(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】靴底及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A43B 13/22 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
A43B13/22 A
(21)【出願番号】P 2021175436
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2021-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本テレビホールディングス株式会社「世界の果てまでイッテQ!」という番組での公開,令和2年12月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592160607
【氏名又は名称】日進ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 喜朗
(72)【発明者】
【氏名】野崎 知裕
(72)【発明者】
【氏名】田窪 隆志
【審査官】田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/003740(WO,A1)
【文献】特開2014-104286(JP,A)
【文献】特開2016-093365(JP,A)
【文献】特開2013-126529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/14-13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴の底部に配されるベース部と、
ベース部の下面から下向きに設けられた、横断面V字状を為す複数の滑り止め凸部と、
を備え、
これらベース部と滑り止め凸部とが、エラストマーによって一体的に形成された靴底であって、
滑り止め凸部におけるベース部との接続部分に、ベース部に近づくにつれて横断面が大きくなる台座部が設けられ、
滑り止め凸部の下面の表面粗さ(Ra)が、1.0μm以下とされて、
下記手順1~11で測定された、それぞれの滑り止め凸部の残留液体面密度が、5mg/cm
2以下とされた
ことを特徴とする靴底。
手順1:アルミニウム板の上面に平滑な樹脂フィルムを貼り合わせた基板を用意する。
手順2:水平にした基板の上に、粘度3.5Pa・sに調整した液体状のラテックスからなる試液を垂らし、滑り止め凸部の下面の面積よりも広くなるように試液を薄く延ばす。
手順3:ベース部から切り離した滑り止め凸部の重量W
0を測定する。
手順4:滑り止め凸部を、その下面を下側に向けた状態で試液の上に静かに載せる。
手順5:滑り止め凸部の上面に
6gの錘を載せ、試液に対して滑り止め凸部を沈み込ませる。
手順6:試液を硬化させる。
手順7:滑り止め凸部の周囲に食み出た状態で硬化している試液を取り除く。
手順8:滑り止め凸部を基板の上側から取り外す。
手順9:基板から取り外した滑り止め凸部の重量W
1を測定する。
手順10:重量W
1と重量W
0との差W
1-W
0を、滑り止め凸部の下面の面積Sで割り、値(W
1-W
0)/Sを求める。
手順11:同じ形態の5個の滑り止め凸部について求めた値(W
1-W
0)/Sの平均値を、その滑り止め凸部の残留液体面密度とする。
【請求項2】
滑り止め凸部の下面と側面とが為すエッジの半径が0.5mm以下とされた請求項1記載の靴底。
【請求項3】
滑り止め凸部の縦断面の幅Wに対する、滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さHの比H/Wが、0.1~1の範囲とされた請求項1又は2記載の靴底。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の靴底の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑りやすい状態の歩行面を歩行する際にも優れた耐滑性を発揮することができる靴底と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
靴底は、
図1(a)に示すように、ベース部10の下面に、複数の滑り止め凸部20を設けた構造を有している。この種の靴底は、エラストマーを金型で成形することによって製造される。滑り止め凸部20の形態は、靴の種類やメーカーによって多種多様であるが、滑り止め凸部20の下面21(接地面)と側面22との境界部のエッジ23が歩行面50に突き当たって引っ掛かるようにするとともに、その下面21(接地面)の摩擦によって、歩行面50に対して靴が滑らないようにすることは、概ね共通している。ところが、従来の靴底では、歩行時の荷重(歩行者の体重)によって、
図1(b)に示すように、滑り止め凸部20が倒れてしまい、滑り止め凸部20の下面21が歩行面50に殆ど当たらなくなるおそれがあった。このため、靴底の耐滑性が十分に発揮されなくなることがあった。
【0003】
このような実状に鑑みて、本出願人は、特許文献1の
図1に示すように、接地凸部3(滑り止め凸部)を横断面V字状に形成するとともに、同文献の
図2に示すように、基台部2(ベース部)とそれぞれの接地凸部3(滑り止め凸部)との境界部に傾斜補強部5(台座部)を設けた靴底を提案している。接地凸部3(滑り止め凸部)を横断面V字状としたことによって、接地凸部3(滑り止め凸部)の曲げモーメントを大きくすることができる。また、傾斜補強部5(台座部)を設けたことによって、接地凸部3(滑り止め凸部)の付根部分を変形しにくくすることができる。このため、接地凸部3(滑り止め凸部)をあらゆる方向(例えば前後方向や左右方向)へ倒れにくくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の靴底は、接地凸部3(滑り止め凸部)が倒れにくく、平滑な床面に対する動摩擦係数で0.5程度と、良好な耐滑性を発揮できるものとなっていた。しかし、特許文献1の靴底は、歩行面に水等の液体が存在する場合等、歩行面が滑りやすい状況にあるときの耐滑性に改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、歩行面に液体が存在する等、歩行面が滑りやすい状況にあるときでも、優れた耐滑性を発揮できる靴底を提供するものである。また、この靴底の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、
靴の底部に配されるベース部と、
