(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】補強用複合シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20220725BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220725BHJP
B32B 21/10 20060101ALI20220725BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220725BHJP
E04C 2/24 20060101ALI20220725BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20220725BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B32B5/02 A
B32B5/24 101
B32B21/10
B32B27/38
E04C2/24 R
E04C2/24 Z
E04C2/26 Z
E04C5/07
(21)【出願番号】P 2018135451
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔発行者名〕 土木学会北海道支部 〔刊行物名、巻数、号数〕平成29年度論文報告集 第74号 〔発行年月日〕 平成30年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰一
(72)【発明者】
【氏名】石坂 美穂
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-066215(JP,U)
【文献】特開平11-303383(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088184(WO,A1)
【文献】特開2003-96945(JP,A)
【文献】特開平4-57973(JP,A)
【文献】特開平11-34197(JP,A)
【文献】特開2018-2535(JP,A)
【文献】特開2017-14835(JP,A)
【文献】特開2001-300932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04C 2/24
E04C 2/26
E04C 5/07
E04B 1/80
E04F 13/18
E04G 23/02
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層材と、1枚もしくは複数枚の
JIS L 1013 8.5に準じて測定した引張強さが16cN/dtex以上の有機繊維および無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種の高強度繊維
(ただし、ガラス繊維を除く)を含む布帛からなる繊維シートと、緩衝材とが、接着剤を介して順に積層されてなることを特徴とする
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項2】
前記表層材が、木質材である、請求項1に記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項3】
前記布帛が、織物、編物、不織布、フェルトおよび一方向性シート(UD)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項4】
前記布帛が、1枚当りの目付が50g/m
2~1,000g/m
2である、請求項1~3のいずれかに記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項5】
前記緩衝材が、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリエステル、ポリウレタンから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂材料からなる発泡体である、請求項1~4のいずれかに記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項6】
前記発泡体が、ビーズ法ポリスチレン系樹脂発泡体である、請求項5に記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項7】
前記接着剤が、エポキシ系樹脂である、請求項1~6のいずれかに記載の
コンクリート製構造物補強用複合シート。
【請求項8】
