IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -変倍光学系および撮像装置 図1
  • -変倍光学系および撮像装置 図2
  • -変倍光学系および撮像装置 図3
  • -変倍光学系および撮像装置 図4
  • -変倍光学系および撮像装置 図5
  • -変倍光学系および撮像装置 図6
  • -変倍光学系および撮像装置 図7
  • -変倍光学系および撮像装置 図8
  • -変倍光学系および撮像装置 図9
  • -変倍光学系および撮像装置 図10
  • -変倍光学系および撮像装置 図11
  • -変倍光学系および撮像装置 図12
  • -変倍光学系および撮像装置 図13
  • -変倍光学系および撮像装置 図14
  • -変倍光学系および撮像装置 図15
  • -変倍光学系および撮像装置 図16
  • -変倍光学系および撮像装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】変倍光学系および撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 17/08 20060101AFI20220722BHJP
   G02B 15/167 20060101ALI20220722BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
G02B17/08 A
G02B15/167
G02B13/18
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021554326
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038809
(87)【国際公開番号】W WO2021085142
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019196725
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富岡 右恭
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148791(JP,A)
【文献】特開平11-202208(JP,A)
【文献】特開2017-187640(JP,A)
【文献】米国特許第4971428(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0259330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路に沿って物体側から像側へ順に、正のパワーを有する第1群と、正のパワーを有する第2群と、負のパワーを有する第3群と、正のパワーを有する第4群と、正のパワーを有する第5群とからなる5つの群のみをパワーを有する群として備え、
前記第1群は、光路上で最も物体側に位置するパワーを有する光学素子であり、かつ凹面形状の反射面を物体側に向けた第1ミラーと、前記第1ミラーから物体側へ向かう光を像側へ反射する、凸面形状の反射面を像側に向けた第2ミラーとを含み、
前記第1群と前記第2群との間の光路に中間像が形成され、
前記第2群と前記第3群と前記第4群とは屈折光学系であり、
前記第3群と前記第4群との間に絞りが配置され、
広角端から望遠端への変倍の際に、前記第1ミラーと、前記第2ミラーと、前記第2群と、前記絞りと、前記第5群とは像面に対して固定されており、前記第3群は像側へ移動し、前記第4群は物体側へ移動する変倍光学系。
【請求項2】
変倍の際に前記第1群は像面に対して固定されており、
望遠端での前記変倍光学系の焦点距離をfT、
前記第1群の焦点距離をf1とした場合、
0.5<|fT/f1|<4 (1)
で表される条件式(1)を満足する請求項1に記載の変倍光学系。
【請求項3】
変倍の際に前記第1群は像面に対して固定されており、
無限遠物体に合焦した状態における前記第2群の横倍率をβ2とした場合、
-2<β2<-0.5 (2)
で表される条件式(2)を満足する請求項1又は2に記載の変倍光学系。
【請求項4】
前記第3群の焦点距離をf3、
前記第4群の焦点距離をf4とした場合、
-2<f3/f4<-0.1 (3)
で表される条件式(3)を満足する請求項1から3のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項5】
前記第4群は、最も物体側に配置された両凸レンズと、前記両凸レンズより像側に配置されて正レンズと負レンズとの2枚のレンズが接合されて構成された接合レンズとを含む請求項1から4のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項6】
無限遠物体に合焦した状態において、
望遠端での前記第3群の横倍率をβ3T、
広角端での前記第3群の横倍率をβ3Wとした場合、
1<β3T/β3W<5 (4)
で表される条件式(4)を満足する請求項1から5のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項7】
無限遠物体に合焦した状態において、
望遠端での前記第4群の横倍率をβ4T、
広角端での前記第4群の横倍率をβ4Wとした場合、
1<β4T/β4W<5 (5)
で表される条件式(5)を満足する請求項1から6のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項8】
無限遠物体に合焦した状態において、
望遠端での前記第3群の横倍率をβ3T、
広角端での前記第3群の横倍率をβ3W、
望遠端での前記第4群の横倍率をβ4T、
広角端での前記第4群の横倍率をβ4Wとした場合、
0.25<(β3T/β3W)/(β4T/β4W)<2 (6)
で表される条件式(6)を満足する請求項1から7のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項9】
無限遠物体に合焦した状態における広角端での前記第5群の横倍率をβ5Wとした場合、
1<β5W<3 (7)
で表される条件式(7)を満足する請求項1から8のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項10】
前記第1ミラーの反射面および前記第2ミラーの反射面は球面形状であり、
前記第1群は前記第2ミラーと前記中間像との間の光路に少なくとも1枚の球面レンズを含む請求項1から9のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項11】
前記第2群の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2P、
前記第2群の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2Nとした場合、
