(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】超電導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20220725BHJP
H01L 39/16 20060101ALI20220725BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220725BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
H01F6/02 ZAA
H01L39/16
A61B5/055 331
G01N24/00 600C
(21)【出願番号】P 2018160010
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-056119(JP,A)
【文献】特開2015-142044(JP,A)
【文献】特開2010-147370(JP,A)
【文献】特開平07-142238(JP,A)
【文献】特開平07-235412(JP,A)
【文献】特開2008-041966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/02
H01L 39/16
A61B 5/055
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、
前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有
し、
前記励磁電源には、室温領域に設けられた保護抵抗が並列に接続され、前記常電導抵抗体の抵抗値は、前記保護抵抗の抵抗値よりも大きく、且つ前記永久電流スイッチのオフ抵抗よりも小さく設定されたことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、
前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有し、
前記常電導抵抗体に、この常電導抵抗体の温度を制御可能な温度制御手段が設けられたことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項3】
真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、
前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有し、
前記常電導抵抗体と前記輻射シールドとの熱的な接続部に、前記常電導抵抗体と前記輻射シールドとの間の熱抵抗を調整可能な熱スイッチが設けられたことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項4】
前記超電導コイルは、高温超電導線材にて構成された高温超電導コイルであり、前記永久電流スイッチは、前記高温超電導線材にて構成されたことを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項5】
前記永久電流スイッチの強制クエンチ時には、常電導抵抗体と輻射シールドとの間の熱抵抗が、前記常電導抵抗体と前記永久電流スイッチとの間の熱抵抗よりも小さく設定されたことを特徴とする請求項
3に記載の超電導磁石装置。
【請求項6】
前記常電導抵抗体に直列にダイオードが接続され、このダイオードの順方向が、超電導コイルから前記常電導抵抗体へ流れる電流の向きと一致して設定されたことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項7】
前記常電導抵抗体の一部分が、他の部分よりも断面積が小さく構成されたことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項8】
前記常電導抵抗体と前記輻射シールドとの熱的な接続部を除く前記常電導抵抗体の周囲に、絶縁体のカバーが設けられたことを特徴とする請求項
7に記載の超電導磁石装置。
【請求項9】
前記常電導抵抗体は、輻射シールドの内部または外部に設置されたことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、永久電流スイッチを備え、励磁電源から超電導コイルへ電流を供給する電流供給ラインに異常が発生した場合においても、永久電流スイッチを強制クエンチした際にこの永久電流スイッチを保護する超電導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材には、超電導状態を維持させる電流密度、温度、磁場の範囲、いわゆる臨界電流密度、臨界温度、臨界磁場が存在する。従って、電気抵抗がほぼゼロといえども無限に電流を流せるわけではなく、いずれかの臨界値を超えると、常電導状態への転移現象、すなわちクエンチが発生する。このようなクエンチによる常電導転移領域でのジュール発熱は、瞬時に超電導コイルを熱暴走させ、最悪の場合には焼損に至る恐れがあるため、クエンチに対する保護技術が不可欠である。
【0003】