請求項1に記載のコンクリート製構造物補強用複合シートを、当該補強用複合シートを構成する緩衝材がコンクリート層の上面になるようにコンクリート層に設置することを特徴とするコンクリート製構造物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強用複合シートに関する。さらに詳細には、特にコンクリート製建造物の床盤や壁面などの補強に好適な補強用複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常気象に伴う土石流、落石および竜巻飛来物、噴火活動に伴う噴石、テロによる爆破飛来物など、構造物が衝突作用を受ける事象が増加している。これまで、衝撃力を緩和するための対策の1つとして、EPS(Expanded Polystyrol:ビーズ法発泡スチロール)が緩衝材として用いられている。また、その緩衝性能を効率的に発揮させる方法として、EPSの上にRC版を配置する二層緩衝構造や、さらに砂を配置する三層緩衝構造が開発され実用化されている(非特許文献1)。
【0003】
しかし、これらの緩衝構造は表層材として、RC版などの剛性の高い部材を用いて衝撃力を分散させるが、重量が大きいため施工には重機が必要である。
【0004】
一方、表層材に軽量でかつ耐衝撃性に優れる部材を採用することで、人力で運搬可能な緩衝構造を開発できるものと考えられる。これまで、木材をアラミド繊維シートで曲げ補強することにより、木材の耐衝撃性を飛躍的に向上可能であることを明らかにしている(非特許文献2)。
【0005】
従って、EPS上にアラミド繊維などの高強度繊維シートで下面補強した木製板などの表層材を配置することにより、軽量で高性能な多層緩衝構造を構成できるものと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】今野久志,西弘明,牛渡裕二,栗橋祐介,岸徳光:三層緩衝構造を設置したRC製ロックシェッドの耐衝撃挙動に関する数値解析的検討,構造工学論文集,Vol.61A,pp.1024-1033,2015.3
【文献】池田和隆,栗橋祐介,小室雅人,坂井秀敏,岡田泰一,斎藤智久:熱可塑性樹脂を用いてアラミド繊維シートを接着した木材の衝撃載荷実験,土木学会北海道支部論文報告集,第73号,CD-ROM,A-48,2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量で高性能な多層緩衝構造を有する耐衝撃性に優れた補強用複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するため本発明者等は鋭意検討を行った結果、下記構成により、軽量で耐衝撃性に優れた補強用複合シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(1)表層材と、1枚もしくは複数枚のJIS L 1013 8.5に準じて測定した引張強さが16cN/dtex以上の有機繊維および無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種の高強度繊維(ただし、ガラス繊維を除く)を含む布帛からなる繊維シートと、緩衝材とが、接着剤を介して順に積層されてなることを特徴とするコンクリート製構造物補強用複合シート。
(2)前記表層材が、木質材である、前記(1)に記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(3)前記布帛が、織物、編物、不織布、フェルトおよび一方向性シート(UD)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記(1)または(2)に記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(4)前記布帛が、1枚当りの目付が50g/m2~1,000g/m2である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(5)前記緩衝材が、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリエステル、ポリウレタンから選ばれる少なくとも1種の合成樹脂材料からなる発泡体である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(6)前記発泡体が、ビーズ法ポリスチレン系樹脂発泡体である、前記(5)に記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(7)前記接着剤が、エポキシ系樹脂である、前記(1)~(6)のいずれかに記載のコンクリート製構造物補強用複合シート。
