(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】毛髪損傷の評価方法、及び化合物又は組成物の試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220725BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220725BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20220725BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01N33/50 H
G01N33/68
G01N21/3563
G01N21/27 E
(21)【出願番号】P 2018027799
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紘介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256277(JP,A)
【文献】特開2000-327538(JP,A)
【文献】特開2006-028112(JP,A)
【文献】国際公開第2005/057211(WO,A1)
【文献】特開2007-240180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287502(US,A1)
【文献】伊藤敦,太陽光紫外線に暴露された毛髪の酸化度のX線イメージングによる画像化,コスメトロジー研究報告,2020年09月01日,Vol.28,Page.68-72
【文献】渡邉紘介,紫外線照射による毛髪ダメージ評価,皮膚と美容,2018年03月31日,Vol.50 No.1,Page.20-26
【文献】稲益悟志,顕微IRを使用した毛髪横断面解析,日本化粧品技術者会誌,2016年09月20日,Vol.50 No.3,Page.209-217
【文献】葛原亜起夫,Best Shot 写真でひもとく未来材料 顕微分光光度法とラマン分光法による毛髪断面の構造解析,未来材料,2012年12月10日,Vol.12 No.12,Page.1-4
【文献】藤井敏弘,機能性化粧品開発のための定量化・解析の新技術 毛髪ケラチンフィルムによるパーマ処理損傷評,Fragrance Journal,2011年07月15日,Vol.39 No.7,Page.46-52
【文献】SPring-8で毛髪内部のシステイン酸を高精度に可視化することに成功 -毛髪内のダメージ部分を高精度に測定する技術を確立- (プレスリリース),株式会社ミルボン,2014年12月16日,http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2014/141215/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/68
G01N 21/3563
G01N 21/27
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準毛髪を加水分解して得られた加水分解物(I)におけるシステイン酸量(I)と、
比較毛髪を加水分解して得られた加水分解物(II)におけるシステイン酸量(II)と、
を比較する毛髪損傷の評価方法であって、
前記基準毛髪および/又は前記比較毛髪が、光による損傷付与環境下に置かれたものであって、
前記加水分解物(I)及び前記加水分解物(II)が、細断した毛髪からの加水分解によって得られる毛髪損傷の評価方法。
【請求項2】
前記損傷付与環境下に置かれる前に、一種又は二種以上の化合物又は組成物を、前記基準毛髪および/又は前記比較毛髪と接触させる請求項1に記載の毛髪損傷の評価方法。
【請求項3】
一種又は二種以上の化合物又は組成物を接触させ
た基準毛髪、および、前記化合物又は組成物を接触させていない比較毛髪を用意する第1工程と、
前記基準毛髪および前記比較毛髪を光による損傷付与環境下に置く
第2工程と、
前記第2工程で得られた前記基準毛髪
を細断後、加水分解により加水分解物(I)を得て、前記第2工程で得られた前記比較毛髪を細断後、加水分解により加水分解物(II)を得る
第3工程と、
前記加水分解物(I)におけるシステイン酸量(I)と、前記加水分解物(II)におけるシステイン酸量(II)とを比較する
第4工程と、
