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特許7110049ディスクブレーキ用パッドスプリング及びディスクブレーキ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用パッドスプリング及びディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/097 20060101AFI20220725BHJP
   F16D 55/228 20060101ALI20220725BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20220725BHJP
   F16D 55/224 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
F16D65/097 B
F16D65/097 C
F16D55/228
F16D65/092 D
F16D55/224 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018177896
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020051437
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】島村 健一
(72)【発明者】
【氏名】野尻 菜生
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-90200(JP,A)
【文献】特開平11-236935(JP,A)
【文献】特表2007-528468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを挟んで配置される1対のパッドをパッド支持部材に対し、前記1対のパッドのそれぞれの裏板の周方向片側部の径方向内側部に形成された通孔に前記パッド支持部材に備えられたピンをそれぞれ軸方向に挿通することで支持した、ディスクブレーキ装置に取り付けられ、前記1対のパッドを弾性的に押圧するディスクブレーキ用パッドスプリングであって、
1枚の金属板からなり、
前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧する1対の第1押圧部と、
前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧する1対の第2押圧部と、
を備えるディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項2】
前記1対の第2押圧部は、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧する、請求項1に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項3】
前記1対の第2押圧部のそれぞれが前記裏板を押圧する径方向位置は、前記1対の第1押圧部のそれぞれが前記裏板を押圧する第1径方向位置と、前記通孔の内周面と前記ピンの外周面のうちの径方向外側部との当接位置である第2径方向位置との間に位置している、請求項2に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項4】
前記1対の第1押圧部が、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧する場合には、前記1対の第2押圧部のそれぞれは、前記第1径方向位置と前記第2径方向位置との中央部よりも前記第2径方向位置に近い部分を押圧する、請求項3に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項5】
前記1対の第1押圧部が、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧しない場合には、前記1対の第2押圧部のそれぞれは、前記第1径方向位置と前記第2径方向位置との中央部の近傍を押圧する、請求項3に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項6】
前記1対の第1押圧部は、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧する、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項7】
前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板は、周方向片側面にトルク伝達面を有し、該トルク伝達面を前記パッド支持部材に設けられたトルク受面に当接させることで、後進制動時に前記1対のパッドにそれぞれ作用するブレーキ接線力を支承するものであり、
1対の被挟持部をさらに備え、前記1対の被挟持部のそれぞれは、前記トルク伝達面と前記トルク受面との間に配置されている、請求項1~6のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項8】
前記1対の第1押圧部のそれぞれは、前記裏板の外周縁部のうち、前記ピンと径方向に重なる部分を押圧する、請求項1~7のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項9】
ライニングと該ライニングの裏面を支持した裏板とをそれぞれ有し、ロータを挟んで配置される1対のパッドと、
前記1対のパッドを軸方向に移動可能に支持するパッド支持部材と、
前記1対のパッドを弾性的に押圧するディスクブレーキ用パッドスプリングと、を備え、
前記1対のパッドを構成するそれぞれの前記裏板は、周方向片側部の径方向内側部に、通孔を有しており、
前記パッド支持部材は、前記通孔のそれぞれを軸方向に挿通した1対のピンを有している、
ディスクブレーキ装置であって、
