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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】リン吸着材及びリン吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20220725BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220725BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220725BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20220725BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20220725BHJP
【FI】
B01J20/02 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/32 Z
C01B32/05
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017244042
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019107632
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】北島 信行
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-029874(JP,A)
【文献】特開2007-022840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023921(US,A1)
【文献】特開2012-091167(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104628137(CN,A)
【文献】特開昭55-031408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
C01B 32/00-32/991
C02F 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化した有機物であり、多孔質の担体と、
前記担体に担持された金属としての鉄と、
を備え、
前記有機物は、木であり、
X線回折法の測定結果において、金属としての鉄に対応するピーク、マグネタイトに対応するピークおよびGraphte―2Hに対応するピークを有する
リン吸着材。
【請求項2】
X線回折法の測定結果において、金属としての鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度の2分の1以上である
請求項1に記載のリン吸着材。
【請求項3】
前記鉄の一部は前記担体の内側に位置する
請求項1または2に記載のリン吸着材。
【請求項4】
鉄イオンを含む薬液に木である有機物を浸ける浸漬工程と、
前記浸漬工程の後に酸素を遮断した炉の中で前記有機物を炭化する炭化工程と、
を備え、
前記炭化工程で生成した炭化した有機物に担持されている成分は、X線回折法の測定結果において、金属としての鉄に対応するピーク、マグネタイトに対応するピーク、およびGraphte―2Hに対応するピークを有する
リン吸着材の製造方法。
【請求項5】
金属としての鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度の2分の1以上である
請求項に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記薬液は、塩化鉄水溶液であり、
前記炭化工程において前記有機物の最高温度は700℃以上900℃以下である
請求項4または5に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記薬液における鉄の質量パーセント濃度は4%以上である
請求項に記載のリン吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において前記有機物が前記薬液に浸けられる時間は30分以上である
請求項4から7のいずれか1項に記載のリン吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン吸着材及びリン吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素の量を削減するために、二酸化炭素を人為的に回収し地中に貯留する技術が知られている。例えば、炭化させたバイオマスを農地等に埋めることで炭素を地中に貯留することが行われている。炭素を含むバイオマスが地中に埋められることは、大気中の二酸化炭素を吸収した植物が地中に埋められることを意味するので、大気中の二酸化炭素の量を削減することに繋がる。しかしながら、炭化物は土壌の改良効果を有するものの農作物の収穫量への影響は大きくないため、炭化物の需要量を増加させることには限界がある。その一方で、農作物の収穫量を向上させるために、農地には大量の肥料が継続的に供給されている。
【0003】
ところで、上述した技術分野とは異なる技術分野において、リンが自然水域に排出されることによる水質汚染が問題となっている。このため、リンを除去するための様々な技術が知られている。例えば特許文献1には、カルシウムを担持した炭化籾殻からなるリン回収材が記載されている。特許文献1のリン回収材が農地に埋められると、リンが土壌に溶出する。特許文献1のリン回収材は肥料として使用することができるので、炭化物の需要量を増加させられる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-75706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のリン回収材については、籾殻又は珪藻土等のようにケイ素を多く含む材料を用いる必要がある。ケイ素を多く含む材料を用いると、リン回収材を製造できる量には限界があるので、地中に貯留できる炭素の量を大きく増加させることは難しい。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、多様な材料から製造することができるリン吸着材、及び多様な材料からリン吸着材を製造することができるリン吸着材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様のリン吸着材は、炭化した有機物である担体と、前記担体に担持された鉄と、を備える。
