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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ハイドロキシアパタイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018130345
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020007190
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 奨大
(72)【発明者】
【氏名】田近 正彦
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/043278(WO,A1)
【文献】特開平05-176984(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191221(WO,A1)
【文献】特開平03-279204(JP,A)
【文献】特表平03-500161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加してハイドロキシアパタイトを製造する方法であって、
ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるように水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加して得られた生成物の焼成体のX線回折チャートにおけるハイドロキシアパタイト(HAp)のピーク強度に対する酸化カルシウム(CaO)のピーク強度の比(CaO/HApピーク強度比)と、前記生成物にリン酸をさらに添加して得られる生成物を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量との相関関係を予め求めておく第1の工程と、
水酸化カルシウムスラリーに、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるようにリン酸を添加して中間生成物を調製する第2の工程と、
前記中間生成物の焼成体のCaO/HApピーク強度比から、前記相関関係を用いて、単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量を求める第3の工程と、
前記中間生成物に前記必要なリン酸添加量のリン酸を添加してハイドロキシアパタイト前駆体を製造する第4の工程と、
前記ハイドロキシアパタイト前駆体を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成する第5の工程とを備え
前記第1の工程、前記第2の工程、前記第3の工程、及び前記第4の工程において、同じ水酸化カルシウムスラリー及び同じリン酸を用い、
かつ、5質量%の濃度に調整され、25±1℃に保たれた水酸化カルシウムスラリー50gに、25±1℃に保たれた0.5モル/リットルの濃度のシュウ酸水溶液40gを一気に添加し、添加後pH7.0になるまでの時間(分)を測定して求めるシュウ酸反応性が2分以下である水酸化カルシウムスラリーを用いる、ハイドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項2】
Ca/Pモル比が1.68~1.72となるようにリン酸を添加して前記中間生成物を調製する、請求項1に記載のハイドロキシアパタイト製造方法。
【請求項3】
前記水酸化カルシウムスラリーに含有される水酸化カルシウムの不純物金属含有量が1000ppm未満である、請求項1または2に記載のハイドロキシアパタイト製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH);HAp)は、生体親和性の優れたセラミックスであり、人工歯根や骨充填材として一部実用化されている。ハイドロキシアパタイトの製造方法としては、水酸化カルシウムスラリーにリン酸水溶液を添加する方法が知られている。この場合、一般には、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)となるような割合で水酸化カルシウムスラリーにリン酸水溶液が添加されている。
【0003】
特許文献1においては、水酸化カルシウムとリン酸との割合は、CaO/Pの重量比が、所望する水酸アパタイトのCaO/Pの重量比であるか、またはリン酸を若干過剰に使用することが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-142817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法に従い、水酸化カルシウムスラリーに所定量のリン酸を単に添加する方法では、β―リン酸三カルシウム(Ca(PO;β―TCP)や酸化カルシウム(CaO)などの別の相が析出し、単一相のハイドロキシアパタイトが得られにくいという課題があることを本発明者らは見出した。
【0006】
