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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】プラント監視システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
G05B23/02 302V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018177568
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020047214
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 幸一
(72)【発明者】
【氏名】榎本 保之
(72)【発明者】
【氏名】中村 高紀
(72)【発明者】
【氏名】中薗 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 峻浩
(72)【発明者】
【氏名】宮井 俊平
(72)【発明者】
【氏名】新井 友樹
【審査官】黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151909(JP,A)
【文献】特開2012-014622(JP,A)
【文献】特開2009-276843(JP,A)
【文献】特開平11-083618(JP,A)
【文献】特開2007-102388(JP,A)
【文献】特開昭63-088208(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0277429(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント機器の異常を検知するプラント監視システムであって、
前記プラント機器の動作状態を示す動作情報を取得する計測部と、
前記プラント機器の動作状態を解析する解析モデルを格納する記憶部と、
前記プラント機器を運転制御するための制御信号を取得して、前記プラント機器を前記解析モデルにより解析するための解析条件情報を生成する解析条件決定部と、
前記解析条件情報を前記解析モデルに適用して前記プラント機器をリアルタイムに解析し、前記プラント機器の理論的な動作状態を示す仮想動作情報を生成する解析演算部と、
前記動作情報及び前記仮想動作情報を比較して前記プラント機器の異常の可能性の有無を判定する診断演算部と、
前記動作情報を蓄積するデータベースと、を備え、
前記診断演算部は、
前記動作情報及び前記仮想動作情報の比較の結果、前記プラント機器の異常の可能性があると判定された場合に、前記動作情報及び前記データベースに蓄積された過去の動作情報をさらに比較して前記過去の動作情報のトレンドとの一致の有無を判定し、
前記動作情報及び前記データベースに蓄積された過去の動作情報の比較の結果、前記過去の動作情報のトレンドと一致しないと判定された場合に、前記仮想動作情報及び前記データベースに蓄積された過去の動作情報をさらに比較して前記プラント機器の故障および未知の障害のいずれかの発生を判定すること
を特徴とするプラント監視システム。
【請求項2】
前記プラント機器を駆動する自然環境に係る自然環境情報を取得する環境検出部をさらに備え、
前記解析条件決定部は、前記制御信号に加えて前記自然環境情報に基づいて前記解析条件情報を生成することを特徴とする請求項1記載のプラント監視システム。
【請求項3】
前記診断演算部による判定結果を出力する診断出力部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のプラント監視システム。
【請求項4】
前記診断出力部は、前記診断演算部による比較の結果、その差分値が閾値を超えた場合に、アラームを発報することを特徴とする請求項記載のプラント監視システム。
【請求項5】
前記解析モデルは、流体モデル、振動モデル、強度モデル及び電磁界モデルの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のプラント監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの機器稼働率を向上させるため、IoT技術を応用した様々な故障診断システムが提案されている。例えば、長時間にわたって取得された大量の計測データを利用した故障診断システムをオンライン上に構築することで、診断対象機器の故障診断や異常の検知を早期かつ容易に行うことが可能となる。
