(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ディスポーザブル塗布具
(51)【国際特許分類】
A45D 34/04 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
A45D34/04 510E
(21)【出願番号】P 2018541067
(86)(22)【出願日】2017-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2017033727
(87)【国際公開番号】W WO2018056261
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2016183227
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】391060546
【氏名又は名称】平和メディク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100125313
【氏名又は名称】木村 浩幸
(74)【代理人】
【識別番号】100067644
【氏名又は名称】竹内 裕
(72)【発明者】
【氏名】松下 朱音
(72)【発明者】
【氏名】黒川 友博
(72)【発明者】
【氏名】菅 絵美子
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-179604(JP,U)
【文献】特開2011-001303(JP,A)
【文献】登録実用新案第3069066(JP,U)
【文献】実開昭58-153844(JP,U)
【文献】特開2011-229655(JP,A)
【文献】特許第3401218(JP,B2)
【文献】実開昭60-57317(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 34/00-34/06
A45D 40/00-40/28
A45D 44/00
A61K 8/00
A61M 35/00
B05C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の端部から延び出す綿体が、最大幅4.5~6.5mm、最大肉厚部の厚さ2.0~3.6mmで、
外方に湾曲した両側縁により形成される最大幅部に最深部を備えた扁平湾曲形状であって、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線が軸に対して25~35度の傾斜角度を備えることを特徴とする塗布具。
【請求項2】
綿体が、ポリビニルアルコール系樹脂0.5mgで接着した綿繊維の集合体からなることを特徴とする請求項1記載の塗布具。
【請求項3】
軸の端部から延び出す綿体が、最大幅4.5~6.5mm、最大肉厚部の厚さ2.0~3.6mmで、
外方に湾曲した両側縁により形成される最大幅部に最深部を備えた扁平湾曲形状であって、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線が軸に対して25~35度の傾斜角度を備えることを特徴とする粘性化粧料用塗布具。
【請求項4】
綿体が、ポリビニルアルコール系樹脂0.5mgで接着した綿繊維の集合体からなることを特徴とする請求項3記載の粘性化粧料用塗布具。
【請求項5】
粘度400~300000mPa・sの粘性化粧料を塗布することを特徴とする請求項4記載の粘性化粧料用塗布具。
【請求項6】
請求項1又は2に記載する塗布具を使用して、粘性化粧料又は粘性医薬製剤を掬い取り塗布することを特徴とする塗布具の使用方法。
【請求項7】
請求項3乃至5のいずれかに記載する粘性化粧料用塗布具を使用して、粘性化粧料を掬い取り塗布することを特徴とする粘性化粧料用塗布具の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リップグロス等の粘性化粧料や軟膏等の粘性医薬製剤を塗布するための塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リップグロス等の粘性化粧料は、唇に光沢を与え、立体感のある唇を演出する化粧効果を奏するため広く消費者に嗜好されており、市場では、多種多様な色彩や質感を備えた粘性化粧料が販売されている。
【0003】
