(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】建物換気システム及び建物換気制御方法
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20220725BHJP
F24F 11/77 20180101ALI20220725BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F11/77
F24F7/06 N
(21)【出願番号】P 2018115211
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】下町 浩二
(72)【発明者】
【氏名】工藤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】北村 禎章
(72)【発明者】
【氏名】本間 瑞基
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-140479(JP,A)
【文献】特開2000-028245(JP,A)
【文献】特開2002-181363(JP,A)
【文献】特開2019-049400(JP,A)
【文献】特開平05-044969(JP,A)
【文献】特開昭59-041731(JP,A)
【文献】特開昭64-041741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/007
F24F 11/77
F24F 7/06
F24F 110/10
F24F 110/12
F24F 110/20
F24F 110/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の保管物を保管する建物の換気制御を行う建物換気システムであって、
前記建物内において、相対的に風通しの良好な場所を計測点Aとし、相対的に風通しの不良な場所を計測点Bとし、
前記計測点Aにおいて少なくとも温度を計測するA点センサ、前記計測点Bにおいて少なくとも湿度を計測するB点センサ、及び屋外において少なくとも温度を計測する屋外センサと、
前記建物の室内と屋外との間で換気を行う換気装置と、
前記A点センサ、前記B点センサ、及び屋外センサにより送信される計測データを受信し、該計測データに基づいて前記換気装置の運転制御を実行する制御装置と、を有し、
前記制御装置は演算部とデータ格納部を有し、
前記データ格納部には、少なくとも、
複数の前記保管物が
積層状態にあって、下方の該保管物の座屈強度が上載荷重に耐え切れずに座屈する際の室内相対湿度上限値が格納されており、
前記演算部において、
前記計測点Aの温度と、屋外温度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、次に、前記計測点Bの相対湿度と、前記室内相対湿度上限値と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする、建物換気システム。
【請求項2】
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Bの絶対湿度と、屋外絶対湿度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする、請求項1に記載の建物換気システム。
【請求項3】
前記データ格納部には、前記計測点Aの温度に対して付加される許容温度が格納されており、
前記演算部において、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Aの温度及び前記許容温度の合計温度と、屋外温度と、の高低の判定制御が実行され、
前記合計温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記合計温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする、請求項2に記載の建物換気システム。
【請求項4】
前記A点センサ及び前記屋外センサは湿度も計測し、
前記演算部において、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は、次に、屋外相対湿度と、屋外相対湿度上限値と、の高低の判定制御が実行され、
前記屋外相対湿度が前記屋外相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記屋外相対湿度が前記屋外相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Aの絶対湿度と、前記屋外絶対湿度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Aの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Aの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、前記計測点Bの相対湿度と前記室内相対湿度上限値の高低の判定制御が実行されることを特徴とする、請求項3に記載の建物換気システム。
【請求項5】
前記建物が物流倉庫であり、前記保管物が物品を収容した紙製箱であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物換気システム。
【請求項6】
複数の保管物を保管する建物の換気制御を行う建物換気制御方法であって、
前記建物内において、相対的に風通しの良好な場所を計測点Aとし、相対的に風通しの不良な場所を計測点Bとし、
前記計測点Aにおいて少なくとも温度を計測するA点センサが設けられ、前記計測点Bにおいて少なくとも湿度を計測するB点センサが設けられ、屋外において少なくとも温度を計測する屋外センサが設けられ、
前記建物の室内と屋外との間で換気を行う換気装置が設けられ、
複数の前記保管物が
積層状態にあって、下方の該保管物の座屈強度が上載荷重に耐え切れずに座屈する際の室内相対湿度上限値が設定されており、