前記ディスクブレーキ用パッドスプリングは、請求項1~8のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキ用パッドスプリングである、ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の制動を行うために使用するディスクブレーキ装置に組み込まれるディスクブレーキ用パッドスプリング、及び、ディスクブレーキ用パッドスプリングを備えたディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動に使用するディスクブレーキ装置は、車輪とともに回転するロータの両側に1対のパッドを配置して、制動時には、1対のパッドをロータの両側面に押し付ける。このようなディスクブレーキ装置は、制動時に、パッドと該パッドを移動可能に支持するパッド支持部材とが衝突して、クロンク音(打音、カチン音)と呼ばれる異音を発生させる場合がある。クロンク音は、制動時にパッドに作用するモーメントの方向が、前進制動時と後進制動時とで逆向きになることが主な発生原因になる。
【0003】
このような事情に鑑みて、特開2015-90201号公報には、クロンク音の発生を防止すべく、制動時にパッドに作用するモーメントの方向を、前進制動時と後進制動時とで一致させた、ディスクブレーキ装置の構造が開示されている。図13図15は、特開2015-90201号公報に記載された、ディスクブレーキ装置を示している。ディスクブレーキ装置1は、パッド支持部材であるキャリパ2と、1対のインナ、アウタ両パッド3、4とを備えている。
【0004】
キャリパ2は、インナ、アウタ両パッド3、4を、軸方向(図13の上下方向、図14の表裏方向)に移動可能に支持する。このようなキャリパ2は、車輪とともに回転するロータ5(図13参照)の軸方向両側に配置されたインナボディ6及びアウタボディ7と、インナ、アウタ両ボディ6、7の周方向両端部同士を連結する回入側、回出側両連結部8、9と、インナ、アウタ両ボディ6、7の周方向中間部同士を連結するセンターブリッジ10とを備えている。
なお、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、ロータ5の軸方向、周方向及び径方向をいう。
【0005】
インナ、アウタ両ボディ6、7は、インナ、アウタ両パッド3、4を軸方向に移動可能に支持するために、それぞれピン11とガイド凹溝12とを備えている。具体的には、インナ、アウタ両ボディ6、7のうち、周方向片側部分の径方向内端部に、ピン11を互いに同軸に支持している。また、インナ、アウタ両ボディ6、7のうち、周方向他側部分の軸方向内側面に、軸方向に張り出したガイド壁部13を設けている。そして、ガイド壁部13の径方向中間部に、軸方向内側面及び周方向片側面にそれぞれ開口したガイド凹溝12を形成している。なお、図示の例では、周方向片側が車両前進時における回入側に相当し、周方向他側が車両前進時における回出側に相当する。
【0006】
インナ、アウタ両パッド3、4はそれぞれ、ライニング14と、ライニング14の裏面を支持した裏板15とを備えている。裏板15は、周方向片側部(回入側端部)の径方向内側部に通孔16を有しており、周方向他側面(回出側側面)に周方向に突出した凸状の耳部17を有している。
【0007】
上述のようなインナ、アウタ両パッド3、4を、キャリパ2に対し軸方向に移動可能に支持するために、裏板15に設けられた通孔16に、ピン11を軸方向に挿通している。これにより、インナ、アウタ両パッド3、4の周方向片側部をインナ、アウタ両ボディ6、7に対して軸方向に移動可能に支持するとともに、前進制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するブレーキ接線力F1をピン11によって支承するようにしている。また、裏板15に設けられた耳部17を、ガイド凹溝12に対し軸方向に移動可能に係合させている。
【0008】
また、キャリパ2を構成する回入側連結部8のうち、周方向に関してセンターブリッジ10と対向する面を、トルク受面18としている。トルク受面18は、後進制動時に、裏板15の周方向片側部の径方向外端部に形成されたトルク伝達面19と当接して、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するブレーキ接線力F2を支承する。
【0009】
ディスクブレーキ装置1には、非制動時の状態で、インナ、アウタ両パッド3、4にがたつきが生じることを防止するために、パッドスプリング20を取り付けている。パッドスプリング20は、金属板製で、周方向片側に、1対の回入側押圧部21a、21bを備えるとともに、周方向他側に、1対の回出側押圧部22a、22bを備えている。そして、1対の回入側押圧部21a、21bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板15の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧している。また、1対の回出側押圧部22a、22bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板15の外周縁部の周方向他側部を、径方向内側に向けて押圧している。
【0010】
ディスクブレーキ装置1は、インナ、アウタ両パッド3、4に対し、制動時にそれぞれ次のような方向のモーメントを生じさせる。以下、図15を参照して説明する。
前進制動時には、図15の(A)に示すように、インナ、アウタ両パッド3(4)を構成するライニング14の摩擦面中心A点に、周方向他側(図15の左側、回出側)に向いたブレーキ接線力F1が作用する。そして、インナ、アウタ両パッド3(4)が周方向他側に向けてわずかに移動し、ブレーキ接線力F1の作用線よりも径方向内側に設けられた通孔16とピン11とが係合することで、ブレーキ接線力F1を支承する。このため、前進制動時には、インナ、アウタ両パッド3(4)に、インナ、アウタ両パッド3(4)を反時計回りに回動させようとする、モーメントM1が作用する。
【0011】