ベース部の下面から下向きに設けられた、横断面V字状を為す複数の滑り止め凸部と、
を備え、
これらベース部と滑り止め凸部とが、エラストマーによって一体的に形成された靴底であって、
滑り止め凸部におけるベース部との接続部分に、ベース部に近づくにつれて横断面が大きくなる台座部が設けられ、
滑り止め凸部の下面の表面粗さ(Ra)が、1.5μm以下とされた
ことを特徴とする靴底
を提供することによって解決される。
【0008】
ここで、「(滑り止め凸部の)横断面」とは、
図2(a)における断面α
1に示すように、滑り止め凸部20を、滑り止め凸部20の下面21(
図2(b)を参照。)に平行な平面(水平面)で切断したときの断面をいう。「横断面V字状」とは、その横断面α
1がV字ラインLに沿って延在することをいう。
これに対し、
図2(b)における断面α
2に示すように、滑り止め凸部20を、V字ラインLに垂直な平面で切断した断面のことを、「(滑り止め凸部の)縦断面」と呼ぶことがある。
【0009】
靴底の耐滑性を高めるためには、滑り止め凸部の下面の広い範囲が歩行面に密着した状態となることが重要であるところ、滑り止め凸部の下面の表面粗さ(Ra)を1.5μm以下とすることによって、歩行面に対する滑り止め凸部の下面の接触面積を広く確保することができる。また、滑り止め凸部の下側(滑り止め凸部の下面と歩行面との間)に液体が存在する状態であっても、滑り止め凸部の下面が歩行面に接地したときに、滑り止め凸部の下側にある液体が、滑り止め凸部の周囲に押し出されやすくすることもできる。加えて、滑り止め凸部の下面が歩行面に接地したときには、滑り止め凸部の下側にある空気も、滑り止め凸部の周囲に押し出されやすくすることができる。このため、滑り止め凸部の下面と歩行面との境界部分に略真空状態を生じさせ、滑り止め凸部の下面が歩行面に吸い付いた状態となるようにすることもできる。したがって、歩行面に水等の液体が存在する場合等、歩行面が滑りやすい状況にあるときにおいても、靴底の耐滑性を高めることができる。
【0010】
本発明の靴底では、滑り止め凸部の下面と側面とが為すエッジ(
図2(b)における「エッジ23」を参照。以下、このエッジを、単に「滑り止め凸部のエッジ」ということがある。)の半径R(
図2(b)を参照。)を0.5mm以下とすることが好ましい。これにより、滑り止め凸部のエッジが、鋭く切り立った状態となり、歩行面に引っ掛かりやすくなる。加えて、水等の液体が存在する歩行面を歩行する際には、滑り止め凸部を歩行面に接地させた後に、滑り止め凸部の周囲にある液体が、滑り止め凸部の下側に新たに入り込みにくくすることもできる。このため、靴底の耐滑性をさらに高めることができる。
【0011】
本発明の靴底では、滑り止め凸部の縦断面α
2の幅W(
図2(b)を参照。)に対する、滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さHの比H/Wを、0.1~1の範囲とすることが好ましい。というのも、比H/Wを0.1未満とすると、滑り止め凸部のエッジが歩行面に引っ掛かりにくくなるおそれがある。また、比H/Wを1よりも大きくすると、歩行時の荷重(歩行者の体重)によって滑り止め凸部が倒れやすくなり、滑り止め凸部の下面が歩行面に密着しにくくなるからである。
【0012】
本発明の靴底では、上記の構成を採用したことによって、それぞれの滑り止め凸部の残留液体面密度を、5mg/cm2以下と少なく抑えることも可能である。ここで、「滑り止め凸部の残留液体面密度」とは、液体が存在する面(歩行面に見立てた面)に押し付けた後の滑り止め凸部の下面に、液体がどれだけ残っているのかを示す指標である。この残留液体面密度が少なければ少ないほど、その滑り止め凸部が排液性に優れていることになり、この残留液体面密度が多ければ多いほど、その滑り止め凸部の排液性が悪いことになる。滑り止め凸部の残留液体面密度は、以下の方法により測定される。
【0013】
図3及び
図4は、滑り止め凸部の残留液体面密度の測定方法を説明する図である。
[1] まず、
図2(a)に示すように、基板60の上に試液70を垂らす。基板60は、アルミニウム板61の上面に、平滑な樹脂フィルム62を貼り合わせたものを使用する。アルミニウム板61に対して樹脂フィルム62が動かないように、粘着テープ63等で樹脂フィルム62をアルミニウム板61に固定する。樹脂フィルム62は、下記の[6]で基板60から滑り止め凸部20を取り外す際に、滑り止め凸部20の下側にある試液70(滑り止め凸部20の下側で硬化した試液70)が滑り止め凸部20側に付いていくように(試液70が基板60側に残らないように)するためのものである。試液70は、液体状のラテックス(株式会社レヂテックス製の水溶性接着剤「SV-160L」に増粘剤を添加して粘度3.5Pa・sに調整したものを使用する。試液70は、測定を行うそれぞれの滑り止め凸部20(
図3(b))の下面(接地面)の面積よりも広くなるように薄く延ばす。
図3の例では、一度に5つの滑り止め凸部20の残留液体面密度を測定できるように、基板60の上面における5箇所に試液70を垂らしている。
[2] 続いて、
図3(b)及び
図3(c)に示すように、滑り止め凸部20の下面(接地面)を下側に向けた状態で、滑り止め凸部20を試液70の上に静かに載せる。滑り止め凸部20は、ベース部10(
図1を参照)から切り離されて分離されたものを使用する。試液70の上に滑り止め凸部20を載せたときに滑り止め凸部20の上面(ベース部10との切断面)が水平となるように、滑り止め凸部20の上面を平坦にしておく。滑り止め凸部20は、同じ形態のものを5個用意(重量も同じになるように調整)しておく。それぞれの滑り止め凸部20の重量(W
0とする。)を予め測定しておく。
[3] 続いて、
図3(d)及び
図4(e)に示すように、滑り止め凸部20の上面に、錘80を載せる。錘80は、滑り止め凸部20の上面に完全に覆い被さる大きさの板状体(重さ6g)を使用する。錘80(板状体)が水平となって錘80の重量が滑り止め凸部20の上面に均等にかかるように、錘80をバランスよく載せる。これにより、試液70に対して滑り止め凸部20が沈み込み、滑り止め凸部20の下側(滑り止め凸部20の下面と基板60の上面との間)にある試液70が滑り止め凸部20の周囲に押し出される。
[4] その後、試液70が硬化するまで、錘80を載せたままの状態で放置する。試液70の硬化時間を短縮するために、滑り止め凸部20を基板60ごとギアオーブンに入れて加熱・乾燥してもよい。
[5] 試液70が硬化したことを確認すると、滑り止め凸部20の上側から錘80を取り除き、