【0008】
リン吸着材の望ましい態様として、X線回折法の測定結果において、鉄に対応するピークがある。
【0009】
リン吸着材の望ましい態様として、X線回折法の測定結果において、鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度の2分の1以上である。
【0010】
リン吸着材の望ましい態様として、前記担体は多孔質であり、前記鉄の一部は前記担体の内側に位置する。
【0011】
本開示の一態様のリン吸着材の製造方法は、鉄イオンを含む薬液に有機物を浸ける浸漬工程と、前記浸漬工程の後に前記有機物を炭化する炭化工程と、を備える。
【0012】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液は、塩化鉄水溶液であり、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は700℃以上である。
【0013】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は900℃以下である。
【0014】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液における鉄の質量パーセント濃度は4%以上である。
【0015】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記浸漬工程において前記有機物が前記薬液に浸けられる時間は30分以上である。
【0016】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記有機物は木である。
【0017】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液は、塩化第二鉄水溶液であり、前記有機物は乾燥木材であり、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は800℃以上である。
【0018】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液は、塩化第二鉄水溶液であり、前記有機物は生木材であり、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は700℃以上900℃以下である。
【0019】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は750℃以下である。
【0020】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液は、塩化第一鉄水溶液であり、前記有機物は乾燥木材であり、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は700℃以上である。
【0021】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記薬液は、塩化第一鉄水溶液であり、前記有機物は生木材であり、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は800℃以上である。
【0022】
リン吸着材の製造方法の望ましい態様として、前記炭化工程において前記有機物の最高温度は900℃以下である。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、多様な材料から製造することができるリン吸着材、及び多様な材料からリン吸着材を製造することができるリン吸着材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態のリン吸着材の模式図である。
図2図2は、実施形態のリン吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、浸漬工程及び炭化工程の順番と浸漬工程における溶質との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びpHを示すグラフである。
図4図4は、材料と浸漬工程における薬液の溶質と炭化工程における温度との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度、リン除去率及びpHを示すグラフである。
図5図5は、材料と浸漬工程における薬液の溶質と炭化工程における温度との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度、リン除去率及びpHを示すグラフである。
図6図6は、浸漬工程における浸漬時間を変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びリン除去率を示すグラフである。
図7図7は、浸漬工程における水溶液濃度を変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びリン除去率の変化を示すグラフである。
