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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】布
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20220725BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20220725BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220725BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20220725BHJP
【FI】
D03D1/00 Z ZBP
D02G3/04
D03D15/20
D03D15/533
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019059623
(22)【出願日】2019-03-27
(62)【分割の表示】P 2018024637の分割
【原出願日】2017-05-02
(65)【公開番号】P2019131948
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2019-03-27
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/066749
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/082416
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正道
(72)【発明者】
【氏名】石野 聡
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】塩治 雅也
【審判官】山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-239969(JP,A)
【文献】特開2016-213267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00-27/18
D01F 6/62
A61L 2/00- 2/28
A61L11/00-12/14
D04B 1/00- 1/28
D04B21/00-21/20
D04C 1/00- 7/00
D04G 1/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのエネルギーにより電荷を発生する繊維を備えた布であって、
前記繊維の軸方向に張力が生じる様に18時間振動させた後、JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値A≧2.0であり、
18時間静置した後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値は、前記18時間振動させた後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値よりも低いことを特徴とする布。
【請求項2】
外部からのエネルギーにより電場を発生する繊維を備えた布であって、
前記繊維の軸方向に張力が生じる様に18時間振動させた後、JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値A≧2.0であり、
18時間静置した後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値は、前記18時間振動させた後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値よりも低いことを特徴とする布。
【請求項3】
外部からのエネルギーにより所定の電位を生じる繊維を備えた布であって、
前記繊維の軸方向に張力が生じる様に18時間振動させた後、JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値A≧2.0であり、
18時間静置した後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値は、前記18時間振動させた後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値よりも低いことを特徴とする布。
【請求項4】
圧電体の繊維を備えた布であって、
前記繊維の軸方向に張力が生じる様に18時間振動させた後、JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値A≧2.0であり、
18時間静置した後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値は、前記18時間振動させた後の前記JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値よりも低いことを特徴とする布。
【請求項5】
導電繊維をさらに備え、
前記繊維と前記導電繊維とが織り込まれてなる、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の布。
【請求項6】
前記繊維は、第1の繊維と第2の繊維とを含み、
前記第1の繊維および前記第2の繊維は、外部からのエネルギーにより同じ極性の電荷を発生し、かつ電位差を有する、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の布。
【請求項7】
前記繊維は、外部からのエネルギーにより正の電荷を発生する、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の布。
【請求項8】
前記繊維は、圧電体を含む、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の布。
【請求項9】
前記圧電体は、圧電性ポリマーである、
請求項8に記載の布。
【請求項10】
前記圧電性ポリマーは、ポリ乳酸を含む、
