(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】外殻を有する空気より軽いビーヒクル、そのような外殻用の積層体、そのような積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B64B 1/58 20060101AFI20220725BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B64B1/58
B32B27/28 102
(21)【出願番号】P 2019542798
(86)(22)【出願日】2017-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2017077009
(87)【国際公開番号】W WO2018077806
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-22
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520483718
【氏名又は名称】スイエ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル べスタゴー フランスン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド キム
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ デイビッド ブラッドフォード
(72)【発明者】
【氏名】アブデル-ファッター モハメド セヤム
(72)【発明者】
【氏名】ラフル バラブ
(72)【発明者】
【氏名】アン リー
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-239605(JP,A)
【文献】特開2007-320313(JP,A)
【文献】特開2002-200684(JP,A)
【文献】特開2004-276614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0041486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64B 1/00- 1/70
B32B 5/00- 5/12,
7/04, 7/12,
27/06-27/12,
27/28-27/30,
27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻を含む空気より軽いビーヒクルであって、該外殻はガスバリア及び荷重担持構造としての積層体材料を具備し、該積層体材料は、補強繊維層と、該繊維層の一面で該繊維層に溶融結合した第一のエチレンビニルアルコール(EVOH)フィルムとを含み、そのEVOHは該補強繊維層に直接に接触しており、該積層体は該第一のEVOHフィルムに溶融結合した耐候性層を含み、該耐候性層は金属化ポリマーフィルムを含み、該EVOHフィルムは、該耐候性層を該繊維層に結合する接着剤として、かつガスバリアとして機能する、空気より軽いビーヒクル。
【請求項2】
前記補強繊維層が液晶で作成された繊維を含む、請求項
1に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項3】
前記液晶がポリ[p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール](PBO)である、請求項
2に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項4】
前記液晶繊維の少なくとも一部が捩れている、請求項
2又は3に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項5】
前記捩れた液晶繊維がメートル当り30と50の間の捩れを含む、請求項
4に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項6】
前記繊維層が少なくとも第一の組の繊維と第二の組の繊維を含み、該第一の組の繊維の繊維は、捩れた液晶繊維であり、かつ第一の方向に配向されていて、該第二の組の繊維の繊維は、捩れていない液晶繊維であり、第一の方向と異なる第二の方向に配向されている、請求項
4又は5に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項7】
前記第一及び第二の方向が該方向間に少なくとも30度の角度を有する、請求項
6に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項8】
前記第一及び第二の方向が直角である、請求項
6又は7に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項9】
前記第一の組の繊維が第一の糸密度を有し、前記第二の組の繊維が該第一の糸密度と少なくとも2倍異なる第二の糸密度を有する、請求項
6~8のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項10】
前記繊維層の重量が40g/sqmと70g/sqmの間である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項11】
前記第一のEVOHフィルムの厚さが10μmと20μmの間である、請求項1~
10いずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項12】
第二のEVOHフィルムが該繊維層に該繊維層の反対の面で溶融結合しており、該第二のEVOHフィルムのEVOHが該補強繊維層に直接に接触している、請求項1~11のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項13】
前記第二のEVOHフィルムの厚さが10μmと20μmの間である、請求項
12に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項14】
前記金属化ポリマーフィルムが金属層を含み、該金属層は前記第一のEVOHフィルム層に前記第一のEVOHフィルム層によって溶融結合されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項15】
前記耐候性層の厚さが10μmと20μmの間である、請求項1~14のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項16】
前記積層体が、前記積層体の前記耐候性層に対して反対側の面で前記第二のEVOHフィルムに溶融結合した、金属化ガスバリア層を含む、請求項
12に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項17】
前記金属化ガスバリア層が、前記第二のEVOHフィルムに溶融結合した金属化ポリマーフィルムを含み、前記金属化ポリマーフィルムの前記第二のEVOHフィルムに対して反対側の面に金属層を有する、請求項16に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項18】
前記金属化ポリマーフィルム層が、4μmと8μmの間の厚さを有するポリエチレンテレフタレート(PET)層である、請求項17に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項19】
前記積層体が90gsmと110gsmの間の重量を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項20】