を含む、化合物又は組成物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪損傷の程度を評価する毛髪損傷の評価方法、及び、当該評価方法を使用する化合物又は組成物の試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪に対しては、日常生活の中でも、紫外線などの光、ドライヤーやヘアアイロンなどの熱、ブラッシングなどによって、毛髪は損傷する。また、酸化反応を伴う酸化染毛処理、還元反応及び酸化反応を伴うパーマネントウェーブや縮毛矯正処理においても、毛髪は損傷する。
【0003】
毛髪及び毛髪用組成物の研究開発を行うためには、毛髪の損傷評価が有用と考えられ、その評価方法が、特許文献1、2に開示されている。特許文献1が開示する方法は、損傷の指標としてブラッシング、パーマなどで生じるチオール基(SH基)に着目し、蛍光物質をそのSH基に修飾させた後に、毛髪表面の蛍光を確認するものであり(請求項1、実施例)、特許文献2が開示する方法は、損傷の指標としてパーマ処理、ブリーチ処理、酸化染毛剤処理、コーミング、熱処理、紫外線に対する暴露、プールでの次亜塩素酸に対する暴露などで生じるカルボニル基に着目し、蛍光物質をそのカルボニル基に修飾(作用・結合)させた後に、毛髪表面の蛍光を確認するものである。また、特許文献3には、紫外線による毛髪の損傷と、毛髪を溶解させた後に得られる所定のケラチンフィルムとが、紫外線から受ける損傷とに相関性があるとし、紫外線がケラチンフィルムに生じさせるカルボニル基に反応させた蛍光物質の蛍光を確認するものが開示されている(請求項1、請求項10、段落0008、0026)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-178920号公報
【文献】国際公開第2005/57211号
【文献】特開2008-180709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の特許文献が開示する評価方法は、チオール基またはカルボニル基に着目するものであるが、他の損傷により生じる官能基を指標にできれば、毛髪及び毛髪用組成物に関する研究開発の更なる発展を期待できる。また、上記の評価方法は、毛髪又はケラチンフィルムについての表面に現れる蛍光を確認するものであるから、毛髪等の内部の損傷をも含めた評価に適するとはいえない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、毛髪の損傷においてチオール基及びカルボニル基以外の官能基を対象とでき、かつ、毛髪内部の損傷をも含めた評価に適する毛髪損傷の評価方法、及び当該方法を使用する化合物又は組成物の試験方法の提供を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る毛髪損傷の評価方法は、基準毛髪を加水分解して得られた加水分解物(I)におけるシステイン酸量(I)と、比較毛髪を加水分解して得られた加水分解物(II)におけるシステイン酸量(II)と、を比較するものである。当該比較によれば、例えば、年代別の毛髪損傷の評価、根本と毛先の損傷の評価が可能である。
【0008】
本発明に係る毛髪損傷の評価方法において、前記基準毛髪および/又は前記比較毛髪が、損傷付与環境下に置かれたものであると良い。このような毛髪を対象とすれば、例えば、損傷付与環境下に置かれることの有無による毛髪損傷の評価、基準毛髪及び比較毛髪が置かれる損傷付与環境の条件を同一にする場合の毛髪損傷の評価、基準毛髪及び比較毛髪が置かれる損傷付与環境の条件が相違する場合の毛髪損傷の評価が可能である。
【0009】
前記損傷付与は、例えば、光により行われる。この光の照射又は暴露により、システイン酸が毛髪表面だけではなく、毛髪内部にまで生じる。このことは、これまでには明らかにされていなかった知見である。
【0010】
前記損傷付与環境下に置かれる前に、一種又は二種以上の化合物又は組成物を、前記基準毛髪および/又は前記比較毛髪と接触させると良い。この接触を行えば、例えば、化合物、組成物による毛髪損傷について、抑制効果の確認、抑制効果の比較が可能となる。観点を変えれば、毛髪損傷の抑制効果の有無、優劣を判断するための化合物又は組成物の試験方法となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る毛髪損傷の評価方法によれば、基準毛髪と比較毛髪の夫々から得た加水分解物のシステイン酸量を比較するから、チオール基又はカルボニル基によらずとも毛髪損傷の評価を行うことができ、かつ、毛髪内部の損傷を含めた評価が可能となる。