消費者が、店頭において粘性化粧料を購入する際には、サンプルを自らの唇等に塗布して自分に最も似合う商品を選出するが、サンプルの塗布に用いる塗布具は、衛生上、つぎの消費者に使用されることがないよう、使い捨てであることが好ましい。また、試供品として配布する粘性化粧料のサンプルにも、化粧料を使い切るまでの1回から数回分使用できるだけの使い捨ての塗布具を添付することが好ましい。
【0004】
一方、使い捨ての塗布具であっても、これを用いて商品を評価するためには、十分な量の粘性化粧料を掬い取り、塗布する部位に容易に塗り広げて、商品の特徴である色彩や質感が十分に確認できるものであることが必要である。
【0005】
このため、店頭等において消費者がリップグロス等の粘性化粧料を購入する際に用いる塗布具として、他の消費者が使用していない衛生的な使い捨てタイプでありながら、化粧料を確実に掬い取り、塗布する部位に密着して容易に塗り広げることができる粘性化粧料用の塗布具の開発が求められる。また、軟膏等の粘性医薬製剤においても、1回のみ使用する衛生的な使い捨てタイプでありながら、粘性医薬製剤を掬い取り患部に容易に塗り広げることができる塗布具の開発は重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リップグロス等の粘性化粧料や軟膏等の粘性医薬製剤を塗布する際に用いる塗布具として、衛生的な使い捨てタイプでありながら、化粧料や医薬製剤を確実に掬い取り、塗布する部位に密着して容易に塗り広げることができる塗布具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らが検討を行った結果、軸の端部から延び出す綿体を所定の扁平湾曲形状とすることにより、衛生的な使い捨てタイプでありながら、リップグロスなどの粘性化粧料等を確実に掬い取り、塗布する部位に密着して容易に塗り広げることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、軸の端部から延び出す綿体が、最大幅4.5~6.5mm、最大肉厚部の厚さ2.0~3.6mmで、外方に湾曲した両側縁により形成される最大幅部に最深部を備えた扁平湾曲形状であって、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線が軸に対して25~35度の傾斜角度を備えることを特徴とする塗布具である。
【0010】
さらに本発明は、綿体が、ポリビニルアルコール系樹脂0.5mgで接着した綿繊維の集合体からなることを特徴とする塗布具である。
【0011】
また本発明は、軸の端部から延び出す綿体が、最大幅4.5~6.5mm、最大肉厚部の厚さ2.0~3.6mmで、外方に湾曲した両側縁により形成される最大幅部に最深部を備えた扁平湾曲形状であって、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線が軸に対して25~35度の傾斜角度を備えることを特徴とする粘性化粧料用塗布具である。
【0012】
さらに本発明は、綿体が、ポリビニルアルコール系樹脂0.5mgで接着した綿繊維の集合体からなることを特徴とする粘性化粧料用塗布具である。
【0013】
さらに本発明は、粘度400~300000mPa・sの粘性化粧料を塗布することを特徴とする粘性化粧料用塗布具である。
【0014】
また本発明は、前記の塗布具を使用して、粘性化粧料又は粘性医薬製剤を掬い取り塗布することを特徴とする塗布具の使用方法である。
【0015】
また本発明は、前記の粘性化粧料用塗布具を使用して、粘性化粧料を掬い取り塗布することを特徴とする粘性化粧料用塗布具の使用方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の塗布具によれば、粘性化粧料や粘性医薬製剤など、あらゆる粘性物質を塗布する際に用いる塗布具を、衛生的な使い捨てタイプとすることができるとともに、リップグロスなどの粘性化粧料等を確実に掬い取り、塗布する部位に密着して容易に塗り広げることができる。また、本発明の塗布具によれば、使い捨てタイプでありながら、化粧料容器に通常添付される樹脂製塗布具や、さらに表面をフロッキー加工した塗布具と同様の優れた使用感触を得ることができる。
【0017】
また、本発明の粘性化粧料用塗布具は、必要な耐久性を備えることから、使用者は、試供品等として配布する粘性化粧料のサンプルを、化粧料を使い切るまでの1回から数回を繰り返して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】塗布具の外観図((a)正面図、(b)側面図)
【
図4】綿体の硬度の測定状態を示す図(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塗布具は、