請求項9に記載の布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷を発生する糸を備えた布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗菌性を有する繊維材料については、多数の提案がなされている(特許文献1乃至特許文献7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3281640号公報
【文献】特開平7-310284号公報
【文献】特許第3165992号公報
【文献】特許第1805853号公報
【文献】特開平8-226078号公報
【文献】特開平9-194304号公報
【文献】特開2004-300650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、抗菌性を有する材料は、いずれも効果が長く持続しなかった。
【0005】
また、抗菌性を有する材料は、薬剤等によるアレルギー反応が生じる場合もある。
【0006】
そこで、この発明は、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続し、かつ薬剤等よりも安全性の高い糸を備えた布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の布は、外部からのエネルギーにより電荷を発生する繊維を備えた布であって、所定時間振動させた後、JIS L1902に準拠した抗菌性評価の抗菌活性値A≧2.0であることを特徴とする。
【0008】
従来から、電場により細菌や真菌の増殖を抑制することができる事が知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路や、局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し菌の増殖を抑制することが考えられる。本発明の布は、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維を備えているため、糸と糸の間、或いは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電場を生じさせる。あるいは、本発明の布は、汗等の水分を介して、糸と糸の間、あるいは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電流を流す。
【0009】
したがって、本発明の布は、以下のような理由により抗菌効果(菌の発生を抑制する効果)または殺菌効果(菌を死滅する効果)を発揮すると考えられる。人体等の所定の電位を有する物に近接して用いられる物(衣料、履物、またはマスク等の医療用品)に適用した場合に発生する電場または電流の直接的な作用によって、菌の細胞膜や菌の生命維持のための電子伝達系に支障が生じ、菌が死滅する、或いは菌自体が弱体化する。さらに、電場もしくは電流によって水分中に含まれる酸素が活性酸素種に変化する場合がある、または電場もしくは電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これらのラジカル類を踏む活性酸素種の作用により菌が死滅する、または弱体化する。また、上記の理由が複合して抗菌効果・殺菌効果を生じている場合もある。
【0010】
なお、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維は、例えば光電効果を有する物質、焦電効果を有する物質、または圧電体等を用いた繊維が考えられる。また、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き、該導電体に電圧を加えて電荷を発生させる構成も、電荷発生繊維となる。
【0011】
圧電体を用いた場合には、圧電により電場を生じさせるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。
【0012】
なお、金属イオンを溶出する導電繊維を備えた布であっても、抗菌効果を生じさせることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続し、かつ薬剤等よりも安全性の高い糸を備えた布を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)は、圧電糸1の構成を示す図であり、図1(B)は、圧電フィルム10の平面図である。
図2図2(A)および図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電フィルム10の変形と、の関係を示す図である。
図3】外力が係った時の圧電糸1を示す図である。
図4図4(A)は、布100の平面概略図であり、図4(B)は、各糸の配置を示す図である。
図5】圧電糸2の構成を示す図である。
図6図6(A)は、布100Aの平面概略図であり、図6(B)は、各糸の間で生じる電場を示す図である。
図7】各糸の間で生じる電場を示す図である。
図8図8(A)は、圧電糸31の構成を示す一部分解図であり、図8(B)は、圧電糸32の構成を示す一部分解図である。
図9図9(A)は、圧電糸33の構成を示す一部分解図であり、図9(B)は、圧電糸34の構成を示す一部分解図である。
図10】圧電糸33における圧電フィルム10の隙間を誇張して示した図である。
図11】圧電糸35の構成を示す一部分解図である。
図12】組紐の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(A)は、圧電糸1の構成を示す一部分解図であり、図1(B)は、圧電フィルム10の平面図である。圧電糸1は、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維の一例である。
【0016】
圧電糸1は、芯糸11に圧電フィルム10が巻かれてなる。圧電フィルム10は、圧電体の一例である。芯糸11は、天然繊維または化学繊維から適宜選択される。天然繊維は、植物繊維、動物繊維、あるいは、ポリ乳酸等がある。植物繊維は、例えば、綿または麻等である。芯糸11にポリ乳酸を用いる場合には、芯糸11は特に圧電性のポリ乳酸である必要は無い。後述のように、圧電フィルム10にポリ乳酸を用いる場合に、芯糸11と同じ素材となるため、親和性が高くなる。化学繊維は、例えば、合成繊維、ガラス繊維、または炭素繊維等がある。化学繊維は、天然繊維に比べて頑丈である。
【0017】