前記積層体のテナシティ対重量比が890kNm/kgより大きい、請求項1~19のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクルのための積層体材料の製造方法であって、補強繊維層と、該繊維層の一面に第一のEVOHフィルムを提供し、これらの層を溶融結合するために175℃と200℃の間の温度で一緒に熱プレスすることを含む、空気より軽いビーヒクルのための積層体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外殻を有する空気より軽いビーヒクル(vehicle;飛行船などの乗物のほか、気球などを含む。)、そのような外殻用の積層体、及びそのような積層体の製造方法に関する。特に、本発明は補強繊維層とガスバリアフィルムを有する多機能積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気より軽いビーヒクルは、気体、典型的にはHeで充満された可撓性外殻を有する。ビーヒクルが内部構造フレーム体を有していない場合、それは軟式飛行船(blimp)とも呼ばれ、飛行船の形状(典型的には長尺状)は内部圧力によって保持される。外殻は、破裂しないために十分に安定であり、外殻内の典型的にはヘリウム(He)に対しガスバリアとして機能する、積層体によって作製されるべきである。
【0003】
高い高度で空気より軽いビーヒクルのための外殻材料には、多くの要件がある。それは軽量でありながら、同時に機械的安定性を提供しなければならない。高い高度における攻撃的な雰囲気、特に空気中のオゾンに化学的に抵抗しなければならない。同様に、UV抵抗性であり、高温及び低温で安定かつ可撓性でなければならない。これらの要件のそれぞれのための材料は公知であるが、それらの組合せになると、外殻材料の開発には厳しいチャレンジとなる。
【0004】
Lockheed Martin Corporationに譲渡されたLavan et alの米国特許第7,354,636号は、液晶ポリマー繊維層、例えばVectran(登録商標)と、液晶ポリマー繊維層に固定されたポリイミド(PI)層と、PI層に固定されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)層とを有する積層体を開示する。これらの層はポリウレタン(PU)接着剤でお互いに固定されている。隣接する積層体は外側表面のPVDFカバーテープと内側表面の構造テープによってお互いに固定されてよい。構造テープはビーヒクルの一体性を確保するために液晶ポリマー繊維層とPI 層を含む。代替材料は、液晶ポリマー繊維層と液晶ポリマー繊維層の両側に配置されたPVDF 層を含んでよい。重量は5オンス/平方ヤード(170grams/square meter)程度である。引張強度は240 lbs/inch(420N/cm)程度である。
【0005】
有効荷重容量(payload capacity)が外殻の重量に直接に関係することからすると、強度を維持又は増加さえしながら、重量を減らすことが望ましいであろう。
【0006】
良好な重量対強度比が文献“Tear propagation of a High-performance Airship Envelope Material” (Maekawa、Yoshino著、Journal of Aircraft Vol. 45, No. 5, Sept-Oct. 2008)に記載されている。開示された材料は重量157 g/m2 及び引張強度 997 N/cmを有する。 積層体はその基材布帛としてZylon(登録商標)繊維を含む。Zylon(登録商標)は、剛性ロッド状リオトロピック液晶ポリマーについての東洋紡の商品名である。より詳細には、それは熱硬化結晶性ポリオキサゾール、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)(PBOとも称される)である。
【0007】
Zylon(登録商標)(PBO)は、他の商業的に入手可能な他の高性能繊維と比べて高い比強度を有する。Zylon(登録商標)ヤーンは、クリープ伸びに対する高い抵抗性も有するので、積層体材料の繊維補強(FR)に有用である。しかし、PBOはまたUVのみならず可視光による光劣化に非常に敏感であることが知られている。湿分及び酸素が存在すると光劣化を促進することが見出された。このため、高い強度及び低いクリープという見かけの利点にもかかわらず、成層圏飛行船に用いる場合、この繊維材料には他のチャレンジが伴う。
【0008】
もう1つの外殻材料がLockheed Martinに譲渡されたCuccias et al.の米国特許第6074722号に開示されており、ここでは積層体が可塑性樹脂材料に積層された繊維層からなる。繊維層は織布であるか、又は一軸性フィラメント材料の多層のいずれかである。飛行船用の織布を有する積層体がMilliken & Companyに譲渡されたVogt et al.の米国特許第7713890号にも開示されている。外殻層における電子部品の一体化がLockheed Martin Corporationに譲渡されたLiggett et al.の米国特許第8152093に開示されている。
【0009】
様々な外殻材料が、文献“Material challenges for Lighter-Than-Air Systems in High Altitude Applications”(Zhai and Euler著、American Institute of Aeronautics and Astronautics、AIAA 5th Aviation, Technology, Integration, and Operations Conference (ATIO) 26-28 Sept. 2005, Arlington California)において検討されている。この文献では、空気より軽い気室(ballonet)材料、特に気体保持層用並びに荷重担持織構造層(荷重/応力を担う)用材料に関する様々な材料が検討されている。これらの層は接着剤層によってお互いに結合されている。接着剤結合は、ポリウレタン、エポキシ及びアクリルを参照して記載されている。気体保持層について、この文献は、低気体透過率、最小重量、良好な結合可能性、摩耗抵抗性及び耐オゾン性を含む様々な望ましい特性の中で、低温可撓性が最も重要なパラメータであると記載している。この文献の表5には、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)は低温可撓性に劣るので、EVOHは、高い高度では典型的である低温における空気より軽い飛行船のための気室又は外殻材料には適当ではないと記載している。この見かけの理由のために、この文献はポリオレフィン、ポリウレタン、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム及びシリコーンゴムが、気体保持層用に最も相応しいポリマー材料であると述べている。
【0010】
Zhai及びEulerの文献ではEVOHは高い高度での飛行船には有用でないと述べられているが、EVOHは、上記文献で可能性のある材料として記載されているポリウレタンと共に挟持層として用いると、有用であることが見出された。これと関連して、Eval Europe NV(Kuraray Co. Ltd.の子会社)の販売カタログが参照されるが、このカタログはインタ―ネットのサイトhttp://eval-americas.com/media/15453/eval%20industrial%20application.pdfに見られる。このカタログでは、大きな可撓性と優れたガスバリア性について、EVOH樹脂(EvalTM)が熱可塑性ポリウレタン(TPU)の層の間に挟持された共押出フィルム構造体(簡単にTPU/EvalTM/TPUと記載)における寒冷大気条件における好適性とともに述べられている。この挟持フィルムの提案用途の1つは、宇宙飛行船(stratospheric dirigibles)用材料である。このカタログは、2層のTPUフィルムの間にEVOHを挟持すると、EVOH自体の乏しい低温可撓性の不利を克服すると述べている。しかし、飛行船の適当な上昇能力に必須である軽量の外殻材料においては、TPU層間のEVOH挟持は、最終外殻材料の強度を最適化することなく、外殻に重量を追加する不利がある。
