(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】肝臓標的化特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを含有する医薬品
(51)【国際特許分類】
C07H 15/04 20060101AFI20220722BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20220722BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220722BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220722BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
C07H15/04 F CSP
A61K47/54
A61K31/198
A61P1/16
A61K9/08
(21)【出願番号】P 2021531388
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 CN2019122318
(87)【国際公開番号】W WO2020108657
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】201811452803.5
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521235062
【氏名又は名称】キロノヴァ (シアメン) バイオファーマ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100166729
【氏名又は名称】武田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】ツイ クンユアン
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107929273(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07H
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓標的化特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを構造中に含有する
化合物であって、
構造中の肝臓標的化特異的リガンドXは、順次、立体障害安定化構造を含有する分岐鎖L、リンカーB、及び連結鎖Dを介して、甲状腺ホルモン受容体アゴニストTに連結され、該
化合物の構造一般式(I)は以下に示され、
(X-L)
n-B-D-T
(ここで、nは
3であり、且つ当該(X-L)
n
-B-D-Tの構造式は
【化1】
であり、
前記
化合物は
下記Kylo-0101~Kylo-0103に示される構造のうちの1種である、ことを特徴とする
化合物。
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
請求項1に記載の
化合物の、甲状腺ホルモン受容体に作用して
非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪性肝炎である肝疾患を治療する
ための医薬品の製造における使用。
【請求項3】
請求項1に記載の
化合物と、薬学的に許容可能な補助材料とを含む、医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物は注射剤である、ことを特徴とする請求項3に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬分野に関し、具体的には標的化医薬品の分野に関し、より具体的には、肝臓を標的とする肝疾患治療用の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓におけるアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)は肝細胞により特異的に発現される受容体であり、高効率なエンドサイトーシス型受容体である。生体内の生理学的条件下で各種の糖タンパク質は、酵素や酸でシアル酸を加水分解された後、露出したペナルティメートがガラクトース残基であるため、ASGPRが特異的に結合する糖はガラクトシル基であり、それでガラクトース特異的受容体とも呼ばれる。ガラクトース、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミンなどの単糖や多糖分子はそれに対して高い親和性を有する。ASGPRの主な生理学的機能は血液中のアシアロ糖タンパク質、リポタンパク質などの物質の除去を媒介することであり、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝臓癌などの肝疾患の発症や進行と密接な関係がある。このようなASGPRの特性の発見によって、肝疾患の診断や治療に重要な役割が果たされている(AshwellG、HarfordJ,Carbohydrate specific Receptors of the Liver[J],AnnRevBiochem 1982 51:531-554)。
【0003】
単糖又は多糖分子が細胞の膜上の受容体を標的として薬物送達システムに使用される場合のフィージビリティスタディは1971年に始まった(Benjamin Gら,Current Opinion in Drug Discovery & Development 5: 279-288;Rogers JC ら,Biochem Biophys Res Commun 45:622-629)。ガラクトース分子に対して特異的に結合するというASGPRの特性は、バイオ医薬品の研究開発分野で重要視されている(Schwartz ALら,J. Biol. Chem. 255:9033-9036;M. Spiess, Biochemistry 29:10009-10018)。このようなASGPRの特性は、ガラクトース又はガラクトサミン及びその誘導体を構造中に含有する肝疾患治療薬の送達に標的性を持たせ、その薬効が肝臓で発生することを確保し、他の組織への分布を減少させることで、他の部位への医薬品の副作用を低減させることができる。初期の研究者は、ASGPRの利点を認識して、多くの努力をしている。このようなASGPRの特性を利用して、遺伝子断片をその特異的リガンドであるガラクトース又はアセチルガラクトサミンに連結して、肝細胞に標的に導入するということが既に研究されている(Seymour L. J.,Clin. Oncol. 20:1668-1676)。研究した結果、クラスター化された糖残基は同時にASGPR受容体の結合部位を占めることによって、その親和性をクラスター化されていない糖残基よりはるかに高くすることができ、三糖残基の親和性は単糖残基より50~100倍高く、その親和性の順序は、四糖残基>三糖残基>>二糖残基>>単糖残基である。四糖残基は、三糖残基に対して、ASGPRとの親和性が大きく改善されたことがない。これは、受容体への三糖残基の結合が飽和していることによる可能性がある。このような現象は「クラスター効果」(cluster effect)と呼ばれる。