(8)前記(1)に記載のコンクリート製構造物補強用複合シートを、当該補強用複合シートを構成する緩衝材がコンクリート層の上面になるようにコンクリート層に設置することを特徴とするコンクリート製構造物の補強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量で耐衝撃性に優れた補強用複合シートを提供することができる。このような補強用複合シートは、大重量のため設置や撤去が困難であった従来の多層緩衝構造に代わって、高層ビル建築工事現場などでも使用することができ、資材の落下防止など新たな防護対策手段となり得る。資材落下による危険性を考慮して工事が夜間に限定されていた現場に防護対策することにより、昼間の工事が可能となるため、建設コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る補強用複合シートの説明図である。
【
図5】EPSブロックの中央部切断面の状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、本発明の補強用複合シート1は、(A)表層材2、(B)高強度繊維を含む1枚もしくは複数枚の布帛からなる繊維シート3、(C)緩衝材4の3層から構成され、それぞれが接着剤を介して順に積層されてなる。
【0014】
(A)表層材は、繊維シートを挟んで、緩衝材の反対面に形成される。表層材は耐衝撃性に優れたものが好ましく、補強用複合シートの用途によって各種材料を用いることができる。例えば、木質材や、ポリカーボネート樹脂などの樹脂材、繊維強化樹脂材、石膏ボードなどの非木質材が挙げられる。軽量性、加工性等の観点からは木質材が好ましい。
【0015】
表層材の厚みは特に限定されないが、耐衝撃性を得る点より、2mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがさらに好ましい。上限は特にないが、余りに厚くなると重量化するため、50mm以下であることが好ましい。
【0016】
上記の木質材としては、例えば、単板、単板積層材(LVL)、単板間が接着剤を介して接着された合板、パーティクルボード(PB)、ファイバーボード(MDFなど)、OSB(Oriented Strand Board)、集成材、ブロックボード、木質複合材などが挙げられる。
単板積層材は、木材を薄くスライスして得た単板を、繊維方向を同方向に向けて複数枚重ね熱圧接着した木質ボードであり、層間が接着剤を介して接合されている。
合板は、木材を薄くスライスして得た単板を、繊維方向が互い違いとなるように複数枚重ねて熱圧接着した木質ボードであり、層間が接着剤を介して接合されている。合板としては、針葉樹合板と広葉樹合板がある。
パーティクルボードは、木材の切削や破砕などにより得た小片を接着剤と混合してマット状にしたものを熱圧締めして得られる木質ボードである。
ファイバーボードは、木材の蒸射・解繊などにより得た小片を接着剤と混合してマット状にしたものを熱圧締めして得られる木質ボードである。ファイバーボードとしては、MDF(中比重繊維板)、ハードボード(HB)、インシュレーションボードが挙げられる。
OSBは、薄い削片状にした原料を配向させて積層、接着したものである。
集成材は、ひき板または小角材などを、繊維方向に互いに平行にして長さ、幅、厚さ方向に集成接着したものである。
ブロックボードは、ブロック状の小片を板状に集成接着したものである。
【0017】
木質複合材は、前記木質ボードの片面または両面に、接着剤を介して、表面化粧材や繊維マットなどを接合したものである。形状は、フィルム、シート、板などが挙げられる。表面化粧材としては、突板、紙、オレフィン樹脂製シート、塩化ビニル樹脂製シート、メラミン含浸紙などが挙げられる。不織マットとしては、綿繊維、ケナフ繊維やジュート繊維などの麻繊維、竹繊維、油椰子やココ椰子などの椰子繊維などの植物繊維を含む繊維材料からなる不織マットなどが挙げられる。
【0018】
(B)繊維シートは、1枚もしくは複数枚の布帛から構成される。布帛は高強度繊維を含む布帛であり、本発明の補強用複合シートの耐衝撃性に影響を及ぼさない限度において、高強度繊維以外の繊維、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維などが含まれていてもよい。上記の繊維あるいは布帛は、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用されている各種添加剤を含んでいてもよい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、耐電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤、油剤などを含有、または付着せしめることができる。
【0019】
高強度繊維としては、耐力が高い布帛が得られる点より、引張強さが16cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは18cN/dtex以上、さらに好ましくは19cN/dtex以上である。引張強さは、JIS L 1013 8.5に準じて測定した値である。
