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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220725BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220725BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20220725BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220725BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B32B15/088
B32B15/20
C08G73/10
H05K1/03 610N
H05K1/03 670A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018049912
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2018168358
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2017066471
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小倉 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】我妻 亮作
(72)【発明者】
【氏名】平松 直比古
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132744(JP,A)
【文献】特開2008-290302(JP,A)
【文献】特開2013-018926(JP,A)
【文献】特開2008-290304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
B32B 15/00-15/20
C08G 73/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を含有するポリイミドフィルムであって、フィルムの一方の面aにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をA個/100cm、フィルムの他方の面bにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をB個/100cmとするとき、A及びBがいずれも10個以下、AとBとの差の絶対値が2以上である両面COF用ポリイミドフィルム。
【請求項2】
A及びBがいずれも8個以下、AとBとの差の絶対値が以上である請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
A及び/又はBが2個以上である請求項1又は2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
面a及び面bの両面において、表面粗さRaが0.01~0.05μm、表面粗さRzが0.05~0.6μmである請求項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
MD方向の熱膨張係数が4~10ppm/℃であり、TD方向の熱膨張係数が0~8ppm/℃である請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
引張弾性率5~10GPa及び/又はループスティフネス10~75mN/cmを充足する請求項1~5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
パラフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分、及び酸無水物成分を重合成分とするポリイミドで構成されている請求項1~6のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
無機粒子の平均粒径が0.05~0.5μmである請求項1~7のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のポリイミドフィルムを用いた両面銅張り積層板。
【請求項10】
銅厚みが1~3μmである請求項9記載の両面銅張り積層板。
【請求項11】
請求項9又は10記載の両面銅張り積層板を用いた両面COF用基板。
【請求項12】
請求項9又は10記載の両面銅張り積層板を用いて、セミアディティブ法により両面COF用基板を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高機能化に従ってIC、LSI等の電子部品を実装するプリント配線板は小さいスペースでより高密度の配線が要求される様になり、これに対応するため、ICをフレキシブル配線板に直接実装するCOF(Chip On Film)方式が開発され、実用化されてきた。
近年、その傾向は特に液晶テレビやノートパソコン、スマートフォン等のディスプレイを駆動するICの実装において顕著で、ディスプレイの高精細化、モバイル機器の薄型化、高機能化に伴い、更なる高密度実装を実現するための微細配線化や、配線を両面に施した両面COF等の実装方式の改良が進んでいる。
【0003】
COFに用いられる銅張り積層板には、配線の微細化への対応が可能な、ポリイミドフィルム上に銅層を直接形成し接着剤を用いない2層タイプが採用されている。これには、フィルム上にスパッタ・めっき法により銅層を形成させる方法、銅箔上にポリアミド酸をキャストした後イミド化させる方法があるが、銅層の薄膜化が容易で微細配線に有利なスパッタ・めっき法による2層銅張り積層板が主流となっている。
【0004】
COF用基板の微細配線の形成は、銅張り積層板の銅層の表面にフォトレジスト層を設け、このフォトレジスト層を露光・現像して所望のパターンを形成し、このパターンをマスキング材として、銅層を選択的にエッチングする方式(サブトラクティブ法)が用いられている。しかし、この方法では配線ピッチを小さく[例えば、25μm(例えば、ライン幅12μm、スペース幅13μm)より小さく]することが困難であり、一部最先端機種への対応が難しくなってきている。
【0005】
