(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】荷電粒子放射線計測方法および荷電粒子放射線計測装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20220725BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20220725BHJP
G01T 1/202 20060101ALI20220725BHJP
G21C 17/12 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01T1/20 B
C09K11/64
G01T1/202
G21C17/12 200
(21)【出願番号】P 2017036154
(22)【出願日】2017-02-28
【審査請求日】2019-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加田 渉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健太
(72)【発明者】
【氏名】花泉 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 鈴弥
(72)【発明者】
【氏名】須崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202901(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110457(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02412782(EP,A1)
【文献】特開2007-009095(JP,A)
【文献】特開2001-255374(JP,A)
【文献】特開2015-166423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G01T 1/202
G21K 4/00
G21C 17/12
C09K 11/00-11/89
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物蛍光体を85質量%以上含む蛍光体を含むシンチレータを用い、
窒化物蛍光体が、CaAlSiN
3:Eu蛍光体(CASN蛍光体)、(Sr、Ca)AlSiN
3:Eu蛍光体(SCASN蛍光体)及び(Mg、Ca、Sr、Ba)
2Si
5N
8:Eu蛍光体(258蛍光体)から選択される1種以上を含む、荷電粒子放射線計測方法。
【請求項2】
窒化物蛍光体を85質量%以上含む蛍光体を含み、
窒化物蛍光体が、CaAlSiN
3:Eu蛍光体(CASN蛍光体)、(Sr、Ca)AlSiN
3:Eu蛍光体(SCASN蛍光体)及び(Mg、Ca、Sr、Ba)
2Si
5N
8:Eu蛍光体(258蛍光体)から選択される1種以上を含む、
荷電粒子放射線計測用のシンチレータ。
【請求項3】
窒化物蛍光体を85質量%以上含む蛍光体を含むシンチレータと、
シンチレータからの光を選択的に集光する光学部品と、
光学部品が集光した光を読み取る計測部と、を含み、
窒化物蛍光体が、CaAlSiN
3:Eu蛍光体(CASN蛍光体)、(Sr、Ca)AlSiN
3:Eu蛍光体(SCASN蛍光体)及び(Mg、Ca、Sr、Ba)
2Si
5N
8:Eu蛍光体(258蛍光体)から選択される1種以上を含む、荷電粒子放射線計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子放射線計測方法および荷電粒子放射線計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重粒子線治療装置等の放射線発生装置を利用した高度医療や、関連加速器施設における基礎実験では、荷電粒子の照射量やエネルギーを高い照射密度の条件下で正確にかつ連続的に計測する必要がある。他方で、核分裂を利用した原子力発電所等の原子力施設での事故時や近年開発が進められている核融合炉の炉内環境では、高温・高環境負荷かつ高放射線照射の環境下に放射線計測機器を設置して計測を行う必要がある。
【0003】
加速器施設から発生するイオンビームや原子力施設からの放射線は一般的に高密度であることに加え、計測場所が荷電粒子照射環境下でかつ周辺の環境が高温である場合が想定されるので、放射線計測機器はこうした環境下でも正確かつ長期的に計測可能な高い信頼性を有する必要がある。
【0004】
荷電粒子の照射量やエネルギーの計測には、シンチレータを用いたシンチレーション型検出器が用いられる。シンチレーション型検出器は、放射線を光に変換する発光材料を含む部分の耐性や発光効率が極めて重要である。なお、シンチレータとは、放射線が入射すると発光する物質であり、前述の放射線計測用途や重粒子線治療等の加速器施設の他に、陽電子消滅断層撮影(PET)装置や産業用途で利用される。従来のα線計測機器には、その発光効率から、ZnS:Ag,Cu等といった材料が広く利用されている(特許文献1、特許文献2または非特許文献1参照)。
【文献】特開2007-70496号公報
【文献】特開2010-127862号公報
