(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/06 20090101AFI20220725BHJP
A01N 63/10 20200101ALI20220725BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20220725BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20220725BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220725BHJP
A61K 36/15 20060101ALI20220725BHJP
A61K 35/10 20150101ALI20220725BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
A01N65/06
A01N63/10
A01N61/00 Z
A01N31/02
A01P1/00
A61K36/15
A61K35/10
A61P31/12
(21)【出願番号】P 2021186350
(22)【出願日】2021-11-16
【審査請求日】2021-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315019229
【氏名又は名称】株式会社ハニック・ホワイトラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浦井 薫子
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】浦井 康孝
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514643(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045110(WO,A1)
【文献】特開2007-320953(JP,A)
【文献】特開2002-047112(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104522089(CN,A)
【文献】特開2021-095381(JP,A)
【文献】特表2008-501604(JP,A)
【文献】Qian Shan et al.,Advances in the Biological Activities of Rosin Acid and Its Derivatives,西華大学学報,2020年11月,vol.39, no.6,pp.108-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01P 1/00
A61P 3/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コパール
またはセラックの少なくとも一つ
からなる、抗ウイルス剤。
【請求項2】
コパールまたはセラックの少なくとも一つと、ロジン
と、からなる、抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記ロジンおよび前記セラック
からなる、請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記ロジン1.0質量部に対して、前記セラックを0.02~2.0質量部含む、請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記ロジン、前記コパールおよび前記セラック
からなる、請求項2~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記ロジン1.0質量部に対して、前記コパールを0.02~2.0質量部含み、前記セラックを0.02~2.0質量部含む、請求項5に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤と、溶媒とを含
み、
対象に抗ウイルス性を付与するために用いられる、抗ウイルス性組成物。
【請求項8】
植物油をさらに含む、請求項7に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項9】
膜形成用である、請求項7または8に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の抗ウイルス性組成物を用いて形成される、抗ウイルス性膜。
【請求項11】
請求項10に記載の抗ウイルス性膜を表面の少なくとも一部に有する、抗ウイルス性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たなウイルス感染が脅威となっている。例えば、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は、2019年に発見され、全世界に感染が拡大している。また、2002年には重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、2012年には中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)による感染症が流行している。他にも、ノロウイルス、インフルエンザウイルスなどによる感染症は、定期的に流行している。