これに対し、後進制動時には、図15の(B)に示すように、ライニング14の摩擦面中心A点に、周方向片側(図15の右側、回出側)に向いたブレーキ接線力F2が作用する。そして、インナ、アウタ両パッド3(4)が周方向片側に向けてわずかに移動し、裏板15の周方向片側面のうちブレーキ接線力F2の作用線よりも径方向外側に設けられたトルク伝達面19を、トルク受面18に対して当接させることで、ブレーキ接線力F2を支承する。このため、後進制動時には、インナ、アウタ両パッド3(4)に、インナ、アウタ両パッド3(4)を反時計回りに回動させようとする、モーメントM1と同方向のモーメントM2が作用する。
【0012】
以上のように、特開2015-90201号公報に記載されたディスクブレーキ装置1は、前進制動時と後進制動時とで、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するモーメントM1、M2の方向を一致させることができる。このため、前進制動と後進制動とを繰り返すような場合にも、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を、反時計回りに回動させたままの状態に維持できる。したがって、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を変化させずに済むため、クロンク音の発生を抑制できる。
【0013】
さらに、パッドスプリング20を構成する回入側、回出側両押圧部21a、21b、22a、22bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板15の周方向両側部分を径方向内側に押圧している。このため、非制動時の状態で、通孔16の内周面のうちの径方向外側面をピン11の外周面のうちの径方向外端部に当接させることができるとともに、耳部17の径方向内側面をガイド凹溝12の径方向内側面に当接させることができる。したがって、非制動時の状態においても、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を安定させることができ、ブレーキ鳴きの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2015-90201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ただし、特開2015-90201号公報に記載されたディスクブレーキ装置1は、前進制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4が、通孔16とピン11との間に存在する隙間の分だけ、周方向他側(回出側)に移動するため、通孔16の内周面のうちの周方向片側面とピン11の外周面のうちの周方向片端部とが衝突することで異音(打音)を発生させる可能性がある。
【0016】
本発明は、上述のような事情に鑑み、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制できるだけでなく、前進制動時に、パッドの裏板に形成した通孔とパッド支持部材に備えられたピンとの衝突に基づく異音が発生することを防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングは、ディスクブレーキ装置に取り付けられ、1対のパッドを弾性的に押圧するものである。
取付対象となる前記ディスクブレーキ装置は、ロータを挟んで配置された1対のパッド(インナパッド及びアウタパッド)と、パッド支持部材とを備えている。
前記1対のパッドは、それぞれ裏板を備えており、該裏板は、前進時における回入側に相当する周方向片側部の径方向内側部に通孔を有している。
これに対し、前記パッド支持部材は、軸方向に配置されたピンを備えている。
前記ディスクブレーキ装置は、前記通孔に前記ピンを軸方向に挿通することにより、前記1対のパッドを前記パッド支持部材に対し支持している。
また、本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングは、1枚の金属板からなり、1対の第1押圧部と、1対の第2押圧部とを備えている。
前記1対の第1押圧部は、前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧する。
前記1対の第2押圧部は、前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧する。
【0018】
本発明では、前記1対の第2押圧部により、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧することができる。
この場合には、前記1対の第2押圧部のそれぞれが前記裏板を押圧する径方向位置(第3径方向位置)を、前記1対の第1押圧部のそれぞれが前記裏板を押圧する第1径方向位置と、前記通孔の内周面と前記ピンの外周面のうちの径方向外側部との当接位置である第2径方向位置との間に位置させることができる。
さらに、前記1対の第1押圧部が、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧する場合には、前記1対の第2押圧部のそれぞれにより、前記第1径方向位置と前記第2径方向位置との中央部よりも前記第2径方向位置に近い部分を押圧することができる。
あるいは、前記1対の第1押圧部が、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧しない場合には、前記1対の第2押圧部のそれぞれにより、前記第1径方向位置と前記第2径方向位置との中央部の近傍を押圧することができる。
【0019】
本発明では、前記1対の第1押圧部により、前記1対のパッドを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧する構成を採用することもできるし、押圧しない構成を採用することもできる。
【0020】
本発明では、前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板を、周方向片側面にトルク伝達面を有するものとし、該トルク伝達面を前記パッド支持部材に設けられたトルク受面に当接させることで、後進制動時に前記1対のパッドにそれぞれ作用するブレーキ接線力を支承することができる。
