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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20220725BHJP
   H01M 8/04291 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04492 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20220725BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220725BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/04 Z
H01M8/04291
H01M8/04 N
H01M8/04492
H01M8/04664
H01M8/04694
H01M8/0432
H01M8/04313
H01M8/04746
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018235223
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020098677
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】松野 雄史
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-101949(JP,A)
【文献】特開2016-167376(JP,A)
【文献】特開2011-113918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが供給されて発電する燃料電池本体と、
前記燃料電池本体に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池本体から排出される反応ガスを前記燃料電池本体よりも上方に流す反応オフガス流路と、
前記反応オフガス流路内、且つ前記燃料電池本体よりも下部に取り入れ口を有し、取り入れた水を気体と分離し、水を排出口より排出する気液分離手段と、
前記燃料電池本体を冷却する冷媒を冷却ポンプにより循環させる冷却流路と、
前記冷却流路内の気体を排出するオーバーフローラインと、
を備え、
前記気液分離手段の前記排出口は、前記冷却ポンプ駆動時に前記取り入れ口よりも低い圧力となることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記オーバーフローラインは前記冷却流路の最上部に設置されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記冷却ポンプは、発電開始前または発電中においても駆動することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記冷却流路は、最上部にタンクを備え、
前記タンクの上部に前記オーバーフローラインが接続されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池本体は、多孔質のセパレータを備え、
前記冷却ポンプが前記燃料電池本体よりも下流に位置し、
前記冷却ポンプが駆動することにより、前記冷却流路が前記燃料電池本体内の圧力より低い圧力となることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記気液分離手段は、
水位に応じて動く水より比重の軽いフロートと、
前記フロートの動きに合わせて開閉する弁と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記気液分離手段は、
前記反応オフガス流路内から水を取り入れる流路に設けられる開閉弁を備え、
前記反応オフガス流路内が水により閉塞する閉塞条件を予測する閉塞条件予測部と、
予測した閉塞条件に応じて前記開閉弁の開閉指示を出力する弁開閉指示部と、
を有する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記閉塞条件予測部は、
前記燃料電池本体における生成水量、燃料電池本体内部の温度、空気利用率、または水素利用率のうち少なくとも1つを用い、前記反応オフガス流路内が水により閉塞する流路閉塞時間を算出し、
前記弁開閉指示部は、算出した前記流路閉塞時間に応じて前記開閉弁の開閉時間を算出することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記反応オフガス流路内が水により閉塞する条件を予測する閉塞条件予測部と、
予測した閉塞条件に応じて前記冷却ポンプの流量の調整を行うポンプ流路指示部と、
