IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 曙ブレーキ工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用パッド
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/092 20060101AFI20220725BHJP
   F16D 55/226 20060101ALI20220725BHJP
   F16D 65/02 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
F16D65/092 D
F16D55/226 104F
F16D65/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018059773
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019173782
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間 康平
(72)【発明者】
【氏名】真下 荘悟
(72)【発明者】
【氏名】藤原 忠相
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072502(JP,A)
【文献】特開2012-117658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/092
F16D 55/226
F16D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライニングと、該ライニングの軸方向外側面を支持した裏板とを備えており、ロータの軸方向内側に配置され車体に固定される固定部材に対しスライドピンを介して軸方向の移動を可能に支持されるヨークに取り付けられ、前記ロータの軸方向外側に配置される、ディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板の外周縁部の周方向中間部に、前記固定部材に設けられたアンカーとの当接に基づいて制動時に作用するブレーキ接線力を支承する、それぞれが径方向外側に向けて突出した1対の径方向突起が、前記1対の径方向突起同士の周方向間部分に前記アンカーを軸方向の相対移動を可能に配置できる分だけ、周方向に離隔して設けられており、
前記裏板の軸方向外側面に、前記ヨークのうちで前記ロータの軸方向外側に配置されるアウタボディの軸方向内側面に凹凸嵌合する軸方向突部が設けられている、
ディスクブレーキ用パッド。
【請求項2】
前記1対の径方向突起は、進制動時及び後進制動時に前記アンカーと当接する、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッド。
【請求項3】
前記1対の径方向突起の径方向外側部同士が周方向につながっている、請求項1又は請求項2に記載したディスクブレーキ用パッド。
【請求項4】
ライニングと、該ライニングの軸方向外側面を支持した裏板とを備えており、ロータの軸方向内側に配置され車体に固定される固定部材に対しスライドピンを介して軸方向の移動を可能に支持されるヨークに取り付けられ、前記ロータの軸方向外側に配置される、ディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板の外周縁部の周方向中央部に、前記固定部材に設けられたアンカーとの当接に基づいて制動時に作用するブレーキ接線力を支承する径方向突起が1つだけ設けられており、
前記裏板の軸方向外側面に、前記ヨークのうちで前記ロータの軸方向外側に配置されるアウタボディの軸方向内側面に凹凸嵌合する軸方向突部が設けられている、
ディスクブレーキ用パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動を行うためのディスクブレーキに組み込んで使用する、ディスクブレーキ用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
図24は、特開2002-372082号公報に記載された、従来構造のフローティング型ディスクブレーキを示している。フローティング型ディスクブレーキ1は、サポート2と、ヨーク(キャリパ)3と、インナ、アウタ両パッド4、5を備えている。
【0003】
サポート2は、車輪とともに回転するロータ6の軸方向内側に隣接した状態で、車体を構成するナックルなどの懸架装置に固定される。
【0004】
本明細書及び特許請求の範囲全体で、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、特に断らない限り、ロータの軸方向、径方向及び周方向をいう。また、フローティング型ディスクブレーキを構成する各部材に関して、軸方向内側とは、車両の幅方向中央側をいい、軸方向外側とは、車両の幅方向外側をいう。また、周方向内側とは、組立状態でのフローティング型ディスクブレーキの周方向中央側をいい、周方向外側とは、組立状態でのフローティング型ディスクブレーキの周方向両側をいう。
【0005】
ヨーク3は、軸方向外側部に二股状の爪部7を、軸方向内側部にシリンダ8をそれぞれ有しており、サポート2に対し軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、図示の例では、ヨーク3にそれぞれの基端部を支持固定した1対のスライドピン9を、サポート2に設けた1対のスライド孔10の内側に摺動可能に挿入している。
【0006】
インナパッド4は、ロータ6の軸方向内側に配置されており、サポート2に対して軸方向に関する移動を可能に支持されている。これに対し、アウタパッド5は、ロータ6の軸方向外側に配置されており、ヨーク3を構成する爪部7の軸方向内側面に支持されている。このために、アウタパッド5の軸方向外側面(裏面)に固定したパッドスプリング11を、爪部7に係合させている。また、アウタパッド5の軸方向外側面に形成した1対の軸方向突部(ダボ)12を、爪部7の軸方向内側面に形成した1対の受孔(ダボ孔)13にそれぞれ凹凸嵌合させている。
【0007】