【0003】
しかし、故障診断を行うシステムにおいては、大量の計測データから故障予知や異常を検知するため、アルゴリズムやデータベースをどのように構築するかが問題となる。例えば蒸気タービンなどのようにほぼ一定の運転状態となる機器であれば、故障モードと計測データの相関は過去の事例から予測可能である。しかし、例えば水車のように幅広い運転領域を持つ機器においては、故障モードと計測データの相関について過去の事例からも推測できない場合があり得るため、データベースやアルゴリズムの構築が煩雑となってしまう。すなわち、幅広い運転領域を監視対象とするプラント監視システムの実現は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-036939
【文献】特開2002-6942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のプラント監視システムは、幅広い運転領域をもつ機器を監視対象とした場合に実現が難しいという問題があった。本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、監視対象が幅広い運転領域を持つ機器であっても故障予知や異常検知を精度よく行うことが可能なプラント監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のプラント監視システムは、プラント機器の異常を検知するプラント監視システムであって、プラント機器の動作状態を示す動作情報を取得する計測部を有する。また、実施形態のプラント監視システムは、プラント機器の動作状態を解析する解析モデルを格納する記憶部と、プラント機器を運転制御するための制御信号を取得して、プラント機器を解析モデルにより解析するための解析条件情報を生成する解析条件決定部と、解析条件情報を解析モデルに適用してプラント機器をリアルタイムに解析し、プラント機器の理論的な動作状態を示す仮想動作情報を生成する解析演算部と、動作情報及び仮想動作情報を比較してプラント機器の異常の有無を判定する診断演算部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態のプラント監視システムにおける情報の流れを示すブロック図である。
図2】実施形態のプラント監視システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】実施形態のプラント監視システムの動作を示すフローチャートである。
図4A】実施形態のプラント監視システムにおける判定処理について説明する図である。
図4B】実施形態のプラント監視システムにおける判定処理について説明する図である。
図5A】実施形態のプラント監視システムにおける解析モデルの更新を説明する図である。
図5B】実施形態のプラント監視システムにおける解析モデルの更新を説明する図である。
図6A】実施形態のプラント監視システムの余寿命予測への応用を説明する図である。
図6B】実施形態のプラント監視システムの余寿命予測への応用を説明する図である。
図7A】実施形態のプラント監視システムの余寿命予測への応用を説明する図である。
図7B】実施形態のプラント監視システムの余寿命予測への応用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、実施形態のプラント監視システムについて詳細に説明する。図1に示すように、実施形態のプラント監視システム1は、監視対象である発電プラント10を仮想空間上にモデル化した仮想発電プラント(バーチャルクローン20)を備えている。以下の説明では、監視対象のプラント機器はダムDの水を用いた水力発電プラントであるものとする。
【0009】
水力発電プラントでは、運転員がダムDの水位情報(自然環境情報)を制御盤Pを通じて取得し、制御装置Cを通じて運転指示を行う。運転指示を受けた制御装置Cは、運転指示に対応する制御信号を生成して発電機Gおよび水車Wに送る。発電機Gに対する制御信号は、たとえば発電量制御信号などであり、水車Wに対する制御信号は、たとえば水車へ供給する水量制御信号などである。ダムDからの水により水車Wが回転すると発電機Gが電力を発生する。
【0010】
