(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20220725BHJP
G01W 1/14 20060101ALI20220725BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01W1/00 C
G01W1/14 E
G01W1/14 Q
G01S13/95
(21)【出願番号】P 2018115877
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文彦
(72)【発明者】
【氏名】吉見 和紘
(72)【発明者】
【氏名】木田 智史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 淳史
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038509(JP,A)
【文献】特開2017-125833(JP,A)
【文献】特開平10-073670(JP,A)
【文献】特開平09-257951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域が
距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得する取得部と、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から選択された対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、前記取得部により取得された観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出し、
前記対象分割領域の
降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、前記第1推定モデルに前記降雪強度に基づく情報が入力されると
前記降雪強度に基づく情報に対応付けられた積雪度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第1推定モデルに、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記地上の積雪度合を示す情報を導出する導出部と、
を備える処理装置。
【請求項2】
観測領域が
距離方向、方位方向および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得する取得部と、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から鉛直方向に連続した所定数の分割領域を選択し、前記所定数の対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪増加度合を示す情報を出力する第3推定モデルであって、前記第3推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第3推定モデルに、前記取得部により取得された観測情報を入力することで、前記地上の積雪増加度合を示す情報を導出する導出部と、
を備える処理装置。
【請求項3】
観測領域が
距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得する取得部と、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から鉛直方向に連続した所定数の分割領域を選択し、前記所定数の対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、前記取得部により取得された観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出し、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪増加度合を示す情報を出力する第3推定モデルであって、前記第3推定モデルに
前記降雪強度に基づく情報が入力されると前記
降雪強度に基づく情報に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第3推定モデルに、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記地上の積雪増加度合を示す情報を導出する導出部と、
を備える処理装置。
【請求項4】
前記導出部は、前記対象分割領域の観測情報が入力されると前記対象分割領域に含まれる粒子の種別を示す情報を出力する第4推定モデルであって、前記第4推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた粒子の種別を示す情報が導出されるように学習された前記第4推定モデルに、前記取得部により取得された観測情報を入力することで、前記対象分割領域に含まれる粒子の種別を示す情報を導出し、前記導出した粒子の種別が雪である場合に、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出する、
請求項1または3に記載の処理装置。
【請求項5】
観測領域が
距離方向、方位方向および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報と、前記分割領域ごとに対応付けられた地上の積雪度合とが互いに対応付けられた学習データ、または、仮想的に生成された、前記観測情報と前記地上の積雪度合とが互いに対応付けられた学習データを取得する取得部と、
前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応する分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記取得部に取得された学習データの前記観測情報が前記第2推定モデルに入力されると、前記学習データの前記観測情報に対応する分割領域に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように、前記第2推定モデルに与えるパラメータを学習し、