前記計測点Aの温度と、屋外温度と、の高低の判定を行う、A点温度-屋外温度比較工程、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は前記換気装置の運転制御を行う運転制御工程、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、前記計測点Bの相対湿度と、前記室内相対湿度上限値と、の高低の判定を行うB点相対湿度-上限値比較工程、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御を行う運転制御工程、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御を行う運転停止制御工程、を有することを特徴とする、建物換気制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物換気システム及び建物換気制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調設備を備えず、換気装置のみが設置されている物流倉庫は多数存在している。例えば、生鮮食品等、空調管理がなされた状態で保管される必要のある物品を保管する倉庫(例えば物流倉庫)では、空調設備の設置が必須となる。これに対して、飲料水や缶詰等、空調管理を必ずしも必要としない物品を保管する場合、これらの物品が段ボール箱等の紙製箱に詰め込まれ、換気装置のみが設置された倉庫内において積み上げられる等して保管される。
【0003】
このように換気装置のみを備える倉庫では、作業員やフォークリフト等の通行する通行路や、換気装置から供給される外気が直接流れる領域等、倉庫内でも相対的に風通しの良好な場所と、倉庫の隅等、倉庫内でも相対的に風通しの不良な場所が生じ得る。風通しの良好な場所は湿度が低下し易く、風通しの不良な場所は湿度が高くなり易い。
【0004】
ところで、倉庫内で多数の物品を保管する場合、上記するように段ボール箱等の紙製箱が一般に適用され、紙製箱内に複数の同種の物品を収容して梱包し、直置きで積み上げられたり、ラック内に積み上げられる態様で物品の保管が行われる。しかしながら、紙製箱は湿度が高くなるに従いその強度(座屈強度)が低下する特性を有している。そのため、倉庫内において、風通しが悪く、湿度の高い場所において複数の紙製箱が積み上げられた状態では、各紙製箱の座屈強度が低下し易く、特に複数の紙製箱が積層状態にある下方の紙製箱に関しては、低下した座屈強度が上載荷重に耐え切れず、座屈に至り得るといった恐れがある。そのため、換気装置を適切に制御することにより、倉庫内に保管された紙製箱の座屈を防止することが必要になる。
【0005】
そこで、屋内と屋外の温度差や湿度差に基づく制御機能を有する換気扇が提案されている。具体的には、換気扇の本体に内蔵される屋外用温度・湿度センサと屋内用温度・湿度センサの情報に基づいて、その温度差と湿度差から吸気や排気の判断及び制御を行うと共に、指定時刻にオン動作やオフ動作をするためのタイマー回路を内蔵した制御部を有する換気扇である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の換気扇によれば、屋外と屋内の温度差や湿度差から吸気や排気の判断と制御を行うことができる。しかしながら、上記するように、倉庫内に多数の紙製箱が積み上げられた状態で収容されている場合において、相対的に風通しの良好な場所と不良な場所が生じ、風通しの不良な場所では湿度が高くなり易いといった倉庫環境下において、換気扇の適正な動作が制御されるか否かは不明である。
【0008】
例えば、風通しの良好な場所における温度や湿度に基づいて換気扇(換気装置)の動作管理(オン動作管理、オフ動作管理)をおこなうと、風通しの不良な場所にとっては換気が不十分になり易く、風通しの不良な場所における紙製箱の座屈の問題が顕在化する。一方、風通しの不良な場所における温度や湿度に基づいて換気装置の動作管理を行うと、今度は倉庫内が必要以上に換気され(風通しの不良な場所以外の場所では、換気の必要性がない中で換気が行われる)、換気装置のランニングコスト高騰の問題が顕在化する。
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、風通しの良好な場所と不良な場所が存在する建物内に複数の保管物を保管するに際して、保管物の座屈を解消し、かつ換気装置のランニングコストの高騰を抑止できる建物換気システム及び建物換気制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による建物換気システムの一態様は、
複数の保管物を保管する建物の換気制御を行う建物換気システムであって、
前記建物内において、相対的に風通しの良好な場所を計測点Aとし、相対的に風通しの不良な場所を計測点Bとし、
前記計測点Aにおいて少なくとも温度を計測するA点センサ、前記計測点Bにおいて少なくとも湿度を計測するB点センサ、及び屋外において少なくとも温度を計測する屋外センサと、
前記建物の室内と屋外との間で換気を行う換気装置と、
前記A点センサ、前記B点センサ、及び屋外センサにより送信される計測データを受信し、該計測データに基づいて前記換気装置の運転制御を実行する制御装置と、を有し、
前記制御装置は演算部とデータ格納部を有し、
前記データ格納部には、少なくとも、前記保管物が座屈する際の室内相対湿度上限値が格納されており、
前記演算部において、
前記計測点Aの温度と、屋外温度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、次に、前記計測点Bの相対湿度と、前記室内相対湿度上限値と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、建物内の風通しの良好な場所と風通しの不良な場所の2点、及び屋外の1点の計3点の温度や湿度に関する計測データに基づき、制御装置による複数の判定制御によって換気装置の運転制御と運転停止制御を行うことにより、換気装置のランニングコストの高騰を抑止しながら保管物の座屈を効果的に防止することができる。本態様の建物換気システムでは、計測点を必要最低限の3点に設定することにより、制御装置による制御の元になる計測データが多数に及んで計測データの整理やこれに基づく換気装置の制御が煩雑になるといった問題は生じない。ここで、「相対的に風通しの良好な場所」、「相対的に風通しの不良な場所」の「相対的に」とは、建物内において、他の場所に比べて風通しが良好もしくは不良であることを意味している。例えば、換気装置により給気された外気が直接流通する場所は「相対的に風通しの良好な場所」に設定でき、建物の隅角部にあって、例えば積み上げられた保管物により外気の良好な流通が阻害されて湿気が籠り易い場所は、「相対的に風通しの不良な場所」に設定できる。