を有する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池システムの排ガス配管から凝縮水を排出する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、水素含有ガスが有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。燃料電池システムは、電解質を挟んで設けられた一対の触媒電極を備えた燃料電池を有している。これらの触媒電極のうち燃料極には、水素含有ガスが供給される。また、他方の酸化剤極には、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。これら一対の触媒電極では、それぞれ以下に示す(1)式および(2)式の電気化学反応が生じる。
燃料極反応 :H → 2H + 2e (1)
酸化剤極反応:2H + 2e + (1/2)O → HO (2)
【0003】
燃料電池システムでは、これらの電気化学反応を利用して、電極から電気エネルギーを取り出す。燃料極に水素含有ガスの水素を供給する方法としては、水素を含有する化石燃料を改質して得られた水素含有ガスを直接供給する方法や、太陽光を利用して生成した水素を水素貯蔵装置に蓄えておき、水素を供給する方法がある。
【0004】
太陽光を利用して水素を生成する方法として、太陽光エネルギーを変換した電気で水を電気分解して水素を生成し供給する光分解法、光起電力法、藻など微生物の代謝を利用して太陽光エネルギーから水素を取り出す方法などがある。
【0005】
水素貯蔵装置としては、高圧ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンクなどがある。水素を含有する燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどが考えられる。一方、酸化剤極に供給する酸化剤ガスとしては、一般的に空気が利用されている。
【0006】
数十kW級以上の大型の燃料電池システムの場合、数立方メートルのパッケージになる。メンテナンス性向上のため、手が届きやすいように、燃料電池はパッケージ下部に置いておくことが望ましい。一方、設置面積(フットプリント)を縮小するため、排気ダクトなどメンテナンスの可能性の低い機器はできるだけ燃料電池の上に設置することが望ましい。
【0007】
このような燃料電池システムでは、発燃料電池本体に接続される排ガスの配管には、発電時に発生した生成水が凝縮しやすい。そこで、高圧な燃料極の排ガスの系外との差圧を利用して、燃料電池よりも上部にある気液分離手段に凝縮水を輸送し、排水する燃料電池システムが知られている。
【0008】
また、排ガスの配管で発生した生成水を重力によって排水するために、排ガス流路と排水流路の2つを気液分離手段に接続させる。この気液分離手段では、排ガス流路の下部にドレン流路を設置する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-53070号公報
【文献】特開2006-120438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、気液分離器に凝縮水を輸送し排水する方法では、水を吹き上げるだけの高圧な排ガスを利用するため、水素含有ガスを供給する昇圧ブロワに多くの消費電力がかかり、燃料電池システム全体の発電効率を低下させる。また、燃料電池にかかる圧力が高く、燃料電池に高いシール性能が要求され、コストアップ要因となる。また、消費電力の少ない低圧のブロワを利用する場合には、流速が遅い低負荷では、配管に水が閉塞し、水素含有ガスが燃料電池に供給されず、発電できない。起動時には、燃料電池内に溜まった水を吹き上げることができず、水素含有ガスが燃料電池に供給されず、発電できないという問題点もあった。
【0011】
一方、排ガスの配管で発生した生成水を重力によって排水するために、排ガス流路と排水流路の2つを気液分離手段に接続させる方法では、燃料電池の下部に排水機能が必要である。さらに、排水量は重力と排水流路の圧力損失によって制限されるため、圧力損失が増えないように排水流路を細くコンパクト化することができなかった。
【0012】
