を参照)、哺乳動物ディスプレイシステム(下記の3および4を参照)、および細菌ディスプレイシステム(5を参照)では、目的とする遺伝子(単数または複数)から、膜アンカーによって細胞表面に繋留されたタンパク質を発現させるが(多くの場合、多様な抗体ライブラリー)、それは通常のB細胞の原形質膜上に見出される天然型の膜表面免疫グロブリンと類似する。ライブラリークローンをコードするDNAは、各細胞が、ライブラリーから最大1つのクローンを受け取るように、目的とする細胞型に形質転換される。得られた細胞集団は、単一のタンパク質クローンについて、数十個~数万個のコピーをそれらの細胞表面上でそれぞれ発現する。この細胞集団は、次に限定量の蛍光でラベルされた標的抗原に曝露することができ、そして最良の結合クローンが大部分の抗原に結合し、そしてそれは蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて識別および単離され得る。残念ながら、多価ディスプレイシステムでの正確な定量は、同一細胞上に現れた提示分子の複数のコピー間で生ずる協調的結合効果(アビディティー)により複雑化している(6を参照)。この問題は、抗原が多価である(TNF、IgG)、または細胞表面に結合している(例えば、CD20、CD3、GPCR、イオンチャンネル等)場合、特に顕著である。
【0018】
ウイルスおよびファージに基づくタンパク質ディスプレイシステムも、その多くがやはり本質的に多価であるが、ディスプレイ単位は、FACS上で検出するには小さすぎ、したがって、正確な定量はさらにより困難となる。また、複数の結合化合物が同一のファージ/ウイルス粒子上で同時に発現する場合には、これらのシステムはアビディティー問題にも悩まされる。そのような条件下では、観察された結合強度が、2つの発現した結合化合物の複合した効果に起因するのか、または単一の非常に高い親和性の結合化合物の効果に起因するのか判断するのは困難である。そのようなアビディティー問題は、従来技術を用いて、宿主内での候補結合化合物の発現を制御することにより最低限に抑えられ得る。ファージディスプレイシステムがFab断片を発現する、例えば
図5に開示するような1つの実施形態では、Fab発現を制御する場合、Fabを発現するファージの割合が、約0.002~0.001の範囲、または約0.001~0.0005の範囲となるように調整される。
【0019】
一価のファージ(参考文献7)およびウイルス(参考文献8)システムは、リボソームディスプレイシステム(参考文献9および10)と同様に、提示分子について、ディスプレイ単位当たり平均≦1の分子を発現する。これらのシステムは、ライブラリー内のクローン毎に、対象となる結合部位の真の親和性の正確な測定を実現する。一般的に、これらのシステムは、結合要素の大型で多様なライブラリーを提示するのに使用される。小規模のクローン部分集団が、次にライブラリーのその他のメンバーと比較して、その標的抗原に結合する能力が高まっていることに基づき、このようなライブラリーから選択される。選択後(多くの場合、複数ラウンドの選択)、得られたクローンが単離および特徴づけされる(例えば、参照として本明細書に組み込まれている米国特許第7,662,557号で開示されるように)。これは、所与の標的抗原に対する最初のバインダーを、非常に大型の多様なライブラリーから単離するための優良な戦略であるが、タンパク質エンジニアリングを目的として、単一のタンパク質結合部位を全体にわたりスキャニングするための効率的な方法ではない。この最終目標を実現するために、あらゆる有望なエンジニアリング変更の効果について特徴づけを行い、次に親和性、安定性、交差反応性、製造収率等に基づき、最適化された結合部位を設計および構築したいと考えるであろう。したがって、対象となる結合部位の飽和した、単一置換ライブラリー/ライブラリー群のメンバーすべてについて、結合強度を分析するのが望ましい。上記タンパク質ディスプレイ技術は、参照として本明細書に組み込まれている下記の代表的な参考資料に開示されている:(1)Wittrup, KD; Current Opinion in Biotechnology 12巻:395~399頁(2001年)(細胞表面ディスプレイによるタンパク質エンジニアリング);(2)Lauren R. Pepper、Yong Ku Cho、Eric T. BoderおよびEric V. Shusta; Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening、11巻:127~134頁(2008年);(3)Yoshiko Akamatsu、Kanokwan Pakabunto、Zhenghai Xu、Yin Zhang、Naoya Tsurushita; Journal of Immunological Methods、327巻:40~52頁(2007年);(4)Chen Zhou、Frederick W. Jacobsen、Ling Cai、Qing ChenおよびWeyen David Shen; mAbs、2巻(5号):1~11頁(2010年);(5)Patrick S Daugherty; Current Opinion in Structural Biology、17巻:474~480頁(2007年)(細菌ディスプレイによるタンパク質エンジニアリング);(6)ClacksonおよびLowman (編)、Phage Display(2009年);(7)Hennie R Hoogenboom、Andrew D Griffiths、Kevin S Johnson、David J Chiswell、Peter HudsonおよびGreg Winter; Nucleic Acids Research、19巻(15号):4133~4137頁(1991年);(8)Francesca Gennari、Luciene Lopes、Els Verhoeyen、Wayne Marasco、Mary K. Collins; Human