また、芯糸11は、導電性を備えた導電糸であってもよい。芯糸11を導電糸とした場合、圧電糸1の圧電性を検査する際に、圧電糸1の外周の一部に形成した電極と、芯糸11とを用いて圧電糸1に生じる電荷を計測することができる。これにより圧電糸1に用いられた圧電フィルム10の圧電性能を検査することができる。また、導電糸同士を短絡させることにより、各糸同士に明確に回路が形成され、各糸の表面間に生じる電場は飛躍的に大きくなる。また、芯糸11に導電体を用いる場合、該芯糸11に電流を流せば、圧電フィルム10以外の他の絶縁体を芯糸11に巻いた構成であっても、外部からのエネルギーにより電荷を発生する糸を実現することができる。
【0018】
なお、芯糸11は、必須の構成ではない。芯糸11が無くても、圧電フィルム10を螺旋状に旋回して圧電糸(旋回糸)とすることは可能である。芯糸11が無い場合には、旋回糸は、中空糸となり、保温能力が向上する。また、旋回糸そのものに接着剤を含侵させると強度を増すことができる。
【0019】
圧電フィルム10は、例えば圧電性ポリマーからなる。圧電フィルムは、焦電性を有するものと、焦電性を有していないものがある。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、焦電性を有しており、温度変化によっても電荷が発生する。PVDF等の焦電性を有する圧電体は、人体の熱エネルギーによっても、表面に電荷が生じる。
【0020】
また、ポリ乳酸(PLA)は、焦電性を有していない圧電フィルムである。ポリ乳酸は、一軸延伸されることで圧電性が生じる。ポリ乳酸には、L体モノマーが重合したPLLAと、D体モノマーが重合したPDLAと、がある。
【0021】
ポリ乳酸はキラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現する。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。一軸延伸されたポリ乳酸からなる圧電フィルム10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に、電荷を発生する。
【0022】
図2(A)および図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電フィルム10の変形と、の関係を示す図である。図2(A)に示すように、圧電フィルム10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電フィルム10は、紙面表側では、負の電荷が発生する。圧電フィルム10は、図2(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も、電荷を発生するが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電フィルム10は、紙面表側では、正の電荷が発生する。
【0023】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0024】
圧電フィルム10は、上記の様な一軸延伸されたポリ乳酸のシートを、例えば幅0.5~2mm程度に切り取られることにより生成される。圧電フィルム10は、図1(B)に示すように、長軸方向と延伸方向900が一致している。圧電フィルム10は、図1(A)に示したように、芯糸11に対して左旋回して撚られた左旋回糸(以下、S糸と称する。)の圧電糸1となる。延伸方向900は、圧電糸1の軸方向に対して、左45度に傾いた状態となる。
【0025】
したがって、図3に示すように、圧電糸1に外力(張力)が係ると、圧電フィルム10は、図2(A)に示した状態のようになり、表面に負の電荷を生じる。
【0026】
これにより、圧電糸1は、外力が係った場合に、表面に負の電荷を生じ、内側に正の電荷を生じる。そのため、圧電糸1は、この電荷により生じる電位差によって電場を生じる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成する。また、圧電糸1に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、圧電糸1と該物との間に電場を生じさせる。
【0027】
従来から、電場により細菌や真菌の増殖を抑制することができる旨が知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路や、局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し菌の増殖を抑制することが考えられる。なお、本実施形態で言う菌とは、細菌、真菌またはダニやノミ等の微生物を含む。
【0028】
したがって、圧電糸1は、圧電糸1近傍に形成される電場によって、あるいは人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に発生する電場によって、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する。あるいは、圧電糸1は、汗等の水分を介して、近接する他の繊維や人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に電流を流す。この電流によっても、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。または電場や電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これにより間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。ラジカルとして、スーパーオキシドアニオンラジカル(活性酸素)やヒドロキシラジカルの発生が考えられる。
【0029】
以上の様な、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維を備えた電荷発生糸は、各種の衣料、医療部材等の製品に適用可能である。例えば、電荷発生糸は、肌着(特に靴下)、タオル、靴およびブーツ等の中敷き、スポーツウェア全般、帽子、寝具(布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバー等を含む。)、歯ブラシ、フロス、各種フィルタ類(浄水器、エアコンまたは空気清浄器のフィルタ等)、ぬいぐるみ、ペット関連商品(ペット用マット、ペット用服、ペット用服のインナー)、各種マット品(足、手、または便座等)、カーテン、台所用品(スポンジまたは布巾等)、シート(車、電車または飛行機等のシート)、オートバイ用ヘルメットの緩衝材およびその外装材、ソファ、包帯、ガーゼ、マスク、縫合糸、医者および患者の服、サポーター、サニタリ用品、スポーツ用品(ウェアおよびグローブのインナー、または武道で使用する籠手等)、あるいは包装資材等に適用することができる。