本実施形態の燃料電池システムは、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、排ガス流路の配管が水で閉塞し発電ができなくなることを防止した燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態に係る燃料電池システムは、反応ガスが供給されて発電する燃料電池本体と、前記燃料電池本体に反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、前記燃料電池本体から排出される反応ガスを前記燃料電池本体よりも上方に流す反応オフガス流路と、前記反応オフガス流路内、且つ前記燃料電池本体よりも下部に取り入れ口を有し、取り入れた水を気体と分離し、水を排出口より排出する気液分離手段と、前記燃料電池本体を冷却する冷媒を冷却ポンプにより循環させる冷却流路と、冷却流路内の気体を排出するオーバーフローラインと、を備え、前記気液分離手段の前記排出口は、前記冷却ポンプ駆動時に前記取り入れ口よりも低い圧力となることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
図2】第1実施形態の燃料電池本体の構成を示す拡大図である。
図3】第2実施形態に係る気液分離機構の構成を示す概略図である。
図4】第3実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
図5】第4実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
図6】第5実施形態に係る気液分離機構の構成を示す概略図である。
図7】第6実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
図8】第6実施形態の気液分離機構における弁開閉手順を示すフローチャートである。
図9】第7実施形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各実施形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。また、説明の便宜上、あえて厳密な断面図とせず、部分的に簡略な表現方法を用いる場合もある。
【0016】
[1.第1実施形態]
[1-1.概略構成]
図1は、第1実施形態に係る燃料電池システムを示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は単数の燃料電池本体2を備え、燃料電池本体2に対して水素含有ガス及び酸素含有ガスを供給することにより発電を行う。
【0017】
燃料電池システム1は、燃料電池本体2、水素含有ガス供給装置3、水素含有ガス供給流路4、燃料極オフガス流路5、酸素含有ガス供給装置6、酸素含有ガス供給流路7、酸化剤極オフガス流路8、気液分離機構9、負荷30、及び制御装置40を備える。
【0018】
燃料電池本体2は、水素含有ガス供給装置3より供給される水素と、酸素含有ガス供給装置6より供給される酸素とを用いて発電する。燃料電池本体2は、酸化剤極11、固体高分子電解質膜12、燃料極13、及び冷却流路14aを備える。
【0019】
酸化剤極11では、酸素含有ガス供給装置6より供給される酸素に電子を与えイオン化させる。固体高分子電解質膜12は、酸化剤極11で発生した酸素イオンが燃料極へ移動する際の経路となる。燃料極13では、水素含有ガス供給装置3より供給される水素と、酸化剤極11で発生した酸素イオンとを反応させ発電をおこなう。酸化剤極11での発電の際の反応により水(以下、生成水という)が生成される。
【0020】
図2は、本実施形態における燃料電池本体2の構成を示す拡大図である。図2に示すように、燃料電池本体2は、セル50を複数積層して構成しても良く、セル50は、膜電極複合体56、燃料極セパレータ51、及び酸化剤極セパレータ52とから構成される。
【0021】
膜電極複合体56は、固体高分子電解質膜12と、固体高分子電解質膜12の一方の面に配置された燃料極13と、固体高分子電解質膜12の燃料極13とは反対側の面に配置された酸化剤極11とから成る。また、セル50において、膜電極複合体56は、膜両側を燃料極セパレータ51と酸化剤極セパレータ52とで挟まれる。
【0022】
燃料極セパレータ51には、燃料極流路53が形成されている。酸化剤極セパレータ52には、酸化剤極流路54が形成されている。それぞれのセル50の間には、冷却路14aが形成されている。冷却路14aは、燃料極セパレータ51、酸化剤極セパレータ52の燃料極流路53、または酸化剤極流路54とは反対側の面に形成されている。溝を形成した水密な板を燃料極セパレータ51または酸化剤極セパレータ52とは独立して用いて冷却路14aを形成している。本実施の形態では、燃料極セパレータ51および酸化剤極セパレータ52をそれぞれ独立したものとしているが、一体として形成してもよい。
【0023】
冷却路14aは、冷媒により燃料電池本体2を冷却するための冷却流路14の一部である。冷却流路14に流す冷媒は、エチレングリコールのような不凍液や純水である。冷却流路14は、燃料電池本体2より垂直方向上側に排出される冷却ライン14bと、冷却流路の最上部で冷媒と混合した気体を廃止するためのオーダーフローライン17が設けられる最上部ライン14cと、最上部ライン14cから燃料電池本体2の下方まで延びる垂直ライン14dと、燃料電池本体2の下方で水平方向に延びる下部ライン14dとから成る。下部ライン14eには、冷却流路14内に冷媒を循環させる冷却ポンプ16が配置される。また、下部ライン14eの端からは、燃料電池本体2内の冷却路14aと繋がる配管が延びる。