近年、これに代わる方法として、絶縁基板の表面に基材金属層を形成し、この基材金属層の表面にフォトレジスト層を設け、このフォトレジスト層に所望のパターンを形成し、露出した基材金属層に導電性金属を電解析出させて配線パターンを形成する方式(セミアディティブ法)が着目されている。この方式によれば、小さい(例えば、20μm以下の)配線ピッチも形成でき、更なる高密度実装が可能となる。
【0006】
これらの技術動向において、2層銅張り積層板に用いられるポリイミドフィルムに対する特性、品質の要求もますます高度化している。例えば、COFはICやパネルと実装後、コンパクトに折り曲げて電子機器に搭載されるが、配線が微細化することにより、配線に割れ(クラック)が生じ易くなるため、耐クラック性も要求されるようになった。
これらに対応するため、例えば、ポリイミドフィルムの表面に接着剤を介することなくニッケル合金からなる下地金属層と、前記下地金属層の表面に銅層を備える積層構造の配線をセミアディティブ法で形成するフレキシブル配線板の製造方法において、銅層の結晶配向を規定した提案がなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-159608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規なポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のように、COFについて様々な検討がなされているが、本発明者によれば、さらなる検討・改善の余地があることがわかった。
例えば、両面に配線を施した両面COFにおいては、折り曲げ内面の配線は外面の配線よりも折り曲げ角度が小さくなり、配線の微細化と相まって、配線のクラックの問題が発生しやすくなった。これに対応するためには、特許文献1のように、銅層を改良すれば足りるものではなく、ポリイミドフィルムにおいても改善が必要であると考えられる。
【0010】
また、微細配線化が進むと、銅層表面の品位、ポリイミドフィルム表面の品位要求も高くなり、従来よりも微細な異物や欠陥が配線形成収率に影響を与えることになる。さらにセミアディティブ方式の配線形成に使用される銅張り積層板は、従来のサブトラクティブ方式に使用する銅張り積層板にくらべ、その銅層の厚みが3分の1以下(1~3μm)の積層板を用いることが多いため、ポリイミドフィルムの表面には、より高品位が求められる。
【0011】
本発明者は、このような観点から、種々の検討を試みたが、十分な性能を充足させるには困難を極めた。例えば、ポリイミドフィルム表面を平滑にするなどを試みたものの、単純にこのような試みを行うだけでは、フィルム同士の滑り性が悪くなり、取り扱い性が低下するばかりでなく、フィルム搬送時や巻き取り時にキズやシワが発生し易くなり、フィルム表面品位を却って悪化する場合などがあった。
【0012】
このような中、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、無機粒子を含むポリイミドフィルムにおいて、フィルムの両面に着目し、両面における突起割合等を調整することで、取扱性に優れるポリイミドフィルムや、両面COF等に好適なポリイミドフィルムが得られることなどを見出し、さらなる検討を重ねて本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]
無機粒子を含有するポリイミドフィルムであって、フィルムの一方の面aにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をA個/100cm、フィルムの他方の面bにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をB個/100cmとするとき、A及びBがいずれも10個以下であるポリイミドフィルム(例えば、両面COF用ポリイミドフィルム)。
[2]
無機粒子を含有するポリイミドフィルムであって、フィルムの一方の面aにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をA個/100cm、フィルムの他方の面bにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をB個/100cmとするとき、AとBとの差の絶対値が2以上であるポリイミドフィルム(例えば、両面COF用ポリイミドフィルム)。
[3]
A及び/又はBが2個以上である[1]又は[2]に記載のポリイミドフィルム。
[4]
面a及び面bの両面において、表面粗さRaが0.01~0.05μm、表面粗さRzが0.05~0.6μmである[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[5]
MD方向の熱膨張係数が4~10ppm/℃であり、TD方向の熱膨張係数が0~8ppm/℃である[1]~[4]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[6]
引張弾性率5~10GPa及び/又はループスティフネス10~75mN/cmを充足する[1]~[5]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[7]
パラフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分、及び酸無水物成分を重合成分とするポリイミドで構成されている[1]~[6]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[8]
無機粒子の平均粒径が0.05~0.5μmである[1]~[7]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載のポリイミドフィルムを用いた金属積層板(特に両面銅張り積層板)。
[10]
銅厚みが1~3μmである[9]記載の金属積層板(特に両面銅張り積層板)。
[11]
[9]又は[10]記載の金属積層板(特に両面銅張り積層板)を用いた両面COF用基板。
[12]
[9]又は[10]記載の金属積層板(特に両面銅張り積層板)を用いて、セミアディティブ法により両面COF用基板を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、新規なポリイミドフィルムを得ることができる。特に、本発明では、寸法安定性、折り曲げ特性、フィルム両面における表面平滑性などのバランスに優れるポリイミドフィルムを提供することもできる。
【0015】