【0030】
衣料のうち、特に靴下(またはサポータ)は、歩行等の動きによって、間接に沿って必ず伸縮が生じるため、圧電糸1は、高頻度で電荷を発生する。また、靴下は、汗などの水分を吸い取り、菌の増殖の温床となるが、圧電糸1は、菌の増殖を抑制することができるため、防臭のための菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0031】
また、本発明は、人間を除いた動物の体表面の菌抑制方法としても使用可能であり、動物の皮膚の少なくとも一部に、圧電体を含んだ布を対向させるように配置し、前記圧電体に外力が加えられた時に発生する電荷によって、前記布と対向する前記動物の体表面の菌の増殖を抑制してもよい。これにより、簡素な方法で、薬剤等の使用よりも安全性の高い、動物の体表面の菌の増殖を抑制し、および動物の体表面の白癬菌治療することができる。
【0032】
また、圧電糸1が織り込まれてなる布100も、菌対策用布として機能する。図4(A)は、布100の平面概略図であり、図4(B)は、各糸の配置を示す図である。布100は、圧電糸(第1の糸)1と、普通糸3と、導電糸(第2の糸)5が織り込まれてなる。普通糸3は、圧電体が設けられていない糸であり、誘電体に相当する。普通糸3は、上述のように、天然繊維または化学繊維からなる。ただし、普通糸3は、本発明において必須の構成ではない。
【0033】
第2の糸である導電糸5は、導電体(導電繊維)からなる。導電繊維は、例えばカーボンをめっきしたものでもよいし、金属そのもの(細いワイヤ)、スリットリボン、ポリエステル繊維の表面を無電解めっきしたもの、または電極を蒸着したポリエステルフィルムをスリットリボン化したもの等、であってもよい。
【0034】
導電糸5は、導電体であるため、所定の均一の電位(グランド電位を含む。)を有する。圧電糸1と導電糸5は、誘電体に相当する普通糸3を介して、所定の距離だけ離間して配置されている。この導電糸5がグランド電位等の強制的に定まった電位を有する場合、圧電糸1に外力が係った場合、所定の電位を有する導電糸5と、電荷を発生する圧電糸1との電位差により、両者の間に電場が生じる。ただし、普通糸3は、必須の構成ではない。普通糸3は無くとも、圧電糸1と導電糸5との間には電場が生じる。導電糸5は、基準電位線としての役割を果たす場合もある。例えば、圧電糸1に電荷が発生し、糸の断面に電位差の分布が生じたときを考える。糸の断面において、基準電位を持つ導電糸5に近い部分では電位が基準電位に定義づけられ、遠い部分では生じた電荷の分だけ基準電位に対しての電位差を生じる。この電位は基準電位に対しての電位である。圧電糸の内部だけでなく、空間において明確に電位差が定義された時にはその電位差に応じて電場が形成される。これにより圧電糸1同士においても電場が形成されうる。これを考慮すれば、導電糸5は発生した電位を、電荷の移動によりキャンセルするような配置に設けてはならない。具体的には、例えば図4(B)において普通糸3を省略したとすると、糸の配列は、導電糸、圧電糸、圧電糸、導電糸、圧電糸、圧電糸、および導電糸等の順に並べるのが好ましい配列である。また、導電糸同士は、短絡されて同電位とされていることが好ましい。さらに、隣接する圧電糸同士は、外力に対して外側に発生する電荷の極性が逆である方が好ましい。このような配列にすることにより、外力が加わった時に近接する圧電糸同士に明確な電位差が生じて、電場が形成される。複数の圧電糸と導電糸を用いて編物または織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸は、すべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、圧電糸に発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、抗菌効果は発揮されない。
【0035】
圧電糸1および導電糸5は、極めて近接した状態で配置されているため、距離はほぼ0である。電場の強度は、E=V/dで表されるように、電荷を生じる物質間の距離に反比例して大きくなるため、布100が生じる電場の強度は、非常に大きな値となる。これらの電場は、圧電糸1内で発生する電場と、圧電糸2内で発生する電場とが相互的に結合して形成される。場合によっては、汗などの電解質を含んだ水分により、実際の電流経路として回路が形成される場合もある。繊維が編まれた布では繊維が複雑に絡み合うため、圧電糸1のある部分で発生する電場と、圧電糸1の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。同様に、圧電糸2のある部分で発生する電場と、圧電糸2の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。マクロ的に見て電場強度がゼロもしくは非常に弱い場合でも、ミクロ的にはベクトルの方向が相反する強い電場の集合体となっている場合がある。これらの現象は、圧電糸1のみで形成された布、あるいは圧電糸2のみで形成された布、あるいはこれらに普通糸や導電糸が同時に編み込まれたものでも同様の説明ができる。
【0036】
よって、布100は、電場を生じる布として機能する。また、布100は、汗等の水分を介して、圧電糸1および導電糸5の間で、電流を流す場合もある。この電流によっても、抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電場または電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これにより間接的に抗菌効果または殺菌効果が発揮される場合がある。
【0037】
布100は、自身が発生する電場とその強度の変化によって、または電流によって、抗菌または殺菌効果を発揮する。またはその電流や電圧の作用により生じるラジカル種等により抗菌または殺菌効果を発揮する。
【0038】
