(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド、インクジェット装置、及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20220725BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 303
(21)【出願番号】P 2019002502
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伊左雄
(72)【発明者】
【氏名】兼古 佳明
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-016933(JP,A)
【文献】特開2014-004715(JP,A)
【文献】特開2010-131939(JP,A)
【文献】特開2020-090054(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080265(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有するノズルプレートと、
前記ノズルプレートに接合される接合面を有する複数の壁部と、前記壁部の一方側に配され複数の前記ノズルに連通する圧力室を形成する複数の第1の溝と、前記壁部の他方側に配される複数の第2の溝と、を有するアクチュエータベースと、を備え、
複数の前記壁部の前記接合面と前記ノズルプレートとの間に接着剤を介して、前記ノズルプレートと前記アクチュエータベースとが接合され、複数の前記壁部のうち過半数の前記壁部において、前記接着剤が前記第1の溝側よりも前記第2の溝側に偏って配されるインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットヘッドと、
所定の搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送装置と、を備えることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項3】
ノズルを有するノズルプレートと、前記ノズルプレートに接合される接合面を有する壁部、前記壁部の一方側に配され前記ノズルに連通する第1の溝、及び前記壁部の他方側に配される第2の溝をそれぞれ複数有するアクチュエータベースと、を前記壁部の接合面において前記第1の溝側よりも前記第2の溝側に偏って配される接着剤を介して接合する、インクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記壁部または前記ノズルプレートに前記接着剤を塗布する際に、塗布領域あるいは塗布量を、前記第2の溝側に偏らせて塗布する、請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記ノズルプレートと前記アクチュエータベースとが、前記壁部と前記ノズルプレートとの間に前記接着剤が配されて貼付された状態で、前記第1の溝の圧力を、前記第2の溝の圧力よりも高くすることにより、前記接着剤を前記第2の溝側に偏らせる、請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッド、インクジェット装置、及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の圧力室を備えるシェアモードシェアードウォール方式のインクジェットヘッドにおいて、ノズルに連通する複数の圧力室と、複数の圧力室間に配される複数の空気室とを、所定の並列方向に交互に備える構成が知られている。このような液体吐出ヘッドは、圧力室や空気室を構成する複数の溝を有するアクチュエータベースに、ノズルプレートを、例えば接着剤により接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインクジェットヘッドにおいて、接着剤の塗布位置の制御が難しく、圧力室にはみ出してしまうこともある。はみ出した接着剤がノズルにかかると、インク滴の吐出性能に悪影響を与え印字品質が低下する原因となる。一方で、接着剤のはみ出しを抑えるために接着剤の塗布量を減らすと、接合強度の不足により耐圧性が損なわれる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、吐出性能及び耐圧性を確保できるインクジェットヘッド、インクジェット装置、及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態にかかるインクジェットヘッドは、ノズルプレートと、アクチュエータベースと、を備える。