【0020】
高強度繊維としては、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリベンゾビスオキサゾール)繊維、高強力ポリエチレン繊維などの有機繊維;炭素繊維などの無機繊維が挙げられ、これらの高強度繊維からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。これらの高強度繊維のなかでも、しなやかさ、軽量性、折れ難さ、施工現場での取り扱い易さの点で、パラ系アラミド繊維が好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などを挙げることができ、これらのパラ系アラミド繊維のなかでも、高弾性率である点で、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0021】
高強度繊維は、単糸繊度が0.5~7dtexであることが、樹脂含浸性、施工現場での裁断など取り扱い易さの点で好ましい。また、布帛の糸繊度は、接着剤を含浸させるための単位幅あたりの繊維密度や、布帛の強力維持とのバランスを考慮すると、1,500~5,000dtexが好ましい。1,500dtex以上であれば、接着剤の含浸性が良好でかつ高耐力の布帛を得ることができ、また5,000dtex以下であれば、製織編性や布帛としての特性を損なうことがない。
【0022】
上記の繊維を用いて布帛を作製し、繊維シートの材料とすることができる。該布帛としては、織物、編物、不織布、フェルトおよび一方向性シート(UD;繊維が一方向に引き揃えられたもの)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、さらに、複数のUDを引き揃え方向の角度を変えて積層した一方向性シート積層体、例えば0°/90°に積層した一方向性シート積層体(あるUDの引き揃え方向を0°としたとき、次層のUDの引き揃え方向を90°違えて積層することを意味する。)などを好ましく使用できる。寸法安定性、強度の点より織物がさらに好ましく使用できる。
【0023】
布帛の織組織としては、平織、綾織、朱子織、バスケット織、模紗織、杉織、畝織、二重織などが挙げられ、そのなかでも、製織性に優れる点で、平織、綾織、朱子織布帛が好ましい。布帛の編組織としては、よこ編、たて編のいずれでもよく、平編、ゴム編、パール編、多軸編物などが好ましい。
【0024】
また、布帛を使用する場合には、二方向織物および多方向(3方向、4方向など)織物からなる群から選択される少なくとも1つの織物を含むことが好ましい。なかでも二方向織物は、たて糸とよこ糸の交錯率が比較的高い織物に対しても樹脂含浸性が良く、補強用布帛の取り扱い時などにおいて、たて糸とよこ糸がずれる“目ずれ”が生じにくい利点がある。2方向織物における、たて糸およびよこ糸の密度は8~18本/cmであることが好ましい。糸密度が8本/cm以上であれば、織物に耐力を付与することができ、糸密度が18本/cm以下であれば、良好な接着剤含浸性を付与することができる。
【0025】
布帛は、2枚あるいは3枚以上積層して使用することが、強度の点より好ましいが、1枚のみ使用することもできる。例えば、織物と織物、織物と編物、織物と不織布、織物とUDなどを積層した布帛を使用することができる。
【0026】
布帛を複数枚積層して用いる場合は、あらかじめ布帛を接着剤などで接着させたものを用いることにより、布帛がバラバラになるのを防止すると共に、布帛の耐力を向上させることができる。接着剤としては、後述する接着剤を用いることができる。
【0027】
布帛は、1枚当りの目付が50g/m2~1,000g/m2が好ましく、より好ましくは100~800g/m2、更に好ましくは150~600g/m2の範囲である。目付が大きすぎると、接着剤を短時間で含浸させることが困難となるため、接着不良になるおそれがある。一方、目付が小さすぎると、得られる補強用複合シートの衝撃吸収性が不十分になるおそれがある。布帛は、接着剤が含浸し得る程度の隙間(孔)を有するものが好ましく使用できる。
【0028】
(C)緩衝材としては、合成樹脂発泡体、熱硬化性エラストマー(ゴム)、熱可塑性エラストマー、繊維マット材などを用いることができ、なかでも、軽量性、緩衝作用、加工性等の点より、合成樹脂発泡体を好ましく用いることができる。合成樹脂発泡体の密度は、良好な耐荷重および耐破壊強度を得る点より、10kg/m3以上、40kg/m3以下であることが好ましく、15kg/m3以上、30kg/m3以下であることがより好ましい。
【0029】