-0.15<θgF2P-θgF2N<-0.005 (8)
で表される条件式(8)を満足する請求項1から10のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項12】
前記第2群の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2P、
前記第2群の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2Nとした場合、
0.01<θCt2P-θCt2N<0.3 (9)
で表される条件式(9)を満足する請求項1から11のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項13】
前記第4群の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4P、
前記第4群の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4Nとした場合、
-0.15<θgF4P-θgF4N<-0.005 (10)
で表される条件式(10)を満足する請求項1から12のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項14】
前記第4群の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4P、
前記第4群の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4Nとした場合、
0.01<θCt4P-θCt4N<0.3 (11)
で表される条件式(11)を満足する請求項1から13のいずれか1項に記載の変倍光学系。
【請求項15】
1<|fT/f1|<2.5 (1-1)
で表される条件式(1-1)を満足する請求項2に記載の変倍光学系。
【請求項16】
-1.5<β2<-1 (2-1)
で表される条件式(2-1)を満足する請求項3に記載の変倍光学系。
【請求項17】
-1<f3/f4<-0.5 (3-1)
で表される条件式(3-1)を満足する請求項4に記載の変倍光学系。
【請求項18】
1.2<β3T/β3W<3.5 (4-1)
で表される条件式(4-1)を満足する請求項6に記載の変倍光学系。
【請求項19】
1.2<β4T/β4W<3 (5-1)
で表される条件式(5-1)を満足する請求項7に記載の変倍光学系。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の変倍光学系を備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、変倍光学系、および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射屈折型の変倍光学系として、特開平11-202208号公報に記載のものが知られている。
【発明の概要】
【0003】
近年、より良好な光学性能を有し、より装置の小型化が可能な、反射屈折型の変倍光学系が求められている。
【0004】
上記事情に鑑み、本開示の技術は、より良好な光学性能を有し、より装置の小型化が可能な、反射屈折型の変倍光学系、およびこの変倍光学系を備えた撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の技術の一態様に係る変倍光学系は、光路に沿って物体側から像側へ順に、正のパワーを有する第1群と、正のパワーを有する第2群と、負のパワーを有する第3群と、正のパワーを有する第4群と、正のパワーを有する第5群とからなる5つの群のみをパワーを有する群として備え、第1群は、光路上で最も物体側に位置するパワーを有する光学素子であり、かつ凹面形状の反射面を物体側に向けた第1ミラーと、第1ミラーから物体側へ向かう光を像側へ反射する、凸面形状の反射面を像側に向けた第2ミラーとを含み、第1群と第2群との間の光路に中間像が形成され、第2群と第3群と第4群とは屈折光学系であり、第3群と第4群との間に絞りが配置され、広角端から望遠端への変倍の際に、第1ミラーと、第2ミラーと、第2群と、絞りと、第5群とは像面に対して固定されており、第3群は像側へ移動し、第4群は物体側へ移動する。
【0006】
上記態様の変倍光学系においては、変倍の際に第1群は像面に対して固定されており、望遠端での変倍光学系の焦点距離をfT、第1群の焦点距離をf1とした場合、下記条件式(1)を満足することが好ましく、下記条件式(1-1)を満足することがより好ましい。
0.5<|fT/f1|<4 (1)
1<|fT/f1|<2.5 (1-1)
【0007】
上記態様の変倍光学系においては、変倍の際に第1群は像面に対して固定されており、無限遠物体に合焦した状態における第2群の横倍率をβ2とした場合、下記条件式(2)を満足することが好ましく、下記条件式(2-1)を満足することがより好ましい。
-2<β2<-0.5 (2)
-1.5<β2<-1 (2-1)
【0008】
上記態様の変倍光学系においては、第3群の焦点距離をf3、第4群の焦点距離をf4とした場合、下記条件式(3)を満足することが好ましく、下記条件式(3-1)を満足することがより好ましい。
-2<f3/f4<-0.1 (3)
-1<f3/f4<-0.5 (3-1)
【0009】
上記態様の変倍光学系においては、第4群は、最も物体側に配置された両凸レンズと、この両凸レンズより像側に配置されて正レンズと負レンズとの2枚のレンズが接合されて構成された接合レンズとを含むことが好ましい。
【0010】
上記態様の変倍光学系においては、無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第3群の横倍率をβ3T、広角端での第3群の横倍率をβ3Wとした場合、下記条件式(4)を満足することが好ましく、下記条件式(4-1)を満足することがより好ましい。
1<β3T/β3W<5 (4)
1.2<β3T/β3W<3.5 (4-1)
【0011】
上記態様の変倍光学系においては、無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第4群の横倍率をβ4T、広角端での第4群の横倍率をβ4Wとした場合、下記条件式(5)を満足することが好ましく、下記条件式(5-1)を満足することがより好ましい。
1<β4T/β4W<5 (5)
1.2<β4T/β4W<3 (5-1)
【0012】
上記態様の変倍光学系においては、無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第3群の横倍率をβ3T、広角端での第3群の横倍率をβ3W、望遠端での第4群の横倍率をβ4T、広角端での第4群の横倍率をβ4Wとした場合、下記条件式(6)を満足することが好ましい。
0.25<(β3T/β3W)/(β4T/β4W)<2 (6)
【0013】