図8図8は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に炭化させなかった試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図9図9は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に600℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図10図10は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に600℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図11図11は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に650℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図12図12は、乾燥木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図13図13は、乾燥木材をポリ硫酸第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図14図14は、乾燥木材を硝酸第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図15図15は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図16図16は、生木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図17図17は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図18図18は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に800℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図19図19は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に800℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
図20図20は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に900℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
(実施形態)
図1は、実施形態のリン吸着材の模式図である。図1に示すように、実施形態のリン吸着材1は、担体2と、鉄(Fe)3と、を備える。担体2は、炭化した有機物である。炭化とは、有機化合物が化学変化により分解して、その中の炭素分が大部分を占めるようになることである。例えば木材などの炭素化合物が主成分の素材を加熱すると燃焼が起こり、炭素は周囲の酸素と結合して気体の二酸化炭素となる。酸素を遮断した状態で加熱を行うと、炭素化合物の分解が生じ、その中から揮発性の低い固体の炭素分が比較的多く残る。この現象が炭化と呼ばれる。担体2の一例としては、炭化したバイオマスが挙げられる。例えば、実施形態における担体2は、炭化した木材である。担体2は、多孔質であって、複数の孔4を備える。鉄3は、担体2に担持されている。鉄3は、担体2の外表面及び担体2の内表面に付着している。すなわち、一部の鉄3が担体2の外側に位置し、一部の鉄3が担体2の内側(孔4)に位置している。本開示において鉄3は、金属としての鉄(Fe)であり、鉄の化合物(塩化鉄、硝酸鉄、又は酸化鉄(マグネタイト(四酸化三鉄)又はヘマタイト(三酸化二鉄)等)等)を含まない。
【0027】
なお、担体2として用いられる有機物は必ずしも木材でなくてもよい。担体2として用いられる有機物の他の例としては、農産物、食品廃棄物等が挙げられる。また担体2は必ずしも多孔質でなくてもよい。
【0028】
図2は、実施形態のリン吸着材の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、リン吸着材1の製造方法は、浸漬工程S1と、乾燥工程S2と、炭化工程S3と、を備える。
【0029】
浸漬工程S1においては、鉄イオンを含む薬液に有機物が所定時間浸けられる。鉄イオンを含む薬液としては、塩化第一鉄(FeCl)水溶液、塩化第二鉄(FeCl)水溶液、硝酸第二鉄(Fe(NO)水溶液、硫酸第一鉄(FeSO)水溶液、ポリ硫酸第二鉄(Fe2(SO)水溶液等が挙げられる。薬液は、塩化鉄水溶液であることが望ましい。有機物を薬液に浸ける所定時間は、特に限定されないが30分以上であることが望ましい。所定時間は、1時間以上であることがより望ましく、2時間以上であることがさらに望ましい。薬液に含まれる鉄の質量パーセント濃度は、4%以上であることが望ましい。
【0030】
浸漬工程S1において薬液に浸けられる有機物としては例えば木である。木としては、乾燥した木材であっても生木材であってもよい。生木材の含水率は30%以上70%以下程度である。含水率とは、有機物に含まれる水分の質量を有機物の質量で除した値に100を乗じた値である。また薬液に浸けられる有機物は農産物であってもよい。農産物としては、乾燥した農産物であっても生の農産物であってもよい。生の農産物の含水率は、60%以上95%以下程度である。
【0031】
浸漬工程S1の後、乾燥工程S2において有機物が乾燥させられる。
【0032】
乾燥工程S2の後、炭化工程S3において有機物が所定温度で炭化させられる。所定温度は、700℃以上900℃以下であることが望ましい。炭化工程S3においては、例えば空気(酸素)を遮断した炉の中で有機物が炭化させられる。なお、炭化工程S3においては、不活性ガス(窒素ガス等)が供給される炉の中で有機物が炭化されてもよい。不活性ガスによって、炉の中の酸素が低減する。例えば、浸漬工程S1における薬液が酸素分子を含む化合物の水溶液(例えば硝酸第二鉄水溶液、硫酸第一鉄水溶液、ポリ硫酸第二鉄水溶液等)である場合、不活性ガスが用いられてもよい。また、炭化工程S3においては、例えば蓋をした耐熱容器(坩堝)の中で有機物が炭化させられてもよい。
【0033】
リン吸着材に対して複数の実験が行われた。実験結果について以下で説明する。
【0034】
(第1実験)
図3は、浸漬工程及び炭化工程の順番と浸漬工程における溶質との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びpHを示すグラフである。図3は、第1実験の結果を示す。第1実験においては、リン吸着材と試験液とが入った試験容器がシェイカーにより6時間撹拌された後、試験液のろ液のEC(Electrical Conductivity、電気伝導度)及びpHが測定された。
【0035】
第1実験における各試料(リン吸着材)の量は0.5gである。試験液はリン酸二水素カリウム水溶液である。試験液のリンの濃度は2mg/lである。試験液の量は100mlである。試験液のECは0.9mS/mである。試験液のpHは5.512である。試験容器は蓋付きのポリプロピレン製の瓶である。試験容器の容量は250mlである。
