(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】高熱伝導性樹脂部材の製造方法及び、当該製造方法を用いて製造された樹脂部材
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20220725BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20220725BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220725BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20220725BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220725BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y70/10
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2018169579
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】594050784
【氏名又は名称】第一セラモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 望
(72)【発明者】
【氏名】和田 誠
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 詠大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】川北 晃司
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028887(JP,A)
【文献】特開2017-213813(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129733(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有する樹脂部材を製造するための方法であって、当該方法が以下の工程A及びB:
工程A:熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が10:90~40:60である熱伝導性フィラー含有コンパウンドを準備する工程、及び
工程B:前記熱伝導性フィラー含有コンパウンドを用いて、熱溶融積層3次元プリンタにより線状体を押し出して積層造形し、各線状体に含まれる前記熱伝導性フィラーが当該線状体の長手方向に沿って配向した内部構造を有する樹脂部材を製造する工程
を含
み、
前記熱伝導性フィラーが、粒径5~300μmの薄片状グラファイトであり、
前記熱伝導性フィラーが前記熱伝導性フィラー含有コンパウンドの30重量%~45重量%である、熱伝導性樹脂部材の製造方法。
【請求項2】
前記熱溶融積層3次元プリンタとして、スクリューと、ギヤポンプと、ノズルを有する押出装置と、前記押出装置のノズルに対向して位置するテーブル装置と、前記押出装置における前記ノズルからの樹脂の吐出を制御し、かつ、前記押出装置及び/又は前記テーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御する制御装置を備えた3次元プリンタを使用することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂部材の製造方法。
【請求項3】
熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が10:90~40:60である線状体よりなる層が積層された層構成を有しており、しかも、各線状体に含まれる前記熱伝導性フィラーが当該線状体の長手方向に沿って配向した内部構造を有する熱伝導性樹脂部材であって、
前記熱伝導性フィラーが、粒径5~300μmの薄片状グラファイトであ
り、
前記熱伝導性フィラーが前記熱伝導性樹脂部材の30重量%~45重量%である、
熱伝導性樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性樹脂部材の製造方法、特に、3次元(3D)プリンタを使用することにより、熱伝導性フィラーの配向が制御された内部構造を有する樹脂部材を製造する方法に関する。又、本発明は、当該製造方法を用いて製造された樹脂部材に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の集積化、小型化及び高機能化によって電子機器の発熱量の増加に対した放熱が重要な課題となっている。
放熱を行うために、これまで、ヒートシンクなどの放熱体や、熱伝導率の高いフィラーを含有した放熱部材が提案されており、熱伝導率の高い金属(例えばアルミニウム)を削り出して作製した放熱部材や、熱伝導率フィラーを分散したものをシート状に加工、もしくは射出成形で作製した放熱部材等も知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、厚み方向にグラファイトが配向した熱伝導シートとして、厚み1mm以下のグラファイトフィルムが有機層(粘着剤シート)を介して厚み方向にグラファイトの結晶面が配向するように積層された配向熱伝導シートが開示されている。又、下記の特許文献2には、射出成形性に優れる高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物として、ポリエステル系/ブロック共重合体/グラファイトからなる樹脂組成物でウェルド強度に優れたものが開示されている。
更に、下記の特許文献3には、グラファイト樹脂複合体として、グラファイト焼結体に熱硬化樹脂(例えばエポキシ樹脂)を含浸させてなるものが開示されている。
【0004】