【文献】Transactions of the Materials Research Society of Japan, 2013, Vol. 38, No. 3, p.443-446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシンチレータ型荷電粒子(α線)検出器に広く用いられる既存のシンチレータ材料(ZnS:Ag,Cu)は、100℃程度の温度領域以上での利用は推奨されておらず、百数十度(℃)を越える高温環境下に長時間設置した場合には、荷電粒子による線量を長時間にわたり測定することができないとともに、測定された線量についても正確な計測ができないという問題があった。そのため、ZnS:Ag,Cu等の従来のシンチレータ材料は、高温環境下での使用が想定される原子力施設での放射線計測には材料特性が適していない。
【0006】
加えて、ZnS:Ag,Cu等は、高密度の放射線により発光強度が著しく劣化することが問題となっており、高頻度の交換が必要となっている。すなわち、加速器施設から発生する荷電粒子ビームなどのビームモニタ計測用途では、高密度のイオン流が想定され、既存のシンチレータ材料(ZnS:Ag,Cu)では発光量の減衰が著しく、例えば1平方センチメートルあたり1015個のイオン(以下、1015[ions/cm2]のように表記する。)を超える積算量では交換が必要となる。また、これ以前の測定においても、発光量から照射線量を求めるには発光効率の劣化を勘案する必要があるため、正確な計測を行うことができないという問題があった。
【0007】
このように、ZnS:Ag,Cu等の従来のシンチレータ材料は、原子力施設では放射線に起因する発光強度の劣化が放射線量測定に悪影響を及ぼし、信頼性の点で問題となるとともに、加速器施設やこれを利用した重粒子線治療施設などの医療用設備においても、高密度の荷電粒子照射に起因する発光強度の劣化によって高頻度の交換が必要となっている。よって、従来のシンチレータ材料を用いた放射線計測機器は、ビーム品質の性能低下や、交換手順から来る作業効率の劣化による加速器装置の運転効率の低下の点で、未だ問題点が残る。こうした問題点は、原子力施設で利用されるα線を計測対象とする放射線計測機器、重粒子線治療装置などの放射線発生装置を利用した先進医療装置設備や、その他の荷電粒子利用関連加速器施設における基礎・応用物理分野から、イオン注入装置のような小型加速機構を有する産業機器分野に至る様々な分野で、改善されることが求められている。
【0008】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び放射線照射耐性の高い荷電粒子放射線計測方法、シンチレータおよび荷電粒子放射線計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含むシンチレータを用いる荷電粒子放射線計測方法である。
【0010】
本発明は、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含むシンチレータである。
【0011】
本発明は、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含むシンチレータと、シンチレータからの光を選択的に集光する光学部品と、光学部品が集光した光を読み取る計測部とを含む、荷電粒子放射線計測装置である。
【0012】
本発明において、前記窒化物蛍光体は、CaAlSiN3:Eu蛍光体(CASN蛍光体)、(Sr、Ca)AlSiN3:Eu蛍光体(SCASN蛍光体)及び(Mg、Ca、Sr、Ba)2Si5N8:Eu蛍光体(258蛍光体)から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性及び放射線照射耐性の高い荷電粒子放射線計測方法、シンチレータおよび荷電粒子放射線計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射線量測定装置の概略的な構成図であり、イオン照射時に発生するシンチレーション光を、(1)スペクトル、(2)発光強度、について測定するシステム概略図である。
【
図2】一実施形態の放射線量測定装置における波長計測結果の一例である。
【
図3】放射線量測定装置の放射線耐性を高密度放射線により試験した結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
[荷電粒子放射線計測方法]
(蛍光体)
本実施形態に係る荷電粒子放射線計測方法は、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含むシンチレータを用いる。「主成分」とは、蛍光体中に85質量%以上、好ましくは95質量%以上含まれていることを意味している。
【0017】
窒化物蛍光体は、Be、Mg、Ca、Sr、Baからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素と、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素と、Nとを含み、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素により付活される蛍光体をいう。窒化物蛍光体は、さらに酸素が含まれる酸窒化物蛍光体であってもよい。窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含有するので、耐熱性及び放射線照射耐性の高い荷電粒子放射線計測方法とすることができる。
【0018】