【0003】
ウイルスの感染対策の一つとして、付着したウイルスの数を減らすことが挙げられる。例えば、手、指などに付いたウイルスの対策としては、洗い流すことおよびアルコール消毒が挙げられる。物品に付着したウイルス対策としては、熱水、アルコールなどによる消毒が挙げられる。
【0004】
また、物品に抗ウイルス性を付与することにより、物品に付着したウイルスの数を減らす方法も用いられている。例えば、特許文献1には、樹脂、分散剤で被覆された一価の銅化合物粒子および親水性化合物からなる抗ウイルス性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、ロジン、コパールおよびセラックの少なくとも一つを用いることで、上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、ロジン、コパールおよびセラックの少なくとも一つを含む、抗ウイルス剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な抗ウイルス剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0012】
<抗ウイルス剤>
本発明の一形態は、ロジン、コパールおよびセラックの少なくとも一つを含む、抗ウイルス剤である。
【0013】
本発明者らによる検討の結果、ロジン、コパールおよびセラックをそれぞれ単独で用いても、これらを組み合わせて用いても、抗ウイルス性を発揮できることが見出された(後述の実施例および試験例参照)。すなわち、ロジン、コパールおよびセラックをそれぞれ単独で含む、またはこれらを組み合わせて含む抗ウイルス剤を提供することができる。
【0014】
本明細書において、「抗ウイルス剤」とは、ウイルスと接触することにより、ウイルス感染価(細胞感染性を持つウイルスの数)を減少させることができる剤を意味する。具体的には、ウイルス感染価は、TCID50測定法により測定される。また、ウイルス感染価の減少とは、実施例に記載の方法により算出された減少率が50%以上、好ましくは70%以上であることを意味する。
【0015】
本明細書において、「抗ウイルス性」とは、ウイルス感染価(細胞感染性を持つウイルスの数)を減少させることを意味する。
【0016】
本発明に係る抗ウイルス剤の対象となるウイルスとしては、エンベロープウイルスであっても、ノンエンベロープウイルスであってもよい。エンベロープウイルスとしては、コロナウイルス(SARS-CoV-2を含む)、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルスなどが挙げられる。ノンエンベロープウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルスなどが挙げられる。対象となるウイルスとしては、好ましくはエンベロープウイルスであり、より好ましくはコロナウイルスである。
【0017】
本発明に係る抗ウイルス剤で使用されるロジン(ロシン)、コパール(コーパル樹脂、コパイバ)およびセラック(シェラック)は、天然樹脂である。ロジンおよびコパールは、植物由来の樹脂であり、セラックは、動物由来の樹脂である。ロジンおよびセラックは、既存添加物名簿収載品目リスト(公益財団法人 日本食品化学研究振興財団、令和2年2月26日改正)に掲載されている。コパールは、既存添加物名簿から削除されている(平成23年厚生労働省告示第158号)が、「添加物として使用される範囲においてヒトの健康に対して有害影響を及ぼすような毒性はないと考えられた」と報告されている(日本食品化学研究振興財団 既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究(平成21年度調査))。また、コパール(コパイバ)は、天然香料基原物質リスト(日本食品化学研究振興財団)に記載されている。
【0018】
ロジン、コパールおよびセラックの種類としては、特に制限されないが、食品、医療、化粧品などの用途で使用されるものが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明に係る抗ウイルス剤は、ロジンおよびセラックを含む。ロジンとセラックとを組み合わせることにより、ロジンまたはセラックを単独で用いる場合と比べて、膜を形成する際の乾燥時間を短くすることができる。また、膜の持続時間をより長くすることができる。
【0020】
本発明に係る抗ウイルス剤がロジンおよびセラックを含む場合、セラックの含有量は、ロジン1.0質量部に対して、例えば0.02~2.0質量部であり、好ましくは0.05~1.8質量部であり、より好ましくは0.07~1.5質量部である。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明に係る抗ウイルス剤は、ロジン、コパールおよびセラックを含む。ロジンとコパールとセラックとを組み合わせることにより、ロジン、コパールまたはセラックを単独で用いる場合と比べて、膜を形成する際の乾燥時間をより短く(例えば、10~15秒程度)することができ、さらに形成された膜を透明にすることができる。形成された膜は、光沢があり、その光沢を長く維持することができる。