【0004】
初期の研究では、Merwinら(Merwin J Rら,Bioconjug Chem 1994 5 (6): 612-620)は3つのガラクトサミンで修飾されたベクターシステムを設計して合成している。このシステムは、動物の体内でプラスミドDNAが迅速で大量にマウス肝臓に濃縮することを媒介し、ルシフェラーゼをうまく発現することができることが証明されている。その後、研究では、ガラクトサミンをアンチセンスヌクレオチド(オリゴデオキシヌクレオシドメチルホスホネート、oligodeoxy nucleoside methyl phosphonate, Oligo-MP)(Hangeland J Jら,Bioconjug Chem 1995 6(6):695-701)、アンチセンスペプチド核酸(antisense peptide nucleic acid、asPNA)(Biessen E A,Bioconjug Chem 2002 13(2): 295-302)などの投与に適用したことがありいずれも好適な治療効果が得られた。米国のアルナイラム・ファーマシューティカルズ社(Alnylam Pharmaceuticals Inc.)は、このようなASGPRの特性を利用した投与メカニズムにおいて画期的な進展を遂げており、アミロイド病変の治療に使用されるALN-TTRSC製品がすでに臨床第II相である。
【0005】
本明細書は、ASGPRの上記特性を利用してASGPRの特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを構造中に含有する化合物を提供し、分岐鎖、リンカー、及び連結鎖を介して、肝臓標的化特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを連結して、新たな化合物構造とするものである。
【0006】
甲状腺ホルモン受容体(TRs)はTR-αとTR-βという2つのサブタイプに分けられている。これらは2つの遺伝子の核ホルモン受容体である(Lazar M.,Endocr. Rev. 14: 348-399)。この2つの受容体は、組織発現の存在量の違いにより、異なる生理学的効果を媒介し、つまり、この2つの受容体は異なる組織特異性を有する(Forrest D.ら,Thyroid 10:41-51)。そのうち、TR-αは心拍(HR)を調節する主な受容体であり(Johansson C.ら,Am J. Physiol. 275:R640-R646.;Gloss B.ら, Endocrinology 142:544-551.)、TR-βは主に肝臓で発現し、TR-βアゴニスト(甲状腺ホルモンの構造に基づいて改変した新規化合物の一種であるサイロキシンアナログ化合物)は非アルコール性脂肪性肝(NAFLD)を治療する新薬の重要な開発分野であり、新薬の一部はすでに臨床研究に進んでおり、例えばTRs選択的アゴニストGC-1(Sobetirome、TRs選択的アゴニストの一種であり、非アルコール性脂肪性肝治療薬として期待されるものであり、Bristol-Myers Squibb社によって開発された)は血漿コレステロールレベルを効率的に低下させ、マウスの心臓への作用を最小限に抑えるが、GC-1も、心臓への侵入が比較的低く現れただけであり、期待されるTR-βを特異的に作動させる高選択性アゴニスト(Trost Sら,Endocrinology 141:3057-3064)ではなく、最終的に臨床第I相で終了した。もう一つのTRs選択的アゴニストであるKB2115(一般名Eprotrome、米国Karo Bio社により開発された)は特異的な薬理学のため、臨床第III相で終了した。臨床価値のある肝疾患治療用のTR-βアゴニストについては、広い治療用量範囲を持っていなければならなく、心拍数の過速や他の組織への副作用がなく、コレステロール(TC)の低下に対して高い選択性を有し、安全で有効である。現在開発中のTRs選択的アゴニストはこれらの条件を完全に満たすことができない。
【0007】
非アルコール性脂肪性肝は、アルコールと他の明確な肝臓損傷因子以外の因子によるものであり、肥満、高コレステロール血症や糖尿病に関連する代謝性疾患であり、単純性脂肪肝及びそれから発展した脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変を含む。現在、治療介入方法は主にライフスタイルの変化に基づいたものであり、食事と運動を含む(Me’ndez-Sa’nchez N,ら Liver Int 2007 27:1157-1165;Oh MKら, Aliment Pharmacol Ther 28: 503-522)。まだ、承認された治療薬がない。
【0008】
生理的甲状腺ホルモン[サイロキシン(T4)及び3,3’,5-トリヨード-L-サイロニン(T3)]は、様々な経路を介してグルコースや脂質代謝を調節し、脂質代謝について重要な生理的役割を果たしている。全身に広く分布している特定のホルモン受容体TR-αやTR-βと相互作用することで影響を及ぼす。TR-βは主に肝臓で発現し、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの低下、全身肥満と体重の減少を含む重要な影響を脂質代謝に与え(Pramfalk C ら,Biochim Biophys Acta 1812: 929-937)、かつ、肝臓の脂質代謝率を高めることによって脂質含有量を減らすことができる。Perra Aらのある研究結果から、T3が肝細胞の脂肪変性を抑制し、脂肪変性した肝細胞を修復できることが明らかにした(Perra Aら,FASEB J 22: 2981-2989)。これは、非アルコール性脂肪性肝に対するT3の優れた潜在的治療効果を示している。
【0009】
しかし、過量の甲状腺ホルモンは副作用、特に心臓(頻脈や突然死を含む)、骨や筋肉の不良反応を引き起こしやすい(Braverman LE ら,editors. Lippincott: The Thyroid 2000:515-517)。甲状腺ホルモンのこれら悪影響により、非アルコール性脂肪性肝治療への更なる適用が制限されている。甲状腺ホルモンによる心臓や他の臓器への副作用を解消又は低減できれば、予測可能な治療効果が得られる。肝臓を標的とする送達によって、甲状腺ホルモン、GC-1、及びKB2115などのサイロキシンアナログ化合物を肝臓に送達し、肝臓以外の他の組織への送達を減少したり、回避したりする。これは、NAFLD/NASH治療用の新薬の開発における革新である。この発明は臨床的かつ現実的な経済的意義を有する。
【0010】
したがって、発明により、甲状腺ホルモンT3、T4及びその代謝物、又は副作用のために薬剤化できない肝疾患治療用のサイロキシンアナログ化合物を化合物の一部として、肝細胞に直接標的化した、新しい構造を有する化合物を製造し、他の組織に対する従来の医薬品の副作用を減少させた方が、研究開発の考え方を革新しただけでなく、現在、非アルコール性脂肪性肝の治療において臨床的に専用の有効な薬物がないという現状を改善した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アシアロ糖タンパク質受容体の上記特性を利用して、副作用のために薬剤化できない肝疾患治療用の化合物又は候補化合物を肝臓に標的に送達し、対応する疾患を治療するものである。より具体的に、本発明は、アシアロ糖タンパク質受容体とそのリガンドとの高い親和性を利用して、治療用化合物を肝臓以外の組織細胞にほとんど又は全く送達せずに、肝細胞に特異的に送達可能な化合物を合成することで、治療用化合物の肝臓以外の組織細胞への副作用を低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、肝臓標的化特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを構造中に含有する医薬品を製造する。
