(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
F27B 9/02 20060101AFI20220725BHJP
F27B 9/30 20060101ALI20220725BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
F27B9/02
F27B9/30
F27D7/06 B
(21)【出願番号】P 2019005478
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2020-10-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591076109
【氏名又は名称】エヌジーケイ・キルンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 智明
(72)【発明者】
【氏名】有馬 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩治
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-169137(JP,A)
【文献】特開2002-310563(JP,A)
【文献】特開平01-181966(JP,A)
【文献】特開平11-257862(JP,A)
【文献】特開昭63-169479(JP,A)
【文献】特開2015-210072(JP,A)
【文献】特開平5-70822(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2014-0088352(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00-21/14
F27D 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を熱処理する熱処理炉であって、
前記被処理物を第1の温度で熱処理する第1空間と、前記被処理物を前記第1の温度と異なる第2の温度で熱処理する第2空間と、前記第1空間と前記第2空間とを隔離する隔壁と、を備える炉体と、
前記第1空間の一端から前記第2空間の他端まで前記被処理物を搬送する搬送装置と、を備えており、
前記隔壁は、
前記第1空間と前記第2空間とを連通させる連通通路と、
前記隔壁内に設けられ、前記第1空間及び前記第2空間から隔離されると共に前記連通通路と連通する第3空間と、を備えており、
前記隔壁は、前記第1空間と前記第3空間とを隔離する第1部分と、前記第2空間と前記第3空間とを隔離する第2部分と、をさらに備えており、
前記第1の温度は、前記第2の温度より高くされており、
前記第3空間の搬送方向の寸法は
、前記第1部分の搬送方向の寸法より小さくされて
おり、
前記炉体に設けられ、その一端が前記第3空間と連通する一方でその他端が前記炉体の外部に連通し、前記第3空間内のガスを前記炉体の外部に排出する排気流路と、
前記炉体に設けられ、その一端が前記第3空間と連通する一方でその他端が前記炉体の外部に連通し、前記炉体の外部から前記第3空間内にガスを供給する給気流路と、をさらに備えており、
前記搬送装置は、前記第3空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度が、前記第1空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度より大きく、かつ、前記第2空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度よりも大きくなるように構成されている、熱処理炉。
【請求項2】
被処理物を熱処理する熱処理炉であって、
前記被処理物を第1の温度で熱処理する第1空間と、前記被処理物を前記第1の温度と異なる第2の温度で熱処理する第2空間と、前記第1空間と前記第2空間とを隔離する隔壁と、を備える炉体と、
前記第1空間の一端から前記第2空間の他端まで前記被処理物を搬送する搬送装置と、を備えており、
前記隔壁は、
前記第1空間と前記第2空間とを連通させる連通通路と、
前記隔壁内に設けられ、前記第1空間及び前記第2空間から隔離されると共に前記連通通路と連通する第3空間と、を備えており、