【0022】
本発明に係る抗ウイルス剤がロジン、コパールおよびセラックを含む場合、コパールの含有量は、ロジン1.0質量部に対して、例えば0.02~2.0質量部であり、好ましくは0.1~1.5質量部であり、より好ましくは0.5~1.2質量部である。また、セラックの含有量は、ロジン1.0質量部に対して、例えば0.02~2.0質量部であり、好ましくは0.05~1.8質量部であり、より好ましくは0.07~1.5質質量部である。
【0023】
本発明に係るロジン、コパールおよびセラックとしては、市販品を使用することができる。
【0024】
<抗ウイルス性組成物>
本発明の一形態は、上述の抗ウイルス剤と、溶媒とを含む、抗ウイルス性組成物である。本発明に係る抗ウイルス性組成物は、必要に応じて植物油、その他の成分などをさらに含むことができる。
【0025】
溶媒としては、ロジン、コパールおよび/またはセラックを溶解できるものであれば、特に制限されない。溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、n-ブタノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。溶媒は、好ましくはアルコール類であり、より好ましくはエタノール(特に、無水エタノール)である。
【0026】
抗ウイルス性組成物において、抗ウイルス剤の含有量は、用途に応じて、適宜調整することができる。抗ウイルス剤の含有量は、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、例えば1~50質量%である。抗ウイルス性組成物を抗ウイルス性膜の形成に使用する場合、抗ウイルス剤の含有量は、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは5~15質量%である。
【0027】
抗ウイルス性組成物において、溶媒の含有量は、特に制限されないが、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、例えば50~95質量%であり、好ましくは70~90質量%である。
【0028】
一実施形態では、本発明に係る抗ウイルス性組成物は、植物油をさらに含む。植物油としては、例えばオリーブ油、ツバキ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、マカデミアナッツ油、ナタネ油、アーモンド油、ヒマシ油、ホホバ油、バラ油などが挙げられる。
【0029】
抗ウイルス性組成物において、植物油の含有量は、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、例えば1~5質量%である。
【0030】
本発明に係る抗ウイルス性組成物において、その他の成分としては、香料(植物油を除く)、高分子化合物(ロジン、コパールおよびセラックを除く)などが挙げられる。
【0031】
香料としては、例えばケトン、アルデヒド、リモネン、リナロール、シトロネロール、メントール、ゲラニオール等のテルペン類の合成香料、天然香料、食品添加物として使用される香料などが挙げられる。
【0032】
高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、アクリル樹脂((メタ)アクリレート化合物に由来する構成単位を含む樹脂)が挙げられる。
【0033】
抗ウイルス性組成物において、その他の成分の含有量は、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、例えば5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である(下限値:0質量%)。
【0034】
抗ウイルス性組成物が植物油および香料を含む場合、植物油および香料の含有量の合計は、抗ウイルス性組成物の全質量に対して、例えば5質量%以下であり、好ましくは3~5質量%である。植物油および香料の含有量の合計がかかる範囲であることにより、膜を形成する際の速乾性を維持することができる。
【0035】
本発明に係る抗ウイルス性組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、抗ウイルス剤に含まれるロジン、コパールおよびセラックの少なくとも一つと、溶媒と、必要に応じて植物油、その他の成分などとを混合することにより得ることができる。
【0036】
<用途>
本発明に係る抗ウイルス剤および抗ウイルス性組成物は、抗ウイルス性を対象に付与する用途で使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、対象に抗ウイルス性を付与する方法であって、上述の抗ウイルス剤または抗ウイルス性組成物を、対象に含ませることまたはその表面に付着させることを有する方法に関する。
【0037】
抗ウイルス性が付与される対象については、後述の抗ウイルス性膜において説明する。
【0038】
ロジン、コパールおよびセラックは、膜を形成する性質を有するため、膜形成用として好適である。すなわち、本発明の一実施形態は、膜形成用である抗ウイルス剤または抗ウイルス性組成物に関する。
