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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】卵風味付与剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20220725BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220725BHJP
   A23L 15/00 20160101ALN20220725BHJP
【FI】
A23L27/10 B
A23L27/00 C
A23L15/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019146564
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021023266
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】安田 佳代
(72)【発明者】
【氏名】上野 潤
(72)【発明者】
【氏名】中井 節子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-245239(JP,A)
【文献】特開2003-339316(JP,A)
【文献】特開2004-275073(JP,A)
【文献】特開2015-073493(JP,A)
【文献】特開2005-278530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)食用油脂ならびに
成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料
を含む組成物を、50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理してなる卵風味付与剤であって、
前記組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、
前記組成物の糖含量が0~2.0質量%である、卵風味付与剤。
【請求項2】
前記成分(a)食用油脂が卵黄油を含む、請求項1に記載の卵風味付与剤。
【請求項3】
前記組成物の水分含量が0~1.5質量%であり、前記組成物の糖含量が0~1.5質量%である、請求項1または2に記載の卵風味付与剤。
【請求項4】
前記成分(a)食用油脂が植物油脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の卵風味付与剤。
【請求項5】
前記組成物が、さらに
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の卵風味付与剤。
【請求項6】
工程1:成分(a)食用油脂ならびに成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料を含む組成物を用意する工程と、
工程2:前記組成物を50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理する工程
を含む、卵風味付与剤の製造方法であって、
前記組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、
前記組成物の糖含量が0~2.0質量%である、卵風味付与剤の製造方法。
【請求項7】
前記成分(a)食用油脂が卵黄油を含む、請求項6に記載の卵風味付与剤の製造方法。
【請求項8】
前記組成物の水分含量が0~1.5質量%であり、前記組成物の糖含量が0~1.5質量%である、請求項6または7に記載の卵風味付与剤の製造方法。
【請求項9】
前記成分(a)食用油脂が植物油脂を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
【請求項10】
前記組成物が、さらに
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
【請求項11】
前記工程2の後に、
工程3:さらに、
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を工程2で得られた組成物に配合する工程と、
工程4:前記工程3で得られた組成物を50~140℃で0.1分間~10時間の二段階目の加熱処理する工程
を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵風味付与剤、卵風味付与剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、卵に関する風味を付与するための様々な飲食品素材が提案されている。
例えば、特許文献1には、焼卵様風味を有するフレーバーの製法として、全卵、卵白及び卵黄材料からなる群よりえらばれた卵材料の少なくとも1種類および/またはそれらのプロテアーゼ処理物とジヒドロキシアセトンおよび/またはピルブアルデヒドを、エタノール濃度40wt%以上のエタノールの存在下に、加熱処理する焼卵様フレーバーの製法が記載されている。
特許文献2には、卵風味や炒め感を呈する焦げ風味を付与可能な調味料として、卵黄を食用油と混合して乳化状態とし、撹拌した状態で180~230℃で焦げ臭が発生するまで加熱処理を施した卵風味および焦げ風味を有する調味料が提案されている。
特許文献3には、ゆで卵黄の細粒感とホクホクした食感を持つゆで卵黄様食品として、大豆たん白素材、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物の1種類または2種類以上、並びに卵素材を含む原料を混合し、加熱凝固・攪拌することを特徴とするゆで卵黄様食品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平05-007978号公報