【0024】
水素含有ガス供給装置3は、燃料電池本体2の燃料極13に水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給手段である。水素含有ガス供給装置3と燃料電池本体2とは、水素含有ガス供給流路4により繋がっている。燃料極オフガス流路5は、燃料電池本体2から排出され水素を含む燃料極オフガスを燃料電池本体2よりも垂直方向上方に向かって流す流路である。
【0025】
酸素含有ガス供給装置7は、燃料電池本体2の酸化剤極11に酸素を供給する酸素含有ガス供給手段である。酸素含有ガス供給装置6は、燃料電池本体2とは、酸素含有ガス供給流路7により繋がっている。酸化剤極オフガス流路8は、燃料電池本体2から排出される酸素を含む酸化剤極オフガスを排出する流路である。酸化剤極オフガス流路8は、燃料電池本体2の下部より、一旦燃料電池本体2より低い位置を通り、燃料電池本体2よりも垂直方向上方に向かって酸素含有ガスを流す。
【0026】
水素含有ガス供給流路4、燃料極オフガス流路5、酸素含有ガス供給流路7、酸化剤極オフガス流路8、及び冷却流路14の配管は、SUS304やSUS316Lなどのステンレス材料で構成されており、配管と配管や機器との間はフランジや、シールテープを用いたねじ込み継手、もしくはSwagelok継手、フジキンV-lok継手などで接続する。水素は着火に必要なエネルギーが非常に小さく、静電気などでも着火するリスクが有るため、水素が流れる配管は全てアースに接続する。接続部のシール材のフランジのパッキンやシールテープなどには導電性が無いため、配管や機器との間に渡配線を実施し、水素が流れる配管や機器は全てアースに接続できるようにする。
【0027】
配管材質は水素脆化を起こしやすいフェライト系ステンレスではなく、オーステナイト系ステンレスを利用する。一般的に、オーステナイト系であるSUS316Lを高圧の水素配管に利用する事が要求されている。低圧の水素配管には、材質の要求が無いため、安価なオーステナイト系SUS304を利用する。
【0028】
また、太い配管の中心に細い配管を接続すると、細い配管の穴が開いているところまで太い配管内に凝縮水が滞留し、凝縮水の流れが不規則になり、水素の供給を不規則となるリスクが有る。太い配管に細い配管を接続する場合には、偏心レデューサーを用いて、上流で発生した凝縮水が滞留することなく下流の細い配管に流れ込むようにする。
【0029】
気液分離機構9は、酸化剤極オフガス流路8内、且つ前記燃料電池本体2よりも下部に取り入れ口を有し、取り入れ口より取り入れた水を気体と分離する気液分離手段である。気液分離機構9は、オフガス流路8内の酸素含有ガスと生成水との分離を行う。気液分離機構9において分離された生成水は、冷却流路14の下部ライン14eに設けられる排出口より排出される。気液分離機構9としては、流路内壁にマイクロスケールの溝を有する表面張力式気液分離器を用いることができる。
【0030】
負荷30は、燃料電池本体2が発電した電力を消費する。燃料電池システムが、たとえば車両に搭載された場合には、電動モータなどに相当し、工場の電気系統に連結すれば、工場のPCや照明などに相当し、一般住宅の電気系統に連結すれば、照明や家電が相当する。
【0031】
制御装置40は、燃料電池システムの運転を制御する制御中枢として機能する。制御装置は、たとえばCPU、記憶装置、入出力装置などの資源を備えたマイクロコンピュータである。制御装置40は、燃料電池システム1に設けられた図示しない各種のセンサからの信号を読み込む。また、読み込んだ各種信号ならびに予め内部に保有する制御ロジック(プログラム)に基づいて、負荷30、水素含有ガス供給装置3、及び酸素含有ガス供給装置6などの燃料電池システム1の各構成要素に指令を送る。このようにして、制御装置40は、燃料電池システム1の運転/停止に必要なすべての動作を統括管理して制御する。
【0032】
[1-2.作用]
以上のような構成を備える燃料電池システムにおいては、燃料電池本体2で発電を行うことにより生成水が発生する。発生した生成水は重力により燃料電池本体2の下部に集まる。燃料電池本体2の下部には、酸化剤極オフガス流路8が接続されている。そのため、燃料電池本体2の下部に溜まった生成水は、酸化剤極オフガス流路8へ流入する。
【0033】
酸化剤極オフガス流路8は、一旦料燃料電池本体2より低い位置を通る構成である。酸化剤極オフガス流路8内の生成水は、酸化剤極オフガス流路8内の壁面に集まる。気液分離機構9は壁面の生成水を回収する。
【0034】