【0039】
<抗ウイルス性膜>
本発明の一実施形態は、上述の抗ウイルス性組成物を用いて形成される抗ウイルス性膜に関する。抗ウイルス性膜は、例えば抗ウイルス性組成物を対象に塗布して硬化させることにより形成することができる。
【0040】
抗ウイルス性組成物を塗布する対象としては、例えば金属(アルミニウム、鉄、金など)、セラミックス、ガラス、繊維、不織布、フィルム、プラスチック、ゴム、紙、木材、石材;動物(ヒトなど)の皮膚、口腔内粘膜、歯牙;食品(固体)などが挙げられる。
【0041】
抗ウイルス性組成物を塗布する方法は、特に制限されず、ハケ塗り、棒塗り、指塗り、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0042】
塗布後の硬化条件は、特に制限されず、膜が形成される時間および温度であればよい。硬化時間としては、例えば15~30秒間程度である。硬化温度としては、常温(15~30℃)であればよく、必要に応じて溶媒を蒸発させるために加熱してもよい。
【0043】
<抗ウイルス性物品>
本発明の一実施形態は、抗ウイルス性膜を表面の少なくとも一部(例えば、ヒトが触れる部分)に有する、抗ウイルス性物品に関する。
【0044】
物品としては、例えば金属(アルミニウム、鉄、金など)、セラミックス、ガラス、繊維、不織布、フィルム、プラスチック、ゴム、紙、木材、石材などから形成された物品が挙げられる。物品の例としては、ドアノブ、つり革、おもちゃ、容器、家具、衣類、食器などが挙げられる。
【0045】
抗ウイルス性物品の製造方法は、特に制限されず、抗ウイルス性組成物を物品に塗布して硬化させることにより形成することができる。塗布方法および硬化条件については、上記抗ウイルス膜と同様であるため、説明を省略する。
【実施例】
【0046】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0047】
[抗ウイルス性組成物の調製例]
下記の手法により、実施例の組成物を調製した。各実施例における各原料の配合量を下記の表1に示す。また、各実施例における各構成成分の配合量を下記の表2に示す。
【0048】
(実施例1)
ガムロジン(LAWTER ARGENTINA S.A.製)13.0質量%、30質量%コパールエタノール溶液43.3質量%、ラックコート50EDS(50質量%セラックエタノール溶液)(日本シェラック工業株式会社製)2.0質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)41.7質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0049】
30質量%コパールエタノール溶液は、以下の方法で得た。
【0050】
未精製のコーパル樹脂(固体)を特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)で溶解後、200メッシュシートでろ過し、得られたろ液を塗料成分試験法(JIS K 5601-1-2:2008)に従い試験し、コパール濃度を計算した。ろ液が30質量%コパール溶液になるように特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)を追加し、濃度調整した後、充分撹拌して均一な溶液とした。密閉容器に保管し、静置後得られた上清を30質量%コパールエタノール溶液として使用した。
【0051】
(実施例2)
ガムロジン(LAWTER ARGENTINA S.A.製)10.0質量%、ラックコート50EDS(50質量%セラックエタノール溶液)(日本シェラック工業株式会社製)20.0質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)70.0質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0052】
(実施例3)
ガムロジン(LAWTER ARGENTINA S.A.製)13.0質量%、30質量%コパールエタノール溶液43.3質量%、ラックコート50EDS(50質量%セラックエタノール溶液)(日本シェラック工業株式会社製)2.0質量%、オリーブ油 リファインド(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)2.0質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)39.7質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0053】
(実施例4)
ガムロジン(LAWTER ARGENTINA S.A.製)13.0質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)87.0質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0054】
(実施例5)
30質量%コパールエタノール溶液43.3質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)56.7質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0055】