このようなポリイミドフィルムは、例えば、COF(Chip On Film)用などに好適である。特に、高密度実装を目的に両面に配線を施した両面COFなどのファインピッチ回路基板や半導体パッケージに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ポリイミドフィルムを基材として用いた銅張積層体の断面図である。
図2】ポリイミドフィルムに銅の配線回路パターンを形成した寸法評価用COF用基板の断面図及び表面図である。
図3】寸法評価用COF用基板を折り曲げ、元の状態にするサイクルを示す図である。
図4】寸法評価用COF用基板にガラスを圧着後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムでは、フィルムの両面において、特定の突起の割合が調整されている。
【0018】
まず、第1の態様では、ポリイミドフィルムにおいて、フィルムの一方の面aにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をA個/100cm(100cmあたりA個)、フィルムの他方の面bにおける高さ0.8μm以上の突起の割合をB個/100cm(100cmあたりB個)とするとき、A及びBが、それぞれ、20個以下(例えば、18個以下)、好ましくは15個以下(例えば、12個以下)、さらに好ましくは10個以下(例えば、9個以下、8個以下)である。
【0019】
なお、突起の割合A及びBの下限値は、特に限定されないが、例えば、それぞれ、0個であってもよく、有限値(1個、2個など)であってもよい。
【0020】
このように、フィルム両面において、特定の突起の割合を抑えることで、ピンホールのような欠損を効率よく抑えやすい。そのため、このようなフィルムは、収率を向上させやすく、両面に銅のような金属層を設けるためのフィルムなどとして好適である。なお、本発明者の検討によれば、意外なことに、突起の中でも、0.8μm以上の突起とピンホールのような欠損との相関が高いようである。
【0021】
本発明の第2の態様では、ポリイミドフィルムにおいて、前記Aと前記Bとの差の絶対値が1以上、好ましくは2以上(例えば、3以上)である。
なお、AとBとの差の絶対値の上限値は、特に限定されないが、例えば、30、25、20、18、16、14、12、10、9、8、7、6などであってもよい。
【0022】
このように、フィルム両面における特定の突起の割合に偏りを持たせることで、フィルムの面aと面bの間での十分な滑り性を担保しやすいためか、フィルム製造時にロール状に巻き取る場合などにおいて、優れた取扱性のフィルムを効率よく得やすい。また、このような優れた取扱性にも関連してか、フィルムにキズやシワなどが生じにくく、フィルムに配線を効率よく形成しやすい(高収率で配線を形成しやすい)。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、第1の態様及び第2の態様の少なくとも1つの態様を充足すればよく、より好ましくは両態様を充足してもよい。
【0024】
なお、第1の態様及び/又は第2の態様において、A及びBの少なくとも一方(A及び/又はB)が、有限値[例えば、1個以上、好ましくは2個以上(例えば、2~10個、2~8個、3~7個)など]であってもよい。あえて少なくともいずれかの面に突起を形成することで、良好な配線形成や取扱性などのバランスに優れたフィルムを得やすい。
【0025】
本発明のポリイミドフィルムは、所定の表面粗度を有していてもよい。例えば、ポリイミドフィルムのRa(中心線平均粗さ)は、例えば、0.01~0.05μm、0.01~0.04μm程度であってもよい。また、ポリイミドフィルムのRz(10点平均粗さ)は、0.05~0.6μm、好ましくは0.1~0.5μmであってもよい。
【0026】
なお、このような表面粗度は、フィルムの面a及び面bのいずれか一方において充足してもよく、面a及び面bにおいて充足してもよい。
【0027】
このような表面粗度を有するポリイミドフィルム(特に、このような表面粗度と前記第1及び/又は第2の態様とを組み合わせて充足するポリイミドフィルム)によれば、銅層などの抜け(ピンホール)が発生しにくくなり、収率を向上させやすい。また、フィルムの加工や銅張り積層板の作成などの際に、十分なフィルムの滑り性を担保しやすいためか、搬送不良が発生したり、フィルム表面に収率を低下させるキズの発生を極力おさえやすいようであり、良好なフィルムを得やすい。
【0028】
本発明のポリイミドフィルムは、特定の熱膨張係数を有していてもよい。例えば、ポリイミドフィルムの熱膨張係数は、MD方向(機械搬送方向、縦方向、流れ方向)において、4~10ppm/℃、好ましくは3.5~9ppm/℃、さらに好ましくは3~8ppm/℃程度であってもよく、TD方向(幅方向、横方向、直角方向)において、0~8ppm/℃、好ましくは0~6ppm/℃、さらに好ましくは0.5~5ppm/℃程度であってもよい。
【0029】
熱膨張係数をこのような範囲とすることで、半導体やガラスパネルとの実装時に接合不良が発生しにくくなり、ファインピッチ回路基板や半導体パッケージ用途等においてより好適なフィルムとしやすい。
【0030】
本発明のポリイミドフィルムの引張弾性率は、5GPa以上(例えば、5~10GPa)であることが好ましく、MDが6~8GPa、TDが7~10GPaであればなお好ましい。このような引張弾性率は、フィルムのMD方向及び/又はTD方向において充足してもよく、特にMD方向及びTD方向の両方において充足してもよい。
【0031】
本発明のポリイミドフィルムのループスティフネスは、10~75mN/cmであることが好ましく、更には、10~65mN/cmであることがより好ましい。
【0032】
本発明のポリイミドフィルムは、通常、無機粒子(又はフィラー)を含む。このような無機粒子としては特に限定されず、例えば、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。
【0033】
無機粒子の平均粒径は、例えば、0.01~5μm、好ましくは0.02~2μm(例えば、0.03~1μm)、さらに好ましくは0.05~0.5μm程度であってもよい。
なお、無機粒子の平均粒径は、例えば、DMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)中に分散させたスラリー状態において、堀場製作所製レーザー回折/錯乱式粒子径分布測定装置LA-920にて測定した粒度分布において、メジアン径を平均粒径として定義される。
【0034】
