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特許7110080可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具
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  • 特許-可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20220725BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20220725BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20220725BHJP
   B43K 5/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K7/01
B43K8/02
B43K5/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018235536
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020097659
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253164(JP,A)
【文献】特開2013-091750(JP,A)
【文献】特開2018-070741(JP,A)
【文献】特開2010-115781(JP,A)
【文献】特開2020-002290(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111098374(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103603229(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B43K 5/00、7/01、8/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(ロ)電子受容性化合物からなる成分と(ハ)前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体を含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩と、水とを含んでなり、前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩が、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が150~1500mPa・sであり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を含むことを特徴とする可逆熱変色性水性インキ組成物。
【請求項2】
前記1価の陽イオンの無機塩含有量が、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~10質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記グリセリンの含有量が1価の陽イオンの無機塩の含有量より質量基準で多く含まれてなる請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1価の陽イオンの無機塩がアルカリ金属の塩である請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
EL型粘度計、回転速度20rpm、20℃にて測定した時の粘度が、1~20mPa・sである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物に関するものである。さらに詳しくは、顔料の分散安定性に優れた可逆熱変色性水性インキ組成物に関するものである。また、本発明は、その組成物を用いた筆記具にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロカプセル顔料を利用した可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物の提案がなされている。マイクロカプセル顔料を用いたインキは、長期保管時のインキ保存安定性に課題があった。そこで、剪断減粘性付与剤を配合した所謂ゲルインキとすることや、水溶性の高分子凝集剤を用いるなどして顔料が沈降した際にも再分散が可能なゆるい凝集体とすることなどが提案されている。また、マイクロカプセル顔料とマイクロカプセル顔料と比重の異なるマイクロカプセル粒子と、水と高分子凝集剤を含むビヒクルを含み、ビヒクルが比重調整されてなるインキ組成物が知られている(特許文献1)。しかしながら前記インキ組成物は、マイクロカプセル顔料とマイクロカプセル粒子を高分子凝集剤によりゆるい凝集状体にして沈降抑制をしているが十分でなく、これまでの技術は、改良の余地があった。
【0003】
このように、従来の提案されているインキは、ゲルインキの場合はインキ粘度が高いため用いる筆記具に制限があり、低粘度インキにおいてはマイクロカプセル顔料とマイクロカプセル粒子を高分子凝集剤によりゆるい凝集状体にして沈降抑制をしているが十分でなく、筆記具に用いる際には、インキ収容管に再撹拌機構を備える必要があるなど、十分満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-224295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散安定性が良好でインキ組成物の保存安定性に優れ、筆記具に用いた際にも筆記性、筆跡乾燥性、耐ドライアップ性能に優れた可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「筆記具用水性インキ組成物」または「水性インキ組成物」、「インキ組成物」、「組成物」と表すことがある。)に、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、場合により、「CMC塩」と表すことがある。)、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩(以下、場合により、「無機塩」と表すことがある。)を併用することなどにより前記課題が解決された。
すなわち、本発明は、
「1.(イ)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(ロ)電子受容性化合物からなる成分と(ハ)前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体を含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩と、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩と、水とを含んでなり、前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩が、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が150~1500mPa・sであり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を含むことを特徴とする可逆熱変色性水性インキ組成物。