(実施例6)
ラックコート50EDS(50%セラックエタノール溶液)(日本シェラック工業株式会社製)20.0質量%、および特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)80.0質量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0056】
【0057】
【0058】
[抗ウイルス性の評価]
以下の試験において、無水エタノールとして特定アルコール99度1級発酵無変性(無水エタノール)(甘糟化学産業株式会社製)を使用した。細胞維持細胞として、Sigma-Aldrich社製 codeM4655 Minimum Essential Medium Eagle(0.2%ゲンタマイシン添加)を使用した。
【0059】
(試験例1)
・試験資材
1:実施例1の組成物
2:実施例2の組成物
各資材は等量の無水エタノールに溶解し、1辺5cmの大きさにカットしたプラスチック(ポリスチレン)片に、各1mL(各資材として0.5mL)を滴下後、コンラージで均一に広がるように塗布した。その後、開放条件で約3時間乾燥させ、エタノール分を蒸発させて、試験片とした。
【0060】
実施例1の組成物を用いて形成した塗膜は、高い透明度を有していた。実施例2の組成物を用いて形成した塗膜は、透明であった。
【0061】
なお、対照区(比較例1)として、無水エタノールのみをプラスチック(ポリスチレン)片に同様に塗布し、乾燥させたものを使用した。
【0062】
・区の設定
【0063】
【0064】
・試験ウイルス液の調製
試験ウイルス:豚流行性下痢(PED)ウイルス P-5V株
宿主細胞:vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)
(1)試験ウイルスをvero細胞シートに接種した;
(2)37℃で1時間吸着後、接種ウイルス液を除去し、滅菌PBSで2回洗浄した;
(3)細胞維持培地を加え、37℃、5%CO2下で培養した;
(4)70~80%程度の細胞変性が観察された時点で、培養上清を回収した;
(5)回収した培養上清を、3000rpmで30分間遠心分離後、遠心上清を分注し、-70℃以下で保存したものを試験ウイルス液とした。
【0065】
・試験ウイルス液の接種およびウイルス力価(ウイルス感染価)の測定
試験実施前に、後述の試験方法と同様の処理を行った試験資材塗布試験片を、細胞維持培地10mLで洗い出した後、さらに10倍段階希釈し、各希釈液を培養細胞に接種し、37℃、5%CO2下で5日間培養した。培養細胞が正常な形状を示さなかった場合、資材による細胞毒性有りと判定し、本試験では細胞毒性が確認された希釈倍率を試験から除外した。
【0066】
その結果、洗い出し液原液で細胞毒性は確認されなかったため、本試験における検出限界は、洗い出し液中の濃度として100.5TCID50/mLとした。
【0067】
(1)対照区及び試験区の試験片に試験開始18時間前から細胞維持培地0.2mLを滴下して滅菌フィルム(ポリエチレンフィルム)を被覆した状態で保管した;
(2)上記保管経過後の試験片の被覆フィルムを剥がし、試験ウイルス液を0.2mL添加して、再度被覆フィルムを被せて、乾燥しないよう密閉容器に入れて反応開始とした;
(3)試験設定に従い室温下で6時間静置し反応時間とした;
(4)感作時間経過後、被覆フィルムごと滅菌バックに移し、細胞維持培地10mLを添加しよく混合してウイルスを洗い出した;
(5)洗い出し液について、さらに細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、希釈液を96wellマイクロプレートの培養細胞に接種し、5%CO2ガス存在下で37℃、5日間培養した;
(6)培養後のCPE(細胞変成効果)の有無又は培養上清の1%鶏赤血球凝集反応の有無から、ウイルス力価(ウイルス感染価)(TCID50)を測定した。
【0068】
・評価
試験結果において、検査時点ごとに、対照区に対する試験区の減少率(%)を算出し、効果を確認した。
【0069】
なお、本試験において、減少率は以下の式で算出した。結果を以下の表4に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表4に示すように、試験開始時においてはウイルス感染価で105.5(TCID50/試験片)であった。
【0073】
6時間後では、対照区では自然減衰がみられ104.5(TCID50/試験片)、試験区1では103.9(TCID50/試験片)で75.3%減少、試験区2では103.1(TCID50/試験片)で95.9%減少となった。
【0074】
以上より、実施例1および2の組成物を用いてコーティングした試験片では、6時間接触させることで、PEDウイルスに対して、高いウイルス減少効果を得られることが分かる。
【0075】
(試験例2)
・試験資材
1:実施例2の組成物
2:実施例3の組成物