図4(f)に示すように、ピンセット90等を用いて、滑り止め凸部20の周囲にある試液70(滑り止め凸部20の周囲に食み出た状態で硬化している試液70)を綺麗に取り除く。このとき、滑り止め凸部20の下側に残った状態で硬化している試液70が周囲に引っ張り出されないように注意する。硬化後の試液70にカッターナイフ等で軽く切れ目を入れておくと、滑り止め凸部20の周囲にある試液70のみを取り除きやすくなる。
[6] 続いて、
図4(g)に示すように、滑り止め凸部20を基板60の上側から取り外す。滑り止め凸部20の下側から周囲に押し出されることなく滑り止め凸部20の下側に残ったまま硬化した試液70は、滑り止め凸部20側にくっついた状態で基板60から剥がれる。
[7] 上記[6]で基板60から取り外した滑り止め凸部20(その下側に硬化した試液70がくっついた状態の滑り止め凸部20)の重量(W
1とする。)を測定する。
[8] 滑り止め凸部20ごとに、上記[7]で測定した重量W
1と、上記[2]で測定した重量W
0との差W
1-W
0を求める。
[9] 上記[8]で求めた差W
1-W
0を、それぞれの滑り止め凸部20の下面(接地面)の面積(Sとする。)で割る(値(W
1-W
0)/Sを求める)。
[10] 同じ形態の5個の滑り止め凸部20について求めた値(W
1-W
0)/Sの平均値を、その形態の滑り止め凸部20の「残留液体面密度」とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によって、歩行面に液体が存在する等、歩行面が滑りやすい状況にあるときでも、優れた耐滑性を発揮できる靴底を提供することが可能になる。また、この靴底の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)滑り止め凸部が立った状態の靴底と、(b)滑り止め凸部が倒れた状態の靴底とを示した断面図である。
【
図2】滑り止め凸部の横断面α
1と縦断面α
2を説明する斜視図である。
【
図3】滑り止め凸部の残留液体面密度の測定方法(前半部分)を説明する図である。
【
図4】滑り止め凸部の残留液体面密度の測定方法(後半部分)を説明する図である。
【
図5】第一実施形態の靴底の下面側を示した斜視図である。
【
図7】第一実施形態の靴底における滑り止め凸部の下面側を示した、(a)斜視図と、(b)底面図である。
【
図8】第一実施形態の靴底における滑り止め凸部の周辺を、
図7におけるA
1-A
1面で切断した状態を示した断面図である。
【
図11】実験1で用いた試料の一例を示した斜視図である。
【
図12】滑り止め凸部の開き角度θ
1が45°であるときの、滑り止め凸部の縦断面の幅Wに対する、滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さHの比H/Wと、動摩擦係数との関係を示したグラフである。
【
図13】滑り止め凸部の開き角度θ
1が90°であるときの、滑り止め凸部の縦断面の幅Wに対する、滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さHの比H/Wと、動摩擦係数との関係を示したグラフである。
【
図14】滑り止め凸部の開き角度θ
1が140°であるときの、滑り止め凸部の縦断面の幅Wに対する、滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さHの比H/Wと、動摩擦係数との関係を示したグラフである。
【
図15】(a)横断面V字状の滑り止め凸部と、(b)横断面四角状の滑り止め凸部と、(c)横断面円形状の滑り止め凸部につき、残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真である。
【
図16】(a)表面粗さ(Ra)が0.3μmの滑り止め用凸部と、(b)表面粗さ(Ra)が0.6μmの滑り止め用凸部と、(c)表面粗さ(Ra)が1.5μmの滑り止め用凸部と、(d)表面粗さ(Ra)が7.4μmの滑り止め用凸部につき、残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真である。
【
図17】(a)エッジの半径が0.07mmの滑り止め用凸部と、(b)エッジの半径が0.57mmの滑り止め用凸部につき、残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の靴底の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。以下では、3つの実施形態(第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態)を例に挙げて、本発明の靴底を説明する。しかし、本発明の靴底の技術的範囲は、これらの実施形態に限定されない。本発明の靴底には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0017】
1.第一実施形態の靴底
まず、第一実施形態の靴底について説明する。
図5は、第一実施形態の靴底の下面側を示した斜視図である。
図6は、第一実施形態の靴底の底面図である。第一実施形態の靴底10は、
図5及び
図6に示すように、ベース部10と複数の滑り止め凸部20とを備えている。
【0018】
第一実施形態の靴底は、エラストマーを金型で成形したものとなっており、ベース部10と複数の滑り止め凸部20とが一体的に形成されたものとなっている。靴底に用いるエラストマーとしては、熱硬化性エラストマー(加硫ゴム等)や、熱可塑性エラストマーが例示される。例えば、合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性スチレンブタジエンゴム(SBS)、スチレン系熱可塑性エラストマー(SIS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタン及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれた1種類又は複数種類の弾性重合体と、ゴム配合剤とからなるものを、靴底を成形するエラストマーとして選択することができる。
【0019】
靴底の硬度は、靴底の用途等に応じて適宜決定される。しかし、靴底が柔らかすぎると、滑り止め凸部20の強度を維持しにくくなる。このため、靴底の硬度(A硬度計で測定した値。以下同じ。)は、通常、10度以上とされる。靴底の硬度は、20度以上とすることが好ましく、30度以上とすることがより好ましく、35度以上とすることがさらに好ましい。
【0020】