さらに、導電糸5が金属イオン(例えば、Ag、Zn2+、またはCu2+等)を溶出する場合には、該導電糸5が溶出する金属イオンにより、抗菌または殺菌効果が一段と高くなる。また、布100は、圧電糸1において、仮に電荷が発生しない箇所があった場合にも、導電糸5により、局所的に発生した電荷が布全体に運ばれて、布全体的として抗菌または殺菌効果が生じる。また、導電糸5をオシロスコープ等の測定器に接続することにより、圧電糸1が機能しているか否か(電荷を生じるか否か)を調べる(出荷検査等を行なう)ことできる。なお、芯糸11に金属イオンを溶出する導電体を用いる場合、当該芯糸11が金属イオンを溶出する導電繊維として機能するため、圧電糸1とは別に導電糸を設ける必要はない。
【0039】
布100を用いてなる衣料または医療部材等も上述した様に、抗菌または殺菌効果を発揮する。なお、布100に用いられる圧電糸としては、図5に示すような右旋回糸(以下、Z糸と称する。)の圧電糸2を用いることも可能である。圧電糸2は、Z糸であるため、延伸方向900は、圧電糸1の軸方向に対して、右45度に傾いた状態となる。したがって、圧電糸2に外力が係ると、圧電フィルム10は、図2(B)に示した状態のようになり、表面に正の電荷を生じる。そのため、圧電糸2も、人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電場を生じさせる。あるいは、圧電糸2は、汗等の水分を介して、人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電流を流す。
【0040】
なお、圧電糸は、あらゆる公知の方法により製造される。スリットフィルムを用いたカバリング糸だけではなく、繊維として、例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程を分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程を連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速防止法などを含む)、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するような液晶紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法、などを含む)により繊維化する手法、または圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法等を採用することができる。
【0041】
また、多くの菌は、負の電荷を有する。そのため、圧電糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、多くの菌を吸着することができる。また、圧電糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、負の電荷を有する菌を不活化することもできる。このように、表面に正の電荷を発生させる圧電糸を用いた布は、菌対策用圧電糸として高い効果を有する。
【0042】
なお、圧電糸1または圧電糸2(あるいは、少なくともいずれかを備えた布)は、菌対策用途以外にも、以下の様な用途を有する。
【0043】
(1)生体作用圧電糸
生体を構成する組織には圧電性を有するものが多い。例えば、人体を構成するコラーゲンは、タンパク質の一種であり、血管、真皮、じん帯、健、骨、または軟骨等に多く含まれている。コラーゲンは、圧電体であり、コラーゲンが配向した組織は非常に大きな圧電性を示す場合がある。骨の圧電性については既に多くの報告がなされている(例えば、深田栄一,生体高分子の圧電気、高分子Vol.16(1967)No.9 p795-800等を参照)。したがって、圧電糸1または圧電糸2を備えた布により電場が生じ、該電場が交番するか、または該電場の強度が変化すると、生体の圧電体は、逆圧電効果によって振動を生じる。圧電糸1および/または圧電糸2によって生じる交番電場、あるいは電場強度の変化により、生体の一部、例えば毛細血管や真皮に微小な振動が加えられ、その部分の血流の改善を促すことができる。これにより皮膚疾患や傷等の治癒が促される可能性がある。したがって、圧電糸は、生体作用圧電糸として機能する。複数の圧電糸と導電糸を用いて編物や織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサーがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸はすべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、治癒効果は発揮されない。
【0044】
(2)物質吸着用圧電糸
上述したように、圧電糸1は、外力が係った場合に、負の電荷を生じる。圧電糸2は、外力が係った場合に、正の電荷を生じる。そのため、圧電糸1は、正の電荷を有する物質(例えば花粉等の粒子)を吸着する性質を有し、圧電糸2は、負の電荷を有する物質(例えば黄砂等の有害物質等)を吸着する。したがって、圧電糸1または圧電糸2を備えた布は、例えばマスク等の医療用品に適用した場合に、花粉または黄砂等の微粒子を吸着することができる。複数の圧電糸と導電糸を用いて編物や織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサーがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸はすべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、吸着効果は発揮されない。
【0045】
次に、図6(A)は、布100Aの平面概略図であり、図6(B)は、各糸の間で生じる電場を示す図である。
【0046】
図6(A)および図6(B)に示す布100Aは、圧電糸(第1の糸)1と、圧電糸(第2の糸)2と、普通糸3と、が織り込まれてなる。普通糸3は、圧電体が設けられていない糸であり、誘電体に相当する。
【0047】
