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特許7110120歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/36 20060101AFI20220725BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20220725BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20220725BHJP
   A61C 13/34 20060101ALI20220725BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20220725BHJP
【FI】
A61C13/36
A61C13/08
A61C13/00 Z
A61C13/34 Z
A61C5/70
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018565672
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017065147
(87)【国際公開番号】W WO2017220619
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】16175446.0
(32)【優先日】2016-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506260386
【氏名又は名称】ノベル バイオケア サーヴィシィズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】キュステルマンス, ジョハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン リームプット, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウッターズ, ヴェルル
(72)【発明者】
【氏名】モルマンズ, ウッター
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-529451(JP,A)
【文献】特表2002-526154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0179281(US,A1)
【文献】Bayes Reconstruction of Missing Teeth,JOURNAL OF MATHEMATICAL IMAGING AND VISION,vol.31,2008年05月08日,第245-254ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/70
A61C 7/00
A61C 13/00-13/36
A61C 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的な歯欠損の患者のための歯科修復物の形状、位置及び向きを推定するコンピュータ支援方法であって、
-前記形状、位置及び向きの推定が必要である、歯科修復物を必要とする1本以上の歯を示し、かつ推定に利用可能である残りの歯(複数可)を示すこと、
-前記歯科修復物を必要とする前記1本以上の歯に対応する歯、ならびに前記選択された残りの歯(複数可)に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓または歯列弓のセグメントに位置付けられる個々の歯の分離された表面メッシュを含む、
-前記選択された残りの歯(複数可)及び前記歯科修復物を必要とする前記1本以上の歯の領域を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること、
-前記仮想の歯のセットアップを前記患者の前記口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列または所与の歯列のセグメントについて、個々の歯の前記形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び隣接する歯の位置及び向きの間の関係を記述する統計モデルを使用して、前記患者の前記口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュにおける前記選択された1本以上の残りの歯のうちの1本以上に、前記仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルを使用して適合させた前記仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記最適化されたエネルギー関数から得られた前記適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記歯科修復物の前記形状、位置及び向きを推定すること
を含む方法。
【請求項2】
咬合接点を定義し、前記適合させた仮想の歯のセットアップの前記歯の前記形状を変形させることによって、前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける歯の対合歯の歯冠の前記形状を考慮して前記定義された接点で所望の咬合接触を得るようにする後処理ステップを含む、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
ライブラリからの歯冠を前記適合させた仮想の歯のセットアップの歯に嵌合させることを含む、請求項1、2のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項4】
前記歯科修復物の前記推定された形状、位置及び向きをエクスポートするステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項5】
患者のデジタル化された口腔内表面からの1本以上の歯の形状、位置及び向きを推定するためのコンピュータに基づく方法であって、
-前記推定を必要とする前記1本以上の歯を示すこと、
-前記推定を必要とする前記1本以上の歯に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓または歯列弓のセグメントに配置された個々の歯の分離された表面メッシュを備える、
-前記推定を必要とする前記1本以上の示された歯を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること、
-前記仮想の歯のセットアップを前記患者の前記口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列または所与の歯列のセグメントについて、個々の歯の前記形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び隣接する歯の位置及び向きの間の関係を記述する統計モデルを使用して、前記患者の前記口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュにおける前記1本以上の示された歯に、前記仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルを使用して適合させた前記仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記最適化されたエネルギー関数から得られた前記適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記少なくとも1本の歯の前記形状、位置及び向きを推定すること
を含む方法。
【請求項6】
前記適合させた仮想の歯のセットアップが、前記患者の前記口腔内領域を表すデジタル化された表面メッシュを提供し、前記1本以上の歯が個々の歯の分離された表面メッシュとして利用可能である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法がデジタル歯列矯正計画方法の一部である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
最大重複点を反復的に検出し、前記重複を除去するために前記歯の形状を修正することによって、前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける隣接する歯が互いに重複しないようにする後処理ステップを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項9】
前記第1の尺度は、前記仮想の歯のセットアップの対応する目印と前記患者の前記口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュの対応する目印の間の距離を示す目印項を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項10】
前記第1の尺度が、前記仮想の歯のセットアップの点に対して、前記患者の前記口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュまでの距離を示す表面項を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項11】
前記エネルギー関数が、隣接する歯の接点の集合間の距離の尺度を提供する接点項を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項12】
前記エネルギー関数が、2本の対側歯の前記形状、位置及び/または向きの対称性の尺度を与える対称形状、位置及び/または向きの項を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項13】
前記エネルギー関数は、前記適合させた仮想の歯のセットアップの歯の所定の目印の前記位置間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れる、請求項1~12のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項14】
前記エネルギー関数は、前記適合させた仮想の歯のセットアップの歯の、間にある所定の目印の距離の間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れる、請求項1~13のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項15】
前記統計モデルは、訓練段階を使用して得られ、
-異なるほぼ理想的な歯のセットアップのデジタル表面メッシュを含む多数の仮想の歯のセットアップを提供し、前記個々の歯は分離された表面メッシュとして利用可能であること、
-前記多数の仮想の歯のセットアップから平均的な仮想の歯のセットアップを計算すること、
-前記多数の仮想の歯のセットアップから、少なくとも個々の歯の前記形状の確率分布、隣接する歯の形状間の前記関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を計算すること
を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項16】
前記仮想の歯のセットアップは、歯科的鋳造または印象のスキャン、または理想に近い歯のセットアップを有する個体から得られた口腔内スキャンの表面メッシュから前記個々の歯の表面を抽出することによって得られる、請求項15に記載の推定方法。
【請求項17】
前記エネルギー関数の前記第2の尺度が、前記個々の歯の前記形状、前記隣接する歯の前記形状間の前記関係、及び前記隣接する歯の前記位置及び/または向きの間の前記関係に各々対応する3つの別々の項からなる、請求項1~16のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項18】
前記エネルギー関数を適用することは、前記第1の尺度及び前記第2の尺度の前記1本以上の残りの歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素に対する最適化を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項19】
前記エネルギー関数を適用することが、前記第2の尺度の前記歯科修復物の前記形状、位置及び向きに対する最適化を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、補綴物を嵌め込ませる計画または歯列矯正計画での仮想の歯のセットアップを判定するための方法の分野に関する。本発明はまた、口腔内表面スキャンをセグメント化するための方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
欠損または腐敗した歯の補綴修復は、歯が人の社会的相互作用及び健康に大きな影響を及ぼすので、生活の質に大きく影響を及ぼす。これは、食物の消化、発声、下側顔面の形状の維持など、歯の重要な機能に起因する。歯の補綴修復のために日常的に使用され、信頼性が高く確立された技術は、歯科インプラントに基づいている。歯科インプラントに基づく処置は、患者の不快感を最小限に抑え、処置時間を短縮しながらも、機能的及び審美的な結果を目標とする。歯科インプラントの慎重かつ詳細な計画は、計画を手術室で実行に移すための適切な器具と同様に、処置全体の成功のための重要な要素である。このような計画のためには、3Dの医用画像に基づくことの多い患者の解剖学的構造の正確な評価が必要である。このタスク対象の様々なソフトウェアシステムが存在する。これらにより、医師は、歯科インプラント処置の画像ガイドデジタル計画を策定することが可能となる。
【0003】
インプラントの計画的処置における本質的な概念は、診断的な歯のセットアップである。歯のセットアップは、患者の解剖学的状況と同様の設定で、典型的には石膏モデル上に配置された歯の集合である。診断的な歯のセットアップには、補綴手段によって修復されるべき歯の設計された歯冠が含まれる。これは、補綴の処置の結果を予期するための重要な器具であり、結果に到達するために必要な手段に入力を提供することができる。さらに、これにより、補綴の処置の既存の可能性及び限界を認識することが可能になる。補綴手段によって修復される歯は、機能的要件ならびに審美的要件の両方に関して理想的な方法で配置及び成形される。最も重要な機能的要件は、歯の機能的な位置付け及び適切な解剖学的設計、ならびに正しい咬合の生起である。審美的要件は、現存の歯と補綴手段によって修復された歯とを区別することができないようにするという目的を果たす。最も重要な審美的要件は、残りの現存の歯に類似したタイプと特性の、自然の見た目のエマージェンスプロファイルと自然の見た目の乳頭の現実的な位置付けとモデリングである。これらの審美的要件は、顔面組織の動的挙動、例えば笑顔によって強化することができる。
【0004】
歯科技工所へのコンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造(CAD/CAM)の出現により、歯科技工士の相当量の作業は、手作業からデジタル処理にシフトされている。同様に、石膏モデル上で手作業で彫られる診断的な歯のセットアップの使用は、表面をスキャンした石膏モデルを用いたデジタル設計された歯のセットアップに置き換えられている。デジタル設計された歯のセットアップは、費用と時間の両方の観点から効果的である。得られた設計は、3次元表面モデルとしてエクスポートし、試作または最終的な修復物として機能するようにミリングまたはプリントすることができる。
【0005】
対象の具体的な手作業のステップは、石膏の歯科用鋳型における異なる歯の分離である。このステップは、デジタル設定でも不可欠である。したがって、歯科技工士は、患者のデジタル化された口腔内表面の異なる歯を分離することができるはずである。患者の口腔内デジタル表面の分離は、一般にセグメンテーションと呼ばれる。一般に、表面セグメンテーションの目的は、表面をいくつかの意味のある分離した領域に分割し、それによって対象の解剖学的構造を描写することである。手動のセグメンテーション方法は非常に時間を要し、顕著な演算子間及び演算子内の変動ならびに使用者の疲労に苛まれることがあるため、自動化または半自動化された表面セグメンテーションアルゴリズムが強く求められている。したがって、(半)自動表面セグメンテーションアルゴリズムは、歯科技工士に、大きなセットの適用を容易にするために不可欠な手段を提供することができる。文献では、デジタル歯科用表面のための様々な(半)自動セグメンテーションアルゴリズムを提示する複数の刊行物がすでに存在している。一例に「A medial point cloud based algorithm for dental cast segmentation」。(Kustra et al.,Proc.Int’l Conf. on Consumer Electronics (ICCE), pp.331-334, 2014)がある。従来技術の刊行物に提示されている方法はすべて、患者の口腔内デジタル表面を直接利用する。