高熱伝導性を持たせた放熱部材で軽量化を求める場合には、ポリマー単体および比重の低いフィラー含有した樹脂をシート化、もしくは射出成形や樹脂含浸で作製し、粒子配向させて熱伝導性を高めているが、電子機器等の部材内部の設計上、曲がり部など形状の自由度が求められる中、射出成形では金型形状上の制限があり、また成形充填時の樹脂の乱れにより部品形状内の配向性が下がるという問題がある。また、フィラーを含有させた樹脂の場合には、流れ性が低下することから、薄物成形を行うことができずに形状の制限を受けるという問題点がある。
【0005】
一方、最近では、三次元のデジタルデータに基づいて立体造形物を積層造形する3Dプリンタについての様々な分野での実用化が期待されている。
3Dプリンタを用いて立体造形物を製造する方式としては、主に、光造形方式、粉末焼結積層方式、熱溶融積層方式、インクジェット方式が知られている。このうち、熱溶融積層法(FDM:Fused Deposition Modeling)では、原料として、PLA(ポリ乳酸)やABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)等の熱可塑性樹脂からなるフィラメントを用い、溶融させた樹脂を一層ずつ積層し、冷却固化することにより、熱可塑性樹脂からなる立体造形物を得ることが一般的である。
しかしながら、これまで、樹脂中に混練された熱伝導性フィラーの配向が制御されることによって高い熱伝導性を示す立体造形物(高熱伝導性樹脂部材)を、3Dプリンタを用いて製造することについては提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-3981号公報
【文献】WO2015/002198
【文献】特開2018-95541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、部材の形状の自由度と、熱伝導性フィラーの配向性制御による熱伝導性を両立させることが可能な高熱伝導性樹脂部材の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、前記の課題を解決するために種々検討を行った結果、グラファイト等の熱伝導性フィラーの所定量を、射出成形に用いられる熱可塑性樹脂に添加して加熱溶融混練し、得られた混練物(熱伝導性フィラー含有コンパウンド)を用いて、熱溶融積層3Dプリンタにより、ノズルの移動方向(各層に平行な方向)に沿って熱伝導性フィラーを配向させて積層造形すると、高い熱伝導性を有する3次元形状の造形物が製造できることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決し、優れた熱伝導性を有する樹脂部材を製造することが可能な本発明の製造方法は、以下の工程A及びB:
工程A:熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が10:90~40:60である熱伝導性フィラー含有コンパウンドを準備する工程、及び
工程B:前記熱伝導性フィラー含有コンパウンドを用いて、熱溶融積層3次元プリンタにより線状体を押し出して積層造形し、各線状体に含まれる前記熱伝導性フィラーが当該線状体の長手方向に沿って配向した内部構造を有する樹脂部材を製造する工程
を含むことを特徴とする。
【0009】
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記熱伝導性フィラーが、グラファイト、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、酸化アルミニウム(アルミナ)及び酸化マグネシウム(マグネシア)からなるグループより選ばれたフィラーであることを特徴とするものである。
【0010】
更に本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記熱伝導性フィラーが、粒径5~300μmの薄片状グラファイトであることを特徴とするものである。
【0011】
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記熱溶融積層3次元プリンタとして、スクリューと、ギヤポンプと、ノズルを有する押出装置と、前記押出装置のノズルに対向して位置するテーブル装置と、前記押出装置における前記ノズルからの樹脂の吐出を制御し、かつ、前記押出装置及び/又は前記テーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御する制御装置を備えた3Dプリンタを使用することを特徴とするものである。
【0012】
更に本発明は、熱伝導性フィラー含有コンパウンドを用いて、熱溶融積層3次元プリンタを適用して得られる熱伝導性樹脂部材であって、熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が10:90~40:60、好ましくは15:85~35:65である線状体よりなる層が積層された層構成を有しており、しかも、各線状体に含まれる前記熱伝導性フィラーが当該線状体の長手方向に沿って配向した内部構造を有することを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法を用いて製造された高熱伝導性樹脂部材は、3次元プリンタを用いた積層造形により製造されるために、部材の直線部分だけでなく、曲がった部分においても、熱可塑性樹脂中に混練された熱伝導性フィラーが連続して配向した状態(配向性が高い状態)となり、部材の内部に、造形方向(ノズルの移動方向)に沿った熱伝導パスが形成されていることで、優れた放熱性を発揮する。
又、本発明では、造型物の曲がり部においても熱伝導性フィラーが連続して配向した状態となるために、部材の形状の自由度が高まり、例えば熱伝導性フィラーとしてグラファイトを用いた場合には、部材の軽量化も達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の製造方法を用いて製造された部材の曲がり部における、各層中の熱伝導性フィラーの配向性が連続していることを示すイメージ図であり、黒く塗りつぶされた小長方形が、熱伝導性フィラーを示している。