図6(B)の例では、圧電糸1、圧電糸2、および普通糸3は、並列して配置されている。圧電糸1と圧電糸2は、誘電体に相当する普通糸3を介して、所定の距離だけ離間して配置されている。圧電糸1と圧電糸2とで生じる電荷の極性は互いに異なる。各所の電位差は、糸同士が複雑に絡み合うことにより形成される電場結合回路、或いは水分等で糸の中に偶発的に形成される電流パスで形成される回路により定義される。したがって、これら糸に外力が係った場合、正の電荷を発生する圧電糸2と負の電荷を発生する圧電糸1の間に、図中の白矢印で示す電場が生じる。ただし、普通糸3は、必須の構成ではない。普通糸3は無くとも、圧電糸1と圧電糸2の間には電場が生じる。圧電糸1(S糸)および圧電糸2(Z糸)がPLLAで形成された場合、圧電糸1単独では、張力が加わった時に表面が負の電位になり内部は正の電位になる。圧電糸2では逆に表面が正の電位になり内部が負の電位になる。これらの糸が近接した場合、近接する部分(表面)は同電位になろうとする。この場合、圧電糸1と圧電糸2との近接部は0Vとなり、元々の電位差を保つように、圧電糸1の内部の正の電位はさらに高くなる、同様に圧電糸2の内部の負の電位はさらに低くなる。圧電糸1の断面では主に中心から外に向かう電場が形成され、圧電糸2の断面では主に中心から内に向かう電場が形成される。これらの糸の周りの空間には漏れ電場が形成されており、この漏れ電場が互いに結合して、圧電糸1と圧電糸2の間に強い電場が形成される。
【0048】
圧電糸1および圧電糸2は、極めて近接した状態で配置されているため、距離はほぼ0である。電場の強度は、E=V/dで表されるように、電荷を生じる物質間の距離に反比例して大きくなるため、布100Aが生じる電場の強度は、非常に大きな値となる。これらの電場は、圧電糸1内で発生する電場と、圧電糸2内で発生する電場とが相互的に結合して形成される。場合によっては、汗などの電解質を含んだ水分により、実際の電流経路として回路が形成される場合もある。繊維が編まれた布では繊維が複雑に絡み合うため、圧電糸1のある部分で発生する電場と、圧電糸1の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。同様に、圧電糸2のある部分で発生する電場と、圧電糸2の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。マクロ的に見て電場強度がゼロもしくは非常に弱い場合でも、ミクロ的にはベクトルの方向が相反する強い電場の集合体となっている場合がある。これらの現象は、圧電糸1のみで形成された布、あるいは圧電糸2のみで形成された布、あるいはこれらに普通糸や導電糸が同時に編み込まれたものでも同様の説明ができる。
【0049】
よって、布100Aは、電場を生じる布として機能する。また、布100Aは、汗等の水分を介して、圧電糸1および圧電糸2の間で、電流を流す場合もある。この電場または電流によって、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電場または電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これにより間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。 なお、この例では、圧電糸1と圧電糸2とで生じる電荷の極性は互いに異なる例を示したが、同じ極性の圧電糸であっても、圧電糸1と圧電糸2との空間に電位差がある場合には、電場が生じる、または導電性の媒介物を通じて電流が流れる。
【0050】
布100Aは、自身が発生する電場とその強度の変化によって、または電流によって、抗菌または殺菌効果を発揮する。またはその電流や電圧の作用により生じるラジカル種等により抗菌または殺菌効果を発揮する。なお、布100Aにおいても、さらに金属イオンを溶出する導電繊維を備えていてもよい。この場合、布100Aは、当該電場による抗菌または殺菌効果に加えて、導電糸5が溶出する金属イオンにより、抗菌または殺菌効果が一段と高くなる。また、布100Aは、圧電糸1において、仮に電荷が発生しない箇所があった場合にも、導電糸5が溶出する金属イオンにより、抗菌または殺菌効果を発揮する。
【0051】
布100Aを用いてなる衣料、または当該衣料を用いた医療部材も同様に、抗菌または殺菌効果を発揮する。布100Aを用いてなる衣料においても、特に靴下(またはサポータ)は、上述したように菌対策用途として、顕著な効果を生じる。また、布100Aも、上記生体作用圧電糸または物質吸着用圧電糸と同様に、生体作用圧電布として機能する、または物質吸着用圧電布として機能する。
【0052】
なお、布100Aは、自身を構成する圧電糸1および圧電糸2が生じた電場または電流によって抗菌または殺菌効果を発揮するため、布100Aに移ってくる菌に対して抗菌または殺菌効果を発揮する。悪臭の原因となるような細菌は布の繊維と繊維の隙間に生息すると考えられる。布100Aはこのような細菌を効果的に駆除することが出来る。
【0053】
人体の皮膚には、皮膚表面を正常な状態に保つために必要な役割を果たす常在菌が存在するが、布100Aは、これら常在菌を直接殺菌する可能性は小さい。そのため、布100Aは、皮膚の常在菌に影響するおそれは少なく、より安全性の高いものとなる。
【0054】
なお、図7に示すように、布100Aは、圧電糸1、圧電糸2、および普通糸3が、交差して配置されている態様でも、圧電糸1および圧電糸2が交差する位置において電場が生じる。
【0055】
また、上述の例では、電荷発生糸を含む複数の糸が織り込まれてなる布(織物)について示したが、編物(電荷発生糸を含む複数の糸で形成された輪を互いに引っ掛けたもの)からなる布であっても同様に、電位差が生じる糸の間で電場が生じる、または電流が流れるため、抗菌または殺菌効果を生じる。
【0056】
本実施形態では、圧電体の例として、圧電フィルムを示したが、圧電体は、例えば糸としてノズルから吐出されて延伸されたもの(断面が略円形状の圧電糸、或いは異型断面形状の圧電糸)であってもよい。紡糸法としては湿式紡糸、乾式紡糸、または溶融紡糸等がある。例えばポリ乳酸(PLLA)圧電糸は、溶融紡糸、高延伸処理、または(結晶化のための)熱処理を通じて作成されうる。このような、PLLA圧電糸を複数撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)を構成し、この糸に張力をかけた場合にも、S糸では表面に負の電荷が発生し、Z糸では表面に正の電荷が発生する。このような糸では芯糸を用いず、単に撚糸とすることが出来る。このような糸は低コストで作ることが出来る。マルチフィラメント糸のフィラメント数は、糸の用途を鑑みて設定されるべきである。また、撚り数についても適宜設定される。フィラメントの中に、部分的に圧電体ではないフィラメントを含んでもよい。また、それぞれのフィラメントの太さは一様でなくともよい。このようにすることで、糸の断面に生ずる電位分布に偏りが生じ、対称性が崩されることで、S糸とZ糸との間の電場回路が形成されやすくなる。