この場合、本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングに、1対の被挟持部をさらに備えさせ、前記1対の被挟持部のそれぞれを、前記トルク伝達面と前記トルク受面との間に配置することができる。
【0021】
本発明では、前記1対の第1押圧部のそれぞれにより、前記裏板の外周縁部のうち、前記ピンと径方向に重なる部分を押圧することができる。
【0022】
本発明のディスクブレーキ装置は、1対のパッドと、パッド支持部材と、ディスクブレーキ用パッドスプリングとを備える。
前記1対のパッドは、ライニングと、該ライニングの裏面を支持した裏板とをそれぞれ有しており、ロータを挟んで配置される。
前記パッド支持部材は、前記1対のパッドを、軸方向に移動可能に支持する。
前記ディスクブレーキ用パッドスプリングは、前記1対のパッドを弾性的に押圧する。
また、前記1対のパッドを構成するそれぞれの前記裏板は、周方向片側部の径方向内側部に、通孔を有している。
また、前記パッド支持部材は、前記通孔のそれぞれを軸方向に挿通した1対のピンを有している。
そして、本発明のディスクブレーキ装置では、前記ディスクブレーキ用パッドスプリングとして、本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングを用いている。
【発明の効果】
【0023】
上述のような本発明によれば、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制できるだけでなく、前進制動時に、パッドの裏板に形成した通孔とパッド支持部材に備えられたピンとの衝突に基づく異音が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を示す正面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を示す平面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を、一部を省略して示す斜視図である。
図4図4は、一部を省略して示す、図2のA-A断面図である。
図5図5は、インナパッドとパッドスプリングとを取り出して示す、図4の右側部拡大図である。
図6図6は、インナ、アウタ両パッド及びパッドスプリングを取り出して、軸方向外側から見た図である。
図7図7は、インナ、アウタ両パッド及びパッドスプリングを取り出して、径方向外側から見た図である。
図8図8は、インナ、アウタ両パッド及びパッドスプリングを取り出して、周方向片側から見た図である。
図9図9は、インナ、アウタ両パッド及びパッドスプリングを取り出し、一部を省略して示す斜視図である。
図10図10は、パッドスプリングを取り出して示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は右側面図である。
図11図11は、パッドスプリングを取り出して示す斜視図である。
図12図12は、実施の形態の第2例を示す、図5に相当する図である。
図13図13は、従来構造のディスクブレーキ装置を示す平面図である。
図14図14は、図13のB-B断面図である。
図15図15は、パッドを取り出して示す正面図であり、(A)は前進制動時の状態を示しており、(B)は後進制動時の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図11を用いて説明する。
本例のディスクブレーキ装置1aは、自動車の制動を行うために使用する対向ピストン型のディスクブレーキ装置であり、パッド支持部材に相当するキャリパ2aと、1対のインナ、アウタ両パッド3a、4aと、インナ、アウタ両パッド3a、4aを弾性的に押圧するパッドスプリング23とを備えている。
【0026】
本例において、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、車輪とともに回転する円板状のロータ5(図2参照)の軸方向、周方向及び径方向をいう。図1図4図5及び図6の表裏方向、図2図7の上下方向、図8の左右方向が、それぞれ軸方向に相当し、軸方向に関してロータ5に近い側を軸方向内側といい、軸方向に関してロータ5から遠い側を軸方向外側という。また、図1図2図4図5図6及び図7の左右方向、図8の表裏方向が、それぞれ周方向に相当し、図1図2図4図5図6及び図7の右側、図8の表側を、それぞれ周方向片側といい、図1図2図4図5図6及び図7の左側、図8の裏側を、それぞれ周方向他側という。本例では、周方向片側が車両前進時における回入側、車両後進時における回出側となり、周方向他側が車両前進時における回出側、車両後進時における回入側となる。また、図1図4図5図6及び図8の上下方向、図2及び図7の表裏方向が、それぞれ径方向に相当し、図1図4図5図6及び図8の上側、図2及び図7の表側が、それぞれ径方向外側であり、図1図4図5図6及び図8の下側、図2及び図7の裏側が、それぞれ径方向内側である。なお、回入側とは、キャリパ2aに対してロータ5が入り込む側をいい、回出側とは、キャリパ2aからロータ5が抜け出て行く側をいう。
【0027】
キャリパ2aは、1対のインナ、アウタ両パッド3a、4aを、軸方向に移動可能に支持するものであり、アルミニウム合金などの軽合金や鉄系合金製の素材に、鋳造加工などを施すことにより一体に成形されている。キャリパ2aは、ロータ5を挟んで配置されたインナボディ6a及びアウタボディ7aと、インナ、アウタ両ボディ6a、7aの周方向両端部同士を連結する回入側、回出側両連結部8a、9aと、インナ、アウタ両ボディ6a、7aの周方向中間部同士を連結する1対のセンターブリッジ10a、10bとを備えている。なお、1対のセンターブリッジ10a、10bは、軸方向中間部で周方向に互いに連結されている。回入側連結部8aと周方向片側のセンターブリッジ10aとの間には、径方向に連通した窓部24が設けられている。
【0028】