前記降雪強度に基づく情報が入力されると前記降雪強度に基づく情報に対応する分割領域に対応付けられた地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、前記学習データの前記観測情報から得られた前記降雪強度に基づく情報が前記第1推定モデルに入力されると、前記学習データの前記観測情報から得られた前記降雪強度に基づく情報に対応する分割領域に対応付けられた地上の積雪度合を示す情報が導出されるように、前記第1推定モデルに与えられるパラメータを学習する学習部と、
前記観測情報を前記第2推定モデルに入力することで、前記観測情報に対応する分割領域に対応付けられた前記降雪強度を示す情報を導出し、前記降雪強度に基づく情報を前記第1推定モデルに入力することで、前記降雪強度に対応する分割領域に対応付けられた地上の積雪度合を示す情報を導出する導出部に、少なくとも前記学習部により学習されたパラメータを提供する提供部と、
を備える処理装置。
【請求項6】
観測領域が
距離方向、方位方向および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報と、前記分割領域ごとに対応付けられた地上の積雪増加度合とが互いに対応付けられた学習データ、または、仮想的に生成された、前記観測情報と前記積雪増加度合とが互いに対応付けられた学習データを取得する取得部と、
前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応する分割領域に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報を出力する第3推定モデルであって、前記取得部に取得された学習データの前記観測情報が前記第3推定モデルに入力されると、前記学習データの前記観測情報に対応付する分割領域に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報が導出されるように、前記第3推定モデルに与えられるパラメータを学習する学習部と、
前記観測情報を前記第3推定モデルに入力することで、前記観測情報に対応する分割領域に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報を導出する導出部に、少なくとも前記学習部により学習されたパラメータを提供する提供部と、
を備える処理装置。
【請求項7】
コンピュータが、
観測領域が
距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得し、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から選択された対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、取得した観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出し、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、前記第1推定モデルに前記降雪強度に基づく情報が入力されると
前記降雪強度に基づく情報に対応付けられた積雪度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第1推定モデルに、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記地上の積雪度合を示す情報を導出する、
処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
観測領域が
距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得させ、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から選択された対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、取得させた観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出させ、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、前記第1推定モデルに前記降雪強度に基づく情報が入力されると
前記降雪強度に基づく情報に対応付けられた積雪度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第1推定モデルに、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記地上の積雪度合を示す情報を導出させる、
プログラム。
【請求項9】
コンピュータが、
観測領域が
距離方向、方位方向および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得し、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から鉛直方向に連続した所定数の分割領域を選択し、前記所定数の対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪増加度合を示す情報を出力する第3推定モデルであって、前記第3推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第3推定モデルに、取得した観測情報を入力することで、前記積雪増加度合を示す情報を導出する、
処理方法。
【請求項10】
コンピュータが、
観測領域が
距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得し、
前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から鉛直方向に連続した所定数の分割領域を選択し、前記所定数の対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、取得した観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出し、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪増加度合を示す情報を出力する第3推定モデルであって、前記第3推定モデルに