【0012】
換気装置には様々な形態があり、給気に送風機を用い、排気に排風機を用いて同時給排を行う形態の他、給気に送風機を用い、排気を自然排気で行う形態や、給気を自然給気で行い、排気に排風機を用いる形態などがある。送風機、排風機としては、例えばファンが適用できる。
【0013】
また、「計測点Aにおいて少なくとも温度を計測するA点センサ」に関し、計測点Aでは、温度のみを計測してもよいし、温度に加えて湿度を計測してもよい。この場合、A点センサは、温度センサを少なくとも有し、温度センサに加えて湿度センサを含めてA点センサとすることができる。例えば、A点センサとして、温度センサと湿度センサの双方を適用してもよいし、温度と湿度の双方を計測可能な温度・湿度センサを適用してもよい。このことは、他のB点センサと屋外センサについても同様である。
【0014】
制御装置は、例えば、建物内に置き据えられたマイクロコンピュータ(マイコン)により構成される。このマイコンにより、A点センサ、B点センサ、及び屋外センサにより送信される温度や湿度に関する計測データが取り込まれる。
【0015】
本態様における制御装置の演算部による制御では、主として2つの判定制御が実行される。まず、計測点Aの温度と屋外の温度との高低の判定制御が実行され、計測点Aの温度が屋外温度よりも高いと判定された場合は、建物内の全てのエリアの温度が屋外温度よりも高いと判定できることから換気の必要ありと特定でき、換気装置の運転制御が実行される。一方、計測点Aの温度が屋外温度よりも低いと判定された場合は、温度のみでは換気装置の運転制御が完全に必要か否かが不明であることから、次に、計測点Bの相対湿度と室内相対湿度上限値の高低の判定制御が実行される。この室内相対湿度上限値は、保管物が座屈する際の室内相対湿度のことであり、保管物の種類に応じて適宜変更される。例えば、高い湿度環境下で座屈の危険性のある複数の保管物が存在し得る場合は、保管物ごとに室内相対湿度上限値を設定しておき、制御装置のデータ格納部に格納しておくのがよい。この判定制御により、計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、風通しの不良な場所において保管物の座屈の危険性があると特定できることから、換気装置の運転制御が実行される。一方、計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、風通しの不良な場所において保管物の座屈の危険性はない、もしくは危険性は極めて低いと特定できることから、換気装置の運転停止制御が実行される。尚、この運転停止制御は、それまで換気装置が運転していない場合は、継続して換気装置の運転を行わないことを意味しており、それまで換気装置が運転している場合は換気装置の運転を停止することを意味している。また、上記する演算部による制御において、「・・・よりも高い」、「・・・よりも低い」に関し、ある判定制御において、一方を「・・・よりも高い」と規定した場合、他方の「・・・よりも低い」は「・・・以下」を含むことを意味する。但し、ある基準値に対して高いか低いかが重要であり、その基準値を高い方が含むか低い方が含むかは適宜設定される事項であることを付言する。
【0016】
このように、計測点Aの温度、屋外温度、計測点Bの湿度、室内相対湿度上限値を使用することにより、最低限の数のセンサによる計測データに基づいて換気装置を適正に運転制御及び運転停止制御することができる。そのため、換気装置のランニングコストの高騰を抑止しながら、建物内に保管されている保管物の座屈を効果的に防止することが可能になる。
【0017】
また、本発明による建物換気システムの他の態様において、前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Bの絶対湿度と、屋外絶対湿度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合において、より精度よく換気装置の運転制御を実行することができる。具体的には、計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合、次に、計測点Bの絶対湿度と屋外絶対湿度の高低の判定制御が実行される。仮に計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高い場合でも、計測点Bの絶対湿度よりも屋外絶対湿度が高い場合、換気装置の運転制御を実行しても計測点Bの湿度環境は一層悪くなるだけである。そこで、制御装置により、計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は換気装置の運転制御を実行することとし、計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は換気装置の運転停止制御を実行することにより、より精度の高い換気装置の運転制御が実行可能になる。
【0019】
また、本発明による建物換気システムの他の態様において、前記データ格納部には、前記計測点Aの温度に対して付加される許容温度が格納されており、
前記演算部において、
前記計測点Bの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Aの温度及び前記許容温度の合計温度と、屋外温度と、の高低の判定制御が実行され、