発電プラント10は、各種センサにより、水車Wの動作情報WDと、発電機Gの動作情報GDを取得している。動作情報WD及びGDは、水車Wや発電機Gの動作状態をリアルタイムに表す情報であり、たとえば振動データ、アコースティック・エミッション信号(AE信号)、騒音データ、軸ブレデータなどの各種計測データや、回転数や発電機出力などの運転情報などから構成される。
【0011】
水車Wの動作情報WDや発電機Gの動作情報GDは、発電プラント10の現実の動作状態・運転状態をリアルタイムに示す情報である。したがって、過去の動作情報(運転実績情報)などと比較解析する診断部30により、現在の動作状態・運転状態が定常的なものかどうか、すなわち異常の有無を判定することができる。
【0012】
実施形態のプラント監視システム1は、さらにバーチャルクローン20を備えて、診断部30に新たな判定材料を提供している。バーチャルクローン20は、発電プラント10を精密にモデル化した解析プログラムを備えたコンピュータシステムであり、発電プラント10の運転状態等をリアルタイムに解析し予測することができる。
【0013】
図1に示すように、バーチャルクローン20は、制御装置Cが生成する制御信号と、ダムDの水位情報を取得して、解析条件を決定する(A)。解析条件とは、仮想空間上に構築された仮想発電プラントの運転条件に相当する。すなわち、発電プラント10に対する水位情報の影響や発電プラント10において運転員が行った運転指示を仮想発電プラントにおいて再現することになる。バーチャルクローン20は、決定した解析条件を仮想水車VW及び仮想発電機VGに与え、仮想水車VW及び仮想発電機VGを仮想的に運転させる。その結果、仮想水車VWの動作情報に相当する仮想動作情報VWD及び仮想発電機VGの動作情報に相当する仮想動作情報VGDが得られる。これら仮想動作情報VWD及びVGDは、診断部30の判定材料として提供される。
【0014】
すなわち、実施形態のプラント監視システム1は、発電プラント10の運転と同時並行的にバーチャルクローン20による仮想的運転を実行し、従来困難だった故障判定を実現している。
【0015】
続いて、図2を参照して実施形態のプラント監視システムの具体的構成を説明する。以下の説明において、図1と共通する要素には共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。図2に示すように、実施形態のプラント監視システム1は、発電プラント10に備えられた各種計測部及び制御部と、各種解析モデルと解析エンジンを備えたコンピュータシステムとを連係させた構成を有している。
【0016】
図2に示すように、実施形態のプラント監視システム1は、ダムDの水位情報を取得する水位検出部11と、水車Wの動作情報WDを取得する水車計測部15と、発電機Gの動作情報GDを取得する発電機計測部16とを有している。水位検出部11、水車計測部15及び発電機計測部16は、取得した水位情報および各動作情報を入出力部12に送る。
【0017】
入出力部12は、監視対象たる発電プラント10における各部の動作情報を受けて運転員に向けて表示するとともに、運転員が当該動作情報に基づいて入力した運転指示を受け取るインタフェースであり、例えば監視盤や運転操作盤に対応する。運転員が入力した運転指示は、水車Wや発電機Gを制御する制御信号に変換され、水車Wを制御する水車制御部13及び発電機Gを制御する発電機制御部14それぞれに送られる。水車制御部13及び発電機制御部14は、受け取った制御信号に基づいて水車W及び発電機Gの運転を制御する。
【0018】
実施形態のプラント監視システム1は、さらにバーチャルクローン20を備えている。バーチャルクローン20は、監視対象たる発電プラント10をリアルタイムでシミュレートするとともに発電プラント10の動作を解析し予測するコンピュータシステムである。バーチャルクローン20は、監視対象の動作状態をリアルタイムで解析し予測する点で、単なる解析コンピュータとは相違する。バーチャルクローン20は、発電プラント10と同時並行的にリアルタイムで解析処理及び予測処理を実行している。
【0019】
図2に示すように、バーチャルクローン20は、解析条件決定部21、解析部22、データ生成部23を有している。
【0020】