Gene Therapy、20巻:554~562頁(2009年);(9)Christiane Schaffitzel、Jozef Hanes、Lutz Jermutus、Andreas Pluckthun; Journal of Immunological Methods、231巻:119~135頁(1999年)(リボソームディスプレイ);(10)Robert A Irving、Gregory Coia、Anthony Roberts、Stewart D Nuttall、Peter J Hudson; Journal of Immunological Methods、248巻:31~45頁(2001年)(リボソームディスプレイ);(11)Arvind Rajpal、Nurten Beyaz、Lauric Haber、Guido Cappuccilli、Helena Yee、Ramesh R Bhatt、Toshihiko Takeuchi、Richard A Lerner、Roberto Crea; PNAS、102巻(24号):8466~71頁(2005年)。上記技術の一部は、参照として本明細書に組み込まれている下記の特許にも開示されている:米国特許第7,662,557号;同第7,635,666号;同第7,195,866号;同第7,063,943号;同第6,916,605号等。
【0020】
本発明と共に用いられるさらなるタンパク質ディスプレイシステムとして、下記の参考資料で開示されるような、バキュロウイルスディスプレイシステム、アデノウイルスディスプレイシステム、レンチウイルスディスプレイシステム、レトロウイルスディスプレイシステム、SplitCoreディスプレイシステムが挙げられる:Sakihamaら、PLosOne、3巻(12号):e4024頁(2008年);Makelaら、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening、11巻:86~98頁(2008年);Uranoら、Biochem. Biophys. Res Comm.、308巻:191~196頁(2003年);Gennariら、Human Gene Therapy、20巻:554~562頁(2009年);Taubeら、PLosOne、3巻(9号):e3181頁(2008年);Limら、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening、11巻:111~117頁(2008年);Urbanら、Chemical Biology、6巻(1号):61~74頁(2011年);Buchholzら、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening、1巻:99~110頁(2008年);Walkerら、Scientific Reports、1巻(5号):(2011年6月14日)等。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明は、抗体/タンパク質結合化合物、特に既存の抗体/タンパク質結合化合物の1つまたは複数の特性を改善する従来型のファージディスプレイシステムを採用する。大型のコンビナトリアルライブラリー、例えば>108~109個のクローンから個々のファージを識別するために、選択、洗浄、溶出、および増幅の反復したサイクルを採用するディスプレイ技術のこれまでの適用法とは異なり、本発明では、複数の小規模で集約的なライブラリー、例えばそれぞれ103~104個のクローン、またはいくつかの実施形態ではそれぞれ104~105個のクローンが、1つまたは複数のシリアル結合反応において選択され、結合不十分なクローンは取り除かれ、したがって各ライブラリーのサイズが減少する。そのような分析から、サブセットが選択およびシャッフルされ、得られたコンビナトリアルシャッフルドライブラリーが、目的とするその他の特性、例えば親和性、安定性、交差反応性等に基づきさらに選択される。そのような結合反応に影響を及ぼす因子は、当技術分野において周知されており、そのような因子として、反応に含めるべきファージの数、反応混合物のストリンジェンシー;反応に含めるべき標的分子の数;非特異的結合を低下させるブロッキング剤、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン等の有無;不良なバインダーを枯渇させ、また良好なバインダーを富化させる洗浄ステップの長さおよびストリンジェンシー;標的分子からバインダーを取り出す溶出ステップの性質;例えば、固体支持体に結合し得る、または捕捉剤、例えばビオチンにより誘導体化され得る、および溶液中で遊離した状態であり得る、反応で使用される標的分子のフォーマット;候補結合化合物が挿入されるファージタンパク質等が挙げられる。いくつかの実施形態では、標的分子、例えばタンパク質等は、精製され、そして固体支持体、例えばビーズまたはマイクロタイタープレート等に直接固定化される。これは、支持体を単に洗浄することにより、結合および未結合のファージについて、物理的分離を可能にする。修飾型親和性樹脂、ガラスビーズ、修飾型マグネットビーズ、プラスチック支持体等を含む、非常に多くの支持体がこの目的のために利用可能である。有用な支持体として、非特異的ファージ結合に関してバックグラウンドが低く、また天然型の標的分子を望ましい濃度で提供する支持体が挙げられる。
【0022】
