(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】表面プラズモン共鳴アッセイのための段階的組み合わせ注入
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20220725BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N35/08 A
(21)【出願番号】P 2019511894
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(86)【国際出願番号】 US2017049353
(87)【国際公開番号】W WO2018045017
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-06-10
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【氏名又は名称】田中 拓人
(74)【代理人】
【識別番号】100115462
【氏名又は名称】小島 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】バーリング,ヘンリク
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/066591(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0273564(US,A1)
【文献】特開2011-214862(JP,A)
【文献】特開2007-010439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面(63)を有する第1のフローセル(61)と活性面(67)を有する第2のフローセル(65)とを備えるアッセイ装置、例えば表面プラズモン共鳴装置の溶媒または化合物の濃度変化効果について測定サンプル応答を調整するために使用される補正曲線のデータを作成する方法であって、前記活性面(67)はある量のリガンド(69)を含み、前記基準面(63)はより少ない量のリガンドを含むかまたはリガンドを含まず、前記方法は、
a)第1の濃度(X1)の前記溶媒または化合物を含む液体の供給源(71)を提供するステップと、
b)第2の濃度(X2)の前記溶媒または化合物を含む液体の供給源(73)を提供するステップと、
c)第1の濃度(X1)の前記溶媒または化合物を含む前記液体と第2の濃度(X2)の前記溶媒または化合物を含む液体とを混合するための流体混合器(75)を提供するステップであって、前記流体混合器(75)が、前記2つの液体を混合させるために配置された混合チャンバ及び/又は混合経路(74)を含み、前記流体混合器(75)は前記流体混合器から出る前に前記液体が確実に混合されるように適合される、ステップと、
d)前記流体混合器(75)を通して前記第1の濃度(X1)の前記溶媒または化合物を前記活性面(67)および前記基準面(63)に提供するための第1のポンプ(77)、および、前記流体混合器(75)を通して前記第2の濃度(X2)の前記溶媒または化合物を前記活性面(67)および前記基準面(63)に提供するための第2のポンプ(79)を提供するステップと、
e)前記流体混合器(75)からの前記液体の流れを生成するように、前記第1のポンプ(77)および前記第2のポンプ(79)のうちの1つまたは複数の圧送速度を制御するステップであって、前記流体混合器(75)からの前記液体は、前記活性面(67)および前記基準面(63)上の第1の混合濃度の前記溶媒または化合物を含む、制御するステップと、
f)前記第1の混合濃度の溶媒または化合物に対する前記活性面(67)および前記基準面(63)の相対的応答を測定および記録するステップと、
g)前記活性面(67)および前記基準面(63)上のさらなる混合濃度の前記溶媒または化合物を含む液体の流れを生成するように、前記第1のポンプ(77)および前記第2のポンプ(79)のうちの1つまたは複数の圧送速度を制御するステップであって、前記第1のポンプ(77)及び前記第2のポンプ(79)の相対流速を変化させることによって、前記溶媒または化合物の濃度を変化させる、ステップと、