解析条件決定部21は、水位検出部11が検出したダムDの自然環境情報としての水位情報と、入出力部12が水車制御部13及び発電機制御部14に送った制御信号に基づいて、バーチャルクローン20における解析条件を決定する演算ユニットである。解析条件は、発電プラント10の動作や電気的機械的変動、摩耗など発電プラント10の運転状態を解析し予測するために必要なパラメータである。発電プラント10は、外的要因(ダムDの水位や運転員によってなされた水車Wや発電機Gへの制御内容)によって電気的機械的に状態が変化する。この変化は、発電プラント10の運転状態や消耗状態などを解析するにあたって重要な要素となる。特に発電プラント10が水力発電プラントのように自然環境の影響を受ける場合、故障診断等の精度にも影響を与える。実施形態のプラント監視システム1は、発電プラント10が実際に影響を受ける水位情報や制御信号を、発電プラント10の解析のためのパラメータとして用いている。
【0021】
解析部22は、解析条件決定部21が決定した解析条件に基づいて、発電プラント10に対応する仮想空間上の仮想発電プラントの運転状態を解析し予測する演算ユニットである。解析部22は、発電プラント10を仮想的にシミュレートする各種解析モデルを用いて、与えられた解析条件に基づき解析演算を実行する。
【0022】
解析部22が用いる解析モデルは、記憶部22aに格納されて解析部22から参照される。解析モデルは、例えば、水車Wが流水から受ける変位などを解析する流体モデル、水車Wや発電機Gが発生し消耗や歪の原因となる機械的振動を解析する振動モデル、水車Wや発電機Gの機械的強度を解析する強度モデル、発電機Gが発生し影響を受ける電磁界の影響を解析する電磁界モデルなどが一例として挙げられる。
【0023】
解析部22は、さらに発電プラント10の連系状態などを示す系統情報や、発電プラント10の負荷を示す需要情報を解析のためのパラメータとして用いてもよい。系統情報や需要情報は、発電機Gの負荷に関係し、発電機Gの振動や強度、電磁界モデルの適用に影響する。系統情報や需要情報は、記憶部22bに格納されて解析部22から参照される。
【0024】
データ生成部23は、解析部22が演算して得た解析結果に基づいて、発電プラント10の動作情報WD及びGDとの対比対象となる仮想動作情報VWD及びVGDを生成する演算ユニットである。解析部22は、各種解析モデルを用いて仮想空間上の発電プラント10の動作状態データを算出する。データ生成部23は、算出された動作状態データを、発電プラント10の水車計測部15や発電機計測部16により得られた動作情報WD及びGDのデータと対比可能な仮想動作情報VWD及びVGDのデータに変換する。
【0025】
また、実施形態のプラント監視システム1は、診断部30、データベース(DB)31及び診断出力部32を有している。
【0026】
診断部30は、水車計測部15や発電機計測部16が出力する水車Wや発電機Gの動作情報WD及びGDに加えて、データ生成部23から送られる仮想空間上の発電プラント10の仮想動作情報VWD及びVGD、さらにはDB31に蓄積された水車Wや発電機Gの過去の動作情報や仮想動作情報に基づいて、現時点での発電プラント10の状態をリアルタイムに診断する演算ユニットである。診断部30は、現在発電プラント10で起きている現象が故障なのか、自然界の影響を受けただけの事象なのか、正常運転の範囲なのか等異常や故障の有無を判定する。
【0027】
また、診断部30は、異常の有無の判定だけでなく、運転状態の予測をすることもできる。すなわち、バーチャルクローン20による仮想動作情報を求める際、二次的な産物として得られるデータを取得して実際の運転状態を把握することができる。
【0028】
たとえばCFD解析を用いて水車出力を推定する場合、翼面圧力分布などからキャビテーションの発生が予測できる。キャビテーションに起因する振動などの仮想的なデータと対象とする機器から計測されるデータとを比較することで、対象とする機器でのキャビテーションの発生、発生個所、キャビテーション強さなどをより正確に知ることができる。
【0029】
DB31は、水車計測部15や発電機計測部16が出力した水車Wや発電機Gの過去の動作情報や過去の仮想動作情報、診断部30が過去に判定した結果などを蓄積する記憶装置である。DB31は、過去の動作情報や判定結果だけに留まらず、長期間にわたってのデータの傾向やその傾向に対応する事象などをも蓄積することもできる。診断出力部32は、診断部30の診断結果を運転員等に提供するインタフェースであり、入出力部12と同様監視盤や運転操作盤に対応する。
【0030】
続いて、図2及び図3を参照して、実施形態のプラント管理システム1の動作を詳細に説明する。
【0031】
