(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】遅消化性デンプンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20220722BHJP
A23L 29/212 20160101ALI20220722BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20220722BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L29/212
A23L33/21
A61K47/36
(21)【出願番号】P 2021519148
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 CN2020099123
(87)【国際公開番号】W WO2021169119
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】202010119374.0
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田耀旗
(72)【発明者】
【氏名】盧暁雪
(72)【発明者】
【氏名】誉錦玲
(72)【発明者】
【氏名】麻栄栄
(72)【発明者】
【氏名】常然然
(72)【発明者】
【氏名】陳龍
(72)【発明者】
【氏名】金征宇
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101891831(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102653563(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104987422(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107739743(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102212213(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107686524(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110292166(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0016664(KR,A)
【文献】特開2008-248082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅消化性デンプンの製造方法であって、
米デンプン又はトウモロコシデンプンに対して135~145℃で乾熱非晶化処理を8~10分間行い、水を加えて、質量濃度35wt%~40wt%のデンプン乳を調整する、乾熱非晶化のステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたデンプン乳に、デンプン乳の全質量に対して5%~8%のアミノ酸を添加し、混合後、超音波錯化処理を、超音波周波数30~40kHz、処理出力800~1000W、温度50~55℃で、20~30分間行う、アミノ酸錯化のステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた生成物を遠心脱水して、含水量30%~35%の沈殿物を得る、遠心脱水のステップ(3)と、
ステップ(3)で得られた沈殿物をプレス処理し、プレス機の四段温度をそれぞれ85~90℃、100~105℃、115~120℃、125~130℃とし、スクリュー回転数を100~110rpmとして、錯体をVI-型結晶からVII-型結晶に転化する、結晶転化のステップ(4)と、
ステップ(4)で得られたVII-型結晶錯体を空気乾燥して、製品を得る、空気乾燥のステップ(5)と、を含むことを特徴とする遅消化性デンプンの製造方法。
【請求項2】