窒化物蛍光体は、CaAlSiN3:Eu蛍光体(CASN蛍光体)、(Sr、Ca)AlSiN3:Eu蛍光体(SCASN蛍光体)、(Mg、Ca、Sr、Ba)2Si5N8:Eu蛍光体(258蛍光体)から選択される1種以上を含むことが好ましい。なお、「(Sr、Ca)」との表記は、Sr及びCaから選択される1種又は2種を含有する組成であることを意味しており、「(Mg、Ca、Sr、Ba)」との表記は、Mg、Ca、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上を含有する組成であることを意味している。また、「:Eu」は、Euにより付活されたことを意味している。これらの窒化物蛍光体を含有する場合、ZnS:Ag,Cu蛍光体等の既存のシンチレータ材料と比較して、高温環境や高密度の放射線照射による窒化物蛍光体の劣化が極めて生じ難い。
【0019】
窒化物蛍光体の形状は、特に限定されず、粉末、焼結体、単結晶、薄膜などの形状のものを用いることができる。粉末の場合、その大きさは、通常、平均一次粒子径として、0.1μm~100μmである。なお、平均一次粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した値である。焼結体の場合、その大きさは、1μm~500μmとすることができる。
【0020】
これらの窒化物蛍光体は、白色LED用として製造、市販されているものを粒度調整、焼結して得ることができる。
【0021】
蛍光体は、上記窒化物蛍光体以外のその他の蛍光体を含んでいてもよい。その他の蛍光体としては、α-Sialon:Eu、β-Sialon:Eu等を挙げることができる。
【0022】
(荷電粒子放射線)
本実施形態で計測可能な荷電粒子放射線は、α線、β線、陽子線並びに重粒子線のいずれであってもよい。特に、高温環境や高密度の放射線照射が行われる環境下に存在する荷電粒子放射線についても、その照射量やエネルギーを正確かつ長期的に計測することができる。
【0023】
[荷電粒子放射線計測装置]
本実施形態に係る荷電粒子放射線計測装置(以下、「放射線計測装置」ともいう。)は、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含むシンチレータと、シンチレータからの光を選択的に集光する光学部品と、光学部品が集光した光(放射線に起因する光)を読み取る計測部とを含む。
【0024】
(シンチレータ)
シンチレータは、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を含む。窒化物蛍光体、及び窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体については、上記のとおりであるからここでは記載を省略する。放射線-光変換材料である新規シンチレータ材料として、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を用いることにより、シンチレータ材料と、これを保持固定する機構部品ならびにシンチレータからの光を選択的に集光する光学部品と、放射線起因の光を読み取る計測部とで構成された、耐熱性及び放射線照射耐性の高い放射線計測装置を提供することができる。
【0025】
シンチレータの作製方法は、特に限定されず、例えば、窒化物蛍光体を主成分とする蛍光体を、水ガラス、有機溶剤、樹脂等に分散させた後、該分散液を炭素、樹脂(ポリイミド、ポリカーボネート等)製の板上に均一に塗布したり、樹脂シート中に固定させたりすることで行うことができる。シンチレータの厚みは、10μm~3000μmとすることが好ましく、より好ましくは50μm~500μmである。この範囲とすることで、高価な窒化物蛍光体の使用量を抑えながら効率よく放射線の計測を行うことができる。
【0026】
シンチレータを構成する窒化物蛍光体の組成によって発光波長の調整が可能であり、これにより、計測機器の読み取り効率を改善することができる。本実施形態における放射線計測装置では、耐熱性及び放射線照射耐性の高い窒化物蛍光体から放射線に起因して発生する発光のスペクトルを、光センサにおける量子効率が高い波長をピーク波長(例えば、500nm~800nm)とするように調整することが好ましい。例えば、窒化物蛍光体の組成を調整することで、発光波長を上記範囲に調整することができる。
【0027】
(光学部品)
光学部品は、シンチレータからの光を選択的に集光する。光学部品としては、特定の波長の光を集光することができる部品であれば特に限定されず、例えば200nm~950nmの波長を選択的に集光することができる、試験に使用した例では分光器(例えば、浜松ホトニクス社製、装置名:PMA-11、スペクトラ・コープ社製、装置名:SolidLambdaCCD)等を挙げることができる。
【0028】
(計測部)
計測部は、光学部品が集光した光を読み込むことで、放射線に起因する光を読み取る。計測部は、通常、測定スペクトルデータを解析する機能を備えた計算端末と、必要に応じて光検出器の出力をデジタルデータとして取り込むためのA/D変換機構等で構成される。光学部品が集光した光は、放射線に起因する光である。
【0029】
図1は、放射線計測装置を示す概略的な構成図の一例である。この放射線計測装置は、加速器施設からの放射線(プロトンマイクロビーム)を1次の放射線として用いている。放射線がシンチレータ(シンチレータ・ターゲット)に入射するとシンチレータが発光する。光学部品は、シンチレータからの光を選択的に集光する。
図1では、光学部品として200nm~950nmの波長を選択的に集光する分光器を用いる場合の例を示している。計測部(光子計数部)は、光学部品が集光した放射線に起因する光を、計算端末等を用いて読み取り、必要に応じて出力する。
【0030】