ノズルプレートは複数のノズルを有する。アクチュエータベースは、複数の壁部と、複数の第1の溝と、複数の第2の溝と、を有する。壁部は、前記ノズルプレートに接合される接合面を有する。第1の溝は、前記壁部の一方側に配され複数の前記ノズルに連通する圧力室を形成する。第2の溝は、前記壁部の他方側に配される。複数の前記壁部の前記接合面と前記ノズルプレートとの間に接着剤を介して、前記ノズルプレートと前記アクチュエータベースとが接合される。複数の前記壁部のうち過半数の数の前記壁部において、前記第1の溝側よりも前記接着剤が前記第2の溝側に偏って配される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す分解斜視図。
【
図2】同インクジェットヘッドの一部の構成を示す斜視図。
【
図3】同インクジェットヘッドの一部の構成を示す断面図。
【
図4】同インクジェットヘッドの製造方法を示す説明図。
【
図5】同インクジェットヘッドを用いたインクジェットプリンタの構成を示す説明図。
【
図6】他の実施形態にかかるインクジェットヘッドの製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッド1及びインクジェット装置であるインクジェットプリンタ100について、
図1乃至
図5を参照して説明する。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。図中矢印X、Y,Zは、互いに直交する3方向を示している。本実施形態において、インクジェットヘッド1の第1方向がX軸に、第2方向がY軸に、第3方向がZ軸に、それぞれ沿って配置された例を示す。
【0009】
図1は、第1実施形態に係るインクジェットヘッド1の一部を示す分解斜視図であり、
図2は、インクジェットヘッド1の一部の構成を示す斜視図、
図3はインクジェットヘッド1の一部の同断面図である。
【0010】
図1乃至
図6に示すインクジェットヘッド1は、液体吐出ヘッドであり、アクチュエータベース20と、ノズルプレート30と、フレーム40と、を備える。インクジェットヘッド1は、シェアモードシェアードウォール方式のインクジェットヘッドである。
【0011】
アクチュエータベース20は、基板21と、積層圧電体22と、を備える。アクチュエータベース20は、フレーム40を挟んでノズルプレート30に対向して接合され、ノズルプレート30との間に共通室C3を形成する。
【0012】
基板21は、方形の板状に構成されている。基板21は、好ましくは、PZT、セラミックス、ガラス、快削性セラミックス、あるいはこれらを含む材料で、構成される。基板21は、厚さ方向に貫通する貫通孔である供給孔21a及び回収孔21bをそれぞれ複数有する。
【0013】
積層圧電体22は、基板21のノズルプレート30側の面に形成される。本実施形態において、基板21の主面に、所定の第1方向に沿って延びる積層圧電体22が2本並列配置される。積層圧電体22は、2枚の圧電部材が積層されて構成される。圧電部材は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系圧電セラミックス材料で構成されている。この他、圧電部材として、環境に配慮してKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)等の無鉛系圧電セラミックスを使用してもよい。2枚の圧電部材は分極方向が逆向きになるように分極され、接着層を介して接着されている。
【0014】
積層圧電体22の、ノズルプレート30と対向する端面には、第1方向に並ぶ複数の溝23を有する溝列23Aが形成されている。積層圧電体22の第1方向及び第3方向に沿う断面形状は櫛歯形状である。隣接する溝23の間に圧電素子で構成された支柱状の隔壁部25が形成される。隔壁部25は、溝23の容積を変化させる駆動素子となる。
【0015】
溝列23Aは、複数の第1の溝23aと、複数の第2の溝23bとが、第1方向に交互に配列されている。複数の溝23は、第1方向に複数並列して配置され、第2方向に沿って延び、互いに平行に配される。溝23a,23bはそれぞれ、積層圧電体22の第2方向の全長に亘って形成されている。すなわち、溝23a,23bは、ノズルプレート30側に開口する。各溝23a,23bの内面底部及び両側面には、電極24が形成されている。
【0016】