合成樹脂発泡体は、成形金型から取り出した際の表面にフィーダー痕や充填孔が付いているため、それらを取り除き、発泡樹脂の片面または両面を研削し、厚みの偏差値が1mm以下になるように均一化されていることが好ましい。
【0030】
合成樹脂組成物を発泡させる方法は、特に限定されないが、均質な合成樹脂発泡体が得られる点より、ビーズ法を用いることが好ましい。ビーズ法は、発泡剤を含浸させた発泡樹脂組成物からなる発泡樹脂粒子を金型のキャビティ内に充填し、充填された発泡樹脂粒子を蒸気で二次発泡させつつ、予備発泡粒子同士を熱融着により一体化させることで樹脂発泡体を得る方法である。
【0031】
合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂の単体、あるいは、これらの混合樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のなかでも、樹脂自体の強度を考慮すると、ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレン系樹脂がさらに好ましい。
【0032】
緩衝材の厚みは、良好な耐荷重性および耐破壊強度を得る点より、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。また、余りに厚くなると取扱い性が悪化するため、取り扱い性と耐衝撃性のバランスの点より、50mm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明に係る補強用複合シートは、表層材と繊維シート(1枚または複数数)を、接着剤を用いて接着し複合板を作製した後、該複合板の繊維シート面に、接着剤を用いて、緩衝材を接着させることにより製造できる。繊維シートを複数枚の布帛で構成する場合は、布帛毎に接着剤を含浸もしくは塗布した後、接着剤を含浸・塗布した布帛を順に積層し、接着剤を硬化させて繊維シートを作製する。布帛として不織布を用いるときは、積層した不織布に接着剤を含浸させることもできる。あるいは、繊維シートと緩衝材を接着剤で接着した後、繊維シートの緩衝材とは反対面に表層材を重ね合わせ、接着剤で接着する方法でも製造できる。
【0034】
接着剤層の形成に用いられる接着剤の種類としては、一般的に合成系接着剤が用いることが好ましい。例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、α-オレフィン系、エーテル系、エチレン-酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、塩化ビニル樹脂系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、シリコーン系、スチレン-ブタジエンゴム系、フェノール樹脂系、ポリアミド樹脂系、ポリイミド樹脂系、ポリオレフィン樹脂系などが挙げられる。繊維、表層材および緩衝材の種類に合わせて適選変更することが可能である。上記の接着剤のなかでも、取扱性および高強度繊維との接着性に優れている点から、エポキシ系樹脂が好ましい。エポキシ系樹脂は、可撓性付与のためのゴム成分(カルボキシル変性ニトリルゴム、アクリルゴムなど)、または粘着付与剤などを含んでいてもよい。
【0035】
接着剤層の厚みは10~500μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50~200μmである。10μm以上であれば、接着剤の効能が発揮されることで、表層材と繊維シート間での剥離を防止できる。また、500μm以下でれば、塗布時の手間、軽量化が著しく損なわれることがない。
【0036】
接着剤の塗布および硬化方法については、使用する接着剤の種類に応じて使用推奨条件の記載に従い、適選変更することが可能であるが、塗布方法は特に限定されない。また、接着剤の塗布面は表層材、繊維シート、緩衝材のいずれでも問題ないが、被接着材の両方に塗布すると、接着剤との親和性、濡れ性を向上させることができるため、最も好ましい態様である。また接着剤を塗布する被接着材はいずれも、温度が室温まで冷却された状態で塗布することが好ましい。かかる塗布により、被接着材が冷却過程でソリ変形が発生するのを防止できる。
【0037】
本発明の補強用複合シートは、表層材は衝撃低減作用、繊維シートは衝撃分散作用、緩衝材は衝撃吸収作用、を有すると推察される。かかる観点より、補強用複合シートの緩衝材がコンクリート層の上面になるように設置して用いることが望ましく、コンクリート層が、重量物の落下、高速飛来物の衝突などによる衝撃で破壊されることを防止あるいは緩和することができる。
【0038】