ただし、靴底を硬くしすぎると、滑り止め凸部20が弾性変形しにくくなって、所望の耐滑性が得られにくくなるおそれがある。また、靴底の緩衝性が低下して、靴の履き心地が悪くなるおそれもある。このため、靴底の硬度は、70度以下とすることが好ましく、60度以下とすることがより好ましく、50度以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
1.1 ベース部
ベース部10は、概略足裏形状を為す部材となっている。このベース部10は、靴の底部に配される。ベース部10は、前側部分11と、後側部分12と、中間部分13とで構成されている。前側部分11は、足の爪先の下側に配される部分であり、後側部分12は、足の踵の下側に配される部分であり、中間部分13は、足の土踏まずの下側に配される部分である。
【0022】
ベース部10は、その下面が下向きに凸となるように、その下面を前後方向に沿って湾曲させることもできる。しかし、第一実施形態の靴底では、ベース部10を平板状に形成しており、前側部分11の下面と中間部分13の下面と後側部分12の下面とが面一で連続するようにしている。これにより、靴底におけるより広い範囲が歩行面に接触する(より多くの滑り止め凸部20が歩行面に接触する)ようにし、靴底の耐滑性をより高くすることができる。
【0023】
1.2 滑り止め凸部
滑り止め凸部20は、歩行面に対して靴底が滑らないようにするためのものであり、ベース部10の下面から下向きに突出した状態で設けられる。それぞれの滑り止め凸部20の横断面α
1(
図2(a)を参照。以下同じ。)は、V字状を為している。滑り止め凸部20は、所定の間隔を隔てた状態で繰り返し配置されている。第一実施形態の靴底では、ベース部10の下面における略全領域に滑り止め凸部20を設けている。
【0024】
このように、滑り止め凸部20の横断面α1をV字状にしたことによって、滑り止め凸部20を、前後方向や左右方向を含むあらゆる方向に対して倒れにくい形態とすることができる。また、既に述べたように、滑り止め凸部20の下面21と側面22との境界部のエッジ23が滑り止めに効くところ、滑り止め凸部20をV字状にしたことによって、このエッジ23の長さ(滑り止め凸部20を周回する合計の長さ)を確保しやすくなっている。さらに、水等の液体(又は液状物)が存在する歩行面に対して滑り止め凸部20を接地させたときにおける排液性を高めることも可能となっている。
【0025】
滑り止め凸部20の開き角度θ
1(後掲の
図7(b)を参照。)は、0°よりも大きく、180°よりも小さければ、特に限定されない。しかし、滑り止め凸部20の開き角度θ
1を小さくしすぎると、滑り止め凸部20が左右方向に倒れやすくなる。このため、滑り止め凸部20の開き角度θ
1は、通常、50°以上とされる。滑り止め凸部20の開き角度θ
1は、60°以上とすることが好ましく、70°以上とすることがより好ましく、80°以上とすることがさらに好ましい。
【0026】
ただし、滑り止め凸部20の開き角度θ1を大きくしすぎると、滑り止め凸部20が前後方向(V字の開口と頂点とを結ぶ方向)に倒れやすくなる。このため、滑り止め凸部20の開き角度θ1は、通常、130°以下とされる。滑り止め凸部20の開き角度θ1は、120°以下とすることが好ましく、110°以下とすることがより好ましく、100°以下とすることがさらに好ましい。第一実施形態の靴底において、滑り止め凸部20の開き角度θ1は、90°に設定している。
【0027】
また、第一実施形態の靴底では、全ての滑り止め凸部20を、それが形成するV字の開いた側が前方(爪先側)を向くように配置している。これにより、歩行する際に滑り止め凸部20の前方からかかる荷重を、滑り止め凸部20でしっかりと受け止めることが可能になる。ただし、運動用の靴等、左右方向に踏ん張ることも想定される靴で採用する場合等には、V字が左側や右側に開いた滑り止め凸部20を混在させる等、異なる向きの滑り止め凸部20を設けることもできる。
【0028】
図7に、第一実施形態の靴底における滑り止め凸部20を示す。
図7(a)は、滑り止め凸部20の下面側を示した斜視図であり、
図7(b)は、滑り止め凸部20の底面図である。
図8は、第一実施形態の靴底における滑り止め凸部20の周辺を、
図7(b)におけるA
1-A
1面で切断した状態を示した断面図である。滑り止め凸部20の横断面の大きさは、滑り止め凸部20の先端側(下端側)では、一定となっている(上下位置によらず一定となっている)ものの、
図7及び
図8に示すように、滑り止め凸部20の付根部分(上端付近)では、ベース部10に近づくにつれて大きくなるように形成されている。すなわち、ベース部10に近づくにつれて横断面が大きくなる台座部24を、滑り止め凸部20における付根部分(ベース部10との接続部分)に設けている。
図7(b)に示すように、滑り止め凸部20を下面側から見たときには、台座部24が、滑り止め凸部20の周囲を囲むように現れる。
【0029】
既に述べたように、滑り止め凸部20の耐滑性を高めるためには、滑り止め凸部20の下面21における広い範囲が歩行面に密着した状態となることが重要であるところ、歩行時の荷重(歩行者の体重)によって滑り止め凸部20が倒れてしまうと、滑り止め凸部20の下面21が歩行面に密着しにくくなる。この点、滑り止め凸部20の付根部分に横断面の大きな台座部24を設けたことによって、滑り止め凸部20が補強されて倒れにくくなっている。また、この台座部24の存在によって、隣り合う滑り止め凸部20の隙間にゴミ等の異物が詰まりにくくなっている。
【0030】
滑り止め凸部20の縦断面α
2(
図2(b)を参照。以下同じ。)の幅W(
図7)に対する、滑り止め凸部20における台座部24を除いた部分の高さH(
図7)の比H/Wは、0.1以上とすることが好ましい。この比H/Wが0.1未満であると、滑り止め凸部20のエッジ23が歩行面に引っ掛かりにくくなるおそれがあるからである。比H/Wは、0.15以上とすることがより好ましく、0.2以上とすることがさらに好ましい。ただし、比H/Wを大きくしすぎると、滑り止め凸部20を倒す向きの力に対して台座部24のみでは抗いにくくなる。このため、比H/Wは、1以下とすることが好ましい。比H/Wは、0.8以下とすることがより好ましく、0.6以下とすることがさらに好ましく、0.5以下とすることが特に好ましい。後述するように、靴底の耐滑性(動摩擦係数)は、比H/Wが0.25付近にあるときに最大となる。
【0031】
滑り止め凸部20の縦断面α
2の幅W(
図8)の具体的な値は、特に限定されない。しかし、滑り止め凸部20の幅Wを狭くしすぎると、滑り止め凸部20が破損しやすくなる。また、上記の比H/Wを1以下に設定しにくくなり、靴底の耐滑性を高めにくくなる。このため、滑り止め凸部20の幅Wは、通常、1mm以上とされる。滑り止め凸部20の幅Wは、1.5mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがより好ましく、2.5mm以上とすることがさらに好ましい。