【0012】
また、本発明に係る化合物又は組成物の試験方法によれば、加水分解物(I)及び加水分解物(II)を得るための加水分解前の基準毛髪及び比較毛髪を損傷付与環境下に置くこととし、その環境下に置く前に、化合物又は組成物と基準毛髪および/又は比較毛髪とを接触させるから、その化合物又は組成物による損傷抑制効果の確認、優劣の判断ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】参考例Aにおける基準毛髪a(―) および比較毛髪a (…)の赤外スペクトル例。
【
図2】参考例Aにおける基準毛髪a及び比較毛髪aのI
1065-1030/I
1600-1470の平均値を示すグラフ。
【
図3】参考例Aにおける基準毛髪a、比較毛髪aの径方向の各測定点におけるI
1065-1030/I
1600-1470の平均値を示すグラフ。
【
図4】参考例Aにおける基準毛髪a、比較毛髪aのシステイン酸相対強度マッピング測定結果。
【
図5】参考例Bにおける基準毛髪b、比較毛髪bのシステイン酸相対強度マッピング測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態の毛髪損傷の評価方法においては、基準毛髪を加水分解して得られた加水分解物(I)におけるシステイン酸量(I)と、比較毛髪を加水分解して得られた加水分解物(II)におけるシステイン酸量(II)と、を比較する。毛髪が酸化条件におかれると損傷し、毛髪の構成アミノ酸の中にシステイン酸が生じるから、システイン酸量(I)とシステイン酸量(II)の比較を行うことで、基準毛髪と比較毛髪の損傷についての評価が可能となる。
【0015】
基準毛髪と比較毛髪は、比較目的となる毛髪であり、その比較目的を任意に設定するとよい。その目的は、年代別の比較(例えば、20代と50代の比較)、毛髪部位の比較(例えば、根本と毛先の比較)などである。また、基準毛髪のみ、比較毛髪のみ、又は、基準毛髪及び比較毛髪の双方を、加水分解前に、任意に損傷付与環境下に置けば、損傷付与環境下に置かれることの有無による毛髪損傷の評価、置かれる損傷付与環境の条件が相違する場合の毛髪損傷の評価、置かれる損傷付与環境の条件が同一である場合の毛髪損傷の評価(当該評価は、例えば、年代別の比較、毛髪部位の比較)を行える。
【0016】
毛髪を損傷付与環境に置く場合、その損傷付与は、例えば、光照射、光暴露などによる光;ドライヤーやヘアアイロンなどの熱;酸化染毛処理、パーマネントウェーブ処理、縮毛矯正処理などの組成物との接触;により行われる。その損傷付与が光により行われる場合、毛髪の内部において、構成アミノ酸におけるシステイン酸比率が予想外に高くなる知見を得ている。この知見は、毛髪の周方向切断面(毛髪の軸と略直交する切断面)について、光の一種である紫外線を照射した場合と、紫外線を照射しなかった場合とを、大型放射光施設SPring-8のBL43IRを使用して得た赤外吸収スペクトルデータなどを解析し、初めて得られたものである。
【0017】
上記の損傷付与環境下に置かれる前に、基準毛髪のみ、比較毛髪のみ、又は、基準毛髪及び比較毛髪の双方を、一種又は二種以上の化合物又は組成物と接触させると、その化合物又は組成物による毛髪損傷の抑制効果の確認、化合物同士における毛髪損傷の抑制効果の比較、組成物同士における毛髪損傷の抑制効果の比較、化合物と組成物における毛髪損傷の抑制効果の比較が可能となる。
【0018】
上記の通り、加水分解物(I)及び加水分解物(II)を得るためには、基準毛髪の加水分解及び比較毛髪の加水分解を行う(なお、加水分解を行う本実施形態の評価方法の利点としては、評価対象となる毛髪全体としての平均的な損傷評価を行い易くなることである。)。この加水分解の前に、通常、基準毛髪及び比較毛髪を洗浄する。
【0019】
本実施形態における基準毛髪及び比較毛髪の加水分解では、毛髪を加水分解するための公知の方法が使用される。例えば、塩酸などを混合した酸性水溶液中で基準毛髪、比較毛髪を加熱する方法が挙げられ、当該方法は、加水分解物(I)及び加水分解物(II)からの塩酸除去が容易なので、好適である。また、加水分解は、突沸を防ぐため、例えば、減圧下で密閉した容器内において行うと良い。
【0020】