上記態様の変倍光学系においては、無限遠物体に合焦した状態における広角端での第5群の横倍率をβ5Wとした場合、下記条件式(7)を満足することが好ましい。
1<β5W<3 (7)
【0014】
上記態様の変倍光学系においては、第1ミラーの反射面および第2ミラーの反射面は球面形状であり、第1群は第2ミラーと中間像との間の光路に少なくとも1枚の球面レンズを含むことが好ましい。
【0015】
上記態様の変倍光学系においては、第2群の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2P、第2群の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2Nとした場合、下記条件式(8)を満足することが好ましい。
-0.15<θgF2P-θgF2N<-0.005 (8)
【0016】
上記態様の変倍光学系においては、第2群の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2P、第2群の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2Nとした場合、下記条件式(9)を満足することが好ましい。
0.01<θCt2P-θCt2N<0.3 (9)
【0017】
上記態様の変倍光学系においては、第4群の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4P、第4群の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4Nとした場合、下記条件式(10)を満足することが好ましい。
-0.15<θgF4P-θgF4N<-0.005 (10)
【0018】
上記態様の変倍光学系においては、第4群の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4P、第4群の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4Nとした場合、下記条件式(11)を満足することが好ましい。
0.01<θCt4P-θCt4N<0.3 (11)
【0019】
本開示の技術の別の態様に係る撮像装置は、上記態様の変倍光学系を備えている。
【0020】
なお、本明細書の「~からなり」、「~からなる」は、挙げられた構成要素以外に、実質的にパワーを有さないレンズ、並びに、絞り、フィルタ、およびカバーガラス等のレンズ以外の光学要素、並びに、レンズフランジ、レンズバレル、撮像素子、および手振れ補正機構等の機構部分、等が含まれていてもよいことを意図する。
【0021】
なお、本明細書において、「正のパワーを有する~群」は、群全体として正のパワーを有することを意味する。同様に「負のパワーを有する~群」は、群全体として負のパワーを有することを意味する。「正のパワーを有するレンズ」、「正のレンズ」、および「正レンズ」は同義である。「負のパワーを有するレンズ」、「負のレンズ」、および「負レンズ」は同義である。「第2群」、「第3群」、「第4群」、および「第5群」は、複数のレンズからなる構成に限らず、1枚のみのレンズからなる構成としてもよい。
【0022】
複合非球面レンズ(つまり、球面レンズと、その球面レンズ上に形成された非球面形状の膜とが一体的に構成されて、全体として1つの非球面レンズとして機能するレンズ)は、接合レンズとは見なさず、1枚のレンズとして扱う。非球面を含む光学素子に関するパワーの符号、および面形状は、近軸領域で考えることにする。レンズに関して用いている「パワー」は屈折力と同義である。「パワーを有する」とは、焦点距離の逆数が0でないことを意味する。本明細書における「屈折光学系」は、パワーを有する反射型の光学素子を含まない系である。
【0023】
条件式で用いている「焦点距離」は、近軸焦点距離である。部分分散比に関する条件式以外の条件式の値は、無限遠物体に合焦した状態においてd線を基準とした場合の値である。本明細書に記載の「d線」、「C線」、「F線」、「g線」、および「t線」は輝線である。本明細書においては、d線の波長は587.56nm(ナノメートル)、C線の波長は656.27nm(ナノメートル)、F線の波長は486.13nm(ナノメートル)、g線の波長は435.83nm(ナノメートル)、t線の波長は1013.98nm(ナノメートル)として扱う。あるレンズのg線とF線間の部分分散比θgFとは、g線、F線、およびC線に対するそのレンズの屈折率をそれぞれNg、NF、およびNCとした場合、θgF=(Ng-NF)/(NF-NC)で定義される。あるレンズのC線とt線間の部分分散比θCtとは、t線、F線、およびC線に対するそのレンズの屈折率をそれぞれNt、NF、およびNCとした場合、θCt=(NC-Nt)/(NF-NC)で定義される。本明細書における「近赤外光」は、波長700nm(ナノメートル)~1000nm(ナノメートル)の帯域の光とする。
【発明の効果】
【0024】
本開示の技術によれば、より良好な光学性能を有し、より装置の小型化が可能な、反射屈折型の変倍光学系、およびこの変倍光学系を備えた撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態に係る変倍光学系(実施例1の変倍光学系)の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図2】第2群と第3群との間に開口絞りを配置した比較例の構成と光路を示す部分断面図である。
図3】第3群と第4群との間に開口絞りを配置した例の構成と光路を示す部分断面図である。
図4】実施例1の変倍光学系の各収差図である。
図5】実施例2の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図6】実施例2の変倍光学系の各収差図である。
図7】実施例3の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図8】実施例3の変倍光学系の各収差図である。
図9】実施例4の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図10】実施例4の変倍光学系の各収差図である。
図11】実施例5の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図12】実施例5の変倍光学系の各収差図である。
図13】実施例6の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図14】実施例6の変倍光学系の各収差図である。
図15】実施例7の変倍光学系の広角端における構成と光路を示す断面図である。
図16】実施例7の変倍光学系の各収差図である。
図17】一実施形態に係る撮像装置の概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の技術に係る実施形態の一例について図面を参照して説明する。図1に、本開示の一実施形態に係る変倍光学系の広角端における構成および光路の断面図を示す。図1では左側が物体側、右側が像側である。図1に示す例は後述の実施例1の変倍光学系に対応している。この変倍光学系は例えば監視カメラ等に適用可能である。