本発明の目的は、単一相のハイドロキシアパタイトを容易に製造することができるハイドロキシアパタイトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加してハイドロキシアパタイトを製造する方法であって、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるように水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加して得られた生成物の焼成体のX線回折チャートにおけるハイドロキシアパタイト(HAp)のピーク強度に対する酸化カルシウム(CaO)のピーク強度の比(CaO/HApピーク強度比)と、前記生成物にリン酸をさらに添加して得られる生成物を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量との相関関係を予め求めておく第1の工程と、水酸化カルシウムスラリーに、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるようにリン酸を添加して中間生成物を調製する第2の工程と、前記中間生成物の焼成体のCaO/HApピーク強度比から、前記相関関係を用いて、単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量を求める第3の工程と、前記中間生成物に前記必要なリン酸添加量のリン酸を添加してハイドロキシアパタイト前駆体を製造する第4の工程と、前記ハイドロキシアパタイト前駆体を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成する第5の工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、Ca/Pモル比が1.68~1.72となるようにリン酸を添加して前記中間生成物を調製することが好ましい。
【0009】
本発明において、水酸化カルシウムスラリーに含有される水酸化カルシウムの不純物金属含有量は1000ppm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単一相のハイドロキシアパタイトを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において作成した検量線を示す図である。
図2】検量線を作成するための実施例における試料A~EのX線回折パターンを示す図である。
図3】試料Eの状態になるまでに必要なリン酸添加量とCaO/HApピーク強度比との関係を示す図である。
図4】検量線を用いて単一相のハイドロキシアパタイトを製造する実施例における試料G及びFのX線回折パターンを示す図である。
図5】比較例において作製した試料のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(水酸化カルシウムスラリー)
水酸化カルシウムスラリーは、例えば、石灰石を焼成して得られる生石灰(酸化カルシウム)に水を反応させることにより、調製することができる。例えば、石灰石をキルン内で約1000℃で焼成して、生石灰を生成し、この生石灰に約10倍量の熱水を投入し、30分間攪拌させることにより、水酸化カルシウムスラリーを調製することができる。
【0014】
本発明において、水酸化カルシウムスラリーに含有される水酸化カルシウムの不純物金属含有量は1000ppm未満であることが好ましい。不純物金属含有量が多くなると、高純度の水酸アパタイトが得られにくくなるため、単一相のハイドロキシアパタイトが得られにくくなる場合がある。不純物金属としては、Na、Mg、Fe、Sr、Si、Al、Tiなどが挙げられる。不純物金属含有量は、700ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましく、200ppm以下であることが特に好ましい。不純物金属含有量は、水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムについて、例えば、ICP-AES分析法(島津製作所製、ICPS-8100)を用いて測定することができる。
【0015】
不純物金属含有量が1000ppm未満である水酸化カルシウムスラリーは、例えば、特開2011-126772号公報に開示された製造方法により製造することができる。具体的には、A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5~11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液にアルカリ金属水酸化物を添加し、水酸化カルシウムを析出させる工程と、E)析出した水酸化カルシウムを濾過することにより、水酸化カルシウムを分離する工程とを備える方法により製造することができる。
【0016】
また、本発明の水酸化カルシウムスラリーは、シュウ酸反応性が2分以下であることが好ましい。本発明におけるシュウ酸反応性は、5質量%の濃度に調整され、25±1℃に保たれた水酸化カルシウムスラリー50gに、25±1℃に保たれた0.5モル/リットルの濃度のシュウ酸水溶液40gを一気に添加し、添加後pH7.0になるまでの時間(分)を測定して求めることができる。シュウ酸反応性が2分以下である水酸化カルシウムスラリーを用いることにより、単一相のハイドロキシアパタイトがより得られやすくなる場合がある。シュウ酸反応性が2分以下である水酸化カルシウムスラリーも、特開2011-126772号公報に開示された製造方法により製造することができる。
【0017】
シュウ酸反応性の値は、摩砕処理することにより小さくすることができる。このため、得られた水酸化カルシウムスラリーのシュウ酸反応性の値が2分より大きい場合、水酸化カルシウムスラリーを湿式あるいは乾式で摩砕処理することにより、シュウ酸反応性を2分以下にすることが可能である。
【0018】