前記合計温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記合計温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御が実行されることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合において、建物内部に蓄積された冷気による温度低下を勘案して、より精度よく換気装置の運転制御を実行することができる。本発明者等によれば、例えば夜間に換気の必要性が高くなる夏場等において夜間換気(もしくはナイトパージと称することもできる)を行った場合、建物の壁や床に夜間換気によって給気される外気(冷気)が蓄積され、夜間換気をしない場合に比べて、この蓄積された冷気により日中の建物内の温度を1.5℃乃至2℃程度低下可能であることが特定されている。これを蓄冷換気と称することができるが、この蓄冷換気による建物内の温度低下量を許容温度に設定し、計測点Aの温度と許容温度の合計温度が屋外温度以下の場合は、敢えて換気装置を運転停止制御しても、計測点Aの温度は実際に計測された温度よりも許容温度だけ低くなり得ることから、換気装置を運転停止制御することにするものである。この運転停止制御により、特に風通しの良好な場所の温度は高いままの状態となるが、このことにより、建物内の温度を低下させる場合に比べて計測点Bの相対湿度を低くすることが可能になり、風通しの不良な場所における保管物の座屈の危険性を低減することができる。
【0021】
また、本発明による建物換気システムの他の態様において、前記A点センサ及び前記屋外センサは湿度も計測し、
前記演算部において、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は、次に、屋外相対湿度と、屋外相対湿度上限値と、の高低の判定制御が実行され、
前記屋外相対湿度が前記屋外相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記屋外相対湿度が前記屋外相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、次に、前記計測点Aの絶対湿度と、前記屋外絶対湿度と、の高低の判定制御が実行され、
前記計測点Aの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御が実行され、
前記計測点Aの絶対湿度が前記屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、前記計測点Bの相対湿度と前記室内相対湿度上限値の高低の判定制御が実行されることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、計測点Aの温度が屋外温度よりも高いと判定された場合において、次に、屋外相対湿度と屋外相対湿度上限値を比較し、屋外相対湿度が屋外相対湿度上限値よりも低い場合に換気装置を運転する効果があるとして換気装置の運転制御を実行することができる。すなわち、より精度の高い換気装置の運転制御が可能になる。屋外相対湿度が屋外相対湿度上限値よりも高い場合は、次に、計測点Aの室内絶対湿度と屋外絶対湿度の高低の判定を行う。屋外相対湿度が屋外相対湿度上限値以上であっても、計測点Aの室内絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高い場合は、室内全域の絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判断でき、換気装置の運転制御による効果があると特定できることから、換気装置の運転制御を実行する。一方、計測点Aの室内絶対湿度が屋外絶対湿度よりも低い場合は、計測点Bの相対湿度と室内相対湿度上限値の高低の判定制御に移行する。
【0023】
また、本発明による建物換気システムの他の態様は、前記建物が物流倉庫であり、前記保管物が物品を収容した紙製箱であることを特徴とする。
本態様によれば、高い湿度環境下で座屈の恐れのある紙製箱からなる保管物を、物流倉庫内において、座屈させることなく保管することができる。この紙製箱には、厚紙でできた箱や段ボール箱などが含まれる。特に段ボール箱は複数の物品を収容し、積層されて物流倉庫内に保管される一般的な保管物であることから、本発明の建物換気システムに好適な保管物と言える。
【0024】
また、本発明による建物換気制御方法の一態様は、
複数の保管物を保管する建物の換気制御を行う建物換気制御方法であって、
前記建物内において、相対的に風通しの良好な場所を計測点Aとし、相対的に風通しの不良な場所を計測点Bとし、
前記計測点Aにおいて少なくとも温度を計測するA点センサが設けられ、前記計測点Bにおいて少なくとも湿度を計測するB点センサが設けられ、屋外において少なくとも温度を計測する屋外センサが設けられ、
前記建物の室内と屋外との間で換気を行う換気装置が設けられ、
前記保管物が座屈する際の室内相対湿度上限値が設定されており、
前記計測点Aの温度と、屋外温度と、の高低の判定を行う、A点温度-屋外温度比較工程、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも高いと判定された場合は前記換気装置の運転制御を行う運転制御工程、
前記計測点Aの温度が前記屋外温度よりも低いと判定された場合は、前記計測点Bの相対湿度と、前記室内相対湿度上限値と、の高低の判定を行うB点相対湿度-上限値比較工程、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、前記換気装置の運転制御を行う運転制御工程、
前記計測点Bの相対湿度が前記室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、前記換気装置の運転停止制御を行う運転停止制御工程、を有することを特徴とする。
本態様によれば、建物内の風通しの良好な場所と風通しの不良な場所の2点、及び屋外の1点の計3点の温度や湿度に基づき、各工程をシーケンシャルに行って換気装置の適正な運転制御を実行することにより、換気装置のランニングコストの高騰を抑止しながら、保管物の座屈を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の建物換気システム及び建物換気制御方法によれば、風通しの良好な場所と不良な場所が存在する建物内に複数の保管物を保管するに際して、保管物の座屈を解消し、かつ換気装置のランニングコストの高騰を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る建物換気システムの構成の一例を示す平面図である。