【0006】
歯科インプラント計画ソフトウェアシステムの大部分により、臨床医がこの診断的な歯のセットアップを計画ソフトウェアにインポートすることが可能になる。この場合、診断的な歯のセットアップは、真に双方向の(または患者主導の)計画を可能にするので、処置の計画段階中に臨床医に必須の入力を提供する。双方向の計画は、インプラント計画段階における患者の詳細な補綴物の情報と解剖学的構造の情報の統合を示す。
【0007】
この説明では、「仮想の理想的な歯のセットアップ」という用語が、「デジタルの診断的な歯のセットアップ」という用語の代わりに使用されている。これにより、提示されたアルゴリズムの結果と歯科技工士によって作成された歯のセットアップとを区別することが可能になる。さらに、仮想の理想的な歯のセットアップという用語は、患者の残りの歯が同様に解決策に含まれるので、より広い意味を有する。
【0008】
文献には、いくつかの関連する手法が提示されてきた。論文「Bayes reconstruction of missing teeth(J. Sporring et al.,J.Math.Imaging Vis.31(2-3), pp.245-254, 2008) 」では、柔軟性の高い統計的形状モデルが適用されている。論文では、セットの所定の目印と欠損データの問題の手法を用いて、残りの形状や隣接する歯冠の形状に基づいて、腐敗した歯冠の表面を再構成する方法を提示している。しかし、この手法を有効にするには、使用者が、患者の口腔内領域の表面表現上に、モデルを適合させるために使用される重要な数の解剖学的目印を示すことが必要となる。
【0009】
WO2008/128700という出願には、歯のセットアップの自動または半自動の計画方法が記載されている。その方法は、処置すべき歯の領域のデータならびにそれぞれの患者の顔のデータを利用する。顔の特性に基づいた規則のセットと現存の歯を利用して、初期の歯のセットアップを修正することができる。提案された方法では、少なくとも1つの顔の画像が必要である。さらに、所定の規則は個人的なものであり、一般的に適用可能ではない(例えば、患者の起源による)可能性がある。
【0010】
US2013/282351では、スキャンデータ及びモデルのデータベースに基づいて仮想の歯の修復物を判定する方法が記載されている。モデルのデータベースには、各々の歯のタイプに対するいくつかのパラメータ化された歯のモデルが含まれている。モデルのデータベースを目下の具体的な事例に反復的に適合させることによって、仮想の歯の修復物が得られる。精密なモデルのデータベースが必要なため、この方法は計算上の観点からの要求がいっそう多い。
【0011】
推定された補綴の歯冠修復物の形状及びポーズは最適ではなく、使用者による(重要な)さらなる手作業の精緻化が必要となる。したがって、使用者に1つ以上の補綴の歯冠修復物を提供するための方法/アルゴリズムが必要であり、それにより、さらなる精緻化の必要性が減少し、これらの補綴修復物をインプラント計画及び/または暫定修復物として直接使用できるようにする。
【発明の概要】
【0012】
本発明の実施形態の目的は、少なくとも部分的な歯欠損の患者の歯科修復を行うのに必要な1つ以上の情報を推定するための手法を提供することである。本発明の別の目的は、歯科修復物の製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、歯科修復物の配置方法を提供することである。また、本発明の目的は、少なくとも部分的な歯欠損の患者のためのデジタル化された口腔内表面から少なくとも1本の歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定する方法を提供することである。
【0013】
上記の目的は、本発明の解決策によって達成される。
【0014】
本発明は、患者の1本以上の現存の歯、または部分的な歯欠損の患者において1本以上の欠損歯を換えることを意図した歯科修復物に含まれるべき1本以上の歯の形状、位置及び/または向きの推定を得る方法に関する。この方法は、好ましくは、表面メッシュ表示を含む3D画像情報、ならびにとりわけX線データ、CTスキャンデータ、及びMRIデータなどのデジタル医用画像情報を含むことが好ましい、画像情報を受信して処理するように備えられたコンピューティングユニットの使用を含むことが好ましい。前記コンピューティングユニットは、入力装置及びディスプレイに動作可能に接続されることがさらに好ましい。典型的には、この方法は、要求された使用者の入力を受信し、前記方法によって使用または生成された画像情報を含む任意の情報を提示するためのユーザインタフェースの使用を含む。
【0015】
要するに、本発明の方法は、患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュに仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓またはそのセグメントに配置される個々の歯の分離した表面メッシュを含む。好ましくは、前記仮想の歯のセットアップは、いわゆる「平均的な仮想の歯のセットアップ」であり、多数の口腔内表面をデジタル化し、個々の歯の表面メッシュを前記デジタル化された表面から分離する一方で、歯列弓内のそれぞれの形状、位置及び向きを維持することによって得られる、多数の仮想の歯のセットアップにおける歯の計算された平均的な形状、位置及び/または向きに基づくものである。
【0016】
本発明の方法が、前記歯科修復物に含まれる歯(複数可)の形状、位置及び/または向きを推定するために使用される場合、患者の前記デジタル化された口腔内領域は、少なくとも1つの残りの歯の隣に欠損歯の領域を含むべきであり、これは患者の口腔内の状況に仮想の歯のセットアップを適合させるために本発明の適合化アルゴリズムにより使用することができる。適合化アルゴリズムは、最終的に、患者の口腔内状況に適合し、理想的なまたは「自然な」歯のセットアップに近づく適合させた仮想の歯のセットアップを提供する。歯科修復物に含まれる歯(複数可)の形状、位置及び/または向きは、その後、患者の欠損歯に相応する前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける歯(複数可)の形状、位置及び/または向きに基づいて推定することができる。典型的には、本発明の方法は、医師が本発明の方法によって提案された推定値を視察することを可能にする、患者の口腔内状況の表面表現に適合させた仮想の歯のセットアップの歯を表示することを含む。患者の口腔内状況の表面表現におけるそのような視覚的表現は、NobelClinician(商標)などの画像ガイドデジタル計画システムを使用して、患者の顎の歯科インプラントの位置及び向きを仮想的に計画する場合に特に有用である。実際、最終的な修復物の歯(複数可)の形状、位置及び向きに関するこの視覚情報は、医師が最適な臨床的及び審美的結果を考慮してインプラントの位置及び向きを計画しながらこの情報を考慮することを可能にする。
【0017】
この方法を使用して1本以上の現存の歯の形状、位置及び/または向きを推定する場合、患者の前記デジタル化された口腔内領域は、このような推定が必要な歯を少なくとも含むべきであるが、前記領域における患者の追加の歯の存在も、適合化アルゴリズムによって使用され、推定の精度に寄与し得る。適合化アルゴリズムは、最終的に、患者の1本以上の現存の歯に適合する、適合させた仮想の歯のセットアップを提供する。前記1本以上の患者の現存の歯のそれぞれの形状、位置及び/または向きは、その後、前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける対応する歯のそれぞれの形状、位置及び/または向きに基づいて推定することができる。興味深いことに、前記適合させた仮想の歯のセットアップは、個々の歯の分離された表面メッシュを含む。結果として、前記仮想の歯のセットアップはまた、個々の歯の位置及び向きを仮想的に操作することを可能にする、歯がセグメント化された、患者の口腔内状況の表現を提供する。このように、本発明による方法は、歯列矯正介入の計画において貴重な手段を提供する。
【0018】
第1の主な態様において、本発明は、患者の口腔内表面のデジタル化された表現を使用して、部分的な歯欠損の患者のための歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定するコンピュータ支援方法を提供する。典型的には、本発明の方法は、前記歯科修復物の少なくとも1本の歯の位置、向き及び/または形状の推定を含む。この方法は、概して以下のステップを含む:
-前記少なくとも1つの要素の推定が必要である、歯科修復物を必要とする1本以上の歯を示し、残りの歯(複数可)が推定に利用可能であることを示すこと。典型的には、使用者は、患者の歯列に対応する歯列表に従って歯の解剖学的名称または歯の位置を入力することによって、歯科修復物を必要とする前記歯及び前記残りの歯を示すことができる。特定の実施形態では、歯科表の表現における対応する歯を選択することによって、使用者が前記歯を示すことを可能にするユーザインタフェースが提供される。
-前記歯科修復物を必要とする1本以上の歯に対応する歯、ならびに選択された残りの歯(複数可)に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓またはそのセグメントに位置付けられる個々の歯の分離された表面メッシュを含む。好ましくは、前記仮想の歯のセットアップは、患者の歯列と同じ歯列に対応する。前記仮想の歯のセットアップは、いわゆる「平均的な仮想の歯のセットアップ」であり、多数の口腔内表面をデジタル化し、個々の歯の表面メッシュを前記デジタル化された表面から分離する一方で、歯列弓内の形状、位置及び向きを維持することによって得られる、多数の仮想の歯のセットアップにおける歯の計算された平均的な形状、位置及び向きに基づくものであることがさらに好ましい。好ましくは、前記多数のデジタル化された口腔内表面は、支配的な歯の洞察という点から理想に近い歯のセットアップを有すると考えられる個々人から得られる。
-前記選択された残りの歯(複数可)及び前記歯科修復物を必要とする1本以上の歯の領域を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること。典型的には、患者の口腔内領域のこのようなデジタル化された表面メッシュは、患者の歯及び軟部組織の歯科印象をスキャンすることによって、またはそのような印象の鋳型をスキャンすることによって得られる。あるいは、前記デジタル化された表面メッシュは、患者の口腔内のCTスキャンデータから、またはより好ましくは、口腔内スキャナを使用して前記口腔内領域をスキャンすることなどにより、医用画像データから導出される。
-任意で、患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュを前記仮想の歯のセットアップとアラインメントさせること。前記デジタル化された表面メッシュを前記仮想の歯のセットアップとアラインメントさせることは、前記デジタル化された表面メッシュの少なくとも1本の歯、好ましくは少なくとも2本の歯、より好ましくは少なくとも3本の歯の1つ以上の目印を、仮想の歯のセットアップの対応する歯(複数可)の1つ以上の対応する目印に整合させることを含むことが好ましい。そのような目印の整合化を可能にするために、使用者が、デジタル化された表面メッシュの1本以上の歯に、そうした1つ以上の目印を示すことが好ましく、その場合において前記目印は仮想の歯のセットアップの所定の目印に対応している。特定の実施形態では、前記1つの目印は、上側の歯冠表面の中間点である。
-前記仮想の歯のセットアップを患者の口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列またはそのセグメントについて、少なくとも個々の歯の形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を記述する統計モデルを与えられた前記患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュの前記選択された1本以上の残りの歯のうちの1本以上に仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記適合させた仮想の歯のセットアップとの間の適合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記適合させた仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む。典型的には、前記エネルギー関数を最適化することは反復的なプロセスであり、前記エネルギー関数が、前記患者の理想的な歯のセットアップに近似する、前記最適化されたエネルギー関数から得られる適合させた仮想の歯のセットアップを得るために、中間的な仮想の歯のセットアップに繰り返し適用される。最適化プロセスは、その後の反復間の変化が所定の閾値、好ましくは使用者設定閾値を下回るまで継続できる。あるいは、最適化プロセスを最大反復回数に達するまで継続させることができ、好ましくはこの回数は使用者によって設定される。特定の実施形態では、最適化は、その後の反復間の変化が所与の閾値、好ましくは使用者設定閾値を下回るまで、または好ましくは使用者が最大値を設定する最大反復回数に達するまで継続する。いずれが最初であってもよい。この手法は、アルゴリズムの実行時間を同時に制御しながら、ほとんどの場合にほぼ理想的な解を得ることを可能にする。
-前記最適化されたエネルギー関数から得られた適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記歯科修復物の前記形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること。典型的には、推定を必要とする歯科修復物の歯(複数可)の位置、向き及び/または形状は、適合させた仮想の歯のセットアップの対応する歯(複数可)の位置、向き及び/または形状から推定される。
【0019】
提案された解決策は、実際に、歯科修復物の形状、位置もしくは向き、またはそれらの組み合わせの推定を得ることを可能にする。より詳細には、本方法は、このような修復物において個々の歯のそれぞれの形状、位置及び/または向きのそのような推定を提供することを可能にする。これらの推定は、典型的には、前記最適化されたエネルギー関数から得られる前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける対応する歯(複数可)のそれぞれの形状、位置及び/または向きに基づく。本方法の第1のステップで上述したように、使用者は、形状及び/または位置及び/または向きの推定を必要とする1本以上の歯、ならびに推定を実行するために使用され得る1本以上の残りの歯を示す。典型的には、形状及び/または位置及び/または向きの推定を必要とする前記歯は、前記修復物によって置き換えられる患者の1本以上の欠損歯に対応する。本方法は、エネルギー関数が定式化されたエネルギーベースの手法を採用し、これは、前記選択された残りの歯(複数可)を含む前記患者の口腔内領域及び前記歯科修復物を必要とする1本以上の歯の領域のデジタル化された表面メッシュにより提供されるとき、患者の口腔内の状況を考慮した所与の仮想の歯のセットアップの質の尺度として機能する。エネルギー関数は、目下の具体的な事例、すなわち、患者の口腔内の状況の前記デジタル化された表面メッシュにおいて提供されるときに、示された残りの歯(複数可)に仮想の歯のセットアップを適合させるように適用及び最適化される。エネルギー尺度は、患者の解剖学的構造と仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す尺度と、上述のようにモデルを与えられた仮想の歯のセットアップの確率を説明する尺度とを少なくとも含む。本発明による仮想の歯のセットアップのアルゴリズムは、臨床医が半自動的に歯科修復物を設計することを可能にする。歯科修復物は、補綴の歯冠、ブリッジまたは義歯であってもよい。
【0020】