【0036】
第1実験における試料(リン吸着材)の材料は、乾燥させた廃木材チップである。図3において、横軸の左から右に向かって第1試料から第8試料が並んでいる。第1実験における第1試料は、薬液に浸けられずに、材料が700℃で炭化されることで製造された。第2試料は、材料が700℃で炭化された後に塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられ、その後乾燥させられることで製造された。第3試料は、材料が700℃で炭化された後に硫酸第一鉄水溶液に24時間浸けられ、その後乾燥させられることで製造された。第4試料は、材料が塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第4試料は、材料が塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第5試料は、材料が塩化マグネシウム(MgCl)水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第6試料は、材料が塩化カルシウム(CaCl)水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第7試料は、材料が硫酸第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第8試料は、材料が硝酸第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。炭化は、不活性ガスを用いずに空気(酸素)を遮断した坩堝の中で行われた。以下で説明する他の実験においても同様に、炭化は、不活性ガスを用いずに空気(酸素)を遮断した坩堝の中で行われた。
【0037】
塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物(FeCl・6HO)の質量パーセント濃度は20%である。硫酸第一鉄水溶液において、硫化鉄七水和物(FeSO・7HO)の質量パーセント濃度は20%である。塩化マグネシウム水溶液において、塩化マグネシウム六水和物(MgCl・6HO)の質量パーセント濃度は20%である。塩化カルシウム水溶液において、塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)の質量パーセント濃度は20%である。硝酸第二鉄水溶液において、硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)の質量パーセント濃度は20%である。
【0038】
図3に示すように、炭化の後に鉄イオンを含む薬液に浸けられた試料(第2試料及び第3試料)の実験では、試験液のECが高くなり、試験液が酸性になった。試験液のECが高くなる理由は、試料に含まれる金属が試験液に溶出するためであると考えられる。すなわち、ECが低いことは、試料に含まれる金属が試験液に溶出しにくいことを意味する。リン吸着材としてはECが低い方が望ましい。なぜなら、リン吸着材が実際に使用される場合、リン吸着材が充填された槽又はカラム(円筒状の部材)に低濃度のリン水溶液が長時間流されるためである。ECが高い場合、槽又はカラムへの通水が開始するとすぐにリン吸着材に含まれる金属が流出してしまう。このため、ECが高くなる試料は、リン吸着材として使用に適さない。一方、鉄イオンを含む薬液に浸けられた後に炭化された試料(第4試料、第7試料及び第8試料)の実験では、試験液のECが低くなり、試験液が中性又は酸性になった。塩化マグネシウム水溶液を用いた第5試料の実験では、試験液のECが高くなり試験液がアルカリ性になった。塩化カルシウム水溶液を用いた第6試料の実験では、試験液のECが低くなり試験液がアルカリ性になった。
【0039】
第5試料及び第6試料においては、試験液のpHが実験前の試験液のpH(5.512)よりも高くなる。このため、第5試料及び第6試料は使用に適さない。また、第2試料、第3試料及び第5試料は、金属が溶出しやすい(ECが高くなる)点で使用に適さない。なお、第2試料、第3試料、第5試料及び第6試料においては、担体に金属としての鉄(Fe)が担持されていない。一方、鉄イオンを含む薬液に浸けられた後に炭化された試料(第4試料、第7試料及び第8試料)は、金属が溶出しにくい(ECが低くなる)点で使用に適する。このため、リン吸着材は、浸漬工程S1の後に炭化工程S3のある上述した製造方法で製造されることが望ましい。
【0040】
(第2実験)
図4は、材料と浸漬工程における薬液の溶質と炭化工程における温度との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度、リン除去率及びpHを示すグラフである。図4は、第2実験の結果である。第2実験においては、リン吸着材と試験液とが入った試験容器がシェイカーにより6時間撹拌された後、試験液のろ液のEC、pH及びリン除去率が測定された。
【0041】
第2実験における各試料(リン吸着材)の量は0.5gである。試験液はリン酸二水素カリウム水溶液である。試験液のリンの濃度は10mg/lである。試験液の量は50mlである。試験液のECは3.45mS/mである。試験液のpHは5.26である。試験容器は蓋付きのポリプロピレン製の瓶である。試験容器の容量は100mlである。
【0042】
第2実験における試料(リン吸着材)の材料は、アカマツチップである。第2実験における試料としては、乾燥したアカマツチップ、又は生木材であるアカマツチップが用いられた。図4の横軸に示すDは乾燥したアカマツチップを用いたことを意味する。図4の横軸に示すWは生木材であるアカマツチップを用いたことを意味する。図4において、横軸の左から右に向かって第1試料から第29試料が並んでいる。
【0043】
第2実験における試料は、一部を除き、薬液に浸けられた後に所定温度で炭化されて製造された。一部の試料(第1試料、第8試料、第16試料及び第23試料)は、薬液に浸けられずに、所定温度で炭化された。第1試料は600℃で炭化された。第8試料は700℃で炭化された。第16試料は800℃で炭化された。第23試料は900℃で炭化された。
【0044】