インナ、アウタ両ボディ6a、7aは、インナシリンダ25及びアウタシリンダ26をそれぞれ複数個(図示の例では3個)ずつ有している。インナシリンダ25及びアウタシリンダ26の内側には、図示しないインナピストン及びアウタピストンを、液密にかつ軸方向に関する変位を可能に嵌装している。このようなキャリパ2aは、ロータ5を径方向外側から覆う状態で、インナボディ6aに備えられた1対の取付座27により懸架装置のナックルに対して支持固定される。
【0029】
インナ、アウタ両ボディ6a、7aの周方向片側部の径方向内側部には、1対のピン11aを軸方向に互いに同軸に支持固定(固設)している。ピン11aのそれぞれの先端部は、インナ、アウタ両ボディ6a、7aの互いに対向する軸方向内側面から突出しており、ロータ5の軸方向両側面に隙間を介して対向している。ピン11aのうち、インナ、アウタ両ボディ6a、7aの軸方向内側面から突出した部分は、略円柱状で、円筒面状の外周面形状を有している。このようなピン11aは、前進制動時に、インナ、アウタ両パッド3a、4aにそれぞれ備えられた後述する通孔16aと係合することで、インナ、アウタ両パッド3a、4aに作用するブレーキ接線力F1を支承する。
【0030】
インナ、アウタ両ボディ6a、7aの周方向他側部の互いに対向する軸方向内側面には、前記図14に示したように、軸方向に張り出したガイド壁部を設けている。そして、ガイド壁部の径方向中間部に、軸方向内側面及び周方向片側面にそれぞれ開口した、ガイド凹溝を形成している。
【0031】
回入側連結部8aのうちで、周方向に関してセンターブリッジ10aと対向する面を、平坦面状のトルク受面18aとしている。トルク受面18aは、ブレーキ接線力に対して直交する仮想平面上に存在する。また、トルク受面18aは、後進制動時に、インナ、アウタ両パッド3a、4aにそれぞれ備えられた後述するトルク伝達面19aと当接することで、インナ、アウタ両パッド3a、4aに作用するブレーキ接線力F2を支承する。
【0032】
インナ、アウタ両パッド3a、4aはそれぞれ、ライニング(摩擦材)14aと、ライニング14aの裏面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)15aとを備えている。本例では、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの周方向両端部の形状を、周方向に関して非対称としている。
【0033】
具体的には、裏板15aの周方向片端部(回入側端部)の径方向内側部は、ライニング14aから周方向に張り出した形状を有しており、当該部分を略三角板状の張出部28としている。そして、張出部28のうちで、制動時に作用するブレーキ接線力の作用線(摩擦面中心A点)よりも径方向内側に位置する部分に、軸方向に貫通した略矩形状の通孔16aを形成している。また、裏板15aの周方向片側面のうち、制動時に作用するブレーキ接線力の作用線よりも径方向外側に位置する径方向外端部に、周方向に関してトルク受面18aと対向する、平坦面状のトルク伝達面19aを設けている。裏板15aの周方向片側面のうち、トルク伝達面19aと張出部28との間部分は、トルク伝達面19a及び張出部28よりも周方向他側に凹んでいる。また、裏板15aの周方向片端部の径方向外端部には、周方向他側に隣接した部分よりも径方向外側に張り出した突出部29が設けられている。
【0034】
これに対し、図示は省略するが、裏板15aの周方向他端部(回出側端部)の径方向内側部は、ライニング14aに沿った形状を有しており、ライニング14aから周方向に張り出した張出部は有していない。また、裏板15aの周方向他側面の径方向中間部には、周方向他側に向けて突出した凸状の耳部17aを設けている。耳部17aは、制動時(前進制動時及び後進制動時)に、その径方向内側面をガイド凹溝の径方向内側面に当接させることで、インナ、アウタ両パッド3a、4aに作用するモーメント(回転力)を支承する。
【0035】
インナ、アウタ両パッド3a、4aを、キャリパ2aに対し軸方向に移動可能に支持するために、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aに設けた通孔16aに、インナ、アウタ両ボディ6a、7aにそれぞれ支持されたピン11aを軸方向に緩く挿通する。また、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aに設けた耳部17aを、インナ、アウタ両ボディ6a、7aにそれぞれ設けたガイド凹溝に対し軸方向に移動可能に係合させる。この状態で、裏板15aの周方向片側面に設けられたトルク伝達面19aが、回入側連結部8aに設けられたトルク受面18aに周方向に対向する。
【0036】
本例のディスクブレーキ装置1aは、制動時に、インナ、アウタ両パッド3a、4aに対し、前述した図13図15に示した構造と同様のモーメントを生じさせる。
前進制動時には、図4に示すように、ライニング14aの摩擦面中心A点に、周方向他側(図4の左側、回出側)を向いたブレーキ接線力F1が作用する。そして、通孔16aとピン11aとが係合して、ブレーキ接線力F1を支承する(いわゆる引きアンカ構造となる)。このため、前進制動時には、インナ、アウタ両パッド3a、4aに、周方向他側部分を径方向内側に押し下げる方向のモーメントM1が作用する。なお、摩擦面中心A点とは、摩擦面の図心であり、ピストンの径や配置などによって定まる。
【0037】
これに対し、後進制動時には、ライニング14aの摩擦面中心A点に、周方向片側(図4の右側、回出側)を向いたブレーキ接線力F2が作用する。そして、トルク伝達面19aをトルク受面18aに対して当接させて、ブレーキ接線力F2を支承する(いわゆる押しアンカ構造となる)。このため、後進制動時には、インナ、アウタ両パッド3a、4aに、周方向他側部分を径方向内側に押し下げる方向(モーメントM1と同方向)のモーメントM2が作用する。
【0038】
したがって、本例のディスクブレーキ装置1aによれば、前進制動時と後進制動時とで、インナ、アウタ両パッド3a、4aに作用するモーメントM1、M2の方向を一致させることができる。このため、例えば車庫入れ時のように、前進制動と後進制動とを繰り返すような場合にも、インナ、アウタ両パッド3a、4aの姿勢を、反時計回りに回動させたままの状態に維持できる。したがって、インナ、アウタ両パッド3a、4aの姿勢を変化させずに済むため、クロンク音の発生を抑制できる。