超電導コイルのクエンチ保護に関する従来技術としては、例えば超電導コイルに励磁電源を接続し、この励磁電源に並列に、室温領域に配置された保護抵抗を接続する構成がある。本構成では、超電導コイルが常電導状態に転移することで発生するコイル電圧や温度上昇を検出し、これをトリガーとして励磁電源を緊急遮断する。この緊急遮断後には超電導コイルと保護抵抗とが閉回路になるため、保護抵抗のジュール発熱によって超電導コイルの磁気的な蓄積エネルギ(磁気エネルギ)が消費され、超電導コイルは消磁により熱暴走を回避することが可能になる。
【0004】
ところで、核磁気共鳴測定装置(NMR)や磁気共鳴画像診断装置(MRI)などの超電導磁石装置においては、通常運転時に、発生する磁場に高い時間安定性が要請される。このため、特許文献1に記載された超電導磁石装置100では、
図7に示すように、超電導コイル101が励磁電源102に電気的に接続され、この励磁電源102に保護抵抗103が電気的に並列に接続されるほか、超電導コイル101に永久電流スイッチ104が電気的に並列に接続されている。このうちの超電導コイル101及び永久電流スイッチ104は、真空容器105内に設けられた輻射シールド106内に配置されている。
【0005】
永久電流スイッチ104は一般に超電導線材で構成されており、超電導転移温度Tc以下に冷却された状態では、超電導コイル101及び永久電流スイッチ104を含む、原理的には電気抵抗ゼロの閉ループを電流が矢印αのように流れる。このため、超電導コイル101は、電流減衰のない非常に安定した磁場を発生させることが可能になる。この永久電流スイッチ104のオン、オフの切り替えは温度変化を利用してなされる。
【0006】
つまり、励消磁時には、永久電流スイッチ104への電流の分流を防いで超電導コイル101に励磁電源102から電流を供給させるため、永久電流スイッチ104を、ヒータ107などを使って超電導転移温度Tc以上に加熱して高抵抗(オフ抵抗)にする。また、励磁後に上述の閉ループを用いた通常運転(永久電流モード運転)に移行する場合には、ヒータ107をオフ操作して永久電流スイッチ104を冷却し、この永久電流スイッチ104を超電導転移温度Tc以下に超電導状態に戻せばよい。
【0007】
永久電流スイッチ104が用いられる場合にも、前述のように超電導コイル101のクエンチ保護として励磁電源102を緊急遮断する際には、真空容器105外の室温領域か、もしくは非特許文献1に記載のように真空容器105内の室温領域近傍に配置された保護抵抗103によって、超電導コイル101の磁気エネルギを消費させることになる。そのためには、励消磁時と同様に永久電流スイッチ104を強制的に超電導転移温度Tc以上に加熱して、この永久電流スイッチ104を保護抵抗103よりも高抵抗の常電導状態に強制的にクエンチさせる必要がある。
【0008】
ところで、超電導コイル101及び永久電流スイッチ104を構成する超電導線材には、20K~50Kという高温度領域でも高い臨界電流密度を有する高温超電導線材が用いられる場合がある。このような超電導コイル101及び永久電流スイッチ104を備えた超電導磁石装置100(即ち高温超電導磁石装置)では、永久電流スイッチ104を含む閉ループに電流が矢印αの方向に循環するため、超電導コイル101の励磁後に、真空容器105内の極低温領域の電流供給ライン108の一部分に破断(破断箇所109で表示)等の異常が発生したとしても、超電導磁石装置100の運転を継続できるメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-41966号公報
【文献】“Development of Persistent-Current Mode HTS Coil for the RT-1 Plasma Device”IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY,VOL.16,NO.2,910-913,JUNE 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、真空容器105内における極低温領域の電流供給ライン108に異常が発生した場合には、超電導コイル101のクエンチ保護に関して、超電導コイル101の磁気エネルギを、室温領域の保護抵抗103を用いて消費することができない。このため、超電導コイル101の磁気エネルギを、超電導コイル101の内部の接続部などの微小な抵抗成分で長時間かけて消費せざるを得ない。
【0011】
一方、永久電流スイッチ104を超電導転移温度Tc以上に加熱し強制クエンチさせて、この永久電流スイッチ104で発生したオフ抵抗で超電導コイル101の磁気エネルギを消費する方法も考えられる。しかしながら、永久電流スイッチ104は熱容量が小さいため、超電導コイル101の大きな磁気エネルギの大部分を永久電流スイッチ104で消費すると、永久電流スイッチ104が過大な温度上昇で熱暴走して焼損を避けられないという課題がある。
【0012】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導コイルへ電流を供給する電流供給ラインに異常が発生した場合において、超電導コイルを消磁するために永久電流スイッチを強制クエンチした際に、この永久電流スイッチの過大な温度上昇による熱暴走を防止できると共に、超電導コイルを短時間に消磁させることができる超電導磁石装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態における超電導磁石装置は、真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、