【文献】特開2005-278530号公報
【文献】国際公開第2008/001588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の消費者の天然志向の高まりにより、より本物の卵またはその加工品に近い良好な卵風味の飲食品素材が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、良好な卵風味を付与可能な新規な卵風味付与剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、卵風味を付与可能な飲食品素材について鋭意探求したところ、全く予想外なことに、食用油脂と乾燥卵原料との混合物の糖含量および水分含量を所定以下とし、その混合物を所定温度で所定時間加熱したところ、良好な卵風味を付与可能な新規な卵風味付与剤を提供できることを見出した。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0006】
[1] 成分(a)食用油脂ならびに
成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料
を含む組成物を、50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理してなる卵風味付与剤であって、
組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、
組成物の糖含量が0~2.0質量%である、卵風味付与剤。
[2] 成分(a)食用油脂が卵黄油を含む[1]に記載の卵風味付与剤。
[3] 組成物の水分含量が0~1.5質量%であり、組成物の糖含量が0~1.5質量%である[1]または[2]に記載の卵風味付与剤。
[4] 成分(a)食用油脂が植物油脂を含む[1]~[3]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤。
[5] 組成物が、さらに
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を含む[1]~[4]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤。
[6] 工程1:成分(a)食用油脂ならびに成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料を含む組成物を用意する工程と、
工程2:組成物を50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理する工程
を含む、卵風味付与剤の製造方法であって、
組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、
組成物の糖含量が0~2.0質量%である、卵風味付与剤の製造方法。
[7] 成分(a)食用油脂が卵黄油を含む[6]に記載の卵風味付与剤の製造方法。
[8] 組成物の水分含量が0~1.5質量%であり、組成物の糖含量が0~1.5質量%である[6]または[7]に記載の卵風味付与剤の製造方法。
[9] 成分(a)食用油脂が植物油脂を含む[6]~[8]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
[10] 組成物が、さらに
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を含む[6]~[9]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
[11] 工程2の後に、
工程3:さらに、
成分(c)硫黄含有成分、
成分(d)アミノ酸またはその塩、
成分(e)酸
からなる群から選択される1種類以上を工程2で得られた組成物に配合する工程と、
工程4:工程3で得られた組成物を50~140℃で0.1分間~10時間の二段階目の加熱処理する工程
を含む[6]~[10]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤の製造方法。
[12] [1]~[5]のいずれか一項に記載の卵風味付与剤を含有する、飲食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な卵風味を付与可能な新規な卵風味付与剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
[卵風味付与剤]
本発明の卵風味付与剤は、成分(a)食用油脂ならびに成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料を含む組成物を、50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理してなる卵風味付与剤であって、この組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、組成物の糖含量が0~2.0質量%である。
【0010】
本発明の卵風味付与剤は、それ自体、卵様の風味を呈し、特にみずみずしい生卵および/またはゆで卵様の白身感、黄身感または全卵感を含む卵風味を呈するものである。本発明の卵風味付与剤は、飲食品などの任意の物品に配合して、その物品にこのような卵風味を付与できることが好ましい。