【0039】
次に、インナ、アウタ両パッド3a、4aを弾性的に押圧するパッドスプリング23について説明する。本例では、パッドスプリング23を、キャリパ2aの周方向片側部に1つだけ取り付けている。キャリパ2aの周方向他側部については、必要に応じて、パッドスプリング23とは別のパッドスプリング(パッドクリップを含む)を取り付けることができる。
【0040】
パッドスプリング23は、図10及び図11に示すように、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する1枚の金属板を曲げ形成してなり、全体が略L字状に折れ曲がっている。このようなパッドスプリング23は、その径方向外側部が窓部24の内側に配置されており、その径方向中間部乃至内側部がインナ、アウタ両パッド3a、4aの周方向片側に配置されている。パッドスプリング23は、周方向他側から片側(径方向外側から内側)の順に、係止部30と、略U字形状の第1二股部31と、平板状の1対の被挟持部32と、略U字形状の第2二股部33とを備えており、全体が軸方向に関して対称形状になっている。また、第1二股部31と第2二股部33とは、径方向に伸長した連結板部34により互いに連結されており、連結板部34の軸方向両側に1対の被挟持部32が配置されている。
【0041】
係止部30は、略L字形状を有しており、センターブリッジ10aの周方向片端部に弾性的に係止される。係止部30は、センターブリッジ10aの径方向内側面に当接する矩形板状の押上板部35と、該押上板部35の周方向片端部から径方向外側に折れ曲がった起立板部36とを備えている。起立板部36の軸方向中間部には、略U字形状の切れ目の内側部分を周方向他側に曲げ起こしてなる、曲げ起こし部37が形成されている。押上板部35は、センターブリッジ10aの径方向内側面を、径方向外側に向けて弾性的に押圧する。曲げ起こし部37は、センターブリッジ10aの周方向片側面を、周方向他側に向けて弾性的に押圧する。
【0042】
第1二股部31は、パッドスプリング23の取付状態で、窓部24の内側に配置され、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの外周縁部の周方向片側部を弾性的に押圧する。このような第1二股部31は、軸方向に伸長した略平板状の第1基板部38と、1対の第1押圧部39a、39bとを備えている。第1基板部38は、その周方向他端部が起立板部36の径方向外端部につながっており、周方向片側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜している。
【0043】
第1押圧部39a、39bは、第1基板部38の軸方向両側に配置されている。第1押圧部39a、39bはそれぞれ、略U字形状を有しており、第1基板部38の軸方向両端部から周方向他側に伸長するとともに、それぞれの中間部を起点に径方向内側かつ周方向片側に向けて180度折り返してなる。第1押圧部39a、39bのそれぞれの先端部(径方向内端部)には、径方向内側が凸曲面になった第1返し部40a、40bが設けられている。第1返し部40a、40bの軸方向幅は、第1押圧部39a、39bの基端部乃至中間部の軸方向幅よりも大きい。また、第1返し部40a、40bは、軸方向に関して互いに互いに近づく(ロータ5に近づく)ほど、径方向内側に向かう方向に傾斜している。このような第1返し部40a、40bは、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧するとともに、軸方向外側に向けて弾性的に押圧する。本例では、第1返し部40a、40bは、裏板15aの外周縁部のうち、周方向片端部に設けられた突出部29よりも周方向他側に外れた、ピン11aと径方向に重なる部分を押圧する。
【0044】
第2二股部33は、パッドスプリング23の取付状態で、インナ、アウタ両パッド3a、4aの周方向片側に配置され、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの周方向片側面の径方向中間部を弾性的に押圧する。第2二股部33は、軸方向に伸長した第2基板部41と、1対の第2押圧部42a、42bとを備えている。第2基板部41は、その径方向外端部の軸方向中間部が連結板部34につながっており、その径方向中間部乃至内端部は径方向内側に向かうほど周方向片側に向かう方向に傾斜している。第2押圧部42a、42bは、第2基板部41の軸方向両側に配置されている。第2押圧部42a、42bは、第2基板部41の軸方向両端部から径方向内側に伸長しており、かつ、それぞれの周方向片側面を互いに対向させるようにねじれている。第2押圧部42a、42bの先端部(径方向内端部)には、径方向内側が凸曲面になった第2返し部43a、43bが設けられている。第2返し部43a、43bの軸方向幅は、第2押圧部42a、42bの基端部乃至中間部の軸方向幅よりも大きい。また、第2返し部43a、43bは、軸方向に関して互いに近づくほど、周方向他側に向かう方向に傾斜している。このような第2返し部43a、43bは、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの周方向片側面の径方向中間部を、周方向他側に向けて弾性的に押圧するとともに、軸方向外側に向けて弾性的に押圧する。
【0045】
本例では、図5に示すように、第2返し部43a、43bが裏板15aの周方向片側面を押圧する第3径方向位置P3を、第1返し部40a、40bが裏板15aの外周縁部を押圧する第1径方向位置P1と、通孔16aの内周面のうちの径方向外側面とピン11aの外周面のうちの径方向外端部との当接位置である第2径方向位置P2との間に位置させている。特に本例では、第1返し部40a、40bによって、インナ、アウタ両パッド3a、4aを軸方向に関して互いに離れる方向に押圧するため、第3径方向位置P3を、第1径方向位置P1と第2径方向位置P2との中央部Cよりも第2径方向位置P2に近い側に位置させている。別な言い方をすれば、第3径方向位置P3から第1径方向位置P1までの径方向距離よりも、第3径方向位置P3から第2径方向位置P2までの径方向距離を短くしている。