h)前記さらなる混合濃度の溶媒または化合物に対する前記活性面(67)および前記基準面(63)の相対的応答を測定および記録するステップと、
i)ステップg)およびh)をN回繰り返すステップであって、Nはゼロ以上である、繰り返すステップと
を含み、
これらによって、複数の異なる濃度の溶媒または化合物を迅速に調製し、その後、前記アッセイ装置に注入することを可能にする、方法。
【請求項2】
前記ステップg)は、前記流体混合器(75)を通る一定の液体の流速を維持しながら、前記流体混合器(75)に入る液体の割合を制御することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Nが31以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Nが15以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Nが7以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップd)において、前記ポンプ(77、79)のうちの1つが前記流体混合器(75)の下流に設けられ、他方の前記ポンプが前記流体混合器(75)の上流に設けられることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップd)において、前記ポンプ(77、79)の両方が前記流体混合器(75)の上流に設けられることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アッセイ装置であって、
前記アッセイ装置は、前記アッセイ装置の溶媒または化合物の濃度変化効果について測定サンプル応答を調整するために使用される補正曲線のデータを作成するのに適した複数の異なる濃度の溶媒または化合物を調製するための装置(60)を備え、
前記アッセイ装置は、
基準面(63)を有する第1のフローセル(61)と、
活性面(67)を有する第2のフローセル(65)であって、前記活性面(67)がある量のリガンド(69)を含み、前記基準面(63)がより少ない量のリガンドを含むかまたはリガンドを含まない、第2のフローセル(65)と、
第1の濃度(X1)の前記溶媒または化合物を含む第1の液体供給源(71)と、
第2の濃度(X2)の前記溶媒または化合物を含む第2の液体供給源(73)と、
前記アッセイ装置のための補正曲線のデータを作成するために複数の異なる濃度の溶媒または化合物を調製するための流体混合器(75)であって、前記流体混合器(75)が液体を混合するための混合チャンバ又は混合経路(74)を含み、前記混合チャンバ又は混合経路(74)が少なくとも2つの入口を含み、前記入口のうちの第1の入口(76a)は前記第1の液体供給源(71)に接続可能であり、前記入口のうちの第2の入口(76b)は前記第2の液体供給源(73)に接続可能であり、前記混合チャンバ又は混合経路(74)が少なくとも1つの出口(78)を含み、前記出口が前記第1のフローセル(61)及び前記第2のフローセル(65)に接続可能であり、前記流体混合器(75)は前記第1の濃度(X1)の前記溶媒または化合物を含む液体を前記第2の濃度(X2)の前記溶媒または化合物を含む液体と混合させるために構成されており、前記混合チャンバ又は混合経路(74)は前記2つの液体を混合させるために配置されており、前記流体混合器(75)は前記流体混合器から出る前に前記液体が確実に混合されるように適合される、流体混合器(75)と、
前記混合チャンバ又は混合経路(74)の前記第1の入口(76a)への前記第1の濃度(X1)の溶媒または化合物の流れであって、前記流体混合器(75)を通じて前記活性面(67)及び前記基準面(63)への前記第1の濃度(X1)の溶媒または化合物の流れを制御するように適合された第1のポンプ(77)と、
前記混合チャンバ又は混合経路(74)の前記第2の入口(76b)への前
記第2の濃度(X2)の溶媒または化合物の流れであって、前記流体混合器(75)を通じて前記活性面(67)及び前記基準面(63)への前
記第2の濃度(X2)の溶媒または化合物の流れを制御するように適合された第2のポンプ(79)と、
を備え、
前記アッセイ装置は少なくとも2つのポンプに接続可能であり、
前記アッセイ装置は、