制動を行う際には、シリンダ8内に圧油を送り込み、図示しないピストンによりインナパッド4を、ロータ6の軸方向内側面に、図24の上方から下方へと押し付ける。すると、この押し付け力の反作用としてヨーク3が、スライドピン9とスライド孔10との摺動に基づいて図24の上方に移動し、爪部7がアウタパッド5を、ロータ6の軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータ6が軸方向両側から強く挟持されて制動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-372082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したような従来構造のフローティング型ディスクブレーキ1では、アウタパッド5を、サポート2に対して支持せずに、ヨーク3の爪部7に対して直接支持しているため、サポート2の小型化及び軽量化を図る上で有利になる。
【0010】
ところが、従来構造のフローティング型ディスクブレーキ1では、アウタパッド5をヨーク3に支持する構造を採用したことに起因して、次のような改善すべき課題がある。
すなわち、制動時には、インナパッド4及びアウタパッド5に、周方向(回出側)に向いたブレーキ接線力がそれぞれ作用する。インナパッド4に作用するブレーキ接線力は、懸架装置に固定されたサポート2により直接支承されるが、アウタパッド5に作用するブレーキ接線力は、ヨーク3を介して、スライドピン9とスライド孔10との当接部にて支承される。スライドピン9とスライド孔10との当接部の軸方向位置は、アウタパッド5に作用するブレーキ接線力の作用点の軸方向位置から軸方向内側に大きく離れている。このため、ヨーク3には、アウタパッド5に作用するブレーキ接線力に起因して、図24に矢印αで示す方向の傾き(チルト)が発生しやすくなる。この結果、アウタパッド5がロータ6に片当たりし、アウタパッド5に偏摩耗が生じやすくなるとともに、制動時に鳴きなどの異音(ノイズ)が発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制動時に作用するブレーキ接線力にかかわらず、ヨークに傾きが発生することを抑制できる構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のディスクブレーキ用パッドは、ライニングと、該ライニングの軸方向外側面を支持した裏板とを備えており、ロータの軸方向内側に配置され車体に固定される固定部材に対しスライドピンを介して軸方向の移動を可能に支持されるヨークに取り付けられ、前記ロータの軸方向外側に配置されるものである。つまり、フローティング型ディスクブレーキに組み込まれるアウタパッドである。
特に本発明のディスクブレーキ用パッドの第1態様では、前記裏板の外周縁部の周方向中間部に、それぞれが径方向外側に向けて突出した1対の径方向突起を設けている。前記1対の径方向突起は、前記固定部材に例えば片持ち梁状に設けられたアンカーとの当接に基づいて、制動時に作用するブレーキ接線力を支承するためのものであり、前記1対の径方向突起同士の周方向間部分に、前記アンカーを軸方向の相対移動を可能に配置できる分だけ、周方向に離隔して設けられている。
また、前記裏板の軸方向外側面には、前記ヨークのうちで前記ロータの軸方向外側に配置されるアウタボディの軸方向内側面に凹凸嵌合する、1乃至複数(例えば2つ)の軸方向突部を設けている。
なお、前記径方向突起と前記アンカーが当接するとは、直接当接する場合だけでなく、例えば摺動性を確保するなどの目的で両部材同士の間に配置したステンレス鋼板などの他の部材を介して当接する場合も含む。
前記アンカーは、前記固定部材(例えばシリンダやサポートなど)とは別体として、ボルトなどの締結部材を用いて前記固定部材に対し固定されていても良いし、前記固定部材に一体に設けられていても良い。
【0013】
本発明では、前記径方向突起を、前記アンカーとの当接部の周方向位置が、前記ライニングの周方向の範囲内に位置するように設けることができる。
【0014】
発明では、前記1対の径方向突起を、前進制動時及び後進制動時に、前記アンカーに当接するものとすることができる
本発明の技術的範囲からは外れるが、前記径方向突起を、前進制動時にのみ、前記アンカーに当接するものとすることができる。この場合、後進制動時に作用するブレーキ接線力は、前記アウタパッドに設けた前記軸方向突部から前記ヨークに伝達し、前記スライドピンにより支承することができる。
【0015】
本発明では、前記1対の径方向突起の径方向外側部同士を、周方向につなげることができる。
あるいは、前記1対の径方向突起の径方向外側部を、それぞれ自由端とすることもできる。
【0016】
本発明のディスクブレーキ用パッドの第2態様では、前記径方向突起を、前記裏板の外周縁部の周方向中央部に、1つだけ設けている
前記径方向突起を、前記裏板の外周縁部に1つだけ設ける場合には、前記径方向突起を、前記裏板の外周縁部のうちで周方向中央部から周方向(例えば回入側又は回出側)に外れた位置に設けることもできる。
【0017】
本発明では、ディスクブレーキ用パッド全体を、周方向に関して対称形状とすることができる。
あるいは、ディスクブレーキ用パッド全体を、周方向に関して非対称形状とすることもできる。
【0018】
本発明では、前記軸方向突部を、円柱形状とすることができる。
【0019】
本発明では、前記軸方向突部を、前記裏板と一体に設けることができる。
この場合には、前記軸方向突部を、前記裏板に対して例えばエンボス加工(押出加工)などのプレス加工を施すことにより形成することができる。
あるいは、前記軸方向突部を、前記裏板とは別体として、該裏板に対し固定することもできる。
【0020】
本発明では、前記径方向突起のうちで、制動時に前記アンカーに当接する部分における断面形状を、凸円弧形状とすることができる。
あるいは、本発明では、前記径方向突起のうちで、制動時に前記アンカーに当接する部分における断面形状を、平坦面状とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
上述のような構成を有する本発明によれば、制動時に作用するブレーキ接線力にかかわらず、ヨークに傾きが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを軸方向外側から見た正面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを示す斜視図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを周方向から見た側面図である。
図4図4は、図1のA-A断面図である。
図5図5は、図1のB-B断面図である。
図6図6は、図3のC-C断面図である。
図7図7は、図3のD-D断面図である。
図8図8は、図1からヨークを省略して示す図である。
図9図9は、図2からヨークを省略して示す図である。
図10図10は、図3からヨークを省略して示す図である。
図11図11は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキからアンカーを取り出し、径方向外側から見た平面図である。