【0013】
前記肝臓標的化特異的リガンドは、ガラクトース及びその誘導体、好ましくは、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン又は三価アセチルガラクトサミンである。
【0014】
前記医薬品中の肝臓標的化特異的リガンドXは、順次、立体障害安定化構造を含有する分岐鎖L、リンカーB、及び連結鎖Dを介して、甲状腺ホルモン受容体アゴニストTに連結され、該医薬品の構造一般式(I)は以下に示される。
【0015】
(X-L)n-B-D-T
【0016】
(ここで、nは1~15の正の整数である。)
【0017】
前記構造一般式(I)中、リンカーBは複数回分岐しており、得られた分岐鎖は、構造一般式(I)中のn個の(X-L)と1つの(D-T)とを連結する。
【0018】
いくつかの好適な実施例では、nが1より大きい場合、各Xの構造は同一であってもよく、異なってもよい。
【0019】
いくつかの好適な実施例では、nが1より大きい場合、各Lの構造は同一であってもよく、異なってもよい。
【0020】
n=1である場合、構造一般式(I)は、X-L-B-D-Tである。
【0021】
n=2、3、4、5又は6である場合、構造一般式(I)の構造は順次下記式に示される。
【化1】
;
【化2】
;
【化3】
;
【化4】
;
【化5】
。
【0022】
前記肝臓標的化特異的リガンドは、多糖、多糖誘導体、単糖、及び単糖誘導体の構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0023】
前記単糖はマンノース、ガラクトース、D-アラビノース、グルコース、フルクトース、キシロース、グルコサミン、リボースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0024】
前記マンノースは、D-マンノピラノース、L-マンノピラノース、α-D-マンノフラノース、β-D-マンノフラノース、α-D-マンノピラノース、β-D-マンノピラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0025】
前記ガラクトースは、L-ガラクトース、D-ガラクトース、α-D-ガラクトピラノース、β-D-ガラクトピラノース、α-D-ガラクトフラノース、β-D-ガラクトフラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0026】
前記グルコースは、D-グルコース、L-グルコース、α-D-グルコピラノース、β-D-グルコピラノース、α-D-グルコフラノース、β-D-グルコフラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0027】
前記フルクトースは、α-D-フルクトフラノース、α-D-フルクトピラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0028】
前記キシロースは、D-キシロフラノース、L-キシロフラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0029】
前記リボースは、リボース、D-リボース、L-リボースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0030】
前記単糖誘導体は、マンノース誘導体、ガラクトース誘導体、グルコース誘導体、リボース誘導体及び他の誘導体の構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0031】
前記マンノース誘導体は、4,6-ジデオキシ-4-ホルミルアミノ-2,3-ジ-O-メチル-D-マンノピラノースである。
【0032】
前記ガラクトース誘導体は、α-D-ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、4-チオ-β-D-ガラクトピラノースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0033】
前記グルコース誘導体は、2-アミノ-3-O-[(R)-1-カルボキシエチル]-2-デオキシ-β-D-グルコピラノース、2-デオキシ-2-メチルアミノ-L-グルコピラノース、2-デオキシ-2-スルホアミノ-D-グルコピラノース、5-チオ-β-D-グルコピラノース、メチル2,3,4-トリ-O-アセチル-1-チオ-6-O-トリチル-α-D-グルコピラノシドの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0034】
前記リボース誘導体は、D-4-チオリボース、L-4-チオリボースの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0035】
前記他の誘導体は、2,5-アンヒドロ-D-アロースニトリル、シアル酸、N-グリコリル-α-ノイラミン酸、エチル3,4,6,7-テトラ-O-アセチル-2-デオキシ-1,5-ジチオ-α-D-グルコヘプトピラノシドの構造から選ばれる1種又は複数種である。
【0036】
前記肝臓標的化特異的リガンドの一般的な構造式(II)は以下に示される。
【化6】
(ここで、R
1、R
2、及びR
3は水素又はヒドロキシ保護基である。)
【0037】
前記ヒドロキシ保護基は、アシル基、及びシラニル基の構造から選ばれる。
【0038】
好ましくは、前記ヒドロキシ保護基は、アセチル基、ベンゾイル基、フェノキシ-アセチル基、ピバロイル基、イソブチリル基、t-ブチルジメチルシラニル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、及びイソプロピルジメチルシリル基の構造から選ばれる。
【0039】
いくつかの好適な実施例では、前記肝臓標的化特異的リガンドは、以下の構造から選ばれる1種又は複数種である。
【化7】
(ここで、R1は、OH、及びNHC(O)CH
3から選ばれる1種又は2種類である。)
【0040】
いくつかの好適な実施例では、肝臓標的化特異的リガンドはアセチルガラクトサミンである。
【0041】
前記分岐鎖Lは、下記構造から選ばれる1種又は複数種である。
【化8】
(式中、n1は1~10の正の整数であり、mは1~5の正の整数であり、n2は0~20の整数であり、n3は0~12の正の整数であり、ZはH又はCH
3であり、立体障害安定化構造を含有する分岐鎖Lの左側末端は肝臓標的化特異的リガンドXに連結され、右側末端はリンカーBの左側末端部分に連結される。)
【0042】
前記リンカーBは、以下の構造式から選ばれる。
【化9】
(ここで、A
1はC、O、S又はNHであり、r1は1~15の正の整数であり、A