本明細書において、ゆで卵とは、生卵が熱により少なくとも一部凝固した状態のものを言い、いわゆる半熟卵、ポーチドエッグなどの、黄身、白身またはその両方の一部が完全に凝固せずに生卵の風味を残しつつゆで卵の風味を有するものでも、固ゆでのような全卵(黄身および白身の両方)が熱により凝固した状態のものでもよい。なお、本発明の卵風味付与剤は、好ましくは、焼いた卵のようなカラメル感、ロースト感、卵焼きのような甘く香ばしい風味などは有さない。
本明細書中、黄身のことを卵黄と言うことがあり、白身のことを卵白と言うことがある。
【0011】
本明細書において、卵風味の「付与」とは、卵風味を有さない物品に卵風味を付加したり、すでに卵風味を有している物品に対して、同様の卵風味を増強させたり、異なる卵風味を付加したりすることを意味する。なお、「卵」は鶏卵、うずらの卵、アヒルの卵など、食に供され得る卵であることが好ましい。
【0012】
本発明の卵風味付与剤は、食用油脂および乾燥卵原料を含み、糖含量および水分含量が一定値以下である組成物(本明細書では、加熱処理対象の組成物とも称する)を50~140℃で所定時間加熱して得るものであって、乾燥卵原料中の各種類の成分や食用油脂などが加熱時に複雑に相互作用し、多様な成分が生成した結果、生卵またはゆで卵様のみずみずしい卵風味が得られると推察される。乾燥卵原料中の成分には、オボアルブミンやリポタンパク質などのタンパク質、レシチンなどの脂質、炭水化物、ナトリウム、カリウムなどの無機質、各種類のビタミン類などが含まれるが、すべては解明されておらず、かつ、加熱によって生じる成分もすべて特定することは困難であり、風味の特徴成分は特定しがたい。なぜなら、味の科学的要因について、呈味成分は高速液体クロマトグラフ(HPLC)により、香気成分はガスクロマトグラフ(GC)により、既知の成分は定量可能であるが、呈味物質と香気成分のすべてが知られているわけではなく、未知の呈味物質と香気成分についてはまだ無数に存在すると考えられていること、および、複数の成分の相互作用(相乗効果や抑制効果など)に基づく味や香りの変化のうち、知られていない組み合わせについては予測できないことから、味や香りの分析には限界があるからである。よって、本発明の卵風味付与剤の特徴成分は、現在の技術では特定することが困難と考えられる。従って、本発明には、出願時において、本発明の卵風味付与剤をその構造または特性により直接特定することが不可能であるか、またはおよそ実際的でないという事情が存在すると考えられる。
【0013】
<水分含量および糖含量>
加熱処理対象の組成物の水分含量は、0~2.0質量%であるが、好ましくは0~1.5質量%、より好ましくは0~1.0質量%、特に好ましくは0~0.5質量%である。組成物の糖含量は、0~2.0質量%であるが、好ましくは0~1.5質量%、より好ましくは0~1.0質量%、特に好ましくは0~0.5質量%である。また、この水分含量および糖含量は、その組成物の配合成分由来のもののみであることが好ましい。換言すれば、組成物の配合成分として糖自体、水自体を用いないことが好ましい。水分含量が組成物全量に対して2.0質量%を超えると、得られた加熱処理物において特にチキン様(鶏肉様)の風味が出てしまい卵以外の風味が感じられることがある。糖含量が組成物全量に対して2.0質量%を超えると、得られた加熱処理物においてコゲ感、香ばしさ(ロースト感)、およびこれらに起因する甘さなど、生卵またはゆで卵様の卵風味とは異質な風味が強調されることがある。これらに対して、加熱処理対象の組成物の水分含量および糖含量を一定値以下とすることで、この組成物を加熱処理されて得られる本発明の卵風味付与剤は生卵またはゆで卵様のみずみずしい香味を呈する。
本発明において、水分含量および糖含量は任意の方法で測定してよい。水分含量であれば、例えば、JIS K0068:2001に準拠した方法や、消費者庁ウェブページで公開される「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載の方法に従って、カールフィッシャー法を用いて測定してもよい。糖含量であれば、例えば、消費者庁ウェブページで公開される「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載の糖の測定方法に従って、ガスクロマトグラフ法または高速液体クロマトグラフ法を用いて測定してもよい。または、各成分に市販の製品を使用する場合には、その製品の規格書、栄養成分表、その他データベースを参照して水分含量および糖含量を算出してもよい。
なお、本明細書において、糖とは、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖などの二糖類などの糖類を意味する。
【0014】
<成分(a)食用油脂>
食用油脂として、飲食品の製造に使用可能な任意の種類の油脂を使用してよい。
具体的には、植物油脂、動物油脂、食用精製加工油脂のいずれであってもよく、これら油脂の1種類または2種類以上の組み合わせであってよい。より具体的には、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、ココナッツ油、落花生油、オリーブ油、椿油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ごま油、アマニ油、桐油、麻実油、ベニバナ油、コーン油、米油、ひまわり油、グレープシードオイル、えごま油、グリーンナッツオイル、アボカドオイル、アーモンド油、アルガン油、胡桃油、パンプキンシードオイル、ピーナッツオイル、キャノーラ油、からし油、卵黄油(卵黄レシチンともいう)、牛脂、豚脂、羊脂、鶏油、肝油、魚油、鯨油、これらの硬化油、部分硬化油、エステル交換油、食用精製加工油脂(日清オイリオグループ株式会社製の中鎖脂肪酸油(MCT)シリーズ、例えばスコレー(登録商標)シリーズなど)などの各種類の合成油脂、バター、マーガリン、およびこれらから選択される2種類以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明では、成分(a)食用油脂が卵黄油を含むことが好ましい。