図12図12は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキからアウタパッドを取り出し、軸方向内側から見た正面図である。
図13図13は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキからアウタパッドを取り出し、軸方向外側から見た背面図である。
図14図14は、実施の形態の第1例にかかるフローティング型ディスクブレーキからアウタパッドを取り出して示す斜視図である。
図15図15は、アウタパッドの径方向突起とアンカーの定幅部との関係を説明するために示す、図7の上部に相当する部分の拡大図である。
図16図16は、実施の形態の第1例に関して制動時の状態を説明するために示す図であり、(A)は前進制動時の状態を示しており、(B)は後進制動時の状態を示している。
図17図17は、実施の形態の第2例を示す、図15に相当する図である。
図18図18は、実施の形態の第3例を示す、図15に相当する図である。
図19図19は、実施の形態の第4例にかかるフローティング型ディスクブレーキを示す斜視図である。
図20図20は、図19からヨークを省略して示す図である。
図21図21は、図20からアウタパッドを省略して示す、分解斜視図である。
図22図22は、実施の形態の第4例にかかるフローティング型ディスクブレーキに関する、図6に相当する図である。
図23図23は、実施の形態の第4例にかかるフローティング型ディスクブレーキに関する、図7に相当する図である。
図24図24は、従来構造のフローティング型ディスクブレーキを径方向外方から見た部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図16を用いて説明する。
本例のフローティング型ディスクブレーキ1aは、自動車の制動を行うために使用するもので、サポート2aと、ヨーク3aと、インナ、アウタ両パッド4a、5aと、シリンダユニット17と、1対のスライドピン9aを備えている。これら各構成部材は、車輪とともに回転する円板状のロータ6を基準として、軸方向内側に、サポート2a、インナパッド4a、シリンダユニット17、1対のスライドピン9aが配置され、軸方向外側にアウタパッド5aが配置され、径方向外側にヨーク3aが配置される。これら各構成部材のうち、アウタパッド5aが、本発明のディスクブレーキ用パッドに相当する。
【0024】
サポート2aは、金属製で、ロータ6の軸方向内側に配置され、車体に固定される。サポート2aは、正面視略U字状に構成されており、径方向内側部に配置されかつ周方向に伸長したサポート基部14と、該サポート基部14の周方向両外側部から径方向外方に向けて伸長した1対のサポート腕部15を備えている。サポート基部14の周方向両外側部には、サポート2aをナックルなどの懸架装置に固定するための取付孔16がそれぞれ形成されている。サポート腕部15には、サポート2aに対しシリンダユニット17を固定するための締結孔がそれぞれ形成されている。また、サポート腕部15のそれぞれの周方向内側面には、制動時にインナパッド4aに作用するブレーキ接線力及びトルクを支承するための係合凹部62が設けられている。
【0025】
シリンダユニット17は、略円筒状のシリンダ8aと、シリンダ8aの外周面から周方向両外側に張り出すように設けられた1対のシリンダ腕部18を備えている。シリンダ8aの外周面の径方向外側部には、配管口19とブリーダ20が周方向に離隔して設けられている。シリンダユニット17は、後述するようにサポート2aに固定され、サポート2aとともに固定部材を構成する。このため、本例の構造では、ヨーク3aとシリンダ8aが互いに別体に構成されている。
【0026】
シリンダ8aの内部空間は、軸方向両側にそれぞれ開口しており、第1ピストン21及び第2ピストン22を軸方向に移動可能に嵌装している。また、シリンダ8aの内部空間のうち、第1ピストン21と第2ピストン22の間に存在する部分を、圧油を導入するための油圧室としている。また、シリンダ8aの軸方向両端部と第1ピストン21及び第2ピストン22のそれぞれの先端部との間に、ブーツ31a、31bを架け渡すように設けている。シリンダ8aの軸方向両端部には、軸方向中間部に比べて外径寸法が小さくなった小径部35a、35bを設けている。さらに、シリンダ8aの内周面と、第1ピストン21及び第2ピストン22のそれぞれの外周面との間に、シール部材52a、52bを設けている。なお、シリンダと後述するアンカーとを一体に設ける場合などには、図示は省略するが、ブーツの端部をシリンダの軸方向端部の内周面に固定することもできる。
【0027】
シリンダ腕部18の先端部には、スライドピン9aの先端部を固定するための雌ねじ孔23と図示しない挿通孔とが、それぞれ径方向に隣接して形成されている。このようなシリンダユニット17は、シリンダ腕部18の先端部をサポート腕部15の先端部に軸方向内側から重ね合わせた状態で、シリンダ腕部18の挿通孔を軸方向に挿通した固定ねじ24をサポート腕部15の締結孔に螺合することにより、サポート2aに固定されている。
【0028】
本例では、上述のようなシリンダユニット17を構成するシリンダ8aに、制動時にアウタパッド5aに作用するブレーキ接線力を支承するためのアンカー25を設けている。アンカー25は、径方向から見た形状が略T字状で、シリンダ8aとは別体に構成されている。そして、アンカー25は、締結部材である1対のボルト26を用いて、シリンダ8aの軸方向外端部の径方向外端部に固定されている。このため、アンカー25は、シリンダ8aに片持ち梁状に設けられており、ロータ6の径方向外側かつヨーク3aの径方向内側に配置される。また、アンカー25は、周方向に関して対称形状(図11の左右対称形状)、つまり、自身の中心軸O25に関して線対称の形状を有している。また、アンカー25を、その中心軸O25の周方向位置が、シリンダ8aの中心軸の周方向位置と一致する位置に設けている。このため、アンカー25(後述する定幅部30)は、アウタパッド5aのライニング47の周方向中央部S47と径方向に重なる位置に設けられている。
【0029】
アンカー25は、水平方向に配置された板状(棒状)のアンカー本体27と、1対の取付鍔28を備えている。アンカー本体27は、周方向に向いたブレーキ接線力を受けるため、周方向に関する剛性を十分に高める(断面二次モーメントを高くする)べく、軸方向に直交する仮想平面に関する断面形状を、径方向寸法よりも周方向寸法が大きい長円形状としている。このため、後述するように、アンカー本体27のうちで、アウタパッド5aに設けられた径方向突起51a、51bと当接する周方向外側面の断面形状は、凸円弧形状になっている。
【0030】