歯科修復物に含まれる歯(複数可)の形状、位置及び/または向きは、その後、患者の欠損歯に相応する前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける歯(複数可)の形状、位置及び/または向きに基づいて推定することができる。典型的には、本発明の方法は、医師が本発明の方法によって提案された推定値を視察することを可能にする、患者の口腔内状況の表面表現に、適合させた仮想の歯のセットアップの歯を表示することを含む。好ましい実施形態では、仮想の歯のセットアップの歯は、好ましくは患者の口腔内状況の表面表現に関連して、並進ベクトル、回転行列、及び前記歯の形状を表す多角形表面メッシュのうちの少なくとも1つによって表される。効果的なことに、3つすべてが表現に使用される。そうすることにより、そのように表された歯の柔軟性及び適合性が改善される。実際には、表された歯の位置、向きまたは形状を使用者が変更することを可能にするユーザインタフェース内の歯のこのような表示は、臨床医が、例えばインプラントに関連する制約を考慮して、または患者の個人的な審美的な好みに起因して、提案された解に些細な修正を導入することを可能にする。そのような修正は、その後、顎顔面の介入の計画における後の使用のために、または最終的な歯科修復物の設計及び/または製造のために格納することができる。
【0021】
エネルギー関数の第1の尺度は、典型的には、仮想の歯のセットアップの対応する目印と患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュの対応する目印の間の距離を示す目印項を含む。あるいは、前記第1の尺度は、前記仮想の歯のセットアップの点に対して、患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュまでの距離を示す表面項を含む。一実施形態では、表面項は診断的な歯のセットアップに由来する。好都合なことに、エネルギー関数の前記第1の尺度は、目印項と表面項の両方を含む。
【0022】
エネルギー関数の第2の尺度は、典型的には、統計モデルの3つの可能な構成部分の各々に1つずつある3つの別個の項から構成され、前記項はそれぞれ、個々の歯の形状に関する確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を考慮する。
【0023】
エネルギー関数は、隣接する歯の接点の集合間の距離の尺度を提供する接点項をさらに含むことができる。
【0024】
特定の実施形態では、エネルギー関数は、2本の対側歯の位置及び/または向きの対称尺度を与える対称ポーズ項も含む。エネルギー関数は、2本の対側歯の形状の対称尺度を与える対称形状項をさらに含むことができる。
【0025】
好都合なことに、エネルギー関数は、前記仮想の歯のセットアップ、好ましくは適合させた仮想の歯のセットアップの歯における所定の目印の位置の間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れている。好都合なことに、エネルギー関数は、前記仮想の歯のセットアップ、好ましくは適合させた仮想の歯のセットアップの歯の、間にある所定の目印の距離の間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れている。
【0026】
歯科修復物の設計において考慮すべき重要な要素は、修復物と対合歯との間の咬合であるが、これを考慮すると、エネルギー関数が対合歯表面との歯の重複にペナルティを課す対合歯重複項も備えるときに効果的である。
【0027】
別の実施形態では、この方法は、最大重複点を反復的に検出すること、及び前記重複を除去するために前記重複する歯の形状を修正することによって、隣接する歯が互いに重複するのを防止する第1の後処理ステップを含む。
【0028】
別の実施形態では、本方法は、咬合接点を定義し、前記歯の形状を変形させて前記定義された接点で所望の咬合接触を得ることによって、前記適合させた仮想の歯のセットアップにおける歯の対合歯の歯冠の形状を考慮する第2の後処理ステップを含む。
【0029】
別の実施形態では、本方法は、ライブラリからの1つ以上の対応する歯冠を、適合化された仮想の歯のセットアップの1本以上の歯に適合させることを含む。歯科修復物に含まれる歯に対応する、適合させた仮想の歯のセットアップの歯にこのようなライブラリの歯を適合させることは、個々の歯の形状を記述する統計モデルによってそれらが捉えられていないときに最適化手順において失われた可能性がある特定の解剖学的な歯の細部を取り戻すことを可能にするという点で効果的である。
【0030】
一実施形態では、推定方法は、形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素の得られた推定に基づいて、歯科インプラントに基づく処置を計画するステップを含む。
【0031】
好都合なことに、本方法は、歯科修復物の推定された少なくとも1つの要素をエクスポートすることを含む。この方法は次いで、好ましくは、歯科修復物のエクスポートされた推定された少なくとも1つの要素に基づいて、歯科修復物またはその一部を生成するステップを含む。
【0032】
別の態様では、本発明は、歯科修復を実行する方法であって、形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素の推定が使用され、前述の方法から得られる方法に関する。
【0033】
別の態様では、本発明は、実行されるとき前述の方法を実行する命令を含むプログラム可能なデバイスで実行可能なプログラムに関する。
【0034】
別の態様では、本発明は、歯科修復物を製造する方法であって、上記の方法を用いて歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定すること、及び推定された少なくとも1つの要素を使用して歯科修復物を製造することを含む方法に関する。別の態様では、本発明は、この方法で製造された歯科修復物に関する。
【0035】
別の態様では、本発明は、歯科修復物を配置する方法であって、前記歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を上述の方法で推定すること、及び推定された少なくとも1つの要素を使用して歯科修復物を配置することを含む方法に関する。
【0036】
第2の主な態様において、本発明は、患者のデジタル化された口腔内表面からの1本以上の歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定するコンピュータベースの方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む。
-前記推定を必要とする前記1本以上の歯を示す使用者入力を受信すること。典型的には、使用者は、患者の歯列に対応する歯列表に従って歯の解剖学的名称または歯の位置を入力することによって、前記歯を示すことができる。特定の実施形態では、歯科表の表現における対応する歯を選択することによって、使用者が前記歯を示すことを可能にするユーザインタフェースが提供される。
-前記推定を必要とする前記1本以上の歯に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓またはそのセグメントに配置された個々の歯の分離された表面メッシュを備える。好ましくは、前記仮想の歯のセットアップは、患者の歯列と同じ歯列に対応する。前記仮想の歯のセットアップは、いわゆる「平均的な仮想の歯のセットアップ」であり、多数の口腔内表面をデジタル化し、個々の歯の表面メッシュを前記デジタル化された表面から分離する一方で、歯列弓内の形状、位置及び向きを維持することによって得られる、多数の仮想の歯のセットアップにおける歯の計算された平均的な形状、位置及び向きに基づくものであることがさらに好ましい。好ましくは、前記多数のデジタル化された口腔内表面は、支配的な歯の洞察という点から理想に近い歯のセットアップを有すると考えられる個々人から得られる。
-前記推定を必要とする前記1本以上の示された歯を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること。典型的には、患者の口腔内領域のこのようなデジタル化された表面メッシュは、患者の歯及び軟部組織の歯科印象をスキャンすることによって、またはそのような印象の鋳型をスキャンすることによって得られる。あるいは、前記デジタル化された表面メッシュは、患者の口腔内のCTスキャンデータから、またはより好ましくは、口腔内スキャナを使用して前記口腔内領域をスキャンすることなどにより、医用画像データから導出される。
-任意で、患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュを前記仮想の歯のセットアップとアラインメントさせること。前記デジタル化された表面メッシュを前記仮想の歯のセットアップとアラインメントさせることは、前記デジタル化された表面メッシュの少なくとも1本の歯、好ましくは少なくとも2本の歯、より好ましくは少なくとも3本の歯の1つ以上の目印を、仮想の歯のセットアップの対応する歯(複数可)の対応する1つ以上の目印に整合させることを含むことが好ましい。そのような目印の整合化を可能にするために、使用者が、デジタル化された表面メッシュの1本以上の歯のそうした1つ以上の目印を示すことが好ましく、その場合において前記目印は仮想の歯のセットアップの所定の目印に対応している。特定の実施形態では、前記1つの目印は、上側の歯冠表面の中間点である。
-前記仮想の歯のセットアップを患者の口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列またはそのセグメントについて、少なくとも個々の歯の形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を記述する統計モデルを与えられた前記患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュの前記1本以上の示された歯に仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記適合させた仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む。典型的には、前記エネルギー関数を最適化することは反復的なプロセスであり、前記エネルギー関数が、前記患者の理想的な歯のセットアップに近似する、前記最適化されたエネルギー関数から得られる適合させた仮想の歯のセットアップを得るために、中間的な仮想の歯のセットアップに繰り返し適用される。最適化プロセスは、その後の反復間の変化が所定の閾値、好ましくは使用者設定閾値を下回るまで継続できる。あるいは、最適化プロセスを最大反復回数に達するまで継続させることができ、好ましくはこの回数は使用者によって設定される。特定の実施形態では、最適化は、その後の反復間の変化が所与の閾値、好ましくは使用者設定閾値を下回るまで、または好ましくは使用者が最大値を設定する最大反復回数に達するまで継続する。いずれが最初であってもよい。この手法は、アルゴリズムの実行時間を同時に制御しながら、ほとんどの場合にほぼ理想的な解を得ることを可能にする。
-前記最適化されたエネルギー関数による前記適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記少なくとも1本の歯の前記形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること。典型的には、推定を必要とする前記歯(複数可)の位置、向き及び/または形状は、適合させた仮想の歯のセットアップの対応する歯(複数可)の位置、向き及び/または形状から推定される。
【0037】
提案されたアプローチは、患者のデジタル化された口腔内状況に適合する仮想の歯のセットアップとも呼ばれる、個々の歯を備えるテンプレートの歯列弓を利用する。結果として、得られた適合させた仮想の歯のセットアップは、患者の口腔内領域を表すデジタル化された表面メッシュを提供し、前記1本以上の歯は、個々の歯の分離されたまたはセグメント化された表面メッシュとして利用可能である。これには多くの利点がある。第1に、完全な歯冠の情報は利用可能であるが、従来技術の方法によって得られたセグメンテーションの結果は、隙間のレベルで情報が欠如している。これらの従来技術の方法のいくつかは、別個のステップで隙間の歯冠の形状を推定しようと試みている。しかし、本発明による手法は、単一ステップで隙間の形状を推定することができる。さらに、提案された技術の性質上、この推定は、歯冠の大規模な訓練データセットから得られた知識に基づいている。第2に、本発明は、デジタル化技法、例えば孔、交差などに起因するデジタル口腔内表面スキャンに存在するアーティファクトに対してロバストである。第3に、この方法は、前記適合させた仮想の歯のセットアップの各々の歯に形状、位置及び向きを提供することができ、これはさらなる用途、例えば歯科矯正に非常に有用であり得る。仮想の歯のセットアップは、歯がセグメント化された患者の口腔内状況またはその一部の表現を提供し、個々の歯の位置及び向きを仮想的に操作することを可能にする。このように、この方法は歯列矯正介入の計画における貴重な手段を提供する。
【0038】
この第2の主な態様による方法で使用されるエネルギー関数の第1の尺度は、典型的には、仮想の歯のセットアップと患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュの対応する目印の間の距離を示す目印項を含む。あるいは、前記第1の尺度は、前記仮想の歯のセットアップの点に対して、患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュまでの距離を示す表面項を含む。一実施形態では、表面項は診断的な歯のセットアップに由来する。好都合なことに、エネルギー関数の前記第1の尺度は、目印項と表面項の両方を含む。
【0039】
この第2の主な態様による方法で使用されるエネルギー関数の第2の尺度は、典型的には、統計モデルの3つの可能な構成部分の各々に1つずつある3つの別個の項から構成され、前記項はそれぞれ、個々の歯の形状に関する確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を考慮する。
【0040】
エネルギー関数は、隣接する歯の接点の集合間の距離の尺度を提供する接点項をさらに含むことができる。
【0041】
この第2の主な態様による方法の特定の実施形態では、エネルギー関数は、2本の対側歯の位置及び/または向きの対称尺度を与える対称ポーズ項も含む。エネルギー関数は、2本の対側歯の形状の対称尺度を与える対称形状項をさらに含むことができる。
【0042】
好都合なことに、この第2の主な態様による方法で使用されるエネルギー関数は、前記仮想の歯のセットアップ、好ましくは適合させた仮想の歯のセットアップの歯における所定の目印の位置の間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れている。好都合なことに、エネルギー関数は、前記仮想の歯のセットアップ、好ましくは適合させた仮想の歯のセットアップの歯の、間にある所定の目印の距離の間の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れている。
【0043】
別の実施形態では、この第2の主要な態様による方法は、最大重複点を反復的に検出すること、及び前記重複する歯の形状を修正して前記重複を除去することによって、隣接する歯が互いに重複するのを防ぐようにする第1の後処理ステップを含む。
【0044】
本発明の第1及び第2の態様の方法において使用される統計モデルは、典型的には、訓練段階を実行することによって構築される。前記訓練段階は、好ましくは、以下のステップを含む。
-それぞれが好ましくはほぼ理想的な歯のセットアップを有する、異なる個人から得られた歯のセットアップのデジタル表面メッシュの集合に対応する多数の仮想の歯のセットアップを提供すること。前記仮想の歯のセットアップにおいて、個々の歯は、分離された表面メッシュとして利用可能であることがさらに好ましい。
-前記多数の仮想の歯のセットアップから平均的な仮想の歯のセットアップを計算すること。好ましくは、前記仮想の歯のセットアップは、前記平均的なセットアップの計算に先立って同じ基準フレームにアラインメントされる。
-前記多数の仮想の歯のセットアップから、少なくとも個々の歯の形状の確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を計算すること。
【0045】