いくつかの実施形態では、核酸によりコードされる結合化合物は、ファージにより発現される抗体断片である。1つの実施形態では、そのようなファージは、糸状バクテリオファージであり、また抗体断片は、外被タンパク質の一部分として発現される。特に、そのようなファージは、バクテリオファージのFfクラスに属するメンバーであり得る。さらなる実施形態では、そのような糸状バクテリオファージの宿主は、E.coliである。別の実施形態では、ファージミド-ヘルパーファージシステムが、抗体断片を提示するのに用いられる。ファージミドは、宿主細菌内でプラスミドとして維持され得るが、またファージ産生は、ヘルパーファージを用いたさらなる感染により誘発される。代表的なファージミドとして、例えば、Barbasら、Proc. Natl. Acad. Sci.、88巻:7978~7982頁(1991年)で開示されるpComb3およびその関連するファミリーメンバー、ならびに例えばHoogenboomら、Nucleic Acids Research、19巻:4133~4137頁(1991年);および米国特許第5,969,108号;同第6,806,079号;同第7,662,557号;および関連する特許で開示されるpHEN1およびその関連するファミリーメンバーが挙げられるが、但し上記参考資料は参照として本明細書に組み込まれている。特別な実施形態では、抗体断片は、ファージ外被タンパク質g3pとの融合タンパク質として発現される。
(核酸によりコードされる結合化合物のライブラリー)
【0023】
上記のように、本発明の特色として、集約的な単一置換ライブラリーの使用が挙げられ、そのようなライブラリーでは、少数の(3~30)サブドメインライブラリーを用いて、大型の結合ドメインが完全にスキャンされ得る。いくつかの実施形態では、この特色は、選択、溶出、および増幅の連続的なサイクルに対する必要性、ならびに必要に応じて従来型のアプローチにおいて、複数の大型のコンビナトリアルライブラリーを使用する必要性を制限する。そのような候補結合化合物の集約的なライブラリーのサイズは、少なくとも2つの因子:タンパク質ドメインを網羅するように選択されたサブドメインのサイズ、およびライブラリーメンバーをコードするポリヌクレオチドを合成する難しさにより影響を受ける。すなわち、スキャンされるタンパク質ドメインが大きいほど、サブドメインライブラリーの数および/またはサイズも大きくなる。同様に、候補化合物のライブラリーがより大きいとは、より多数のポリヌクレオチドが合成される必要があることを意味する。したがって、特定の適用では、実施スケールとコストの間において、従来型の設計選択が関係し得る。いくつかの実施形態では、集約されたライブラリーは、参照結合化合物と同一または等価であり得る既存の結合化合物内の限定された数の場所において、アミノ酸を一度に1つまたは2つ変更することにより取得される。好ましくは、アミノ酸は、異なる位置において一度に一つずつ異なる。したがって、例えば、候補結合化合物のライブラリーのメンバーは、1つのコドン位置を除き、既存の結合化合物をコードするヌクレオチド配列と同一のヌクレオチド配列を有し得る。当該位置において、ほとんどのライブラリーメンバーは、既存の結合化合物のコドンとは異なるコドンを有する。
【0024】
そのようなライブラリーは、そのような場所においてアミノ酸の挿入または欠損を有するメンバーを含み得、またそのような場所において、可能性のあるコドンをすべて有するメンバーを含む必要は必ずしもない。ライブラリーは、既存の結合化合物内に存在するセットのアミノ酸の場所それぞれにおいて、そのような置換(および挿入または欠損)に対応するメンバーを含み得る。場所は、連続的であっても、また非連続的であってもよい。いくつかの実施形態では、コドンが変化する場所の数は、1~500の範囲であり;いくつかの実施形態では、そのような場所の数は、1~250の範囲であり;その他の実施形態では、そのような場所の数は、10~100の範囲であり;およびなおも別の実施形態では、そのような場所の数は、10~250の範囲である。既存の結合化合物は、任意の既存の抗体または結合タンパク質であり得、それらについて配列情報が入手可能である(または取得可能である)。一般的に、既存の結合化合物は、上記で議論したように、1つまたは複数の特性、例えば親和性、交差反応性の変更、安定性の増加、凝集抵抗性等について改良が望まれる、商業的に重要な結合化合物、例えば抗体薬物または薬物候補等である。1つの実施形態では、コドンが変化する場所は、抗体のVHおよびVL領域を含み、それにはフレームワーク領域およびCDR内の両方のコドンが含まれる;別の実施形態では、コドンが変化する場所は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR、またはそのようなCDRのサブセット、例えばCDR1のみ、CDR2のみ、CDR3のみ、またはその対等を含む。
【0025】
別の実施形態では、コドンが変化する場所は、もっぱらフレームワーク領域に生ずる;例えば、本発明のライブラリーは、もっぱら10~250の範囲のVHおよびVLナンバリングの両方のフレームワーク領域において、参照結合化合物にもっぱら由来する単一のコドン変化を含み得る。別の実施形態では、コドンが変化する場所は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3、またはそのようなCDR3のサブセットを含む。別の実施形態では、VHおよびVLコード領域のコドンが変化する場所の数は、最大100箇所がフレームワーク領域内にあるように10~250の範囲である。別の実施形態では、核酸によりコードされる結合化合物は、既存の結合化合物、例えば既存の抗体またはその他の結合タンパク質等に由来する。代表的な既存の結合化合物として、抗体標的薬物または抗体に基づく薬物、例えばアダリムマブ(ヒュミラ)、ベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)、エファリズマブ(ラプティバ)、インフリキシマブ(レミケード)、パニツムマブ(ベクチビックス(Vectubix))、ラニビズマブ(ranibuzumab)(ルセンティス)、リツキシマブ(リツキサン)、トラスツズマブ(ハーセプチン)等、増殖因子または増殖因子受容体、リガンドおよびシグナリング受容体、ホルモンおよびホルモン受容体、凝固因子および凝固因子受容体、酵素、マトリックスタンパク質およびマトリックス結合受容体、サイトカインおよびサイトカイン受容体等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0026】