2.前記1価の陽イオンの無機塩含有量が、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~10質量%である、第1項に記載の組成物。
3.前記グリセリンの含有量が1価の陽イオンの無機塩の含有量より質量基準で多く含まれてなる第1項または第2項に記載の組成物。
4.前記1価の陽イオンの無機塩がアルカリ金属の塩である第1項~第3項のいずれか1項に記載の組成物。
5.EL型粘度計、回転速度20rpm、20℃にて測定した時の粘度が、1~20mPa・sである、第1項~第4項のいずれか一項に記載の組成物。
6.第1項~第5項のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。」に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可逆熱変色性インキ組成物に、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を含有した際にも、特定のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩をビヒクルに含有することにより、低粘度インキにおいてもマイクロカプセル顔料が浮遊したり、沈降したりすることなく、安定的に分散を維持できる。さらに、筆記具に用いた際に撹拌子などの再撹拌機構を用いることなく、安定的にマイクロカプセル顔料を分散した状態を維持できるため、各種筆記具に用いることができる。また、筆記具に用いた際に、顔料が浮遊したり、沈降したりすることがないため、筆跡に斑が生じることがなく、均一に分散していることと保湿効果を有しているため、筆跡がかすれることがなく、安定した筆記性能が得られるなど、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に用いられる加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0010】
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料と、特定のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩、水とを含んでなる。
本発明において、インキ組成物中に特定のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩を含むことで、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を安定的に分散することができる。
以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が150~1500mPa・sである、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含んでなる。本発明に用いるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、マイクロカプセルの表面に作用するもので有り、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料を、安定的に均一に分散を保つことを可能とするものであり、これらは、2種以上用いてもよい。
【0012】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が150~1500mPa・sであるが、この範囲より粘度が低いと、マイクロカプセル顔料の安定性を得るためにはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を多く添加することが必要であり、前記1価の陽イオンの無機塩との相互作用により析出してしまう結果となり、この範囲より大きいと、インキ粘度が高くなりすぎるため筆記性が低下する。前記範囲とすることで、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の析出や高いインキ粘度による筆記性の低下を抑制し、所定のマイクロカプセル顔料安定性が得られるので好ましい。
【0013】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、0.01質量%~0.30質量%であることが好ましく、0.05 質量%~0.20質量%がより好ましい。この範囲より少ないと所望するマイクロカプセル顔料の安定性が得られ難く、この範囲より多く配合しても更なるマイクロカプセル顔料安定性の向上は得られない。前記範囲であると、マイクロカプセル顔料は沈降や浮上することなく、インキ中で安定に存在できるので、好ましい。
【0014】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、グリセリンを含んでなる。本発明に用いるグリセリンは、インキ組成物の比重調整剤の他、保湿剤として働く。グリセリンを用いることにより、後述する1価の陽イオンの無機塩が析出することを抑制する働きを有する。さらに、保湿剤として、インキ組成物を筆記具に用いた際に、筆記先端が乾燥するドライアップに対しての効果も有する。
【0015】
グリセリンの配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~25質量%がより好ましい。この範囲より少ないと後述する無機塩の析出を抑制し難しくなり、この範囲より多いとインキ粘度が高くなって吐出を阻害するだけでなく、筆跡が乾きにくくなる傾向がある。前記範囲であると、適切なインキ粘度を保ちつつ無機塩の析出を抑制でき、インキビヒクルの比重調整にも寄与することができるので、好ましい。
【0016】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、さらに、1価の陽イオンの無機塩を含んでなる。前記無機塩は、インキ組成物の比重調整剤として働く。1価の陽イオンの無機塩を配合することで、比較的比重の大きいマイクロカプセル顔料に対しても沈降を抑制することができる。本発明に用いる1価の陽イオンの無機塩としては、陽イオンがアルカリ金属であることが好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。より具体的な1価の陽イオンの無機塩としては、前記アルカリ金属のハロゲン化物や、硫酸塩などが挙げられ、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウムなどが挙げられる。2価以上の陽イオンの無機塩はそれ自体の水溶性が高くなく、また水和した状態でも特定の陰イオンと難水溶性の塩を形成して析出を生じやすいため、比重調整を目的とした多量の添加には不適切である。
【0017】
1価の陽イオンの無機塩の配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、1質量%~10質量%であることが好ましく、3質量%~8質量%がより好ましい。この範囲より少ないと所望のビヒクル比重に調整することが困難であり、この範囲より多いと筆記具としたときにペン先の僅かな乾燥でも析出を生じやすくなる傾向がある。前記範囲であると、前記グリセリンとの組み合わせにより析出することなく所望のビヒクル比重に調整できるので、好ましい。