前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有し、前記励磁電源には、室温領域に設けられた保護抵抗が並列に接続され、前記常電導抵抗体の抵抗値は、前記保護抵抗の抵抗値よりも大きく、且つ前記永久電流スイッチのオフ抵抗よりも小さく設定されたことを特徴とするものである。
また、本発明の実施形態における超電導磁石装置は、真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有し、前記常電導抵抗体に、この常電導抵抗体の温度を制御可能な温度制御手段が設けられたことを特徴とするものである。
更に、本発明の実施形態における超電導磁石装置は、真空容器と、この真空容器内に設けられた輻射シールドと、この輻射シールド内に設けられた超電導コイルと、この超電導コイルに電流を供給する励磁電源と、前記超電導コイルに電気的に並列に接続されると共に前記輻射シールド内に設けられた永久電流スイッチと、を有する超電導磁石装置において、前記永久電流スイッチに電気的に並列に接続され且つ前記輻射シールドに熱的に接続された常電導抵抗体を有し、前記常電導抵抗体と前記輻射シールドとの熱的な接続部に、前記常電導抵抗体と前記輻射シールドとの間の熱抵抗を調整可能な熱スイッチが設けられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルへ電流を供給する電流供給ラインに異常が発生した場合において、超電導コイルを消磁するために永久電流スイッチを強制クエンチした際に、この永久電流スイッチの過大な温度上昇による熱暴走を防止できると共に、超電導コイルを短時間に消磁させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図。
【
図2】第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図。
【
図3】第3実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図。
【
図4】第4実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図。
【
図5】第5実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(
図1)
図1は第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図である。この
図1に示す超電導磁石装置としての高温超電導磁石装置10は、超電導コイルとしての高温超電導コイル11と、この高温超電導コイル11の励磁時に高温超電導コイル11へ電流を供給する励磁電源12とが電気的に接続され、また、励磁電源12に保護抵抗13が電気的に並列に接続され、高温超電導コイル11に永久電流スイッチ14が電気的に並列に接続され、更に、常電導抵抗体15を有して構成される。
【0017】
このうちの高温超電導コイル11及び永久電流スイッチ14は、極低温で使用されるため、外気から真空断熱された真空容器16に収納され、更に、この真空容器16内に設けられた輻射シールド17に囲まれた極低温領域M内に配置されている。これにより、高温超電導コイル11及び永久電流スイッチ14は、図示しない冷凍機により20K~50K程度に冷却されている。
【0018】
輻射シールド17は、真空容器16内の室温領域Nからの輻射による入熱を低減するものである。この輻射シールド17は、例えば、アルミニウムや銅などのように熱伝導の良好な金属が好ましく、更には、熱伝導が良好で且つ軽量な金属、例えばアルミニウム等の金属がより好ましい。
【0019】
高温超電導コイル11は、高温超電導線材にて構成された超電導コイルである。高温超電導線材としては、例えばBi2Sr2Ca2Cu3O10線材やREBaCuO7線材が挙げられる。この高温超電導線材を用いた高温超電導コイル11では、NbTi等の低温超電導線材を用いた超電導コイルに比べて、20K~50K程度の高い温度でも高い臨界電流密度を有するため、高電流密度運転による超電導コイルの小型化が可能になる。
【0020】
また、高温超電導コイル11は、インダクタンス11Lと抵抗成分11Rとにより等価的に表される。抵抗成分11Rとしては、高温超電導コイル11の高温超電導線材が超電導転移温度Tc近傍において超電導状態から常電導状態に転移する過程で生じるフラックスフロー抵抗、高温超電導線材同士の接続抵抗、高温超電導コイル11が複数のコイルからなる場合における各コイルの接続抵抗などがある。
【0021】
保護抵抗13は、励磁電源12に並列に電気的に接続されて、真空容器16内の室温領域Nに配置される。この保護抵抗13は、高温超電導コイル11のクエンチ保護として励磁電源12を緊急遮断する際に、高温超電導コイル11に蓄積された磁気エネルギをジュール熱に変換することで消費させる。
【0022】