本実施形態におけるシステイン酸量(I)及びシステイン酸量(II)の定量は、公知のシステイン酸定量方法により行われる。例えば、高速液体クロマトグラフを使用したアミノ酸分析で行われる。定量されたシステイン酸量(I)とシステイン酸量(II)とを比較し、その値が大きい方が、毛髪損傷が大きいと判断される。
【実施例】
【0021】
以下、実施例などに基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0022】
(実施例A)
基準毛髪aの加水分解aを行って得た加水分解物(Ia)におけるシステイン酸量(Ia)の定量、及び、比較毛髪aの加水分解aを行って得た加水分解物(IIa)におけるシステイン酸量(IIa)の定量を行った。比較毛髪aに対しては、加水分解前に、損傷付与環境a下に置いた。詳細は、以下の通りである。
【0023】
基準毛髪a及び比較毛髪a
20代の日本人女性4名から、酸化染毛処理などの化学的処理履歴がない黒髪を採取し、1質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液に30分間浸漬してから、水洗し、乾燥させた。この水洗後の毛髪を、基準毛髪a及び比較毛髪aとした。
【0024】
損傷付与環境a
1gの比較毛髪aに対して、紫外線照射器(スガ試験機社製「XT-750L」)を使用し、紫外線A波及びB波の総量で一日平均3,000kJ/m2の光量を10日間照射した。この10日間の紫外線照射を、損傷付与環境aとした。
【0025】
加水分解a
基準毛髪a及び比較毛髪aを、クロロホルムで洗浄し、乾燥させてから、細断した。細断した基準毛髪a及び比較毛髪aの夫々約3mgと、6mol/L塩酸の50μlをガラスチューブ内に入れてから、内部を減圧しつつ、封管した。そして、封管したガラスチューブを、110℃に設定した定温加熱炉内に、16時間放置し、加水分解aを行った。
【0026】
加水分解物(Ia)及び加水分解物(IIa)の回収
加水分解後にガラスチューブを開管し、ただちに塩酸を窒素ガスにて留去させてから、乾固した水分解物(Ia)及び加水分解物(IIa)を回収した。
【0027】
システイン酸量(Ia)及びシステイン酸量(IIa)の定量
加水分解物(Ia)及び加水分解物(IIa)の夫々を0.02mol/L塩酸で溶解し、50mLの溶液を調整した。この溶液を、0.45μmのメンブランフィルターでろ過したものを定量分析用の試料とした。定量分析は、アミノ酸分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製高速液体クロマトグラフ「Chromasterアミノ酸(NIN法)分析システム」)を使用して行った。定量の標準試料は、L-システイン酸の塩酸溶液を使用した。
【0028】
下記表1に、加水分解物(Ia)におけるシステイン酸量(Ia)、加水分解物(IIa)におけるシステイン酸量(IIa)を示す(表1の単位は、質量%であり、数値は定量回数50回の平均値である。)。紫外線による毛髪損傷付与環境a下に置かれた比較毛髪aに基づくシステイン酸量(IIa)が、システイン酸量(Ia)よりも高い値であり、基準毛髪aよりも比較毛髪aが損傷していたと評価できた。
【0029】
【0030】
(実施例B)
損傷付与環境b下に置いた後の基準毛髪bの加水分解bを行って得た加水分解物(Ib)におけるシステイン酸量(Ib)の定量、及び、損傷付与環境b下に置いた後の比較毛髪bの加水分解bを行って得た加水分解物(IIb)におけるシステイン酸量(IIb)の定量を行った(なお、システイン酸量(Ib)は、システイン酸量(IIa)と一致するものである。)。比較毛髪bに対しては、損傷付与環境b下に置く前に、組成物bとの接触を行った。詳細は、以下の通りである。
【0031】
基準毛髪b及び比較毛髪b
上記基準毛髪a及び比較毛髪aと同様に、基準毛髪b及び比較毛髪bを準備した。
【0032】
組成物bとの接触
テトラ2-へキシルデカン酸アスコルビルが0.1質量%、イソステアリン酸が99.9質量%である組成物を、組成物bとした。組成物bとの接触については、損傷付与環境b下に置く前及び損傷付与環境b下に置いている間の1日毎に、1gの比較毛髪bに0.1gの組成物bを塗布してから、ヘアドライヤーの温風を吹き付けることで行った。その1日毎の塗布前には、比較毛髪bを1質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液に30分間浸漬してから、水洗する処理を行った。