アンカー本体27には、軸方向内端部(基端部)乃至中間部に、軸方向外側に向かうほど周方向寸法が小さくなる先細部29が設けられており、軸方向外端部(先端部)に、周方向寸法及び径方向寸法が軸方向にわたり一定である定幅部30が設けられている。定幅部30は、後述するように、ヨーク3aとともに軸方向に移動するアウタパッド5aに設けられた径方向突起51a、51b同士の間に配置されるため、制動時におけるアウタパッド5aの軸方向移動量を考慮して、その軸方向寸法が規制されている。また、アンカー本体27の軸方向内端部の径方向内側面のうち周方向中間部には、シリンダ8aの小径部35aにブーツ31aを装着するための逃げ凹部32が設けられている。本例では、アンカー本体27の軸方向内端部を、径方向外側が凸となるように湾曲させることで、アンカー本体27の径方向内側面に逃げ凹部32を形成している。
【0031】
1対の取付鍔28は、アンカー本体27の軸方向内端部から周方向両外側に張り出すように設けられており、それぞれに軸方向に貫通したボルト挿通孔が形成されている。本例では、このようなボルト挿通孔を挿通したボルト26を、シリンダ8aの軸方向外端面に開口した雌ねじ孔に螺合することで、アンカー25をシリンダ8aにねじ止め固定している。具体的には、シリンダ8aのうちで、配管口19及びブリーダ20の軸方向外側にそれぞれ雌ねじ孔を有する取付座33を設け、該取付座33にボルト26を螺合している。また、アンカー25をシリンダ8aに固定する際に、取付鍔28の軸方向内側面を取付座33の軸方向外側面に突き当てるとともに、アンカー本体27の軸方向内端面をシリンダ8aの外周面に形成された段差面34に突き当てている。取付鍔28の軸方向内側面、取付座33の軸方向外側面、アンカー本体27の軸方向内端面及び段差面34は、それぞれ平坦面状に構成されており、シリンダ8aの軸方向外端部に設けられた小径部35aは、逃げ凹部32の内側に配置される。
【0032】
本例では、図8に示すように、軸方向に配設されたボルト26の中心軸O26の径方向位置を、アンカー本体27の先端部に設けた定幅部30の径方向寸法A30の範囲内に収まるように規制している。図示の例では、1対のボルト26の中心軸O26の径方向位置を、定幅部30の径方向中央部(凸円弧形状の円周方向外側面の頂部の径方向位置)に一致させて、1対のボルト26の中心軸O26と定幅部30の径方向中央部とを、同一仮想直線L上に配置している。これにより、定幅部30に作用するブレーキ接線力の作用点の径方向位置と、このブレーキ接線力を支承するボルト26の径方向位置とを一致若しくは互いに近づけて、定幅部30に入力されるブレーキ接線力をボルト26により効率良く支承し、アンカー本体27にモーメント力が作用しにくくしている。
【0033】
ヨーク3aは、金属製又は非金属製で、軸方向から見た形状が弓形状であり、サポート2a、インナ、アウタ両パッド4a、5a及びシリンダユニット17を、それぞれ径方向外側から覆うように配置される。このようなヨーク3aは、サポート2a及びシリンダユニット17の軸方向内側に配置されたインナボディ36と、アウタパッド5aの軸方向外側に配置されたアウタボディ37と、ロータ6の径方向外側に配置され、インナボディ36とアウタボディ37とを軸方向につなぐブリッジ部38を備えている。
【0034】
インナボディ36の周方向中央部の軸方向外側面は、平坦面状に構成されており、シリンダ8aに嵌装された第2ピストン22の先端部と軸方向に対向している。また、インナボディ36の周方向両外側部には、スライドピン9aを摺動可能に配置するためのスライド孔10aが軸方向に貫通した状態で設けられている。
【0035】
アウタボディ37の軸方向内側面には、アウタパッド5aを支持するために、それぞれが有底孔である支持孔39と1対の受孔(ダボ孔)40が設けられている。支持孔39は、略矩形状の凹部であり、アウタボディ37の軸方向内側面の周方向中央部に設けられている。1対の受孔40は、円柱形状の凹部であり、支持孔39の周方向両外側に設けられている。受孔40の内径寸法は、アウタパッド5aに設けられた後述の軸方向突部50の外径寸法よりも僅かに大きい。
【0036】
ブリッジ部38は、ロータ6の径方向外側に配置されており、その径方向内側面の周方向中央部に、アンカー本体27を収納するための軸方向に伸長した収納凹部41を設けている。収納凹部41は、断面略矩形状で、アンカー本体27の断面形状よりも周方向及び径方向にそれぞれ少しだけ大きい。また、ブリッジ部38の軸方向内側部の周方向中間部には、径方向に貫通した1対のインナ窓部42a、42bが周方向に離隔して設けられており、これらインナ窓部42a、42bからシリンダユニット17に設けられた配管口19とブリーダ20を露出させている。また、ブリッジ部38の軸方向外側部の周方向中央部には、径方向に貫通したアウタ窓部43が設けられており、このアウタ窓部43からアンカー25の軸方向外端部及びアウタパッド5aを構成する後述の径方向突起51a、51bを露出させている。
【0037】
上述のようなヨーク3aは、1対のスライドピン9aを利用して、固定部材であるシリンダユニット17に軸方向に関する移動を可能に支持されている。具体的には、スライドピン9aを、インナボディ36に設けられたスライド孔10aの内側に軸方向内側から挿入し、スライドピン9aの軸方向中間部をスライド孔10aの内側に摺動可能に配置する。また、スライドピン9aの先端部を、シリンダユニット17を構成するシリンダ腕部18の先端部に設けられた雌ねじ孔23に螺合する。これにより、スライドピン9aをシリンダユニット17に対して水平方向に固定するとともに、このようなスライドピン9aに対してヨーク3aを軸方向に関する移動を可能に支持している。また、スライドピン9aのうちでスライド孔10aから軸方向両側に露出した部分には、それぞれブーツ55を装着している。
【0038】
インナパッド4aは、ロータ6の軸方向内側に配置されており、ライニング(摩擦材)44と、ライニング44の裏面である軸方向内側面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)45とを備えている。このようなインナパッド4aは、サポート基部14の径方向外側でかつ1対のサポート腕部15の周方向内側部分に配置されることで、サポート2aに対し、軸方向に関する移動を可能に、かつ、径方向及び周方向に関する移動を制限された状態で支持される。具体的には、インナパッド4aを構成する裏板45の周方向両外側に設けた1対の耳部46を、1対のサポート腕部15の周方向内側面に形成した係合凹部62に対してそれぞれ凹凸係合させることで、インナパッド4aをサポート2aに対して支持している。また、このようにインナパッド4aをサポート2aに支持した状態で、裏板45の軸方向内側面には、第1ピストン21の先端部が軸方向に対向する。また、インナパッド4aの周方向中間部の径方向外側には、アンカー25(アンカー本体27)が配置される。