【
図2】
図1のII-II矢視図であって、段ボール箱が積み上げられた状態の一例を示す図である。
【
図3】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第3の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】換気の有無による室内温度解析の結果を示すグラフである。
【
図9】第4の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る建物換気システムと各実施形態に係る建物換気制御方法について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る建物換気システム]
はじめに、
図1乃至
図4を参照して、実施形態に係る建物換気システムについて説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る建物換気システムの構成の一例を示す平面図であり、
図2は、
図1のII-II矢視図であって、段ボール箱が積み上げられた状態の一例を示す図である。また、
図3は、制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図4は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【0029】
図1に示すように、建物換気システム100は、建物10と、建物10の壁に設置されている換気装置20と、建物10内に設置されているA点センサ41、B点センサ42、及び制御装置30と、建物10の屋外に設置されている屋外センサ43とを有する。建物10は物流倉庫であり、この物流倉庫10は、空調装置を備えず、換気装置20により室内の温度や湿度の制御を実行する。図示例の物流倉庫10は、矩形の平面形状を有し、対向する一対の短辺の中央位置に換気装置20を構成する給気ファン20Aと排気ファン20Bが装備された同時給排機構を有する。給気ファン20Aと排気ファン20Bとしては、プロペラファン、シロッコファン、ターボファン、斜流ファン、ラインフローファンなど、多様な形態が適用できる。尚、物流倉庫10の平面形状は図示例に限定されるものでなく、また、給排機構についても、給気ファン20Aのみを有し、排気を自然排気で行う形態、排気ファン20Bのみを有し、給気を自然給気で行う形態などがある。
【0030】
給気ファン20Aと排気ファン20Bはいずれも駆動モータ(図示せず)を有し、商用交流電源(図示せず)に配線接続されている。また、この配線には運転/停止スイッチ(図示せず)が介在しており、制御装置30から送信される運転制御信号や運転停止制御信号を受け、運転/停止スイッチがON(運転)側もしくはOFF(運転停止)側に操作されるようになっている。尚、駆動モータと制御装置30とは、無線もしくは配線接続により、信号の送受信が行われる。
【0031】
物流倉庫10において、中央には長手方向に延びるメイン通路11があり、メイン通路11の左右において、物流倉庫10の長手方向に所定間隔を置いて複数の保管物載置列が設けられている。メイン通路11の両端には給気ファン20Aと排気ファン20Bが設置されている。給気ファン20Aにより外気が室内にX1方向に給気され、給気された外気がメイン通路11をX2方向に主として流通し、さらに各保管物載置列に分岐流通するとともに、排気ファン20Bにより屋外にX3方向に室内にあった空気の一部が排気される。この外気の給気と室内空気の排気により、物流倉庫10内の温度と湿度が調整される。
【0032】
図2に示すように、保管物載置列には、物品(図示せず)を収容した複数の段ボール箱CB(保管物及び紙製箱の一例で、紙製箱には他に厚紙製の箱がある)が積み上げられた状態で並んでいる。各保管物載置列において、
図2に示すように複数の段ボール箱CBが積み上げられて並んでいることから、物流倉庫10内では、風通しの良好な場所と風通しの不良な場所が生じ得る。そこで、給気された外気が直接流通し、風通しの良好な場所であるメイン通路11にあるA点において、A点センサ41が設置される。一方、物流倉庫10の一つの隅角部であって、給気された外気の流通方向下流側の隅角部12は、物流倉庫10内でも風通しの不良な場所であることから、ここにあるB点においてB点センサ42が設置される。さらに、屋外の1点において、屋外センサ43が設置される。ここで、A点センサ41、B点センサ42、及び屋外センサ43は、いずれも、温度センサと湿度センサを含み、双方のセンサが個別に設置されてもよいし、双方が一体となった温度・湿度センサが適用されてもよい。尚、湿度には相対湿度と絶対湿度の双方が含まれ得るが、特にB点と屋外では相対湿度と絶対湿度の双方が計測される。
【0033】
建物換気システム100では、物流倉庫10内の風通しの良好な場所と風通しの不良な場所の2点、及び屋外の1点の計3点の温度や湿度に関する計測データに基づき、制御装置による複数の判定制御によって換気装置20の運転制御を行うシステムである。計測点を必要最低限の3点に設定することにより、制御装置30による制御の元になる計測データが多数に及んで計測データの整理やこれに基づく制御が煩雑になるといった問題が生じないようにしている。しかしながら、必要に応じて4点以上の計測点を設定してもよい。例えば、物流倉庫10内において、風通しの良好な場所でも良好の程度に応じてエリア分けがされ得るし、あるいは、一日の時間に応じて良好の程度が変化し得る。このことは、風通しの不良な場所においても妥当する。そこで、例えば2つの風通しの不良な場所や2つの風通しの良好な場所にそれぞれ計測点を設定し、各計測点にB点センサやA点センサを設置しておいてもよい。その場合には、例えばその中で随時換気装置20の制御に用いる計測点を選定し、風通しの不良な場所と風通しの良好な場所における計測データを得るようにすることができる。
【0034】
制御装置30は、マイクロコンピュータ(マイコン)により構成され、図示例では、物流倉庫10の一つの隅角部に置き据えられている。