訓練段階で使用される前記多数の仮想の歯のセットアップは、通常、第1ステップで、同じ歯列を共有する異なる個人の歯及び軟組織の歯科印象をスキャンすることによって、またはそのような印象の鋳型をスキャンすることによって得られる。あるいは、前記多数の仮想の歯のセットアップは、異なる個人の口腔のCTスキャンデータにより、またはより好ましくは、口腔内スキャナを使用して歯列弓をスキャンすることなどにより、医用画像データから導出される。好ましくは、前記個人は、支配的な歯の洞察に従ってほぼ理想的な歯のセットアップを有すると考えられる。その後、個々の歯表面は、異なる、好ましくはほぼ理想的な歯のセットアップの前記多数のデジタル表面メッシュを得るために、取得された表面表現からセグメント化され、個々の歯は分離された表面メッシュとして利用可能である。好ましくは、最後のステップにおいて、前記デジタル表面メッシュにおける隙間が検査され、必要であれば、前記隙間レベルで完成する。
【0046】
本発明の第1及び第2の主な態様による前記方法は、直線探索法を用いたエネルギー関数の最適化を含むことがさらに好ましい。
【0047】
本発明のさらなる態様は、以下の事項に関する。
A.少なくとも部分的な歯欠損の患者の歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定する方法であって、
-前記歯科修復物の前記少なくとも1つの要素の推定を必要とする歯(複数可)を選択し、推定に利用可能な残りの歯(複数可)を選択すること、
-前記仮想の歯のセットアップの個々の歯の形状、前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の形状間の関係、及び/または前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係の少なくとも1つを記述する統計モデルを与えられた前記患者の前記選択された1本以上の残りの歯のうちの1本以上に、前記仮想の歯のセットアップを適合させるために、前記1本以上の残りの歯及び前記歯科修復物を必要とする少なくとも1本の歯を含む仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用すること、但し前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記エネルギー関数から得られる前記歯科修復物の前記形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること
を含む方法。
特に、本発明のこの項目Aは、部分的な歯欠損の患者のための歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定するコンピュータ支援方法に関し、この方法は、
-前記少なくとも1つの要素の推定が必要である、歯科修復物を必要とする1本以上の歯を示し、残りの歯(複数可)が推定に利用可能であることを示すこと、
-前記歯科修復物を必要とする1本以上の歯に対応する歯、ならびに選択された残りの歯(複数可)に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップが、歯列弓またはそのセグメントに位置付けられる個々の歯の分離された表面メッシュを含む、
-前記選択された残りの歯(複数可)及び前記歯科修復物を必要とする1本以上の歯の領域を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること、
-前記仮想の歯のセットアップを患者の口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列またはそのセグメントについて、少なくとも個々の歯の形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を記述する統計モデルを与えられた前記患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュの前記選択された1本以上の残りの歯のうちの1つ以上に仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記適合させた仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記適合させた仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記最適化されたエネルギー関数から得られた適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記歯科修復物の前記形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること
を含む。
B.前記エネルギー関数の前記第2の尺度が、前記個々の歯の前記形状、前記隣接する歯の前記形状の前記関係、及び前記隣接する歯の前記位置及び/または向きの前記関係に各々対応する3つの別々の項から構成される、Aのような推定方法。
C.前記仮想の歯のセットアップの各々に状態が割り当てられ、前記状態がアクティブ、パッシブまたはアイドルである、AまたはBのような推定方法。
D.最大重複点を反復的に検出し、前記重複を除去するために前記歯の形状を修正することによって、隣接する歯が互いに重複しないようにする後処理ステップを含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
E.咬合接点を定義し、前記歯の形状を変形させることによって、前記定義された接点で完璧な咬合接触を得るようにする、対合歯の歯冠の前記形状を考慮する後処理ステップを含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
F.ライブラリからの歯冠を適合させることを含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
G.形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素の得られた推定に基づいて、歯科インプラントに基づく処置を計画するステップを含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
H.前記歯科修復物の前記推定された少なくとも1つの要素をエクスポートするステップを含む、先行項目のいずれかのような推定方法。任意にこれは、前記歯科修復物の前記エクスポートされた推定された少なくとも1つの要素に基づいて、前記歯科修復物を生成するステップを含む。
I.形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素の推定が使用され、項目A~Hのいずれかのような方法から得られる、歯科修復を実行する方法。
J.歯科修復物の製造方法であって、
-前記歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を、項目A~Hのいずれかのような方法で推定すること、
-前記推定された少なくとも1つの要素を使用して前記歯科修復物を製造すること
を含む方法。
K.歯科修復物の配置方法であって、
-前記歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を、項目A~Hのいずれかのような方法で推定すること、
-前記推定された少なくとも1つの要素を使用して前記歯科修復物を配置すること
を含む方法。
L.少なくとも部分的な歯欠損の患者のためのデジタル化された口腔内表面から少なくとも1本の歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素の推定方法であって、
-前記少なくとも1本の歯の前記少なくとも1つの要素の推定を必要とする歯(複数可)を選択すること、
-前記仮想の歯のセットアップの個々の歯の形状、前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の形状間の関係、及び/または前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係の少なくとも1つを記述する統計モデルを与えられた、前記仮想の歯のセットアップを適合させるために、前記少なくとも1本の歯を含む仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用すること、但し前記エネルギー関数は、前記デジタル化された口腔内の表面と前記仮想の歯のセットアップとの間の適合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記エネルギー関数から得られる前記少なくとも1つの歯の形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること
を含む、推定方法。
特に、本発明のこの項目Lは、患者のデジタル化された口腔内表面からの1本以上の歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定するためのコンピュータに基づく方法に関し、前記方法は、
-前記推定を必要とする1本以上の歯を示すこと、
-前記推定を必要とする前記1本以上の歯に対応する歯を含む仮想の歯のセットアップを提供すること、但し前記仮想の歯のセットアップは、歯列弓またはそのセグメントに配置された個々の歯の分離された表面メッシュを備える、
-前記推定を必要とする前記1本以上の示された歯を含む、前記患者の口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供すること、
-前記仮想の歯のセットアップを患者の口腔内の解剖学的状況に適合させるために、前記仮想の歯のセットアップの質の尺度を表すエネルギー関数を適用し、最適化すること、但し前記適合は、所与の歯列またはそのセグメントについて、少なくとも個々の歯の形状についての確率分布、隣接する歯の形状間の関係、及び/または隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係を記述する統計モデルを与えられた前記患者の口腔内領域の前記デジタル化された表面メッシュの前記示された1本以上の歯に仮想の歯のセットアップを適合させることを含み、前記エネルギー関数は、前記患者の解剖学的構造と前記仮想の歯のセットアップとの間の嵌合を示す第1の尺度と、前記統計モデルが与えられた前記適合させた仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、
-前記最適化されたエネルギー関数から得られた前記適合させた仮想の歯のセットアップを使用して、前記少なくとも1本の歯の前記形状、位置及び向きの前記少なくとも1つの要素を推定すること
を含む。
M.前記適合させた仮想の歯のセットアップが、前記患者の口腔内領域を表すデジタル化された表面メッシュを提供し、前記1本以上の歯が個々の歯の分離された表面メッシュとして利用可能である、項目Lに記載の方法。
N.位置及び向きの前記少なくとも1つの要素の得られた推定に基づいて、歯科矯正の処置を計画するステップを含む、項目Mのような推定方法。
O.前記歯科矯正の処置の前記推定された少なくとも1つの要素をエクスポートするステップを含む、項目MまたはNのような推定方法。
P.前記仮想の歯のセットアップの歯が、並進ベクトル、回転行列、及び前記歯の形状を表す多角形表面メッシュのうちの少なくとも1つによって表される、先行項目のいずれかのような推定方法。
Q.前記第1の尺度が、前記仮想の歯のセットアップと前記患者の解剖学的構造物の対応する目印間の距離を示す目印項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
R.前記第1の尺度が、前記仮想の歯のセットアップの点に対して、前記患者の口腔内状況を表す解剖学的表面メッシュまでの距離を示す表面項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
S.前記表面項が診断的な歯のセットアップに由来する、請求項Rのような推定方法。
T.前記エネルギー関数が、隣接する歯の接点の集合間の距離の尺度を提供する接点項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
U.前記エネルギー関数が、2つの対側歯の形状、位置及び/または向きの対称性の尺度を与える対称ポーズ項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
V.前記エネルギー関数が、2つの対側歯の形状の対称性の尺度を与える対称形状項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
W.前記エネルギー関数が、前記仮想の歯のセットアップの歯の所定の目印の位置の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れる、先行項目のいずれかのような推定方法。
X.前記エネルギー関数は、前記仮想の歯のセットアップの歯の所定の目印の間の距離の関係を定義する1つ以上のヒューリスティックな規則を考慮に入れる、先行項目のいずれかのような推定方法。
Y.前記エネルギー関数が、歯と対合歯表面との重複にペナルティを課すための対合歯重複項を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
Z.上記統計モデルを構築するために訓練段階が実行される、先行項目のいずれかのような推定方法。
AA.前記訓練段階が表面スキャンを使用して実行される、項目Zのような推定方法。
BB.前記訓練段階から得られたデータは、解剖学的目印から導かれたミラーリング面を使用してミラーリングされる、請求項ZまたはAAのような推定方法。
CC.前記歯科用鋳型の表面メッシュから、個々の歯の表面が抽出される、請求項AAまたはBBのような推定方法。
DD.前記抽出された歯の表面が隙間レベルで完成する、項目CCのような推定方法。
EE.前記訓練段階から得られた前記データが同じ基準フレームに配置されている、請求項Z~DDのいずれかのような推定方法。
FF.前記配置は、平均的な仮想の歯のセットアップを計算すること、及び前記平均的な仮想の歯のセットアップを配置することを含む、項目EEのような推定方法。
GG.直線探索法を用いて前記エネルギー関数を最適化することをさらに含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
HH.前記エネルギー関数を適用することは、前記第1の尺度及び前記第2の尺度の前記1本以上の残りの歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素に対する最適化を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
II.前記エネルギー関数を適用することが、前記第2の尺度の前記歯科修復物の前記少なくとも1つの要素に対する最適化を含む、先行項目のいずれかのような推定方法。
JJ.命令を含むプログラマブルデバイス上で実行可能なプログラムであって、実行されると、先行項目のいずれかのような方法を実行するプログラム。
KK.項目Jのような方法で製造された歯科修復物。
【0048】
本発明を要約する目的及び先行技術を超えて達成される利点のために、本発明の特定の目的及び利点を本明細書で上述した。もちろん、必ずしもそのような目的または利点のすべてが本発明の任意の特定の実施形態に従って達成され得るわけではないということを理解されたい。したがって、例えば、本明細書で教示もしくは示唆され得るような他の目的または利点を必ずしも達成することなく、本明細書に教示された1つの利点または利点群を達成または最適化する方法で、本発明を具体化または実施できることを、当業者は認識するであろう。
【0049】
本発明の上記及び他の態様は、以下に記載される実施形態(複数可)を参照して明らかにまた明瞭になるであろう。
【0050】
添付の図面を参照して、例として、本発明をさらに説明する。図面中、同様の参照符号は、様々な図における同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】歯科修復物の形状、位置及び向きの少なくとも1つを推定するための、提案されたアルゴリズムの実施形態の主なステップを示す。
【0052】
図2】デジタル化された口腔内表面からの少なくとも1本の歯の形状、位置及び向きの少なくとも1つの要素を推定するための、提案されたアルゴリズムの実施形態の主なステップを示す。
【0053】
図3】歯の上に定義された目印を示す。
【0054】
図4】表面項で効果的に使用されるTukeyロバスト損失関数を示す。
【0055】
図5】モデル事前項で使用されるようなグラフィカルモデルを示す。
【0056】
図6】ノードが異なる歯に対応し、辺が双方向である特定のグラフィカルモデルを示す。
【0057】
図7】エネルギー関数の接点項で使用される接点の集合を示す。
【0058】