【
図2】本発明の製造方法を用いて製造できる部材の、各線状体の長手方向に対して垂直な方向の積層断面の状態を示すイメージ図であり、各線状体中の熱伝導性フィラーは実質的に同心円状に配列しており、
図2中の、黒く塗りつぶされた小長方形は、平面状の熱伝導性フィラーの、当該平面に対して垂直な方向の断面を示している。
【
図3】実施例1で製造された高熱伝導性樹脂部材(熱伝導性フィラーとして薄片化黒鉛を使用)の、
図3に示されるX-X線断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4】実施例における熱伝導性測定実験の測定方法を示す図であり、点線は、測定用のL字型部材を製造する際の3Dプリンタのノズルの移動方向を示している。
【
図5】実施例で測定されたB点の温度上昇を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の製造方法における各工程について説明する。
本発明の製造方法における工程Aでは、熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が10:90~40:60である熱伝導性フィラー含有コンパウンドを準備するが、当該コンパウンドは、熱伝導性フィラーと熱可塑性樹脂を、体積比率が10:90~40:60となるように秤量し、加熱溶融混練を行うことにより製造できる。この際、熱伝導性フィラーの添加量が10体積%よりも少なくなると充分な熱伝導性が得られなくなり、逆に40体積%よりも多くなると熱伝導性は向上するが、3Dプリンタによる押出し適性が悪くなるので好ましくない。
本発明において特に好ましい熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率は15:85~35:65である。
【0016】
本発明では、上記熱可塑性樹脂として、射出成形で用いられる熱可塑性樹脂が広く使用できるが、造形性、樹脂強度、各種部材への実績の点から、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂が好ましく、この他の適した樹脂としては、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0017】
上記の熱伝導性フィラーとしては、高い熱伝導性を有したフィラー(高熱伝導フィラー)がいずれも使用できるが、形状異方性をもつものが好ましい。適した熱伝導性フィラーとしては、グラファイト、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、その中でも、形状異方性を有する窒化ホウ素、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、グラファイトがより好ましく、軽量性及び熱伝導性の点から特に、薄片状グラファイトが好ましい。
本発明の製造方法にて使用される熱伝導性フィラーの粒径は5μm~400μmが好ましく、特に好ましい熱伝導性フィラーは、粒径20μm~300μmの薄片状グラファイトであるが、本発明では、粒径が異なる2種以上の熱伝導性フィラーを混合して使用してもよい。
【0018】
尚、本発明では、熱伝導性フィラー含有コンパウンドの特性に応じて添加剤、例えば、可塑剤、加工助剤、無機充填剤用分散剤等が添加されてもよく、特に熱伝導性フィラーとしてグラファイトを使用した場合には、含有量を多くすると流動性が悪くなるために、樹脂の流動性を上げるために可塑剤を使用するのが一般的である。例えば、熱可塑性樹脂としてABS樹脂を使用する場合、ABS用可塑剤として市販されている低分子量アクリル系ポリマーを添加することが好ましい。また、熱可塑性樹脂により任意で可塑剤は選択される。可塑剤の他の具体例としては、例えば、フタル酸エステル(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等)、アジピン酸エステル(アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等)、トリメリット酸エステル類(トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシル等)、クエン酸エステル(アセチルクエン酸トリブチル)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)、安息香酸グリコールエステル、リン酸エステル、低分子アクリル系ポリマー等が挙げられる。また、可塑剤以外の例として、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、造核剤等の添加剤が挙げられる。
【0019】
上記の熱可塑性樹脂と熱伝導性フィラーとの溶融混練の際に使用される混練機の種類は特に限定されるものではないが、容器の中で2枚のブレードを回転させることにより混練を行う加圧ニーダーが好ましく、双腕ニーダー式混練機、バンバリー型混練機等のバッチ式や、1軸または2軸混練押出機等の連続式などの各種混練機を用いることもできる。
本発明の製造方法の工程Aにて準備される熱伝導性フィラー含有コンパウンドの形状は特に限定されないが、好ましい形態の一例として、ペレット状の形態を挙げることができ、混練後の押し出されてきた溶融物を冷却してロータリーカッターにてペレット状にカットしたものが好ましい。
【0020】
次の工程B(樹脂部材製造工程、3次元造形工程)では、前記工程Aで準備した熱伝導性フィラー含有コンパウンド(通常、ペレット状に加工したもの)を用いて、熱溶融積層3Dプリンタにより線状体を押し出して積層造形を行い、
図1に示されるようにして、各線状体に含まれる熱伝導性フィラーが当該線状体の長手方向に沿って配向した内部構造を有する樹脂部材を製造する。