【0011】
したがって、外殻材料のために最適な解決法は未だ見出されていないようである。結論として、従来技術の飛行船外殻用に数多くの提案があるが、改良と最適化に未だ根強い需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来技術の改良を提供することである。改良された外殻を有する空気より軽いビーヒクルを提供することが別の目的である。とりわけ、改良された積層体外殻は、重量対強度並びに最小化気体透過率に関して最適化される。これらの目的は以下に詳細に記載される積層体を含む外殻を有する空気より軽いビーヒクルによって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
下記の略称を用いる。
ypi(yarns/inch), 1 inch = 2.54cm, 1 ypi = 1/(2.54)yarns/cm
tpi(捩れ/inch);tpm(捩れ毎メートル);1 tpi=39 tpm
gsm(グラム/平方メートル)
sqm(平方メートル)
UV-Vis風化(weathering)-UV放射線及び/又は可視光への暴露による劣化
【0014】
外殻用積層体は、ガスバリア及び負荷担持構造として積層体材料を含み、積層体は、補強繊維層と、繊維層の一面で繊維層に溶融結合した第一のエチレンビニルアルコール(EVOH)フィルムとを含み、EVOHは補強繊維層と直接接触している。
【0015】
用語「直接接触」はEVOH層と繊維層の間に配置された他の材料の層がないことを意味する。とりわけ、EVOHフィルムは、それを繊維層に溶融結合する前に、2層のTPU層の間に挟持された複合フィルムの一部として提供されることはない。
【0016】
任意に、積層体は繊維層の反対面で繊維層に溶融結合した第二のEVOHフィルムを含み、第二のEVOHフィルムのEVOHも補強繊維層と直接接触する。この場合、補強繊維層は、繊維層のどちらかの面に溶融されている第一及び第二のエチレンビニルアルコール(EVOH)フィルムの間に挟持されている。
【0017】
EVOHは非常に低いヘリウム気体透過率を有しており、これは有用性が高い。これはUV安定性であり、耐オゾン性である。さらに、これは熱シール可能である。従来技術において指摘されている乏しい低温可撓性は、ガスバリア層としてEVOHを含む積層体に用いるか又は単独で用いる場合には、実験において問題は見出だされなかった。
【0018】
外殻材料では、第一のEVOHフィルムが一面から繊維層上に及び少なくとも部分的に内部に溶融結合され、そして任意に第二のEVOHフィルムが繊維層の反対の面から繊維層上に及び少なくとも部分的に内部に溶融結合されている。このような溶融結合はこれらの層を一緒に熱プレスすることで達成される。例えば、175~180℃の範囲の温度は有用である。以下の段落に記載される積層体では、EVOHフィルムは層をお互いに結合する接着剤として機能するのみならず、ガスバリアとしても働く。したがって、それは多機能層である。
【0019】
繊維補強(FR)層の高い強度と軽い重量を提供するために、液晶繊維、例えば、ポリ[p-フェニレン-2, 6-ベンゾビスオキサゾール](PBO)は良好な候補である。このような繊維は、すでにはじめに記載したように、Zylon(登録商標)として市販されている。
【0020】
強度及び/又は均一性を最適化するために、場合によっては、捩れ繊維(twisted fibres)、サイジングした繊維(sized fibres)、並びにサイジング及び捩れの両方をした繊維の少なくとも1つを含むことは有利である。任意に、サイジングした繊維は、特にサイジング材料が接着剤層と適合性であれば、層間の追加結合を補助する。サイジングした材料の例は特定のPVA(ポリ酢酸ビニル)繊維である。もう1つの例は商品名Excevalとして市販されている繊維である。例えば、繊維のサイジングはサイジング材料を繊維に対するスピン仕上げ材として適用することで実現される。
【0021】
適当なサイジング剤はポリビニルアルコールである。このような剤は、例えば、日本企業Kuraray Co, Ltd.から市販されている。Kurarayからの商品名Excevalの疎水変性ポリビニルアルコールを用いた実験でも良好な結果が得られた。このようなポリビニルアルコールに基づくサイジング剤は高弾性であり、化学抵抗性であり、EVOHに匹敵することが見出された。ポリビニルアルコールはZylon(登録商標)ヤーンを強化することが実験で示された。また、それは布帛(fabric)とEVOHの間の良好な接着も提供した。
【0022】
例えば、繊維層の第一の組の繊維(任意に液晶繊維)は、捩られているが、繊維層の第二の組の繊維(任意に液晶繊維)は、捩られていない。
【0023】
一部の態様において、2組の繊維が異なる方向に配置される。例えば、第一の方向に配向した第一の組の繊維は捩られており、第二の方向に配向した第二の組の繊維は捩られていない。例えば、第一及び第二の方向はその方向の間の角度が少なくとも30度、例えば、45度、任意に直角である。30と50の間の捩れ/メートルの捩れを有する捩れ繊維(twisted fibres)によって良好な結果が実現された。
【0024】
均衡(balanced)及び非均衡(unbalanced)の繊維層の両方が有用である可能性がある。一部の態様では、第二の組の繊維が第一の組の繊維より少なくとも2倍太い(厚い)。一部の態様では、第一の組の繊維は第一の糸密度(thread density)を有し、第二の組の繊維は第一の糸密度と少なくとも2倍異なる第二の糸密度を有する。
【0025】
重量が重要である空気より軽いビーヒクルでは、40g/sqmと70g/sqmの間の重量を持つ繊維層において実験的な結果が得られた。
【0026】
例えば、EVOH層の厚さは10μmと20μmの間である。
【0027】
有利には、積層体は、第一のEVOH層に溶融結合した多機能性の耐候性層を含み、耐候性層は、ポリマーフィルムの一つの面だけに又は代替的にポリマーフィルムの両側に単一金属層を有する金属化ポリマーフィルムを含む。耐候性層が単一金属層だけを有する場合には、金属層と共にEVOHに向かって配向し、第一のEVOHフィルム層上に溶融結合することが有利である。このようにして、耐候性層の外側へ配向したポリマー、例えば、ポリイミドによって保護される。このような耐候性層は外殻を反応性オゾン及びその他の化学的攻撃から保護するとともに、補強繊維層をUV放射線から保護すべきである。初めに述べたように、PBO、例えばZylon(登録商標)は、UV光で非常に迅速に劣化する。さらに、これは追加のガスバリアとして機能する。耐候性層のポリマーの良好な候補はポリイミド(PI)である。この目的の代わりの材料の例はポリ塩化ビニル(PVF)である。例えば、耐候性層の厚さは10μmと20μmとの間である。
【0028】
外側向きポリマー層は隣接する積層体の間に強いシーム(seems)を作り出すのにも有用であることを指摘する。
【0029】
EVOH は良好なガスバリアであるが、耐候性層の反対側である外殻の内側で積層体に金属化ガスバリア層を追加することによって気密性を改良することができる。この目的で、金属化ガスバリアが任意に第二のEVOHフィルムに溶融結合される。金属化ポリマーフィルム層のための候補はポリエチレンテレフタレート(PET)、例えば、4μmと8μmの間の厚さのPET層である。
【0030】
実験において、以下により詳細に説明されるように、90gsmと110gsmの間の範囲の重量で、気密かつ安定な積層体を作成することができることが示された。例えば、積層体についてのテナシティ(tenacity)対重量比は実験的に約890kNm/kgであることが見出された。