各資材は等量の無水エタノールに溶解し、25cm2平底フラスコ底面(ポリスチレン製)に、各1mL(各資材として0.5mL)を滴下後、均一に広がるように塗布した。その後、キャップを閉じずに約12時間乾燥させ、エタノール分を蒸発させて試験片とした。試験例2では、エタノールの影響を除去するため、乾燥時間を試験例1より長く設定した。
【0076】
なお、試験例2および後述の試験例3~4において、試験ウイルス(SARS-CoV-2)の感染危害回避のために密閉可能な平底フラスコを使用した。試験例1で使用したプラスチック(ポリスチレン)片を用いた試験片と試験例2~4で使用した平面フラスコを用いた試験片(平底フラスコ底面)は、同じ25cm2のポリスチレン面とみなすことができるため、試験例1~4の実験条件は整合している。
【0077】
実施例2の組成物を用いて形成した塗膜は、透明であった。実施例3の組成物を用いて形成した塗膜は、高い透明度を有していた。
【0078】
なお、対照区(比較例2)として、無水エタノールのみを25cm2平底フラスコ底面に同様に塗布し、乾燥させたものを使用した。
【0079】
・区の設定
【0080】
【0081】
・試験ウイルス液の調製
試験ウイルス:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)
宿主細胞:vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)
なお、試験ウイルスは、ヒト由来分離株である。ヒト唾液よりvero細胞を用いて分離培養後、リアルタイムPCRを用いてSARS-CoV-2遺伝子の増幅の確認(厚生労働省通知法)を行ったウイルス株を使用した。
【0082】
(1)試験ウイルスをvero細胞シートに接種した;
(2)37℃で1時間吸着後、接種ウイルス液を除去し、滅菌PBSで2回洗浄した;
(3)細胞維持培地を加え、37℃、5%CO2下で培養した;
(4)70~80%程度の細胞変性が観察された時点で、培養上清を回収した;
(5)回収した培養上清を、3000rpmで30分間遠心分離後、遠心上清を分注し、-70℃以下で保存したものを試験ウイルス液とした。
【0083】
・試験ウイルス液の接種およびウイルス力価(ウイルス感染価)の測定
試験実施前に、後述の試験方法と同様の処理を行った試験資材塗布試験片を、細胞維持培地10mLで洗い出した後、さらに10倍段階希釈し、各希釈液を培養細胞に接種し、37℃、5%CO2下で5日間培養した。培養細胞が正常な形状を示さなかった場合、資材による細胞毒性有りと判定し、本試験では細胞毒性が確認された希釈倍率を試験から除外した。
【0084】
その結果、洗い出し液原液で細胞毒性は確認されなかったため、本試験における検出限界は、洗い出し液中の濃度として100.5TCID50/mLとした。
【0085】
(1)対照区及び試験区の試験片に試験開始18時間前から細胞維持培地0.2mLを滴下して滅菌フィルム(ポリエチレンフィルム)を被覆した状態で保管した。
【0086】
(2)上記保管経過後の試験片の被覆フィルムを剥がし、試験ウイルス液を0.2mL添加して、再度フィルムを被せて、乾燥しないようキャップを閉じて密閉して反応開始とした。
【0087】
(3)試験設定に従い室温下で6時間静置し反応時間とした。
【0088】
(4)感作時間経過後、フラスコ内に細胞維持培地10mLを添加、フィルムを剥がしつつよく混合してウイルスを洗い出した。
【0089】
(5)洗い出し液について、さらに細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、各希釈液を96wellマイクロプレートの培養細胞に接種し、5%CO2ガス存在下で、37℃、5日間培養した。
【0090】
(6)培養後のCPE(細胞変成効果)の有無又は培養上清の1%鶏赤血球凝集反応の有無から、ウイルス力価(ウイルス感染価)(TCID50)を測定した。
【0091】
・評価
試験結果において、検査時点ごとに、対照区に対する試験区の抗ウイルス活性値及び減少率を算出し、効果を確認した。
【0092】
なお、本試験において抗ウイルス活性値及び減少率(%)は以下の式で算出した。結果を表6に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
表6に示すように、試験開始時においてウイルス感染価で105.7(TCID50/試験片)であった。
【0096】
6時間後では、対照区では自然減衰がみられ105.1(TCID50/試験片)、試験区1では103.3(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.8及び減少率98.4%、試験区2では103.5(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.6および減少率97.5%となった。
【0097】
以上より、実施例2および3の組成物を用いてコーティングした試験片では、6時間接触させることで、SARS-CoV-2に対して、高いウイルス減少効果を得られることが分かる。
【0098】
(試験例3)
・試験資材
1:実施例3の組成物
資材は等量の無水エタノールに溶解し、25cm2平底フラスコ底面(ポリスチレン製)に、1mL(資材として0.5mL)を滴下後、均一に広がるように塗布した。その後、キャップを閉じずに約12時間乾燥させ、エタノール分を蒸発させて試験片とした。試験例3では、エタノールの影響を除去するため、乾燥時間を長く設定した。