【0032】
ただし、滑り止め凸部20の幅Wを広くしすぎると、ベース部10に設ける滑り止め凸部20の数を増やしにくくなり、滑り止めに効くエッジ23の数を確保しにくくなる。また、上記の比H/Wを0.1以上に設定しにくくなり、靴底の耐滑性を高めにくくなる。このため、滑り止め凸部20の幅Wは、通常、10mm以下とされる。滑り止め凸部20の幅Wは、7mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。
【0033】
滑り止め凸部20における台座部24を除いた部分の高さH(
図8)の具体的な値も、特に限定されない。しかし、滑り止め凸部20の高さHを低くしすぎると、滑り止め凸部21のエッジ23が滑り止めに効きにくくなるおそれがある。また、上記の比H/Wを0.1以上に設定しにくくなり、靴底の耐滑性を高めにくくなる。このため、滑り止め凸部20の高さHは、通常、0.5mm以上とされる。滑り止め凸部20の高さHは、0.7mm以上とすることが好ましく、0.9mm以上とすることがより好ましく、1mm以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
ただし、滑り止め凸部20の高さHを高くしすぎると、上記の比H/Wを1以下に設定しにくくなり、靴底の耐滑性を高めにくくなる。このため、滑り止め凸部20の高さHは、通常、5mm以下とされる。滑り止め凸部20の高さHは、3mm以下とすることが好ましく、2mm以下とすることがより好ましく、1.5mm以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
滑り止め凸部20における台座部24を除いた部分の横幅W
1(
図7(b))は、特に限定されない。しかし、滑り止め凸部20の横幅W
1を狭くしすぎると、個々の滑り止め凸部20が小さくなり、滑り止め凸部20の強度を維持しにくくなる。また、滑り止め凸部20の成形も難しくなる。このため、滑り止め凸部20の横幅W
1は、通常、5mm以上とされる。滑り止め凸部20の横幅W
1は、10mm以上とすることが好ましく、12mm以上とすることがより好ましい。
【0036】
ただし、滑り止め凸部20の横幅W1を広くしすぎると、個々の滑り止め凸部20が大きくなり、滑り止め凸部20を密に配置しにくくなる。したがって、滑り止めに効くエッジ23の総長を長く確保しにくくなる。このため、滑り止め凸部20の横幅W1は、通常、50mm以下とされる。滑り止め凸部20の横幅W1は、40mm以下とすることが好ましく、30mm以下とすることがより好ましく、20mm以下とすることがさらに好ましい。第一実施形態の靴底においては、滑り止め凸部20の横幅W1を約14mmに設定している。
【0037】
滑り止め凸部20のエッジ23(滑り止め凸部20の下面21と側面22との境界部のエッジ)の半径R(
図8)は、0.5mm以下に設定される。これにより、滑り止め凸部20のエッジ23が歩行面に引っ掛かりやすくなる。また、靴底の排液性を高めやすくなる。滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rは、0.4mm以下とすることが好ましく、0.3mm以下とすることがより好ましく、0.2mm以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rの下限は、特に限定されない。しかし、靴底を成形する金型の製作上の理由等から、滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rを0.03mmよりも小さくすることは非常に困難である。滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rは、通常、0.05mm以上とされ、多くの場合、0.07mm以上となる。
【0039】
滑り止め凸部20の下面21は、滑らか(凹凸のない形状)にすることが好ましい。これにより、歩行面に対する滑り止め凸部20の下面21の接触面積を広く確保することができる。加えて、歩行面に対して滑り止め凸部20の下面21が接地したときには、滑り止め凸部20の下側にある液体だけでなく空気も滑り止め凸部20の周囲に押し出されやすくし、滑り止め凸部20の下面21と歩行面との境界部分に略真空状態が生ずるようにすることができる。したがって、滑り止め凸部20の下面21を歩行面に吸い付いた状態として、靴底の耐滑性をさらに高めることができる。
【0040】
したがって、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)は、1.5μm以下とすることが好ましい。滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)は、1.0μm以下とすることがより好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましく、0.5μm以下とすることがさらに好適である。滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)の下限は、特に限定されないが、靴底を成形する金型の製作上の理由等から、0.1μmよりも小さくすることは非常に困難である。このため、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)は、通常、0.1μm以上とされ、多くの場合、0.2μm以上とされる。第一実施形態の靴底において、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)は、約0.3μmとなっている。
【0041】
台座部24は、
図8に示すように、その縦断面α
2がベース部10側に向けて広がる台形状をなしており、その側面がベース部10の下面に対して角度θ
2で傾斜して滑り止め凸部20の側面22と繋がっている。この台座部24によって、滑り止め凸部20を倒れにくくするだけでなく、滑り止め凸部20の排液性をさらに高めることもできる。したがって、靴底の耐滑性を向上することができる。また、隣り合う滑り止め凸部20の隙間に異物が詰まりにくくすることもできる。
【0042】
台座部24の高さH
1(
図8)は、特に限定されない。しかし、台座部24が低すぎると、台座部24を設ける意義が低下する。このため、台座部24の高さH
1は、通常、0.1mm以上とされる。台座部24の高さH