ステップ(1)に使用される前記乾熱非晶化処理では、乾熱非晶化の温度は145℃、時間は8~10分である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(2)で添加されるアミノ酸はグルタミン酸及びロイシンのうちのいずれか1種であり、添加量はデンプン乳全質量の7%である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(2)で添加されるロイシンは脂溶性アミノ酸であり、デンプン乳の体積の0.01~0.02倍の使用量の無水エタノールで溶解して分散させておく、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(2)では、前記超音波処理は、超音波周波数30kHz、処理出力800W、温度55℃、処理時間30分である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(3)では、前記遠心脱水は、遠心回転数5000rpm、遠心時間10~15分である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(4)では、プレス機の四段温度はそれぞれ90、105、115、125℃、スクリュー回転数は100rpmに設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(5)では、空気乾燥機の給気口の温度が140℃に設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
遅消化性デンプンを含む医薬添加剤の製造
方法であって、請求項1~8のいずれか1項に記載の
遅消化性デンプンの製造方法
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
遅消化性デンプンを含む低グリセミックインデックス食品の具材の製造
方法であって、請求項1~8のいずれか1項に記載の
遅消化性デンプンの製造方法
を含む、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅消化性デンプンの製造方法に関し、デンプン変性の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
遅消化性デンプンとは、小腸で消化速度の遅いデンプンのことであり、食後の血糖を安定に保つことができる。遅消化性デンプンの含有量を高めることはデンプンの栄養品質を改善することができ、肥満、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患の管理に重要な実践的な意義がある。
【0003】
錯体の酵素分解耐性の特徴に基づいて、デンプンと脂質の一部との錯化反応により遅消化性デンプンを製造することができると考えられているが、この錯化反応は通常、高温又は酸塩基試薬の関与を必要とし、その結果、脂質の酸化又は潜在的な安全リスク因子の導入を引き起こす。アミノ酸はデンプンと錯体を形成するだけでなく、遊離アミノ酸自体が消化酵素活性に対して阻害作用を有することが報告されている。現在、デンプンとアミノ酸の錯化方法は主にブレンドアニーリング、グラフト修飾があり、この2種類の方法で得られた遅消化性デンプンの含有量は15%~35%である。現在のデンプンがアミノ酸と錯化して遅消化性デンプンを製造する過程で、通常水熱糊化法を採用してデンプン乳(エマルジョン)を製造するので、この方法の制限としては、1つはデンプン乳系の固形分の含有量が極めて低く(5%~10%)、デンプンの利用率を高めにくく、しかも大量の水分のため乾燥エネルギーの消費が深刻であり、2つはデンプン系の粘度が著しく増加し、アミノ酸のブレンドアニーリングとグラフト反応に不利である。
【0004】
さらに、本発明者のチームは、米のタンパク質がデンプンの消化性を著しく低下できることを以前見出したが、通常、タンパク質の抽出過程で部分的な分解が伴い、疎水性アミノ酸が露出しているため、タンパク質は食品の具材とする場合苦味の特徴があり、良質な食品の加工や製造に不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の水熱糊化法によるデンプン乳の製造は、デンプン利用率が低く、またデンプン系の粘度が著しく増加し、アミノ酸のブレンドアニーリングとグラフト反応に不利である。また、従来のアミノ酸類の遅消化性デンプンは遅消化性デンプンの含有量が低く、本発明者は、米のタンパク質がデンプンの消化性を著しく低下できることを以前見出したが、通常、タンパク質の抽出過程で部分的な分解が伴い、疎水性アミノ酸が露出しているため、タンパク質は食品の具材とする場合苦味の特徴があり、良質な食品の加工や製造に不利である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題に対して、本発明は、遅消化性デンプンの製造方法を提供し、本発明は、従来の熱糊化の代わりに乾熱非晶化技術を用い、従来のブレンドアニーリング又はグラフト修飾の代わりにアミノ酸(グルタミン酸及びロイシン)超音波錯化を用いることにより、酸及びアルカリ試薬の使用を回避しつつ、環境に配慮した顕著な利点を有するVI-型デンプン-アミノ酸錯体を製造する。さらに、プレス技術を用いてVI-型デンプン-アミノ酸錯体の結晶特性をVII-結晶形に転化することにより、系中の遅消化性デンプンの含有量を大幅に向上させることができる。
【0007】