【0099】
実施例3の組成物を用いて形成した塗膜は、高い透明度を有していた。
【0100】
なお、対照区(比較例3)として、無水エタノールのみを25cm2平底フラスコ底面に同様に塗布し、乾燥させたものを使用した。
【0101】
・区の設定
【0102】
【0103】
・試験ウイルス液の調製
試験例2と同様の方法により、試験ウイルス液を調製した。
【0104】
・試験ウイルス液の接種およびウイルス力価(ウイルス感染価)の測定
試験実施前に、後述の試験方法と同様の処理を行った試験資材塗布試験片を、細胞維持培地10mLで洗い出した後、さらに10倍段階希釈し、各希釈液を培養細胞に接種し、37℃、5%CO2下で5日間培養した。培養細胞が正常な形状を示さなかった場合、資材による細胞毒性有りと判定し、本試験では細胞毒性が確認された希釈倍率を試験から除外した。
【0105】
その結果、洗い出し液原液で細胞毒性は確認されなかったため、本試験における検出限界は、洗い出し液中の濃度として100.5TCID50/mLとした。
【0106】
(1)対照区及び試験区の試験片に試験開始18時間前から細胞維持培地0.2mLを滴下して滅菌フィルム(ポリエチレンフィルム)を被覆した状態で保管した。
【0107】
(2)上記保管経過後の試験片の被覆フィルムを剥がし、試験ウイルス液を0.2mL添加して、再度フィルムを被せて、乾燥しないようキャップを閉じて密閉して反応開始とした。
【0108】
(3)試験設定に従い室温下で2時間静置し反応時間とした。
【0109】
(4)感作時間経過後、フラスコ内に細胞維持培地10mLを添加、フィルムを剥がしつつよく混合してウイルスを洗い出した。
【0110】
(5)洗い出し液について、さらに細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、各希釈液を96wellマイクロプレートの培養細胞に接種し、5%CO2ガス存在下で、37℃、5日間培養した。
【0111】
(6)培養後のCPEの有無から、ウイルス力価(ウイルス感染価)(TCID50)を測定した。
【0112】
・評価
試験例2と同様にして、抗ウイルス活性値及び減少率(%)を算出した。結果を表8に示す。
【0113】
【0114】
表8に示すように、試験開始時においてウイルス感染価で105.7(TCID50/試験片)であった。
【0115】
2時間後では、対照区ではやや自然減衰がみられ105.5(TCID50/試験片)、試験区では103.7(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.8及び減少率98.4%となった。
【0116】
以上より、実施例3の組成物を用いてコーティングした試験片では、2時間接触させることで、SARS-CoV-2に対して、高いウイルス減少効果を得られることが分かる。
【0117】
(試験例4)
・試験資材
1:実施例4の組成物
2:実施例5の組成物
3:実施例6の組成物
各資材は等量の無水エタノールに溶解し、25cm2平底フラスコ底面(ポリスチレン製)に、各1mL(各資材として0.5mL)を滴下後、均一に広がるように塗布した。その後、キャップを閉じずに約12時間乾燥させ、エタノール分を蒸発させて試験片とした。試験例4では、エタノールの影響を除去するため、乾燥時間を長く設定した。
【0118】
実施例4~6の組成物を用いて形成した塗膜は、透明であった。
【0119】
なお、対照区(比較例4)として、無水エタノールのみを25cm2平底フラスコ底面に同様に塗布し、乾燥させたものを使用した。
【0120】
・区の設定
【0121】
【0122】
・試験ウイルス液の調製
試験例2と同様の方法により、試験ウイルス液を調製した。
【0123】
・試験ウイルス液の接種およびウイルス力価(ウイルス感染価)の測定
試験例3と同様の方法により、試験ウイルス液の接種およびウイルス感染価の測定を行った。
【0124】
・評価
試験例2と同様にして、抗ウイルス活性値及び減少率(%)を算出した。結果を表10に示す。
【0125】
【0126】
表10に示すように、対照区では試験開始後から、試験開始後2時間までの間にウイルス量の自然減衰が見られた(105.7→105.5TCID50/試験片)。
【0127】
試験区1では、開始後2時間で104.5(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.0及び減少率90.0%、試験区2では104.1(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.4及び減少率95.9%となった。試験区3では103.7(TCID50/試験片)で抗ウイルス活性値1.8及び減少率98.4%となった。
【0128】
以上より、実施例4~6の組成物を用いてコーティングした試験片では、2時間接触させることで、SARS-CoV-2に対して、高いウイルス減少効果を得られることが分かる。
【要約】
【課題】新規な抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】ロジン、コパールおよびセラックの少なくとも一つを含む、抗ウイルス剤。
【選択図】なし