第1の溝23aは、第2方向の両端が、フレーム部材41の開口部41a内で開口し、共通室C3に連通する。第1の溝23aはノズル31に対向する位置にそれぞれ設けられ、ノズル31と同数設けられている。第1の溝23aは、共通室C3に連通するとともにノズル31に連通する圧力室C1を構成する。
【0017】
第2の溝23bの第2方向の両端部には、光硬化性樹脂で構成されたカバー壁27が設けられている。カバー壁27は第2の溝23bの第2方向の両端を閉塞する。第2の溝23bは、第2方向の両端を覆うカバー壁27と第3方向を覆うノズルプレート30、第1方向両側に配される隔壁部25により、閉塞され、圧力室C1や共通室C3から隔てられた空気室C2を構成する。
【0018】
隔壁部25は、複数の溝23の間に配され、第2方向に沿って延びる、例えば直方体状の壁状部材である。隔壁部25は、第1の圧電素子25aと、第1の圧電素子25aに積層される第2の圧電素子25bと、が積層された圧電素子で構成される。隔壁部25のノズルプレート30側の端面である接合面25cは、接着剤50を介して、ノズルプレート30に接合される。隔壁部25の接合面25cがノズルプレート30に接着されることにより、第2の溝23bで構成される空気室C2が閉塞される。
【0019】
接着剤50は例えば、耐インク性に有効なエポキシ系の接着剤を用いる。例えば本実施形態においては、硬化時に80℃に加熱するタイプの接着剤を用いる。接着剤50は、隔壁部25の一方側に配される第1の溝23aよりも、他方側に配される第2の溝23b寄りに偏って配される。
【0020】
インクジェットヘッド1は、過半数、一例として80%以上の数のノズル31において、対向する隔壁部25との間の接着剤50の位置が、隔壁部25の中央よりも、第2の溝23b側にあり、接着剤50の塗布領域の第1の溝23a側の端縁は、隔壁部25の端縁から突出せずに退避している。また、接着剤50の塗布量は均一ではなく、第2の溝23b側の塗布量が多い。接着剤50が隔壁部25の接合面25cから溝側に突出したはみ出し量は、第1の溝23a側よりも第2の溝23b側の方が多い。
【0021】
一例として、本実施形態においては、複数のノズル31のうち80%以上の数のノズル31に対向する圧力室C1とその隣の空気室C2の間の隔壁部25において、接着剤50の塗布領域の中央が、隔壁部25の中央よりも、第2の溝23b側にあり、第1の溝23aにはみ出ない位置関係になっている。
【0022】
ここで、インクジェットヘッド1の製造工程の一例として、接着剤50を第2の溝23b側に偏らせて、アクチュエータベース20とノズルプレート30とを接合する方法について説明する。インクジェットヘッド1の製造工程において、アクチュエータベース20とノズルプレート30とを接合する接合処理は、接着剤50を隔壁部25の接合面25cに塗布する塗布工程と、接着剤50の塗布後にアクチュエータベース20にノズルプレート30を貼り付ける貼付工程と、接着剤50を硬化させる硬化工程と、を備える。
【0023】
本実施形態においては、一例として、例えば
図4に示すように、接着剤50を接合面25cに塗布する塗布処理において、接着剤50を、隔壁部25の接合面25cにおいて、第2の溝側の位置に塗布する。具体例として例えば接着剤50の塗布領域の中心が、接合面25cの中央よりも、第2の溝23bよりの位置に配置される。本実施形態においては、中央よりも第2の溝側の半分の領域に、塗布する。以上のように、塗布位置をずらして接着剤を塗布することで、接着剤50の位置が偏ったインクジェットヘッド1となる。
【0024】
電極24はニッケルなどの導電性材料で構成される導電膜である。電極24は第1の溝23aの底部に形成され、基板21上の配線パターン26に接続されている。電極24は、例えば、真空蒸着法や無電解ニッケルメッキ法等の手法で形成される。電極24は、例えば金や銅等で形成してもよい。あるいは2種以上の導電性の膜を積層しても良い。
【0025】
配線パターン26(配線電極)は、例えば電極24と同様のニッケルなどの導電性材料で形成され所定のパターン形状を有する導電膜である。配線パターン26は、基板21の主面に形成される。配線パターン26は、例えば真空蒸着法や無電解メッキ法等の手法で電極24を形成する際に、同時に形成される。なお、配線パターン26はフレーム部材41の外側に至って形成され、フレーム部材41の外側に露出した部分においてFPCなどにより駆動回路を接続することができる。
【0026】