本発明の水酸化カルシウムスラリーに含有される水酸化カルシウムのBET比表面積は、10m/g未満であることが好ましい。BET比表面積が10m/g以上になると、水酸化カルシウムの反応性が高くなり、反応の制御が難しくなる場合がある。また、水酸化カルシウムのBET比表面積は、1m/g以上であることが好ましい。BET比表面積が1m/g未満になると、水酸化カルシウムの反応性が低下し、単一相の水酸アパタイトを容易に製造することが難しくなる場合がある。BET比表面積は、水酸化カルシウムスラリーを乾燥し、粉末化した水酸化カルシウムについてBET比表面積を測定することにより求めることができる。水酸化カルシウムのBET比表面積は、より好ましくは2~7m/gの範囲である。
【0019】
リン酸と反応させるときの水酸化カルシウムスラリーの濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。リン酸と反応させるときの水酸化カルシウムスラリーの濃度は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
リン酸と反応させるときの水酸化カルシウムスラリーの温度は、10℃以上、50℃以下であることが好ましく、20℃~30℃の範囲内にすることがより好ましく、25℃~30℃の範囲内にすることがさらに好ましい。
【0021】
(リン酸水溶液)
本発明において用いるリン酸は、オルトリン酸、ピロリン酸、縮合リン酸などが挙げられるが、オルトリン酸を用いることが好ましい。
【0022】
本発明においては、リン酸水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0023】
水酸化カルシウムスラリーと反応させるときのリン酸水溶液の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。水酸化カルシウムスラリーと反応させるときのリン酸水溶液の濃度は、85質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
水酸化カルシウムスラリーと反応させるときのリン酸水溶液の温度は、10℃以上、50℃以下であることが好ましく、20℃~30℃の範囲内にすることがより好ましく、25℃~30℃の範囲内にすることがさらに好ましい。
【0025】
(第1の工程)
本発明は、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるように水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加して得られた生成物の焼成体のX線回折チャートにおけるハイドロキシアパタイト(HAp)のピーク強度に対する酸化カルシウム(CaO)のピーク強度の比(CaO/HApピーク強度比)と、前記生成物にリン酸をさらに添加して得られる生成物を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量との相関関係を予め求めておく第1の工程を備えている。
【0026】
第1の工程では、まず、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるように水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加する。このときのリン酸の添加量は、Ca/Pモル比で、1.68~2.00の範囲とすることが好ましく、1.70~1.80の範囲とすることがより好ましく、1.73~1.75の範囲とすることがさらに好ましい。
【0027】
水酸化カルシウムスラリーの濃度及び温度、並びにリン酸水溶液の濃度及び温度は、上記の範囲とすることが好ましい。また、次の第2の工程における水酸化カルシウムスラリー及びリン酸水溶液のそれぞれの濃度及び温度と近い条件にすることが好ましい。例えば、濃度の場合、±2%以内にすることが好ましく、±1%以内にすることがより好ましく、±0.5%以内にすることがさらに好ましい。温度の場合、±20℃以内にすることが好ましく、±10℃以内にすることが好ましく、±5℃以内にすることがさらに好ましい。
【0028】
以上のようにして、Ca/Pモル比を変化させて、水酸化カルシウムスラリーにリン酸を添加し、複数の生成物を調製する。得られた各生成物の一部を取出し、これを焼成し各焼成体を作製する。焼成温度は、700~1350℃の範囲内とすることが好ましい。また、第5の工程における焼成温度に近い温度にすることが好ましい。例えば、±50℃以内にすることが好ましく、±30℃以内にすることが好ましく、±20℃以内にすることがさらに好ましい。焼成時間は、一般に、20分~120分とすることが好ましい。
【0029】
得られた各焼成体について、X線回折チャートにおけるハイドロキシアパタイト(HAp)のピーク強度に対する酸化カルシウム(CaO)のピーク強度の比(CaO/HApピーク強度比)を求める。ハイドロキシアパタイト(HAp)のピーク強度は、2θ=31.6°~32.0°の範囲内にあるピークの強度を求める。酸化カルシウム(CaO)のピーク強度は、2θ=37.0°~38.0°の範囲内にあるピークの強度を求める。
【0030】
CaO/HApピーク強度比は、0.1×100-1~10×100-1の範囲で分布していることが好ましい。ここで、[×100-1]の単位は、%と同様の意味を有する単位である。分布しているポイントの数は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5~10の範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