実施形態のプラント管理システム1におけるバーチャルクローン20は、監視対象たる発電プラント10の動作を、仮想空間上にリアルタイムで再現する。そのため、発電プラント10の物理的構造、形状、大きさ、材質などの設計情報をあらかじめ解析モデルに設定しておく必要がある。この実施形態のプラント管理システム1では、かかる設計情報を記憶部22aにあらかじめ格納しておく(ステップ100。以下「S100」のように称する。)。
【0032】
解析条件決定部21は、ダムDの水位情報を水位検出部11から受け取るとともに、入出力部12から水車制御部13及び発電機制御部14に送られるそれぞれの制御信号(発電パラメータ)を受け取る(S102)。解析条件決定部21が受け取る各種情報は、発電プラント10が現実に影響を受ける自然界の事象によるパラメータと、運転員が発電プラント10を運転する際に発した制御内容に基づくパラメータとからなる。
【0033】
一方、水車計測部15は、水車Wの運転開始後、水車Wの動作情報を取得し続けている。同様に、発電機計測部16は、発電機Gの運転開始後、発電機Gの動作情報を取得し続けている。取得した動作情報(計測情報)は、入出力部12および診断部30に送られる(S104)。
【0034】
解析条件決定部21は、水位検出部11及び入出力部12から受け取った水位情報及び制御信号を受けると、各種解析モデルの演算処理に適した解析処理データに変換する(S106)。
【0035】
解析部22は、解析条件決定部21から受け取った解析処理データを、記憶部22aに格納された各種解析モデルに適用し、水車W及び発電機Gの現時点での動作状態を解析する(S108)。解析部22による解析処理は、発電プラント10の稼働開始時から行うことが望ましい。発電プラント10の運用と同時並行的に解析を継続することで、現実の発電プラント10の動作状態と仮想空間上の発電プラントの動作状態との時系列的な変化(トレンド)の対比が可能になるからである。なお、解析部22は、解析条件決定部21から受け取った解析処理データに加えて、記憶部22bに格納した系統情報や需要情報を加味した解析を行ってもよい。
【0036】
データ生成部23は、解析部22の解析結果に基づいて、仮想空間上の発電プラントの動作状態に対応する仮想動作情報VGDおよびVWDを生成する(S110)。
【0037】
診断部30は、水車計測部15及び発電機計測部16から取得した動作情報WD及びGDと、データ生成部23が生成した仮想動作情報VGD及びVWDとを比較診断処理する(S112)。
【0038】
比較診断処理の結果、両者が一致する場合(S114のYes)、発電プラント10は各種解析モデルによる解析結果と同様の動作を行っていることになり、診断部30は、発電プラント10が正常動作しているものと判定する(S102)。
【0039】
比較診断処理の結果、両者が一致しない場合(S114のNo)、診断部30は、発電プラント10に異常の可能性があると判定する。このとき、診断出力部32は、アラームを発して運転員に注意を促すことができる。例えば、動作情報と仮想動作情報との差分値が、事前に設定された閾値を超えた場合、両者が合致しないと判定してアラームを発報する。バーチャルクローンを用いて計算された仮想的な計測データ(仮想動作情報)は、その時点での理論的に正常な運転状態を表しているため、仮想的な計測データと現実に計測されたデータに対し乖離が見られる場合は何らかの異常が発生していると判断できる。
【0040】
計測データにはノイズなど含む可能性があるため、適切な安全率をもって閾値を事前に設定し、この閾値を超えた場合に故障/異常発生と判断することが望ましい。図4Aは、動作情報と仮想動作情報との差分値の例として、信号A及びBを示している。図4Aに示す例では、信号Aに対応する差分値が閾値を突破した時点でアラームを発報している。一方、図4Bに示す例では、信号Aが閾値に到達する前にアラームを発報している。すなわち、安全率を見て閾値を突破すると見込まれる段階で異常の可能性があるものと判定している。すなわち、安全率をもった発報の方が、動作情報における計測データの誤差などにも対応することができる。
【0041】
なお、この実施形態のプラント監視システムでは、動作情報WD及びGDと、データ生成部23が生成した仮想動作情報VWD及びVGDとの比較の結果、合致しないと判定された場合(S114のNo)、さらに他の組み合わせの比較診断処理を行う。すなわち、水車計測部15及び発電機計測部16から取得した動作情報WD及びGDと、DB31に記憶された過去の動作情報とを比較診断処理する(S116)。
【0042】