図8】ポーズ対称項を示す。
【0059】
図9】1.0、0.1、0.01及び0.001に等しいεについての正規化されたヘヴィサイドの階段関数を示す。
【0060】
図10】仮想の歯のセットアップから得る歯冠とライブラリの歯冠との間の対応する点の計算を示す。
【0061】
図11】歯冠の表面の咬合接点の検出を示す。
【0062】
図12】挑戦的な事例のアルゴリズムの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明は、特定の実施形態に関して、及び特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれに限定されず、請求項によってのみ限定される。
【0064】
さらに、明細書及び特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも時間的に、空間的に、等級付けで、またはその他の方法で、順序を記述するためではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されている以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0065】
特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されるものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。それは他の要素またはステップを排除するものではない。したがって、参照されるような、記載された特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を特定するものとして解釈されるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。したがって、「手段A及びBを含む装置」という表現の範囲は、成分A及びBのみからなる装置に限定されるべきではない。これは、本発明に関して、装置の唯一の関連する構成要素は、A及びBであることを意味する。
【0066】
本明細書全体を通じて、「一実施形態」または「実施形態」への参照は、その実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の様々な箇所における「一実施形態では」または「実施形態で」という表現の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を示しているわけではないが、示している場合もある。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0067】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、開示を合理化し、様々な本発明の態様の1つ以上の理解を助けるために、単一の実施形態、図、またはその説明でまとめられることがあることを理解されたい。しかし、この開示の方法は、特許請求された発明が各請求項に明示的に記載されているより多くの特徴を必要とするという意図を反映するものと解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ないものである。したがって、詳細な説明に続く請求項は、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として独立して存在している。
【0068】
さらに、本明細書で説明されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの他の特徴を含むが他の特徴を含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者が理解するように、本発明の範囲内であり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求された実施形態のいずれかは、任意の組み合わせで使用することができる。
【0069】
本発明の特定の特徴または態様を説明する際に特定の用語を使用することは、その用語が関連付けられている本発明の特徴または態様の任意の特定の特性を含むように限定されるためにその用語が本明細書で再定義されることを示唆すると解釈すべきではないという旨に留意すべきである。
【0070】
本明細書で提供される説明では、多数の具体的な詳細が記載されている。しかし、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることが理解される。他の例では、周知の方法、構造及び技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために詳細に示されていない。
【0071】
本開示は、最適化されたエネルギー関数から得られる適合させた仮想の歯のセットアップに対応する仮想の理想的な歯のセットアップを判定するための技術を提示する。提案されたアルゴリズムは、患者の現存の解剖学的構造のみならず、機能的要件と審美的要件の両方を考慮に入れる。より具体的には、提案された方法は、少なくとも部分的な歯欠損の患者の十分な解剖学的情報及び最小限の使用者の相互作用が与えられた1つ以上の補綴の歯冠修復物または他の歯科修復物の最適な形状及びポーズ(位置及び向き)を推定する。この使用者入力は、補綴修復物が推定される必要がある歯及びアルゴリズムによって使用され得る残りの歯を指定することに関する。これが図1のフローチャートに示された第1のステップである。好ましくは、使用者はまた、本発明の方法において目印として使用することができる、患者の口腔内領域のデジタル表面上のいくつかの点、典型的には所定の解剖学的な点に対応する点を示す。アルゴリズムに必要な解剖学的情報は、口腔内領域をデジタル化し、典型的には患者の前記口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供することによって得られる。一般に、歯科用鋳型の表面スキャンが取得されるが、他の技術(例えば、口腔内スキャナ)が存在する。これにより、必要な解剖学的情報を含む、患者の口腔内領域の表面が得られる。提案された方法の出力として得られる結果の情報、すなわち推定は、歯科インプラントに基づく処置の計画中に使用者にとって重要である。それは、歯科技工士が手動で作成した診断的な歯のセットアップに換わる可能性がある。
【0072】
本開示はまた、様々な歯をお互いに、ならびに歯肉から分離する、口腔内デジタル表面スキャンのセグメント化を得るための技術を提示する。この方法は、個々の歯を有するテンプレートの歯列弓を患者のデジタル化された口腔内表面に適合させることに基づいている。このテンプレートの歯列弓は仮想の歯のセットアップと呼ばれる。最小限の量の使用者相互作用が必要とされるので、この方法は半自動化されている。この使用者入力は、方法によってセグメント化する必要のある歯を指定することに関係する。好ましくは、使用者はまた、本発明の方法において目印として使用することができる、患者の口腔内領域のデジタル表面上のいくつかの点、典型的には所定の解剖学的な点に対応する点を示す必要がある。アルゴリズムに必要な解剖学的情報は、口腔内領域をデジタル化し、典型的には患者の前記口腔内領域のデジタル化された表面メッシュを提供することによって得られる。一般に、歯科用鋳型の表面スキャンが取得されるが、他の技術(例えば、口腔内スキャナ)が存在する。これにより、必要な解剖学的情報を含む、患者の口腔内領域のデジタルな表面が得られる。
【0073】
アルゴリズムは、一つの歯冠または歯の形状及びポーズをその隣接する歯冠または歯に関連付ける統計モデルを使用する。より具体的には、統計モデルは、仮想の歯のセットアップの個々の歯の形状、仮想の歯のセットアップの隣接する歯の形状間の関係、及び/または仮想の歯のセットアップの隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係の少なくとも1つを説明する。統計モデルは、理想的に近い口腔内状況の広範なデータセットを観察することによって得られたものである。このデータセットから、隣接する歯冠または歯の形状とポーズとの間の関係が抽出される。アルゴリズムは、統計モデルを使用して、使用者によって指定された患者の残りの歯に仮想の歯のセットアップを適合させ、歯科用修復物の形状及びポーズを推定する。患者の解剖学的構造、患者の前記口腔内領域のデジタル化された表面メッシュ、及び仮想の歯のセットアップの間の嵌合を示す第1の尺度と、統計モデルを使用して適合された仮想の歯のセットアップの確率を示す第2の尺度とを含む、いわゆるエネルギー関数が適用され最適化される。好ましくは、エネルギー関数の適用及び最適化は、好ましくは、前記デジタル化された患者の口腔内表面上の前記目印及び前記仮想の歯のセットアップの対応する目印を使用して、患者の前記口腔内領域のデジタル化された表面メッシュ及び初期の仮想の歯のセットアップをアライメントさせた後に行われる。これが図1のフローチャートに示す第2のステップである。さらに、アルゴリズムを理想的な解に導くために、エネルギー関数にいくつかの駆動力を含めることができる。これらの駆動力は、対称性、隣接する歯冠間の接触、及び多くの審美的改善を促進する。
【0074】
任意選択的に、アルゴリズムの出力は、隣接する歯冠間の可能な重複を除去することによって、上顎と下顎との間の正しい咬合を確保することによって、及び/または補綴歯冠の形状及びポーズを既存のライブラリから解に適合させることによって、さらに改善できる。また、このアルゴリズムには、1本以上の歯冠の最適に近い補綴修復物に向かって解を導く複数の駆動力が含まれていてもよい。使用者は、特定の駆動力の重要性を反映する重みを帰属させることによって、特定の患者の場合にアルゴリズムを適合させることができる。
【0075】
提案された方法の上記概要は、以下のより技術的な詳細において詳述される。
【0076】
本発明によるアルゴリズムは、エネルギー関数が定式化される手法を採用する。図1のフローチャートは提案されたアルゴリズムの本質的な概念を示している。エネルギー関数の値は、仮想の歯のセットアップの質または理想の尺度である。より高いエネルギー値は、より低い質またはより理想的でない仮想の歯のセットアップに対応し、同様に、より低いエネルギー値は、より高い質のまたはより理想的な仮想の歯のセットアップに対応する。それぞれの場合について、初期推定から始めて、仮想の歯のセットアップは、より低いエネルギー値に向かって進み、理想的な解をもたらす。仮想の歯のセットアップそれ自体は、患者の現存の歯のいくつかまたはすべて、ならびに補綴手段によって置き換えられる歯を含む。提示された手法は、アルゴリズムによって現存の解剖学的状況に重ね合わされるテンプレート(すなわち仮想の歯のセットアップ)として捉えることができる。これにより、セットアップでの歯科用修復物、例えば補綴の歯は、要件に適合するように(すなわち、低いエネルギー値を有するように)設計される。より低いエネルギー値に向かって解を進化させるプロセスを最適化と呼ぶ。提案された手法は、エネルギー機能が特定のニーズに容易に拡張または調整されることができるので、一般的で柔軟性がある。
【0077】
セグメント化の場合、本発明のアルゴリズムは、エネルギー関数の値が患者のデジタル口腔内表面と仮想の歯のセットアップとの間の適合の質の尺度である、エネルギー関数が定式化される手法を採用する。高いエネルギー値は低い質の適合に対応し、同様に低いエネルギー値は高い質の適合に対応する。それぞれの場合について、初期推定から始めて、仮想の歯のセットアップは、より低いエネルギー値に向かって進み、理想的な解をもたらす。仮想の歯のセットアップ自体には、使用者が指定した歯が含まれている。提示された手法は、アルゴリズムによって現存の解剖学的状況に重ね合わされるテンプレート(すなわち仮想の歯のセットアップ)として捉えることができる。より低いエネルギー値に向かって解を進化させるプロセスを最適化と呼ぶ。提案された手法は、エネルギー機能が特定のニーズに容易に拡張または調整されることができるので、一般的で柔軟性がある。この場合の提案されたアルゴリズムの主なステップの概要を図2に示す。第1のステップでは、使用者は、患者のデジタル口腔内表面からセグメント化されるべき歯(複数可)を示す必要がある。次に、前記仮想の歯のセットアップの個々の歯の形状、前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の形状間の関係、及び/または前記仮想の歯のセットアップの隣接する歯の位置及び/または向きの間の関係のうちの少なくとも1つを記述する統計モデルが与えられたエネルギー関数が適用される。最後に、エネルギー関数から、推定された対象の歯(複数可)の形状、位置及び/または向きを導き出すことができる。
【0078】
アルゴリズムの重要な態様は、適切なエネルギー関数の定式化に関する。既に指摘したように、エネルギー関数は、機能的及び審美的要件に関する仮想の歯のセットアップの質の尺度を提供する。
【0079】
【0080】
エネルギー関数は、機能的及び審美的要件に関して測定された仮想の歯のセットアップの質の尺度を提供する。セグメンテーションの場合、エネルギー関数は、デジタル口腔内表面と仮想の歯のセットアップとの間の適合の質の尺度を提供する。より大きな集団にわたる歯の位置及び形状が観察される。統計モデルは、これらの情報がわかりやすい方法で収集されるため、集団から入手可能な情報を目下の具体的な事例に移すのに完全に適している。さらに、それらは、仮想の歯のセットアップにおける歯の位置及び形状の理想に関する(確率)尺度を定義する。「理想」という言葉は、大きな集団を観察するときに共通するものまたは自然なものを示す。したがって、統計モデルは、仮想の歯のセットアップにおける歯の間の関係を捉え、補綴手段によって修復されるべき歯のもっともらしい位置、向き及び形状を実現する。これにより、一般的で客観的な手法が得られる。本発明における統計モデルは、一方では、個々の及び互いに関連する歯の形状、及び他方では互いに対して相対的な歯のポーズ(位置及び向き)に焦点を当てている。
【0081】
エネルギー関数は、確率的手法によって定式化される。患者Aの利用可能な解剖学的情報、形状モデルθ及びポーズモデルΦを与えられた仮想の歯のセットアップSに対する条件付確率は、p(S|A,θ,Φ)によって得られる。ベイズの計算を使用すると、次のように表すことができる。
式中、p(A|S)はデータの尤度であり、p(S|θ,Φ)はモデルの事前確率である。仮想の理想的な歯のセットアップは、仮想の歯のセットアップSに関してこの確率を最大化することによって得られる。分母の項p(A)は定数であるので、確率を最大にするには重要ではない。この確率を直接最大化する代わりに、その負の対数は次のように最小化される。
したがって、エネルギー関数は、以下のように表すことができる。
式中、EDL(A;S)はデータ尤度項に対応し、EMP(S;θ,Φ)はモデル事前項に対応する。
【0082】
式3からのエネルギー関数は、任意に、他のエネルギー項で補完することができる。原理的には、これらのエネルギー項は確率フレームワークで符号化することもできる。しかし、これらの項は、結果をさらに洗練するために、実験結果に基づいて大概追加される。したがって、これらの項はむしろ本質的にヒューリスティックである。したがって、それらを確率フレームワークで符号化することは単に人工的である。したがって、完全なエネルギー関数は以下のように定式化することができる。
式中、追加のエネルギー項はEADD(S)項に群化される。すべての項は、この説明においてさらに詳細に説明される。
【0083】
データの尤度の項は、仮想の歯のセットアップSを与えられる所与の解剖学的情報Aを観察する可能性を測定する。したがって、それは、患者の解剖学的構造と仮想の歯のセットアップとの間の良好性の適合の尺度である。前に述べたように、患者の解剖学的情報は、表面メッシュとして利用可能である。対応するエネルギー項EDL(A;S)は、表面項E(A;S)と目印項E(A;S)の2つの別個の項として定義される。目印項は、主に良好な初期化に焦点を当てており、解剖学的な表面メッシュ上に表示されるべき目印の集合を必要とする。対応する目印は仮想の歯のセットアップに表示するべきものである。一方、表面項は、仮想の歯のセットアップと患者の解剖学的構造との間の完全な適合に向かって解を強制する。
【0084】
【0085】
表面項は、仮想の歯のセットアップの各点に対して、解剖学的表面メッシュまでの距離を測定する。患者の解剖学的構造と仮想の歯のセットアップとの間の適合が完全に近いものである場合、この距離は非常に小さいものになるべきである。基本的な表面項は、以下により得られる。