永久電流スイッチ14は、前述のように、高温超電導コイル11と共に、真空容器16内の輻射シールド17に囲まれた極低温領域Mに配置されて、高温超電導コイル11と電気的に並列して接続される。この永久電流スイッチ14を構成する超電導線材は、通常運転(永久電流モード運転)時に高温超電導コイル11と同じ運転温度で設計することで冷却構造が簡素になるため、高温超電導コイル11と同様な高温超電導線材により構成される。
【0023】
また、永久電流スイッチ14には、温度変化によって抵抗を変化させるためのヒータ18が、電気的には絶縁されているが熱的に接続されている。永久電流スイッチ14は、このヒータ18の加熱によって超電導転移温度Tc以上に昇温されることで常電導状態(オフ)になり、高抵抗(オフ抵抗)を発生する。永久電流スイッチ14は、ヒータ18からの入熱がない状態では、図示しない冷凍機との熱的な接続により高温超電導コイル11と同一の温度まで冷却されて超電導状態(オン)になり、低抵抗(オン抵抗)を発生する。永久電流スイッチ14が超電導状態(オン)になることで、高温超電導コイル11及び永久電流スイッチ14を含む閉ループに電流が矢印Aのように循環して流れる永久電流モード運転が可能になる。
【0024】
常電導抵抗体15は、永久電流スイッチ14に電気的に並列に接続され、且つ輻射シールド17に熱的に接続される。この常電導抵抗体15は、輻射シールド17の内部または外部に設置、本実施形態では輻射シールド17内の極低温領域Mに配置されている。常電導抵抗体15は、上述のように輻射シールド17に熱的に接続されることから、輻射シールド17と同一の温度、即ち40K~70K程度に冷却される。
【0025】
常電導抵抗体15の抵抗値は、保護抵抗13の抵抗値よりも大きく、且つ永久電流スイッチ14のオフ抵抗よりも小さく設定されている。常電導抵抗体10の抵抗値を保護抵抗13の抵抗値よりも大きく設定するのは、高温超電導コイル11の励磁中にこの高温超電導コイル11に発生する誘導電圧により生ずる電流を常電導抵抗体15へ分流させることを抑制して、保護抵抗13へ導くためである。
【0026】
また、常電導抵抗体15の抵抗値を永久電流スイッチ14のオフ抵抗よりも小さく設定する理由は、次の通りである。つまり、励磁電源12から高温超電導コイル11へ電流を供給する電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁するためにヒータ18により永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせ、この永久電流スイッチ14にオフ抵抗を発生させたとき、それまでに高温超電導コイル11から永久電流スイッチ14へ流れていた電流を矢印Bのように、抵抗のより小さな常電導抵抗体15へ分流させて、この常電導抵抗体15により高温超電導コイル11の磁気エネルギを消費させるためである。
【0027】
常電導抵抗体15の材質としては、例えば金、銀、銅、鉄、ステンレス、アルミニウム、真鍮などの銅合金もしくは鉄合金などの常電導金属、セラミックス、または半導体が用いられる。また、常電導抵抗体15は、上述の常電導金属、セラミックスまたは半導体に、例えばテープ状の常電導線材を貼り合わせて、常電導抵抗体15の抵抗値を調整するようにしてもよい。なお、常電導抵抗体15と輻射シールド17との間に絶縁材を介在させ、常電導抵抗体15と輻射シールド17とを電気的に絶縁させて地絡を防止することが好ましいが、絶縁体が存在しなくてもよい。
【0028】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)、励磁電源12から高温超電導コイル11へ電流を供給する電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁するために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせた際に、高温超電導コイル11に蓄積された磁気エネルギを永久電流スイッチ14ではなく、常電導抵抗体15により主に消費させる。この常電導抵抗体15は、熱容量の大きな輻射シールド17に熱的に接続されているため、常電導抵抗体15にて発生したジュール熱が輻射シールド17により吸収されることで、常電導抵抗体15のジュール発熱による温度上昇が抑制されて熱的安定性が向上する。
【0029】
これらの結果、永久電流スイッチ14が強制クエンチ時に過大に温度上昇して熱暴走することを防止できると共に、常電導抵抗体15が高温超電導コイル11の磁気エネルギを消費することで、高温超電導コイル11の微小な抵抗成分により高温超電導コイル11の磁気エネルギを消費する場合に比べて、高温超電導コイル11を短時間に消磁させることができる。
【0030】
[B]第2実施形態(
図2)
図2は、第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0031】
本第2実施形態の超電導磁石装置としての高温超電導磁石装置25が第1実施形態と異なる点は、常電導抵抗体15に、この常電導抵抗体15の温度を制御可能な温度制御手段26が設けられた点である。
【0032】
温度制御手段26としては、例えば