比較診断処理の結果、両者が一致する場合(S116のYes)、発電プラント10の動作は解析モデルとは合致しないものの、過去の動作情報のトレンドとは一致していることになるから、発電プラント10の異常ではないと判断できる。そこで、診断部30は、動作情報WD及びGDを解析部22にフィードバック(FB)し、記憶部22aに格納された各種解析モデルを更新する(S118、S102)。なお、ステップ116における合致の有無は、ステップ114と同様に、安全率を見込んだ判定をしてもよい。
【0043】
比較診断処理の結果、両者が一致しない場合(S116のNo)、診断部30は、データ生成部23が生成した仮想動作情報VWD及びVGDと、DB31に記憶された過去の動作情報とを比較診断処理する(S120)。
【0044】
比較診断処理の結果、両者が一致する場合(S120のYes)、発電プラント10の過去の動作情報のトレンドは解析モデルと合致するのに現実の発電プラント10の動作情報がそれぞれと合致しないことになるので、診断部30は、発電プラント10を故障と判定する(S122)。
【0045】
比較診断処理の結果、両者が一致しない場合(S120のNo)、発電プラント10の動作は解析モデルとも過去の動作情報とも異なるから、診断部30は未知の障害であると判定する(S124)。未知の障害としては、たとえば自然災害や突発的事象による障害が考えられる。
【0046】
水車を用いた発電プラントなどでは、非常に幅広い運転条件を有している。そのため、過去の計測結果と対比するにはデータベースの作成や過去の計測データの蓄積などに膨大な手間と時間を要してしまう。また、データベースに無い運転状態(例えば極低負荷運転など)や非常時の運転状態(例えばゴミの巻き込みなど)時の機器健全性の判定は、過去の計測結果との対比だけでは判定することができない。
【0047】
実施形態のプラント監視システムによれば、バーチャルクローンを用いて対象とする機器の運転状態を求める際に必要な情報については現実に即した情報を用いることが可能であるため、過去に実績の無い運転や非常時などについても機器の状態を知ることができる。
【0048】
なお、対象とする機器の運転条件(たとえば回転数、流量、落差など)のみでなく、動作する流体の状態(例えば、土砂濃度、酸性度、上流側の気象情報など)についても解析モデルを随時アップデートし、運転状態を監視することで機器寿命(例えば摩耗による劣化、打撃によるダメージなど)の推定も実現することができる。
【0049】
このように、実施形態のプラント監視システムによれば、リアルタイムに演算した解析結果と現実の計測結果とを比較するので、故障予知や異常検知を精度よく行うことができる。特に、この実施形態のプラント監視システムでは、リアルタイムに演算した解析結果と現実の計測結果に加えて過去の計測結果をも組み合わせて比較するので、具体的な不具合の態様を予測することも可能となる。
【0050】
なお、この実施形態のプラント監視システムにおいて、診断部30は、水車計測部15及び発電機計測部16から取得した動作情報WD及びGDと、DB31に記憶された過去の動作情報とを比較診断処理した結果として、動作情報WD及びGDを解析部22にフィードバック(FB)し、記憶部22aに格納された各種解析モデルを更新しているが、これには限定されない。図示しない入力インタフェースを介して、対象とする機器の物理的な形状の変化や使用材の物性の変化(経年劣化など)をフィードバックして記憶部22aに格納された各種解析モデルを更新してもよい。
【0051】
具体的には、対象とする機器の定期メンテナンス時に目視/計測により確認された形状変化(たとえば、摩耗による壊食、シールギャップ量、打痕など)を、運転員が入力インタフェースを介して記憶部22aに格納された各種モデルに反映させる。これにより、より現実に近い形状での仮想的な計測データを求めることができるため、より高精度な予測結果を得ることができる。フィードバックする内容は、実際に目視/検査することで確認できるデータでも良いし、仮想動作情報VWD及びVGDとして推定される形状変化を示すデータでも良い。
【0052】
フィードバックするスパンは、対象とする機器の部品ごと異なるものとしてもよい。バーチャルクローンを用いて運転状態を把握するうえで必要な形状/材料物性の変化量を反映すると、より現実に即したモデルとなって解析精度が向上する。一方、形状/材料物性の変化量は、材料の経年劣化など長時間のスパンとなるものから、翼面の打痕など瞬時に形状が変化するものなど多岐にわたる。そこで、毎回バーチャルクローンの解析モデル全体を更新するのではなく、パート毎に変化分を反映できるようにすることで、アップデートの時間を短縮することが可能になる。このとき、反映する形状/物性の変化は、対象とする機器を実際に目視/検査することで確認できるもののみでも良いし、バーチャルクローンにより推定される形状変化を反映してもよい。