【0027】
本実施形態の変倍光学系は、光路に沿って物体側から像側へ順に、正のパワーを有する第1群G1と、正のパワーを有する第2群G2と、負のパワーを有する第3群G3と、正のパワーを有する第4群G4と、正のパワーを有する第5群G5とからなる5つの群のみをパワーを有する群として備える。第3群G3と第4群G4との間に開口絞りStが配置されている。なお、図1の開口絞りStは形状および大きさを示しているのではなく、光軸方向の位置を示しており、開口絞りStに関するこの図示方法は他の図についても同様である。
【0028】
図1では、変倍光学系が撮像装置に適用されることを想定して、変倍光学系と像面Simとの間に平行平板状の光学部材PPが配置された例を示している。光学部材PPは、各種フィルタおよびカバーガラス等を想定した部材である。各種フィルタとは例えば、ローパスフィルタ、赤外線カットフィルタ、および特定の波長域をカットするフィルタ等である。光学部材PPはパワーを有しない部材であり、光学部材PPを省略した構成も可能である。
【0029】
一例として図1の例の各群は以下の光学素子から構成されている。すなわち、第1群G1は、光路に沿って物体側から像側へ順に、第1ミラーM1と、レンズL11と、レンズL12と、第2ミラーM2とからなる。第2群G2は、物体側から像側へ順に、レンズL21~L25の5枚のレンズからなる。第3群G3は、物体側から像側へ順に、レンズL31~L34の4枚のレンズからなる。第4群G4は、物体側から像側へ順に、レンズL41~L44の4枚のレンズからなる。第5群G5は、物体側から像側へ順に、レンズL51~L55の5枚のレンズからなる。図1の例では上記の全ての光学素子が共通の光軸Zを有する。
【0030】
図1の例の変倍光学系はズーム光学系である。広角端から望遠端への変倍の際に、第1ミラーM1と、第2ミラーM2と、第2群G2と、開口絞りStと、第5群G5とは像面Simに対して固定されており、第3群G3は物体側から像側へ移動し、第4群G4は像側から物体側へ移動する。図1では、第3群G3および第4群G4の下にそれぞれ、広角端から望遠端へ変倍する際の各群の移動軌跡を模式的に矢印で示している。
【0031】
図1の例では、第1ミラーM1は中心部に開口部を有するリング形状である。図1の例では、物体から変倍光学系に入射した光は、まず第1ミラーM1で物体側へ反射され、レンズL11とレンズL12をこの順に経由した後、第2ミラーM2で像側へ反射され、レンズL12とレンズL11をこの順に経由した後、第2群G2、第3群G3、第4群G4、および第5群G5を経由して像面Simに到達する。
【0032】
無限遠物体に合焦している状態において、第1群G1と第2群G2との間の光路には中間像Imが形成される。図1では中間像Imの光軸付近を含む一部のみを簡略的に点線で表しており、その形状は必ずしも正確ではない。中間像Imは、第2群G2、第3群G3、第4群G4、および第5群G5を介して像面Sim上に再結像される。すなわち、第2群G2から第5群G5まではリレー光学系として機能する。変倍光学系を再結像光学系とすることによって、変倍の際に移動する群のレンズ径を小さくすることができるので、装置の小型化、および変倍動作の高速化に有利となる。
【0033】
第1群G1は、全体として正のパワーを有する。第1群G1は、第1ミラーM1および第2ミラーM2を備える。第1ミラーM1は、凹面形状の反射面を物体側に向けており、物体から入射された光を物体側へ反射する。第2ミラーM2は、凸面形状の反射面を像側に向けており、第1ミラーM1から物体側へ向かう光を像側へ反射する。すなわち、第1ミラーM1と第2ミラーM2とは各反射面が対向するように配置されている。ミラーは色収差に関与しないため、上記2枚のミラーでは長焦点レンズ系で課題となる色収差が発生することはない。第1群G1に上記ミラーを用いることによって、色収差をほぼ発生させずに超望遠光学系を得ることが容易となる。また、各反射面が対向配置された2枚のミラーを用いることによって光路を折り返すことができるため光学全長を短縮化することができる。
【0034】
第1ミラーM1は、変倍光学系に含まれるパワーを有する光学素子のうち、光路上で最も物体側に位置する光学素子である。仮に、第1ミラーM1よりも物体側の光路に屈折光学系を配置すると、その屈折光学系の口径は大きなものとなるため、高価となってしまう。また、第1ミラーM1よりも物体側の光路に屈折光学系を配置すると、変倍光学系の重心が先端部の方に偏って位置し重量バランスが悪くなるため、好ましくない。さらに、反射型の光学素子は、光線が透過しないため、透過型の光学素子に比べて材料の選択の自由度が高いという長所もある。
【0035】
第1ミラーM1の反射面および第2ミラーM2の反射面は球面形状であることが好ましい。このようにした場合は、非球面形状にした場合に比べ安価に製造可能である。第1ミラーM1の反射面および第2ミラーM2の反射面を球面形状にした場合は、第1群G1は第2ミラーM2と中間像Imとの間の光路に少なくとも1枚の球面レンズを含むように構成してもよい。上記位置に少なくとも1枚の球面レンズを配置することによって、2枚の球面ミラーで発生する球面収差を補正することができるので、加工および測定が難しい非球面ミラーを用いることなく高い光学性能を得ることが容易となる。
【0036】
図1の例では第2ミラーM2と中間像Imとの間の光路に、負のレンズL11および正のレンズL12が2枚の球面レンズとして配置されている。これら2枚の球面レンズは第1ミラーM1と第2ミラーM2との間の光路にも位置している。従って、第1ミラーM1で反射された光が第2ミラーM2へ向かう際と、第2ミラーM2で反射された光が中間像Imへ向かう際との2回、光線は上記2枚の球面レンズを通過する。このように光線が往復する光路中に球面レンズを配置することによって、レンズおよびミラー等の光学素子の数を少なくしても球面収差を良好に補正することが容易となり、さらには光学素子の数を少なくして、かつ、第1ミラーM1および第2ミラーM2ともに非球面を用いない場合でも、球面収差を良好に補正することが容易となる。
【0037】
第2ミラーM2と中間像Imとの間の光路に配置されるレンズの枚数を1枚又は2枚にした場合は、3枚以上にした場合に比べて、変倍光学系の物体側の部分への荷重を小さく抑えることができ、変倍光学系を設置するための架台に要求される強度を低くすることができる。第2ミラーM2と中間像Imとの間の光路に配置されるレンズの枚数を1枚にした場合は、2枚以上にした場合よりも使用する光学素子の数が少なくなるためコストおよび製造性の点で有利となる。
【0038】
第1群G1は変倍の際に像面Simに対して固定されていることが好ましい。すなわち、ミラー以外の素子も含め、第1群G1を構成する全ての光学素子は変倍の際に像面Simに対して固定されていることが好ましく、このようにした場合は、装置の構成をより簡素化できる。