【0033】
損傷付与環境b
損傷付与環境bは上記損傷付与環境aと同様とし、損傷付与環境b下に基準毛髪b及び比較毛髪bを置いた。
【0034】
加水分解b
上記加水分解aと同様に、加水分解bを行った。
【0035】
加水分解物(Ib)及び加水分解物(IIb)の回収
上記加水分解物(Ia)及び加水分解物(IIa)の回収と同様に、加水分解物(Ib)及び加水分解物(IIb)を回収した。
【0036】
システイン酸量(Ib)システイン酸量(IIb)の定量
上記システイン酸量(Ia)及びシステイン酸量(IIa)の定量と同様に、システイン酸量(Ib)及びシステイン酸量(IIb)の定量を行った。
【0037】
下記表2に、加水分解物(Ib)におけるシステイン酸量(Ib)、加水分解物(IIb)におけるシステイン酸量(IIb)を示す(表2の単位は、質量%であり、数値は定量回数50回の平均値である。)。損傷付与環境b下に置く前に組成物bと接触させた比較毛髪bに基づくシステイン酸量(IIb)が、システイン酸量(Ib)よりも低い値であり、組成物bによる損傷抑制を評価できた。
【0038】
【0039】
(参考例A)
毛髪(基準毛髪a及び損傷付与環境a下に置いた後の比較毛髪a)の周方向切断面について、赤外顕微鏡を用いて、システイン酸の分布状態を測定した。その詳細は、次の通りである。純水中で凍結させた毛髪をクライオミクロトームにて厚さ10μmに切断することで調製した。毛髪の切断面を大型放射光施設SPring-8におけるBL43IRの赤外顕微鏡(Bruker社製「Hyperion2000」)のステージにあるフッ化バリウム板上に置き、透過測定を行った。測定はマッピングステージを使用して5μm単位ステップで行い、各測定点に対して4000-600cm-1の範囲で波数分解能4cm-1にて赤外吸収スペクトルを得た。この時のアパーチャーサイズは6μm×6μmとし、積算回数は64とした。
【0040】
図1は、基準毛髪a(―)および比較毛髪a(…)の赤外スペクトル例である。システイン酸に由来するS-Oの伸縮振動ピークは、1040cm
-1付近であるので、1065-1030cm
-1における吸収ピークの面積値I
1065-1030を算出し、毛髪の厚みの影響を除くために1600-1470cm
-1におけるアミドII(N-H)結合吸収ピークの強度面積値I
1600-1470を基準としてS-Oの強度面積値を補正した(補正の算出式:I
1065-1030/I
1600-1470)。
図2は、基準毛髪a及び比較毛髪aの全測定点におけるI
1065-1030/I
1600-1470の平均値である(平均値は、4サンプルの平均)。このI
1065-1030/I
1600-1470の平均値によれば、基準毛髪aに比べて、紫外線処理を行った比較毛髪aは高いから、システイン酸が毛髪内部に生成していると考えられる。
【0041】
さらに、
図3に示す結果から、システイン酸が毛髪内部に生成しているといえる。
図3は、基準毛髪a、比較毛髪aの切断面径方向の各測定点におけるI
1065-1030/I
1600-1470の平均値を示すグラフである。I
1065-1030/I
1600-1470は、どの測定点においても紫外線照射後の比較毛髪aの方が基準毛髪aよりも高い値であるので、システイン酸は毛髪表面から毛髪内部にわたって生成していたと理解できる。
【0042】
図4は、赤外顕微鏡による基準毛髪a、比較毛髪aのシステイン酸相対強度マッピングの測定結果である。この結果においても、紫外線照射後の比較毛髪a内部は、全体にわたってシステイン酸が生成していたことを確認できる。つまり、紫外線による毛髪の損傷は、表面に留まらず、内部に至る。
【0043】
(参考例B)
損傷付与環境b下に置いた後の基準毛髪b及び損傷付与環境b下に置いた後の比較毛髪bの周方向切断面について、上記参考例Aと同様、システイン酸の分布状態を測定した。
【0044】
図5は、参考例Aと同様、基準毛髪b、比較毛髪bのシステイン酸相対強度マッピングの測定結果である。基準毛髪b、比較毛髪b共に紫外線照射されたものであるが、組成物bとの接触を行った比較毛髪bは、基準毛髪bよりも、毛髪損傷が抑えられていた。
【0045】
なお、組成物bにおけるテトラ2-へキシルデカン酸アスコルビルは、毛髪内部にまで浸透することをSPring-8にて確認しており、
図5における比較毛髪bの内部損傷の抑制結果は、上記内部浸透と相関する。