いくつかの実施形態では、上記コドン置換体は、縮重コドンを有するコーディングセグメントを合成することにより生成する。コーディングセグメントは、次にベクター、例えば複製型のファージまたはファージミド等にライゲートされ、ライブラリーを形成する。多くの異なる縮重コドン、例えば表Iに示すコドン等が、本発明と共に利用可能である。
【表1】
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明で用いられる結合化合物ライブラリーのサイズは、約1000メンバーから約1×105メンバーにわたり様々である;いくつかの実施形態では、本発明で用いられるライブラリーのサイズは、約1000メンバーから約5×104メンバーにわたり様々である;さらなる実施形態では、本発明で用いられるライブラリーのサイズは、約2000メンバーから約2.5×104メンバーにわたり様々である。したがって、そのような結合化合物ライブラリーをコードする核酸ライブラリーのサイズは、上記で列挙した数字を最大64倍した上界および下界の範囲内にある。
【実施例】
【0028】
(結合親和性が改善した最適化抗メソテリンsdFv抗体の取得)
43個のファージミドライブラリーインサートを、
図2Aに示すsdFvをコードするDNA配列を含め合成した。各インサートは、アミノ酸(下線部)の1つについて、縮重コドンNNNと置き換わったコドンを有した。これらのインサートをファージミドにクローン化して、それぞれ19個の変異体sdFvおよび1個の野生型をコードする43個のミニライブラリーを生成した。これらのミニライブラリーをE.coli系統SS320に形質転換し、そして形質転換体を混合して、sdFvのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む3つのサブライブラリーとした。これらのサブライブラリーを増殖させ、そしてM13K07ヘルパーファージで感染し、そして3つのファージライブラリーを生成した。
【0029】
マキシソーププレートを、3つのウェルにおいて、100ng/ウェルのメソテリン-Fcでコーティングし、そして4℃、オーバーナイトでインキュベーションした。翌朝、コート抗原溶液を除去し、そして350μlのブロッキングバッファー(PBS+3%BSA)を用いて、ウェルを室温で90分間ブロックした。ブロッキングバッファーを除去し、そして各ライブラリーに由来する5×1010個のファージ(洗浄バッファー-PBS+0.5%BSA+0.05%ツイーン20中で稀釈した)を、プレート上のウェルに添加した。これらの結合反応物を、室温で75分間インキュベーションした。次に、ファージ稀釈物を取り出し、そしてウェルを、350μlの洗浄バッファーで5回洗浄した。200μlの洗浄バッファーをウェルに添加し、そしてそれをさらに3時間放置して洗浄した。この延長された洗浄の後、各ウェルからのファージを、100mMグリシン(pH2.2)を用いて、室温で15分間溶出し、次に回収し、そして3μlの2Mトリス塩基を用いてpHを中和した。
【0030】
プロセスの残りのマップを
図2Bに示す。要するに、CDR1ライブラリーにつき、プライマーLCF(200)および135(202);CDR2ライブラリーにつき、136(204)および137(206);ならびにCDR3ライブラリーにつき、138(208)および121(210)を用いて、PCRにより各選択された単一置換ライブラリーの関連する部分を単離した、
図2B。3つのライブラリーPCR産物を、次にゲル精製し、断片を1:1:1のモル比で混合し、そしてアセンブリーPCR反応において、その重複した相同性を頼りに共に繋ぎ合わせた。アセンブルされたコンビナトリアル生成物を、次にプライマーLCF(200)および121(210)を用いて増幅した。このコンビナトリアルライブラリー断片を、次に2つのファージミドライブラリー、すなわち増幅されたライブラリーをファージミドベクターに直接クローニングすることによる第1のライブラリー(CDRライブラリー)、およびさらなるDNase1シャッフリング反応(Stemmer、Nature、370巻:389~91頁、1994年)、次にファージミドベクターにクローニングすることによる第2のライブラリー(DNaseライブラリー)を作成するのに用いた。ファージを2つのライブラリーから生成し、そして3ラウンドのストリンジェンシーを徐々に高めた結合反応を実施した。この場合、第1ラウンドの結合反応は、4時間の洗浄ステップを用いた。結合したファージを、酸溶出を用いてウェルから回収し、次にSS320細胞に感染させ、そしてM13K07ヘルパーファージを用いて増幅した。第2ラウンドの結合反応を、18時間の洗浄ステップを用いて、洗浄ステップの有効性をモニターするために対照として含めた野生型クローン、およびファージのウェルに対する非特異的結合を測定するために含めたPBSコーティングウェルと共に実施した、
図2C。各サンプルの救済されたファージの数を、一本鎖ファージミドDNAを検出するSyberGreen qPCR増幅反応を用いて測定したが、その際、Applied Biosystems StepOnePlus Real-time PCRシステム上で、プライマーCmF2(5’TTTCCGGCAGTTTCTACAC3’)(配列番号6)、およびCmR1(5’CAGCACCTTGTCGCCTTGC3’)(配列番号7)を用い、標準曲線には、PBSで3×10
8、3×10
7、3×10
6、3×10
5、3×10
4、および0個のファージ/ウェルに稀釈したファージを用いた。18時間の反応から救済されたファージを再度増幅させ、そして48時間洗浄ステップを用いて、第3ラウンドの結合反応を同様に実施した、
図2D。この最終ラウンドの結合を実施した後、救済されたファージをSS320細胞に感染させるのに用い、そして個々の形質導入体を配列決定用に選択した、