冷却ポンプ16が駆動している場合には、冷却ポンプ16の下流側の圧力が燃料電池本体2のゲージ圧力より低下する。酸化剤極オフガス流路8の圧力も燃料電池本体2のゲージ圧力と同程度となる。つまり、冷却流路14に設けられる気液分離機構9の排出口と、酸化剤極オフガス流路8に設けられる気液分離機構9の取り入れ口とで圧力差が生じる。気液分離機構9は、この圧力差を用いて、取り入れた生成水を酸化剤極オフガスと分離する。
【0035】
[1-3.効果]
以上のような本実施形態の燃料電池システムでは、冷却ポンプ16を稼働させることで、気液分離機構9が閉塞する生成水を除去することが可能となり、燃料電池本体2に空気を供給しやすくなる。このため、酸化剤極オフガス流路8に閉塞する生成水を排出するためブロワを新たに用意する必要や、酸素含有ガスや水素含有ガス供給用のブロワと共用とする必要がない。つまり、水素含有ガスや酸素含有ガスを供給用のブロワは、その用途に応じた定格のものを用いることができる。そのため、ブロワの消費電力を抑えられ燃料電池システムの発電効率が向上する。
【0036】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
本実施形態では、気液分離機構9は、生成水の水位に応じて動く水より比重の軽いフロートと、このフロートの動きに合わせて開閉する弁とを備えるドレントラップ9aを備えるもとした。図3は、第2実施形態に係る気液分離機構9を示す斜視図である。
【0037】
図3に示すように、気液分離機構2は酸化剤極オフガス流路8の垂直方向下側にドレントラップ9aを設けている。つまり、取り入れ口より生成水がドレントラップ9aに流れ込む。ドレントラップ9a内部には、水より比重の軽いフロートと、フロートの動きに合わせて開閉する弁とが設けられる。
【0038】
冷却ポンプ16稼働時に、ドレントラップ9a内の水位が一定以上となると、フロートの位置と連動する弁が開きドレントラップ9a内に生成水が気液分離機構9本体側に流れる。
【0039】
[2-2.作用効果]
以上のような燃料電池システムにおいては、冷却ポンプ16を稼働していなくとも酸化剤極オフガス流路8に溜まった生成水がドレントラップ9aに重力により流入する。このため、効率的に生成水をドレントラップ9a内に集めることができる。また、ドレントラップ9aの内部が生成水で満たされた場合には、フロートが浮いて弁が開き、気液分離機構9本体に生成水が流入する。
【0040】
本実施形態の燃料電池システムでは、ドレントラップ9aを備えているため気液分離機構9内部に流入する気体の量を低減させることができる。故に、気液分離機構9において気液分離しやすい。また、ドレントラップ9aは浮き子式であり、表面張力式とは異なり、構成が簡単でコストが安く、また表面張力式で問題となるスケール付着による凝縮水回収性能の劣化が発生しない。よって、長期間に渡ってメンテナンス無しに発電効率の良い燃料電池システムを提供することができる。
【0041】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成]
本実施形態では、冷却流路14の最上部に水タンク15を備え、水タンク15の上部にオーバーフローライン17が接続されるものとした。図4は、第3実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【0042】
図4に示すように、冷却流路14の最上部ライン14cには水タンク15が設置される。水タンク15は、オーバーフローライン17が接続される。オーバーフローライン17の最上部は水タンク15の最上部よりも低い位置にあり、他の冷却流路14よりも高い位置にある。また、水タンク15の最上部に大気に通ずる排気ライン18を有する。
【0043】
つまり、水タンク15に流入した冷媒は水タンク15内に溜まる。冷却流路14内の冷媒の量が一定量であれば、水タンク15に溜まった冷媒は垂直ライン14d側に流れる。冷却流路14内の冷媒の量が増えた場合には、水タンク15内の水位が上昇する。そして、オーバーフローライン17の最上部を越えた場合には、冷媒はオーバーフローライン17側に流れる。また、冷媒内に気体が混合していた場合には、冷媒が水タンク15内に溜まっている間に冷媒と分離する。分離した気体は、排気ライン18より排出される。
【0044】
[3-2.作用効果]
以上のような構成を備える燃料電池システムでは、冷却流路14に水タンク15があるため、水タンク15にて冷却流路14の凝縮水などの流速が減速する。水タンク15に接続するオーバーフローライン17の位置まで液面が達するように水タンク15内は生成水を含む液体で満たされる。排気ライン18から冷却流路14から回収した気体が放出される。本実施形態では、水タンク15で流速が落ちるため、冷却流路14から回収した気体が放出されやすくなり、気体が噛んで冷却ポンプ16が空回りし冷媒の流量が減少する現象を抑制することができ、必要な冷媒流量をより少ない冷却ポンプ16の消費電力で供給することができ、発電効率の良い燃料電池システム1を提供することができる。