前記隔壁は、前記第1空間と前記第3空間とを隔離する第1部分と、前記第2空間と前記第3空間とを隔離する第2部分と、をさらに備えており、
前記第2の温度は、前記第1の温度より高くされており、
前記第3空間の搬送方向の寸法は
、前記第2部分の搬送方向の寸法より小さくされて
おり、
前記炉体に設けられ、その一端が前記第3空間と連通する一方でその他端が前記炉体の外部に連通し、前記第3空間内のガスを前記炉体の外部に排出する排気流路と、
前記炉体に設けられ、その一端が前記第3空間と連通する一方でその他端が前記炉体の外部に連通し、前記炉体の外部から前記第3空間内にガスを供給する給気流路と、をさらに備えており、
前記搬送装置は、前記第3空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度が、前記第1空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度より大きく、かつ、前記第2空間を前記被処理物が搬送されるときの搬送速度よりも大きくなるように構成されている、熱処理炉。
【請求項3】
前記炉体には、前記第1空間内に配置され、前記第1空間内を前記第1の温度に調整可能な第1ヒータと、前記第2空間内に配置され、前記第2空間内を前記第2の温度に調整可能な第2ヒータと、が設けられている一方、前記第3空間内にはヒータが設けられていない、請求項1
又は2に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、被処理物を熱処理する熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉(例えば、ローラーハースキルン等)を用いて、被処理物を熱処理することがある。この種の熱処理炉では、炉体の内部空間を複数の空間に分割し、これらの空間を順に被処理物が搬送される。炉体内部の各空間の雰囲気温度を調整することで、被処理物の熱処理に必要な各工程(例えば、脱バインダー工程、焼成工程等)が実施される。複数の空間は、各工程に合わせてそれぞれ異なる雰囲気温度に調整される。例えば、特許文献1には、熱処理炉の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被処理物を所望の温度プロファイルで熱処理するためには、炉体内部の各空間の雰囲気温度を個別に制御し、各空間の雰囲気温度を適切に維持する必要がある。しかしながら、各空間において、雰囲気温度が異なる他の空間と隣接する領域近傍では、隣接する一方の空間から他方の空間への熱伝導等の影響によって、当該空間の雰囲気温度を所望の温度に適切に維持できないことがある。このため、隣接する雰囲気温度が異なる2つの空間の境界の近傍においては、被処理物が所望の温度プロファイルに制御することが難しいという問題が生じる。本明細書は、熱処理炉内の各空間の雰囲気温度を適切に維持する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する熱処理炉は、被処理物を熱処理する。熱処理炉は、被処理物を第1の温度で熱処理する第1空間と、被処理物を第1の温度と異なる第2の温度で熱処理する第2空間と、第1空間と第2空間とを隔離する隔壁と、を備える炉体と、第1空間の一端から第2空間の他端まで被処理物を搬送する搬送装置と、を備えている。隔壁は、第1空間と第2空間とを連通させる連通通路と、隔壁内に設けられ、隔壁によって第1空間及び第2空間から隔離されると共に連通通路と連通する第3空間と、を備えている。
【0006】
上記の熱処理炉では、第1空間と第2空間とを隔離する隔壁内に第3空間が設けられている。これによって、第1空間と第2空間のうちの一方の空間から他方の空間への熱伝達の影響を抑制することができる。このため、第1空間内の雰囲気温度と第2空間内の雰囲気温度をそれぞれ適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例に係る熱処理炉の概略構成を示す図であり、被処理物の搬送方向に平行な平面で熱処理炉を切断したときの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