図1に示すように、軸(2)の端部から延び出す綿体(3)について、最大幅Wを4.5~6.5mm、最大肉厚部の厚さTを2.0~3.6mmの扁平湾曲形状とし、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線(4)が軸(2)に対して25~35度の傾斜角度θを備えた形状とする。
【0020】
粘性化粧料は、塗布膜を厚くし、優れたつやと光沢を発揮するため、粘度は通常、4000mPa・s以上(芝浦システム株式会社社製のBL型粘度計を使用し、測定条件は、ローター4号、0.3rpmでの測定値である)とすることが好ましく、さらに、塗布し易さと、優れた光沢を両立するためには、1万~10万mPa・sとすることが特に好ましい。
【0021】
綿体(3)の形状は、扁平湾曲形状とすることにより粘性化粧料を確実に掬い取ることができるとともに、塗布する部位に密着して、容易に塗り広げることが可能となる。
【0022】
綿体(3)の最大幅Wは、4.5~6.5mmとする。最大幅Wが、4.5mmより小さいと化粧料を掬い取る量が少なくなり、塗布する量が不足する一方、6.5mmより大きいと細かい部分に塗布しにくくなり操作性に劣るためである。
【0023】
綿体(3)の最大肉厚部の厚さTは、2.0~3.6mmとする。最大肉厚部の厚さTが2.0mmより小さいと、綿体の剛性が低く変形しやすいため、粘性化粧料を掬い取りにくくなり、化粧料を塗布することが困難となる。一方、最大肉厚部の厚さTが3.6より大きいと、綿体が厚くなりすぎて粘性化粧料を掬い取ることが困難になるとともに、細かい部分へ化粧料を塗布することが難しくなる。
【0024】
また綿体(3)は、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線(4)が軸に対して25~35度の傾斜角度θを備えた形状とする。このような傾斜角度θを設けることにより化粧料が掬い取り易くなり、また、唇など粘性化粧料を塗布する部位にあてがい易くなることから粘性化粧料等を容易に塗布することが可能となる。
【0025】
さらに綿体(3)の長さLは、10~17mmとし、湾曲面の曲率半径Rは4.5~5.2mmとすることが好ましい。粘性化粧料がリップグロスである場合、化粧料を塗布する部位となる唇に密着し易い形状とするためである。
【0026】
塗布具の製造方法は、特に限定するものではないが、一例を挙げるとすれば、規定のサイズに切断したロール紙を、ローラーを使用して丸めて軸に形成する。つぎに解繊機によってほぐされた綿繊維を、接着剤を塗布した軸の端部に、適宜接着剤を噴霧しながら接着することにより巻き付ける。その後、巻き付けた綿繊維の集合体を所定形状の型を用いて圧縮成形することにより扁平湾曲形状の綿体に成形する。成形後は、温風やヒーター等を用いた乾燥工程により接着剤を乾燥させることにより塗布具を得る。
【0027】
塗布具の綿体は、使用途中に綿繊維がほぐれて変形することがないようある程度の耐久性が必要であるが、綿体の耐久性は、綿繊維どうしを接着する接着剤の種類や量により大きく変化する。このため綿体の形成に際しては、軸に綿繊維を巻き付ける工程において使用する最適な接着剤を選出するとともに、適切な量の接着剤を噴霧して、綿繊維どうしを十分に接着して綿繊維の集合体を形成することが望ましい。例えば、接着剤の種類としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、綿繊維を接着する量としては、0.5mgが好ましい。
【0028】
以下の実施例では、本発明について行った効果の確認試験の結果を詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
塗布具の綿体の形状を変化させたときの、綿体の「剛性」、「化粧料の掬い取り量」及び「塗布のしやすさ」ついて評価した結果を表1に示す。「塗布のしやすさ」に関する、「操作性(細部への塗布しやすさ)」、「唇へのフィット性」及び「ムラ付きのなさ・均一な塗布性」の各評価項目については、パネラー10名による使用試験により評価した。
【0030】
以下、評価基準を◎:非常にすぐれる(合格)、○:すぐれる(合格)、△:やや劣る(不合格)、×:劣る(不合格)として記載する。
【0031】
【0032】
表1に示すように、綿体の最大幅Wを4.5~6.5mmとし、最大肉厚部の厚さTを3.6~2.0mmとした実施例1~3では、「剛性」にすぐれるとともに、「化粧料の掬い取り量」及び「塗布しやすさ」のいずれの評価項目おいても「非常にすぐれる(合格)」の結果を得ることができた。