図2に示すようなヒータを常電導抵抗体15に熱的に接続し、ヒータの出力を調整することで常電導抵抗体15の温度を変更可能にする構成がある。また、温度制御手段26としては、温度を調整可能なガスまたは冷媒を用い、常電導抵抗体15をガス雰囲気または冷媒内に封入して、ガスまたは冷媒の温度を調整することで常電導抵抗体15の温度を変更してもよい。
【0033】
温度制御手段26により常電導抵抗体15の温度を制御(変更)することで、常電導抵抗体15の抵抗値を変化、例えば常電導抵抗体15を昇温させることで常電導抵抗体15の抵抗値を増加させることが可能になる。
【0034】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏すると共に、この第1実施形態よりも短時間に高温超電導コイル11を消磁できる次の効果(2)を奏する。
【0035】
(2)、電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁するために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせる際に、温度制御手段26により常電導抵抗体15の抵抗値を増加させることで、高温超電導コイル11を消磁させるために高温超電導コイル11から常電導抵抗体15へ流れる電流の減衰時定数を短かく(小さく)することができる。この減衰時定数は、高温超電導コイル11のインダクタンス11Lの値をLとし、高温超電導コイル11の抵抗成分11Rの抵抗値と常電導抵抗体15の抵抗値との和をRとするときL/Rで表されるので、抵抗値の和Rが増加することで短かく(小さく)なるのである。
【0036】
このように、高温超電導コイル11を消磁させるために高温超電導コイル11から常電導抵抗体15へ流れる電流の減衰時定数が短かくなることで、上述の電流が急速に低下するため、高温超電導コイル11を第1実施形態よりもより短時間に消磁させることができる。
【0037】
[C]第3実施形態(
図3)
図3は、第3実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0038】
本第3実施形態の超電導磁石装置としての高温超電導磁石装置30が第1実施形態と異なる点は、常電導抵抗体15と輻射シールド17との熱的な接続部に、常電導抵抗体15と輻射シールド17との間の熱抵抗を調整可能な熱スイッチ31が設けられた点である。
【0039】
熱スイッチ31は、常電導抵抗体15と輻射シールド17との伝熱経路の一部に熱的な接続を強めたり弱めたりする箇所を設けて、常電導抵抗体15と輻射シールド17間の熱抵抗を調整可能に構成したものである。例えば、熱スイッチ31は、接続面を機械的に接触もしくは切り離す機械式の構成、ギャップ内に気体や液体を流出入させることで接続面同士を接触もしくは非接触とする構成、または、固体材料を熱膨張もしくは熱収縮させることで接続面同士を接触もしくは非接触とする構成などである。
【0040】
また、高温超電導コイル11を消磁させるために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせる際に、熱スイッチ31により常電導抵抗体15と輻射シールド17との熱抵抗を調整することで、常電導抵抗体15と輻射シールド17との間の熱抵抗が、常電導抵抗体15と永久電流スイッチ14との間の熱抵抗よりも小さくなるように設定される。これにより、常電導抵抗体15で発生したジュール熱は、輻射シールド17へ伝達され易くなり、永久電流スイッチ14へは伝達され難くなる。
【0041】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果をすると共に、永久電流スイッチ14の温度上昇をより確実に抑制できる次の効果(3)を奏する。
【0042】
(3)、電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁させるために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせる際に、熱スイッチ31により、常電導抵抗体15と輻射シールド17との間の熱抵抗が、常電導抵抗体15と永久電流スイッチ14との間の熱抵抗よりも小さくなるように調整される。このため、常電導抵抗体15で発生したジュール熱が輻射シールド17へ伝達され易くなり、永久電流スイッチ14へは伝達され難くなる。この結果、永久電流スイッチ14の温度上昇をより確実に抑制でき、その熱暴走を確実に防止できる。
【0043】
[D]第4実施形態(
図4)
図4は、第4実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0044】
本第4実施形態の超電導磁石装置としての高温超電導磁石装置40が第1実施形態と異なる点は、常電導抵抗体41が、第1実施形態の常電導抵抗体15と同様に永久電流スイッチ14に電気的に並列に接続され且つ輻射シールド17に熱的に接続されると共に、この常電導抵抗体41にダイオード42が電気的に直列に接続され、このダイオード42の順方向が、高温超電導コイル11から常電導抵抗体41へ流れる電流の向き(矢印B方向)と一致して設定された点である。
【0045】