無機粒子の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ポリイミドフィルムに対して、0.05質量%以上、好ましくは0.1~1.5質量%、さらに好ましくは0.3~1.0質量%であってもよい。
【0035】
(ポリイミド及びポリイミドフィルムの製造方法)
ポリイミドフィルム(又はポリイミドフィルムを構成するポリイミド、又はポリアミック酸)は、通常、芳香族ジアミン成分と酸無水物成分(テトラカルボン酸成分)とを重合成分とする。なお、重合成分は、芳香族ジアミン成分と酸無水物成分を主成分とする限り、他の重合成分を含んでいてもよい。
ポリイミドフィルムを製造するに際しては、特に限定されないが、まず、芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させることにより、ポリアミック酸(ポリアミド酸)溶液を得る。
【0036】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族ジアミン成分として、特に、パラフェニレンジアミンを好適に含んでいてもよい。このようにパラフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分を使用することで、前記のような特性・物性を有するポリイミドフィルムを効率よく得やすい。
芳香族ジアミン成分は、パラフェニレンジアミン以外のものを含んでいてもよい。このようなパラフェニレンジアミン以外の前記芳香族ジアミン成分の具体例としては、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、パラキシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3’-ジメトキシベンジジン、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼン及びこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミンと、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び/又は3,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが好ましい。この中でフィルムの引張弾性率を高くする効果のあるパラフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルのジアミン成分の量を調整し、得られるポリイミドフィルムの引張弾性率を5GPa以上にすることが、搬送性も良くなるので好ましい。
【0037】
前記酸無水物成分の具体例としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’-ジフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸及びこれらのアミド形成性誘導体等の芳香族テトラカルボン酸無水物成分が挙げられ、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
この中でも、特に好適な、芳香族ジアミン成分及び酸無水物成分の組み合わせとしては、パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1種以上の酸無水物成分との組み合わせが挙げられる。
【0039】
前記した芳香族ジアミン成分におけるパラフェニレンジアミンの配合割合は、前記範囲の熱膨張係数を得るとともに、フィルムに適切な強度を与え、走行性不良を防ぐ等の点から、芳香族ジアミン成分全量に対して、15モル%以上(例えば、18モル%以上)の範囲から選択してもよく、通常20モル%以上(例えば、25モル%以上)、好ましくは30モル%以上(例えば、31モル%以上、32モル%以上)であり、33モル%以上が好ましく、35モル%以上がより好ましい。
芳香族ジアミン成分におけるパラフェニレンジアミンの割合の上限値は、例えば、100モル%であってもよく、特に100モル%未満[例えば、99モル%、95モル%、90モル%、80モル%、70モル%、60モル%以下(例えば、60モル%、55モル%、52モル%、50モル%、48モル%、45モル%など)など]であってもよい。
代表的には、芳香族ジアミン成分におけるパラフェニレンジアミン成分の割合は、芳香族ジアミン成分全量に対して、15~80モル%(例えば、18~75モル%)、20~75モル%(例えば、25~70モル%)、30~65モル%(例えば、32~60モル%、30~55モル%(例えば、32~50モル%)などであってもよい。
また、芳香族ジアミン成分が、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び/又は3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(特に4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)を含む場合、芳香族ジアミン成分における4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び/又は3,4’-ジアミノジフェニルエーテルの割合は、芳香族ジアミン成分全量に対して、例えば、85モル%以下(例えば、82モル%以下)の範囲から選択してもよく、好ましくは80モル%以下(例えば、78モル%以下)、さらに好ましくは75モル%以下(例えば、73モル%以下)であり、70モル%以下(例えば、68モル%以下、65モル%以下)であってもよい。
芳香族ジアミン成分における4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び/又は3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(特に4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)の割合の下限値は、特に限定されず、例えば、1モル%、5モル%、10モル%、15モル%、20モル%、30モル%、40モル%、45モル%、50モル%、52モル%、55モル%、60モル%などであってもよい。