また、別の好ましい態様として、本発明では、成分(a)食用油脂が食用精製加工油脂および/または植物油脂を含むことが好ましい。単独で用いる場合の植物油脂としては、綿実油、菜種油、大豆油、コーン油、キャノーラ油、米油が好ましく、米油、コーン油がより好ましいが、所望の風味や配合対象の飲食品に応じて選択することができる。
本発明では、食用油脂は、卵黄油と食用精製加工油脂および/または植物油脂との組み合わせであることがより好ましい。卵黄油と組み合わせる食用精製加工油脂または植物油脂としては、綿実油、菜種油、大豆油、コーン油、米油、キャノーラ油、中鎖脂肪酸油(MCT)、エステル交換油が好ましく、大豆油、コーン油、米油、中鎖脂肪酸油(MCT)、エステル交換油がより好ましく、米油、コーン油、中鎖脂肪酸油(MCT)が特に好ましいが、所望の風味や配合対象の飲食品に応じて選択することができる。
食用油脂は実質的に水分を含有しないことが好ましい。
加熱処理対象の組成物における食用油脂の配合量は特に限定されないが、加熱処理対象の組成物の全質量に対して、少なくとも60質量%であってよく、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。上限は特に限定されないが、99質量%以下でよく、好ましくは98質量%以下または97質量%である。
食用油脂として、卵黄油を使用する場合、その配合量は加熱処理対象の組成物の全質量に対して任意の割合であってよいが、例えば、0.1~25質量%でよく、好ましくは0.3~18質量%、より好ましくは0.3~8質量%である。卵黄油を配合することで、みずみずしい生卵またはゆで卵様の白身または黄身風味に、濃厚さやとろみ感を追加することができる。
【0015】
<成分(b)乾燥卵原料>
本発明において、乾燥卵原料は、卵黄、卵白、または全卵を乾燥させて製造されるものである。これらのうちいずれか1種類、または2種類以上を併用してよく、所望の卵風味に応じて乾燥卵原料の種類を決定してよい。例えば、市販の粉末状またはフレーク状の乾燥卵黄、乾燥卵白、乾燥全卵の1種類以上を用いてよい。乾燥卵原料は任意の割合で複数種類を混合できる。例えば、みずみずしい生卵またはゆで卵様の全卵様風味を強調したい場合には、乾燥卵白および乾燥卵黄の併用、乾燥全卵のみの使用、乾燥全卵および乾燥卵白もしくは乾燥卵黄との2種類併用、またはこれら3種類すべてを併用することが好ましい。みずみずしい生卵またはゆで卵様の白身風味を強調したい場合には、少なくとも乾燥卵白、乾燥全卵、またはこれらの両方を採用することが好ましく、任意に乾燥卵黄も併用する際は、適宜乾燥卵黄の使用割合を低くしてもよい。みずみずしい生卵またはゆで卵様の黄身風味を強調したい場合には、少なくとも乾燥卵黄を採用することが好ましい。このような黄身風味を特に強調したい場合や黄身の濃厚感を増加させたい場合には、乾燥卵黄のみを乾燥卵原料として使用してもよい。
乾燥卵原料の水分含量は少ないことが好ましく、例えば0~10質量%の範囲内であってよい。例えば、乾燥卵黄であれば、0.5~4質量%、乾燥全卵であれば2~5質量%、乾燥卵白であれば4~10%の範囲内の水分含量のものを好適に使用することができる。
加熱処理対象の組成物における乾燥卵原料の配合量は特に限定されず、所望の風味などに応じて決定してよい。例えば、加熱処理対象の組成物の全質量に対して、0.5~40質量%でよく、好ましくは1.0~25質量%、より好ましくは2.0~20質量%である。
【0016】
加熱処理対象の組成物は、成分(a)食用油脂および成分(b)乾燥卵原料に加えて、所望の風味に応じて、飲食品に配合可能で風味付与可能な各種類の素材を任意成分として併用してもよい。本発明では、組成物が、さらに成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸からなる群から選択される1種類以上を含むことが好ましい。以下、その例を説明する。
【0017】
<成分(c)硫黄含有成分>
本明細書において硫黄含有成分とは、硫黄原子を分子内に含む化合物を意味する。組成物が硫黄含有成分をさらに含むことによって、特にゆで卵(特に白身)独特のトップの硫黄感、固ゆでの白身感、ゆで卵の黄身の粒感などを増強させることができる。
本発明に用いられる硫黄含有成分は飲食品に使用できるものであれば特に制限はなく、本発明による卵風味を逸脱させない範囲で、所望の風味に応じて選択してよい。硫黄含有成分は1種類のみ使用しても2種類以上併用してもよい。硫黄含有成分の例としては、チアミン塩酸塩、シスチン、システイン、メチオニン、グルタチオンなどが挙げられる。これらのうち、アミノ酸であるものは、後述の成分(d)アミノ酸として配合してもよい。または、これらのような化合物を含有する硫黄含有組成物を用いてもよく、そのような硫黄含有組成物の例としては、上述のような硫黄含有成分を高含有する各種類の動植物や微生物それ自体、またはこれらの加工品(抽出物などの各種エキス、粉末など)が挙げられる。使用する硫黄含有成分は、水溶液の状態でも固体の状態でもよいが、本発明で規定する水分含量の上限、すなわち加熱処理対象の組成物の水分含量が2.0質量%を超えないように、使用する水溶液濃度の調整や粉末の選択をすることが好ましい。
本発明の加熱処理対象の組成物における硫黄含有成分の配合量は特に限定されず、所望の風味などに応じて決定してよい。例えば、加熱処理対象の組成物の全質量に対して、0.01~10質量%でよく、好ましくは0.02~8.0質量%、より好ましくは0.03~6.0質量%である。
【0018】