式中、Dは解剖学的情報が利用可能な現存の歯の集合であり、Vは歯Tの頂点の集合であり、Rは歯Tの回転行列であり、tは歯Tの並進ベクトルである。関数d(A,x)は表面メッシュAと点xとの間の距離を測定する。残念ながら、この手法では3つの大きな問題が生じる。第1に、隙間のレベルでは情報が利用できない。しかし、仮想の歯のセットアップでは、この情報が存在する。したがって、これらの点での距離の測定は正しくない。第2に、解剖学的表面メッシュは、歯と歯肉の両方を含む。歯肉は一定のレベルまで歯を覆い、仮想の歯のセットアップには存在しないので、問題が同様に生じる。第3に、デジタル化技術の結果として得られる解剖学的表面メッシュにアーティファクトが存在する可能性がある。考えられる解決策は、これらの問題が発生する箇所を検出し、それらを式から除外することである。もう1つの手法は、これらの問題を外れ値として考慮し、これらの外れ値に対する表面項の影響の受けやすさを低下させることである。外れ値に対する影響の受けやすさを低下させる確立された技法は、ロバストなm推定量を用いる。ロバストなm推定量は、二乗損失関数を、外れ値の影響をあまり受けず、よりロバストな関数で置き換える。したがって、表面項は、以下により得られる。
式中ρはロバスト損失関数である。種々のロバスト損失関数が存在する。1つの選択肢は、
により得られるTukey推定量を使用することである。式中、cは問題固有の定数である。Tukey損失関数を図4に示す。図4からわかるように、xの値が小さい場合、Tukey損失関数は二乗損失関数に近似する。xの値が大きくなるにつれて、Tukey損失関数の増加は遅くなり、xの値がcより大きい場合は一定の値に落ちる。したがって、外れ値は、表面項の値への影響が少なく、外れ値に対してロバストであるエネルギー項につながる。
【0086】
モデルの事前項は、モデルθとΦとを与えられる仮想の歯のセットアップSに対する確率を与える。統計モデルθは、個々の歯の形状と、隣接する歯の形状間の対の関係とを記述する。このタイプのモデルは、グラフィカルモデルと呼ばれることがある。グラフィカルモデルは、典型的には、ノードNのセットとノードを接続する辺EのセットからなるグラフGによって表される。ノードと辺の両方に統計モデルが含まれている。図5に説明を示す。この具体的な事例では、ノードは仮想の歯のセットアップの歯に対応し、関連するモデルはそれぞれの歯の形状を表す。辺に関連するモデルは、図6に示すように、それぞれの辺によって接続された歯の形状間の関係を記述する。統計的なポーズモデルΦは、隣接する歯のポーズ間の関係を記述する。したがって、グラフィカルモデルで表現することもできる。しかし、この場合、辺のみが統計モデルを含む。各辺に関連する統計モデルは、それぞれの辺によって接続された歯のポーズ間の関係を記述する。したがって、統計的形状及びポーズモデルは、
により得られる。式中、Gθは形状モデルのグラフ構造、{θ}はすべての個々の形状モデルの集合、{θTT}はすべての後方形状モデルの集合、Gφはポーズモデルのグラフ構造、{φTT}はすべての後方ポーズモデルの集合である。
【0087】
仮想の歯のセットアップを記述する異なる統計的サブモデルは、単一形状を記述する統計モデル、2つの形状間の関係を記述する統計モデル、及び2つのポーズ間の関係を記述する統計モデルの3つのカテゴリに分割することができる。3つのカテゴリは異なる評価が必要なため、モデルの事前エネルギー項は3つの部分に分割されている。これらの項のそれぞれについて以下に説明する。
【0088】
形状モデル項は、θにおけるすべての統計的形状モデルの寄与を含む。これらの統計モデルは、単一の歯の形状を記述する。標準的な主成分分析(PCA)形状モデルが使用される。PCAは、訓練データセットに存在する最大の変動モードを記述する正規直交方向(主成分)の集合を計算する。これは線形手法であり、したがってすべての許容される形状は、平均的な形状と主成分の線形結合によって与えられる。PCAを実行するには、訓練データセットから平均及び共分散行列を計算する必要があるため、ガウス分布を課す。条件付分布p(S|{θ})は、以下により得られる。
【0089】
次に、後方形状モデル項は、θにおけるすべての後方統計形状モデルの寄与からなる。これらの統計モデルは、2本の隣接する歯の形状間の関係を記述する。後方形状モデルを設計するために、「Posterior Shape Models」(Albrecht et al.,Medical Image Analysis,17(8),pp.959-973,2013)に採用されている手法を使用することができる。この後方形状モデルは、第2の形状(予測子)を与えられた第1の形状(応答)に関する条件付きガウス分布からなる。このタイプのモデルは、標準のPCAベースの形状モデルと密接に関連している。得られた条件付き分布p(S|{θTT})は、
により得られる。式中εθはθにおけるすべての辺の集合であり、P及びRは辺によって接続された2本の歯を表し、θPRは関連するモデルである。各辺の確率は、以下により得られる。
この式のさらなる詳細については、Albrecht et al.の論文を参照されたい。関連するエネルギー関数項は、以下により得られる。
【0090】
最後に、後方ポーズモデル項は、Φにおけるすべての後方統計ポーズモデルの寄与を含む。本発明に適用される統計モデルのこれらのサブモデルは、2本の隣接する歯のポーズ間の関係を記述する。歯のポーズは、回転行列R∈SO(3)と並進ベクトルt∈Rを含む。したがって、ポーズは、剛体変換行列T∈SE(3)(すなわち、剛体変換の空間)で以下のように表すことができる。
後方ポーズモデルは、辺によって接続された隣接する第2の歯のポーズが与えられると、第1の歯のポーズに関する推定値を与える。この推定値は、ガウス確率分布を含む。したがって、後方ポーズモデルは、後方形状モデルと密接に関連している。生じた条件付き分布p(S|{φTT})は、
により得られる。式中、T及びTはそれぞれ歯P及びRの変換行列である。各辺の確率の式は、後方形状モデルの場合と非常に類似している。関連するエネルギー関数は、以下により得られる。
【0091】
これから、追加のエネルギー関数項を提示する。これらの項を追加して、実験に基づいてアルゴリズムの結果をさらに洗練し、改善することができる。目下の具体的な事例によって、これらの追加の項の一部を有効または無効にした方が良い場合がある。これらの項のそれぞれについて、その根拠を以下でより詳細に説明する。
【0092】
場合によっては、隣接する補綴の歯冠は互いに接触しない。これは、異なる歯の間にギャップが存在するため、不自然に見える理想的な歯のセットアップをもたらす。接点項は、この欠点を改善しようとする。各々の歯について、近心指向集合及び遠位指向集合という2つの接点の集合が判定される(最後方のものは1つのみである)。隣接する2本の歯に対して、近心歯の遠位接点集合は、遠位歯の近心接点集合と接触するべきである。接点項は、関連する接点の集合間の距離の尺度を提供する。副作用として、この項はまた、隣接する歯が互いに重複することを妨げる。接点の一例を図7に示す。接点構造は、歯に対応するノードの集合NCPと、有向辺の集合ECPとからなるグラフGCPに格納することができる。辺は、近心方向と遠位方向に隣接する歯の間に画定される。各有向辺には接点の集合が含まれている。依然として定義されるべきことは、2つの接点の集合間の距離の尺度である。この距離が小さく、両方の集合の点が互いに接触しているときは、尺度は低くなければならない。他方、両方の集合の点が互いに遠くに位置する場合、尺度は高くなければならない。様々な尺度が考えられる。1つの例は、負のカーネル相関(KC)尺度である。カーネル相関尺度は、確率的カーネル密度推定(KDE)表現のL2ノルムへの近似から生じる。ガウスカーネルを用いた点集合P={x∈R}、i=1...NのKDEの表現は、以下により得られる。
したがって、それは、点の集合に属するように、その点についての各点x∈Rに確率を割り当てる。2つの点の集合P及びQに対するKDE表現の2乗されたL2ノルムは、以下により得られる。
カーネル相関を使用して、接点エネルギー項は
として表せる。式中、MとDは、2つの有向辺によって接続された2本の隣接する歯であり、P MDとP DM
により得られる。式中、PMDは、有向辺(M,D)に関連する接点の集合であり、PDMは、逆向きの辺(D,M)に関連する接点の集合であり、V及びVは、それぞれ歯の点の集合M及びVである。
【0093】
審美的な観点に由来する最も重要な要件は対称性である。ポーズと形状が区別されるので、両方に対して対称性を定義することができる。以下では、まず、2つの対側歯のポーズ間の対称性を測定するエネルギー関数項、次に形状対称性のエネルギー関数項を提示する。
【0094】
第1の要件は、患者の解剖学的な平面対称変換を推定することである。この変換を推定するためのいくつかの可能な解が存在する。最も簡単な解は、解剖学的表面メッシュ上に示された2つの対応する点の集合に基づく。平面対称変換行列Tは、対応する点集合に基づいて計算することができる。この変換行列は、
と分解できる。式中Hはハウスホルダ変換行列であり、tは並進ベクトルである。
【0095】
第2の要件は、各々の歯の局所平面対称変換を個々に推定することである。対側歯の間に対応する点が存在すると仮定すると、ミラーリングされた剛体変換は、回転成分の行列式を-1にすることによって計算することができる。得られたミラーリングされた剛体変換行列T′は、
と分解できる。式中、H′は回転動作とミラーリング動作の組合せであり、t′は並進成分である。
【0096】
【0097】
これから、対称形状に効果的なエネルギー関数項を提示する。左右の対の歯ごとに定義されたミラーリングされた剛体変換T’が得られると、このエネルギー関数項は
により得られる。式中、v ∈V、またv ∈Vとなる。
【0098】
前歯の解をさらに洗練するために、歯の所定の点または目印に基づくヒューリスティックな規則のセットを追加することができる。これらのヒューリスティックな規則は、互いに関連した目印の相対的な位置付けを制約する。現在使用されているヒューリスティックな規則のセットは、2つのカテゴリに分割できる。第1のカテゴリは、目印の位置に関する関係を定義するヒューリスティックな規則を含み、第2のカテゴリは、目印間の距離に関する関係を定義するヒューリスティックな規則を含む。前者の例は、上下方向に定義された、2つ以上の目印に等しい高さを課すヒューリスティックな規則である。後者の例は、2つ以上の対の目印の間に等しい距離を課すヒューリスティックな規則である。第1のカテゴリのヒューリスティックな規則のセットは、表1によって得られる。第2のカテゴリのヒューリスティックな規則のセットは、表2によって得られる。
【0099】
これらのヒューリスティックな規則が有効であるための前提条件は、仮想の歯のセットアップの正しい配置である。z軸は、咬合平面に対して垂直であるべきであり、上顎については下方向に向くべきである。y軸は、冠状面に対して垂直であるべきであり、腹側方向に向くべきである。これらから、x軸は、内外側の軸に平行であり、患者の右から左に向く。
【0100】
【0101】
アルゴリズムの重要な要件は、隣接する歯による歯の貫通を抑制することである。隣り合った歯が互いに重なる解決法は物理的に不可能であるため、この要件の必要性は明らかである。対合歯表面と歯の重複にペナルティを課すエネルギー関数項が含まれる。後処理ステップでは、咬合を考慮に入れることができる。しかし、歯とその対合歯との間に強い重複がある場合、後処理ステップは良好な解決策を生み出すことができない。したがって、対合歯重複エネルギー関数項は、可能な重複を緩和し、したがって、後処理ステップからの正しい解を保証する。このエネルギー関数項の前提条件は、正しい咬合関係にある対合歯を含む対向する顎の表面メッシュの利用可能性である。
【0102】
対合歯重複エネルギー関数項は、
により得られる。式中、Bは対向する顎の表面メッシュ、Rとtは歯Tのポーズを定義し、v∈V,d(B,・)は表面メッシュBへの符号付き距離であり、H:R→{0,1}はヘヴィサイドの階段関数であって、以下により得られる。
先に提案された重複エネルギー関数項にはいくつかの問題がある。第1に、最適化アルゴリズムのために、エネルギー関数項の勾配が計算されるべきである。しかし、ヘヴィサイドの階段関数の導関数を計算することはディラックのデルタ関数である。第2に、ヘヴィサイドの階段関数は、重複がないときはいつでも、重複エネルギー関数項の値をゼロにし、重複が生じるときはいつでも値がゼロより大きくなる。したがって、重複エネルギー関数項は、キンクが存在する重複点の近傍で滑らかではない(導関数は連続していない)。これは、最適化アルゴリズムの問題を引き起こす。よく知られた解は、標準的なHヘヴィサイドの階段関数を正規化したものに置き換えることである。一般に使用される正規化されたヘヴィサイドの階段関数は、
により得られ、式中εは滑らかさを制御する。この関数は、標準のヘヴィサイドの階段関数と近似するが、どこでも連続している。図9にその関数を示す。正規化された対合歯重複エネルギー関数項は、以下により得られる。
【0103】
歯科技工士により作成された診断的な歯のセットアップが表面メッシュとして利用可能である場合、この情報はアルゴリズムによっても同様に使用することができる。この場合、表面項は、関連する歯が診断的な歯のセットアップに適合されることを保証するために使用できる。これにより、アルゴリズムの解が、歯科技工士が作成した診断的な歯のセットアップへと導かれる。
【0104】
ほとんどの機械学習アルゴリズムとして、本発明のアルゴリズムは、2つの段階、すなわち訓練段階及び試験段階を含む。使用者の観点からは、有用な出力が生成されるので、試験段階が最も関心を覚える。一方、訓練段階では、アルゴリズムは試験段階中に出力を生成するために必要な知識を得る。訓練段階は、一般に訓練データと呼ばれる模範的なデータの精巧なセットを利用する。訓練データセットから必要な知識を抽出する十分に確立された技法は、統計モデルを採用する。この場合、訓練データセットは、表面をスキャンした石膏モデルを含む。この訓練データセットから抽出された知識は、主に歯のポーズと形状に関係している。試験段階で生成される出力は、仮想の理想的な歯のセットアップである。
【0105】
これまで、試験段階のみを論じてきた。これから訓練段階を提示する。訓練段階の間、例えば、統計モデルを構築し、目印を定義し、接点の集合を計算する。以下、訓練データセット及びその処理を最初に詳述する。次に、共通の基準フレームで処理された訓練データをアライメントさせる手順を提示する。続いて、アライメントされた訓練データに基づいて、形状及びポーズを記述する統計モデルを構築する。その後、対称変換と接点の集合を計算する。最後に、各々の歯に目印を定義する。
【0106】
訓練データセットは、表面スキャンされた歯科用鋳型から構成される。上顎及び下顎には別々の訓練データセットが使用され、異なるモデルが両方のために構築される。ただし、ここで説明する手順は両方に適用される。すべての歯科用鋳型をレーザースキャンし、歯と歯肉を含む歯科用鋳型の詳細な表面メッシュが得られる。これらの表面メッシュ上に、解剖学的目印が手動で示される。訓練サンプルの数は、左右のミラーリング面を使用して各訓練サンプルをミラーリングすることによって、倍増することができる。この平面は、手動で示された目印から推定することができる。したがって、得られた訓練データセットは、各訓練サンプル2回を、元のサンプルとして1回、ミラー化版として1回含む。この手法の直接的な利点は、計算された統計モデルの対称性が向上することである。
【0107】
利用可能な表面メッシュは、主に2つの理由のために、訓練に直接には適していない。第1に、異なる歯の間、または歯と歯肉との間に分離が存在しない点である。第2に、歯間の隙間で利用可能な情報がない点である。したがって、この問題に対処するには、表面メッシュのさらなる処理が必要なのである。両方の問題は2つの別々の継続的なステップで処理される。第1のステップでは、個々の歯の表面が表面メッシュから抽出される。その後、抽出された歯の表面は、隙間のレベルで完成する。
【0108】
第1のステップとして、すべての歯を歯科用鋳型の表面メッシュから抽出する。それにより、歯は歯肉からだけでなく互いからも分離する必要がある。これは手動で行うことができる。しかし、文献では、この目的のために多数の(半)自動アルゴリズムが提示されている。
【0109】