【0031】
一部の態様では、繊維層は経糸と横糸をもつ織層(woven layer)である。長尺状の軟式飛行船(elongate blimps)では、外殻の横断方向に必要な強度は長手方向より大きい。したがって、経糸と横糸は、任意に、異なる太さ(thickness)及び/又は密度のフィラメントを有する。無縮れ繊維層(non-crimp fibre layer)を用いるとき、それは、異なる層が異なるフィラメント方向、例えば垂直方向を有する、一軸性フィラメントを有する複数の層からなる。また、この場合、一方向のフィラメントは、不必要な重量の追加なしで強度を最適化するために、第二の方向より太く及び/又は高密度であることが有利である。
【0032】
均衡及び不均衡の構造の両方が有用であることが見出された。均衡又は不均衡の構造の選択は目的による。例えば、一方向において他の方向より高い強度が望ましい。これは外殻の形状安定性並びに重量の最小化に関連する。なぜなら、長尺状の外殻形状のゆえに布帛(fabric)にかかる力が長手方向では横断方向とは異なることを考えると、不均衡構造が典型的には最適の強度/重量比のためのより大きい可能性を有するからである。
【0033】
上記から見られるように、積層体は各層の組合せによって多機能である多数の層を含む。その機能は、UV放射線、可視光、オゾン、単一項酸素及び熱に対する保護を含む。最外層は、低放射率を有して熱管理も提供する。
【0034】
第一の値と第二の値の間の範囲では、第一の値と第二の値は任意に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明を図面を参照してより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、外殻材料の積層体の原理スケッチである。
【
図2】
図2は、外殻材料の積層体の別の原理スケッチである。
【
図3】
図3は、繊維強化(FR)層、a)無縮れ(non-crimp)2プライ(ply)クロスプライ(cross-ply)、b)織り(woven);c)無縮れ(non-crimp)3プライを示す。
【
図4】
図4は、プロトタイプP3,a)概略設計及びb)外側及び内側の写真である。
【
図5】
図5は、プロトタイプP4,a)概略設計、b)外側及び内側の写真である。
【
図6】
図6は、プロトタイプP9,a)概略設計及びb)外側及び内側の写真である。
【
図7】
図7は、プロトタイプP10,a)概略設計及びb)外側及び内側の写真である。
【
図8】
図8は、新規な積層体プロトタイプと他の研究で開発された積層体材料の強度及び重量の比較である。
【
図9】
図9は、新規な積層体プロトタイプと他の研究で開発された積層体材料の強度対重量比の比較である。
【
図10】
図10は、熱暴露及び加速UV-Vis風化の前と後のプロトタイプの引張強度の比較である。
【
図11】
図11は、熱暴露及び加速UV-Vis風化の後の強度損失である。
【
図12】
図12は、カットスリット引裂試験片の概略図である。
【
図13】
図13は、一定荷重1250Nに供したプロトタイプP4の荷重伸び曲線を示す。
【
図17a】
図17aは、プロトタイプP4のEVOHフィルムに実施したDMA測定結果を示す。
【
図17b】
図17bは、プロトタイプP4のMylarフィルムに実施したDMA測定結果を示す。
【
図17c】
図17cはプロトタイプP4のPIフィルムに実施したDMA測定結果を示す。
【
図17d】
図17dは、プロトタイプP4の経糸に実施したDMA測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
薄く軽量であり、同時に気密、耐UV性、耐熱性及び化学抵抗性、特に単一項酸素及びオゾンに対して抵抗性である、外殻材料積層体を提供するために、
図1に例示される以下の基本スキームを用いた。荷重担持繊維補強(FR)層は2つの接着剤層の間に挟持され、その接着剤層を用いてFRはさらなる層、例えば、外側外殻層、以下ではそう称される耐候性層、及びガスバリアとしての可能性内側外殻層に結合される。特に、接着剤層は低気体透過率の有効なガスバリアとして構成される。例えば、これらの接着剤層は主ガスバリアであって、接着剤層の全気体透過率が残りの層の気体透過率より小さい。接着性及び低気体透過率の機能のこの組合せは従来にはない。これに対照的に、従来技術では、接着剤層と異なる特定の主ガスバリアが存在し、主ガスバリアは接着剤層より小さい気体透過率を有する。この文脈において、気体透過率は外殻の内側のガス、典型的にはヘリウム又は水素ガスに関する。
【0037】
図1に詳細に記載されている例として、荷重担持繊維層が2層のEVOH層の間に挟持され、そのEVOH層はガスバリアとして作用するのみならず、可能性追加層、特に外側外殻層、以下で称される耐候性層、及び追加ガスバリアとしての可能性内側外殻層のための接着剤の役割を果たす。それらの層、特に耐候性層の追加の機能は、UV放射線、可視光、オゾン、単一項酸素及び熱に対する保護である。
【0038】
最適プロセスでは2層のEVOHフィルム層を用いたが、繊維層に溶融結合した単一のEVOH層も従来技術の積層体系よりは有利であると考えられる。
【0039】
図1の設計思想の変形が
図2に示される。この場合、積層体材料は別の内側の主ガスバリア層を有していない。代わりに、積層体の内側表面は積層体作成後に金属化される。低気体透過率を有する接着剤材料としてのEVOHの使用及び内側表面の金属化は積層体材料の優れたガスバリア性を与える。ガスバリア層の省略は全積層体重量を減少するが、積層体の引張強度には影響しない。
【0040】
以下では、外殻積層体材料の最適化を実施した実験に関連して材料及び製造方法を記載する。
【0041】
ヤーン選択
低重量と高強度を同時に最適化するために、高強度繊維を用いることが有利である。荷重担持繊維層の有利な材料の例は、商業的に入手可能な高機能繊維の中で非常に高い強度及び比弾性を有する繊維であるという理由から、結晶質PBO(結晶質ポリオキサゾール、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)繊維、特に商標Zylon(登録商標)の繊維であった。これらのヤーンはクリープ伸びに対する高い抵抗性も有する。したがって、Zylon(登録商標)ヤーンは実験で用いた積層体材料において繊維補強のために選択した。しかし、PBOは光劣化に非常に敏感であることが知られている。湿分及び酸素の存在が光劣化を促進したことから、保護のメカニズムが発見されるべきであった。
【0042】
繊維補強層では、平衡及び非平衡の構造の両方を用いることが可能である。一部の態様では、LTA飛行船の長手及びフープ方向に必要な異なる強度を提供するために非平衡構造を選択した。
【0043】
99デニール,150デニール及び250デニールの番手(yarn count)のZylon(登録商標)ヤーンはToyobo Co., Ltdから供給された。供給されたヤーンは、ゼロ捩れ(無捩れ)であったが、引張強度を試験した。無捩れで99デニール及び250デニールのヤーンの平均引張強度は、それぞれ35.5gf/デニール(4.8% cv;cv=誤差係数)及び34.9gf/デニール(3.0%cv)であった。ヤーンに最適の捩れ(捩れ係数)を付加すると最も高い引張強度を提供する事実に鑑みて、99デニール及び250デニールのZylon(登録商標)ヤーンで達成可能な最適の捩れ係数(Twist Factor)及び対応する最大引張強度を決定するために一連の試験を行った。捩れ係数(TF)は、捩れの数(捩れ/インチ,tpi;捩れ/メートル,tpm;1 tpi=39tpm)と番手に依存するが、式TF=0.124・tpi・dtex0.5(式中、dtexは番手の単位であり、ヤーン線形密度(1デニールは0.9dtexに等しい)とも呼ばれる)を用いて計算した。
【0044】