【0046】
連結板部34は、略平板状に構成されており、径方向に伸長している。そして、連結板部34は、第1二股部31を構成する第1基板部38の周方向片端部の軸方向中間部と、第2二股部33を構成する第2基板部41の径方向外端部の軸方向中間部とを、互いに連結している。
【0047】
1対の被挟持部32は、それぞれ平板状に構成されており、連結板部34の径方向中間部の軸方向両側に配置されている。
【0048】
上述のようなパッドスプリング23は、押上板部35と1対の第1押圧部39a、39bとが、センターブリッジ10aの径方向内側面と裏板15aの外周縁部との間で径方向に突っ張ることで、ディスクブレーキ装置1aに取り付けられる(弾性的に支持される)。そして、このような取り付け状態で、1対の第1押圧部39a、39bにより、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、1対の第2押圧部42a、42bにより、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、1対の被挟持部32を、トルク伝達面19aとトルク受面18aとの間に位置させる。
【0049】
以上のようなパッドスプリング23によれば、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制できるだけでなく、前進制動時に、裏板15aに設けた通孔16aとキャリパ2aに支持したピン11aとが衝突することに基づき異音を発生させることを防止できる。
すなわち、パッドスプリング23を構成する1対の第1押圧部39a、39b(第1返し部40a、40b)により、裏板15aの外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧している。このため、非制動時には、通孔16aの内周面のうちの径方向外側面をピン11aの外周面のうちの径方向外端部に当接させるとともに、耳部17aの径方向内側面をガイド凹溝の径方向内側面に当接させることができる。しかも本例では、第1返し部40a、40bにより、裏板15aの外周縁部のうち、ピン11aと径方向に重なる部分を押圧するため、第1押圧部39a、39bによる押圧力により、通孔16aの内周面をピン11aの外周面に確実に押し付けることができる。したがって、非制動時の状態においても、インナ、アウタ両パッド3a、4aの姿勢を安定させることができて、ブレーキ鳴きの発生を抑制できる。
【0050】
また、1対の第2押圧部42a、42b(第2返し部43a、43b)により、裏板15aの周方向片側面を、周方向他側に向けて弾性的に押圧している。このため、非制動時の状態で、通孔16aの内周面のうちの周方向片側面をピン11aの外周面のうちの周方向方端部に当接させておくことができる。したがって、前進制動時に、ライニング14aの摩擦面中心A点に周方向他側に向いたブレーキ接線力F1が作用した場合にも、インナ、アウタ両パッド3a、4aが周方向他側に移動することを防止でき、通孔16aとピン11aとが衝突することを防止できる。この結果、通孔16aとピン11aとの衝突に基づく異音が発生することを防止できる。
【0051】
また、1対の第1押圧部39a、39b(第1返し部40a、40b)及び1対の第2押圧部42a、42b(第2返し部43a、43b)により、インナ、アウタ両パッド3a、4aに対し、軸方向に関して互いに離れる方向の弾力を付与している。このため、非制動時に、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれのライニング14aの側面を、ロータ5の側面から離隔させることができ、これら両側面同士が擦れることを防止できる。したがって、インナ、アウタ両パッド3a、4aの引き摺りを防止できるとともに、ジャダーの発生を防止することができる。
【0052】
しかも、第2押圧部42a、42b(第2返し部43a、43a)が、裏板15aの周方向片側面を押圧する第3径方向位置P3を、第1径方向位置P1と第2径方向位置P2との中央部Cよりも、第2径方向位置P2に近い側に位置させている。このため、インナ、アウタ両パッド3a、4aを、通孔16aとピン11aとの当接部を支点として大きく傾けることなく、軸方向に互いに離隔させることができる。この理由について、以下説明する。
【0053】
通孔16aの内周面のうちの径方向外側面とピン11aの外周面のうちの径方向外端部との当接部には、1対の第1押圧部39a、39bから裏板15aの外周縁部に作用する径方向内側を向いた力(Fy)が加わる。このため、通孔16aとピン11aとの当接部には、第1押圧部39a、39bから裏板15aに作用する軸方向外側を向いた力(Fx1)に対する反力{f2=押圧力(Fy)×通孔16aとピン11aとの間の摩擦係数(μ2)}が作用する。したがって、インナ、アウタ両パッド3a、4aは、通孔16aとピン11aとの当接部を支点として、径方向外側部分が互いに離れるように傾く傾向になる。このため、第3径方向位置P3を、第1径方向位置P1に近づけると、インナ、アウタ両パッド3a、4aの傾きが大きくなりやすくなり、インナ、アウタ両パッド3a、4aを互いに離れるように移動させることが難しくなる。そこで本例では、第3径方向位置P3を、第1径方向位置P1と第2径方向位置P2との中央部Cよりも第2径方向位置P2に近い側に位置させている。これにより、インナ、アウタ両パッド3a、4aの傾きを大きくすることなく、インナ、アウタ両パッド3a、4aを互いに離れるように移動させることを可能としている。
【0054】
また、パッドスプリング23を構成する1対の被挟持部32を、トルク伝達面19aとトルク受面18aとの間にそれぞれ配置しているため、トルク伝達面19a及びトルク受面18aに錆びが発生することを防止できる。また、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aを、キャリパ2aに対し、軸方向に円滑に変位させることが可能になる。
【0055】