また、本発明の補強用複合シートでは、表層材に繊維シートを接着することで耐衝撃性が向上し、なかでも軽量な緩衝材として樹脂発泡体(特に、ビーズ法ポリスチレン系樹脂発泡体(EPS))を用いることで剪断抵抗が小さく局所化する。従って、表層材と繊維シートおよび緩衝材が二重緩衝構造を形成するため、耐衝撃性に優れるシートとなる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0040】
[実験使用材料]
1)EPS(Expanded Poly Styrene;ビーズ法発泡ポリスチレン)
品名;スチロダイアブロック、型式D-20((株)JSP)
主成分;ポリスチレン
発泡倍率;50
単位体積重量(kN/m3);0.212
2)市販のコンクリート型枠合板(JAS規格、厚さ9mm)
大きさ;900mm四方
3)一般構造用圧延鋼材(SS400、厚さ3.2mm)
大きさ;914mm四方
4)2方向パラ系アラミド繊維(ケブラー(R))シート(以下「AFRPシート」)
大きさ;1,000mm四方
目付量(g/m2);435/435
保証耐力(kN/m);588/588
厚さ(mm);0.286/0.286
引張強度(GPa);2.06
弾性係数(GPa);118
破断ひずみ(%);1.75
東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度3,160dtex、単糸繊度1.58dtex、フィラメント数2,000本、単糸強度20.8cN/dtex)をたて糸及びよこ糸として用い、レピア織機により4枚朱子(4×4)織物を製織した。織物のたて糸密度13本/cm、よこ糸密度13本/cm。
5)エポキシ系接着剤;住友ゴム工業(株)製のグリップボンドGB-35
【0041】
(実施例1)
コンクリート型枠合板に接着する場合には、紙やすりを用いてAFRPシート接着範囲を目荒しし、アセトンを含んだウェスで不純物の除去および脱脂を行い、その後、シート接着範囲にプライマーを塗布し、プライマーが指触乾燥状態であることを確認した後、AFRPシートを補強範囲に設置し、エポキシ系含浸接着樹脂を用いて接着した。養生期間は7日程度。鋼材に接着する場合には、プライマーを使用せず、その他は型枠合板の場合と同様の手順で接着作業を行った。
【0042】
表1に試験体一覧を示す。
【0043】
【0044】
[重錘落下実験]
質量300kg、先端直径200mmの鋼製重錘を所定の高さからリニアレールを介して試験体の中央部に自由落下させる形で行った(
図2参照)。重錘落下高さは、0.5m、1.0m、1.5mとした。
本実験における測定項目は、重錘衝撃力および重錘貫入量である。重錘貫入量は、レーザ式変位計を鉛直上向きに設置し、重錘に取り付けたL字アングルとの距離を測定する形で評価した。これらの計測値を、メモリレコーダを用いて、サンプリング周波数10kHzで一括収録した。また、重錘落下実験時には高速度カメラを用いて、試験体の変形や破壊性状などの確認を行った。実験終了後には、複合板の接着状況を確認するとともに、発泡材を中央部で切断し、残留変形を観察した。
【0045】
[実験結果]
各試験体の(a)重錘衝撃力、(b)重錘貫入量、(c)衝撃力-貫入量関係に関する波形を、重錘落下高さごとに求めた。また、(d)重錘落下試験後の試験体の状況を観察した。
【0046】
(a)重錘衝撃力
図3(a)には、各試験体の重錘衝撃力波形を示している。重錘落下高さ0.5mにおいて、複合板なしのN-IS試験体の重錘衝撃力波形は、最大振幅が15kN程度で継続時間が180ms程度の波形性状を示している。これに対し、複合板を設置したWA/SA-IC試験体の場合には、最大振幅が55~60kN程度で、継続時間が50ms程度の波形性状を示している。このことから、複合板を設置することにより、重錘衝撃力が3.5~4.0倍程度増加していることが分かる。
重錘落下高さ1.0mにおいて、WA-IC試験体の最大衝撃力は80kN程度であるのに対し、SA-IC試験体の最大衝撃力は50kN程度である。これは、後述するように、SA-IC試験体の場合には、鋼板からAFRPシートが剥離したことによるものと推察される。
重錘落下高さ1.5mにおいてWA-IC試験体の場合には、最大重錘衝撃力に到達後、衝撃力が急激に低下するものの、35kN程度で一定値を示している.これは、後述するように、木材複合板が破損し、その抵抗力が消失した後、EPSが衝撃エネルギーを吸収したことによるものと推察される。また、落下高さ2.0mの単一載荷のWA-IS2.0試験体の場合にも同様な性状が確認された。
【0047】
(b)重錘貫入量
図3(b)には、各試験体の重錘貫入量波形を示している。重錘落下高さ0.5mにおいて、複合板なしのN-IS試験体では、最大貫入量が160mm程度であり、貫入ひずみで換算すると64%を示している。これに対し、複合板を設置したWA/SA-IC試験体の場合には、最大貫入量は40mm程度であった。このことから、複合板を設置することによって、EPSへの貫入が抑制されていることが分かる。