アクチュエータベース20の、ノズルプレート30とは反対側の面には、所定のインク流路を形成するマニフォルドが接続される。マニフォルドは、共通室C3に連通するとともに供給流路133aに連通する流路である供給路と、共通室C3に連通するとともに回収流路133bに連通する回収路と、を備える。例えばマニフォルドの外面には例えば駆動ICを搭載した回路基板が設けられており、駆動ICはFPC(Flexible Printed Circuits)及び配線パターンを介して、電極24に電気的に接続される。
【0027】
ノズルプレート30は、例えばポリイミドフィルム等の樹脂素材から、矩形の板状に構成されている。ノズルプレート30には、厚さ方向に貫通する複数のノズル31が形成される。複数のノズル31は各圧力室C1にそれぞれ連通する。本実施形態においてはノズル31が2列に配列され、各列にそれぞれ600個のノズル31が並列して配置される。ノズルプレート30は、アクチュエータベース20に対向配置され、基板21上の溝列23Aを覆うことで、第2の溝23bの開口を塞ぐとともに、第1の溝23aで構成される圧力室C1がノズル31に連通する。
【0028】
フレーム40は、矩形の枠状に構成され、中央に矩形の開口部41aを形成するフレーム部材41を備える。フレーム部材41は所定の厚さを有し、アクチュエータベース20とノズルプレート30との間に配されることで、開口部41aに配されるアクチュエータベース20の第1の溝23aに連通する共通室C3を形成する。
【0029】
以上のように構成されたインクジェットヘッド1は、アクチュエータベース20とノズルプレート30とフレーム40とを組み付けた状態で、フレーム部材41の開口部41a内において、ノズル31に連通する複数の圧力室C1と、ノズルプレート30及びカバー壁27で塞がれた複数の空気室C2と、複数の圧力室C1に連通する共通室C3と、が形成される。圧力室C1と空気室C2とは第1方向において交互に並んで配されるとともに圧電素子で構成された隔壁部25によって仕切られている。
【0030】
次に、インクジェットヘッド1を有するインクジェットプリンタ100について、
図5を参照して説明する。
図5はインクジェットプリンタ100の構成を示す説明図である。
図5に示すように、インクジェットプリンタ100は、筐体111と、媒体供給部112と、画像形成部113と、媒体排出部114と、搬送装置115と、制御部116と、を備える。
【0031】
インクジェットプリンタ100は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る所定の搬送経路A1に沿って、吐出対象物である記録媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行う液体吐出装置である。
【0032】
媒体供給部112は複数の給紙カセット112aを備える。媒体排出部114は、排紙トレイ114aを備える。画像形成部113は、用紙を支持する支持部117と、支持部117の上方に対向配置された複数のヘッドユニット130と、を備える。
【0033】
支持部117は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト118と、搬送ベルト118を裏側から支持する支持プレート119と、搬送ベルト118の裏側に備えられた複数のベルトローラ120と、を備える。
【0034】
ヘッドユニット130は、複数のインクジェットヘッド1と、各インクジェットヘッド1上にそれぞれ搭載された液体タンクとしての複数のインクタンク132と、インクジェットヘッド1とインクタンク132とを接続する接続流路133と、循環部である循環ポンプ134と、を備える。ヘッドユニット130は、液体を循環させる循環型のヘッドユニットである。
【0035】
本実施形態において、インクジェットヘッド1としてシアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色のインクジェットヘッド1C,1M,1Y,1Bと、これらの各色のインクをそれぞれ収容するインクタンク132として、インクタンク132C,132M,132Y,132Bを備える。インクタンク132は接続流路133によってインクジェットヘッド1に接続される。接続流路133は、インクジェットヘッド1の供給口に接続される供給流路133aと、インクジェットヘッド1の排出口に接続される回収流路133bと、を備える。
【0036】
また、インクタンク132には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結されている。そして、インクジェットヘッド1とインクタンク132との水頭圧に対応して、負圧制御装置によりインクタンク132内を負圧制御することで、インクジェットヘッド1の各ノズルに供給されたインクを所定形状のメニスカスに形成させている。