本発明では、3Dプリンタのノズルから熱伝導性フィラー含有コンパウンドが吐出される際に、フィラー粒子が線状体の長手方向に沿って配向し(
図1参照)、これにより熱伝導パス(熱伝導経路)が形成され、樹脂部材が、熱源から放熱先への経路が曲がった形状を有するものであっても、造形方向(吐出ノズルの移動方向)への熱伝導が起こる。
図2は、上記工程Bにより製造される樹脂部材の、各線状体の長手方向に対して垂直な方向の積層断面の状態を示すイメージ図であり、本発明では、上記の積層造形によって、各線状体中の熱伝導性フィラーが実質的に同心円状に配列し、かつ、線状体の長手方向(ノズルの移動方向)に沿って配向した層が形成される。
【0021】
このような工程Bにて使用されるFDM方式の3Dプリンタとしては、例えば、WO2015/129733に開示されているような、スクリューと、ギヤポンプと、ノズルを有する押出装置と、前記押出装置のノズルに対向して位置するテーブル装置と、前記押出装置における前記ノズルからの樹脂の吐出を制御し、かつ、前記押出装置及び/又は前記テーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御する制御装置を備えた3Dプリンタを使用することができる。
【0022】
上記の3Dプリンタでは、熱伝導性フィラー含有コンパウンドを溶融させた溶融樹脂をスクリューおよびギアポンプにて押し出すことにより計量安定性が図られ、吐出量は、スクリューおよびギアポンプの回転を制御することにより調整される。又、ノズル長、ノズル径、押出速度、ノズル形状は、熱伝導性フィラーの配向性への影響を考慮して選択され、温度条件、積層移動速度も適宜調整される。
更に、3Dプリンタのノズル吐出方向(ノズル移動方向)が熱伝導の方向となり、押出形成された各層の間の密着強度が充分なものとなるように、造形条件が選択される。
【0023】
尚、本発明では、造形された高熱伝導性樹脂部材の強度(曲げ強度等)を高めるために、前記工程Bで得られた樹脂部材の表面に、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をコーティングすることによって樹脂被膜を設けたり、インサート成形を行うことによって樹脂被膜を設ける等の後処理を実施してもよい。
本発明では、造型物表面への熱硬化樹脂架橋体膜の被覆や、インサート成形などによる樹脂被覆を行っても、熱源から放熱側への高いレベルでの熱伝導が達成される。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(1)熱伝導性フィラー含有コンパウンド(混練物)の作製
熱伝導性フィラーとして薄片化黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、UP-20、粒径20μm)、熱可塑性樹脂としてABS樹脂(デンカ株式会社製、GR-2000)を準備し、前記熱伝導性フィラー:熱可塑性樹脂の体積比率が、以下の表1記載の組成となるように秤量し、加圧型ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製)を用いて190℃で溶融混練した。この際、実施例3においては、樹脂の流動性を高めるために、可塑剤として市販のアクリル系ポリマー ARUFON UP-1010(東亜合成株式会社製)を添加した。
【0025】
【0026】
得られた溶融物を一軸押出機(株式会社トーシン製)にて押出し、冷却後、ロータリーカッターを用いてペレット化し、直径3mm×長さ3mmのペレット状コンパウンドを作製した。
【0027】
(2)3次元造形
上記で製造した各ペレットを原料にして、ペレット投入口を有する押出装置を備えたFDM方式の3Dプリンタ(エス.ラボ株式会社製CERA_P3 造形範囲 X150mm×Y150mm×Z150mm、スクリュー径φ20mm、ノズル径1.0mm)を使用し、造形温度180~210℃にて、
図4に示される形状を有したL字型の部材(辺の長さ50mm、幅10mm、高さ3mm)を造形した(実施例1)。この際、1層目の造形は、直角に曲がっている形状の端から造形を開始し、中間の曲がり点を通過して他端まで造形を行い、端から端の折り返しを実施して幅が10mmになるようにし、2層目は、1層目の上にクリアランス高さが0.6mmとなるようにして1層目の上に積層した。同様に、5層目まで積層を行った。
図3は、実施例1で製造された高熱伝導性樹脂部材の、
図4に示されるX-X線断面のSEM写真であり、このSEM写真から、本発明の製造方法を用いることにより、樹脂部材を構成する線状体の長手方向に沿って薄片化黒鉛(薄片化グラファイト)が配向していることが確認された。
【0028】
一方、実施例1で製造したペレット状コンパウンドを使用して、厚さ3mmの板状加熱プレス品を作製し、実施例1のL字型造型物と同じ大きさとなるよう、打ち抜き加工を行い、比較品(比較例1)を作製した。
【0029】
<L字熱伝達性の試験方法>
図4は、熱伝導性測定実験の測定方法を示す図であり、A点に50℃ヒーター面10mm×10mmを押し当て、経過時間ごとのB点の温度を測定した。
図5には、上記実施例1~3及び比較例1の造形品についての、B点の温度上昇を示すグラフが示されており、横軸は時間(分)であり、縦軸は温度(℃)である。
図5に示されるように、本発明の製造方法を用いて製造された部材(実施例1~3)はいずれも、比較例1の部材(加熱プレス打ち抜き品)よりも高い熱伝導性を有するものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造方法を用いることにより、形状の自由度と配向性制御による優れた熱伝導性の両方を有した熱伝導性樹脂部材(放熱部材)が製造でき、しかも、3Dプリンタを使用するために、射出成形法のような金型形状の制限がなく、射出成形法では成形できない形状の部材であっても造形を行うことができ、熱伝導性(放熱性)が要求される各種製品の製造に有用である。