第2実験における第2試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、600℃で炭化されることで製造された。第3試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、600℃で炭化されることで製造された。第4試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、600℃で炭化されることで製造された。第5試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、600℃で炭化されることで製造された。第6試料は、乾燥したアカマツチップが硝酸第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、600℃で炭化されることで製造された。第7試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、650℃で炭化されることで製造された。
【0045】
第9試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第10試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第11試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第12試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第13試料は、乾燥したアカマツチップが硫酸第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第14試料は、乾燥したアカマツチップが硝酸第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、700℃で炭化されることで製造された。第15試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、750℃で炭化されることで製造された。
【0046】
第17試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。第18試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。第19試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。第20試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。第21試料は、乾燥したアカマツチップが硫酸第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。第22試料は、乾燥したアカマツチップが硝酸第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、800℃で炭化されることで製造された。
【0047】
第24試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。第25試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。第26試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。第27試料は、乾燥したアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。第28試料は、乾燥したアカマツチップが硫酸第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。第29試料は、乾燥したアカマツチップが硝酸第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、900℃で炭化されることで製造された。
【0048】
塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は20%である。塩化第一鉄水溶液において、塩化鉄四水和物(FeCl・4HO)の質量パーセント濃度は20%である。硫酸第一鉄水溶液において、硫化鉄七水和物の質量パーセント濃度は20%である。硝酸第二鉄水溶液において、硝酸第二鉄九水和物の質量パーセント濃度は20%である。
【0049】
最高温度が900℃より高い場合、有機物のグラファイト化が進み、リン吸着材が脆くなる可能性がある。また最高温度が高いほど、有機物の残存量が少なくなり収炭率(収率)が下がると共に、燃料代が高くなる。このため、最高温度は900℃以下であることが望ましい。
【0050】
図4に示すように、試験液のリン除去率が高くなる点で、第9試料から第12試料、第15試料、第17試料から第20試料、第24試料から第27試料が望ましい。すなわち、リン吸着材は、有機物が塩化鉄水溶液に浸けられた後、乾燥させられ、700℃以上で炭化されることで製造されることが望ましい。
【0051】
図4に示すように、乾燥したアカマツチップ及び薬液として塩化第二鉄水溶液を用いた試料の実験では、最高温度が800℃以上である場合に試験液のリン除去率が高くなった。このため、乾燥木材及び薬液として塩化第二鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は800℃以上であることが望ましい。最高温度が900℃である場合、リン除去率がさらに高くなった。このため、乾燥木材及び薬液として塩化第二鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は900℃以下であることがより望ましい。
【0052】
図4に示すように、生木材であるアカマツチップ及び薬液として塩化第二鉄水溶液を用いた試料の実験では、最高温度が700℃以上である場合に試験液のリン除去率が高くなったが、最高温度が900℃の場合には試験液のリン除去率が比較的低くなった。このため、生木材及び薬液として塩化第二鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は700℃以上900℃以下であることが望ましく、700℃以上800℃以下であることがより望ましく、700℃以上750℃以下であることがさらに望ましい。最高温度が700℃以上750℃以下にすることにより、燃料代が抑えられ、試験液のECが低くなり且つリン吸着率が高くなる。