図3に示すように、制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)51、RAM(Random Access Memory)52、ROM(Read Only Memory)53、NVRAM(Non-Volatile RAM)54、HDD(Hard Disc Drive)55、及びI/Oポート56等を有する。そして、各部は、情報伝達可能にバス57により接続されている。
【0035】
ROM53には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM52は、プログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU51は、RAM52にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。HDD55には、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。さらに、HDD55には、計測データに基づく一連のプロセスシーケンス(実施形態に係る建物換気制御方法)等が記憶されている。NVRAM54には、各種の設定情報等が記憶される。I/Oポート56は、操作パネル44、A点センサ41(温度センサ41a、湿度センサ41b)、B点センサ42(温度センサ42a、湿度センサ42b)、及び屋外センサ43(温度センサ43a、湿度センサ43b)等に有線もしくは無線にて接続され、各種のデータや信号の入出力を制御する。
【0036】
CPU51は、制御装置30の中枢を構成し、ROM53等に記憶された制御プログラムを実行する。また、CPU51は、操作パネル44からの指示信号に基づき、HDD55内に格納されているプロセスシーケンスに沿って換気装置20の運転動作と運転停止動作を制御する。すなわち、CPU51は、A点センサ41、B点センサ42、及び屋外センサ43から送信された計測データに基づき、プロセスシーケンスに沿って各種の判定制御を実行し、換気装置20の運転制御と運転停止制御を実行する。
【0037】
尚、制御装置30が適用するプログラムは、例えば、ハードディスクやコンパクトディスク、光磁気ディスク等に記憶されてもよい。また、プロセスシーケンス等は、CD-ROM、DVD、メモリカード等の可搬性のコンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体に収容された状態で制御装置30にセットされ、読み出される形態であってもよい。制御装置30はその他、コマンドの入力操作等を行うキーボードやマウス等の入力装置、換気装置20の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等の表示装置、及びプリンタ等の出力装置といったユーザーインターフェイスを有していてもよい。
【0038】
また、
図4に示すように、制御装置30は、演算部31、制御指令部32、及びデータ格納部33を有する。
【0039】
データ格納部33は、A点センサ41、B点センサ42、及び屋外センサ43から随時送信されてきた各点の温度や湿度に関する計測データを都度格納する。また、データ格納部33は、段ボール箱CB(保管物の一例)が座屈する際の室内相対湿度上限値や、その他、屋外相対湿度上限値に関する入力データを格納する。さらに、データ格納部33は、蓄冷換気による物流倉庫10内の温度低下量に相当する許容温度に関する入力データを格納する。
【0040】
演算部31は、データ格納部33にて格納されているA点センサ41、B点センサ42、及び屋外センサ43による計測データを読み出し、一連のプロセスシーケンスに沿って各種の判定制御を行う。この各種の判定制御に関しては、以下で詳説する。
【0041】
制御指令部32は、演算部31による判定内容に基づき、換気装置20に対して運転制御指令信号もしくは運転停止制御指令信号を送信する。上記するように、これらの指令信号は有線もしくは無線にて運転/停止スイッチに送信され、運転/停止スイッチがON(運転)側もしくはOFF(運転停止)側に操作されることにより、給気ファン20Aと排気ファン20Bの同時給排動作及び同時運転停止動作が実行される。
【0042】
段ボール箱CBは、相対湿度が80%RHの湿度環境下においてその座屈強度が50%程度に低減することが一般に知られている。また、その他、所定の載荷条件下において相対湿度と段ボール箱が座屈せずに形状保持できる保持時間が種々算定されている。このように、段ボール箱CBを含む紙製箱は、湿度によって座屈強度が低下する性質を有している。従って、座屈強度の低下を50%に抑えるとする管理思想の下では、物流倉庫10内の相対湿度80%RHを「室内相対湿度上限値」に設定することができる。また、「室外相対湿度上限値」も同様に、80%RHに設定することができる。
【0043】
一方、段ボール箱CBに代表される紙製箱は、各種物品を収容して物流倉庫内に保管される保管物として一般に用いられている。さらに、物流倉庫10内においては、
図2に示すように複数の段ボール箱CBが積み上げられた状態で一般に保管されることから、下方にある段ボール箱CBには相対的に大きな荷重が載荷されている。そのため、高い相対湿度環境下で段ボール箱CBの座屈強度が低下した場合、
図2に示す下方の段ボール箱CBが載荷荷重に耐え切れずに座屈し、荷崩れの危険性がある。
【0044】
そこで、建物換気システム100を適用することにより、物流倉庫10内に保管されている段ボール箱CBの座屈を解消することを可能にしている。さらに、換気装置20の適正な運転制御及び運転停止制御を実行することにより、換気装置20のランニングコストの高騰の抑止も可能にしている。
【0045】
[第1の実施形態に係る建物換気制御方法]
次に、
図5を参照して、第1の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を説明する。ここで、
図5は、第1の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。すなわち、第1の実施形態に係る建物換気制御方法は、制御装置30の制御方法である。
【0046】
本実施形態に係る建物換気制御方法では、A点の温度データ、屋外の温度データ、B点の相対湿度及び室内相対湿度上限値を用いて換気装置20の運転制御を行う。
【0047】