代表的には、芳香族ジアミン成分における4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及び/又は3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(特に4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)の割合は、芳香族ジアミン成分全量に対して、20~85モル%(例えば、22~82モル%)、25~80モル%(例えば、30~78モル%)、35~75モル%(例えば、38~72モル%)、40~70モル%(例えば、45~70モル%)、50~68モル%などであってもよい。
前記した酸無水物成分における配合割合(モル比)としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む場合、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量は、酸無水物成分全量に対して、15モル%以上(例えば、18モル%以上)が好ましく、20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましい。
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合の上限値は、100モル%であってもよく、特に100モル%未満(例えば、99モル%、95モル%、90モル%、85モル%、80モル%、70モル%、60モル%、50モル%、45モル%、42モル%、40モル%、38モル%、35モル%、33モル%など)であってもよい。
代表的には、酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合は、酸無水物成分全量に対して、15~85モル%(例えば、18~70モル%)、18~60モル%(例えば、18~50モル%)、20~40モル%であってもよい。
酸無水物成分がピロメリット酸二無水物を含む場合、ピロメリット酸二無水物の割合は、例えば、酸無水物成分全体に対して、15モル%以上(例えば、20モル%以上)、好ましくは25モル%以上(例えば、30モル%以上)、さらに好ましくは35モル%以上(例えば、40モル%以上)程度であってもよく、45モル%以上(例えば、48モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、58モル%以上、60モル%以上、62モル%以上など)であってもよい。
酸無水物成分におけるピロメリット酸二無水物の割合の上限値は、特に限定されず、例えば、100モル%であってもよく、特に100モル%未満(例えば、95モル%、90モル%、85モル%、80モル%、82モル%、75モル%、72モル%など)であってもよい。
代表的には、酸無水物成分におけるピロメリット酸二無水物の割合は、酸無水物成分全量に対して、10~95モル%(例えば、12~90モル%)、15~85モル%(例えば、20~82モル%)、30~85モル%(例えば、40~82モル%)、50~80モル%(例えば、60~80モル%)などであってもよい。
このような芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とで構成されたポリアミック酸をポリイミドフィルムの原料(前駆体)とすることで、ポリイミドフィルムの熱膨張係数を、フィルムの機械搬送方向(MD)、幅方向(TD)共に前記範囲に容易に調整することができるため、好ましい。
【0040】
また、本発明において、ポリアミック酸溶液の形成に使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒、フェノール、o-,m-,又はp-クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒又はヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を使用した混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエン等の芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0041】
重合方法は、公知のいずれの方法で行ってもよく、例えば
(1)先に芳香族ジアミン成分全量を溶媒中に入れ、その後、酸無水物成分を芳香族ジアミン成分全量と当量(等モル)になるように加えて重合する方法。
(2)先に酸無水物成分全量を溶媒中に入れ、その後、芳香族ジアミン成分を酸無水物成分と当量になるように加えて重合する方法。
(3)一方の芳香族ジアミン成分(a1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方の酸無水物成分(b1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方の芳香族ジアミン成分(a2)を添加し、続いて、もう一方の酸無水物成分(b2)を全芳香族ジアミン成分と全酸無水物成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
(4)一方の酸無水物成分(b1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方の芳香族ジアミン成分(a1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方の酸無水物成分(b2)を添加し、続いてもう一方の芳香族ジアミン成分(a2)を全芳香族ジアミン成分と全酸無水物成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
(5)溶媒中で一方の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(A)を調整し、別の溶媒中でもう一方の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(B)を調整する。こうして得られた各ポリアミック酸溶液(A)と(B)を混合し、重合を完結する方法。この時ポリアミック酸溶液(A)を調整するに際し芳香族ジアミン成分が過剰の場合、ポリアミック酸溶液(B)では酸無水物成分を過剰に、またポリアミック酸溶液(A)で酸無水物成分が過剰の場合、ポリアミック酸溶液(B)では芳香族ジアミン成分を過剰にし、ポリアミック酸溶液(A)と(B)を混ぜ合わせこれら反応に使用される全芳香族ジアミン成分と全酸無水物成分とがほぼ当量になるように調整する。なお、重合方法はこれらに限定されることはなく、その他公知の方法を用いてもよい。
【0042】