【0053】
図4に示すように、乾燥したアカマツチップ及び薬液として塩化第一鉄水溶液を用いた試料の実験では、最高温度が700℃以上である場合に試験液のリン除去率が高くなった。このため、乾燥木材及び薬液として塩化第一鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は700℃以上であることが望ましい。
【0054】
図4に示すように、生木材であるアカマツチップ及び薬液として塩化第一鉄水溶液を用いた試料の実験では、最高温度が700℃以上である場合に試験液のリン除去率が高くなったが、最高温度が700℃の場合には試験液のECが高くなった。最高温度が800℃の場合には試験液のECが低くなった。このため、生木材及び薬液として塩化第一鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は800℃以上であることが望ましい。さらに、最高温度が900℃の場合には試験液のECがさらに低くなった。このため、生木材及び薬液として塩化第一鉄水溶液が用いられた場合、有機物のグラファイト化を抑制でき且つ試験液のECが低くなる点で、最高温度は900℃以下であることがより望ましい。
【0055】
(第3実験)
図5は、材料と浸漬工程における薬液の溶質と炭化工程における温度との組み合わせを変化させた場合の、試験液の電気伝導度、リン除去率及びpHを示すグラフである。図5は、第3実験の結果である。第3実験においては、リン吸着材と試験液とが入った試験容器がシェイカーにより6時間撹拌された後、試験液のろ液のEC、pH及びリン除去率が測定された。
【0056】
第3実験は、第2実験に対して、試験液のリンの濃度が50mg/lである点で異なる。第3実験の試験液のECは18.26mS/mである。試験液のpHは5.08である。第3実験の第1試料から第6試料は、第2実験の第1試料から第6試料と同じである。
第3実験の第7試料は、乾燥木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、650℃で炭化されることで製造された。第3実験の第8試料から第15試料は、第2実験の第7試料から第14試料と同じである。第3実験の第16試料は、乾燥木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、750℃で炭化されることで製造された。第3実験の第17試料から第31試料は、第2実験の第15試料から第29試料と同じである。第3実験の第32試料は、乾燥木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、1000℃で炭化されることで製造された。第3実験の第33試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、1000℃で炭化されることで製造された。第3実験の第34試料は、乾燥木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、1000℃で炭化されることで製造された。第3実験の第35試料は、生木材であるアカマツチップが塩化第一鉄水溶液に24時間浸けられた後、乾燥させられ、1000℃で炭化されることで製造された。図5において、横軸の左から右に向かって第1試料から第35試料が並んでいる。
【0057】
第3実験の結果は、第2実験の結果とほぼ同じ傾向を示した。このため、第2実験で説明した製造方法は、リンの濃度が高い場合でも同様に望ましいことがわかる。
【0058】
図5に示すように、乾燥したアカマツチップ及び薬液として塩化第一鉄水溶液を用いた試料の実験では、最高温度が1000℃である場合でも試験液のリン除去率が高くなった。このため、乾燥木材及び薬液として塩化第二鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は1000℃であってもよい。乾燥木材及び薬液として塩化第二鉄水溶液が用いられた場合、最高温度は、700℃以上1000℃以下であることが望ましい。
【0059】
(第4実験)
図6は、浸漬工程における浸漬時間を変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びリン除去率を示すグラフである。図6は、第4実験の結果である。第4実験においては、リン吸着材と試験液とが入った試験容器がシェイカーにより6時間撹拌された後、試験液のろ液のEC及びリン除去率が測定された。
【0060】
第4実験における各試料(リン吸着材)の量は0.5gである。試験液はリン酸二水素カリウム水溶液である。試験液のリンの濃度は100mg/lである。試験液の量は50mlである。試験液のECは33mS/mである。
【0061】
第4実験における試料(リン吸着材)の材料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に浸けられた後、700℃で炭化されることで製造された。塩化第二鉄水溶液における塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は20%である。図6において、横軸の左から右に向かって第1試料から第7試料が並んでいる。
【0062】
第4実験における第1試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に2分浸けられた。第2試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に10分浸けられた。第3試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に30分浸けられた。第4試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に1時間浸けられた。第5試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に2時間浸けられた。第6試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に6時間浸けられた。第7試料の製造工程において、アカマツチップは塩化第二鉄水溶液に48時間浸けられた。
【0063】