99デニール(110dtex)及び250デニール(278dtex)のヤーンは様々な量の捩れ(tpi, tpm)を有し、引張強度について試験した。表1にまとめた結果によれば、99デニール及び250デニールの両ヤーンの引張強度は、99デニールのヤーンについては捩れ係数10のとき(これは7.69tpi(303捩れ/メートル,tpm)に対応する)、250デニールのヤーンでは4.84tpi(190tpm))のとき、最も高いことが示された。
【表1】
【0045】
繊維補強の形態
実験では、荷重担持層についていくつかの原理を適用した。1つは、
図3aに示す無縮れ・2プライ・クロスプライ繊維補強層であり、もう1つは
図3bに示す織り繊維補強層であった。第三の原理は
図3cに示す90/±45度プライであった。
【0046】
積層体のためのフィルム選択
EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)がガス、特にHeに関して非常に低い透過率を有しており、これが接着剤層の良好な候補の理由である。
【0047】
外側雰囲気に対する外側耐候性層の良好な候補はPI(ポリイミド)であることが見出されたが、他のポリマー、例えば、ポリ塩化ビニリデン(PVF)も可能である。有利には、外側耐候性層は、放射線と熱を反射するために金属化された。金属を損傷から保護するために、金属コーティングは内側に向けられ、耐候性層のポリマーとEVOHの間にある。このようにして、ポリマーが成層圏の腐食性環境から金属を保護する。
【0048】
代替的に耐候性層は両面で金属化される。耐候性層が両面で金属化されるか、又は環境に露出された金属化面を有する場合、耐食性コーティングで保護することが有利である。
【0049】
一部の態様では、耐候性層に対して多層の反対側に内側ガスバリアを追加し、その内側ガスバリア層は金属化ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、例えば、Mylar(登録商標)であった。
【0050】
積層は、7.5 inch x 7.5 inch(19 cm x 19 cm)の寸法の積層体について、2つのアルミニウム定盤の間で、圧力285psi=1965kPa、温度175-178℃で、15分間行い、その温度範囲の上限で最良の積層結果が得られた。これらの試料を以下に記載する様々な種類の試験に使用した。
【0051】
しかしながら、異なる温度及び滞留時間の組合せが可能である。他の実験では、180-200℃の範囲のより高い温度でより低い圧力とより短い滞留時間で良好な結果であった。例えば、196℃の温度で60psi=414kPaの圧力と2秒間を用いた。
【0052】
強度測定
引張強度測定は、Standard Test Method for Breaking Force and Elongation of Textile Fabrics (Strip Method) ASTM D5035に従って実施した。引張強度値はN/cm及びgf/デニール(mN/tex = 88.3gf/den)の単位で報告される。N/cmの引張強度は単位幅cm当りの試料のテナシティ(tenacity)を表す。gf/デニールの引張強度は荷重方向のヤーンの合計デニール当りの試料のテナシティ(tenacity)を表す。gf/デニールの引張強度を規格化測定基準(normalized metric)として用いて、ヤーン強度が如何にして積層/非積層の繊維補強強度に翻訳されるかを決定した。
【0053】
非平衡構造の場合、以下に詳細に説明するように、推測引張強度(ヤーン強度と繊維補強構造パラメータに基づいて計算される)は、経糸と横糸方向でそれぞれ1033N/cmと516N/cmであった。一般的に、すべての試料(積層織り繊維補強を除く)の経糸方向の引張強度は1000N/cmに近いことが見出されたが、すべての試料の横糸は500N/cmより大きいことが見出された。対応するパラメータ値は31~35gf/denの範囲であった。
【0054】
布帛のZylon(登録商標)ヤーンに基づく平衡布帛構造についても実験を行った。99デニールで、密度46-50ypi(約18-20yarns/cm)の低捩れ(3-5 tpi)Zylon(登録商標)ヤーンを、平織の経糸と横糸の両方に用いた。Zylon(登録商標)ヤーンはポリビニルアルコールでサイジングした。引張強度は経糸及び横糸方向で520~615N/cm及び28~34gf/denの範囲と測定され、2.9-3.2%の破断時伸びであった。これらの結果も、目的のために非常に良好であり、これらは、布帛についての値であり、全積層体についての値ではない。より詳細には下記データが測定された。
【0055】
結論として、高強度ヤーンを用いた平衡及び非平衡構造の両方が非常に有用であることが示された。
【0056】
例1 - P3
図4aは
図2の原理スケッチの特定の態様を示す。図の左は、各層の重量をg/m
2(gsm)の単位で示し、厚さ(μm)を右に示す。作製した積層体の写真を
図4bに示す。
【0057】
この積層体プロトタイプの概略設計(実験P3)は、繊維補強として非平衡クロスプライ(2プライ)無縮れの布帛(fabric)を含む。この布帛は250 デニールZylon(登録商標)ヤーンを90度及び0度方向に有する。布帛の坪量は48gsmであり、90度方向においてヤーン密度30ypi(30ヤーン/inchは約12ヤーン/cm)、0度方向で15ypi(約6ヤーン/cm)であり、したがって、90度方向で0度方向より高い強度を与える。プロトタイプ設計は優れた接着とガスバリア性を提供する3層のEVOHフィルムを含む。この積層体プロトタイプの推定及び測定重量は、それぞれ111gsm及び109gsmであった。
【0058】
例2 - P4
図5aは
図1の原理スケッチの特定の態様を示す。図の左は、各層の重量をg/cm
2(gsm)の単位で示し、厚さを右に示す。作製した積層体の写真を
図5bに示す。
【0059】
この積層体プロトタイプ(実験P4)の概略設計は、繊維補強として非平衡クロスプライ(2プライ)無縮れ布帛を含む。この布帛は長手方向及び横断方向に250デニールのPBOヤーンを有する。布帛の坪量は48gsmであり、90度方向にヤーン密度30ypi(約12ヤーン/cm)、0度方向に15ypi(約6ヤーン/cm)である。より低い積層体重量を実現するために、この設計は2層のEVOH フィルムと、主ガスバリア層として働く軽量金属化PETフィルム(Mylar(登録商標))の底部層とを使用する。積層体プロトタイプの推測及び測定重量は103gsmである。
【0060】
例3 - P9
図6aは
図1の原理スケッチの特定の態様を示す。図の左は、各層の重量g/m
2(gsm)の単位で示し、厚さを右に示す。作製した積層体の写真を
図6bに示す。
【0061】
この積層体プロトタイプ(実験P9)の概略設計は、補強繊維として非平衡の織布を含む。織布は、経糸方向に40tpm捩れの99デニールZylon(登録商標)ヤーンと、横糸方向に捩れ無の250デニールZylon(登録商標)ヤーンをそれぞれ有する。布帛の坪量は50gsmであり、経糸方向にヤーン密度40ypi(約16ヤーン/cm)、横糸方向に30ypi(約12yarns/cm)である。プロトタイプP4のように、底部層は軽量金属化PETフィルム(Mylar(登録商標))であり、これが主ガスバリアとして機能する。175°Cの積層温度で製造して成功裏の層間接着が得られたが、積層温度を178°Cに上げると層間接着は改良された。この積層体プロトタイプの推測及び測定重量は105gsmであった。
【0062】
例4 - P10
図7aは
図1の原理設計の特定態様を示す。図の左は、各層の重量をg/m
2(gsm)の単位で示し、厚さを右に示す。作製した積層体の写真を
図7bに示す。
【0063】