【0039】
第2群G2は、屈折光学系であり、全体として正のパワーを有する。中間像Imより像側で光束が発散に転じる位置に正のパワーを有する第2群G2を配置することによって、光束の発散を抑えることができ、これによって第2群G2より像側のレンズを小型化することに有利となる。
【0040】
第3群G3は、屈折光学系であり、全体として負のパワーを有する。第4群G4は、屈折光学系であり、全体として正のパワーを有する。すなわち、第2群G2、第3群G3、第4群G4はそれぞれ正、負、正のパワーを有し、隣り合う群のパワーが互いに異符号となるように配置されている。これによって、各群のパワーを強めることが可能となり、変倍の際の各群の移動量を短縮化できるので光学系の小型化が可能となる。
【0041】
第4群G4は、最も物体側に配置された両凸レンズと、両凸レンズより像側に配置されて正レンズと負レンズとの2枚のレンズが接合されて構成された接合レンズとを含むことが好ましい。この接合レンズは、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合されていてもよく、負レンズと正レンズとが物体側から順に接合されていてもよい。第3群G3で発散作用を受けて第3群G3から射出した光束に第4群G4の両凸レンズが収束作用を施すことができるため、第4群G4のレンズ外径の大径化を抑制することが容易となる。また、両凸レンズの像側に上記接合レンズを配置することによって、両凸レンズで発生した軸上色収差を補正することができる。
【0042】
図1の例の第5群G5は屈折光学系である。第5群G5は全体として正のパワーを有する。像面Simに最も近い位置に正のパワーを有する第5群G5を配置することによって、像面湾曲の補正が可能となり、結像領域の中心から周辺まで良好な光学性能を得ることが容易となる。
【0043】
開口絞りStは第3群G3と第4群G4との間に配置されており、これによって開口絞りStの小型化を図ることができる。種々の撮影条件に対応するためには開口絞りStの開口径は可変であることが好ましく、特に、日中から夜間まで撮影が行われる監視カメラ用途では開口径が可変であることが好ましい。一方、開口絞りStが大型になれば開口径を変化させる絞り機構も大型になるため、装置の小型化のためには開口絞りStも小型であることが好ましい。
【0044】
開口絞りStを配置する位置としては、開口絞りStを絞った際に周辺光量比の低下が生じにくい位置であることが好ましい。本変倍光学系のような構成では、第1ミラーM1および第2ミラーM2のどちらかの近傍に開口絞りStを配置することが考えられる。しかしながら、第1ミラーM1の近傍に開口絞りStを置いた場合は、絞り機構が非常に大型化してしまう。また、第2ミラーM2の近傍に開口絞りStを置いた場合は、入射光束の一部が絞り機構により遮光されてしまうため、光量損失が大きくなってしまい、低照度でも使用可能な監視カメラ用途の光学系としての価値が低下してしまう。
【0045】
中間像Imより像側の光路に開口絞りStを配置する場合は、開口絞りStを絞った際に結像領域の一部が遮光されないような位置に配置することが好ましい。このため、開口絞りStの光軸方向の位置としては、軸上光束の上光線と軸外光束の上光線とが交わる点(以下、点P1という)から、軸上光束の下光線と軸外光束の下光線とが交わる点(以下、点P2という)までの範囲内であることが好ましい。
【0046】
比較例として、図2に第2群G2と第3群G3との間に開口絞りStを配置した場合の例を示す。本変倍光学系では光軸近傍の光束は結像に使用されないため、図2では軸上光束Baおよび軸外光束Bxのうち、結像に使用されない部分は白抜きにし、結像に使用される部分は斜線を付している。第2群G2と第3群G3との間に開口絞りStを配置する場合は、図2に示すように点P1から点P2までの範囲は第3群近傍となるため、第3群G3と第4群G4との間に開口絞りStを配置する場合に比べ、広角端で第2群G2と開口絞りStとの間隔が広くなってしまい、従って、第2群G2と第3群G3との間隔も広くなってしまい、光学全長の増大を招いてしまう。
【0047】
図3に第3群G3と第4群G4との間に開口絞りStを配置した場合の例を示す。この場合、第2群G2から射出して第3群G3に入射した軸外光束Bxは負のパワーの第3群G3により発散作用を受けるため、第3群G3から射出した軸外光束の光軸Zに対する傾角は第2群G2から射出した軸外光束の光軸Zに対する傾角よりも、小さくなる。そのため、第2群G2と第3群G3との間に開口絞りStを配置した場合に比べ、点P1および点P2がより像側に位置する。図3に示すように第3群G3と第4群G4との間に開口絞りStを配置した場合は、図2の例とは異なり第3群G3の物体側に開口絞りStが無いため、広角端での第2群G2と第3群G3との間隔を短くすることができると同時に、変倍に求められる第3群G3の移動量を確保することができる。
【0048】
開口絞りStを第4群G4と第5群G5との間に配置した場合は、この位置以外に配置した場合に比べ、軸外光束の下側の光線をより多く通すことが好ましいため、第3群G3のレンズの外径が大きくなってしまう。
【0049】
開口絞りStは変倍の際に像面Simに対して固定されている。仮に、変倍の際に開口絞りStが移動するように構成した場合は、開口絞りStを駆動するための駆動部品へ電力を供給することになり、そのための導線が断線するリスクが生じる。これに対して、変倍の際に開口絞りStが固定されている構成ではそのようなリスクは生じないため監視用途として重要な耐久性をより高く保持することができる。
【0050】
次に、本実施形態の変倍光学系の条件式に関する構成について説明する。変倍光学系は、変倍の際に第1群G1が像面Simに対して固定されており、望遠端での変倍光学系の焦点距離をfT、第1群G1の焦点距離をf1とした場合、下記条件式(1)を満足することが好ましい。条件式(1)の下限以下とならないようにすることによって、第1群G1のパワーが弱まり過ぎず、光学全長の長大化を抑制することができる。条件式(1)の上限以上とならないようにすることによって、第2ミラーM2と中間像Imとの間隔が短くなり過ぎないため、中間像Imがより像側に位置することになり、これに伴い、第2群G2もより像側に位置することになり、第2群G2と第2ミラーM2との距離を長くとることができる。その結果、第2群G2によって遮光される光軸近傍の光束の量をより少なくできるので、光量の確保に有利となる。仮に、第2群G2と第2ミラーM2との距離がより短くなると、第2群G2によって遮光される光軸近傍の光束の量が増大してしまう。さらに下記条件式(1-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.5<|fT/f1|<4 (1)
1<|fT/f1|<2.5 (1-1)
【0051】