前記降雪強度に基づく情報が入力されると前記
降雪強度に基づく情報に対応付けられた地上の積雪増加度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第3推定モデルに、
前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記積雪増加度合を示す情報を導出する、
処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、処理装置、処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダで観測される観測情報を用いて、大気中の粒子の種別を判別し、判別結果と、観測情報とに基づいて、降雨量や降雪量を推定する解析装置が知られている。しかしながら、この解析装置では、精度よく降雪に関する情報を精度よく導出することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より精度よく降雪に関する情報を導出することができる処理装置、処理方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の処理装置は、取得部と、導出部とを持つ。取得部は、観測領域が距離方向、方位方向、および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得する。導出部は、前記距離方向および前記方位方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から選択された対象分割領域の観測情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する降雪強度を示す情報を出力する第2推定モデルであって、前記第2推定モデルに前記観測情報が入力されると前記観測情報に対応付けられた降雪強度を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第2推定モデルに、前記取得部により取得された観測情報を入力することで、前記対象分割領域の降雪強度を示す情報を導出し、前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報が入力されると、前記対象分割領域に対応する地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、前記第1推定モデルに前記降雪強度に基づく情報が入力されると前記降雪強度に基づく情報に対応付けられた積雪度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する前記第1推定モデルに、前記対象分割領域の降雪強度に基づく情報を入力することで、前記地上の積雪度合を示す情報を導出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】処理装置20、表示情報生成装置60、および学習装置80の構成を示す図。
【
図4】最適パラメータを取得する処理の一例を示す図。
【
図5】最適パラメータおよび推定モデルの概要を説明するための図。
【
図6】処理装置20により実行される処理の流れを示すフローチャート。
【
図8】ステップS118の処理の内容を概念的に示す図。
【
図9】ステップS122の処理の内容を概念的に示す図。
【
図11】端末装置100の表示部に表示される画像IMの一例を示す図。
【
図12】学習装置80により実行される処理の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の処理装置、処理方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、処理システム1の構成を示す図である。処理装置20を含む処理システム1は、レーダ装置10と、処理装置20と、表示情報生成装置60と、学習装置80とを備える。処理装置20と、レーダ装置10または学習装置80とは、専用線などを介して通信する。処理装置20と、表示情報生成装置60とは、LAN(Local Area Network)等のネットワークNW1を介して通信する。また、表示情報生成装置50は、WAN(Wide Area Network)等のネットワークNW2を介して端末装置100と通信する。なお、処理装置20と、表示情報生成装置60とは一体に形成されていてもよい。
【0009】
レーダ装置10は、アンテナ12と、アンテナ側制御装置14とを含む。レーダ装置10は、例えば大気の状態を観測する気象レーダである。また、アンテナ12は、例えば、複数のアンテナ素子を備え、指向角を電子的に変更可能なフェーズドアレイアンテナである。レーダ装置10は、仰角方向を電子的に走査しながら、アンテナ12を水平方向に回転駆動することで、大気の状態を三次元で観測する。アンテナ12は、アンテナ側制御装置14の制御に基づいて、電波を送受信する。
【0010】
以下の説明では、レーダ装置10は、二重偏波フェーズドアレイレーダ装置であるものとして説明するが、これに代えて、二重偏波を用いたパラボラ型のレーダ装置であってもよい。二重偏波フェーズドアレイレーダ装置は、水平方向および垂直方向に振動する電波を送受信し、受信結果に基づいて、大気の状態を観測する。
【0011】
アンテナ側制御装置14は、レーダ側制御部16と、情報蓄積部18とを含む。レーダ側制御部16は、仰角ビーム幅の広いファンビームをアンテナ12に送信させる。レーダ側制御部16は、DBF(Digital Beam Forming)処理を行う。レーダ側制御部16は、送信したファンビームが降雪粒子などの散乱体に当たり、戻ってきた反射電波を一度に受信して複数の仰角範囲の観測情報(エコー強度)を同時に生成する。
【0012】
情報蓄積部18は、レーダ側制御部16により取得された観測情報を蓄積し、蓄積した情報を処理装置20に送信する。
【0013】
ここで、二重偏波フェーズドアレイレーダ装置の特性について説明する。
図2は、レーダ装置10が放射する電波の概念図である。例えば、レーダ装置10は、
図2の左図に示すように水平偏波h、
図2の右図に示すように垂直偏波vとを大気に放射する。そして、レーダ装置10は、放射した2種類の電波が大気中の粒子に当たり、戻ってきた反射電波を取得する。レーダ装置10は、2種類の電波に対する反射電波を取得することにより、大気中の粒子の垂直方向に関する形状と水平方向に関する形状との情報を取得する。