この積層体プロトタイプ(実験P10)の概略設計は繊維補強として非平衡の織布を含む。プロトタイプP9と異なり、プロトタイプP10は経糸方向に捩れ40tpmの99デニールZylon(登録商標)ヤーンと横糸方向に無捩れ99デニールZylon(登録商標)ヤーンをそれぞれ有する織布を用いる。布帛の坪量は50gsmであり、経糸方向にヤーン密度40ypi(約16yarns/cm)と、横糸方向に75ypi(30yarns/cm)である。横糸方向により高いypi(yarns/inch)であると、より平滑な表面組織をもつより安定な布帛構造を形成すると期待される。最初の追跡で、175°Cの積層温度を用いたが、金属化PIフィルムの接着が弱く、積層品質に劣った。積層温度を178 Cに上昇すると、積層品質が改良された。プロトタイプP9のように良好ではなかったが、満足できる結果であった。積層体プロトタイプの推測及び測定重量は105gsmであった。
【0064】
ガスバリア性能
ヘリウム透過率試験結果(表2)は、積層体プロトタイプP3及びP4の両方が目標値132cc/m
2.day.atmよりかなり低いヘリウム透過率を有することを示す。積層体プロトタイプP4はプロトタイプP3の値と比べて顕著に低いヘリウム透過率を有する。プロトタイプP4のより低い透過率は金属化Mylar(登録商標)層の存在に基づくが、これはまたプロトタイプP4の全重量を減少させた。
【表2】
【0065】
同じ層形成スキームであれば、プロトタイプP9及びP10のヘリウム透過率値はプロトタイプP4のそれと同じであると期待され、これは気密性の観点でP3より好ましい。
【0066】
積層体強度
積層体プロトタイプP4,P9,及びP10の経糸及び横糸方向引張強度を表3に示す。プロトタイプP3の1つの試験片の引張強度は1086N/cmであった。
【表3】
【0067】
ヤーン強度と繊維補強構造パラメータに基づいて計算した推測引張強度は、2つの方向で1033N/cm及び516N/cmである。プロトタイプの測定引張強度は推測値より僅かに低い。推測引張強度と比べて低い引張強度は、積層体プロトタイプの手作業による実験製造のために、ヤーンの完全な配列の欠如とヤーンの不均一性に帰せられる。これらの不完全性のために、荷重担持ヤーンにおける荷重分担が不均一になり、最終的に引張試験中に試験片が未熟な段階で破壊を起こす。積層体を専用の大規模製造施設で製造すれば、引張強度は改良され、理論値と同様になると考えられる。しかし、実験値は理論値から10%未満のバラツキであり、これは大変に成功的な結果であることが指摘される。
【0068】
他の研究との比較
新規な積層体プロトタイプと文献における他の研究で開発された積層体材料との強度及び重量の比較を
図8に示す。文献は表4と関連してこの節の最後に見られる。
【0069】
新規な積層体と他の研究で開発された積層体との強度対重量比の比較を
図9に示す。新規な積層体プロトタイプは、類似の引張強度をもつどの他の積層体より顕著に軽量であるのみならず、類似の重量をもつどの積層体よりも顕著に強度が高い。新規な積層体プロトタイプの強度対重量比は、他の研究で開発されたすべての積層体より大きい。
【0070】
この比較で見られるように、積層体P3,P4,P9,及びP10の強度は重量と比べて非常に高いので、空気より軽い飛行船に用いるのに好都合である。しかし、
図9に示されるように、より優れたテナシティ対重量比は、より厚い積層体と対比できるものであり、例示の積層体が
図8の全体としてより高いテナシティを有する積層体より好ましいものとすることが指摘される。
【0071】
【0072】
【0073】
表4の文献:
1. Kamatsu, K, Sano, M., and Kakuta, Y., "Development of High Specific Strength Envelope Material", AAIA 3rd Annual Aviation Technology, Integration, and Operations (ATIO) Tech, Nov 17-18 2003, Denver, Colorado.
2. Sasaki Y., Eguchi, K, Kono T, and Maekawa, S, “Scenario for Development of the SPF Airship Technology Demostrator", The Fifth Stratospheric Platform Systems Workshop, Feb 23-24, 2005, Tokyo, Japan.
3. Maekawa S, "On the Design Issue of a Stratospheric Platform Airship Structure" NAL TM-722, National Aerospace Laboratory of Japan, May 2003.
4. Maekawa, S and Yoshino, T, "Tear propagation of a High-Performance Airship Envelope Material", Journal of Aircraft, 45 (5), Sept-Oct 2008.
5. Nkadate, M., Maekawa, S., Maeda .T, Hiyoshi, M., Kitada, T., and Segawa6, S. "Reinforcement of an Opening for High Strength and Light Weight Envelop Material Zylon" 18th AIAA Lighter-Than-Air Systems Technology Conference, May 4-7 2009, Seattle, Washington, USA.
6. Nakadate, M., Maekawa, S., Shibasaki, K, Kurose, T. Kitada, T, and Segawa, S., “Development of High Strength and Light Weight Envelop Material Zylon" 7th International Airship Convention 2008, Friedrichshafen Germany, Oct 9-11 2008.
7. High Strength-to-Weight Ratio Non-Woven Technical Fabrics for Aerospace Applications" Cubic Tech Corp, 2009, Mesa, Arizona.
8. Kang, W, Suh, Y, and Woo, K.., "Mechanical property characterization of film-fabric laminate for stratospheric airship envelope" Composite Structures, 75, pp.151-155, 2006.
9. Gu Z., "Research of Stratospheric Airships Skin Material' Spacecraft Recovery& Remote Sensing, 28(1), pp.62-66, 2007.
10. Cao, X, and Gao, C. "Fabrication and Investigation of Envelope Materials for Stratospheric Aircraft with PBO Fabric as Load-carriers" High-tech Fibre & Application, 34(4), pp.0-5, 2009.
11. Li B, Xing L, Zhou Z, Jiang S, and Chen X., "Study on Mechanical Properties of High Performance Envelope Materials" Material Engineering, pp.1-5, 2010.