【0018】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩とグリセリンと1価の陽イオンの無機塩を含んでなるが、どれひとつが欠けても、比重の異なる2種以上の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を安定的な分散状態に保つことができない。すなわち、グリセリンでマイクロカプセル顔料を安定的に分散することができるだけの比重を得ためには、多量に配合することが必要となり、インキ粘度の上昇や、筆跡乾燥性が劣ることとなる。また、1価の陽イオンの無機塩は、インキ粘度をあげることなくある程度比重を高くすることができるが、水分蒸発を抑制することができないため、無機塩が析出してしまう恐れがある。グリセリンと無機塩の併用系とすることで、インキの粘度をあげることなく、保湿効果を保ちながら、ある程度比重を調整することができる。しかしながら、グリセリン単独、無機塩単独あるいは、グリセリンと無機塩の併用系では、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料が存在すると、あるものは分散、あるものは沈降、あるものは浮遊と、すべてを均一に分散することができない。そこで、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩単独では均一に分散することはできないが、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩をグリセリンと無機塩の併用系に配合することで、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩がマイクロカプセル顔料に作用し、比重の異なる2種以上のマイクロカプセル顔料が浮遊したり沈降したりすることを抑制し、均一に分散することができる。
上記の通り、3者を併せて用いることで、低粘度インキにおいても、安定した分散状態を保つことができる。
【0019】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、比重の異なる2種以上の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を用いるが、本発明で言う比重の異なる2種とは、従来の構造粘性を有する所謂ゲルインキにおいては、浮遊、沈降すること無しに均一に分散した状態に保持することが可能であるが、比重調整をした水溶液中においては、浮遊や沈降などの異なる挙動を示すものを言う。
【0020】
具体的には、マイクロカプセル顔料に内包する材料や組成、マイクロカプセルの形状、粒子径、マイクロカプセル壁膜の膜材、膜厚、内包物と壁膜の比率などが異なるものが、比重の異なるものとしてあげられる。
【0021】
本発明に用いることができる可逆熱変色性マイクロカプセル顔料について以下に説明する。前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型(加熱により消色し、冷却により発色する)の可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を適用できる(図1参照)。
【0022】
また、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t~tの間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する加熱消色型(加熱により消色し、冷却により発色する)の可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料も適用できる(図2参照)。
【0023】
以下に前記可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を図2のグラフによって説明する。
【0024】
図2において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全に消色した状態に達する温度t(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色し始める温度t(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色し始める温度t(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全に発色した状態に達する温度t(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
【0025】
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。
【0026】
ここで、tとtの差、或いは、tとtの差(Δt)が変色の鋭敏性を示す尺度である。
【0027】
更に、可逆熱変色性組成物の発消色状態のうち常温域では特定の一方の状態(発色状態)のみ存在させると共に、前記可逆熱変色性組成物による筆跡を摩擦により生じる摩擦熱により簡易に変色(消色)させるためには、完全消色温度(t)が50~95℃であり、且つ、発色開始温度(t)が-50~10℃であると好ましい。
【0028】
ここで、発色状態が常温域で保持でき、且つ、筆跡の摩擦による変色性を容易とするために何故完全消色温度(t)が50~95℃、且つ、発色開始温度(t)が-50~10℃であるかを説明すると、発色状態から消色開始温度(t)を経て完全消色温度(t)に達しない状態で加温を止めると、再び第一の状態に復する現象を生じること、及び、消色状態から発色開始温度(t)を経て完全発色温度(t)に達しない状態で冷却を中止しても発色を生じた状態が維持されることから、完全消色温度(t)が常温域を越える50℃以上であれば、発色状態は通常の使用状態において維持されることになり、発色開始温度(t)が常温域を下回る-50~10℃の温度であれば消色状態は通常の使用において維持される。
【0029】
前述の完全消色温度(t)の温度設定において、発色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより高い温度であることが好ましく、しかも、摩擦による摩擦熱が完全消色温度(t)を越えるようにするためには低い温度であることが好ましい。よって、完全消色温度(t)は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。更に、前述の発色開始温度(t)の温度設定において、消色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより低い温度であることが好ましく、-50~5℃が好適であり、-50~0℃がより好適である。本発明においてヒステリシス幅(ΔH)は50℃~100℃の範囲であり、好ましくは55~90℃、更に好ましくは60~80℃である。
【0030】
本発明による筆記用水性インキ組成物に用いることが出来るマイクロカプセル顔料は、前記変色温度域よりも高温側に完全消色温度(t)を有する可逆熱変色性組成物を用いることもできる。
【0031】