本発明は、乾熱非晶化手段を用いてデンプンをデクラスタリングして非晶化処理し、次に、低温超音波によりVI-型デンプン-アミノ酸錯体を製造し、最後に、プレス処理によりVI-型デンプン-アミノ酸錯体の結晶特性をVII-結晶形に転化することにより、遅消化性デンプンの含有量が55%~60%と高い製品を得る遅消化性デンプンの製造方法を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記方法は、
米デンプン又はトウモロコシデンプンに対して135~145℃で乾熱非晶化処理を8~10分間行い、水を加えて、質量濃度35wt%~40wt%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)のデンプン乳を調製する、乾熱非晶化のステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたデンプン乳に、5%~8%(w/w、デンプン乳全質量に対するアミノ酸乾燥量基準)のアミノ酸を添加し、混合後、超音波錯化処理を、超音波周波数30~40kHz、処理出力800~1000W、温度50~55℃で、20~30分間行い、含水量が約55%~60%のVI-型デンプン-アミノ酸錯体を得る、アミノ酸錯化のステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた生成物を遠心脱水して、含水量30%~35%の沈殿物を得る、遠心脱水のステップ(3)と、
ステップ(3)で得られた沈殿物をプレス処理し、プレス機の四段温度をそれぞれ85~90℃、100~105℃、115~120℃、125~130℃とし、スクリュー回転数を100~110rpmとして、錯体をVI-型結晶からVII-型結晶に転化する、結晶転化のステップ(4)と、
ステップ(4)で得られたVII-型結晶錯体を空気乾燥して、高耐熱性、遅消化性デンプンの含有量が高い製品を得る、空気乾燥のステップ(5)と、を含む。
【0009】
本発明の一実施形態では、ステップ(1)では、前記乾熱非晶化処理は、高温乾熱技術によってデンプン結晶を破壊し、デンプンの糊化度を90%以上にするものであり、乾熱非晶化は、温度145℃、時間8~10分である。
【0010】
本発明の一実施形態では、ステップ(2)で添加されるアミノ酸はグルタミン酸及びロイシンのうちのいずれか1種であり、添加量はデンプン乳の質量の7%である。
【0011】
本発明の一実施形態では、ステップ(2)で添加されるロイシンは脂溶性アミノ酸であり、デンプン乳の体積の0.01~0.02倍である使用量の無水エタノールで溶解して分散させておく。
【0012】
本発明の一実施形態では、ステップ(2)では、前記超音波処理は、超音波周波数が30kHz、処理出力が800W、温度が55℃、処理時間が30分である。
【0013】
本発明の一実施形態では、ステップ(3)では、前記遠心脱水は、遠心回転数が5000rpm、遠心時間が10~15分である。
【0014】
本発明の一実施形態では、ステップ(4)では、プレス機の四段温度はそれぞれ90、105、115、125℃、スクリュー回転数は100rpmに設定される。
【0015】
本発明の一実施形態では、ステップ(5)では、空気乾燥機の給気口の温度が140℃に設定される。
【0016】
本発明は、上記方法によって製造された遅消化性デンプンを提供する。
【0017】
本発明は、医薬添加剤、食品成分の製造の分野における製造された上記遅消化性デンプンの製造方法の使用を提供する。
【発明の効果】
【0018】
(1)本発明は、米デンプン又はトウモロコシデンプンを原料とし、乾熱非晶化処理を行うことによって、デンプンをデクラスタリングして糊化し、デンプン乳の固形分を35%~40%とすることができる。
(2)本発明は、低温超音波誘導錯化技術を採用し、低温超音波下で非晶化デンプンとアミノ酸を錯化し、VI-結晶形デンプン-アミノ酸錯体を形成することができる。
(3)本発明は、プレス技術を用い、プレスによりVI-型結晶をVII-型結晶に転化し、VII-型結晶の一部が錯体を形成し、一部が腸管内で放出され、体内消化酵素の酵素活性を阻害し、遅消化性デンプンの含有量を55%~60%まで増加させる。
(4)本発明は、さらに米タンパク質のアミノ酸組成についてシークエンシング解析を行い、最終的にデンプンの消化性低下の原因となる重要アミノ酸であるグルタミン酸及びロイシンをスクリーニングした。これらのアミノ酸は、食品の具材として使用されると、タンパク質に比べて、風味を改良し、遅消化性の特性が顕著で、コストが低いなどの利点を有する。
(5)本発明の遅消化性デンプンの製造方法を利用することにより、従来のアミノ酸系遅消化性デンプンの生産プロセスにおける低収率及び高コストの欠点を克服し、米デンプン及びトウモロコシデンプン資源の高価値化加工に新たな考え方を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施例を説明するが、実施例は本発明をより理解しやすくするためのものに過ぎず、本発明を制限するものではないことが理解できる。