次に、上記生成物にリン酸をさらに添加して得られる生成物を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量を求める。ここで、単一相のハイドロキシアパタイトとは、X線回折チャートにおいて、ハイドロキシアパタイト以外のピークが検出されないものを意味している。具体例には、α型リン酸三カルシウム、(Ca(PO;α―TCP)β型リン酸三カルシウム(Ca(PO;β―TCP)や酸化カルシウム(CaO)などの他の化合物のピークが検出されない、あるいはそれぞれの物質を示す回折線のうち、最も強い強度を示しているピーク、すなわちメインピークの強度が、ハイドロキシアパタイトのメインピークの強度に対して十分に小さい状態であることを意味している。この時の十分に小さい状態は、0.3×100-1であることが好ましく、0.2×100-1以下であることがより好ましく、0.1×100-1以下であることがより好ましい。焼成条件は、CaO/HApピーク強度比を求める際の焼成条件と同様であることが好ましい。
【0032】
リン酸添加量が多すぎるとα型あるいはβ型リン酸三カルシウムが検出され、リン酸添加量が少なすぎると酸化カルシウムが検出される傾向にあるので、これを目安にして単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量を求めることができる。
【0033】
以上のようにして求めたCaO/HApピーク強度比の値と、単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量の値から、これらの相関関係を求めることができる。CaO/HApピーク強度比と必要なリン酸添加量との相関関係について、グラフを作成しておくことが好ましい。
【0034】
(第2の工程)
次に、本発明では、水酸化カルシウムスラリーに、ハイドロキシアパタイトの化学量論組成比(Ca/Pモル比=1.67)よりCaの割合が多くなるようにリン酸を添加して中間生成物を調製する。例えば、Ca/Pモル比を1.68~1.72の範囲内にすることが好ましく、1.69~1.72の範囲内にすることがより好ましく、1.69~1.71の範囲内にすることがさらに好ましい。しかしながら、これに限定されるものではなく、第1の工程で求めたCaO/HApピーク強度比と必要なリン酸添加量との相関関係等を考慮して、適宜設定することができる。
【0035】
水酸化カルシウムスラリーの濃度及び温度、並びにリン酸水溶液の濃度及び温度は、例えば、第1の工程において説明した条件と同様にすることができる。
【0036】
(第3の工程)
次に、本発明では、第2の工程で得られた上記中間生成物の一部を取出し、これを焼成した焼成体のCaO/HApピーク強度比を測定する。焼成条件は、例えば、第1の工程において説明した条件と同様にすることができる。測定された中間生成物の焼成体のCaO/HApピーク強度比から、第1の工程で求めた相関関係を用いて、単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量を求める。
【0037】
(第4の工程)
次に、本発明では、第2の工程で得られた中間生成物に、第3の工程で求めた単一相のハイドロキシアパタイトを生成するのに必要なリン酸添加量のリン酸を添加してハイドロキシアパタイト前駆体を製造する。リン酸は、例えば、第2の工程において用いたものと同様のものを用いることができる。
【0038】
(第5の工程)
次に、本発明では、第4の工程で得られたハイドロキシアパタイト前駆体を焼成して単一相のハイドロキシアパタイトを生成する。焼成条件は、例えば、第1の工程において説明した条件と同様にすることができる。
【0039】
以上のようにして、本発明によれば、単一相のハイドロキシアパタイトを容易に製造することができる。
【実施例
【0040】
以下、本発明に従う具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例(検量線作成)
固形分11質量%の高純度水酸化カルシウムスラリー1727gに、濃度11質量%のリン酸水溶液1327gを滴下した。このときのCa/Pモル比は、1.725である。使用した高純度水酸化カルシウムスラリーの不純物金属含有量は、Na:30ppm、Mg:8ppm、Fe:3ppm、Sr:4ppm、Si:20ppm、Al:2ppmである。また、使用した高純度水酸化カルシウムスラリーのシュウ酸反応性は、1.0分である。
【0042】
滴下後15分間撹拌し、次にスラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水した。得られたろ過物を1200℃の管状炉内で焼成し、得られた固形物を乳鉢で粉砕し、試料Aを得た。試料AのX線回折パターンを、X線回折装置により測定した。
【0043】
図2に、試料AのX線回折パターンを示す。図2に示すように、試料Aにおいては、ハイドロキシアパタイトのピークと、2θ=37.4°付近の酸化カルシウムのピークが確認された。
【0044】
次に、試料Aを採取したスラリーに、さらに上記リン酸水溶液を少量添加し、再度スラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水、焼成、粉砕を行って、試料Bを得た。上記と同様にして、試料BのX線回折パターンを測定し、図2に示した。