前記可逆熱変色性組成物の発消色状態のうち常温域では特定の一方の状態(発色状態)のみ存在させると共に、前記可逆熱変色性組成物による筆跡を加熱消去具等から得られる熱により消色させるためには、完全消色温度(t)が80℃以上とし、且つ、発色開始温度(t)が15℃以下である。ここで、発色状態が常温域で保持でき、且つ、消色状態は通常の使用において維持されるために何故完全消色温度(t)が80℃以上、且つ、発色開始温度(t)が15℃以下であるかを説明すると、発色状態から消色開始温度(t)を経て完全消色温度(t)に達しない状態で加温を止めると、再び第一の状態に復する現象を生じること、及び、消色状態から発色開始温度(t)を経て完全発色温度(t)に達しない状態で冷却を中止しても発色を生じた状態が維持されることから、完全消色温度(t)が常温域を越える80℃以上であれば、発色状態が夏場の車内等の高温環境下で維持され、発色開始温度(t)が常温域を下回る15℃以下の温度であれば消色状態は通常の使用において維持される。更に、完全消色温度(t)が90℃以上であれば、発色状態は高温環境下でより維持され、発色開始温度(t)が10℃以下であれば、消色状態が通常の使用状態でより維持される。よって、前記温度設定は筆記面に変色状態の筆跡を選択して択一的に視認させるための重要な要件であり、筆跡は所期の目的を達成することができる。前述の完全消色温度(t)の温度設定において、発色状態が高温環境下で維持されるためにはより高い温度であることが好ましく、完全消色温度(t)は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。更に、前述の発色開始温度(t)の温度設定において、消色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより低い温度であることが好ましく、-50~10℃が好適であり、-50~5℃がより好適である。なお、可逆熱変色性組成物を予め発色状態にするためには冷却手段としては汎用の冷凍庫にて冷却することが好ましいが、冷凍庫の冷却能力を考慮すると、-50℃迄が限度であり、従って、完全発色温度(t)は-50℃以上である。本発明においてヒステリシス幅(ΔH)は70℃~150℃の範囲である。
【0032】
前記可逆熱変色性組成物を用いることで、重要書類などに形成した筆跡が夏場の車内などの高温環境下で放置しても消色することがなく、筆記具用水性インキ組成物としての適用範囲を広げることができる。さらに、摩擦部材による擦過により、消去しにくくなることから、書類の真贋を判別することに用いることができる。
【0033】
以下に可逆熱変色性組成物を構成する(イ)、(ロ)、(ハ)成分について説明する。
【0034】
本発明において(イ)成分は、顕色剤である成分(ロ)に電子を供与し、成分(イ)が有するラクトン環などの環状構造が開環することにより発色する電子供与性呈色性有機化合物からなるものである。このような電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類などを挙げることができる。
【0035】
成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等がある。
【0036】
活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等を挙げることができる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0037】
前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類を挙げることができる。
【0038】
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度-温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点-曇点)を示すカルボン酸エステル化合物が用いられる。このような化合物としては、種々のものが提案されており、それらから任意に選択して用いることができるが、具体的には下記のようなものが挙げられる。
【0039】
まず、前記(ハ)成分として、特開2006-137886号公報などに記載されている下記一般式(1)で示される化合物が好適に用いられる。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の整数を示し、X1、X2のいずれか一方は-(CH2)nOCOR2又は-(CH2)nCOOR2、他方は水素原子を示し、nは0~2の整数を示し、R2は炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、Y1及びY2は水素原子、炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、又は、ハロゲンを示し、r及びpは1~3の整数を示す。)
【0040】
前記式(1)で示される化合物のうち、Rが水素原子の場合、より広いヒステリシス幅を有する可逆熱変色性組成物が得られるため好適であり、更にRが水素原子であり、且つ、mが0の場合がより好適である。
【0041】
なお、式(1)で示される化合物のうち、より好ましくは下記一般式(2)で示される化合物が用いられる。
【化2】
(式中のRは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示すが、好ましくは炭素数10~24のアルキル基、更に好ましくは炭素数12~22のアルキル基である。)
【0042】
更に、前記(ハ)成分として、下記一般式(3)で示される化合物を用いることもできる。
【化3】
(式中、Rは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、m及びnはそれぞれ1~3の整数を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲンを示す。)
【0043】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(4)で示される化合物を用いることもできる。
【0044】
前記(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とから少なくともなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料について以下に説明する。
【化4】
(式中、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1乃至3の整数を示し、nは1~20の整数を示す。)
【0045】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(5)で示される化合物を用いることもできる。
【化5】
(式中、Rは炭素数1乃至21のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1~3の整数を示す。)
【0046】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(6)で示される化合物を用いることもできる。
【化6】
(式中、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1~3の整数を示し、nは1~20の整数を示す。)
【0047】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(7)で示される化合物を用いることもできる。
【化7】
(式中、Rは炭素数4~22のアルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルキル基、炭素数4~22のアルケニル基のいずれかを示し、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、nは0又は1を示す。)
【0048】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(8)で示される化合物を用いることもできる。
【化8】
(式中、Rは炭素数3~7のアルキル基を示し、Xは水素原子、メチル基、ハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、メチル基のいずれかを示し、Zは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1又は2のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示す。)