【0020】
1、デンプン-アミノ酸の錯化率測定
ヨード比色法によってデンプン-アミノ酸の錯化率を測定した。製造したVII-型デンプン-アミノ酸錯体を蒸留水とともに遠心管にて混合した。混合物を92.5℃で10分間、熱処理し、デンプン材料を完全にゲル化した。室温に冷却した後、蒸留水を加えて、3分間ボルテックス処理後、ヨウ素溶液(2.0%KI+1.3%I2)を加えた。エンドツーエンド回転によって混合物を完全に混合した。574nmで最終溶液の吸光度を測定し、デンプンとアミノ酸との錯化率CIは以下の式により計算した。
CI(%)=(デンプンペースト吸光値-錯体吸光値)/デンプンペースト吸光値×100%
【0021】
2、遅消化性デンプンの含有量の測定
Englyst法を参照して遅消化性デンプンの含有量を測定した。製造したVII-型デンプン-アミノ酸錯体を脱イオン水とともにボルテックス振とうにより均一に混合した。試験管を37℃の振とう恒温水槽に入れて、試験管ごとに8個のガラスビーズ、4mLの酢酸ナトリウム緩衝液(0.5mol/L、pH5.2)を加え、30分間、インキュベートした。インキュベート終了後、製造した直後の混合酵素溶液を加えて、37℃の水浴で振とうした。0、10、20、30、45、60、90、120、180分のそれぞれに加水分解液1mLを取り、無水エタノールで酵素を不活性化した後、グルコース測定キットを用いて、インキュベート液中のグルコースの含有量を測定した。遅消化性デンプンの含有量は、G20(20分間後の放出グルコース)、G120(120分間後の放出グルコース)及びWs(サンプル重量)の値と組み合わせて、以下の式を用いて計算した。
【0022】
3、以下の実験に使用される高温乾熱非晶化装置は、上海博迅公司製のGZX-9146MBE型送風乾燥箱、超音波装置は寧波新芝生物公司製のSB-4200DT超音波処理装置である。
【0023】
実施例1:
(1)乾熱非晶化:米デンプン1000gを秤量して、温度145℃、時間10分に設定して乾熱非晶化処理を行い、次に、水を加えて、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)のデンプン乳を調製した。
(2)アミノ酸錯化:乾熱非晶化処理後のデンプン乳にグルタミン酸をデンプン乳の全質量に対して7%添加した。超音波乳化作用によって錯化し、超音波時間を30分とした。超音波作動周波数30kHz、処理出力800W、温度55℃に設定した。
(3)遠心脱水:ステップ(2)で超音波により得られた米デンプン-グルタミン酸錯体を、遠心回転数5000rpm、遠心時間15分に設定して遠心脱水し、沈殿物を得て、遠心後の錯体の水分含有量は、約58wt%から35wt%に低下した。
(4)結晶転化:ステップ(3)で遠心脱水により得られた生成物をプレス処理し、プレス機の四段温度をそれぞれ90、105、115、125℃、スクリュー回転数を100rpmに設定し、この条件下で錯体をVI-型結晶からVII-型結晶に転化した。
(5)空気乾燥:ステップ(4)でプレスして得られたVII-型デンプン-アミノ酸錯体を、給気口の温度を140℃に設定した空気乾燥機で空気乾燥し、遅消化性デンプンを得た。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸の錯化率は46.7%に達し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は57.4%に達した。
【0024】
実施例2:
(1)乾熱非晶化:米デンプン1000gを秤量して、温度145℃、時間10分に設定して乾熱非晶化処理を行い、次に、水を加えて、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)のデンプン乳を調製した。
(2)アミノ酸錯化:まず、デンプン乳体積に対して0.01倍の使用量の無水エタノールでロイシンを溶解して分散させ、ロイシン添加量がデンプン乳全質量の7%となるように、乾熱非晶化処理後のデンプン乳に、溶解して分散後のロイシンを添加した。超音波乳化作用によって錯化し、超音波時間を30分とした。超音波作動周波数30kHz、処理出力800W、温度55℃に設定した。
(3)遠心脱水:ステップ(2)で超音波により得られた米デンプン-ロイシン錯体を、遠心回転数5000rpm、遠心時間15分の条件で遠心脱水し、沈殿物を得て、遠心後の錯体の水分含有量は約58wt%から35wt%に低下した。
(4)結晶転化:ステップ(3)で遠心脱水により得られた生成物を、四段温度をそれぞれ90、105、115、125℃、スクリュー回転数を100rpmに設定したプレス機でプレス処理し、この条件下で錯体をVI-型結晶からVII-型結晶に転化した。