こうして得られるポリアミック酸溶液は、通常5~40重量%の固形分を含有し、好ましくは10~30重量%の固形分を含有する。また、その粘度は、ブルックフィールド粘度計による測定値で通常10~2000Pa・sであり、安定した送液のために、好ましくは100~1000Pa・sである。また、有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0043】
次に、ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。ポリイミドフィルムを製膜する方法としては、ポリアミック酸溶液をフィルム状にキャストし熱的に脱環化脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法、及びポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作製し、これを加熱脱溶媒することによりポリイミドフィルムを得る方法が挙げられるが、後者の方が得られるポリイミドフィルムの熱膨張係数を低く抑えることができるので好ましい。
【0044】
化学的に脱環化させる方法においては、まず前記ポリアミック酸溶液を調製する。なお、本発明においては、通常、このポリアミック酸溶液に、前記のような無機粒子を含有させてもよい。
【0045】
ここで使用するポリアミック酸溶液は、予め重合したポリアミック酸溶液であっても、また無機粒子を含有させる際に順次重合したものであってもよい。
【0046】
前記ポリアミック酸溶液は、環化触媒(イミド化触媒)、脱水剤、ゲル化遅延剤等を含有することができる。
【0047】
環化触媒としては、アミン類、例えば、脂肪族第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなど)、芳香族第3級アミン(ジメチルアニリンなど)、複素環第3級アミン(例えば、イソキノリン、ピリジン、β-ピコリンなど)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
脱水剤としては、酸無水物、例えば、脂肪族カルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸など)、芳香族カルボン酸無水物(例えば、無水安息香酸など)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ゲル化遅延剤としては、特に限定されず、アセチルアセトン等を使用することができる。
【0049】
ポリアミック酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法としては、ポリアミック酸溶液(特に、環化触媒及び脱水剤を含有させたポリアミック酸溶液)を、支持体上に流延してフィルム状に成型し、支持体上でイミド化を一部進行させて自己支持性を有するゲルフィルムとした後、支持体より剥離し、加熱乾燥/イミド化し、熱処理を行う方法が挙げられる。
【0050】
前記支持体とは、金属製の回転ドラムやエンドレスベルトが一例として上げられるが、均一な材質で表面粗度が制御、管理できるものであれば特に限定されない。
【0051】
前記ゲルフィルムは、支持体からの受熱及び/又は熱風や電気ヒーター等の熱源からの受熱により通常20~200℃、好ましくは40~150℃に加熱されて閉環反応し、遊離した有機溶媒等の揮発分を乾燥させることにより自己支持性を有するようになり、支持体から剥離される。
【0052】
前記支持体から剥離されたゲルフィルムは延伸処理してもよい。延伸処理としては、搬送方向(MD)への延伸と幅方向(TD)への延伸を所定の倍率に組み合わせることが可能などであれば、その装置、方法は限定されない。本発明の効果を有するフィルムを作成するための延伸倍率は、通常200℃以上の温度で、MDは通常1.05~1.9倍であり、好ましくは1.1~1.6倍であり、さらに好ましくは1.1~1.5倍であってもよい。TDは、通常MDの倍率のXの1.1~1.5倍であり、好ましくは1.2~1.45倍であってもよい。
【0053】
上記フィルムは、熱風及び/又は電気ヒーター等により、250~500℃の温度で15秒から30分熱処理を行ってもよい。
【0054】
フィルムの厚みは5~75μm、好ましくは10~50μm、さらに好ましくは、20~40μmとなるように、固形分濃度、粘度、支持体に流延するポリマー量を調整することが好ましい。
【0055】
このようにして得られたポリイミドフィルムに対して、さらにアニール処理を行うことが好ましい。そうすることによってフィルムの熱リラックスが起こり加熱収縮率を小さく抑えることができる。アニール処理の温度としては、特に限定されないが、200℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上370℃以下がより好ましく、210℃以上350℃以下が特に好ましい。アニール処理からの熱リラックスにより、200℃での加熱収縮率を上記範囲内に抑えることができるので、より一層寸法精度が高くなり好ましい。
【0056】
また、得られたポリイミドフィルムに接着性を持たせるため、フィルム表面にコロナ処理やプラズマ処理のような電気処理又はブラスト処理のような物理的処理を行ってもよく、これらの物理的処理は、常法に従って行うことができる。プラズマ処理を行う場合の雰囲気の圧力は、特に限定されないが、通常13.3~1330kPaの範囲、13.3~133kPa(100~1000Torr)の範囲が好ましく、80.0~120kPa(600~900Torr)の範囲がより好ましい。
【0057】
プラズマ処理を行う雰囲気は、不活性ガスを少なくとも20モル%含むものであり、不活性ガスを50モル%以上含有するものが好ましく、80モル%以上含有するものがより好ましく、90モル%以上含有するものが最も好ましい。前記不活性ガスは、He、Ar、Kr、Xe、Ne、Rn、N及びこれらの2種以上の混合物を含む。特に好ましい不活性ガスはArである。さらに、前記不活性ガスに対して、酸素、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、水素、アンモニア、テトラフルオロメタン(カーボンテトラフルオリド)、トリクロロフルオロエタン、トリフルオロメタン等を混合してもよい。本発明のプラズマ処理の雰囲気として用いられる好ましい混合ガスの組み合わせは、アルゴン/酸素、アルゴン/アンモニア、アルゴン/ヘリウム/酸素、アルゴン/二酸化炭素、アルゴン/窒素/二酸化炭素、アルゴン/ヘリウム/窒素、アルゴン/ヘリウム/窒素/二酸化炭素、アルゴン/ヘリウム、ヘリウム/空気、アルゴン/ヘリウム/モノシラン、アルゴン/ヘリウム/ジシラン等が挙げられる。