2は、C1~C10直鎖アルカン、アミノ基、アミド基、ホスホリル根、チオホスホリル基、酸素原子、硫黄原子又は環状化合物を有する断片から選ばれ、r2は0~15の整数である。)
【0043】
前記リンカーBは、以下の構造式から選ばれる。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
(ここで、r1、r3、r4、r5は1~15の正の整数であり、r6は1~20の正の整数であり、r7は2~6の正の整数であり、r8は1~3の正の整数である。)
【0044】
前記リンカーBは、以下の構造から選ばれる。
【化15】
【化16】
前記連結鎖Dは、C5~C20を含有し、アミノ基、カルボニル基、アミド基、酸素原子、硫黄原子、チオホスホリル基、ホスホリル基、環状構造又はこれらの基の組み合わせを含有することができ、連結鎖Dの右側末端は甲状腺ホルモン受容体アゴニストTの対応する部位に連結される。
【0045】
前記連結鎖Dは、下記構造から選ばれてもよい。
【化17】
(ここで、nは、それぞれ、1~20の正の整数であり、且つnは、それぞれ、同一又は異なる正の整数である。)
【0046】
前記連結鎖Dは、以下の構造から選ばれる1種である。
【化18】
【化19】
前記連結鎖Dは、ピロリジン又はアミドを含まない。
【0047】
前記連結鎖Dは、ピロリジン、PEG、アミド、アミン、ジスルフィド結合及び少なくとも2つのアミドの構造式のうちの1種を含む。
【0048】
前記連結鎖Dは、以下の構造から選ばれる1種である。
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
(ここで、nは、それぞれ、1~20の正の整数であり、nは、それぞれ、同一又は異なる正の整数であり、pは1~6の正の整数であり、sは2~13の正の整数であり、R
1及びR
2は、同一又は異なる置換基であり、その構造式は、-H、-CH
3、-CH-(CH
3)
2、-CH
2-CH(CH
3)
2、-CH(CH
3)-CH
2-CH
3、-CH
2-C
6H
5、-C
8NH
6、-CH
2-C
6H
4-OH、-CH
2-COOH、-CH
2-CONH
2、-(CH
2)
2-COOH、-(CH
2)
4-NH
2、-(CH
2)
2-CONH
2、-(CH
2)-S-CH
3、-CH
2-OH、-CH(CH
3)-OH、-CH
2-SH、-CH
2-C
3H
3N
2、-(CH
2)
3NHC(NH)NH
2のうちの1種であってもよい。)
【0049】
前記連結鎖Dは、以下の構造から選ばれる1種である。
【化24】
【化25】
前記医薬品の一般式構造中、(X-L)
n-B基は、以下の構造から選ばれる1種であり、且つ(X-L)
n-Bの右側末端は連結鎖Dの左側末端に連結される。
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
前記甲状腺ホルモン受容体アゴニストは、以下の構造一般式を有する。
【化31】
(ここで、Aは、酸素、硫黄、カルボニル基、メチレン基、又はアミノ基であり、R1はC1~C4直鎖又は分岐アルキル基、-CH
2(含窒素複素環)、-CH(OH)(ハロゲン化ベンゼン又は芳香族炭化水素)、-CH(OH)CH
3、ハロゲン原子又は水素であり、R
2はハロゲン原子、-CH
3又は水素であり、R
3はハロゲン原子、CH
3又は水素であり、R
4は-CH
2CH(NH)COOH、-OCH
2COOH、-NHC(O)COOH、-CH
2COOH、-NHC(O)CH
2COOH、-CH
2CH
2COOH、-OCH
2PO
3
2-、-NHC(O)CH
2COOH、OH、ハロゲン原子又はC1~C4アルキル基である。)
【0050】
前記甲状腺ホルモン受容体アゴニストは、サイロキシン(T4)又はトリヨードサイロニン(T3)又はその代謝物であり、甲状腺ホルモン受容体アゴニスト構造は下図に示される構造のうちの1種である。
【化32】
前記甲状腺ホルモン受容体アゴニストは下記特徴的構造のうちの1種である。
【化33】
(ここで、R6はC1~C4直鎖又は分岐アルキル基又は水素であり、R5はC1~C8アルキル基であり、R7はハロゲン原子、C1~C4アルキル基であり、R8はC1~C4直鎖又は分岐アルキル基又は水素であり、R9は-CH
2CH(NH)COOH、-OCH
2COOH、-NHC(O)COOH、-CH
2COOH、NHC(O)CH
2COOH、CH
2CH
2COOH、-OC
H2PO
3
2-、-NHC(O)CH
2COOH、OH、ハロゲン原子又はC1~C4アルキル基である。)
【0051】
前記甲状腺ホルモン受容体アゴニストの構造は以下に示される。
【化34】
(ここで、Xは酸素、硫黄、カルボニル基、メチレン基、又はアミノ基であり、YはC1~C5アルキル炭素鎖及びC=Cのうちの1種であり、R
1はハロゲン原子、トリフルオロメチル基、C1~C6のアルキル基、C3~C7のシクロアルキル基であり、R
2及びR
3は水素、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基又はC3~C7のシクロアルキル基のうちの1種又は2種類であり、R
2及びR
3のうち、一方は必ず水素原子であり、R
4は水素又はC1~C4のアルキル基であり、R
5は水素又はC1~C4のアルキル基であり、R
6はカルボン酸又はエステル結合であり、R
7は水素、アシル基又はアロイル基である。)
【0052】
具体的には、前記甲状腺ホルモン受容体アゴニストの構造は下記構造のうちの1種である。
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
。
【0053】
前記医薬品の一般式構造(X-L)
n-B-D-Tは、Kylo-0101~Kylo-0104に示される構造のうちの1種である。
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
甲状腺ホルモン受容体に作用して肝疾患を治療する医薬品の製造における、前記医薬品の適用。
【0054】
前記甲状腺ホルモン受容体はアシアロ糖タンパク質受容体であり、前記肝疾患は非アルコール性脂肪性肝及び非アルコール性脂肪性肝炎である。
【発明の効果】
【0055】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は次の通りである。
【0056】
(1)本発明は、肝細胞内の甲状腺ホルモン受容体を特異的に標的化・活性化することにより、脂質代謝障害及び関連合併症を治療し、非アルコール脂肪肝臓、非アルコール脂肪肝臓炎及び肝臓線維症を逆転させる。
【0057】
(2)本明細書は、分岐鎖、リンカー、及び連結鎖を介して、肝臓標的化特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを連結して、新たな化合物構造とする、肝臓標的化アシアロ糖タンパク質受容体の特異的リガンドと甲状腺ホルモン受容体アゴニストとを構造中に含有する医薬品を提供する。
【0058】
(3)甲状腺ホルモン受容体(TRs)は、TR-αとTR-βという2つのサブタイプに分けられ、TR-βは主に肝臓、TR-αは主に心臓や神経系などで発現しており、本発明による医薬品は、肝臓を標的とする作用を有し、甲状腺ホルモン受容体アゴニストを肝臓に特異的に送達し、心臓や他の組織への侵入を回避し、TR-αに対する甲状腺ホルモン受容体アゴニストの作用に起因する副作用を回避しながら、脂質代謝障害及び関連合併症に対する治療効果を保持することができる。