【0014】
例えば、大気中の雨滴は大きさによって形状が異なっている。また、あられや、雹、雪などは、それぞれ形状が異なる。例えば、大粒の雨滴RDは、扁平である場合がある。レーダ装置10は、水平偏波に対する反射電波から雨滴の水平方向に関する形状を示す情報を取得し、反射電波の強さ(エコー強度)だけでなく、垂直偏波に対する反射電波から雨滴の垂直方向に関する形状を示す情報を取得することができる。レーダ装置10は、例えば、上記の反射電波から反射因子差や偏波間相関係数、偏波間位相差変化率などの情報を取得することができる。反射因子差は、粒子の縦横比に関するパラメータである。偏波相関係数は、反射電波である、水平偏波と垂直偏波の受信電力(受信信号)の相関係数である。偏波間位相差変化率は、反射電波である、水平偏波の位相と垂直偏波の位相との位相差に関するパラメータである。
【0015】
また、二種類の電波が、扁平の形状等の粒子を通過すると、これらの電波の位相には差が生じる。レーダ装置10は、このような水平偏波と垂直偏波とのそれぞれについてレーダ装置10と粒子との間で往復する際の位相の差である偏波間位相差を取得することができる。偏波間位相差変化率は、この偏波間位相差の距離方向の変化量ないしは微分量である。
【0016】
図3は、処理装置20、表示情報生成装置60、および学習装置80の構成を示す図である。処理装置20は、例えば、取得部22と、設定部24と、処理部26と、第1導出部28と、第1推定部30と、第2導出部32と、第2推定部34と、リスク導出部36と、情報送信部38と、記憶部40を備える。取得部22、設定部24、処理部26、第1導出部28、第1推定部30、第2導出部32、第2推定部34、リスク導出部36、および情報送信部38は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現されてよい。また、これらの機能部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、上記のプログラムは、予め記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体が処理装置20のドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶部40は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置により実現される。なお、処理部26、第1導出部28、第1推定部30、第2導出部32、および第2推定部34のうち一部または全部が「導出部」の一例である。
【0017】
取得部22は、例えば、観測情報取得部22Aと、学習情報取得部22Bとを備える。観測情報取得部22Aは、レーダ装置10から観測情報42を取得する。取得した観測情報42は、記憶部40に記憶される。なお、処理装置20は、レーダ装置10と一体で形成されていてもよい。この場合、取得部22は、装置内の通信バス等を利用して、情報蓄積部18から観測情報42を取得する。
【0018】
学習情報取得部22Bは、学習装置80から推定モデル44または最適パラメータ46を取得する。推定モデル44、および最適パラメータ46は、記憶部40に記憶される。推定モデル44は、処理装置20の処理で降雪に関する情報を導出する際に用いられるモデルである。最適パラメータ46とは、推定モデル44に適用されるパラメータである。
【0019】
設定部24は、推定モデル44を対象の処理に用いることを決定し、決定した処理に対して推定モデル44を設定する。また、設定部24は、最適パラメータ46を対象の処理で用いられる推定モデル44に適用する。詳細については後述する。
【0020】
処理部26が、降水粒子を判別する処理を行う。処理部26、および後述する機能部(第1導出部28、第1推定部30、第2導出部32、第2推定部34)の処理の詳細については後述する。
【0021】
第1導出部28は、レーダ装置10の観測領域が水平方向および鉛直方向に分割された分割領域(メッシュ)ごとに降雪強度を導出する。第1推定部30は、降雪強度を用いて地上での積雪量を推定する。第2導出部32は、鉛直方向に連続した所定数のメッシュにおける降雪量を導出する。第2推定部34は、第2導出部32により導出された積算量に基づいて、地上に降り注ぎ積雪する量(積雪増加量)を推定する。
【0022】
リスク導出部36は、第1推定部30や第2推定部34等の処理結果に基づいて、降雪や積雪に関するリスクを導出する。情報送信部38は、処理装置20の処理結果を表示情報生成装置60に送信する。
【0023】
表示情報生成装置60は、表示情報生成部62と、表示情報送信部64とを備える。表示情報生成部62は、情報送信部38から送信された処理結果に基づいて、処理結果を含む情報を端末装置100の表示部に表示させるための表示情報(画像情報)を生成する。表示情報送信部64は、表示情報生成部62により生成された表示情報を端末装置100に送信する。
【0024】
学習装置80は、取得部82と、学習部84と、提供部86と、記憶部90とを備える。取得部82は、例えば、外部端末装置から学習データを取得する。この学習データ92は、記憶部90に記憶される。外部端末装置は、ネットワークを介して学習装置80と通信する端末装置であり、気象に関する情報を提供する端末装置である。
【0025】
学習部84は、学習データを用いた機械学習または深層学習を行い、推定モデル、または推定モデルに用いられる最適パラメータを導出する。また、学習部84は、推定モデルに用いられるパラメータを導出することに代えて(または加えて)推定モデル(例えば関数)自体を導出してもよい。学習部84の処理の詳細については後述する。提供部86は、学習部84により導出された最適パラメータ、または推定モデルを処理装置20に提供する。
【0026】
[フローチャート(その1)]
図4は、最適パラメータを取得する処理の一例を示す図である。
図4の例では、最適パラメータが設定されるものとして説明するが、学習装置80により導出された推定モデルが処理装置20の処理に適用される際にも本処理と同等の処理が行われる。
【0027】
まず、処理装置20が、積雪量に関する処理(後述する