図6に示すように、試験液のリン除去率が高くなる点で、第3試料から第7試料が望ましい。すなわち、リン吸着材は、有機物が塩化第二鉄水溶液に30分以上浸けられた後に炭化されることで製造されることが望ましい。リン吸着材は、有機物が塩化第二鉄水溶液に1時間以上浸けられた後に炭化されることで製造されることがより望ましい。さらに、リン吸着材は、有機物が塩化第二鉄水溶液に2時間以上浸けられた後に炭化されることで製造されることがより望ましい。
【0064】
(第5実験)
図7は、浸漬工程における水溶液濃度を変化させた場合の、試験液の電気伝導度及びリン除去率の変化を示すグラフである。図7は、第5実験の結果である。第5実験においては、リン吸着材と試験液とが入った試験容器がシェイカーにより6時間撹拌された後、試験液のろ液のEC及びリン除去率が測定された。
【0065】
第5実験における各試料(リン吸着材)の量は0.5gである。試験液はリン酸二水素カリウム水溶液である。試験液のリンの濃度は100mg/lである。試験液の量は50mlである。試験液のECは33mS/mである。
【0066】
第5実験における試料(リン吸着材)の材料は、生木材であるアカマツチップが塩化第二鉄水溶液に24時間浸けられた後、700℃で炭化されることで製造された。図7において、横軸の左から右に向かって第1試料から第5試料が並んでいる。
【0067】
第5実験における第1試料の製造に用いられた塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は1%である。第2試料の製造に用いられた塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は5%である。第3試料の製造に用いられた塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は10%である。第4試料の製造に用いられた塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は20%である。第5試料の製造に用いられた塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は30%である。
【0068】
図7に示すように、試験液のリン除去率が高くなる点で、第4試料及び第5試料が望ましい。すなわち、リン吸着材の製造に用いられる塩化第二鉄水溶液において、塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度は20%以上であることが望ましい。塩化鉄六水和物の質量パーセント濃度が20%以上であることは、鉄の質量パーセント濃度が4%以上であることに相当する。すなわち、リン吸着材の製造に用いられる薬液において、鉄の質量パーセント濃度は4%以上であることが望ましい。
【0069】
(第6実験)
図8から図20は、第6実験の結果を示す。第6実験においては、試料(リン吸着材)に対してX線回折法を用いた測定が行われた。X線回折法は、試料にX線を照射し、反射したX線を測定することで、試料に含まれる原子を特定する方法である。第6実験の試料の材料は、アカマツチップである。第6実験における試料としては、乾燥したアカマツチップ、又は生木材であるアカマツチップが用いられた。
【0070】
図8は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に炭化させなかった試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図9は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に600℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図10は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に600℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図11は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に650℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図12は、乾燥木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図13は、乾燥木材をポリ硫酸第二鉄(Fe(SO)水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図14は、乾燥木材を硝酸第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図15は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図16は、生木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図17は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に700℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図18は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に800℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図19は、乾燥木材を塩化第一鉄水溶液に浸けた後に800℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。図20は、生木材を塩化第二鉄水溶液に浸けた後に900℃で炭化して製造した試料に対するX線回折法の測定結果を示すグラフである。
【0071】
図8に示すように、炭化していない試料に対するX線回折法の測定結果においてはピークが見られない。一方、図9から図11に示すように、薬液として塩化鉄水溶液を用い且つ650℃以下で炭化した場合、及び塩化鉄水溶液でない薬液を用いた場合には、少なくともヘマタイト(Fe)及びマグネタイト(Fe)に対応するピークが見られる。図15から図20に示すように、薬液として塩化鉄水溶液を用い且つ700℃以上で炭化した場合、鉄(Fe)に対応するピークが見られる。本開示において鉄に対応するピークは、金属としての鉄(Fe)に対応するピークであり、鉄の化合物(塩化鉄、硝酸鉄、又は酸化鉄(マグネタイト又はヘマタイト等)等)に対応するピークを含まない。また、鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度の2分の1以上である。なお、図15図16及び図18から図20においては、鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度以上である。