【0059】
(4)含有する立体障害安定化構造である分岐鎖Lは、新薬において立体障害安定化剤として機能し、立体障害安定化構造を含まない医薬品に比べて、分岐鎖Lは結合した医薬品の分子間又は分子内の相互作用を阻止又は抑制することができ、結合した医薬品の静電相互作用への関与も阻止できる。前記静電相互作用は、正電荷と負電荷との間の引力による2つ以上の物質間の非共有結合である。本発明の医薬品では、分岐鎖Lは、医薬品と血液成分との相互作用、例えばファージ作用を阻害し、結合する分子のサイクル時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明の目的、技術案及び有益な効果をより明確にするために、本発明は以下のような図面を提供して説明する。
【
図1】Kylo-0101の高分解能質量分析スペクトルである。
【
図2】Kylo-0102の高分解能質量分析スペクトルである。
【
図3】Kylo-0103の高分解能質量分析スペクトルである。
【
図4】実施例4におけるdb/dbマウスの血清中の総コレステロール(TC)含有量の検出結果である。
【
図5】実施例4におけるdb/dbマウスの血清中の低密度リポタンパク質(LDL)含有量の検出結果である。
【
図6】実施例4におけるdb/dbマウスの血清中のトリグリセリド(TG)含有量の検出結果である。
【
図7】実施例4におけるdb/dbマウス骨密度(BMD)の検出結果である。
【
図8】実施例4におけるdb/dbマウス体重、脂肪含有量、及び筋肉含有量に対する実験医薬品の影響である。
【
図9】実施例5におけるdb/dbマウスの血清中のTCレベルに対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図10】実施例5におけるdb/dbマウスの血清中のLDLレベルに対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図11】実施例5におけるdb/dbマウスの血清中のTGレベルに対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図12】実施例5におけるdb/dbマウス体重に対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図13】実施例5におけるdb/dbマウスの体内脂肪及び筋肉の含有量に対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図14】実施例5におけるdb/dbマウス骨密度に対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図15】実施例5におけるdb/db肝臓の重量に対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図16】実施例5におけるオイルレッド及びHE染色肝臓切片の組織病理学写真である。
【
図17】実施例5における肝臓病理学的検査染色の平均定量結果である。
【
図18】実施例5におけるdb/dbマウスの血清中のfT3濃度に対する各用量のKylo-0101の影響である。
【
図19】実施例5におけるdb/dbマウスの血清中のTSHに対する各用量のKylo-0101の影響である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下の実施例は、本発明で開示されるいくつかの実施形態を説明するが、これらに限定されるものではない。また、発明者は、具体的な実施形態を提供する際に、それらの具体的な実施形態の適用を予測した。例えば、特定の同種又は類似の化学構造を有する化合物は、異なる肝疾患の治療に用いられる。
【0062】
説明:
pip:ピペリジン;
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド;
Dde-Lys(Fmoc)-OH:N-1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシリデン)エチル-N’-フルオレニルメトキシカルボニル-L-リジン;
HBTU:O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート;
DIPEA(DIEA):N,N-ジイソプロピルエチルアミン;
Fmoc-Glu-OtBu:フルオレニルメトキシカルボニル-L-グルタミン酸-1-t-ブチルエステル;
TBTU:O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート;
ACN:アセトニトリル;
MTBE:メチルtert-ブチルエーテル;
【化43】
:固相担体、たとえば樹脂(Resin);
本出願に係る2種類の物質の比とは、特に明記していない場合、いずれも体積比をいう。
【0063】
本出願に係る含有量とは、特に明記していない場合、いずれも体積パーセント濃度をいう。
【0064】
実施例1:医薬品1(Kylo-0101)の製造
(1)化合物1-1から下記に示される化学反応によって化合物1-2を生成した。
【化44】
【0065】
化合物1-1(0.31g,0.1mmol)を秤量して合成管に注入し、pip/DMF(2ml/8ml)を加えて、窒素バブリングを30~40min行った後、真空で取り除き、毎回DMF 10mlを用いて化合物1-2を3回洗浄し、pip及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0066】
(2)化合物1-2から下記に示される化学反応によって化合物1-3を生成した。
【化45】
Dde-Lys(Fmoc)-OH(0.16g,0.3mmol)、HBTU(0.114g,0.3mmol)を秤量して合成管に加えて、DMF(10mL)を加えて以上の固体を溶解した後、DIPEA(55μL)を加えて窒素バブリングを30~60min行い、反応液を除去した後、毎回DMF 10mlを用いて残りの固体化合物1-3を3回洗浄し、HBTU、DIPEA、及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0067】
(3)化合物1-3から下記に示される化学反応によって化合物1-4を生成した。
【化46】
【0068】
化合物1-3を容れた合成管にpip/DMF(2ml/8ml)を加えて、窒素バブリングを20~30min行った後、反応液及び反応により生成された不純物を真空吸引し、次に、毎回DMF 10mlを用いて残りの固体化合物1-4を2回洗浄し、pip及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0069】
(4)化合物1-4から下記に示される化学反応によって化合物1-5を生成した。
【化47】
Fmoc-Glu-OtBu(0.13g,0.3mmol)、HBTU(0.114g,0.3mmol)を秤量して化合物1-4(0.1mmol)に加えて、DMF(10mL)を加えて以上の固体を溶解した後、DIPEA(55μL)を加えて窒素バブリングを15~30min行い、反応液を除去した後、毎回DMF10mlを用いて残りの固体化合物1-5を3回洗浄し、HBTU、DIPEA、及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0070】