図6の処理)を開始するタイミングに到達したか否かを判定する(ステップS10)。積雪量に関する処理を開始するタイミングに到達した場合、設定部24は、最適パラメータの送信を学習装置80に指示する(ステップS12)。次に、設定部24は、学習情報取得部22Bが学習装置80により送信された最適パラメータを取得したか否かを判定する(ステップS14)。最適パラメータが取得された場合、設定部24は、取得した最適パラメータを、その最適パラメータを用いる推定モデルのパラメータとして設定する(ステップS16)。これにより本フローチャートの処理は終了する。
【0028】
なお、上述した例では、処理装置20が最適パラメータの送信を指示することにより最適パラメータを取得するものとしたが、これに代えて(または加えて)、処理装置20は、所定間隔で最適パラメータを取得してもよい。この場合、学習装置80が最適パラメータを所定間隔で処理装置20に送信する。
【0029】
図5は、最適パラメータおよび推定モデルの概要を説明するための図である。例えば、処理装置20は、(A)の推定モデル(「第4推定モデル」の一例)、および(B)~(D)の最適パラメータを学習装置80から取得する。なお、処理装置20は、(B)~(D)に相当する推定モデル(関数)を学習装置80から取得してもよい。
【0030】
(A)降水粒子の判別(
図6のステップS104)におけるメンバーシップ関数(詳細は後述)
(B)降雪強度の導出(
図6のステップS108)に用いられる式(1)「Rs[mm/h]=a×Z
b」の「a」、「b」
(C)積雪量の推定(
図6のステップS118)に用いられる式(2)「SF=c×Ms
d+τ×e」の「c」、「d」、「τ」
(D)積雪増加量の推定(
図6のステップS122)に用いられる式(3)「δSF=τs×f×VIS
g-(1-τ)×e」の「τs」
式(2)、(1)、(3)は、それぞれ「第1推定モデル」、「第2推定モデル」、「第3推定モデル」の一例である。
【0031】
[フローチャート(その2)]
図6は、処理装置20により実行される処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートの処理では、上述した推定モデル(メンバーシップ関数)および全ての最適パラメータが用いられるものとして説明するが、一部の最適パラメータが用いられてもよい。
【0032】
まず、観測情報取得部22Aが、レーダ装置10の情報蓄積部18に蓄積された1周期分の観測情報Dを取得したか否かを判定する(ステップS100)。
【0033】
観測情報Dは、メッシュおよび観測周期ごとにレーダ装置10により取得されたエコー強度を示す情報である。なお、観測情報Dは、エコー強度を示す情報に限らず、粒子の種別や粒子の形状、粒子の存在の有無等を判断することができる情報であればよい。
【0034】
図7は、観測情報Dを説明するための図である。以下、必要に応じてXYZ座標を用いて説明する。観測情報Dは、レーダ装置10のアンテナ12が水平方向に駆動して、駆動の始点から終点における間に取得された情報である。始点から終点における間に取得された観測情報Dは、1周期で取得された観測情報である。メッシュMとは、レーダ装置10からの距離方向(Y方向)、方位方向(X方向)、および鉛直方向(Z方向)に対して、それぞれ所定幅で分割された分割領域である。図示する例では、レーダ装置10から十分に遠い位置の観測情報DであるためメッシュMは立方体で近似される。また、水平方向(距離方向および方位方向)が同じであり、鉛直方向(高度方向)のみが異なるメッシュMの集合を、「メッシュブロックMB」と称する。メッシュブロックMBは、「水平方向の位置が共通する分割領域群」の一例である。
【0035】
図6の説明に戻る。1周期分の観測情報Dを取得した場合(または観測対象である観測領域の観測情報Dを取得した場合)、処理部26が、観測情報Dに対応する複数のメッシュMのうち、一つのメッシュMを選択し(ステップS102)、選択したメッシュMについて降水粒子を判別する処理を行う(ステップS104)。この判別において、メッシュMに降水粒子(例えば、あられ、雹、氷晶、乾雪、湿雪、雨)が存在するか、非降水エコー(グランドクラッタ)が存在するかが判別され、判別結果は三次元のメッシュ毎に分類される。
【0036】
処理部26は、公知の手法を用いて降水粒子を判別する処理を行う。処理部26は、例えば、学習装置80から取得したメンバーシップ関数をファジー理論に適用して、降水粒子の判別を行う。メンバーシップ関数とは、集合Xの要素xがファジー理論を適用する集合Aに対してどの程度属しているかを示す度合を出力する関数である。集合Aは、ある集合Xの要素xが曖昧性を含んだ状態で集合Aに属することを表現した集合で、メンバーシップ関数によって特徴付けられた集合である。
【0037】
例えば、メンバーシップ関数は、集合Aに属している度合が高いほど「1」に近い値を出力し、集合Aに属している度合が低いほど「0」に近い値を出力する関数である。例えば、処理部26は、降水粒子の判別において、地上の観測情報や高層の観測情報、もしくはモデル情報から得られる気温や湿度の情報を観測対象のメッシュに対して対応付ける。この地上の観測情報や高層の観測情報、もしくは気温や湿度の情報は、メッシュに対して一様に対応付けられてもよいし、メッシュごとに異なる値が対応付けられてもよい。そして、処理部26は、メッシュに対応付けられた情報、およびファジー理論を用いて、メッシュに含まれる降水粒子を判別する。
【0038】
次に、処理部26は、ステップS104の処理結果に基づいて、降水粒子が存在し、その降水粒子が雪(例えば乾雪、湿雪)であるか否かを判定する(ステップS106)。降水粒子が雪でない場合、ステップS108以降には進まず、処理部26は、次の(未選択の)メッシュMを選択し、降水粒子判別(ステップS102、S104)を行う。具体的には、降水粒子が雪でない場合、処理部26は、全てのメッシュMで降水粒子を判別する処理が完了しているか否かを判定する(ステップS112)。全てのメッシュMで降水粒子を判別する処理が完了していない場合、ステップS102の処理に進む。全てのメッシュで降水粒子判別が完了している場合、ステップS114の処理に進む。
【0039】
降水粒子が雪である場合、第1導出部28は、メッシュMごとの降雪強度を導出する(ステップS108)。例えば、第1導出部28は、雪が存在していると判定されたメッシュMについて、式(1)を用いて、降雪強度Rsを導出する。