【0049】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(9)で示される化合物を用いることもできる。
【化9】
【0050】
式(9)中、Rは炭素数4から22のアルキル基、炭素数4から22のアルケニル基、シクロアルキルアルキル基、又はシクロアルキル基のいずれかを示し、Xは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、nは0又は1を示す。
【0051】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(10)で示される化合物を用いることもできる。
【化10】
【0052】
式(10)中、Rは炭素数3から18のアルキル基、炭素数6から11のシクロアルキルアルキル基、炭素数5から7のシクロアルキル基、又は炭素数3から18のアルケニル基のいずれかを示し、Xは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、炭素数1から4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示す。
【0053】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(11)で示される化合物を用いることもできる。
【化11】
【0054】
式(11)中、Rは炭素数3から8のシクロアルキル基又は炭素数4から9のシクロアルキルアルキル基を示し、nは1から3の整数を示す。
【0055】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(12)で示される化合物を用いることもできる。
【化12】
【0056】
(式(12)中、Rは炭素数3から17のアルキル基、炭素数3から8のシクロアルキル基、又は炭素数5から8のシクロアルキルアルキル基を示し、Xは水素原子、炭素数1から5のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、又はハロゲン原子を示し、nは1から3の整数を示す。)
【0057】
更に、電子受容性化合物として炭素数3~18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を用いたり(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステルを用いたり(特開2001-105732号公報)、没食子酸エステル等を用いた(特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報)加熱発色型(加熱により発色し、冷却により消色する)の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料を適用することもできる(図3参照)。
【0058】
前記(イ)成分、(ロ)成分、(ハ)成分の構成成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の変色特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~50、好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200の範囲である(前記割合はいずれも質量基準である)。また、各成分は各々二種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
前記可逆熱変色性組成物はマイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として使用される。これは、種々の使用条件において可逆熱変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
【0060】
前記可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル化する方法としては、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与することや、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0061】
ここで、可逆熱変色性組成物とマイクロカプセル壁膜の質量比は7:1~1:1、好ましくは6:1~1:1の範囲を満たす。
【0062】
可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を生じ易く、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を生じ易くなる。
【0063】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径が0.1~5μm、好ましくは0.1~3μm、より好ましくは0.5~3μmの範囲である。前記マイクロカプセル顔料は粒子径が5μmを越えると分散安定性を得難くなることがあり、また、粒子径が0.1μm未満では高濃度の発色性を示し難くなる。粒子径はベックマン・コールター株式会社製;Multisizer 4eを用いて測定し、分布図から存在する粒子径を判定する。
【0064】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤、非熱変色性染料や顔料等の各種添加剤を添加することができる。
【0065】
なお、マイクロカプセル顔料中またはインキ組成物中には、非熱変色性の染料或いは顔料を配合して、温度変化により有色(1)から有色(2)への互変性を呈する熱変色像を形成できるよう構成することができる。
【0066】
本発明によるインキ組成物は、必要に応じてpH調整剤、防腐剤或いは防黴剤等の添加剤を添加することができる。
【0067】
前記pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等が挙げられる。
【0068】
防腐剤あるいは防黴剤としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、N-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバマート安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジンなどが挙げられる。
【0069】
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0070】
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0071】
前記インキ組成物は、20℃でEL型粘度計を用いて20rpmで測定したインキ粘度が好ましくは1~20mPa・s、より好ましくは5~15mPa・sである。本発明のインキ組成物は、低粘度のインキに用いた際に、最大限の効果を発揮する。
【0072】
本発明によるインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具用水性のインキとして用いることができる。特に、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具や、マーカー類などに代表される繊維束を利用したインキ供給機構を備える筆記具など、毛管現象を利用したインキ供給機構を備える筆記具は、そのインキ供給機構などから、インキ粘度の高いインキを用いることができないため低粘度のインキを用いる必要があり、従来の筆記具用水性インキ組成物においては、顔料の沈降などにより、筆記する際にその筆跡が掠れたり、筆記不能になる場合があったが、本発明によるインキ組成物においては、低粘度インキにおいてもマイクロカプセル顔料を均一に分散することが可能となるため、好適に用いられる。