放射線計測装置のより具体的な構成は、粉末、焼結体、単結晶、薄膜などの形状を有する窒化物蛍光体を保持固定するホルダ他の機構部品、放射線起因のシンチレータからの光を選択的に集光する光学部品、1次の放射線に起因する光子を読み取るカメラ機器、アバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo-Diode: APD)、光電子増倍管(Photomultiplier: PMT)、CCD素子、フォトダイオード(Photodiode: PD)などの計測部を組み合わせた構成とすることができる。
【0031】
環境放射線などのα線は、放射線の発生源が1点ではなく、シンチレータ材料を囲む形で四方から発生するが、この場合もシンチレータ材料とこれに付随する機構部品、光学部品、計測部は、
図1と同様の構成としてもよい。
【0032】
機構部品、光学部品、ならびに計測部は、測定対象に適した幾何学的構造、配置を行う必要があるため、その構造は目的に応じて種々の形態をとってよい。計測部は1次元、2次元の計測機器を用いることで、観察様式を変更可能である。
【0033】
本実施形態に係る放射線計測装置によれば、放射線発生装置以外の放射線源による放射線の計測についても、放射線計測装置の構造は異なるものの、基本的には同一の構成素子により、高温・高負荷環境においての荷電粒子計測が可能である。
【0034】
従来の計測機器は、利用される部材の耐熱性能が問題となるが、本実施形態で用いる窒化物蛍光体は、高温まで構造変化は起こりにくいため、構造材料ならびに光学部品、計測部と組み合わせて、従来よりも高い放射線耐性を有した放射線計測機器の動作温度範囲を改善させることが可能である。これにより、通常の放射能汚染検査を目的としたα線計測機器の高寿命化や、高温耐性を必要とする原子力施設内部他でのα線計測用の放射線計測機器が実現することができる。
【0035】
(用途)
本実施形態に係る荷電粒子放射線計測方法および荷電粒子放射線計測装置は、イ)原子力施設で利用されるα線を計測対象とする放射線計測機器のうち、シンチレーション方式により計測を行うもの、ロ)重粒子線や陽子線の治療装置などの放射線発生装置(加速器)におけるビーム品質計測用のビームモニタ・放射線測定器、ハ)その他の荷電粒子利用関連加速器施設、ならびに産業用イオン注入装置のような小型加速機構を有する産業機器におけるビーム品質計測装置等に利用することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係る荷電粒子放射線計測方法および荷電粒子放射線計測装置によれば、従来の荷電粒子放射線計測機器の利用が困難な数百度(℃)程度の温度や集束荷電粒子照射環境等の高い放射線照射量の条件において、その状況に関わらず荷電粒子の照射量を計測し、また従来よりも長寿命に利用できる放射線測定器を提供することができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
(実施例1)
CaAlSiN
3:Eu粉末(デンカ株式会社製RE-650XMDグレード、CaAlSiN
3、平均粒子径:15μm)を水ガラスに分散させて炭素製の板上に塗膜厚み100μm以下で塗布して均一に固定させ、シンチレータを作製した。このシンチレータを
図1に示すような放射線計測装置に取り付けて荷電粒子の照射試験を行った。
【0038】
隣接する加速器施設から3MeVのH+(プロトン)集束イオンビームを局所的(50μm×50μm)なターゲットへ照射密度0.02μA/mm2で連続的に照射した。
【0039】
(比較例1)
上記のCaAlSiN3:Eu粉末に替えてZnS:Ag蛍光体粉末を用いた以外は、実施例1と同様の条件で荷電粒子の照射試験を行った。
【0040】
図2に、実施例1と比較例1の試験開始時におけるスペクトル及び発光強度の計測結果を示す。同一の照射量下において、試験開始時には、CaAlSiN
3:Eu蛍光体を用いた実施例1では、ZnS:Agを用いた比較例1よりも長波長側に同程度の発光強度の荷電粒子励起発光が観察された。CaAlSiN
3:Eu蛍光体の発光波長は、ZnS:Agの発光波長と比較して光センサの量子効率が高い点で有利である。
【0041】
図3に、放射線計測機器の実施例1と比較例1における高密度照射試験の結果を示す。横軸方向に照射時間を示し、縦軸方向に同一の放射線照射強度における発光強度を示す。照射時間から、以下の式Iを用いて荷電粒子の照射量を計測することができる。
照射量(ions/cm
2)=照射密度(μA/mm
2)×照射時間(sec)÷1.602×10
15)・・・I
【0042】
図3から明らかなように、照射時間の増加による荷電粒子の照射量の増加とともにZnS:Agを用いた比較例1の発光強度は著しく減衰した。一方、CaAlSiN
3:Eu蛍光体を用いた実施例1の場合は、発光強度の減衰が見られず高密度照射により蛍光特性が劣化しないことが確認できた。
【0043】
以上の結果より、本発明の窒化物蛍光体を利用する荷電粒子放射線計測方法は、耐熱性及び放射線照射耐性の高い放射線測定器に十分使用可能であることがわかる。よって、CASN蛍光体を利用した放射線測定器の計測部の出力から、発光強度からの放射線の照射強度や照射量の測定が長時間に渡って可能である。
【0044】
本例では加速器施設からの放射線を放射線源とするため、計測時間が数時間程度の著しい加速試験となっているが、環境放射線などのα線ではこれらは数年単位の劣化に対しても耐性が高いことを意味している。また荷電粒子が局所的に加熱し続ける条件下でもCASN系窒化物はその蛍光特性を維持するため、数百度(℃)程度の高温環境下でも利用可能である。