図2Eおよび2F。
【0031】
第3ラウンドの選択を実施した後、ファージを各ライブラリーに由来する3つのクローンから生成した(CDRシャッフルドライブラリーからD08、G07、H07(それぞれ配列番号15、配列番号20、配列番号22、)(
図2E)、ならびにDNaseシャッフルドライブラリーからB11、F12、およびG12(それぞれ配列番号26、配列番号35、配列番号37)(
図2F))。これらのファージクローンを、48時間洗浄ステップを用いた結合反応において試験し、そして各クローンは、親クローンよりも低い解離速度(より緊密な結合)を示した、
図2G。
【0032】
いくつかの特定の事例的な実施形態を参照しながら本発明について記載してきたが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱せずに多くの変更を加えることができるものと認識する。本発明は、これまでに議論したことに付加して、様々なセンサーの導入およびその他の主題に適用可能である。
(定義)
【0033】
別途、本明細書で特に定義されない限り、本明細書で用いられる核酸化学、生化学、遺伝学、および分子生物学の用語および記号は、当分野内の標準的な専門書およびテキスト、例えば、KornbergおよびBaker、DNA Replication、第2版(W.H. Freeman、New York、1992年);Lehninger、Biochemistry、第2版(Worth Publishers、New York、1975年);StrachanおよびRead、Human Molecular Genetics、第2版(Wiley-Liss、New York、1999年);Abbasら、Cellular and Molecular Immuology、第6版(Saunders、2007年)の用語および記号に従う。
【0034】
「抗体」または「免疫グロブリン」とは、特定の抗原または抗原決定基に特異的に結合する能力を有する天然のタンパク質、または組換え手段もしくは化学的手段により合成的に製造されるタンパク質を意味し、同用語が本明細書で使用される際には、標的分子であり得る。抗体、例えばIgG抗体は、通常約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同一の軽鎖(L)および2つの同一の重鎖(H)から構成される。各軽鎖は、1つの共有結合性のジスルフィド結合により重鎖と連結するが、一方、ジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンアイソタイプが異なれば、その重鎖間で変化する。また、重鎖および軽鎖のそれぞれは、規則的に間隔が置かれた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の端部に可変ドメイン(VH)、その後にいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の端部に可変ドメイン(VL)、および他方の端部に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整合し、また軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整合している。一般的に、抗体または抗体に由来する結合化合物の結合の特徴、例えば、特異性、親和性等は、VHおよびVL領域内、特にCDR領域内のアミノ酸残基により決定される。定常ドメインは、抗体と抗原との結合に直接関与しない。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスに割り振ることができる。免疫グロブリンには、5つの主要なクラスが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM、ならびにこれらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分割され得る。「抗体断片」およびすべてのその文法的変異体は、本明細書で用いる場合、天然の抗体の抗原結合部位または可変領域を含む天然の抗体の一部分として定義され、その場合、当該部分は、天然の抗体のFc領域の重鎖定常ドメイン(すなわち、抗体アイソタイプに応じてCH2、CH3、およびCH4)を含まない。抗体断片の例として、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、およびFv断片が挙げられ;二重特異性抗体;ポリペプチドである任意の抗体断片であり、連続するアミノ酸残基の1本の途切れない配列からなる一次構造を有し(本明細書では、「単鎖抗体断片」または「単鎖ポリペプチド」と呼ぶ)、(1)単鎖Fv(scFv)分子、(2)1つの軽鎖可変ドメイン、または軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含み、関連する重鎖部分を有さないその断片のみを含む単鎖ポリペプチド、および(3)1つの重鎖可変領域、または重鎖可変領域の3つのCDRを含み、関連する軽鎖部分を有さないその断片のみを含む単鎖ポリペプチド;ならびに抗体断片から形成された多重特異的または多価構造も非限定的に含まれる。用語「モノクロナール抗体」(mAb)は、本明細書で用いる場合、実質的に均質な抗体の集合から得られる抗体を意味し、すなわち集合を構成する個々の抗体は、天然に生じる可能性のある変異が微量で存在し得るものの、それを除き同一である。モノクロナール抗体は特異性が高く、単一の抗原部位を標的とする。さらに、異なる決定要素(エピトープ)を標的とする異なる抗体を一般的に含む、従来型(ポリクロナール)の抗体調製物とは対照的に、各mAbは、抗原上の単一の決定要素を標的とする。それらの特異性に加えて、モノクロナール抗体は、その他の免疫グロブリンにより汚染されずに、ハイブリドーマ培養、または細菌、酵母菌、もしくは哺乳類の発現系により合成可能であるという点において有利である。