【0074】
熱及びUV-Vis風化(weathering)の効果
積層体プロトタイプP4,P9及びP10を、2種の異なる風化(weathering)条件に供した。1つの風化暴露では、プロトタイプをオーブン中で80°C24時間の熱暴露に供した。他の風化暴露は、UV及び可視光(UV-Vis)スペクトル約275~700nmに170時間の加速暴露(高度10kmで~60日実時間暴露)であった。プロトタイプを、Atlas Ci 3000+ Weather-Ometer(www. atlas-mts.com)で、340nmにて1.1Watts/m2の照射レベルに暴露した。UV-Vis 風化の間、プロトタイプの温度は約80°Cに維持した。UV-Vis風化において、試験片は金属フレームに搭載し、試料の内側(Mylar(登録商標)は2層の黒色カード紙で覆って内側におけるあらゆる暴露を防いた。次いでフレームをAtlas Ci 3000+ Weather-Ometerの風化チャンバーの内部の丸いレールに搭載して、試験片の外側をUV及び可視光源に向けた。
【0075】
各風化暴露の後にプロトタイプの引張強度を試験した。強度損失(%)を下記で定義した。
【数1】
これは、熱及び光劣化を評価するために測定基準として用いた。
【0076】
熱暴露及びUV-Vis風化の前及び後の平均引張強度は、統計的に同じであった(統計分析は95%信頼度のt-試験で実施した)。したがって、熱及びUV-Vis風化で生じる劣化は無視できることが結論される。風化暴露の前後の試験片は同じプロトタイプの異なる複製物から採用されたことが重要である。プロトタイプの手作業での製造のために、複製物には本来的なバラツキがあり、同じプロトタイプの異なる複製物にもバラツキがある。熱に暴露した試料の一部は、対応する暴露しなかった試料と比べて高い強度を示し、試料における試験片のバラツキを強く示唆した。熱暴露及びUV-Vis風化の前後のプロトタイプP4,P9及びP10の引張強度の比較グラフを
図10に示す。
【0077】
熱暴露及び加速UV-Vis風化後のプロトタイプP4, P9及びP10の強度損失(%)を
図11に示す。
【0078】
熱暴露及びUV-Vis風化の前後の平均引張強度は、統計的に同じであった(統計分析は95%頼度のt-試験で実施した)。したがって、熱及びUV-Vis風化で生じる劣化は無視できることが結論される。風化暴露の前後の試験片は同じプロトタイプの異なる複製物から採用されたことが重要である。プロトタイプの手作業での製造のために、複製物には本来的なバラツキがあり、同じプロトタイプの異なる複製物にもバラツキがある。熱に暴露した試料の一部は、対応する暴露しなかった試料と比べて高い強度を示し、試料における試験片のバラツキを強く示唆した。
【0079】
引裂強度測定
プロトタイプP4及びP9の引裂強度をカットスリット引裂試験法MIL-C-21189を用いて測定した。引裂試験片の概略図を
図12に示す。試験片の中央に試験方向に垂直に1.25インチのカットスリットを設けた。試験片は4インチ幅と、グリップ間に3インチの試験ゲージ長さであった。
【0080】
試験片の引裂強度は引裂試験中の5つの最も高いピーク荷重を平均して計算した。試料当り3個の試験片を経糸及び横糸方向に試験した。プロトタイプP4及びP9の引裂強度の結果を表5示す。
【表5】
【0081】
プロトタイプP4のプロトタイプP9に比べて経糸方向の高い引裂の理由は2つの構造を対比するために用いた経糸ヤーンのデニールの違いによる。プロトタイプP4では、250デニールのヤーンを用いたが、プロトタイプP9では99デニールを用いた。引裂荷重はヤーン破壊荷重の増加によって増加することは文献から十分に支持される。
【0082】
クリープ伸びに対する抵抗
プロトタイプP4の1インチ幅試験片に、荷重フレームが荷重制御モードで走行するMTS Loadフレーム(www.mts.com)で1日間1250Nの一定荷重をかけた。試験片のゲージ長さは3インチ(76mm)であった。試験の荷重伸び曲線を
図13に示す。1.6%の初期伸び後に、P4試験片は0.02%の非常に小さいクリープ伸びを示した。
【0083】
他の積層体
図14及び15は
図2の原理スケッチの特定の軽量態様を示す。
【0084】
図14に示す積層体プロトタイプ(実験P12)の概略設計は、繊維補強として非平衡クロスプライ・無縮れ布帛又は非平衡織布を用いる。48gsmの布帛はPBOヤーン製である。積層体(接着剤層)の内側表面は積層体作製後に金属化する。積層体プロトタイプの推測坪量は96gsmである。
【0085】
代わりの3プライ無縮れ布帛は、繊維補強重量をさらに減少するのみならず、積層体の引張強度を増加すると期待される。3プライ繊維補強の積層体プロトタイプの例を
図15に関連して以下に説明する。
図15に示す積層体プロトタイプ(実験P13)の概略設計は、90°方向に15ypi(約6ーン/cm)と+/- 45°方向に11ypi(約4yarns/cm)をもつ3プライ布帛(250デニールヤーン) を用いる。3プライは
図3cに示すように配置する。繊維補強重量は41gsmに等しい。プロトタイプP12と同様に、積層体(接着剤層)の内側表面を積層プロセス後に金属化する。積層体の推測重量は89gsmであると期待される。積層体プロトタイプP13の推測引張強度は1000N/cmより高いと推測される。
【0086】
図16に示す積層体プロトタイプ(実験P14)の概略設計は、90°方向に22ypi(約9yarns/cm)と+/- 45°方向に16ypi(約6yarns/cm)をもつ3プライ布帛(250デニールヤーン)を用いる。繊維補強重量は59gsmに等しい。3プライは
図3cのように配置する。プロトタイプP12と同様に、積層体 (接着剤層)の内側表面を積層プロセス後に金属化する。積層体の推測重量は107gsmであると期待される。積層体プロトタイプP13の推測引張強度は1550N/cmより高いと推測される。強度対重量比は1400kN.m/Kg,に近いと推測されるが、他の文献で開発されたすべての積層体材料より大いに高い。
【0087】
温度安定性測定
低温が材料の可撓性にとって問題であるか否か評価するために、数多くの試料について広範囲の温度で動的機械分析(Dynamic Mechanical Analysis (DMA))を行った。温度範囲は-60°C~100°Cであった。その間に、TA Instruments, New Castle, DE19720, USA (www.TAInstruments.com)から商業的に提供されるQ800 DMA測定装置を用いて、非弾性とエネルギー散逸に関連する弾性率損失と、弾性に関連する貯蔵弾性率を、MPa単位で測定した。さらに、この2つのパラメータの間の比(Tan Deltaと称される)を計算した。測定結果を
図17a, 17b及び17cに示す。
【0088】
測定結果は下記のように示される。
図17a:20 x 7 x 0.0130 mmの寸法のEVOHフィルムの試料
図17b:22 x 7 x 0.0050 mmの寸法のMylarフィルムの試料
図17c:23 x 7 x 0.0130 mmの寸法のポリイミド(PI)フィルムの試料
図17d:19 x 6 x 0.1020 mmの寸法のP4経糸伸び3の試料
【0089】
測定結果は、EVOH、Mylar及びPIフィルムは、低温で低温貧強度を示すことなく、低温で安定であることを示した。EVOHフィルムでは、先に述べたZhai and Euler文献に観点から、これは驚くべきことである。Tan Delta曲線は、低温のフィルムでは起きないと思われる相変化を示唆している。プロトタイプP4の積層体では、剥離及び物理的損傷の証拠は観察されなかった。処理中に布帛を180°Cに加熱すると、布帛内のポリマーが架橋されて最終段階まで導かれるので、安定性に有利であると考えられる。