【0039】
アウタパッド5aは、ロータ6の軸方向外側に配置されており、ライニング(摩擦材)47と、ライニング47の裏面である軸方向外側面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)48とを備えている。本例では、アウタパッド5aを、周方向に関して対称形状としている。裏板48の軸方向外側面の周方向中央部には、板ばね製のパッドスプリング49がかしめ固定されている。また、裏板48の軸方向外側面の周方向両外側部には、1対の軸方向突部(ダボ)50が設けられている。軸方向突部50は、それぞれが略円柱状に構成されており、裏板48の軸方向外側面から軸方向外側に突出するように設けられている。本例では、軸方向突部50を、裏板48に対してエンボス加工を施すことにより、該裏板48と一体に形成している。ただし、本発明を実施する場合、軸方向突部50の成形方法は特に問わない。
【0040】
特に本例では、制動時にロータ6との接触に基づいてアウタパッド5aに作用するブレーキ接線力のうち、ヨーク3aを介してスライドピン9aに伝達される割合を減らすために、裏板48の外周縁部に、径方向外側に向けて突出した1対の径方向突起51a、51bを設けている。1対の径方向突起51a、51bは、周方向に離隔して配置されており、1対の径方向突起51a、51b同士の間に、アンカー25の軸方向外端部に設けた定幅部30を、軸方向の相対移動を可能に配置(挿入)できるようにしている。
【0041】
径方向突起51a、51bは、それぞれ略矩形状に構成されており、周方向に対向する周方向内側面を互いに平行な平坦面とし、周方向外側面を径方向外方に向かうほど互いに近づく方向に傾斜した傾斜面としている。また、1対の径方向突起51a、51bの周方向内側面同士の距離Hは、定幅部30の周方向寸法B30よりも僅かに大きい(H>B30)。特に本例では、1対の径方向突起51a、51b同士の間に定幅部30を中立位置となるように配置した状態で、定幅部30の凸円弧形状の周方向外側面と径方向突起51a、51bの平坦面状の周方向内側面との間に形成される隙間の大きさを、軸方向突部50と受孔40との間に形成される隙間よりも小さく設定している。
【0042】
アウタパッド5aをアウタボディ37の軸方向内側面に支持するには、アウタパッド5aの軸方向外側面に設けた1対の軸方向突部50を、アウタボディ37の軸方向内側面に形成した1対の受孔40に緩く凹凸嵌合(挿入)するとともに、アウタパッド5aの軸方向外側面に固定したパッドスプリング49を、支持孔39の内側に弾性的に係合させる。軸方向突部50を受孔40の内側に挿入することで、アウタボディ37に対するアウタパッド5aの周方向及び径方向の移動を制限する。また、パッドスプリング49を支持孔39に弾性的に係合(スナップフィット係合)させることで、アウタパッド5aの周方向に関する位置決め図る(センタリング機能を発揮させる)とともに、軸方向内側への脱落を防止する。また、アウタパッド5aをアウタボディ37の軸方向内側面に取り付けた状態で、1対の径方向突起51a、51b同士の間にアンカー25の定幅部30を配置する。
【0043】
本例のフローティング型ディスクブレーキ1aにより制動を行うには、シリンダ8a内の油圧室に圧油を導入する。これにより、第1ピストン21及び第2ピストン22を、軸方向に関して互いに離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、第1ピストン21によりインナパッド4aを、ロータ6の軸方向内側面に、図5の上方から下方に押し付ける。同時に、第2ピストン22によりインナボディ36を、図5の下方から上方に押し付け、ヨーク3aを固定部材であるサポート2a及びシリンダユニット17に対して、図5の上側に移動させる。これにより、アウタボディ37を介してアウタパッド5aを、ロータ6の軸方向外側面に、図5の下方から上方に押し付ける。この結果、ロータ6が軸方向両側から強く挟持されて制動が行われる。
【0044】
インナパッド4a及びアウタパッド5aによりロータ6を軸方向両側から挟持すると、インナパッド4a及びアウタパッド5aにはそれぞれ周方向(回出側)に向いたブレーキ接線力が作用する。インナパッド4aに作用するブレーキ接線力は、サポート2aが直接支承する。これに対し、アウタパッド5aに作用するブレーキ接線力は、アンカー25が直接支承する。この点につき、図16を参照して詳しく説明する。
【0045】
図16の(A)に示すように、自動車の前進時におけるロータ6の回転方向が時計回りである場合、前進制動時には、アウタパッド5aを構成するライニング47の摩擦面中心(図心)に、周方向片側(回出側、図16の(A)の右側)に向いたブレーキ接線力F1が作用する。これにより、アウタパッド5aは周方向片側に移動し、周方向他側(図16の(A)の左側)に設けられた径方向突起51aの周方向内側面を、定幅部30の周方向外側面に当接させる。このため、アンカー25は、アウタパッド5aの周方向他側の径方向突起51aとの当接に基づいて、前進制動時に作用するブレーキ接線力F1を直接支承する。この際、径方向突起51aの周方向内側面と定幅部30の周方向外側面との当接部P1の周方向位置は、ライニング47の周方向中央部S47よりも回入側(周方向他側)に位置しており、かつ、ライニング47の周方向の範囲R内に位置している。
【0046】
本例では、径方向突起51aの平坦面状の周方向内側面と定幅部30の凸円弧形状の周方向外側面とを当接させるため、接触状態を線接触にして、当接位置を安定させることができる。また、当接部P1は、ブレーキ接線力F1の作用線よりも径方向外側に位置しているため、前進制動時には、アウタパッド5aに、該アウタパッド5aを反時計回りに回動させようとするモーメントが作用する。このようなモーメントは、定幅部30の径方向内側面と裏板48の外周縁部とを当接させることで、アンカー25によって支承することもできるし、軸方向突部50と受孔40との当接部を介してヨーク3aに伝達することもできる。本例では、図7に示すように、前進制動時に、アウタパッド5aに作用するモーメントを、径方向突起51aの周方向内側面と定幅部30の周方向外側面との第1の支承部X1(当接部P1)と、周方向片側(回出側、図7の右側)の軸方向突部50の径方向外端部と受穴40の径方向外端部との第2の支承部X2と、周方向他側(回入側、図7の左側)の軸方向突部50の径方向内端部と受穴40の径方向内端部との第三の支承部X3との3点の支承部X1、X2、X3で支承する。3点の支承部X1、X2、X3を結んで描かれる三角形の大きさ(面積)は、アウタパッド5aの軸方向への傾きやすさと相関があり、三角形が径方向に広がっているほど、外周側部分又は内周側部分が軸方向に傾きにくく当該部分に偏摩耗が生じにくくなり、三角形が周方向に広がっているほど、回入側部分又は回出側部分が軸方向に傾きにくく当該部分に偏摩耗が生じにくくなる。本例では、モーメントを支承する3点の支承部X1、X2、X3のうち、第1の支承部X1を、ライニング47よりも径方向外側に配置することができるため、ライニング47の外周側部分が軸方向(ロータ6側)に傾くことを有効に防止できる。したがって、ライニング47の外周側部分に偏摩耗が生じることを有効に防止できる。