(5)化合物1-5から下記に示される化学反応によって化合物1-6を生成した。
【化48】
【0071】
化合物1-5(0.1mmol)にpip/DMF(2ml/8ml)を加えて、窒素バブリングを15~30min行った後、反応液及び反応により生成された不純物を真空除去し、次に、毎回DMF 10mlを用いて、残りの化合物1-6を6回洗浄し、pip、及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0072】
(6)トリヨードサイロニンから下記に示される化学反応によって化合物1-7を生成した。
【化49】
【0073】
トリヨードサイロニン0.5gを秤量して、ナスフラスコに投入し、ジオキサン4ml、精製水1ml、トリエチルアミン0.3ml、Boc-酸無水物232mgを加え、室温、遮光下、撹拌しながら2h反応させ、水4ml、ジクロロメタン10mlを加え、塩酸を滴下してpH値を4に調整し、静置して成層し、水層にジクロロメタン10mlを加えて再度1回抽出し、有機層を併合し、無水硫酸ナトリウム5gを加えて乾燥させ、ろ過してろ液をロータリーエバポレータで乾固まで濃縮させ、濃縮物に石油エーテル20mlを加えてビーティングし、ろ過してろ過ケーキを石油エーテル40mlで洗浄し、ろ過ケーキを減圧下で吸引乾燥し、化合物1-7(白色固体)630mgを得た。
【0074】
(7)化合物1-6から下記に示される化学反応によって化合物1-8を生成した。
【化50】
【0075】
化合物1-7(0.23g,0.3mmol)、HBTU(0.114g,0.3mmol)を秤量して化合物1-6 0.1mmolを含有する合成管に加え、DMF(10mL)を加えて以上の固体を溶解した後、DIPEA (55μL)を加えて、窒素バブリングを10~20min行い、反応液を除去した後、毎回DMF 10mlを用いて、残りの化合物1-8を3回洗浄し、HBTU、DIPEA、及び反応にて生じた活性エステルを除去した。
【0076】
(8)化合物1-8から下記に示される化学反応によって化合物1-9を生成した。
【化51】
【0077】
化合物1-8(0.1mmol)にヒドラジン水和物/DMF(0.2ml/9.8ml)溶液を加え、窒素バブリングを10min行った後、ヒドラジン水和物のDMF溶液を真空除去し、毎回DMF 10mlを用いて、化合物1-9を6回洗浄し、ヒドラジン水和物及び反応にて生じた不純物を除去した。
【0078】
(9)化合物1-10の製造:
ステップ1:
【化52】
1,5-グルタル酸モノベンジル0.21gを秤量して、DMF 2mlで溶解し、次に、TBTU 0.36g及びDIEA 0.4mlを加え、撹拌しながら5分間反応させ、化合物a 1.09gをDMF 10mlに溶解して、上記反応液に緩やかに加え、室温で撹拌しながら一晩反応させ、反応液を減圧下で乾固まで蒸発させた後、ジクロロメタン40ml、水20mlを加えて、15分間撹拌し、成層して、有機層を無水硫酸ナトリウム10gで乾燥させ、乾燥後の有機層をクロマトグラフィーカラム(溶離剤:ジクロロメタン:メタノール=1%~10%)に通し、薄層クロマトグラフィー(展開剤には、体積比で10:1のジクロロメタンとメタノールが含まれる)によって、収集すべき目標物質の化合物bを同定し、純品化合物bを含有する溶離剤を収集し、溶媒を減圧下で乾固まで蒸発させ、白色製品の化合物b 0.85gを得た。
【0079】
ステップ2:
【化53】
100mlの一つ口フラスコに化合物b 0.85gを投入して、パラジウム炭素127mgを加え、水ポンプで真空吸引し、水素ガスを補充して、3回繰り返し、水素ガスを加圧して一晩反応させ、翌日、反応液のTLC薄層クロマトグラフィーにおいて化合物bの点が見られなかった。ろ過し(12g珪藻土でろ過促進)、ろ液を減圧下で乾固まで蒸発させ、化合物1-10を重量で90.76g得た。
【0080】
(10)化合物1-9及び化合物1-10から下記に示される化学反応によって化合物1-11を生成した。
【化54】
【0081】
化合物1-10(0.57 g,0.3mmol)、HBTU(0.114g,0.3mmol)を秤量して、化合物1-9(0.1mmol)を容れた合成管に投入し、DMF(10mL)を加えて以上の固体を溶解した後、DIPEA(55μL)を加えた後、窒素バブリングを10~20min行い、反応液を除去した後、毎回DMF 10mlを用いて、残りの化合物1-11を洗浄した。
【0082】
(11)化合物1-11から下記に示される化学反応によって化合物1-12を生成した。
【化55】
【0083】
F溶液(6ml、トリフルオロ酢酸:トリイソプロピルシラン:水=90:3.5:5.5)を、化合物1-11(0.3g,0.05mmol)を容れた遠心分離管に緩やかに注入し、温度30~35℃、回転数200r/minに制御して、1時間切断した後取り出し、固体をろ過除去し、ろ液(5ml)をMTBE(20ml)に緩やかに注入し、懸濁液を遠心分離機で遠心分離し、回転数を3000r/minに設定して、固体をMTBE(20ml)で分散させた後、再度遠心分離し、固体を収集して1時間真空吸引し、白色粉末46mgを得て、化合物1-11換算で収率は34%であった。
【0084】
得られた白色粉末をACN/水2ml(0.2ml/1.8ml)で溶解してローディングした後、フィラーとして商品名GE Resource15RPC(50ml)を用い、移動相を水とアセトニトリルの混合物(アセトニトリル含有量10%~90%)として、勾配溶離を行い、全部の製品を収集して、凍結乾燥させ、純品化合物1-12を12mg得た。
【0085】
(12)化合物1-12から下記に示される化学反応によって医薬品1(Kylo-0101)を生成した。
【化56】
凍結乾燥後の化合物1-12(12mg、0.0043mmol)をナトリウムメトキシド/メタノール(20mg/ml)溶液に加えて、シェーカー温度30~35℃、回転数200r/minに設定して、20min振とうさせ、反応液に1mol/L HCl(5~7滴)を加えてpHを7に調整し、回転蒸発により溶媒を蒸発させ、水浴温度40~45℃で、残留物にACN/水2ml(0.2ml/1.8ml)を加えて溶解した後、ローディングし、フィラーとして商品名GE Resource15RPC(10ml)を用い、移動相を水とアセトニトリルの混合物(アセトニトリル含有量10%~90%)として精製し、溶離して全部の製品を収集し、凍結乾燥させた後、純品医薬品1(Kylo-0101)7mgを収率67.3%で得て、
図1に示すように、Kylo-0101の質量分析検出の結果、質量対電荷比が2である場合、目標ピークは1232.35108(2+)であった。
【0086】
実施例2:医薬品2(Kylo-0102)の製造
化合物2~1から下記に示される化学反応によって医薬品2(Kylo-0102)を生成した。
【化57】
【0087】
化合物2~1(20mg、0.0078mmol)にナトリウムメトキシド/メタノール(20mg/5ml)溶液を加えて、シェーカー温度30-35℃、回転数200r/minに設定して、30min振とうさせ、反応液に1mol/L HCl(5~7滴)を加えてpHを7に調整し、回転蒸発により溶媒を蒸発させ、水浴温度40~45℃で、残留物にACN/水(0.2ml/1.8ml)を加えて溶解した後、ローディングし、フィラーとして商品名GE Resource15RPC(10ml)を用い、移動相を水とアセトニトリルの混合物(アセトニトリル含有量10%~90%)として精製し、溶離して全部の製品を収集し、凍結乾燥させて純品医薬品2(Kylo-0102)12mgを収率71.1%で得て、