e)前記流体混合器(75)からの前記液体の流れを生成するように、前記第1のポンプ(77)および前記第2のポンプ(79)のうちの1つまたは複数の圧送速度を制御し、前記流体混合器(75)からの前記液体が、前記活性面(67)および前記基準面(63)上の第1の混合濃度の前記溶媒または化合物を含み、
f)前記第1の混合濃度の溶媒または化合物に対する前記活性面(67)および前記基準面(63)の相対的応答を測定および記録し、
g)前記活性面(67)および前記基準面(63)上のさらなる混合濃度の前記溶媒または化合物を含む液体の流れを生成するように、前記第1のポンプ(77)および前記第2のポンプ(79)のうちの1つまたは複数の圧送速度を制御し、前記第1のポンプ(77)及び前記第2のポンプ(79)の相対流速を変化させることによって前記溶媒または化合物の濃度を変化させ、
h)前記さらなる混合濃度の溶媒または化合物に対する前記活性面(67)および前記基準面(63)の相対的応答を測定および記録し、且つ
g)およびh)をN回繰り返す、
ために適合された制御システムをさらに備え、
Nはゼロ以上であり、
これらによって、複数の異なる濃度の溶媒または化合物を迅速に調製し、その後、前記アッセイ装置に注入することを可能にする、アッセイ装置。
【請求項9】
前記ポンプ(77、79)のうちの1つが前記混合チャンバ又は経路(74)の上流に設けられ、他方の前記ポンプが前記混合チャンバ又は経路(74)の下流に設けられる、請求項8に記載のアッセイ装置。
【請求項10】
前記ポンプの2つ(77、79)が前記混合チャンバ又は経路(74)の上流に設けられている、請求項8に記載のアッセイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴アッセイのための段階的組み合わせ注入に関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴アッセイは、分子がセンサ表面に結合または解離するときのセンサ表面における分子濃度の変化に応答する非侵襲的な無標識技術を使用して、分子相互作用をリアルタイムでモニタリングすることができる一種のアッセイシステムである。検出原理は表面プラズモン共鳴(SPR)に基づいており、これはセンサ表面から約150nm以内の屈折率の変化に感受性がある。2つの結合パートナー間の相互作用を調べるために、一方のパートナーを表面に付着させ、他方をサンプル溶液の連続流中で表面上を通過させた。SPR応答は、表面近くの質量濃度の変化に正比例する。
【0003】
SPRシステムは、有機薬剤候補からタンパク質、核酸、糖タンパク質、ならびに、さらにはウイルスおよび細胞全体まで、ほとんどあらゆる種類の分子が関わる相互作用を調べるのに使用することができる。応答は質量濃度の変化の測度であるため、相互作用物質1モル単位あたりの応答は分子量に比例する(分子が小さいほどモル応答が低くなる)。この検出原理は、相互作用物質のいずれも標識されることを必要とせず、測定は、細胞培養上清または細胞抽出物ならびに精製された相互作用物質のような複雑な混合物に対して行われ得る。複雑なサンプルマトリックス中でモニタリングされる相互作用物質の同一性は、表面に付着したパートナーの相互作用特異性によって決定される。
【0004】
SPRシステムは2つの分子間の相互作用をモニタリングし、その一方はセンサ表面に付着し(
図1の5で示す)、他方は溶液中で遊離している。以下の用語が、以下においてSPRに基づくアッセイの文脈において使用される。
【0005】
・(直接的または間接的に)表面に付着した相互作用パートナーは、「リガンド」と呼ばれる(
図1a)および
図1b)の参照符号3によって示されるように)。創薬および薬剤開発の研究において、リガンドは標的分子と呼ばれることがある。
【0006】
注:用語「リガンド」は、ここでは親和性クロマトグラフィの文脈で使用される用語と同様に適用され、そして表面付着分子が細胞受容体に対するリガンドであることを意味しない。
【0007】
・リガンドは、化学カップリング試薬を用いた共有結合固定化、または、固定化捕捉分子への高親和性結合による捕捉のいずれかによって表面に付着させることができる(
図1b)の参照符号7によって示されている)。
【0008】
・「分析物」は、リガンド上で溶液中を通過する相互作用パートナーである(
図1a)~
図1c)の参照符号1で示されるように)。
【0009】