【0033】
綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線の軸に対する傾斜角度θを変化させたときの、「化粧料の掬い取り量」、「1回使用時の耐久性」及び「塗布のしやすさ」ついて評価した結果を表2に示す。「1回使用時の耐久性」の評価は、1回の使用で傾斜角度θに変化がないことを確認することにより行う。
【0034】
【0035】
表2に示すように、綿体の先端部と後端中央部を結ぶ仮想線の軸に対する傾斜角度θを25~35度とした実施例4~6では、「化粧料の掬い取り量」、「1回使用時の耐久性」及び「塗布しやすさ」のいずれの評価項目おいても「非常にすぐれる(合格)」の結果を得ることができた。
【0036】
綿体の形状と綿体によって塗布する粘性化粧料の粘度(硬度)との関係を表3に示す。各形状の綿体を備えた塗布具を使用して、種々の粘度(硬度)の粘性化粧料を塗布した際の「化粧料の掬い取り量」及び「塗布のしやすさ」を評価した。
【0037】
【0038】
表3に示すように、綿体の最大幅Wを4.5~6.5mmとし、最大肉厚部の厚さTを3.6~2.0とした実施例7~9では、粘度が19,300~56,600mPa・s及び硬度30の粘性化粧料を塗布した際、「化粧料の掬い取り量」及び「塗布しやすさ」において良好な結果を得ることができることを確認した。
【0039】
本発明の塗布具は、使い捨てタイプでありながら、特に粘性化粧料を塗布する際に優れた使用感を得ることができ、データは示さないが、化粧料容器に通常添付される塗布具と同様の使用感が得られることを使用試験により確認している。
【0040】
つぎに、塗布具の綿体を接着する接着剤の種類と量(接着剤溶液の濃度)による耐久性への影響を評価した。綿体の綿繊維を接着する接着剤の種類としては、カルボキシメチルセルロース溶液とポリビニルアルコール溶液の2種類がある。カルボキシメチルセルロース溶液の通常(従来)濃度品としては、市販品である商品名「UD綿棒シャワー」(平和メディク製)を用いた。ポリビニルアルコール溶液の通常(従来)濃度品としては、市販品である「UD綿棒普通軸」(平和メディク製)を用いた。また、ポリビニルアルコール溶液については、市販品に用いる通常(従来)濃度より高濃度の溶液を用意し試験品の綿体を作成した。試験品の綿体は、軸に綿繊維を巻き付ける工程で接着剤の溶液を噴霧し、所定形状に乾燥成形するが、ポリビニルアルコールの高濃度溶液を用いた場合には、0.5mgのポリビニルアルコールによって、綿体が成形されることとなる。尚、耐久性試験に用いる試験薬としては、粘度の異なる複数の油分を使用した。表中、試験薬の粘度は25℃における計測値を示す。
【0041】
【0042】
表4は、塗布具の綿体を試験薬に浸漬し、10分放置後に試験薬を唇に塗布した際の繊維のほつれを確認した結果を示す。実施例1のポリビニルアルコール溶液(高濃度)では、いずれの試験薬でも繊維のほつれが無く、粘度400~300000mPa・sの範囲において良好な結果を確認することができた。
【0043】
【0044】
表5は、塗布具の綿体を試験薬10mlに浸漬した状態で10回かき回した後の繊維のほつれを観察した結果を示す。実施例1のポリビニルアルコール溶液(高濃度)では、いずれの試験薬でも外観上の変化は認められず、粘度400~300000mPa・sの範囲において良好な結果を確認することができた。
【0045】
【0046】
表6は、塗布具の綿体を試験薬10mlに浸漬した状態で10回かき回した後、試験薬を唇に塗布した際の繊維のほつれを確認した結果を示す。実施例1のポリビニルアルコール溶液(高濃度)では、いずれの粘度(400~300000mPa・s)においても繊維のほつれが無く、滑らかに塗布できることが確認された。
【0047】
図3は、綿体の硬度を測定した結果を示す。綿体の硬度は、テクスチャーアナライザー
TA XT PLUS(Stable Microsystems社製)を用い、
図4に示すように、テーブル上に置いた塗布具の綿体に直径約1cmの丸型円盤を押し当てながら0.1mm/secの速度で下降させ、綿体に生じる応力を計測したものである。
【0048】
図3に示すように、ポリビニルアルコール溶液(高濃度)で接着成形した綿体は、カルボキシメチルセルロース溶液で接着成形した綿体に比べて硬度が高く、繰り返しの使用にも耐え得る強度を備えることを確認した。
【符号の説明】
【0049】
1 塗布具
2 軸
3 綿体
4 仮想線