理想的には、歯抽出ステップの結果は、個々の歯の表面メッシュの集合である。ほとんどの場合、これらの表面メッシュは、歯がその隣接する歯と接触する近心側及び遠位側に開いている。上で指摘したように、完全な歯冠が必要なので、これは訓練段階の問題を提起する。可能な解決策は、レベルのセットに基づいた表面再構成技術を使用することであろう。別の解決策は、非剛体表面位置合わせを使用して各訓練サンプルに向かってテンプレートの形状を変形させることである。テンプレートの形状が完全な歯冠であり、非剛体位置合わせアルゴリズムが外れ値に対してロバストである場合、この手法は表面補完問題を解決する。この手法の利点は、小さなセグメント化のエラーを訂正できることである。さらに、テンプレートの形状の解像度を特定の必要性に合わせることができる。この手法の欠点は、セグメント化された表面メッシュに存在する微細な細部の一部が、変形されたテンプレートの形状では観測できないことである。各タイプの歯冠のテンプレートの形状は、既存のライブラリから入手できる。
【0110】
完全な位置合わせパイプラインは、3つのステップを含む。第1のステップでは、入力される表面メッシュの手動で示された目印及びテンプレートの形状を使用して、最初の剛体アライメントが計算される。次に、剛体アライメントは、剛体位置合わせアルゴリズムによりさらに精緻化させる。最後に、剛体的にアライメントされたテンプレートの形状を、抽出された歯冠に向かって変形させるために、非剛体位置合わせアルゴリズムを使用する。十分確立された反復最近接点(ICP)アルゴリズムの変形を、剛体及び非剛体位置合わせの両方に使用する。ICPは、対応がない2つの点の集合を反復的にアライメントさせる。各反復には2つのステップが含まれる。まず、対応する点を推定する。次に、対応する点に基づいて、アライメントを更新する。対応する点は、最近接点戦略を使用して計算する。2つの連続反復間の差が最小になるまで反復する。
【0111】
対称形状のエネルギー関数項の評価は、対応する点が左右の歯の間に存在する場合、大幅に単純化することができる。したがって、右のテンプレート歯冠を、左のテンプレート歯冠を生成するためにミラーリングする。
【0112】
この手順は、仮想の歯のセットアップの訓練データセットを得る。各仮想の歯のセットアップは、基礎となる歯科用鋳型から形状及びポーズが抽出された歯冠のセットを含む。訓練データセットを統計モデルの構築に使用し得る前に、すべての訓練データを同じ基準フレームに配置する必要がある。したがって、まず、平均的な仮想の歯のセットアップを計算する。次に、平均的な仮想の歯のセットアップを正しく配置する。最後に、すべての仮想の歯のセットアップを平均に対してアラインメントする。これらのステップのそれぞれについて、以下でさらに詳しく説明する。仮想の歯のセットアップを計算するために必要なため、まず、2つの仮想の歯のセットアップのアライメントについて説明する。
【0113】
表面メッシュ上の手動で示された目印は、アライメントのためのガイドとしての役割を果たす。これらの目印は、仮想の歯のセットアップで簡単に異なる歯に転写することができる。目印間には対応が存在するので、両方の仮想の歯のセットアップをアライメントする剛体変換を計算することができる。ポーズと形状を区別するので、仮想の歯のセットアップを変換するときに特有のことが起こる。したがって、仮想の歯のセットアップに剛体変換を適用すると、歯のポーズにのみ影響する。数学的定式化では、次のように表すことができる。
式中φは変換演算子である。ローカル基準フレームの歯Tの点がv∈VTiにより得られる場合、グローバル基準フレームの点は、
により得られる。式中RTiとtTiは歯のポーズを表す。歯Tを変換することは、歯のすべての点に変換φを適用することに帰着する。これは以下のように定式化することができる。
変換φが回転行列R∈SO(3)と並進ベクトルt∈Rからなる剛体変換であれば、上記の式は
と単純化できる。式中R’Ti=RRTiであり、t’Ti=RtTi+tである。したがって、剛体変換は歯のポーズにのみ影響する。
【0114】
平均的な仮想の歯のセットアップの計算は反復的な手順である。この手順は、平均(訓練サンプルの1つ)の初期推定から開始する。各反復では、すべての仮想の歯のセットアップが平均値の現在の推定値にアラインメントされ、続いて平均値の更新が行われる。反復は、2つの連続する反復間に関連する変更が存在しなくなるまで行われる。仮想の歯のセットアップのアラインメントについては既に上記した。アライメントした仮想の歯のセットアップからの平均の更新をここで扱う。
【0115】
平均的な仮想の歯のセットアップには、平均的な形状と平均的なポーズを伴う歯が含まれている。したがって、各々の歯について、平均的な形状及び平均的なポーズを計算する必要がある。形状のセットから平均的な形状を計算するには、すべての形状を共通の基準フレームにアラインメントする必要がある。異なる形状間には対応関係が存在するので、すべての形状を現在の平均的な形状にアライメントさせることは容易である。形状がアライメントしており、歯自体ではないことに留意する必要がある。したがって、歯の形状に剛体変換を適用することはまた、歯のポーズに影響する。これは、グローバル基準フレーム内の歯の点xが、その形状の剛体変換によって変更されるべきではないという事実から示すことができ、
により得られ、式中R∈SO(3)とt∈Rは剛体変換であり、Rとtは歯Tのポーズを定義する。このことから次式を更新されたポーズに対して導出できる。
形状をアライメントすると、平均的な形状を計算することができる。
【0116】
歯の平均的なポーズを計算する前に、ここで論じた手法を用いてすべての形状を平均的な形状にアライメントさせるべきである。剛体変換行列はベクトル空間を形成しないので、平均的なポーズ、すなわち平均的な剛体変換行列を計算することは容易ではない。代わりにそれらはリー群を形成する。したがって、平均的なポーズは、このリー群で計算する必要がある。このタスクにはアルゴリズムが存在する。
【0117】
前述した審美的目印のエネルギー関数項は、平均的な仮想の歯のセットアップの位置決めにいくつかの制約を課す。異なる尺度を有効にするためには、平均的な仮想の歯のセットアップを以下のように配置しなければならない。z軸は、咬合平面に対して垂直であるべきであり、上顎については下方向に向くべきである。y軸は、冠状面に対して垂直であるべきであり、腹側方向に向くべきである。これらから、x軸は、内外側の軸に平行であり、患者の右から左に向く。
【0118】
【0119】
x、y、z方向及び原点が与えられれば、剛体変換行列は
【0120】
統計モデルのセットは、個々の形状モデル(θ)、後方形状モデル(θTT)及び後方ポーズモデル(φTT)の3種類のモデルを含む。必要な訓練データは、すべての仮想の歯のセットアップを平均的な仮想の歯のセットアップにアラインメントし、関連する形状(複数可)またはポーズを抽出することによって生成される。後方モデルの場合、さらなる自由度が存在する。これらのモデルは、2本の歯のポーズまたは形状の間の関係を記述する。しかし、この関係をモデル化すべき歯のペアは未定義である。これらのペアは、事実、全体的な後方モデルの構造を定義する。可能な解決策は、考えられる各々の歯のペアを使用することである。別の解決策は、それぞれのモデルの質に基づいて自動的に、使用する歯のペアを定義する。しかし、この解決策は訓練サンプルの質と量に大きく依存する。さらに、質に関する閾値を課す必要があり、これを定義することは困難である。したがって、後方モデルに重要性があるにもかかわらず、確立された解決策は存在しない。したがって、使用される歯のペアは手動で定義する。これにより、後方モデルに幾分かの知識と仮定を組み込むことが可能となる。ペアは、すべての近心-遠位の隣接する歯、ならびに左右の対応する歯として定義される。各ペアについて、後方モデルは指向されているので、2つのモデルが構築される。定義されたペアについての説明は、図6を参照されたい。
【0121】
両方の対称ベースのエネルギー関数項は、対応する左右の歯の各ペアに対してローカルミラーリング変換をすることを必要とする。このローカルミラーリング変換は、単一の行列、ミラーリングされた剛体変換行列に結合される、剛体変換及びミラーリング操作に関与する。対応する点の集合が与えられると、このミラーリングされた剛体変換行列は、標準的な剛体変換行列と同様の方法で判定することができる。しかし、回転行列det(R)=1の行列式の制約はdet(R)=-1という制約に置き換えるべきものである。
【0122】
本明細書で提案する、対応する左右の歯のペアのミラーリングされた剛体変換行列を推定する手法は、ICPと同様の表面アライメント手順を採用する。ICPは、2つの点の集合をアライメントさせるための反復的な手法である。各反復において、対応する点が推定され、続いて変換が更新される。この場合、変換のタイプはミラーリングされた剛体変換である。対応は、目標の表面メッシュの最近接点として推定される。2つの連続反復間の変更が最小になるまで反復する。この手法は、定常状態の解にすばやく収束する。
【0123】
歯の形状に規定された接点は、近心方向と遠位方向において隣接する歯の間の接触領域を定義する。これらは、近心及び遠位に隣接する歯が互いに接触するように強制する接点エネルギー関数の項に必要とされる。したがって、歯の間の隙間は回避される。接点は、ノードが異なる歯に対応する有向グラフ状の構造に格納され、辺は、歯の間の近心関係及び遠位関係に対応する。それぞれの有向辺には、目標の歯と接触する元の歯に定義された接点の集合が含まれている。各近心-遠位接続の接点は、以下の手法を使用して訓練データのセットから判定される。近心歯Tと遠位歯Tが、各々R及びtならびにR及びtによって与えられるポーズと、各々点の集合V及びVによって与えられる形状とを有して与えられると、接点は、他方の歯からの許容距離τ内での点として定義される。
式中、d(・,)は点と歯の間の最小距離である。歯T及びTを含む訓練サンプルごとに、集合CMD及びCDMを計算することができる。集合CDMにおける点vi∈VDの出現回数nを計算する。これらから、接点PMD及びPDMの集合は、各々最大出現点max({nMi})及びmax({nDi})の分数ρよりも多く現れる点として定義される。
【0124】
【0125】
提案されたアルゴリズムの重要な態様は、エネルギー関数の最適化に関する。最適化手法の有効性は、結果の質に直接的な影響を与える。エネルギー関数項の性質を考えると、数値最適化アルゴリズムを使用する必要がある。数値最適化は、膨大な数の刊行物とアルゴリズムを備えた十分に確立された研究領域である。その結果、広範囲の適用に効果的であることが証明された効率的な数値最適化アルゴリズムが数多く存在する。
【0126】
ここで適用可能な数値最適化アルゴリズムはすべて、Sで示される開始点から開始し、典型的には使用者によって設定される。この場合、平均的な仮想の歯のセットアップを開始点として使用することができる。Sから始まり、最適化アルゴリズムは一連の反復{Sk}、k=1,...,∞を生成する。このプロセスは、それ以上進行できないとき、または反復Sが解に十分近いときに終了する。ある反復から次の反復への移動は、現在の反復Sにおけるエネルギー関数の情報に基づいており、場合によりさらに早い反復S,...,Sk-1にも基づいている。したがって、直線探索法と信頼領域法という2つの戦略が存在する。直線探索法は、方向pを選択し、その方向に沿って、十分に低いエネルギーを有する新しい反復Sk+1を探索する。したがって、これらの方法は、
により得られる。式中、総和は、ステップαpをSに適用するものとして解釈すべきである。一方、信頼領域法は、以前の反復から集められた情報に基づいてエネルギー関数を局所的に近似させるモデル関数Mを構築する。事前定義された領域、信頼領域内で、モデル関数の最小化が計算される。したがって、これらの方法は、
と表せ、式中S+pは信頼領域内にある。通常、モデル関数は二次方程式である。結論として、直線探索法はまず探索方向を固定し、次にステップの長さを探索するが、信頼領域法はまず最大のステップの長さを固定し、次に方向及びステップの長さを求める。
【0127】
両方の戦略は、エネルギー関数及び開始点Sに依存して、ローカルな解を見出すことのみが保証される。したがって、良い出発点を選ぶことが最も重要である。
【0128】
本発明によるアルゴリズムでは、本願に対してより適合されることから、直線探索に基づく最適化方法のみ使用する。目下の問題の詳細に進む前に、2つの重要な問題に対処する必要がある。第1に、探索方向pを見つけるための戦略を考案する必要がある。第2に、適切なステップの長さαを見つける方法が必要である。
【0129】
探索方向を見つけるための容易な手法は、探索方向としてエネルギー関数の負の勾配を使用することである。
これは、エネルギー関数の局所的な最急降下方向をもたらす。しかし、必要とされる計算時間が限られているにもかかわらず、勾配しか計算する必要がないので、この手法は極度に遅い可能性がある。
【0130】
別の重要な探索方向はニュートン方向である。この方向は、E(S+p)の2次テイラー級数展開から得られる。
この式の導関数をゼロに等しく設定すると、最適な探索方向についての次の式が得られる。
この探索方向は、エネルギー関数を2次関数で局所的に表すことができる場合に、より信頼性が高い。探索方向が有効であるための前提条件は、ヘッセ行列∇E(S)が正定であることである。この戦略は、最急降下手法と比較してより速い収束率をもたらす。しかし、各反復において、ヘッセ行列を計算する必要があり、これは計算上のコストが高く、大規模な問題に対して不可能となり得る。
【0131】
準ニュートン法は、ヘッセ行列を別の行列Bで近似することによってこの欠点を克服する。そのため、それらはヘッセ行列の計算を必要とせず、なお速い収束率を有する。行列Bは、各ステップの後に、ステップ中に得られた追加の知識を用いて更新される。この追加の知識は、勾配の変化が、探索方向に沿った二次導関数に関する情報を提供するという事実に基づいている。これは以下により得られる。
ヘッセ行列の近似は、上記の式を模倣するように選択される。したがって、セカント方程式
を満たすべきものである。式中、s=Sk+1-S及びy=∇E(Sk+1)-∇E(S)である。この式及びいくつかの追加の条件が与えられると、行列Bを更新するための式を定式化することができる。広く使用されている式は、以下により得られるBFGSの公式である。
準ニュートン探索方向は、ヘッセ行列をニュートン方向の近似値に置き換えることによって得られる。
いくつかの準ニュートン法は、逆行列Bk-1の計算を、B自体の代わりにBの逆行列を直接更新することによって回避する。
【0132】
方法の最終セットは、非線形共役勾配法である。これにより、探索方向は、
と計算される。式中、βはpとpk-1が共役であることを保証するスカラーである。スカラーβを計算するための異なる方法が存在し、それぞれが共役勾配法の変形につながる。一般的に、これらの方法は最急降下法と比較してはるかに効果的で、計算が簡単である。ニュートン法や準ニュートン法ほど高速ではないが、行列の記憶を必要としないという利点がある。
【0133】
直線探索アルゴリズムは、探索方向pが与えられると、エネルギー関数を効率的に最小にする適切なステップの長さαを計算する。これにより、エネルギー関数の十分な低減とステップの長さの選択に必要な時間との間にトレードオフが存在する。理想的なステップの長さは、以下により定義される関数φのグローバルの最小値である。
しかし、一般に、このグローバル最小値の計算には時間がかかりすぎる。したがって、実用的な直線探索アルゴリズムは、最小の計算時間で十分なエネルギー関数の減少を提供するステップの長さαの不正確な探索のみを実行する。典型的な直線探索アルゴリズムは、一連のステップの長さを生成し、これらの値の1つが特定の条件を満たすときはいつでも停止する。探索自体は2段階で行われる。第1に、ブラケティングアルゴリズムは、望ましいステップの長さを含む適切な間隔を見つける。第2に、二分アルゴリズムは当該の間隔での良好なステップの長さを見つける。一般に適用される条件の集合は、Wolfeの条件である。Armijo条件としても知られている最初のWolfeの条件によると、ステップの長さがエネルギー関数の十分な減少を保証すべきであり、
により得られる。式中μ∈(0,1)とφ(α)は以下により得られる導関数である。
しかし、この条件は、十分に小さなステップの長さで満たされるので、収束を保証するものではない。したがって、第2のWolfeの条件は、直線探索アルゴリズムが十分に進歩することを保証する。この条件は
により得られる。式中η∈(μ,1)である。この条件は、φ(α)の勾配が初期勾配のη倍大きいことを保証する。この条件は、以下のことを示しているため、曲率条件としても知られている。
したがって、φの(0,α)への平均曲率は正である。Wolfeの条件をわずかに変更すると、強力なWolfeの条件に至り、以下により得られる。
唯一の違いは、導関数φ(α)がもはや極度に正の値になることが可能ではないことである。したがって、解から遠い点は除外される。
強力な直線探索アルゴリズムはMore-Thuenteアルゴリズムである。区間[αmin,αmax]が与えられると、この直線探索アルゴリズムは、強力なWolfe条件が満たされるまで、一連のネストされた区間Iと一連の反復α∈I∩[αmin,αmax]を生成する。