【0045】
[4.第4実施形態]
[4-1.構成]
本実施形態の燃料電池システム1では、燃料電池本体2が多孔質のセパレータを備え、冷却ポンプ16が前記燃料電池よりも下流に位置し、冷却ポンプ16が駆動することにより冷却流路14が燃料電池本体2内の圧力より低い圧力となるようにした。図5は、第4実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【0046】
図5に示すように、冷却流路14が燃料電池本体2内の冷却路14aで水素含有ガス(反応ガス)よりも低い圧力となるように冷却ポンプ16が燃料電池本体2よりも下流に位置する。冷却流路14には、加湿のために冷却流路14には純水を利用し、燃料電池本体2への不純物の混入を防ぐ。
【0047】
また、燃料極セパレータ51および酸化剤極セパレータ52として、稠密ではなくポーラスタイプのセパレータを用いる。燃料極セパレータ51および酸化剤極セパレータ52は、カーボンの多孔質体で形成されている。これらのセパレータは、膜電極複合体12の加湿に必要な水をポーラス内部に含むことができる。冷却流路14を反応ガスよりも低い圧力とすることにより、電極反応による生成水をセパレータから吸い上げて冷却流路14aに吸収し、ガス下流側でのフラッディングを防止する。
【0048】
[4-2.作用]
以上のような構成を有する燃料電池システムでは、ポーラスセパレータを酸化剤極11と燃料極13に利用することにより、電解質膜の加湿に必要な水をポーラス内部に含むことができる。また、冷却路14aを反応ガスの圧力よりも低い圧力とすることにより、電極反応による生成水をセパレータから吸い上げて冷却路14aに吸収し、ガス下流側でのフラッディングを防止する。例えば、燃料電池本体2内部の冷却路14aにおいて、水のゲージ圧は-15kPaであり大気圧よりも低い圧力である。この時、燃料極13におけるゲージ圧は、+8kPa、酸化剤極11におけるゲージ圧は+2kPa、冷却流路の気液分離機構の排出9の接続部は-40kPaである。
【0049】
[4-3.効果]
以上のような燃料電池システムでは、ポーラスセパレータを酸化剤極セパレータ52と燃料極セパレータ51に利用することにより、電解質膜を加湿することができる。燃料電池本体2に供給する空気や水素含有ガスを加湿器を追設することなく、燃料電池本体2内で加湿でき、電解質膜の乾燥による劣化を防ぐことができる。
【0050】
また、冷却路14aを反応ガスの圧力よりも低い圧力とすることにより、膜電極複合体12内にある余剰な液水をセパレータから吸い上げて冷却路14aに吸収し、触媒反応が発生する電極に水素や酸素が供給されにくくなるフラッディング現象を抑制する。フラッディングの抑制によって、拡散分極の増大を抑制し、セル電圧の向上や、燃料極の水素不足によるセル劣化を防ぐことができる。
【0051】
さらに、気液分離機構9から凝縮水を吸い込むだけでなく、燃料電池本体2内の燃料極セパレータ51や酸化剤極セパレータ52からも凝縮水を吸い込めるため、酸化剤極オフガス流路8から凝縮水を除去しやすくなり、配管に水が閉塞し、水素含有ガスが燃料電池に供給されず、発電できないことを抑制できる。消費電力の少ない低圧のブロワを利用できるため、燃料電池システムの発電効率が向上する。
【0052】
[5.第5実施形態]
[5-1.構成]
本実施形態の燃料電池システムでは、図6に示すように、気液分離手段のオフガス流路内から水を取り入れる流路に開閉弁9bを備える。さらに、酸化剤極オフガス流路8内が水により閉塞する閉塞条件を予測し、予測した閉塞条件に応じて開閉弁9bの開閉指示を行う。図7に示すように、制御部40は、閉塞条件予測部41と弁開閉指示部42とを設ける。
【0053】
閉塞条件予測部41は、酸化剤極オフガス流路8内が水により閉塞する閉塞条件を予測する。閉塞条件予測部41は、燃料電池本体における生成水量、燃料電池本体内部の温度、空気利用率、または水素利用率のうち少なくとも1つを用い、閉塞時間を予測する。予測は、あらかじめ実験により、凝縮水が酸化剤極オフガス流路8を閉塞するまでの各発電電流における時間を計測してすることで行う。
【0054】
開と閉止の時間の割合は燃料電池の生成水量や、燃料電池内部の温度、空気利用率、水素利用率などによって、最適値が変化する。生成水量が多いほど、開の時間の割合が長くなる。空気利用率や水素利用率が低いほど電流値に対する空気供給量や水素供給量が多く、生成水を水蒸気として回収するので、開の時間の割合が短くなる。燃料電池内部の温度が高いほど、生成水を水蒸気として回収するので、開の時間の割合が短くなる。
【0055】