重錘落下高さ1.0mにおいて、WA-IC試験体、SA-IC試験体共に最大貫入量は60mm程度であるものの、復元特性は異なる。すなわち、SA-IC試験体の方がWA-IC試験体よりも復元速度が遅い。これは、AFRPシートの剥離により復元性能が低下したことによるものと考えられる。
WA-IC/IS試験体の最大貫入量は、重錘落下高さが大きい場合ほど大きく、2.0mの場合では90mm程度であった。ただし、後述するように、EPSに残留変形はほとんど生じていない。
【0048】
(c)衝撃力-貫入量関係
図3(c)には、各試験体の衝撃力-貫入量関係を示している。重錘落下高さ0.5mにおいて、複合板なしのN-IS試験体の場合には、重錘衝撃力が小さく貫入量は大きくなっている。これに対して、複合板を設置したWA/SA-IC試験体の場合には、重錘衝撃力が大きく、貫入量が小さいことから、剛性が大きいことが分かる。
重錘落下高さ1.0mにおいて、SA-ICとWA-IC試験体を比較すると、前者の方が初期剛性は大きいものの、最大衝撃力は小さい。これは、SA-IC試験体に設置したAFRPシートの剥離によるものと推察される。
重錘落下高さ1.5mにおいては、最大重錘衝撃力衝突後、衝撃力は減少するものの、変位は一定値を経て、ある荷重から低下する。これは、WA-IC試験体に設置した木材複合板が破損した後、EPSが衝撃エネルギーを吸収したことによるものと推察される。落下高さ2.0m単一載荷の場合にも同様な性状が確認された。
複合板を設置することにより重錘衝撃力が増大しているのは、重錘が剛性の高い複合板に衝突後、衝撃力が分散されEPSの応答領域が広くなったことによるものと推察される。一方、後述するようにEPSの変形は軽微であるため伝達衝撃応力は小さい(0.2MPa程度)ものと推察される。
【0049】
(d)重錘落下実験後の状況
複合板なしのN-IC0.5試験体の場合には、重錘がEPSに貫入していることが確認される。一方、鋼材+AFRPシート複合板(以後、鋼材複合板)を設置したSA-IC1.0試験体の場合には、重錘衝突周辺の鋼板が浮き上がり、AFRPシートが剥離したことが確認される。木材複合板を用いたWA-IC1.5試験体の場合には、型枠合板に割れが生じ浮き上がっていることが確認される。ただし、AFRPシートは剥離していない。
【0050】
図4には、複合板の損傷状況を示している。SA-IC1.0試験体の場合には、鋼材は面外方向に大きく変形しAFRPシートは全面的に剥離した。一方、WA-IC1.5試験体の場合には、表面において型枠合板に割れが生じ、裏面ではシートが部分的に破断が生じている。
【0051】
図5には、EPSの中央部切断面の状況を示している。複合板なしのN-IS0.5試験体の場合には、重錘直径と同じ大きさで陥没し、また斜め下方に亀裂が生じていることが確認される。これに対し、複合板を設置したSA-IC1.0およびWA-IC1.5試験体の場合には、それぞれ最大で60、85mm程度残留変形しているものの、N-IS0.5試験体に見られた亀裂は見られなかった。これらのことから、EPSの上に複合板を設置することにより、その緩衝効果が向上することが明らかになった。特に、木材とAFRPシートの付着性能は高いため、緩衝性能を4倍程度向上可能であることが明らかになった。また、前述の表1を参照すると、入力エネルギーを緩衝構造の重量で除した重量比エネルギーは、N-IS0.5試験体、SA-IC1.0試験体、WA-IC1.5試験体およびWA-IS2.0試験体でそれぞれ24.0、10.8、49.7および65.4(J/N)となっていることから、木材複合板とEPSを用いた二層緩衝構造は、軽量かつ緩衝効果に優れる緩衝構造であるものと考えられる。
【0052】
木製および鋼製の板材をAFRPシートを用いて補強した複合板をEPS上に設置した二層緩衝構造の緩衝効果を検討することを目的に、重錘落下実験を行った。本実験で得られた知見をまとめると以下のとおりである。
・板材の種類によらず、AFRPシート補強した複合板をEPS上に設置することで、その緩衝性能を大きく向上させることができる。
・鋼材複合板を用いる場合にはAFRPシートが剥離する。一方、木材シート複合板を用いる場合には剥離せずシートの一部が破断した。
・木材とAFRPシートの付着性は極めて高く、軽量で耐衝撃性に優れる複合板として二層緩衝構造に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の補強用複合シートは、軽量性を有し、耐衝撃性に優れているため、トンネル、橋脚、ビルなどのコンクリート製建造物の床版や壁面など、作業効率と経済性が要求される建造物の補強に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 補強用複合シート
2 表層材
3 繊維シート
4 緩衝材