図2に示すように、Kylo-0102の質量分析検出の結果、質量対電荷比が1である場合、目標産物は2201.55613(1+)であり、質量対電荷比が2である場合、目標産物は1111.75962(2+)であった。
【0088】
実施例3:医薬品3(Kylo-0103)の製造方法
化合物3-1から下記に示される化学反応によって医薬品3(Kylo-0103)を生成した。
【化58】
【0089】
化合物3-1(20mg、0.0076mmol)にナトリウムメトキシド/メタノール(20mg/5ml)溶液を加えて、シェーカー温度30~35℃、回転数200r/minに設定して、30min振とうさせ、反応液に1mol/L HCl(5~7滴)を加えてpHを7に調整し、回転蒸発により溶媒を蒸発させ、水浴温度40~45℃で、残留物にACN/水(0.2ml/1.8ml)を加えて溶解した後、ローディングし、フィラーとして商品名GE Resource15RPC(10ml)を用い、移動相を水とアセトニトリルの混合物(アセトニトリル含有量10%~90%)として精製し、溶離して全部の製品を収集し、凍結乾燥させて純品医薬品3(Kylo-0103)12.5mgを収率72.7%で得て、
図3に示すように、Kylo-0103の質量分析検出の結果、質量対電荷比が1である場合、目標産物は2283.69975(1+)であった。
【0090】
実施例4 動物実験1
材料:6週齢、雄性、SPFグレード、南京大学-南京生物医薬研究院より提供、生産ライセンス番号:SCXK(蘇)2015-0001、動物合格証番号NO.201820469、使用ライセンス番号:SCXK(蘇)2018-0027の遺伝的肥満モデルマウス(db/dbマウス)30匹を投与群として選択する。実験前にマウスを環境に適応させる必要があり、健全マウスを試験動物とした。IVCケージにおいて5匹/ケージの密度で飼育し、1週あたりマットを2回交換した。実験動物室への要求:室温22~24℃、相対湿度40~70%、自動照明、12h明暗交替(08時00分点灯、20時00分消灯)、実験動物室標準は中華人民共和国国家標準GB14925-2010に合致する。
【0091】
実験医薬品:表1を参照。
【表1】
備考:Kylo-0100はT3であり、陽性対照薬として使用され、実験医薬品は生理食塩水で溶解した。
【0092】
キシラジンとケタミンの混合麻酔剤の調製:混合液中のキシラジン及びケタミンの濃度はそれぞれ10mg/ml、0.5mg/mlであった。
【0093】
群分け及び投与プロトコルを表2に示す。
【0094】
【0095】
1週あたり体重を2回秤量し、21日間連続して投与し、最後の投与終了後、一晩15~16時間断食させ、マウスをCO2で麻酔して殺し、心臓穿刺で血液を採取し、室温で2時間静置し、低温遠心分離機3000RPMで10分間遠心分離し、血清を収集して-80℃の冷蔵庫で保存して使用に備えた。血液生化学装置を用いて血清中の総コレステロール(TC)、低密度リポタンパク質(LDL)、トリグリセリド(TG)の含有量を測定した。
【0096】
投与介入18日目に、マウスに麻酔剤(キシラジンとケタミン、10ml/Kg、IP)を腹腔内注射し、骨密度計でマウスの骨密度と体脂肪率を検出した。
【0097】
図4の実験データから明らかなように、Kylo-0100~Kylo-0103群のマウスの血清TCレベルは生理食塩水対照群より有意に低く、低下率はそれぞれ34.68%、52.25%、37.61%、及び44.37%に達した。
【0098】
図5の実験データから明らかなように、Kylo-0100~Kylo-0103群のマウスの血清LDLレベルは生理食塩水対照群より有意に低く、低下率は40.68%、54.24%、22.03%、及び15.25%に達した。
【0099】
図6の実験データから明らかなように、Kylo-0100~Kylo-0103群のマウスの血清TGレベルは生理食塩水対照群より有意に低く、低下率はそれぞれ42.55%、62.42%、44.88%、及び43.94%に達した。
【0100】
図7の実験データから明らかなように、Kylo-0100群のマウスの骨密度(BMD)は生理食塩水対照群のマウスの骨密度より有意に低く、このうち、Kylo-0101投与群のマウスの骨密度は生理食塩水対照群と比較して、ほとんど変化しなかった。
【0101】
図8の実験データから明らかなように、Kylo-0100は、マウスの体重に顕著な影響を与えており、そのうち、Kylo-0101はマウスの体重に顕著な影響を与えておらず、Kylo-0101は主に肝臓に作用し、マウス全体に悪影響を与えていないことを示している。
【0102】
実施例5 動物実験2
動物及び飼育:南京大学-南京生物医薬研究院より提供、生産ライセンス番号:SCXK(蘇)2015-0001、動物合格証番号NO.201826897、使用ライセンス番号:SCXK(蘇)2018-0027の雄性、6週齢の遺伝的肥満マウスモデル(db/dbマウス)36匹と同腹の野生型マウス5匹を投与群として選択する。
【0103】
実験前にマウスを環境に適応させる必要があり、健全マウスを試験動物として選択した。IVCケージにおいて5匹/ケージの密度で飼育し、1週あたりマットを2回交換した。実験動物室への要求:室温22~24℃、相対湿度40~70%、自動照明、12h明暗交替(08時00分点灯、20時00分消灯)、実験動物室標準は中華人民共和国国家標準GB14925-2010に合致する。
【0104】
【0105】
キシラジンとケタミンの混合麻酔剤の調製:混合液中のキシラジン及びケタミンの濃度はそれぞれ10mg/ml、0.5mg/mlであった。
【0106】
群分けと投与プロトコルを表4に示す。
【0107】
【表4】
備考:投与した医薬品は生理食塩水で溶解した。
【0108】
実験設計:実験開始前に、体重を計量し、体重によってランダムに群分けした。毎週の月曜日と木曜日にマウスの体重を量った。投与介入18日目に、マウスに麻酔剤(キシラジンとケタミン、10ml/kg、IP)を腹腔内注射して麻酔を行い、マウスの骨密度と体脂肪率を検出した。21日間連続して投与し、最後の投与終了後、一晩15~16時間断食させた。マウスをCO2で麻酔して殺し、心臓穿刺で全血を採取し、2時間静置して血清を収集した。血清を3つに分け、1つは100μlとし、血清中の血糖、トリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC)、低密度リポタンパク質(LDL)、及び高密度リポタンパク質(HDL-C)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、ホスホエステラーゼ(AP)レベルを検出することに用い、残りの2つは等分して、それぞれ、トリヨードサイロニン(T3結合と遊離)、サイロキシン(T4結合と遊離)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)含有量の測定に用いた。肝臓の重量、心臓の重量を量り、肝臓を3つに分け、1つを液体窒素で凍結保存し、1つを10%中性ホルムアルデヒドで固定化し、1つをOCT(ポリエチレングリコールとポリビニルアルコールの水溶性混合物)で凍結包埋した。