【0058】
プラズマ処理を施す際の処理電力密度は、特に限定されないが、200W・分/m以上が好ましく、500W・分/m以上がより好ましく、1000W・分/m以上が最も好ましい。プラズマ処理を行うプラズマ照射時間は1秒~10分が好ましい。プラズマ照射時間をこの範囲内に設定することによって、フィルムの劣化を伴うことなしに、プラズマ処理の効果を十分に発揮することができる。プラズマ処理のガス種類、ガス圧、処理密度は上記の条件に限定されず大気中で行われることもある。
【0059】
なお、本発明のポリイミドフィルムは、上記のように、特定の特性・物性(特定の突起の割合など)を備えているが、このような態様は、上記条件等を適宜選択することで調整できる。例えば、フィルム両面における特定の突起割合は、ポリアミック酸溶液に添加する無機粒子の平均粒径や添加量の選択により調整しうる。また、このような突起割合は、ポリアミック酸溶液の粘度、ポリアミック酸溶液を流延する支持体の表面粗度、支持体から剥離した後のフィルム延伸倍率等にも影響されうるため、さらにこれらを選択することで突起割合を調整してもよい。すなわち、本発明では、無機粒子の平均粒径、添加量、ポリアミック酸溶液の粘度、支持体の表面粗度、フィルムの延伸倍率などを所定の範囲に調整することにより、フィルム両面における突起割合を調整することを可能としたものである。
【0060】
このようにして得られるポリイミドフィルムは、寸法安定性、表面平滑性、折り曲げ特性などに優れるため、後述するように、フィルム幅方向に狭ピッチに配線されるCOF(Chip On Film)、特に高密度実装を目的に両面に配線を施した両面COF等のファインピッチ回路基板や半導体パッケージに好適に用いることができる。
【0061】
[銅張積層体]
本発明には、上述した本発明のポリイミドフィルムを用いた(備えた)銅張り積層体も含む。このような銅張り積層体は、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に銅層が形成されており、特に、ポリイミドフィルムの両面に銅層が形成されている。
このような銅張り積層体の製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法に従ってよい。例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面(特に両面)に、スパッタ法により形成したニッケルクロムを主成分とする金属層の上に、電気めっき法により銅を主成分とする層を積層する方法が一般的である。本発明の銅張り積層体は、例えば、ポリイミドフィルムの両面に、ニッケルクロム合金層を設け、この上に所定厚み(例えば、厚み1~3μm)の銅を電気めっき法により形成させることで得られる。
【0062】
また、本発明は、上述した本発明の銅張り積層板を用いた(備えた)両面COF用基板を含む。両面COF用基板は、銅張り積層板に配線回路を設けたものであってもよい。
このような両面COF用基板の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、特に、セミアディティブ法により製造してもよい。
より具体的な方法としては、フォトリソ法を用いて配線回路をパターニングし、配線を形成したい箇所のレジスト層を剥離した後、露出した薄銅層上に電解銅めっきにより配線を形成、その後レジスト層、薄銅層、下地金属層を除去し、配線に無電解スズめっき法によりスズを0.1~0.5μm形成し、その後必要な部分にソルダーレジストを積層する方法などが挙げられる。
【0063】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例
【0064】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
なお、実施例中、PPDはパラフェニレンジアミンを表し、4,4’-ODAは4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを表し、PMDAはピロメリット酸二無水物を表し、BPDAは3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物を表し、DMAcはN,N-ジメチルアセトアミドをそれぞれ表す。
【0066】
[実施例1]
(ポリイミドフィルムの作成)
PPD(分子量108.14)、4,4’-ODA(分子量200.24)、BPDA(分子量294.22)、PMDA(分子量218.12)をモル比35/65/30/70の割合で用意し、DMAc中20重量%溶液にして重合し、3500poiseのポリアミド酸溶液を得た。これに、平均粒子径0.1μmのシリカのDMAcスラリーを樹脂重量当たり0.5重量%添加し、十分に攪拌し分散させた。次にガラス板上に厚み125μmのポリエステルフィルム(ルミラーX43:東レ製、Ra0.2μm)を置き支持体とし、この支持体上にポリアミド酸溶液を乗せ、アプリケーターで流延した。続いてこれを無水酢酸、β-ピコリンの混合溶液に10分間浸してイミド化反応させた後、ポリイミドゲルフィルムをポリエステルフィルムから剥がし、そのゲルフィルムを手動延伸器にてアプリケーター方向(以後MDとする)に1.15倍、その垂直方向(以後TDとする)に1.40倍延伸したのち、支持枠に固定した。その後300℃で20分間、続いて400℃で5分間加熱乾燥した後、上記支持枠より取り外し、厚さ35μmのポリイミドフィルムを得た。
【0067】
このフィルムについて、次の各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
(1)表面粗度
表面粗さ測定機SE-3500(小坂研究所製)を用い、JIS B0601―1982に準じて測定した。
(2)表面突起個数
レーザー顕微鏡VK-9710(キーエンス製)を用いて、100cmの視野でフィルム表面の突起を観察、高さ測定を行い、0.8μm以上の突起の個数を数えた。
なお、観察は、測定部位を対物レンズにて10倍に拡大して(モニター上の倍率200倍で)行った。また、観察された突起の幅は、いずれも15μm以上のものであり(幅15μm未満の突起はなく)、突起が複数の凸部を有する場合には最も高い凸部の高さを突起の高さとした。
(3)熱膨張係数
TMA-60(島津製作所製)を使用し、測定温度範囲:50~200℃、昇温速度:10℃/分の条件で測定した。
(4)引張弾性率