【0037】
循環ポンプ134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。循環ポンプ134は、供給流路133aに設けられている。循環ポンプ134は、配線により制御部116の駆動回路に接続される。CPU(Central Processing Unit)116aは循環ポンプ134を制御可能に構成されている。循環ポンプ134は、インクジェットヘッド1とインクタンク132を含む循環流路で液体を循環させる。
【0038】
搬送装置115は、媒体供給部112の給紙カセット112aから画像形成部113を通って媒体排出部114の排紙トレイ114aに至る搬送経路A1に沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置115は、搬送経路A1に沿って配置される複数のガイドプレート対121a~121hと、複数の搬送用ローラ122a~122hと、を備えている。
【0039】
制御部116は、コントローラであるCPU116aと、各種のプログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)と、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部と、を備える。
【0040】
インクジェットヘッド1及びインクジェットプリンタ100において、ノズル31から液体を吐出する駆動時には、制御部116は、駆動回路により、配線パターン26を介して駆動電圧を印加する。電圧の印加により駆動する圧力室C1内の電極と、両隣の空気室C2の電極に電位差を与えると、第1の圧電素子25aと第2の圧電素子25bは互いに逆向きに変形し、両圧電素子の変形により、駆動素子が屈曲変形する。例えば、まず駆動する圧力室C1を開く方向に変形させ圧力室C1内を負圧にすることで、インクを圧力室C1内に導く。続いて、圧力室C1を閉じる方向に変形させ、圧力室C1内を加圧することで、ノズル31からインク滴を吐出させる。
【0041】
以上のように構成されたインクジェットヘッド1及びインクジェットプリンタ100の動作について説明する。制御部116は、例えばユーザーの操作入力や外部からの指令に基づき印刷指示を検出する。そして、印刷指示を検出すると、制御部116は、搬送装置115を駆動して用紙Pを搬送するとともに、所定のタイミングでヘッドユニット130に対して印字信号を出力することで、インクジェットヘッド1を駆動する。インクジェットヘッド1は吐出動作として、画像データに応じた画像信号により、圧電素子を選択的に駆動してノズル31からインクを吐出して、搬送ベルト118上に保持された用紙Pに画像を形成する。
【0042】
液体吐出動作として、CPU116aは、駆動回路により配線パターン26を介して積層圧電体22上の電極24に駆動電圧を印加することで、積層圧電体22を変形させる。例えば、駆動する圧力室C1の容積を増大させる方向に変形させ、圧力室C1内を負圧にすることで、インクが圧力室C1内に導かれる。一方、圧力室C1の容積が減少する方向に変形させ、圧力室C1内を加圧することで、ノズル31からインク滴が吐出する。この圧力室C1の容積の変動により、圧力室C1に対向配置された一対のノズル31から、液滴Idが吐出される。そして、対向配置された用紙Pに液滴Idが噴射される。
【0043】
本実施形態にかかるインクジェットヘッド1及びインクジェットプリンタ100によれば、吐出性能及び耐圧性を確保できるインクジェットヘッド、インクジェット装置、及びインクジェットヘッドの製造方法を提供できる。すなわち、接着剤50を、ノズル31に連通しないダミーの空気室C2に偏らせることで、必要な量の接着剤50を塗布することができ、高い接着強度を確保することで耐圧性を確保できるとともに、接着剤50が圧力室C1側に侵入するのを防止し、液体吐出性能への影響を回避できる。また、塗布位置を変えるだけで実現可能であるため、既存の製造装置及び製造工程を利用することができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0045】
上記第1実施形態においては、一例として、接着剤50を接合面25cに塗布する塗布処理において塗布領域を調整する例を示したが、これに限られるものではない。例えば、他の実施形態として、