(5)空気乾燥:ステップ(4)でプレスして得られたVII-型デンプン-アミノ酸錯体を、給気口の温度を140℃に設定した空気乾燥機で空気乾燥して、遅消化性デンプンを得た。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸の錯化率は49.2%に達し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は59.7%に達した。
【0025】
実施例3:
(1)乾熱非晶化:実施例1のステップ(1)と同様であった。
(2)アミノ酸錯化:超音波乳化作用によって錯化し、超音波作動周波数を30kHzから40kHzに調整した以外、残りの操作条件は実施例1と同様であった。
(3)~(5):実施例1のステップ(3)~(5)と同様であった。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸の錯化率は45.3%に達し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は56.2%に達した。
【0026】
実施例4:
(1)乾熱非晶化:実施例1のステップ(1)と同様であった。
(2)アミノ酸錯化:超音波乳化作用によって錯化し、超音波作動出力を800Wから1000Wに調整した以外、残りの操作条件は実施例1と同様であった。
(3)~(5):実施例1のステップ(3)~(5)と同様であった。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸の錯化率は47.3%に達し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は58.2%に達した。
【0027】
実施例5:
(1)~(3)は実施例1のステップ(1)~(3)と同様であった。
(4)結晶転化:ステップ(3)で遠心脱水により得られた生成物を、四段温度をそれぞれ85、100、115、125℃、スクリュー回転数を100rpmに設定したプレス機でプレス処理し、この条件下で錯体をVI-型結晶からVII-型結晶に転化した。
(5):実施例1のステップ(5)と同様であった。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸の錯化率は45.9%に達し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は56.2%に達した。
【0028】
比較例1:
実施例1のステップ(1)の乾熱非晶化の処理方式を水熱糊化に変更し、米デンプン1000gを秤量して、水を加えて、濃度10%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)の米デンプン乳を調製し、沸騰水浴で30分間、処理し、沸騰させながら撹拌し、60℃に冷却して保温した。ステップ(2)~(4)の条件又はパラメータはすべて実施例1と同様であった。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物のデンプンとアミノ酸の錯化率及び遅消化性デンプンの含有量は、それぞれ32.5%及び40.2%に低下した。
【0029】
比較例2:
実施例1のステップ(2)のアミノ酸錯化方法を変え、超音波誘導ステップを省略した。残りのステップはすべて実施例1と同様であった。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物では、デンプンとアミノ酸との錯化率は15.2%まで著しく低下し、遅消化性デンプンの含有量は36.7%に低下し、この比較例によれば、超音波誘導はアミノ酸と米デンプンとの錯化に対して重要なことであり、遅消化性デンプン形成を著しく促進する作用を有することが確認された。
【0030】
比較例3:
実施例1のステップ(4)の結晶転化操作を省略した以外、残りの実験ステップはすべて実施例1と同様であった。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物では、デンプンとアミノ酸との錯化率には明らかな変化がないものの、遅消化性デンプンの含有量は38.8%に低下し、このことから、実施例1のステップ(4)のプレス処理は、VI-結晶をVII-結晶に転化する役割を果たし、「内部包埋、外部吸着」の構造が系の遅消化性デンプンの含有量を向上させる目的をより達成しやすいことが示された。
【0031】
比較例4:
実施例1の遅消化性デンプンの製造方法を変え、従来のアミノ酸ブレンドアニーリング方法によって遅消化性デンプンを製造した。
(1)米デンプン100gを水に溶解して、室温で撹拌し、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)の米デンプン乳を調製した。