さらに、パッドスプリング23の取付状態で、第1二股部31を窓部24に露出させることができるため、パッドスプリング23の取り付け忘れを防止しやすくなる。また、通孔16aを矩形孔状とし、ピン11aの断面形状を円形としているため、ピン11aの外周面と通孔16aの内周面とが当接する際の接触状態を線接触にすることができる。このため、ピン11aと通孔16aとの接触状態を安定させることができる。
その他の構成及び作用効果については、前述した従来構造と同じである。
【0056】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図12を用いて説明する。
本例では、パッドスプリング23aを構成する第1押圧部39c、39dの先端部に設けた第1返し部40c、40cを、径方向に傾斜させずに、軸方向に(直線的に)配置している。このため、第1押圧部39c、39d(第1返し部40c、40c)は、インナ、アウタ両パッド3a、4aを構成するそれぞれの裏板15aの外周縁部を、径方向内側に向けて押圧するのみで、軸方向外側に向けて押圧しない。したがって、本例では、第2押圧部42c、42d(第2返し部43c、43d)が裏板15aの周方向片側面を押圧する第3径方向位置P3を、実施の形態の第1例とは異ならせている。
【0057】
具体的には、第3径方向位置P3を、第1押圧部39c、39dが裏板15aを押圧する第1径方向位置P1と、通孔16aの内周面のうちの径方向外側面とピン11aの外周面のうちの径方向外端部との当接位置である第2径方向位置P2との中央部Cの近傍としている。
【0058】
本例では、インナ、アウタ両パッド3a、4aに対し、第2押圧部42c、42dのみから軸方向外側を向いた力(Fx2)が付与される。このため、第1押圧部39c、39dと裏板15aの外周縁部との当接部及び通孔16aとピン11aとの当接部にはそれぞれ、第2押圧部41c、41dから裏板15aに作用する軸方向外側を向いた力(Fx2)に対する反力が作用する。具体的には、第1押圧部39c、39dと裏板15aの外周縁部との当接部には、第1押圧部39c、39dから裏板15aに作用する径方向内側を向いた力(Fy)と、第1押圧部39c、39dと裏板15aとの間の摩擦係数(μ1)との積に相当する大きさの反力{f1=押圧力(Fy)×摩擦係数(μ1)}が作用する。これに対し、通孔16aの内周面のうちの径方向外側面とピン11aの外周面のうちの径方向外端部との当接部には、第1押圧部39c、39dから裏板15aに作用する径方向内側を向いた力(Fy)と、通孔16aとピン11aとの間の摩擦係数(μ2)との積に相当する大きさの反力{f2=押圧力(Fy)×摩擦係数(μ2)}が作用する。
【0059】
このため、本例では、インナ、アウタ両パッド3a、4aを軸方向に関して互いに離隔させるために、第2押圧部41c、41dから裏板15aに加わる軸方向外側を向いた力(Fx2)を、第1押圧部39c、39dと裏板15aとの当接部に作用する反力(f1)と、通孔16aとピン11aとの当接部に作用する反力(f2)との合計以上(Fx2≧f1+f2)に設定している。
【0060】
また、インナ、アウタ両パッド3a、4aに傾きを生じさせることなく、インナ、アウタ両パッド3a、4aを軸方向に離隔させるには、第1押圧部39c、39dと裏板15aとの当接部に作用する反力(f1)と、通孔16aとピン11aとの当接部に作用する反力(f2)との比が、第3径方向位置P3から第1径方向位置P1までの径方向距離(L1)と、第3径方向位置P3から第2径方向位置P2までの径方向距離(L2)との比と同じ(f1:f2=L1:L2)になるように、第3径方向位置P3を設定することが好ましい。本例では、第1押圧部39c、39dと裏板15aとの間の摩擦係数(μ1)と、通孔16aとピン11aとの間の摩擦係数(μ2)とがほぼ同じであるため、第3径方向位置P3を、第1径方向位置P1と第2径方向位置P2との中央部Cの近傍に配置している。
【0061】
以上のような本例では、第2押圧部41c、41dのみにより、インナ、アウタ両パッド3a、4aに傾きを生じさせることなく、インナ、アウタ両パッド3a、4aを軸方向に互いに離隔させることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0062】
本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングは、実施の形態で説明したような、対向ピストン型のディスクブレーキ装置に限らず、フローティングキャリパ型のディスクブレーキ装置に適用することもできる。また、ディスクブレーキ装置の周方向他側部分における、パッド支持部材に対するパッドの支持構造については、実施の形態の各例で説明したような、凸状の耳部をガイド凹溝に係合させる構造に限定されず、例えば、ピンを用いて支持する構造など、その他の支持構造を採用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1、1a ディスクブレーキ装置
2、2a キャリパ
3、3a インナパッド
4、4a アウタパッド
5 ロータ
6、6a インナボディ
7、7a アウタボディ
8、8a 回入側連結部
9、9a 回出側連結部
10、10a、10b センターブリッジ
11、11a ピン
12 ガイド凹溝
13 ガイド壁部
14、14a ライニング
15、15a 裏板
16、16a 通孔
17、17a 耳部
18、18a トルク受面
19、19a トルク伝達面
20 パッドスプリング
21a、21b 回入側押圧部
22a、22b 回出側押圧部
23、23a パッドスプリング
24 窓部
25 インナシリンダ
26 アウタシリンダ
27 取付座
28 張出部
29 突出部
30 係止部
31 第1二股部
32 被挟持部
33 第2二股部
34 連結板部
35 押上板部
36 起立板部
37 曲げ起こし部
38 第1基板部
39a、39b、39c、39d 第1押圧部
40a、40b、40c、40d 第1返し部
41 第2基板部
42a、42b、42c、42d 第2押圧部
43a、43b、43c、43d 第2返し部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15