Rs[mm/h]=a×Zb・・・(1)
【0040】
「Z」はレーダ反射因子[mm6m-3]である。レーダ反射因子Zは、電波を反射する粒子の粒径に応じて変動するパラメータである。レーダ反射因子Zは、レーダ装置10が電波を受信した際の受信電力と、電波を反射した粒子からレーダ装置10までの距離とに基づいて導出される。
【0041】
次に、第1導出部28は、雪が存在していると判定されたメッシュMについて、ステップS108で導出された降雪強度[mm/h]を積雪量Ms[mm]に変換して積雪量を導出する(ステップS110)。第1導出部28は、単位時間(例えば1時間などの設定時間)を積分区間として降雪強度[mm/h]を積雪量Ms[mm]に変換する。ステップS110の処理後に、全てのメッシュMで降水粒子の判別処理(ステップS104)が完了していれば、次のステップへ進む。完了していない場合は、次のメッシュMが選択され、選択されたメッシュMついてステップS104から処理が実行される。以下に説明するステップS116およびS118と、ステップS120およびS122とは、例えば、並列して実行される処理である。
【0042】
次に、第1推定部30は、観測対象の複数のメッシュブロックMBの中から、処理対象のメッシュブロックMB(以下、対象メッシュブロック)を選択し(ステップS114)、対象メッシュブロックMBの中からステップS116における処理対象の対象メッシュを選択する(ステップS116)。処理対象のメッシュとは、山などの障害物によってマスクされずに観測情報が取得されたと推定されるメッシュMである。対象メッシュを選択するために、例えば数値地形データを参照してもよい。また、対象メッシュブロックMB内で雪が存在していると判定されたメッシュMがひとつも存在しない場合は、その対象メッシュブロックMBに対する対象メッシュMの選択をスキップしても良い。
【0043】
次に、第1推定部30は、対象メッシュブロックMB内の対象メッシュごとに単位時間あたりの地上での積雪量を推定する(ステップS118)。第1推定部30は、ステップS110で導出した降雪量Ms[mm]に基づいて、単位時間当たりの積雪量を推定する。例えば、第1推定部30は、式(2)を用いて、単位時間当たりの積雪量を推定する。
SF=c×Msd+τ×e・・・(2)
【0044】
「SF」は積分終了時点(単位時間経過時)の積雪量である。式(2)の右辺の第一項(「c×Msd」)は、ステップS110で導出された降雪量が実際の積雪量に変換されることを示している。「c」または「d」は、最適パラメータである。
【0045】
右辺の第二項(「τ×e」)は、積分開始時点(単位時間の始点)での積雪量を示している。つまり、「e」は、対象メッシュにおいて、ある時刻(例えば積分開始時点)で観測または導出された積雪量そのものである。この積雪量「e」は、全対象メッシュに一様に同じ値が与えられてもよいし、二次元平面上(例えばXY平面上)の連続的な分布として与えられてもよい。
【0046】
「τ」は積雪増減量を表現する時定数であり、例えば積雪量「e」の観測時間とレーダ装置10の観測時間とに差がある場合に生じる積雪量の変化を吸収(抑制)する役割を有する。すなわち、「τ」は、導出された積雪量「e」を、次の積分開始時点における積雪量(時間の経過に伴って減少した後の積雪量)に変換する時定数である。例えば、「τ」は、1以下の数値であり、漸減等の傾向を示す時定数である。また、この時定数「τ」は、全メッシュMに一様に同じ値が与えられてもよいし、二次元平面上の連続的な分布として与えられてもよい。
【0047】
図8は、ステップS118の処理の内容を概念的に示す図である。図示する例は、式(2)の第一項と第二項とに対応する積算量と、時刻との関係を示している。また、
図8の縦軸は積雪量を示している。例えば、初期時刻T(積分開始時点)において、積算量「e」が存在するものとする。この積雪量「e」は、時刻Tにおいて観測または導出された積雪量である。この場合、時刻T+1では、式(2)に従って、「e×τ」の積算量(eが時刻T~T+1で減少した結果である積算量)と、「(c×Ms
d)」の積算量(時刻T~T+1で降雪した積算量)とを加算した積雪量(「e#」)となる。時刻T+2では、積算量「e#×τ」と、「(c×Ms
d)#」の積算量(時刻T~T+1で降雪した積算量)とを加算した積雪量となる。このとき、例えば時刻T+2に新たに観測または導出された「e」が存在する場合、時刻T+3においては、時刻T+2を初期時刻として積雪量を推定してもよい。
【0048】
上述したように、処理装置20は、式(2)などの推定モデルと最適パラメータを用いて単位時間あたりの対象メッシュに対応する地上での積雪量を導出(推定)することができる。
【0049】
次に、第2導出部32が、対象メッシュブロックMB内の鉛直積算の降雪量を導出する(ステップS120)。第2導出部32は、ステップS110で導出したメッシュMごとの積雪量Ms[mm]を、鉛直方向に積算する。鉛直方向に積算される区間は、メッシュブロックMB内の全てのメッシュMとしてもよいし、より地上付近の雪の存在量に着目し、例えば下層3kmまでのメッシュMなどとしてもよい。鉛直方向に積算された降雪量をVIS(Vertical Integrated Snow)と称する。「VIS」は、その雲が潜在的にもつ上空の降雪量と捉えられる。
【0050】
次に、第2推定部34は、ステップS120で導出された「VIS」に基づいて、対象メッシュブロックMB内の単位時間当たりに地上に降り注ぎ積雪する量(積雪増加量:δSF)を推定する(ステップS122)。第2推定部34は、例えば、式(3)を用いて積雪増加量を導出する。
δSF=τs×f×VISg-(1-τ)×e・・・(3)
【0051】
式(3)の右辺の第一項(「τs×f×VISg」)は、上空の雪量が単位時間あたりにどれだけの積雪となるかに変換する項である。すなわち、右辺の第一項は、上空に潜在する雪の総量が、地上付近を通過し積雪する可能性がある降雪量(積雪相当量)と換言することができる。「f」および「g」は所定の係数である。「τs」は時間あたりの増加量を示す時定数である。「VIS」は、「τs」「f」および「g」によって積雪相当量に変換される。
【0052】