【0090】
結論
高い高度で空気より軽いビーヒクルの外殻のための軽量積層体材料が開発され、その特性は改良されている。新規な積層体プロトタイプは類似の引張強度をもつ従来技術の積層体より顕著に軽いのみならず、類似の重量をもつ従来技術の積層体より顕著に強い。積層体プロトタイプの比強度(強度対重量比)は、現在の従来技術水準より顕著に高い。また、積層体プロトタイプは、熱劣化、光劣化、化学抵抗、特に単一項酸素及びオゾンに対する優れた抵抗性、優れたガスバリア性、及び優れたクリープ伸び抵抗を有する。さらに、最外側フィルム/層も優れた熱管理(低放射率を含む)を提供する。したがって、層状材料は高いレベルの多機能性を有する。この積層体設計概念は、積層体材料を、強度対重量比は大部分保持しながら、より低い又は高い重量に調整するために使用することが可能である。
以下に、本発明の実施態様の例を非限定的に示す。
(態様1)
外殻を含む空気より軽いビーヒクルであって、該外殻はガスバリア及び荷重担持構造としての積層体材料を具備し、該積層体材料は、補強繊維層と、該繊維層の一面で該繊維層に溶融結合した第一のエチレンビニルアルコール(EVOH)フィルムとを含み、そのEVOHは該補強繊維層に直接に接触している、空気より軽いビーヒクル。
(態様2)
第二のEVOHフィルムが該繊維層に該繊維層の反対の面で溶融結合しており、該第二のEVOHフィルムのEVOHが該補強繊維層に直接に接触している、態様1に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様3)
前記補強繊維層が液晶で作成された繊維を含む、態様1又は2に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様4)
前記液晶がポリ[p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール](PBO)である、態様3に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様5)
前記液晶繊維の少なくとも一部が捩れている、態様3又は4に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様6)
前記捩れた液晶繊維がメートル当り30と50の間の捩れを含む、態様5に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様7)
前記繊維層が少なくとも第一の組の繊維と第二の組の繊維を含み、該第一の組の繊維の繊維は、捩れた液晶繊維であり、かつ第一の方向に配向されていて、該第二の組の繊維の繊維は、捩れていない液晶繊維であり、第一の方向と異なる第二の方向に配向されている、態様5又は6に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様8)
前記第一及び第二の方向が該方向間に少なくとも30度の角度を有する、態様7に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様9)
前記第一及び第二の方向が直角である、態様7又は8に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様10)
前記第一の組の繊維が第一の糸密度を有し、前記第二の組の繊維が該第一の糸密度と少なくとも2倍異なる第二の糸密度を有する、態様7~9のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様11)
前記繊維層の重量が40g/sqmと70g/sqmの間である、態様1~9のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様12)
前記第一のEVOHフィルムの厚さが10μmと20μmの間である、態様1~10のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様13)
前記第二のEVOHフィルムの厚さが10μmと20μmの間である、態様2に直接又は間接に従属する態様2~11のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様14)
前記積層体が第前記一のEVOHフィルムに溶融結合した耐候性層を含み、該耐候性層が金属化ポリマーフィルムを含む、態様1~12のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様15)
前記金属化ポリマーフィルムが金属層を含み、該金属層は前記第一のEVOHフィルム層に前記第一のEVOHフィルム層によって溶融結合されている、態様14に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様16)
前記耐候性層の厚さが10μmと20μmの間である、態様14又は15に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様17)
前記積層体が、前記積層体の前記耐候性層に対して反対側の面で前記第二のEVOHフィルムに溶融結合した、金属化ガスバリア層を含む、態様1~15のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様18)
前記金属化ガスバリア層が、前記第二のEVOHフィルムに溶融結合した金属化ポリマーフィルムを含み、前記金属化ポリマーフィルムの前記第二のEVOHフィルムに対して反対側の面に金属層を有する、態様17に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様19)
前記金属化ポリマーフィルム層が、2μmと6μmの間の厚さを有するポリエチレンテレフタレート(PET)層である、態様18に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様20)
前記積層体が85gsmと120gsmの間の重量を有する、態様1~19のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様21)
前記積層体のテナシティ対重量比が890kNm/kgより大きい、態様1~20のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクル。
(態様22)
態様1~21のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクルのための積層体材料の製造方法であって、補強繊維層と、該繊維層の一面に第一のEVOHフィルム又は該繊維層のいずれかの面に第一及び第二のEVOHフィルムを提供し、これらの層を溶融結合するために175℃と200℃の間の温度で一緒に熱プレスすることを含む、空気より軽いビーヒクルのための積層体材料の製造方法。
(態様23)
態様2及び態様2に直接又は間接に従属する場合の態様3~21のいずれか一項に記載の空気より軽いビーヒクルのための積層体材料であって、前記積層体材料は、85gsmと120gsmの間の重量を有し、かつ、前記積層体材料は、ポリ[p-フェニレン-2, 6-ベンゾビスオキサゾール]繊維から作成られ、40gsmと70gsmの間の重量である、補強繊維層;及び、該繊維層のいずれかの面で該繊維層に溶融結合した第一及び第二の10-15μm厚EVOHフィルム;及び、該第一のEVOH層に溶融結合した金属化面を有する10-15μm厚ポリイミドフィルムを含む、積層体材料。
(態様24)
前記積層体材料の前記耐候性層に対して反対側で前記第二のEVOHフィルムに溶融結合した4~12μm厚の金属化ポリマーフィルム層をさらに含む、態様23に記載の積層体。