【0047】
これに対し、後進制動時には、図16の(B)に示すように、アウタパッド5aを構成するライニング47の摩擦面中心に、周方向他側(回出側、図16の(B)の左側)に向いたブレーキ接線力F2が作用する。これにより、アウタパッド5aは周方向他側に移動し、周方向片側(図16の(B)の右側)に設けられた径方向突起51bの周方向内側面を、定幅部30の周方向外側面に当接させる。このため、アンカー25は、アウタパッド5aの周方向片側の径方向突起51bとの当接に基づいて、後進制動時に作用するブレーキ接線力F2を直接支承する。径方向突起51bの周方向内側面と定幅部30の周方向外側面との当接部P2の周方向位置も、ライニング47の周方向中央部S47よりも回入側(周方向片側)に位置しており、かつ、ライニング47の周方向の範囲R内に位置している。
【0048】
本例では、後進制動時においても、径方向突起51bの平坦面状の周方向内側面と定幅部30の凸円弧形状の周方向外側面とを当接させるため、接触状態を線接触にして、当接位置を安定させることができる。また、後進制動時に作用するブレーキ接線力F2に基づくモーメントについても、前進制動時の場合と同様にアンカー25によって支承するか、軸方向突部50と受孔40との当接部を介してヨーク3aに伝達する。
【0049】
次に、前進制動時にインナパッド4aに作用するモーメントについて、図6を参照して説明する。
自動車の前進時におけるロータ6の回転方向が時計回りである場合、前進制動時には、インナパッド4aを構成するライニング44の摩擦面中心(図心)に、周方向片側(回出側、図6の右側)に向いたブレーキ接線力F3が作用する。これにより、インナパッド4aは周方向片側に移動し、裏板45の周方向他側(図6の左側)の径方向内端部に設けられた突起部63の周方向内側面を、サポート2aを構成するサポート基部14の一部に当接させる。ここで、突起部63の周方向内側面とサポート基部14との当接部は、ブレーキ接線力F3の作用線よりも径方向内側に位置しているため、前進制動時には、インナパッド4aに、該インナパッド4aを時計回りに回動させようとするモーメントが作用する。そして本例では、インナパッド4aに作用するモーメントを、突起部63とサポート基部14との第1の支承部Y1と、周方向片側の耳部46の径方向内側面と係合凹部62の径方向内側面との第2の支承部Y2と、周方向他側の耳部46の径方向外側面と係合凹部62の径方向外側面との支承部Y3との3点の支承部Y1、Y2、Y3で支承する。本例では、モーメントを支承する3点の支承部Y1、Y2、Y3のうち、第2の支承部Y2と第3の支承部Y3を裏板45の周方向両端部に配置することができる。このため、ライニング44の回入側部分と回出側部分に偏摩耗が生じることを有効に防止できる。
【0050】
制動解除時には、シリンダ8aの油圧室から圧油を排出する。これにより、第1ピストン21は、第1ピストン21の周囲に配置したシール部材52aの弾力によって、内部空間に引き戻される(ロールバックする)。同様に、第2ピストン22に関しても、第2ピストン22の周囲に配置したシール部材52bの弾力により、内部空間に引き戻される。
【0051】
以上のような本例のフローティング型ディスクブレーキ1aによれば、制動時にアウタパッド5aに作用するブレーキ接線力F1、F2にかかわらず、アウタパッド5aを支持するヨーク3aに傾き(チルト)が発生することを抑制できる。
すなわち、本例では、前進制動時及び後進制動時に、アウタパッド5aの外周縁部に設けた径方向突起51a、51bを、シリンダ8aに片持ち梁状に設けたアンカー25に当接させることで、アウタパッド5aに作用するブレーキ接線力F1、F2を、アンカー25によって直接支承することができる。このため、ブレーキ接線力F1、F2が、アウタパッド5aに設けた軸方向突部50とアウタボディ37に設けた受孔40との当接部を通じてヨーク3aに伝達される割合を減らすことができる。したがって、ヨーク3aに傾き(チルト)が発生することを有効に防止できる。この結果、アウタパッド5aを構成するライニング47に偏摩耗が生じることを抑制できるとともに、制動時に鳴きなどの異音(ノイズ)が発生することを抑制できる。また、スライドピン9aとスライド孔10aとの間の摺動抵抗が増大する(コジリ力が発生する)ことを抑制できるため、ジャダーの発生を抑制することもできる。
なお、本例の構造では、ブレーキ接線力F1、F2が作用した場合に、軸方向突部50と受孔40とが当接するよりも前に、径方向突起51a、51bをアンカー25に当接させる場合について説明したが、径方向突起51a、51bと定幅部30とが当接するのと同時又はそれ以前に、軸方向突部50と受孔40とを当接させることも可能である。この場合にも、ブレーキ接線力F1、F2の少なくとも一部をアンカー25が支承できるため、ヨーク3aの傾きを抑えることが可能である。
【0052】
また、本例では、軸方向突部50を、裏板48に一体に設けているため、製造コストの低減を図れるとともに、部品点数の低減を図れる。また、軸方向突部50の剛性を確保しやすくできる。さらに、軸方向突部50を円柱形状とし、受孔40を円柱形状の凹部としているため、軸方向突部50の外径が寸法公差の中でプラス側にばらついたものを使用する(又は受孔40の内径が寸法公差の中でマイナス側にばらついたものを使用する)ことで、軸方向突部50と受孔40との間の隙間(クリアランス)を低減でき、ラトル音及びクロンク音などの異音を低減することもできる。
【0053】
また、アンカー本体27の断面形状を、径方向寸法よりも周方向寸法が大きい長円形状としているため、ブレーキ接線力を支承するのに重要な周方向に関する剛性を確保しつつ、径方向寸法が過大になることを防止できる。このため、アンカー本体27を覆うように配置されるヨーク3aの外径寸法が過大になることを防止できる。さらに、ヨーク3aの径方向内側面に、アンカー本体27を収納するための収納凹部41を設けているため、アンカー25を設けたことに起因して、ヨーク3aの外径寸法が大きくなることを効果的に防止できる。この結果、フローティング型ディスクブレーキ1aの大型化を防止できる。
【0054】