(特徴1)本明細書が開示する熱処理炉は、炉体に設けられ、その一端が第3空間と連通する一方でその他端が炉体の外部に連通し、第3空間内のガスを炉体の外部に排出する排気流路をさらに備えていてもよい。このような構成によると、排気流路によって、連通通路を介して第3空間内に流れ込む第1空間内のガス及び第2空間内のガスが炉体の外部に排気される。これによって、連通通路を介して第1空間と第2空間との間をガスが移動することを抑制することができる。
【0010】
(特徴2)本明細書が開示する熱処理炉は、炉体に設けられ、その一端が第3空間と連通する一方でその他端が炉体の外部に連通し、炉体の外部から第3空間内にガスを供給する給気流路をさらに備えていてもよい。このような構成によると、給気流路から供給されるガスによって、第3空間内の温度を調整することができる。このため、第3空間の温度を第1空間の雰囲気温度及び第2空間の雰囲気温度に対して適切な温度に調整することで、連通通路を介して第1空間と第2空間との間をガスが移動することを抑制することができる。
【0011】
(特徴3)本明細書が開示する熱処理炉では、隔壁は、第1空間と第3空間とを隔離する第1部分と、第2空間と第3空間とを隔離する第2部分と、をさらに備えていてもよい。第3空間の搬送方向の寸法は、第1の温度が第2の温度より高いときは第1部分の搬送方向の寸法より小さくされており、第2の温度が第1の温度より高いときは第2部分の搬送方向の寸法より小さくされていてもよい。このような構成によると、第1部分と第2部分と第3空間の搬送方向の寸法が好適に調整され、第1空間と第2空間を熱的に隔離しながら、被処理物の加熱を目的としない第3空間の搬送方向の寸法を小さくすることができる。これによって、隔壁全体の搬送方向の寸法を小さくすることができ、熱処理工程が実行されない連通通路を被処理物が搬送される時間を短くすることができる。
【0012】
(特徴4)本明細書が開示する熱処理炉では、炉体には、第1空間内に配置され、第1空間内を第1の温度に調整可能な第1ヒータと、第2空間内に配置され、第2空間内を第2の温度に調整可能な第2ヒータと、が設けられている一方、第3空間内にはヒータが設けられていなくてもよい。隔壁は、第1空間と第2空間とを熱的に隔離するものであるため、隔壁に設けられた第3空間で被処理物を加熱する必要はなく、第3空間にヒータを設ける必要はない。また、第3空間にヒータが設けられていないことによって、第3空間の搬送方向の寸法を小さくすることができ、熱処理工程が実行されない連通通路を被処理物が搬送される時間を短くすることができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例に係る熱処理炉10について説明する。
図1に示すように、熱処理炉10は、炉体20と、被処理物12を搬送する搬送装置(52、54、56、58)を備えている。熱処理炉10は、搬送装置によって被処理物12が炉体20内を搬送される間に、被処理物12を熱処理する。
【0014】
被処理物12としては、例えば、セラミックス製の誘電体(基材)と電極とを積層した積層体や、リチウムイオン電池の正極材や負極材等が挙げられる。熱処理炉10を用いてセラミック製の積層体を熱処理する場合には、これらを平板状のセッターに載置して炉内を搬送することができる。また、熱処理炉10を用いてリチウムイオン電池の正極材や負極材を熱処理する場合には、これらを箱状の匣鉢に収容して炉内を搬送することができる。本実施例の熱処理炉10では、搬送ローラ52(後述)上に複数のセッターや匣鉢を搬送方向に並んだ状態で載置して搬送することができる。以下、本実施例においては、熱処理する物質と、その熱処理する物質を載置したセッターや収容した匣鉢を合わせた全体を「被処理物12」という。
【0015】
図1及び
図2に示すように、炉体20は、天井壁22と、底壁24と、側壁26a~26dによって囲まれており、内部に隔壁(30a、30b)を備えている。炉体20は、略直方形であり、天井壁22は、底壁24に対して平行に(すなわち、XY平面と平行に)配置されている。
図1に示すように、側壁26aは、搬送経路の入口端に配置されており、搬送方向に対して垂直に(すなわち、YZ平面と平行に)配置されている。側壁26bは、搬送経路の出口端に配置されており、側壁26aに対して平行に(すなわち、YZ平面と平行に)配置されている。
図2に示すように、側壁26c、26dは、搬送方向に対して平行、かつ、天井壁22及び底壁24に対して垂直に(すなわち、XZ平面と平行に)配置されている。