1は、0.3mm以上とすることが好ましく、0.4mm以上とすることがより好ましい。ただし、台座部24を高くしすぎると、台座部24自体が変形しやすくなるおそれがある。このため、台座部24の高さH
1は、通常、3mm以下とされる。台座部24の高さH
1は、2mm以下とすることが好ましく、1mm以下とすることがより好ましい。第一実施形態の靴底においては、台座部24の高さH
1を0.5mmに設定している。
【0043】
台座部24の傾斜角度θ
2(
図8)も、特に限定されない。しかし、台座部24の傾斜角度θ
2が小さすぎると、隣り合う滑り止め凸部20の間隔D
1,D
2(
図6)を広く確保する必要が生じ、滑り止め凸部20を密に配置しにくくなる。このため、台座部24の傾斜角度θ
2は、通常、10°以上とされる。台座部24の傾斜角度θ
2は、20°以上とすることが好ましく、30°以上とすることがより好ましく、40°以上とすることがさらに好ましい。
【0044】
ただし、台座部24の傾斜角度θ2を大きくしすぎる(90°に近づけすぎる)と、台座部24による滑り止め凸部20の補強効果が限定的になる。このため、台座部24の傾斜角度θ2は、通常、80°以下とされる。台座部24の傾斜角度θ2は、70°以下とすることが好ましく、60°以下とすることがより好ましく、50°以下とすることがさらに好ましい。第一実施形態の靴底においては、台座部24の傾斜角度θ2を45°に設定している。
【0045】
左右に隣り合う滑り止め凸部20の隙間幅D
1(
図6)や、前後に隣り合う滑り止め凸部20の隙間幅D
2(
図6)も特に限定されない。しかし、滑り止め凸部20の隙間幅D
1や隙間幅D
2を狭くしすぎると、隣り合う滑り止め凸部20の隙間にゴミ等の異物がつまりやすくなる。このため、滑り止め凸部20の隙間D
1及び隙間幅D
2は、通常、それぞれ1mm以上とされる。滑り止め凸部20の隙間D
1及び隙間幅D
2は、それぞれ、1.5mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがより好ましい。ただし、滑り止め凸部20の隙間D
1や隙間幅D
2を広くしすぎると、滑り止め凸部20を密に配置しにくくなる。このため、滑り止め凸部20の隙間D
1及び隙間幅D
2は、通常、それぞれ5mm以下とされる。滑り止め凸部20の隙間D
1及び隙間幅D
2は、それぞれ、4mm以下とすることが好ましく、3mm以下とすることがより好ましい。
【0046】
1.3 小括
第一実施形態の靴底は、上記の構成を採用したため、耐滑性に非常に優れている。特に、排液性に優れているため、水等の液体が存在する歩行面であっても、滑ることなく快適に歩行することができる。上述した
図3及び
図4の手順で測定される残留液体面密度は、一般的な靴底で採用される滑り止め凸部においては、6mg/cm
2であることが殆どであるところ、第一実施形態の靴底では、5mg/cm
2以下と少なく抑えることも可能である。後述するように、滑り止め凸部20の残留液体面密度は、4.5mg/cm
2以下とすることも可能であり、4mg/cm
2以下とすることも可能である。
【0047】
1.4 用途
本発明の靴底は、その用途を特に限定されず、各種の靴の靴底として好適に採用することができる。本発明の靴底は、通勤用や通学用の靴や、お洒落着用の靴や、スポーツ用の靴や、作業靴等に好適に採用することができる。なかでも、平滑な歩行面を歩行する靴の靴底として好適に採用することができ、水や油等の液体で覆われて滑りやすい状況にある歩行面を歩行する靴の靴底として特に好適に採用することができる。このような靴としては、食品工場やレストランの厨房で着用される厨房靴や、金属加工場や工事用足場で着用される作業靴等が挙げられる。
【0048】
2.第二実施形態の靴底
続いて、第二実施形態の靴底について説明する。第二実施形態の靴底については、第一実施形態の靴底と異なる構成に絞って説明する。第二実施形態の靴底において特に言及しない構成については、第一実施形態の靴底で採用したものと同様の構成を採用することができる。
図9は、第二実施形態の靴底の底面図である。
【0049】
第一実施形態の靴底においては、
図6に示すように、ベース部10の下面の略全領域に、滑り止め凸部20が均一に設けられていた。これに対し、第二実施形態の靴底においては、
図9に示すように、ベース部10の前側部分11と後側部分12の下面には、滑り止め凸部20が均一に設けられているものの、ベース部10の中間部分13には、滑り止め凸部20が設けられていない空乏領域βが存在している。
【0050】
ベース部10の中間部分13には、前側部分11や後側部分12と比較して、荷重が掛かりにくいため、中間部分13の滑り止め凸部20は、前側部分11や後側部分12の滑り止め凸部20ほど滑り止めに効かない。したがって、中間部分13には空乏領域βを設けることができる。
【0051】
3.第三実施形態の靴底
続いて、第三実施形態の靴底について説明する。第三実施形態の靴底については、第一実施形態の靴底と異なる構成に絞って説明する。第三実施形態の靴底において特に言及しない構成については、第一実施形態の靴底や第二実施形態の靴底で採用したものと同様の構成を採用することができる。
図10は、第三実施形態の靴底の底面図である。
【0052】
第一実施形態の靴底においては、
図6に示すように、全ての滑り止め凸部20が同じ向きで配されており、全ての滑り止め凸部20が形成するV字の開口が爪先側(前方)を向いていた。これに対し、第三実施形態の靴底においては、
図10に示すように、V字の開口が爪先側(前方)を向く滑り止め凸部20と、V字の開口が踵側(後方)を向く滑り止め凸部20とが混在している。
【0053】
より具体的には、前後方向に並ぶ複数の滑り止め凸部20からなる凸部列20a,20b,20c,20d,20eを、左右方向に並べて配置しているところ、第三実施形態の靴底においては、ある凸部列20b,20dでは、V字の開口が爪先側(前方)を向く滑り止め凸部20で構成し、その凸部列20b,20dの隣の凸部列20a,20c,20eでは、V字の開口が踵側(後方)を向く滑り止め凸部20で構成している。これにより、靴底の爪先側(前方)から踵側(後方)に荷重が掛かったときだけでなく、靴底の踵側(後方)から爪先側(前方)に荷重が掛かったときにも、良好な耐滑性を発揮することができる。
【0054】
このほか、V字の開口が左側を向く滑り止め凸部20や、V字の開口が右側を向く滑り止め凸部20を混在させることもできる。このように、異なる向きの滑り止め凸部20を混在させることで、靴底をあらゆる方向からの荷重に対して良好な耐滑性を発揮できるものとすることができる。
【0055】
4.実験
本発明の靴底の有効性を確認するため、以下の実験1~4を行った。
【0056】