変倍の際に第1群G1は像面Simに対して固定されており、無限遠物体に合焦した状態における第2群G2の横倍率をβ2とした場合、下記条件式(2)を満足することが好ましい。条件式(2)を満足することによって、球面収差の発生を抑制することに有利となる。より詳しくは、条件式(2)の下限以下とならないようにすることによって、第2群G2からの射出光束を適切に集光させることができるため、第3群G3からの射出光束の発散角度が大きくなり過ぎないようにすることができ、これによって球面収差の発生の抑制に有利となる。また、条件式(2)の上限以上とならないようにすることによって、第2群G2からの射出光束の射出角度が大きくなり過ぎないため球面収差の発生の抑制に有利となる。さらに下記条件式(2-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-2<β2<-0.5 (2)
-1.5<β2<-1 (2-1)
【0052】
第3群G3の焦点距離をf3、第4群G4の焦点距離をf4とした場合、下記条件式(3)を満足することが好ましい。条件式(3)の下限以下とならないようにすることによって、第3群G3の負のパワーが弱くなり過ぎないため、変倍の際の第3群G3の移動量を短縮化でき、これにより光学全長の長大化を抑制することができる。また、第3群G3の移動量の短縮化によって、広角端における第3群G3と開口絞りStとの距離の長大化の抑制に有利となるので、第3群G3のレンズ外径の大径化の抑制に有利となる。条件式(3)の上限以上とならないようにすることによって、第4群G4の正のパワーが弱くなり過ぎないため、変倍の際の第4群G4の移動量の短縮化に有利となり、これにより光学全長の長大化を抑制することができる。また、第4群G4の移動量の短縮化によって、広角端における第4群G4と開口絞りStとの距離の長大化の抑制に有利となるので、第4群G4のレンズ外径の大径化の抑制に有利となる。さらに下記条件式(3-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-2<f3/f4<-0.1 (3)
-1<f3/f4<-0.5 (3-1)
【0053】
無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第3群G3の横倍率をβ3T、広角端での第3群G3の横倍率をβ3Wとした場合、下記条件式(4)を満足することが好ましい。条件式(4)の下限以下とならないようにすることによって、変倍の際の第3群G3の移動量を短縮化できるので光学全長の長大化を抑えることができる。条件式(4)の上限以上とならないようにすることによって、第3群G3のパワーが強くなり過ぎないため、変倍に伴う収差変動を抑制することができる。さらに下記条件式(4-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
1<β3T/β3W<5 (4)
1.2<β3T/β3W<3.5 (4-1)
【0054】
無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第4群G4の横倍率をβ4T、広角端での第4群G4の横倍率をβ4Wとした場合、下記条件式(5)を満足することが好ましい。条件式(5)の下限以下とならないようにすることによって、変倍の際の第4群G4の移動量を短縮化できるので光学全長の長大化を抑えることができる。条件式(5)の上限以上とならないようにすることによって、第4群G4のパワーが強くなり過ぎないため、変倍に伴う収差変動を抑制することができる。さらに下記条件式(5-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
1<β4T/β4W<5 (5)
1.2<β4T/β4W<3 (5-1)
【0055】
無限遠物体に合焦した状態において、望遠端での第3群G3の横倍率をβ3T、広角端での第3群G3の横倍率をβ3W、望遠端での第4群G4の横倍率をβ4T、広角端での第4群G4の横倍率をβ4Wとした場合、下記条件式(6)を満足することが好ましい。条件式(6)を満足することによって、第3群G3および第4群G4をバランス良く変倍に寄与させることができる。条件式(6)を満足することによって、第3群G3および第4群G4のいずれか一方のみパワーが強くなり過ぎることが無いため、変倍に伴う収差変動を極力低減することが可能となる。さらに下記条件式(6-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.25<(β3T/β3W)/(β4T/β4W)<2 (6)
0.5<(β3T/β3W)/(β4T/β4W)<1.5 (6-1)
【0056】
無限遠物体に合焦した状態における広角端での第5群G5の横倍率をβ5Wとした場合、下記条件式(7)を満足することが好ましい。条件式(7)の下限以下とならないようにすることによって、第1群G1から第4群G4までの合成焦点距離を短くできるため、光学全長を短くすることができる。条件式(7)の上限以上とならないようにすることによって、像面湾曲の増大を抑え、結像領域周辺部の画像の劣化を抑制することができる。さらに下記条件式(7-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
1<β5W<3 (7)
1.2<β5W<2.5 (7-1)
【0057】
第2群G2の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2P、第2群G2の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF2Nとした場合、下記条件式(8)を満足することが好ましい。条件式(8)を満足することによって、可視光域における二次の軸上色収差の発生を抑えることができる。さらに下記条件式(8-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-0.15<θgF2P-θgF2N<-0.005 (8)
-0.09<θgF2P-θgF2N<-0.015 (8-1)
【0058】
第2群G2の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2P、第2群G2の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt2Nとした場合、下記条件式(9)を満足することが好ましい。条件式(9)を満足することによって、赤色光から近赤外光域における二次の軸上色収差の発生を抑えることができる。さらに下記条件式(9-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.01<θCt2P-θCt2N<0.3 (9)
0.025<θCt2P-θCt2N<0.2 (9-1)
【0059】