【0073】
本発明によるインキ組成物は、前記の通り各種筆記具に具備することが出来、その筆記具を用いて筆跡を形成することが可能であり、その筆跡は、指による擦過や加熱具又は冷熱具の適用により変色させることができる。
【0074】
加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。特に、擦過時に実質的に磨耗しない弾性体が好ましい。
【0075】
前記摩擦部材としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適である。前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー等が用いられる。前記摩擦部材は筆記具と別体の任意形状の部材である摩擦体とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具に摩擦部材を設けることにより、携帯性に優れたものとなる。
【0076】
前記冷熱具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片などの冷媒を充填した冷熱変色具や保冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用などが挙げられる。
【0077】
前記熱変色性の筆跡は、加熱変色具又は冷熱変色具の適用により変色させることができる。前記加熱変色具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、通電加熱変色具が用いられる。前記通電加熱変色具としては、サーマルヘッド、ヒートローラー、ホットスタンプを用いた通電加熱変色具が挙げられる。
【0078】
(筆記具)
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン芯またはボールペンチップなどを筆記先端としたマーキングペンやボールペン、金属製の筆記先端を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。その中でも、ペン先が繊維チップ、フェルトチップである筆記具に用いた際に、チップ先端での耐ドライアップ性能が向上する為、筆記性能が向上するなど、特にその効果が高くなる。また、前記チップの気孔率は、50~80%とすることが好ましい。前記チップの気孔率が上記数値範囲内であれば、前記顔料の目詰まりがなく、適切なインキ吐出量を維持することができる。
【0079】
本発明の筆記具は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
【0080】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0081】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0082】
一実施形態において、筆記具は、マーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
【0083】
一実施形態において、筆記具は、ボールペンであり、他の実施形態としては、万年筆である。
【実施例
【0084】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0085】
(マイクロカプセル顔料Aの製造)
(イ)成分として2-(2-クロロアニリノ)-6-ジ-n-ブチルアミノフルオラン4.5質量部、(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0質量部、4,4′-(1-メチルペンチリデン)ビスフェノール3.0質量部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー25.0質量部、助溶剤50.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。 前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aを単離した。
なお、前記マイクロカプセル顔料Aの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~5.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により黒色から無色、無色から黒色へ可逆的に色変化する。
【0086】
(マイクロカプセル顔料Bの製造)
(イ)成分、(ロ)成分、(ハ)成分を下記の通りとした以外は、マイクロカプセル顔料Aと同じ方法でマイクロカプセル顔料Bを得た。
(イ)成分として3-(4-ジエチルアミノ-2-ヘキシルオキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド2.0質量部
(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン8.0質量部
(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部
なお、前記マイクロカプセル顔料Bの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~5.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により青色から無色、無色から青色へ可逆的に色変化する。
【0087】
(マイクロカプセル顔料Cの製造)
(イ)成分として4-[2,6-ビス(2-エトキシフェニル)-4-ピリジニル]-N,N-ジメチルベンゼンアミン4.0質量部(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン10.0質量部(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。 前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Cを単離した。 なお、前記マイクロカプセル顔料Cの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~4.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により黄色から無色、無色から黄色へ可逆的に色変化した。
【0088】
(マイクロカプセル顔料Dの製造)
(イ)成分、(ロ)成分、(ハ)成分を下記の通りとした以外は、マイクロカプセル顔料Cと同じ方法でマイクロカプセル顔料Dを得た。
(イ)成分として2-(ジブチルアミノ)-8-(ジペンチルアミノ)-4-メチル-スピロ[5H-[1]ベンゾピラノ[2,3-g]ピリミジン-5,1′(3′H)-イソベンゾフラン]-3-オン2.5質量部
(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0質量部、4,4′-(1-メチルペンチリデン)ビスフェノール3.0質量部
(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部