【0016】
図1に示すように、炉体20の内部空間は、隔壁(30a、30b)によって、第1空間40と第2空間42に分割されている。具体的には、隔壁30aは、側壁26a、26bの間の略中間の位置で天井壁22に固定されており、天井壁22から垂直下方に延びている。隔壁30bは、隔壁30aに対応する位置で底壁24に固定されており、底壁24から垂直上方に延びている。炉体20の内部は、隔壁(30a、30b)を境界として、第1空間40と第2空間42に分けられている。隔壁30aと隔壁30bの間は上下方向(Z方向)に離間しており、離間した間の空間には連通通路36が設けられている。炉体20の側壁26aには開口28aが形成され、側壁26bには開口28bが形成されている。被処理物12は、搬送装置によって開口28aから熱処理炉10内に搬送され、連通通路36を通り、開口28bから熱処理炉10の外へ搬送される。すなわち、開口28aは搬入口として用いられ、開口28bは搬出口として用いられる。
【0017】
第1空間40は、天井壁22と、底壁24と、側壁26a、26c、26dと、隔壁(30a、30b)によって囲まれている。第1空間40は、炉体20内において隔壁(30a、30b)によって第2空間42と遮断されることによって、第2空間42とは異なる雰囲気温度を維持することができる。第1空間40は、側壁26aに設けられた開口28aにより熱処理炉10の外に連通し、隔壁30aと隔壁30bの間の連通通路36により第2空間42に連通している。第1空間40には、複数の搬送ローラ52と、複数のヒータ44a、44bが配置されている。ヒータ44aは、搬送ローラ52の上方の位置に搬送方向に等間隔で配置され、ヒータ44bは搬送ローラ52の下方の位置に搬送方向に等間隔で配置されている。ヒータ44a、44bが発熱することで、第1空間40内が加熱される。
【0018】
第2空間42は、天井壁22と、底壁24と、側壁26b、26c、26dと、隔壁(30a、30b)によって囲まれている。第2空間42は、炉体20内において隔壁(30a、30b)によって第1空間40と遮断されることによって、第2空間42とは異なる雰囲気温度を維持することができる。第2空間42は、側壁26bに設けられた開口28bにより熱処理炉10の外に連通し、隔壁30aと隔壁30bの間の連通通路36により第1空間40に連通している。第2空間42には、複数の搬送ローラ52と、複数のヒータ44c、44dが配置されている。ヒータ44cは、搬送ローラ52の上方の位置に搬送方向に等間隔で配置され、ヒータ44dは搬送ローラ52の下方の位置に搬送方向に等間隔で配置されている。ヒータ44c、44dが発熱することで、第2空間42内が加熱される。第2空間42は、第1空間40と異なる雰囲気温度となるように設定されており、本実施例では、第2空間42の雰囲気温度は、第1空間40の雰囲気温度より高くされる。
【0019】
炉体20には、炉体20内にガスを供給する複数の給気流路46a~46cと、炉体20内のガスを排出する複数の排気流路48a~48cが設けられている。具体的には、給気流路46aは、底壁24に設けられ、側壁26aと隔壁30bの間であって隔壁30bの近傍に配置されている。すなわち、給気流路46aは、第1空間40内の搬送方向の下流側に設けられている。給気流路46aは、第1空間40と連通し、炉体20の外部から第1空間40内に雰囲気ガスを供給する。給気流路46aから第1空間40に雰囲気ガスが供給されることによって、第1空間40内のガス雰囲気が制御される。給気流路46bは、底壁24に設けられ、隔壁30bと側壁26bの間であって側壁26bの近傍に配置されている。すなわち、給気流路46bは、第2空間42内の搬送方向の下流側に設けられている。給気流路46bは、第2空間42と連通し、炉体20の外部から第2空間42内に雰囲気ガスを供給する。給気流路46bから第2空間42に雰囲気ガスが供給されることによって、第2空間42内のガス雰囲気が制御される。給気流路46cは、底壁24に設けられ、隔壁30bの第1部分32bと第2部分34b(後述)の間に配置されている。給気流路46cは、第3空間38(後述)と連通し、第3空間38内にガスを供給する。給気流路46a~46cには、炉体20の外部に配置されたガス供給源(図示省略)からガスが供給される。給気流路46a~46cのそれぞれに供給されるガスの流量は、制御装置60によって制御される。