4.1 実験1
図11は、実験1で用いた試料の一例を示した斜視図である。実験1では、
図1に示すように、縦横50mmのベース部10に複数の滑り止め凸部20が形成された試料を作製し、その動摩擦係数を測定した。試料は、下記表1に示すように、滑り止め凸部20の幅W(
図7)及び高さH(
図8)を変えることで、比H/Wが0のもの(試料1,5,9,13,17,22,27,31)と、0,25のもの(試料2,6,10,14,18,23,28,32)と、0.5のもの(試料11,15,19,24)と、0.75のもの(試料3,7,12,16,20,25,29,33)と、1のもの(試料4,8,21,26,30,34)とを用意した。また、試料によって、滑り止め凸部20の開き角度θ
1(
図7(b))も変えた。試料は、計34種類を用意した。
【0057】
試料1~34のいずれにおいても、滑り止め凸部20の向きを統一した。また、ベース部の厚さT(
図8)を2.5mmで統一し、台座部24の高さ(
図8)を1mmで統一した。さらに、左右に隣り合う滑り止め凸部20の間隔D
1(
図6)を2.03mmで統一し、前後に隣り合う滑り止め凸部20の間隔D
2(
図6)が、滑り止め凸部20の幅W(
図7)の0.7倍となるようにした。さらにまた、滑り止め凸部20の下面21と側面22とが為すエッジ23の半径は、0.05mmとし、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)は、0.1μmとした。
【0058】
試料1~34は、いずれも、合成ゴムからなる組成物で形成した。試料1~34は、
図11に示す横断面V字状のものを使用し、試料1~34のJIS-A硬度は60度で同一とした。試料1~34の動摩擦係数の測定は、「JIS T 8101」に規定される方法に準拠して行った。ただし、鉛直荷重は、200Nに設定した。
【0059】
試料1~34の靴底の動摩擦係数の測定結果について表1及び
図12~
図14に示す。
図12は、滑り止め凸部20の開き角度θ
1が45°であるときの測定結果を、
図13は、滑り止め凸部20の開き角度θ
1が90°であるときの測定結果を、
図14は、滑り止め凸部20の開き角度θ
1が140°であるときの測定結果をそれぞれ示している。
【表1】
【0060】
以上の測定結果より、滑り止め凸部20の開き角度θ1や幅Wに関わらず、比H/Wによって動摩擦係数が変動するとともに、比H/Wが0.25~0.5の範囲にあるときに、動摩擦係数がピークに近い値をとり、優れた耐滑性を発揮することが分かった。また、比H/Wを0よりも大きく、1以下としたときには、動摩擦係数が0.5よりも大きくなることも確認できた。
【0061】
4.2 実験2
続いて、滑り止め凸部20の形状が、滑り止め凸部20の排液性にどのような影響を与えるのかを調べる実験(実験2)を行った。具体的には、横断面V字状の滑り止め凸部20(試料40)と、横断面四角状の滑り止め凸部20(試料41)と、横断面円形状の滑り止め凸部20(試料42)とのそれぞれについて、残留液体面密度を測定した。滑り止め凸部20の残留液体面密度は、上述した方法(
図3及び
図4を用いて説明した方法)に基づいて測定した。
【0062】
横断面V字状の滑り止め凸部20(試料40)においては、V字の開き角度θ
1(
図7)を90°とし、幅W(
図7)を3mmとし、高さH(
図8)を1.5mmとし、滑り止め凸部20の下面21と側面22とが為すエッジ23の半径R(
図8)を0.07mmとし、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)を0.3μmとし、下面21(接地面)の面積を0.58cm
2とした。横断面四角状の滑り止め凸部20(試料41)及び横断面円形状の滑り止め凸部20(試料42)においても、下面21(接地面)の面積を0.58cm
2に調整する等、条件は、上記の横断面V字状の滑り止め凸部20(試料40)にできるだけ揃えた。
【0063】
図15に、滑り止め凸部20の残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真を示す。
図15(a)は、横断面V字状の滑り止め凸部20(試料40)について測定を行っている様子であり、
図15(b)は、横断面四角状の滑り止め凸部20(試料41)について測定を行っている様子であり、
図15(c)は、横断面円形状の滑り止め凸部20(試料42)について測定を行っている様子である。
図15(a),(b),(c)は、試液70が硬化した後の樹脂フィルム62(
図3)をアルミニウム板62(
図3)から取り外し、その樹脂フィルム62(透明フィルム)を裏面(滑り止め凸部20が載せられた面とは反対側の面)側から撮影したものである。
【0064】
図15(a)に示されるように、横断面V字状の滑り止め凸部20(試料40)では、滑り止め凸部20の下面21がくっきりと表れており、滑り止め凸部20の下面21と樹脂フィルム62との間に、試液70が殆ど残っていないことが分かる。これに対し、
図15(b)に示される横断面四角状の滑り止め凸部20(試料41)や、
図15(c)に示される横断面円形状の滑り止め凸部20(試料42)では、滑り止め凸部20の下面21がはっきりとは表れておらず、滑り止め凸部20の下面21と樹脂フィルム62との間に、試液70がかなり残っていることが分かる。下記表2に、試料40~42の残留液体面密度の測定結果(N=5の平均値)を示す。
【表2】
【0065】
上記の表2を見ると、横断面V字状とした滑り止め凸部20(試料40)は、横断面四角状又は横断面円形状とした滑り止め凸部20(試料41又は試料42)よりも、残留液体面密度が大幅に低下していることが分かる。このことから、滑り止め凸部20を横断面V字状とすることが、滑り止め凸部20の排液性を向上するのに重要な要素であることが分かった。
【0066】
4.3 実験3
続いて、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)が、滑り止め凸部20の排液性にどのような影響を与えるのかについて調べる実験(実験3)を行った。具体的には、下面21の表面粗さ(Ra)が0.3μmの滑り止め凸部20(試料50)、下面21の表面粗さ(Ra)が0.6μmの滑り止め凸部20(試料51)、下面21の表面粗さ(Ra)が1.5μmの滑り止め凸部20(試料52)、及び、下面21の表面粗さ(Ra)が7.4μmの滑り止め凸部20(試料53)のそれぞれにおける残留液体面密度を測定した。試料50~53は、いずれも横断面V字状の滑り止め凸部20とし、下面21の表面粗さ(Ra)を変化させた以外は、上記の実験2の試料40と同じ寸法形状のものを用いた。