なお、前記マイクロカプセル顔料Dの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~4.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により桃色から無色、無色から桃色へ可逆的に色変化した。
【0089】
なお、マイクロカプセル顔料A~Dは、その比重が異なっており、その関係は、マイクロカプセル顔料A>マイクロカプセル顔料B>マイクロカプセル顔料C>マイクロカプセル顔料Dであった。
【0090】
(実施例1)
(可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物の製造)
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料A 18.0質量部
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料D 2.0質量部
塩化ナトリウム(1価の陽イオンの無機塩) 6.1質量部
グリセリン 25.0質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩A 0.1質量部
水 48.8質量部
上記組成物をPRIMIX社製ホモディスパーにより撹拌混合を行い、可逆熱変色性水性インキ組成物を得た。
なお前記インキ組成物の粘度は11mPa・sであった。
また、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を配合しないビヒクル中でのマイクロカプセル顔料A、Dの挙動を確認したところ、マイクロカプセル顔料Aは沈降し、マイクロカプセル顔料Dは浮遊していた。
【0091】
(実施例2~13、比較例1~7)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1、表2に示したとおりに変更して、実施例2~13、比較例1~7のインキ組成物を得た。これらの例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
また、実施例1と同じく、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を配合しないビヒクル中でのマイクロカプセル顔料の挙動を確認した結果を併せて示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
(1)黒色マイクロカプセル顔料
(2)青色マイクロカプセル顔料
(3)黄色マイクロカプセル顔料
(4)桃色マイクロカプセル顔料
(5)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が750mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬(株)製、商品名:セロゲンF-SA
(6)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が1200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬(株)製、商品名:セロゲンF-AG
(7)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が180mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬(株)製、商品名:セロゲンF-SB
(8)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が5mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬(株)製、商品名:セロゲン5A
(9)ダイセルファインケム(株)製、商品名:HECダイセルSP200
【0094】
実施例1~13、比較例1~7で得られたインキ組成物について、以下の通り評価した。結果を表2に示す。
【0095】
【表3】
(マイクロカプセル顔料分散安定性試験)
(株)パイロットコーポレーション製ペチット1インキカートリッジに実施例1~13、比較例1~7のインキ組成物を充填して栓をし、縦方向に保管し、25℃にて4週間静置後の外観を確認した。
○:初期同等に均一に分散しており、明確な変化はみられない。
△:初期、顔料がわずかに沈降し、上澄みがみられたが、初期とほとんど変化はみられない。
×:顔料が沈降または浮遊し、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩が析出、もしくはインキ組成物が明らかに分離しており、初期よりも沈降または浮遊が進行している。
【0096】
(筆記試験)
直液式マーカーとして、(株)パイロットコーポレーション製ペチット1を、中詰式マーカーとしてフリクションカラーズを用い、実施例1~13、比較例1~7のインキを収容して筆記具を作製し、各マーカーをチップ上向き及び下向き状態で保管し、常温4週間静置後に筆記を行い評価した。
○:初筆から筆記可能であり、チップ方向による筆跡の濃淡差が見られない。
△:初筆から筆記可能であるが、チップ方向による筆跡濃淡差が顕著である。
×:筆記できない。
【0097】
(筆跡乾燥性)
中詰式マーカーを用いて、走行試験A紙に筆記を行い、1分後に筆跡を消しゴムで擦過して確認その状態を目視により観察した。
○:筆跡が乾燥しており、汚れが生じない。
×:筆跡に未乾燥部があり、汚れが生じる。
【0098】
表3の結果から明らかなように、実施例1~13のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れ、筆記具に用いた際も筆記性、筆跡乾燥性に優れたものであった。一方、比較例1のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料が浮遊しているものと沈降しているものがみられ、比較例2、3のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料が沈降しており、いずれもマイクロカプセル顔料の分散安定性が劣っており、筆記具用水性インキ組成物として適していなかった。比較例4、5のインキ組成物は、分散安定性には優れていたが、比較例4においては、筆跡乾燥性が特に劣っており、比較例5においては、筆記先端での水分蒸発により塩化ナトリウムが析出して筆記性が劣っており、いずれも筆記具に用いた場合に性能が劣るものとなっていた。比較例6のインキ組成物は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の析出によりマイクロカプセル顔料の分散安定性が劣っていた。比較例7のインキ組成物においては、マイクロカプセル顔料がヒドロキシエチルセルロースとゆるい凝集体を形成し、その凝集体の沈降がみられたが、分散状態は安定していた。しかし、筆記具に用いた際には、沈降の影響が見られ、筆記性が劣るものとなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具用水性のインキとして用いることができる。特に、低粘度インキを用いる筆記具に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全発色温度
加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の発色開始温度
加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の消色開始温度
加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全消色温度
ΔH ヒステリシス幅
図1