【0020】
排気流路48aは、天井壁22に設けられ、側壁26aと隔壁30aの間であって側壁26aの近傍に配置されている。すなわち、排気流路48aは、第1空間40内の搬送方向の上流側に設けられている。排気流路48aは、第1空間40と連通し、第1空間40内の雰囲気ガスを炉体20の外部に排出する。排気流路48bは、天井壁22に設けられ、隔壁30aと側壁26bの間であって隔壁30aの近傍に配置されている。すなわち、排気流路48bは、第2空間42内の搬送方向の上流側に設けられている。排気流路48bは、第2空間42と連通し、第2空間42内の雰囲気ガスを炉体20の外部に排出する。排気流路48cは、天井壁22に設けられ、隔壁30aの第1部分32aと第2部分34a(後述)の間に配置されている。排気流路48cは、第3空間38(後述)と連通し、第3空間38内のガスを炉体20の外部に排出する。排気流路48a~48cからそれぞれ排出されるガスの流量は、給気流路46a~46cからそれぞれ供給されるガスの流量と対応するように制御装置60によって制御される。
【0021】
なお、本実施例では、各空間40、42内の搬送方向の上流側に排気流路48a、48bが設けられ、各空間40、42内の搬送方向の下流側に給気流路46a、46bが設けられている。また、各空間40、42、38を囲む底壁24に給気流路46a~46cが設けられ、各空間40、42、38を囲む天井壁22に排気流路48a~48cが設けられている。しかしながら、給気流路と排気流路の配置位置や配置する数は、本実施例の構成に限定されるものではなく、熱処理条件等に応じて適宜変更することができる。
【0022】
次に、隔壁(30a、30b)の構成について説明する。隔壁30aは、第1空間40と隣接する位置に配置される第1部分32aと、第2空間42と隣接する位置に配置される第2部分34aを備えている。第1部分32aと第2部分34aは、搬送方向に離間しており、第1部分32aと第2部分34aの間には、第3空間38の一部が設けられている。隔壁30bは、第1空間40と隣接する位置に配置される第1部分32bと、第2空間42と隣接する位置に配置される第2部分34bを備えている。第1部分32bは、第1部分32aに対応する位置に配置されており、第2部分34bは、第2部分34aに対応する位置に配置されている。第1部分32bと第2部分34bは、搬送方向に離間しており、第1部分32bと第2部分34bの間には、第3空間38の他の部分が設けられている。すなわち、第3空間38は、天井壁22と、底壁24と、隔壁30aの第1部分32a及び第2部分34aと、隔壁30bの第1部分32b及び第2部分34bによって囲まれており、連通通路36と連通している。
【0023】
図3に示すように、第3空間38の搬送方向(すなわち、X方向)の寸法L1は、第2部分34a、34bの搬送方向(すなわち、X方向)の寸法L2より小さくされている。すなわち、第2空間42側から第1空間40側への熱伝導の影響を抑制するためには、第2部分34a、34bの搬送方向の寸法をある程度長くする必要がある。そこで、第3空間38の搬送方向の寸法L1を第2部分34a,34bの搬送方向の寸法より小さくすることで、被処理物12の熱処理に寄与しない隔壁(30a,30b)の搬送方向の寸法が長くなることを抑制している。同様に、第1空間40側から第2空間42側への熱伝導の影響を抑制するためには、第1部分32a、32bの搬送方向の寸法をある程度長くする必要がある。第3空間38の搬送方向の寸法L1を、第1部分32a、32bの搬送方向(すなわち、X方向)の寸法L3より小さくすることで、隔壁(30a、30b)の搬送方向の寸法が長くなることを抑制している。また、
図1に示すように、第3空間38には、第1空間40及び第2空間42と異なり、ヒータが配置されていない。
【0024】
例えば、隔壁(30a、30b)に第3空間38が設けられていない場合、第1空間40の雰囲気温度と第2空間42の雰囲気温度が異なると、雰囲気温度が高い空間から雰囲気温度が低い空間に向かって雰囲気ガスが移動しやすくなる。例えば、本実施例のように第2空間42の雰囲気温度が第1空間40の雰囲気温度より高く設定されている場合には、第2空間42内の雰囲気ガスが連通通路36を通って第1空間40内に流入し易くなる。本実施例の熱処理炉10では、隔壁(30a、30b)に、第1空間40及び第2空間42と隔離されると共に連通通路36と連通する第3空間38が設けられている。このため、第1空間40より雰囲気温度が高い第2空間42内の雰囲気ガスが、第2空間42から連通通路36を通って第3空間38に移動したとしても、第3空間38内に移動した雰囲気ガスがさらに連通通路36を通って第1空間40まで移動し難くなる。したがって、第2空間42内の雰囲気ガスが第1空間40内に流入することを抑制することができる。