また、本例では、アンカー25とアウタパッド5aとの当接部P1、P2を、ライニング47の周方向の範囲R内に位置させている。このため、ブレーキ接線力F1、F2に基づいてアウタパッド5aに生じる径方向に向いた中心軸回りのモーメント(巻き込み力)に関してモーメントアームを短くできるので、ロータ6に対するライニング47の押し付け力を低く抑えられる。したがって、ライニング47の偏摩耗を抑制することができる。また、制動時に鳴きなどの異音が発生することを抑制できる。さらに、当接部P1、P2をライニング47の周方向の範囲R内に位置させているため、裏板48の外周縁部に設ける径方向突起51a、51bの突出量を抑えることができる。このため、アウタパッド5aの重量増大を抑えられるとともに、フローティング型ディスクブレーキ1aの大型化を抑制できる。また、固定部材であるシリンダユニット17に関しても、アンカー25を固定するために、新たに周方向に張り出した部分などを新設する必要がないため、この面からも重量増大を抑制できる。
【0055】
また、アンカー本体27の軸方向内端部の径方向内側面に逃げ凹部32を設けているため、シリンダ8aの軸方向外端部に装着するブーツ31aとアンカー本体27とが干渉することを防止できる。このため、アンカー25を、必要以上に径方向外側に配置しなくて済む。
【0056】
さらに、アンカー25をシリンダ8aとは別体に構成しているため、アンカー25とシリンダ8aとを別の材料から製造したり、例えば鋳造や鍛造といった製造方法を異ならせることもできる。このため、アンカー25の寸法精度や形状精度を高めたり、軽量化や剛性を高める上で有利になる。また、本例では、アンカー25によって、自動車の走行時にアウタパッド5aが上下方向に振動するのを抑制することもできる。
【0057】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図17を用いて説明する。本例では、アウタパッド5aを構成する裏板48の外周縁部に設けた1対の径方向突起51a、51bの径方向外端部同士を、連結部56により周方向に連結している。
【0058】
以上のような構成を有する本例では、径方向突起51a、51bの周方向に関する剛性の向上を図れる。このため、径方向突起51a、51bの周方向に関する弾性変形量を低減できるので、アウタパッド5aに作用するブレーキ接線力が、スライドピン9a(図5参照)に伝達されることをより有効に抑制できる。
その他の構成及び作用効果については、前述した実施の形態の第1例と同じである。
【0059】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図18を用いて説明する。本例では、アウタパッド5aに設けた径方向突起51c、51dの断面形状と、アンカー25の軸方向外端部に設けた定幅部30aの断面形状とを、実施の形態の第1例の構造とは反対にしている。すなわち、径方向突起51c、51dの周方向内側面の断面形状を凸円弧形状とし、定幅部30aの周方向外側面の断面形状を平坦面状としている。
【0060】
以上のような構成を有する本例の場合にも、径方向突起51c、51dと定幅部30aとの接触状態を線接触にすることができるため、これら径方向突起51c、51dと定幅部30aとの当接位置を安定させることができる。
その他の構成及び作用効果については、前述した実施の形態の第1例と同じである。
【0061】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図19図23を用いて説明する。本例のフローティング型ディスクブレーキ1bでは、前述した従来構造と同様に、ヨーク3bにシリンダ8bを一体的に設けた構造を採用している。シリンダ8bには、軸方向外側に向けて押し出される1個のピストン57のみを嵌装している。また、シリンダ8bは、ヨーク3bの一部であり、固定部材を構成しない。ヨーク3bの基本的な構造が異なる以外、ヨーク3bに対するアウタパッド5bの支持構造などは、基本的に実施の形態の第1例の構造と同じである。
【0062】
本例のヨーク3bは、インナボディ36aの周方向中央部にシリンダ8bを一体に有しており、1対のスライドピン9aを利用して、固定部材であるサポート2bに対して軸方向に関する移動を可能に支持されている。具体的には、スライドピン9aを、インナボディ36aの周方向両側に設けられたスライド孔の内側に軸方向内側から挿入し、スライドピン9aの軸方向中間部をスライド孔の内側に摺動可能に配置する。また、スライドピン9aの先端部を、サポート2bを構成するサポート腕部15aの先端部に設けられた締結孔58に螺合する。これにより、スライドピン9aをサポート2bに対して水平方向に固定するとともに、このようなスライドピン9aに対してヨーク3bを軸方向に関する移動を可能に支持している。また、本例では、サポート2bとして、鋼板などの十分な強度及び剛性を有する金属板に、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレス加工を施した、略U字形のいわゆる板金サポートを使用している。
【0063】
本例では、上述のようなサポート2bに、制動時にアウタパッド5bに作用するブレーキ接線力を支承するためのアンカー25aを設けている。アンカー25aは、サポート2bと同様に、鋼板などの十分な強度及び剛性を有する金属板に、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレス加工を施して造られたもので、サポート2bとは別体に構成されている。このようなアンカー25aは、スライドピン9aを用いて、サポート腕部15aの先端部に固定されている。このため、アンカー25aは、サポート2bに片持ち梁状に設けられており、ロータ6(図5参照)の径方向外側かつヨーク3bの径方向内側に配置される。
【0064】
アンカー25aは、1対のサポート腕部15aの先端部同士の間に周方向に架け渡すように設けられた長板状のアンカー本体27aと、該アンカー本体27aの周方向両側部から径方向内側に直角に折れ曲がるように設けられた1対の取付部59を備えている。アンカー本体27aの軸方向外端部(先端部)の周方向中間部には、1対のアンカー突起部60a、60bが周方向に離隔して設けられている。また、1対のアンカー突起部60a、60bの周方向内側面の断面形状は、互いに平行な平坦面状になっている。取付部59には、スライドピン9aを軸方向に挿通するための挿通孔61が形成されている。
【0065】