<成分(d)アミノ酸>
本明細書においてアミノ酸とは、アミノ酸自体、その塩、2~20個のアミノ酸で構成されるオリゴペプチドも含むものとする。組成物がアミノ酸をさらに含むことによって、みずみずしい生卵またはゆで卵様の白身または黄身の卵風味をより増強し得る。硫黄原子を含むアミノ酸の場合には、上述の硫黄含有成分で例示した効果も奏することができる。
本発明に用いられるアミノ酸は飲食品に使用できるものであれば特に制限はなく、1種類のみ使用しても2種類以上併用してもよい。アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、プロリン、システイン、リシン、トレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、テアニン、チアミン、またはこれらの塩、これらのオリゴペプチドが例示できる。オリゴペプチドとしては、グルタチオンが例示できる。好ましい例として、システイン、シスチン、グルタチオン、チアミン塩酸塩、グルタチオンが挙げられるが、これらに限定されない。使用するアミノ酸は、水溶液の状態でも固体の状態でもよいが、本発明で規定する水分含量の上限、すなわち加熱処理対象の組成物の水分含量が2.0質量%を超えないように、使用する水溶液濃度の調整や粉末の選択をすることが好ましい。
本発明の加熱処理対象の組成物におけるアミノ酸の配合量は特に限定されず、所望の風味などに応じて決定してよい。例えば、加熱処理対象の組成物の全質量に対して、0.01~10質量%でよく、好ましくは0.02~8.0質量%、より好ましくは0.03~6.0質量%である。
【0019】
<成分(e)酸>
本明細書において酸とは、飲食品の製造に使用可能な酸であれば特に限定されない。組成物が酸をさらに含むことによって、生卵またはゆで卵のしっとりとした風味を増強し得る。
本発明に用いられる酸は飲食品に使用できるものであれば特に制限はなく、1種類のみ使用しても2種類以上併用してもよい。酸としては、塩酸、酢酸、クエン酸、リン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸などの無機または有機酸、またはこれらのナトリウム、カリウムなどの任意の塩が例示できる。本明細書における成分(e)酸は、成分(d)アミノ酸以外の酸を意味し、酸の塩も含まれる。
使用する酸またはその塩は、水溶液の状態でも固体の状態でもよいが、本発明の加熱処理対象の組成物の水分含量の上限、すなわち2.0質量%を超えないように、水溶液濃度の調整や固体の選択をすることが好ましい。
本発明の加熱処理対象の組成物における酸の配合量は特に限定されず、所望の風味などに応じて決定してよい。例えば、加熱処理対象の組成物の全質量に対して、0.01~10質量%でよく、好ましくは0.02~8.0質量%、より好ましくは0.03~6.0質量%である。
【0020】
<その他成分>
加熱処理対象の組成物は、さらにその他の成分を含有し得る。その他の成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、核酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。また、加熱処理対象の組成物は、増粘剤、ゲル化剤、酸化防止剤、色素、防腐剤などを本発明の卵風味付与剤の効果を逸脱しない範囲内において含有してもよい。
【0021】
<卵風味付与剤の形態>
本発明の卵風味付与剤の形態は特に限定されない。後述の本発明の卵風味付与剤の製造方法によって食用油脂と乾燥卵原料との混合物を加熱すると、通常は油脂組成物、好ましくは液体の油状(オイル状)となり、適宜任意の目開きでの濾過や遠心分離によって一定以上の大きさの不要な固形物を除去して油層を得て、それを食用香味油として使用することができる。
本発明では、得られた油脂組成物(好ましくはオイル状)の本発明の卵風味付与剤を、さらに乳化物、粉末、フレークなどに加工してもよい。乳化物や粉末の場合は、上記濾過を行わなくてもよい。乳化物化、粉末化、フレーク化は、公知の任意の方法によって行うことができる。
【0022】
[卵風味付与剤の製造方法]
本発明の卵風味付与剤の製造方法は、工程1:成分(a)食用油脂ならびに成分(b)乾燥全卵、乾燥卵白および乾燥卵黄から選択される1種類以上の乾燥卵原料を含む組成物を用意する工程と、工程2:組成物を50~140℃で0.1分間~10時間加熱処理する工程を含む、卵風味付与剤の製造方法であって、組成物の水分含量が0~2.0質量%であり、組成物の糖含量が0~2.0質量%である。
【0023】
<工程1>
工程1では、上述の成分(a)および成分(b)を含む組成物を用意する。成分(a)および成分(b)の具体例と組成物中の含有量、糖の定義については上述の通りである。各成分を、均一な混合物となるまでよく混合することが好ましい。
加熱処理対象の組成物の水分含量が、本発明で規定する上限値を超える場合、卵風味付与剤の製造方法は、加熱処理対象の組成物の水分含量を調整する工程を含んでいてもよい。
工程1で調製した加熱処理対象の組成物は、そのまま工程2に使用してもよいが、容器に充填し、使用時まで所定の範囲の温度、例えば-40~10℃で保存してもよい。なお、工程1で調製した加熱処理対象の組成物を0℃未満で冷凍保存をした場合、0℃以上になるまで解凍してから工程2の加熱処理に用いることが、良好な卵風味を付与可能とする観点から好ましい。
【0024】
<工程2>
工程2の加熱処理の条件は、加熱温度として50~140℃、加熱時間として0.1分~10時間の範囲内であり、所望の風味に応じて任意に決定してよい。なお、ある加熱温度における加熱時間とは、その温度に到達してからの時間の長さを意味する。すなわち、本発明では、50~140℃の範囲内に到達した後、0.1分間~10時間の加熱を行うものである。例えば、工程1で調製した加熱処理対象の組成物を0℃未満で冷凍保存をした場合、解凍時間は加熱時間に含まれない。