図6に示すように、貼付処理後の硬化工程において、第1の溝23aと第2の溝23bの圧力差を設けることにより、接着剤の位置を制御してもよい。具体的には、インクジェットヘッド1の製造工程において、アクチュエータベース20とノズルプレート30とを接合する接合処理は、接着剤を隔壁部25の接合面25cに塗布する塗布工程と、接着剤の塗布後にアクチュエータベース20にノズルプレート30を貼り付ける貼付工程と、接着剤を硬化する硬化工程と、を備える。
【0046】
本実施形態において、接着剤50として、耐インク性に有効なエポキシ系の接着剤であって、硬化時に80℃に加熱するタイプの接着剤を用いる。本実施形態においては、接着剤50を接合面25cに塗布し、ノズルプレート30を隔壁部25に貼り付けて組付けた後に、組付け部品を加熱して硬化させる際、加圧加熱チャンバに入れる。すなわち、組付け部品ごと、高圧の環境に晒すことにより、閉塞された空気室C2内の圧力を、外部と連通する圧力室C1内の圧力よりも低くする。このため、接着剤50が完全に硬化するまでの間に、接着剤50が、圧力の低い空気室C2側に流れ、接着剤50の位置が偏る。例えば塗布処理においては隔壁部25の接合面25cの中心に塗布した場合にも圧力差により接着剤を偏らせることができる。この実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、第1の溝23aすなわち圧力室C1側に接着剤が侵入するのを防ぐことができ、耐圧性と吐出性能を確保できる。また、組付け部品を加圧チャンバに入れるだけで、圧力室C1と、空気室C2とに圧力差を生じさせることができ、容易に接着剤の領域を制御できる。
【0047】
また、上記実施形態においては、基板21上に圧電部材からなる積層圧電体22を備えたアクチュエータベース20を例示したが、これに限るものではない。例えば基板21を用いずに圧電部材のみでアクチュエータベース20を形成しても良い。また、2枚の圧電部材を用いずに、1枚の圧電部材としてもよい。
【0048】
また、吐出する液体はインクに限られるものではなく、インク以外の液体を吐出することもできる。インク以外を吐出する液体吐出装置としては、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0049】
インクジェットヘッド1は、上記の他、例えば振動板を変形してインク滴を吐出する構造、あるいはヒータ等の熱エネルギーを利用してノズルからインク滴を吐出する構造等でもよい。
【0050】
インクジェットヘッド1は、圧力室C1を1つおきに配する構成を例示したが、これに限られるものではない。例えば、一対の圧力室C1、C1の間に2つ以上のダミーの空気室C2を配してもよく、この場合においても圧力室C1と空気室C2との間の隔壁部25の接着剤50の位置を空気室C2側に寄らせることによって接着強度と耐圧性を確保しながら、ノズルの液体吐出性能を維持できる。
【0051】
また、上記実施形態において、液体吐出装置はインクジェット記録装置に用いられる例を示したが、これに限られるものではない。例えば3Dプリンタ、産業用の製造機械、医療用途にも用いることが可能であり、小型軽量化及び低コスト化が可能である。
【0052】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば吐出性能及び耐圧性を確保できるインクジェットヘッド、インクジェット装置、及びインクジェットヘッドの製造方法を提供できる。
【0053】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1(1C、1M、1Y、1B)…インクジェットヘッド、20…アクチュエータベース、21…基板、21a…供給孔、21b…回収孔、22…積層圧電体、23…溝、23A…溝列、23a…第1の溝、23b…第2の溝、24…電極、25…隔壁部(壁部)、25a…第1の圧電素子、25b…第2の圧電素子、25c…接合面、26…配線パターン、27…カバー壁、30…ノズルプレート、31…ノズル、40…フレーム、41…フレーム部材、41a…開口部、50…接着剤、100…インクジェットプリンタ、111…筐体、112…媒体供給部、112a…給紙カセット、113…画像形成部、114…媒体排出部、114a…排紙トレイ、115…搬送装置、116…制御部、116a…CPU、117…支持部、118…搬送ベルト、119…支持プレート、120…ベルトローラ、121a~121h…ガイドプレート対、122a~122h…搬送用ローラ、130…ヘッドユニット、132…インクタンク、133…接続流路、133a…供給流路、133b…回収流路、134…循環ポンプ、A1…搬送経路、C1…圧力室、C2…空気室、C3…共通室。