【0025】
また、第3空間38には、空間内を加熱するヒータが設けられていないため、第3空間38内の温度は、空間内が加熱される第1空間40内の温度及び第2空間42内の温度より高くなり難い。このため、第1空間40内の雰囲気ガスが第3空間38内に移動したとしても、第3空間38内に移動した雰囲気ガスは、第3空間38内の温度より高い第2空間42に移動し難い。同様に、第2空間42内の雰囲気ガスが第3空間38内に移動したとしても、第3空間38内に移動した雰囲気ガスは、第3空間38内の温度より高い第1空間40に移動し難い。したがって、第1空間40内に第2空間42の雰囲気ガスが流入することを抑制できると共に、第2空間42内に第1空間40の雰囲気ガスが流入することを抑制できる。
【0026】
また、上述したように、第3空間38は、給気流路46c及び排気流路48cと連通している。給気流路46cから供給されるガスは、第1空間40内において加熱された雰囲気ガスや、第2空間42内において加熱された雰囲気ガスより温度が低い。このため、給気流路46cから第3空間38内に供給されるガスによって、第3空間38内の温度を第1空間40及び第2空間42より低くなるように調整することができる。これによって、第3空間38内のガスが第1空間40や第2空間42に移動し難くなり、第1空間40と第2空間42との間をガスが移動することを抑制することができる。また、排気流路48cが設けられることによって、第3空間38内のガスが排出される。このため、第1空間40内の雰囲気ガスが第3空間38内に移動したとしても、第3空間38内に移動した雰囲気ガスは、第3空間38から排気流路48cを介して炉体20の外部に排出され、第3空間38から第2空間42に移動し難くなる。同様に、第2空間42内の雰囲気ガスが第3空間38内に移動したとしても、第3空間38内に移動した雰囲気ガスは、第3空間38から排気流路48cを介して炉体20の外部に排出され、第3空間38から第1空間40に移動し難くなる。これによって、第1空間40と第2空間42との間をガスが移動することを抑制することができる。
【0027】
搬送装置は、複数の搬送ローラ52と、第1駆動装置54と、第2駆動装置56と、第3駆動装置58と、制御装置60を備えている。搬送装置は、第1空間40の開口28a側の一端から、連通通路36を介して、第2空間42の開口28b側の他端まで被処理物12を搬送する。被処理物12は、搬送ローラ52によって搬送される。
【0028】
搬送ローラ52は円筒状であり、第1空間40内と連通通路36内と第2空間42内に設置され、その軸線は搬送方向と直交する方向に(すなわち、Y方向に)伸びている。複数の搬送ローラ52は、全て同じ直径を有しており、搬送方向に一定のピッチで等間隔に配置されている。搬送ローラ52は、その軸線回りに回転可能に支持されており、駆動装置の駆動力が伝達されることによって回転する。
【0029】
第1駆動装置54は、第1空間40内に配置された搬送ローラ52を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。第1駆動装置54は、動力伝達機構を介して、第1空間40内に配置された搬送ローラ52に接続されている。第1駆動装置54の駆動力が動力伝達機構を介して第1空間40内の搬送ローラ52に伝達されると、第1空間40内の搬送ローラ52は回転するようになっている。同様に、第2駆動装置56は、第2空間42内に配置された搬送ローラ52を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。第2駆動装置56は、動力伝達機構を介して、第2空間42内に配置された搬送ローラ52に接続されている。第2駆動装置56の駆動力が動力伝達機構を介して第2空間42内の搬送ローラ52に伝達されると、第2空間42内の搬送ローラ52は回転するようになっている。動力伝達機構としては、公知のものを用いることができ、例えば、スプロケットとチェーンによる機構が用いられている。第1駆動装置54と第2駆動装置56は、第1空間40内の搬送ローラ52と第2空間42内の搬送ローラ52が略同一の速度で回転するように、対応する搬送ローラ52を駆動する。第1駆動装置54及び第2駆動装置56は、それぞれ制御装置60によって制御されている。