・間接アッセイフォーマットでは、分析物は、溶液中の分析物とセンサ表面のリガンドの両方に結合することができる二次検出分子を使用して検出される。観察された応答はリガンドへの検出分子の結合に由来する、サンプル中の分析物の存在はこの結合を阻害し、それによって、応答は分析物の量に反比例する。
【0010】
・分析は慎重に制御された方法で表面にサンプルを注入することによって行われる。サンプルは、「流動用緩衝液」と呼ばれる緩衝液の連続的な流れの中で搬送される。
【0011】
・応答は共鳴単位(RU)で測定される。応答は表面上の生体分子の濃度に正比例する。
【0012】
・「センサグラム」は時間に対する応答のプロットであり、相互作用の進行状況を示す(
図2)。この曲線は、分析過程の間にコンピュータ画面に直接表示される。
【0013】
・「報告点」は、短い時間窓にわたって平均した特定の時間におけるセンサグラム上の応答、およびその窓にわたるセンサグラムの傾きを記録する。応答は絶対的(検出器によって決定される固定ゼロレベルを超える)であってもよく、または別の指定された報告点における応答に対して相対的であってもよい(
図2)。
【0014】
・「再生」は、新たなサイクルに備えて、リガンドを損なうことなく、分析サイクルの後に表面から結合した分析物を除去するプロセスである。
【0015】
・SPR検出は表面近くの屈折率の変化をモニタリングし、流動用緩衝液と注入されたサンプルとの間の屈折率の差が、注入の開始時および終了時の応答の急激なシフトとして記録される。これは、「バルク屈折率効果」または「バルクシフト」と呼ばれる。
【0016】
SPRシステムにおける応答は表面上の質量濃度の変化に直接関係しており、それによって、モル応答(すなわち所与の数の分子に対する応答)は関与する分子の大きさに比例する。所与の応答は、小さい分子の、大きい分子よりも高いモル濃度を表す。反対に、表面に結合する所与の数の分子は、分子が小さい場合により低い応答を与える。応答と表面濃度との間の関係は、アミノ酸組成および配列にかかわらずタンパク質について本質的に一定であり、そして他のほとんどの生物学的巨大分子についても同様である。
【0017】
SPRシステムにおける「センサチップ」は、金の薄層で被覆されたスライドガラスからなることができる。これらの構成要素は、センサチップを光学システムに取り付けるためのドッキングシステムとともに、SPR信号の生成に必要とされる。研究されている分子間相互作用に適した環境を提供するために、金表面はリンカー層および(ほとんどのセンサチップタイプで)修飾デキストランのマトリックスで被覆される。リガンド付着および分子間相互作用に関してセンサチップの特性を決定するのは表面マトリックスである。チップは、リガンドを有する活性面(
図1a)および
図1b)の参照符号5により示される)、および、リガンドを有しないまたは活性面上のリガンドと同様であるが分析物と結合していないリガンドを有する基準面(
図1c)の参照符号9により示される)を含む。したがって、基準面は活性面上のリガンドと反応する分子の存在に応答しない。基準面からの信号は制御応答を与え、それに対して活性面からの応答を表す信号を比較することができる。
【0018】
一般に、SPRシステムは生物学的研究で使用されるほとんどの緩衝物質に適合する。しかしながら、特に医薬品開発研究に関連する多くの低分子量有機化合物は、水性緩衝液に難溶性であり、有機溶媒の添加を必要とする。ジメチルスルホキシド(DMSO)が一般的に使用されている。通常、SPRシステムは最大10%のDMSOを含む緩衝液とともに使用することができる。ただし、有機溶媒はサンプルおよび緩衝液のバルク屈折率に大きく寄与する。1%のDMSOは応答レベルに約1200 RUをもたらす。溶解度を維持するために有機溶媒を必要とすることが多い低分子量分析物からの予測される応答は、10~20 RU以下程度の低さである可能性がある。したがって、測定されている応答が有機溶媒濃度の任意の変動に対して正確に補償されていることが重要である。様々な濃度の溶媒効果の影響について測定サンプル応答を調整する手順は、溶媒補正と呼ばれる。
【0019】
これらの手順は、分析物溶解度を維持するために緩衝液に有機溶媒(通常はジメチルスルホキシド、DMSO)を含める必要がある小さな有機分析物を扱う研究に特に関連する。
【0020】