【0057】
次に、図8(A)は、圧電糸31の構成を示す一部分解図であり、図8(B)は、圧電糸32の構成を示す一部分解図である。
【0058】
圧電糸31は、S糸である圧電カバリング糸1Aの上にさらに圧電フィルム10が巻かれてなる。圧電糸32は、Z糸である圧電カバリング糸2Aの上にさらに圧電フィルム10が巻かれてなる。圧電糸31は、圧電カバリング糸1Aに対して圧電フィルム10が左旋回してカバーされた左旋回糸(S糸)である。延伸方向900は、圧電糸31の軸方向に対して、左45度に傾いた状態となる。延伸方向900は、圧電カバリング糸1Aの延伸方向900Aと一致している。圧電カバリング糸1A、2Aは芯糸を備えない撚糸であっても良い。また芯糸が導電糸であってもよい。
【0059】
圧電糸31が軸方向に引っ張られると(外力が係ると)、圧電カバリング糸1Aの表面には負の電荷が生じる。一方、圧電カバリング糸1Aの表面に対向する圧電フィルム10の裏面には、正の電荷が生じる。各所の電位差は、糸同士が複雑に絡み合うことにより形成される電場結合回路、或いは水分等で糸の中に偶発的に形成される電流パスで形成される回路により定義される。回路が形成された時、電場の強度は、電荷を生じる物質間の距離に反比例して大きくなるため、圧電カバリング糸1Aの表面と、圧電フィルム10の裏面との間に生じる電場の強度は、極めて高くなる。すなわち、この構成により、糸自体の抗菌または殺菌効果はさらに高まる。なお、圧電糸31が軸方向に引っ張られると(外力が係ると)、圧電糸31の表面(圧電フィルム10の表面)には、負の電荷が生じる。したがって、表面に正の電荷が生じる糸と組み合わせることにより、さらに糸同士の間で電場を生じさせることもできる。
【0060】
一方、図8(B)に示すように、圧電糸32は、圧電カバリング糸2Aに対して圧電フィルム10が右旋回してカバーされた右旋回糸(Z糸)である。延伸方向900は、圧電糸31の軸方向に対して、右45度に傾いた状態となる。の延伸方向900は、圧電カバリング糸2Aの延伸方向900Aと一致している。
【0061】
圧電糸32が軸方向に引っ張られると(外力が係ると)、圧電カバリング糸2Aの表面(圧電フィルム10の表面)には正の電荷が生じる。圧電カバリング糸2Aの表面に対向する圧電フィルム10の裏面には、負の電荷が生じる。各所の電位差は、糸同士が複雑に絡み合うことにより形成される回路、或いは水分等で糸の中に偶発的に形成される電流パスで形成される回路により定義される。回路が形成された時、電場の強度は、電荷を生じる物質間の距離に反比例して大きくなるため、圧電カバリング糸2Aの表面と、圧電フィルム10の裏面との間に生じる電場の強度は、極めて高くなる。すなわち、この構成により、圧電糸31の場合と同様に、糸自体の抗菌または殺菌効果はさらに高まる。なお、圧電糸32が軸方向に引っ張られると(外力が係ると)、圧電糸32の表面(圧電フィルム10Aの表面)には、正の電荷が生じる。したがって、圧電糸31のように、表面に負の電荷が生じる糸と組み合わせることにより、糸同士の間で電場を生じさせることもできる。
【0062】
次に、図9(A)は、圧電糸33の構成を示す一部分解図であり、図9(B)は、圧電糸34の構成を示す一部分解図である。
【0063】
圧電糸33は、圧電カバリング糸1Aの上に圧電フィルム10が巻かれてなる。圧電糸34は、圧電カバリング糸2Aに圧電フィルム10が巻かれてなる。
【0064】
圧電糸33は、圧電カバリング糸1Aに対して圧電フィルム10が右旋回してカバーされた右旋回糸(Z糸)である。延伸方向900は、圧電糸33の軸方向に対して、右45度に傾いた状態となる。延伸方向900は、圧電カバリング糸1Aの延伸方向900Aと異なっている。
【0065】
また、図9(B)に示すように、圧電糸34は、圧電カバリング糸2Aに対して圧電フィルム10が左旋回して撚られた左旋回糸(S糸)である。延伸方向900は、圧電糸34の軸方向に対して、左45度に傾いた状態となる。延伸方向900は、圧電カバリング糸2Aの延伸方向900Aと異なっている。
【0066】
図10は、圧電糸33における圧電フィルム10の隙間を誇張して示した図である。圧電糸33は、圧電フィルム10をカバリング糸に巻く場合、ある程度の隙間Dが生じる。この隙間Dにより、圧電糸33が延伸方向に引っ張られた場合、圧電カバリング糸1Aの表面と、圧電フィルム10の表面との間に、電場が生じ回路が形成される。したがって、この構成により、糸自体の抗菌または殺菌効果が高まる。圧電糸34も同様である。
【0067】
なお、圧電糸33において、圧電カバリング糸1Aまたは圧電フィルム10のいずれか一方にPDLAを用いた場合、圧電カバリング糸1Aの表面に生じる電荷と圧電フィルム10の裏面に生じる電荷の極性が異なるため、圧電糸31と同様の構成となり、圧電カバリング糸1Aの表面と、圧電フィルム10の裏面との間に強い電場が生じる。圧電糸34において、圧電カバリング糸2Aまたは圧電フィルム10のいずれか一方にPDLAを用いた場合も同様である。
【0068】
次に、図11は、圧電糸35の構成を示す一部分解図である。圧電糸35は、圧電糸1および圧電糸2が互いに左旋回して撚られた糸(S糸)である。圧電糸35は、表面に負の電荷を生じる圧電糸1と表面に正の電荷を生じる圧電糸2とが交差してなるため、糸単体で電場を生じさせることができる。前述したように、圧電糸1および圧電糸2の表面に生じたそれぞれの電位は、表面同士の近接個所では同電位になろうとする。それに応じて、糸の内部の電位が変化して、糸の表面と内部の電位差を保とうとする。それぞれの糸において、糸の内部と表面との間に形成される電場が空気中に漏れ出て、この電場同士が結合し、圧電糸1および圧電糸2の近接部分には強い電場が形成される。撚糸の構造は複雑であり、圧電糸1および圧電糸2の近接個所は一様ではない。また、圧電糸1または圧電糸2に張力が加わると、近接個所も変化する。これにより、それぞれの部分において電場の強度には変化があり、対称形が崩されて電場回路が生じることとなる。なお、圧電糸1および圧電糸2が互いに右旋回して撚られた糸(Z糸)も、表面に負の電荷を生じる圧電糸1と表面に正の電荷を生じる圧電糸2とが交差してなるため、糸単体で電場を生じさせることができる。圧電糸1の撚り数、圧電糸2の撚り数、またはこれらの糸を撚り合わせた圧電糸35の撚り数は、抗菌効果を鑑みて決定される。これまで示してきた応用例のすべては、圧電糸35を用いて構成することが出来る。