【0030】
第3駆動装置58は、連通通路36内に配置された搬送ローラ52と、第1空間40内の連通通路36側に配置された搬送ローラ52と、第2空間42内の連通通路36側に配置された搬送ローラ52を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。第3駆動装置58は、動力伝達機構を介して、連通通路36と第1空間40の一部と第2空間42の一部に配置された搬送ローラ52に接続されている。第3駆動装置58の駆動力が動力伝達機構を介して搬送ローラ52に伝達されると、搬送ローラ52は回転するようになっている。動力伝達機構としては、公知のものを用いることができ、例えば、スプロケットとチェーンによる機構が用いられている。第3駆動装置58は、出力を調整することによって、搬送ローラ52の回転速度を変更することができる構成となっている。第3駆動装置58の出力を調整することによって、第3駆動装置58に接続される搬送ローラ52は、第1駆動装置54又は第2駆動装置56に接続される搬送ローラ52と略同一の速度で回転したり(以下、低速回転ともいう)、第1駆動装置54又は第2駆動装置56に接続される搬送ローラ52より高速で回転したり(以下、高速回転ともいう)する。第3駆動装置58は、それぞれ制御装置60によって制御されている。
【0031】
本実施例では、第1空間40内の搬送ローラ52が第1駆動装置54に接続されており、第2空間42内の搬送ローラ52が第2駆動装置56に接続されているが、このような構成に限定されない。例えば、第1空間40内の搬送ローラ52と第2空間42内の搬送ローラ52は1つの駆動装置に接続されていてもよい。また、第3駆動装置58は出力を調整可能な構成となっているが、このような構成に限定されない。第3駆動装置58の出力を切替えることなく、連通通路36と第1空間40の一部と第2空間42の一部に配置される搬送ローラ52が、低速回転したり、高速回転したりすることができる構成としてもよい。例えば、搬送装置は、第1駆動装置54及び第2駆動装置56より搬送ローラ52を高速回転させるように駆動する第4駆動装置を備えていてもよい。このような場合には、連通通路36に配置される搬送ローラ52は、搬送ローラ52を低速回転させる駆動装置(すなわち、第1駆動装置54又は第2駆動装置56)と高速回転させる駆動装置(すなわち、第4駆動装置)とにクラッチ機構によって切り換え可能に接続されていてもよい。
【0032】
次に、被処理物12を熱処理する際の熱処理炉10の動作について説明する。被処理物12を熱処理するためには、まず、ヒータ44a~44dを作動させて、第1空間40と第2空間42の雰囲気温度を設定した温度とする。次いで、搬送ローラ52上に被処理物12を載せる。次いで、第1駆動装置54、第2駆動装置56、第3駆動装置58を作動させて、熱処理炉10の開口28aから、第1空間40、連通通路36及び第2空間42を通って、熱処理炉10の開口28bまで被処理物12を搬送する。これによって、被処理物12が熱処理される。なお、
図2に示すように、実施例では、被処理物12を搬送ローラ52の軸線方向(すなわち、Y方向)に1つ載置して熱処理炉10内を搬送しているが、このような構成に限定されない。例えば、熱処理炉は、被処理物12を搬送ローラ52の軸線方向に複数並べた状態で被処理物12を搬送するように構成されていてもよい。
【0033】
被処理物12の搬送についてさらに詳細に説明する。まず、被処理物12は、開口28aから搬入された後、第1空間40を搬送される。第1空間40では、第1駆動装置54の作動によって搬送ローラ52が回転し、被処理物12が搬送される。このとき、第3駆動装置58は第1駆動装置54と略同一の出力で駆動しており、第3駆動装置58に接続される搬送ローラ52は、第1駆動装置54に接続される搬送ローラ52と略同一の速度で回転する。このため、被処理物12は、開口28aから第1空間40を搬送され、第1空間40から搬出されるまでの間、略同一の速度で搬送される。被処理物12は、第1空間40を搬送される間、第1空間40内の雰囲気温度で熱処理される。