式(3)の右辺の第二項は、観測開始時点での積雪量を示している。つまり、「e」は、各メッシュMにおける、観測開始時点の積雪量そのものである。右辺の第二項の「(1-τ)×e」は、導出された積雪量「e」と、導出時点から次の観測開始時点における積雪量との差を示している。すなわち、積雪量「e」が導出された時点から次の観測開始地点において減少した積雪量を示している。右辺第一項の値が0となった場合、右辺の第二項を用いることで、積雪量の減少状況も表現できる。
【0053】
なお、第2推定部34は、例えば、ステップS120で導出された積算量に関する鉛直方向の領域には一様に雪の粒子が存在しているものと仮定して、単位時間当たりの地上に降り注ぐ積雪増加量を導出する。また、第2推定部34は、例えば、所定のモデルに基づいて、単位時間当たりの地上に降り注ぐ積雪増加量を導出してもよい。例えば、所定のモデルとは、時間ごとに降雪する雪の量が導出されるモデルである。
【0054】
図9は、ステップS122の処理の内容を概念的に示す図である。図示する例は、式(3)の第一項と第二項とに対応する積算量と、積雪増加量と、時刻との関係を示している。また、
図9の縦軸は積雪量を示している。例えば、時刻T#~T#+1の正味の積算増加量(δSF)は、「時刻T#~T#+1までの上空から積雪となった量である単純増加量「(τs×f×VIS
g)*」-時刻T#~T#+1までの既存積雪の減少量「(1-τ)×e」となる。
【0055】
例えば、時刻T#において、積算量「τs×f×VISg(=e)」が存在するものとする。この場合、時刻T#+1では、例えば式(3)の時定数が1未満に設定されている場合、式(3)に従って積雪量は「(1-τ)×e」減少する。この状態で、時刻T#から時刻T#+1の間では、「(τs×f×VISg)*」の雪が降雪すると、式(3)に従って「(τs×f×VISg)*」から「(1-τ)×e」が減算された積雪量が、正味の積雪増加量(δSF)となる。つまり、正味の積雪増加量とは、ある期間で上空から降雪した雪が積雪する量から、既に積雪した雪が減少する量を減算した量である。例えば、既に積雪した雪の減少する量が、上空から降雪した雪が積雪する量より大きければ、正味の積雪増加量は負の値となり、積雪量の現象状況が表現できる。
【0056】
図10は、積雪増加度合の推移の一例を示す図である。
図10の縦軸は積雪増加度合を示し、横軸は時間を示している。積雪増加度合は、気象状況によって刻々と変化する。例えば、ユーザや処理システム1の管理者等は、時刻Txにおいて、時刻Tx付近の積雪増加度合(例えば積雪増加度合の推移の傾向)に基づいて、将来の積雪増加度合の推移を推定することができる。例えば、図示するように時刻Txの前に積雪増加度合が減少傾向である場合、管理者等は、将来、図中、推移線Trのように積雪量は減少傾向に推移すると推定することができる。なお、処理装置20が、時刻Tx付近の積雪増加度合に基づいて、将来の積雪増加度合の推移を推定してもよい。
【0057】
図6の説明に戻る。ステップS118およびステップS122の処理後、処理部26は、観測対象のすべてのメッシュブロックMBについてステップS116~S122の処理か完了したか否かを判定する(ステップS124)。すべてのメッシュブロックMBについてステップS116~S122の処理か完了していない場合、ステップS114の処理に戻り、未選択のメッシュブロックMBを選択し、ステップS116~S122の処理を実行する。
【0058】
すべてのメッシュブロックMBについてステップS116~S122の処理か完了している場合、リスク導出部36が、上述した処理結果に基づいて、積雪に関するリスクを導出する(ステップS126)。例えば、リスク導出部36は、降雪量や、積雪量、積雪量の増加の予測に基づいて、積雪リスクを導出する。例えば、リスク導出部36は、降雪量と積雪量に着目した直近(数10分先)の積雪リスクや、積雪量と積雪量の増加の予測を用いた中長期的(数時間先)の積雪リスクを導出してもよい。
【0059】
また、リスク導出部36は、メッシュMごとに導出された積雪リスクから、その地域などの特異性を考慮して、ユーザに適した積雪リスクに関する情報を生成してもよい。例えば、リスク導出部36は、積雪リスクに対して、鉄道路線周辺や幹線道路周辺、災害緊急道路周辺などの地域ごとに付与された重みを、その地域に対応する積雪リスクに付与して、積雪リスクを導出してもよい。
【0060】
また、リスク導出部36は、更に長期的な積雪リスクの判断の材料として、数値気象モデルの予報データと、処理結果とを組み合わせてリスク判断してもよい。例えば、リスク導出部36は、上記の数値気象モデルから得られた情報や、積算リスク等を数値化し、数値化した数値に対して加減乗除算することよって積算リスクを導出し、導出した積算リスクと閾値とを比較することで最終的な積算リスクを導出してもよい。また、リスク導出部36は、上記の数値気象モデルから得られた情報や、積算リスク等を数値化し、上記の数値化した数値を確率予測モデルや学習型モデルに適用して積雪リスクを導出してもよい。
【0061】
次に、情報送信部38は、解析データを表示情報生成装置60に送信する(ステップS128)。解析データは、降雪量や、積雪量、積雪量の増加の予測、積雪リスクなどを含む。これにより本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0062】
表示情報生成装置60の表示情報生成部62は、情報送信部38から送信された処理結果に基づいて表示情報を生成する。そして、表示情報送信部64は、表示情報生成部62により生成された表示情報を端末装置100に送信する。端末装置100は、表示情報を取得し、取得した表示情報に応じた画像IMを端末装置100の表示部に表示させる。
図11は、端末装置100の表示部に表示される画像IMの一例を示す図である。画像IMには、積雪リスクが高、中、低の地域を示す情報や、積雪リスクに関する注意報などの情報が含まれる。
【0063】
[学習部が行う処理]
図12は、学習装置80により実行される処理の概念図である。まず、学習装置80の取得部82が、学習データを取得する(1)。学習データは、レーダ装置10(または他のレーダ装置)により取得された観測情報と、例えば以下の(A)~(D)の情報のうち一以上の情報との組み合わせである。(A)は地上の観測器により観測された積雪に関する情報、(B)はSNSなどのネットワーク上において提供されている積雪に関する情報(例えば投稿された積雪に関する情報)、(C)は車載カメラや車載レーダにより取得された積雪情報、(D)は企業や自治体により提供された積雪情報である。また、学習データは、気象モデルデータであってもよい。気象モデルデータは、仮想的に生成された観測情報と、この観測情報をモデルに適用して導出された降雪強度や、積雪量、積雪増加量等である。