【0067】
図16に、滑り止め凸部20の残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真を示す。
図16(a)は、表面粗さ(Ra)が0.3μmの滑り止め用凸部20(試料50)について測定を行っている様子であり、
図16(b)は、表面粗さ(Ra)が0.6μmの滑り止め用凸部20(試料51)について測定を行っている様子であり、
図16(c)は、表面粗さ(Ra)が1.5μmの滑り止め用凸部20(試料52)について測定を行っている様子であり、
図16(d)は、表面粗さ(Ra)が7.4μmの滑り止め用凸部20(試料53)について測定を行っている様子である。
図16(a),(b),(c),(d)は、試液70が硬化した後の樹脂フィルム62(
図3)をアルミニウム板62(
図3)から取り外し、その樹脂フィルム62(透明フィルム)を裏面(滑り止め凸部20が載せられた面とは反対側の面)側から撮影したものである。
【0068】
図16(a)に示されるように、表面粗さ(Ra)が0.3μmと非常に小さな試料50では、滑り止め凸部20の下面21の下側に、試液70が殆ど残っていない。また、
図16(b)に示されるように、表面粗さ(Ra)が0.6μmの試料51でも、滑り止め凸部20の下面21の下側には、試液70が殆ど残っていない。これに対し、
図16(c)に示されるように、表面粗さ(Ra)が1.5μmの試料52あたりから、滑り止め凸部20の下面21の下側に残った試液70が目立ち始めている。
図16(d)に示されるように、表面粗さ(Ra)が7.4μmと大きめの試料53では、滑り止め凸部20の下面21の下側には、下面21の略全域にわたって試液70が残っていることが分かる。下記表3に、試料50~53の残留液体面密度の測定結果(N=5の平均値)を示す。
【表3】
【0069】
上記の表3を見ると、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)が大きくなるにつれて、滑り止め凸部20の残留液体面密度が高くなることが分かる。逆に言うと、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)が小さくなるにつれて、滑り止め凸部20の残留液体面密度が低くなることが分かる。このことから、滑り止め凸部20の下面21の表面粗さ(Ra)を小さく抑えることが、滑り止め凸部20の排液性を向上するのに重要な要素であることが分かった。
【0070】
4.4 実験4
最後に、滑り止め凸部20のエッジ23の半径R(
図2(b))が、滑り止め凸部20の排液性にどのような影響を与えるのかについて調べる実験(実験4)を行った。具体的には、エッジ23の半径Rが0.07mmの滑り止め凸部20(試料60)と、エッジ23の半径Rが0.57mmの滑り止め凸部20(試料61)のそれぞれにおける残留液体面密度を測定した。試料60,61は、いずれも横断面V字状の滑り止め凸部20とし、エッジ23の半径Rを変化させた以外は、上記の実験2の試料40と同じ寸法形状のものを用いた。ただし、試料60では、下面21(接地面)の面積が0.58cm
2であるのに対し、試料61では、下面21の面積(接地面)が0.39cm
2となった。これは、滑り止め凸部20の横断面の面積が同じでも、エッジ23の半径Rが大きくなれば、その分、下面21(接地面)の面積が小さくなることに起因している。
【0071】
図17に、滑り止め凸部20の残留液体面密度を測定している様子を撮影した写真を示す。
図17(a)は、エッジの半径Rが0.07mmの滑り止め用凸部20(試料60)について測定を行っている様子であり、
図17(b)は、エッジの半径Rが0.57mmの滑り止め用凸部20(試料61)について測定を行っている様子である。
図17(a),(b)は、試液70が硬化した後の樹脂フィルム62(
図3)をアルミニウム板62(
図3)から取り外し、その樹脂フィルム62(透明フィルム)を裏面(滑り止め凸部20が載せられた面とは反対側の面)側から撮影したものである。
【0072】
図17(a)に示されるように、エッジ23の半径Rが0.07mmと小さめの試料60では、エッジ23がはっきりと現れているのに対し、
図17(b)に示されるように、エッジ23の半径Rが0.57mmと大きめの試料61では、エッジ23がぼやけて表れていることが分かる。下記表4に、試料60,61の残留液体面密度の測定結果(N=5の平均値)を示す。
【表4】
【0073】
上記の表4を見ると、滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rが大きくなるにつれて、滑り止め凸部20の残留液体面密度が高くなることが分かる。逆に言うと、滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rが小さくなるにつれて、滑り止め凸部20の残留液体面密度が低くなることが分かる。このことから、滑り止め凸部20のエッジ23の半径Rを小さくすることが、滑り止め凸部20の排液性を向上するのに重要な要素であることが分かった。
【符号の説明】
【0074】
10 ベース部
11 前側部分
12 後側部分
13 中間部分
20 滑り止め凸部
20a 凸部列
20b 凸部列
20c 凸部列
20d 凸部列
20e 凸部列
21 滑り止め凸部の下面(接地面)
22 滑り止め凸部の側面
23 滑り止め凸部の下面と側面との境界部のエッジ
24 台座部
50 歩行面
60 基板
61 アルミニウム板
62 樹脂フィルム
63 粘着テープ
70 試液
80 錘
90 ピンセット
D1 左右に隣り合う滑り止め凸部の隙間幅
D2 前後に隣り合う滑り止め凸部の隙間幅
H 滑り止め凸部における台座部を除いた部分の高さ
H1 台座部の高さ
L V字ライン
R 滑り止め凸部の下面(接地面)と側面とが為すエッジの半径
W 滑り止め凸部の縦断面の幅
α1 滑り止め凸部の横断面
α2 滑り止め凸部の縦断面
β 空乏領域
θ1 滑り止め凸部の開き角度
θ2 台座部の側面の傾斜角度
【要約】
【課題】
歩行面に液体が存在する等、歩行面が滑りやすい状況にあるときでも、優れた耐滑性を発揮できる靴底を提供する。
【解決手段】
靴の底部に配されるベース部10と、ベース部10の下面から下向きに設けられた、横断面V字状を為す複数の滑り止め凸部20とを備え、これらベース部10と滑り止め凸部20とが、エラストマーによって一体的に形成された靴底において、滑り止め凸部20におけるベース部10との接続部分に、ベース部10に近づくにつれて横断面が大きくなる台座部24を設け、滑り止め凸部20の下面の表面粗さ(Ra)を、1.5μm以下とした。
【選択図】
図7