サンプル間のバルクシフトの差が、分析物結合から予測される応答と同程度の大きさであり得る(またはそれより大きい)場合、基準応答の単純な減算はこれらの目的に対して十分に正確ではない。これに対する1つの理由は、2つの表面が同じ付着タンパク質濃度を有していない限り、サンプルに接近可能な溶液の体積が基準面と活性面とでは異なることである。リガンド分子によって体積が排除される結果として、バルクシフトは、(
図3の応答(RU)対時間(t)のプロットに示されるように)活性面上で基準面よりも小さくなる。参照符号31は、基準面(33)上の応答を表し、参照符号35は、活性面(37)上の応答を表し、参照符号39は、基準面上の排除された体積応答に起因する応答の差を表す。
【0021】
溶媒補正に含まれる排除される体積に加えて、この議論の範囲外である他の要因があり、それによって、溶媒補正は本質的に経験的な手順である。
【0022】
溶媒修正は、一般的に薬剤候補などの低分子量分析物を用いた研究で満たされる以下の3つの状況の組み合わせの下で必要である。
【0023】
・予測される分析物応答が低い。
【0024】
・リガンドが、表面に高密度に固定化された巨大分子である。
【0025】
・バルク応答が、測定される結合応答と比較して高い。
【0026】
創薬および薬剤開発の研究において、分析物は、対応して低い応答値(典型的には10~50RU以下の程度)を与える小分子であることが多い。高レベルの固定化リガンド(数千RU)を使用して分析物応答を最大化し、上記の排除される体積の効果を高める。サンプルは一般的に溶解度を維持するためにDMSOを含み、その結果高いバルク応答が得られる。DMSO濃度における1%(百分率点)の差は、応答における約1200RUの差に対応し、それによって、多様なサンプルの調製において避けられないDMSO濃度のわずかな変動が、容易に、予測されるサンプル応答と同じ程度のバルク応答の変動をもたらす。
【0027】
溶媒補正値は、ある範囲のDMSO濃度、例えば8つの異なる濃度を調製すること、8回の異なる注入であって、各注入が、各々が種々の濃度のうちの異なる1つの濃度のDMSOを含むブランクサンプルを活性面および基準面上に注入する工程を含む、8回の異なる注入を実施すること、および、基準面からの相対応答に対する活性面からの基準減算応答をプロットすることによって決定される。これにより、基準応答の関数としての溶媒効果のための、溶媒補正曲線と呼ばれる較正曲線が作成される。補正曲線の例を
図4に示す。補正曲線の作成および使用は当該技術分野において周知であり、したがって詳細には説明しない。補正曲線を使用して、各サンプル測定値を調整して、基準面での応答に基づいて溶媒の影響を補償することができる(
図5を参照)。
【0028】
溶媒補正曲線を作成する現在の方法に伴う1つの問題は、溶媒補正曲線を基準面と活性面の対ごとに作成しなければならないことであり、これは時間がかかる。異なる濃度のDMSOの各注入の間に個々の濃度をシステムに接続するのに費やす時間は無駄であり、手順全体は時間がかかり、エラーを起こしやすい。例えば、異なる濃度のDMSOの調製において生じ得るピペット操作誤差は、溶媒補正曲線に著しい誤差を追加し得る。DMSOは吸湿性であり、開いた容器中に調製された濃度のDMSOを長期間保存すると、DMSOの濃度が変化し、続いて較正曲線に誤差が生じる。
【0029】
さらに、サンプルおよび流動用緩衝液においてまったく同じDMSO濃度になるように努力し、サンプル間のDMSO含有量の変動を最小限に抑えることが重要である。溶媒補正が必要なアッセイのためにサンプルを調製するときにこれを達成するために、通常は次のことが必要であった。
【0030】
・慎重に設計された緩衝液調製およびサンプル希釈プロトコールを使用して、一貫したDMSO濃度を確保する。DMSO中に保存されているサンプルは、泳動緩衝液中と同じ最終DMSO濃度になるように希釈する必要があります。
【0031】
・DMSOは吸湿性であるため、蒸発および空気からの水分の吸収に起因するDMSO濃度の変化を避けるために、調製直後にサンプルプレートをホイルで被覆する。そのような調製は時間がかかり、費用がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】国際公開第2016/066591号パンフレット
【発明の概要】
【0033】