加熱温度および加熱時間は、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味が得られる範囲内で適宜調整してよいが、好ましくは60℃~120℃で10分間~6時間、より好ましくは30分間~6時間、特に好ましくは70℃~110℃で1時間~5時間である。
ただし、加熱機器の出力が制限されるなどの原因で加熱温度の範囲に制限がある場合には、加熱温度および加熱時間が以下の式を満たすように加熱処理することが特に好ましい。
加熱温度x[℃]と加熱時間y[h]の上限値との関係は、加熱温度xが50以上100以下の場合に加熱時間yが10時間以下であればよく、加熱温度xが100を超え140以下の場合に下記式1を満たすことが特に好ましい。
式1: y≦-0.0025x+0.415x-7.8
(式1中、xは100を超え140以下であり、yは0.00167以上10以下である。)
加熱温度x[℃]と加熱時間y[h]の上限値との関係は、加熱温度xが50以上100以下の場合に下記式2Aを満たし、かつ、加熱温度xが100を超え140以下の場合に下記式2Bを満たすことがより特に好ましい。
式2A: y≦-0.04x+12.0
(式2A中、xは50以上100以下であり、yは0.00167以上10以下である。)
式2B: y≦-0.15x+22.0
(式2B中、xは100を超え140以下であり、yは0.00167以上10以下である。)
一方、加熱温度x[℃]と加熱時間y[h]の下限値との関係は、加熱温度xが50以上120以下の場合に下記式3を満たすことが特に好ましく、加熱温度xが120を超える場合の加熱時間yは0.00167(0.1分間)以上であればよい。
式3: y≧-0.05x+6.0
(式3中、xは50以上120以下であり、yは0.00167以上10以下である。)
【0025】
<工程3および工程4>
工程2で加熱処理して得られた卵風味付与剤に対し、所望の風味に応じて、さらに任意の成分を配合して二段階目の加熱処理を再度行ってもよい。
また、本発明の卵風味付与剤の製造方法は、工程2の後に、工程3:さらに、成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸からなる群から選択される1種類以上を組成物に配合する工程を含むことが好ましい。
特に、本発明の卵風味付与剤の製造方法は、工程2の後に、工程3:さらに、成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸からなる群から選択される1種類以上を工程2で得られた組成物に配合する工程と、工程4:工程3で得られた組成物を50~140℃で0.1分間~10時間の二段階目の加熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0026】
工程3に用いられる成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸の好ましい種類は、工程1に用いられる成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸の好ましい種類と同様である。
これらの成分の中でも、工程3では、成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩からなる群から選択される1種類以上を組成物に配合することがより好ましい。成分(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩を工程2で得られた組成物にさらに配合することにより、加熱処理で揮発してしまうトップ(揮発性の高い分子)の香気を大きく増加させることができる。
工程3で用いる(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸の種類は、工程1で用いた(c)硫黄含有成分、成分(d)アミノ酸またはその塩、成分(e)酸と同じ種類とすることが好ましい。ただし、別の種類のものを用いてもよい。
【0027】
工程4の二段階目の加熱処理を行うことで、工程3で配合した成分に由来した風味が増強されやすくなる。
工程4を行う場合における一段階目の工程2の好ましい加熱処理の条件は、工程2と工程4の合計の加熱時間が、工程4を行わない場合の一段階目の工程2の好ましい加熱時間の範囲となるようにすることがより好ましい。工程4を行う場合における一段階目の工程2の好ましい加熱処理の条件は、その他の点において、工程4を行わない場合の一段階目の工程2の好ましい加熱処理の条件と同様である。
工程4における二段階目の加熱処理の条件は、加熱温度として50~140℃、加熱時間として0.1分~10時間の範囲内であり、所望の風味に応じて任意に決定してよい。加熱温度および加熱時間は、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味が得られる範囲内で適宜調整してよいが、好ましくは60℃~120℃で10分間~4時間、より好ましくは70℃~110℃で30分間~2時間である。
工程4を行う場合、一段階目の加熱処理(工程2)における加熱処理対象の組成物の水分含量および糖含量を本発明で規定する範囲内に制御すればよい。さらに、工程3で得られた組成物の水分含量および糖含量も、工程2で用いる加熱処理対象の組成物の水分含量および糖含量と同様の範囲内に制御することが好ましい。
その他の工程4における二段階目の好ましい加熱処理の条件は、上記の工程2における一段階目の好ましい加熱処理の条件と同様である。この二段階目の加熱処理を行うことで、工程3で配合した成分に由来した風味が増強されやすくなる。