第4群G4の全ての正レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4P、第4群G4の全ての負レンズのg線とF線間の部分分散比の平均をθgF4Nとした場合、下記条件式(10)を満足することが好ましい。条件式(10)を満足することによって、可視光域における二次の軸上色収差および二次の倍率色収差の発生を抑えることができる。さらに下記条件式(10-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
-0.15<θgF4P-θgF4N<-0.005 (10)
-0.09<θgF4P-θgF4N<-0.015 (10-1)
【0060】
第4群G4の全ての正レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4P、第4群G4の全ての負レンズのC線とt線間の部分分散比の平均をθCt4Nとした場合、下記条件式(11)を満足することが好ましい。条件式(11)を満足することによって、赤色光から近赤外光域における二次の軸上色収差および二次の倍率色収差の発生を抑えることができる。さらに下記条件式(11-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.01<θCt4P-θCt4N<0.3 (11)
0.025<θCt4P-θCt4N<0.2 (11-1)
【0061】
上述した好ましい構成および可能な構成は、任意の組合せが可能であり、要求される仕様に応じて適宜選択的に採用されることが好ましい。また、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。例えば、各群を構成するレンズの枚数は、図1に示す例と異なる枚数にすることも可能である。また、変倍光学系は、バリフォーカル光学系にすることも可能である。
【0062】
次に、本開示の変倍光学系の数値実施例について説明する。なお、各実施例の断面図のレンズに付された参照符号は、参照符号の桁数の増大による説明の煩雑化を避けるため、実施例ごとに独立して用いている。したがって、異なる実施例の図面において共通の参照符号が付されていても、必ずしも共通の構成ではない。
[実施例1]
実施例1の変倍光学系の断面図と光路は図1に示されており、その構成および図示方法は上述したとおりであるので、ここでは重複説明を一部省略する。実施例1の変倍光学系は、光路に沿って物体側から像側へ向かって順に、正のパワーを有する第1群G1と、正のパワーを有する第2群G2と、負のパワーを有する第3群G3と、開口絞りStと、正のパワーを有する第4群G4と、正のパワーを有する第5群G5とからなるズーム光学系である。第1群G1と第2群G2との間の光路に中間像Imが形成されている。広角端から望遠端への変倍の際に、第3群G3は像側へ移動し、第4群G4は物体側へ移動し、開口絞りStも含めその他の構成要素は像面Simに対して固定されている。第1群G1は、リング形状の第1ミラーM1と、第2ミラーM2と、レンズL11と、レンズL12とからなる。第2群G2はレンズL21~L25からなる。第3群G3はレンズL31~L34からなる。第4群G4はレンズL41~L44からなる。第5群G5はレンズL51~L55からなる。以上が実施例1の変倍光学系の概要である。
【0063】
実施例1の変倍光学系について、基本レンズデータを表1Aおよび表1Bに、諸元と可変面間隔を表2に示す。ここでは、1つの表の長大化を避けるため基本レンズデータを表1Aおよび表1Bの2つの表に分けて表示している。表1Aには第1群G1、第2群G2、および第3群G3を示し、表1Bには開口絞りSt、第4群G4、第5群G5、および光学部材PPを示す。表1Aおよび表1Bでは最も右の欄を群ごとに区切り、各群の符号であるG1~G5を示す。
【0064】
表1Aおよび表1Bでは光路に沿って構成要素を示している。表1Aおよび表1Bにおいて、Snの欄には光路上で最も物体側の面を第1面とし光路に沿って像側に向かうに従い1つずつ番号を増加させた場合の面番号を示し、Rの欄には各面の曲率半径を示し、Dの欄には各面と光路上でその像側に隣接する面との光軸上の面間隔を示す。Ndの欄には各構成要素のd線における屈折率を示し、νdの欄には各構成要素のd線基準のアッベ数を示し、θgFの欄には各構成要素のg線とF線間の部分分散比を示し、θCtの欄には各構成要素のC線とt線間の部分分散比を示す。
【0065】
表1Aおよび表1Bでは、物体側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を正、像側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を負としている。表1Aでは反射面に相当する面のNdの欄に「(反射面)」を記入し、表1Bでは開口絞りStに相当する面のNdの欄に「(開口絞り)」を記入している。また、表1Aおよび表1Bでは変倍の際の可変面間隔については、「D」にその間隔の物体側の面番号を付してDの欄に記入している。
【0066】
表2に、変倍光学系の焦点距離の絶対値、Fナンバー、最大像高、最大半画角をそれぞれ、「|焦点距離|」、「FNo.」、「像高」、「半画角」と表記した行に示す。表2には各可変面間隔の値も示す。表2では、広角端状態、中間焦点距離状態、望遠端状態の各値をそれぞれ「WIDE」、「MIDDLE」、「TELE」と表記した欄に示す。表1A、表1B、および表2には、無限遠物体に合焦した状態において、d線を基準とした場合のデータを示す。
【0067】
各表のデータにおいて、角度の単位としては度を用い、長さの単位としてはmm(ミリメートル)を用いているが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても使用可能なため他の適当な単位を用いることもできる。また、以下に示す各表では所定の桁でまるめた数値を記載している。
【0068】
【表1A】
【0069】
【表1B】
【0070】
【表2】
【0071】
図4に、実施例1の変倍光学系の無限遠物体に合焦した状態の各収差図を示す。図4では左から順に、球面収差、非点収差、歪曲収差、および倍率色収差を示す。図4では「WIDE」と付した上段に広角端状態における収差図を示し、「MIDDLE」と付した中段に中間焦点距離状態における収差図を示し、「TELE」と付した下段に望遠端状態における収差図を示す。球面収差図では、d線、g線、F線、C線、およびt線における収差をそれぞれ実線、長破線、一点鎖線、短破線、および点線で示す。非点収差図では、サジタル方向のd線における収差を実線で示し、メリディオナル方向のd線における収差を破線で示す。歪曲収差図ではd線における収差を実線で示す。倍率色収差図では、t線、およびg線における収差をそれぞれ破線、および実線で示す。球面収差図では「FNo.=」の横にFナンバーの値を示し、その他の収差図では「IH=」の横に最大像高の値を示す。なお、第1ミラーM1はリング形状のため、図4の球面収差図の縦軸の0近傍のデータは参考データとして示す。
【0072】