まず、演算部31において、室内温度(A)(計測点Aの温度)と屋外温度との高低の判定制御を実行する(ステップS1)。このステップS1は、本実施形態に係る建物換気制御方法における、A点温度-屋外温度比較工程となる。
【0048】
室内温度(A)が屋外温度よりも高いと判定された場合は、物流倉庫10内の全てのエリアの温度が屋外温度よりも高いと判定できることから、換気の必要ありと特定でき、換気装置20の運転制御を実行する(換気運転ON、ステップS2)。この運転制御は、本実施形態に係る建物換気制御方法における、運転制御工程となる。
【0049】
一方、室内温度(A)が屋外温度よりも低いと判定された場合は、温度のみでは換気装置20の運転制御が完全に必要か否かが不明であることから、次に、室内相対湿度(B)(計測点Bの相対湿度)と室内相対湿度上限値の高低の判定制御を実行する(ステップS3)。このステップS3は、本実施形態に係る建物換気制御方法における、B点相対湿度-上限値比較工程となる。
【0050】
ここで、室内相対湿度上限値は、段ボール箱CBが湿度上昇に応じてその座屈強度が低下することに基づいて予め設定されており、制御装置30のデータ格納部33に格納されている。上記するように、座屈強度の低下を50%に抑えるとする管理思想の下、物流倉庫10内の相対湿度80%RHを「室内相対湿度上限値」に設定することができる。
【0051】
この判定制御により、室内相対湿度(B)が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合は、風通しの不良な場所において段ボール箱CBの座屈の危険性があると判断できることから、換気装置20の運転制御が実行される(ステップS2)。
【0052】
一方、室内相対湿度(B)が室内相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、風通しの不良な場所において段ボール箱CBの座屈の危険性はない、もしくは危険性は極めて低いと判断できることから、換気装置20の運転停止制御が実行される(換気運転OFF、ステップS4)。このステップS4は、本実施形態に係る建物換気制御方法における、運転停止制御工程となる。尚、この運転停止制御は、それまで換気装置20が運転していない場合は、継続して換気装置20の運転を行わない制御であり、それまで換気装置20が運転している場合は換気装置20の運転を停止する制御である。
【0053】
このように、本実施形態に係る建物換気制御方法によれば、計測点Aの温度、屋外温度、計測点Bの湿度、室内相対湿度上限値を使用することにより、最低限の数のセンサによる計測データに基づいて換気装置20を適正に運転制御することができる。そのため、換気装置20のランニングコストの高騰を抑止しながら、物流倉庫10内に保管されている段ボール箱CBの座屈を効果的に防止することができる。
【0054】
尚、ステップS1の前に、室内温度と室内温度上限値の比較を行ってもよい。この室内温度上限値は、物流倉庫10内に居る作業員が不快感をもたない限界温度であり、例えば、26℃程度に設定することができる。この室内温度上限値を制御装置30のデータ格納部33に格納しておき、まず、フローチャートの開始後、風通しの良好な場所であるA点の温度(室内温度(A))と室内温度上限値の高低を判定する。室内温度(A)が室内温度上限値よりも高い場合は、作業員の作業環境を最優先し、換気装置30の運転制御を行うものとする。一方、室内温度(A)が室内温度上限値よりも低い場合は、
図5のステップS3に移行し、室内相対湿度(B)と相対湿度上限値の高低の判定を行うことができる。
【0055】
[第2の実施形態に係る建物換気制御方法]
次に、
図6を参照して、第2の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を説明する。ここで、
図6は、第2の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。尚、第1の実施形態に係る建物換気制御方法との相違点のみを主として説明するものとし、第1の実施形態に係る建物換気制御方法と同一のフローは既に説明した内容がそのまま適用されるものとする。
【0056】
本実施形態に係る建物換気制御方法では、室内相対湿度(B)が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合において、次に、室内絶対湿度(B)と屋外絶対湿度の高低の判定制御を実行する(ステップS5)。
【0057】
ステップS5において、室内絶対湿度(B)が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、換気装置20の運転制御が実行される(換気運転ON、ステップS2)。
【0058】
一方、室内絶対湿度(B)が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、換気装置20の運転停止制御が実行される(換気運転OFF、ステップS4)。
【0059】
本実施形態に係る建物換気制御方法によれば、計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合において、より精度よく換気装置20の運転制御を実行することができる。すなわち、仮に計測点Bの相対湿度が室内相対湿度上限値よりも高いと判定された場合でも、計測点Bの絶対湿度よりも屋外絶対湿度が高い場合には、換気装置20の運転制御を実行しても計測点Bの湿度環境は一層悪くなるだけである。そこで、本実施形態では、制御装置30により、計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、換気が有効であると判断できることから換気装置30の運転制御を実行する(ステップS2)。一方、計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、換気装置30の運転停止制御を実行する(ステップS4)。
【0060】
[第3の実施形態に係る建物換気制御方法]
次に、
図7と
図8を参照して、第3の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を説明する。ここで、