本例では、アウタパッド5bを構成する裏板48aの外周縁部の周方向中央部に、径方向外側に向けて突出した1つの径方向突起51eを設けている。径方向突起51eは、断面略矩形状に構成されており、1対のアンカー突起部60a、60b同士の間に配置可能な周方向寸法を有している。具体的には、1対のアンカー突起部60a、60b同士の間に径方向突起51eを配置(中立位置に配置)した状態で、径方向突起51eの周方向外側面とアンカー突起部60a、60bの周方向内側面との間に形成される隙間の大きさを、アウタパッド5bに設けた軸方向突部50とヨーク3bに設けた受孔40(図5参照)との間に形成される隙間よりも小さく設定している。また、本例では、ヨーク3bを構成するブリッジ部38aの径方向内側面に、アンカー本体27aを収納可能な収納凹部41aを形成している。
【0066】
以上のような構成を有する本例では、前進制動時に、径方向突起51eの周方向外側面が周方向片側に設けられたアンカー突起部60aの周方向内側面に当接する。このため、アンカー25aは、アウタパッド5bの径方向突起51eとの当接に基づいて、前進制動時に作用するブレーキ接線力F1を直接支承する。また、後進制動時には、径方向突起51eの周方向外側面が周方向他側に設けられたアンカー突起部60bの周方向内側面に当接する。このため、アンカー25aは、アウタパッド5bの径方向突起51eとの当接に基づいて、後進制動時に作用するブレーキ接線力F2を直接支承する。
【0067】
以上のように、本例では、ヨーク3bに設けたアンカー25aによって、前進制動時及び後進制動時に作用するブレーキ接線力F1、F2を支承することができる。このため、アウタパッド5bを支持するヨーク3bに傾き(チルト)が発生することを抑制できる。この結果、アウタパッド5bに偏摩耗が生じることを抑制でき、制動時に鳴きなどの異音(ノイズ)が発生することを抑制できる。また、本例では、サポート2bを構成する1対のサポート腕部15aに、アンカー25aを周方向に架け渡すように固定しているため、サポート2bとして板金サポートを使用した場合にも十分な強度を確保できる。また、アンカー25aを、スライドピン9aを利用してサポート2bに固定しているため、部品点数の低減及び軽量化を図ることができる。
【0068】
また、本例の場合にも、前進制動時には、アウタパッド5bには、該アウタパッド5bを反時計回りに回動させようとするモーメントが作用する。そして、図23に示すように、前進制動時にアウタパッド5bに作用するモーメントを、径方向突起51eの周方向外側面とアンカー突起部60aの周方向内側面との第1の支承部X1と、周方向片側(回出側、図23の右側)の軸方向突部50の径方向外端部と受穴40の径方向外端部との第2の支承部X2と、周方向他側(回入側、図23の左側)の軸方向突部50の径方向内端部と受穴40の径方向内端部との第三の支承部X3との3点の支承部X1、X2、X3で支承する。本例の場合にも、モーメントを支承する3点の支承部X1、X2、X3のうち、第1の支承部X1を、ライニング47よりも径方向外側に配置することができるため、ライニング47の外周側部分の偏摩耗を有効に防止することができる。
【0069】
また、図22に示すように、自動車の前進時におけるロータ6の回転方向が時計回りである場合、前進制動時には、インナパッド4aを構成するライニング44の摩擦面中心に、周方向片側(回出側、図22の右側)に向いたブレーキ接線力F3が作用する。これにより、インナパッド4aは周方向片側に移動し、裏板45の周方向他側(図22の左側)の径方向内端部に設けられた突起部63aの周方向内側面を、サポート2bを構成するサポート基部14の一部に当接させる。ここで、突起部63aの周方向内側面とサポート基部14との当接部は、ブレーキ接線力F3の作用線よりも径方向内側に位置しているため、前進制動時には、インナパッド4aに、該インナパッド4aを時計回りに回動させようとするモーメントが作用する。そして本例では、インナパッド4aに作用するモーメントを、突起部63aとサポート基部14との第1の支承部Y1と、周方向片側の耳部46の径方向内側面と周方向片側のサポート腕部15aに設けられた段差面64との第2の支承部Y2と、裏板45の外周縁部とアンカー本体27aの径方向内側面との支承部Y3との3点の支承部Y1、Y2、Y3で支承する。本例では、モーメントを支承する3点の支承部Y1、Y2、Y3のうち、第3の支承部Y3を、ライニング44よりも径方向外側に配置することができるため、ライニング44の外周側部分に偏摩耗が生じることを有効に防止できる。また、第1の支承部Y1を裏板45の径方向内端部に配置しているため、ライニング44の内周側部分に偏摩耗が生じることも防止できる。さらに、第1の支承部Y1と第2の支承部Y2とを、裏板45の周方向他端寄り部分と周方向片端部に配置して、これら第1の支承部Y1と第2の支承部Y2との周方向間隔を大きく確保できるため、ライニング44の回入側部分と回出側部分とに偏摩耗が生じることを防止することもできる。さらに本例では、第2の支承部Y2の径方向位置を変更することで、ライニング44の周方向片側部における外周側部分及び内周側部分の偏摩耗のしやすさを調整(チューニング)することもできる。
その他の構成及び作用効果については、前述した実施の形態の第1例と同じである。
【0070】
本発明は、矛盾が生じない限り、実施の形態の各例の構造を適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、1a、1b フローティング型ディスクブレーキ
2、2a、2b サポート
3、3a、3b ヨーク
4、4a インナパッド
5、5a、5b アウタパッド
6 ロータ
7 爪部
8、8a、8b シリンダ
9、9a スライドピン
10、10a スライド孔
11 パッドスプリング
12 軸方向突部
13 受孔
14 サポート基部
15 サポート腕部
16 取付孔
17、17a シリンダユニット
18 シリンダ腕部
19 配管口
20 ブリーダ
21 第1ピストン
22 第2ピストン
23 雌ねじ孔
24 固定ねじ
25、25a アンカー
26 ボルト
27、27a アンカー本体
28 取付鍔
29 先細部
30、30a 定幅部
31a、31b ブーツ
32 逃げ凹部
33 取付座
34 段差面
35a、35b 小径部
36、36a インナボディ
37 アウタボディ
38、38a ブリッジ部
39 支持孔
40 受孔
41、41a 収納凹部
42a、42b インナ窓部
43 アウタ窓部
44 ライニング
45 裏板
46 耳部
47 ライニング
48 裏板
49 パッドスプリング
50 軸方向突部
51a~51e 径方向突起
52a、52b シール部材
53 連結部
55 ブーツ
56 連結部
57 ピストン
58 締結孔
59 取付部
60a、60b アンカー突起部
61 挿通孔
62 係合凹部
63、63a 突起部
64 段差面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24