【0034】
被処理物12が第1空間40の下流側まで搬送されると、第3駆動装置58は搬送ローラ52を高速回転させる出力で駆動する。第3駆動装置58の出力は、隔壁30aの第1部分32aの第1空間40側に設置されるセンサ62aが被処理物12を検出することによって変更される。例えば、センサ62a及び後述のセンサ62bには、光学式のセンサを用いることができ、センサ62a、62bは、被処理物12が光路を遮るか否かを検出することができる。センサ62aが被処理物12の前端を検出すると、制御装置60は、第3駆動装置58の出力を大きくする。すると、被処理物12は、第1空間40から連通通路36まで高速で搬送される。
【0035】
上述したように、隔壁30a、30bは第1空間40の雰囲気温度と第2空間42の雰囲気温度を分離するために設けられており、隔壁30a、30bの間に形成される連通通路36は被処理物12を第1空間40から第2空間42に搬送するために設けられている。このため、連通通路36を搬送される間、被処理物12は熱処理されない。被処理物12が連通通路36を高速搬送されることによって、被処理物12の熱処理に寄与しない連通通路36内を短時間で搬送することができる。また、被処理物12を熱処理する温度を変化させるときには、温度変化の前後において温度差を被処理物12に応じた温度にすることが好ましい。連通通路36において被処理物12を高速搬送することによって、被処理物12を、第1空間40の雰囲気温度から第2空間42の雰囲気温度まで急速に昇温することができる。
【0036】
また、上述したように、第3空間38には、ヒータが配置されていない。このため、第3空間38の搬送方向の寸法は、ヒータを設置可能な大きさにする必要がなく、小さくすることができる。また、第3空間38の搬送方向の寸法は、第1部分32a、32b及び第2部分34a、34bの搬送方向の寸法より小さくされている。このような寸法にすることによって、第1部分32a、32b及び第2部分34a、34bの搬送方向の寸法(厚さ)を確保すると共に、隔壁30a、30b全体の搬送方向の寸法(すなわち、連通通路36の搬送方向の寸法)を小さくすることができる。本実施例では、第2空間42の雰囲気温度が第1空間40の雰囲気温度より高く設定されているため、特に、第2部分34a、34bの搬送方向の厚さを十分に確保する必要がある。第2空間42側に配置される第2部分34a、34bの搬送方向の寸法L2を第3空間38の搬送方向の寸法L1より大きくすることによって、第2部分34a、34bの搬送方向の厚さを十分に確保できると共に、隔壁30a、30bの搬送方向の寸法を小さくすることができる。このように、連通通路36の搬送方向の寸法を小さくすることによって、被処理物12を熱処理に寄与しない連通通路36内を短時間で搬送することができる。
【0037】
被処理物12が連通通路36を搬送されると、第3駆動装置58の出力は第2駆動装置56と略同一の出力に切替えられる。すると、第3駆動装置58に接続される搬送ローラ52は、第2駆動装置56に接続される搬送ローラ52と略同一の速度で回転する。第3駆動装置58の出力は、隔壁30aの第2部分34aの第2空間42側に設置されるセンサ62bが被処理物12を検出することによって変更される。具体的には、センサ62bが被処理物12の後端を検出すると、制御装置60は、第3駆動装置58の出力を小さくする。すると、被処理物12は、第2空間42を低速で搬送される。被処理物12は、第2空間42を搬送される間、第2空間42内の雰囲気温度で熱処理される。被処理物12は、第2空間42を搬送され、開口28bから熱処理炉10の外部へ搬出される。
【0038】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
10:熱処理炉
12:被処理物
20:炉体
22:天井壁
24:底壁
26a、26b、26c、26d:側壁
28a、28b:開口
30a、30b:隔壁
36:連通通路
40:第1空間
42:第2空間
44a、44b、44c、44d:ヒータ
46a、46b、46c、46d:給気流路
48a、48b、48c、48d:排気流路
52:搬送ローラ
54:第1駆動装置
56:第2駆動装置
58:第3駆動装置
60:制御装置