従来技術の問題の少なくともいくつかは、異なる割合における異なる量の有機溶媒(例えばDMSO)または他の化合物を含有する2つの異なる溶液のみのオンライン混合のための混合システムを提供することによって克服することができる。混合システムは、第1のバルク供給源から緩衝溶液中の第1の濃度の有機溶媒(例えば、1体積%の有機溶媒)を圧送するための1つのポンプと、第2のバルク供給源から緩衝溶液中の第2の濃度の有機溶媒(例えば、10体積%の有機溶媒)を圧送するための1つのポンプとを備えることができる。ポンプは、流体を流体混合器に圧送することができ、そこで流体が完全に混合される。ポンプの相対流速を変えることによって、混合領域を出る液体中の異なる濃度の有機溶媒を達成することが可能である。例えば、第1の濃度の有機溶媒の流速がxml/分であり、第2の濃度の有機溶媒の流速がゼロである場合、流体混合器を出る濃度は1%になる。第1の濃度の有機溶媒の流速がx/2ml/分であり、第2の濃度の有機溶媒の流速もx/2ml/分である場合、流体混合器を出る濃度は5.5%になる。第1の濃度の有機溶媒の流速が0ml/分であり、第2の濃度の有機溶媒の流速がxml/分である場合、流体混合器を出る濃度は10%になる。次いで、混合液体を活性面および基準面上に注入し、応答を検出することができる。
【0034】
ポンプの相対流速を変えることによって有機溶媒の濃度をほぼ瞬時に変えることができるため、手順において時間が節約される。さらに、オペレータは、8つの異なる濃度の有機溶媒および緩衝溶液の代わりに、2つのバルク供給源(すなわち、異なる濃度の緩衝溶液および有機溶媒を含有する2つのバルク供給源)を準備するだけでよい。このとき、8つの異なる予め調製された濃度の有機溶媒を用いて8回の異なる注入を行う代わりに、各々が注入中に形成される異なる濃度の有機溶媒を含む、例えば8ステップを伴う1回の注入を行うことによって補正曲線を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1a)】リガンドが直接付着されている活性面の概略図である。
【
図1b)】リガンドが捕捉分子を介して間接的に付着されている活性面の概略図である。
【
図1c)】リガンドが一切付着されていない基準面の概略図である。
【
図3】基準面上の応答と活性面上の応答との間の差の概略図である。
【
図4】異なる濃度の有機溶液がセンサチップ内の一対の活性面および基準面上に提供されるときに得られる応答のプロットを含む補正曲線を示す図である。
【
図5】アッセイ中に得られる応答に補正曲線がどのように適用されるかを示す図である。
【
図6】本発明を実施するための流体混合器回路の概略図である。
【
図7】従来技術による補正曲線のデータを取得するためのランと本発明による方法による補正曲線のためのデータを取得するためのランとの間の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図6は、アッセイ装置、特にSPRアッセイ装置用の補正曲線を作成するのに適した、異なる濃度の溶媒、例えばDMSOのような有機溶媒を作成するための装置(60)の単純化した実施形態を概略的に示す。例えば活性面にリガンドを提供するために活性面に通じるリガンド入口(62)など、使用のために装置を準備するのに必要である従来技術から知られている特徴、および/または、例えば、装置に流動用緩衝液を提供するための流動用緩衝液入口(64)など、装置を作動させるのに必要である特徴のいくつかが破線で示されているが、図の理解を容易にするために、必要な弁、ポンプおよび制御システムは省略されている。アッセイ装置は、基準面(63)を有するフローセル(61)と、活性面(67)を有する第2のフローセル(65)とを備え、活性面はある量のリガンド(69)を含み、基準面はより少ない量のリガンドを含むか、または、リガンドを含まない。本発明のこの実施形態では、フローセルは活性面(67)の上流で基準面(63)と直列であるが、本発明の別の実施形態では、フローセルは基準面の上流で活性面と直列に配置される。本発明のさらなる実施形態では、2つの表面は平行に配置されている。
【0037】