【0134】
【0135】
【0136】
より複雑な最適化アルゴリズムは、非線形共役勾配アルゴリズムである。勾配降下アルゴリズムと同様に、このアルゴリズムは直線探索に基づく最適化アルゴリズムでもある。もともと、共役勾配アルゴリズムは、次の式の大規模な線形システムを解くために提案された。
式中Aはnxn対称正定である。この問題は、次の関数の最小化問題としても述べられる。
線形共役勾配法は、行列Aに対して探索方向pの共役に沿うnステップで当該の関数を最小化することができる。
各方向に沿ったステップの長さは、
と計算できる。式中、r=∇φ(x)=Ax-bである。共役勾配法の特定の性質は、一組の共役方向を生成する際に、新しい方向pが前の方向pk-1のみを使用して計算され得ることである。方向p,…,pk-2に関する情報は必要ない。方向pの式は
により得られる。式中、βはpを確実にするように判定され、pk-1はAに対して共役であり、以下により得られる。
ステップの長さαの式とβの式を共にさらに単純化することができる。生じる式は、以下により得られる。
及び
【0137】
【0138】
【0139】
LBFGS(限定されたメモリのブロイデン・フレッチャー・ゴールドファーブ・シャンノ)最適化アルゴリズムは、限定されたメモリの準ニュートン法である。これらの方法は、計算上の観点から近似ヘッセ行列を計算することが困難である大規模最適化問題を解くのに有用である。したがって、完全な近似ヘッセ行列を記憶する代わりに、近似ヘッセ行列を暗黙的に定義するいくつかのベクトルが記憶される。ここに示された特定の最適化アルゴリズムは、BFGS最適化アルゴリズムから導出される。限定されたメモリ版についてさらに詳しく説明する前に、まずBFGSアルゴリズムそのものを提示する。
【0140】
上述のように、準ニュートン法は、探索方向を計算するために近似ヘッセ行列を利用する。近似ヘッセ行列の式を導出するために、エネルギー関数は次式で得られる二次関数Mによって局所的に近似される。
式中、pは探索方向であり、BはSにおける近似ヘッセ行列である。行列Bは対称かつ正定でなければならない。∇M(0)=∇E(S)及び∇M(-αk-1pk-1)=∇E(Sk-1)という制約を課すと、次の式をもたらす。
これはまた、
として定式化できる。式中sk-1=αk-1k-1及びyk-1=∇E(S)-∇E(Sk-1)である。この式を解くための必要条件は、
により得られる。Bは正定値でなければならないからである。この条件は、直線探索アルゴリズムに制約を課し、Wolfeまたは強力なWolfeの条件が満たされている場合に有効である。Bを式75から推定すると、対称性と正定の制約が与えられても、依然として不確定な問題が生じる。したがって、追加の制約が課される。可能な制約は、適切な行列ノルムを使用して、行列Bを行使して、以前の反復から行列Bk-1に近付ける。しかし、BFGS法は、これらの制約を近似ヘッセ行列Hの逆行列に強制する。したがって、行列Hk+1は、以下の問題の解である。
min||H-Hk-1||、H=H及びHy=sに供されている。
【0141】
これにより、行列Hを更新する以下の式に至る。
したがって、BFGSアルゴリズムの各反復は、以下のステップから構成される。最初に、新しい探索方向pが、式78によって与えられるように計算される。次に、直線探索アルゴリズムが、適切なステップの長さαを選択するために使用され、それに応じて解Sk+1が計算される。最後に、s及びyが計算され、行列Hk+1が式77によって与えられるように更新される。上記のように、LBFGSアルゴリズムはBFGSアルゴリズムの限定されたメモリ版である。LBFGSアルゴリズムは、暗黙で行列Hの修正版を格納し、それは多数のベクトル対{(s,y)}、i=k-m,...,kを記憶することによってなされ、式中mは対の数を表す。これらから、積H∇E(S)は、一連の内積及びベクトルの総和として計算することができる。新しい反復が計算された場合、最も古い対(sk-m-1,yk-m-1)は最新の対(s,y)に置き換えられる。初期行列H (各反復において異なる可能性がある)が与えられると、行列Hは、以下のように計算できる。
【0142】
上述した直線探索に基づく数値最適化アルゴリズムの実際的な実施態様をこれから提示する。目的は、必要な入力、モデルなどを考慮して、仮想の歯のセットアップアルゴリズムの最適化手順を詳述することである。
【0143】
歯の形状は、その形状に属する点の座標によって直接的に表すことができる。別の選択肢は、採用された統計的形状モデル、すなわち主成分分析(PCA)モデルを直接使用することである。PCAは、モデルによって許容される各形状xの線形定式化を可能にし、
により得られる。式中xは平均的な形状であり、{e}(i=1,...,s)は主成分であり、{b}(i=1,...,s)は変形係数である。この式から、モデルによって許容される形状は、PCAの次元削減能力を直接利用する変形係数のセットによって表せることになる。この手法の利点は、メモリ要件及び計算時間の点で効果的な、より低い次元の最適化問題につながることである。一方、モデルによって許容される形状のみを提示することができ、柔軟性が低下する。これは、利用可能な訓練サンプルの量に対するいくつかの要求を提起する。ここで提示される仮想の歯のセットアップアルゴリズムは、変形係数に基づく表現を利用する。
【0144】
上で指摘したように、数値最適化アルゴリズムが成功するには、良好な開始位置(または初期仮想の歯のセットアップ)が必要である。開始位置の質と使用者からの必要な入力との間のトレードオフは、開始位置として平均的な仮想の歯のセットアップを提供することである。
【0145】
異なる統計モデル、平面対称変換などは、すべて、平均的な仮想の歯のセットアップと同じ基準フレームで定義される。一方、使用者によって入力された解剖学的表面メッシュは、異なる基準フレームで配置される。したがって、解剖学的表面メッシュは、平均的な仮想の歯のセットアップとアライメントされるべきである。信頼性の高い有効な手法は、平均的な仮想の歯のセットアップで定義された解剖学的目印を使用することである。これにより、使用者は、解剖学的表面メッシュにこれらの目印を付加的な入力として提供することが必要となる。
【0146】
数値最適化アルゴリズムはすべて、エネルギー関数∇E(S)の勾配を利用する。勾配は、異なる仮想の歯のセットアップパラメータに関する偏導関数を含むベクトルである。これらのパラメータは、仮想の歯のセットアップの各々の歯のポーズ及び変形係数を含む。ポーズパラメータは、並進成分tx、及びtならびに回転成分ω、ω及びωを含む。変形係数は、式80におけるパラメータbである。
【0147】
【0148】
最適化手順を停止するために、2つの基準が使用される。第1に、2つの後続反復Sk+1及びSの間の変化が使用者制御閾値を下回るといつも、最適化が停止される。第2に、最大反復回数には限界がある。これにより、使用者はアルゴリズムの最大実行時間を制御できる。
【0149】
エネルギー関数は、アルゴリズムに課せられたすべての要件を符号化できるわけではない。これらの要件のいくつかは、後処理ステップによって満たすことができる。これにより、第2の最適化ステップの結果は、1つ以上の要件を満たすために後処理ステップにおいて変更される。後処理ステップによって解決できる2つの最も重要な要件は、重複及び咬合に関連する要件である。別のタイプの後処理は、様々な利用可能なライブラリからの歯冠を最終結果に適合させることである。
【0150】
アルゴリズムによって推定された歯に存在する解剖学的詳細のレベルは、多くの要因に依存する。単一の最も重要な要素は、訓練サンプルの質である。しかし、高い質の精巧な訓練データセットが利用可能であっても、使用される統計的形状モデルは、解剖学的な細部に個体差があるために、微細にした細部の一部の質を下げる。細部のレベルに影響する別の要因は、非剛体位置合わせに使用されるテンプレート歯冠の解像度である。主に計算上の理由から、この解像度はかなり粗いものになり、必然的に一部の解剖学的詳細が失われてしまう。これを克服するための可能な解決策は、ライブラリから入手可能な歯冠を、第2の最適化ステップから得られた歯に適合させることである。それぞれ異なる形の歯冠を備えた様々なライブラリが存在する。経験や好みに基づいて、使用するライブラリを使用者が指定できる。もう1つの選択肢は、使用可能なすべてのライブラリを試し、最適なものを選択することである。
【0151】
ライブラリの歯冠Cを第2の最適化ステップから得られた歯Tに適合させることは、両方の形状の間に対応する点を規定することによって達成される。対応する点に基づいて、ライブラリの歯冠Cを歯Tに向かって変形させる非剛体変形場が生成される。対応する点はオフラインの手順で生成されてファイルに保存され、そのため毎回再計算する必要がない。まず、対応する点を生成する手順を示す。続いて、非剛体変形場の計算について論じる。
【0152】
【0153】
対応する点が与えられると、様々な非剛体変形場を計算することができる。ここでは、薄板スプライン補間(TPS)変形場が使用されている。実際、TPSは、マッピング関数{s}、i=1,...,N及び{t}、i=1,...,Nに適合し、前者は歯T上の対応する点であり、後者は歯冠Cにある対応する点である。ライブラリの歯冠の結果として得られる変形は、任意の利用可能な非剛体位置合わせアルゴリズムを使用してさらに精緻化することができる。ただし、これにより計算時間が長くなる。
【0154】
仮想の歯のセットアップアルゴリズムに課される重要な要件は、隣接する歯が互いに重複するのを防ぐことである。前述のように、この要件は実際には制約があり、そのように扱う必要がある。しかし、この制約に関するエネルギー関数の数値最適化は計算上実行不可能である。したがって、この制約を満たすために追加の後処理ステップが含まれている。さらに、接点項が一部この制約を考慮に入れていることに留意すべきである。したがって、一般に、歯の形状のわずかな変更のみが必要とされる。
【0155】
重複除去の後処理ステップは、反復プロセスからなる。各反復には2つのステップがある。まず、最大重複点が検出される。第2に、歯の形状を、検出された点における重複を除去するように修正する。反復は、重複が存在する限り実行される。したがって、この手順は、2つの点の集合のアライメントのための一般的な位置合わせアルゴリズムに似ている。この処理ステップは一方向に適用され、隣接する歯の形状を考慮して1本の歯のみが変更される。最大重複点は、歯Rの表面に対する歯Tの各点xの符号付き距離を計算することによって検出される。次に、非最小抑制が極小点のみを保持する。最後に、重複する極小点が最大重複点として選択される。非最小抑制を、各点の距離を隣接する点の距離と比較する。点の距離が隣接点の距離よりも小さい場合、その点は保持される。隣接については、表面メッシュの辺に沿って定義される。場合により、小さな誤差閾値τは、数値の不正確さに対してよりロバストであるように使用される。
【0156】
重複点の検出後、検出された重複を除去するために歯Tの形状が変形される。変形は非剛体変換によって効果的にモデル化することができる。重複点の集合{s∈R}が与えられると、この非剛体変換を定義できるようにするためには、目標点の集合{t∈R}が必要となる。目標点は、重複点sに最も近い隣接する歯Rの表面上の点tとして定義される。隣接する歯Rの表面の特定のオフセットに目標点を定義することも可能である。点の集合{s}と{t}の両方が与えられると、非剛体変換が生成され得る。この変換は、異なる後処理ステップの順序に応じて、シェル変換または薄板スプライン変換のいずれかにできる。
【0157】
仮想の歯のセットアップアルゴリズムを受け入れるために最も重要な要件は、咬合情報を考慮に入れることである。前に指摘したように、完全な咬合関係を確立することは非常に複雑である。対合歯の歯冠に関する情報と、自然な顎の動きに関するシミュレーションが必要である。しかし、この情報を仮想の歯のセットアップアルゴリズムに組み込むことは、現在のセットアップでは実現不可能である。したがって、対合歯の歯冠の形状を考慮に入れた追加の後処理ステップが導入される。この後処理ステップは、歯科技工士によりさらに洗練されるはずの良好な初期推定をもたらす。
【0158】
初期咬合関係を確立する手順は、前の節で提示した重複除去ステップに密接に関連している。前の後処理ステップと同様に、この後処理ステップも反復処理からなり、各反復は2つのステップからなる。最初のステップでは、咬合接点が定義される。第2のステップでは、定義された接点で完全な咬合接触を得るように歯の形状が変形される。反復は、2つの連続する反復の間に関連する変化が生じるまで実行される。
【0159】
【0160】
【0161】
非剛体変換にこれを課す洗練した方式は、接点の変形を定義するだけでなく、それらの隣接点についても定義するものである。
【0162】
さらに、唯一歯の咬合領域に変形が生じることが望まれる。残りの歯は、アルゴリズムによって最適な意味で配置され、設計される。したがって、固定点の集合{f∈R}が各々の歯に対して定義される。開いているテンプレートの歯冠が使用される場合、境界に沿った点は固定されていると定義される。さもなければ、閉じたテンプレートの歯冠が使用される場合、インプラント側面の歯冠の側面は固定されたものとして定義される。
【0163】
咬合接点の集合{s}、目標点の集合{t}、及び固定点の集合{f}が得られると、非剛体変換が生成できる。この変換は、異なる後処理ステップの順序に応じて、シェル変換または薄板スプライン変換のいずれかにできる。
【0164】
この後処理ステップの前提条件は、対合歯表面の利用可能性である。この表面は、対向する顎の関連する歯冠を単一の表面メッシュとして含むべきものである。さらに、それは、患者の真の解剖学的構造を模倣するための正しい咬合関係に位置付けられるべきものである。歯科用のほとんどの表面スキャナにより、対向する顎のスキャンと正しい咬合関係の記録は可能になる。
【0165】
上に概説した現在の手順は、正しい咬合関係の一方向の確立に限定される。したがって、それらの間の正しい咬合を確実にすることなどのために上顎と下顎の両方で歯冠を変形させることは、不可能である。
【0166】
この手法は、重複除去の後処理ステップに非常に類似している。したがって、両方の後処理ステップは、重複を除去して良好な咬合関係を確立する単一の後処理ステップで組み合わせることができる。
【0167】
本発明は、複数の欠損した前歯を有する患者の場合について説明している。より具体的には、右側切歯から左犬歯までの歯が欠損している場合である。この患者の場合、対合歯情報は利用できない。したがって、咬合後処理ステップならびに対合歯重複項は使用できない。残りのすべての歯は、欠損歯を推定する本発明のアルゴリズムが使用される。ライブラリの歯冠は、アルゴリズムの第2の最適化ステップからの解に適合する。正面、咬合面、左右の視点から得たその結果を図12に示す。この図から分かるように、推定された歯が患者の歯列弓に完全に適合している。
【0168】
本発明を図面及び前述の説明において詳細に図示し説明してきたが、そのような図示及び説明は、図解をするものや例示的なものであり、限定的なものではないとみなすべきである。前述の記載は、本発明の特定の実施形態を詳細に記載している。しかし、上記のことがどのように詳細に文で記載されているとしても、本発明は多くの方法で実施され得ることが理解されるであろう。本発明は開示された実施形態に限定されない。
【0169】
開示された実施形態に対する他の変更は、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求されている発明を実施する上で当業者によって理解され、達成され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語は他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。単一のプロセッサまたは他のユニットが、請求項に列挙されたいくつかの項目の機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが効果的に使用できないことを示すものではない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒にまたは他のハードウェアの一部として共に供給される光学記憶媒体またはソリッドステートの媒体のような適切な媒体に記憶/分散され得るが、他の形態、例えばインターネットまたは他の有線もしくは無線の電気通信システムを介して分散することもできる。特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
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