【0064】
学習部84は、学習データを用いた機械学習または深層学習を行い、観測情報が入力されると降雪度合を導出する推定モデル、または推定モデルに適用される最適パラメータを導出する(2)。そして、提供部86が、導出された推定モデル、または最適パラメータを処理装置20に提供する(3)。
【0065】
学習部84は、例えば、メンバーシップ関数、式(1)、(2)、(3)におけるパラメータを変更して、レーダ装置10の観測情報を入力した場合に、メンバーシップ関数、式(1)、(2)、(3)を適用して出力される情報が実際に観測等された情報(教師データ)に近づくような推定モデル、または最適パラメータを導出する。学習部84は、例えば、ニューラルネットワークや、回帰モデル、サポートベクターマシンなどのモデルを用いて推定モデル、または最適パラメータを導出する。また、学習部84は、上記手法に限らず、加減乗除算によって最適パラメータを導出してもよい。
【0066】
[まとめ]
本実施形態によれば、二重偏波フェーズドアレイ気象レーダから得られる高頻度で隙間無く観測されたデータを用いることで、数10秒周期で、時空間的に連続した降雪量・積雪量の分布や時間変化を高頻度かつ高確度に推定し、積雪リスクを判定することが可能となる。さらに、観測データとしての積雪リスクと、土地情報や路線情報、交通情報を組み合わせてリスク情報を生成することで、人的および経済的な大雪によるリスクを、高精度かつ迅速に通知、提供することが出来るようになる。具体的には、一般向けのアプリケーションソフトやSNSなどを通して情報を提供することで、一般市民への注意喚起、避難喚起の一助となることが期待される。また、地方公共団体、道路管理者、鉄道運行管理者、バス運行管理者等の大雪時の対応迅速化に対して有効に寄与することが期待される。
【0067】
[比較例]
ここで、単偏波レーダの気象レーダで得られる情報では、降水粒子の判別を行うことができず、地上に降り注ぐ粒子が雨なのか雪なのかをレーダによって判別することができなかった。その後登場した二重偏波気象レーダでは、観測で得られる偏波パラメータを用いて降水粒子判別を行う技術が開発され、これによって、レーダで観測された粒子が雨なのか、雪なのか、などの情報が得られるようになった。
【0068】
しかしながら、これらの粒子判別結果の精度向上には、これまでは雲内を直接観測して得られる情報とレーダで得られる情報から解析した粒子判別結果とを照合してパラメータ調整する方法が主であり、この方法は限られた事例での検証であるため、時々刻々と変化し、豊かな地域性をもつ気象現象、特にここでは降雪現象に対して、常に最適なパラメータを取っているとは言いがたい。
【0069】
降雪量、または積雪量という点に注目すると、一般的に、ある特定地点(例えばアメダス地点など)での情報が空間的に疎な情報としてだけ提供され、交通や市民生活に対して十分な情報であるとは言いがたい。つまり、時々刻々と変化する降雪量や積雪量を連続的かつ二次元平面的に得られる手段は未だかつて確立されていない。
【0070】
気象レーダの観測手法に着目する。パラボラ型の気象レーダで得られるデータは、平面的なデータの集合であり、鉛直方向に疎なものである。そのため、雲内の物理量、特に鉛直方向に積算した量を求める際には、高い精度で解析することは困難であった。また、3次元的に降水雲や降水システムを解析するために必要なレーダデータを得るためには、例えば4分~10分の時間を要し、時々刻々と変化する気象現象の特徴を連続的に捉えることは困難であった。
【0071】
災害をもたらし、また経済的に損失を発生させる大雪は、短時間で積雪量が増加することが多く、また、降水以上に地域性を考慮した積雪量の予測が重要である。しかし、上記に述べた理由から、有益な降雪・積雪情報(つまり、時空間的に連続で精度の高い情報)を提供することは困難であるという問題がある。
【0072】
本実施形態の処理装置20は、二重偏波フェーズドアレイ気象レーダで得られる高頻度で隙間無く観測される偏波パラメータ観測データと、様々な手段で取得可能な地上情報を有効に活用することで、降雪量・積雪量の推定方式が最適化され、その結果レーダ情報を基礎とした時空間的に連続で精度の高い降雪量・積雪量情報を提供することができる。これにより、災害リスクや経済活動の阻害リスクの判断精度の向上が期待できる。
【0073】
例えば、処理装置20は、滑走路や、線路が敷設された地域などの降雪に関する情報を導出することができる。これにより、交通状況を管理する管理者は、航空機の離陸や着陸、鉄道の運行などに影響を及ぼす降雪が起こる可能性等を認識することができる。そして、管理者は、航空機や鉄道の運行スケジュールを事前に調整することができる。
【0074】
以上説明した実施形態によれば、観測領域が水平方向および鉛直方向に分割された複数の分割領域ごとの大気の状態を示す観測情報を取得する取得部22と、水平方向の位置が共通する分割領域群に含まれる分割領域の中から選択された対象分割領域の観測情報が入力されると、対象分割領域に対応する地上の積雪度合を示す情報を出力する第1推定モデルであって、第1推定モデルに観測情報が入力されると観測情報に対応付けられた積雪度合を示す情報が導出されるように学習されたパラメータを有する第1推定モデルに、取得部22により取得された観測情報を入力することで、地上の積雪度合を示す情報を導出する導出部(26、28、30、32)とを持つことにより、より精度よく降雪に関する情報を導出することができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1‥処理システム、10‥レーダ装置、20‥処理装置、22‥取得部、24‥設定部、26‥処理部、28‥第1導出部、30‥第1推定部、32‥第2導出部、34‥第2推定部、36‥リスク導出部、38‥情報送信部、40‥記憶部、42‥観測情報、44‥推定モデル、46‥最適パラメータ、60‥表示情報生成装置、62‥表示情報生成部、64‥表示情報送信部、80‥学習装置、82‥取得部、84‥学習部、86‥提供部、92‥学習データ、100‥端末装置