図7は、第3の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。また、
図8は、換気の有無による室内温度解析の結果を示すグラフであり、「許容温度」の設定根拠を説明する図である。尚、第2の実施形態に係る建物換気制御方法との相違点のみを主として説明するものとし、第2の実施形態に係る建物換気制御方法と同一のフローは既に説明した内容がそのまま適用されるものとする。
【0061】
本実施形態に係る建物換気制御方法では、室内絶対湿度(B)が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合において、次に、計測点Aの温度と許容温度の合計温度と、屋外温度との高低の判定制御を実行する(ステップS6)。
【0062】
計測点Bの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合において、ステップS6では、物流倉庫10内に蓄積された冷気による温度低下を勘案して、より精度よく換気装置20の運転制御を実行することができる。
【0063】
例えば夜間に換気の必要性が高くなる夏場等において、夜間換気を行った場合、物流倉庫10の壁や床に夜間換気によって給気される外気(冷気)が蓄積され、夜間換気をしない場合に比べて、この蓄積された冷気により日中の物流倉庫10内の温度を1.5℃乃至2℃程度低下可能であることが本発明者等による解析にて実証されている。
【0064】
ここで、この解析内容を
図8を参照して説明する。解析条件は以下の通りである。
【0065】
すなわち、建物モデルとして、面積1184m
2、天井高6.9m、建物の設置地点を東京に設定し、時期を8月2日~8月4日の夏場とした。換気条件として、日中の8:00~18:00までは1回/hで換気し、夜間の18:00~8:00までは夜間換気ありのケースは2回/hで換気し、夜間換気なしのケースは0.1回/hで換気(換気なしに相当)するとした。このような二種類のモデルを、AE sim-heat(株式会社建築環境ソリューションズ社製)の解析ソフトに適用し、温度解析を行った。解析結果を
図8に示す。
【0066】
図8より、夜間換気なしのケースに比べて、夜間換気ありのケースは、日中を通して1.5℃乃至2℃程度、室内温度が低くなることが実証されている。
【0067】
これは蓄冷換気と称することができるが、この蓄冷換気による物流倉庫10内の温度低下量:1.5℃乃至2℃程度を「許容温度」に設定し、計測点Aの温度と許容温度の合計温度が屋外温度以下の場合は、敢えて換気装置20に対して運転停止制御を実行するものである。このように制御しても、計測点Aの温度は実際に計測された温度よりも許容温度だけ低くなり得る。この運転停止制御により、特に風通しの良好な場所の温度は高いままの状態となるが、このことにより、物流倉庫10内の温度を低下させる場合に比べて、計測点Bの相対湿度を低くすることが可能になり、風通しの不良な場所における段ボール箱CBの座屈の危険性を低減することができる。
【0068】
図7に戻り、合計温度が屋外温度よりも高いと判定された場合は、換気が有効であると判断できることから換気装置20の運転制御を実行する(ステップS2)。一方、合計温度が屋外温度よりも低いと判定された場合は、換気装置20の運転停止制御を実行する(ステップS4)。
【0069】
[第4の実施形態に係る建物換気制御方法]
次に、
図9を参照して、第4の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を説明する。ここで、
図9は、第4の実施形態に係る建物換気制御方法の一例を示すフローチャートである。尚、第3の実施形態に係る建物換気制御方法との相違点のみを主として説明するものとし、第3の実施形態に係る建物換気制御方法と同一のフローは既に説明した内容がそのまま適用されるものとする。
【0070】
本実施形態に係る建物換気制御方法では、計測点Aの温度が屋外温度よりも高いと判定された場合において、次に、屋外相対湿度と、屋外相対湿度上限値と、の高低の判定制御を実行する(ステップS7)。ここで、「屋外相対湿度上限値」は、例えば「室内相対湿度上限値」と同値に設定することができる(80%RH)。
【0071】
屋外相対湿度が屋外相対湿度上限値よりも低いと判定された場合は、換気装置20の運転制御を実行する(ステップS2)。
【0072】
一方、屋外相対湿度が屋外相対湿度上限値よりも高いと判定された場合において、次に、計測点Aの絶対湿度と、屋外絶対湿度と、の高低の判定制御を実行する(ステップS8)。
【0073】
ステップS8において、計測点Aの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも高いと判定された場合は、換気が有効であると判断できることから換気装置20の運転制御を実行する(ステップS2)。一方、計測点Aの絶対湿度が屋外絶対湿度よりも低いと判定された場合は、計測点Bの相対湿度と室内相対湿度上限値の高低の判定制御(ステップS3)に移行する。
【0074】
本実施形態に係る建物換気制御方法によれば、より一層高い精度で換気装置20の運転制御を実行することが可能になる。
【0075】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。例えば、本発明に係る建物換気システム及び建物換気制御方法は、物流倉庫内に保管される段ボール箱等の保管物の座屈防止を目的とするのみならず、物流倉庫内における結露防止やカビの発生防止を図りながら保管物の保管を行うことを目的とする、建物換気システム及び建物換気制御方法であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
10:建物(物流倉庫)、11:メイン通路、12:隅角部、20:換気装置(送風機、ファン)、20A:給気ファン(換気装置)、20B:排気ファン(換気装置)、30:制御装置、31:演算部、32:制御指令部、33:データ格納部、41:A点センサ、41a:温度センサ、41b:湿度センサ、42:B点センサ、42a:温度センサ、42b:湿度センサ、43:屋外センサ、43a:温度センサ、43b:湿度センサ、100:建物換気システム、CB:段ボール箱(紙製箱、保管物)