弁開閉指示部42は、予測した閉塞時間に応じて開閉弁9bの開閉指示を出力する。これにより、気液分離機構9に対して流入する生成水の量を調整する。例えば、閉塞時間の3分前に開閉弁9bを開ける。一方、弁の開閉後30秒後に弁を閉じる指示を出力する。
【0056】
[5-2.作用効果]
以上のような構成を有する燃料電池システムでは、気液分離機構9に設けた開閉弁9bを予測した閉塞条件に応じて開閉させる。図8は、弁の開閉の手順を示すフローチャートである。
【0057】
図8に示すように、燃料電池本体2において、発電を開始する際は開閉弁9bを閉とし発電を開始する(S1)。そして、生成水流量、空気利用率、水素利用率、発電時間の計測を行う。これらの計算結果より、反応オフガス流路内が水により閉塞する閉塞時間を算出し(S2)、開閉弁9bの開時間及び閉時間を設定する(S3)。そして、発電時間が開閉弁9bの開時間を経過した場合(S4)には、開閉弁9bに対して開指令を出力し、開閉弁9bを開ける(S5)。開閉弁9bを開けた際には、時間の計測をリセットする。
【0058】
そして、開閉弁9bを開けてから一定時間経過した後(S6)、開閉弁9bに対して閉指令を出力し、開閉弁9bを閉める(S7)。開閉弁9bを閉めた際には、時間の計測をリセットする。これを発電終了まで継続する(S8)。
【0059】
以上の工程により、あらかじめ定められた時間、過不足なく凝縮水を排出し、排出を停止することによって、配管に水が閉塞し、水素含有ガスが燃料電池に供給されず、発電できないことは無い。また、生成水の代わりに酸素含有ガスを気液分離機構9が吸い込むことになり、冷却流路側に、酸素含有ガスが流れることが少なくなる。
【0060】
[6.第6実施形態]
[6-1.構成]
本実施形態の燃料電池システムでは、反応オフガス流路内が水により閉塞する条件を予測し、予測した閉塞条件に応じて前記冷却ポンプ16の流量の調整を行う。図9に示すように、制御部は、閉塞条件予測部41とポンプ流路指示部43とを設ける。
【0061】
閉塞条件予測部41は、酸化剤極オフガス流路8内が水により閉塞する閉塞条件を予測する。閉塞条件予測部41は、燃料電池本体における生成水量、燃料電池本体内部の温度、空気利用率、または水素利用率のうち少なくとも1つを用い、閉塞条件を予測する。予測方法としては、酸化剤極オフガス流路8内が水により閉塞するまでの時間を算出する。算出は、あらかじめ実験により、凝縮水が酸化剤極オフガス流路8を閉塞するまでの各発電電流における時間を計測しておき、ポンプ流路指示部43におけるポンプ流量を定める。
【0062】
ポンプ流路指示部43は、冷却ポンプ16に対してポンプ流量の調整指示を出力する。これにより、冷却ポンプ16の流量が変化する。なお、生成水量が多いほど、冷却ポンプ16の流量を多く制御し、圧力差を増やす。空気利用率や水素利用率が低いほど電流値に対する空気供給量や水素供給量が多く、生成水を水蒸気として回収するので、冷却ポンプ16の流量を少なく制御し、圧力差を減らす。燃料電池内部の温度が高いほど、生成水を水蒸気として回収するので、冷却ポンプ16の流量を少なく制御し、圧力差を減らす。
【0063】
[6-2.作用効果]
以上のような構成を有する燃料電池システムでは、酸化剤極オフガス流路8内が水により閉塞する条件を予測し、予測した閉塞条件に応じて冷却ポンプ16の流量の調整を行う。調整を行うことで、気液分離機構9の酸化剤極オフガス流路8の接続箇所と冷却流路の接続箇所の圧力差を変化させる。それにより、過不足なく凝縮水を冷却流路に吸い込むことができる。
【0064】
故に、過不足なく凝縮水を冷却流路に吸い込むため、配管に水が閉塞し、水素含有ガスが燃料電池に供給されず、発電できないことを防止することができる。また、生成水の代わりに酸素含有ガス(反応ガス)を冷却流路が吸い込むことがなく、冷却ポンプ16に反応ガスが溜まり冷却ポンプ16が空回りして、冷却ポンプ16が機能しなくなり、凝縮水を吸入することがしなくなることを防ぐことができる。
【0065】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…燃料電池システム
2…燃料電池本体
3…水素含有ガス供給装置
4…水素含有ガス供給流路
5…燃料極オフガス流路
6…酸素含有ガス供給装置
7…酸素含有ガス供給流路
8…酸化剤極オフガス流路
9…気液分離機構
9a…ドレントラップ
9b…開閉弁
11…酸化剤極
12…固体高分子電解質膜
13…燃料極
14a…冷却路
14b…冷却ライン
14c…最上部ライン
14d…垂直ライン
14e…下部ライン
14…水流経路
15…水タンク
16…冷却ポンプ
17…オーバーフローライン
18…排気ライン
30…負荷
40…制御装置
50…セル
51…燃料極セパレータ
52…酸化剤極セパレータ
53…燃料極流路
54…酸化剤極流路
56…膜電極複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9