【0069】
また、他にも、S糸(またはZ糸)の側面に普通糸を撚り、さらに側面にZ糸(またはS糸)を撚った、3重のカバリング糸であっても、糸単体で電場を生じさせることができる。
【0070】
また、図12に示すように、普通糸の表面に右旋回(または左旋回)させる圧電糸1と左旋回(または右旋回)させる圧電糸2とを同時に構成する組紐からなる糸(第3の糸)であっても、圧電糸1と圧電糸2が交差する位置において電場が生じるため、糸単体で電場を生じさせることができる。
【0071】
なお、表面に負の電荷を生じる糸としては、PLLAを用いたS糸の他にも、PDLAを用いたZ糸も考えられる。また、表面に正の電荷を生じる糸としては、PLLAを用いたZ糸の他にも、PDLAを用いたS糸も考えられる。したがって、例えば図11に示した構成において、PLLAを用いたS糸と、PDLAを用いたS糸を互いに左旋回して撚られた糸(S糸)または右旋回して撚られた糸(Z糸)からなる圧電糸も、糸単体で電場を生じさせることができる。PLLAを用いたZ糸と、PDLAを用いたZ糸を互いに左旋回して撚られた糸(S糸)または右旋回して撚られた糸(Z糸)からなる圧電糸も、糸単体で電場を生じさせることができる。
【0072】
次に、圧電体からなる糸の抗菌効果を説明する。本願発明者は、圧電体からなる糸が織り込まれた布の菌抑制効果を評価するため、以下の(1)(2)に示す定量試験を行った。
【0073】
(1)圧電体からなる糸が織り込まれた布の抗菌性評価
a)試験方法 : 菌液吸収法(JIS L1902)
b)試験菌 : 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)
c)接種菌液濃度: 1.4×105(CFU/mL)
d)標準布 :綿糸で織られた布、および綿糸で編まれた布
e)試験試料(抗菌加工試料): S糸(圧電糸1)とZ糸(圧電糸2)とを左旋回して撚られたS糸(圧電糸35)で編まれた布。
【0074】
[計算式]
・増殖値 : G=Mb-Ma
・抗菌活性値: A=(Mb-Ma)-(Mc-Mo)
通常の抗菌加工製品は、抗菌活性値A≧2.0~2.2とされる。
【0075】
・Ma :試験菌接種直後における標準布の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Mb :18~24時間培養後における標準布の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Mo :試験菌接種直後における試験試料(抗菌加工試料)の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Mc :18~24時間培養後における試験試料(抗菌加工試料)の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
【0076】
【表1】
表1から明らかなように、試験試料(圧電体からなる糸が織り込まれた布)は、細菌に対して、標準布に比べて高い抗菌効果を有する。また、試験試料を静置した状態に比べて、試験試料を振動させているほうが、抗菌効果が高いことが分かる。特に、試験試料を振動させて電場が生じている場合には、試験菌(細菌)接種から18時間後に正菌がほとんど観測されず、高い抗菌効果(殺菌効果)を発揮する。
【0077】
(2)圧電体からなる糸が織り込まれた布の抗カビ性評価
a)試験方法 : 抗かび性定量試験法(一般社団法人繊維評価技術評議会が定める方法)
b)試験菌 : クロコウジカビ(Aspergillus niger NBRC105649)
c)接種菌液濃度: 1.1×105(CFU/mL)
d)標準布 :綿糸で織られた布、および綿糸で編まれた布
e)試験試料(抗菌加工試料): S糸(圧電糸1)とZ糸(圧電糸2)とを左旋回して撚られた圧電糸(圧電糸35)で編まれた布。
【0078】
[計算式]
・発育値 : F=Fb-Fa
・抗かび活性値: FS=(Fb-Fa)-(Fc-Fo)
・Fa :試験菌接種直後における標準布の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Fb :42時間培養後における標準布の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Fo :試験菌接種直後における試験試料(抗菌加工試料)の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
・Fc :42時間培養後における試験試料(抗菌加工試料)の3検体の生菌数(またはATP量)の算術平均常用対数
【0079】
【表2】
表2から明らかなように、試験試料(圧電体からなる糸が織り込まれた布)は、真菌(カビ等)に対しても、標準布に比べて高い抗菌効果を有する。また、試験試料を静置した状態に比べて、試験試料を振動させているほうが、抗カビ効果が高いことが分かる。すなわち、試験試料を振動させて電場を生じさせている場合に、高い抗カビ効果を発揮する。
【0080】
以上の結果から、圧電体からなる糸が織り込まれた布は、抗菌性および抗カビ性を有することが明らかとなった。
【0081】
なお、外部からのエネルギーにより電荷を発生する繊維は、他にも例えば光電効果を有する物質、または焦電効果を有する物質(例えばPVDF)、化学変化により電荷を生じる物質、等がある。また、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き、該導電体に電気を流して電荷を発生させる構成も、電荷を発生する繊維である。ただし、圧電体は、圧電により電場を生じさせるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。また、薬剤、特に抗生物質等による耐性菌の発現が近年大きな問題となっているが、本発明による殺菌方法ではメカニズム上、耐性菌を生じることが考えられない。
【0082】
最後に、本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1,2…圧電糸
1A,2A…圧電カバリング糸
3…普通糸
5…導電糸
10…圧電フィルム
11…芯糸
100,100A…布
900…延伸方向
910A…第1対角線
910B…第2対角線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12