本発明の各実施形態では、フローセルは、第1の濃度(X1)の溶媒(例えばDMSO)または他の化合物を含む第1の液体供給源(71)、および、第2の濃度(X2)の同じ溶媒または同じ他の化合物を含む第2の液体供給源(73)と液体連通している。簡潔にするために、以下において、溶媒または化合物がDMSOである例により本発明を説明するが、DMSOを任意の他の化合物に置き換えることが可能である。好ましくは、溶媒の1つの濃度、例えば第1の濃度(X1)は、使用されることになる溶媒(または化合物)の最低濃度、例えば1体積%のDMSOであり、第2の濃度(X2)は、使用されることになる溶媒の最大濃度、例えば10体積%のDMSOである。
【0038】
流体混合器(75)が、液体供給源とフローセルとの間の経路に配置されている。流体混合器は、少なくとも2つの入口(76a、76b)、すなわち、第1の供給源に接続可能な第1の入口(76a)、および第2の供給源に接続可能な第2の入口(76b)を有する。流体混合器は、フローセルに接続可能な混合液体の少なくとも1つの出口(78)を有する。流体混合器は、混合液体の出口(単数または複数)(78)によって流体混合器を出る前に液体が確実に混合されるように適合される。流体混合器は、例えば攪拌手段を設けることによって、または例えば乱流を発生させることによって、2つの液体を混合させるように構成された混合チャンバおよび/または混合経路(74)の形態であり得る。結果として生じる混合流体は、その後、活性面および基準面の各々にわたって注入することができる。
【0039】
フローセルにわたって流体混合器(75)から流体を引き出すために、フローセルの下流に第1のポンプ(77)が設けられている。第2のポンプ(79)が、第2の液体供給源から第2の入口(76b)を介して混合チャンバへ流体を圧送するために設けられている。第1のポンプを作動させてxml/分の流量を供給し、第2のポンプのスイッチを切ると、第1の供給源からの流体だけが流体混合器を通ってフローセルに流れることができ、これは、第1のポンプによって決定される速度、すなわちx ml/分においてこれを行う。同様に、第1のポンプを作動させてx ml/分の流量を供給し、第2のポンプを作動させてx ml/分の同じ流量を供給するとき、第2の供給源からの流体のみが流体混合器を通ってフローセルへ流れる。
【0040】
したがって、第1のポンプおよび第2のポンプの相対速度を変えることによって、X1とX2との間の任意の濃度の溶媒を提供することが可能である。例えば、第1のポンプの速度が一定に維持されている場合、第2のポンプの速度を増加させると、第2の供給源からのより濃縮された溶媒の流れが増加するにつれて第1の供給源からのあまり濃縮されていない溶媒の流れが減少するため、流体混合器を出る流体中の溶媒の濃度が増加する。そのような構成は、混合器を通る一定の液体流速を維持しながら、流体混合器に入る液体の割合を制御する単純な方法を提供する。
【0041】
図示されていない本発明の代替的な実施形態では、2つのポンプがあるが、これらは両方とも混合チャンバの上流にある。第1のポンプは第1の液体源を混合チャンバの第1の入口に接続し、第2のポンプは第2の液体源を混合チャンバの第2の入口に接続する。したがって、混合チャンバに流入する各液体の割合は、各ポンプの流量に比例する。
【0042】
図7は、従来技術の方法に従って補正曲線を作成する際に使用するためのデータを収集するためのランと、本発明による方法を使用して実行される補正曲線を作成するのに適したデータを収集するためのランとの比較を伴うセンサグラムを示し、後者のランは、
図6に示されるタイプの装置内の基準セルと活性セルに対して実行される。
【0043】
図中のランの間の比較をより明確にするために、従来技術のタイプのランは、開始時に最高濃度のDMSO(参照符号83で示す)を用いて実行され、一方、本発明によるランは、開始時に最低濃度のDMSO(参照符号95で示す)を用いて実行された。従来技術の方法に従って行われた最初のラン(曲線81で示す)では、異なる濃度のDMSOを含有する8つの溶液を調製した。これらを、基準面を有するフローセルおよび活性面を有するフローセルの入口に通じる流路に接続した。各溶液を、安定した応答が達成されるまで流動させ、接続切断する前に記録し、次の溶液を接続してフローセルに注入した。例えば参照符号85によって示されるように、DMSO含有液体の各注入の間に流動用緩衝液をフローセルに注入した。したがって、DMSOを含有する8つの異なる溶液の混合は行わなかった。異なる液体の供給源を手動で着脱する必要があるこの例では、補正曲線の8つの読み値を提供するための合計時間は約1100秒、すなわち18分超であった。