ダイオード42は、一般に、ダイオード42に作用する電圧が規定電圧以上でないと、順方向であっても電流を流さない特性を有する。このため、高温超電導コイル11の励磁中にこの高温超電導コイル11に誘導電圧が発生しても、この誘導電圧が上述のダイオード42の規定電圧よりも低いことから、この誘導電圧による電流は、ダイオード42に阻止されて常電導抵抗体41へ分流せず、保護抵抗13へ流れる。従って、常電導抵抗体41の抵抗値を、第1~第3実施形態の常電導抵抗体15よりも小さな値に設定することが可能になる。
【0046】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏すると共に、永久電流スイッチ14の温度上昇を更に抑制できる次の効果(4)を奏する。
【0047】
(4)、電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁するために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせる際に、常電導抵抗体41の抵抗値が第1~第3実施形態の常電導抵抗15よりも小さく設定されるので、高温超電導コイル11を消磁させるためにこの高温超電導コイル11から流れる電流は、永久電流スイッチ14よりも常電導抵抗体41への分流が促進される。この結果、永久電流スイッチ14の温度上昇を第1~第3実施形態の場合よりも更に抑制することができ、その熱暴走を確実に防止できる。
【0048】
[E]第5実施形態(
図5、
図6)
図5は、第5実施形態に係る超電導磁石装置を示す電気回路図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0049】
本第5実施形態の超電導磁石装置としての高温超電導磁石装置50が第1実施形態と異なる点は、常電導抵抗体51が、第1~第4実施形態と同様に永久電流スイッチ14に電気的に並列に接続され且つ輻射シール17に熱的に接続されると共に、この常電導抵抗体51の一部分51A(
図6)が他の部分51Bよりも断面積が小さく設定され、更に、この常電導抵抗体51と輻射シールド17との熱的な接続部分を除く常電導抵抗体51の周囲に、絶縁体のカバー52が設けられた点である。
【0050】
図6に示すように、常電導抵抗体51の一部分51Aが他の部分51Bよりも断面積が小さく設定されることで、この常電導抵抗体51の一部分51Aは、他の部分51Bよりも電気抵抗が増加し、発熱し易くなって、ヒューズのように溶断可能になる。
【0051】
絶縁体のカバー52は、常電導抵抗体51の一部分51Aが溶断して、この溶断箇所にアークが発生した場合に、このアークの周囲への飛散を防止するものである。カバー52が常電導抵抗体51の周囲を覆うことで、高温超電導磁石装置50における常電導抵抗体51以外の他の部分においてアークによる損傷が防止される。カバー52の材質としては、ガラス繊維強化プラスチックや補強型PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、セラミックス等の耐熱性が高い材料が好適である。
【0052】
以上のように構成されことから、本第5実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏すると共に、高温常電導コイル11を更に短時間に消磁できる次の効果(5)を奏する。
【0053】
(5)、電流供給ライン20における例えば極低温領域Mの一部に破断(破断箇所21で表示)等の異常が発生した場合において、高温超電導コイル11を消磁させるために永久電流スイッチ14を超電導転移温度Tc以上に昇温して強制クエンチさせる際に、高温超電導コイル11を消磁させるために高温超電導コイル11から常電導抵抗体51へ流れる電流によって、常電導抵抗体51の一部分51Aを故意に熱暴走させて溶断させる。これにより、常電導抵抗体51の溶断箇所にアークが発生することで、高温超電導コイル11の磁気エネルギを瞬間的に消磁させることができるので、高温超電導コイル11の消磁を、第1~第4実施形態の場合よりも更に短時間に実現できる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0055】
例えば、高温超電導磁石装置10、25、30、40、50では、単一の高温超電導コイル11に限らず、複数の高温超電導コイル11が直列または並列に電気的に接続された場合であっても、本発明を適用できる。このうち、複数の高温超電導コイル11が直列に接続された場合には、永久電流スイッチ14は各高温超電導コイル11に電気的に並列に複数設けられ、常電導抵抗体15、41、51は各永久電流スイッチ14に電気的に並列に複数設けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0056】
10…高温超電導磁石装置(超電導磁石装置)、11…高温超電導コイル(超電導コイル)、12…励磁電源、13…保護抵抗、14…永久電流スイッチ、15…常電導抵抗体、16…真空容器、17…輻射シールド、20…電流供給ライン、25…高温超電導磁石装置(超電導磁石装置)、26…温度制御手段、30…高温超電導磁石装置(超電導磁石装置)、31…熱スイッチ、40…高温超電導磁石装置(超電導磁石装置)、41…常電導抵抗体、42…ダイオード、50…高温超電導磁石装置(超電導磁石装置)、51…常電導抵抗体、51A…常電導抵抗体の一部分、51B…常電導抵抗体の他の部分、52…絶縁体のカバー。