【0035】
「結合化合物」とは、特定の標的分子または標的分子の群に特異的に結合する能力を有する化合物を意味する。結合化合物の例として、抗体、受容体、リガンド、ホルモン、凝固因子、結合タンパク質、転写因子、シグナリング分子、ウイルスタンパク質、レクチン、核酸、アプタマー等、例えば、SharonおよびLis、Lectins、第2版(Springer、2006年);Klussmann、The Aptamer Handbook: Functional Oligonucleotides and Their Applications (John Wiley & Sons、New York、2006年)が挙げられる。本明細書で用いる場合、「抗体に基づく結合化合物」とは、Fab、Fab’、F(ab’)2、もしくはFv断片を含む、但しこれらに限定されない抗体に由来する結合化合物、例えば抗体断片等、または二重特異性構築物等のその組換え形態を意味する。いくつかの実施形態では、抗体に基づく結合化合物は、抗体のスキャフォールドまたはフレームワーク領域および抗体のCDR領域を含む。
【0036】
「相補性決定領域」または「CDR」とは、免疫グロブリンの可変ドメイン内の短い配列(通常、最大13~25個のアミノ酸)を意味する。CDR(そのうちの6つは、IgG分子中に存在する)は、免疫グロブリンの可変性が最も高い部分であり、また特異抗原との特異的接触により、それらの多様性に寄与し、免疫グロブリンが、高い親和性を有して、抗原の幅広いレパートリーを認識するのを可能にする、例えばBeckら、Nature Reviews Immunology、10巻:345~352頁(2010年)。いくつかのナンバリングスキーム、例えばKabatのナンバリングスキーム等が、免疫グロブリンの可変領域内に存在するCDRのアミノ酸の位置を記載するための規則を提供する。
【0037】
「複合体」とは、本明細書で用いる場合、互いに直接的または間接的に接触した状態にある分子の集合体または凝集物を意味する。いくつかの実施形態では、「接触」、またはより具体的には「直接接触」とは、分子の複合体と関連して、または特異性もしくは特異的結合と関連して、非共有結合性の引力相互作用、例えばファンデルワールス力、水素結合、イオン性および疎水性の相互作用等が、分子の相互作用を支配するように、2つまたはそれ超の分子が十分に接近していることを意味する。そのような実施形態では、アッセイ条件において、複合体の状態で存在することが熱力学的に好ましい、という点において分子の複合体は安定である。本明細書で用いる場合、「複合体」は、2つまたはそれ超のタンパク質の安定な凝集物を指す場合もあり、それは「タンパク質-タンパク質複合体」とも等しく呼ばれる。複合体は、その対応する抗原に結合した抗体を指す場合もある。本発明で特に興味深い複合体は、タンパク質-タンパク質複合体、および抗体-抗原複合体である。上記のように、静電力、水素結合、ファンデルワールス力、および疎水性相互作用を含む様々な種類の非共有結合性の相互作用が、抗原の抗体結合に寄与し得る。これら相互作用それぞれの相対的な重要性は、個々の抗体の結合部位および抗原決定基の構造に依存する。抗体の単一の抗原結合部位と抗原のエピトープの間の結合強度は、平衡透析により実験的に求めることができ(例えば、Abbasら(上記で引用))、抗体の親和性と呼ばれる。親和性は、解離定数(Kd)により一般的に表され、抗体溶液中に存在する抗体分子のうち、その半数の抗原結合部位を占有するのに必要とされる抗原の濃度について記載する。Kdがより小さければ、当該結合部位を占有するのに、より低濃度の抗原が必要とされるので、親和性相互作用はより強いまたは高いことを示唆する。天然の抗原に対して特異的な抗体の場合、Kdは、通常約10-7M~10-11Mで変化する。免疫処置した個人から得た血清には、CDRのアミノ酸配列に主に依存して、抗原に対して異なる親和性を有する抗体の混合物が含まれる。
【0038】
「リガンド」とは、別の化学的実体と特異的および可逆的に結合して複合体を形成する化合物を意味する。リガンドとして、小型の有機分子、ペプチド、タンパク質、核酸等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。特に興味深いものとしてタンパク質-リガンド複合体が挙げられ、これにはタンパク質-タンパク質複合体、抗体-抗原複合体、受容体-リガンド複合体、酵素-基質複合体等が含まれる。
【0039】
「ファージディスプレイ」は、ファージ、例えば糸状ファージ、粒子の表面上に、少なくとも外被タンパク質の一部分と融合した融合タンパク質として、変異体ポリペプチドを提示する技術である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化したタンパク質変異体の大型のライブラリーであっても、そこから、高い親和性を有しながら標的分子と結合する配列を迅速且つ効果的に選択し得るという事実に依存する。ファージ上でのペプチドおよびタンパク質ライブラリーの提示は、特異的結合特性を有するポリペプチドを求めて、数百万ものポリペプチドをスクリーニングするのに用いられてきた。糸状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIとの融合を通じて、小型のランダムペプチドおよび小型のタンパク質を提示するのに、多価ファージディスプレイ法が用いられてきた。WellsおよびLowman、Curr. Opin. Struct. Biol.、3巻:355~362頁(1992年)、ならびにそこで引用された参考資料。一価のファージディスプレイでは、タンパク質またはペプチドライブラリーが、遺伝子IIIまたはその一部分と融合し、そしてファージ粒子が融合タンパク質の1つのコピーを提示し、さもなければを一切提示しないように、野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下において、低レベルで発現する。アビディティー効果は、多価ファージと比較して抑制されており、したがって選択は、内因性リガンドの親和性に基づき、またDNA操作を単純化するファージミドベクターが使用される。LowmanおよびWells、Methods: A companion to Methods in Enzymology、3巻:205~0216頁(1991年)。