【0044】
本発明の方法に従って行われる補正曲線を作成するためのデータを作成するための第2のラン(曲線93で示す)では、アッセイに使用することを意図した最低濃度(X1)の溶媒(または化合物)を含む第1の溶液を調製し、この第1の溶液を含む容器を混合器の第1の入口(76a)に接続した。アッセイに使用することを意図した最高濃度(X2)の溶媒(または化合物)を含む第2の溶液を調製し、この第2の溶液を含む容器を流体混合器(75)の第2の入口(76b)に接続した。
【0045】
フローセルの下流のポンプ(77)を作動させ、第2のポンプ(79)を停止した。これにより、最低濃度の溶媒を含有する溶液のみが上記流体入口を通って流体混合器に流れ、続いて流体混合器の出口を通って活性面および基準面(参照符号95で示す)に流し、応答曲線における対応するステップを記録した。次に、第1のポンプの流速を維持しながら、第2のポンプを低流速で作動させた。これにより、流体混合器への第1の濃度の流速を減少させながら、(97に示すように)流体混合器への第2の濃度の溶媒の流れを可能にし、それによって流体混合器を出て基準面および活性面上を移動する溶媒の新たな混合濃度を達成した。この新たな濃度に対する基準面および活性面からの応答を記録した。第2のポンプの流速を増加させ、新たな濃度の溶媒に対する応答の読み取りを行った。第1のポンプおよび第2のポンプの流速が同じになるまでこの手順を繰り返し、それによって99に示すように最高濃度の溶媒を有する第2の溶液のみをフローセルに注入した。図から分かるように、このプロセスは約230秒かかり、したがって手動による注射よりもかなり速かった。この方法は、複数の異なる濃度の溶媒または化合物を迅速に調製し、その後アッセイ装置に注入することを可能にする。
【0046】
本発明による装置および方法を用いて製造することができる溶媒または化合物の異なる濃度の数に制限はない。好ましくは、使用される濃度の数は、従来技術において一般的に使用されているように、8に等しい。しかしながら、本発明による方法および装置は、従来技術よりも迅速に補正曲線を生成することを可能にするため、補正曲線により高い精度を与えるために、例えば合計16の濃度またはさらには32の異なる濃度など、より多数の異なる濃度の溶媒または化合物の応答を記録することが好ましい場合がある。各濃度を迅速に混合して注入することができるため、本発明の方法および装置は、オペレータがはるかに短い時間で従来技術と同じ精度(すなわち8つのデータ点)で補正曲線のデータの生成間で選択すること、または、さらに依然として時間を節約しながらより高い精度を得るために、より多くのデータ(すなわち、より高濃度の溶媒または化合物、例えば16または32の異なる濃度に関するデータ)を生成することを可能にする。
【0047】
本開示の上記の説明は例示の目的のために提供されており、本開示の概念および本質的な特徴を変更することなく様々な変更および修正がなされ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、上記の実施形態はあらゆる点で例示であって、本開示を限定するものではないことは明らかである。
【0048】
本開示の範囲は、実施形態の詳細な説明ではなく特許請求の範囲によって定義される。特許請求の範囲の意味および範囲ならびにそれらの均等物から想起されるすべての修正および実施形態は本開示の範囲内に含まれることを理解されたい。
【符号の説明】
【0049】
1 リガンド
5 活性面
7 捕捉分子
9 基準面
31 基準面上の応答
33 基準面
35 活性面上の応答
37 活性面
60 装置
61 フローセル
62 リガンド入口
63 基準面
64 流動用緩衝液入口
65 第2のフローセル
67 活性面
69 リガンド
71 第1の液体供給源
73 第2の液体供給源
74 混合チャンバおよび/または混合経路
75 流体混合器
76a 第1の入口
76b 第2の入口
77 第1のポンプ
78 出口
79 第2のポンプ
83 最高濃度のDMSO
85 流動用緩衝液の注入
93 第2のラン
95 最低濃度のDMSO
97 第2の濃度の溶媒の流れ
99 最高濃度の溶媒
X1 第1の濃度
X2 第2の濃度