【0109】
組織分析及び病理学的検査:肝臓組織をイソプロピルアルコールで質量体積比1:9となるようにホモジネート処理し、一晩静置した後、遠心分離して上清を取り、血液生化学的検査で上清中のTCとTGの含有量を検出した。10%中性ホルムアルデヒドに浸漬した肝臓組織について通常パラフィン包埋、切片(3μm)及びヘマトキシリン・エオシン(HE)染色をした後、脱水してブロックし、肝臓病変の状況を観察し、全切片を走査して写真を撮影し、OCTに浸漬した肝臓組織について凍結切片(5μm)、オイルレット染色、ヘマトキシリンで核を染色し、脱水してブロックした後、肝臓組織の脂質沈着の状況を観察し、写真を撮影した。投与群とモデル対照群の肝臓での脂肪蓄積の状況を比較した。
【0110】
統計分析:定量指標は平均±平均標準誤差(Mean±sem)を用い、T検定(TTest2.3)を用いてモデル対照群と残りの群に対して群間差異比較を行い、すべての統計分析はExcelシートで行われた。
【0111】
図9の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量群におけるマウスの血清中のTCレベルは低下し、しかも明らかな用量効果関係を呈し、30μg/kg用量では、血清TCレベルは48%低下した。
【0112】
図10の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量群におけるマウスの血清中のLDLレベルは低下し、しかも明らかな用量効果関係を呈し、30μg/kg用量では、血清LDLレベルは58%低下した。
【0113】
図11の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量群におけるマウスの血清中のTGレベルは低下し、しかも明らかな用量効果関係を呈し、30μg/kg用量では、血清TGレベルは41.8%低下した。
【0114】
図12の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量群のマウスの体重減少を示しているが、顕著ではなかった。
【0115】
図13の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量は、体内の脂肪と筋肉の含有量を明らかに低下させていなかった。
【0116】
図14の実験データから明らかなように、Kylo-0101の各用量群のマウスの骨密度はモデル対照群と比較してほとんど変化していなかった。
【0117】
図15の実験データから明らかなように、Kylo-0101用量の増加と肝臓重量の低下は顕著な用量効果関係を示している。
【0118】
オイルレット染色は主に細胞内の脂肪滴の特異性染色であり、染色した脂肪滴は
図16中の濃い色の斑点に示す通りであり、オイルレット染色による病理組織学的検査の結果、モデル対照群と比べて、Kylo-0101の4つの用量群の脂肪滴陽性染色の程度は明らかに弱まり、脂肪滴の数は明らかに減少し、そして顕著な用量効果反応を呈した。肝臓小葉の中心性脂肪変性は肝細胞内にさまざまなサイズの脂肪空胞を形成し、その中でも小空胞が主であり、HE染色をした結果、
図16に示すような淡色の斑点が形成された。
図16において、HE染色切片の病理組織学的検査の結果、Kylo-0101の4つの用量群の肝細胞の脂肪変性の程度はモデル対照群より明らかに低く、肝臓切片には、脂肪変性による肝細胞空胞が明らかに減少し、顕著な用量効果反応を呈した。
【0119】
図17における肝臓病理学的検査染色の平均定量化の結果、HE染色とオイルレット染色では、一致性が高く、Kylo-0101の用量が30μg/kgである場合、肝臓の脂肪含有量はほぼ正常(野生型)マウスの肝臓の脂肪含有量に近くなるまで低下した。一般に、正常の平均定量化値が1未満であれば、正常と考えられる。
【0120】
図18の検出結果から明らかなように、Kylo-0101の各用量では、マウスの血清中のfT3濃度はわずかに増加したが、有意差はなかった。
【0121】
図19の検出結果から明らかなように、Kylo-0101の各用量では、マウスの血清中のTSH濃度に影響を与えなかった。
【0122】
実施例6 医薬品とASGPRとの結合率、心拍数及び骨密度に対する、肝臓標的化特異的リガンドXの影響
【表5】
備考:数字6~1は、この組み合わせによって形成された医薬品とアシアロ糖タンパク質受容体ASGPRとの結合率の降順、心臓毒性及び骨密度への影響の降順を示している。
【0123】
表5において、医薬品Kylo-0101、Kylo-0105~Kylo-0107は、X構造だけが異なり、表中の実験データから明らかなように、L、B、D、Tの構造が同じ場合、Xの構造を変えることにより医薬品とASGPRとの結合率、心拍数、及び骨密度に影響を与え、この中でも、医薬品Kylo-0101は、効果が最も高く、ASGPRの結合率が高い一方、心拍数、骨密度への影響が最低であった。これにより、本発明で製造される組成物において、肝臓標的化特異的リガンドXは、ASGPRと結合することに使用されているが、医薬品全体の治療効果にも一定の影響を与えることを示している。
【0124】
実施例7 医薬品安定性に対する、立体障害安定化構造を含む分岐鎖Lの影響
【表6】
表6において、医薬品Kylo-0101、Kylo-0108~Kylo-0110、Kylo-0115は、L構造だけが異なり、表中の実験データから明らかなように、X、B、D、T構造が同じ場合、Lの構造を変えることにより医薬品の安定性に影響を与え、Kylo-0101、Kylo-0110及びKylo-0115医薬品のL構造を選択した場合、安定性の高い医薬品が得られた。
【0125】
実施例8 医薬品とASGPRとの結合率、心拍数、及び骨密度に対するリンカーBの影響
【表7A】
【表7B】
備考:数字6~1は、この組み合わせによって形成された医薬品とアシアロ糖タンパク質受容体ASGPRとの結合率の降順、心臓毒性及び骨密度への影響の降順を示している。
【0126】
表7において、医薬品Kylo-0101、Kylo-0111~Kylo-0113は、B構造だけが異なり、表中の実験データから明らかなように、X、L、D、T構造が同じ場合、Bの構造を変えることにより医薬品とASGPRとの結合率、心拍数、及び骨密度に影響を与え、Kylo-0101、及びKylo-0112医薬品のB構造を選択した場合、受容体結合率が良好であり、心臓、骨密度への副作用が小さかった。
【0127】
実施例9 医薬品の血中脂質低下機能に対する連結鎖Dの影響
【表8】
備考:TC、LDL、及びTGの下の数字は、それぞれ、この組成物によるTC、LDL、及びTGの低下機能の強さを表し、数字6~1は機能の強さの降順を示している。
【0128】
表8において、医薬品Kylo-0101、Kylo-0102、Kylo-0114は、D構造だけが異なる。D単独では連結構造として脂質低下効果はなかったが、表中の実験データから明らかなように、X、L、B、Tの構造が同じ場合、Dの構造を変えることにより、医薬品のTC、TG、及びLDLの機能低下に影響を与えた。本発明の実験条件下では、医薬品Kylo-0101構造のDを選択した場合、最適なTC、TG、及びLDL低下効果が得られた。