【0040】
「ファージミド」とは、細菌の複製開始点、例えばCo1E1、およびバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターを意味する。ファージミドは、糸状バクテリオファージおよびラムドイドバクテリオファージを含む任意の公知バクテリオファージ上で利用可能である。プラスミドは、抗生物質耐性に関する選択マーカーも一般的に含む。これらのベクターにクローン化されたDNAのセグメントは、プラスミドとして増殖し得る。このようなベクターを担持する細胞に、ファージ粒子の産生に必要なすべての遺伝子が提供されると、プラスミドの複製モードがローリングサークル複製に変化して、プラスミドDNAの1つのストランドのコピーおよびパッケージファージ粒子を生成する。ファージミドは、感染性または非感染性のファージ粒子を形成し得る。この用語には、非相同的ポリペプチドがファージ粒子表面上に提示されるように、遺伝子融合として非相同的ポリペプチド遺伝子と連結したファージ外被タンパク質遺伝子またはその断片を含むファージミドが含まれる。
【0041】
「ファージ」または「ファージベクター」とは、非相同的遺伝子を含み、複製能力を有する、二本鎖複製型のバクテリオファージを意味する。ファージベクターはファージ複製開始点を有し、ファージ複製およびファージ粒子形成を可能にする。ファージは、好ましくは糸状バクテリオファージ、例えばM13、f1、fd、Pf3ファージ等もしくはその誘導体、またはラムドイドファージ、例えばラムダ、21、ファイ80、ファイ81、82、424、434等、もしくはその誘導体である。
【0042】
「プライマー」とは、ポリヌクレオチドテンプレートと二本鎖を形成すると、核酸合成の開始点として働き、また伸長した二本鎖が形成されるようにテンプレートに沿ってその3’末端から伸長する能力を有する天然または合成のオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの伸長は、核酸ポリメラーゼ、例えばDNAまたはRNAポリメラーゼ等を用いて通常実施される。伸長プロセスにおいて追加されるヌクレオチドの配列は、テンプレートポリヌクレオチドの配列により決定される。通常、プライマーは、DNAポリメラーゼによって伸長する。プライマーは、14~40ヌクレオチドまたは18~36の範囲のヌクレオチドの長さを通常有する。様々な核酸増幅反応、例えば単一のプライマーを用いる直線状増幅反応、または2つもしくはそれ超のプライマーを利用するポリメラーゼ連鎖反応において、プライマーが採用される。特定の用途でプライマーの長さおよび配列を選択するための指針は、参照として組み込まれる下記の参考資料により証明されるように、当業者に周知されている:Dieffenbach編、PCR Primer: A Laboratory Manual、第2版(Cold Spring Harbor Press、New York、2003年)。
【0043】
「ポリペプチド」とは、一方のアミノ酸のカルボキシ基と他方のアミノ酸のアミノ基の間で脱水したアミド結合により、共に化学結合したアミノ酸残基から構成される化合物のクラスを意味する。ポリペプチドは、アミノ酸残基からなるポリマーであり、多数のそのような残基を含み得る。ペプチドは、一般的により少ない数のアミノ酸から構成される点を除き、ポリペプチドと類似している。ペプチドは、時にオリゴペプチドと呼ばれる。ポリペプチドとペプチドの間に明快な区別は存在しない。便宜上、本開示および特許請求の範囲では、用語「ポリペプチド」は、一般的にペプチドおよびポリペプチドを指すのに用いられる。アミノ酸残基は、天然であっても、また合成であってもよい。
【0044】
「タンパク質」とは、生体細胞により通常合成され、定義された三次元構造に折りたたまれたポリペプチドを意味する。タンパク質は、一般的に、分子量約5,000~約5,000,000ダルトンまたはそれ超であり、より一般的には、分子量約5,000~約1,000,000であり、また翻訳後修飾、例えばアセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、ジスルフィド結合形成、ファルネシル化、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、リン酸化、プレニル化、セレノイル化、硫酸化、およびユビキチン化等を含み得る、例えば、Wold, F.、Post-translational Protein Modifications: Perspectives and Prospects、1~12頁、Post-translational Covalent Modification of Proteins、B. C. Johnson編、Academic Press、New York、1983年。タンパク質には、実例として、但し非限定的に、サイトカインまたはインターロイキン、酵素、例えばキナーゼ、プロテアーゼ、ガラクトシダーゼ等、プロタミン、ヒストン、アルブミン、免疫グロブリン、硬タンパク質、リンタンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リポタンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、T-細胞受容体、リガンド/ホルモン受容体、プロテオグリカン等が含まれる。
【0045】