上記の実施例1に関する各データの記号、意味、記載方法、および図示方法は、特に断りが無い限り以下の実施例においても同様であるので、以下では重複説明を省略する。
【0073】
[実施例2]
実施例2の変倍光学系の断面図と光路を図5に示す。実施例2の変倍光学系は、第4群G4がレンズL41~L45からなる点、および第5群G5がレンズL51~L57からなる点以外は、実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例2の変倍光学系について、基本レンズデータを表3Aおよび表3Bに、諸元と可変面間隔を表4に、各収差図を図6に示す。
【0074】
【表3A】
【0075】
【表3B】
【0076】
【表4】
【0077】
[実施例3]
実施例3の変倍光学系の断面図と光路を図7に示す。実施例3の変倍光学系は、第4群G4がレンズL41~L45からなる点、および第5群G5がレンズL51~L57からなる点以外は、実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例3の変倍光学系について、基本レンズデータを表5Aおよび表5Bに、諸元と可変面間隔を表6に、各収差図を図8に示す。
【0078】
【表5A】
【0079】
【表5B】
【0080】
【表6】
【0081】
[実施例4]
実施例4の変倍光学系の断面図と光路を図9に示す。実施例4の変倍光学系は、第1群G1がリング形状の第1ミラーM1と第2ミラーM2とレンズL11とからなる点、および第2群G2がレンズL21~L24からなる点以外は実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例4の変倍光学系について、基本レンズデータを表7Aおよび表7Bに、諸元と可変面間隔を表8に、各収差図を図10に示す。
【0082】
【表7A】
【0083】
【表7B】
【0084】
【表8】
【0085】
[実施例5]
実施例5の変倍光学系の断面図と光路を図11に示す。実施例5の変倍光学系は、第1群G1がリング形状の第1ミラーM1と第2ミラーM2とからなる点、第2群G2がレンズL21~L24からなる点、および第3群G3がレンズL31~L33からなる点以外は実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例5の変倍光学系は非球面を有する。実施例5の変倍光学系について、基本レンズデータを表9Aおよび表9Bに、諸元と可変面間隔を表10に、非球面係数を表11に、各収差図を図12に示す。
【0086】
基本レンズデータの表では、非球面の面番号に*印を付しており、非球面の曲率半径の欄には近軸の曲率半径の数値を記載している。非球面係数の表において、Snの欄には非球面の面番号を示し、KAおよびAm(m=4、6、8、10)の欄には各非球面についての非球面係数の数値を示す。表11の非球面係数の数値の「E±n」(n:整数)は「×10±n」を意味する。KAおよびAmは下式で表される非球面式における非球面係数である。
Zd=C×h/{1+(1-(1+K)×C×h1/2}+ΣAm×h
ただし、
Zd:非球面深さ(高さhの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
h:高さ(光軸からレンズ面までの距離)
C:近軸曲率半径の逆数
K、Am:非球面係数
であり、非球面式のΣはmに関する総和を意味する。
【0087】
【表9A】
【0088】
【表9B】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
[実施例6]
実施例6の変倍光学系の断面図と光路を図13に示す。実施例6の変倍光学系は、第5群G5がレンズL51~L57からなる点以外は、実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例6の変倍光学系について、基本レンズデータを表12Aおよび表12Bに、諸元と可変面間隔を表13に、各収差図を図14に示す。
【0092】
【表12A】
【0093】
【表12B】
【0094】
【表13】
【0095】
[実施例7]
実施例7の変倍光学系の断面図と光路を図15に示す。実施例7の変倍光学系は、第5群G5がレンズL51~L57からなる点以外は、実施例1の変倍光学系の概要と同様の構成を有する。実施例7の変倍光学系について、基本レンズデータを表14Aおよび表14Bに、諸元と可変面間隔を表15に、各収差図を図16に示す。
【0096】
【表14A】
【0097】
【表14B】
【0098】
【表15】
【0099】
表16に実施例1~7の変倍光学系の条件式(1)~(11)の対応値を示す。表16中の部分分散比以外の対応値は、d線基準での値である。
【表16】
【0100】
以上のデータからわかるように、実施例1~7の変倍光学系は、反射屈折光学系であり、望遠端での焦点距離が1000mm(ミリメートル)以上ありながら、直径が100mm(ミリメートル)を超える大口径の光学素子は1つのみであり軽量化が図られている。また、実施例1~7の変倍光学系は、変倍比が3.9倍以上あり、固定された開口絞りStを有し、上記のような長焦点距離を確保しながら、小型化が図られ、可視光域から近赤外光域までの広い範囲で諸収差が良好に補正されて高い光学性能を実現している。
【0101】
次に、本開示の実施形態に係る撮像装置について説明する。図17に、本開示の実施形態の撮像装置の一例として、本開示の実施形態に係る変倍光学系1を用いた撮像装置10の概略構成図を示す。撮像装置10としては、例えば、監視カメラ、ビデオカメラ、および電子スチルカメラ等を挙げることができる。
【0102】
撮像装置10は、変倍光学系1と、変倍光学系1の像側に配置されたフィルタ4と、フィルタ4の像側に配置された撮像素子5と、撮像素子5からの出力信号を演算処理する信号処理部6と、変倍光学系1の変倍を制御する変倍制御部7とを備える。
【0103】
撮像素子5は、変倍光学系1により形成される光学像を電気信号に変換する。撮像素子5としては例えばCCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を用いることができる。撮像素子5は、その撮像面が変倍光学系1の像面に一致するように配置される。なお、図17では1つの撮像素子5のみ図示しているが、撮像装置10は複数の撮像素子を備えるように構成してもよい。
【0104】
以上、実施形態および実施例を挙げて本開示の技術を説明したが、本開示の技術は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各光学素子の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数、および非球面係数等は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得る。
【0105】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17