【0072】
第2実験で説明したように、薬液として塩化鉄水溶液を用い且つ700℃以上で炭化した場合には、試験液のリン除去率が高くなる。鉄に対応するピークがあるリン吸着材(図15から図20に対応する試料)は、より多くのリンを吸着することができる。
【0073】
以上で説明したように、実施形態のリン吸着材1は、炭化した有機物である担体2と、担体2に担持された鉄3と、を備える。
【0074】
リン吸着材1は、鉄3を有することで、リンを吸着することができる。またリン吸着材1は、特許文献1のようにケイ素が含まれる材料を用いなくても製造できる。リン吸着材1によれば材料が限定されにくい。このようにリン吸着材1は、多様な材料から製造することができる。
【0075】
またリン吸着材1においては、X線回折法の測定結果において、鉄に対応するピークがある。これにより、リン吸着材1が吸着するリンの量が多くなる。リン吸着材1は、リンの除去効率を向上させることができる。
【0076】
またリン吸着材1においては、X線回折法の測定結果において、鉄に対応する最大ピークの強度がマグネタイトに対応する最大ピークの強度の2分の1以上である。これにより、リン吸着材1が吸着するリンの量が多くなる。リン吸着材1は、リンの除去効率を向上させることができる。
【0077】
またリン吸着材1においては、担体2は多孔質である。鉄3の一部は担体2の内側に位置する。これにより、単位体積当たりのリン吸着材1に含まれる鉄の量が多くなる。このため、リン吸着材1が吸着するリンの量が多くなる。リン吸着材1は、リンの除去効率を向上させることができる。
【0078】
リン吸着材1の製造方法は、鉄イオンを含む薬液に有機物を浸ける浸漬工程S1と、浸漬工程S1の後に有機物を炭化する炭化工程S3と、を備える。
【0079】
浸漬工程S1の後に炭化工程S3があることにより、リンを含む水にリン吸着材1を入れた場合に、リン吸着材1から金属が溶出しにくくなる。このため、リン吸着材1は、吸着したリンを保持しておくことができる。またリン吸着材1の製造方法は、特許文献1のようにケイ素が含まれる材料を用いなくてもよい。リン吸着材1の製造方法によれば材料が限定されにくい。このようにリン吸着材1の製造方法は、多様な材料からリン吸着材1を製造することができる。
【0080】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液は、塩化鉄水溶液であり、炭化工程S3において有機物の最高温度は700℃以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0081】
またリン吸着材1の製造方法においては、炭化工程S3において有機物の最高温度は900℃以下であることが望ましい。これにより、有機物がグラファイト化しにくくなるので、リン吸着材1の脆化が抑制される。また有機物の残存量が多くなるので収炭率(収率)が向上すると共に、燃料代が抑制される。
【0082】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液における鉄の質量パーセント濃度は4%以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0083】
またリン吸着材1の製造方法においては、浸漬工程S3において有機物が薬液に浸けられる時間は30分以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0084】
またリン吸着材1の製造方法においては、有機物は木である。これにより、リン吸着材1が多孔質になるのでリン吸着材1が吸着するリンの量が多くなる。リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0085】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液は、塩化第二鉄水溶液であり、有機物は乾燥木材であり、炭化工程S3において有機物の最高温度は800℃以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0086】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液は、塩化第二鉄水溶液であり、有機物は生木材であり、炭化工程S3において有機物の最高温度は700℃以上900℃以下であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。さらに、炭化工程S3において有機物の最高温度は750℃以下であることが望ましい。これにより、リンを含む水にリン吸着材1を入れた場合に、リン吸着材1から金属が溶出しにくくなる。
【0087】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液は、塩化第一鉄水溶液であり、有機物は乾燥木材であり、炭化工程S3において有機物の最高温度は700℃以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上する。
【0088】
またリン吸着材1の製造方法においては、薬液は、塩化第一鉄水溶液であり、有機物は生木材であり、炭化工程S3において有機物の最高温度は800℃以上であることが望ましい。これにより、リン吸着材1によるリンの除去効率が向上し且つリン吸着材1から金属が溶出しにくくなる。さらに、炭化工程S3において有機物の最高温度は900℃以下であることが望ましい。これにより、有機物のグラファイト化が抑制され、且つリン吸着材1から金属がより溶出しにくくなる。
【符号の説明】
【0089】
1 リン吸着材
2 担体
3 鉄
4 孔
S1 浸漬工程
S2 乾燥工程
S3 炭化工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18
図19
図20