1つの分子と別の分子、例えばプローブ用のラベリングされた標的配列等との結合と関連して、「特異的」または「特異性」とは、2分子間の認識、接触、および安定な複合体の形成を意味すると共に、その他の分子とは認識、接触、または当該分子の複合体形成が実質的に劣ることを意味する。いくつかの実施形態では、「特異的」とは、第2の分子に対する第1の分子の結合と関連して、反応またはサンプルにおいて第1の分子が別の分子を認識し、およびそれと複合体を形成する程度において、第1の分子が、第2の分子と最大数の複合体を形成することを意味する。好ましくは、この最大数は、少なくとも50パーセントである。一般的に、特異的結合事象に関与する分子は、その表面上またはキャビティー内に、相互に結合する分子間において特異的認識を引き起こすエリアを有する。特異的結合の例として、抗体-抗原相互作用、酵素-基質相互作用、ポリヌクレオチドおよび/またはオリゴヌクレオチド間における二本鎖または三本鎖の形成、受容体-リガンド相互作用等が挙げられる。本明細書で用いる場合、「接触」とは、特異性または特異的結合と関連して、2つの分子が十分接近しており、非共有結合性の弱い化学的相互作用、例えばファンデルワールス力、水素結合、ベース-スタッキング相互作用、イオン性および疎水性相互作用等が、分子の相互作用を支配していることを意味する。
【0046】
「野生型」または「参照」または「既存の」は、結合化合物と関連して、本発明の方法に基づき分析され、または改善の対象となる化合物を意味するためにそれぞれ同義的に使用される。すなわち、そのような化合物は出発物質として機能し、該物質から変異体ポリペプチドが、変異の導入を通じて派生する。所与のタンパク質に関する「野生型」の配列は、通常、自然において最も一般的な配列であるが、該用語は、工学的に作出された化合物を含めるように、本明細書ではより広範に使用される。同様に、「野生型」遺伝子配列は、一般的に、自然において最も一般的に見出される遺伝子に関する配列であるが、本明細書で使用する場合、天然化合物から工学的に作出され得る遺伝子、例えば、ヒトタンパク質をコードするものの、細菌のコドンから構成されるように工学的に作出された遺伝子も含まれる。変異は、任意の利用可能なプロセス、例えば部位特異的変異、化学的に合成されたセグメントの挿入、またはその他の従来的手段を通じて、「野生型」遺伝子(したがって、その遺伝子がコードするタンパク質)に導入され得る。そのようなプロセスの生成物は、オリジナルの「野生型」タンパク質または遺伝子の「変異体」または「変異体」である。代表的な参照(または野生型または既存の)配列として、抗体標的薬物または抗体に基づく薬物、例えばアダリムマブ(ヒュミラ)、ベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)、エファリズマブ(ラプティバ)、インフリキシマブ(レミケード)、パニツムマブ(ベクツビックス)、ラニブズマブ(ルセンティス)、リツキシマブ(リツキサン)、トラスツズマブ(ハーセプチン)等が挙げられる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
タンパク質の1つまたは複数の事前に決定された特徴を改善する方法であって、
タンパク質の複数のドメインのそれぞれについて、単一置換ライブラリーを合成するステップであって、単一置換ライブラリーの各メンバーが、異なる単一置換ライブラリーの少なくとも1つのメンバーのヌクレオチド配列と重複するヌクレオチド配列を有する、ステップと、
各単一置換ライブラリーの各メンバーを、事前候補タンパク質として個別に発現させるステップと、
前記1つまたは複数の事前に決定された特徴において改善を示す事前候補タンパク質をコードする、各単一置換ライブラリーのメンバーを選択して、前記タンパク質のドメイン毎に選択されたライブラリーを形成するステップと、
PCRにおいて、前記選択されたライブラリーのメンバーをシャッフリングして、コンビナトリアルシャッフルドライブラリーを生成するステップと、
前記シャッフルドライブラリーのメンバーを、候補タンパク質として発現させるステップと、
前記1つまたは複数の事前に決定された特徴の少なくとも1つにおいて改善を示す候補タンパク質をコードする、前記シャッフルドライブラリーのメンバーを選択するステップと
を含む方法。
(項目2)
前記複数のドメインが、前記タンパク質の結合部位をカバーし、前記タンパク質の前記
1つまたは複数の事前に決定された特徴が、結合部位の特徴である、項目1に記載の方
法。
(項目3)
前記結合部位が、タンパク質ディスプレイシステムにより発現される抗体または抗体断片の結合部位である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記タンパク質ディスプレイシステムが、酵母菌ディスプレイシステム、哺乳動物ディスプレイシステム、細菌ディスプレイシステム、昆虫細胞ディスプレイシステム、またはファージディスプレイシステムである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記タンパク質ディスプレイシステムが、ファージディスプレイシステムである、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記1つまたは複数の事前に決定された特徴が、標的分子に対する結合親和性、第1のセットの1つもしくは複数の化合物に対して増加した交差反応性、第2のセットの1つもしくは複数の化合物に対して減少した交差反応性、または1つもしくは複数の物理化学的パラメーターの値に対して増加した安定性である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記1つまたは複数の物理化学的パラメーターが、温度、pH、またはプロテアーゼ感受性を含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記複数のドメインが、前記タンパク質の連続したアミノ酸配列をカバーする、項目1に記載の方法。
【配列表】