【0028】
<精製>
工程2または工程4の加熱処理を経て得られた卵風味付与剤は、そのまま使用してもよいが、精製することが好ましい。精製の方法に制限はないが、例えば加熱処理して得られた卵風味付与剤を50~80℃程度まで冷却後、濾過して固液分離し、油層部を得ることが好ましい。濾過としてはネル濾過が好ましい。
さらに得られた油層部を、1000~1800G程度にて5~15分間の遠心分離による分離(遠沈)を行ってもよい。
得られた卵風味付与剤を容器に充填し、使用時まで所定の範囲の温度、例えば-40~10℃で保存してもよい。
【0029】
[飲食品]
<本発明の卵風味付与剤の使用例>
本発明の飲食品は、本発明の卵風味付与剤を含有する。
本発明の卵風味付与剤は、飲食品に有効量添加することによって、生卵またはゆで卵の、みずみずしい白身感、黄身感、または全卵感を飲食品に付与することができる。飲食品の具体例としては、何ら限定されるものではなく、例えば、卵焼き、ゆで卵、スクランブルエッグ、卵豆腐、茶碗蒸し、卵スープ、卵サラダ、オムレツ、キッシュ、ピラフ、チャーハン、カルボナーラソース、卵サンド、錦糸卵、親子丼、お好み焼き、かに玉、揚げ物の衣などの調理品類;カスタードクリーム、ケーキ、シュークリーム、ワッフル、クレープ、プディング、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、ウェハース、プレッツェル、ボーロ、焼き菓子、ポテトチップス、パン、カステラ、バームクーヘン、マドレーヌ、ホットケーキ、スフレ、ドーナツ、ババロア、ゼリー、キャラメル、キャンディー、錠菓、スナック、シリアルなどの菓子類;アイスクリーム、シャーベット、氷菓などの冷菓類;マヨネーズ、タルタルソース、ドレッシング、ソース、調味油などの調味料;袋入り即席ラーメン、カップ入り即席ラーメン、袋入り即席うどん、カップ入り即席うどん、袋入り即席そば、カップ入り即席そば、その他の即席麺などの各種類のインスタント食品類のほか、ミルクセーキ、エッグノッグ、卵酒、栄養ドリンクなどの飲料、サプリメントなどの栄養補助剤などが挙げられる。
【0030】
<含有量>
飲食品に対する、本発明の卵風味付与剤の含有量は、所望の風味に応じて決定してよい。例えば、0.01~50質量%でよく、好ましくは0.02~20質量%でよく、より好ましくは0.05~5質量%であってよい。
【実施例
【0031】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
本実施例において、各成分の配合量の数値は質量部である。また、水分含量および糖含量は、使用した市販の各成分に添付の規格書と添加した水および糖の量を参照して算出した。
【0032】
[実施例1]水分含量および糖含量と卵風味との関係
下記表1に記載の成分をよく混合して加熱処理対象の組成物をそれぞれ調製し、下記表1に各組成物の合計量に対する、水分含量および糖含量を記載した。
各組成物を3径フラスコに仕込み、加熱を開始した。各組成物の温度が95℃に到達した後、4時間加熱した。次いで、各組成物を70℃まで冷却後、各組成物をネル濾過によって固液分離して、液体部分として油層部を得た。油層部に対し、1300G、10分間の遠心分離を行い、清澄な油脂組成物を得た。得られた油脂組成物を本発明1~10、比較品1および2の卵風味付与剤とした。
【0033】
<卵サラダの官能評価>
得られた本発明と比較品の卵風味付与剤を、それぞれ市販の卵サラダに0.5質量%配合した。得られた各卵サラダの、市販の卵サラダと比較した風味について、経験年数10年間以上のよく訓練されたパネラー15名に官能評価させた。官能評価では、以下の基準に従って点数付けさせるとともに、風味に関してコメントさせた。卵サラダの官能評価点数の平均値および官能評価コメントの平均的な結果を下記表1に示す。
(官能評価基準)
1:生卵またはゆで卵様の風味とは異質な風味を感じる。
2:生卵またはゆで卵様の風味がやや増加した。
3:生卵またはゆで卵様の風味が増加した。
4:生卵またはゆで卵様の風味が大幅に増加した。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、本発明の卵風味付与剤を用いることにより、良好な卵風味を付与可能であることがわかった。
一方、比較品1および2より、加熱処理対象の組成物の水分含量または糖含量が2.0質量%を超えると、甘いカステラ様、カラメル様、チキン様などの風味が感じられ、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味とは異質な風味であった。
【0036】
[実施例2]食用油脂および卵原料の種類と卵風味との関係
下記表2に記載の成分をよく混合して加熱処理対象の組成物をそれぞれ調製し、下記表2に各組成物の合計量に対する、水分含量および糖含量を記載した。
各組成物を3径フラスコに仕込み、加熱を開始した。各組成物の温度が80℃に到達した後、5時間加熱した。次いで、各組成物を65℃まで冷却後、各組成物をネル濾過によって固液分離して、液体部分として油層部を得た。油層部に対し、1300G、10分間の遠心分離を行い、清澄な油脂組成物を得た。得られた油脂組成物を本発明11~17および比較品3~7の卵風味付与剤とした。
得られた本発明と比較品の卵風味付与剤について、卵サラダの官能評価を実施例1と同様にして行った。得られた結果を下記表2に示す。
なお、下記表2中、※1:スコレーML(登録商標、日清オイリオグループ株式会社製)は、カプリル酸とカプリン酸の混合グリセリドの油脂である。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、本発明の卵風味付与剤を用いることにより、良好な卵風味を付与可能であることがわかった。