(2)デンプン乳にデンプン乳質量に対して5%のグルタミン酸を加え、室温で均一に撹拌した。
(3)混合物を50℃の恒温水浴にて24時間振とうさせ、取り出した後、40℃で水分含有量が10wt%以下となるまで乾燥させ、室温に冷却して、粉碎し、遅消化性デンプンを得た。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物では、デンプンとアミノ酸との錯化率は9.5%に低下し、遅消化性デンプンの含有量は21.4%に低下した。
【0032】
比較例5:
(1)乾熱非晶化:米デンプン1000gを秤量して、実施例1の非晶化温度を145℃から130℃に調整して、乾熱非晶化処理を10分間行い、水を加えて、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)のデンプン乳を調製した。
(2)~(5)は実施例1と同様であった。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸錯化率は29.5%に低下し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は38.3%に低下した。
【0033】
比較例6:
(1)乾熱非晶化:米デンプン1000gを秤量して、温度145℃に設定して、実施例1の処理時間10分から7分に調整して、乾熱非晶化処理を行い、水を加えて、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)のデンプン乳を調製した。
(2)~(5)は実施例1と同様であった。
ヨード比色法を用いて、ステップ(5)で得られた生成物のデンプン-アミノ酸の錯化率を測定したところ、そのデンプン-アミノ酸錯化率は40.1%に低下し、Englyst法を用いて、得られた生成物の遅消化性デンプンの含有量を測定したところ、その遅消化性デンプンの含有量は46.8%に低下した。
【0034】
比較例7:
実施例1の遅消化性デンプンの製造方法を変え、アミノ酸グラフト修飾方法によって遅消化性デンプンを製造した。
(1)米デンプン100gを水中に溶解し、室温で撹拌し、濃度35%(w/w、デンプン乳全質量に対するデンプン乾燥量基準)の米デンプン乳を調製した。
(2)デンプン乳に、デンプン質量に対して5%のグルタミン酸を加え、PBS緩衝溶液で混合液のpHを7.5に調整した。
(3)混合液を70℃恒温水浴に入れて絶えずに撹拌し、恒温反応を1h行った。
(4)ステップ(3)で得られた生成物を遠心処理して、上清液を捨てて、沈殿物Iを得た。遠心回転数5000rpm、遠心時間15分に設定した。
(5)沈殿物Iを脱イオン水で濡らして、遠心処理により上清液を捨てて、沈殿物IIを得た。
(6)沈殿物IIを凍結乾燥させ、遅消化性デンプンを得た。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物では、デンプンとアミノ酸との錯化率は6.3%に低下し、遅消化性デンプンの含有量は18.2%に低下した。
【0035】
比較例8:
実施例1の(2)アミノ酸錯化方法を変え、米蛋白質を用いて錯化する方法によって遅消化性デンプンを製造した以外、残りのステップはすべて実施例1と同様であった。
実施例1に比べて、本比較例で製造された生成物では、デンプンとアミノ酸との錯化率は17.7%に低下し、遅消化性デンプンの含有量は25.1%に低下した。
【0036】
【0037】
表1から分かるように、乾熱非晶化、超音波誘導アミノ酸錯化及び結晶転化(即ち実施例1)により、デンプン系の粘度増加を避け、デンプン-アミノ酸錯化率及び遅消化性デンプンの含有量をそれぞれ最高46.7%と57.4%にすることができる。本発明において、上記の技術又は方法のパラメーターを変更したり、一部の発明ステップを省略したりすると、デンプン-アミノ酸錯化率及び遅消化性デンプンの含有量に顕著な影響を与え、特に米タンパク質錯化と比較して、アミノ酸錯化を好適に使用することにより、顕著な応用上の優位性を有する。本発明は、上記の技術を用いて化学酸・アルカリ試薬の使用を避けることができ、環境にやさしいという優位性がある。さらに、本発明の製品は、薬物徐放補助剤及び低グリセミックインデックス食品(低GI食品)の具材として使用することができ、腸内健康の改善、糖尿病の予防、体重のコントロールなど、優れた生理学的機能を有し、広く応用することができる。
【0038】
本発明は、好ましい実施例で上記のように開示されているが、本発明を限定するために使用されるものではなく、当業者であれば、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができるので、本発明の権利範囲は、特許請求の範囲により規定されるべきである。