【0045】
次に、試料Bを採取したスラリーに、さらに上記リン酸水溶液を少量添加し、再度スラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水、焼成、粉砕を行って、試料Cを得た。上記と同様にして、試料CのX線回折パターンを測定し、図2に示した。
【0046】
次に、試料Cを採取したスラリーに、さらに上記リン酸水溶液を少量添加し、再度スラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水、焼成、粉砕を行って、試料Dを得た。上記と同様にして、試料DのX線回折パターンを測定し、図2に示した。
【0047】
次に、試料Dを採取したスラリーに、さらに上記リン酸水溶液を少量添加し、再度スラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水、焼成、粉砕を行って、試料Eを得た。上記と同様にして、試料EのX線回折パターンを測定し、図2に示した。
【0048】
図2に示すように、試料Eにおいては、2θ=37.4°付近の酸化カルシウムのピークが、ほぼ認められなくなっている。
【0049】
次に、図2の試料A~Eにおける、2θ=31.8°付近のハイドロキシアパタイトのピークトップの高さ(HApピーク強度)と、2θ=37.4°付近の酸化カルシウムのピークトップの高さ(CaOピーク強度)とを求め、CaOピーク高さ/HApピーク高さの比(CaO/HApピーク強度比)を算出した。
【0050】
表1に、HApピーク強度、CaOピーク強度、及びCaO/HApピーク強度比[×100-1]を示す。
【0051】
試料Aの採取時を起点とした試料A~Eにおける累計リン酸添加量、及びこの累計リン酸添加量から算出した、試料Eの状態になるまでに必要なリン酸添加量を、表1に示す。
【0052】
図3は、試料Eの状態になるまでに必要なリン酸添加量を横軸に、CaO/HApピーク強度比[×100-1]を縦軸にして、試料A~Eをプロットし、近似直線を引いた図である。
【0053】
図3において、近似直線のX軸切片の値は、マイナス2.44となる。この値は、試料Eの状態から、さらにリン酸を2.44ml添加すると、CaO/HApピーク強度比がほぼゼロになることを示している。従って、試料Eの状態になるまでに必要なリン酸添加量の値に、2.44mlをプラスすることで、単一相のHApを生成するのに必要なリン酸添加量を算出することができる。表1に、単一相のHApを生成するのに必要なリン酸添加量を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
図1は、試料A~Eにおける、CaO/HApピーク強度比[×100-1]と、単一相のHApを生成するのに必要なリン酸添加量との関係を示す図である。図1において、近似直線を引くことにより、CaO/HApピーク強度比[×100-1]と、単一相のHApを生成するのに必要なリン酸添加量との関係を示す検量線とすることができる。
【0056】
実施例(検量線を利用した合成)
固形分11質量%の高純度水酸化カルシウムスラリー1727gに、濃度11質量%のリン酸水溶液1340gを滴下した。このときのCa/Pモル比は、1.71である。高純度水酸化カルシウムスラリーは、検量線作成のときに用いたものと同じものを用いた。
【0057】
滴下後15分間撹拌し、次にスラリーを少量抜き取り、吸引ろ過により脱水した。得られたろ過物を1200℃の管状炉内で焼成し、得られた固形物を乳鉢で粉砕し、試料Fを得た。試料FのX線回折パターンを、X線回折装置により測定した。
【0058】
図4に、試料FのX線回折パターンを示す。表2に、試料FのHApピーク強度、CaOピーク強度、及びCaO/HApピーク強度比[×100-1]を示す。
【0059】
試料FのCaO/HApピーク強度比[×100-1]と、図1に示す検量線から、単一相のHApを生成するのに必要なリン酸添加量は、8.85mlであることがわかる。
【0060】
試料Fを採取したスラリーに、さらに上記リン酸水溶液を8.85ml添加し、添加後のスラリーに対して、吸引ろ過による脱水、焼成、粉砕を行って、試料Gを得た。上記と同様にして、試料GのX線回折パターンを測定し、図4に示した。
【0061】
表2に、試料GのHApピーク強度、CaOピーク強度、及びCaO/HApピーク強度比[×100-1]を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、試料GのCaO/HApピーク強度比[×100-1]は、0.05であり、単一相のHApが得られていることがわかる。
【0064】
比較例(検量線を利用しない従来の合成)
固形分11質量%の高純度水酸化カルシウムスラリー1727gに、濃度11質量%のリン酸水溶液1370gを滴下した。このときのCa/Pモル比は、理論比である1.67である。高純度水酸化カルシウムスラリーは、検量線作成のときに用いたものと同じものを用いた。
【0065】
滴下後15分間撹拌し、次にスラリーに対して、吸引ろ過により脱水した。得られたろ過物を1200℃の管状炉内で焼成し、得られた固形物を乳鉢で粉砕し、比較試料Hを得た。比較試料HのX線回折パターンを、X線回折装置により測定し、図5に示した。
【0066】
図5に示すように、比較試料Hでは、リン酸三カルシウム(TCP)が検出されており、単一相のHApでないことがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5