一方、比較品4~7より、組成物に水または糖を添加した場合であって、加熱処理対象の組成物の水分含量または糖含量が2.0質量%を超えるときは、香ばしさ(ロースト感)、カラメル様、カステラ様、チキン様などの風味が感じられ、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味とは異質な風味であった。
また、比較品3より、卵原料が乾燥卵原料でない場合、すなわち凍結卵黄であっても、ロースト感が目立ってしまい、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味とは異質な風味であった。
【0039】
[実施例3]任意成分(c)~(e)と卵風味との関係
下記表3に記載の成分をよく混合して加熱処理対象の組成物を調製した以外は実施例2と同様にして、本発明18~27および比較品8~11の卵風味付与剤を得た。
【0040】
<卵サラダの官能評価>
得られた本発明と比較品の卵風味付与剤を、それぞれ市販の卵サラダに0.5質量%配合した。得られた各卵サラダの、卵黄感については本発明11を配合した卵サラダと、白身感については本発明14を配合した卵サラダとそれぞれ比較した風味について、経験年数10年間以上のよく訓練されたパネラー15名に官能評価させた。官能評価では、実施例1の基準に従って点数付けさせるとともに、風味に関してコメントさせた。卵サラダの官能評価点数の平均値および官能評価コメントの平均的な結果を下記表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示すように、本発明の卵風味付与剤は、成分(a)食用油脂、成分(b)乾燥卵原料以外に、各種類の飲食品素材である任意成分(c)~(e)を用いて所望の風味を付与でき、より良好な卵風味を付与可能であることがわかった。
一方、比較品8~11より、加熱処理対象の組成物の水分含量または糖含量が2.0質量%を超えると、任意成分(c)~(e)を用いた場合であっても、香ばしさ(ロースト感)、甘いカステラ様、玉ねぎ様、チキン様などの風味が感じられ、生卵またはゆで卵様のみずみずしい風味とは異質な風味であった。
【0043】
[実施例4]二段階目の加熱処理と卵風味との関係
下記表4に記載の成分をよく混合して加熱処理対象の組成物をそれぞれ調製し、下記表4に各組成物の合計量に対する、水分含量および糖含量を記載した。
各組成物を3径フラスコに仕込み、加熱を開始した。各組成物の温度が100℃に到達した後、1.5時間加熱した(工程2)。
本発明28および30では、工程2で得られた各組成物を65℃まで冷却後、各組成物をネル濾過によって固液分離して、液体部分として油層部を得た。油層部に対し、1300G、10分間の遠心分離を行い、清澄な油脂組成物を得た。得られた油脂組成物を本発明28および30の卵風味付与剤とした。
本発明29および31では、工程2で得られた各組成物を65℃まで冷却後、各組成物にさらに下記表4に記載の成分(c)および成分(d)をよく混合する工程3を行った。工程3で得られた組成物の二段階目の加熱を開始した。各組成物の温度が100℃に到達した後、0.5時間加熱した(工程4)。次いで、各組成物を65℃まで冷却後、各組成物をネル濾過によって固液分離して、液体部分として油層部を得た。油層部に対し、1300G、10分間の遠心分離を行い、清澄な油脂組成物を得た。得られた油脂組成物を本発明29および31の卵風味付与剤とした。
得られた本発明の卵風味付与剤について、卵サラダの官能評価を実施例1と同様にして行った。得られた結果を下記表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示すように、本発明の卵風味付与剤の中でも、工程3および工程4の二段階目の加熱処理を行った本発明29および31は、本発明28および30と比べて加熱処理で揮発してしまうトップ(揮発性の高い分子)の香気が大きく増加することがわかった。
【0046】
なお、硫黄含有成分として、実施例4で用いたグルタチオン、実施例3で用いたチアミン塩酸塩のほか、システイン、シスチン、メチオニンでもグルタチオン等と同様の効果が得られた。また、アミノ酸として、実施例4で用いたプロリン、実施例3で用いたグルタミン酸ナトリウムのほか、イソロイシン、アラニンでも、プロリン等と同様の効果が得られた。酸として、実施例3および4で用いたクエン酸のほか、リン酸でもクエン酸と同様の効果が得られた。
【0047】
[実施例5]加熱温度および加熱時間と卵風味との関係
実施例3で調製した加熱処理対象の組成物のうち1つ(表3の本発明24)を、下記表5に示すように様々な加熱温度および加熱時間にて加熱し、本発明の卵風味付与剤を得た。
得られた本発明の卵風味付与剤を、それぞれ市販の卵サラダに0.5質量%配合した。得られた各卵サラダの、市販の卵サラダと比較した風味について、下記の官能評価基準に従って経験年数10年間以上のよく訓練されたパネラー15名に官能評価させた。卵サラダの官能評価点数の平均値および官能評価コメントの平均的な結果を下記表5に示す。
(官能評価基準)
◎:生卵から固ゆでまでの卵感が強く感じられる。
〇:生卵から固ゆでまでの卵感が感じられる。
△:生卵から固ゆでまでの卵感が弱い。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示すように、本発明の卵風味付与剤の中でも、加熱温度および加熱時間が前述した式1を満たす場合は十分に生卵から固ゆでまでの卵感が感じられることがわかり、加熱温度および加熱時間が前述した式2Aまたは式2Bおよび式3を満たす場合は生卵から固ゆでまでの卵感が強く感じられることがわかった。