RTM-250(エー・アンド・デイ製)を使用し、引張速度:100mm/分の条件で測定した。
(5)ループスティフネス
ループステフネステスタDA(東洋精機製作所製)を使用し、サンプル幅20mm、ループ長50mm、圧縮距離20mmの条件で測定した。
(6)フィルム取扱性
スリップテスター(テクノ・ニーズ社製)に、サンプルの支持体面と非支持体面を重ね合わせ固定し、荷重200g、測定速度120mm/minの速度で、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(両面銅張り積層板の作成)
上記で得られたポリイミドフィルムの支持体面にスパッタ法により、ニッケルクロム層(Ni:Cr=80:20m、厚さ25nm)、および銅層(厚さ100nm)を形成した後、同様に非支持体面にもニッケルクロム層、銅層を形成した。続いて硫酸銅めっき液を用いた電解めっきにて厚さ2μmの銅層を両面に形成した。
【0069】
得られた両面銅張り積層板(図1)について以下の項目を評価した。結果を表1に記載する。
【0070】
(7)ピンホール個数
両面銅張り積層板の支持体面をカバーフィルムで保護した後、塩化第二鉄溶液を用いてエッチング処理を行い、非支持体面の銅層、ニッケルクロム層を除去した。続いて、暗室にて、蛍光灯バックライトをポリイミド面(非支持体面)から照らし、銅面(支持体面)側に漏れてくる光(ピンホール)の個数を100cmの視野で目視にて数えた。同様の手法で、非支持体面のピンホールの個数も評価した。
【0071】
(評価用COF用基板の作成)
上記で得られた両面銅張り積層板の非支持体面の銅層、ニッケルクロム層を除去したサンプルについて、銅表面(支持体面)を上村工業(株)製スルカップACL-067を水で15%に希釈した液に、30℃30秒間含浸させて脱脂した後、乾燥厚が15μmとなるようにフォトレジストをラミネートして、図2に示す評価用パターン(ライン幅20μm、スペース幅20μm)を露光・現像した。その後、常法に従って、セミアディティブ法により、厚さ8μmの銅めっき層を形成し、評価用COF用基板を作成した。
得られたCOF用基板について、以下の項目を評価し、結果を表1に示した。
【0072】
(8)折り曲げ性
COF用基板の導体側を内側に図3の様に折り曲げ、1.0kgfの荷重を10秒間加えた後、COF基板を開き元の状態にした。これを1サイクルとし、5回から30回繰り返し、その間、導体の折り曲げ箇所を顕微鏡で観察し、導体が破断するまでの回数を測定した。
【0073】
(9)寸法安定性
上記で得られた評価用COF基板を被着体(ガラス)に異方導電フィルム(ACF:製品名、日立化成製アニソルムC5311)を用いて、180℃×10秒、5MPaの条件で圧着した(図4)。
【0074】
評価用回路パターン30サンプルの外形寸法を圧着前(L3)と圧着後(L4)で測定し、以下の式で算出した伸び率の標準偏差を測定した。
伸び率(%)={(L4-L3)/L3}×100
【0075】
[実施例2]
ゲルフィルムをMDに1.25倍、TDに1.40倍に延伸した他は、実施例1と同様の手順で厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
【0076】
[実施例3]
平均粒子径0.4μmのシリカのDMAcスラリーを用いること以外は、実施例1と同様の手順で厚さ35μmのポリイミドフィルムを得た。
【0077】
[実施例4]
ゲルフィルムをMDに1.15倍、TDに1.35倍に延伸した他は、実施例3と同様の手順で厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
【0078】
[実施例5]
PPD、4,4’-ODA、BPDA、PMDAをモル比20/80/35/65の割合とし、平均粒子径0.4μmのシリカを用いること以外は、実施例2と同様の手順で、厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
【0079】
[実施例6]
PPD、4,4’-ODA、BPDA、PMDAをモル比30/70/25/75の割合とすること以外は、実施例3と同様の手順で、厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
【0080】
[実施例7]
平均粒子径1.0μmのリン酸水素カルシウムを用いること以外は、実施例5と同様の手順で、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。
【0081】
[実施例8]
PPD、BPDAをモル比1:1の割合とし、これに平均粒子径0.1μmのシリカのDMAcスラリーを樹脂重量当たり0.5重量%添加しポリアミド酸溶液を作成した。そして、支持体として厚み125μmのポリエステルフィルム(ルミラーS10:東レ製、Ra0.05μm)を使用する以外は、実施例4と同様の手順で、厚さ38μmのポリイミドフィルムを得た。
【0082】
[実施例9]
PPD、4,4’-ODA、BPDA、PMDAをモル比40/60/25/75の割合とすること以外は、実施例3と同様の手順で、厚さ35μmのポリイミドフィルムを得た。
【0083】
[実施例10]
PPD、4,4’-ODA、BPDA、PMDAをモル比45/55/35/65の割合とすること以外は、実施例3と同様の手順で、厚さ35μmのポリイミドフィルムを得た。
【0084】
実施例2~8で得られたポリイミドフィルムおよび、それらを用いて実施例1と同様の手順で作成した両面銅張り積層板、評価用COF基板は、実施例1と同様にその特性を評価し、表1にその結果を示した。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表の結果から、実施例のポリイミドフィルムは、表面平滑性、寸法安定性、折り曲げ性などに優れたフィルムであるといえる。また、フィルム両面の表面平滑性のバランスに優れるため、フィルムの取り扱い性も良く、高い生産性を維持できるフィルムであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリイミドフィルムは、寸法安定性、折り曲げ特性などに優れている。また、本発明では、両面において高い表面品位を有するフィルムを得ることができる。そのため、このような本発明のポリイミドフィルムは、特に高密度実装を目的に両面に配線を施した両面COF等のファインピッチ回路基板や半導体パッケージに好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4