【0053】
また、この実施形態のプラント監視システムでは、診断部はリアルタイムに異常の有無を判定しているが、これには限定されない。得られた動作情報と仮想動作情報とに基づいて、プラント機器の性能の変化量を予測することもできる。
【0054】
たとえば、図5Aに示すように、動作情報と仮想動作情報との差分が突然大きな値となり、かつ動作情報と過去の動作情報との差分も大きな値となれば、発電プラント10の故障か未知の障害が発生したと判定できる(S122・S124)。これは、非定常的に機器の形状が変化したことが強く推認される事態である。
【0055】
そこで、診断部30は、動作情報としての物理的な形状変化や材料の物性変化などをバーチャルクローン20にフィードバックし、解析モデルが機器性能の低下を予測できるようにする。これにより、解析部22は、発電プラント10の今後の形状/物性の変化量を予測し、随時解析モデルをアップデートしながら予定される運用が終了される段階までの機器特性(例えば機器出力の低下量など)を予測することができる。
【0056】
さらに、この実施形態のプラント監視システムでは、動作情報及び仮想動作情報に基づいて、発電プラント10の余寿命診断をも実現する。図5Aにて示すように、このプラント監視システムは、発電プラント10の機器特性を予測することができる。これを応用し、過去の動作情報や過去の仮想動作情報を併せ用いることで、図5Bに示すように今後想定される運転条件および運転時間から対象とする機器の余寿命を予測することができる。
【0057】
(寿命予測の応用1)
余寿命の予測は、複数台の対象機器を並列して運用しているプラントにおいて適用することができる。図6Aに示すように、発電プラントとして1号機と2号機を並列運用する場合を仮定すると、機器の寿命のばらつきから、機器更新時期より前に一方の機器(図6Aでは1号機)の寿命が到来してしまうことがある。実施形態のプラント監視システムは、監視対象たる発電プラントの余寿命を予測することができるから、1号機と2号機の運転状態を調節して、機器更新時期に両者の寿命が到来するように運用することが可能になる。
【0058】
例えば2年後まで運用し更新する計画であれば、この期間の機器出力最大化とメンテナンス周期最長化をするための機器運用モードを提案することができる。図6Bの例では、1号機はメンテナンス周期を長期化させ、2号機は機器出力最大化を図れば、ともに同時期の機器更新とすることが可能になる。このとき、対象とする機器の動作情報と仮想動作情報との比較から、対象とする機器の物理的な形状/物性の変化量を解析モデルに随時アップデートすることで、より正確かつ最適な運転モードの提案を実現することができる。
【0059】
(寿命予測の応用2)
余寿命の予測は、複数台の対象機器を並列して運用しているプラントにおいて、総発電量の最大化を図るためにも適用することができる。図7Aに示すように、たとえば電力制御管内に設置されている火力発電プラント、水力発電プラント内の各機器に対してそれぞれ監視および特性変化量・余寿命を予測する場合を考えると、図7AのXに示すように、更新タイミングよりも前に機器性能が著しく低下することが考えられる。この場合、管内総発電量の低下をも招いてしまう。
【0060】
そこで、実施形態のプラント監視システムを適用して各機器の余寿命を予測することで、図7Bに示すように、制御管内の発生電力量が均一化する運転モードを策定することができる。このとき、対象とする機器の動作情報と仮想動作情報との比較から、対象とする機器の物理的な形状/物性の変化量をモデルに随時アップデートすることで、より正確かつ最適な運転モードを提案することができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1…プラント監視システム、10…発電プラント、D…ダム、11…水位検出部、12…入出力部、W…水車、13…水車制御部、G…発電機、14…発電機制御部、15…水車計測部、16…発電機計測部、20…バーチャルクローン、21…解析条件決定部、22…解析部、22a・22b…記憶部、30…診断部、31…データベース、32…診断出力部。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B